こいし4
Megalith 2012/01/17
人里から僅か離れた空き地。
そこに、一軒の家が建っている。
家と言うことは、そこに住んでいる存在も居る訳で。
丁度夕餉の支度中なのか、台所と思しき窓からは湯気が湧き出ている。
その台所に立つのは、この家の主。
外の世界から流れ着いた、一人の青年だった。
何やら鼻歌を歌いながら、グツグツ煮立つ鍋の中をかき混ぜている。
「よし、こんなもんかな」
一度火を消した青年は、隣の部屋に姿を消した。
すぐに戻ってきたその手には、トマトやレタス、胡瓜と言った野菜が乗せられた籠があった。
レタスを剥き洗い、慣れた手つきで胡瓜とトマトを輪切りにする。
それをまとめて皿に盛り、上からドレッシングをかけた。
「よし」
満足げに頷き、その皿を居間にある炬燵兼食卓の上に置く。
炬燵に入り、一度時計を見て再度頷く。
「後は、待つだけだな」
誰かを待っているのか、扉に視線を向けた途端。
扉が、カラカラと音を立てて引き開けられた。
そして、家の中を伺う様に少女が顔を覗かせる。
「こんばんはー」
「よ」
少女に軽く手を上げ、挨拶とする青年。
少女は嬉しそうな表情を浮かべ、玄関から飛び込む様に駆け寄って来た。
ショートブーツを玄関に脱ぎ散らし、そのままペタペタと走ってくる。
「もしかしてベストタイミング?」
「もしかしなくてもその通り」
柔らかな笑みで少女を見上げ、青年が言葉を発する。
「おかえり、こいし」
古明地こいしは、笑みを浮かべて返した。
「うん。ただいま」
こいしがここに住む様になって、はや数ヶ月が経とうとしている。
とは言え、俺の家にずっと居るわけじゃないけど。
地霊殿の主であり、こいしの姉さんであるさとりさん。
彼女に許可を得て、月の半分ほど、こいしを預かる事になったのだ。
勿論、俺としてはずっと一緒に居たいが、こいしにもこいしの生活があるからそこを強要する訳にも行かないし。
「何考えてるのー」
追憶の海に沈んでいた意識を引きずり戻したのは、こいしの声だった。
「ああ、風呂あがったか」
「うん。良いお湯でした」
「お粗末様です」
屈託のない笑みを浮かべているこいしの格好は、今は薄いTシャツとホットパンツだけである。
軽く湿り気を帯びた波打つ髪や、少し上気して赤く染まる頬。
襟首から覗く肌色の……。
…………落ち着け、俺。
暴走しそうになる理性をねじ伏せ、立ち上がる。
「んじゃ、俺も入るかね」
「いってらっしゃーい」
笑顔で見送るこいしを置いて、風呂場へと向かった。
「反則なんだよな……」
湯船に浸かりながら、俺は一人ごちるように呟く。
そうだ。可愛すぎるこいしが悪い。
男と一緒に暮らすと言う事が、何を意味するのかは判ってるはずだ。
「そう言うの、判って……ないかもなぁ……」
何しろ、相手はあの無意識妖怪だ。
言葉にした事でも伝わっているか不安な事も多いのに、言外の意味を理解しろと言うのは難しいか。
「だったらいっその事、伝えるか?」
こいしを、言葉の通り俺の物にしたい、と。
「……言える訳ないよなぁ……」
小心者の自分を呪いたくなるが、やっぱり同意の上でないと俺が嫌だし。
「……しゃーない、耐えろ俺」
手ですくった湯を顔にかけ、俺は立ち上がった。
俺が風呂を上がると、こいしは台所で洗い物をしていた。
「ああ、ありがとなこいし」
後ろから近づくと、こいしがこちらを振り返った。
それと同時に、俺は壁際まで跳び退いた。
「あ、おかえりー」
笑みを浮かべているこいし。笑顔で包丁を握りしめてるのは、湯上がりの体温が消え去る程に恐怖をかきたてる。
「た、ただいま……」
何とか返答すると、笑みのまま流し台に向き直った。
「もうすぐ終わるからお茶入れてもらえるかな?」
「あ、ああ」
何とか冷静に返して、冷蔵庫を開ける。
「コーヒーで良いか?」
「なんでもー」
背中越しの声に頷いて、缶を二本取り出した。
