こいし1




20スレ目 >>525 うpろだ85


人里の一番端に位置している表札の無い我が家。
幻想郷に迷い込んでから数年が立ち、自立することを決めた時に
それまで世話になっていた慧音さんが里の人達に掛け合って用意してくれたものだ。
長らく人の手が入っていなかったらしく、最初は荒れに荒れていたが、
住むにあたって掃除をする際にこれまた世話好きな慧音さんが手伝ってくれたこともあり、
割とすぐに人が健康で文化的な最低限度生活をできる空間を取り戻した。
あの人には本当に頭が上がらない。いつか恩を返せるだろうか。



「くぅ……」


その年期を感じさせる縁側にて、一人月を仰ぎ酒を啜る。
古びた柱に体重を預け、十月の寒気を伴った夜風で酔いを抑える。
見上げた空は、昨日の豪雨が嘘だったかのように澄み渡っており、
一人で飲む酒の肴にはうってつけのものだ。
こういう風景も幻想郷だからこそ見られるものなのだろう。
向こうではこんなにゆっくりする余裕も無かった。
今日も博麗神社で宴会があったらしいが、気分ではないので丁重にお断りした。
地下の住人も来るらしいが、また次の機会もあるだろう。


「―――あらあら、一人で何をしているのかと思えば……随分と寂しいことを」


と、しみじみ風情を感じていればそれを台無しにする人物が一人。
声の主は神隠しの主犯であり、誰もが手を焼く困ったさんな隙間妖怪、八雲紫そのひとだった。
声をかけられるまで存在に気付けなかったことから、恐らく空間の隙間を潜って来たのだろう。
わざわざご苦労様であるが、相手にする義務も必要も無い。疲れるだけである。
折角の休日に余計な心労を持ちたくはない。
無視して、もう一杯酒を飲むことにする。


「不味いわ」


……が、気付けば手の中に今まで飲んでいた杯は無く。
いつの間にかに、八雲紫に奪われていた。


「不味いわ」
「二度も言うな。返せ」
「嫌ですわ」
「帰れ」
「客人に対して茶の一杯も出さずにそれはどうかと思うけれど」
「玄関から入らない他人は客じゃない」
「あなたが招かなくても客は客よ」



埒があかない。
どうするかと悩んでいると、八雲紫はどこからともなく高級な雰囲気を漂わせる酒瓶とグラスを
取り出して一人で飲み始めた。何をしに来たんだお前は。
何となく小さな敗北感を覚えて、それを誤魔化す為に徳利から酒を継ぎ足し俺も晩酌を再会した。
互いに一言も喋らず、俺にとっては気に入らない空気が続く。
――――そして、数十分が経過した頃。



「どうして」
「?」
「どうして、今日の宴会に来なかったのかしら?」



八雲紫の問い。
一呼吸おいて、杯の中の酒を飲み干し答える。


「気分じゃなかった」
「嘘ね」


酒を注ぎ足そうと徳利を引っ繰り返しても、酒は一滴も出て来なかった。


「嘘じゃない」
「嘘よ」
「嘘じゃない」
「嘘」
「嘘じゃ――」
「本当は」


八雲紫が俺の言葉を遮って言う。


「彼女がくるからでしょう? おかしな話。
好きな人に会うのが怖くて、嫌われるのが怖くて来られないなんて」


言葉を失う。


「それに、このままでもいいって自分に嘘をついてる」


言い返せないのは、それが本当のことだからだ。
感じる憤りは、自分に対するものと八雲紫に対するものだろう。
酔いが回っているのか、気分が異様に高揚している。
脳が熱せられ、単純な思考が封じられる。
それ以上は言うな。黙れ。五月蠅い。



「馬鹿な子。まるで恋に恋した臆病な乙女じゃないの」
「黙れ」
「あら怖い。でも普段は落ち着いているあなたがこんなになるのも―――」
「黙れ」


徳利を盆に叩き付け、台詞を遮る。
八雲紫はにやにやと、まるでチェシャ猫のように気味悪く笑っている。
気にくわない。


「それじゃあ、私は退散しましょうか」


きっとすぐに、おもしろいことになるけどね。


最後に耳にまとわりつく声を残して、八雲紫は隙間に消えて行った。
その場には、彼女がいた痕跡として飲みかけの酒瓶と空になったグラスが残されている。


「……」


彼女がいなくなった途端、頭の熱が冷めた。
酒気や熱気も一緒に持って行ったのか。
吹く風邪が異様に寒く感じる。
あまりいい気分はしない。今日はここでお開きにしよう。


「寝よう……」


カタン。


と、片付けを始めようとした瞬間に庭から物音。
今度は何だ、と億劫に感じて振り向けば。


「…えっと……こんばんわ、かな?」
「……」



大きな黒い帽子、癖のある銀の髪、黒いつぶらな瞳。
姉のさとりとは対象的な、胸部の閉じた第三の瞳。
振り向けば、古明地こいしが、そこにいた。


「え、あ……」


言葉に詰まる。
静まっていた熱が再び上昇する。頬に赤みがさし、鼓動が加速する。
脳裏に八雲紫の姿がちらつく。
くそ、落ち着け。これじゃあ――――


「上がってもいい?」
「っ、ああ……うん…」


我に返り、頷く。
おじゃまします、と断りをいれて靴を脱ぎ礼儀正しく縁側へ上がってくるこいし。
その姿をみていると、一つ疑問が込み上げてきた。
答えは解り切ったようなものだが、一応確認しておく。


