空2
新ろだ2-051
風呂で火照った体が冷めてきた。
徳利の底に残った酒を卑しくも舐めていると、音高く、耳慣れた足音が聞こえてくる。
急いで割れ物の類を片付け、ちゃぶ台も隅によけておく。
最後に腹筋に力を込めて、いざ準備万端整った。
さあ来い──。
「○○ー! お風呂上がったよー!」
「ごふぅ」
鳩尾に炸裂、湯上りロケットダイブ。
「お空ー? 前にも言ったけど、頭から勢いよく突っ込んでくるのはやめようなー?」
「はーい」
「……お空はいい子だなあ」
返事はいい子である。返事だけは。
突撃を喰らうたびにやめるよう説いてはいるものの、一向に改善の様は見られないのだけが残念なところ。
とはいえ、その件については些かの理解と諦めが彼にはあった。
常日頃から相方に鳥頭と称される空の記憶力だが、全てにおいて物覚えが悪いというわけではない。
どうやら彼女の中には独自の優先順位があるらしく、その範囲内であればちゃんと記憶に留めているようだ。
最も、その範囲がやけに限定的かつ特殊なのは確かであろうが。
「しかしそろそろダメージが洒落にならんことになってきた気がする。具体的にはLV3くらいの」
「にゅ?」
下手をすれば次はMAXだ。
避けることも考えなかったわけではないのだ。
タイミングは音で察知できるのだから、回避は難しくない。
襖が開けられるのに合わせてヒョイと横に移動すればいいのだから。
そして行き場を失ったダイビングお空は後ろの壁なり柱なりに頭から激突するのだろう。
人の身より余程丈夫な彼女にとって、そのダメージ自体はさしたるものではあるまい。だがしかし。
かわされてしまった彼女は、まず最初に信じられないものを見たような顔を浮かべてこちらを見るだろう。
次に、漸くぶつけた頭を手で抑えてその意味を理解する。即ち、『彼は自分を避けたのだ』ということを。
ぽかんと開けられた口はあわあわと震え、その目にはじわじわと涙が溜まり、ああ、泣くぞ泣くぞ、ほら泣いた──。
「あああ、お空ごめんね。超ごめんねお空」
「えへへぇ」
想像の中で泣き出した彼女の幻影を慰めるために伸ばされた手は、現実にその頭頂部をかいぐりかいぐりしていた。
訳もわからずに撫でられるがままの空はご満悦である。
結局のところ、彼には選択の余地などありはしなかった。
我が身の痛みは耐えられるが、彼女の涙には堪えられぬ。よって。
「お空。俺、頑張るよ!」
彼の耐久力が心持ち上昇した。
「わたしも頑張る!」
空の突進力が目に見えて上昇した!
「さーて、ぱぱっと済ませちゃおうか」
空をいつも通り、こちらに背中を向けて座らせる。
取り出したるは手ぬぐいやら櫛やら、その他もろもろ。
こうして夜毎彼女を部屋に招き入れるようになって暫く経つ。
そのきっかけについて彼は暫し思いを巡らせた。
もともと空は不精とまではいかないものの、自身の身嗜みについてやや省みないところがあった。
その度に彼が甲斐甲斐しく世話を焼いていたのだが、ある朝のこと。
起きぬけの彼女の黒髪が、それこそ核爆発を起こしたかのような豪快な寝癖でグシャグシャになっていた。
まあ、風呂上りの湿った髪をろくに乾かしもせず布団に入ればそうもなろう。
これに対し、彼は我が事以上に嘆き悲しんだ。
「もう、もう! お空はホントにもう! あれほどちゃんと拭いて乾かして、その後冷ましてねって言ったのに!
あああ枝毛が、キューティクルが! お燐、ちょっとお湯と手ぬぐい持ってきて! ダッシュで! ハリィ!」
過保護というよりは、「ウチの子が一番かわいい」的な溺愛であろうか。
寧ろ異常といっていいほどに騒ぎ立てたため、この後さとりからお灸を据えられたのは余談である。
以来、毎夜こうして湯上りの彼女の髪を梳かし乾かしてやるのが、ここ最近の彼の日課だった。
豊かな黒髪、それを一房すくい上げて丁寧に拭いてやる。
手ぬぐいで髪を挟むように当てて、それを動かさずに押さえるように。
髪に残っていた水分が、ほのかな熱と一緒に、じんわりと布に染み込んでいく。
これを長さに合わせて五回ほど繰り返し、漸く手に取った分だけは拭き終えた。
多分に根気の要る作業とも思えるが、彼自身は苦に感じたことなどない。
もとより自分から言い出したことであるし、何より彼は空の髪がとても好きだったから。
艶やかで、それでいて漲る力を感じさせる黒髪。翼を広げ、マントと共にたなびかせる様には信仰すら覚えるほど。
それがあのように見るも無残な姿になったことは、なるほど彼にとっては一大事だったのだ。
翻って空にしてみればどうだろうか。
彼女自身、それほど落ち着きのある方ではなく、じっと座ったままというのは如何にも不向きだ。
そう思って以前に尋ねたことがあった。こうしているのは辛くはないか、退屈ではないかと。
しかし空は首を横に振った。そのときも同じく髪の手入れの最中だったので、危うく大惨事になる所だった。
必死な身振り手振り付きで曰く、「こうされるのは心地がいい。全くもって苦ではない」とのこと。
現に今も、満足気に目を細めて彼の奉仕を受け入れている。
普段の爛漫さは影を潜め、頬を上気させたその横顔はひどく色めいていて。
ともすればあらぬ所へと伸びかねない手を御するのも一苦労だった。
