勇儀5



新ろだ2-324



ある日の宴会
side○○

○○ 「よっし後は塩気を飛ばすために放置してっと。」
妖夢 「お手伝いいただきありがとうございます。」
咲夜 「今度お嬢様にも作ろうかしら。」
○○ 「お二人ともこちらこそありがとうございます。
    けど咲夜さん、あられは洋酒には合わないと思いますよ。」

やっぱり女性相手とはいえ、ここまで技術に差があるとへこむなぁ…

咲夜 「まあ気分転換にはいいじゃない。」
妖夢 「けど油なんてどうやって手に入れたんですか?」
○○ 「んーと、ガマ油を少々。って嘘ですってそんな怖い顔しないでくださいよ。」

大体、そんなことしたら何人に殺される目にあうかわからないですしね。

咲夜 「菜種油かしら?」
○○ 「正解です。って言わないで下さいよ。」
咲夜 「残念ね、時は金なりなのよ。」
妖夢 「ということは譲ってもらったんですか?」
○○ 「はい、勇儀さんが幽香さんと喧嘩しに行ったときにお願いしたときにもらえたので。
    まあ何か作って来いって言われちゃいましたけどね。」

ほんとあのスペルカードルールにのっとってるってわかっても、
みてるだけで気圧されるんだから強い人たちって恐ろしいよなぁ。
…誰か、きた?

幽香 「あら、できたのかしら。」
○○ 「つ、つまみ食いする人にはあんまり作っていません。盛りつけたら持っていきますから少々まってください。」
幽香 「あら、つまんない。じゃああっちにいるから早く持ってきてね。」


○○ 「…はふぅ。」

目も合わせてないし、からかっているだけってのはわかっている。
わかっているけど。
だめだ、腰がぬけた、さっきの声も裏返っていたし…

妖夢 「大丈夫ですか?」
咲夜 「情けないわね、あんなのただ話してただけじゃない。怒らせたわけでもなしに。」
○○ 「あはは、情けない人間ですからねー。」

はあ、だめだ手がまだ震えてるよ。

………

○○ 「よし、盛り付けも終わりましたし、持っていくとしようとしましょうかね。」
妖夢 「頑張ってください。」
咲夜 「ほどほどにね。」
○○ 「ありがとうございます。」



妖夢 「そういえば幽々子様や萃香さんがあちらのほうにいたような…。」
咲夜 「とりあえず、御愁傷さまってところね。」

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------

ただいま縁側につっぷし中
ああ板がひんやりしてて気持ちいい
けどそれ以上にキモチワルイ

霊夢「あんたもごくろうね、あの中に突撃するなんて。」
○○「しょうがないじゃない、しょうがないじゃない!
    幽香さんのとこにあられもっていったら周りが飲ませるんだもの。」

「しゃべるか、飲むか」なんて言われたら飲むしかないじゃないかっ

霊夢「もしかしなくても酔っているでしょ。
   てかいってやりなさいよ、興ざめって言われて投げられるのわかってたんでしょ。」

それにしては笑ってた人は何人かいた気はする、まあほんとに怒ってた人もいたけどさ…

○○「じゃあ、好きだけど振った理由を言えといわれたらどうします霊夢さん。」
霊夢「さあね、私はわからないわ。」

わあいどストレート

○○「できればすこしは温まれるように、お湯割りくらいがよかったなぁ。」
霊夢「大体が他人のことなんてすぐに分かるわけがないのよ。まあ頑張りなさいな。」
○○「はーい。」
霊夢「…幸せってのは人それぞれよ、それが鬼であったとしても、ね。」
○○「…。」
霊夢「それと私は甘い方のあられも好きよ。」

それは相談料ってことなのか・・・

○○「はぁ。」
○○「腕っぷしもからっきしで、顔も普通、酒を一緒に飲めるほど強くもない、
   料理の腕だって食べれるものが作れるくらい。なにがいいんだろうねぇ。」

だいたいが彼女は鬼で、自分は男らしくなくて。
けど関係ないんだっけ。ああもう。

勇儀「飯はまずくないし、怪我をすれば飛んできて心配をするし、
   雑魚寝をしていれば一枚かけてくれる。おせっかいといえるくらいのやさしいとこかな。
   そしてわたしを鬼だと知った上で尚素敵だと言ってくれた。」
○○「ーーーーっ!
   あ、あられは台所ですよ勇儀さん。」

いつから!?いつから聞かれてた!?