「あのさ」
「なに?」
「なんでこんな時間に?」
「あの隙間妖怪が、『面白いものが見られるわよ』って」


やはりか。
瞬時にイメージされる扇子で口元を隠し意地悪く笑う彼女の姿。
不快なそれを、頭を振って追い払う。



「ところで」
「……っ!」


耳元で聞こえた声。
気が付けば目と鼻の先。
徒もすれば唇が触れあいそうな距離にこいしが迫って来ており、思わず後退る。


「さっきの話に出て来た『彼女』って」


ずい。
それに追い打ちを掛けるように更に距離を詰めるこいし。
たまらず、こちらも更に後退る。
そうすると、また容赦無く前へ。
それに合わせて、自分も後ろへ下がる。


「誰のこと?」


ぴたり。
遂に柱にまで追詰められ、これ以上下がる事は出来なくなった。
対してこいしは構わず、先程よりも更に近づいて。


「う……」


言えるわけが無い。
何せ、本人が目の前にいるのだから。


「だめ」


気まずく顔を逸らそうとして、頬を冷たい両手に押さえられた。
指先は冷たいが、不思議と熱が冷めることはない。



「………」
「………」


両者見つめ合うこと数分。
体感時間にすれば永遠にも近いそれは、まさしく生き地獄であった。
息伝いを感じ、睫の一つ一つが大きく見え、毛穴ですら確認できる位置。
密着した体は、衣服を通り越して心臓の鼓動を相手に伝える。
鼻孔から侵入する薔薇の香りに似たこいしの甘い匂い。
感性が麻痺し、理性が崩れてしまいそうな空間で、俺は動けずにいた。
境界線を越えればもう後戻りはできない。
進めば後悔、後にも後悔。
友人以上、恋人未満の心地良く生温い関係が終わる。
その認識が、熱で飛びかけた理性を繋ぎ止めていた。


「……始めはね、胸が変だと思ったの」


ぽつり、と普段と変わらない調子で言う。


「だけど、あなたの姿を見る度に。
あなたの顔をみる度に、ここが弛んでいくような気がして」


こいしが押さえた箇所は、閉じた第三の瞳がある胸。
かつて自ら閉ざした心の弱さ、嫌な現実から逃げた象徴。


「気が付けば、あなたのことをずっと見てた」


それが開きかけているということは、つまり。


「お姉ちゃんに聞いても、教えてくれないの」


自分の考えが正しければ、それは彼女も知っている筈だ。
あえて答えを教えなかった思惑も、俺の考えが間違っていなければ当たっている。
果たして、それは自惚れなのだろうか。


「初めて、人の心が解らないことを後悔した」


目を瞑り、淡々とした声音でつげるこいし。


「ねえ、あなたのことを、もっと教えて?」


徒もすれば、唇が触れあいそうな距離。
それを、俺は。


「――――」
「…………」


自らの意志で、ゼロにした。


「ん……」


軽く触れ合うだけのもの。
初めてのキスは、何の味もしなかった。
十秒もなく、またすぐに離れる。


「どうだった?」
「よく解らない……けど」


頬を朱に染め、戸惑いの表情を見せている。


「お姉ちゃんの言おうとしてたことは解ったわ!」


次に求めてきたのは向こうから。
軽く啄む様に小さな口で俺の唇を挟んでくる。
湿気を持つ、力の無い優しく柔らかい感覚。
繰り返して行われ、口内に言いようのない味が充満する。
行為を受ける内に、それがこいしの味だということに気付いた。
閉じた歯の隙間からにゅるりと浸入する赤い舌。
拒むことなく、自分のそれを彼女のそれに絡める。
俺はこいしを感じて、こいしは俺を感じている。
互いに互いを求め、強く抱きしめあう。
もう離さない、と言わんばかりに強く力を込めて。


「あなたは私が好き」
「お前は?」
「もちろん!」


出来たばかりの恋人たちの夜は、始まったばかり。
行き過ぎた行為に規制をかける魔女も、今はいない。
やがて二人は、どちらからでも無く、服に手をかけて――――

















「さて、これで満足?」


隙間が閉じられ、映像が途絶える。
見ていたものは先程までの行為。
それを見ていた者は、地霊殿の住人たち。
皆一様に顔を真っ赤にし、その後について想像している。



「まさかここまで仲が進むとは思わなかったけど……」


そう口にしたのは、こいしの姉であり地霊殿の主である古明地さとり。
八雲紫に頼んで二人の仲を進展させるようにし、隙間からその様子を覘いていたのだ。


「私は二つの酒瓶を倒しただけよ……じゃあ私はもう行くけれど……」
「ええ、ありがとう……」


大きな欠伸をして、隙間を開き消えて行く彼女を見送り、礼を言う。


「これであなたが幸せになってくれるといいんだけど」
「大丈夫ですよさとりさま!」
「そうそう、相手もそんなに軽いやつじゃなさそうだしねー」


さとりの思惑通り、二人はくっついた。
それが良いことかは解らない。
だからさとりは、ただ妹の幸せのみを願った。
後で自分の彼氏に、さっきの妹に負けないくらい甘えてやろうと決めて。