たまに制御しきれず、脇やら背中やらを突っついて、笑わせてしまうのもまた一興にしてご愛嬌。
何せこの後の作業が最も大変なのだから、せめてこれくらいの戯れは。というのが彼の言い分である。
そう、問題はこの後だ。
拭き終えた髪を腕全体で持ち上げ、滑らせるように落としつつ団扇で扇ぎ、こもった熱ごと水気を飛ばしてやる。
そこまでやり遂げたところで、とうとう空に限界が来てしまった。
「ほへー……」
先まで行儀良く伸ばしていた背中からは力が抜けて、彼の胸にぐったりともたれかかる。
細めるどころか糸目になって、だらしなく緩めた頬には最早色気の『い』の字も無かった。
まるで酔いつぶれたような有様、その原因は酒精ではなく、もちろん睡魔のせいでもない。
空を蕩かせているものは、彼女自身が言った通りの「心地よさ」。つまりは快楽であった。
頭髪という己の一部を、これ以上ないくらいに甘く優しく丁寧に、愛しむように慈しむように扱われたのだから。
定義的には愛撫と呼んで差し支えないくらいだ。
最初の頃は、空がこのような前後不覚の状態にまで陥ることは無かった。
今にして思えばあれは彼女なりに緊張でもしていたのだろうか。もしくは慣れか、気安さの表れか。
懐かれていると思えば彼としても悪い気はしないのだが、この状況は如何ともしがたいものがある。
「ほら、お空。もうちょっとだから頑張って」
「ふわーい」
あっちにゆらゆら、こっちにぐにゃぐにゃ。
残るは櫛で梳かすのみだというのに、この有様ではそれすらもままならない。
少し押しただけで倒れそうになるかと思えば、櫛を持った彼の手に縋りついて離れなかったり。
まるで舞い落ちる羽毛か木の葉を捕らえんばかりだ。
「おーい、シャキっとしてくれってば」
「うにょあー……。らってもう、きもひよくってふわふわれ、よえやうー……」
「ええい、すっかりうにゅほに成り果ておって」
どうにかこうにか片手で身体を捕まえ支えて、空いた手で櫛を通す。
「にゅいー」
すると、その勢いに引っ張られてがっくんと上を向く空。
首が据わらない赤子かと。
「っと、ゴメン。痛かったか?」
「うへへへへ」
効いてはいないようだが、聞いてもいないようだ。
上から覗き込む形になった彼の顔を見上げて、へらへらと笑っている。
一事が万事こんな調子で、一向に作業は進みやしない。
さて、彼としてはいつまでもこうしているのが嫌だといえば嘘になるが、このまま朝を迎えては本末転倒だ。
空と違って自身は生身であるし、まだまだ夜の布団は恋しい時期でもある。
そしてさとりの追求なども怖かった。洒落ではなくトラウマ物なのだから。本当に。
なので一計を講じる必要があった。
まず最初に考えたのは、何か他のものに関心を引くことで空の気を紛らわせること。
つまり、ご褒美をチラつかせてこの場を乗り切るという作戦である。
ここで我慢すれば後でいいものをあげるよー、とかなんとか。
しかしこの案は使えないだろうと彼は断じた。
既にふわふわほえほえ状態になってしまった空に「後のご褒美」なんてものがイメージできるか甚だ疑問であったし。
また、空が喜びそうな物事は、日頃思いついた先から率先して実行しているために、すぐに用意できるご褒美が思いつ
かなかったのだ。
彼女自身に欲しいものを尋ねたとしても、今だと「ナデナデシテー(意訳)」くらいしか返ってこないだろうことも明白だった。
よって別案。誰か他の者の手を借りるというのはどうだろうかと考えた。
例えば、それこそ猫の手ならぬお燐の手を借りるとか。
他にもさとりのペットはたくさん居るし、その中にヒトガタを取れるものだって少なからず存在する。
彼も地霊殿に居付いてそれなりになるのだ。普段の交友から、頼めば来てくれるような少女にアテがないことはなかった。
そう、少女。
地霊殿の住人、そのヒトガタと来たら誰も彼も姿かたちは見目麗しい少女達でいらっしゃった。
そうした環境下で培った彼の経験から、今の状況を彼女らに見せるというのは。
なにか、凄く、やばい、と。理性や本能より奥深くにあるものが彼に告げるのだ。
「うにょ~、うにょ~」
「もうこれ原形とどめてないよね絶対」
新種妖怪うにょうにょうにゅほ(仮)の、ふらふら揺れる頭を眺める。
要するにこの動きを止めてやればいいのだが、片手に櫛を持つ以上、残る片腕だけでどうにかする必要があった。
出来れば頭部だけでなく上半身全体を固定したいところ。
人の手も借りられず、使えそうな道具も見当たらない。
ここ最近は最終手段として、彼の部屋に布団を敷き、その上に寝かせて梳かすという方法を取っていた。
しかしそうすると空はそのまま寝付いてしまうので、結果的に一夜を同じ部屋で過ごすことになる。
気持ちよさそうに眠る彼女を起こすという選択肢はハナから存在しない。
そして彼は次の日の朝、さとりにお小言を頂戴する羽目になるのだ。
※地霊殿ペットの不順異性交遊及び繁殖行為は原則禁止されています。
とはいえ背に腹は変えられぬ、と諦念に至りかけた彼の脳裏に閃きが走った。
「……背に、腹?」
「うゅ?」
思いついたプランを実行すべく、彼は即座に行動に移った。
