分類不能15
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~紅魔館
あら、今日はパチェいないのね?
パチュリー様なら、人里のハクタクのところへ行くとお出かけに
なりましたが
珍しいわね、普段は図書館に篭りっきりなあの娘が外出だなんて
お姉さま、そのハクタクって強いの?
まぁ、私の敵じゃないね
ふーん、じゃ私も勝てるね!
妹さまでしたら、余裕ですよ
~マヨヒガ
藍さまー、紫さまはお出かけですか?
ああ、そうだよ。人里の慧音さんの所へ行っているはずだ
そうなんだ、お姿が見えなくて不安でしたー
そうか、橙は優しいんだな。偉いぞ
えへへ…
~永遠亭
妹紅?こんな夜中にどうしたの。また急病人?
お前なんかお呼びじゃないよ鈴仙、輝夜呼んで来て
あら今日は随分と不機嫌じゃないの妹紅。ちょうど良かったわ、
付き合って頂戴
望むところさ
ほら入って。人数が足りなくて困ってたのよ
はぁ?
4人でやるものといったら麻雀に決まってるじゃない。普段なら
永琳がいるからできるんだけど、今日は留守なのよ
…何だ、お前んとこの知恵者も留守?
も、って妹紅あのハクタクは?
姿を見ないんだよ。何所行ったんだか…
~守矢神社
八坂さま、洩矢さまがおられないんですが
諏訪子なら麓の人里にいってるはずだよ
お帰りが遅いと不安です…
諏訪子がそんじょそこらの妖怪にやられたりなんかないのは、
早苗も良く知ってるでしょ?信じてやんなさい、神さまは信仰が
命なんだよ
は、はい
~人里のとある集会所
慧音さま、お待たせしてすみません
いや、時間に正確で助かる。さぁ、上がってくれ
お邪魔します
こんばんは、
阿求さん?
そしてようこそ
パチュリー?
我らが幻想郷の賢者は
紫さん!?
あなたを歓迎するわ
永琳さんも!
いらっしゃ~い
諏訪子さんまで!?
げ、幻想郷の賢人たちと土着神の頂点が一堂に会するなんて…
まぁまぁ、そう畏まらずに。あなたと私たちはもう初対面では
ないでしょう。私と上白沢さまは特に
それもそうだけど…何だか場違いな雰囲気が漂っていてさ
そんなことはないわよ。今回は私たちは脇役、あなたが主役
えぇ?
まずはそこにかけなさいな。足元が落ち着かないと話もし辛い
でしょうから
何も捕って食べちゃおうなんて考えちゃいないから、大丈夫よ
そうそう、八雲の言うとおり。はい、お茶飲んで
は、はぁ…
あの、それでぼくにお話とは何でしょうか?
うむ…お前も知っているだろうが、最近幻想郷内に不穏な空気が
漂っている。妖精や下級の妖怪はまともに影響を受け、凶暴化して
非常にまずい状態だ。人里の警護隊もかなり辛い思いをしている
その空気を垂れ流している存在は、つい最近新しく幻想入りした
付喪神みたいね。それでいて、幻想郷の掟も良くわかっていない…
いいえ、知っていても知らぬふりをしているみたい。それどころか
混乱が広がるのを見て楽しんでいる節さえある。性質が悪いわ
最初のうちは放っておいてもいいかな、程度には思ってたんだけど
事情が変わったの。突然暴れだして咲夜の邪魔をしたり図書館を荒らす
メイド妖精が急増して、流石にこれはまずいと感じたわ
鈴仙やてゐは大丈夫みたいだけれど、竹林に住んでいる因幡たち
にはこの空気は悪影響よ。永遠亭の貴重な労働力を減らされるのは
正直、困るわ
そこで私たちは集まって会合を開いた。そして出た結論は…
ケロちゃん命名、幻想郷スクランブル!要約するとみんなで力を
合わせて今回の黒幕を懲らしめよう!ってわけ
それはわかりましたが、どうして実行しないんですか?
うむ、これには致命的な欠陥があってな…
欠陥?
幻想郷は妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治するという法則
みたいなものがあるのはご存知ですよね?
うん、それは知ってるよ。阿求さんの書いた縁起にも書いて
あったよね。そうしないと幻想郷の未来は暗澹たるものになって
しまう、だっけ?
はい、そうです。よく覚えていましたね
よく見せてもらったからね…ところで、欠陥は?
ぶっちゃけた話、人間側に動く気がなさそうなのよ
えぇ?でもそんな大事に霊夢が動かないなんてあり得ない…
ところがそうもいかないのよねぇ…
紫さん?
霊夢ったら、私の言うことに全然耳を貸してくれないのよぉ~
だからぁ、動く気なんてなさそうなの。魔理沙からも胡散臭いと
邪険にされるし…よよよ
嘘泣きはやめなさい、隙間妖怪。私は専らこういう雑用の類を
ウドンゲに任せるのだけど今回は嫌だ、って聞かないのよ。
いつぞやの花の事件と地震の原因究明に行かせた時も帰って来た
時すごくげっそりした顔つきだったけど、そんなに嫌なことでも
あったのかしら
咲夜も基本的にはレミィの指示があるか、自分から気づかないと
動くことはないわね。これだから猫度が下がるのよまったく
早苗も危険を感じたりはしてないんだよね…奇跡を起こす力も
案外役に立ってないんじゃないかって思っちゃうわ
…何だかみんな酷い言われようだなぁ。対策はあるんですか?
あるよ。だからきみを呼んだんじゃない
?
この上白沢がお前に頼む。どうか我らの軍師になって欲しい
えぇっ!?
私からもお願いするわ。レミィだけでなく、あなただったら
咲夜は嫌とも言えないでしょうし
霊夢と魔理沙ったら、私の話をなかなか聞いてくれないけど
あなたのいうことは不思議なくらい素直によく聞くのよねぇ
姫様、妹紅、ウドンゲの問題が一気に片付くから助かるわ
早苗はきみのためなら何でもやっちゃいそうだからね。完璧!
確かに彼女達にあなたが関わるようになってからは、面白い位に
大人しくなっちゃいましたね。幻想郷縁起に残す価値はあります
で、でも、こういう役割は本来慧音さまか紫さん、永琳さんや
パチュリー、諏訪子さんだからこそできるんじゃないんですか?
