ヤマメ1




23スレ目 >>178 うpろだ342


「○○ー?」
「ん、何?」
「セーター、もう少しで編みあがるからね」

 寝転がって本を読んでいる俺。
 壁に寄りかかって、編み物をしている―俺のためにセーターを編んでくれているヤマメ。
 二人の間には、クッキーの入った鉢。
 そんなまったりとした時間が流れる、午後の風景。
 熱く燃えるようにイチャつくわけではない。けれど、俺は恋人と過ごす幸せをひしひしと感じていた。

「楽しみだなあ」

 ちなみに、同じデザインで一回り小さいセーターが既に一着完成して、机の上に置いてあったりする。
 ……ペアルック、というわけだ。
 バカップルと言わば言え。俺だって自覚がないわけじゃないし、恥ずかしいと思う気持ちもある。
 だが、嬉しそうに編み棒を動かすヤマメを見ているとこちらも嬉しくなって、ペアルックもいいかなという気になるから不思議だ。

「でもあんまり無理するなよ?この間みたいに糸出しすぎて、また倒れるといけないから」
「うん、わかってる。ありがと、心配してくれて」

 素材の糸もヤマメ自身のものなので、純ヤマメ産100%のセーターということになる。
 とても楽しみなのだが、一度にあまりたくさんの糸を出そうとすると体力を消耗してしまう。
 以前も張り切りすぎて寝込んでしまったことがあり、以来気をつけてブレーキをかけるようにしている。
 そんなわけでペースはゆっくりだが、それはそれで、こうした幸せな時間が増えるので悪くない。



 そんな、部屋のゆったりした空気に油断していたのか。
 クッキーを取ろうとして、本に目を向けたまま伸ばした俺の手は、ヤマメのスカートに……
 ……そう、あの膨らんだ未知の領域に、触れてしまったのだ。
 俺の指は―

 A.「むにっ」とした感触を捉えていた。
 B.「こつっ」と、固いものに当たった。
 C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。








 A.「むにっ」とした感触を捉えていた。(甘やかなイチャイチャルート)


 ……柔らかい。そして温かい。
 スカートの布地越しに触れたヤマメのお腹は気持ちの良い触り心地だった。
 ああ、この感触をもっと味わいたい。

「ちょ、ちょっと○○!?」

 ヤマメが何か慌てているようだが、上の空の俺には聞こえない。
 むにむにと手を動かすと、心地よい弾力が指先に伝わってくる。

「んぅ、やめて……くすぐったいよぉ……」

 なんだかあたまがぼーっとしてきた。いつまでもこうしていたいような……
 むにむにむにむに……

「うう、くすぐったいってば!」
「いてっ!」

 ぺち、と頭をはたかれ、我に返った。

「はっ……俺はいったい」
「もう、○○ったら私のお腹むにむにしながら遠い目してるんだもの」

 頬を膨らませ怒ったような顔をしていたヤマメはふと物憂げな顔になると、視線を俺から自分の腹部に落とした。

「……最近ちょっとこの辺のお肉が気になってるのに」

 ……え、あのスカートって、

「まさか太ってもわからないようにそんなデザインに……」
「なっ、違うわよ!これは元々こういう造りなの!―えいっ、お返し」

 むきになって言い返しながら、俺の顔に手を伸ばし頬を指先でつつくヤマメ。

「あっ、やったな。よーし、二の腕をぷにっと」
「ひゃん!?そ、それなら私は鼻を」
「ふあ、じゃあこっちは太ももに!」

 いつの間にかヤマメも笑顔になっている。
 お互いの身体の柔らかさをぷにぷにと堪能しながら、イチャつく俺達。
 ……ああ、バカップルだよ、文句あるか。








 B.「こつっ」と、固いものに当たった。(愛のオリジンフォルムルート)


 何だ今の感触は。金具か何かだろうか?
 いや、違う。なんというか、蟹の殻とかに近いような……

「……触った?」

 妙に静まり返った部屋の中に、編み棒がことりと落ちる音が響く。
 呟いたヤマメの声は、低く沈んでいた。
 え、そんなまずいところに触ってしまったのか?柔らかい感じとか全然しなかったけど―