勇儀「ああ、これか。なかなかおいしいな。」
○○「…それは作者冥利につきます。けど咲夜さんや妖夢さんたちのほうがおいしいですよ。」
勇儀「そうか?一番味付けが好きなのはお前さんのだぞ。」
○○「っ。あ、ありがとうございます。えと、それで、お酒はちょっとまってください。まだ酔いが」
勇儀「いや、そっちではない。まあそれは残念でもあるけどな。」

幻想郷に迷い込んで霊夢さんのところにやっかいになっていた時、ある宴会で僕の作った肴を美味しいといってくれた方。
それから地下に行くときにお世話になって、宴会で話す機会も増えて、段々と連れまわされるようになって。

そして気になっている人。
だからこそ、彼女との種別の差が心残りで、
彼女の隣に立てるような人間になれるのかが、彼女は本当は自分を見ているのかが。

そんな状況でいきなり告白されて、ごめんなさいと答えた最低な自分。

そしてきっと隣に来た理由も。


勇儀「まだ応えは変わっていないかい?」

ほら、やっぱり。

○○「申し訳ないです。」
勇儀「情けない男だねぇ。」
○○「えぇ、おっしゃるとおりです。いっそのこと幻滅してくださると嬉しいです。」
勇儀「萃香にもいわれたよ。それができれば楽さ。
   けど、忘れようと思えば思うほど無理なのさ。まああんたは朴念仁だからわからないだろうけどね。
   私がどれだけ泣いたかも、どれだけの思いでここに来たのかも。」


…朴念仁?
僕が貴女のことを想っていないとでも?
貴女の思いに気づいていないとでも?
どれだけ貴女に幸せになって欲しいと思っていると?
自分勝手に悩んでるとでも!?


○○「ああ!もういいや!そこまで言われるんなら、貴女をどれだけ想っているかを酒の勢いで言ってやる!」

真正面きって言ってやる!!

○○「他の人と酒を一緒に飲んで、笑いかけている相手に嫉妬した!
   一緒に朝まで飲み明かせる相手がうらやましかった!
   貴女と弾幕ごっこであそべる相手の強さがほしかった!
   貴女の悩みを打ち明けてもらえる人が羨ましかった!」
勇儀「橋姫かい、あんたは。」

飽きれられってしるもんか

○○「いいえ、これは僕の嫉妬です。そして、貴女が相手をしている相手に嫉妬心を覚える理由なんて
   貴女のそばにいる、それだけで十分です。言い方が似ていたとしてもこれは紛れもない僕の気持ちです。」

○○「それに貴女は宴会で戸惑っていた僕に声を掛けてくれた、
   楽しそうに喧嘩をしている貴女が輝いていた、
   僕の作った料理をおいしいと言って食べてくれた、
   地底に行くとなった時にわざわざ迎えに来てくれた。」

ああもう、言葉がまとまらない
けれど想う言葉がとまらない

○○「どれだけ惚れてると思ったんです。
   どれだけ貴女のそばに居る努力をしようとしたか、
   それが適わなくてどれだけ絶望したことか、
   ほんの気まぐれで貴女を振ったりするもんですか!!

   大体が振ったっていうけれども、本当は時間が欲しくって謝っただけなのにとっととどっかへ行ってしまうし。
   本当は!本当は傍にいたいのに、それで足かせになるかもってわかんなくて、
   人間と鬼との視点の違いが怖くって
   ずっと、ずっと悩んでたのに。なやんで、なやんでぇ」

口も回らなくなってきて
頭も回らなくなってきて

勇儀「 ほう、じゃあ酒の勢いで私もいわせてもらおうかね。」

へ?

勇儀「酒のつまみを談笑しながら作れる彼女らに私が何も感じなかったとでも?
   あんたの話が酒の肴に上がらないことがあったとでも?
   喧嘩のあとのおせっかいを独占したいと思わなかったとでも?
   まわりの慰めの言葉とあんたと今交わせる言葉とどちらに心震えていると?

