さとり4



新ろだ667


「さとりー! 好きだ、愛してるー!」
「却下」

「何故に。心の底からこんなにもさとりを好きなのに! ほら、ほらほら!」
「心の声が五月蝿い。自分の胸に聞いてみなさいな」
「胸に? そうか、胸に……」
「ちょっ、私の胸じゃな……想像するな! 脱がすな! 馬鹿にするなー!」
「だって見たことないんだもの。よし、見せて!」
「よし、じゃない!」

「あのねえ、私の能力を知らないわけじゃないでしょう? というか知ってて色々やってるでしょう」
「誤解が生まれないって素晴らしい」
「お黙りなさい、この歩く超展開め。もし仮に……仮によ? 貴方と私がむ、むむ、結ばれたとしましょう」
「子供は野球が出来るくらいがいいな。甲子園規模で」
「場外まで過程をかっ飛ばしたわね。『家庭だけに』ですって? つまらないわ。
 話を戻すわよ。そうなれば私はあなたの内心を須く見届けることになる。日日の些細な不満さえも」

「近しくあればあるほど、必ず摩擦は生じるわ。普通ならばそれは聞こえないふりをすればいいのだろうけど、
私には見えてしまうのよ。しょうがないじゃない。好きな人の心の声が、気にならない者がいて?」
「今、さりげにこの話が解決したような気がする」
「きっと私は怒るわ。怒り狂うわ。どんなにつまらないことでも我慢が効かない。
 だから駄目。お願い、あなたが私を嫌う声を私に見せないで。私をあなたの前で醜い女にさせないで」
「そうか、そういうことだったのか」
「ごめんなさい。でも、私には……ちょっと、あなた何を考えて──」

「よしわかった。それならたった今から、その出るだろう不満を駆逐しよう!」

「不安が不満になる前に芽を掘り出し、根絶し、浄化する! 俺の心のちょっぴり後ろめたい部分をぶっちゃける!」
「え?」
「まず、そうだな。お風呂上りに熱いお茶を飲むのはどうかと思う。牛乳がいいよ。他意は無いぞ?」
「だ、だって」
「他には食事のとき、嫌いなものを最後まで残しておいて、あたかも毒を飲み干すかのごとく食べるのは止めようよ」
「う……」
「それから、たまには二の腕を出した服も着て欲しいな! 肩も見たいな!」
「い、いい加減に──」

「いい加減に、しなさい!」

「牛乳を飲め? お腹壊すんですもの。
 嫌いなおかずを後回しにするな? 食べ残してないからいいじゃない。
 もっと露出しろ? いいわよ。ノースリーブだろうが水着だろうが着てやるわよ。
 私が言ってるのは、私が怖いのは! そんなしょっぱい不安じゃないんだから!」
「むしろさとりは辛い味付けが苦手……ごめんなさい」
「不安ってのは他でもないわ。あなた、私のペット達と随分仲がよろしいわよねえ?」
「へぇあ!?」
「犬猫に好かれるならまだよし、けれど! お燐やらお空やらヒトガタをとった子達とも、随分と!
 仲がよろしいわよねえ!」
「えーとですね、そのですね」
「ネタは上がってるの! 不安不満通り抜けて不倫されるなんて真っ平御免なのよ!」

「バレてしまっては仕方が無い……」

「確かに! 彼女達と俺は親しいよ。親しいさ! 皆それぞれ可愛いし、時々クラッとくることもあるさ!」
「ほら見なさい! ほら見なさい!」
「毎日お空の髪を梳かして乾かしてやる時に、ほんのり漂う生々しくも甘い匂いにグッとくることもあるさ!」
「……待って、初耳よそれ。そんなこともしてたの?」
「だってお空ったら湿った髪のままで寝るんだもの! いちいち大雑把なんだもの!」
「最近あの子が色んな髪型でご機嫌だと思ったら……」
「せっかくの長い髪だもの! 男だもの、憧れもするさ!」
「どうせ私は短いわよ! 悪かったわね!」
「お燐とは何故かよくサウナで遭遇するし! 先に出たら負けな気がするし!」
「サウナ、って。ままままさか、は、はだっはだか──!」
「大丈夫! 俺はサウナはタオル着用派だから! お燐はその限りではないけど!」
「全っ然大丈夫じゃない! っこの、まじまじと思い出すなー! 嘘っ! 細ッ! 嘘っ!」
「気が付いたらこいしちゃんが膝の上に座ってることもあるけど! ふわっふわ!」
「あ、あなた! こいしにまで!」
「無意識だから! 不可抗力だから! ゴメンナサイでしたぁー!」
「こうなったらあとで全員の深層心理に問い詰めてやるんだから……!」
「それでも俺が惚れてるのはさとりだけだ! マジで! 読んで! 信じて!」