23スレ目 >>385 うpろだ365


 ――私は、○○のことが好き。
 外来人の癖に人里から離れた森の奥に住んでる変わり物だけど、優しいし暇を潰しに遊びに行けばお菓子とお茶をくれる。
 ○○の家で昼寝して、ついうっかり寝過ごしちゃってもちゃんと毛布をかけてくれる。
 偶に頭を撫でてきて髪をくしゃくしゃにしてくるけど、大きな手は暖かいし気持ちいい。
 だから、今日も特に理由は無いけど○○の家に遊びに行った。
 行ったんだけど――


「はぁ……」
「むぅ?」


 何というか、違うのだ。
 縁側で日向ぼっこしてる姿とか、のんびりとお茶を啜っているところとかはいつもと同じなんだけど。
 ……日光浴より月光浴の方が体に良いってこの前言ったんだけど。
 何だかよくわからないけど、雰囲気というか空気と言うか。
 とにかく、いつもと同じ様子の○○はいつもとどこかが違う○○なのだ。


「あぁ……こいし、いらっしゃい」
「うん、お邪魔するー」


 そうして暫くじっと見ていたら、何故だか○○に気付かれた。
 いつもなら私が声を掛けるまで絶対に気付かれないのに。
 よく分からない。首を傾げつつも、上がっていいと許可を貰ったので、いつもどうりに○○の胸までまっしぐら。
 男にしては細身な割に、そこそこ逞しい体は抱き付いて気持ちがいい。
 だから今日も抱き付いた。
 抱き付いたんだけど――


「ぐふ、」
「あるぇ?」


 思いっきり押し倒してしまった。
 そうすると必然的に○○のお腹に馬乗り状態になっちゃうんだけど。
 倒れた○○は目が開いたままなのに死んだみたいにピクリとも動かなくて、少し
 気持ち悪い。
 なにがあったんだろう?


「今日のあなたは意味が分からないんだけど……何か悪いものにでも憑かれたの?」


 例えばお燐の怨霊とか。
 ○○はよく博麗神社に行くし、変なものが頭に憑いていてもおかしくない。
 だけど○○は静かに首を横に振って、私を抱き上げて横に退かすとゆっくりと起き上がった。


「――ケンが、死んだんでさぁ」
「……え?」


 ケン、というのは○○の飼っていた犬の名前だ。
 大きな白い犬で、お姉ちゃんの飼っていたペットたちと違って知能も低いし大した力も無いけれど、とにかく人懐っこくて毛がふかふかしていた。
 私もここに来る度に、背中にもふもふと抱き付いていたものだけれど。


「……なんで?」
「分からないなぁ、一昨日までは元気に庭を駆け回ってたんだがなぁ」


 ――昨日にはそこで動かなくなってた。


 ポツリと呟いて、縁側の柱に目を向けた。
 特に悲しみだとか、辛いだとかそんな感じはしないんだけど。
 何にも考えていないような、無意識に犬の駆け回る姿を追っているような。
 ○○の目には景色が写っているけど、○○の目には景色が見えていないんだろう。
 きっと、○○だけにしか見えないケンの姿を見ているんだろう。
 それは良くない、私の好きな○○はそんな顔はしない。


「……えい」
「おう!?」


 だから私は○○の頬を抓った。
 間抜けな声を出して、赤くなった頬を撫でさする涙目な○○。
 よし、ちょっとだけいつもどおり。


「……こいし?」

 あ、ちょっとだけ怒ったみたい。

「だって、今日の私の好きなあなたは、私の嫌いなあなたなんだもん」
「はぁ?」
「つまり、私は○○が大好ってこと」


 言うだけ言って、○○の胸に顔をうずめる。
 ○○は少しだけ呆けていたけど、呆れたように溜め息を吐くと抱きしめ返してくれた。
 そうして、大きな手で私の頭を撫でてくれた。

 ○○は優しい、私の我が侭にも付き合ってくれる。
 もし私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じなんだろうなぁって思う。

 ぎゅうって抱き付いた○○の体はとっても安心出来て、暖かくて。
 暖かい春の陽光に身を任せて、私たちは微睡みに落ちて行った。


 ――だから私は、○○が好き。


こいしこいした(新ろだ622)


 いつものように朝日が射しこみ、その柔らかな光で目が覚める。
 青年は両手をピンと広げ、あくびをひとつ。

 眠たい目をこすりながら適当に身支度を整え、外出。散歩ともいう。
 酒を片手に道をぶらぶらする姿はどこかの鬼を連想させる。まだ飲んではいないのだが。

 青年の名は○○。一年ほど前に幻想郷に迷い込んで以来、すっかりこの世界に馴染んでいた。
 当人も外の世界に帰るつもりがないらしい。

 そして○○の後に続く人影がひとつ。黒い帽子をかぶり、体から伸びた管のようなものが印象深く、その中心には球体がひとつ。それは閉じられた第三の瞳だった。
 古明地こいし。本来は地底に住んでいる妖怪である。無意識を操る程度の能力を持ち、様々な深層意識に干渉できる能力である。精神に依存する妖怪からすれば恐るべき能力だろう。