「じゃあ、ばれちゃうのも時間の問題だね」

 ばれる?何のことだ?
 戸惑う俺をよそに静かに立ち上がったヤマメの顔からは、一切の感情が拭い去られたかのようだった。

「いつかはちゃんと見せなきゃいけないと思いながら、迷ってたんだ」

 ゆっくりと、かみ締めるように言葉を紡ぎながら俺を見下ろしているヤマメ。
 握り締めた拳は、わずかに震えている。

「嫌われるんじゃないかって、怖くて」

 かすかに、金属がきしむような音が聞こえる。

「さあ、見て○○。これが私の―本当の姿よ」

 瞬間、目の前にいる少女のシルエットが爆発的に変化した。
 上半身に変化はない。
 だがその腰からは、巨大な節足動物の……蜘蛛の脚が、何本も生えている。
 俺は、驚きのあまり声も出なかった。

「大丈夫よ、とって食べたりはしないから。……でもやっぱり、恐いよね」

 むしろ優しげなその声は、しかし消え入りそうなほど弱々しい。
 悲しそうにうつむいたヤマメの目から涙が一滴こぼれた。
 堰を切ったように、後から後から床に雫が落ちていく。

「やっぱり……もう私のこと、嫌いになっちゃったよね?」
「ヤマメ……!」

 弾かれたように立ち上がると、俺はヤマメを抱きしめた。
 その身体の震えが止まるように、強く、しっかりと。

「○、○……」
「そりゃちょっとは驚いたけれど、でも俺はヤマメのこと嫌いになったりしないよ」

 脚が何本あろうが、ヤマメはヤマメ。俺の大好きな、ヤマメに変わりはない。

「うん……ありが、とう……うっ、わぁぁあん!」

 俺に飛びつき、全ての腕と脚でしがみつくヤマメ。
 安心したのか、声を上げて泣き出してしまった彼女の背中を優しくなでながら、
 俺は改めて、愛しさが溢れてくるのを感じていた。















 C.「ひゃっ!?」と声を上げる、何かに触れた。ちなみに、ヤマメの声ではない。(釣瓶落としの謎ルート)


「え?」

 今の声は?確かに、ヤマメの声じゃなかった。
 ついでに言えば、その声は確実にスカートの中から聞こえたものだった。
 くぐもってはいたが、どこかで聞いたことがあるような……はて誰の声だろう。
 そんなことを考えている俺の横で、ヤマメのスカートがもぞりと動いた。

「うわあああ!?」
「あれ、どうしたの○○?」

 突然の事態に、俺は軽いパニックを起こしていた。当のヤマメが平然としているのがむしろ納得いかない。

「いや、だってヤマメのスカート」

 指差す俺の目の前で、何かがヤマメの両足の間から顔を出した。
 それは―

「え、キスメ?」

 何度か会ったことのある、ヤマメの友達。
 釣瓶落としのキスメだった。

「「…………」」

 思わず目を合わせてしまった俺はあまりのことに何も言えず、キスメも何も言わない。
 ややあって、キスメはすごい速さでスカートの中から飛び出すと、カサカサと高速移動し、物陰に隠れてしまった。
 桶に入っていないキスメというのはとても珍しいものなわけで、そんなものが見られたのはある意味幸運なのかもしれない。
 が、俺の頭の中は山のような疑問に埋め尽くされ、それどころではなかった。
 何故、ヤマメのスカートの中に?いつからそこに?桶はどうした?

「キスメもクッキー食べる?」

 何より、どうしてヤマメは全く動じないんだ?気付いてなかったのか。それとも日常的にそこに入っているものなのか。
 俺は、何故かそれを訊ねることができなかった。
 寄ってきたキスメを見ると、いつの間にか桶に入っている。
 どこから出したのか……いや、考えたら負けだ。負けなんだが……


 深まるばかりの謎に俺が悩んでいる横で、キスメはクッキーを一口食べると、

「……ペアルック」

 ぼそりと呟いた。
 ……火が出たかと思うほど、顔が熱くなった。


新ろだ946



今日はクリスマス。
恋人同士は幸せを噛みしめる。あるいは家族と過ごすか、仲間と宴会などをする日だ。
――それも出来ないと……ぱる~ぱるり~ぱるりらな状態になる。
俺?
俺は恋人も出来たし、幸せを噛みしめる側に回る。
――やった! やったぜ! 苦節20年。ようやく俺にも春が来た。
クリスマスには苦い思い出しか無かったが、それもようやく終わる。
周りに砂糖を吐かせるほど甘くは出来ないが、それなりに甘くするようなデートプランも考えた。
待っててくれよ、ヤマメ! 最高のクリスマスを用意して見せるからな。


