修羅場?6
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うpろだ250・261・349
幻想郷…そこは、人と人外が共存……共存?
…住む場所は分かれてるし退治したりされたりする関係だから、
厳密には共存とは言えないが…。
ともかく!その割には平和な……。
……たまに事件起きるよな。しかも結構大規模で大変な。
「今更ながら、大変なトコに来たな俺」
「いきなりどうしたのよ?」
まぁ、そんな場所でも何とか暮らしていってるわけだ、俺は。
「んにゃ、なんか色々思うところがあってな」
「ふーん」
で、今俺と話してるのは博麗 霊夢。
幻想郷に住む巫女さん。某人曰く、頭の中が春らしい。
「…何か失礼な事考えてない?」
「滅相もない」
頭の中が春と言われてる割には勘が鋭いんだよな…腋巫女め。
ゴンッ!
「~~~~っ!!」
「今失礼な事考えたでしょ」
「断定かよっ!? ってか殴るなよ!!」
「失礼な事考えた罰よ」
くっ…図星なだけに強く言い返せない…!
ただでさえ霊夢には頭が上がらないのに。何故かは分からないけど。
「まったく…ほら、さっさと掃除終わらせるわよ」
「くっ…いつかギャフンと言わせてやるっ」
へーへー、分かりましたよ。
「……本音と建前が逆になってるわよ」
「しまった、根が正直だから!」
「もう一回殴られたい?」
「ごめんなさい」
だからその強く握りしめた拳を解いてください。
========
「ふぅ…労働の後のお茶は格別ね」
「出涸らしだけどな」
「文句があるなら飲まなくていいわよ」
「冗談だよ、冗談」
今日も朝からこき使われたからな…流石に疲れた。
ちくしょう、こんな事なら家でゴロゴロするなり香霖堂に冷やかしに行くなり
図書館で本読むなり永遠亭にゲームしに行くなりすればよかった。
……後ろ二つはダメだな。一人じゃ辿り着けるか分からない上に、
下手すりゃ迎撃されるかもしれないし。
「くっ…無力な俺を許してくれ、本とゲーム達よ…!」
「訳分かんない事ばっかり言わない」
「こいつが訳分からないのは今に始まったことじゃないぜ」
「ん? 霊夢と俺以外にもう一つ声が聞こえる」
「よう、○○」
「…誰だっけ」
「マスタースp」
「オーケー落ち着こう魔理沙。流石に冗談だ」
「私も冗談だぜ」
その割にはもの凄い威圧感を感じたんだが。
こいつは霧雨 魔理沙。普通の魔法使いらしい。
たまにここでお茶を飲んだり図書館まで連れていってもらったりする仲だ。
「今日も図書館の帰りか?」
「いや、これから行くところだぜ」
「あら、珍しいわね。いつもなら図書館を荒らしてから来るのに」
確かに。何か用事でもあるのかね?
「荒らしてるとは人聞きが悪いな。正当防衛だぜ」
「図書館の本を盗んでいくやつのどこに正当防衛を主張できる要素があるのよ」
「盗んでるとは心外だぜ。借りてるだけだ」
「無許可・無期限でな」
何にせよ碌なものじゃない。
「話がずれたな。今日は何で先にこっちに?」
「うん? あぁ、折角だからお前も連れていってやろうと思って家まで行ったんだが」
「……荒らしてないよな?」
「探検しただけだぜ」
「おいっ!?」
「安心しろ、何も無くなってないから」
「盗むような物も無いしね」
悪意の無い言葉が痛いぜ…。
「…まぁいい。んで?」
「お前がいなかったから多分こっちにいるだろうと思って来た」
大当たり。今日は何故か神社に来てしまったんだよな。
そのせいで朝から重労働を強いられて…あぁ、不運な俺。
「で、どうする?」
「? どうするって、何が?」
「私と一緒に図書館に行くか、ここで年寄りみたいに茶を飲むか」
さて、どうするかな…朝から慣れない掃除で微妙に疲れたからなぁ。
「……その年寄りに私も含まれてるのかしら?」
「想像に任せるぜ」
「売られた喧嘩は買うわよ?」
「喧嘩を売った覚えは無いな。自意識過剰なんじゃないか?」
……あれ? 何やら不穏な空気が漂ってきたぞ?
何でこの二人が一触即発な雰囲気になってるんだ?
