勇儀2
22スレ目 >>777 うpろだ301
二月三日、節分。御存じの通り、この日には炒り豆を撒いて邪気を追い払うという行事が催される。
現に、俺の目の前では子供たちが升の中の豆を掴んでは『鬼は外、福は内』と、楽しそうに鬼に向かって投げつけていた。
鬼の方もまた、ひゃあひゃあと大げさに喚きながら、楽しそうに逃げ回っている。
鬼の役を受け持っている人、ではない。
正真正銘の、鬼だ。それも女の。
その額から突き出た立派な一本角は、面の一部や角に見立てた飾りではないのだ。
星熊勇儀。それがあの鬼の名前だった。
鬼と言っても、それほど恐ろしい感じはしない。見た目だって額の角を除けば、特に人間と変わりはない。
伝承が間違っていたのか、勇儀が鬼の中でも風変わりな存在なのか、多くの鬼を知るわけではない俺には分からない。
だが、升の中の豆をまとめてぶっかけられ、引っ繰り返されたダンゴムシみたいにもがいて見せている勇儀。
子供たちを笑わせているその姿は、少なくとも悪い鬼には思えなかった。
だからこそ、俺も勇儀と一緒に酒を酌み交わしているのだけれども。
豆まきが終わってからもしばらくの間、勇儀は子供たちを腕にぶら下げたり、肩車をしたりして遊んでやっていた。
しかし、そろそろ日も暮れてきた。子供たちは勇儀に手を振りながら家路に就き、勇儀も手を振り返して子供たちを見送る。
子供たちの姿が見えなくなったところで、勇儀は俺のところに戻ってきた。
「待たせたね。さ、帰るとしようか」
散々子供たちの相手をしていた勇儀だったが、その声はまだまだ自分は元気だと主張するかのように張りがあった。
ああ、と一言だけ返事をして、俺は勇儀と肩を並べ、燃えるような夕日を背に、白い月を正面に歩き出す。
家に帰るまでの間、勇儀の口数の少なさが俺は妙に気になっていた。
* * *
勇儀と連れ立って自宅に帰り、俺は玄関の戸を大きく開け放って家に上がる。
後ろ手に戸を閉めて下駄を脱ぎながら、勇儀は久方ぶりに口を開いた。
「いやあ、やられたやられた。
やっぱり鬼も人も子供は変わらないね。元気なもんだ」
「ご苦労さんだったな。さすがの勇儀もくたびれただろ」
「はっはっは、鬼を舐めちゃあいけない。あれしきの運動、準備運動にもなりゃしないさ」
「そうか? それにしちゃ、汗をかいてるようだが」
勇儀の額にはうっすらと汗が滲んでいた。今の時期に暑さで汗をかくわけがない。ならば、運動による発汗だろう。
でなければ……。
俺が指摘すると、勇儀はすぐさま手の甲で額の汗を拭った。
「……おっと。こいつは参ったね」
「ま、なんでもいいさ。今、飲み物を用意するから、先に炬燵に入って待っててくれ。
炭は新しいのが入ってるから、火を着けといてくれるか」
「あいよ」
そんな風に返事をしながら、勇儀は居間の炬燵へと向かっていく。
勇儀の背を見送りながら、さっきの勇儀の様子を思い出す。
俺が勇儀の額の汗を指摘したとき、勇儀は一瞬真顔になった。いつもの余裕の笑みが消えていたのだ。
勇儀の様子を気にかけつつ、戸棚から湯飲みを二つ取り出しながら、声を掛ける。
「コーヒー切らしてるんでお茶でいいか?」
訊きながら勇儀を見ると、杯を傾けるような仕草をする。そして、言った。
「どっちかと言えば『おちゃけ』の方が嬉しいねぇ」
「オッサンか、お前は」
歯を見せて笑う勇儀。あきれながら、思わず俺も笑ってしまう。
取り出しかけていた急須を戸棚に戻し、代わりに酒瓶を引っ張り出す。まだ蓋も開けていない新品だ。
ま、勇儀は背中を丸めて茶を啜るより、こっちの方が似合っているだろう。
左手の親指と人差し指で二つの湯飲みを挟んで持ち、右手には酒瓶を持つ。
それらを全て炬燵の天板に置き、俺は湯飲みに酒をなみなみと注いで、勇儀に差し出した。
「お、悪いね。催促したみたいで」
「露骨に催促しただろ」
俺の突っ込みにも動じず、勇儀は湯飲みの中の酒を一気に呷った。
そんな飲み方をしたら心配になる。……この調子で飲まれたら、ウチの酒が空になってしまうんではないか、と。
勇儀の体? 鬼がこの程度で体調を崩すものか。
空になった湯飲みを叩きつけるようにして炬燵の上に置き、息を漏らして勇儀は言った。
「ああ、一仕事終えた後の一杯ってのは最高だね! おかわり!」
ニコニコ笑いながらグイと湯飲みを突き出す勇儀。
俺は苦笑いを浮かべながら、空になった湯飲みに酒を注ぎ足す。それをまた、一気に飲み干す勇儀。
勇儀は空になった湯飲みの底をじっと見ている。
「……悪いけど、もう一杯もらえるかい?」
しょうがないヤツだ。……が、少しばかり深刻そうな顔をしていると思ったのは気のせいだろうか?