……………
…………
………
……

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「おれはヤマメとクリスマスデートをしようと思っていたらいつのまにか鬼の宴会に参加していた」

な… 何を言っているのか わからねーと思うが 

おれも 何をされたのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…


「どうした○○呑めーー」
「勇儀姐さん人間はそんなに酒を飲めねーから!」
「○○呑めーー」
「人間はそんなに酒を飲めねーからって、二回同じことを言わせるな萃香!」
「ああ妬ましい妬ましい。この甘い空気が、この日が妬ましい」
「分かる。気持ちはすごく分かるけど少し抑えてくれパルスィ!」
「……○○さん……どうぞ……」
「ああ、ありがとうキスメちゃん。うん、とてもおいしいよ」
「……よかった……」
「…………ハァァ」

……どうしてこうなった。
いや原因は判っている。
しかしその原因も半分は俺の所為なので文句も言えん。

簡単に説明するとこうなる。

師走になる

→ヤマメにクリスマス説明(恋人同士強調)

→ヤマメ強調に気づかずクリスマスを宴会の日と認識

→クリスマスを一緒に過ごそうとヤマメに言う

→ヤマメ宴会は皆で楽しもうと考える

→ヤマメ勇儀姐さんと萃香にクリスマス(宴会の日)を教える

→勇儀姐さんと萃香ルンルン気分で宴会の準備を始め、俺以外の参加者に連絡する

→クリスマス当日勇儀姐さんと萃香に攫われる

→地下の皆とサプライズ宴会←今ここ

俺の説明がもうちょっとうまかったらこんなことにはならなかった。
恋人同士が過ごす日で説明終わりで良かったじゃん!
なんで宴会の日って余計な単語付けちゃうかな!
そりゃ宴会大好きなヤマメは勘違いするよ!
クリスマスを一緒に過ごそうって誘われたら、一緒に宴会しようって意味になるよ!

「宴会しようと言われたら大人数のほうが楽しいって、
 ヤマメは考えるに決まってるじゃないか。俺のバカ。バカバカ」
「どうしたんだい○○? 自分の頭なんて叩いて……飲み過ぎ?」

俺の恋人さん登場。
程良く飲んでいるのか、顔が紅い。

「いや考え事を……」
「宴会してるときに? 今日はクリスマスなんだろう。楽しんでいこう」
「ああ、クリスマスだ……クリスマスのはずだ……」
「本当に素晴らしい日だねぇ~公認の宴会なんて。……こんな日が外界にあるならいつか行ってみたいよ」
「そうだな。いつか……連れて行きたいな」
「それは……楽しみだよ」

座っている俺の肩に頭を預ける。 
俺達の間に穏やかな空気が流れる……。

「どうしたのー○○呑もうー」
「○○この酒もなかなかうまいよ。呑んでみな」

空気読め、鬼! 
……まあこの面子だからこの空気が続くとも思ってないが。

「悔やんでいても仕方ないか……」

落ち込んでばかりだと宴会は楽しめない。
勇儀姐さんも萃香も悪気があったわけじゃなく、ちょっとした間違いで起こっただけの話だ。
いつまでも落ち込むより、皆と楽しんだ方がずっと良い。

「うし、飲むか! 勇儀姐さん酒追加、萃香つまみくれ!!」
「おっ、乗ってきたな○○」
「ほいほ~い。持ってくよ~」
「ヤマメも付き合ってくれるだろう?」
「当たり前じゃないか」
「うっしゃ、飲むぞーー」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




……すこしタガを外しすぎたかな。
酒に呑まれ始めた。

「……気持ち悪い」
「飲み過ぎだね。私たちはまだ全然足りないんだけど…」
「○○はもっと酒を呑んで鍛えるべきだよ」
「……お前ら鬼と一緒にするな。――ちょっと外で風に当たってくるわ。気にせず続けててくれ」
「……○○さん……大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとうキスメちゃん」

