修羅場?3
>>241
※ 1 ※
――――はぁ……どうして、こうなったのだろう。
あいつがこの幻想郷にきたのは半年前の春。森をふらふらとさまよっているのを私が見つけた。
聞けば外の世界から迷い込んだ人間だというので、私用のついでに博麗神社に連れて行った。
「魔女なんて見たのは初めてだよ。本当に箒にまたがって飛ぶんだね」
と、変なところで感心していたのを覚えている。魔女ではなく魔法使いの人間だと訂正しておいた。
霊夢に預けて数日、あいつは結局もとの世界には戻らなかったようで、博麗神社の居候となっていた。
霊夢は霊夢で、労働力が確保できたと喜んでいるし、あいつはあいつでこっちの生活にあっさりと馴染んでしまっている。
はじめはアリス達と、『うら若き男女が一つ屋根の下』な状況を冷やかしたり心配したりしたものだが、そこはのほほんな二人のこと。
期待、もしくは懸念していたような事も起こらず、いつしか皆も全く気にかけなくなってしまった。
――――私以外は。
気がつけばあいつの事を考えている。霊夢との間に何か起こりはしないかと、心がざわめく。
研究も放り出して、毎日博麗神社に顔を出してしまう。護身用の魔法を教えてやるぜ、なんて言って。
ちょっと困った顔をしながらも、時間を作ってつきあってくれたあいつ。
初めて自力で作ったスペルカードに感激してたあいつ。
穏やかで少し天然で、そして優しいあいつ。ちょっと優柔不断だけれど。
あいつの笑顔が忘れられない。できるならずっと見ていたい。ずっと隣にいたい。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。でも、告げる勇気がどうしても出せない。
ここまで自分が恋に臆病だったとは。最後はひとり煩悶しながら眠りにつく毎日だった。
それから半年。桜の季節になった。
今年はどっかの死に損ない(むしろ生まれ損ないか)も余計な事をしなかったようで、例年どおりの春である。
花見をするのも例年どおり。毎夜博麗神社は、人間と人間以外が集まって騒いでいた。
この日私は、少し卑怯な事をした。
あいつの為に作った特別な魔法薬。少しだけ、人を正直にする薬。
あまり飲めないというあいつの杯に、隙を見て少しだけ混ぜる。
あいつの気持ちが知りたかった。今の私にできる精一杯だった。
それが、いけなかった。
※ 2 ※
「霊夢、好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あいつの口から最も聞きたくなかった言葉。最も聞きたくなかった名前。
何の努力も自覚もなしに、力も人の心も、私が欲しいもの全てを手に入れる博麗の巫女。
私ははじめて、ほんのわずかな時間だけ、彼女を何の躊躇もなく憎んだ。憎んでしまった。
「……え?え?ちょ、ちょっとやめてよ○○さん、いきなりこんなとこで…」
慌てふためく霊夢の顔。少し赤くなっているのは、皆の前で恥ずかしいのか酔っているのか怒っているのか。
それとも、まさか霊夢も……なのか。
「ちょ……みんな見てるじゃない…!やめてったら……!」
私や霊夢の思いをよそに、あいつは高らかに叫んでくれた。
「そうだ! どうせ聞こえるなら、聞かせてやるさ!
霊夢!好きだァー!霊夢!愛しているんだ!霊夢ー!
幻想郷に来る前から 好きだったんだ! 好きなんてもんじゃない!
霊夢の事はもっと知りたいんだ! 霊夢の事はみんな、ぜーんぶ知っておきたい!
霊夢を抱き締めたいんだァ! 潰しちゃうくらい抱き締めたーい!
心の声は 心の叫びでかき消してやる!霊夢ッ!好きだ!
霊夢ーーーっ!愛しているんだよ!
僕のこの心のうちの叫びを聞いてくれー!霊夢さーん!
住処が同じになってから、霊夢を知ってから、僕は君の虜になってしまったんだ!
愛してるってこと!好きだってこと!僕に振り向いて!
霊夢が僕に振り向いてくれれば、僕はこんなに苦しまなくってすむんです
優しい君なら、僕の心のうちを知ってくれて、僕に応えてくれるでしょう
僕は君を僕のものにしたいんだ!その美しい心と美しいすべてを!
誰が邪魔をしようとも奪ってみせる!恋敵がいるなら、今すぐ出てこい!相手になってやる!
でも霊夢さんがぼくの愛に応えてくれれば弾幕ごっこしません
ぼくは霊夢を抱きしめるだけです!君の心の奥底にまでキスをします!
力一杯のキスをどこにもここにもしてみせます!