俺はもう一度、酒を注ぐ。
「かけつけ三杯かよ。湯飲みでするもんじゃないだろ」
「まあ、いいじゃないか。ふう、いい酒だねえ」
そう言って、勇儀はグイグイと酒を飲み干していく。
おかしい。普段の勇儀ならこんな乱暴な酒の飲み方はせず、もっと味わって酒を楽しむはずだ。
勢いよく呑むのは、雰囲気が大事な宴の時くらいだろう。
これではまるで、酔うためだけに酒を飲んでいるようではないか。
「……勇儀。俺に何か隠してないか?」
「はて? 何のことだい」
俺には分かる、勇儀が空惚けているのが。鬼は嘘をつかないらしいが、事実の隠蔽はするらしい。
このまま訊いても埒が明かない。俺は核心を突いた。
「辛いんだろ? 鬼払いを受けて平気なはずがないんだよな、よく考えたら。
酔いで痛みをごまかそうとしてたんだろ」
「……やれやれ。とぼけた顔して、細かいところまで見てるもんだね」
「分かるさ。今までどれだけ、お前と顔突き合わせて酒を飲んできたと思ってるんだ」
「はは、あんたに隠し事はできないか。さすがだね」
「別に、俺はそんなに聡いわけじゃない。けど、お前が苦しんでることくらい分かってやれるぞ」
「……悪いね」
やせ我慢ではなく、自然な表情で勇儀は笑った。人に心配かけて嬉しそうにしてるんじゃないっての。
俺は何も注いでない方の湯飲みを持ち、もう一度戸棚に向かう。
「ちょっと待ってな。気休めかもしれんが、薬を持ってくる」
「すまないね、世話をかける」
「気にするなよ。今まで俺が何遍酔い潰れて、お前に家まで運んでもらったことか」
「それもそうだ。じゃ、気にしない」
「そうしろ」
戸棚の中から鎮痛剤を取りだし、水を注いだ湯飲みと一緒に勇儀に差し出す。酒を飲んですぐに薬というのは良くないが、仕方ないだろう。
勇儀はまず水を口に含んでから、薬包紙の上の散剤を口に入れた。そして、口の中のものを一気に飲み込む。
苦い薬が苦手なんだろうか?
そうだとすれば微笑ましいが、そんなことよりも俺には気になっていることがあった。
俺は訊いた。
「しかし、何だってそんな目に遭ってまで、豆まきの鬼を引き受けたんだ?」
そう。勇儀は鬼の役をやらされていたわけでも、頼まれて引き受けたわけでもなかった。
元々鬼の役をするのは俺の役目だったのだが、何気なしにそれを勇儀に話したところ、なぜか自分がやりたいと言い出したのだ。
妖怪、それも鬼が町内行事に参加するなんて無理ではないかと思ったが、意外なほど簡単に話は通った。
おそらくは鬼の提案をはねのけるなんて出来ないと言った理由なのだろうが、俺は勇儀の人格を信用してくれたのだと信じたい。
勇儀は少し迷った様子だったが、やがて口を開いた。
「……やっぱり、あんたに隠し事はできないね。まあ、隠すほどのことでもなし、話してもいいか」
「そうしてくれ。俺も余計な詮索をしたくはないし、お前と差し向かいで飲む酒が不味くなるのもゴメンだ」
「そうだね。あたしも不味い酒は飲みたくないからね」
真面目な顔つきで、勇儀は頷いた。
「あたしの仲間の萃香は知ってたよな? 鬼の伊吹萃香さ」
伊吹萃香。勇儀の口からたびたび語られるその名前を、当然俺は知っていた。姿も、一度だけ見たことがある。
「ああ、あのチビっこくて二本角の可愛い娘か」
俺がそう言うと、勇儀は口を大きく歪めてニヤリと笑った。
「おや、ああいうのがお好みかい? 意外だねえ」
「いいや。俺は角は一本の方が好みだ」
「角の話かい……と、話が逸れたね」
コホンと咳払いをして、勇儀は再び話し始めた。
「少し前の事件で、その萃香が人間と仲良くやってるらしい……ってのを知って、あたしも地上(こっち)に興味を持ったってわけなんだが。
それで地上に来てみて、萃香が人間と肩を並べて楽しそうに呑んでるのを見て、思ったのさ。
そろそろ鬼と人間の在り方も変わるべきなのかも……ってね。
もう、鬼が人間に恐れられなきゃならない時代は終わったんだよ。これからは鬼も人と折り合いをつけてやっていくべきなのさ」
ようやく納得がいった。わざわざ苦手な豆まきに参加したのは敵意のないことを示して、鬼の方から人間に馴染もうとしたってわけか。
「なるほどな。そのためにまず、自分から歩み寄ろうとしたんだな」
「そうさ。何ごとも願っているだけじゃ叶わないからね」
「なら、勇儀のやり方は間違ってなかったってことだろうな。勇儀が相手してやってたチビたち、初めて本物の鬼を見たってんで大はしゃぎだったじゃないか」