「ふ──っざけんなあー!」

「この期に及んで! 今更になって私に惚れてるですって!?」
「そうだとも! 一目見たときからゾッコンだった。一目ぼれだった!」
「そんなものは、それこそ一目見たときから知ってるってのよ!」
「だったら少しくらい酌んでくれてもいいじゃない!」
「私だってねえ、悪い気分じゃなかった! 四六時中愛を囁かれてるんだもの、その気にだってなるわよ!」
「やったね! 相思相愛!」
「でも! 貴方ったら今の今まで想うだけだったじゃない! 『今日こそ告白しよう』だなんて決心して、
そのまま一体何日が過ぎたと思ってるの!」
「三度目通り越して一八日目にして漸くの告白でした!」
「遅い! どれだけ焦らすつもりよこのヘタレ! それだけ待たされたらねえ、愛しい通り越して憎らしいってのよ!
 おととい来なさいってのよ! 本当に!」
「一昨日に行って良かったのか! しまった!」
「そう、あの日の夜。人の寝室の前でアレコレうだうだと……! 待ってるこっちだって気が気じゃなかったんだから!
 来るなら来なさいよ! なんであそこで引き返すの! お陰で一睡もできなかったじゃない!」
「それを聞いた俺は、もうこの先さとりと一緒じゃないと一睡もできない!」
「白状した私は貴方を殺して永眠したいわよ! こっちだって、告白される身だって都合があるんだから!
 毎日身だしなみに全身全霊だし、胸がいっぱいで食事だってロクに喉を通らないし!
 二人きりにでもなったら、緊張で頭の中は真っ白なのに顔とか身体が火照るの!
 もう! 貴方は私をどうしたいの!」

「どうってそりゃあ、どうにでもしたい! 何でもしたい! 無茶苦茶にしたい!」

「さてはいやらしいことね? いやらしいこと考えてるんでしょうそうでしょう!」
「それもある! ていうか当然だ、男の恋愛と性欲は! ニアリーイコールで繋がっている!」
「そんな一般非常識、知らない見えない聞ーこーえーなーいー!」
「触りたいし、撫で回したい! 揉みたい摘みたい吸い付きたいんだー!」
「どこを! 何を!」
「どこもかしこも何もかも!」
「どこまでやる気ー!」
「どこまでもー!」

「あああ、貴方はそうやって馬鹿のふりして開き直って! それで貴方は満足かもしれないけど!」

「んー、満足には程遠いかなー」
「私の気持ちはどうなるの! 私の心はどうやっても読んでくれないじゃない、貴方!」
「はっはっは。能ふ力なんてないからね! 凡そ人であるからね!」
「ずるいじゃない。不公平だわ。ちょっと読んでみなさいよ! 私がどれだけ貴方のこと想ってると思ってるの!」
「ごめんそれ無理だ! 見えんものはどうやっても読めない! 書いてみてくれ、紙に!」
「それはもっと無理! どれだけ書いたって書き足りないわよ! 地獄が恋文で溢れます!」
「なら言ってくれ、叫んでくれ、宣言してくれ! それを心に刻んで咀嚼して、覚えてみせよう!」
「言ったわね、覚えたわよ? 忘れたら承知しないんだから! 私は、古明地さとりは──!」

「貴方のことが、貴方が思う私より、貴方が私を想うより、もっと、よっぽど、すごく、たくさん!
 好きで好きで、どうしようもないくらい好きなのよ!」





                                               オレモキミガスキダー>
                                                   ヤカマシー>

「……うわぁ……」
「○○ー、お風呂上がったー。あれやってー。いつものグェ」
「こら馬鹿お空! 呼ぶな触れるな関わるな!」
「ぇほ、げほっ……。お燐てば何するのよ」