   あんたと共に死ぬことのできない未来を想像してどれだけ苦しんだと?
   大体が。悩んでいるならもっと早くいいな、ばか。
   私だって、私だったな。怖かったんだよ、鬼だから恐れられやしないかって。
   けど鬼だと知ってなおあんたは素敵だと言ってくれた、だからこの気持ちを押し通そうと決めた。」

ああもう、
何であんな馬鹿なことを悩んでいたのだろう
何でこの人をこれだけ追い詰めたのだろう
…なんて自分は幸せなんだろう

○○「ずるいですよ、そんな顔してそんなこと言われたら、貴女が傷つくことも関係なしに
   貴女と一緒にいたくなっちゃうじゃないですか。」
勇儀「私はあんたがそんな顔してそんなことを言うから私がいくら傷つこうとも関係なしに
   ずっと一緒にいたくなったんだけどねえ。
   じゃあ応えは」

○○「ええ。ええ、がんばりますとも。取り柄がなくっても。
   それでも貴女が僕のことを好きだといってくれるのなら。
   貴女と同じ道を一緒に笑って歩めるようにがんばりますとも。」

勇儀「今一番の取り柄ができたじゃないか。好いた女を幸せにする努力を惜しまないってのが。」
○○「がんばって、泣かせないようにします。」
勇儀「それは無理だね、だってもう胸がいっぱいで張り裂けそうだ。
   だから、」

いきなり抱きつかないでください。
せっかく言おうと思ったのに

勇儀「胸を借りるよ。」


ツノコワイ、なんて冗談でも考えてなきゃダメなくらい胸が張り裂けそうだ。

ああっもう、よく見たらこの人が座っててやっと同じ背の高さなのかよっ。


けど、
振った相手に告白なんて情けなさに比べりゃ、もうそんな些事はどうでもいい。


○○「じゃあ、そのままの状態でいいから聞いてください。」

○○「お酒の勢いは借りてますが、素面だろうと酔っていようと、
   貴女を幸せにしたいという気持ちに変わりはありません。
   頑張って貴女が傷つかないように努力します、たくさん幸福を感じてもらえるように努力します。」

○○「勇儀さん好きです。だから、僕と付き合ってください。」



まわりで聞き耳を立てていた人たちがどっと盛り上がったせいで空気すら振動した気がするけれど、
勇儀の声にならなかった肯定の言葉はしっかりと伝わった。




side 勇儀

いつのまにやら開けられてた窓から外の風と明るさが差し込んでくる

○○「ほら、朝ごはんできたよ。起きて。」

そして愛しい人の声とともに揺り起こされる

勇儀「ちょいとまってくれ。」

けれどももうちょっとだけ眠っていたい。
それに

勇儀「いっそのこと一緒に二度寝しようじゃないか。お前さん。」

うん、やはり抱き心地がいいな

○○「はぁ。駄目です、今日は貴女も僕もお仕事じゃないですか。
   僕はお昼からですけど、だからといって貴女が遅れていい理由にはなりません。」

はぁ、さびしいねぇ、数日前はあたふたしてかわいかったのに。

○○「それに」

おっと、なんかいやな顔をつくっている。
いや、笑顔なんだけどさ、逸物ありそうというかなんというか。

○○「勇儀はせっかく想って作った朝ごはんを温かいうちに食べてくれないの?」

…料理の腕だけでなく、精神面もちっとは成長してるってこったね。

 ---------------------------------------------------------------------------------------------------

勇儀「御馳走様でしたっと。」
○○「お粗末さまでした。」

お皿を台所に置いてきてお茶を持ってきてくれる○○。

勇儀「いいもんだね、愛しい人と朝食を食べられるのって。」
○○「そ、そうだね。僕も美味しそうに食べてもらえてうれしいよ。」

ふむ、不意打ち的でストレートな物言いにはまだ弱いと。

○○「そ、そういえば今度の宴会の日の午前中は暇?」
勇儀「ああ、その日は大丈夫だね。」
○○「じゃあ、湖でも見にいこっか。」
勇儀「わかった、じゃあ是が非でも仕事を終わらせないとな。」
○○「無理しない程度に頑張ってね。それと着物を見様見真似で繕っといたから。」
勇儀「ありがとう。本当に手馴れてきたねぇ、同棲生活とか色々と。いや、私は幸せ者だねぇ。」

あ、なんか固まった。

○○「…なんか立場が逆な気がするんだ。」
勇儀「どうしたんだい?」
○○「だから、勇儀が男らしい科白言ったり行動するから、男女が逆な気がするって言ってるの!
   大体が初めての告白は勇儀からだし!同棲しないかって誘ってきたのも勇儀だからさ。うぅ。」

