分類不能14
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俺は幻想郷に迷い込んだ。
訳の分からぬまま白黒の魔法使いに連れられ、
てか拉致られて博麗神社の腋巫女と出会った。
で、諸説明を受けたあとに……
「すぐに帰る? それとも観光でもして行く?」
「おっ、そりゃいいな。私が案内してやってもいいぜ?」
と、ご好意に預かり折角なのでお言葉に甘えることにした。
それからは実に順風満帆……ではなく荒唐無稽かつ波乱万丈な観光だった。
まず夜の散歩をしていたらカニバリズム少女と遭遇。
「あなたは食べてもいい人類?」
「いや、ヨゴレな俺を食べるとお腹壊すぞ。代わりと言っちゃなんだがこれを食べなさい」
夜食を分けて上げたら何だかんだで仲良くなってしまった。
その次の日。森の湖畔で蛙を苛めていたおてんば少女を発見。羽を噛んだら思いっきり怒られた。
その時氷付け寸前で助けてくれたのが大ちゃん。ヨゴレな俺にはその笑顔が眩しかった。
「よう、元気か二人とも」
「あーっ! ○○! 今日で会ったが百年前よっ!!」
「こんにちわ。今日もお散歩ですか?」
週一くらいで出会うようになった。
おてんば少女は未だに根に持ってるようだが、毎回使うおかしな言葉を指摘して誤魔化す。
ところで大ちゃん、あなた何故そこで微笑ましいみたいな目で見てきますかね?
幾日かして白黒にまた拉致られて、連れてかれたのが紅魔館というお屋敷。
何かその門のところにチャイナ少女が居た。話しかける間もなく白黒に吹き飛ばされていた。
「中国じゃないんです。紅美鈴なんですー」
何か呟いていた様だが聞こえなかった。とりあえず手を合わせておく。南無。
館のなかをぶっ飛ばして、図書館に入ったところで振り落とされた。
本棚に囲まれて困っているところを小悪魔少女に助けられた。小悪魔だと何か変なのでこぁと呼ぶことにしたら喜ばれた。
事情を話すと白黒は自分の主のところにいるだろうってことで案内してもらう。
「これは借りてくぜ」
「持ってかないでー」
白黒がこぁの主人を苛めていたので制裁を加えることにする。
脳天チョップを振り下ろし、奪ったのであろう本を取り上げてこぁの主人に返してやる。
「中々やるわね」
「凄いですー」
何故か尊敬の目で見られた。
それからお茶を楽しんでいたところ。
瞬きをして目を開いたら、何故か知らない部屋に居ておまけに目の前に幼女が居た。
「貴方が新しい客人ね?」
話をしたところ、この幼女は吸血鬼らしい。吸血幼女……新しいジャンルだな。
因みに俺をここに拉致ったのは吸血幼女の後ろで待機してるメイド長らしい。
「お茶、美味しいです」
「はい、ありがとうございます」
生メイドさんは初めてだが、やはり本物は違うな。
緑と赤のザクくらいに違う。
今度俺を拉致したそのトリックを教えて貰おう。
で、帰ったときに売る。うん、俺ってつくずくヨゴレだなぁ。
そんな事を考えた俺が悪かったのかもしれない。
そろそろ帰ろうと図書館に白黒を迎えに行ったんだが、迷った。迷い込んでしまった。
偶然見つけた扉を開いてみたところ、いきなり引っ張り込まれた。
「暇だから面白いことして。じゃないと壊しちゃうよ?」
神様仏様魔王様。ヨゴレな俺が悪かったので許してください。
知識の限りを尽くして昔話や童話を聞かせて丸一日。
「大丈夫か○○っ!」
「パト○ッシュ、僕もう疲れたよ」
やっと探し当ててくれた白黒を確認したところで、
今話していた物語の主人公の最後の名台詞と共に俺は意識を落とした。
それから暫くはのんびりしていた。
新しい出会いとしては、おてんば少女の紹介で雪女嬢に出会った。
至高のカキ氷に関して談義&製作を行った。ハチミツシロップは結構いける味だった。
「それじゃあ、またね」
別れる時には解けない雪うさぎを貰った。実は可愛いもの好きな俺には嬉しい限り。
今でも部屋の棚の上に飾ってある。
新しい出会いその2は人形使いの少女。
間借りしている神社の境内でお茶を啜っているところを尋ねてきた。
何でも白黒の友達らしく、森の奥で一人暮らしだとか。
それで人形を作り続けている……うぅっ、何て不憫な子なんだろう。
「俺でよければいつでも話くらい聞くぜ」
「あ、ありがとう」
出来る限り優しくしてあげようと心のメモ帳に書いておいた。
新しい出会いその3……てか出会いというか遭遇。
「春ですよー! 春ですよー!」
何て言いながら俺に向かって絨毯爆撃開始。
あんまりにしつこいものだから最終手段を取った。
「春分の日来てないから春はまだだぞ!」
「えぇっ!?」
ブラフをふっかけて驚いているうちに逃走した。
後日、お詫びの品(春の七草粥セット)を送ったので許してくれるだろう。
ああ、確かこの頃に演奏会に行ったんだった。
騒霊っていう三姉妹の不思議な演奏だった。
で、余韻に浸って暫く会場でのんびりしてたら件の三姉妹に声を掛けられた。
「でも残念なことに病気で死んじまってなぁ」
「あちゃー。折角良い所だったのに」
「芸術家ってのはいつも非業な死を遂げちゃうのよね」
「まあ、私達に限ってはとっくに幽霊だけど」
元の世界の音楽家の話を幾つか話してみた。
やはり感じるものがあるらしく結構食い付きが良かった。
今度会えたら現代音楽について話してみようと思う。
それから暫くして一回死んだ。
いや、どうやら臨死体験ってヤツだったみたいだけど実に稀有な経験だった。
その内容はというと、気づいたらどこかの庭の真ん中に立っていた。
訳も分からず途方にくれて周辺を散策していると、人影を発見。声を掛けてみたんだが。
「何者ですっ!」
いきなり刀を向けられた。理不尽だと思った。だから逃げ出した。
抜刀少女はありえない速度で追っかけてきたが、
丁度障害物の多い場所だったのでそれを活かして兎に角逃げまくった。
植木に隠れてやり過ごしたところで、そぉーっと顔だけだしてみる。
「あら、そんなところでかくれんぼかしら?」
「いえ、鬼ごっこです。頭にリアルって付くほうの」
反射的にそう応えてしまったが、すぐ十数センチ前にある女性の顔にドキドキだ。
それからご合判に預かることになり。また抜刀少女に会うことに。
幽霊婦人の説明で首元に突きつけられた刀は引いてくれたが、未だに視線が厳しい。ちょっと泣きたくなってきた。
それから新しい出会いと祝して軽く飲ませて貰ってたんだが……
「きいてるんれしゅか○○しゃん!」
「ああ、はいはい聞いてます。大変なんだねぇ」
「しょーなんれしゅ! わらしらって……うわーん!」
「何故泣くっ! 俺にどうしろとっ!」
「あらあら、お熱いことね。私も混ぜてくれるかしら?」
「貴女も酔ってるんですか!」
それから朝まで飲んで酔いつぶれた。
そして目が覚めたら神社の縁側で寝ていた。
太陽が丁度昇ってきているところ……って、俺ずっとここで寝てたのかよ。
あの腋巫女め、一晩中放っておいたのかよ。
「○○。起きたんなら早く朝食の準備して」
「あいあいさー」
そしていつものように朝の準備に取り掛かる。居候の辛い所だよね。
唐突だが、俺はもしかして拉致られ体質ってヤツなのかもしれない。
あと彷徨い体質ってのもあるかもしれない。
事の発端は、村に買い物に行った帰り道で猫に餌をあげたことだろう。
「ありがとうございます」
喋った! 猫が喋った! そして猫耳少女に変身した!!
……いや、もうこれくらいじゃあ驚くに値しないか。
んで、どうもお礼に家に招待してくれるとか。
これが有名な猫の恩返しというヤツか。
しかし、俺は早く帰って縁側ですきっ腹にお茶を流し込んでいる脇巫女に餌を与えないといけないのだ。
丁重にお断りを入れたんだが、どうしてもと猫又少女も引かない。
「あっ! アレは何だ!」
「えっ! 何ですか? 何処ですか?」
どうにもなりそうにないのでヨゴレな俺はさっさと逃げることに決定した。
隙を突いて一目散に駆け出したんだが、一歩踏み出した途端に落ちた。何故か落ちた。
そして気づいたらどこか和風めいた部屋の座布団の上に座っていた。
そして上記の思考へと至ったわけだ。
「この度は話が我が主人が迷惑を掛けてしまって申し訳ない。どうやら橙にもよくして貰った様で」
「ああ、いえ。迷惑に関してはもう慣れましたから。それとあの餌付けも気まぐれですし」
何かなんとも言えないといった感じの苦笑いを浮かべられた。
ところで、その背後で揺れているもふもふした尻尾は何なんでしょう? しかも九本。
ええ、分かっています。狐ですね。九尾の狐ですね。
「昔大暴れして獣○槍でやられたり、どっかの隠れ里襲ったことあります?」
「いや、そんな記憶はないが?」
良かった。悪い人……もとい狐じゃないみたいだ。
ともかく、現在ここの主人は就寝中ってことだから暫く雑談で時間を潰すことにした。
俺の世界での(俺的)九尾の狐の評価や、色んな作品で使われていることを話した。
「わあ、藍様凄いことしてきたんですね!」
「い、いや。別に今の話は私のことでは……」
途中から傍聴人に加わった猫又少女がキラキラした目で妖狐嬢を見ている。
妖狐嬢は身に覚えのない偉業に関する尊敬の念にたじたじだ。
特に傾国の美女って話でとても興味を示していた。
まさかこの猫又少女もそれを狙っているのか? まあ、素材は良いし頑張れと言っておこう。
と、そこで背後から声が聞こえた。
「あら、お客様が来てたの?」
「あ、紫様。ようやくお目覚めですか。もうお昼はとうに過ぎてますよ」
「おはようございますっ!」
どうやらようやく主人の登場のようだ。
挨拶しようと振り向いたら、上下逆さまの女性が空間の途中から生えていた。
俺はどこから突っ込めばいいんだろうか?
「えっと……お噂はかねがね」
「あら、どんな噂かしら?」
まあ、色々と。本当に色々と。
内容は恐らく口にしたら俺が言ってなくてもヤバイだろうなって感じのもの。
とりあえず笑って誤魔化しつつ俺を拉致った用件を尋ねる。
決して招待とは言わない。そこだけは譲れない俺の最後の意地。
「面白そうだったからよ」
「お暇させていただけませんか?」
「駄目よ」
本格的な拉致のようだ。これはいよいよやばくなってきた。
どうにかして帰らないといけないと思いつつ、
ねこじゃらしや毛糸玉を使い猫又少女『で』遊んだり。
妖狐嬢にこっちの歴史についていろいろと話し込んだり。
拉致妖怪にやたらめったらスキマなるもので呼び出されてイロイロされてさせられた。
そんなこんなで一週間過ぎようとしたところで腋巫女が助けに来てくれた。
「何やってるの○○?」
「見ての通り、毛繕いだ」
膝元で丸くなっている猫又少女(猫)に両手にはブラシと霧吹き。
「一発殴るわね」
「本当にすみませんでしたばはっ!?」
こうして拉致軟禁生活は終わりを告げた。
だが、良く考えたら博麗神社でも軽く同じような状態じゃないだろうか?
深く考えないことにした。
例の件で紅白&黒白にこっぴどく説教を食らった。
不可抗力なのに実に理不尽だと思った。
で、暫く外出禁止令。庭先に出るまでに一週間掛かった。
元の世界では半引き篭もりっぽかったが、もう少しで本格的にジョブチェンジしそうだった。
「で、それなのにこんなところに迷い込んだんだ?」
「本当に面目ない。返す言葉もございません」
庭先で見つけた緑色の光に惹かれるように藪に突撃。
そして案の定迷ったところで蛍少女に保護された。
今は馴染みだという鳥少女の営む屋台にて暖を取っている。
「まあ、籠の鳥ってのは性に合わないんだよ」
「そうですよね。鳥は大空を飛んで囀ってこそ意味があるんです」
流石は鳥少女。良く分かってらっしゃる。
出された料理に舌鼓を打ちつつ和気藹々と談笑を楽しむ。
しかし、その憩いの場も長くは続かなかった。
「ようっ、○○。こんなところで偶然だなっ!」
黒白が現れた。やけに息巻いた様子だ。
うん、絶対偶然じゃないと思う。
だって笑顔がかなり怖い。笑ってるのに笑ってないってのはこういうのを言うんだな。
とりあえずこんなトラウマものを見せるわけにはいかないので蛍少女と鳥少女を背中でガード。
「オーケー。ビークール。時に落ち着け」
「安心しろ。私は落ち着いてるぜ。で、覚悟は出来てるよな?」
「士道不覚悟でござるぶはーっ!?」
目の前が恋色というものになった。
弁慶の仁王立ちというのを始めて体験したようだ。
そして目が覚めたら、入院していた。
天井を見て例のお約束はしっかり呟いておいた。
「あっ、起きた?」
「おう、起きた」
いつの間に現れたうさ耳少女にそう応える。
「鈴仙、患者がご臨終したよ」
「ええっ!?」
もう一人うさ耳少女がいた。目が赤いのでうさ眼少女にするか。
ところで、起き上がってる俺に対して大丈夫ですかと聞くのは間違ってると思う。
てか揺らすな。気持ち悪い。吐く、吐いちゃうから。
「うっそー」
「――! てゐっ!!」
うさ耳少女は逃げ出した。
どうやら悪戯っ子のようだ。実に鮮やかな手口&逃走術。
してうさ眼少女よ。そろそろロックした首を離しておくれ。
「あ、ちょっと待ってて。すぐに師匠を呼んでくるから」
そして立ち去るうさ眼少女。
とりあえず次会ったらスカートの裾が短いと注意しておこう。
眼福だが過度の摂取は目に毒だ。
「ふーん、普通ね。つまらない」
「美女だからって何言っても許されると思うなよちくしょーめ」
で、これまたいきなり現れた黒髪の女性のいきなり失礼な発言に
思わず無礼で返してしまうのはきっと仕方が無いことだろう。
とりあえず話してみると、どうやら彼女はこの家の主らしい。
そして久方ぶりに客人、しかも男が来たから顔を見に来たそうだ。
どうも何年も男の顔を見たことがないとか……美人なのに引き篭もりか。なんてもったいない。
今度外に連れてってやろう。ニートはいけないよニートは。
暫くしたらうさ眼少女が師匠なる人物を連れて帰ってきた。
「ご愁傷様ね」
「まあ、慣れてますから」
何故か彼女とは仲良くなれると思った。
……そう思っていた時期が俺にも(一瞬)ありました。
「健康そのもの。成功ね」
「それを言うなら正常では?」
「いえ、成功で会ってるわ」
だって彼女はマッドなお医者様だったのですから。
何か怪しげな錠剤の瓶を振る姿は恐怖そのものだ。
後遺症、ないといいなぁ。
で、三日ほど検査を含めた入院を終えて帰ることになった。
仲良くなった因幡一同に別れを惜しみつつ、竹林をまっすぐ進んでいく。
進んでいく。進んでいく。只管まっすぐ進んでいく。
「で、迷ったわけだ? お前案外まぬけだな」
「デジャヴュを感じている今日この頃だ。これはもはや呪いではないかと思っている」
迷った挙句腹が減ったのでたけのこを生で食べようとしたところ色々あって保護された。
現在はこのヤンキー少女に火を借りてたけのこの煮物を調理中だ。
少女に火遊びは危ないと言ったら大いに笑われた。
さらにコンロ代わりにしてしようとしたらさらに笑われた。
「で、煮えたんだが。あっちの彼女は何時になったら出てくるんだ?」
「もう見られちゃったんだから観念しろって言ったんだがな。仕方ない、ちょっと連れてくる」
竹藪にのっしのっしと歩いくさまは実に男らしい。思わず惚れてしまいそうだ。
あ、こけた。どうも小さなたけのこに躓いたらしい。うん、「キャッ!」なんて実に女らしい。
で、件の彼女。竹藪から角だけだしてる。頭かくして角隠さずとはまた新しい。
たけのこ狩りをしてる最中に遭遇したわけなんだが、出会い頭に逃げ出されたのは初めてだ。
俺はそんなに怪しかっただろうか。頭にたけのこ乗せて角とかやって遊んでたわけだが。
うん、実に怪しいな。そして恥ずかしい。で、悶えている所にヤンキー少女が来て燃やされかけたんだわな。
「その、いきなり逃げ出してすまなかった」
「いやいや、こちらこそ恥ずかしいところを見せてしまって」
「ああ、本当に恥ずかしいところだよな。子供でもやらないよ」
「言うなー! やめてくれー!」
ぐりぐりとたけのこを俺につきつけてくるヤンキー少女。
悶える俺を見て僅かながら笑う角有り嬢。
それからたけのこだらけのパーティーをして、大いに楽しんだ。
どうも角有り嬢は満月の夜だけ角が生えるんだとか。変わった体質だなぁ。
それで人里で先生をしているんだとか。これからは先生嬢と呼ぶかな。
「で、何かいい訳は?」
「聞くだけ聞いてやるぜ?」
「よし、それじゃあ24時間耐久で話すぜ。覚悟しろよ?」
24時間耐久でお仕置きを受けました。
何かに目覚めることは無かったのでそこだけは一安心だ。
「で、監視が付きましたとさ」
「お前面白い人間だなぁ」
酔いどれ幼女が四六時中着けて回るようになってしまった。
何でもこの幻想郷でも珍しい鬼なんだとか。確かに立派な角をお持ちで。
ブスッ!!
「痛っ!? 刺さった! 刺さったよ今!」
「あー、ゴメンゴメン。酔うとどうも足元がおぼつかなくてさー」
ケラケラ笑いながら肘で小突いてくる。さすが鬼、脇腹がめちゃくちゃ痛い。
幼女といえどもやはり酔っ払いは始末に終えない。
「ええいっ、俺の前後左右に立つなっ!」
無茶なことを言ってみた。すぐに後悔した。
「じゃあ上だねっ!」
飛び上がったかと思ったら俺の肩に着地、そして合体『肩車』だ。
ま、まさかそんな手段があろうとは。さすが鬼、人間如きでは敵わないという訳か。
で、そんなこんなで仲睦まじい兄妹みたいなことをしてたら、
一ヶ月ほどで酔いどれ幼女は監視の任を解かれた。
俺の無実がやっと証明されたようだ。
晴れて自由の身になり、腋巫女と白黒を隙を突いて逃避行を開始。
自由なのに逃避とはこれ以下に。
まあ、とりあえず到着した人里の茶屋でのんびりと団子をつまむ。
「ああ、貴方が噂の博麗の巫女のところで居候している男というのは○○さんでしたか」
「どんな噂かしらないが、博麗神社の居候男は俺だけのはずだなぁ」
客が多いってことで相席になった天狗嬢と軽く雑談。
こういう人情味溢れた場所って元の世界にゃないからなぁ。
それからまるで取材のような感じで色々と聞かれた。
まあ、当たり障り無いことだし普通に応えたけどな。
「そう言えば外来人の方ですよね。何故まだ幻想郷に?」
「観光目的ですけど?」
予想外な答えだったのか目をぱちくりとされた。
俺、そんな変なこと言っただろうか。
腋巫女と白黒の勧めもあってのことだったから別に普通だと思ってたんだが。
別れ際に楽しみにしていてくださいねと言われたが、何を楽しみにしていればいいんだろうか?
まあ、時期が来れば分かることだろう。見えぬ未来(さき)より見える現在(いま)だ。
「すみません。お土産用にお団子包んでください」
男○○。ちょっとは学習する人間なのだ。
そしてすぐに学習しても呪いが解けていなければ意味がないということを新たに学習することになった。
「へい、そこの綺麗なご令嬢。このお団子で一緒にお茶でもいかがです?」
「そうね。まあ、いいわ」
台詞はアレだったがこれは決してナンパなどではない。
植物のツタに逆さ吊りなりながら日傘で突付かれている状態での出来事なのだ。
そう、これは命乞いだ。文字通り命懸けの一世一代のお誘いだった。
「えっと、じゃあ杜若と薺で」
「へえ、いい心がけだわ」
本日二度目のお茶をしつつ、
何かこの中から選べと言われて幾つかの花を見せられた。
で、フィーリングで選んだわけなんだが何とかご満足して頂けたようだ。
しかし、この一面の向日葵畑ってのは壮観だな。素晴らしき色のコントラスト。
ただ、全ての花がこっちを向いているなんて怪異がなければ良かったんだがな!