「そうだね。あの子らが大人になって、その子がまた大人になって。そうやって少しずつ、鬼と人との関係が変わっていくといいんだが」
ひとしきり喋って、神妙だった勇儀の面構えが不意に綻んだ。
「ま、本音を言えば旨い酒を酌み交わせる相手を増やしたかっただけなんだけどね。
……あんたみたいな、さ」
「俺も、お前と飲む酒は極上に旨いと思うぜ」
素直な言葉が俺の口からこぼれる。勇儀と飲む酒は格別に旨い。だから、いつも飲み過ぎちまうんだ。
俺は笑った。勇儀も笑う。
珍しく硬い話をして体も硬くなったのか、勇儀は目を瞑って大きな伸びをした。
「ううん、酔ってるときに小難しい話をするもんじゃないね。酒が変なところに入っちまった。
……よっこらしょ」
年寄りじみた掛け声をあげて、勇儀は立ち上がった。そして、そのまま俺のすぐ隣に座り直す。
「……ふう。今日は子供たちに付き合って、ちょいとばかりはしゃぎすぎたみたいだ。
……少し、寝る。悪いけど、枕を借りるよ」
言いながら、勇儀は倒れるようにして寝転がり、俺の太股に頭を載せた。そのまますぐに寝息が聞こえてくる。
寝付きがいいと言うより、まるで卒倒したかのようだ。
その様子を見て、思わず口から言葉がこぼれる。
「やっぱり、体に結構な負担がかかってたんじゃないか。
……無理しやがって」
大口を開けて眠っている勇儀に手を伸ばし、山吹色の前髪をそっと梳く。意外に柔らかく、馬のたてがみのような感触がした。
まったく、いい女だよ、お前は。
「本当に、鬼と人間が上手くやっていける日が来るといいな。
……俺とお前が並んで歩いても、誰も変に思ったりしないように」
ふと気づく。俺、勇儀が目を覚ますまで、ずっとこの格好でいなきゃならないのか?
どうしたもんかと下を見れば、勇儀は小さくイビキをかいている。グッスリという言葉がよく似合う眠り方だ。
俺は上半身を傾けて、出掛ける前に脱ぎ捨てていった丹前を掴み、それを勇儀の体に掛けた。
そして、炬燵の上に載せておいた酒瓶から湯飲みに酒を注ぎ、口をつける。
「……まあ、いいか。珍しい肴もあることだし、一人でのんびりやりますか」
窓の外では、そろそろ陽の光が月の光に取って代わられようとしていた。
明かりも点けず、薄明の中の勇儀の寝顔を眺めながら、俺はチビチビと酒を飲み続けていた。
* * *
酒を飲みながら、いつの間にか俺は眠ってしまったらしい。
目を覚ますと、勇儀が俺の顔を覗き込んでいた。暗くてよく分からないが、勇儀の柔らかな笑みの向こうに天井らしきものが見える。
頭の下には、パンパンに張った水枕のような、柔らかくて弾力のある感触。ほんのりと感じる温かみ。
これは……俺が勇儀に膝枕をされてるのか?
「お、お目覚めみたいだね」
「勇儀……具合はどうなんだ? もう大丈夫なのか?」
「ああ、お陰様でね。一眠りしたらすっかり良くなっちまったよ」
歯を見せて笑い、勇儀は晴れやかな表情を見せた。その笑みに違和感はなく、どうやら本当に回復したようだった。
安堵して、俺は上半身を起こそうとした。
すると、勇儀は人差し指で俺の額の真ん中を押さえてきた。俺の頭は固定されたように、びくともしなくなる。
「無粋な真似をしなさんな。もう少し、このままにさせておくれ」
「……分かった」
「それに、さっきは長々と膝の上に居座っちまったからね。これはそのお返しさ」
「構いやしねえよ。勇儀の寝顔なんて珍しい物も見られたしな。珍しいと言うより、初めてか」
「いっつもあんたの方が先に酔い潰れちまうからねえ」
勇儀はからかうように笑った。
「酒の強さで鬼に勝てるわけ無いだろ」
「何も、酔うのは酒にだけとは限らないさ。またあたしの寝顔が見たけりゃ別の物で酔わせてみな。
……男の魅力とかでね」
そう言って俺を見つめる勇儀の眼差しはとても妖しげで、艶めかしかった。勇儀から受ける印象とはちょいと遠いが、魔性の女と言えるかもしれない。
俺は寝転がったまま、小さく肩をすくめる。
「なおさら無理な話だ。……そっちも俺の方が酔ってる」
「だったら強くなりな。酒にも、男としても、ね。鬼の寿命は長いから気長に待ってるよ」
「ま、やってみますか」
「頑張りなよ。あんまり女を待たせるもんじゃないからね」
俺は力強く頷いてみせ……たかったが、勇儀に額を押さえられているせいで頭が動かなかった。