「相変わらず減らず口ね……」
「口が減ったら怖いぜ。喋れなくなるな」
空気が重い。流石幻想郷の異変をいくつも解決してきた猛者達、
素人の俺でも分かるくらい殺気ってやつが溢れてるぜ…!
しかし尻込みしてるわけにはにはいかない。
この二人が戦うとこの辺一帯が壊滅するし、
何より俺の命が危ない。冗談抜きで。
そうなるとこの二人を止めなければいけないわけだが…。
「………」
「………」
さてどうやって止めようか。二人を抑える力なんて俺には無いし。
下手に割り込んでややこしくなるのは勘弁したい。
となると、簡潔に俺がどうするかを伝えた方が良いか。
…後で後悔するかもしれないけどな。
そうと決まればさっさと伝えよう。この空気は非常によろしくない。
「魔理沙ー」
できるだけ平静を装う。内心はガクブルだけどな!
「お、行く気になったか?」
「○○……あんたも私が年寄りだって言うのね?」
矛先がこっちに向いた?!
いやいや、まだ間に合う。二人がこれ以上何か言う前にさっさと言え俺!
「あー、悪いけど今日は疲れてるからやめとくわ」
「そうよね、ここでお茶を飲んでる方が良いわよね」
「ほう…○○は折角の私の厚意を無碍にするわけだな?」
あぁもう、あっちを立てればこっちが立たない状況ってのはこういうことを指すのか!
くそっ、それなら……。
「いや、今日はもう帰るわ。魔理沙に荒らされた家も気になるし。じゃ、また今度な!」
言い終わると同時に走り出す。
……そこ、逃げたとか言うな。
――――青年逃亡中――――
「ふぅ…あーあー、後が怖いなぁ…」
きっと後日埋め合わせだとか罪滅ぼしだとかで掃除やら蒐集やら付き合わされるんだろうな。
「まぁ、どっちかを選ぶよりはマシ……だと思うし…」
いつまでも考えてても仕方ない……後の事は後で考えよう。
問題を先送りにしただけと言うなかれ、これがここでの生きる術なのさ。俺限定だけどな!
「さて、帰る前に昼飯と晩飯を調達しないと」
くぅ、魔理沙が来なけりゃ昼飯まで霊夢のとこで粘って
なし崩し的に昼飯食わせてもらおうと思ってたのに…。
「香霖堂…ダメだ、金がない……村行って食料貰えるかなぁ…」
ダメ元で行ってみるか。
――――青年交渉中――――
「いや、頼んでみるもんだな~」
風呂敷の中には村で作られた作物や近場の山で採れた山菜。
対価として後日畑仕事を手伝うことになったが、まぁ仕方ないだろう。
「おまけに昼飯まで食わせて貰ったし」
うん、久しぶりに人の温かさに触れた気がする。
普段の交流範囲内で人間って霊夢と魔理沙だけだもんな…あとは人外。
霊夢と魔理沙も普通じゃないし……。
……これ以上考えるのはやめよう。
「さて、さっさと家に帰るか。ぐずぐずしてると逢魔ヶ時になっちまう」
まだこっちに慣れてなかった頃はそのせいで酷い目にあったからな……。
喰われそうになるは凍らされそうになるわ……。
まぁ幸い喰おうとした方は偶然通りかかった魔理沙が追っ払ってくれたし、
凍らせようとしてきた方はすぐに飽きたのか勝手にどっか行ったし。
――……ぁ……――
「ん?」
……気のせいか? 何か聞こえたような……。
――ぉ……ぁ……ゃぁ――
「…赤ん坊の泣き声…?」
いやいや、そんな馬鹿な。いくら人里が近いからってこんなトコに赤ん坊がいるわけ……。
「…っていたよ!?」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
えええええっ!? な、何でこんな所に赤ん坊が?!
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
「わ、ちょ、し、静かに! あんまり騒ぐと妖怪が…っ!?」
「おぎゃあ、おぎゃあ!!」
って、赤ん坊に言っても分かるわけねーーーっ!!
「くそっ、ここからじゃ村まで遠いし……もう日も暮れるし……」
「おぎゃあ、おぎゃあ!!!」
「えぇぃ、流石に見て見ぬ振りはできないよなぁ!」
翌朝この辺が血塗れだったら寝覚めが悪い上に罪悪感に苛まれそうだ。
「よっ、と……はぁ、やれやれ……」
厄介なもの拾っちまったなぁ……。
――――青年帰宅中――――
「ただいまー、っと……おぉ、魔理沙が来た割には荒れてない」
何気に酷いことを言ってるような気もするが、気にしない。
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
「っと、忘れてた…」
さて、こいつは何で泣いてるのかね?