阿求さんだって記憶の中から、何かしか知識の一つや二つ…
知らないでしょうけど、門番の美鈴はあなたが来ると従来の3倍
増しの笑顔ででお出迎えするの
レミィと妹様、咲夜もいつも以上に身だしなみに注意して、VIP
待遇、でいいのかしら、兎に角特別待遇してるのは確かよ。魔理沙が
来ても書物の略奪が起こらないし、こちらとしては至れり尽くせりだわ
そ、そうだったの?どうりで贅沢な紅茶とか洋菓子とかワインを
惜しげもなく出してくれると思った…美鈴も上質の花をくれたし…
魔理沙も大人しかったし…
霊夢なんてあなたの名前を出したら、すぐに修行始めちゃったり
なんかしちゃってぇ。イチコロねイ・チ・コ・ロ♪
紫さん、さっき霊夢が耳を貸してくれないとか、動く気がない
とか言ってませんでした?
だからあなたの名前を出したのよ♪それに私は何も嘘なんて
ついていないわ
後出しじゃんけんみたいなことをしないでくださいよ…
~一方その頃、博麗神社
ぬぬぬぬぬーっ
うりゃーりゃりゃりゃりゃりゃー
霊夢ー、夜遊びに来たぜー
霊夢ー、やらないかー×100
霊夢さーん、文々。新聞にご協力をー
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
スコーン!スコーン!スコーン!
ひでば!!
たわぶ!!
あやらば!!
現在修行中
黒白、酔いどれ鬼、デバ鴉の類、邪魔するな!
霊夢
~再び、人里のとある集会所
それだけじゃないわよ、藍と橙の性能がいつもの3割増し!
いつになく張り切っちゃうんだからこっちも頼もしい限りだわ
…無視ですか…
いつもなら慧音が止めても聞かない妹紅が、あなたが出てくると
ぴたりと争いごとを止めてしまうのよ。姫様もなんだけど。
それに人見知りしがちなウドンゲが懐いてるみたいだし、てゐも
珍しいくらいに嘘つかないしね。好い事だわ
いや、単純にけんかはよくないでしょ。それに鈴仙もどこか
遠慮しがちな感じでしたけど。てゐはいつも通りだし
早苗ね、きみが来るといっつも楽しそう、嬉しそうにするのよ。
神奈子も柄になく浮かれちゃうし、かと思えば二人ともきみが家に
帰っちゃったらこの世の終わりが来たぁ、みたいな表情するの
そんな大げさな…
そんなお前だから、我々は依頼するんだ。多くの人と妖、そして
神の信を集められる稀有な力の持ち主。そんな存在は幻想郷狭しと
言えど、お前だけだろう
…霊夢は?
彼女にその自覚はないわよ。朱に交わっても決して赤くならない
存在。紅白なのにおかしな話だけどね
具体的な作戦や戦術は我々が考案し、お前はそれを彼女たちに
伝えてくれるだけでいい。みな嫌とは言えない筈だ
…改めて、頼む。我らの軍師として、来て貰いたい
お願いします、幻想郷の平穏を護るためにも…
ええと、こういう時は三つ折り立てて…どうかよろしくお願い
いたします
この八雲紫、頭を下げてお願いしますわ
私だけじゃない、永遠亭の皆があなたを必要としているの…
お願い
きみが来てくれれば早苗が喜ぶし、神奈子も助かるの。お願い
…分かりました。ですけど、あまり期待はしないでください
よし、交渉成立だな。今晩は泊まっていってくれ
(ずっとお前とは近所のお姉さんか先生程度の関係でしかなかった。
だが、今回はお前に私の知識を惜しげなく与えて異変を解決、そして
私たちだけの歴史を作って見せるぞ!…妹紅には悪いが)
「…?慧音が何かおかしなことをたくらんでるような…」
(伊達に動かない大図書館、の異名を冠しちゃいないわ。今回の
異変に知識の全てを彼に注ぎ込んで解決、愛の契りを…!レミィ、
妹さま、咲夜、小悪魔、美鈴、これだけは譲らないわよ!)
「咲夜、ちょっと腹が立ってきたから用意して頂戴」
「どうなさったんですか?」
「パチェが何やら良からぬ事を企んでいるみたいなの。丁度良いわ、
ここの主が誰だかその軟弱体に叩き込んでやる」
(心の境界を弄らずに実力で信頼を勝ち取り、彼の心をモノにする…
これよ、これだわ。私はまさしく幻想郷最高級の大妖!巫女や黒白の
鼠に渡したりなどしないわ。妖夢、幽々子、あなた達にもね)
「妖夢、明日から忙しくなるわよ」
「…!いよいよですか」
「それだけじゃないわ」
「はい?」
「どこぞの紫女郎蜘蛛が美味しい獲物を掻っ攫おうとしてる」
「?」
(月の頭脳に間違いなどないわ。手取り足取り教えてあげる。そして
有能な助手なんてけち臭いこと言わずに、永遠亭の亭主になるのよ。
私が妻として傍に着いているから。うふふ)
「…!妹紅、付き合いなさい。永琳を探してシメたくなったわ」
「お前に命令されるまでも無いけど、ムカついたのは確かだね」
「うわぁ、レアな光景だぁ…」
「ブン屋呼んでくれば面白いことになりそ」
(神奈子と早苗には悪いけど、こういうのは早い者勝ち!こう見えて
私も土着神の頂点って呼ばれた存在なんだから、並の人間が知らない
ようなこともたくさん知ってる。これで一気にリードだぁ!)
「…諏訪子ォォ!この神奈子容赦せん!!早苗ついておいで!」
「八坂さま、いきなりどうしたんですかってええぇー!?」
(私には彼女達に匹敵する程の力はない…でも、献身的に接すれば
彼の心を射止められるかもしれない!お父様、阿求は女になります!
そして、決して忘れられない記憶を刻むんです!)