 そしてその恐るべき能力は現在○○を尾行するために使われている。

 こいしは○○に深い愛情を抱いている。四六時中ついて回りたいほどに。
 はじめは人里で見かけてのことであった。幻想郷らしからぬ服装は人目を引き、彼女の興味もはじめはそれに向けられていた。
 しかし、彼の穏やかな人柄、のんびりとした空気。それは人妖問わず人気のあるものだった。こいしとてその例外ではない。なにせ四六時中○○を見ているのだから。

 博麗神社へ行けば小銭とはいえ必ず賽銭を入れて、その後お茶を飲みながら楽しそうに霊夢と談笑したり。
 紅魔館へ行けば門番に快く迎え入れられ吸血鬼の姉妹や魔女たちと一緒に紅茶や菓子に舌鼓を打ち、午後を緩やかに過ごしたり。

 そんな彼の姿を見ているうちに自分の胸の中が熱くなるのを感じていた。
 最初はそれが何なのか理解できなかった。だから姉のさとりに聞いてみた。

「それは恋というものよ、こいし」

 ああ、これが恋なんだ。でも、いつの間に好きになったんだろう。
 自分が抱いた感情の正体を知った時の反応は案外淡白なものだった。知ったとて簡単に心持ちが変わるものではなかったし、何より異性に関わることが極端に少なかったのだから。
 けれど恋を知ったこいしは○○にますます惹かれていった。
 フラフラとあちこちを目的もなく歩く姿がかつての自分に似ていたから興味を引かれたのかもしれない。でも自分と違うのは道行く誰からも好かれていた、という一点だった。
 そして自分を恋という新しい旅路へ導いた○○をもっともっと知りたい、願わくば二人一緒にその道を歩んでいきたい。
 形のはっきりしない、しかしとても強固なレールがこうして敷かれていった。



 そして今に至る。

 ○○は人里にやってきてアテがあるわけでもなくぶらぶらと散歩をしていた。その少し後ろにはこいしがぴったりとついて回っている。能力のおかげで誰もこいしの気配を感じられない。
 こいしは恋をしているにも関わらず、○○に一切の直接的な接触をしたことがない。

 異性に対して極端に内気なのだ。
 以前香霖堂で外界から流れてきた本を読んで色々と間違った方向で恋愛を勉強してしまったため、異性についてややおかしな方向で理解を深めてしまった。
 少し第三の瞳の瞼が緩んだとはいえ、感情の起伏が少ない彼女が顔から火が出そうなほどに赤面してしまうくらいの内容だった。
 前に何度か頭の中で自分と○○が一緒にいるところを想像してみたがろくに顔を見れずに会話にならない、という結末ばかりだった。

 もうひとつ、その弊害として妄想癖がひどくなってしまった。

 彼女とて四六時中○○について回っているとはいえ不眠不休というわけにはいかない。○○が夜寝るように、彼女もまた地霊殿に戻って眠るし食事だってきちんととる。
 そんなわけで、自分が見ていない間の○○がどうしているのだろうと情操教育によろしくない妄想を日々ヒートアップさせているのであった。

 そして○○はふらっと寺子屋の前に立ち寄っていた。里の守護者である上白沢慧音が子供たちに勉強を教えている場所である。

「こんにちは先生、お邪魔しますよっと」
「ん、ああ○○か。こんにちは。ってお前はまた酒なんか持ち歩いてるのか、萃香じゃあるまいに…まったく。…大概にしておくんだぞ?」
「はは、酔いつぶれない程度にはしときます」
「お前も子供たちに物事を教えるのはうまいんだからもう少しだな…」

 説教なのか日常会話なのかよくわからない話を立ち聞きしながらこいしは○○を見守るように微笑んでいた。
 その後も妹紅に会って慧音と同じように呆れたような顔をされていた。どちらも怒っているというわけではなく、心配されているような感じだった。
 しばらくすると今度は早苗に出会う。

「あら○○さん、こんにちは」
「あーこんにちは早苗ちゃん。買い物でもしてたの?」
「ええ、夕飯の買い出しに」
「…ははあ、その材料を見たところ今夜は焼き魚、味噌汁、煮物ってとこかな」
「もう、○○さんったら」
「いやー、普通の料理でも作る人がちがうとさ、なんていうの?愛情?」
「ふふ、わかりました。一緒に行きましょう」
「あらー、悪いねえ。お賽銭ははずんどくよ!」
「いえ、そんな。私もその…、好きでやってることですから……」

 少し早苗の頬が赤くなる。こいしは逆に不満そうな顔になってゆく。

「それに洩矢様も八坂様も○○さんが来ると嬉しそうになさるんですよ」
「そいつはよかった。俺もお二人さん、いや、お二柱さん?まあいいや、とにかく色々と面白い話も聞かせてもらえるし寝床も貸してもらっちゃってるしね」