このザマで本当に強くなれるのか? 苦笑して、俺は勇儀に言った。
「そろそろ起きたいんだが」
「もう少しいいじゃないか。たまには女らしい真似の一つもさせとくれ」
「明かりを点けたいんでね。暗くてお前の顔もまともに見えやしない。せっかく勇儀が目の前にいるのに、顔を見ないなんて勿体ないじゃないか」
「……なら、しょうがないね」
ニヤリとして、勇儀は俺の額から指を離してくれた。
ようやく立ち上がることの出来た俺はいくつかの照明に火を点け、適当にツマミになりそうな物を引っ張り出して、勇儀の向かいに座り直した。
最初に座っていたのとは逆の位置関係だ。
俺たちが差し向かいになってする事と言えば一つしかない。勇儀の体調も戻ったことだし、そろそろよかろう。
片手で酒瓶を持ち上げて、俺は訊いた。
「やるか?」
勇儀は湯飲みを手にとり、こっちに向かって突き出した。
「もちろん」
俺たちは互いの湯飲みに酒を注ぎ合う。そして、その湯飲み同士をぶつけ合った。
かちんと陶器がぶつかり合う心地よい音。鼻腔をくすぐる芳醇な香り。痺れるような熱さを伴う喉越し。
いつもと大差ない酒のはずなのに、なぜだか今日は全てが最高の物に感じられた。
* * *
酒を飲みながら、勇儀は唐突に訊いてきた。
「……なあ、鬼と人の関係を変えるなんて、本当にできると思うかい?」
少し自信なさげな勇儀の言葉。
無理もないだろう。勇儀のしようとしてることは自分だけの問題じゃないし、力尽くでどうこうできるものでもない。
だが、俺には不安は髪の毛の先ほどもなかった。
燻煙した干し肉を囓りながら、俺は答えた。
「できるだろ。ここにただの人間と鬼の四天王が、顔突き合わせて仲良く酒を飲んでるって前例があるんだからな」
わずかばかり不安に強張った表情をほぐれさせ、間抜けなことを言ったとばかりに勇儀は笑った。
「そういや、そうだったね。……それじゃ、もっと先まで進めるって前例を作っておこうか」
「ほう。そいつはいったいどういう……」
俺が尋ねる間もなく、炬燵の向こうにあった勇儀の顔が迫ってきていた。
勇儀の額の角が俺の耳の下を通り、直後に感じる唇の柔らかくて温かい感触。
なるほど、そういうことなら喜んで協力しようじゃないか。
炬燵の上に身を乗り出している勇儀の腰に両腕を回し、抱え込むようにして後ろに倒れ込むと同時に炬燵から自分の体を引き抜いた。
重ね合った唇を離し、しばし余韻に浸った後、俺は口を開いた。
「こいつはいい前例だ」
「もしも鬼と人の夫婦ができて、そいつが街中を仲睦まじく歩いてるとなりゃ、鬼も人も考えを改めるだろうね」
「そうだな」
鬼嫁は勘弁してくれと言いたかったが、そんな冗談を言ったら殴られそうなのでやめておく。
それはともかくとして、異種族の橋渡しと言えばアレが定番だろう。
俺は馬鹿みたいに真面目な顔を作って、言った。
「……勇儀。いっそのこと、子供でも作っちまうか。愛の結晶となりゃ、問答無用だぜ?」
勇儀も、馬鹿みたいに真面目な顔で答えた。
「悪くない話だね。でも……」
俺たちは二人同時に、台本でもあるみたいに同じ台詞を言った。
「子供ができたら一緒に酒が飲めなくなるじゃないか。だからしばらくは、今の話はナシで」
俺たちは二人して、馬鹿みたいに笑った。
* * *
二月三日、節分。
俺の視線の先では子供たちが升の中の豆を掴んでは『福は内、鬼も内』と、楽しそうに鬼に向かって投げつけていた。
鬼の方もまた、ひゃあひゃあと大げさに喚きながら、楽しそうに逃げ回っている。
俺は地面に落ちている豆の一粒を摘む。
それが生の豆であると知って、俺は無性に嬉しくなった。
22スレ目 >>798 うpろだ303
「「「「「鬼はー外♪福はー内♪」」」」」
節分
--1年の無病息災を願い
災いの元となる鬼を追い出し
福を呼び込むため豆をまく行事
幻想郷でも節分の日には豆はまかれる
ただ現代の世界と違うことは
----鬼が実在すること----
鬼にとって炒り豆は天敵
節分ほど彼女等にとって厄日は無い
「鬼が居たぞー!!」
「どこだぁ!豆投げつけろー!!」
鬼が一匹、追われているらしい
追っ手には炒り豆
鬼がいくら屈強とはいえ炒り豆の弾幕を受ければただでは済まない
死ぬことは無いものの、太刀打ちできず地に伏すことは必至
「うぉおい!?何だ何だ!?久しぶりに地上に出てきたら、いきなり炒り豆かい?