その頃、稗田屋敷で八代目御阿礼の娘の遺影が落っこちていた…
この異変はいつも通り一日以内で解決するかと思われたが、予想を
裏切り一年にも及ぶ大波乱となったのであった…
尚、彼の心を射止めたのは誰だったのか、については当時の資料が
紛失状態にあり不明のままである。一刻も早い発見が望まれる。
うpろだ1278
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「はい、これ」
ある晴れた昼下がり。〇〇の家に珍しい客が訪れていた。
その客に渡された一通の手紙を見て、〇〇が一言。
「……果たし状?」
「莫迦なの? 宴会の招待状よ」
博麗神社の巫女、博麗霊夢は溜息をついた。
「招待状……? 前の宴会から一月も経ってないよな?」
「だって何かにつけてやるんだもの。よりによって毎回、うちの神社で」
うんざりした顔で、また溜息をつく霊夢。
「災難だな……何か目出度い事でも?」
「厄介事よ。"また"外の世界から人が幻想郷入りしたから、祝ってやるんだってさ」
「"また"?」
「ここ数年で頻繁に入ってきてるの。あんたも含めてね」
あまりにも幻想郷に馴染んでしまったせいか、〇〇自身、
自分が外の世界から来たのだということをすっかり忘れていた。
本当は〇〇が来た時も宴会は企画されていたのだが、
〇〇はそういう場が苦手だったため、その時も丁重に断っていた。
「……っていうか、何で君がわざわざ?」
〇〇の記憶が正しければ、霊夢がわざわざ〇〇の家に足を運ぶなど、初めてのことであった。
招待状は大抵の場合、建前上幹事となっている霧雨魔理沙が運んだりする。
霊夢には宴会場の準備という重要な役目があるのだから。
「渡すついでに、ちゃんと来るように釘を刺そうと思って。どうせ言わなかったら来ないんでしょ?」
「分かってるんなら、無理に誘わないでくれよ」
「駄目よ、そんな内向的なの。どこかの姫じゃあるまいし」
「……とは言っても、やっぱ男の自分が行くせいで遠慮されると、何か気分良くない」
〇〇は以前もそう言って、宴会の出席を断っていた。
「そこは大丈夫、今回は他にも、沢山男の人が来るわ。ほとんど外の世界の人だけどね」
「え、そーなのか?」
「同性で同郷なんだから、きっと話も合うわよ。あんたが遠慮することなんて無いの」
実を言うと、そんなものはただの口実。霊夢は今でも、何か〇〇と近付くきっかけが欲しかった。
「……それなら、行ってみようかな……」
「じゃ、決まりね。絶対来なさいよ!」
計画通りに物事が進んだことに気分を良くしたのか、霊夢は明らかに喜色を表していた。
そんなことも知る由も無い〇〇は、招待状を開いて「明後日って唐突すぎるだろ……」などと考えていた。
――――
宴会当日―――
パリーンと盛大に皿の割れる音が境内に響く。
喧騒に包まれている所為で誰も気にかけていないが。
「あ、やっちゃったぜ」
「やっちゃったぜ、じゃない!」
怒りを露わにする十六夜咲夜と、怒られながらも飄々としている●●。
●●は、二年前幻想郷入りした際に紅魔館に拾われ、以降従者として働いている"ただの人間"である。
血がやたら美味しいという理由で生かされているため、多少の粗相があっても、
当主レミリア・スカーレットが瑣末なことだと判断すれば、それだけで許されてしまう。
皿を割るなどはその最たる例、紅魔館でも日常茶飯事であった。
「まったく、お嬢様のお言葉が無ければ、誰があなたみたいな役立たず」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてない!」
ぺしっと頭を叩かれる●●。つまりはそれも日常茶飯事であった。
――――
宴会場で蓬莱山輝夜と、その従者、鈴仙・優曇華院・イナバの姿を見て、□□は言わずにはいられなかった。
「明日は大雨だな……」
「どういう意味よ」
「妹紅さんとの戦いでもないのに、あんたが外に出るなんて……」
「……妹紅に何を吹き込まれているのか知らないけれど……私は引きこもりではないの」
「へぇ。ずっとそうだと思ってた」
「…………」
上白沢慧音の下で世話になっている□□は、同じく彼女の世話になっており、かつて自分を助けてくれた藤原妹紅から
常日頃、愚痴や陰口を聞かされ続けていた。輝夜に対してのモノが、その八割以上を占めていたが。
その中でも特に多いのが「あの引きこもりが」だったので、□□は輝夜にそういうイメージしか持っていなかった。
「それで、その妹紅は?」
「輝夜が来るなら行かない、って。慧音さんは今日も寺子屋があるし」
「ああ、だから暇人のあなた一人なのね」
「暇人ですいませんでした。折角招待状も頂いたしな」
「ふーん。それじゃ、あなたにお酌でもしてもらおうかしら」
「姫!」
今まで輝夜の背後に控え無言を貫いていた鈴仙が、初めて口を開いた。
「この男は敵ですよ!? そのような者に、よりにもよって酒を注がせるなど!」
「いいじゃない。今日は無礼講よ、無礼講」
「そうだそうだー」
「お前は黙れ! それに姫、もしかしたら毒を盛られるかもしれませんし……」
「いや、この人死なないのに意味無いだろ」
「黙れと言っている! 大体お前、下賤な地上人の分際でさっきからよくも姫様に馴れ馴れしく……」
「あんたのペット、口悪いな」
「ごめんなさい、躾が足りなくって」
「姫!」
鈴仙の言葉も虚しく、輝夜と□□は楽しそうに笑うだけであった。
――――
「なるほど、男だからって、遠慮することも無かったな」
喧噪から離れた木陰の下で、始まったばかりにも関わらず既に混沌としている宴の有様を見て
〇〇は苦笑いしつつも、霊夢の言葉に納得せざるを得なかった。
ただ、○〇の問題と言えば、共に飲む相手が見つからない、ということだった。
霊夢は紅魔館のメイドと共に仕事に忙殺されているようだし、
肝心の"外の世界から来た人間"というのも十人以上いて、やたら多い割には
そのほとんどが既に幻想郷の女性たちに絡まれていた。
「性別の違いなんて、種族の違いに比べたら些細なもの。そうは思わないかな」
「……どちら様?」
突然、帽子を被った見知らぬ少女に話しかけられる〇〇。
「私が誰だっていいじゃないか。それより、聞きたいことがある」
「それより、って……」
「私はさ、人間を盟友だと思っているんだよ」
ということはこの少女は妖怪か何かなのだろう、と〇〇は悟った。