キスだけじゃない!心から君に尽くします!それが僕の喜びなんだから
喜びを分かち合えるのなら、もっとふかいキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらいます!
霊夢!君がスキマの中に素っ裸で入れというのなら、やってもみせる! 」(AAry
宴席の中心でずいぶんとおおげさに愛を叫ぶ○○。おおげさな奴……英語で言えばオーバーマンか?
神社を包む割れんばかりの拍手。顔を真っ赤にして俯く霊夢。握り締めた両拳がぷるぷる震えている。
……あいつって…あんなに酒乱だったっけな?
「表現できたぜ……おれのハートを!究極の愛を!……表現できたぜェ~~~!
万雷の拍手をおくれ幻想郷のボケども」
なにやらうっとりした表情でギターをかき鳴らすジェスチャー。拍手がさらに大きくなった。
えーと……あれ?なんか性格が変わりすぎてないか?……薬が強すぎたかな?
こっそり懐の瓶を取り出し、ラベルを確かめると、私自身の字ではっきりと『惚れ薬 ~男はオ・オ・カ・ミ☆~』と書いてあった。
しかもその上にかぶさるように『エロいよ危険!ギャラクティカ失敗作』と殴り書きしてある。
く………
薬を間違えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「どうしたのよ○○さん…!酔ってるの?何か変よ?」
「ああ、君へのラヴに酔いしれているのさモンシェリ………僕の想い、受け取ってくれるね?」
「きゃっ…ちょっと……やっ!こら、どこ触ってるのっ!怒るわ、よっ…!」
有無を言わさず霊夢を抱き寄せる。薬のせいだと分かっていても、胸が痛んだ。
……これはまずい、まずいぜ!この薬は過去に類を見ないずば抜けた失敗作だ!
一度里に下りた際、某半獣で試してみたところ、角を生やしアフロのヅラをかぶって暴走したあげく、
知己の不死人を一晩中(自主規制)しまくるという悲劇を生んだ。相手は三回くらい死んでたっぽい。
なぜアフロのヅラだったのかはいまだに謎である。教えて下さいゆでたまご先生。
そんなわけで、早く止めないと霊夢が(イチャスレはエロ禁止です)で(えっちなのはいけ(ry)に!
ざわ……
ざわ……
そんな二人を、いい酒の肴とばかりに興味津々に見守る野次馬たち。生温い視線が集中する。
お前ら後で職員室な。
「ちょっとあんた達、何嬉しそうに見て…んっ……!ん、んん~~~~っ!」
ズキュウゥゥゥゥゥゥン!!
不意を突き、ありえない効果音を立てて唇を奪う○○。会場が一気にヒートアップした。
うわぁ…舌入れてる……すご…うらやましい………じゃなくて!……うらやましいぞ!(本音)
「○○くんの ごういんな キス!」
「おおーーーーーっと!れいむ、くちびるをうばわれたーーーーーっ!」
マイクを持って絶叫する放送席。いつの間に作ったんだ?
「いやーこれは過激ですねー、明日のトップ記事はもう決まりですねー」
「このシチュエーションをどう思いますか、解説の
チルノさん?」
「さすが○○、あたい達に出来ないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「……いや、あんたそういうキャラだったか?」
「そもそも“しちゅえーしょん”って何さ?何かのさなぎ?」
「……あんたもう黙ってろ」
「おおーーーーーーっと!れいむ、おしたおされたーーーーーーっ!」
解説の⑨と羽蟲を完全に無視して、実況役の天狗娘が職務をまっとうせんとばかりに叫ぶ。真面目なのか馬鹿なのか。
見れば霊夢が組み敷かれ、いまにも(子供は知らない方がいい)に突入しそうだ。うお、ドロワーズ脱がされてる。
かぶりつくギャラリーたち。実況もマイクを投げ出し、カメラを携えて飛んで来る。お前ら後で体育館裏な。
もはや半泣きで弱弱しい抵抗を続けるしかできない霊夢は、
いつもの超然とした雰囲気など微塵もない、ただの年頃の女の子に見えた。
「ちょっと……やっ…!こら、どこに手入れてるの…!ダメだってっばっ…」
「そうは言うがな霊夢。性欲をもてあます」
「いや…ねえお願いやめて……誰か助けて……!いやぁぁぁっ!魔理沙ぁっ!」
その一言で我に返る。……なに傍観してるんだ私は!とっととあいつを止めないと!