                                                  コウシテヤルー>
                                               ヤレルモンナラヤッテミロー>

「感謝すんだね。見ての通り、犬も食わない真っ最中なんだから」
「わたし、好き嫌い無いよ?」
「好きしかないからどうしようもないんじゃない。あんたアレに首突っ込む気?」
「あー、キスしてるー」
「ちょっと見えないそこどいて」





 どっとはらい



新ろだ672


「お姉ちゃんてさー、外に出ないの? 何ていうかさ、それって引き篭もりだよねー」


 その一言が始まりでした。





 …………

 ……

 …




 そういうわけで、私は今、山の中を歩いています。
 決して、こいしの挑発に乗せられたわけではありません。ええ。

 曲がりなりにも、私は覚の妖怪。
 人間の一人や二人くらい食べてしまいます。

 というわけで、この秋の山の中。
 山菜に釣られてのこのことやってきた人間を食べてしまいましょう。

 それにしても、この匂い……焼き芋ですか。

 おや? 

 あそこにいるのは……






「♪~♪~」

 焚き火で焼き芋。
 誰もが憧れるであろう所業を、俺は今、成している。

 秋の神様が届けてくれた芋だ。
 それを紅葉に囲まれた山の中で焼くってのは、何と勝ち組だろうか。

 妖怪の点は心配ない。
 芋でも渡して助けてもらうさ。

 さて、食べようか……ん?

 向こうから女の子が――

「何をしているのですか」

「焼き芋だよ。食べる?」

 何て、自然に受け答えしてしまったが、この子、妖怪じゃないか。
 普通の人に、目は三つも無い。
 あ、でも、これ装飾品かな?
 とすると……

「ええ、私は妖怪です。あと、これは装飾品じゃありませんよ」

「わーお」

 心を読まれたのか?

「はい、読ませていただきました。妖怪が目の前にいるというのに随分と冷静ですね」

「え? ああ。まあ、焼き芋食べたいしね」

「自分の命よりも焼き芋の方が大事なんですか……」

「まあね。君も食べる?」

 丁度良く焼けたであろう芋を差し出す。

「……。焼き芋を渡されても、あなたを食べるのはやめませんよ?」

「ありゃ、残念」

「まったく……。それじゃ、覚悟はいいですね?」

「待った。折角だから、君も一緒に食べようよ。一人で食っても不味い」

「……照れるじゃないですか」

「まあね。はい」

「そんなこと言われたのは初めてかもしれませんね」

「正直な感想だよ」

「……それは、ありがとう……」



 ムシャムシャ

 モグモグ


 まあ、このまま焼き芋を食べて有耶無耶になってくれるといいなあ。
 俺を食べることとか。


「って、そんなわけ無いでしょうが!」

「ありゃ、残念」

 無理かあ。そりゃ無理だろうなあ。

「ええ、無理よ。観念なさい。いただきますわ」

「ぎゃーたーべーらーれーるー」

「っ! 待ちなさい!」

 しばしの追いかけっこ。
 心を読まれてる不利はあるが、なあに、何とかなるさ。

「なるわけ無いでしょうが!」

「ぬっ!?」

 先回りされた。
 やっぱ、心を読まれてると不利なのか。そーなのかー。

「そーなのよ、さあ、観念なさい!」

「ええいっ、こうなったら当たって砕けろだ!」

 俺にだって、人並みにプライドがある。
 ただ、黙って食われるなんて許せない。

 だから。

 例え無謀であっても。
 何か、一矢報いたいと思うのは自然のはずだ。

「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」

「待つものか!」

 握った拳を振り上げて、目の前の妖怪少女の顔面めがけて振り下ろす。

 当たればいい。

 倒せなくても、当たれば、その後に、あるいは――!

「当たるわけないでしょうが」

 ヒョイと、軽くいなされた。
 まあ、そうだよね。

 相手は妖怪、自分は人間。

 当たるわけないよね。

「って、えええ!?」

 どっちの声だったかなあ。

 兎にも角にも、崩された体制から、また、無理矢理に掴みかかろうとしたんだ。
 そうしたら、何か体のバランスがおかしくなった。

 よく分からんけど、無理に力を入れすぎたのか。

「うわああああああ」

「ええええええええ」

 触れた。

 触った。

 当たった。

 何が?