が、この宴会場には蓬莱人やら天狗やら、むしろ人間以外の方が多いので、さほど気にも留めなかった。
「けれど、妖怪と人間の間に厄介な境界がある。これはどうしようもない事実」
「…………」
「これは、どうやったら埋まると思う?」
厄介な境界とは、過去の遺恨とか、食う食われるの関係とか、そういうことだろう。
〇〇は小難しい話を考えるのが嫌いだったので、最初に思ったことを率直に言った。
「一緒に酒を飲む」
「うん、いい答えだね。私もそう思うんだ」
「こんな単純なことも分からないヤツが世の中にはごまんといるよ」
「まったく。君みたいな人間ばかりならいいんだけど」
〇〇の隣に腰を降ろす少女。その手には酒瓶。
「遠回しに話なんか振らないで、率直に誘ってくれよ。一緒に飲もうって」
「そう言うのは、何だか恥ずかしいじゃないか」
「気持ちは分かるよ」
「次からはそうするよ、盟友」
二人はお互いの名前も知らなかったが、いい飲み相手を見つけられた、それだけで十分だった。
――――
「……はぁ」
「お願いだから何もしないで」と咲夜に懇願され、仕事を他のメイドに取り上げられてしまった●●は、
宴会場の片隅で負のオーラを出しつつ縮こまっていた。やはり●●にも一端のプライドはある。
表では明るく振舞っていても、失敗して怒られて、●●の心が全く傷つかないわけでは無かった。
「隣、いいかしら?」
「……どうぞ」
●●の隣に座る女性。●●は彼女を見もしなかったが。
「怒られちゃったわね」
「はは……いつものことなんで、平気です」
●●は正直放っておいて欲しかったが、無下にするのも何だったので適当に相槌を打っていた。
「平気?」
「はい」
「なら、その陰鬱な態度は止めなさいな」
そこで●●は、初めて女性の顔を見た。
「お酒が不味くなっちゃうじゃない?」
「あ、あなたは……!」
●●は女性の顔に確かな覚えがあったものの。
「……え、ええっと……」
記憶力が特別良い訳では無いので、誰だか思い出せずにいた。
二人はほとんど面識が無かったので、それも無理ないことだったが。
「ゆかりん、って呼んで」
「……いや、本名は?」
●●がそう聞くと、その女性はムッとした表情で語気を強めて言った。
「ゆかりん」
「…………」
「……嫌なことは、飲んで忘れなさい」
その女性、ゆかりんは、どこかから取り出したコップを●●に持たせ、
これまたどこかから取り出した酒瓶でそのコップになみなみと酒を注いだ。
「……こんな美人にお酌して頂いて、光栄です」
「お上手ね。ほら、ぐーっといきなさい、ぐーっと」
●●にはゆかりんがどういう人物なのかまるで分からなかったが、
飲みたい気分だしどうでもいいや、という感じで、いっぱいに注がれた酒をぐーっと飲み始めた。
――――
「こっちの美人は酌をさせるわけだが」
□□が輝夜のコップに、もう何杯目になるかの酒を注ぎながら愚痴る。
「いいじゃない、たまには」
「たまには、って姫……いつも私に注がせるじゃないですか」
鈴仙は呆れたように言いながら、自分のコップを手に取り、それを口に付けた。
しかし直ぐに中身が空であることに気付き、あたりの酒瓶を探し始める。
「ほら」
「?」
□□が酒瓶の口を鈴仙に差し出していた。
「……敵の注いだお酒なんて、飲めないわ」
「まだ言うか、この堅物」
「…………」
鈴仙自身、宴の場でこのような発言は無粋だと分かっていたが
忠実な下僕として生きる身である以上、主人の敵と分かっていてむざむざと懐柔されるわけにはいかなかった。
「今日は無礼講だって言ったでしょ」
「……と、ご主人も仰っておられますが」
が、その主人がこう言うのであれば止むを得ない……と自分を無理矢理納得させて、
おそるおそる□□に自分のコップを突き出す鈴仙。彼女は、良くも悪くも忠実だった。
「そうそう、それがいい」
「…………」
「俺は、お前と酒が飲みたいだけだよ」
「……あっそ」
注がれていく透明の液体は、コップの半分程を満たしたところで止まった。
「…………」
鈴仙はしばらくそれを見つめていたが、自分を見ている□□の方を一瞥すると、
思い切ったようにコップをぐいっと仰いだ。
「え!?」
「ちょ、ちょっと、それ結構……」
□□が鈴仙に注いだ酒は、先程まで鈴仙が飲んでいたそれよりも相当度数が高いものだ。
□□や輝夜はそれでも難なく飲んでいたので、鈴仙は錯覚して軽く飲めるものだと考えていた。
いや、実際、飲みやすい酒ではあった。しかし飲みやすく度数の高い酒は、誤って一気に仰いでしまうことが多い。
「……んく…………ぷはっ」
飲み干した鈴仙の顔は真っ赤になっていた。当然二人が驚いた表情で鈴仙を見るが、時既に遅し。
「…………!?」
鈴仙の視界は急に歪み始め、その二人の姿さえ原型を留めていなかった。
加えて体から力が抜けた鈴仙は、その場に倒れ伏すかと思われたが、
「うおっと……」
直前に誰かに抱き留められ、その事態は免れていた。
しかし鈴仙はその感触だけを身に残して、その場で完全に意識を失った。
――――
「あの河童……!」
「おい霊夢、どうした? 飲み過ぎたのか?」
魔理沙が真っ赤になった霊夢の顔を見て言う。
しかし次の瞬間、霊夢に睨まれ本気の恐怖を感じた魔理沙は、そそくさとその場から逃げ去った。
「紫がちょっかい出さないと思ったら、今度は……」
霊夢にとっては、〇〇をこうして誘い出した以上、八雲紫が〇〇にどう接するかが一番の懸念事項だった。
自分が〇〇に想いを寄せていることを勘付かれたら、あの妖怪が興味本位で〇〇に手を出す恐れもあったから。
しかし現実はどうだろう。紫は紅魔館の従者●●と戯れており、
肝心の〇〇はと言えば、河童・河城にとりと談笑しているという有様だ。
「……どうやら私は、お邪魔のようだね」
「え?」
「楽しかった。また会おう、盟友」
急に立ち上がり、その場を去っていくにとりに戸惑う〇〇。
そのにとりと入れ違いに、霊夢が〇〇の所へやって来た。
「…………」
「おお、霊夢。君の言った通り、遠慮なんていらないってことが分かったよ」
「……そう。それは……良かった、わね……」
霊夢の背後から漂う黒い瘴気のようなものが、〇〇には見えたような気がした。
「……何か、怖いんだけど……お、怒ってる?」
「別に……私が料理やお酒を出したり、お皿を片づけたりしてる間、
あんたがあいつと楽しそうに話してたことなんて、ちっとも怒ってないわ」