霊夢にばかり羨ましい目に……じゃなくて、既成事実を作られてたまるか!(どっちにしても本音)
「彗星『ブレイジングスター』!」
近くの桜に立てかけてあった愛用のホウキをひっ掴み、またがりながらスペルカードを宣言する。
言霊を受けて輝きを増すホウキ。私が魔力を解放してやると、光の尾を引きながら霊夢達に向けて真っ直ぐに突っ込んだ。
そのままの勢いで二人を弾き飛ばす。
「ぶべらっ!!」
「おおーーーーーーーっと、れいむ、ふっとばされたーーーーーーーーーっ!」
グシャッ!
吹っ飛ばされ、回転しつつ頭から車田落ちをする霊夢。すまん、ちょっとジェラシー入った。
通り過ぎたところで魔法を解除し急ブレーキ、ホウキから降りて霊夢に駆け寄る。
周りから起こるブーイングの嵐。お前らうるさい。
「(貞操は)大丈夫か霊夢?」
「……方法に難があるけど…とにかく助かったわ、ありがと」
乱れた裾と荒い呼吸と潤んだ瞳と上気した頬が妙に色っぽい。霊夢のくせに(ギリィッ)。
霊夢の手を引き、起こしてやる。握る手に思いっきり力がこもっているのは無意識のなせる業だ。
と、半ばまで立ち上がったものの、ぺたんとへたり込んでしまった。
「……霊夢?」
「……○○さん……いくら酔ってるからって…ぐすっ……ひどいよこんな事……」
げ、マジ泣き!
「そんな人じゃないって……ひっく、信じてたのに……」
「あー……ほら、あれだ!なんか理由があるんだよ!満月光線浴びすぎたとか!」
「ん……今日の月は上弦」
「あ、あー……んじゃ上弦光線だ」
「…………」
「とにかく、なんか浴びたんだ、うん。間違っても何かを飲んだせいなんかじゃないぜ!」
「…………ねえ魔理沙」
「な、なんだ?助けてやったお礼をリクエストできるのか?」
「あんたもしかして………
○○さんのお酒に、何か混ぜた?」
ぎくっ!
「な……なななななんの事かさささっぱりアイドンノゥだぜ?」
「……全部あんたの仕業か」
………こういう時のこいつの勘は鋭い。
全身からはジェノサイド巫女オーラつまりは殺気を噴き出しながら、ゆらりと立ち上がる霊夢。
これは………私、死ぬかもな。こんなことなら真正面から告白するんだった……
「……って、○○はどこに落ちた?」
「話をそらすなっ」
「そうじゃない!あいつがいないんだって!」
「どうでもいいのそんな事は!どこかの草葉の陰で泣いてるわよ!」
「いや勝手に殺すなよ」
「そんな事よりも!」
どこから出したのか、お祓い棒を構える霊夢。笑顔がどす黒い。
「まずは魔理沙に、恥をかかせてくれたお礼をしないとね……ふふふふふ」
「う……お、お礼のリクエストはできるのか?」
「剥かれてから吊るされるか、吊るされてから剥かれるかの二択でどうぞ」
「そ、そいつは素敵だな。キャンセルできればもっとゴージャスで素敵だぜ?」
「あら、キャンセルもクーリングオフもない、ってのもシンプルで素敵じゃない?一括でお願いね」
あくまで笑顔のまま歩み寄る悪徳業者。さっきまでのか弱い乙女は何処に行った?
「ちょっっと待った!ちょ、ちょっと待った!!」
「You gotta remember♪ 今も夢符のかけらを手に あの頃のように (come on!) 光はなつ少女のハート♪」
歌いながら近寄るな。怖いから。
彼女の本気っぷりを、口ずさむメロディーが思い知らせてくれる。
ちなみに途中の『come on!』はギャラリーの連中だ。こういう時だけ結束固いよなお前達。
今にも「ケヒヒー」とか言いそうな、いやらしい笑顔でにじり寄ってくる霊夢。
グッバイ私の貞操……できればあいつにあげたかったな………
「ケヒヒー」
あ、ほんとに言った。
「ちょっと!今のは私じゃないわよ!」
「んじゃ誰だよ?お前以外にそんな奇声を上げる巫女なんか見たことないぞ?」
「巫女に限定するなっ!」
「奇声を上げることは否定しないんだな」
「あー……あんたは一晩中悲鳴を上げたいみたいね?」
「…………ま、待て!ちょ、おま……!」
「問答無用!ケヒヒー!」
やっぱりお前じゃないか……いやそれよりも!