ふらふらと千鳥足になりながら外に向かう。



外に出るとすっかり夜になっていた。
お昼ごろに攫われたから結構な時間飲んでいたんだろう。

「……良い風」

冬の冷たい風が身を包む。
しかし、酒で身体が温まっている俺にはちょうど良いくらいだ。

「ほんとにそうだねぇ。酒を飲んだあとには気持ちいい」  
「うぉヤマメ!? いつのまに後ろに!」
「○○の後を付けていたのさ」
「ふ~ん」
「……もうちょっと驚いて欲しかったよ」

いやそこまで驚く場面でもないし。

「……楽しいクリスマスだな」
「そうだね。……良かったよ、○○が笑ってくれて」
「……そんなに暗かったか?」
「どーんよりしてたよ。皆も心配してた」
「……悪いことしたな。――あとで詫びに、っ!?」

頬に冷たいなにかが触れる。
触ると水の感触が……。
いったいなにが?

「あっ……」
「これは綺麗だねぇ」

ひらひらと降る雪。
夜の衣から舞い降りる雪はとても幻想的で……綺麗だった。

「地下にも、雪って降るのか」
「冬だからね。……でも、これはきっとどこかにいる妖怪が贈り物をくれたんだよ」
「だとしたら最高の贈り物だ。……ヤマメ、メリークリスマス」
「クリスマスの挨拶だったね。メリークリスマス○○」

お互い微笑んで言葉を交わす。
頬に手を添えるとそっと目を閉じる。
そんなヤマメに触れるだけのキスをする。

「んっ……すっかり酔いが醒めたな」
「○○は醒めたのかい。私はまだだよ……んぅ」

首に手を回しもう一度キスをされる。
ほんの少しお酒の香り、それとほのかに交じるヤマメの香り。

「……また酔ったみたいだ」
「ならもう一度だよ……」

俺の予定していた道筋とは違っているが求めていた結果は同じ。
最高のクリスマスだった。


「夜も……楽しみだねぇ」


いや、まだ終わらないの…かな?




――――――――チラ裏―――――――――
ほんのすこしでもヤマメに愛を感じてくれたら嬉しい。

私は未だに書き終わらない神無月旅行に戻るとします。

最後にすこし遅れましたが――メリークリスマス!



新ろだ970



「今年も、もうおわりだな。時間は早いもんだ」
「本当に……あっというまだったね」

 新年まで残すところあと半刻。大掃除もおせちの準備も終わり、あとは新年を待つだけの状況。
 私は毎年恒例地下の大宴会に参加せず、○○の家で炬燵に丸まっている。


「あったかいねぇ~」
「ああ、眠くなってくる、あったけぇ~」

 今年の冬はかなり冷え込んでいて、外では風邪が大流行しているらしい。
 地下では私がある程度感染を抑えているから、そこまで酷くは流行しなかったけど。

「来年で俺も幻想郷もとい地下生活3年目に突入か……」
「初めの頃から見たら随分地下に馴染んだよ、○○は」

 むしろよくここまで馴染めたよ。
 初めは本当に普通の人間だったからね。

「そりゃ旧都つー場所で、メチャクチャでハチャメチャな連中に囲まれてるんだ。影響が出ない筈がない」
「おや? そんな奴ら地下に居たかな?」
「俺の目の前に、炬燵で丸まっている奴らの一人が居るが……」

 ジト目で私を見つめる○○。

「私には見えないよ……幻覚じゃないかな?」
「言ってろ。――まだ年明けまで時間あるし、一杯どうだ?」
「良いねぇ、今年最後のお酒を楽しもうか」
「OK、持ってくる」
「任せたよ~」

 ○○が台所に行くのを、手を振って見送る。

「2年か……短いようでいて長かった……かな」

 私が時間の流れを気にするなんていつ以来だろうか……。
 ○○と過ごして見つかる自分の中の新たな側面。
 きっと○○に影響されて私も少しずつ変わってきているんだろう。 

「まぁ、悪いことじゃないから別に良いんだけどね」

 自分の考えの変化に苦笑していると――



「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」 



「!? ○○っ!」 

 静かな家に響く○○の叫び声。
 炬燵から飛び出て、声の聞こえた台所に向かう。

 ○○の身に何が?
 襲撃? いやそんなことはあり得ない、ここいらの妖怪は○○を盟友と認めている。
 それに○○は鬼の仕事の補佐もしている。○○を襲うことは鬼の一族に喧嘩を売るのと同義。
 そんな無謀な妖怪が地下に居るとはおもえない。
 誘拐? あり得ないことではないが、誘拐する鬼はいまごろほとんど宴会に出ているはず。
 ○○を誘拐する理由も考え付かない。いやでも――