「……ああ、ごめん。手伝ってあげたら良かったな」
嫌味ったらしく言う霊夢に、申し訳なさそうに答える〇〇。
霊夢は、そういうことじゃない、と言いたかった。
もっと自分と共に過ごして欲しい、もっと色々話して欲しい、
あんな河童なんかより、もっと自分を見て欲しいと言いたかった。
「そういうことでは無いでしょう」
「…………」
「…………」
レミリア・スカーレットが霊夢の背後に突然現れ、その言いたいことを言ってのけた。
唖然とする二人に構わず、レミリアは続ける。
「霊夢が自分で招待状を届けに行くなんて、普通じゃないのよ」
「ちょ……何で知ってるのよ!」
「普段は神社から離れもしないんだから。あなたを誘うのが霊夢にとって、どれだけ大切な事だったか」
「……大切……?」
霊夢が神社をほとんど離れないことは〇〇も知っていた。
だから自分の家に彼女が訪れた時は、本当に驚いたものだった。
「レミリア! 余計な事言わないで!」
「だって、もどかしいんだもの」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるレミリア。
「うるさい! どっか行け!」
「はいはい……お邪魔しました」
レミリアはそう言うと、また喧噪の中に戻って行った。
「あの悪魔め……」
「……なぁ、霊夢……」
「はい!?」
軽く焦る霊夢に、周りの者が何事かと振り向く。
「え……いや、あ、あんな話、気にしなくていいわよ!」
「気にするな、ってのは無理だろ……ちょっと、ゆっくり話そう」
「…………」
「酒でも飲みながらさ」
〇〇は自分の隣、先程までにとりが座っていた場所をポンポンと叩いた。
「……あうぅ」
顔を赤くしながらそこに座る霊夢は、いよいよ観念したのか、
借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
「……今のお気持ちは」
「恥ずかしさで、死にそう……」
――――
「あー、やっぱ俺は駄目なんだ……死のう」
「まだ死ぬには若すぎますわ」
自虐に走り始めた●●を制止する八雲紫。飲ませ過ぎたせいか、悪酔いし始めたらしい。
紫がどうしたものかと思案していると、●●がぽつりぽつりと話し始めた。
「ゆかりん……俺、もう駄目なんです……」
「?」
「どうせ、もうすぐ死んでしまう……」
「……どういうこと?」
聞き捨てならない台詞に眉を顰める紫。
「俺が紅魔館に居られる理由って、働いてるからじゃないんですよ……」
「……まあ、あの働きぶりで置いてもらえるとは思えないけど」
「ですよねー」
自虐に追撃を食らって、がっくりと肩を落とす●●。
「実は俺、お嬢様のお食事なんです。毎日血を吸われてて……」
そう言うと●●は自分の肩口を見せる。そこには痛々しい傷痕が二つ。
しかし紫はそれよりも、その白い肌に目を奪われた。人間にしては、あまりに白すぎたから。
よくよく見れば、●●の顔や腕といった目に見える部分は、ほとんどが肌色と言うよりは白色寄りだった。
「へぇ……美味しいのかしら」
「美味しいらしいです。働いてるのは、そのついでなんです」
しかしそれが何故●●の死に繋がるのか、紫には分からなかった。
レミリア・スカーレットは小食で、人が死に至る、あるいは眷属になる程の吸血は行わない。
そんな話を、紫はレミリア本人から聞いたことがあった。
「俺、最初からミスばっかしてたわけじゃないんですよ」
「ふぅん……?」
「なんか、紅魔館に来てから体の調子がおかしくなって」
「………………」
「段々……体が動かなくなるんです」
「……もしかして、それ」
紫は長く生きる中で、人間に関しての知識を相当蓄えていた。
だから、そういった体の異常にも心当たりがあった。
「血が、足りないから……?」
「まあ、そういうことです……」
「補給しなかったの?」
人間は、例えば一部の食物を食べる事で、自分の血を作り出すことができる。
妖怪はともかく、人間の間では常識である。
「当然、頑張って補給しましたよ? 肉食ったり……ただ……」
血の通っていない体は活動を停止し腐るだけだが、血が作られるまでには幾分か時間がかかる。
血が補給されるまでの僅かな間だが、●●の体は確実に蝕まれていたというのに、それが二年もの間続いていたのである。
「……確かにこのままでは、あなたは死んでしまいますわ」
「でも、血を吸わないでくれ、ってお願いしたところで……」
「今度は文字通りの、食事にされるでしょう」
どちらにせよ、生きる道は無い。だから『もう駄目』だと、●●は言った。
「あーあ……嫌だなぁ……」
「…………」
「まだ俺、死にたくないよ、ゆかりん……」
紫に抱きつく●●。紫の力をもってすれば振り解くのは容易かったが、彼の泣いて震える姿を見て、
思わず抱き返してやらずにはいられなかった。それが、今の彼女にできる精一杯の事。
「ご、め……ごめん、ゆかりん……」
「お泣きなさい、存分に……その涙が、全て枯れてしまう様に……」
――――
鈴仙が酒に潰されてしまったので、□□は彼女を寝かせる為、霊夢に神社の一室を借りることにした。
酒を勧めた身としては責任もあるし、彼女を介抱するのが□□にできる唯一の謝罪であった。
鈴仙を抱き留めた体勢では動けないので、代わりに輝夜に霊夢にお願いしてもらおう、と□□は思っていた。
しかしその輝夜は横におらず、□□が周りを見回すと、既に霊夢と話をしている様子だった。
何だかんだで鈴仙のことを大事に思っている輝夜を見て、□□は素直に尊敬した。
ただ、霊夢が仲睦まじく〇〇と話していたところに割って入ったようで、
凄く迷惑そうな顔をされていたのは言うまでも無い。
鈴仙を部屋に(お姫様抱っこで)運んだ後、部屋に布団も枕も無いことに、□□は愕然とした。
しかし□□は無いなら無いと割り切ったのか、とりあえず鈴仙を畳に寝かせて、自分の膝の上に彼女の頭を乗せた。
そろそろ秋も近い所為かあまり温かいとは言えない日だったので、ついでに着ていた上着を彼女にかける。
「ここに来るまでに、随分冷やかされたわね」
「…………」
境内のど真ん中で抱き合ったり、お姫様抱っこをしてみたり、
傍から見ればただのバカップルにしか見えなかったのかもしれない。当人達はそれどころではないのだが。
「じゃ、後よろしく」
「え」
□□が鈴仙を介抱する様を見て安心したのか、輝夜はどこかへ行ってしまった。