「待て霊夢!後ろ、後ろっ!うしろ見ろっ!」
「いまどきそんな手にひっかかるもんで…………わひゃぁっ!?」
「じゃ、僕は霊夢を一晩中いい声で鳴かせてやるとしようかな」
全く気配を感じさせず、いつの間にか○○が霊夢の背後に迫っていた。
背中につつーーーっと指を這わせる。
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
全力で走って逃げる霊夢。飛べばいいのに。
そんな霊夢に両腕を広げてゆっくりと近寄る○○。
「何を恥ずかしがっているんだいハニー。ほら、早く僕の大胸筋に飛び込んでおいで」
「来るな!寄るな!近付くなっ!」
「皆さんも僕らのゴールインを今か今かとお待ちかねだぞ。そうだろうみんな!」
「「「そーですねー!」」」
「ギャラリーを味方につけるな!あんた達もノるな!」
「さあ遠慮はいらない。今夜はたっぷりと愛しあおうじゃないか。ここの描写だけで一冊の本になるくらいに!
タイトルは『REIMU特別編 SAGA』でいいかなー!」
「「「いいともー!」」」
「あんた達……いいかげんにしなさいっ!」
懐からお札を取り出す霊夢。さすがに突っ込み疲れて実力行使に出るようだ。
ひらたく言うとキレた。
「夢符『封魔陣』!」
懐からお札の束を取り出し、一斉に放つ。
呪力を帯びたお札が鎖のごとく連なり、○○を包囲する小結界を形成する。このまま結界を縮小し、縛り上げるつもりだろう。
完成してしまえば、常人が自力で解くことはまずできないのだが……なんだ、この胸騒ぎは?
「……甘い、甘いわ霊夢!だからお前は巫女なのだ!」
○○は直立して腕を組んだまま、微動だにしない。……一体なんなんだ、あの東方キャラには不敗だとも言いたげなあの余裕は!?
「そんな紙切れで、僕のラヴ・エクスプレスから途中下車できるとでも思っているのか?」
「あら、切符を間違えたかしら!なら列車ごと止めるまでだわ!」
「残念、切符はここで切らせてもらう!
塔符『チェーンソー 15』!」
「な……スペルカード!?」
宣言と同時に、○○の周りに出現する無数の小さな鋼鉄の刃。
単体ではたいした威力も無いが、全ての刃を一定の軌道上に密集、高速運動させる事によって、
大木すらも切り落とす程の破壊力を生み出す。
あいつが自分の少ない魔力でも使えるものをと、外の世界の道具にヒントを得て作ったものだ。
嬉しい、ちゃんと活用してくれるなんて!魔法を教えて本当に良かった(恋する乙女の思考)!
「これが にんげんの サガか……」
紙は バラバラになった。
「うそ……」
さすがにスペカが破られる事態は想定していなかったらしい。霊夢が放心した瞬間を、あいつは見逃さなかった。
「では、乗り越し料金を払っていただこうか!」
「きゃあっ!」
低い姿勢でダッシュ、そのまま霊夢を押し倒し馬乗りになる!
「さあ、二人でめくるめく愛の幻想郷(終点)へ旅立とう!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!いやっ、いやぁっ!」
「その通り!最初の『ケヒヒー』は僕だ!」
「そんな事誰も聞いてな……ひぃっ!そ、そそそそこはだめ…だって、ばっ………!」
「オレサマ オマエ マルカジリ」
お祓い棒でぽこぽこ叩かれているのを気にもかけず、霊夢に覆いかぶさってすりすりしている。
薬の効果で、だいぶ魔獣と化しているようだ。うん、看板に偽りなし。
「ちょ、ちょっと……なんとか…やんっ!なんとかしてよ魔理沙!あんたの…薬の、せいで、しょっ!」
「ええー、今助けたら私を吊るして剥くんだろ?いや、剥いて吊るすんだっけ」
「うっ………」
「愛の幻想郷…そうか行くのかボンボヤージュ(ぼそっ)」
「ううっ……」
「今すぐボーーンボヤージュ♪(T0KIOっ)」
「うううっ……」
「………お礼のリクエスt(ぼそっ)」
「ああもうっ!分かったわよ!返品可!送料込みっ!とにかくなんとかしてーーーーーっ!」
「よーし、商談成立!今助けてやるぜっ」
ホウキを構えて駆け寄り、大きく振りかぶる。愛する人に刃を向けるなんて……なんて悲しい運命のいたずらなのかしら。
ごめんね、れいむと(ごめんね、18さいみまんにはいえないの、ごめんね)されたくないの、ごめんね。
まさに後頭部にホウキを打ち込まんと“担いだ”と同時、それまで身体をまさぐっていた○○の両手が止まった。
「…………な、なに?」
「…………」
「………なんだ?」
妙な間が場を支配する。ギャラリー達の晩酌をする手すらも止まっている。つーかこの状況で普通に飲んでるお前ら凄いよ。
しばらくの後、霊夢の薄い胸板をぽんぽんと叩き
「……貧弱、貧弱ゥーッ!!」
「「うるさいわぁっ!」」
ゴシカァン!