 さまざまな可能性を考えているうちに台所に到着する。

「○○、無事かい!」
「ヤマメ……ヤバい事態だ」

 台所に居る○○の姿。
 パッと見たところ、どこかを怪我したわけでもなさそう。
 最悪な事態ではなくほっと胸をなでおろす。

「どんな事態か知らないけど……○○が無事でよかった」
「あっ……心配掛けたか。すまん」 
「もういいよ。――それでヤバい事態っていうのは」
「……これを見てみろ」

 ○○が指差す先は――冷暗所?
 中を見ると、明日のためのおせちと調理前のさまざまな食材、そしてお酒が入っている瓢箪が何個かある。
 ……別におかしいところは見当たらない。

「どこがおかしいんだい?」 
「瓢箪、ちょっと持ってみ」
「瓢箪?」

 言われた通りに瓢箪を持ち上げると――

「あれ……」

 違和感を感じる。
 この瓢箪はそれなりにお酒が入るはず、たしか1升くらいだったかな。
 それにしては軽い、いや軽すぎる。
 これはもしかして……。
 蓋を開けて中身を確認する。

「あらら、見事に空っぽだねぇ……ひっくり返しても、雫一滴垂れてこない」 
「その瓢箪だけなら良かったんだけどな。他の瓢箪も……全滅してるんだ」

 他の瓢箪も見てみると、言葉通り全て空っぽ。
 ここまで見事に空だとむしろ清々しいくらいだ。

「○○の買い忘れってことはないよね?」
「一昨日買いだめしたからな、そんな筈は無い」
「だよねぇ~」

 だとしたら、お酒を買った29日の夜と30日が怪しい。
 今日はお酒を飲んでる時間も無かったし来訪者も来てないから、除外しても問題ないだろう。

「○○、29日は何してた?」
「29は確か仕事納めで、帰りに買い物をしたな。……思ってたより量が多いから往復したけど」
「えっ!? ここから旧都まで結構あるよね」
「ああ。……仕事疲れに往復はかなり堪えた。寒かったなぁ……」

 遠くの風景を見始めた○○を現実に引き戻す。

「それで家に帰って来てからは何を?」
「風呂入って速攻で寝た。誰か来たっていうのも無いぞ」
「ふむふむ」

 29日も除外か……。
 なら30日のどこかでお酒が無くなったことになる。

「昨日は?」
「一日中掃除してたな。夜にお酒を飲んでそのあと寝たぞ」
「ふ~む」

 ○○が飲んでもせいぜい瓢箪一個。 
 こんなにあったお酒を○○が全部飲めるわけがない。

「ねぇ○○、昨日も誰も来なかったのかい? よく思い出してみて」
「う~ん………………あっ」
「誰か来たんだね! それでいったい誰が?」
「夜に………………萃香と勇儀姐さん」  
「…………とりあえず話してみて」

 その両名の名前を聞いただけでこの事態の真相が見えた……。


 ことの真相は思っていた通りだった。
 昨日の夜○○の所に、萃香姐と勇儀姐さんが来たらしい。
 結構な量のお酒を飲んでいた○○は朦朧としながら応対し、お酒は冷暗所にあると教えて寝てしまった。
 そのあとの行動はなんとなくだけど予想がつく。
 きっと萃香姐と勇儀姐さんがお酒を全部飲んで、そのまま瓢箪を冷暗所にしまって帰ったんだ。
 酔っていた○○は二人が来たこともお酒があると教えたこともすっかり忘れていた、と。 



「本当にすまん! 年越しの大事な酒を人にあげちまうなんて」

 真相が判ってから○○は謝りっぱなし。
 そんなに速く頭を下げてたら頭が取れるんじゃないかな?