 付け加えると○○はダメ人間である。どうしようもないレベルの。
 しかし、それでも人妖問わず人気があるのは、いい加減に見えて彼が一度受けた恩や親切は絶対に忘れないというところに起因する。

 早苗に手を引かれて空中へ浮かんでいく○○。こいしも二人の後を追った。

 追ってきた先は守矢神社。こいしも地霊殿の異変の際に一度立ち寄ったことがある。
 空から降りてきてすぐ、出迎えるように諏訪子が待っていた。

「あ、早苗おかえりー。ん、○○も来たんだ」
「ああこんにちは諏訪子様。へへへ、成り行きで晩飯をご馳走になることになりまして…」
「またそんなこと言ってー。早苗も簡単に丸め込まれすぎだよー?」
「うう…。で、でもご飯はみんなで食べたほうがきっとおいしいですよ」
「そうそう」

 人里の時と同じく楽しそうな会話が流れてくる。
 三人のすぐ後ろでこいしは聞き耳を立てていた。不満そうな顔は崩さないまま。

「ねえねえ○○、早苗が夕飯作るまで一緒にあそぼ?」
「お、いいすよ」
「そうだよ。あーうー、一人じゃつまらないからねー。対戦相手が○○しかいないんだもん」
「ははは、光栄です」

 諏訪子に上着の袖を引っ張られて○○は神社の奥に引っ込んでしまった。それに合わせて二人の後をついていく。
 諏訪子の部屋はそれほど大きくはない部屋だが、退屈しのぎのための道具すなわちゲーム機の類が所狭しと並んでいた。そのせいで見た目以上に狭い。
 邪魔になっているものをどけて二人分の座布団を並べて仲良くそこに座っている。

「どうした諏訪子よ、その程度で俺をどうにかできると思ったのか!」
「あーうー、そんなこと言ってられるのも今のうちだよ!」

 口調こそ喧嘩をしているようだが絶えず二人は笑顔だった。
 そして柱の影には嫉妬妖怪がじーっと二人を見つめ続けていた。もちろんこいしだ。
 私の○○とあんなに馴れ馴れしくして、と嫉妬と羨望が入り混じった感情で口をへの字に結んで二人の姿を見ている。

「おや、そんなとこで何してんだい?」
「!?」

 どうやら能力で気配は消せても姿そのものは消せるわけではないからさすがに神様にはばれてしまうらしい。
 すっかり前方にしか注意の向かなかったこいしの後ろには神奈子が腕を組んで立っていた。

 脱兎のごとくその場から逃げていくこいし。

「あ、ちょっと!」

 烏天狗も顔負けの速度で妖怪の山をあっという間に飛び去っていく。
 しばらくして追ってこないとわかると地面に降り立ち、息を切らせて休む。

 どうやら無意識のうちに○○の家の方向へ進んでいたらしい。
 これも愛の力なのねと妄想に浸りながら○○の家へ歩を進める。平屋の家には鍵がかかっておらず、どうぞお入りくださいといわんばかりの様子だった。

 事実こいしは何度も彼の家に無断で出入りを繰り返している。
 だが別に何か盗むわけでもなく、○○の様子を至近距離から胸の鼓動が早くなるのを感じつつ眺めてみたりとか、ろくに掃除も整理整頓もしない○○に代わって勝手にそれをやっておくのだ。
 もともとこいしは家事などしなかったが、愛する○○のために姉のさとりから色々と教えてもらったのだ。だから、○○の家は時々こうしてきれいになり、家主である彼自身も少し不思議に思っているのだ。
 ○○は勘も悪いダメ男ではあるが、さすがに誰かが自分の部屋に入ったりしているのだろうかと思っている。

 そしていつものようにどこから取り出したのかわからない清掃用具を片手に掃除をはじめる。そもそも物の少ない家なので掃除自体は楽なもの。金銭なども○○自身が肌身離さず持っているし盗まれて困るようなものもほとんどない。
 まったく私がいないとダメなんだから…と妻のような、恋人のような気持ちでうっとりした表情を浮かべながらほうきでゴミや埃を掃いている。

 ひととおり掃除が終わり、ふうっと一息ついて自分の掃除のできを再確認。満足してうなずき、○○の家を後にしようとする。
 その時ふと○○の服が目に留まった。一度自分で畳んだそれを再び広げ、抱きしめる。
 ああ、○○のにおいがする。そんなことを思いながら、こいしはつい横になってしまった。
 守矢神社で見つかってからずいぶんと急に物事が進んでしまったためか、だんだんと眠気が深くなってくる。そしてそのまま、意識が沈んでいく。



「可愛らしい寝顔だことで」

 守矢神社で夕飯を済ませた○○が家へと戻っていた。
 そして戸を開けると見知らぬ少女がひとり。おまけに自分の服を抱えて眠っているではないか。
 これはいったいどういうことかと考えてみたがこの少女と自分は面識はないはずだ。
 まあ別に自分の部屋に誰かがいても仕方がないし別段追い出すつもりもない。それはいい。
 だが自分の服を抱えて眠る、いったいこれはどういうことだろう。
 ○○はそんなことを考えながら、安心した表情で眠るこの少女を膝で寝かせている。