 唇が。

「……っ……ん……」

 柔らかいなあ。
 良い匂いだなあ。

 やっぱ妖怪って言っても、女の子なんだな。
 あ、そういえば、これって初めてなんだよな、俺。

 この子はどうなんだろうか。
 どうでもいいか。

「……っ、はあ、はあ……」

「…………」

「……私だって初めてです。どうでもいいことじゃありません……」

「そっか。悪かった。ごめん」

「……いえ、別にいいですけど……」

 真っ赤になって俯く少女。
 こうして見ると妖怪とは思えないな。普通の女の子だ。







 ――考えてみれば、一目惚れだったんだ。








 意外でした。

 まさか、キ、キ、キ、キスをされるなんて……。

 本当、人間は考えもつかないことをします。



 ……でも、ちょっと。ちょっとだけ、気持ちよかったんですよね。





 ――思い出してみると、一目惚れだったのね。






「というわけだったんだ」
「というわけだったのよ」


 地霊殿の一室。
 向かい合うように座るのは、俺とさとり。そして、義妹のこいしちゃんやペットのお燐ちゃんにお空ちゃん。

「へー、その後はどうなったの?」

「別に? 普通だったよ。次の日にまた山に来てみればさとりがいてさ」

「そうね。また、突然キスはされなかったけど」

「あれは悪かったって言ってるだろ?」

「いーえー。別に、後から思い出して、もっとムードが欲しかったなー、とか思ってないわ」

「その後の二度目のキスはムード満点だったろうに」

「宴会のノリでキスされて告白されて。それの何処にムードがあって?」

「他の野次馬が花火とか打ち上げたところ?」

「バカ」

 一言が突き刺さる。
 でも、さとりの言葉――いや、さとりの全てが、俺にとっては愛おしい。

「何てこと考えてるのよ……」

「あれ、嫌なの?」

「そんなことないけど……むしろ、もっとして欲しいけど……」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「え、あ、ちょっと、待ちなさい! 皆がんっ!?」







「今日も地霊殿は平和でしたまる」

「それじゃあ、お燐、お空、あっちの部屋いこっか」

「うん」

「そうだね」



 幻想郷も地霊殿もやっぱり平和だった。 





新ろだ1016



「疲れた」

こんな日に………自分は心身ともに疲れていた。
まぁ、何故こんな疲れているかと言うと、どこぞの白黒魔女と常春巫女が、なんで俺ん家なのか、よく分からないが俺の家に入り浸り、まぁ~あれだ。
リア充の特権 非リア充 (俺もだが) にとっては口から手が出るほど欲しい物体 チョコレートを作って、俺に食わせていた。
作り、食わせ、作り、食わせを繰り返された。

途中で吐き気が込み上げて来たが、それを抑え延々とチョコレートを食っていた。 いや、食わされていた。
最初にチョコレートを持って来た時には純真な少女達からの恋のプレゼントかと思っていた。この時は。
その場で2人に食べてみて【ハート】と言われたので (ハートが付いたか定かではないが)食べてみたが、そこはかとなく、マズい。何と言うか、中途半端にマズい。
流石にマズいとは言えないので、何となく頷いていた。
すると、二人が俺に対して「美味しい?」と聞いてくるのだ。

「ま、まぁ」と答えてやった。
すると、博麗と霧雨は俺ん家の台所でチョコレートを作りやがって、食わされた。
しかも、熱々のままだ。
はっきり言って、拷問である。
「これ、どうやって、固めるだよ」と聞いたら、「チルノに持たせる」と言った。
チルノという子に熱々のチョコレートを持たせるらしい。
この同年代の少女達が鬼に見える。あの可愛らしい幼女鬼とは違う、御伽話などに出てくる鬼である。鬼畜だ。
これは、「美味しい」と言わないと放してくれない!!と思い。
火傷でヒリヒリする口で美味しくもないチョコに「お、美味しい」と言うと、「ホ、ホント!!」と目を輝かせていた。
やっぱり、恋に奮闘する少女は可愛いなと思って、今までの、SMプレイを許してあげたくなった。
誰にあげるのか、(霧雨は森の店主にあげるのは分かっているが)聞いてみると、
「秘密」と言って、二人とも人差し指を口にあてる。
そして、嬉しそうに二人は俺ん家の戸を開けて出ていく。まるで、台風だ。