特に俺を椅子に縛り付けるこのツタがなければ一番だったのにねっ!
「あの、そろそろ帰りたいのですが?」
「あら、もう少しいいんじゃない?」
小一時間に及ぶ問答の結果、またお土産持参で訪ねることで開放された。
最後に首筋あたりに何かを刺されたんだが、アレは何だったんだろうか。
振り向いた時に見たお花婦人の顔が怖かったので、考えないことに決定した。
あの後、事情を話したら腋巫女と白黒は何だかんだで許してくれた。
白黒に至っては良く生きてたなと感心された。
確かにお花婦人は本能が危険だと告げる相手だったが、
この二人からもそこまで言わせるとはかなり凄い人だったんだろうな。
なお、再度訪ねることになってるのを伝えると今度は呆れられた。
「馬鹿は死ななきゃ治らないんだぜ?」
「全くね」
酷い言われようだ。
しかもそんなことがあった後でも俺に晩飯を作らせるなんて。
くそっ、今日は辛いもの尽くしにして一晩中ヒーヒー言わせてやるっ!
結果、三人とも共倒れ。そういや晩飯ってことは俺も食うんだよな。
三日ほどして、嫌なこと……もとい約束事を早速済ませるべく件の花畑へと向かった。
今日は前回より高い饅頭を用意した。まあ、当たり障りの無いようにしてれば大丈夫だろう。
そして花畑に到着した。
「花は花でも向日葵じゃなくて鈴蘭だけどなっ!」
またも俺の呪いが発動したらしい。拉致でなく迷子になる方。
まあ、これはこれで綺麗なもんなんだけどな。
「あれ、お客さんだ。珍しいねスーさん」
「どうも、迷うことが珍しくなくなったなと思い至っている○○です。どうぞよろしく」
俺のへんてこな挨拶兼自己紹介はわりと好評だった。
話を聞くと、彼女は人間でなく人形なんだとか。またしても人外だった。
てか、幻想郷って人間外のほうが多いか。なら気にすることもない。
「○○さんは変人ですね」
「変人って言うな! 変わった人と言ってくれ!」
同じように思えるがやはりニュアンスが全く違う。
人形少女はこの近くに住んでるんだとか。スーさんがいるから寂しくないとか。
うん、聞いてないよ。こっちが話す間もなくどんどん話していく。
この子も人形遣いの少女と同じ境遇なんだね。うん、優しくしてあげようと思った。
ところで、何か凄く眠くなってきたんだが何なんだろうか?
「あっ、そういえばスーさんには毒があるから気をつけてね?」
「ちょ……おま…………遅っ……」
それを聴いた瞬間あっという間に意識が遠くなった。
幻想郷二度目の臨死体験の始まりだった。
鈴蘭畑が彼岸花畑に変貌していた。
何言ってるのか分からないかも知れないが……止めよう。このネタはちと長い。
さて、さっさと戻らないと面倒なことになる。とりあえず話せる人を探そうじゃないか。
「と、言うわけで何か知らない?」
「藪から棒になんだい?」
いつの間にか載っていた小船の船頭さんに話しかけた。
事情を話してみると、その事について俺を今彼女の上司のところにつれていくんだとか。
因みに、彼女は死神なんだとか。卍解とバラッドどちらのほうだろうか?
「戦うのは嫌いだねぇ。痛いし面倒だし疲れるし」
「全くもってその通りだと思うが。実際他人から聞くとそれはどうかと思っちゃうよな」
その後は目的地に着くまで仕事上の愚痴とかを聞いていた。
やれ、仕事量が多いとか。説教が長いとか。休みが少ないとか。説教が長いとか。説教が長いとか。
「つまり、説教が長いと」
「ちょっとサボっただけですぐに怒るからねぇ」
やれやれと肩をすくめて首を横に振る死神嬢。
とりあえずサボって説教だけで済んでるだけマシだと思うんだがな。
そして到着したのは、何故か裁判所。なしていきなりこんなところに?
とりあえず、やることだけやっておこう。
「意義ありっ!」
「どうしたのさ?」
いや、一度やってみたかっただけだ。実に清々しい気分だ。
それで、死神嬢の上司とやらはどちらに?
「ああ、彼女がそう。ここのボスってヤツさ」
「初めまして○○さん。私が小町の上司、四季映姫・ヤマザナドゥです」
「意義ありっ!!」
心の限り叫んだ。思いっきり振りかぶって力の限り指差してやった。
俺は認めない。認めないぞっ! 幼女が裁判官なんて認めねー!
「誰が幼女ですかー!」
「まあまあ映姫様落ち着いて」
くっ、認めるしかないのか。
幻想郷、俺の常識をことごとくぶち壊してくれるぜ。
「それで、俺のことなんだけどさ。えっと……山田何でしたっけ?」
「山田じゃありませんっ! ヤマザナドゥです! ヤマ・ザナ・ドゥ!!」
涙目で訴えられた。どうも名前にコンプレックスがあるらしい。
誠意を持った謝罪をもって許してもらった。
で、肝心の俺の帰る方法だが手続きにちょっと時間が掛かるらしい。
迷ってきたからさっさとぽいって訳にはいかないそうだ。お役所仕事も大変だね。
「観光で幻想郷にいるんだったね。折角だから八大地獄巡りでもしてみるかい?」
「丁重にお断りいたします。いや、乱暴にしてでも断るっ!」
死神嬢は実に笑えない冗談を連発する。
てか俺で遊んでいる節がある。いつか復讐するために心のジャポニカふくしゅう帳に書いておいた。
「いいですか? まず人というのは……」
「ああ、確かに少女らしくないですね。なるほどなるほど」
泣かれた。泣きながら怒られて、笏で叩かれながら説教を受けた。
うん、流石に言い過ぎたと思ったので甘んじて受けた。
あと最後に、それなら少女らしく振舞うよう頑張ってください応援してますと言っておいた。
飛来した笏が額に突き刺さった。今のも駄目だったようだ。
そして蘇ったら神社の縁側に寝ていた。
またか。またなのか。この扱いは一体何なんだろうか?
一度抗議するべきかもしれない。
「○○。洗濯物も溜まってるから早く済ませて」
「いえすまむ」
まあ、それはまた次の機会にするとしよう。
また幾日かして、ちょっくら人里まで買い物に出かけた。
今回は腋巫女に許可もとったから大丈夫だ。
だが、変なのに巻き込まれると厄介なのでさっさと帰ろう。
「そう、帰る。帰るんだ俺。しかし、帰り道のど真ん中に厄介事が落ちていた場合はどうすればいいだろうか?」
神社へ続く階段の前に転がっている黒っぽい物体X。どうやら人っぽい形をしている。
さて、どうするべきだろうか。くっ、こんな時にライフカードがあれば!
いや、アレって結局自分で選ばないといけないから結局変わらないか。
「ちょっとそこの。早く助けてくれる?」
「ガッテム。厄介事のほうがこっちに着やがった」
しかも行き倒れの癖に何て図々しいヤツだ。
しかし、そこで断れない自分が可愛いと思う。
とりあえず背中に背負って神社を目指す。
「で、お宅はどちらさまで?」
「……リリーブラックよ」
ジーザス。こいつまさかあの春先に現れた絨毯爆撃犯の知人か?
ここに訪れたのは俺に復讐するためか? まずい、背中を思いっきり見せてしまってるぜ。
し、仕方ない。俺の巧みな話術でこの場を切り抜けてやるぜ。
「お前さん確か春妖精なんじゃないのか? 今は春じゃないぞ?」
「…………」
ち、沈黙か。まずい。何かいきなり地雷踏んだっぽいぞ。
これは下手に喋ったら駄目そうだ。
石段を登る登るZUNZUN登る……沈黙と脚が酷く重い。
「まあ、何だ。良く分からんが元気出せ」
「……何言ってるのよ、馬鹿」
神社に到着し、客間で寝かせてから後は腋巫女に全てを任せた。
結局何も知らされぬ間に帰ったようだが、腋巫女曰く何でもないとか。
しゃーない。今度贈り物(秋の七草粥セット)でもしてやろう。
さて、秋も深くなってきたところで紅葉狩りに行くことにした。
腋巫女と白黒は何か知らないが揃ってお出かけ中だ。
最近物騒だから外出は控えろと言われた気がするが……でもそんなの関係ねぇっ!
自分の好きなことの為なら常識に反逆するのが俺のジャスティス。
「と言うわけで、秋の味覚を強奪に参りました。どうぞ恵んでください」
「脅すのか頼むのかどっちかにしたら?」
「よろしくお願い致します!」
「面白い人間ねぇ」
秋姉妹に対して恥も外聞もなくジャパニーズ土下座を敢行した。
まさか弁当を忘れるとは……実にベタなミスだ。
結果、俺の誠意と熱意に心打たれた二人が施しをしてくれた。
「安心してお代はその体で払ってもらうから」
「食った後に条件つける何て詐欺だっ! だが何だろうこの背徳感満点なシチュエーション!」
「うん、それじゃあ頑張ってね」
そう言って渡されたのは籠一杯の秋の味覚。
これを山の上に引っ越してきた神様達に届けて欲しいんだとか。
「くそっ! 分かってたのに。ストロベリーな展開なんてありえないって分かってたにぃ!
この若き情動を抑え切れなかった自分が憎いー!!」
と、言うわけで籠を背負ってえっちらおっちら登っていく。
正直道が分からないんだが、まあ天辺目指すんだし登ってたら確実に着くよな。
「しかし、進行方向に何やら只ならぬ気配を感じるぜ。
だが、男は歩みを止めるわけにはいかないのだよっ!」
で、また登ること十数メートル。どうやら俺の勘は当たっていたらしい。
実に嬉しくない限りだ。学級委員決める時にくじ引きで面倒な役割が当たった気分に良く似ている。
「最近さ。悟りとか達観とかそういった道を目指そうと思うんだがどう思う?
つまり、もうちゃっちゃと諦めて受け入れてしまえってことなんだけどさ」
「悟りや達観を覚えるのはいいけど、ちゃんと選別するべきだと思うわ。
ところで貴方は誰かしら?」
「名は○○。何、しがない観光者ですよ。普通、と言えないのが最近の悩み事だ」
道を尋ねるついでにちょっと世間話をした。
引っ越してきたっていう神様達ってのも気になってたし。
で、彼女の素性は厄神という存在らしい。
何かあまりに普通すぎる出会いにありがたみもへったくれもないな。
まあ、とりあえず何かの縁ってことで。
「ねえ、○○。これは何かしら?」
「お供え物だ。神様なんだろう?」
日本は善も悪も祀り崇めることでその災厄を鎮めてきたとか。
ならその厄を引き受けてくれてるこのくるくる少女に感謝の念を捧げておくことも悪くない。
「変わりに俺に厄が来ないようによろしくな!」
「ふふっ、ええ。出来る限り……ね」
実に打算的な考えだが、これが人間だと思うんだ。まあ、俺ヨゴレだし。
しかし何か含みのある言い方だったな……まあ大丈夫だろ。
さて、やっと中腹手前といったところか。
こりゃあ上についた頃には夕方近くになりそうだなぁ。
帰りはどうしようか……まあ、その時考えよう。
「おや? 人間がこんなところで何してるんだい?」
「はっはっは。性悪豊穣姉妹に体でご奉仕中だよ!」
川の中から突然現れた少女。明らかに人間じゃねー。
しかし害意はないようで一安心。
「して、河童よ。やはり好物は胡瓜か?」
「おぉっ! 私の正体を一目で見破るとは流石は盟友!
勿論胡瓜は大好物だよ!」
盟友とは何のことだろうか?
俺には親友の太郎くらいしかいないんだが……因みに太郎は家のペットのフェレットだ。
ちょっと涙腺が緩んだ。いろんな意味で泣きたくなった。泣いてしまった。
河童少女がいきなり泣き出した俺に驚いている。
俺も我が瞳の堤防の脆さにびっくリだ。
「まあ、いろんなこともあるけど強く生きろよ」
「それ私の台詞だと思うんだけど」
以前心配してくる自称盟友を言葉巧みにだまくらかし。
天狗の領域手前まで着いて来てくれる事になった。
……あれ? 俺の方が丸め込まれてねコレ?
河童少女に近道を聞いて別れて十数分。
天狗の領域に入ったところで奇襲を受けたわけだが。
「ほーらいい子いい子。泣き止んだねー。偉いねー」
「や、やめてくださーい」
襲われたから咄嗟に交わしたら、足引っ掛けちゃって、転んで、滑って、
藪に突っ込んだ上に侵入者用の罠なのかトラップで宙吊りされてしまった。
上下逆さまで暫くの間見つめあった後、襲撃者、犬耳少女の瞳に涙が浮かびましたとさ。
で、四苦八苦しながら罠から外してやり、まだぐずる犬耳少女をあやしていたわけだ。
「うぅ、そ、それで貴方は何者ですか? 侵入者なら退治しちゃいますよ」
「わー、大変何だねぇ。まだ小さいのにお仕事頑張って偉い偉い」
「あわわわわ。子供扱いしないでくださーい」
あんな現場を目撃した後じゃ威厳もなにもあったもんじゃないしねぇ。
てかこの容姿じゃ凄んでも怖いじゃなくて可愛らしいだ。
とりあえず実に手入れの行き届いた毛並みを弄らせていただく。
そして尋問開始。さすがヨゴレな俺。やることが汚いぜっ!
「さあ言えっ! 言わないと耳をもふもふしてしまうぞっ!」
「そ、そんな。それだけはご勘弁をっ!」
割とあっさり吐いてくれた。むしろ呆気なさ過ぎる。
もう少し耐えてくれたらもふもふが堪能できたんだが実に残念だ。
次回再挑戦することにしよう。
犬耳少女から他の天狗に見つからない道を教えてもらい。
やっと到着いたしました守矢神社。残念ながら読み方が分からないのはご愛嬌。
しかし、何だろうねここは。最近引っ越してきたって話みたいなんだけど……
「随分とボロボロだなぁ。まるで今しがた戦争があったみたいだ」
あちこちの石畳がひっくり返ったり、屋根に穴が空いている。
ここに来るまでの話では信仰心のために引っ越してきたって話だが。
なるほど、ここまで荒廃してちゃ引っ越してくるしかないわなぁ。
「で、大丈夫ですかな?」
「た、助けてくれるとありがたいのですが?」
ところどころ焦げ付いて倒れている青巫女。見た目にしては案外元気なようだ。
だが、ヨゴレな俺は自分の絶対的優位性を見逃すことはないのだよっ!
「プリーズは?」
「はい?」
「お願いしますは?」
「お、お願いします」
オーケー任せろ。助けてやるから一生恩に着てくれたまえ。
ポケットをがさごそ漁って一本のドリンク剤を取り出す。
「やごころ印の傷薬~かっこ飲み薬タイプかっことじ。
さあ、飲みたまえ」
「ちょ、待ってください! それは何だかまずそうな予感がビシビシ感じます!」
「良薬口に苦しだ。我慢したまえ」
「そういう意味じゃモガー! …………がくりっ」
みっしょんこんぷりーと。
見たところ外傷は治ってるので一安心だろう。
何故か服まで復元してるのが謎だ。実に惜し……げふんげふん。
とりあえず道端放っておくのはまずいので境内を回って拝殿の縁側に寝かせておく。
さて、とりあえず豊穣姉妹のお土産はお供え物として置いとけばいいだろうか。
一応本殿のほうにも足を運んでおくか。
で、本殿にやってきたわけだが。これはなんと言っていいやら。
第二次大戦で空襲を受けた家ってのはこんな感じなのかねぇ?
「兵どもが夢の跡ってヤツかねぇ。まあこれはこれで風情がある」
「あら、ありがとう。本当ならもっと立派だった時に見てもらいたかったわね」
と、本殿の奥から響く声と共に一人の女性が姿を現した。
実に威厳たっぷり、神々しいオーラを発しつつ威風堂々と現れた。
「貴方がこの神社の神様で?」
「ええ、そうよ。初めましてね人間。この場所に何用か?」
「パシリです」
あっ、こけた。
何でだろうなぁ。正直に話しただけなんだけど。
何か疲れたように立ち上がる注連縄婦人に預かっていた秋の味覚をお供えする。
二度拍手をして、手を合わせたまま深々と拝んでおいた。
「自由をこの手にできるといいなぁ」
「何でそこでお願いじゃなくて希望系で言うのかしら」
だって、何か神様の奇跡でも叶えられそうにない気がして。
てか、その神様の奇跡をぶっ飛ばしそうな輩が約二名ほどいるんで。
「あーうー」
と、そこで本殿のさらに奥から小さな影が姿を現した。
「妖怪あーうーが出ましたよ。早く退治してください。神様のお仕事ですよ」
「あーうー! 失礼だよ君っ!」
「ああ、この子は家の祟り神だから大丈夫よ」
おぉ、そうだったのか。しかし、祟り神って逆に妖怪より危ないんじゃないのか?
ああ、だから神社に祀られてるってわけか。
「実はその目玉つき帽子が本体とかありません?」
「そうだったら面白かったんだけど。残念ながら人型のほうが本体ね」
「酷いっ! 二人とも酷いよ! いじめだよこれっ!」
冗談冗談と注連縄婦人と二人であーうー少女の帽子をぽふぽふ叩く。
さて、十分堪能したしそろそろ帰るとするか。
「それじゃあ、復興頑張ってくださいね」
「まあまあ、ゆっくりして行きなさい」
「そうそう、本殿の中も見せてあげるよ」
「えぇえぇ、先ほどのお返しもしたいですし」
○○は逃げ出したっ! しかし回り込まれた! ボスからは逃げられない!
注連縄婦人に肩を捕まれ、あーうー少女に脚を踏まれ。
しっかり復活した青巫女も戦列に加わっている。
皆その笑顔が恐ろしいぜ。
結局帰るまでに二週間かかった。
教訓、過度の布教活動は洗脳と同義である。
「と、言うことがあった訳だよ」
「なるほど。やはり貴方の話は面白いです」
と、高速で筆を進める文豪少女。
何でか知らないが取材を申し込まれて、幻想郷に着てからの事をボチボチ話していた。
言うなれば観光記って感じになると思うんだが、そんなに興味深いものかねぇ?
「ええ、とっても稀有な記録になります。前代まれに見る奇書になるはずですよ」
「それ褒めてないよね? すっごい貶してるよね?」
文豪少女はいい子だがあまりに素直すぎる。
そして正直ってのは時に人を傷つけるものなんだよ。
「大丈夫です。○○さんですし」
「君に俺の何が判るって言うんだー!」
「聞きたいですか?」
「ごめんなさい。知らない自分に気づいてしまいそうなので遠慮させていただきます」
分厚い資料の束をちらつかせる文豪少女に、俺は全面降伏するしかなかった。
ちょっと悔しいので軽くその辺の本を漁っていく。
「何を探しているんですか?」
「春本」
「そ、そんな本ありませんっ!」
「じゃあ艶本」
「だからぁっ!」
顔を真っ赤にして否定する文豪少女。
はっはっは、ただで負けるわけには行かないのだよ。
ヨゴレの真髄を見せてやったぜ。
「それで、この本の最後の言葉は何がいいですか?」
「うーん、まあ安直でいいかな」
――袖触れ合うも他生の縁、旅は道連れ世は情け
――幻想郷の全ての出会いに感謝を捧ぐ。さらば、幻想郷 ○○
「まあ、こんな感じで」
「…………」
あれ? どした? なしてそげん驚いた顔しとるん?
あっ、筆から墨垂れちゃってるよ。あーあー、折角綺麗に書けてたのに。
「それ本気ですか?」
「はい?」
幻想郷に、小さいがとても重大な異変が訪れようとしていた。
>>うpろだ1134
───────────────────────────────────────────────────────────
「おおおぉぉぉー! 待てぇえーい!!」
「わはー! こっちなのだー!」
「アタイを捕まえようなんて10光年早いのよっ!」
「チルノちゃん。それじゃあ時間じゃなくて距離だよ」
帰ることを決意してから早一ヶ月。俺はまだ幻想郷に居た。
帰らなかったんじゃない。帰れなかったのだ。
それで開き直って遊び倒してるのかって?