霊夢の蹴り上げ(ゴシッ)と私のフルスイング(カァーン)が絶妙なタイミングで2hitコンボ、
○○は「モルスァ」みたいなことを言いながらすごい勢いで飛んで行った。
そのまま桜の樹に激突し、動かなくなる。
「「幼児体型で何が悪い!」」
霊夢と綺麗にハモる。私達の禁忌に触れたその罪はあまりにも重かった。
巻き起こる拍手。賛同者は多いようだが、数人が余裕の笑みを浮かべているのが非常にむかつく。
大きけりゃいいってもんじゃないんだ!……くそっ、泣いてない、泣いてないぞ!泣いてないったら!
「んで、魔理沙」
「ん?」
乱れた巫女服を直しつつゆっくりと立ち上がる霊夢。
桜の下で転がっている○○に札を放ち、今度こそ封魔陣で縛り上げる。
「なんの悪ふざけ?○○さんにあんな変な薬飲ませるなんて」
「あ、いや、実はな……間違えてケダモノになる薬を……」
「私は動機を聞いてるの。○○さんに何をするつもりだったのよ?」
うあ……さすがは霊夢。一番答えたくない部分をピンポイントに以西把爾亜(いすぱにあ)剣術で突いてくる。
しかし、いくらなんでも馬鹿正直に
『カレの意中の人を聞き出す薬を飲ませるつもりだったの(はぁと)!○○とか好きだからー!』
なんて言えるわけがない!
「ふむ、『カレの意中の人を聞き出す薬を飲ませるつもりだったの(はぁと)!○○とか好きだからー!』ってところかしら?」
「なっ…!なんで一言一句正確に分かるんだよ!」
「勘よ」
「……なあ、なんかもう『勘が鋭い』では済まされないレベルだな」
「だって巫女だもの」
……巫女関係あるのか?
「しかし、魔理沙もだなんて……困ったわね…」
「何が困るんだ?私がその……○○をす、好きになって、不都合でもあるのか?」
「いや、そんな事はない……んだけど………」
ちょいとばかり真面目な顔で考え込んでいる。珍しく、言葉を選んでいるようだ。
「ねえ魔理沙。もしも、もしもよ……○○さんのことを好きな人が他に居たとしたら…どうする?」
「えーっと……霊夢?それってまさか……」
「あ、あー…あたしじゃないわよ?だからもしもの話、って言ってるじゃないの!」
「じゃあ誰なんだよ」
「え、えっと、それは……ええと…そ、それは、神山満月ちゃん!」
「今日の月は上弦だぜ」
「じゃあ神山上弦ちゃんよ!」
「だから誰だよそれ」
「も……もう!うるさいわね!とにかく違うの!」
耳まで真っ赤にしてお祓い棒をぶんぶん振り回す霊夢。そのリアクションが全てを物語っている。
もしかしたらこいつ、恋愛感情とは全く無縁の生活してきた分、こういう事に関しては私より純情なんじゃなかろうか。
「ブルータス、お前もか……」
「だから違うって言ってるでしょ!ブルータスでもない!」
「嘘だなブルータス。顔に書いてあるぜ」
「うっ……そ、そんなの分かるわけないでしょ…」
「わかるさ。魔法使いだからな」
バチバチバチッ!ボゥッ!
霊夢との間に火花が散り、運悪く線上に舞い落ちた桜の花びらが炭と化す。
「しっかし、まさか霊夢もあいつが好きだったとはな。普段は顔に出さないから全く気付かなかったぜ」
「あんたこそ。あんた達、友達付き合いしてる様にしか見えなかったわ」
「あーそういや、やたらと魔法の講義中にお茶持ってきたり、そのまま一緒に話し込んだりしてたよなあ。
あれはさりげなくけん制してた、ってわけか」
「あんたこそ、魔法講義とか言って毎日押しかけて来て。私を見張ってるつもりだったのかしら」
「ほほーう、つまりお二人は恋のライバルだったわけですね」
「「さりげなくメモるな!」」
ゲゲシッ!
横からすい~っと寄ってきてペンを舐めていた天狗娘をダブルで蹴っ飛ばす。
「モルスァ」みたいなこと言いながらすごい勢いで(ry
バチバチバチッ!
再びにらみ合い、火花を散らせる。ボタン連打で押し勝て!
「まったく……そうと知ってりゃ、大人しくしてなかったのにな!