先までは後ろから抱え込む体勢だったのを、正面で向き合う状態にどうにかこうにか移行する。
空を振り向かせているのやら、彼が回りこんでいるのやら。ほぼ3:7くらいの割合か。
「これでよし、と。ほら、お空」
そうして向き合って、「ヘイカモーン」とばかりに両手を広げて見せたのだ。
それを見て、とろんとしていた筈の空の目に光が灯る。
灯火は段々と大きくなり、すぐさま満面に浮かぶ喜びの輝きとなった。最早、後光すら差さんばかりの勢いで。
瞳をきらきらさせて、ぱあっと笑顔を弾けさせ、空は彼の胸に飛び込んだ。彼女は彼の行動を正しく理解していた。
「っ、とと」
衝撃に胸を詰まらせるが、助走距離が無いためロケットダイブほどではない。
甘んじて受け止め、抱擁を交わす。
「んぅーっ、んふ、んふふふふぅ」
空はそのまま、噛み殺したような笑い声をこぼしながら彼の胸に顔をぐりぐりと擦りつける。
彼が腕を回して姿勢を整えることで漸く顔を離す。鼻の頭を赤くして、目を合わせると少し照れたように笑った。
背中でダメなら、腹を向かせてやればいい。
彼の出した答えとは即ちこういうことだった。
この姿勢なら、片手と身体全体を使って空を抱きしめることで、揺れる上半身を固定できる。
そして空いた片手を後ろに回して髪を梳かせばよいのだ。
現に空はぴったりとくっついて、離れるどころかふらつきもしない。
柔らかな感触を半身に受け、充分以上の成果に満足しながら彼は櫛を手に取った。
暫くそのまま作業を続けるうち、いくつか誤算が生じることになった。
まず一つ。この体勢でも少しは不自由するか、若しくは途中で飽きて戯れてくるだろうというのが彼の予想だったのだが。
これは良い意味で裏切られた。
抱きついてきた空は、自分から両手を彼の背中に回してしっかりとホールド。
その姿勢を維持したまま、少なくとも作業の邪魔になるような動きをすることはなかった。
途中で寝てしまったのかと彼は訝しんだが、多少なりとも身じろぎはするし、髪や身体に触れれば反応が返ってくる。
呼べば答えるし、かゆい所は無いかと聞けば「背中の右の、下の方がかゆい」と応じた。
寧ろ抱きかかえる前より理性的な反応が見られるくらいだ。
お陰で随分と作業が捗る、筈であったのだが。
しかしもう一つの誤算がそれをさせなかった。
彼は過大評価していた。自身の自制心を。
また彼は侮っていた。普段の明朗なそれではない、空の魅力というものを。
もともと空はスキンシップを好む傾向にある。
よって、くっついたり触れ合ったりなんてのは日常茶飯事。
先までだって彼の胸に背中を預けるようにしていたし、それは常のことであり、すっかり慣れ親しんだ体勢の筈だった。
だが正面から抱き合うというのは些か勝手が違ったようだ。
まず密着度が違う。そもそも「抱き合う」のだから、空の方からもアプローチがあるわけで。
それは思いのほか貪欲で、隙間一つ作ることも許さないと云わんばかりの積極性を見せていた。
どこを取っても少女らしい柔らかさに富んだ身体が常に押し付けられ続ける。
その中で、女性としての柔らかさを持つ起伏の感触が彼の理性をガリガリと削るのだ。もしくはむにゅむにゅと。
また、風呂上りの空は就眠用のネグリジェに着替えていたことも拍車をかける。
ネグリジェといっても、そこそこしっかりとした布地で、色っぽいというよりは可愛らしいデザインのものなのだが。
それでも布一枚、彼もまた寝巻きに着替えていたので二人を隔てるものは薄布が二枚のみであった。
結果、彼はよりダイレクトに彼女の体温と感触を味わうことになったのだ。
「(あああ……! ふにふにだけどぽかぽかしてて、やーらかあったかいのが直に! 触れて! ぷにぷに!)」
これで空が「うにゅほ」的な鳴き声やらを発していれば、まだ気も紛れようというものだが。
彼の首筋に顔を埋めた空はあくまで神妙で、しかも時折漏らす声ときたら。
例えば、サイドの髪を櫛がするりと通り抜けたとき。
「はふ──っ」
例えば、後頭を抑えるために回した彼の手、その指先が耳を掠めたとき。
「ひぃうっ」
例えば、長い髪先まで櫛を通す際に、深く抱きなおすため、背中に手を当てたとき。
「はぁ、んんっ」
といった具合に、悩ましい嬌声じみた響きを含めた吐息が、鎖骨の辺りに当てられた唇から響いてくるのだ。
くすぐる余裕などありはしなかった。手を伸ばしてしまえば、それはもう決定的なものになってしまう確信があったから。
せめてもの救いは空の表情が見えなかったことだと彼は思う。
これで空が、彼が見たことも無いような顔をしていたら、身の内で熾る衝動に抗う術は無かっただろうと。
もう一つ、彼は自身の不注意さにも救われていた。
注視すれば気付いただろう、髪に隠れた空の耳。
それはナナカマドのように真っ赤に染まっていた。彼のものとまた同様に。
それでもなんとか無事に梳き終えることに成功した彼の忍耐は、ある意味で褒められて然るべきだろう。
指から引き剥がす心持で櫛を手放す。
あとは風見印の椿油を数滴、髪に塗ってやるだけ。
無造作に投げ出された脚が太ももまで露わになっているのを視界の外に置き、その付け根辺りすらもちらちらと見えて
いることを意識の外に追いやり、震える手で油が入った瓶の蓋を開ける。