答えはNOだ。これも帰る為の必要条件なのだよ。
―― 一ヶ月前 ――
「と、言うわけでそろそろ帰ることにしたよ」
「……そう」
飯の席でそう告げた。
腋巫女があんまり興味なさ気に一言だけ呟く。
いやあ、何だかんだで一年以上も居たからな。向こうじゃ失踪者扱いかねぇ?
うし、ご馳走様ー……って、俺が腋巫女より早く食べ終わるの初めてじゃね?
視線を移してみると、固まってるってこともなく口を動かしてしっかり租借している。
もごもご……もごもご……もごもご……もごもご……もごもご…………
「って、長いよっ! お前いつまで噛み砕き続けてるんだよっ!」
「…………ごくんっ……料理はちゃんと噛んで食べないといけないのよ?」
いや、それは知ってるが限度ってものがあるだろうに。
いつからそんな健康志向になったんだ腋巫女よ。
「ご馳走様、後片付けお願いね」
「って、早っ! さっきの言葉はどうしたよ!」
言うだけ言ってさっさと自室に引っ込む腋巫女。
なんだぁ。いつも以上に輪をかけておかしかったな。
……まさかあの日だろうか?
「お邪魔するぜー!」
「ぶごへぇー!!」
不埒なことを考えたからだろうか。いきなり天罰覿面だった。
白黒に跳ね飛ばされ、壁にぶつかり畳の上に落ちる。
しかし怪我は奇跡的に打撲で済んだ。近頃自分の体の構造が不思議でたまらない。
「んじゃ、○○。いつもどおりにお茶頼むぜっ!」
「てめぇはその前に何か言うことがあるだろがー!」
と、言いつつしっかりお茶を注いで差し出してしまう自分が居る。
と言うか何しにきたんだお前は。まあ、言わずとも分かっているが。
こいつは事あるごとに俺の世界の話を聞きたがる。魔女ってのは好奇心旺盛なもんなんだな。
「そーさなー。んじゃ最後だし取って置きのを話してやろう。むかーしむか――」
「ん? 最後ってどういうことだ? もうネタ切れか?」
まさか。俺のネタ帳は今まで話したの二倍、いや三倍はあるぜ?
なら何故最後かって? そりゃあ勿論。俺が帰るからだよ。
ふっ、簡単な推理さ。Q・E・D!
「……霊夢は部屋だったな。ちょっと失礼するぜ」
「あ、ああ。そういやアイツも変だったからさ。それとなく聞いてみといてくれ」
白黒は一度こちらを見ただけで、特に何も言わずに行っちまった。
一体何なんだ今日は?
で、次の日。
「はあ? 帰れない? 何でさ?」
「そうね。一言で言えば……未練ね」
腋巫女が面倒くさそうに説明する。
何でもこの一年間で俺が観光した場所で
作りまくってしまった未練が邪魔をしているらしい。
らしいってのは、もともとこんなケースがなかったのであくまで推測だとか。
「未練かぁ……」
まずい。心当たりがありすぎるぞ。
ざっと考えただけでも数十個あるし。
「よし、それじゃあ早速行って来るわ!」
「……そう」
さぁーてまずは、人里の茶屋でお団子20種全100本クリアを目指すぜ!
俺の戦いは始まったばかりだ! 本当の意味でなっ!
回想終了。そしてこの鬼ごっこもエンドじゃー!
「げっちゅー!」
「わはー。捕まっちゃったのだー」
懇親のヘッドダイビングでカニバリズム少女を捕獲する。
「くぅー、天才の私が一番に捕まるなんてー! 水の中に潜んでるなんて卑怯よっ!」
「私の時は○○さん木の上から降ってきてびっくりしちゃいましたよ」
ふっ、鬼ごっこで必要なのは直線的スピードだけではないのだよ。
まあ、しかしすっかり泥だらけだな。心地よい疲労感で体もふらふらだぜ!
うん、子供の体力舐めてたわ。そもそも人間でもない訳だしな。
「あー、もう日も沈んできたな。そろそろ帰って晩飯を作らなくては」
「そーなのかー。今日も楽しかったのだー」
「ふんっ。私が遊んであげたんだから楽しくて当然よね!」
「もう、チルノちゃんったら」
まだ元気に騒いで笑っている三人の頭をくしゃくしゃと撫で回す。
いきなりそんなことされてポカンとした顔で俺の顔を見上げる三人。
うむ、これにて未練解消。みっしょんこんぷりーとだ。
「んじゃ。ルーミア、大ちゃん、チルノ……ちとお別れだ」
三人がキョトンとした顔をする。
苦笑しつつ俺が幻想郷から帰ることを軽く説明する。
「○○の馬鹿ー! おたんこなすー! かぼちゃー!」
「あっ、待ってチルノちゃん!」
チルノが俺に罵声(?)を浴びせつつ高速で飛び去っていく。
その後を大ちゃんが一瞬俺に視線を向け、すぐに追う。
「大丈夫なのかー?」
そして、去り際に氷塊をくらってノックダウンした俺の顔をルーミアが覗き込む。
「んー、やっぱ痛いが大丈夫」
しかしあそこまでされるとは予想外だったなぁ。
「○○、貴方は食べてもいい人類?」
「食べちゃ駄目だが齧るくらいならいいぞ。ただしヨゴレな俺は不味いぜ?」
ルーミアは俺の右手を掴み、親指の付け根あたりに噛み付いた。
人食い妖怪の癖に、噛む力が弱くて全然痛くなかった。
さあ、やってきました紅魔館。
今日はあいにくの雨模様で気分が右斜め下に5度くらい下降気味だ!
「貴方はいつでもハイテンションですねぇ」
「貴女はいつでも門番してるんですねぇ。てか傘くらい差さないの?」
「門番してたら傘を取りに行けないんですよー。離れたら咲夜さんに叱られてしまいますし」
ルルルーと涙を流すチャイナ少女。
残念ながら雨のせいで実際流れてるのかは不明だが。
「それで、今日は何の御用ですか?」
「いや、この度帰ることになったんでご挨拶にね」
「えっ? ええぇぇっ!?」
だから何で皆そう意外そうに驚くかねぇ?
一応皆には観光だって言ってたはずなんだが。
「まあ、そういうことだから通っていいかな?」
「あ、はい。そういうことなら……」
いいのかよ。自分で言っておいてなんだがまさか通れるとは。
まあ、じゃあお礼ってことでこの傘をプレゼントしよう。感謝するように。
「それじゃあさいなら。風邪引かないようにね、美鈴さん」
「ほへっ?」
間の抜けた顔をする美鈴にちょっと笑いつつ、
俺は門を抜け、館へと足を向けた。
館に入ったところで、扉のすぐ前にメイド長が立っていた。
ちょっと驚きつつも、軽く挨拶を済ませる。
どうやら俺が何故訪ねて来たか分かっているようだ。
すぐに図書館へと案内してくれた。
相変わらず迷ってしまいそうな図書館をひた進む。
「はい、期待通り迷いましたとさ!」
何でこうビシッと決まらないかなぁ俺は。
「あっ! くすくす。どうかしましたか○○さん?」
「いやー、何でか道に迷っちゃってね。助けてくれるとお兄さん嬉しいよ」
実にナイスタイミング! そういや最初に会った時もこんな感じだったな。
本を仕舞うのを手伝いながらこぁの主の下へと連れて行ってもらう。
「お客? こんなところに珍し……ああ、○○ね」
「何でそこで俺だと納得するのか小一時間問い詰めたいぞ?
だがしかし実際小一時間どころか丸一日語られそうだから止めとくぜ」
「賢明な判断ね」
魅惑の微笑みを浮かべるこぁの主人。
これで手にしている本が「上手な人との付き合い方 -中巻-」でなければ。
というか魔女殿でもそういうの気にするもんなんだね。
「今日はどんな御用なんですかー?」
こぁが紅茶を淹れてくれる。
早速一口……うん、美味い。茶葉の名前とか全く分からないが美味いのは分かる。
「うむ。とりあえず二件ほどな」
そういっておもむろに服をめくりあげる俺。
何やら二人分の小さな悲鳴が聞こえたがこれは必要事項なので華麗にスルー。
捲った服からどさどさっと机の上に数冊の本が落ちる。
白黒の家からサルベージしてきたものだ。
「残念ながらこれだけしか取り戻せなかった」
あの白黒。やたらめったら抵抗しおってからに。
最後にゃ弾幕ぶっ放してきたから殆どの本を落としてきてしまったのだ。
「いえ、これだけでも良く取り戻せたわ。
それより、なんでこんなことを?」
「まあ、未練だ」
首を傾げる二人。まあ、意味不明だよねー。
あの時常習犯だって聞いて、何とかしないとなーって思っちゃったからなぁ。
身内の恥って感じだし。実際恥ずかしかったし。
「そう……ありがとう。
それで、後一つの用件っていうのは?」
「ええ、お別れの挨拶に」
「「?」」
おぉう、そこで首を傾げますか。
今度はもうちょっと詳しく。観光が終わったので帰ることにしたことを告げる。
「そう。残念ね」
「あうあう~」
こぁの主人は僅かながら、こぁは涙ながらに惜しんでくれた。
うん、短い付き合いだがこういうのちょっと嬉しいな。
「それではこれで。パチュリーさん、こぁ、お達者で~」
次に訪れたのはこの館の主、吸血幼女の部屋だ。
「ご機嫌麗しゅうマドモアゼル!」
「招待した覚えはないけど、まあいいわ」
吸血幼女はアポなしの面会を快く受けてくれた。
まあ、雨が降っててどこにも出かけられず暇だったから……ってのが有力そうだ。
「お別れの挨拶に来たわけですが。あんまり必要なかったですね」
「失礼ね。館の主である私を蔑ろにするなんて」
そう言いつつ何故か楽しそうに笑う吸血幼女。
俺が消えるのがそんなに嬉しいってことなのか?
そんな嫌われることしたっけなぁ?
「私は貴方のことを気に入ってるのよ? ふふふっ」
……そんな気に入られることしたっけなぁ?
「まあ、幼女とはいえ可愛い子に気に入ってもらえて恐悦至極です」
「あはははははははは。ふふっ、くくくくくっ」
何か大笑いされてるんだが一体何なんだ?
吸血幼女の右後ろに控えているメイド長に目配せをするが、
どうやら彼女も自分の主が何故こうなってるか分からないようだ。
ああ、そうだ。ついでだから今のうちに例の件も聞いておいてしまおう。
「メイド長。一つ教えて欲しいことがあるんですが」
「はい。何でしょう?」
「例の拉致マジックの種。教えてもらえます?」
「拉致? ……ああ、あれはですね」
どうやらあの拉致事件はメイド長の特殊能力でどうにかしたものらしい。
だから種なんてないんだとか。
チクショウ。折角の俺のドリーム計画が台無しだ。
だが、まあいい。とりあえず未練は解消だ。
「こんなに笑ったのは久しぶりだわ。○○に感謝するべきかしらね?」
うわーい。コレ絶対嫌味っぽいぞ。
しかし。転んだらただでは起きないが俺のモットー。
つーわけで早速利用させていただく。
「それじゃあお願い事一ついいです?」
「あら、何かしら?」
「妹君に会わせて貰えます?」
「……貴方、正気?」
普通そこって本気って聞くもんじゃない?
いや、まあ分からないでもないけど。実際脅されたし。
とりあえずOKは貰えた。メイドさんが案内してくれるとか。
「それでは失礼致します。レミリアさん、咲夜さん」
「ええ、またね」
レミリアさんは最後まで笑い続けていた。
さて、やってきました妹君を部屋の前。
何かおどろおどろしいオーラでてるよ。オーラが!
ちょ、ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着けよう。
吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー
「何してるの?」
「ぶほぉっ! い、何時の間に!?」
待て。落ち着け。素数を数えるんだ!
いやそんなことしてる暇はない。事態は一刻を争うんだ!
事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだっ!
そして俺は今その事件現場の真っ只中に居ます!
「ねえ、何して遊ぶ?」
「そうだなー。じゃあ、また色んな話を語ってやろう」
だからその燃えさかる剣はしまいましょうね。
熱くて汗が止まらないよ。それ以外の理由でも汗かいてるしね!
「じゃあ話すぞ? むかーしむかし。あるところに――」
さあ、語ろう。彼女の知らない物語を。
知らないことを知り、分かったことで一喜一憂する。
子供はやっぱりこうでなくちゃねぇ。
「「「「いーやーだー!」」」」
「ええい放せフラン! 分身してまで纏わり着くんじゃねー!!」
帰る予定がちょっとズレ込んでしまいましたとさ。
時は巡り、季節は冬。
「うおおぉぉぉ! これが俺の全力全開だぁ!」
「まだ半分もいってないわよ。ほら、頑張って頑張って」
現在、俺はカキ氷器を一生懸命回している。
その隣で応援しているのは雪女嬢だ。因みに彼女はシロップ作成係だ。
そう去年話題に出た超ジャンボカキ氷を作っているのだ。
我ながら面倒な未練を作っちまったもんだぜ!
「なぁー! いちごとかレモンは分かるんだが。何で幻想郷にブルーハワイまであるんだろうなっ!」
「……さあ?」
やっぱ分からないよなー。
まあ、これで未練二号消化っと。
「うおっしゃあ! 完成!
さあ、その白くてどろどろした甘ーいシロップをぶっ掛けてくれ!」
「何か凄い不穏当なこといってる気がするんだけど」
真っ白な雪女嬢から白い眼で見られる。
ふっ、だがその程度ならヨゴレな俺にはきかないぜ!
「それじゃあ食べさせてあげるわ。雛鳥の如く口を開けなさい」
「わーい。ドキドキシチュエーションだけど何か屈辱ー」
まあ、それはともかく美人に食べさせて貰うのは悪くない。
甘ったるい練乳がさらに甘く感じるぜ!
「あーん」
「しゃくしゃく」
「あーん」
「しゃくしゃく」
「あーん」
「……しゃくしゃく」
「あーん」
「…………しゃくしゃく」
「あーん」
「……………………しゃくしゃく」
ぐおおぉぉ! 痛てぇ! 頭が急速に痛くなってきた!
嬉し恥ずかしだけどこれはまずい!
てか雪女嬢ペース早いよ!
「あーん」
「ちょ、ギブギブ! もう食えないから!」
このままでは頭痛でぶっ倒れてしまう。
雪女嬢はちょっと思案した後、差し出していたスプーンを自分の口に含んだ。
「間接キスね」
「ぶふぅっ!?」
「はい、あーん」
「まさかの二連撃?!」
うおっ。これは。これはこれはこれはどうするべきなんだー!
結果、最後まで美味しくいただきました。勿論カキ氷をね!
「それじゃバイナラな。レティさん」
「ええ、雪の振る季節にまたね」
ぺしんと俺の額にでこぴんをかましてから消えていった。
次に俺が訪れたのは魔法の森にあるお宅。
「呼ばれず飛び出ずじゃじゃじゃじゃーん!」
「えっ? へっ? な、何っ?」
暖炉からいきなり現れた俺に混乱している人形遣いの少女。
当初の予定は普通に玄関か窓から入ってくるつもりだったんだが、
残念ながら全てに鍵がかかっていたので、急遽煙突から突入することになった。
「げほげほっ。お前ちゃんと掃除してるか?」
「え、煙突の中なんてそうそう掃除するわけないでしょう!
というか○○。貴方何でそんなところから。それに何の用で……
ああもう訳分からないわ!」
頭を抱えて思いっきりため息をつく人形遣いの少女。
どうも大分疲れているようだ。趣味に没頭するのもいいけど体を大事にしないと駄目だぜ?
「HAHAHA、そんな君に朗報。一日限りの特別ご奉仕!
この○○が専属執事として君をお世話しちゃうぜ! 強制的に!」
「な、何言ってるのよ! そんなのいらな……って強制なの!?」
「さあ、飯を食え! そして寝ろ! 俺はその間に掃除と洗濯するからな」
「ああ、もう。分かった……って、待ちなさい!
男の貴方に部屋の掃除やましてや洗濯なんてさせられるはずないでしょう!!」
ちっ。気づいたか。
だが遅い! コンマ二秒遅かったな。俺はもうすでに仕事を開始してるんだぜ。
「わはははは! ここが女の園だな! だが今の俺にはただの荒れ果てた部屋。
服が散乱してようが人形が散乱してようが下着が散乱してようが関係ねぇー!」
「それはそれで複雑……って見るなー!」
「安心しろ。居候先の腋巫女よりは三倍くらいマシだ」
真剣な顔&声で言ったら人形遣いの少女は固まって「そ、そう」と引きつった笑みを浮かべた。
アイツ自分のことやたらめったらさせてきたしな。俺のこと男と思ってねーよきっと。
「美味しいわ。何か悔しいくらいに」
「おかわりは如何かなお嬢さん?」
ひと悶着してる間に掃除洗濯を済ませ。現在はアフタヌーンティーにしゃれ込んでいる。
最初は抵抗していたがもはや諦めたのか、今は大人しく口にカップを傾けている。
「それで、本当に何なのよ?」
「んー、まあ優しさの押し売りだ」
「ありがた迷惑ね」
「恐悦至極」
「褒めてないわよ!」
はぁっとまたため息を吐く人形遣いの少女。
ため息をつくと幸せが逃げるんだぞ。
「まあ最後くらいはって奴だ。いらなくても受け取れ。返品不可だ」
「だからいらないって……えっ?」
キョトンとした顔をする人形遣いの少女。
えーっと、と今の言葉を思い出して反芻しているようだ。
で、やっと理解したのかバッと顔を上げる。が、その場には既に俺は居ない。
「さらばだアリス! 篭ってばかりいないでちゃんと友達作れよー!!」
「ま、待ちなさい……って、もう! 余計なお世話よー!」
桜満開春爛漫。
実にいい春日和だ。
「春ですよー」
「おう。春だなー」
今はひょっこり現れた絨毯爆撃犯とお花見中だ。
「去年はすまなんだ。嘘はいかんよなぁ嘘は」
「別にいいですよー。美味しいもの貰えましたからー」
おっ、どうやら贈り物は気に入ってもらえたようだ。
今食べている桜餅も……うむ、美味い。
「お別れなんですかー?」
「おぉっ! 何も言ってないのによく分かったな」
ちょっとびびった。エスパーなんて思ったが流石に違うか。
「私は春の妖精ですから。お別れする時はわかるんですよー」
ああ、春は出会いと別れの季節って言うしなぁ。
そういうのを感覚的に感じ取れたりするのかもしれんな。
ぽけぽけしてるくせに意外な能力を持っていたな。
「やっぱそういうのって寂しいもんか?」
「勿論ですよー。けど、同じくらい嬉しい出会いがあるんですー」
なるほど。一理あるな。
「サンキューなリリーホワイト。そしてバイバイだ」
「……春ですよー!」
どわー! いきなり弾幕撃つんじゃねー!!
騒霊三姉妹に招待されて、やってきました演奏会。
しかし、客人が誰も居ない。はて、時間か場所を間違えただろうか?
と、そこで微かに音楽の調べが聞こえてくる。
おーい、観客一人で開始するのか? ちっと寂しいぞー。
「ん? あれ、これって……」
俺は黙って、奏でられ始めた旋律に耳を傾けた。
「まさかお前達がこんな粋な計らいをしてくれるとはな」
「ふふふっ、感謝しなさいよね」
「ああ。そういや騒霊三女のソロってショパンの別れの曲だよな?」
「へえ、分かったんだ」
まあ、有名だからなぁ。
確か故郷に別れを告げる時の曲だったか。
つまり俺との別れを……あれ? 故郷?
「なんか微妙に曲選間違ってないか?」
「ううん。これで合ってるよ」
どういうこった?
つまり、この幻想郷を故郷と思ってそれに別れを……
「「「はあっ……」」」
「ちょ、お前ら何で揃ってため息吐くんだよ!」
そんなところだけ息ぴったりだなお前ら!