その後が疲れている問題である。
台所の片付けが待っていたのだ。
チョコレートだらけの台所を見るのは、妹が好きな子にあげる為にチョコレートを作って、何をしでかしたが分からないが、台所がチョコレートによって、茶色く、綺麗に染まっていた。
この料理の下手さは母譲りだなと再確認していた。
そして、自分は、父に似て良かったと思う。
そんなことを考えていると、家族の事を思い出されて、泣きそうになった。

この幻想郷に住んで半年になる。
幻想郷に来て、1週間後にスキマ妖怪に「帰らせてくれ」と頼んだのだが、
「あなたは、異常だから、幻想郷でリハビリして、実際のところ、外のお偉いさん達に言われたからだけど」みたいな事を言われた。
自分の何がいかれてるのか、分からない。
けど、賢者と呼ばれる妖怪が言うのだから、そうなのだろう。
だから、渋々、了承したけど、いつになっても帰してくれる様子はない。
このまま、幻想郷で生涯を終えるんじゃないかと思う。
まぁ~ 今は仕方なくけーねさんの所で、バイトみたいな事をしている。
昨日、義理だけど、チョコを貰った。 義理だけど、すんごく嬉しい、さっき食わされたチョコレートより、3倍ほど美味しかった。

少し話がそれてしまったので、話を元に戻すとあれだ。チョコや色んな物の片付けが大変だった。それだけである。
これだけを見れば、ヘタレに違いないが、昨日の徹夜と一生分のチョコを食べさせられた後の体に堪えた。

そして、今横になっている俺。
食った後、すぐに寝ると、牛になると親に良く言われたが、そんなもんは関係ない。
今は牛にも豚にも、何にでもなってやってもいい。
そんな、軽い自暴自棄になっていた時に誰かが、戸をトン、トンと叩く音が聞こえる。
この戸の叩き方は、博麗達や妹紅じゃない。
けーねさん辺りだろうと推測し、ドアに近付き、開ける。
余りにも、予想外の人物が立っていた。

「さ、さとりさん? ど、どうしたんですか?」

そこには、自分自身が儚い恋心を抱く紫の髪を持つ少女 古明地 さとりが立っていた。
この幻想郷に放り込まれた時に、初めて出会った人だ。
今は人里に住んでいるが、最初に1週間は古明地邸に住まわせてもらった。
今も週1程度、さとりさんの所にお邪魔させてもらってる。
理由としては、さとりさんのペットが自分と遊びたいらしく、家まで遊びに来てくれるのだか、この家は遊ぶには少し狭いので、古明地邸にまで連れて行かれ、ペットとの遊ぶ。その合間、合間にさとりさんとは話す程度だ。
実際、それは相手側の理由であり、自分側の理由は好きな人に会えるからである。
好きになった理由としたら、一目惚れだ。 そう言い切れる。
そして、俺がさとりさんを好きな事をさとりさん自身分かっている筈なのに、分け隔てなく接してもらっていると思う。
話し掛けると大体、下を向いている気がするのは、俺の勘違いだろ。 勘違いだとそう思いたい。

そう言うところにも惹かれたのかもしれない。

「え!! その!! あれです」

そうだ。もう1つ。
俺にだけ敬語を使う。 以上。

「あ、あれですか。 その、家に入ってください。 外寒いでしょ」

「は、はい」

敬語を使われると妙に疎外感があるのは、俺だけだろうか。
やめよう。 こんな事を考えるのを。
相手に悪い。
俺は博麗達や妹紅には絶対座らせない座布団の上まで、さとりさんを案内する。