1、お腹が空いた
2、おむつが汚れてる
3、親が恋しい
3番だったらどうしようもないな。明日まで我慢してもらおう。
いや、この場合我慢するのは俺か?
「とりあえず、2番から確かめるか……」
…見た感じ、汚れてるようには見えない。
やはり脱がせて確認しなければいけないのだろうか?
しかし、抵抗がある。何故に赤の他人の子にそんなことをせにゃ……。
「おぎゃあ、おぎゃあ!!!」
「あぁもう分かった! 確認すりゃいいんだろ確認すりゃ!!」
えーっと、ここがこうなってて……?
……あ、全部脱がせなくてもいいのか。つーかおむつじゃないのね。
…そりゃそうか。見たところ化学製品なんて無いし。
香霖堂ならあるかもしれないが……。まぁそれはともかく。
うん、おむつ代わりの布も濡れてないし、大もないみたいだ。
「となると腹か? しかし、当然ながら母乳なんてないし粉ミルクもない……」
普通に牛乳温めて飲ませればいいのかね?
いや、それしか方法が無いわけだけどさ。
「えーっと、人肌程度に温めるんだっけか……」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
はいはい、今作りますよ、と……。
――――青年料理中――――
あの後。どうやら腹が減っていたのが正解らしく、
適当に温めた牛乳を凄い勢いで飲んで、しばらくしたら寝てしまった。
あ、心配せずともゲップはさせたぞ? させないとダメらしいからさせただけだが。
で、俺の方も貰った食材を適当に調理して、今食い終わった。
「さてさて、こいつは何か持ってないかね…」
…別に物取りじゃないぞ? こいつの身分が分かる物が無いか探すだけだ。
んー……お? お守り……でも何も書いてないな。
中には……お、手紙。えーっと、何々…?
『どなたでも構いません。不甲斐ない私の代わりに、この子をお願いします』
……これは……もしかして、もしかしなくても…。
「捨て子、か…」
ふぅ…厄介なことに巻き込まれた。こっちは平和に暮らしたいのに。
しかし、親は一体どうしたのか。こんな手紙を残すくらいなんだから、
あの場所がどういう場所か知っていたとも思えないし。
「となると、この辺の住人じゃないよなぁ」
しかし、この辺以外に人間が住んでる場所ってあるのか?
「うーむ……ま、考えても仕方ないかぁ」
あーあー……どっと疲れた。今日はもう寝るかぁ。
「ふふふ……これは…これは、特ダネですよ……!」
眠気のせいで、窓の外から覗いてる存在には気がつかなかった。
そのせいで、翌日俺は大変な目に遭うのだった…。
前略、向こうの世界にいる父さんと母さん。
お元気ですか?俺は今――
「どういうことかきっちり説明してもらおうかしら」
「今なら穏便に済ませてやるぜ。私なりにな」
――ライヴで大ピンチです。助けてー。
――ほんの数時間前――
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
「はいはい分かってる今作ってますよー…」
昨日俺が寝てから。
…親の偉大さが身に染みて理解できた。
もう、夜泣きするわおむつ換えさせるわ――ちなみに女の子だった。ごめんなさい親御さん――、
好き放題やってくれるんだよ赤ん坊ってのは。
見つけたのも拾ったのも俺の責任とは言え、
少しばかり殺意を覚えたのは仕方ないと思う。
「ふぁ…あー…」
そのせいで寝不足だ。
だと言うのに、この赤ん坊様はミルクをご所望だと申される。
つくづく親の偉大さを実感する。
「うー……あとは人肌まで冷まして…」
良い感じの温度になった。
さっさと飲ませて寝て貰おう。
「ミルクですよー、と…」
「ぁー……」
…うん、黙ってミルクを一心不乱に飲んでる姿は可愛いと思う。
ふと、こいつの親の事を考える。
赤の他人である俺ですら可愛いと思うんだ、
実の親ならそれこそ目に入れても痛くないくらいだろう。
にも関わらず、だ。こいつは捨てられた。
あの手紙の一文を読んだ限り、望んで捨てた訳じゃなさそうだ。
きっと、やむにやまれぬ事情があったんだろう。
「問題は、その親がどうなったか、だよなぁ」
生きてるのならいいが、もし死んでるのならこいつは正真正銘孤児だ。
「だぁー……ぅー……」
「…っと、もう腹一杯か」
「ぁー」
やれやれ、当の本人は気楽なもんだ。
や、赤ん坊だから仕方ないけどな。
「ほれ、さっさとゲップして寝ちまえ」
「ぅー……けぷっ」
やべ、何今の音可愛くない?