もっと遠慮なく二人っきりのあまぁ~いシチュエーションとか、あむゎ~いシチュエーションを作ってたぜ!」
「こっちこそ!馬鹿正直に晩御飯なんか食べさせないで、とっとと追い返せばよかったわ!
そして新婚夫婦のようなアツアツのディナータイムを!」
「おいおい!その晩飯の食材は私も提供してただろっ!」
「一番食べてたのもあんたでしょ!三杯目にはそっと出し、って言葉知らないの!?」
「ああ知らないな!生憎そんな言葉が載ってる辞書は持ってないぜ!」
「色気より食い気、って言葉は載ってそうですよね」
「「戻ってくるな!」」
ゲゲシッ!
低空をふらふら飛んできてシステム手帳を開いていた天狗をダブル裏拳で吹っ飛ばす。
「モルスァ」みた(ry
バチバチバチッ!
三度火花を散らせる私達。どんどん火力も上がっている。まさにPower of Love(大○ガス)。
「……とりあえず、こういう場合は」
「……ああ、やる事はひとつだよな」
「……○○さんへの告白権を賭けて」
「……恨みっこなしだぜ」
「「弾幕ごっこで、勝負!!」」
「……重要なのは○○さんが誰を好きなのか、だと思いますが」
「「水差すな!」」
天狗(ry
「モノ(ry
……そして、宴が始まった。
私と霊夢のガチ勝負だったのが、『貰えるものは貰っとけ』感覚で参加してきたギャラリー連中でバトルロワイヤルになったり、
気が付けばせんだみつおゲーム→アタック25→キャンディー掴み取り大会の流れになっていたり、
そのキャンディーを箱ごと亡霊姫が食い尽くしていったり、そいつを食い物の恨みとばかりに皆でぼこったり、
どさくさに紛れて○○の結界が解かれ、「俺は人間をやめるぞぉぉぉぉ!」と霊夢のドロワーズを頭にかぶって暴走を始めたり、
それを見てキレてしまい、夢想天生をぶっ放した霊夢にマスタースパークを撃ち返したあとはもう記憶に無い。
――――はぁ……どうして、こうなったのだろう。
※ 3 ※
「……で、気が付いたら立っていたガンダムは霊夢と私だけだったわけだ」
「誰がガンダムよ」
「ああ、お前はジオングだったか。足なんて飾りだろ?」
「そういうあんたはゴッグで充分。なんともないわよ」
「いんや、私はZZだぜ?ハイメガ粒子砲もあるしな」
「……うん、話はよーく分かった。僕が酔いつぶれてる間に起こったことも、1年戦争が起こったことも分かった。
分かったからトリアーエズ、二人とも離れてくれないかな?」
朝からずっと、魔理沙と霊夢が僕の両腕にしがみついて離れないのである。
「やだ」
「嫌よ」
即答。離れるどころかよりいっそう力を込めてしがみついてくる。
「言ったでしょ?どっちかを選ぶまで離さない、って」
「私達の気持ちは伝えたはずだぜ?」
「とは言っても、ずっと君等の事は友達だと思ってたわけで……いきなり選べと言われても」
「あら、女の子にあんな恥ずかしいことさせておいて……責任とってくれないの?」
「そうだぞ。私だって……“はじめて”だったんだからな」
もじもじする霊夢&魔理沙。なにやら誤解を招く表現だが、別に変なことをしたわけではない。
簡単に言うと二人から同時に“愛の告白”というものをされてしまったのだ。
面食らう間もなく、早くどちらかを選べと迫ってくる二人。
あげく、答えるまで離さないと両腕をがっちりロックされて今に至る。
「いいから早く“ま・り・さ”って言っちゃえよ。楽になるぜ?」
「田舎のおふくろさんも『早く霊夢との間に出来た孫の顔が見たい』って泣いてるわよ?」
「お前には黙秘権も弁護士を呼ぶ権利もないんだ。さっさと『ああっ魔理沙さまっ』って言わないと、逮捕しちゃうぜ?」
「大丈夫よ。おつとめ中も籍は入れたままにしておくから。鳥居に黄色いハンカチ巻いておくわ」
……僕は犯罪者か。
「似たようなもんだ。恋泥棒は重罪だからな」
「カツ丼食べる?」
