修羅場?8



新ろだ2-298



「うふ、うふふ、うふふふふ……さすがはコトブ○ヤ、いい仕事するぜ……」

 外の品が流れてくるとは聞いていたがまさか香霖堂にまさかこれが置いてあるとは思わなかったぜ。
 苦労して組み立てたそれを眺めながら俺は笑い続ける。

「ぐふ、ぐふふ……この尖がったフォルムがなんとも……」
「……○○、キモい」
「その笑い方は止めた方がいいと思うぜ?」
「うわぁっ!? 二人ともいつの間に!?」

 急に背後から声をかけられて思わず飛び上がってしまう。

「何度チャイムを鳴らしても出てこないから勝手に上がらせてもらったのよ」
「……ところでこれは何だ? 人形みたいだが、何か変だ」
「そうね、普通人形ってのは上海や蓬莱みたいなのにこれは人型ではあっても人には見えないわ」
「ソーダネー」
「ヘンナノー」

 確かにこれは人間には見えないだろう。

「これは外でいうガレージキットっていうもので元々形が作られているものを組み立てるものなんだ」
「へぇ、そんなものがあるのか」
「一から作らなくていいのは羨ましくもあり、つまらなくもあるわね……」

 作った人形はすべてお手製であるアリスにはそういう風に映るのか。

「で、人に見えないこれは何というものだ?」
「よくぞ聞いてくれましたっ!!」
「「きゃっ!?」」
「これは俺が好きなゲームの中から造形されたレイ○ナード社製ネク○ト、03-AAL○YAHだ!」
「あ、ありーや?」
「これはかくかくしかじかで、マルマルウマウマであるからして……」

――青年熱弁中――

「……というわけで男のロマンが詰まったものなんだ!」
「はぁ……、まぁ○○が熱を上げているのだけは分かったぜ……」
「まぁ、分からなくはないけれどね」
「だよね! アリスは分かってくれるよね! テム○ンのデカールを全て貼り付けた時の達成感といったら……」
(また倒錯し始めたぜ……)
(そうね……)
(人形作ってるときのアリスみたいだぜ)
(ちょっと!? 私はあそこまでおかしくなってないわよ!)

 しかし俺は急激に熱が冷めてしまっていた。

「でもさ、やっぱりこういうものは見せたり良さを確認しあうことができて初めて楽しみを覚えることができるんだ……。
 こっちに来てからさ、あんまりこの手の話できなくてつい暴走しちゃって……。ごめんね」
「○○……」
「あ、でも二人とも何か用事があって来たんだよね? 何だい?」
「あ、いや、遊びに来ただけなんだが急に用事を思い出してしまったんだぜ!」
「ごめんね! また今度遊びに来るから!」

 二人は慌てて外に飛び出して行ってしまった。……やっぱり変に思われてしまったんだろうか? 俺はしょんぼりしながら作り上げたAAL○YAHを展示ケースにしまった……。


 あらあら おやおや それからどんどこしょー


 数日後、また俺は新たなガレキを作っていると突如外から轟音がして家が大きく揺れた。
 慌てて外に飛び出すとそこには白と黒を基調にし、頭には妙にゴツイ三角帽子を被ったメカ、HBV-05-E RAI○EN 512E1/c が目の前にあった。
 ……なんだこれは? 俺が頭に疑問符を浮かべていると肩に魔理沙が乗っかっていた。

「よぉ○○! お前の熱さに感化されてな、紫に頼んでわざわざ取り寄せてもらったぜ! しかも私専用カラーで両肩八卦炉もかっこいいだろ!」
「ああ、かっこいいとは思うけどさ……。その八卦炉は誰が作ったの?」
「香霖しかいないだろ?」

 霖之助さん、お可哀そうに……。
 俺がそんな感傷に浸っていると新たな人物が高笑いをしながら上空からやってきた。
 着地による衝撃と風圧に地面を転がり家の壁に頭をぶつけた俺の瞳に入ってきたのは新たなメカだった。
 独特のフォルムに純白なその姿は味方に希望を、敵に絶望を与えるであろう戦術人型兵器ネ○スト、White・○lint(ライン○ーク版)だった。

「どう○○! この見事な造形美! 初めは大変だったけど作ってみると面白いものね!」
「シャンハイモテツダッタノー」
「テッパンマゲルノツカレター」

 ……全部自作なのか、あれ? しかも指に大量の糸を巻きつけているのを見るとどうやら糸で操っているらしい。アリス恐ろしい娘!

「ふっ、そんな造形美に拘って機能性をおろそかにするなんてアリスらしいな。やっぱりパワーがないとな!」
「あら、速さは力を凌駕するわよ? 当たらなければどうということはないと偉い人は言っていたわ」

 コ、コ○マは、まずい……なんて社長のセリフを言って現実逃避している状況ではない!
 今にも決戦の火ぶたは切られそうだ!