思わず顔が綻んで――
「「○○! 今日の文々。新聞のこ、と……なん、だ、け、ど…」」
――俺の平穏な時間は終わりを告げるのであった。まる。
――冒頭に戻る――
「や、あのですね、白状も何も状況が把握できてないわけですが」
「あら、白を切るつもりかしら? その腕の中の子が何よりの証拠じゃない」
意味が分からないです霊夢さん。
ちなみに、赤ん坊はこんな状況にも関わらず、
すやすやと穏やかに眠ってらっしゃる。
ちくしょう、当事者(仮)のくせに…!
「えーっと…何? 文々。新聞? がどうしたって?」
「なるほど、あくまでもしらばっくれるつもりだな?」
「いや、マジで分からないんだけど……」
「これよ」
えーっと、何々……?
『外界からお越しの○○さんに隠し子発覚!?』
昨夜未明、○○さんの自宅から赤ん坊の泣く声が聞こえたとの情報が寄せられた。
早速確認のため、○○さんの自宅へ。するとそこには、赤ん坊をあやす○○さんの姿が!!
真実を突き止めるため、張り込みを開始。中からは○○さんの声が聞こえてきた。
生憎壁越しだったので一部聞き取れなかったが、
「……腹か? ………母乳も…ぃし、粉ミルク……」
「……人肌程度に温め……」
と、立派な父親振りをうかがわせてくれた。
その後――
~以下略~
「…………は?」
何だこれは。いや、新聞か。いやいや、そうじゃなく。
「隠し子? 誰が? 誰の?」
「その子が」
「お前の」
……………。
「はあああぁぁぁぁぁっ?!」
「きゃっ! もう、いきなり大声出さないでよ!!」
「いやいやいや待て待て待て! なんでこいつが俺の子ども?!」
「認知してやらないのか。そいつは流石に酷いぜ」
「認知とかそれ以前の話だ!」
「まぁ、それはどうでもいいのよ」
いや、どうでもよくないだろ、俺にとっては!
「問題は…」
「そいつが…」
「「あんた(お前)と誰の子どもか、ってことよ(だ)」」
「だから俺の子どもじゃないって……」
「さぁ、早く相手の名前を言いなさい」
「さっさと言えば楽になれるぜ?」
「田舎のお袋さんも泣いてるわよ?」
「安心しな、どこぞの閻魔みたいに一方的な判決はしないぜ」
人の話を聞けよ。つーかどこの犯罪者ですか俺は。
いやそれ以前に。
「何で俺はお前らに責められてるんだよ?
仮にこいつが俺の子だったとして、何か問題あんのか?」
「別にその子があんたの子でも『私は』構わないわよ」
「あぁ、『私は』問題ないぜ」
何か、私は、って部分をやけに強調してた気がするけど…いや、そうじゃなくて。
「百歩……いや、万歩譲ってこいつが俺の子だとする。相手もいたとする。
そのことがお前らに何の関係があるんだ?」
「それは……」
「その……」
「ほら、ねぇ?」
「そうそう、アレだぜ」
意味が分からないし。
「てかさ、何でお前らこいつが俺の子だと思い込んでるんだ?
あの文々。新聞だぞ?」
「そりゃ私も見たときはそう思ったけど」
「写真もバッチリ、来てみればこの状況」
「疑う余地は」
「無いぜ」
何でこんな時ばっかり息ぴったりかなこの二人は…。
いや、そんな事考えてる場合じゃない。
現状ははっきり言ってよろしくない。
何故この二人に責められてるかは甚だ疑問だが、
ここで下手を打てば多分恐ろしいことになる。
それだけは避けたい。
「さぁ、分かったら」
「きりきり白状してもらうぜ」
「だからそれは誤解で――――」
誤解を解こうとしたそのとき。
「はぁ~い、○○。ちょっといいかしら?」
「………八雲さん?」
「紫?」
目の前にニュッと八雲さんが生えてきた。
訂正、現れた。スキマから出てきたっぽい。
「あら霊夢に魔理沙。朝から男のところに入り浸るなんて、はしたないですわ」
「誰がよ」
「その理論でいくならお前も同じだぜ」
幻想郷に住んでる人は皆血の気が多いなぁ…。
「えーっと……それで、八雲さん。何か御用で?」
「あら、紫と呼んでくださいな。知らぬ仲でもないのだし」
「へぇ…」
「その辺のことも聞きたいなぁ…○○?」
今日は死亡フラグ乱立デーですか!?