「…………モノローグ読まないでくれ」
普通なら、可愛い女の子二人にに抱きつかれているというこの状況は喜ぶべきなのだろうが、
これではどう見ても捕獲です。本当にありがとうございました。
某黒服に捕まった灰色の地球外生命体と、今なら友好を結べる気がした。
「さあさあどっちなの?早く選んで」
「さあさあ選べ選べ」
左右からさあさあと共にぎゅうぎゅうと薄い胸が押し付けられる。いろんな意味であまり嬉しくない。
「「胸の話はするな!」」
「ぶるわぁっ!」
間髪入れずダブルでチャランボを決められた。……だからモノローグ読まないで。
「さあさあ」
「さあさあ」
「魔理沙?霊夢?」
「紅白?黒白?」
「連邦?ジオン?」
「アル責め?エド責め?」
「おすぎ?ピーコ?」
「まきますか?まきませんか?」
もう何を選ばせているのかもよく分からないまま詰め寄ってくる乙女達。
どう見ても拷問です。本当にありがとうございました。
「もちろん私よね?一緒に暮らしてるし、もう夫婦みたいなものだものね」
「私を選ぶに決まってるよな?お邪魔虫の妨害にも負けず、熱く激しく愛しあったもんな」
「あら、かつてゴ○と呼ばれてたのはあんたでしょ?お邪魔虫さん」
「ああ、あれはもう2代目が継いだんだ。主婦ならワイドショーくらい見ろよ」
「すぐに私達の家に入り込むところとかぴったりだったのに、残念ね」
「心配しなくても、もうすぐ“お前だけの家”になるさ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
僕にしがみついたままにらみ合う二人。溢れるジェノサイド巫女&魔砲使いオーラつまりは殺気。
その間に立ってる僕に重い空気がのしかかる。首が痛い。
「……黒くてすばしっこい悪い虫は」
「……正妻気取りの春な頭に」
「駆除しなくちゃダメみたいね!」
「大奥のルールを教えてやるぜ!」
「はーなるほどなるほど。こうやって○○さんをめぐって事あるごとに二人が衝突、んで間の○○さんが痛い目にあう、と。
今後はこのラブコメ展開が続くわけですね」
「「お前がオチ担当か!!」」
軒下に潜んでノートパソコンでブログの更新をしていた天狗娘を、二人の弾幕が蜂の巣にする。
――――「モルスァ」みたいなことを言いながら、すごい勢いで飛んで行った。
完
@@@@@@@@@@@@@@@@あとがき@@@@@@@@@@@@@@@@
霊夢のリクエスト、見事に失敗。出来ない事言ってすいませんでした。
これでもはじめはシリアス書くつもりだったんですが…
何を受信したのやら。無駄に長いし。
妄想が暴走してネタだらけでもう何がなにやらになってますが、
少しでも楽しんでいただける部分があれば幸いでございます。ええ。
こんな長文妄想に付き合ってくださった皆様に愛を。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
4スレ目 >>85-86
とある集落の一角。酒造を営みとする男の家。
「……さて、掃除はこの程度でいいか。次は───」
「私に酒を注ぐ時間ね。一本と言わず十本ぐらいよろしく~」
箒を片付けて振り向けば、卓袱台にはいつもの姿。いつの間に来たんだ?
と毎度思うが、毎度なので驚きもしなくなっていた。
「勘弁してくれ、萃香。お客に出す品が減る一方じゃないか」
俺も休憩の為に座り、卓袱台に片肘をつく。
「私が認めるぐらい質がいい証拠だよ、あんたの酒は。それに、お得意様
ならここにいるじゃない」
ありもしない胸を張って自己主張されても、苦笑にしか変換できない。
「代金払ってくれないお得意様は御免蒙りたい所なんだけど」
「だ~か~らっ、お礼は"私"でしてあげるって言ってるじゃん。手伝いだろうが
材料萃めだろうが、夜のお供だろうが、ね。夜に関しちゃどーせ経験ないんでしょ?