「まあそんなことどうでもいいからさ! 打ち上げしよう打ち上げ!」
「高いもの食べたい! ステーキ! 寿司!」
「さあ、いこう○○」
「まて、お前ら! その打ち上げ費用はどうするつもりだ!」
三人は俺を取り囲むように浮かび上がると、ニィッと示し合わせたように笑った。
「「「勿論○○の奢り!」」」
「やっぱりかよ! ええい分かった。代わりに今日は飲み明かすぞ。
ルナサ、メルラン、リリカ。着いてこい!」
「「「おぉー!」」」
さて……27回に渡るチャレンジの結果ついに来たぞ白玉楼とやら。
13回目あたりで加減を間違えてマジで逝ってしまうかと思ったぜ。
「と、言うわけでお久しぶりだな抜刀少女! 今日は襲い掛かってこないのか?」
「あ、はいお久しぶりです。それとその件はもう忘れてください!」
余程恥ずかしいのか顔を赤くして叫ぶように言う抜刀少女。
さて、それでは早速一件目のお仕事を終わらせて貰おうか。
手をニギニギさせながら抜刀少女に近づく。
「な、何なんですか? というかその怪しい手つき止めてください!」
「へへへへ、観念しなお嬢ちゃん。
だいじょーぶ、痛くしないからさー!」
「き、きゃあぁぁぁーーー!?」
― 30分くらい後 ―
「それで、妖夢の感触はどうだったの?」
「そりゃあもうぷにぷにですべすべで最高の触り心地でした!」
オホホホと満面の笑みを浮かべる幽霊婦人に俺は最高の笑みでサムズアップ。
頬についた赤い紅葉と頭のたんこぶは名誉の負傷だ。
抜刀少女のほうは襖の影からこちらに向かって威嚇をしている。
「なんだよー。あんなに可愛がってあげたじゃないかー……半霊のほうを」
「悶えてる妖夢、可愛かったわ~」
いやぁ、最初見たときから思いっきり愛でたいと思ってたんだよね。
そしてどうやら半霊と半人はお互いリンクしているようで。
「ああっ! いやっ! そこは、駄目ぇ――」
そのときの抜刀少女の真似をしようとしたら、
スコーンと何かが額に突き刺さった。
「ぎゃあぁぁあ! 刺さってる! 何かが頭に刺さってるぅ!!」
「いい加減にしてください!」
抜刀少女は俺の頭から乱暴に剣(?)を抜いて怒りながら去ってしまった。
うーん。流石に少しやりすぎてしまったかもしれない。
因みに、幽霊婦人はずっとにこにこと俺の顔を見ている。
「それで、私には何かないのかしら?」
「うーん。幸い幽霊婦人に関する未練はありませ……い、痛いんですけど?」
幽霊婦人がさきほど刺された俺の額を扇子でペシペシ、いやベシベシ叩いてくる。
にこにこ笑ってるのに、何か怒ってる?
で、予想道理というかなんというか……
「うえーん。○○しゃんのばかー」
「ええい絡むな泣き上戸の酔っ払いめ!」
「わらしのきもみゅみゅうえーん!」
意味が分からんわー! せめて解読可能な日本語を話せー!
結局抜刀少女はうきゅうと言いながら俺の膝元で猫のように丸くなって眠りこけた。
全く、意識失うほど飲むなっての。酒飲みの基本でしょうに。
「幽霊婦人、いくらなんでも飲ませすぎじゃない?」
「飲まなければやってられない時ってあるものよ?」
そう言う幽霊婦人もかなりの量を飲まれているようで。
頬にほんのり赤みの差した顔が艶っぽい。
しかし、となると何が飲まずにはいられなかったのかねぇ?
「その辺どうなんでしょう?」
「さあ? それは私からは言えないわ」
うーん。ほんと食えない人、もとい幽霊だなー。
よっこらせっとひっつく抜刀少女を引き剥がし、幽霊婦人に引き渡す。
「さて、それじゃあ幽々子さん、妖夢。ありがとうございました」
どういたしましてと笑顔で手を振る幽々子さんに、俺は一礼して瞳を閉じた。
眼が覚めたら、またまた神社の縁側で寝ていた。
「なあ、腋巫女。この扱いは酷くね?」
「そう? とりあえず暫く動かないでね」
「……らじゃー」
けどいくらなんでも座布団代わりねぇーんじゃない?
ん、しかし……腋巫女。貴様さては1キロほど太っ――
「手が滑ったわ」
「うわっちゃああぁぁぁーー!!!」
お茶をぶっかけられた。
お前は勘良すぎるっての!
さあ、やってきましたマヨヒガ。
正直どうやって来たのか全く分からない!
今回はスキマに落ちたわけじゃないんだけどなぁ。
「どうなってるんだろうなぁここは?」
「にゃっ?」
猫又少女(猫)は俺の膝の上で分からないと言ったばかりに首を傾げる。
まあ、お前は知らないんだろうなぁ。
てか、もう迷い込んで五日目なんだよなー。
「いつになったらあの拉致妖怪は出てくるんだ?」
「にゃあ」
そうか、分からんかぁ。
最後にお願いしてとっとと帰るだけなんだがなぁ。
しかしなかなか出てこない。拉致妖怪は一体何を考えてるんだ?
「あっ、妖狐嬢。どうでした?」
「ああ、○○。すまない。まだ自室から出ないどころか私にも姿も見せてくれなくてな。
また一体何を企んでいるのか」
妖狐嬢はふぅっと疲れたようにため息を吐く。
あの人は幽々子さん以上に読めない。もとい意味不明な人だからな。
はあ、この調子じゃあ今日もお泊りかな。
「と、言うわけで暇なんで妖狐嬢もまたいかがです?」
ブラシと霧吹きを掲げて妖狐嬢に示す。
猫又少女みたいに獣形態になれるかは知らんが、
とりあえずその九本の尻尾は攻略済みだ。
「いや、私は遠慮しておこう。この前みたいにされては敵わない」
はっはっは。実は二日目に夜這いならぬ朝這いして寝てる間に梳いてやったのだ。
四本目に入ったところで眼を醒まされてちょっとごたごたがあったがしっかり任務をこなしたぞ。
ところで知ってるか? 炎って生きてるんだぜ。俺は、炎の目を見た!
「ホント、何でお前は生きてるんだろうな?」
「アレやっぱり殺すつもりだったんですかい!」
俺の神懸り的なブラッシングテクニックがなかったら
今頃俺はアフロの焼死体になっていただろう。
「んー、しかしそろそろ帰らないとスケジュールが押すんだよなぁ」
「……お前はそんなに元の世界に帰りたいのか?」
そりゃあまあなぁ。
俺がここに残ってた理由は『観光』だったわけだし。
遠足と旅行は帰るまでが……って奴なんだよ。
「やっぱりケジメ的にも帰らないとなぁ」
「ケジメか。お前は変なところで義理堅いというか頑固というか」
「にゃー」
呆れたような妖狐嬢の言葉に賛同するように猫又少女(猫)も同意するように鳴いた。
「ホント。強情な子よね。全く隙すら見せないんだから」
やっと出てきやがったか拉致妖怪。
さあ、キリキリと俺を軟禁している理由を話してもらおうか!
「面白いことにしようと思ったから?」
「またしょーもない! しかもまだ未遂? てか何で疑問系なんだよ!」
ふふふっっと笑う拉致妖怪。
俺を含めその式と式の式も呆れ顔だ。
「んで、一つ内密なお願い事があるのですが?」
「あら、何かしら?」
と、言いつつわくわく顔で耳をよせてくる拉致妖怪。
ここで耳に息を吹きかけたい衝動に駆られるが、
そんなことしたら俺の息の根を止められそうなので我慢我慢。
「ごにょごにょごにょーにょごにょりーた……かくかくしかじか」
「あら! あらあら……ふふっ、そういうことだったのね」
快く承諾いただいた。
よし、これにてここでの憂いごと全部終了だな。
「あら帰るの。せっかちさんねぇ」
「もう五日もいるっちゅーの」
早く帰らないと腋巫女と白黒にふるぼっこかもしれない。
何故そうなるのかはなはだ疑問なんだが、奴らの前では理屈は通用しない。
「それじゃ。紫さん、藍さん。それに橙。アデュー!」
さて、ところで。どうやったら帰れるんだろうな?
「うーん。いつのまにか常連になってしまってるな」
「週一では着てくれてますもんね」
現在鳥少女のお店でお食事中。
今では「いつもの」と頼めば通じるほどの常連さんだ。
「蛍少女もすっかり飲み仲間だよな。お前飲むの砂糖水だけど」
「私にはこれが主食なの」
ストローを使ってちゅーちゅーと砂糖水を飲む蛍少女。
普通に食べるよりカロリー過多だと思うんだが、まあそこは妖怪ってことなんだろう。
「それで、○○さん幻想郷から出て行っちゃうんですってね」
「ぶふぅーーー!!」
「ぎゃあぁぁー! いきなり何吹いてるんじゃぼけー!!」
鳥少女の言葉に蛍少女が砂糖水を吹いた。
しかもご丁寧に俺に向かって。何の恨みがあっての暴挙じゃこらー!
「ごほっ、ごほっ! ○○本当なの!?」
「本当だ! 本当だからまずは顔を拭かせろー!」
ただの水ならまだしも砂糖水だから顔がべとべとだ。
鳥少女からタオルを借りて顔と髪を念入りに拭く。
洋服は……まあちょっとだけだし我慢だ。
「てか、良く知ってたな鳥少女」
「この前お酒飲んでたお客さんがゲロっとね」
苦笑気味にそう言う鳥少女。
多分その話と一緒に口から他のものが飛び出したんだろうな。
「な、何で? 何で帰るの?」
「いや、だから観光が終わったからなんだけどね」
てか慌てすぎだ蛍少女よ。
虫である蛍には帰巣本能というのは理解できないのか?
「まあ、後半年ほど掛かるんだけどなー」
「それじゃあそれまで御贔屓にね」
「そうだね。それまで○○にずっと奢ってもらうっと」
「待ていそこー!」
まあ、砂糖水程度なら別にいいけどよ。
とりあえず八ツ目鰻の蒲焼お願いねー。
「んじゃな。ミスティア、リグル」
「またのお越しをー」
ミスティアに見送られていざ帰らん。
しかし、リグルよ。砂糖水で酔うなんてお前の体の構造は一体どうなってるんだ。
「正直すみませんでした……げばー」
「ホント無茶するわねぇ」
現在永遠亭の病室のベッドに縛り付けられています。
寝ている、じゃなくて縛られてるのがポイント。
「ホント馬鹿だよねー」
「痛っ! てめこの性悪兎がー!」
うさ耳少女が包帯を巻いた足にチョップを振り下ろす。
「でも、いきなり現れたかと思ったらあんな暴挙にでるなんて
それだけで済んだだけ凄いと思いますよ?」
うさ眼少女が俺の右腕に軟膏を塗りながら呆れたような声でそう言う。
そう、俺はつい数時間前に引き篭もり少女を拉致ったのだ。
大胆かつ鮮やかな手並み。怪盗二十面相も真っ青な犯行だ。
まあ、丁度玄関に出てきたところをひっ攫っただけだがね
「誰も○○がいきなり輝夜様を誘拐するなんて思いませんでしたよ」
そりゃーそうですよねー。
俺だってまさかあそこまで簡単に成功するとは思わなかったし。
「それで結局動機は何だったのよ?」
「んー、行きずりの犯行ってことで一つ」
因みに誘拐時のキメ台詞は、
『五つの難題? でもそんなの関係ねぇー!
物で釣るより思い出で惚れさせるのが長続きの秘訣さー!』
実に的を射た考えだと思うんだよね。
「で、どうだったよ引き篭もり少女?」
「まあまあだったわ」
ちっ、強情な奴め。
人里についたら俺の案内どころかこっちを引っ張り回してくれたくせに。
しかも結局俺の所持金の八割も食い潰しといてよく言うぜ。
「全く、それで散財&フルボッコじゃ割りにあわないぜ」
帰ってきたところで永遠亭一同に制裁という名のリンチを受けた。
それで、現在に至るわけだ。
「さて、じゃあそろそろ次の案件に移ろうか」
「また何する気なの?」
マッド医者嬢がちょっと興味ありげに聞いてくる。
アンタ何気に一番に楽しんでるよな。
「まあ兎に角。うさ眼少女、脱げ」
「へっ?」
「そのスカートを脱げと言、ぶほっ!」
殴った! いきなり殴りやがったぞこいつ!
理由ぐらい聞いてから手を出しやがれってんだ!
「それなら理由を言ってから言いなさい!」
スカートを押さえて露骨に距離をとるうさ眼少女。
「安心しろ。今のところお前のスカートの中身になぞ興味なぎゃふっ!
ま、また殴りやがった。今ので何で殴るんだよ!」
「○○は乙女心ってのが分かってないね」
やれやれと首を振るうさ耳少女。
マッド医者嬢と引き篭もり少女も責める様な目で俺を見る。
だがヨゴレな俺はそんな馬鹿にするような冷たい視線も効かないぜ。
「とりあえずその逆セクハラ張りの短いスカートをこっちのに変えろと言いたい訳だよ」
そう言って引き篭もり少女を拉致った時についでに買ってきた長めのスカートを見せる。
「ぎゃ、逆セクハラ……」
うさ眼少女が何かショックを受けているようだ。
三人のほうを見る。何か苦笑気味に肩を竦められた。
とりあえずスカートは茫然自失としてるうさ眼少女に渡しておいた。
それから三日かけて傷は完治。
さらに二日ほど遊んでから帰ることとなった。
「さらばだ輝夜、永琳さん、てゐ、鈴仙。そして因幡達よー!」
走ってに門を飛び出して竹林を駆ける俺。
決して輝夜にニートに勧誘されたり、
鈴仙に連れて行かれた医務室で永琳が謎の注射器を構えていたり、
てゐ&因幡達に追い回されたのが理由じゃない……はずだ。
「で、またかお前は。懲りないなぁ」
「いや、わざとだ。お前達に会うにはこうやったほうが手っ取り早いと思ってな」
「呆れるばかりだが。こうして会えたってのが凄いところだな」
見事に迷って見事に遭遇。
ある種神がかってるよなよな俺。
今回は落とし穴に掛かっていたところをヤンキー少女に捕獲された。
そして現在先生嬢のお宅にお邪魔している。
「さて、それじゃあそろそろ食事の準備をしようか」
「おっ、いいねぇ。俺もお腹ぺこぺこだよ」
散々走り回って、二時間ぐらい穴ん中に落ちてたからなぁ。
と、そこで何故か俺の首根っこをヤンキー少女に掴まれる。
「そうだな。丁度獲ってきた活きのいい食材もあるしな」
「待て。時に落ち着け。俺は食べ物じゃないぜべいびー?」
軽い口調で言いつつ冷や汗だらだらだ。
助けを求めるため先生嬢に視線を向けるが、
「私はこれまでに人を食ったことはないが、○○は美味そうだな」
う、裏切ったな! 俺の気持ちを裏切ったなー!
放せヤンキー少女! 俺はまだ遣り残したことが結構あるんだー!
「まあ、(ピーー)とか(検閲削除)させてくれた後なら食ってくれても構わんぜ?」
「な、なななな何言ってんだお前はー!」
顔を真っ赤にして慌てるヤンキー少女。先生嬢の方は吹いてる。
「まあ、ちょっと比喩ると……お前を食わせろと。性的に」
「ふざけんなーーー!!」
「何おう! これでも本気でって、ぎゃあああぁぁぁぁー!!」
全部言う前にヤンキー少女に焼かれた。
てめ、いきなり丸焼きかよ。ちゃんと香辛料まぶしたりしないと不味いぞ!
ヨゴレな俺は何したって不味いと思うけどな!
「さて、二人とも。じゃれるのはそのくらいにしてそろそろ食事にしよう」
「おー! 今日は鍋か。最後のおじやが楽しみだな!」
「じゃれてないっ! てか○○お前は気が早すぎだ!」
「「いただきます」」
「私を無視するなー!」
いやぁ、食った食った。
俺は現在お茶を啜っている。
先生嬢も後片付け終えたようでお隣でお茶を。
そしてヤンキー少女は俺と競って食ってたようで、
食いすぎてすぐそこで倒れて唸っている。
「まあ、そんなわけで元の世界に帰るわけだよ」
「そうか。お前も結構この幻想郷に慣れてきていると思ったんだが。残念だな」
「へんっ。お前何てさっさと帰っちまえばいいんだよ」
何だよヤンキー少女は火を使うくせに冷たいなぁ。
それと。おーい、人と話すときは相手向いて話せー。
って、こら。転がって逃げんなっての!
「すまんな○○。妹紅は正直じゃなくてな。しかもああ見えて恥ずかしがりやなんだ」
「なるほど。俗に言うツンデレって奴か」
「二人とも勝手なこと言うなー!」
俺と先生嬢は飛び掛ってきたヤンキー少女から笑いながら逃げ出した。
「そんじゃ、まっ。元気でやれよ。慧音さんに妹紅ちゃん」
「ああ、そっちもな」
「ちゃん付けすんなー!」
慧音さんと、彼女に押さえつけられている妹紅に手を振って別れを告げた。
数日後の夜。神社の縁側で酔いどれ幼女を補足した。
「おっ、いたいた。って、こら! 逃げんじゃない!」
「うー、ヒック! 放せよー」
おいおい、随分と酔っ払ってるな。
つーかお前の力があれば俺如きなぞ簡単に振り切れるだろうに。
俺に掴まれている片腕だけでぷらーんとぶら下がる酔いどれ幼女。
しょうがないので縁側に座り、その横に寄りかからせる形で座らせる。
「さて俺も……って、こら! 何すんだ! 乗るなって!
って、痛っ! 角が当たるっての!」
俺も酒を取ろうとしたら酔いどれ幼女が無理矢理俺の膝の上に乗ってきた。
こいつ背は低いけど角があるから危ないんだよな。
「むふー! ここは私の特等席だな」
「その台詞、実は三人目だ」
一人目はフランだ。二人目は橙だ。
「……」
「こらっ! 無言で角ぶつけてくるな! マジで痛いんだっての!」
顔は見えないがきっとぶすーっとした顔してるな。
とりあえず機嫌を取るためぽんぽんと頭を軽く撫でる。
「で、どうしたよお前。最近ってか半年近く姿消してさ」
「……聞いてた」
何をだよ? 主語を抜かすなっての。
「霊夢と魔理沙に話してたの」
ああ、あれね。
で、それが何で失踪の原因になるよ?
酔いどれ幼女がくるっと半回転して、俺の体に抱きつく。
「…………」
「おーい。何か喋ってくれないとエスパーじゃない俺は何も分からんぞ?」
しかし無言。これは困ったな。
よー分からんが泣いてるようなので子供をあやす様に背中をぽんぽん叩く。
「攫っていい?」
「いきなりな犯行予告だな。しかし、攫うのを確認したらただの任意同行だぞ?
因みに答えはやれるものならやってみろ! 拉致は何度も経験済みだから何も怖いものはないぜ!」
しばしの間をおいた後、どちらからともなくぷっと吹き出した。
「よしっ! 飲み明かそうぜ萃香」
「うん。今日から三日とおかず毎日飲もう。二人だけの宴会だ!」
いや、流石に毎日はきつい。この歳でアル中は勘弁だぜ。
さて、やってきました団子屋。
そして計ったように現れた天狗嬢。
「また取材っすか?」
「そうですけど……そ、そんな目で見ないでくださいよー」
黙らっしゃいこのパパラッチめ。
アンタの出版した新聞のせいで偉い目にあったのだ。
あることないことを2:8なんて割合で書きやがって。
おかげで腋巫女と白黒を筆頭とした以下数名にぼこられたのだ。
「さっさとお山に帰れ」
「さらに酷くなってる!」
俺は善意には優しいが悪意には厳しいのだよ。
ただし自分より強い相手にはその限りではないチキンハートも持ち合わせてるがな!