「仕方ないよ。あの人達を追い出すなんてことも出来ないからねぇ」

 特に○○は鬼の仕事もしている。
 そんな○○が鬼一族の重鎮であるあの人達を無碍にするわけにもいかない。

「さて、どうしようかねぇ……この時間だと酒屋も大宴会に参加していないだろうし」
「あの大宴会、大晦日から三が日まで全部使うからな。だから買いだめしたのに……」

 ホントにどうしよう。
 正月にお酒が全く無いのは結構つらい。
 お酒以外で心を潤わせるには……。

「○○、お水はあるかい?」
「水ならそこの水甕に入ってるが……」
「どれどれ……うん、これくらいあればなんの問題もないね」 
「水で何するんだ?あっ、酒虫を使うのか」 

 納得したように手を打ち合わせる○○

「残念だけどあんな高くて貴重な物は私程度じゃ手に入らないよ」
「だよな~。天然はおろか養殖物も高いもんな」
「まあここは私に任せて頂戴な。○○はつまみの準備を頼んだよ」
「お、おう」 



 つまみの準備も終わり、炬燵につまみを運ぶ。
 対面に座ろうとしている○○を私の隣に座らせて――

「杯に注いで……はい出来あがり!」
「出来あがりって、水注いだだけだろ。どうやって酒に……」 
「まあまあ、ほら、乾杯」
「あ、ああ、乾杯」

 杯に注ぎこんだ水を口に含む。

「ヤマメ、やっぱりただのみ――」

 水を含んだまま隣に居る○○の唇に自分のそれを重ねる。

「んっ!?」
「ん……んく……んぅ」

 口移しを終えるとそのまま舌を口内に侵入させる。
 ○○は呆然としているのか舌の動きがぎこちない。
 そのあいだに私は○○の頭に手を回して口内を深く蹂躙する。
 唾液、歯の裏、舌を絡め合わせていく。

「くちゅる……ちゅっ……ちゅっ……はぁ……はぁ」

 唇を離してもまだ興奮が収まらない。
 もっと繋がっていたい。
 もっと感じていたい。

「○○……もっ――むぅ……くちゃ……くちゃ、ちゅる……あん」 

 今度は○○の方から積極的に絡めてくる。
 絡めるたびに幸福感で意識が……遠のく。
 この行動だけが感じられる全てになる。
 それからしばらくは、舌を絡め合わせる音しか聞こえなかった。


 長い長い口づけを終えて○○から顔を離すと二人で荒い息を吐く。

「はぁはぁ……水で何するかと思えばこういうことか」
「はぁ……悪くなかっただろう。○○のもクリスマスの時よりおいしかったよ」
「確かにあのときより……うまかった…な」

 口づけの余韻に浸っていると鐘の音が響いている。
 いつのまにか年が明けていたようだ。

「除夜の鐘が聞こえるな。もうそんな時間か……」
「結構の間、絡み合わせていたもんねぇ」
「……ヤマメ」

 ○○の手が頬に触れる。
 初めて会ったときはサラサラしていたが、今は度重なる仕事でゴツゴツしている。
 でもその感触が暖かさが、共に生き、共に歩んでいることを実感させてくれる。
 ○○の全てが愛しくてたまらない。

「もう一杯貰っても構わないよな」
「何杯だって構わないさ。夜を愉しもうじゃないか……んっ」

 宴会はまだ終わらない……いいや、まだ終わらせない。
 今年も、そしてこれからも末永く宜しく○○。



新ろだ1000



 今日は仕事始めから初の休日。
 遅めの朝食を終え、文々。新聞を読んでいた俺はある用紙の前で固まっていた。


「………………」


 愛を叫べ! 特別アンケート『貴方はなぜその人に惹かれたのか?』実施中!!


 そう大々的に書かれている用紙が炬燵の上に置いてある。
 萃香が地上からときどき持ってきてくれる文々。新聞に挟まっていたものだ。
 その名の通り、今の恋人や伴侶を選んだ理由を語ってくれという企画。
 ようするに自分たちのことを紙面で堂々と惚気ろということだ。
 外界でも幻想郷でも、恋バナが面白いというのは共通らしい。 
 しかしこの企画を行っている新聞を、萃香がちょうど持って来るなんて……。 