「いや、前に偶然森を歩いてたときに橙がさ、
マタタビに酔ってたらしくて倒れてて。
意識はあったんだけどな。
で、放っとくわけにもいかないから、とりあえず介抱してたら………」
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ震えだして!?」
「…………藍さんが……」
「あー……」
あの時は死を覚悟した。冗談抜きで。
「橙を攫うとは良い度胸だ」とか「楽に死ねると思うなよ人間」とか。
橙の説明が無ければ、今頃俺は……。
「ま、まぁ、うん、過去は過去。俺は今生きてるんだ。しっかりしろ、俺…」
「うふふ……まぁ、その時に知り合ったのよ。
それで、その後も橙が懐いちゃって時々、ね」
「ふ~ん、なるほどな」
後から聞いた話だが、八雲さんは一部始終を見て笑ってたらしい。
で、事態が収拾したところで出現、二人を連れて帰っていった、と。
「…っと、忘れるところでした。八雲さん、何か御用で?」
「あら、そうだった。すっかり忘れてたわ」
「紫、後にしてくれない? 今はこいつにこの赤ん坊のことを……」
「そうだぜ。さぁ、○○、さっきの続きといこうか」
「私もその赤ん坊のことで来たのよ」
へ?
「紫が? どうして?」
「まさか食料にでもするつもりか?」
「まさか、いくら私でも赤ん坊を食べるなんてことしませんわ」
「じゃあ何よ?」
「それは……」
そう一旦区切り、八雲さんは霊夢と魔理沙を見て。
そのあと、俺の方を見て。
――にやり、と笑った。それはもう、面白い玩具を見つけた、と言わんばかりの――
ダメだ、それ以上口を開かせてはいけない。
俺の勘がそう告げている。てか、この人が絡むと厄介なことにしかならない。
「それは?」
「その子は……」
嫌な予感しかしない。止めなければ……!
が、そんな俺の思いなんてどこ吹く風、八雲さんは爆弾を落としてくれた。
「私と、○○の子なのよ」
「…………え?」
「…………は?」
「「ええええええええ(はああああああああ)!?」」
向こうの世界にいる父さん、母さん。
「ねぇ? あ・な・た♪」
俺に、平穏な日は無いのでしょうか?
「あの……八雲さん?」
「いやん、紫って呼んでくださいな♪」
「いや、あの、八雲さん?」
「ゆ・か・り♪」
ダメだこりゃ、まったく話を聞いてくれそうにない。
こうなったら霊夢達――――
「いつ紫に手を出したのよっていうかなんで紫なのあんな年増のどこがいいの
そりゃ私はまだお子様体型かもしれないけどでもだからって妖怪で年増で
子ども(式神)が2匹もいるのに――――」
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
……ダメだ、今話しかけたらこっちが危ない。
って言うか二人とも、八雲さんにからかわれてるだけって何故気づかない…。
「うふふふふふふ……」
現に八雲さん凄い笑顔じゃないか。もう、楽しくて楽しくて仕方がない、って感じで。
相も変わらず張本人は寝てるし……くそぅ、出来ることなら俺も夢の世界に逃げたいぜ……。
「愛されてるのね、○○」
「いや、訳分かんないです……」
「うふふ。まぁ、おふざけはこれくらいにして……そろそろ本題に入りましょうか」
「最初からふざけないでくださいよ……」
「あらいやですわ、私はいつでも真面目よ?」
さっきと言ってることが違いますよ八雲さん。
「真面目にふざけてるのよ♪」
「心を読まれた!?」
「…………随分と仲が良いわねぇ、二人とも……」
ゾクリ、と背筋に悪寒。声のした方を向くとそこには――――
「ふ、ふふふ……この際紫と○○なんか関係ないぜ……一切合財全部消し飛ばして……」
――――紅白ト黒白ノ夜叉ガ立ッテマシタ。
「いや、ちょっと待って二人ともってか特に魔理沙!」
「安心して○○、骨は拾ってあげるわ」
「残ればの話だがな」
塵も残さないおつもり!?