「それより最近話題になってるあの件。やっぱり本当なんです?」
「どの件が話題になってるかは知らんが、俺が帰るってのは本当だぞ」
って、こら待て。ネタ帳とりだして取材体勢に入るんじゃねー。
ほれ、団子やるから。あと今の話はオフレコな。
また変に騒がれたら面倒くさくてしょうがない。
「でも残念ですね。○○さん面白いからもっと良いネタ貰えると思ったのに」
「お前さんはもっと記事とは切り離した普通の評価が出来んものかね?」
話を聞きだすならまず相手を持ち上げたりしてポロリさせるってのが常套でしょう。
って、おい。なるほどって顔で相槌打つな。今まで知らなかったのかよ。
「私、一撃離脱型の取材が多いもので」
「それは取材じゃなくて盗聴&盗撮って言わないか?」
「……てへっ」
てへっ。じゃねーよ。可愛く言っても駄目だっての。
プライバシーの侵害とゴシップによる名誉毀損で訴えるぞ。
「それじゃあ何か当たり障りのないネタありません?」
「そうだなー。じゃあ前に人里へ来た時なんだが……」
何を言おうと結局知り合いには甘い男、○○。
そんな自分が可愛くて仕方がない今日この頃だ。
「それでは私はこれで」
「ああ、じゃあな文。嘘記事だけは止めろよ?」
「善処します!」
それって、つまり止めないって事だよね。全く。
「それで言い訳は?」
「ぶっちゃけちょっと忘れむぎゅっ!?」
俺の四肢に絡み付いているツタが俺を締め上げる。
しょ、正直に言うってのも時には良くないな。
お花婦人がブスブスと俺の腹を傘で刺す。
「いっそのことこのまま標本にしようかしら?」
「すんません。それだけは勘弁してください」
何とか許してもらってお茶の席に着けました。
ただし、まだツタで拘束されたままです。
「癖になったら責任とってくださいね?」
「標本より押し花のほうがいいかしら?」
駄目だ。この人にボケるには命懸けになってしまう。
「しかしお花婦人ホント有名人ですね。会いに行くって行ったら皆驚いてましたよ」
「まあね。私、かなり強い妖怪だから」
「見た目はお目見え麗しいご令嬢なのにね。内面はそのまんまですけもごふっ!?」
ツタによるビンタを喰らった。しまった。一言多かったか。
とりあえず即効で話題を変えよう。揺れてるツタが俺の命(タマ)を狙ってるぜ。
「ところでさ。この前の帰りに俺にぶっ刺したのって何?」
「ただの花の種よ」
ああ、なーんだ。花の種かー……
って、おぉーい! なんつーもん人の体に仕込んでるんですか貴女様は!?
「結局発芽しなかったみたいだけどね。残念だわ」
「俺には万々歳ですよ。苗床なぞにされて溜まるものかっ!」
何気に命の危機だったんだな俺。今思ったら体が震えてくるぜ。
「まあ、唐突ながら帰郷によるお別れのご挨拶をですね」
「殺してでも奪い取る……うーん、まあいいわ。殺すまでもないわね」
危ねー! 何か一歩間違ったら死人形として愛でられることになるとこだったぞ。
ともかく今日一日はお茶に付き合うこととなった。
「それじゃあ帰り……その手に構えたものは何でしょうか幽香さん?」
「大丈夫よ。今度はきっと育つわ」
「やめっ――アッー!」
発芽する可能性のある一週間。
かなりびくびくして過ごす事になった。
「さあ。開け冥界への扉!」
「ここはそんな場所じゃないですよ?」
鈴蘭畑のど真ん中で叫んでたら人形少女がやってきた。
「○○さんはどうしてこんなところに?」
「こんなところって、ご自分のお気に入りの場所を悪く言うのはよくないぜ?」
まあ、確かに鈴蘭の毒があるから一般人が寄り付かないのは当然だろうけどね。
多分下手な妖怪でも近づけないんだろうなー。
「まあ、ちょっくら用があってね」
ちょっと冥界に行くためにここの鈴蘭の毒を利用する旨を伝えた。
「○○さんはやっぱり変人です」
「くそっ! こっちは大真面目なんだが今回ばかりは否定できないぜ!」
こんなの傍目から見たら俺は自殺志願者な変人さんだろう。
「ところで変人さん」
「すまん。流石に呼称を変人に固定するのは止めてくれ」
首を括りたくなってしまう。
仕方ないって感じで人形少女も了承してくれた。
「○○さんはそのためだけにスーさんのところに来たんですか?」
「いや、第一目標は人形少女に会うことだったぞ」
目撃情報によると真夜中でもない限りは
何時もここに居るって聞いてたらか何の心配もなかったからな。
「うん、それなら逝っていいよ」
「待て。ちょっと待て。今明らかに感じ、もとい漢字が違わなかったらメディスンよ?」
あ、やば。何かいきなり意識が……遠…………く……
「と、言うわけで無賃乗船だけどよろしくな」
「アンタまた来たのかい」
気がついたらまた岸の彼岸花が綺麗な川の上。
そして船頭の死神嬢に失礼極まりない挨拶をする。
死神嬢のほうは関心したようですっごい呆れ顔だ。
「そんな熱い視線を向けられると照れるぜ」
「全く変わってないねぇ。その馬鹿なところとか」
ふっ、ヨゴレな俺にその言葉は褒め言葉だぜ。
ところで、これって反対側の岸に着くまでどれくらいかかる?
「ん? そうだね。ざっと半刻(一時間)くらいかねぇ」
「ほほう、なるほど。つまりそれまでは邪魔が入らぬわけだね」
キラーンと目を光らせ、にやりと笑う俺。
不穏な空気を感じ取ったのか身を強張らせる死神嬢。
「ふっふっふっふっふ、ここで会ったが一年前。
この恨み晴らさでおくべきかー!」
「ちょっ! アンタいきなり何するんだい! あ、危ないから止めろって!」
「へへへ、船頭さんはしっかり仕事してないと駄目だぜ?
さあ今こそ心のジャポニカふくしゅう帳に取り消し線を引く時だ!」
船が向こう岸に着くのが四刻半(30分)遅れることとなった。
「貴方の死因は撲殺だったのでしょうか?」
「少なくとも毒物による中毒死あたりだったと思うんですがね」
閻魔少女と俺は同時に死神嬢のほうを見る。
にこやかな笑顔で大鎌が俺に向けられた。
「それで今回はどういったご用件でしょう?
まさかまた事故ということはない……ですよね?」
わーい。ちょっと疑われてるぜ。
勿論そんなことはない。さっきもしっかり一つ済ませたところだしな。
「全く、酷い目にあったよ」
「危うく船転覆しそうだったしな」
結局櫂で殴打されて大人しくさせられてしまった。
「それで映姫様にも何か用があるとかで」
「はあ、私もそこまで暇というわけではないのですが……」
少し困ったような顔で苦笑する閻魔少女。
ああ、大丈夫です。時間は取らせません。
なーに、文字通り一芝居してくれれば結構ですから。
「一芝居、ですか?」
「その通りです。まあ、と言っても台詞は一個ですけど」
俺はそう言ってカンペの紙を一枚手渡す。
それを受け取った閻魔少女と、死神少女が覗き込むように見る。
「な、なななな何ですかこの台詞はー!」
「わーお。こりゃこっ恥ずかしい台詞だね」
うむ、実にいい反応だ。
さあ、さらっと言っちゃってください。
閻魔様なら迷える子羊を一匹救うくらいの得ありますよね?
「うっ、しかしこれは……」
「仕方がないなぁ。それじゃ俺がその前台詞言いますからお願いしますね?」
「えっ? ちょっと待って――」
深呼吸して1、2、3、ハイッ!
「頼む、俺は君の言葉を聞きたいんだ」
「えっ? へっ?」
「迷惑だってことは分かっているんだ。
でも俺はそれを聞かないとこれ以上前に進めない」
「あの、その……」
「だから頼む。言ってくれ! 君の口から、その言葉を!」
「あ、わ、わた……私も……
私は貴方のことを忘れません。
だから、あ、貴方も私のことを忘れないでください。
だって私は貴方のことがす、す……すきゅうぅぅぅ~」
ああ、惜しい! 最後の台詞を言う前になんか気絶しちゃった。
でも、これはこれで初心で少女らしいってことで満足だな。
「アンタ演技派だねぇ」
ヨゴレはこれ以上汚れようがないから大抵のことは恥ずかしくないからな!
とりあえず閻魔少女の頬をぺしぺし叩いて気付けをする。
「はろはろ。ご機嫌いかが? 脳のショートは修復済み?」
「………………!?――」
閻魔少女が声にならない叫び声を上げた。
おまけに笏で滅多打ちにされる。
「ちょ、痛いっ! 何で?! 今のは芝居だってちゃんと言ったじゃん!!」
「いや、そりゃあアンタが悪いよ○○」
分からん! 乙女心ってのはやっぱり分からん!
― 一時間後 ―
「すみません。少々取り乱しました」
こんだけぼこって少々ですか。そうですか。
口に出したら無条件で判決有罪にされそうなので勿論口には出さない。
「さて、それでは最後に説法を行います」
「うげぇ!」
おもわず声に出してしまったら、笏で叩かれた。
「いいですか。貴方は今多くの縁を繋いでいます。
それを断ち切ることは間違っても善行とは言えません。
しかし、貴方の持つ強い信念を無理に曲げることもまた違うでしょう。
だから、貴方の思う最善の結果を良く考えて下さい」
「小難しい話でよう分かりませんが。まあ了解です」
さて、それじゃあそろそろ戻りたいので手続きの方よろしくお願いします!
「アンタたいがいに図々しいねぇ」
「それもヨゴレな俺の魅力の一つですから!」
その魅力は今のところ100%の確立で気づかれてないがな!
「それじゃまあ。去るまで数日よろしくな。映姫と小町さん」
「私呼び捨てですか!」
「さて、なかなか行き倒れが見つからないな」
「何を探してるのよアンタは」
おぉっ! 噂をすれば影。
こんなところで行き倒れ少女を発見した。そして捕獲!
「な、何するんだアンタ。こら放せ!」
問答無用で行き倒れ少女を背負う。
ベシベシと頭を叩いてくるがとにかくスルー。
「へい、お客さんどちらまで?」
「何考えてるのよアンタ」
正直何も考えてない。なので今から考える。
背負ったままえっちらおっちら歩きつつ、神社の石段までたどり着く。
「おお、そうだそうだ。お前なんでまた春じゃない季節に出てきてるんだ?」
「…………」
おいこら。まただんまりか。
しかし、今回は俺めげないぞ。
意地でも聞く。絶対に聞く。
「言わないとおんぶからだっこに変更するぞ?」
「は、恥ずかしいから止めろ! 分かった。話すよ」
話せる話ならさっさと話せっての。
全く、これだからツンデレは。
「こらアンタ。今失礼なこと考えただろう?」
「何のことやら。それより早くトークミー」
背負ってるから顔が見えんが、かなりご機嫌斜めなようで。
しかし渋々と話してくれた。
「その、なんだ。礼を言おうと……思って、な」
お礼? なんの? 前に背負って神社に連れて行ってやった事か?
いや、それじゃあ最初に行き倒れてた理由にはならんな。
「ホワイトが世話になったみたいだし。それに何か詫びの品まで来るし。
何故か助けてもらった私の分まで来たし」
それって……ああ。あの季節草の粥セットか。
しかしそれで礼に来たって……お前案外義理堅い奴だな。
首を捻って行き倒れ少女の顔を見ようとするが、反対側にそっぽを向かれた。
逆に首を捻ると、さらに顔を背けられる。
ちょっとカチンときた。
「どっせぇいっ!」
「きゃわっ!? な、何を……って、本当に何してるのよ!」
「お姫様抱っこ。これならどう足掻かれてもお前の顔が見れるからな!」
何か用途が激しく間違ってる気がするが気にしない。
台詞も何だか誤解されそうな台詞だがこの際気にしない。
顔を真っ赤にした行き倒れ少女が半泣きで睨んでくる。
「何考えてるんだよ!」
「重……流石に冗談だ。てか逆に軽すぎ。ちゃんと食ってるかお前?」
しゃーない。今晩は食わせてやろう。
と言うわけでこのまま連行連行っと。
「リリーブラック。食いたいもののリクエストは?」
「……満漢全席 」
それは流石に無茶だっての!?
さて、やってきました秋の山。
そして早速現れました性悪豊穣姉妹。
だが残念だったな! 今日はちゃんと弁当持参だから物乞いはしないぜ!
「それじゃあこれお願いね?」
「まてーい! 何をさも当然の如く人をパシリにしようとしてるんだ!」
「だって、私達神様だし」
てめぇら絶対神じゃねぇ。神だったとしても邪神だ邪神。
人に苦行ばっかり与えておいて見返り寄越さないなんて悪魔の契約より性質が悪いぞ。
「まあ、冗談はこれくらいにしておきましょう」
「冗談かよ! 帰るぞもう!」
「駄目よ。貴方は守矢神社に行ってもらわないと」
なしてまた?
理由を聞いてみると何でも守矢神社のほうから注文があったので
秋の味覚を見繕って持ってきて欲しいんだとか。
「で、俺を運搬係にと?」
「あちら様のご意向でね」
何考えてんだアソコの三人は。
「まあいいや。兎に角運べばいいんだろ運べば」
よいこらしょと籠を担ぐ。
そして山を登る前に豊穣姉妹に懐に忍ばしておいた弁当を差し出す。
「何コレ?」
「お供え物。そういえば二人も神様なんだなとさっき気づいたんで一応な」
「ちょっと失礼ね。まあ、いいわ」
手作り弁当なんだから味わって食えよ。
あと一つしかないからちゃんと姉妹仲良く分けて食えよ?
「そんじゃ行って来るわ。達者でな静葉に穣子!」
暫く山を登った後、背後で謎の爆発があったんだが……俺関係ないよな?
さあ、またもや怪しい気配が漂い始めたぞ。
本能的には避けて通りたいところだが今回の目的はそっちなのでな。
何かあたりが薄暗くなってきたかと思ったところで人影を発見した。
「おお、くるくる少女。今日も懲りずに回ってるんだな」
「好きで回ってるわけじゃないのだけどね。
それより、今日は厄が多いわ。あまり近づきすぎると危ないわよ」
確かに、何か黒いオーラが見える気がする。
それが厄ってわけか。ちょっと興味が沸いたのでそっと手を伸ばしてみる。
「あ痛っ! 襲ってきやがったこいつ!」
「注意したのに何で触ろうとするのかしら」
いやはや、ここで未練増やすわけにもいかないしねぇ。
「それで、今回もまた迷い込んだのかしら?」
「いや、今日はお前に会いに来た」
ん? 何故そこで回転を止める。って、厄が回りに広がりだしたぞ!
おぉ、再度回りだしたら……って、危なっ!? 飛び散りだしたぞ!
逆だ! 逆回転してるぞくるくる少女!?
「ごめんなさいね。ちょっと間違ったわ」
「以後気をつけてくれ。幻想郷に来てベスト10に入るくらい危なかった」
因みに現在ダントツトップは腋巫女と白黒による最終奥義的なスペカのツープラトン。
アレは本当に死ぬかと思った。冥界も跳び越して魂まで消滅するかと思った。
現在くるくる少女は正回転を始めて順調に厄を集めている。
「とりあえず今回のお供え物はこれね」
「これは……リボン?」
実在、しかも少女に対して毎回食い物ってのもいけない気がしてね。
人里で適当に見繕ったものをお供えするために買ってきたのだよ。
「まあ、神と言えども女の子。既にフリフリだがまあその中の一つにでも加えてやってくれ」
じぃーっとリボンを見つめるくるくる少女。
って、回転また止まりそう! ちゃんと回れ! 逆には回るなよ!
「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くな。さいならだ、雛」
よし、中腹付近に来たぞ。
目の前には結構でかい川が広がっている。
そして俺は荷物から一本の野菜を取り出す。
「出て来い同志河童少女ー!
出てこなければこの胡瓜にハチミツをかけてメロン味にして食べてしまうぞ!」
「待て同志○○! そんな邪道な食べ方許さないよっ!」
見事に河童が釣れました。
冗談だと言ったらちょっと怒りつつも許してくれたので、
物質(ものじち)にしていた胡瓜をプレゼント。
現在隣に座って美味しそうに食べておられる。
「えっ? 同志帰っちゃうのかい?」
「ああ、観光が終わったからなぁ」
これ何回目の説明だろう?
もはやテンプレと化した説明をする。
河童少女は渋々と言った感じで納得した。
「そっか。人間では今たった一人の同志だったんだけどな」
「人里近くに行きゃ沢山会えるだろうに」
「無理無理! 人間皆が○○と同じなんて在りえないから!」
何か力いっぱい否定された。
俺が特別って意味で喜べば良いのか、異端って意味で悲しめば良いのか。
とりあえず両方を現すために泣き笑いしてみることにした。
「ぐすっ、ありがとうよっ!」
「えっ? 何でそこで泣きながら笑うの!?」
河童少女が混乱した。
嘘泣きだと白状した。嘘つくなと殴られた。痛い。
笑ったのは本心だと行った。照れるだろと殴られた。めっちゃ痛かった。
結論、やはりこの世界は理不尽が多い。
「で、何でまた俺は案内されてるんだ?」
「折角教えた道忘れてたからでしょ?」
はい、そうでした。ごもっともです。
俺のピンク色の脳細胞はどうでもいいことはすぐ忘れてしまうのだよ。
「それじゃ、新しい出会いがあることを祈ってるぜ、にとり」
「あんたも気をつけろよ!」
さて、次は天狗の領域だな!
「はあ、はあ。へ、へっへっへ、ようやく捕まえたぜ」
「は、放してくださーい!」
現在、犬耳少女を相手にしたおにごっこの決着がついた。
最初は天狗の領域に入った俺に会いに来たようだが、
何故だか俺を見たとたんに後ずさり、逃げ出した。
目を光らせたのが悪かったのだろうか? それとも手をワキワキさせてたのだろうか?
「ど、どっちもですー。怖かったんですー」
「失礼な。アレ如きで怖いなんて言ってたらこれから起こる行為には耐えられんぞ?」
がたがたと震えだす犬耳少女。
いや、すまん。今のは本気で冗談だ。
必死の説得&土下座をしたところで許してもらえた。
「さて、そしてこれからが本題なんだがな」
「はい」
「その犬耳をもふもふさせろ」
「……はい?」
よし、承諾は得た。イントネーションが違ったが些細なことだ。
日本語の素晴らしさを噛み締めつつ、レッツもふもふ!
「おぉー、いいねぇ。この毛並み、手触り、弾力。
どれをとっても一級品だ」
「ふわわわわっ! く、くすぐったいー!」
「俺としては垂れ耳が好みなんだが、この耳もなかなか癖になる」
「や、やめてくださいー。ち、力が抜けちゃいまふー」
ふっふっふ、気持ちいいか。気持ち良いだろう。
太郎(フェレット)で鍛えたテクニックでお前もメロメロだ!
― 30分後 ―
「くぅ~ん。○○さんもっと撫でてください」
「あー、でも俺もそろそろ行かねばならぬのだが」
しまった! ちょっとやりすぎてしまったらしい。
まさか俺のテクニックが依存性を及ぼすほどのレベルに達しているとは本人もビックリだぜ。
「うぅー、でももう○○さん帰っちゃうんですよね?」
やめろ! そんな潤んだ目で上目使いなんて反則級だ!
ぬおっ、服の袖をちょこんと握るなんて何て後ろめたい気持ちにさせる技を!
まさか、まさかこの状態であの台詞を言ってしまうのか!?
「でも、○○さんの迷惑になることなんて……やっぱり出来ませんね」
パァッと笑顔になって健気な一言。目じりに少し溜まった涙がポイントだ。
ぎゃあああ! 良心が! 俺の良心が激痛によるショックで死んでしまう!?
それから一時間たっぷり甘えさせた後、俺は前回同様裏道を教えてもらった。
「それじゃあな。椛」
「はい。○○さんもお元気で!」
くっ、やっと着いたぜ守矢神社。
登った距離は大したことない気がするんだが、エベレストに登るくらい大変だった。
俺、エベレストどころか富士山にも登ったこと無いけどな。
「あ、○○さん。もう、遅いです。夕方近いですよ?」
「勝手に運搬係に指名しといて、持ってきてやっただけありがたいと思え!」
青巫女に叫ぶように言ったら、何故かキョトンとした顔をした後首を捻る。
それから暫く思案顔をした後、ポンっと相槌を打った。
「ああ、そうでした。そんな建前作ってたんでしたっけ」
「建前って何だコラ!」
まさかこの重い秋の味覚持ってくる必要なかったのか?
「ああ、建前でなく。ついでですね」
「余計にむかつくわー!」
だっしゃー! っと秋の味覚を青巫女にぶちまけてやった。
いくつかは奇跡の力なのかありえない軌跡を描いてどっかに飛んでいったが、
流石は神から神への供物。神秘の力が篭ってたのか八割近くがそのまま青巫女に直撃した。
「ひ、酷いですよ○○さーん」
「それはこっちの台詞だ。ほれ、さっさと出て来い」
そして拾うのを手伝いなさい。
ちょっとばら撒きすぎたか拾うのが面倒だ。
「面倒なら最初からやらないで下さいよ」
黙らっしゃい。
いろいろと溜まってたものを吐き出しておくいい機会だったんだよ。
「○○さんの中で私って何なんですか!?」
俺と君のためにも黙秘権を行使します。
「と、言うわけでついでに持ってきたお供え物です」
「お使いご苦労様。助かったわ」
「パシリお疲れ!」
やっぱりパシリにしたのかよ!