「あ、ありがとうございます」

ペコりと頭を下げるさとりさん。可愛すぎる。

「いえ、いえ」

そう言って、俺はさとりさんの向かい側に座る。

………………………………………………………

数秒の沈黙。
さとりさんは、いつもと同じく………いや、今日は、俯いている。
顔が少し赤いのは、寒さのせいか。

「あ、あの!!」

さとりさんは珍しく、声を大きくして、俺に話し掛ける。

「な、なんですか?」
「こ、これ!!」

さとりさんは俺に突き付ける。
それは綺麗に梱包しており、右上に可愛いリボンがついてる。

「は、はぁ~」

俺は勢いに負けてそのまま受け取る。

「そ、それでは」

そう言って、足早に家を出て行く。
俺は、ぽけぇ~とそれを眺めている事しかできなかった。
そして、俺は手に握られた物に目を向ける。

「なんだこれ」

分かっている。今日はバレンタインだ。中身はチョコレート。絶対だ。逆、チョコじゃなきゃ泣く。
とにかく、開けてみないと分からない。
俺は破れないように、梱包を取っていく。
一生とっておこう!! おい!! そこ!! 気持ち悪いとか言うな。
予想通り中身はチョコレートである。
泣きそうになった。
そして、他に何かないか探してみると、手紙が添えてあったのだ。
もしかして、恋文という、期待を膨らませ読んでみると、中身はペット達やこいしちゃんからの感謝の気持ちなどが書いてある。
嬉しいのは、嬉しいのだが、何と言うか、素直に喜べない自分がいる。
これは、感謝の気持ちを込めて作ったんだ!! と自分に思い込ませ、チョコレートを食べる。
味は………あれだ。マズい。 食った事があるマズさだ。
でも、そんなの問題ない!!
さとりさんへの愛の力で心の中だけでも甘くする。

「頑張れ!! 俺、頑張れ!!頑張………」

自分自身を励ますように呪文のように唱えていた。
この後、泣きそうになったのは、ここだけの秘密だ。






結局、彼に手紙を渡せないまま、帰って来てしまった。なんて情けない奴だと思う。
どんなに心を読めると言っても、彼の心を読む事は出来なかった。
会った時から、彼の心を読もうとすると逆に私の心が鷲掴みにされ、そのまま心を砕こうとする。
たぶん、私が心を読み切る前に確実に砕かれると思う。
八雲紫はこの事を危険視しているから、幻想郷から出さないのだろう。
でも、私にとっては好都合。
彼に私の気持ちを伝えてからならと思う………………でも、やっぱり彼には、私の事が好きでも、嫌いでも一緒にいて欲しい。
とは言っても、私にはそんな事を言う度胸はない。
だから、私は手紙に自分の想いをぶつけたんだけど、この手紙………手紙が無い!!

「お姉ちゃん。今日もまた言えなかったの?」

妹のこいしはニヤニヤしながら、私の手紙を読んでいる。

「ち、ちょっと!! こいし!! 返しなさい!!」

すごく恥ずかしい。あの巫女達に彼の好きな味のチョコレートを聞いてもらう為に頼みに行った時(結局、作ってもらったけど)より、数倍恥ずかしい。

「渡せないんだから、意味ないじゃん。 じゃぁ~今から読みまぁ~す。……え~拝啓「こ、こいし!! 怒るよ!!」

妹に彼の事で言われるとダメだ………姉としての威厳がなくなる。早く、この気持ちを言えるようにしたい。









「おいしかった………おいしかったよな………本当においしかったか?」

さっき言った通り、涙が出てくる。

「くっそ………幻想郷から出るまでに言わないと、〇〇って、本当の名前、さとりさんに………あっ、大丈夫か………俺の心読んでるから」

本当に言わなきゃならないのは何なのか分かっている。
好きだと言わなければ。



ガンッ
戸が、強い音ともに開かれる。
そこには、妹紅とけーねさんがゆらゆらしながら立っている。
こんな時間から、2人とも酒に酔っているのが分かる。
2人も言えなかったのか………………
そう納得して、俺は呟く。

「また3人で、恋の相談か………はぁ~」

一応、ため息をついてみるが、内心はこの鬱憤を晴らす事が出来るので嬉しい。
今日は酒を飲もう。
外の世界では未成年で捕まるが。



新ろだ2-100


「〇〇。今日もいいかしら?」

 地霊殿の自室で本を読んでいると、後方から声をかけられる。振り返るとドアの近くにさとりが立っていた。
その手に握られた櫛を確認すると、本に栞を挟んで立ち上がりさとりの方に向き直る。
 さとりの顔をじっと見つめると彼女は持っていた櫛で髪を梳かし始める。紫がかった癖っ毛に前髪から櫛を通して行き
前が終わると横に、横が終わるとくるっと後ろを向いて後頭部へ。
 後頭部でぴょこっとはねた寝癖に苦戦しているようなので手伝おうかと思ったが