いつの間にか、空の頭は彼の肩の上に載っており、頬と頬が重なるような位置にあった。
これで今日は最後と思えば、残念なのやら助かったのやら。
とりあえず緊張を誤魔化すために、彼は大きく深呼吸。鼻から息を吸った。
吸い込んでしまった。
「(あ、やば)」
そして己の間違いに気付くが、時既に遅し。
彼の目と鼻の先には空の首筋。
そこから立ち昇る少女の甘やかな香りを、彼は思いっきり吸い込んでしまった。
甘い。最初に感じたのは乳製品のようなその甘さ。
そして、その甘いものを少し焦がしてしまったような香り。
それこそが彼女の香り。霊烏路空の匂いだった。
鼻腔から入り脳髄を侵し満たしていく芳香に唇を震わせながら、肺腑に溜まった息を吐く。
その吐息に首筋と、そして背筋を撫でられたのだろう。
空はびくりと大きく震えた。
「っ」
抗議のためか、それとも声を我慢するためか。はたまた彼と同じく何も考えられなくなったのか。
同じく目の前にあった彼の首筋、服が肌蹴て素肌が覗くそこに。
小さな口を開いて、空はそこに吸い付いた。
思考能力を無くした彼が、しかし明確な意思を持った手を伸ばそうとしたその時。
果たして、救いの手が差し伸べられた。
「○○、ちょっといいかしら? また空がきて、るん……じゃ……」
しかし、それは同時に破滅をもたらす腕かもしれなかった。
ごおお、ごおお、と。自身の血の気が引く音を彼は確かに聞いた。
熱病に浮かされたようだった頭は、背筋に白刃を差し込まれたように冷ややかに。
しかし冷静を通り越して凍結した思考からは出すべき言葉が見つからない。
一筋の冷や汗が首を伝って流れ落ちる。
「うひゃあ」
こともあろうに彼の口をついて出たのは、言い訳ではなく上擦った悲鳴だった。
何を思ったか、空がその汗の雫を舐め取ったのだ。
「……しょっぱい」
そう呟いて、そのままちろちろと赤い舌を這わせる空にか。
それとも情けない声を上げた彼にか。
あるいは全てにか。
「なにやってるの……」
闖入者。地霊殿ヒエラルキートップ。古明地さとりはブチ切れた。
「なに、やってるの──!!」
想起される恐怖、あるいはその源に吹っ飛ばされながら。
彼はさとりに感謝すべきか否か図りかねていた。
ウニュー!?>
ギャー! ユウバクシター!>
コノアタリカラ シットノニオイガ…パルウウウウウ!>
風呂上り、最近の彼は酒ではなく茶を飲むようになった。やたらめったら渋いものを。
音を立ててそれを啜っていると、その日もまた、背後にあった襖が元気良く開かれた。
湯飲みを置いた彼の背中を回り込み、正面にやってきた空は彼の胸にすっぽりと収まる。
そして心底から幸せそうに笑顔を浮かべるのだ。
往々にして太陽のような笑顔と形容されることがあるが。
空のそれは、太陽は太陽でも人口太陽の笑顔。
そのこころは即ち。笑みを向けたものだけでなく、自身も融かしてしまう笑みだ。
どっとはらい
新ろだ2-108
「うあー…よく寝たぜ、この野郎」
俺の長所その位置は寝起きがいいことだ
「さーてと…今日も元気だタバコがうまい…飯作るか」
家のカーテンを開け…ても日差しが入らないあたり爽やかな雰囲気ぶち壊しだが気にせずそのままキッチンへGO
「朝ごはんはー♪卵焼きーにー冷ややっこ、アツアツ味噌汁ホカホカご飯♪」
男がへたくそな鼻歌歌いながら朝飯作るなんてシュールだろ?…笑えよ
ついでに「焼き魚がないとはどういうことだ」ってやつ…地下なんだ、察してくれ
「○○!おはよう!」
そして朝飯を並べ終わった辺りにわがあばら家の裏口を開けて勢いよく入ってきた物体Xが声を張り上げた
「おうおはよう空、飯食ってくか?」
「うん!○○のご飯好き!おいしい!」
ここまで予定通り…朝食は三人分用意してある
「お空…はやすぎるよー…」
そして今度は玄関からゼェゼェ息を荒くして入ってきた物体O
「おはようお燐ちゃん、ご飯食べてく?」
「その前に…みず…を…」バタリ
「お、お燐―――――――!!」
パクパクもぐもぐ
「いやー、お兄さん相変わらず料理上手だねー」
俺の長所その二、料理上手である
「○○ってすごいね!卵焼きすごく甘くておいしいよ!」
「いやーそれほどでもあるなーはっはっは!」
端緒その1、おだてられると調子に乗る
「いただきました…」
「いただきましたー!」
「へいへいお粗末さまー…さーてと」
朝の朝食の儀を終えて俺は立ち上がる…地底は地上の影響を受けず、年中気候が安定している…わけではない
冬になれば雪は降る、春になれば少なからず花は咲くのだ
科学的でない?ようはその場所に住む住人の認識が大事なのだ
「何が言いたいかというとまだ寒いからお気に入りのコートを着て出かけよう」
「一人で何言ってるの…?おにーさん」
「イヤンお燐ちゃんそんな目で見ないで変人を見るような目で見ないで」
「じゃあ言ってくるねー○○ー!」
へんてこな会話を聞きもせずにまた裏口から空は出て行った
…裏口を今度から空専用ドアーに変更しよう
「じゃあおにーさん、あたいも行くからまたお昼ごろにね」
「おう、いってらっしゃい」
そしてお燐ちゃんも玄関からお行儀よく出て行き…
ガガガガガガガガガガ!!!