「うふふ、この巡洋艦用レーザーで灰にしてやるぜ! そして○○と熱く語り合いそのままベットの中でも熱く……うふふ!」
「そんな産廃に当たるもんですか! 白き閃光の名は伊達じゃないことを教えてあげるわ! そしてベットの中で熱く語るのは私よ!」

 あー、もう駄目だな。どっちが勝っても俺の行く末は変わらないらしい。じゃ最後に華々しく散ると致しますか。

「GET READY?」
「「○○は私のもんだー!!」



新ろだ2-306



「…………」
「…………」

 部屋の空気は限りなく重く。
 前では二人が不機嫌且つ不愉快そうに互いを睨み合っていた。

 ――八雲紫とマエリベリー・ハーン

 どちらとも俺の知り合いである。
 しかし、双方は初対面なはずなのだ。増してや、お互いを知り得るはずがない。
 住んでいる世界が違うのだから。
 だと言うのに、この穏やかではない空気。
 これがいわゆる『生理的に受け付けない』という奴なのだろうか。

「……っ、……」

 場を和まそうと口を開くが、結局はやめてしまう自分が情けない。
 二人の雰囲気は、今まで感じた事が無い程に張り詰めている。

「○○は、この女とどういう関係なのかしら?」

 どうしようか、と考えている時に、メリーが口を開いた。
 その声は俺の名前を呼んでいるのだが、意識は紫に向いていた。

「あら、貴女に答える義理は無いわよ。そうでしょう、○○?」

 しかし、その言葉に返したのは俺ではなく、紫だった。しかもかなり厳しい返しだ。
 そして、俺の背筋的な意味で冷たい戦争が再開した。
 落ち着いて息すら出来ないとはこの事である。

「…………」
「…………」

 時折こちらを見る二人の鋭すぎる視線は、流れ弾と考えていいのだろうか。
 というか、俺には非難される理由が無い。二人が出会ってしまったのは、偶然である。
 夜、帰り道にメリーを見つけたので、とりあえず俺の家まで一緒に行く事に。
 あなたがいて良かったわ、という言葉にドキっとしつつも家の玄関戸を開けると、酒瓶持った紫がお待ちかね。
 この瞬間から今に至るまで、俺の寿命は素晴らしい勢いで削られていっている。
 早く何とかしたいのだが、触れれば怪我をしそうな程に張り詰めた雰囲気の中、茶を飲んで場を濁すしか出来ない俺はヘタレなのだろうか。

 しかし、二人の姿にはどことなくお互いの面影がある。
 紫はメリーに。
 メリーは紫に。
 二人は親子か、あるいは姉妹だと言われても納得出来る。
 ……こんな雰囲気さえ出していなければ。

「○○を夢の世界から返してもらえる?」
「幻想郷は○○を受け入れたのよ。私がどうするかなんて、決める事は出来ませんわ」

 大体、先に噛み付くのはメリーだ。それをいなし、更に噛み付き返すのが紫だ。
 その度に、メリーは眉間に皺を一層寄せて苦々しげに紫を一瞥する。
 対して紫は涼しい顔なのだが、メリーが眼を放した途端に同じ顔でやり返すのだ。
 何と言うか、どちらも子供っぽくて少し微笑ましくもある。

「○○はこんな年増が良いの?」
「あら、乳臭い子供よりはマシではなくて?」

 そう思っても表面上では笑えない。こうやって、メリーが俺に火の粉を飛ばしてくる時があるのだから。
 その度に、紫が守るように横槍を入れてくれる。
 この点で言えば紫に軍牌が上がるのだが、メリーは俺を外の世界に引き戻したいが為の行動なのである。
 そう考えると、易々と紫に付くわけにはいかない。
 しかし、今のような似たようなやり取りを、かれこれ5,6回は見ている。俺の寿命が大幅に溶けていっているのだから、勘弁願いたい。
 そんな想いが通じたのか、二人は同時にため息を付いた。

「「ねぇ、○○」」

 そして、二人の視線はこちらに向いた。
 二人の表情に変化は無い。
 しかし、その眼は先程と違って非難するような物でもない。
 求める物が手に入るまで離さないように、拘束するような物だった。
 想いは通じていなかったようだ。或いは、屈折して通じたか。
 どちらにしろ、俺の状況は悪化した事に違いは無さそうだった。

「「あなたは、もちろん私を選んでくれるわよね?」」

 二人は口を揃えて、俺に詰め寄ってくる。
 それは、中途半端な答えなど許してはくれない雰囲気である。
 こうして、俺はいきなり人生の岐路に立たされてしまったのだ。

 そんなの、選べるわけ無いって言うのに。


最終更新:2010年10月24日 00:11