なんだい、そんなこと気にしていたのかい。

勇儀「じゃあお前さんが男らしいとこ見せておくれ。」
○○「え、えぇーーー!?」

そうさ、もうちょっと積極的になってくれてもいいんだよ。昼間でも夜でもさ。

………

○○「そ、そしたら。あ、朝帰りとかっ。」

ガタン
ぷちん、すくっ

勇儀 「一歩、二歩」

○○「ま、まって!!
   だってお仕事がんばってる彼氏って感じがするじゃんっ。
   それに色々と奢ってあげたくて、そのためにはお金が必要だしっ。
   それにデスクワークにしてくれって言ったのは勇儀じゃないですかっ。あとけがしてないっ?」

…あれ?
てんぱってる?じゃなくて。

勇儀「あ、あー。そっちかい。怪我は大丈夫、焦りなさんな。
   いや、それにしたってだねぇ。
   ほらもうお前さんは地霊殿のとこで資料作ったりするより、家事とかのほうが似合ってきたじゃないか。
   仕事は私に任せてさぁ。」

そ、そう。エプロンもさまになってきてるしねぇ。

○○「うぅ、専業主夫になれと?ここは男性が働くには厳しい社会ですか。」

そうさそうさ、家事もどんどんうまくなってる気がするよ。だから
って、あ、黙ってる。なにか考え事してるのかね。

○○「ねえさっきのそっちって。もしかして変なこと想像したの?」
勇儀「な、なんのはなしだい?」
○○「ふーん、へーえ、そう。
   貴女の男らしさがそれなら答えなくちゃいけないのかななーんて、
   例えばさとりさんとイケナイ関係になってほしいのかな~って。」
勇儀「そ、そうかい。じゃあ、あんたがそんなことしたら女らしく泣いてやろうかね。」

ああもう!想像したら少し涙がこぼれそうだ。
しかもなぜか子供役でお空がいるしっ。

○○「うっ、そーいうのはひきょーだ。」
勇儀「ふ、ふん、あんたは私のものさ。そして冗談でもそういうことはいうんじゃないよ。」

まあ、結局はお互い涙目なんだし、勝負は相子ってことだと思う。
やるようになったじゃないか。さすが人間、成長率はすごいじゃないか。

○○「そうだね、ごめん。
   まあさとりさんは開口一番で断られるだろうし、そもそも浮気する気もないわけで。
   …はぁ、男らしさは半分は諦めることにするよ。変にこだわるわけにもいかないしね。
   さて、そろそろお仕事行く時間だよ?」

泣いた烏がってやつかねぇ。まあ人のことはいえないけど。

勇儀「ああ、もうそんな時間かい。けどいいじゃないか、少しくらい遅れたって。」

もうちょっと甘いヒトトキとやらを過ごしてみたいじゃないか。
途中であやふやになっちまったしねぇ。

○○「そんなこと言わないでください。
   二人で胸を張って歩けるために、出来る努力はしようって誓ったじゃないですか。
   そのためには心苦しくても言わせてもらいますからね。」

こうなったときのこの人に私が適うわけもなく

○○「ああもう、タスキはそっちじゃなくてこっちです。
   道具箱はそこにあります。タオルも入れてあります。
   はいお弁当です。」

ああ、なんかこんな状況どっかで聞いた気がする。
かかぁ天下っていうんだっけねぇ。


気付けばあれよあれよというまに準備ができていく。本当によくできた人だねぇ。



勇儀「うん、ありがとう。じゃ、いってくるよ。」

○○「はい。いってらっしゃい。」

ガチャ、バタン

口惜しいが何焦ることはないさ、時間はまだまだある。それよりも期待にこたえてあげないとねぇ。
…尻にしかれてる気がしてそこはちょっと気になるとこではあるが。

○○「あー!ちょ、ちょっとまって!」

ガチャ

ん?走ってきたからか顔がほのかに赤い、なにか大事なものを忘れちまったんだろうかね。

勇儀「なんだい?」

息も切れてて俯いてるから言葉がちゃんと聞こえないじゃないか。
ん?勇気?いや、それとも私の名前でもよんだのかねぇ。

○○「あ、あのな。ちょっとかがんでください。」

なんだい、首のとこまで手を伸ばして、また髪がぼさぼさだったのかねぇ。
妙にてんぱってるじゃないか、時間でも気にしてるのかな。

勇儀「どうしたんだい?髪なら行く途中でなんとかすr」


○○「勇儀、愛してる。」

chu

○○「いってらっしゃい。」


バタン

顔を真っ赤にして急いで扉を閉めて、ぺたんとへたり込む雰囲気とか、
やけに気にしてた3週目って今日だっけとか、
もう半分も自分で投げてるんじゃないかとか、
いやある意味これは男らしさをみせたんだろうかとか。
色々とあるが。