と激しい車輪の音をならして…すぐにその音は遠く消えて行った…
「お昼までに俺も仕事終わらすかな…」
俺は愛用のコートを羽織り、昨日のうちに詰めておいた弁当をカバンに入れ、靴を履き、家を出た
「へいまいどー」
「おう、兄ちゃんいつも大変だな、助かってるぜ」
「へへへ…また御贔屓に」
これで三件目…俺はその家のドアを閉めた
俺はこの地下で、修理業というものを営んでいる
物は問わない、修理なら何でもいいのだ
ここはもともと妖怪が多いせいか、物が割とすぐ壊れる、喧嘩で家が壊れることがよくある
そんなことを気にしない豪快な人が多い…しかし不便には感じる、だが修理技術は持ち合わせていない
そこへ俺がやってきて修理業始めたら大繁盛…どうだ?絵にかいたようなシチュエーションだろう
「おじゃましまーす」
「おお、あんちゃん待ってたよ!!」
今ではすっかり知り合いが増えた
居酒屋のとっつぁんたちはみんな気前がよくて本来の報酬のほかに一升瓶つけてくれたりする
ありがたい限りである
「おやぁ?○○がいるってことは、またどっか壊れたのかい?」
府と聞きなれた声がしてそっちを向いたら☆マークのキュートな一本角が見えた
「おや、勇儀さん…今日はここで飲んでたんですか」
「おいおい、さん付けと敬語はよせって初対面から言ってるだろう?」
「貴方の雰囲気がそうさせるんですよ…」
相変わらずこの人は豪快な性格してる…
「勇儀さ~ん、この前あんたとアホの腕相撲で店の床が潰れたんですよ~」
「おや?そうだったかい?…覚えてないねぇ…」
「アハハ…」
とっつぁんが嘘泣きしながら困ったように言うものだから店内に笑いが溢れた
…うん、俺はやっぱりこの空気好きだな
「で、修理する場所は?」
「ああ、ここだよここ…」
青年修理中…
「終わったよ、ほれ、人ひとりのってもびくともしない」
修理し終わった床の上では寝て見せても床は平気、さすが俺
「おおさすがだなあんちゃん…助かったぜ!」
「いえいえ…じゃあ、俺はこれで…」
「おう助かったぜ!じゃあこれ約束の報酬!」
とっつぁんは少し色つけて報酬をくれた
相変わらず切符がいい…
「さて、お昼までまだ時間はあるな…」
本日の依頼はすべて終了、お昼まではあと三時間ある(俺がどれだけ早起きしたかは想像するな)
「暇なら○○、私と飲み比べしな」
「拒否権は?」
「あると思うかい?」
ああ、俺お昼まで酔わないでいられるかな…?
お昼でーすよー
ごっはんっがごっはんがすっすむっくん
「おかわり!!」
「…アア…スキナダケタベロウツホ…オレノブンマデオオキクナレヨ…」
「おにーさん…大丈夫かい?」
俺は真っ蒼な顔で岩の上に座っている
空は満面の笑みで俺の作った弁当を食べている
お燐ちゃんは俺の背中をさすっている
どうしてこうなったかって?
HAHAHA、大したことはない…
ただ飲み比べに負けて吐き気を催しながらも家に帰ろうとしていたら勢い余ったお燐ちゃんに跳ね飛ばされただけだ
ぜーんぜん平気だよ?おにーさん強いもん…あれ?頭からぬるっとした液体が…
「まあたぶん大丈夫だろ…」
「お兄さん、口から魂出てるよ…」
「おいしー!○○の料理毎日食べたいくらい!」
…ああなんか嬉しい言葉聞いた気がする
「へへ…毎日…作ってやっても…いい…ぜ…」
それを最後の言葉に意識が薄れて…きて…
こーりん『さぁ…君もこの褌をつけてみるんだ!』
○○『ニャメロン!俺に近寄るな!』
けーね『何寝言を言っている!ふてくされている暇があったら現実と向き合え!』
○○「は…はなしてぇ…」
/ウワァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!\
「そんな夢を見た」
そう言って上半身を起こしたら我が家だった
頭がくらくらするぜ…
「あ、○○、大丈夫だった?」
そこにはベッドのそばの椅子に座って俺の顔を覗き込む空…ああもうかわいいなこんちきしょう
「あ、めーさめたのおにーさん…ああ立たなくていいよ、全治三日だから」
そしてその後ろではキッチンでフリル付きエプロン(俺の愛用品)装備して料理しているお燐ちゃん
「あー…これは俺が気絶して二人が看病しててくれたパターンだな」
「「なぜわかった!!」」
「流れ」
「ふむふむ、出血多量で気絶、頭部の傷は最低でも三日間の安静を要する…ね」
お燐ちゃんに口移しでおかゆを食べさせてもらい(死ぬほど幸せだが恥ずかしい)俺は悩んだ
三日間の安静…確かに、頭の大怪我にしては日数が少ない
だがこの安静は…ベッドから出てはいけないの意味での安静である
三日間寝たきりなんて俺には無理だ、だって人間だもの
井戸から水も汲まなければならない、食事は?トイレは?お風呂は?