これじゃ、どっちが地獄かわからんぞ!?」
地霊殿で騒動がおきたあの日以降
旧都には時たま人間が紛れ込むようになった
騒動を解決した人間に宴会に来ないか?と誘われ
地下旧都より久しぶりに地上に出てきた鬼-星熊勇儀は不幸にも節分の日に地上に出てきてしまった
まさに飛んで火にいる夏の虫、いや飛んで豆に炒る冬の鬼か(意味不明
「さぁ!鬼め!追い詰めたぞ!!炒り豆でも喰らえぇぇぇぇぇぇ!!!」
「っく!そうはいかん!!三歩必殺!」
鬼より放たれた弾幕は地に当たり土煙を上げた
「うぉぉぉぉ!?」
「(よし今だ!炒り豆相手には逃げるが勝ち!)」
…
……
………
「っクソ!鬼めぇ!何処へいった!?」
「探せ!まだ近くにいるはずだ!」
すでに豆撒きでなく鬼退治と化しつつある節分であった
「……なんとか撒いたか。今日は節分だったのか。ついてないねぇ」
まさに厄日である
--呼んだかしら?厄なら貰う受けるわよ?
--いや及びでないです。
--あら、そう?残念ね
何か居た気がするが気のせいである
「小屋があるねぇ。あそこに夜まで隠れてようか?人が居たらマズイが…」
偶然目にしたボロ小屋。おそらく納屋か何かであろう
妖怪がうろつき、人が居なくなる夜までそこに身を隠すことは出来そうだ。
しかし人が居たら大変だ。それこそ狭い小屋では的である
「居たぞ!あそこだ!」
「っく!?また来たか!一か八かだ。三歩必殺!!」
「クソ!またか!!」
土煙があがっている内に鬼は小屋へと逃げ込んだ。
「ふぅ…危ない、危ない。」
『おや?勇儀姐じゃないか?どうしたんだ?』
「うん?その声は…○○か!?」
『そうだ。俺だ。どうした勇儀。地上に来るなんて珍しいじゃないか』
「いや、前に来た地霊殿の一件を解決した人間に宴会をやると誘われてね。
萃香にも会いたいから久しぶりに地上に来てみたら、いきなり炒り豆投げれてな」
『ハハハ、それは運が無かった。今日は節分だからな。それに宴会は明日だ』
「何!?…まったく、鬼にとっちゃ今日以上に厄介な日は無いよ。」
『炒り豆は鬼の天敵か…さて質問だが』
「うん?なんだい」
『ここに豆がある』
「!!!まさか…お前…!!」
『無論投げるに決まっている』
「お ま え も か!!」
『誰もお前に投げるとは言っていない。そこをどけ』
「は?私に投げないのか?」
『いいから少しどいてくれ』
「あ、ああ。わかった…?」
『まぁ見とけ・・・・福はー外、鬼はー内・・・・ってな」
「それは逆だろう」
『別にいいじゃないか。俺は好きでこういってるんだし』
「…………」
『外、見た限りじゃ、どうやらまだお前さんを探してるようだぜ。
明日まで、ここで休んでいけ。どうせ外にも出られないだろうしな』
「……何か変な事考えてないか?」
『いくらなんでも鬼に手を出すほどの力は持っていない。
……どうせ暇なんだ。酒でも飲むか?』
「お、いいねぇ。ちょうど酒が飲みたかったんだ」
『ちなみに銘柄は「鬼殺し」』
「・・・・・・・・・」
『冗談だ。「水道水」と自家製の酒だ。肴に豆でもどうだ?』
「鬼に豆を薦める奴がどこにいるか。」
『此処にいる。それに炒り豆じゃないから大丈夫だ。』
「そうかい。じゃぁ、飲もう」
小3時間後
『アハハハハハ、それは大変だったな。地獄でそんなことがあったとはな』
「笑い事では無いんだがな。」
『いやいや、スマンスマン』
「そういや、○○。なんでお前は『福は外、鬼は内』なんていったんだ?
