小傘3



Megalith 2012/06/08



 今の時期を見誤っていた。

 この季節は梅雨だと既に新聞でも書かれていたし、傘を持って出て歩く人も多い。

 しかしながら俺は、今日は大丈夫だろうと軽い気持ちで家を出たことが間違いだった。

 数十分も経たないうちに雲行きが怪しくなり、マズイんじゃないかなと考えているうちに雨粒が顔に当たった。

 おいおい冗談だろと束の間、昨日と同じような天気になってしまったのである。

 幸いにして仕事場までには特に濡れることなく済んだのだが、いざ帰宅しようとしてもこの大雨だ。

 どうも今日一日ずっと降りそうであり、やむまで待つという選択肢はとれないらしい。

 仕事仲間は早々に引き揚げてしまったこともあり、この場所には俺一人しかいなかった。


 「どうするかな………」


 誰もいなくなった仕事場を振り返って、虚しく独り言だけが響き渡る。

 仕方ないか、濡れ鼠になって帰るしかないだろうかと覚悟を決めかけていたの時のこと。

 ふと、視界の隅に立てかけられている紫色の傘を見つけた。


 「誰かの落し物か?」


 その傘の持ち手の部分などを調べてみたが、どうも名前は書かれていないらしい。

 誰かの名前も分からない、随分趣味の悪い傘だった。

 置き傘なのだろうか、それならばありがたい話である。

 誰の持ち物なのかは分からないが、今日一日だけは勝手に借りることを許して欲しいと持ち主に願う。

 ………あまり人には見られたくない傘だけど。

 善行を積んだ甲斐があったのかなと、傘を差して仕事場を後にした。



















 「私を拾ってくれてありがとう!」


 家に帰り、夕食を済ませて風呂にも浸かってゆっくりしていた所。

 見ず知らずの少女が、俺の家に上がり込んでいた。


 「……………」


 最初はあの白黒の魔法使いのように物盗りじゃないかと思い、臨戦態勢を取ったのだが。

 向こう側の第一声は、予想外の一言に尽きた。


 「…………あの、どちら様ですか?」


 少なくとも、彼女を拾った覚えは無い。

 青髪でありながら、赤と青のオッドアイの瞳を持つ人物ならば記憶に残るはずだ。

 俺の頭の記憶の中を探るのだが、残念ながら彼女の該当する人物は見つからない。

 完全に初対面、全く名前さえ知らない相手だった。


 「あ、紹介がまだだったね。私は多々良小傘」


 舌を出しながら自己紹介を終えたのだが、その仕草が可愛いものだと思ってしまったのは不覚だった。

 だがどことなく、少し毛色の違うような気もしていた。

 そして、その予想は当たってしまう。


 「からかさお化け、妖怪だよ」

 「帰れ」


 すかさず二の句を言わさない早さで、次の言葉を封じ込めた。

 それを聞いてどうだろう、彼女は怒り心頭という表情を顔に貼り付けて抗議した。


 「ひどいよ!拾ってくれたじゃない!」

 「知らん、妖怪なんぞ拾った覚えは無い」 


 生まれてからここまでずっと一人で過ごしてきた。

 一人でいることが始めから当たり前だと思ってきただからだろうか、他人と一緒にいることが凄く疲れる。

 仕事以外の人との接触はあまりしないし、同居人や生き物を飼うなんて絶対にしない。

 だから目の前の彼女、もとい多々良小傘の発言が理解できなかった。

 拾った、などと実に馬鹿馬鹿しい。


 「傘!」

 「傘?」


 指を刺した方向に、帰宅時に大活躍してくれたあの傘が見えた。

 水を取り切ってから、傘立てに立てかけておいたままの。


 「傘がどうかしたのか?」

 「あれ!私!」


 必死になって力説する彼女だが、その説明に説得力は皆無だった。

 意味が分からない、あの傘が彼女だとでもいうのか。


 「馬鹿かお前、アレがお前だとでも………」


 そういえば、彼女は妖怪だと言っていなかったか?

 まさか、が確信に変わり始めていく。


 「そうだよお兄さん、私」

 「誰かに捨てられた忘れ傘、その妖怪なんだよ?」


 「おいおい………」


 だとしても妖怪と同居するつもりは無い。

 お前を拾った覚えは無い、と否定の意思を示そうと二の句を告げようとしたその時。

 俺を無視して更に続けて喋り出した。

 その言葉が、やけにはっきりと聞こえた。


 「やっと、やっと拾ってもらえたのに………」

 「なのに、なのに捨てるなんて酷いよ」


 「…………………」


 彼女も同じだというのか。

 捨てられ、置き去りにされて。

 それでも帰ってくると信じているのだろうか。

 絶対帰って来るわけがないと分かっていても、それでも帰ってくると信じているのだろうか。

 いつか、いつか両親に会えると思っていた俺のように。

 持ち主が現れるとそう信じているのか。



 そして、現れたかと思えばまた捨てていかれる。

 勝手な都合で、そうやって置いていかれるんだ。



 そう思うと、彼女を追い出すことに罪悪感が生まれた。


 「また、捨てるの?」


 その言葉が、胸に突き刺さる。

 今にも泣き出しそうな彼女を見て、俺は。 



















 また今日も傘を忘れてしまった。

 今度は仕方ない、仕事場の作業開始時間に遅刻寸前だったのだ。

 ドタバタしながらもなんとか定刻には間に合い、仕事仲間からは笑われながらも仕事が始まった。

 そして今、またしても帰宅の許可が認められたにも関わらず雨は降り続いている。


 「はぁ、今度こそずぶ濡れで帰るのか………」


 そう一人肩を落としているとき、雨粒の降り注ぐ向こう側から声が聞こえた。


 「おにーさん!」

 「小傘?」


 同居人が傘を持って現れた。

 あの時と同じ、趣味の悪い紫の傘を持って。


 「朝に傘忘れたでしょ?だから届けにきたよ」

 「………ああ、ありがとう」


 だがどうだろう?

 小傘の手には差した傘以外は手にしていない。

 つまり? 


 「………小傘、一つ聞きたいんだが」

 「何?」

 「お前を差して帰るのか?」



 「うん!」




 その問いに対して、彼女は笑顔で。

 捨てないと約束した、あの時の顔でそう返した。


 「帰ろう、お兄さん」

 「ああ、そうだな」


 一つの傘に、二人を入れて。

 忘れ傘の持ち主と共に、あるべき場所へと帰っていく。



 「お兄さん」

 「なんだ?」




 「これからも、私を使ってね?」




 「………おう」



 寄り添う二人は、仲睦まじく。

 未だ止まぬ雨の中を、ゆっくりと歩いていった。



もうすぐ梅雨ということで思いついたので。

置き傘が小傘みたく可愛く化けてくれないものだろうか………

無理だな。


35スレ目 >>410


小傘からもらったチョコバクバク食べていきなり「ウッ…!?」って苦しんで驚かせたい



実行したら泣きながら救急車呼ばれて永琳にガチギレされたわチクショウ
小傘にも「そういうドッキリはよくない、驚かせる素人のやること」って怒られた なんやねん素人って
ってプンスカしてたらなんか柔らかいものが僕の唇に触れて
頬を染めた小傘が「さっきの仕返し、びっくりした?」って
僕が唇に触れたものを理解してしまって

僕は…僕は…

雨よ止まないで
彼女の元に居たいから


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年05月03日 17:40