「ええー……あんたも勧めた責任あるだろ……」
自分の膝の上で苦しそうに呻く鈴仙を見て、□□は少しばかり輝夜を恨むのだった。
――――
「言い過ぎたかしら……」
いつもの調子で怒ったものの、木陰で縮こまる●●を見て、咲夜は少し後悔していた。
本当はいつも、隠れてあのように落ち込んでいたのだろうか。
自分が出会った頃の●●に戻って欲しくて、無理をさせ過ぎていたのだろうか。
そのような想いがぐるぐると咲夜の中で渦巻き、後悔という情念を形成していた。
後で、謝ろう。咲夜がそう思った矢先のこと。
あのスキマ妖怪、八雲紫が、●●に近づき話をし始めた。
ここは宴会の場、別に珍しくもなんともない光景。
しかし咲夜は、その光景に何か言い様の無い、もやもやとしたものを感じていた。
霊夢が〇〇と話に興じてからは、咲夜が霊夢の分の仕事も受け持った。
主人のレミリアが霊夢に協力しろと言うのだから、致し方無いことだ。
作業に追われつつも、ちらちらと●●の姿を確認する咲夜。
●●は既に相当酒が入っているらしく、愚痴を紫に聞かせ始めた、らしい。
「……!?」
突然、紫に抱きつく●●。しかし紫もそれを突き放そうとはしない。
それどころかそれを抱き留め、まるで恋人であるかの様な雰囲気を醸し出している。
咲夜はそれを呆然と見ていたが、紫が●●に膝枕をしてやったところで、はっと正気を取り戻した。
「咲夜……?」
たまたま隣を通った主人に不思議そうな顔で見られ、急いで仕事に戻る咲夜。
しかし顔では平静を装っていたものの、二人の事が気にかかって仕様が無いのか、彼女の作業効率は目に見えて落ちていた。
――――
鈴仙を部屋に寝かせてから、一刻程が経過した。
少し開いた戸の隙間から、賑やかな境内を眺めている□□。
鈴仙は随分と回復したが、未だ□□の膝の上で、子供のように眠りこけている。
と、唐突に部屋の戸が開き、輝夜が入ってきた。
「幻想郷では膝枕が流行っているのかしら」
「知らん」
輝夜は先程まで●●と紫の光景を物珍しそうに見ていたのだが、
●●が紫の膝枕で眠りについたのを見ると、もう終わりか、と興味を失い、二人の元に戻ってきたのだった。
「足が痺れてきた」
「だらしないわね」
「膝枕なんて、普段しないだろ」
「私なんて、座る時はいつも正座だけどね」
「あんたみたいに育ちが良くないもんで」
くすくすと輝夜が笑う。それが気に障ったのか、少し顔をしかめる□□。
「あ、鈴仙が」
「…………んん……」
二人の話し声が聞こえたのか、鈴仙が□□の膝上でもぞもぞと動いた。
「あんた、代われよ」
「?」
「起きた時、俺にこんなことされてたらまた怒るだろ。『下賤な地上人の分際で』とか言って」
「今の、この子の真似? 酷いわね……」
「言わないで……自分でも酷いと思った」
輝夜は□□の横にぴったりとくっついて座ると、□□の膝上で眠る鈴仙の頭を移動させ、自分の膝上に置いた。
「後は頼むよ」
「分かってるわ」
「姫は聡明だよな」
「上手く言っておくわ」
これで輝夜は「自分が鈴仙を介抱した」とでも言ってくれるだろうし、後は彼女に任せていいだろう。
そう思った□□は、酒が飲み足りないなと思いつつ、また喧噪の中に紛れていった。
――――
マヨヒガ、八雲家―――
藍がいつものように洗濯物を干していると、突然背後で大きな物音。
何事かと思って振り向いた藍の目に飛び込んできたのは、男を抱きかかえて尻もちをついている主人の姿だった。
「痛ぁい……」
「紫様……今日は宴会に行った筈では? それに、その男……」
藍がそう言いつつ上を見ると、開いていた隙間が閉じかけていた。
なるほど、二人はあそこから落ちてきたのか、と納得する藍。なぜ"二人"なのかはともかく。
「この子?」
「そうです。他に誰が?」
「それはそれは、悲しい運命にあった子羊。私が助けてあげたの」
「……紫様が?」
元々主人は気まぐれだが、一部を除いては捕食対象としか見ていない人間を助けるなど、
長年紫を見てきた藍の知る限りでも、有り得ないことだった。
「……どういう気まぐれですか……?」
「失礼ね。何も食べるばかりが人間の使い道では無いでしょうに」
「では、どう使うと?」
「抱き枕」
「は?」
――――
「あー、気分悪い」
様々な人や妖怪と飲み比べをしてもまだ飲み足りなかった□□は、
一人手持ち無沙汰だった伊吹萃香に誘われ、それに付き合うことにした。が、それが間違いだった。
□□が幻想郷の住人とマトモに渡り合えるものと言えば酒、というぐらいに酒には強い方だったが、
彼女の飲むペースに合わせて飲んでいたところ気付いたら泥酔直前、という有様。
今しがた、なんとか逃げてきたところである。
「うぇ……なんだ、あの鬼……」
□□が虚ろな目でフラフラ歩いていると、その視界に先程の部屋が入ってきた。
「もうすぐ、宴会も終わりだし……ここで、脱落しとくかな……」
部屋に上がり、ごろんと横になり目を閉じる□□。
酒がいい具合に入った所為か、心地よい眠気が彼を誘っていた。
と、□□の頭が急に浮き、何か柔らかい物の上に乗せられる。
「んあ?」
目に入ってきたのは見知らぬ天井……かと思いきや、見知った人、輝夜の顔だった。
「……あれ、あんた……いたの?」
「部屋にいたけど、あなたが気付かなかっただけ」
「ああ……俺、酔ってるから」
「知ってるわ。見てたもの、ずっと」
ふん、と鼻で息を鳴らす□□と、袖で口を隠して笑う輝夜。
「……あ、やば……」
「?」
「そこはかとなく……眠い……」
「それなら、寝たらいいわ」
「……お姫様の、膝枕で?」
「あら、酔ってるせい? 変なことを言い出したわ」
「……じゃ、これ……何……?」
頭の後ろの物を叩く□□。既に瞼は半分ほど落ちている。
「ただの枕。自惚れすぎよ、あなた」
「……だって、ほら…………流行っ、て…………」
半端に途切れた□□の言葉を不思議に思い、輝夜が彼の顔を覗き込むと、
既に彼の意識はあちらの世界へ旅立っていた。
輝夜は、自分の膝の上で無防備な表情を浮かべる□□の寝顔をそっと撫でる。
「……おやすみなさい」
「…………」
部屋にはやはり鈴仙もいたが、二人の行動を遮ることも無く、ただ寡黙にその様子を見守っていた。
――――
宴は終わった。片付けを手伝おうなどという殊勝な者はおらず、
散り散りになっていく幻想郷の住人達。約一名を除いて。