さぁどうするかと悩んでいたら…
「あ、そうそうおにーさん、今日から三日間あたいとお空でしっかり看病してあげるからね」
「さとりさまにも許可もらってあるんですよー!」
さとりさんGJ、修理費をまけたりしてあげたのがここにきて効いた
…待てよ?井戸の水、食事はマジでありがたい…超助かる…
お風呂は、まあ我慢すればいい、が、トイレはどうする?
「ウフフおにーさんと一緒のお風呂ウフフ」
お陳ちゃんのつぶやきが聞こえて俺は鳥肌が立った
「○○、私たちがしっかり夜のお世話してあげるからね!!」
空…紫魔女の召喚魔法か?それ
酒は百役の長!?ウワバミユウギの魔の手(酒の名前)が○○を襲う!
そして夜…猫と鴉が、その本性をあらわにする!!
次回!ハイパー修理屋○○
朝酒浸り、夜獣浸り!!
うそうさ>(・X・ )ひゃあもうがまんできねえお空ちゃんへルパンダイブ!>(^∀^ )
新ろだ2-144
「う~ん…むにゃむにゃ…うにゅ~~~…」
夜遅く…
いろいろと忙しく、自宅に帰ってきたのは日付が変わった頃だった…
疲れた体は激しく睡眠を要求しており、すぐにベッドにダイブして爆睡しようと寝室に行ってみれば…
そこには、ベッドに大の字に仰向けになって眠る
霊烏路 空の姿が…
「…!?…え、なんで空がここに…?」
帰ってきたら空が自身のベッドでしかも大の字になって寝てるのだからこれには悪い冗談かなにかかと思った。
とりあえず、空には悪いが少しどいてもらおうかと思ったが…
「うにゅぅ~○○の…いい…にお…い…すぅ」
などと寝言を言い始めるのだから起こすに起せなくなった…
「…仕方がない…ベッドが恋しいが…今日は床での雑魚寝で我慢するか…確か代えの布団は…」
……
翌朝…
仰向けの状態で目が覚める…
ふと、視界の端に映った黒い物体…やけに柔らかくて暖かい…これは…
顔を横に向けると…
空の寝顔が視界一杯のどアップで映った…
言葉も出ない…しかもよく見ると自分の左腕をがっしりと抱いてるじゃないか…
これでは起きるに起きれない…だが、女の子を床に寝かせておくのも見過ごせない…
仕方がない…一度起して眠いのならば改めてベッドで寝てもらおう
「空…うーつーほー…床で寝てちゃだめだぞー」
空いてる右手で空の肩を揺らしてみる
「ん…んみゅぅ~」
などと、謎の言葉を発しながら身じろぎはすれど起きる気配はない…
「おーい…空ーさすがに起きろー」
今度は少し強めに揺さぶってみる
「ん…うにゅ?」
と、突然パチリと目を開ける
「やぁ、おはよう…」
「うん…おはよう…」
「まだ眠いのならベッドで寝な…さすがに床で寝てちゃ汚れるぞ?」
「やーだー…○○と一緒に寝たいのぉー」
「いや、だけどな…あー…」
「うー」
「いや…どこの神様だよ……じゃなくて!」
「分かったよ…一緒に寝てあげるから、とりあえずベッドでな…」
「うん…」
新ろだ2-145(新ろだ2-144続き)
「ん…」
あのまま寝てしまってたか…
少しづつ意識が覚醒していく…
そんな視界に映ったのは真っ白な一面…?
それになんだか両頬が感じるこの暖かくて柔らかいものは…
待てよ…確か空をベッドに寝かせようとしたら空が一緒に寝ないとヤダとごねて仕方なく一緒に寝た…うん、ここまでは記憶にある…という事は…
「…!!?」
気づいてしまった…そう今俺は空に抱き枕にされてる状態だ。しかも…頬に当たってるこの感触からしてまず間違いない…空のm(ry だ…!うん…男としてこれ以上なく嬉しい事はない。が、さすがにそろそろ息苦しい…うん、このまま窒息死しても俺としては本望か…
「ダメェェェェェ!」
「!?」
と、唐突に空が目を覚まし叫びながら俺を引きはがす
「アレ…何だろう今の夢…」
「え…空、お前いつから覚りの能力を…?」
「うにゅ?あれ○○起きてたの?それにさとり様がどうかしたの?」
「あ、いや…なんでもない」
「で、どういう夢だったんだ?」
「うん…なんだか○○が「もう死んでもいいかも…」って言いながら崖から飛び降りたの」
「…なんだその夢…?俺って自殺願望とかないぞ」
ちょっと洒落にならんぞそんな夢は…
「大丈夫だ…俺はそう簡単に死なないよ。少なくとも生を全うする…少しでも長く空と一緒にいるって誓うよ」
「うん…約束だよ○○」
Megalith 2014/03/22
新たな春の訪れを感じさせる風が、草木を揺らしていた。目前に広がる湖は波を立てず、朝の光を浴び輝いていた。
平穏を絵に表せばきっとこのような風景になるのだろうな、と漠然と思った。
……ただ一つ、結構な響きを放ついびきをのぞけば。
彼女は木陰で体を丸め、大きな羽で己を包み込むように爆睡していた。
無防備にもヨダレを垂らしているその寝顔は、だらけていても可愛らしさを保てるぐらいには整った顔立ちだった。
本来ならば、そっと立ち去るべきなのだろうが、どうしてもその少女のことが気にかかった。
僕はそっと彼女の肩に触り揺さぶった。
「ん……」
彼女はゆっくり体を起こすと、開ききらない眼を手でこすった。
「……何……貴方……誰?」
突然眠りから覚まされて、不機嫌そうに彼女は僕を見た。返答次第では容赦しないといった鋭い視線だった。
「ごめん。眠りを邪魔するつもりなんてなかったんだ。ただ、その、君が可愛いかったらついーー」
「ふぅん」
彼女はまじまじと僕の眼を見つめた。先ほどの言い訳の真実性を探っているようだった。
「可愛かったのなら仕方がない」
彼女はそう言って、湖の方に目をやった。既に僕への興味は無くなっているようだった。
が、そのときぐぅぅと大きな音を彼女の腹は鳴らした。彼女はしょんぼりとした表情をしながら頭を下げた。