「あらあら、大変ねぇ○○」
「あんたのせいでしょうがっ!?」
「人のせいにするのはよくありませんわ」
「人のせいも何も100%八雲さんが原因なんですけどっ?!」
「いやだわ、あんなにも愛し合ったのにこの言われよう……悲しくなっちゃう」
「そんな事実ありませんってばぁぁぁあああああっ!!
てかさっき『おふざけはここまで』って言いませんでしたっけ!?」
「あら、言ったかしら? そんなこと」
「この期に及んでまだイチャつくつもりなのね……」
「ひぃっ!?」
やばいやばいやばい八雲さんに抗議してる場合じゃない!!
でも俺が何言っても聞きそうにないしかと言って八雲さんが助けてくれるわけないし……。
せめてこの場に常識人がいてくれればと思うけど、そんなご都合主義みたいな展開が――――
「紫様、一体いつまでお話を――――何をしているんだ?」
救世主キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!?
「藍さん、丁度いいところに!! 後生ですからこの二人をどうにかしてください!!」
「話の流れがよく分からないんだが……」
そう言って、霊夢達を見て、俺を見て……最後に、満面の笑みを浮かべた八雲さんを見て、
「はぁ」と溜息をつき、事態を理解してくれたようだ。
「紫様、冗談も過ぎればとんでもないことになるといつも……」
「はいはい、分かってるわよ。まったく、藍はお堅くて面白くないわ」
「紫様……」
また溜息をつく藍さん。あ、額に青筋。苦労してるんだなぁ……。
「霊夢に魔理沙、少し落ち着け」
「藍……邪魔するんなら、あなたも容赦しないわよ?」
「橙が懐いてる人間を冗談で死なせるわけにはいかないのでな。橙が悲しむ」
「それはつまり橙が悲しまなかったら……」
「どうでもいいってことね」
分かってはいたけど……こう、改めて認識させられると、辛いなぁ……○| ̄|_
「分かった、なら紫だけにしとくぜ」
「私は紫様の式だぞ? 主に仇為す者を放っておくわけがないだろう」
「そう、どうあっても邪魔する気なのね?」
「そちらが引かないのであれば」
あれ? 何か話がおかしい方向に……。
「いいわ、それなら二人まとめて相手してあげる」
「笑止。貴様らごとき、私一人で十分だ」
「ってちょっと待って藍さん!? 何故に戦う気満々ですか?!」
「無駄よ、○○」
八雲さん? 誰のせいでこんなことになったと思ってんですか?
「無駄、って……なんでですか?」
「藍ってば最近、ストレス溜まってたみたいだから」
「ストレス、ですか?」
「えぇ」
意外……でもないか。あれだけ真面目な人だし、きっと八雲さん以外にも苦労することがあるんだろうな。
「この前だって、白玉楼と紅魔館までお使いに行かせた帰りに香霖堂に寄って
珍しいお酒買ってこいって言ったんだけど『ウチにそんな余裕はありません』なんて言うものだから
問答無用でスキマ送りにしてついでに人里から美味しいもの貰ってこさせたんだけど……」
「やっぱりあんたが原因ですか!!!」
「ちなみにその日は橙は私が独占したわ」
「そりゃストレスも溜まりますよ……」
唯一の癒しである橙が……おいたわしや、藍さん……。
「だから、一度ストレス発散も兼ねて戦ってもらおうかしら、って」
「せめて俺の家じゃないところでやってくれませんかねぇ……」
言っても無駄なんだろうな……あの3人、もう臨戦態勢に入ってるし……。
「この状況でも寝てられるこいつがすげぇよ……」
そう呟き、腕の中で寝ている赤ん坊を見る。
しっかりと服を握られてるせいで、下ろすに下ろせない状況だったんだが……。
よくもまぁ、この状況で寝てられるもんだ。
「仕方ないわよ。その子にとって、こんな状況が当たり前だったのだから」
「え……?」
……今、何て言った? 『この状況が当たり前』?
この、今にも戦いが始まりそうな険悪な雰囲気が?