他の連中と一緒に騒いだりはしないのか?」
『んん~?それかぁ。
俺はなぁ、こういうときに外で動き回るよりも部屋で静かに本でも読んでたほうが好きなんでね。
少々、俺には騒々しすぎる』
「酒飲みや宴会は好きなのにか?」
『それとこれとは別だ。ああいう席では静かよりも騒々しいほうが好きだ
酒も入って皆とドンちゃん騒ぎするから楽しいしな。』
「へぇ、そうかい。変わってるねぇ」
『鬼のあんたに言われたかぁ、ないねぇ。
ま、実際はあんたのことが好きだから匿ったに過ぎないからな』
「!?・・・なんだって!?」
『・・・・zzz』
「……寝てる」
『んん~、むにゃぁ~、勇儀ぃ~』
「・・・なんだ?」
『…好きだぁ。俺は人間だけどお前が好きだぁ~…zzz』
「!・・・・・・・」
『zzzzz』
「・・・・人間は風邪引きやすいからな。羽織でもかけておくか」
「節分で厄日だったが、
こいつと酒も飲めて、面白いことも聞けて、悪くは無かったな・・・・」
『・・・ぅぎぃ・・・・うにゅぅ~』
「鬼と人間の中も悪くないねぇ。酔ってないときにコイツに問いただしてみるとするかね」
ひとり佇み、己よりも数段弱い者の寝顔を肴に顔の紅い鬼は酒を飲んだ
「明日の宴会には面白い肴と見ものが出来たな…」
新ろだ455
地底で行われた飲み会でのことだ。そのときは自分を含め勇儀や萃香、また霊夢などと飲んでいたのだが、
そのうち酔いが回ってきたのか、宴会で楽しくなってきたのか、こっちこーい、と威勢良く勇儀が自分の腕を引っ張った。
勇儀の力が強いことと、加えて自分の体が軽い所為で為すすべなく自分の身は宙を舞い、見事勇儀の膝の上に乗っかった。
「勇儀、お前は何をやっているんだ」
一応抗議はするが聞き入れられる事は無いだろう。今だって大口開けて笑いながら、自分の顎の下を撫でようとしているのだ。
それを見ていた萃香も面白そうだと瓢箪を持ってこっちに来、勇儀も手招きしてそれを迎え入れる。
招かれた萃香は喜び勇んで勇儀の膝の上、自分の膝の上でもあるが、に飛び乗った。
「おい萃香、角痛いから暴れるな」
言われた萃香はこちらを見上げ、勇儀を見上げると二人して大笑いし、つられるようにして周りの連中も大笑いすると、また皆で酒を飲み始めた。
蝋燭の灯も魔法の光も失せた部屋で、自分は悪態をつきながら後片付けをしていた。
人間勢は皆酔いつぶれ、妖怪達は家路に着いたか、どこかで雑魚寝でもしているのだろう。
大抵のものが酒飲みなせいで、ほとんど素面な自分が専ら一人で処理するはめになっていた。
肴のあった皿の周りに酒瓶が転がり、その周りにまた皿があり、一人酒を飲んでいる勇儀がいる。
なぜだか勇儀は眠ることも二次会に行くこともせずに、碌に肴も無いのに瓢箪から酒盃に酒を注いではこの部屋で飲んでいた。
飲んでいるなら片づけを手伝ってくれないか、と勇儀に言うが、勇儀は自分の言葉に生返事をすると、ぐいと一息に盃の酒を飲み干しまた注いだ。
これは手伝うつもりは無いなと諦め、向こうにまだ残りの瓶があるかと回収しに行こうとした矢先にぐいと引かれ、自分は足を止めた。
引かれた方を見やると、勇儀が俯きながら腕を伸ばし、自分の袖口の辺りを握り締めている。
さてこのようなことが以前にあったかしらん、と思案するが思い当たる節は無い。
仕方無しにどうしたのかと訊くと、勇儀は恥ずかしいのだろうか、また更に顔を俯かせて消え入りそうな声で、お前が暗がりに消えそうだったからさ、と答えた。
ははあ自分の行こうとしていたところは月明かりの届かぬ社殿の奥で、鬼ならいざ知らず自分の目では自分は暗闇に溶けるだろう。
考えてみれば自分が外から失せてこちらに来たのも、こんな風な暗がりの中だった。
いきなりぬっと現れた勇儀に驚きまた驚かれ知り合ったが、そのときと同じように失せるとでも思ったか。
お前さんは鬼だろうが。なら暗がりはそっちの領域じゃないのかい、といささか茶化すように言うと、勇儀はバツが悪そうにしている。
黙りこくった勇儀を前にして少し苛めてしまったかなと思った矢先、またぐいと袖を引かれ、勇儀の脇に着地させられた。
何をするのかと言うまもなく、勇儀は自分の腰に腕を回して抱き寄せ、肩口に顎を乗せた。
それを横目で見ながら何か言おうと考えていると、不意に勇儀が何処にも行くなよと心配そうに言ってくる。
その様が可笑しくてくつくつと笑いながら後ろ頭を撫でてやると、勇儀は自分の胸に頭をずり落としながらまたぞろ強く抱きしめ、離してやらないからなと言った。
新ろだ702
今日も一日の仕事が終わって、家に帰る。
帰っても「おかえり」の声がない我が家にもずいぶん慣れてきた。
そして、テレビもパソコンも無ければ、ラジオさえも、
あるいは車や飛行機、海が存在しない
私たちの世界から離れた世界である、幻想郷にも。
「ふぅ…」
○○は一人、仕事の疲れをかばんと一緒におろす。
床に落ちたかばんは無機質な音を立てる。
「お、やっと帰ってきたかい」
この家には人間は一人しかいない。
が、不思議なことに、人間以外の者がこの家に現れた。
「勇儀さん、また人がいない内に…」
「まぁいいじゃないか、私とお前の仲だろう?」
時間を遡ること、おおよそ三ヶ月くらい。
その日はうんざりするほど雨が降り続けている日だった。
龍神の石造の気象予報装置のおかげで、どしゃぶりの雨の中を
駆け抜けるという悲惨な事態は免れることができたが
絶え間なく続く雨音は、確実に○○の気分を陰鬱にさせていた。
その日、彼が家の中でうんざりしながら暇をつぶしていると、
玄関に人影ができていることに気づいた。
――こんな雨の日の中、わざわざ自分の家にまで訪ねてくるような人はいないはずだが。
人影を確認しようとして玄関へ向かうと、
彼が扉を開けようとする前に、その人影が扉を開けた。
「すまないな、ちょっと雨宿りさせてくれないかい?」
その人影は、人間ではなく、自分は「鬼」だと言った。
ただ一口に「鬼」といっても、肌が真っ赤だったり青かったりするわけでもなく
額に一本の角がついている以外は、人間となんら変わりない姿をしていた。
自らを「鬼」といった彼女は○○に話しかける。
「いやー、こんなに雨が降ってると思わなくてさ。
久々に地上に出てみたら運悪く雨が降っててさー」
「久々に地上に出てみた?