ニコニコする注連縄婦人が無性に腹立たしい。
その隣でにやにやするあーうー少女がもっとムカつく。
「それで一体何の御用でしょうか?」
「ええ、これを見せたいと思ってね。どう?」
そういって注連縄婦人が手で示したのは背後に佇む本殿だった。
すっかり修繕も済んだようでかなり立派なものだ。
「へー、これはこれは。神の住む社なだけあって豪勢ですね」
前に来た時とは雲泥の差だ。
この一年で信仰心は結構獲得した模様ですな。
「肝心の○○さんは回心してくれませんでしたけどね」
「俺は目に見えなくても信じるものは信じる性質だし、
目に見えたからといって、まるまま信じる訳でもないのだよ」
一週間の洗脳を耐え切った俺を舐めんなよ?
「さて、それでお二人に少々お手伝いいただきたいのですが?」
注連縄婦人と青巫女にちょっとお願い事をする。
二人をちょいちょいと誘い寄せ、円陣を組んで作戦会議。
青巫女がちょっと渋ったが、注連縄婦人が乗り気だったため万事OKだ。
「あーうー。ねえ、三人とも私だけ除け者なんて酷いよ?」
「安心して。これからは諏訪子が主役だから」
「ごめんなさい諏訪子様。神奈子様がどうしてもと言うので」
嬉々としてあーうー少女の右腕を拘束する注連縄嬢。
なにやら言い訳しつつも手早くあーうー少女の左腕を拘束する青巫女。
いきなり両腕を拘束されて目を白黒させているあーうー少女。
そして、真打の俺! 手にはマジックペンを装備済みだ。
「な、何する気なの! ま、まさかそのペンで私の顔に悪戯書きする気!?」
「いやいや、そんなありきたりな詰まらないことはしないよ」
キュポっとキャップを外してあーうー少女の頭に近づける。
そう、顔でなくて頭だ。そしてあーうー少女の頭にあるもの、それは……
「ま、まさか!?」
「そのまさかさ! その目玉付き帽子に、魂を吹き込んでやる!!」
俺の怪しい笑い声と、あーうー少女の悲鳴が響き渡った。
「うむ、まさに傑作。文字通り神の作品だな」
「というか、神をも恐れぬ所業ですよね」
我が力作をみて満足げに頷く俺。
青巫女が苦笑気味だが、お前も共犯であれこれ口出してたの忘れるなよ?
因みに注連縄婦人は俺の神作を指差して笑い転げてる。
あーうー少女は感激のあまり茫然自失としている。
「それじゃ。早苗、神奈子さん、諏訪子。お邪魔しましたー」
さあ、これで未練は後二つ。
同着一位で一番厄介だが、頑張るとするかー。
こんこんっと木造の扉をノックする。
ほぼ間をおかずに開いた扉から、特徴的なとんがり帽子が現れた。
「よう白黒! ここに来るのは盗本奪還作戦以来だな!」
「だな。まあ立ち話もなんだから上がってけよ」
と、お誘いを受けたので遠慮なく上がらせて貰う。
扉を開くと、そこは魔境が広がっていました。
実に予想通りである。
「前に片付けろって言ったよな?」
「言われたが返事はしてないぜ?」
確かにそうだったが……
しかしだからって前より散らかしてるのは、そこんとこどうよ?
「生きていくのには困ってないぜ?」
「何て男らしい発言をしているんですかこの魔法少女め」
お前が本当に女なのか確かめたくなってきたぞ?
今の俺なら実はお前の家の仕来りで一人前になるまで
性別を偽ることが義務付けられていたとか言われても信じるぞ。
「確かめてみるか?」
「いやいや、流石に冗談。そこまでしなくてもお前が女だってことは分かるっての」
いやに真剣な声色で言ってくるもんだからちと焦った。
しかし、ちと床に落ちてるのどかさないと誤って踏んでしまいそうだ。
本を軽くまとめて墨のほうに積み重ねていく。積み重ねていく。積み重ねて……
「ええいっ! 多すぎるわ! 本棚作ってちゃんと片付けておけよ!」
「なら○○が作って片付けてくれ。
私も助かるし○○の怒りの種も消えて一石二鳥だぜ?」
俺を小間使いみたいな言うな!
貴方様は人のことを何だと思ってるのだよ。
「さあ、正直分からないんだよな。私が○○をどう思ってるのか」
……おい、いきなりシリアスになるなよ。
あー、そんなことどうでもいいかお前も片付け手伝って――
「っと! …………何の真似ですかいコレは?」
顔を上げたところで白黒に突き飛ばされ尻餅をつく。
痛みを堪えつつ再度頭を上げると、すぐ傍に白黒の顔があった。
「言っただろ? 私にも訳が分からないんだ。
何で私がこんなことしてるのか、何をしようとしてるのか」
やべぇ、心臓が16ビートで早鐘を打ってるぜ。
ずりずりと後ろに逃げると、白黒も同じ間隔で詰め寄ってくる。
ああ、まずい。このパターンは壁にぶつかって追い詰められるって奴だ。
しかし常識に反逆してこその俺だ。いくぜ、発想を逆転させるんだ!
俺は壁まで後一歩というところで、体を一本線に畳み一気に床を滑る。
そう、白黒の方向に!
白黒がいきなり近づいてきた俺に慌てたように飛びのく。
その結果……
「白の単一か。小さな飾りがキュートだな。78点!」
白黒が俺の頭の上で仁王立ちって感じになっていた。
見えたもんだからつい採点までしてしまった。
さて、それじゃあそろそろ弁明しておこう。
「まあ、何だ。落ち着いて聞け。これは俗に言う不可抗力と言ってだめぬふっ!?」
白黒がそのまま座り込んできて俺の腹に思いっきり座り込んだ。
マウントポジションって奴だ。
「それが遺言か?」
にこやかな顔で握りこぶしを見せる白黒。
待て、今のは俺だけが悪いわけじゃないはずだろうが!
「うるさい! 人のパ……乙女の秘密見といて言い訳するな!」
「まて、その言い方のほうが何か意味ありげだぞ!
というか何でお前今日に限ってドロワーズ穿いて無いんだよ!」
さっきまでのシリアスをすっかり忘れて、
馬鹿みたいぎゃーぎゃー騒いだ。
「はあ、もうさっきまで悩んでた自分が馬鹿みたいだ」
「馬鹿でいいじゃねぇか。
下手に悩んで折角の楽しいこと見逃すなんて勿体無さ過ぎるぜ?」
「確かに。ここに良い見本がいるしな」
てめっ、人のことを露骨に見ながら言うんじゃない。
そして俺のことは馬鹿でなくヨゴレと言え!
まあ、何か変だった白黒も元に戻って良かった良かった。
「それじゃあ俺はもう行くな。もう一つ厄介な未練を片付けないといけないからな」
「霊夢の奴か。アイツは変なところで面倒だから頑張れよ」
「ああ、分かってる。……おっと、それとあと一つ忘れてた」
歩き出そうとしたところで思い出し、すぐ振り返って白黒の肩を掴む。
「この世界で初めて会ったのがお前で良かったぜ。ありがとうな、魔理沙」
最後にポンッと魔理沙の頭の帽子を叩いて、今度こそ帰るために走り出した。
一度振り返っても何か扉開けたまま立ち尽くしてる魔理沙が気になったが、
引き返すのもアレなのでそのまま帰路を急ぐことにした。
さて、それでやっと博麗神社に帰ってきたわけだが。
「あー、腋巫女。君は完全に包囲されてるわけじゃないが居るのは分かっている。
観念してさっさと部屋から出てきなさい」
「……」
気配はあれども返事がない。
帰ってきたところでいきなり部屋に篭ったと思ったら、
夕食の時間になっても出てこない。
「飯が冷めちまうぞー。今日は肉じゃがだぞー」
「…………」
おのれ、あくまでだんまりか。
しかし、本当にどうしたものか。
このまま放っておくって訳にもいかないし。
って、訳で強硬手段発動!
しかし、きっとこの襖はがっちり固めてあって開かないだろう。
と、言うわけで。
「ほいっと!」
「えっ?」
最終手段、襖を外した。
まさかの方法に腋巫女は目が点になっている。
俺はその隙に襖を壁に立てかけて、
腋巫女の首筋を引っつかんで引きずっていく。
「わっ! ちょ、何するのよ○○」
「強制連行だ。罪状は立て篭もりと俺のこと無視したこと。
んで判決は――」
居間まで連れて行き、ちょっと乱暴に机の前の座布団に座らせる。
「夕食完食の刑だ。全部食い終えるまでご馳走様は許さないぜ?」
ぽかんとしている腋巫女をよそに俺はさっさと夕食の準備をする。
最後にお茶碗にご飯をよそって準備完了。
それじゃあご一緒に!
「「いただきます」……あっ! つい言っちゃった!」
はっはっは、日頃の習慣ってのは凄いもんだね。
さあ、早いとこ観念して食べろ。
何がどうしたか知らんが出された料理は食わないとだぞ。食材に罪は無いからな。
「分かったわよ」
腋巫女はぶっちょう面で渋々ながら箸をとる。
で、一口食べたらいつもの調子でパクパク食べ始めた。
腹減ってるんだったら変に我慢するんじゃないっての。
暫くは無言で食事を続け、俺は半分くらい食べたところで口を開いた。
「さっき魔理沙のとこで片付けてきた」
「へえ」
素っ気無く返事をする腋巫女。
平静を装ってるつもりのようだが、箸が止まってるぞ。
「これでようやく帰る目途がたったわけだ」
「そう、良かったわね」
ついには箸を置いて俯いてしまった。
あー、何だ。分からないでもないんだが……なあ?
「おい腋巫女。そろそろ機嫌直せって」
「別に機嫌が悪いわけじゃないわ」
腋巫女、お前嘘下手だよなー。
せめて嘘つこうってんなら相手の顔ぐらい見れるようになろうぜ?
図星だったのか俺のほうを向いてキッと睨んでくる。しかし……
「そんな膨れっ面で睨まれても可愛いだけだぞ?」
「うっ!? ……もう、どうすればいいのよ」
がくっと肩を落として机の上に突っ伏す腋巫女。
どうするもこうするも自然体で居ればいんだよ。
全く、いつも暢気にのんびりしてればいいんだよ。
幻想郷の博麗神社の巫女はお気楽道楽天上天下唯我独尊が基本だろ?
「私はどんな人間失格者なのよ」
「なんだ。しっかり自覚あったのふっ!?」
腋巫女の投擲した箸が頭に刺さった。
お前、頭ばっかり狙うなよ。馬鹿になるだろうが。
「なら安心ね。とっくに手遅れよ」
「ひでぇっ! 真顔で言ってるあたり余計にひでぇ!」
まあ、とりあえず調子は戻ってきたようだな。
とりあえずさっさと食うぞ。すっかり冷めてしまった。
うむ、我が作品ながら味がしみてて美味い美味い。
食事も終わり、今は月見がてら縁側でお茶を啜っている。
「で、どうだった?」
「何が?」
「飯。美味かったか?」
「……ええ、美味しかったわ」
よし、これで未練消化達成。
おめでとう! これで全ての未練をクリアしたよ!
「未練って……そんなことだったの?」
「まあなぁ。だってお前、二年近く食ってて一度も美味しいって言ってくれなかったんだぜ?」
そりゃあ最初は素人に毛が生えた程度だったが、
居る時は毎日食わしてやってたんだからお世辞でも一言あってしかるべきだろう?
「私、食べ物に関しては嘘つかないから」
「こんな時ばっかり俺の顔しっかり見て話すのな!」
ちくしょうめ。まあ最後の最後でしっかり言わせたから良しとしよう。
「最後なのね」
「ああ、俺の居候生活最後の晩飯だ」
最後の晩餐in博麗神社。
うん、実に平凡な食事風景が描かれてるんだろうな。
いや、もしかしたら脳天に箸が突き刺さって倒れている俺と
それなのに平然と食事してる腋巫女っていう超シュールなものかもしれん。
「さて、そろそろ夜も深けてきたし。風呂入ってさっさと寝るぞ」
何なら最後の記念に一緒に入るか?
「夢想封印するわよ?」
冗談だっての。俺は後からでいいから先入ってくれやー。
「……最後だからって記念に覗かないでよ?」
「ばっ! 覗かねーよ!」
実のところ巨乳から貧乳まで須らくいける俺だから可能性が無いわけでもないがな!
だが、帰還時に包帯グルグルのミイラ男で帰るのは流石に嫌だ。
目が覚めたら病院のベッドの上でした。何て展開が安易に予想できるぜ。
次の日、俺はいよいよ元の世界に帰ることとなった。
作業も順調。後は腋巫女が結界に道を作って、俺がそこを進んでいくだけだ。
「本当に皆を呼ばなくていいの?」
「一年かけてしっかり挨拶してきたからな」
今更だろう。
てか、挨拶済んでるのにまたするなんて恥ずかしくてちょっとな。
貴方らしいわと言いつつ、腋巫女が結界に道を作った。
俺はその道の一歩前に立って、腋巫女に振り向く。
「そう。それじゃあ、元気でやりなさいよ」
「おうっ! 霊夢、お前も俺がいなくなったからってずっとぐーたらして過ごすなよ?」
余計なお世話よと悪態をつく霊夢に苦笑しつつ、俺は目の前の道を進んでいく。
そして、霊夢がちょっと小さくなったところで振り返った。
「霊夢ー! 俺、お前の在り方。結構好きだったぜー!」
「―!? ―――――!!」
言うだけ言って猛ダッシュ。
あっはっは、何か叫んでるみたいだけど
風になっている俺には何にも聞こえないぜ!
それから一ヵ月後。○○が幻想郷を去ってやっと一ヵ月。
細部ではイロイロな変化はあれども、全体を見れば何も変わることはない。
そして、その小さな異変も終息へと向かっている。
―― 観光目当てに365日、未練探して一年余日
―― 想い紡いで幾星霜、名残り解いて春夏秋冬
――今度こそさらば、俺の愛しき幻想郷! ○○
「ふう、やっと完成しました。霊夢さん、ご協力ありがとうございます」
阿求は走らせていた筆を止め満足げに頷いた後、
今まで話を聞いていた霊夢に礼をした。
「礼には及ばないわ。丁度準備も終わって暇だったしね」
霊夢はお茶を飲みながら素っ気無く返す。
すっかりいつも通りな霊夢の様子に阿求はくすりと笑う。
「それにしても、今回の宴会は随分と大きいものにするみたいですね」
阿求は神社の境内に準備されている机や椅子、御座などを見渡す。
食べ物の量なんかもいつも準備している量の倍はありそうだ。
「そうね。久しぶりということで盛大にやろうって言ってきてね」
「えっ? 霊夢さんの主催じゃないんですか。誰なんです?」
「紫よ」
その名前を聞いてああなるほどと納得した。
霊夢の話を聞くと、何でも幻想教中の知り合い皆を集めて盛大に騒ぎたいのだとか。
「おーい霊夢。来てやたっぜ?」
「見事に手ぶらね魔理沙。参加費出してないんだから差し入れの一つくらい持ってきなさいよ」
しかし魔理沙は霊夢の言葉も何処吹く風。
そのうちなっ! と言うがきっと「そのうち」は一生来ないんだろう。
魔理沙が着てからを皮切りに、続々と参加者が集まってくる。
常闇の妖怪は料理を前に今か今かと待っている。
氷の妖精は元気に空を駆けずり回り、大妖精が止めようと四苦八苦している。
門番の少女も今日は仕事が休みのようだ。
図書館の主従は面倒くさがる主を小悪魔が引っ張って来たようだ。
館の主である吸血鬼はメイド長を従え意味ありげな笑みを浮かべている。
そしてなんと吸血鬼の妹もやって来ていた。どうも今日は安定しているようだ。
冬の妖怪もこっそり神社の上で境内を見下ろしている。
七色の人形遣いも今空の向こうから飛んできている。
季節外れの春を運ぶ妖精の二人も何時の間に室内のこたつでぬくぬくしている。
騒霊三姉妹はプチステージをするのか舞台のセットに忙しそうだ。
半人半霊の庭師は、主である華胥の亡霊のつまみ食いを止めようと奮闘中。
式と式の式は主が居なくてちょっと所在無さげだ。
夜雀と蛍の妖怪は、どうもステージに参加するようでライトアップを手伝っている。
永遠亭の一行もやってきた。引き篭もりで有名なそこの主がいるのに数人が驚いた。
半獣の先生は今にも喧嘩を吹っかけそうな不死の少女を諌めている。
鬼っ子は始まる前からもう飲んでいる。まあ、これはいつものことだ。
ブン屋の鴉天狗は集いに集ったこの宴を撮り尽くそうと忙しそうに飛び回っている。
フラワーマスターも少し離れた木々の下にやってきていた。
どうやってきたのか鈴蘭畑の人形も着ていた。どうやら毒撒布の心配はないらしい。
さぼりで有名な死神も今日はちゃんと休暇をとってきたらしい。一緒に閻魔が着てるのがその証明だ。
秋姉妹はちょっと寒そうだが焚き火の近くで楽しそうにお喋りにいそしんでいる。
厄神は今日はゼロと言っていいほど厄を纏ってない。けどちょっと遠慮してるのか皆からは離れている。
河童はちょっと乾いたのかぐてーっと縁側で突っ伏している。
白狼天狗はこういう場所は初めてなのかおろおろとしていて不謹慎ながらちょっと可愛い。
守矢神社の一行もやってきた。違う神社なのに良いのかと想うが、誰も気にしてないから大丈夫だろう。
「ほんと壮観ね。幻想郷中の実力者勢揃いよ」
正直、ここにいるメンバーが結託すれば幻想郷中を制圧するのなんて訳ないだろう。
勿論、そんな酔狂に乗るメンバーなど誰一人と居ないだろうが。
そこで、空間が割れたかと思ったらそこからにゅっと金髪美女が顔を出した。
「紫、遅かったわね」
「ふふっ、ちょっとこっちの準備が手間取ってね」
また何を企んでいるか知らないが、まあこの宴の場を壊すようなことはしないだろう。
「これで全員集まったわね。それじゃあそろそろ始めましょうか」
紫のその一言で、集いに集ったメンバーが一気に騒ぎ出した。
幻想郷の博麗神社で開かれた宴。
人も妖怪も幽霊も何もかも関係なく、
ただ気の会う者同士が謡い、騒ぎ、飲み明かす。
そして、会場のテンションも最高潮に達したところで、
とても大きな爆弾が投下された。
「○○が居たらもっと盛り上がったんでしょうね」
会場に一気に静寂が訪れた。
誰もが皆、その言葉を発した人物。
そう、この宴会の主催者の紫を見た。
その中でいち早く復活した霊夢が口を開く。
「紫、貴女ねぇ」
「あら? 私はただ本心を言っただけよ?」
――貴女は違うのかしら?
紫の言葉が今この場に居る全員に問いかけられる。
恐らく、ここに集まった全員が○○のことを少なからず好いて、気に入っているだろう。
だが、それ故に。思っているからこそ。
誰もその質問に答えられるものはいなかった。
そう、だからこんな答えが返ってきたのだ。
「うわっ! 誰も賛同してくれないとかひでぇ!」
突如聞こえてくる男の声。会場には一人も居なかったはずの男の声。
「何だお前ら随分と薄情だな。こんな楽しそうなパーティーするなら呼んでくれよ」
一人だけハブるとか泣いちゃうぜ? 何て、『らしい』口調で神社の石畳を登ってくる。
「おっ。何だ勢揃いだな。これでまた一年かけて挨拶回りする手間が省けたぜ」
階段を登りきった一人の青年を確認して、数名を除いた少女達は一様に驚きに固まっていた。
背負っていた荷物を降ろし、まるでそれが当然が如く宴会の会場の真ん中を陣取る。
「この度幻想郷に引っ越してきた○○だ! ご近所の人もそうでない人もよろしくな!」
「……………………………………………………」
まだ沈黙は継続中のようだ。
しかし○○はそれをいっこうに気にせず適当に料理を摘み始めた。
ちょっと離れた場所で紅い吸血鬼が笑い転げ始めた。
「あっ、そうだ!」
○○が何か気づいたように声を上げる。
それに反応した少女達が少しずつ現実を理解し始めた。
しかし、皆のそれが完了する前に再度会場の真ん中に立った○○。
彼は大きく息を吸い、全員に向けてこう言った。
「俺、この幻想郷に骨埋めるつもりだからさ。なので現在彼女募集中!