 しばらくすると、少しだけ眉をきゅっとひそめて少女が起きたようだ。

「んん…ん…」

 こいしは目が覚めた時、頭にふたつの違和感を覚える。
 まず、かぶっていたはずの帽子がないこと。もうひとつは、今自分が寝ているのがどうも畳の感触とは違うということ。ぼんやりとした思考で考え、ふと上を見上げる。
 青年がにっこりと笑ってこちらを見ていた。誰かに似ている。
 あれ、なんで○○がここにいるんだろう。そんなことを考える。

「……!」

 そして思い出した。ここは○○の家だということを。そこからすべてを理解し、目をかっと見開いて飛び起きる。

「おやお目覚めのようで」

 相変わらず○○はにこやかな表情を崩すことなくこいしと向き合っていた。こいしは自分がどんな状況にあったのかを理解し、ゆでられたように顔を赤くする。

「あ、あ、あの……っ!」
「ああ、なんか家に戻ってきたら君が寝てるもんだからさ。起こすのもなんだか悪いと思ってね、はは」
「え、えっと…」
「そうだそうだ。自己紹介しとこうか。俺は○○。君は?」
「え? わ、わたわた、私は…こ、古明地…こいし……」

 最後のほうは消え入りそうな声で俯いていた。

「そっか、こいしっていうのか。…あれ? あのさ、どこかで会ったことあったっけ?」
「う、ううん…ないよ…」

 直接会ったことは、だが。
 ○○の私生活についてはおそらくこいしが一番詳しいだろう。

「んー、それじゃ誰なんだろう、なんか時々部屋がいやにきれいになってるっぽい時があるんだけどなあ…」
「!!」

 ダメ人間の鈍感の○○でもさすがに感づいていたらしく、わからないふりをしてそれとなくこいしの反応を見る。

「…ごめんなさい。本当は私がずっとやってたの…」
「なあんだ、ずっとこいしがやってくれてたのか、そっかそっか」

 そういってこいしの頭を撫でる。部屋に無断で入られたことなどまるで気にする様子はなかった。
 漫画ならここでこいしから煙が吹いていることであろう。こいしにとってはそのくらいの恥ずかしさだった。同時に、恥ずかしさと同じくらい嬉しさもあった。

「え、えっと…、私もう行くね。そ、それじゃ」
「お? 別にずっといてくれても構わないよ?」
「そ、それって…あの……」

 どうやらこいしは○○が言っている意味とは若干違う意味でその言葉を捉えていた。

「ま、またね!」

 守矢神社の時と同じようにあわてて外に飛び出す。
 心臓が飛び出しそうになるほど恥ずかしい気持ちと同時に、もったいないとも思っていた。せっかく○○と話ができたのに自分から飛び出してきてしまった、と。
 でも、よかった。きっかけはどうあれ、自分のことをほんの少しでも知ってもらえて。

 だから、今度からは○○に私のことをもっともっと知ってもらいたい。
 そう思いながら、すっかり星空に包まれた幻想郷の夜を嬉しそうに飛び立っていった。そして、第三の瞳の瞼ががまた少し緩くなるのを感じた。










 それから。
 相変わらず気恥ずかしさから直接○○と話すことはなく、またいつものように○○の後をついて回っていた。
 だが、○○の部屋に変化が起こっていた。

 湯のみ、座布団。そういった道具が一セットずつ増えていた。
 こいしのためにと○○がわざわざ買い揃えていたのだ。その他にも菓子などが置かれており、家をしょっちゅう留守にする自分が彼女をもてなすための最大限の感謝の表れだった。
 菓子は買ってきたものではなく、○○自身が作ったものだった。
 この男、ダメ人間のくせになぜか菓子作りは妙にうまいのだ。あの一件以来○○の家にはほのかに甘い匂いがただよっている。

 こいしも○○の好意を素直に受け取っていた。少し残念に思っていたのが、○○自身が掃除をして出て行くようになったことだ。
 これでは自分がやることがなくなってしまうと落胆したが、ふと考える。
 なぜ○○自身が掃除をするのかを。

 彼は自分の家で自由にくつろいでいってくれと、そういう意味で掃除をしたり道具を買い揃えていたということに他ならない。
 そう思うと自然と笑みがこぼれるのがわかった。

 ○○はこいしが家に来ることを知ってから、彼女にせめて今までの礼をしなければ、と考えていた。
 そして時々こいしと鉢合わせて、またわたわたと慌てる彼女を可愛がって微笑ましい時間を過ごすこともあった。
 ○○もまた、自分をここまで慕ってくれる少女と関わっていくうちに、自分の胸が熱くなっていくのを感じていた。
 こいしと同じなのだ。今考えると多分一目惚れだったんじゃあないかなー。そんな風に考えていた。
 こんなやりとりが数ヶ月経ったある日、こいしに書き置きを残して家を後にする○○。