なんだか今まで地下にもぐってたような言い方ですね」
「そう、本当に『地下』にいたのさ。
でも最近になって他の鬼から、地上が楽しいって言うから
様子を見に来たのさ、そしたら…」
「びしょ濡れになった、と」
彼が貸したタオルで彼女は濡れた髪を拭いている。
その様子はどちらかというと、豪快という言葉が似合う感じだった。
「天気予報だと、今日一日はずっとこの天気だそうですよ」
「ありゃりゃ、そりゃ困ったな。
……そうだなぁ、雨宿りさせてもらってる退屈しのぎに
私の住んでる地底のことでも話そうか」
彼女と話すのは、自然と楽しかった。
どうでもいい話やくだらない話のはずなのに、なぜかクスっときてしまう。
不思議と彼女の話に惹かれていったことを、○○は今でもよく覚えている。
しばらくの間、彼女の話を聞いていると
嫌になるほど降り続けていた雨がいつの間にか止んでいたことに気づいた。
「うん? 今日一日ずっと雨だったんじゃないのかい?」
「ああ、あの天気予報の的中率はざっと七割ぐらいって言ってるから
たまに外れるんですよ」
「ふーん、まぁいいや。 雨が止んだから雨宿りは終わりだ」
そう言って、すっと彼女は立ち上がる。
「おっとすまない、お互い名前を知らなかったな。
私は山の四天王の一人、力の勇儀。
ま、山って言うけど、地底にいるから関係ないけどね」
「俺の名前は○○です。
今日は面白い話をありがとうございました、勇儀さん」
「ああ、この借りはそのうち返すよ、じゃあ」
その雨の日からしばらく経ったある日のことだった。
その日は里での仕事もなく、家で何もすることなく、ただぼーっと過ごしているときのことだった。
彼の家に大変珍しく、客人が現れた。
「よう、○○、この前の借りを返しにきたぜ」
「勇儀さん!? お久しぶりですね」
借りを返す、といった彼女の右手には瓢箪が三個ほどぶら下がっていた。
「それって、もしかして」
「そう、お酒。
なぁーに、味は私が保証する」
困ったことに、○○は下戸だった。
しかし彼女の好意を無駄にするわけにはいかない、と思って
彼はそのことを黙っておくことにした。
それから、何日かおきに勇儀は酒を持って彼の家に遊びにきた。
○○は過去に勇儀が地底での話をしたように、
彼が住んでいた、幻想郷にとっての「外の世界」のことをよく話した。
その話は彼女にとっては、まるで御伽噺のように面白く、
また彼にとっては、苦手な酒から少しでも離れるための時間稼ぎにもなった。
「へぇー、つまり外の世界では、
山や海を隔てたところにいる友達にも
手紙や写真をすぐに送れるっていうのかい?」
「信じられないだろうけど、本当のことなんですよ。
他にも、そうですね…」
しかしその話も所詮は時間稼ぎにしかすぎない。
勇儀は○○にやれ飲め、さぁ飲めとひたすらに催促してくる。
彼女はもちろん悪気などない。
「一人で飲む酒はつまらない」というのが、彼女の持論だった。
精一杯、○○も彼女に応えようとはするものの
あっさりと酔い潰れて横になった回数は数え切れない。
そしていつの日からか、仕事が終わって家に戻ってくると
いつの間にやら、彼女が待ち構えているようになっていた。
今日もまたそういうことが繰り返されるのだろう。
彼は直感的にそう感じた。
「なんだ、今日はやけに疲れてるように見えるけど、なんかあったのかい?」
「いや、今日もいつもと同じように
仕事に疲れているだけですよ…」
彼の言葉を聞き、彼女の顔が少し険しくなったような感じがした。
「……鬼がいっちばん嫌うことって、何だと思う?