ちょっとでも気があったら遠慮なく声を掛けてくれな!」
その日、幻想郷史上最大の弾幕が夜空に舞い上がった。
幻想郷に、小さいがとても重大な異変が訪れようとしていた。
「これが引っ越し祝いだと言うのか! 理不尽だー!」
その異変を解決するのは誰なのかは、今だ誰にも分からなかった。
>>うpろだ1144
───────────────────────────────────────────────────────────
「この世はーサバイバル、白か黒か行く道はー一つだけー♪」
というわけで神社の境内の掃除をしているわけだが霊夢さんは一体なにをやってるんでしょうね。
「○○ー、終わったら肩揉んでー」
……なにかおかしくね?
「肩がこるほど胸もないのに揉む必要なんて(ry」
問答無用でテーレッテーでした。
俺が幻想郷に来てから一ヶ月くらい経った。
最初は戸惑ったけど神社に住まわせてもらってるから生活にも困らないし、友人もそれなりに出来て楽しい生活と言えるんじゃないだろうか。
外の世界での時間に追われるような生活と比べたら天地の差だろう。
というわけで掃除再開
「奇跡なんてないさー、近寄るのは偽善者の甘い罠ー♪」
「えっと……奇跡、起こしてみます?」
いつものように適当に歌いながら掃除をしてたら珍しく反応が。
声のした方を見ると早苗さんがいた。
「早苗さんじゃないか、霊夢になんか用事?ちなみにさっきの奇跡云々はただの歌の歌詞だから気にしない方向で」
「いえ、別に用事ってわけでもないです。暇だったから来ちゃいました」
テヘッなんて効果音が付きそうな笑顔で答える早苗さん。ああもう可愛いなぁ!
「まぁいいや、霊夢ー、なんか知らんけど早苗さんが来たぞー」
「なんか知らんけどって……」
早苗さんが何か言ってるけどスルー、だってよくわからんし。
「そういえばどうして○○さんが掃除してたんですか?」
掃除を終えた俺が淹れたお茶を飲みながら早苗さんが聞いてきた。
「いや、まぁ俺は一応居候だしなぁ」
当たり障りのない答えしか返せずごめんなさい。
ちなみに俺はさっき言われた霊夢の肩を揉まされている。何この扱い。
「いやー、○○がいてくれて助かるわー。境内の掃除とか地味に大変だったのよねー。あ、そこもっと強く」
「はいはい」
なんというか俺も下っ端根性というかこき使われるのに慣れたもんだ。
「なんというか霊夢さんって外の世界で言うダメな主婦みたいですね……」
早苗さんって結構怖いもの知らずなのかもしれない。
「ダメなってなによダメなってのは」
掃除を俺にさせてさらに肩を揉ませてるのがダメだってんだよ。
「うーむ、そういわれると確かにそうかもしれん。旦那と子供を送り出したら家でゴロゴロしてるのとかそんなの」
それに乗ってしまう俺も俺だが。ちなみに肩を揉む手は休まない。
そういえば風呂上りとかに下着姿でうろついたりするんだよなぁこいつ……
「昼はいい○も見て次はごき○んようでさらにワイドショーってパターンですね」
やけに詳しいな早苗さん。
「あんた達が何を言ってるのかよくわからないけどバカにされてるのは理解したわ」
「あれだ、霊夢にはあれが足りない」
とりあえず面白いから煽っておく。
「なによあれって」
「お前に足りないものは」
「ものは?」
ノリがいいな霊夢。
「お前に足りない物、それは!情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりもー!」
ガラッ!!
「はや「走ってお帰り」……はい」
幻想郷最速の天狗さんがいきなりやってきたのでとりあえず帰ってもらいました。
「……で?私に足りない物はなによ」
冷めてるなぁ……
「女らしさが足りない!!」
ビシィ!と指を指して言ってやった。
二度目のテーレッテーでした。
「いや、風呂上りに下着姿でうろついたりとかするのが女らしくないというか……とりあえずもっと慎みをだな」
「あんただんだん回復早くなってきたわね……」
毎日10回くらい食らってれば慣れます。
「霊夢さん、流石に風呂上りに下着姿でうろつくのはよくないですよ……○○さんもいるんですし……」
「ですよねー」
さすが早苗さん常識人!愛してる!
「そもそも結婚前の男女が同居してること自体がよくないわけでして(ry」
なんか早苗さんが年頃の男女の模範的な在り方を語り始めた。
「意外と早苗さんって古風な人なんだな……」
「そうかしら、私はイメージ通りだと思うけど?」
「そうか?早苗さんは元々俺と同じ外の世界の人だぞ?昨今若者のモラルの崩壊が問題になってるし酷いよ向こうは」
ホントに世の中狂ってたとしか思えないから困る。
「そんなになの?どのくらい酷いわけ?」
興味あるんだ……
「いいか、よく聞け。(そこまでよ!)」
「……!!!!!」
はいはいテーレッテーですね。
「というわけで結婚前の男女が同居してるんですから下着姿で歩き回るのはダメですよ?」
やっと早苗さんの話が終わった。俺も霊夢もそれどころじゃなかったから聞いてなかったけど。
「まぁ俺としては見飽きたしどうでもいいんだけどな。一応神社なんだし誰がいきなり来るともわからんから今後は少しは気を使ってくれ」
とりあえず無難にまとめる。
「わかったわよ……それよりも見飽きたってどういうことよ!」
そこに引っかかるのか。
「いや、言葉通りの意味だが?最初の頃は焦ったりもしたけど今じゃ別に……」
姉妹の下着姿で欲情しないのと似たようなもんだ。
「なによそれ!確かに胸も大してないけど……納得いかない!」
「そんなこと言われてもなぁ。早苗さんとかだったらドキッとするよな絶対」
「わ、私ですか?!いきなりそんなこと言われても……困ります!」
早苗さんはこういう事への耐性はほとんどなさそうだ。
「見ろ霊夢、こういう恥じらいがお前には足りないんだ。わかったらお前もだな……ん?」
霊夢がプルプルと震えてる。俺の全身が危険信号を発し出した。
「いかん!総員退避ー!ってんなこと言ってる場合じゃねー!」
「この……大馬鹿ーー!!」
本日最高威力のテーレッテーですね、わかります。
薄れゆく意識の中で幻想郷最速の天狗に「速さが足りない!!」と言われた気がした。
>>うpろだ1164
───────────────────────────────────────────────────────────
「という訳で外の世界に帰してください」
「何がどういう訳なのよ」
「いや、最近なんかみんな冷たくて」
ここは博麗神社。幻想郷の縁にある神社らしいが全体図を見たことは無いので本当に端にあるのかは知らない。
ただ重要なのはここから元いた外の世界に帰ることが出来るということだ。
「そんな理由で帰ろうとするな!」
今話しているのは博麗霊夢。この神社の巫女だが神事をしているのを見たことが無いので本当に巫女なのかは知らない。
ただ重要なのは彼女に頼めば外の世界に帰ることが出来るということだ。
「だって神奈子様は無視だし、諏訪子様は覗いてきてニヤニヤしてるし、早苗さんもすごい事務的だしもう耐えられないのよ」
「それは堪えるなあ」
今話しているのは霧雨魔理沙。ぶっちゃけどうでもいい。
「そうなのよ、もう針の筵でねえ」
両肩を抱きかかえながら心底限界だというジェスチャーをする。
霊夢はため息をつきながらそれを見ている。
「しかたがないわねえ、結界開いてあげるわ」
「おお、やった」
「40秒で仕度しな「あなたッ!」」
早苗が障子戸を勢いよく開き入ってくる。
「今更なによ!」
「私達が悪かったです」
「ばか、寂しかったあ」
感極まり二人抱き合う。しかし、
「この泥棒猫」
「天狗様!?」
そこにはいつの間にかあややややがいた。
_ 、- 、
_l|ヽ、ヾ.ヽ、
__ ,r'":::::',、」、l
r‐''" `ヽ /::::::::::ゝヾ〈
/ '`、 〃://_ハ::|::ヾ、/l\、
〈/ ハー- i l!ー'´)iT7 L/_,-、ソ/:l:!ヾ.、 余
ヘ() iT7ヽl !l. く //i_ノ/:/:l \、 所
〈` ハ ノ|ノノ:ヽ‐/::7/ /ノソ ':, で
ハ‐ l ノヽ/ / `ヽ:フ::ノ ノヽ ', や
〈ハ_( ̄ (yノヽハ//く {/ ̄ヽ \ |l れ
iヽ(yノ′ ヾヽヽ、-‐┴、 !、 ヽ、 !l よ
く  ̄`/ |:::<ヽ \ソゝ ―┬' |l ・
>-ヘ, !>:::V>'7」_/ | ソ ・
r'"´7ヽlri==、、__/:::::|ヾ=〃l/ ゝ ・
/ { ,:' ソ ハ/::i ̄`ヽ_/ヽ 、 //} |
i ヾ. / ハ::::::ヽ >l}' ! ヽー- ハ
{ヽ_,.>-‐''" / ヾー''''フiノノ`lイ ',
ゝ,. --――一' ヽ__/l:::ハ,ノ ヽ、 !
l〈 \ 〃 |::::! | `┐ l
|:::ヽ., \ ノ !::::| ! / ,:'
l:::::''ー-‐'ヽ,_,,.-/ /:::::| l / ,/
rゝ-:::::::::::::::::/ /::::::| !/,r―''"
/⌒ヾヽ;;::::::::::::::r-='′__/::::::ノ! |
ヽ__,,ヾ,,ー-―--―=''ヽ `ー---イ  ̄ー―‐'
/ ~ ̄~ ̄ __,,..-―'''"
ノ _,r''"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>うpろだ1184
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某月某日、幻想郷にある神の社が一つ、守矢神社。
突然だけれど、今ここはまさに戦場と化している。
かと言って、弾幕による決闘ではない。
「うぅ~…」
「むぅぅ…」
「『…』」
睨み合うは現界で信仰を失った神、神奈子さんと
諏訪子さん。
そしてそれを半ば呆れたような目で見守る風祝…
現人神である早苗と、どこからどう見ても只の人間で
あるぼく(諏訪子さんはぼくに面白い力が有ると言って
くれたけど、何一つ実感が湧かない)。
何故こうなったかって?そんなものは至って簡単だ。
要約すると
「このお二人は今晩のおかずを巡り、不毛な睨み合いを
している」
僕も食卓について初めて分かったが、彼女達は大皿に
惣菜を盛り付け、それぞれが好きなだけ取って食べる
バイキング式で食事をしていたようだ。
好きなだけとって食べる分には問題ないが、偏食を
招いたりするのが欠点だ。そして残った惣菜を巡って
喧嘩の元にもなりやすい。
「あうぅ~…」
「ぬぅぅ…」
…はぁ。本当にこのお二人って、現界では神様として
崇められていたんだろうか?どこからどう見ても、歳の
離れた姉妹喧嘩にしか見えない。そして、物凄く俗世に
染まってる感じがするんだけど。
睨み合っているお二人の眼中にあるのは、鯖味噌一切れ
…正直、カッコ悪い。集めた信仰も一瞬で失いかねない
間抜け過ぎる光景だ。
「ねぇ神奈子。私達って、仲の良い親友よねぇ」
膠着状態を破るように先に動いたのは、諏訪子さんだ。
何が何でもこの鯖味噌を先んじて取ってやろうとしている
気配がはっきりと窺える。
「そうねぇ諏訪子。私もそう思ってたわ。親友だったら
この鯖味噌を私に譲ることくらい、ワケないわよねぇ?」
「逆じゃないの神奈子?貴方が私に譲るの」
合わせる神奈子さん。そしてそこから返す諏訪子さん。
お二人とも表情は笑っているけど、実際は全然笑ってない。
いや、むしろ激しい殺気が放たれているような…
…慧音様とっても怖いです。貴女に初めて頭突きを貰った
数秒前のことを思い出しました。
「その鯖味噌を黙って寄越しなさい諏訪子!」
「あー!うー!絶対渡さないんだから!」
「食べ過ぎて牛蛙にでもなりたいのかしら!?」
「神奈子こそ毎晩毎晩暴飲暴食で肥えたんじゃないの!?」
「黙らっしゃい、エセ蛙の祟り神!!」
「何だとー、この飲んだくれのおーぼー年増!!」
ガ ガ ガ ガ ガ!!
ある意味、弾幕による決闘よりも凄い戦いがこの卓袱台上で
繰り広げられている。飛び交う物は両者が手にした箸。両者の
獲物は皿に只一つ残る、鯖の味噌煮。
何て不毛な争い。
そんな争いが周囲に影響を及ぼさないことなど考えられない
ことで、皿の上に残った味噌が飛び散り周囲を汚していく…
隣に座る早苗の表情を窺い知る事はできないが、少なくとも
これだけははっきりしていた。彼女は限界点だ!
ヒャアがまんできねぇ ゼロだ!!
「い い 加 減 に し て く だ さ い ! !」
「「『ハイごめんなさいすみませんでしたお許しください
早苗様どうかご飯抜きだけは正直勘弁してください』」」
早苗の勢いに圧され、関係の無い僕まで謝ってしまった。
「何も一緒に謝る事はありませんよ。悪いのはあのお二人
なんです」
『あ、そ、そうなの…ありがとう』
慧音様、怒った早苗はもっと怖かったです…
>>うpろだ1190
───────────────────────────────────────────────────────────
――紅魔館――
今日は紅魔館の模様替えということでここのコーディネーター並に凄いメイド長こと咲夜さんに呼ばれたわけだ。
「今は…午前0時か…ふぁー…ぁ…」
紅魔館入口まで来ると門番の中g…じゃなかった。紅美鈴が鼻ちょうちん作りながら爆睡していた。
「うぃーっす…WAWAWA忘れ物…って何も忘れてないって。中国ー?寝てるとナイフ…」
グサッ(1HIT!!)
「ふわぁぁぁぁぁ!?」
「遅かったか…」
どこからともなくファンネルみたいに飛んでくるこのナイフ。後頭部に突き刺さった。
「今中国って言ったでしょ」
ギクッ!何だこの地獄耳は。それを反射神経に変えてナイフの回避に使ったら役に立っただろうに。ニュータイプになれるぞ?
「いやいや…ちゃんと名前で呼んだぞ?」
「ならよし。今日は模様替えだから早いとこ行かないと」
信じた!?悪徳商法に引っ掛かりそうで心配だが。
「ハイ。遅刻。って事だから中国!アンタは図書館。○○!妹様のとこお願い」
「咲夜さん酷いですよ!中国って…」
「いちいち細かいんだけど」
グサッ(2HIT!!)
「図書館行ってきまーす…」
デコと後頭部にナイフが刺さったまま図書館に向かう美鈴。大丈夫か?いやマジで。
「フランのとこっすか!?――ハイ。行きます。任務了解っす」
「素直でよろしい。そういうとこ嫌いじゃないわ。じゃ頼んだから」
ナイフ突き付けられながら言われたんだがどうするよ自分。嬉しいがこれは死亡フラグか?
「模様替えってレベルじゃねぇぞこの雰囲気は…。呼んでみるかな。おーい。スタッフぅ~」
「あー!○○ー!早く済ませて遊ぼ!ね!」
開いた!?着いたフランの部屋の中にはパンダ柄のカーテンだのリラックマのクッションだの地下室の雰囲気を根底からぶち壊すめっさ可愛い代物がズラリ。
「遊ぶ前に紅魔館の模様替えしてからな」
「じゃあしょうがないなぁ…フランがすっぱり散らしてあげるよ!…しゃぁ!」
「待て待て待て!いきなり何すんだよ!ちょっと待ってlittle wait!!」
「レーヴァテイン…紅蓮腕ぁ!」
アッ――――――!
「わーったよ。模様替え終わったら弾幕ごっこでも何でもして遊んでやるから今日だけ我慢してくれ…頼むから」
「絶対だかんねー!」
それにしても紅蓮腕なんてどこから仕入れてきたんだ。しかも死亡フラグ確定したっぽい。フランの目ぇ輝いてるし。
2時間後。地下室終了。同時刻フラン出陣。咲夜さんに指示を貰いに行くがキツい一言が。
「ノロマは嫌いよ。図書館の支援お願い。っと…その前に」
こんだけ。とりあえず図書館の援護との命令だ。歩いているとナイフが横切ったがまさかこれは…このパターンは…
グサッ(3HIT!!)
「ギャァァァァァァァァ!!」
「あ。美鈴だ」
「中国ー?パチェー?援護到着…って…何だこれ」
やっぱりな。よく見ると美鈴の背中に「パジェロ」とか「たわし」とか「商品券」とかあるんだが。東京フレンドリーパークのノリか。
「中国って言ったね…お嬢様にも言われたことないのに!!フタエノキワミ、アッー!!」
「血みどろでこっち来んな!せめて血ぃ拭いてくれ!…聞いてねぇな…フラン!出番だぞー?」
「はーい☆フラン、行きまーす!」
レバ剣ホームランで美鈴は場外へ。その後パチェに「人の書斎で暴れない」とジト目でスーパー説教タイムを喰らった。その後あの一言が。
「少し…頭冷やそうか」
「「え?」」
「日符…『ロイアルフレア』!」
冷やすどころか焼けるだろが!せめてプリンセスウンディネとかウォーターエルフにしてくれ。ちょっと焦げた。
「フラン…さっさと終わらせようぜ」
「うん…」
「じゃあこれに沿ってこの本だけ頼むわ」
でも何だこのドン・キホーテみたいに入り組んだ図書館は。意外に早く30分くらいで終了。
「後は咲夜の指揮下でほとんど終わってるし…残るのはレミィだけ?」
「地下室と同じくらい威圧感あるだろあの部屋は」
「早く遊びたいー!!」
んー?ちょっと待てー?誰か忘れてる気が。とりあえず一度指示を仰ぎに行く。
「美鈴は?」
「「「あ」」」
「ちょっと待って。こんな感じでよし…と」
「この紅美鈴…只今帰還…しまし…た…」
またタイミング悪いな。今度は至近距離か…?
「ナイフが刺さる前だから給料30%カットで見逃してあげる。付いてきなさい」
「「「な…なんだってー!?」」」
「はい…門番頑張りますっ!」
まさかこの後移動中に惨劇が起ころうとは誰も知らなかった。こういう時に必ずいる天敵を忘れちゃいけない。
――移動中――
「嫌ァ――――――――――!!!!!!!!!!ゴ…ゴキブリ…今黒くて油ギッシュで素早いのが目の前を…」
「あー…やっぱいるんだ。ゴキ」
「図書館のは完膚なきまでに根絶したけどね」
「地下室にはいないよー?」
「門番はそんなの見ないですよ?外だし」
咲夜さんにも怖いものってあるんだなぁと思った。ちなみに悲鳴も初めて聞いた。
「来るな!来るな――――――――――!!」
「じゃあフランにお任せー☆禁忌『レーヴァテイン』!」
木端微塵にゴキが粉砕された。もはや跡形もないが。さらに追い討ちをかけるように次の刺客が。
「あ。ナメクジ」
「これ図書館の最大の敵だもの」
「マジだ…」
「漢方薬には…ならないですね」
しかもさっきの爆風で吹き飛んだのか咲夜さんの肩にクリティカルヒット。邪気が来たか!