「これ……俺も参加していいんだよな? 恋人いるし、答える資格あるよな!?」

 やった! やったぜ!!
 苦節20年、この手の話には歯痒い思いをしたが俺もようやく参加できるんだ。
 外界居た頃は友達に『他人の恋バナとか馬鹿じゃね』とか言ってたけど、すいません内心では憧れてました!
 こっそり買った恋バナ集を見て、『彼女が出来たらこんなふうにイチャイチャしたいなー』って、ずっと思ってました。 
 あれっ……似たようなことをクリスマスにも考えてなかったっけ?
 ちょっとした疑問を頭の片隅に持ちながら、書く準備を始める。

「おし、完了」

 万年筆の準備も出来た。もしものための毛筆も準備してある。
 今日は休日だから時間を気にする必要もない。
 ヤマメのことを存分に語ってやろうじゃないか!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 Q.恋人または伴侶と出逢ったきっかけは? 

 きっかけなんて「神隠し」に遭った以外に答えが無い。
 それでも地上じゃなくて地下に来たことと、初めて会ったのがヤマメとキスメちゃんだったのはきっかけに入るか。
 そのおかげでヤマメが世話役になったんだよな。
 偶然なのか、運命なのか……。
 どちらにしても言えることは、ヤマメに逢わせてくれてありがとう……だな。 


 Q.恋人または伴侶はどんな方ですか?

 能力の所為で怖がられているが、話してみれば優しくて陽気な妖怪だ。
 だから地下でも色んな奴らに好かれている……彼氏としては少し複雑だが。
 感情表現は豊かで、怒る時は怒り、笑う時は笑う。
 それと一人で楽しむよりは皆で楽しむのが好きだ。
 何かを楽しむ気持ちは皆で共通したいからだと言っていた。
 そのおかげでなかなか二人きりになれない。それでも一緒に居て楽しくて嬉しくて、幸せなんだよな。
 ――ちなみに喧嘩を売られたら喜んで買う恋人なので、地下に来る際は気をつけてください。


 Q.恋人または伴侶の魅力的なところは?

 彼女の魅力と聞かれて一番に思いつくのは性格だ。
 もちろん他が駄目だからというわけではない。
 暗闇を照らすような輝く金髪も絹のように滑らかな髪の毛の感触も魅力的だし、くりりとした眼も可愛らしい。
 幼さを感じさせながらも色気のある唇と、抱きしめたときの甘いかぐわしさも外せない。
 おっと、腰から生えている蜘蛛脚もわすれちゃいけない。
 初めて見たときはビビったが今では魅力の中でも無くてはならない物までに昇華している。
 ギュッと蜘蛛足も使って身体全体で強く抱きしめられる感触は、ヤマメの愛を強く実感させてくれる。
 これらの他にも様々ある魅力を纏め、その魅力を最大限に高めているのが性格なのだ。 
 周りに陽気に接している彼女が俺にだけ見せてくれる姿……。
 ほんのり上気したような頬にうるんだ瞳、色気のある唇から漏れる吐息。
 いつもの彼女とはあまりにも違うその差がその魅力が……俺はたまらなく好きだ。
 それでもここで挙げた魅力は彼女のほんの一部分。まだ見つけていない魅力も数多くある。
 それはこれから彼女と歩いていく道の中で見つけたいと思う。


 ……………
 …………
 ………
 ……
 … 


 Q.最後に愛する方に今の想いをどうぞ!

 ヤマメと出逢って3年、付き合い始めて9か月。
 色んな事があり過ぎるくらいあった。
 楽しいこともあった。苦しいことも辛いこともあった。
 でも、今、一緒に歩いているこの事実が……何よりも幸せだ。
 知っての通り、俺はこの地下じゃあ誰よりも弱い。でも、ヤマメを愛する気持ちだけならだれにも負けない!
 だから、これからも色んなヤマメを俺に見せてくれ。
 そしてヤマメも色んな俺を知ってくれ。
 命続く限り、ずっと一緒に歩いていこう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「終わった……」

 筆を置いたときには正午を軽く過ぎていた。
 思ってたよりも質問が多かった為だ。
 いつもなら昼休みが終了して、午後の仕事が始まる時間になっている。
 休日で良かった~。