 書き置きの内容はこうだった。

 『こいしへ──
  いつも部屋の掃除とかこいしがやってくれてありがとう。重ね重ね何度も繰り返すけど、本当に感謝してる。
  しかしまあ知らなかったとはいえ今までろくにお礼も言えなかったから。やけに家の中がきれいになってるなー、とは思ってたんだよ。
  ああ、そうそう。これにはちょっとした仕掛けをしておいたんだ。
  いやー、こういうのも回りくどいかなって思うんだけどね。照れくさいし俺もしょっちゅう家を留守にしちゃうからさ。
  しょうがないことなんだけど、どうにもこの放浪癖は抜けそうになくてね。こいしだったら俺の気持ちをわかってくれるよね?
  てなわけでいつものように留守にするよ。今日のお菓子はちょっと奮発したからいつもよりおいしいと思う。もちろん味見したけど会心の出来だった。 
  るろうの旅ってわけじゃないけど、あてもなくぶらぶらするのってやっぱり楽しいんだよなあ。今度こいしも一緒に行かないか?』


 そしていつものようにこいしは○○の家へとやってきた。そして書き置きを見つけると──








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あとがき

ろくに推敲すらしてないしプロットもいい加減だから後半gdgdだよ^q^
何が書きたかったといえば異性に免疫のないこいしちゃんが書きたかっただけだよ!あとあいしてる。

7/20追記
少しだけ脱字とか修正した。
24スレ目の852氏よりタイトルを拝借。感謝。


新ろだ677



 元来、勘が良い方じゃない。
 中学、高校とテストをしてきて、あてずっぽで書いたマークが合ってたことは一度も無い。
 ……いや、一度くらいはあったかもしれないけど。
 どっちにしろ、勘が悪い。

 ただ、まあ、その日は何か違った。

 縁側に座って、いつものようにお茶を飲む。
 淹れたてより、ほんのちょっと時間を置いたのが一番美味しいんだ。
 程よく冷めて、お茶の味を口全体で楽しめる。

 そんな事を考えながら、ししおどしの声に耳を傾け、午後のひと時を過ごしていた。


「ん?」


 虫の知らせってやつか。
 体がざわざわした。

「誰かいるの?」

 物音はしてない。
 だから、確証は無い。完璧な直感だ。
 そして、こういうときの直感こそアテにならないのは自分でもよく分かってる。

 カタン……

 音がした。
 確定だ。
 誰かいる。

 腰を上げ、音のしたと思われる方向へと歩いていく。

 畳の感触が裸足には心地良い。
 変わりない我が家の風景。大きくは無いが、落ち着いた雰囲気がお気に入りだ。

 座敷を抜け、玄関の場所。
 そこに、少女がいた。

 黒い帽子、閉じた胸の瞳。
 くせのある銀髪は姉のそれとは対照的だ。

「こいし……?」

「あ……」

 驚いたようなこいしの顔。
 絶対に気付かれないと思っていたのだろう。

「えと……」

「あー……」

 沈黙が数分。


「……お邪魔していいかな……?」

「え、ああ。どうぞ、上がってくれ」

 消え入りそうなこいしの声が、気まずい静寂を破壊した。







「美味しい……」

「そりゃ、俺が淹れたお茶だからな」

 縁側にこいしと二人。
 俺が淹れたお茶を互いに飲んで、外を眺めている。

 秋も近づいてきて、日は陰り、風が存在を大きくする。
 葉の色も染まり、緑の風景は、紅へと変容していた。

「ははっ、面白い冗談を言うね」

「冗談じゃない!?」

「あははっ」

 そう言いながらも、こいしは美味しそうにお茶を飲んでくれる。

「そういやさ、何で今日は家に来たの?」

「え? あ……ああ、うん。ちょっと……悩み事があって……」

「悩み?」

 はて、こいしに悩み事とは珍しい。
 そもそも妖怪に悩み事が珍しい。口に出したら殺されるだろうが。

「うん。悩み事」

「へえ。良かったら、話を聞こうか?」

「聞いてもらうために来たんだよ」

「ああ、そうか」

「もう……」

 少し、頬を膨らませるこいし。
 秋風が、互いの間を吹きぬけた。

「それで、悩みってのは?」

「うん。……私ね、最近、胸が苦しいの」

「……ふむ。そういうのは永琳さんの場所へ行った方が早いんじゃないかな」

 心臓病か何かだろうか。
 医学のいの字も知らない俺に相談されても困るな。

「もう、行ったよ! でもね、原因が分からないって」

「なるほど」

 永琳さんでもわからないことを俺に相談されても、正直、困る。

「うん」

「今も苦しいの?」

「うん、○○を見たら、余計に……」

 なんだ!
 まるで、俺が悪いみたいじゃないか!

「俺が悪いのか、それ……」

「違う、違うよ。違うの。言葉じゃ上手く言えないけど……○○は悪くないの……」

 一体どうしたのか、この子は。
 いつもの様子じゃない。

 やけにしおらしいというか、女の子らしいというか。
 いつもなら、そんな素振りは欠片もみせないのに。本当に病気か?