「はぁ、まったく……ちょっとくらい手伝えっての」
「まあ、いいじゃないか……お蔭で二人きりになれたし」
「!? ば、莫迦! くっ、口を動かしてないで、て、手を動かしなさい!」
「はいよ」
ぶつくさ言いながらも、どこか満足気に皿を片す霊夢。
宴の間に少し、というか大分と近付いた○〇にそう言われて、満更でも無かったらしい。
「ねぇ、霊夢」
「……何よレミリア、もう宴会は終わったんだから帰りなさいよ」
あからさまに邪魔だと言わんばかりにレミリアを突っぱねる霊夢。
「冷たいわね。誰が助けてあげたと思ってるの?」
「ぐ……何よ、今度は邪魔するつもり……?」
「生憎、馬に蹴られる趣味は無いの。うちの●●知らない?」
「●●?」
「あの、皿を派手に割ってた愚か者のことよ」
霊夢は少し考えて、皿を割ったにもかかわらず飄々としていた男のことを思い出した。
「ああ……知らない。先に帰ったんじゃない?」
「主人である私を差し置いて?」
「従者の教育がなってないんじゃない?」
「……お前も知らないの?」
「申し訳ない。宴会では話すらしていないので」
同性で同郷、なんて名目に釣られてやってきた○○だったが、
宴会の間話していた相手と言えば、思い起こせば見知らぬ少女と霊夢ぐらいのものであった。
正確には霊夢とは話の他にも色々とあったりしたのだが。
「夫婦揃って役に立たないわね」
「ふっ……!」
茹でたように赤くなる霊夢と、平然としている〇〇。
「あら、訂正。うちの従者と違って、よくできた旦那ね」
「それはどうも」
「あ、あんたも認めるな!」
「え? 霊夢……旦那は、嫌か……?」
「……はっ……?」
じいっと霊夢を見つめる〇〇と、それを見つめ返す霊夢。
「いや、その…………嫌じゃ、ない……」
「それなら、いいじゃないか」
「あ、うん……あの、でもね。まだ私、心の準備が……」
「そういうのは二人の時にやれ」
人目も憚らない二人の態度に、そうなるように誘導したレミリアも、流石に少しイラついた。
「駄目です、お嬢様……どこを探しても」
「……そう」
「まったく、世話が焼けるわ……あんな貧相な体で、万が一、妖怪にでも襲われたら」
「一溜まりも無いわね」
「彼も、最初はあんなひ弱では無かったのですが……運動不足のせいかしらね」
レミリアから見ても●●は確かに、最初は誠実でよく働く男だった。それ故か咲夜も僅かながら彼を頼りにしていた。
レミリアの忠実な下僕である咲夜が、レミリアやパチュリー以外の者を気にかけるのには
何か特別な意味があったのかもしれない、とレミリアは踏んでいた。
実際のところ、レミリアは自分の所為で、●●が日に日に弱っていることに気付いていた。
しかし、●●が文句も言わずやたら頑張るので、それなら心意気を無駄にはするまいと、何も言うまいと決めていたのだ。
それでも、●●が音を上げた時には、普通の従者として迎え入れてやるつもりだった。
時間はかかるだろうが体調が戻れば、咲夜と共にレミリアの良き従者となるであろうから。
それにレミリアにとっては不覚だったが、彼女もまた彼のことを、悪くは思っていなかった。
「はぁ……」
「咲夜、一度紅魔館に戻りましょう。宴の途中で抜け出して帰ったのかもしれない」
「……もしそうだったら、百叩きの刑です」
「いいわね。その時は私も混ぜて頂戴」
レミリアと咲夜は軽口を叩きながらも、内心不安で仕様が無かった。
何故か、●●はもう帰ってこないのではないか、と思えてしまったから。
――――
「あぁ、よく寝た……」
「ふふっ、本当によく寝てたわ。皆とっくに帰ったわよ?」
「枕が極上過ぎた」
「貧乏そうに見えて、いい枕を使ってるのね、この神社」
「そうらしい」
起き上がった□□が部屋を見回すと、隅っこに鈴仙が座っていた。
□□がそちらを見ると、ぷいっと顔を背けてしまったが。
「うわ、もう夜じゃないか……」
□□が部屋を出て境内に立ち、夜の空を見上げると、綺麗な月が昇っていた。
それに続いて輝夜と鈴仙も表に出て、空を見上げる。
「満月では無いけれど、いい月」
「偽物じゃないしな」
「それは言わないの」
しばらく三人は月を眺めていたが、鈴仙がその静寂を破った。
「姫様、そろそろ戻らないと」
「そうね、また永琳に怒られてしまうわ……」
と言ったものの、輝夜はさして急ぐ素振りも見せない。
それどころか言い出した鈴仙自身も飛び立とうとせず、逆に□□の方へ向き直った。
「ん……?」
「…………」
鈴仙が□□の方に歩み寄る。輝夜は我関せずとばかりに、明後日の方に目をやった。
□□に手を伸ばせば届く距離にまで近づき、押し黙る鈴仙。
また罵声でも浴びせられるのかと思い、□□は潔く待っていたのだが。
「…………え、えっと…………」
やっと口を開いたと思ったら、鈴仙は視線をうろつかせ、両手を絡めてもじもじしている。
「……その…………」
「………………」
「あの、ね…………」
「………………」
「…………う……」
「……どうした?」
「!!」
ビクッと体を震わせる鈴仙。少し涙目になっている。
外の世界から来た□□にも、まるで普通の兎のように見えた。
先程の態度とのあまりの違いに、□□も戸惑う。
「あ……あ…………」
「…………」
「……ありがとっ!!」
鈴仙は勢いよく頭を下げてそう言うと、□□に背を向け、これまた凄い勢いで飛び去って行った。
ほんの一瞬だったが、頭を下げた鈴仙の顔が真っ赤だったのが□□には見えた。
「…………」
「…………」
呆然とする□□と、意地悪い笑みを浮かべる輝夜。その輝夜の様子を見て、□□は全てを悟った。
「なあ…………」
「何?」
「俺の記憶が正しければ『上手く言っておくわ』って言われた筈なんだけど」
「言ったわよ。『上手く』って、あなたが鈴仙に膝枕してあげたことを言え、ってことでしょ?」
「どういう解釈をしたらそうなるんだ。普通逆だろ」
「いいじゃない。鈴仙も優しくされて、悪い気はしなかったみたいだし」
「あ、あんたって人はぁ!」
冷静さに定評のある□□も、この時ばかりは叫ばざるを得なかった。
輝夜の思考回路は□□の予想の斜め上を行っていたらしい。
「元々は俺が悪いのに感謝された……ってだけで、あんたが何か吹き込んだって分かるよ」
「あら、私はありのままのことしか伝えてないわよ。というか、言わなくても分かった筈だけど」
「……何で?」
「服」
そこまで言われて、□□は寝ている鈴仙にかけた、自分の上着の存在を思い出した。