「よかったらこれ、喰うかい?」
僕は鞄からおにぎりの包みを取り出し、彼女に差し出した。彼女は四つ並んだおにぎりを右から左、左から右へ一通り眺め、一つ手に取り頬張った。
「うん、おいしい!」
彼女はそう言って、ニッコリと笑った。一つだけあげるつもりだったのだが、彼女は遠慮なく全部食べてしまった。
お腹いっぱいになって機嫌が良くなったのか彼女、霊烏地空は己の事を語った。
僕はお空が地底の灼熱地獄出身の妖怪と知って酷く困惑した。
「よく私にちょっかい出す気になったわね。焼身自殺希望ってところかしら?」
知っていたら関わらなかったよ、と僕は反論した。お空は笑った。
「ところで」と、僕は質問を切り出す。地下妖怪の君が地上に頻繁に出入りしているのは何故なのか、と。
お空はよくぞ聞いてくれましたとばかりにうんうんと頷いた。
「溢れんばかりのこの力で、いずれ地上を新しい灼熱地獄に生まれ変わらせるの。今はその下調べってところね」
僕は微笑みながらお空から眼をそらし、湖を眺めた。
平穏極まりないこの風景が炎に包まれるさまを想像し、暗澹とした気持ちになった。
休日、僕は以前と同じように湖畔を眺めていた。
相変わらず世界は核の炎に包まれる事なく、平穏な時間が流れていた。
「だぁ~れだ!!」
突如僕は光を失い、暗闇の住民となった。驚きのあまり「ひぇぇ!」と情けない声を発しながらあわあわしてしまった。
そんな僕を見てお空はケラケラ笑いながら羽を広げた。そして視界にまたいつもの穏やかな景色が戻ってきた。
「毎回こんなとこで何やってんのさ?」
お空はヒョイと体を曲げ、僕の顔を覗き込んだ。
「別になにも」
何の面白みもない答えに、お空は少しムッとしたようだった。
「君こそ、何しにここへ?」
「『別になにも』」
そう言って、お空は僕の隣に腰を下ろした。そして前回同様、マシンガントークを炸裂させるのだった。
お空の話により、僕は必要以上に地底の事情について詳しくなってしまった。
現在使われなくなった旧地獄を支配しているのは、全身から血管を浮き出たせ、三つの眼球をもってして他の妖怪の意識を破壊する化物らしかった。
そんな妖怪連中が自分の足下に住み着いているかと思うと、酷く暗澹とした気持ちになった。
今後一生出会わないでいる事を願うしかなかい。
しかしながらそんな地底でも、お空が比較的接しやすい妖怪であったことは僥倖であったと思う。
たとえ目的が地上灼熱化であってもだ。
と、気がつけばお空は話疲れたのか、寝転ぶとすぐさま寝息をたて始めた。
寝付きがいいのは、お空の数多い自慢の一つでもあった。
また別の休日。
以前、お空は己の収集癖について熱く語っていた。
光物に目がない彼女は、針金製のハンガーやらビール瓶やらを拾い集めては持ち帰っていた。
そして己の琴線に触れる物だけを峻別して保存しているらしかった。
そんなお空の感動的これくしょん(感これ)に何かつけ加えてあげるべく自宅を捜索していると、ビー玉を見つけた。
思い出せばラムネを購入するたびに何となく取り出していたものであった。
「おぉ、これはなかなかーー」
こんな物で満足してくれるか心配だったが、お空は興味深そうに一つ一つ手にとり眺めていた。
そして最後の一つを手に取ったお空は、その球体を眺めながら時が止まってしまったかのように動かなくなった。
どうしたのかと思いお空の顔を覗くと、まるで信じられないものを見てるかのように、眼が輝いていた。
「ねぇ、見てみて!」
お空が楽しそうに催促するので、僕もそれを覗いてみた。
その球体は他の物と違い、中にヒビが入っていて一番劣化しているように見えた。
しかしそのヒビが光を反射することにより、高級感のある輝きを放っていた。
「ね!すごく素敵じゃない、これ!なんだか球体の中に別の世界が存在してるみたい」
そう言ってお空はそれを大事そうに両手で包み込みながら、満面の笑みでお礼を述べてきた。
その時の彼女の笑顔は、先ほどの球体同様のヒビを僕の中に作り、いつまでも輝きを放ち続けた。
それからというもの、休日には必ずといっていいほど僕の隣にお空がいて、お空の隣に僕がいた。
里への買物だったり、人気の無い神社への冷やかしなど、特に意味の無い無駄な行為を繰り返していた。
そんな事ばかりしているせいか、ここ最近お空は親友から丸くなったなどと言われているようだった。
「うにゅ……食べ過ぎたのかな……」
「そんなことない。始めてあった時から何も変わらず可愛いよ」
と、フォローしておいたが、もちろんその親友は体格がどうのこうの言いたかったわけでは無いのだろう。
いつも通りのある日の事。
お空は突然立ち上がり言った。
「今夜星を見に行こう!」
「たまには良いこと言うんだね」なんて言って笑った。
「『たまには』って何さ、フン!」
その後、ぽつぽつ空に星が現れ始めた時、お空は背中に乗っかるよう指示してきた。
しかし、僕は振り落とされないか不安で躊躇していた。
「だぁーいじょーぶだって!へーきへーき!」
そう言ってお空は、ニッと無邪気な笑顔を向けてきた。
お空の笑顔に対し僕はいつも、従わずにはいられなかった。
満天の星達は何億光年も離れた場所から光を放ち続けていた。
上空から見るその光は言葉では言い表せないほど美しかった。
「一人じゃこんな奇麗な星空を地上からしか眺められないなんて可哀想」
お空はぐすぐすと鳴き真似をした。
「でももう落ち込む必要ないんだよ。私がいつでも連れて来てあげるんだから」
「なぁ、お空」僕は続ける。
「君はかっこ良くて可愛くて、こんな立派な羽も持ってる。そして力だって。
本気だせばこんなちっぽけな世界あっと言う間に火の海に出来るんだろう?