「ねえ、○○……」

「ん?」

「ギュッて……して」

「へ」

 何と言ったか。

 言葉を反芻し、意味を理解する前に、こいしが、俺の胸に、

「……っ」

「あ……」

 飛び込んで来た。

「お願い、お願い。早く、ギュッてして……お願いだから……」

 泣きそうな声で、眼に僅かばかりの雫を浮かべて。

「……あ、ああ……」

 ギュッと。

 こいしは思いのほか小さかった。
 この、両の腕。すっぽりと収まってくれる。

 息を吸えば、髪より香る匂いが、鼻の中へと入ってくる。

「今も、今もね、胸が苦しいよ。ドキドキしてて、落ち着かないの」

「こいし……」

「でもね、すごく安心する。すごく嬉しいの……」

「……」

 こいしの気持ちの正体。

 自惚れじゃ無ければ当たりはつく。
 でも、俺の勘は鈍いから。
 これもきっと外れるわけで。

 だったら、気付かないフリをして。

 まずは、今、できることをしよう。

「○○……もっと、もっとギュッとして……私が、どこにも行かないように、もっと、ギュッと……」

「……うん」

 腕に、更に力を込めた。

 背中に回し手の片方を、こいしの後頭部に持ってきて、胸に押し付けるように、ギュッと抱きしめる。


 その直前。

「……………………き……………………」

 こいしが何かを言った気がした。


 でも、勘の悪い俺は何を言ったかわからなかった。
 ただ、黙って、抱きしめる力を強くした。




新ろだ2-171


 ~プライバシー保護のため音声は変更しています~



<文々。新聞の者です。質問いいですか?

「え? あ、はい。どうぞどうぞ」

<最近某DSの恋愛ゲームが幻想郷で流行っているらしいのですが、あなたはお持ちでしょうか?

「え? ラ○プラスのことですか? ハハ、持っていますよ。もちろん恋人には内緒ですけどね。もし知られたらどんな目に遭うか……。え? 後ろ? 志村後ろ後ろ? 一体なにうわなにするやめ



 ~\(^o^)/~





「○○」

 ○○は恋人であるこいしによって地霊殿のこいしルームに誘拐されてしまった。そしてラ○プラスのカセットを目の前に置かれ、正座させられていた。

「な、なんでしょうか」

 選択肢を間違えたら即デッドエンドだ! そう○○は思った。
 ○○と恋人になった時、紆余曲折を経て第三の瞳を開いたこいし。心を読めるこいし相手に隠しごとはできない訳なのだが、今までこいし相手にラ○プラス所持が発覚しなかったのは、こいしの前ではこいしのことしか考えないという○○の努力というか、癖というか、惚気というかの賜物である。
 ただ、今となってはそれも無意味である。

「○○は私に言ったよね? 「俺はこいしだけを愛してる」って」
「も、もちろんでございます! 今でもその言葉に偽りはございません!」
「へー? じゃあコレは何なのかなー? 私分からないよー」

 こいしの足がカセットの上に移動する。同時にカセットの運命のカウントダウンが始まった。

「お、おおおお落ち着いてくれこいし! 話せば分かる! 冷静になるんだ! ビークール、ビークール! 俺はそれを教科書の一つとして採用していただけなんだ!」

 ピタ、とこいしの足が停止する。
 こいしは○○を見るとんよく心の中が見えるようにか第三の目を顔の前へと移動させた。

「教科書?」
「あ、ああ。最近、俺はこいしとのイチャにもう少しボリュームが欲しくなった。そこでなにか新しいイチャを開拓しようと思ったんだが、もちろんそんなことを教えてくれる知り合いもいなければ、読み物も無い。だからラ○プラスを教科書とすることでイチャの幅を広げようとしたんだ!」

 叫ぶように言う○○。こいしはそんな○○をスッと見ると、近づいて抱きつき、○○を見上げた。

「私、○○に飽きられちゃったのかと思った」

 呟くこいし。目には涙まで浮かべている。

「こ、こいし!?」
「耐えられないよ、私。○○が私のこと嫌いになっちゃうなんて」

 ぎゅ、とこいしは抱きしめる力を強めた。

「お願い、私を嫌いにならないで。○○だけが私を愛してくれている。私を嫌わないでいてくれている。○○が私を嫌いになったら、私今度は絶対に目を開けられなくなっちゃう」

 ポロポロと、頬を伝って涙が落ちた。

「……ごめんな、誤解させるようなことしちまって。そうだよな、こいしがそう考えちまうのも無理はないよな……。今度からはラ○プラスに頼らないでこいしとのイチャを模索するよ」
「もう誤解されるようなことしない?」
「ああ」
「私を今まで以上に愛してくれる?」
「ああ」
「じゃあ、抱きしめて、キスして……?」

 ほんのりと顔を赤らめて言うこいし。
 ○○はこいしを抱きしめ返す。そしてどちらともなく唇を寄せあい、二人はキスをした。
 いつしか、こいしの涙は嬉涙に変わっていた。


















 アトガキ

 遅筆なせいで大分流れに乗り遅れてしまった……。内容と短さに関してはSS久しぶりだし、ラブプラス全然知らないので多少は許してほしいです。
 全部PSPで書いてPSPで投稿したら大分疲れました。


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最終更新:2010年10月16日 23:35