それはな、『嘘をつかれること』だ。
○○、私に今、嘘をついただろう?」
「そんなことないですよ、俺はいつも」
――俺はいつだって正直者だ。
そういい終える前に、勇儀は○○の胸倉をぐいっとつかみあげる。
力の勇儀と自称するほどの力だ。
ひ弱な人間の力では、微塵も敵わない。
「いいや、お前は私に嘘をついた。
教えておくよ。 鬼ってのは、嘘をつかれるのがとてつもなく大嫌いなんだよ!」
その声色はいつもの彼女のものではなかった。
鬼としての、四天王の一人としての、覇気のある声だった。
「よく聞けよ、このボンクラ!
私はな、大好きな○○のことを嘘をつくと言って嫌いになりたくないし
それが原因で、お前と飲む酒を不味くしたくないんだよ!!」
「わかった、わかったから、落ち着いてくれ!」
胸倉をつかむ彼女の手に、○○は必死でサインを送る。
それに気づいた彼女は言葉無く、彼を放した。
逆鱗に触れた彼女が収まるまでにそれなり以上の時間を要した。
やっと落ち着いたところで、彼は一つ一つ段取りを取って、できる限り落ち着いて話した。
「じゃあ、正直に話しますよ、勇儀さん。
今日も里で仕事をしていたんですが…」
彼は、○○はもともとこの幻想郷の人間ではなかったこと。
今から半年か、一年前ほどのときに
彼はこの世界に偶然迷い込んでしまった。 原因はとある妖怪が神隠しを起こしているとか。
そうなった人間は大抵、よくわからないうちに妖怪の食料となるか、
あるいは妖怪にしばらくの間、遊びの相手となった後、食料となるか、
そのどちらかの二つだった。
が、彼は幸運にもそうならなかった。
妖怪に出くわすことなく人里についた彼は、そのまま里に住み着いてしまった。
もちろん、元の世界に戻れることもできたのだが
「ここで住むほうが楽しそうだ」と、彼はその時に感情で
里のはずれにある、小さな空き家に住み、
その日その日の仕事を里で見つけ、糊口をどうにかする生活をしていた。
不便ではあるが、彼にとっては楽しい生活だった。
外からきた人間として、時にあらぬ噂が立つこともあった。
当然ながら、全てが根も葉もない噂である。
だが時として、噂話というものはその噂を立てた人間や、その対象になった人間の
予想の範疇を超える事態を起こしてしまうこともある。
今回はその事態の一つだった。
○○自身、そんなに口が達者ではないことは知っていた。
それでも勇儀は、彼が一つ一つ説明することを真剣に聞いて
時として真面目な意見を、時としてふざけた意見を返していた。
そうしている内に、いつしか雨の日の中で話を聞いた時のように
いつの間にかクスクスと笑い声が止まらなくなっていた。
「……なんだか不思議です。
ただありのままに思ったことを、正直に話しただけなのに。
こんなに気分がスッキリするなんて思いませんでした」
「そうさ、嫌な感情はこうやって水に流しちまうのが一番さ。
溜め込んでおくなんて体に毒だよ」
そう言って勇儀は大きく、カッカと笑う。
まだ酒を飲んでないはずなのに、なんだか酔っているように見えた。
「さてと、勇儀さん。 これで貸しができちゃいましたね。
実は仕事仲間から譲ったいい酒があるんですけど、飲みませんか?」
「おや、そっちから誘ってくるなんて珍しいね。
何か理由でもあるのかい?」
「俺はただ、あー、その、ですね。
…大好きな勇儀さんに嫌われて、一緒にお酒が飲めなくなるのは嫌ですし、
少しでもお酒に強くなれたら、長い時間、付き合えるかな、って」
「……おい、バカ、だだだ、大好きだなんて、だな。
いきなり言われたらびっくりするじゃあないか」
「だって勇儀さん、俺をボンクラって言ったときに」
「あっ……」
彼女の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
もう耳まで真っ赤だ。
「あれは、その、お前が嘘をつくから、激昂しちゃってだな」
「まさか嘘じゃないでしょうね」
○○の言葉にハッとなった彼女は、彼の額にデコピンを一発入れる。
「とんでもない、鬼が嘘なんてつくもんか」
「そうですか、それはよかった。
…じゃあ、お酒持ってきますね」
目が覚める。
――また酔い潰れてしまったか。
もう何度目だろうか。
大体の場合、酔い潰れた自分に彼女は枕を引っ張り出してくる。
彼女なりの優しさなのだろう。
今日はなぜか、枕の感触がいつもと違うような気がした。
「おう、やっと起きたか」
それもそのはずだった。
枕は枕でも、彼女の膝枕だったのだから。
「昨日はいつもより飲んでたしな。
おっとと、そう起き上がりなさんな。
たまにはいいだろう、こういうのも」
――確かに悪くないけど、ちょっと恥ずかしい気もするな。
「こらこら、嘘をつくんじゃないよ」
―ーそうですね、正直が一番ですもんね。
今日は仕事は無かったはずだ。
○○は正直に、勇儀の膝枕を堪能させてもらうことにした。
最終更新:2010年07月30日 23:38