「……どういう、意味ですか?」
「……そうね、いい加減その説明もしないといけないし……」
そう言うと八雲さんは、今にもスペルカードとやらを発動させようとしている3人に向かって――――
――――スキマから、大量の水を浴びせた。
「って八雲さん何してくれやがりますか?! 俺の家が水浸しに……!」
「心配しなくてもいいわよ、ほら」
「……って、あれ? そんなに濡れてない……?」
「床に到達する前にスキマを開けて別の場所に飛ばしたわ」
「は、はぁ……」
……何て言うか、反則な能力だよな……。
「ふぅ……それで3人とも、頭は冷えたかしら?」
「……まぁ、頭は冷えたけど」
「元はと言えば……」
「紫様が原因なのですが……」
「…………まぁ、それはともかくとして」
うわーい見事にスルーしたよこの人。
「霊夢も魔理沙も。さっきのは冗談よ?」
「あー…………まぁ、そうだよな」
「…………よく考えてみれば、時間が合わないものね」
そう。実際、俺がこっちに来てからまだ半年も経っていない。
まぁ、妖怪と人間じゃそういう部分で違うかもしれないから、当てにはならないかもしれないけど。
だけど、霊夢がそう言う以上は、きっとそれほど変わらないんだろう。
「……すまない、私もついカッとなってしまった」
「別に、いいわよ……私達も随分と熱くなってたし」
「藍さんすみません、俺のせいで……」
「いや……私が自制できていればよかっただけの話だ」
「そうよねぇ、藍ってば堪え性が無くて困りますわ」
「「あんた(お前)のせいでしょ(だろ)」」
はぁ……朝から、疲れた……。
「さて、改めて……この子について聞かせてもらおうかしら」
「と言うか、○○はどこでこいつを拾ってきたんだ? ……まさか、誘拐か?」
「んなわけないだろ!! 村からの帰り道で、森の入り口部分……のちょっと脇にそれたトコ?
そこに……まぁ、捨てられてたんだ」
「ふ~ん。よく無事だったわね?」
「あの森、昼でも妖怪出るからな」
まったくだ。いつ捨てられたのかは分からないが、よく無事だったもんだ。
「こいつの周辺しか見てないが、見た限りじゃ親の影も形も無かった。
もちろん、食われた跡も」
「ってことは、こいつの親が囮になって逃げたってことか?」
「多分、そうだと「残念、外れよ」……八雲さん?」
「何よ、この子のこと知ってるの、紫?」
そう……そういえばさっき、この子のことを知ってるような事を言ってた……。
「この子はね……○○と、同じ世界の子よ」
「え?」
「しかも、人間と妖怪の混血児」
「えぇ!?」
俺のいた世界に……妖怪が?
「何を考えてるのかは予想がつくが…………幻想郷にも人間がいるんだ。
お前の世界に妖怪がいても不思議ではないだろう?」
「それは……まぁ、そうですけど」
だけど、文明と科学が発達したあの世界に妖怪が、なんて……信じられない。
だって、彼らは自然と共にあるとばかり……。
「確かにあなたの世界に自然は少ないけれど、無いというわけではないのよ?」
「……なんで考えてることが分かるんですか?」
「うふふふふ……」
いや、うふふふふ、じゃなくて……。まぁ、いいや……。
「……そろそろ話を元に戻してほしいんだけど?」
「あぁ、悪い。八雲さん、続きをお願いします」
「私が会ったのはその子の母親だったのだけど……父親が人間だったらしいわ。
子どもが生まれるまでは普通だったのだけれど、その子が生まれて……
日毎に増していく妖力……周囲はそれを恐れたんでしょうね」
「相手は赤子。いつその力が暴走するか分からない」
「なら今のうちに……ってところか?」
「そんな……」
酷ぇ……こいつは何も悪くないのに……。
「……仕方ないわよ、○○。人は異端を恐れるものなの。
それは、本能からくるもの。簡単には割り切れないわ」
「霊夢……」
「…………それで、その子の両親は逃げ出した。その子を連れて。
だけど追いつかれて……父親が囮になって……多分、殺されたらしいわ」
「…………」
「母親の方も、何日も逃げ続けて……とうとう、追いつかれたそうよ。
それで、子どもを隠して……今度は自分が囮になって逃げた」
「……で、そのときにこっちの世界に迷い込んだ、ってわけか?」
「えぇ。奇跡的に、二人とも。もっとも、迷い込んだ位置が別々だったから、出てくる場所も別々だったけど」
「あの、八雲さん」
「何かしら?」
「……こいつの、母親は……」
「私に全て話して、そのまま」
…………ってことは、やっぱこいつ……孤児になっちまったのか……。
「本来なら別にその子を助ける義理も義務も無いのだが……」
「あら、藍ってば冷たいわね」
「このとおり、紫様が興味を示してしまわれてな」
「で、俺のところに来た、ってわけですか?」
「あぁ」
はぁ……何と言うか……重たい、な。
「本当なら昨日来てもよかったのだけど……」
「だけど?」
「今日にした方が面白そうだったから♪」
「……紫、あんたね……」
一気に脱力した。まったく、この人は……真面目な空気を保ってられないのか?