勇儀「これなら尻にしかれててもいいかもねぇ。」


そのあと仕事中ずっと上機嫌すぎて烏の耳に入って、これまでの流れをまとめた新聞が出たのは別の話だ。

ついでにあの人がさとりに最初に頼まれたのが苦めのコーヒーだったらしいってのも別の話だ。



\\\\\\\\アトガキ\\\\\\
だいぶ遅いけど尻に敷かれる姐さんを書こうと思って初めて筆を動かしたらこんなになった…

展開速い
はしょりすぎ
○○が半分乙女
結局○○が尽くしている

あほか自分 orz



こういった文章でもニヤニヤしていただけたら幸いです



Megalith 2011/03/25


幻想郷の地下。かつての地獄があったところに○○がいた。

その手には黒いハードケースと酒。

一切の迷いなく歩を進める○○の顔には、何かを悩んでいるような表情が浮かんでいた。

やがて見えてくる長屋。その屋根に彼の目的であった星熊勇儀がいた。

惜しげもなくはだけられた着物に○○はまたかとため息をつく。

「おや、○○じゃないか。また来たのかい。物好きだねぇ」

「よく言う。3日来ないだけで涙目になっていたお前が」

「う、それは言わない約束だろうに」

「そんな約束をした覚えはないな」

○○はそう返すと軽くジャンプして屋根に手を掛けるとそのまま体を引き上げる。

「そら、ほしいと言っていた酒だ」

「おお、ありがたいねぇ。お前さんが持ってくる酒は外れたためしがない」

「……ならいいのだがな」

○○はそう返しながら傍らに置いたハードケースを開け、中からホルンを取り出した。あちらこちらのメッキがはがれ、よほど使い込まれているのがわかる。

「それ、お前さんの本体じゃないのかい?いいのか?」

「まあ、幽香にも見せたしな。それに、アイツから聞いた」

「何をだい?」

そこで○○は一息おく。暗いためよくは見えないが、顔が赤い。

「その、お前は俺が好きなんだ……と」

「~~~~~~~~~~~!!!!」

次の瞬間勇儀の顔は彼女の額の角以上に赤く染まった。

「な、なななななななななななな……」

「落ち着け勇儀。俺は古明寺姉ではないのだから何が言いたいのかわからんぞ」

「な、ななななっなにをいっているんだあの馬鹿!!」

「うむ。月見酒のときに、な」

取り出したホルンを体の正面に。マウスピースをいれ、左手を四本あるローターに添え、右手を先端のベルの中につっこむ。

「その時に考えた。お前たちとは長い付き合いだが、どう思っているのか、と」

「…………続けてくれ」

相変わらず顔は真っ赤だがなんとか落ち着いたらしい勇儀。盃を傾けながら○○の言葉に耳を傾ける。

「そうしたら、まあなんだ。私は二人のことが好きなのだなぁ、と気付いてな。私は自分の本体を見せるのは共に生きる者だけと決めている。他はどうだか知らんが」

「……え?それって」

「罵ってくれて構わない。お前としてはどちらか一方にしぼったほうがよいのかもしれん。だが俺にそれはできそうにない。だからこうする」

「お前と幽香に俺は、自分の本体を見せることにした。俺はお前たち二人と永劫の時を過ごしたい」

「嫌ならばここを離れてくれればいい。だが、もしそれでもいいのなら「……そんなの」

○○の言葉を半ばで叩き斬った勇儀。その瞳には涙が浮かんでいるが、その顔にあるのは悲しみではない。悲しみであるならば笑みを浮かべるはずがない。

「言いに決まってる」

言葉こそ少なかったが、それは彼女の思いをはっきりと表す言葉だった。

「……そうか。なら聞いてくれるとうれしい。今から奏でる曲をな」

彼はそういうと返事を待たずに奏で始めた。彼が作った曲を、彼がもちうるすべての技巧を持って。

その曲は地底のみならず、幻想郷全てに美しく響き渡ったという。











その数日後、ハーモニカを持った青年のそばには日傘をさした女性と、額から角を生やした女性が寄り添っているのが見られたという。



end


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年06月24日 00:44