「あ…ぁ…ナメクジなんか…に…完全瀟洒なこの私が…咲夜…が…」
「「「「えぇぇぇぇ!?嘘だッ!!」」」」
このナメクジすげぇ!咲夜さんを一撃で…!咲夜さん泡吹いてるし。瀟洒じゃない…。
「○○…後は…任せ…」
「「「「ちょ…待てゐ!!」」」」
しょうがないから外に逃がして来た。あのナメクジは最強だな。「粘着生物弾」とでも命名するか。
「うー…ナメクジは…?」
「「「あ。起きた」」」
「外に逃がして来たんで」
――到着――
「「「失礼しまーす」」」
「レミィー?入るけどいい?」
「お姉様~?入るよ~?」
「模様替えならもう終わったんだけど」
それなら話は早い。後は………
「遊んでくれるんだよね?弾・幕・ご・っ・こ…早く殺ろ…?ねぇ…殺ろーよー」
「ヤバっ…じゃ…じゃあ一回だけな?」
「先に上空で待ってるからねー」
最大の難関が残ってたんだ。そうだ。忘れてた。
「アンタ妹様に何言ったわけ?」
「弾幕ごっこ…」
「はぁ…このナイフ持ってきなさい」
「あざーす」
まぁ一応飛行能力はある。咲夜さんの遠まわしな激励を受けてラスボス戦に出陣する。
「○○はフランが壊してあげる…あはははははは…」
「目がマジなんすけど!?」
BGM:最終鬼畜妹フランドール・S
「負けても恨まないでね!!禁弾『スターボウブレイク』!!」
「やるしかねぇな…牙突零式ィ!!」
そこに水を刺して巻き添えを食ったヤツが約一名。
「ドライアヘン…ドライアヘン…よっし!完璧ね!あたいが最強だー!パーフェクトフリーz…あべし!」
「「空気読めよ――――!!」」
⑨の乱入ですっかりチョウザメ…じゃない。キャビア出してどうすんだよ。興醒めしたわけだが。
「ウチの⑨が迷惑かけて…ごめんなさいっ!!」
「大ちゃんも大変だな…」
「今度やったらレバ剣だって言っといてね」
⑨と大ちゃん撤退。
「また今度にするか?フランも疲れただろ」
「うん。眠い」
模様替え終了。各自で解散になった。
「「「「「「お疲れ様ー」」」」」」
1ヶ月後。
「新しく入った○○です!よろしくお願いします!」
>>うpろだ1192
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白玉楼の屋敷の中でたまにゆゆ様にちょっかい出されつつも妖夢とイチャイチャしたい。
具体的には怖い話をゆゆ様からきいた妖夢が夜中に
「○○さん・・・先ほどの幽々子様のお話を聞いたら1人で寝るのが怖くなってしまって・・・」
とか言って枕抱いて持ってきて
「じゃあ布団もう一枚持ってくるね」
て言ったら恥ずかしそうに
「いや・・・あの・・・○○さんのお布団で一緒に寝てもいいですか?」
って言われて「いいよwもう可愛いなぁ妖夢はw」
て言ったらまた恥ずかしそうにしながら「失礼します」
とスルリと布団のなかに入ってきて最初は少し距離を置いてたんだけどちょっとたったら
突然○○の体に抱きついて「すいません・・・本当は甘えにきたんです。怖いのも本当ですが」
とか言われちゃって「あぁもう妖夢はかわいいなぁw」って抱いてあげたら
障子がスススと開いてびっくりして妖夢は○○にさらに強く抱きついて○○が障子のほうをみたら
ゆゆ様がいて「あら?おじゃましちゃったかしら?」
とかわざとっぽく言うんだよ。
んで○○が苦笑いしてたらゆゆ様が冗談っぽく「私も混ぜて欲しいかなw」
て言うんだよ。
で、○○が冗談っぽく「いいですよw今日は3人で寝ますか?」
って言ったらゆゆ様が「やった~えいっ!」
とか言って布団の中にもぐりこんでくる。
で、妖夢とゆゆ様に、はさみ打ち。妖夢が後ろから抱き付いていてゆゆ様が前からだきついてるんだよ。
1人だったらちょっと広かった布団もいまでは少し狭いくらい。いや、性格には端っこには少しスペースがある。まんなかに○○をはさんで抱きつく形で寝てるから。
ゆゆ様が「妖夢?なんで今日はここにきたの?」
て意地悪そうに聞くと妖夢は「先ほどの幽々子様の話がこわかったんですよ~」って言いながらまたまた強く○○に抱きついて
ゆゆ様が「そんなに怖かったかしら?こ~やって抱きつくくらいに」ってまた強く抱きつかれて苦しくなって
○○が「あの~・・・すこし苦しいんですが」とか言うとゆゆ様が「あら?妖夢?強く抱きしめすぎじゃないかしら?○○の事。」
って聞くんだよ。そしたら妖夢が「幽々子様も人のことをいえないですよ~」とか言いながらやっぱりまだ二人とも○○に抱きつきっぱなし。
「参ったなぁ」なんていいながらも身動きがもう取れないほどに抱きつかれてる。
で、それがわかったらそれをいいことにゆゆ様が「○○にちゅ~しちゃおっかな~」とかいうんだよ。顔が近いですゆゆ様。
とかちょっと思ってたら少し声を荒げて妖夢が「ダメですよ!そんな・・・」って言っても無視して○○に思いっきりキス。
妖夢が「あっ!!!」って言ったらゆゆ様が「んふふ~」とか余裕っぽさそうに言うんだよ。
で、少ししたら妖夢が「あの・・・○○さん!私も・・・したいんですがいいでs」
とか言ってる途中にゆゆ様を振りほどいてキスする○○。
ゆゆ様は「あらあら」とか言いながらまたこっちに顔を寄せてくる・・・
>>うpろだ1195
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「と言うわけで参加してみない?」
「何がどういうわけなんですか?」
突然の神奈子様からのお誘い。我慢大会ならお断りだ。
「今度里でイベントがあるのよ。それに皆で参加しない?」
「イベント? なんのです」
「地区対抗スポーツ大会。通称“モリンピック”! このモリは守矢とも「いやもういいです」」
ググッと握り拳を作って説明しようとする神奈子様を押しとどめる。
なんていうか、通称を作る必要はあったんだろうか。
「それで参加する? するね?」
「いや、なんでそんなに乗り気なんですか」
身を乗り出して勧誘する神奈子様に聞いてみる。
「それは私が実行委員をしているからよ。ほらこのおよそハーフマラソンとかどう?」
「実行委員はともかく、なんですかその競技は」
「湖の周囲が20キロくらいだから作ったのよ。2週したら多分フルマラソンね」
「ファジイすぎるスポーツだなあ」
「あとは御柱投げに樽飛び込み、それと高飛びとかおすすめ」
高飛びは月からね、ってそれスポーツじゃねえだろうが。
「早苗さんとかにはもう声をかけたんですか?」
「早苗はまだ。諏訪子には言った」
「よっしゃ、さなえさーん。また神奈子様が変なことしようとしてるー」
「変なことじゃないよ。ちゃんとした交流イベントだ」
とりあえず早苗さんを呼ぼうとする俺の裾を神奈子様が掴んで制止する。
とはいえ呼ばれたからには早苗さんが来るわけで、一緒に諏訪子様もついてきた。
「で、なにをしようとしているんですか」
包丁片手に聞いてくる早苗さん。時刻は昼前。きっとおひるのじゅんびをしていたんだろううんそうにちがいない。
「変じゃないよ。ちゃんとした里のスポーツ大会だ」
わたわたと手を胸の前で振りながら、神奈子様が必死で弁解する。
「はあ、スポーツ大会ですか。なんでまたそんなものを?」
まず浮かんでくる疑問だろう。神様が開くようなイベントではない。
「こっちに引っ越してきたばっかりだし、親善イベントを開いておこうと思って」
「それなら例大祭でいいじゃないですか」
「例大祭は普通の人は来にくいんです……」
早苗さんがため息混じりに言う。
確かに妖怪の山にあって入りにくい上に、高い場所にあるから尚更行きにくい。
足が遠のくのも仕方が無いとは言える。
「だからってもっと別なイベントもあるでしょうに……」
「あら、ならどういうのが良かったの」
「超時空風祝さなえちゃんワンマンライブ キラッ☆もあるよ」
「ああそれは夜の部よ」
『WOOOOOOOO!』
「やりませんッ!」
興奮して叫ぶ俺と諏訪子様に早苗さんの無情な突っ込み。
「まあ、やらないと思っていたから盆踊り大会の予定にしてるよ」
「盆踊りですか。ところで日程は何日間の予定なんです?」
「大体二週間くらいだね。天候にも依るけど」
いやあんた天候操れるだろという突っ込みはしまっておいて、聞くことを聞いておこう。
「二週間盆踊り?」
「そう、一心不乱の大盆踊り。でも時々宴会」
いや確実に情け容赦の無い地獄のような宴会になるだろうな。
盆踊り二週間じゃなくって、もっと別のこともやれと言っていると、
「かーなこちゃ~ん、い~こ~お~」
誰かが来て神奈子様を呼んだ。
「あ、呼ばれてるから行ってくるわ。じゃ考えといてね」
神奈子様はそのまま片手を挙げて行ってしまう。
その場には二柱と一人が残された。
「誰が来たんだろう……」
「さあ」
早苗さんと一緒に小首をかしげていると諏訪子様が、多分天魔さんだと答えてくれる。
やはりモリンピック実行委員をしているらしい。
小学生のような呼び方に、天狗のトップらしさは微塵も感じられない。
天狗も結構暇なんだろうかという問いには諏訪子様は答えてくれなかった。
居間に寝転がって、皆で大会要覧を読んでみる。
「なんていうか、まともそうな競技が碌に無いなあ」
「でもこの障害物競走なんて面白そうじゃないですか」
ペラペラと競技予定種目一覧をめくっていた早苗さんが顔を上げて言ってくる。
一覧には競技内容の大まかな説明も載っていた。
「まるっきり運動会じゃんか。何々ハードル、跳び箱、網抜け……クランベリートラップって何?」
「下に人外の部って言うのもありますよ」
「こっちはトラバサミ、バンジステーク、平均台in地雷源、同時開催狙撃競技の的って死ぬわ!」
「だから人外限定なんでしょうね」
二人でため息をつく。予定は未定だが、こんなのが企画に乗る時点で考え物なイベントだ。
「で、どれに出ます?」
「出るの?! こんな物騒なのに」
「わたし自転車のクロカンにしようかな」
「じゃあ私は平泳ぎにする」
「諏訪子様も!」
ああダメだ、こんなのに出ようだなんてどうやら皆脳をやられてしまったらしい。
「だって親善なら出ないわけにはいかないじゃないですか」
「そうそう、それに平泳ぎなら私の独壇場だしね」
「そりゃまあ親善は必要ですけど、こんな危なっかしい物に出ないでも」
「人間向けのに出れば命の危険は無いと思いますよ」
早苗さんが楽観的な意見を言うが、正直かなり不安だ。
例えばマラソンにしても、給水ポイントやらなにやらの問題があるだろうに、病人を出さずに終えられるかかなり危うい。
「それに竹林には死人でも生き返らせるっていう人がいるらしいですし」
「いや、そういう人を頼るのもどうかなあ……」
「まあその人も委員会に参加してるから、危険なことはあんまり無いと思うと言えるんじゃないかなと考えてるよ」
ならいいのかもしれないが、とりあえず諏訪子様長い。
「それでどれに出ます?」
「あー、運動苦手だしなあ」
「これはどうです。グレー射撃」
「グレー? クレー射撃じゃなくって?」
「グレーです。えっと、小さくても必殺の武器で過去のポエムを打ち抜く、だそうです」
「グレーどころか思いっきりブラックじゃないか」
思わず叫んでしまう。他にも画集とか設定とか出るんだろうな。
「もー、我儘言わないで出る種目決めてください」
早苗さんが腰に手を当てて怒っている。
「そうそう、なんなら一緒に平泳ぎにエントリーする?」
「泳げませんし」
「なら手取り足取り腰取り教えていくよ」
わきわきと手を動かしにじり寄ってくる諏訪子様。
「いや…遠慮しておきます……」
いまにもウェッヘッヘと笑いそうな表情の諏訪子様に恐れを無し後退る。
「じゃあこれはどうです。恋の障害物競走! 男女一組でいろんな障害物を乗り越える! 一緒に出ましょうよ」
体を乗り出しながら、早苗さんがやや興奮気味に誘ってくる。
「まだるっこしい! 全部エントリーしちゃいなさい!」
神奈子様が帰ってくるなり、大分無謀なことを言う。
「早苗さんそれ意味わかんない。あと神奈子様無茶すぎ、って言うか何でここにいるんですか」
「寄り合いが早く終わったから知り合いつれて戻ってきたのよ」
後ろを見ると七八つの人影が見えた。
「さあ、今日はここで夜の運動会よ」
神奈子様が右手を高く掲げると、呼応する様に後ろの人影も喚声を上げる。
一緒になって諏訪子様も喚声を上げる。早苗さんはため息をついている。
さて俺は色々とどうしようか。
────────
真っ青な空にパンパンと音を立てる花火が打ちあがる。
空には雲の欠片も無く、暑くなる予感を見せる。
今日は企画倒れになって欲しかったモリンピックの開催日だ。
まあ、日程が短くなってくれたのだけは幸いだ。
「ほんとにやるのか……」
うんざりした口調でつぶやく。隣にいる早苗さんも頷いている。
「この暑い中、嫌になりますね」
その言葉に俺は首を縦に振る。
しかし、向こう側にいる神奈子様やら諏訪子様はいたって元気な物で、集まって話をしている。
周りを見渡してみると元気なのはたいていが妖怪らしく、里の人間の出場者はあまり無いらしい。
ただ妖怪の気合の入れようは半端では無く、鉢巻などを締めて気合を入れているのまでいる。
そうこうしている間に開会の時間になったようで、壇上には天魔様と里長が上っている。
里長が開会の訓示をやるらしくマイクを握り、傍らに天魔様が控える形だ。
壇の下にいるアナウンサーから里長の言葉があるというアナウンスがあり、参加者から拍手がおこる。
「みんな、ニューヨ――!」
瞬間、里長の頭から赤いものと、少し遅れてガンという音が響いた。
その状況に皆がざわつく中、天魔様がマイクを拾い話し始める
「えー、訓示の途中ですが注意事項です。競技中にふざけた場合は漏れなく別会場で行われている射撃競技の的になります」
話している最中に赤い服を着た人物が何人か集まってきて、皆が白い旗を掲げている。
弾着確認に来た射撃の審判なのだろうか、今度はスコアボードらしい物に何かを書き込んでいる。
「ちなみに使用しているのはペイント弾で、実弾ではありませんので怪我などの心配はありません」
天魔様から更なるアナウンスがなされる。
「早苗さん……あの赤い奴段々ドス黒くなってない?」
「見なかったことにしましょう……」
ぴくりとも動かない里長、それを俺らは戦々恐々としながら見つめるしかなかった。
「でも、要はふざけなければいいだけの話ですよね」
里長は担架で運ばれた以外平穏に開会式が終わった後、早苗さんが口を開く。
「そうだねー。わざわざ競技中にふざける奴も居ないだろうしね」
俺はそれに答える。とはいえ、発言一つにもおっかなびっくりといった塩梅になるのは否めない。
そうやって早苗さんとダベっていると、向こうから神奈子様が寄ってきた。
「とりあえずこの槍投げにエントリーしといたから」
「なんで勝手にエントリーしてるんですか」
「いや、普通の人があんまり参加してくれなくって」
俺が抗議すると頬をかきながら神奈子様が釈明した。
「まあいいですけど、ルールとか投げ方は知りませんよ」
不承不承といった調子で了解すると、神奈子様はいい笑顔で言ってきた。
「ルールは遠くまで投げれば勝ち。人に当てるのと線からはみ出たらダメ」
「そんな簡単な……でもそのぐらいしかないのかな」
「で、投げ方はこういう感じで」
そう言いながら神奈子様が、手足を取る。
「神奈子様、当たってる当たってる」
「当てて……」
その時、神奈子様の言葉が途切れるのと背後で何かがもたれるように動くのはほぼ同時だった。
やはり遅れて乾いた音がし、そして赤い服の審判団が近づいてくる。
皆白い旗を掲げてはいたが、手元の紙切れを覗き見ると8点程度とあまり振るわない。
数分して天魔様から、エロい事をしても狙撃対象とのアナウンスがあった。
……言い方が射撃対象ではなく狙撃対象に変わったのは何か意味があるのかしらん。
「気をつけろ、あいつら容赦ないぞ、早苗さん」
「でもあれはあれで正しかったんじゃないでしょうか」
なんと言う意見の食い違い。よく見ればちょっと怒っているようにも見える。
ただ、面倒なのでそこいら辺には特に突っ込まないことにした。
適当に槍投げを終えて戻ってくる。順位は芳しくないがどうでもいい。
最長記録は紅魔館の吸血鬼の叩き出した山まで、という物だった。
測距班しっかりしろといいたいが、さすがにそこまでは測れなかったのだろう。
その後も幾らか勝手にエントリーされていたのやら、自主的にエントリーしていた競技に参加して行く。
そうしているうちに時刻は夕ごろになり、本日終了と相成った。
神様二柱はいないので、早苗さんと二人で岐路につく準備をする。
「守矢神社の皆さん、調子はどうでしたか」
その時後ろから声をかけながらやってきたのは、真っ赤な人だった。
「……どちら様でしょうか?」
早苗さんがおっかなびっくりといった調子で声をかけると、その赤い人は改めて名乗った。
「これじゃあ判りませんね。射命丸です」
「ああ、新聞屋の」
「ええそうです。ところで早速なんですが、お二人の写真を取らせていただいてもよろしいでしょうか」
「それよりなんでそんなにスナイプされたのかが気になるんだが」
俺の発した問いに天狗は、ええちょっと、とお茶を濁すような発言で逃げ、再度写真撮影の可否を問うてきた。
早苗さんはそれを承諾したが、やはり真っ赤なのが気になるようだ。
「あの、何でそんなに撃たれているんですか?」
「なんかよく撃たれるんです。それじゃあ一枚撮りますね。目線こっちください」
射命丸が写真を撮ると側頭部で赤い物が爆ぜ、遅れて銃声がした。
もしかして写真を撮るたびに撃たれているのだろうか。
前に奴さんの新聞を読んだ時、際どいアングルが多かった様に思えたししょうがないのかもしれない。
しかし、同じ天狗にすら容赦しない。全く天魔とは恐ろしい人だ。いや人じゃないが。
翌日も地獄のような惨状だった。
まず障害物リレーで、平均台の上でギャグをとばした妖怪が狙撃され地雷原に落下した。
またクロスカントリーが38度線を跨いだものになった。早苗さんには棄権させた。
人形遣いが参加したシンクロナイズドスイミングは、人形が軒並み沈むというアクシデントがあった。
テフロンコートのフライパンは素晴らしいという事だ。
ただコートに鹿はまだ突っ込んできていない。
「早苗さん……」
うんざりした調子で話しかける。
「なんでしょう」
ぐったりした様子で早苗さんが振り向く。どうにも疲れたようだ。
「二人で逃げないか?」
それはともすれば駆け落ちに誘うような台詞で、実際そのような心境に近かった。
「でもまだ参加する種目が……」
言い澱む早苗さんに、そんなものはどうでもいいと言い放つ。
多少の逡巡ののち、早苗さんは二人での逃避を決めた。
手に手をとって山の方へと駆け出そうという時、足元に赤い物が着弾した。
飛来した方向を見ると誰かが高台から引き摺り下ろされるのが見えた。
赤服の審判団が皆一様に赤旗を揚げていることから、やはりこれはあれなのだろう。
「早苗さん急ごう。狙われてる!」
強引に手を引っ張り里の出口へと向かう。
「え? 何もしてないのに?」
引き摺られる早苗さんの顔には疑問符が多いが、答えている暇は無かった。
途中で水泳競技から戻る途中の諏訪子様と会った。
「二人ともどこに行くの?」
「え、あーっと」
「障害物競走のコースの下見です」
「そうなんだ、熱心だねえ」
どうにも信じ込んだ様子で騙すのは気が引けたが致し方ない。
「ところで諏訪子様、それはなんです?」
話題を変えるように、諏訪子様の首にかかるメダルの事を聞いた。
「水泳で1位とったから貰っちゃった」
ニコニコしながら言ってくる様に、思わず俺は諏訪子様の頭を撫でていた。
諏訪子様もなにするのと行っているが、その実嬉しそうな顔をしている。
横で早苗さんがぐいぐいと袖を引っ張っていた。
「それじゃあ、先を急ぎますので」
多少怒り気味の顔だったので、話を切り上げることにする。
諏訪子様も早苗さんの変化に気づいていた様子で、苦笑しながら手を振っていた。
里を出て少しすると早苗さんの機嫌も良くなったようで、そのまま一路山の方へ向かう。
神社へと向かう道の間三叉路に差し掛かり、早苗さんは迷い無く反対方向の道へと足を進めようとした。
「あれ早苗さん、そっちは神社のある山じゃないよ」
「逃げるんでしょう。なら家の方に行っちゃダメじゃないですか」
「いやいや、逃げるって競技からで神奈子様達からじゃ……」
「うふふ、こういうのは徹底しないといけませんよ」
「徹底って、そっち行ったらあぶな……」
かくしてその後二週間にも亘る過酷なサバイバル生活が始まるのであった。
うpろだ1215,1312
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最終更新:2011年07月19日 00:18