「それで、どうする気なの?」
「どうするって?」
「その子のことよ。引き取りに来たんじゃないの?」
「うーん、そうねぇ……」
「言っておきますが、ウチに赤子を養う余裕はありませんよ」
「って藍は言ってるのよ」
まぁ、3人暮らしだしなぁ……たまに大食いの人が遊びに行ってるみたいだし。
……今度遊びに行くときは食料持参で行こうかな……。
「ならどうするの? 里に預けるわけにはいかないでしょ?」
「そうだな、こいつが追われてた理由を考えるとそういうわけにはいかないぜ」
「そうねぇ……なら、○○に預かってもらうわ」
「……は?」
いきなり何を言い出すかなこの人は。俺が預かる?
いや、既に一晩預かってるけど……。
「……一応、理由を聞いても?」
「拾ったからには責任を持ちなさい」
「って簡単すぎますよ!! 犬か猫じゃないんですから!!」
「というのは半分冗談」
半分ですか。いやまぁ、確かに拾った手前他人任せにするのはアレだと思うけど。
「理由は分からないんだけど、あなたと一緒にいると、その子の妖力が安定するみたいなのよ」
「は? どういうことですか?」
「推測でしかないのだけれど……その子の両親は、あなたの世界の存在。
その子自身もあなたの世界で生まれた。だから、こっちに来たときに一瞬妖力が乱れたのだけど、
あなたが拾ってからはその妖力が安定してるのよ。
おそらく、無意識にあなたが向こうの世界の存在だと分かってるんでしょうね」
「あー……自分の知ってる雰囲気に安心してるってこと?」
「簡単に言えばそうね」
……だからか? いつまでも服を握り締めた離さないのは。
「ってわけで、○○、よろしくね♪」
「はぁ……まぁ、それはいいんですけど…………俺にしても、こいつを養う余裕無いですよ?」
それに、俺にだって里の手伝いとか仕事あるし。
「あ、あのさ、○○」
「ん? どした、魔理沙」
「あー、その、だな……」
何だ? 魔理沙が言いよどむなんて、珍しいな。
「その……お前がよければ、だが……私の家に来てもいいぜ?」
「は?」
「なっ!?」
「あら♪」
思わず声を上げてしまう。上から俺、霊夢、八雲さんの順だ。
「いきなりどうしたんだ?」
「あー、ほら、私の家ならいろいろあるし……食べるのも困らないぜ?」
「ダメ! 絶対ダメ!!」
「れ、霊夢?」
何だ? 何で霊夢が反対するんだ?
「別に霊夢には関係ないぜ。これは私と○○の問題だ」
「あんたに任せたらその子がどうなるか分かったもんじゃないわ」
……確かに、魔理沙の家っていい具合にカオスになってるからなぁ……。
衛生上悪いかもしれないな……。
「その……だから、もしあれなら……私のところ、来る?」
「へ?」
「はぁっ!?」
「あらあら♪」
先ほどと同じ現象が……今度は霊夢に代わって魔理沙だったけど。
「霊夢に子守ができるとは思わないぜ!」
「その台詞そっくりそのまま返すわよ!」
「残念だな! 私は意外と子どもに懐かれやすいんだぜ!!」
「思考が同レベルだしね!!」
「…………オーケー、表に出ろ霊夢。私の方が器量良しってことを思い知らせてやる」
「上等よ……あんたなんか私の足元にも及ばないってことを教えてあげるわ……」
ってちょっと待て!?
「ちょ、二人とも落ち着け! なんでいきなり決闘みたいなことになってるんだ?!」
「うふふふふふ……♪」
「はぁ……」
「○○……」
「あんたは……」
「「黙ってなさい(黙ってろ)!!」」
本日の騒動は、まだ終わらない。
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最終更新:2011年03月27日 21:52