楽しいよぉ~?」
擦り寄ってきた萃香に背中から抱きつかれ、首筋を生暖かい息がくすぐる。
ナイ胸とはいえ、こうもぐりぐりと押し付けられると……
「なっ……何してるんですか萃香さん!!」
障子が開けて広々と見える庭から、鬼娘を怒鳴る声。
「ん~? なによ鴉、い・い・こ・と、してるに決まって───」
「してないしてない」
さすがに頭に血が昇りそうになったので萃香をどけ、庭から来た客人を迎えいれる。
「ようこそ、文さん」
「さんはいいですよ、文で結構です。本日はよろしくお願いします」
深々と頭を下げる文を、何が気に入らないのか不機嫌な表情のまま文を睨め付ける萃香。
普段はケラケラとおどけたり笑ったりしてる彼女だが……珍しい事だ。
「今日は"取材"ってやつを受ける予定だったんだ。ウチの酒をね」
「酒の、しゅざい?」
「コホンッ……はい、そうです。最近幻想郷で人気の高まっている芋焼酎『夢みる力』と
造り手のお兄さんを我が文々。新聞で特集するのですよ」
「……おにいさん? 随分親しい呼び方だね~」
眉間の皺が更に深くなり、声色も太くなる。何がそんなに気に入らないんだろう。
「はい、以前の事なんですが。この付近でちょっとした事件があって、お兄さんがその
目撃者で情報をたくさん貰いまして、それから仲良くさせて貰ってるんです。そのツテでは
あるのですが、お兄さんのお酒も……って、またですかっ」
文の言葉なんか聴いちゃいない。さっき離れたと思えば、いつの間にやら正面から抱き
つかれていた。
「ね~、こんな鴉の小娘におにぃ~さぁ~ん、なんて言われて嬉しいワケ?」
「こ、こむすめって……」
萃香の語気が強い。悪い事したのか俺は……
「いや、まぁ、そうだな。嬉しいっていうか……悪い気はしないよ」
「へぇ~、そうなんだ」
「と、とにかくです! 今日はお兄さんに用事があるので、萃香さんはお引取り下さいっ」
文が俺と萃香の間に割って入り、引き離される。
「それでですね、お兄さん。少し遠い場所なんですが、綺麗な湖畔がありましてね」
説明に入るなり俺の側面に回り、右腕にしがみついてくる。わざとか天然か、柔らかい
双丘の感触が二の腕を挟み、どうにも意識してしまう。
「二人でゆっくり歩きながら、お話聞かせてもらえませんか? ほら、ここだと五月蝿いし」
明らかな挑発の意……文と萃香の視線がぶつかっているのが嫌でもわかる。
うーむ……空気が重い。なんで仲良くできんのか、この子達は。
「まぁまぁ、どこで話しようと問題ないから。萃香、すまないけど───」
「はぁ……わかった、待ってるよ」
俺が苦笑して謝ると、ため息をつきながら萃香も苦笑で返してくる。
「たーだーし、代わりに晩酌に付き合ってよね、"兄さん"?」
「は?」
三度目? また刹那の時がそれより短いか。目の前には萃香の笑顔。
身体は密着し、少し冷たくて、それでも気が緩む気持ちよさがある細い両腕が首元を
優しく覆い……
上唇だけが軽く触れた。かすかな酒の香りが鼻腔を伝う。
「ちょ……えぇ!?」
文の驚く声で我に返る。ただ、状況が状況だけに声を失う。
全身を凍らせる俺を笑う萃香は既に庭の外にいた。
「それじゃ、また後でね兄さん。霊夢のとこにでも行って暇つぶし───」
「待ってください! いきなりあんな、き、キキキ、キスなんてぇ! それに"兄さん"て
なんなんですかぁぁぁぁっ」
「ん? だって、悪い気しないんでしょ? ならいいじゃん」
と背中で文の怒りをいなして、そのまま空へと飛び立ってしまった。
なんつー破天荒な……しかし、さっきのって、キス、だよな……なんか、妙な気分だ。
「お兄さん? お兄さんっ」
「あっとと、すまない」
「もぉ~、今萃香さんのこと考えてましたね?」
「いや、まぁ……毎度ながら騒がしい奴だなってね。えっと……湖畔に行って取材だっけ?
今日はお店休みにしたから」
「え? そうなんですか!? じ、じゃあ、えええっと、他にも色々と景色のいいスポットが
あるんですよ。息抜きにもなりますし、どうでしょうか!」
瞳を輝かせて迫ってくる文。その勢いに気圧されそうな感じだけど、断るような話でもない。
むしろ、ありがたい話じゃないか。
「わかった、ありがたく教えて貰うよ。」
「はい、お任せ下さい」
快活な笑顔で頷き、小さな声で『がんばるぞ~、負けないぞ~』と気合いを入れている。
こちらもできるだけ取材に協力しないといけないな。天狗達の競争ってのもあるみたいだし、
負けたくないのも肯ける。
「よし、行こうか。せっかくだし、ウチの酒もどうだい?」
「はいっ」
歩き回るには最適な陽気だ。こりゃ、外で呑む酒もひとしおってやつだな───
○口出しシステムで割込みできます。
A:萃香の晩酌があるんだから、早めに取材切り上げて家に戻れよ
B:文の取材といいつつ、このままデートってのも悪くないんじゃないか?
C:文と一緒に博麗神社に酒もって行って、巫女に恩でも売っとけ
(システムを使用する場合は[たけしの挑戦状]のパスワード爺様に殴り勝って下さい)
この程度の技術ですが……( ´ω`)
最終更新:2010年06月06日 20:31