僕は好きだよ、そんな君のことが。
でも解らないんだ。沢山の特別を抱えている君がこうしてそばにいてくれる理由がーー」
「今の質問、本気で聞いてるのならちょっと軽蔑しちゃうな」
言うなりお空は僕を背中から引きずりだし、持ち上げた。僕は慌ててお空の両肩をつかむ。
星空舞う空中で、我々は向かい合う形になった。
「確かに私はかっこ良くて可愛くて、誰にも負けない程強いよ。
けれど……けどね、それだけじゃどうしても満たされないの。
ときどき……寂しくなる」
お空は恥ずかしそうに顔を伏せる。
「もちろん、お燐だっているわ。でも、なんか違うの。
彼女は私ほどじゃないけど、それなりに強いし、頭もいい。
私がいなくても彼女は別段問題ないし、彼女は彼女なりに目指しているところが違うの。
根本的なところで、彼女とは理解し合えない。
……私はいて欲しかった、私と同じ方向を向いて、ただついて来てくれる誰かがーー」
お空は、僕の腰に手を伸ばしそっと抱き寄せた。
「この空は、一人で飛び続けるにはあまりにも孤独なの……」
僕はお空の首筋に手を伸ばし、強く抱きしめた。
我々の空っぽの心を満たすように、星の光は降り注いでいた。
新たな夏の訪れを感じさせる風が、草木を揺らしていた。目前に広がる湖は波を立てず、朝の光を浴び輝いていた。
平穏を絵に表せばきっとこのような風景になるのだろうな、と漠然と思った。
……ただ一つ、結構な響きを放ついびきをのぞけば。
彼女は木陰で体を丸め、大きな羽で己を包み込むように爆睡していた。
無防備にもヨダレを垂らしているその寝顔は、だらけていても可愛らしさを保てるぐらいには整った顔立ちだった。
本来ならばそっとしておくべきかもしれないが、あえて起こすことにした。
僕はそっと彼女の肩に触り揺さぶった。
「ん……」
彼女はゆっくり体を起こすと、開ききらない眼を手でこすった。
しかし彼女はもう一度眼を瞑り、こちらに顔を向けたまま動かなくなった。
「やれやれ」
僕は彼女の両肩を持ち、そっと引き寄せる。
そして静かに口づけする。
「……えへへ、おはよう」
そう言って彼女、霊烏地空は微笑んだ。
相変わらず世界は核の炎に包まれる事なく、平穏な時間が流れていた。
『結局、地上灼熱地獄化はどうなったんだい』と問いかけると、『今は愛の炎で充電中!』などという返答が返って来た。
それを聞いた僕は微笑みながらお空から眼をそらし、湖を眺めた。
このお空の変わりようのおかげで、例の三つ目の妖怪は動揺のあまり飲みかけの紅茶をこぼし、それが眼球に掛かりあわや大惨事となるとこだったらしい。
そんな珍事件が自分の足下で行われているかと思うと、酷く暗澹とした気持ちになった。
今後一生出会わないでいる事を願うしかなかい。
「な~にぼけっとしてるの?ほら、はやくはやく!」
急かされるままに、お空の背中に掴まる。
今日もまた、無駄に無駄の無い無駄な一日が始まろうとしていた。
「さぁ!無限の大空へ、レッツゴー!!」
そして元気よく、我々は大空へと旅立った。
「ところで、眼球は無事完治したんだよね……?」
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し⌒l }
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. / ノ:::::::イ / .{ r、ン'\/、 ∨ }::::( \_ノ) おわり
35スレ目 >>384
ぼく「ぼくお金をいっぱいもってるよ ピラピラ」
お空「お金?…そんな紙っぺらいらないよ!」
ぼく「この紙をたくさんもってると毎日ゆでたまごが食べられるよ」
お空「好き!結婚して!」
ぼく「うふふ」
最終更新:2021年04月28日 21:14