「自分でやるから大丈夫です」

 と断られてしまった。
 なんとか髪を梳かし終えると今度は服をチェックし始める。こちらは襟元の緩みをなおして裾を引っ張るだけで済んだようだ。

「もういいわ。ありがとう」
「……なあ、さとり」
「『鏡があるんだからそっちを使えばいいのに』ですって?」
「そうそう。そうすればわざわざ俺の部屋までこなくて済むだろ?」

 そう、俺の目の前に居るサトリ妖怪は「人の心を読む」という能力を利用して、俺を鏡の代わりに使っている。
自分の部屋に姿見があるにも関わらず、だ。
 俺としては大した手間では無いので問題はないのだが、

「『毎回俺の部屋までやってくるさとりは面倒じゃないのか』ですか。好きな人に会いに行くのが面倒な人は居ませんよ」
「……お前は妖怪だけどな」
「『面と向かって好きと言われるのは恥ずかしい』ね。でも私は好きと言われたら嬉しいですよ?」

 言外に「好きと言って欲しい」といわれてる気がする。

「察しが良くて助かります」
「……好きだよ」
「『愛してる』の方が嬉しかったのですけどね。私に不意打ちは効きませんが」

 一瞬横切った邪念まで見抜かれていた。男なら不意打ちで「愛してる」と言われて真っ赤になるさとりを見てみたいと思うだろ?

「なら、せめて自分のセリフに自分で照れないようになってからにしなさい」

 貴方が赤くなっているうちは無理ですよ、と苦笑しながら近づいてきて
 ぽすっ という擬音と共に体重を預けてきた。腰に回された両腕に力が込められ、顔を胸板に埋めるように押し付けてくる。
 それに応えて、自分も両腕をさとりの肩ごしに回して抱き寄せる。

「ん…もっと強く……」 

 さとりの体躯は腕の中にすっぽりと収まってしまうほど細い。地底中から恐れられ、旧地獄の管理を一手に任された妖怪とは到底思えない。
そこに居るのは一人の少女さとり、俺の恋人さとり。
 髪を撫でるとふわっとした甘い香りが鼻腔をくすぐる。微かに混じった硫黄の匂いはいつも温泉に入っているからだろうか。
普通なら不快感を与える硫黄臭だが、ことさとりに限っては却ってその魅力を引き立てているように感じる。
 指を差し込んで梳くように動かすと絹のようにサラサラと流れていく。愛しい人の体温をもっと感じたくて
自然と抱きしめる手に力が籠められる
 ふと視線を感じて下を見ると、顔を赤く染めたさとりと目が合った。

「どうした?顔真っ赤だぞ?」
「……なんでもないです。ちょっと昔話を思い出していただけです」

 そう言って顔を隠すようにぐりぐりと押し付けてくる。

 無自覚とは恐ろしい。そう呟いた声は〇〇の耳には入らなかった。


イチャ絵板 2010/08/09(文章は別人によるコメント)



「耳を当ててみて」
「……そうね。まだ何も聞こえないでしょうね」
「色々世話をかけるかもしれないけど、
 この子ともども、これからもよろしくね、○○」


Megalith 2011/10/10


部屋に戻る、彼の部屋は片付いてはいるが物が多い。
そろそろ、思い切って処分しようとは考えているらしい。
最初は狭いと感じていた。
今ではそんな部屋でも、彼がいないだけで広く感じてしまう。

どうやらベランダでタバコを吸っているらしい。
こんなときは大抵…
「さとり」
彼が部屋に入ってくる。
わずかなタバコのにおいと、不安な心。
周囲の期待や、失敗。いやなことがあると
彼はベランダでタバコを吸って「リセット」するらしい。
「○○」
ゆっくりと、きつく彼を抱きとめる。
目をつぶり、ただただ時間の許す限り彼を抱きとめる。
「ありがとう」
そういって彼は離れる。
少し照れながらキスを交わし、私の頭を撫でると
布団に入った。
私は彼のおでこにキスをして。
「お休みなさい」
といって部屋を出て行く。


明日が彼にとってよい日であることを祈って。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年12月03日 23:42