「でもほんとに好きだよねこのコーヒー」
「文句あるなら飲むなよ。これでも高いんだからな」
居間にて、風呂後のティータイム。香霖堂から仕入れてきた、外の世界の缶コーヒーである。
昔を懐かしむ訳じゃないんだが、この安い味が時折恋しくなる。
「おやじくさーい」
「うるせ」
正直、味で行くなら自分で煎れた紅茶の方が遙かに美味いのは知ってる。
それにしても、今日も色々あったなぁ……。
「布団敷けたよー」
……はっ。いつの間にか寝落ちしてたのか。
こいしの声に意識を引き戻され見上げると、優しい笑みを浮かべたこいしが見下ろしていた。
「……おはよう」
「お疲れさま」
差し伸べられた手を掴んで、立ち上がる。
「布団で寝ないとまた風邪ひくよ」
「ん、悪い」
そのまま、こいしの手を握ったまま寝室に移った。
「さて、寝る……か?」
寝起きで動かない頭に、何故か疑問符が浮かぶ。
「うん、寝よ寝よ」
こいしに手を引かれるまま布団に近づき、そのまま布団の中へ――
「ちょ、おい!」
やっと動いた脳で、こいしの手を振り払った。
「寝ないの?」
「寝る! 寝るさ」
首を傾げるこいしに、俺は断言する。
「いつも通り、別の布団でな」
そう。まだ一緒の布団で寝る勇気はない。襲わない自信も。
「ちっ」
「今舌打ちしたか」
「何のことー? 無意識だから判んない」
このやろ……。
笑顔のこいしを軽く睨み付けて、押入からもう一組布団を出してくる。
手早く用意を済ませ、部屋の明かりを落とす。
「んじゃ、お休み」
「お休みなさーい」
布団に入り、暗闇の中思考を巡らせる。
考えるのは勿論、今隣に眠るこいしの事。
さとりさんに許可を頂いたからには、この命尽きるまでこいしと共にある覚悟はある。だが、そこから一歩が踏み出せなかった。
こいしの事を愛しているのは真実だ。俺の思いに揺らぎはない。
だが、こいしからはどうなのか。それが掴めないまま、不安が心を煽る。
きっと、怖いんだろう。拒絶され、自分の前から彼女が消える事が。
堂々巡りに陥りそうな思考の中、意識がゆっくりと薄れていった……。
小鳥の声で目を覚ます。俺はゆっくりと瞳を開けた。
時間は、昼前くらいか。今日は仕事は休みだし、こいしと買い物でも行くか。
だけどもう少し惰眠を貪りたい。
寝返りをうって、
「!?」
真横にあったこいしの寝顔に硬直した。
「こい、し……?」
声をかけてみるも、寝息だけが返ってくる。
……どうやら、昨晩の間に潜り込んだらしい。
髪をなでてやると、くすぐったそうに身じろぎした。
「……ったく。無防備なカッコしやがって」
苦笑を浮かべ、抱き寄せる。
僅か身じろぎしたが、目を覚ました様ではない事に内心ほっと胸をなで下ろした。
腕の中の暖かな体温が、妙に安心感を与えてくれる。
「こいし……」
少し力を込めて抱きしめ、言葉を紡ぐ。
愛している、と言えたかどうか。
心地よい眠気の中、俺は贅沢な二度寝を決め込むことにした。
35スレ目 >>394
さとり「こいし、○○さんを目で追ってるわよ」
こいし「無意識だからしょうがない」
キスメ「飲み会の時いつも○○のとなりに座るよね」
こいし「無意識だからしょうがない」
お空「こいしさまお兄さんとの相合傘描いてる!」
こいし「無意識だからしょうがない」
お燐「こいし様最近その食玩集めてますよね、お兄さんの影響ですか?」
こいし「無意識だからしょうがない」
ヤマメ「おーおー目の前で手ぇ繋いで見せつけてくれるな~」
こいし「無意識だからしょうがない」
パルスィ「しかも指絡ませちゃって、妬ましいわね」
こいし「無意識だからしょうがない」
勇儀「どうやって落としたんだよ教えてよ」
こいし「無意識だからしょうがない」
チュッ
○○「!」
こいし「♪」
○○「今のも無意識?」
こいし「…」
ううん
これが わたしの こころの かたち
最終更新:2021年04月28日 21:21