「アンケートって書くの大変なんだな。さて、封筒に入れてポストに…………」

 んっ、ポストなんてあったか?
 外界の頃には郵便局があったけど、ここそんなん無いぞ。妖怪ポストも無いし。
 だったら届けられないわけで……あれ……もしかして書いた意味、無かった?
 ――いやいやいやいや、ちょっと待て。
 苦労が水の泡は勘弁だぞ。せっかくここまで書いたんだ、なんとかして届けたい。
 地上に出て届けに行く……いや無理だ、一人で行ったら何処で死ぬか分からんぞ。
 ヤマメに付いて来てもらう……今日は旧都で用事があるって言ってたじゃん。

「ああ、どうすれば……ん、何だ?」
「カァ」

 服を引っ張られる感覚を覚えて振り向くと、そこに一匹のカラスが居た。
 都会でゴミを漁るカラスとは違い、羽色は美しく綺麗でなんとなくだが荘厳さがある。
 昔から真っ黒で艶のある髪の色をカラスの濡れ羽色と言うが、このカラスを見ていたら納得できる。
 RPGで現れたら間違いなくボスだな。

「どうした? 餌が欲しいのか」

 俺の言葉に頭を振ると、まず置いてある新聞にくちばしを向け、そのあと持っている封筒のほうにくちばしを向ける。
 そして最後に俺に任せろとアピールするように自分の羽を広げた。

「もしかして、封筒を届けてくれるのか」
「カァ」 

 こくんと頷く。良く出来たカラスだな。  

「それじゃあ、頼んだぞ」

 封筒を渡すと、器用に咥えて地上に向かって飛んで行った。
 あのカラスなら問題無く届けてくれるだろう。
 さて、このあとなにをするか……。

「……ヤマメに逢いたくなってきたな。お菓子作って逢いに行くか」 

 彼女の喜ぶ顔を想像しながら、お菓子作りを始める。
 ――誰にも負けない愛を込めながらな。



『PENNY LANE』(うpろだ0026)



「おう、久々だねえ。ヤマメちゃんは元気にしてるかい?」
「ええ、おかげさんで」

 旧都のはずれ、通りに面した店構えの床屋が俺の行きつけの店だ。
 ご主人は、よくわからないけど両手がハサミになってる妖怪で、床屋は天職に見える。
 が、実際の腕は一緒に店をやってる奥さんの方がどうやら上らしい。
 それでもご主人の方が話が合うので、自然とお世話になることがほとんどだ。

「いつもどおりでいいかい?」
「頼んます」
「あいよっ」

 勢いのいい返事とともに、椅子に座った俺の首周りに敷布が巻きつけられた。
 店の中には髪形の仕上がりを映した写真がいっぱい飾ってある。
 人間の写真はその中で一枚、俺のだけだ。

「今日はヤマメちゃんは?」
「うん、納め先と打ち合わせ」

 糸を生み、紡ぎ、布を織って旧都の呉服屋さんに納める、というのがヤマメさんの生業だ。
 俺も、糸巻きや出来上がりを運ぶための荷車引きをして手伝っている。

 幻想郷に迷い込み、流れ着いた先が地底というのは、
 今思えば割と過酷な環境だったのかもしれない。
 けれど、最初に見つけてくれたのがヤマメさんで、何故か傍に置いてもらって――
 気がつけばお互いがとても大事な存在になっていて。
 そう考えると、何もかもが幸運だったような気さえしてくる。

「お、ヤマメちゃんとこの布入ったのかい。じゃあ俺も半纏の新調頼んでこようかね」

 待ち合い席で自分の角をいじりながらキセルをふかしていた火消しの鳶頭が話に入ってきた。
 硬派な人、じゃなかった、硬派な鬼だけれどそればっかりでもなく、
 以前湯屋で会ったときに、腹巻きの中に地霊殿のさとりさんの写真を持っているのを見せてくれたことがある。

 旧都の人達、というか旧都在住の妖怪の皆さんは、今では割合すんなりと人間の俺を受け入れてくれている。
 ヤマメさんが皆に愛されているからこそ、なんだろうな。

「こんちはっ、○○の散髪終わった?」

 お、噂をすれば。

「らっしゃいヤマメちゃん、ちょっと待ってな、今旦那男前にしてやっから」
「もう、まだ旦那じゃないわよ。でもばっちりお願いね」

 鳶頭の隣に座って、世間話を始めたヤマメちゃんを鏡越しに眺めながら、
 俺は「まだ」の意味にどきどきしたりしていた。



歌詞の内容から。

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最終更新:2015年09月24日 22:49