「そういえば、さっきもあいつが羽織っていたような……道理で肌寒い訳だ」
「鈍い人……それも含めて、あの子、あなたが悪い人だと思えなくなったんじゃない?」
「やたら目の敵にされてたのにか……」
「あなたときたら、敵だっていうのに一緒にお酒が飲みたいなんて言っちゃうし。
酔った兎を介抱するために抱っこや膝枕までしてあげる、とても親切な人なんだもの」
「そんなの、自分が悪かったら誰だってやるよ」
狂気の瞳を持つ兎にそんな大胆なことができる人間はそうそういない訳だが、
□□はあまりにその自覚が無く、輝夜はただ呆れるばかりであった。
「幻想郷の人間は皆、出会うなり弾幕を展開しちゃうような、野蛮な人ばかりだし……
それにあの子はちょっと訳ありで、人間不信なのよね」
「……俺は人間、しかも地上人だよ」
「だからこそ、地上人全てが下賤だと思っている彼女に、あなたの存在は応えた筈。良い意味で」
一拍置いて、輝夜が続ける。
「私も、あなたの存在は新鮮。こんな優しい人、今まで居なかったかも」
照れくさいのか、輝夜から顔を背け、頬をかく□□。
言った輝夜も少し頬を赤らめて、□□から視線を逸らした。
「……どうして、あなたが妹紅の所にいるのかしら」
「そりゃ、俺が妹紅さんと慧音さんに拾われたから」
「……そういうことじゃないわよ」
「なら、どういうことだよ」
「あなたが永遠亭に来ていれば良かったな、って話」
輝夜はなんとも儚い笑顔をしていた。それが叶わぬ願いであるのは、当人も十分に承知していたから。
「俺が、永遠亭に行くとしたら……妹紅さんとあんたが、戦わなくなったら、かな」
「……私に負けず劣らずの難題ね、それは」
「あんたと妹紅さん次第だよ」
「だから、難しいんじゃない」
□□は、酒がやたら飲める以外に何の取り柄もない、
ただの人間である自分を、輝夜がそこまで求める理由が分からなかった。
「……何で、俺なんかを?」
「あの子にお似合いじゃない。それに……私も、あなたが欲しいから」
そう言って輝夜は□□に近寄り、その体を抱き締めた。
中途半端に終わり。
後は蛇足のエピソード。
やめときな、気がふれるぜ?
――――
目を覚ますと、そこは布団の中だった。しかも、誰かに抱きかかえられている。
女性だと思う。柔らかな胸に俺の頭が埋もれているわけで、息が苦しかったり。
なんとか布団から頭だけ抜け出して、大きく息を吸う。
辺りを見回すと、普通の和室だった。外からは朝日が射している。
その女性の顔をよくよく見れば、おそらくは昨日、共に酒を飲み、
自分の愚痴に付き合って頂いたゆかりんじゃありませんか。
俺みたいなどこぞの馬の骨とも分からん奴と同衾しているというのに、
すぅすぅと寝息を立てて、おやすみになっておられます。でも腕の力強ぇ。
「なんなんですか、俺なんでこんなところにいるんですか?」
「起きたか。それは私が聞きたいところだ」
急に声がした。振り向くと、戸を開いて入ってくる女性の姿。
「あ、おはようございます」
「おはよう。とりあえず、お前は誰だ」
どういう状況で、そういう質問になるのだろう。
この人は、俺のことも、俺がここにいる理由も把握していないのだろうか。
「誰、と言われれば……紅魔館の従者やってる●●です、としか」
「……聞いたことが無いな」
「本当にしがない従者なんで。あなたは?」
「私? 私は八雲藍。今お前を抱き枕にしている方の、式さ」
その名前には覚えがあった。
「……八雲、藍……」
マヨヒガに住む境界を操る妖怪、八雲紫の式。
式としてはかなり優秀で、自分自身もまた式を持っているとか。嘘か真かは知らないが。
「……あれ……?」
「どうした」
「ってことは……ゆかりんが、八雲紫……?」
「ゆかりん!?」
突然叫ぶ八雲藍。確かゆかりんだったと思うが、名前を間違ったのだろうか。
「え? ゆかりん、ですよね……」
「あ、いや……まあ、そうだが」
……何を驚いているんだろう、この人……この式は。驚きたいのはこっちだ。
俺が一瞬でも心の拠り所にしたゆかりんが、幻想郷屈指の実力を持つ、かの有名なスキマ妖怪だったとは。
なんでも八雲紫は、冬眠の際の栄養分補給に人間を食べるという。
俺に近づいたのは、油断させた後、隙を見て餌として自陣に引きずり込む為だろうか。
そして不覚にも俺は八雲紫の膝枕で眠りこけてしまったわけだ。
結局俺は、どう転んでも死ぬ運命にあったらしい。るーるーるるー。
「……悲愴感を漂わせているところ悪いが」
「はい?」
「残念ながら、お前は紫様の食糧では無い」
「……え……」
……ますます分からない。もう食糧でもいいよ、いっそ。
「じゃあ、俺は何故ここに……」
少しの間を置いて、八雲藍が言った。
「……抱き枕、らしい」
何とも言えない沈黙が辺りを包む。
「……なにがなんだか、分からない……」
「奇遇だな。私も分からない……」
二人揃って、はぁ、と溜息をついた。
「あら、食べられるのがお望み?」
不意に、唇を奪われた。いつの間にやら起きていた八雲紫に。
しかも押し倒されている。自分の隣で横になって寝ていた筈なのに、機敏過ぎるぞ八雲紫。
柔らかな唇、巧みな舌使い、体に触れる艶かしい肢体。甘い痺れが容赦なく俺に襲いかかる。
そこから十二分に舐られた後……ようやく、解放された。
「ふぅ……ごちそうさま」
俺に覆いかぶさったまま、満足げに光悦の表情を浮かべる八雲紫。
彼女の口と俺の口の間には、先程の行為を示す透明の線が一本。
「…………」
「あら、不満そうね……これじゃ足りない?」
「違いますよ……どうしてこんな状況になってるのか、分からない」
「紫様、それには私も同意です。まずはご説明を」
黙っていた八雲藍も、ここぞとばかりに同意してくれた。
それ以前にさっきの行為を眺めてるだけ、ってどういうことだ。
「……しょうがないわねぇ」
しょうがないのはあんただ……などと思いつつ横に視線をやると、八雲藍が頭を抱えていた。
おそらく彼女もそう思っているのだろう。とにかくこれで、やっと理由が分かる。
八雲紫が俺をここに連れてきた理由。食料にしない理由。その他諸々。
「その前に、お風呂」
「駄目です」
「けち」
……俺の聞いた八雲紫のイメージと大分違うんだが、気にしたら負けだろうか。
「……というわけよ」
「ええっと、式の人……俺莫迦なんでよく分からなかったんですけど」
「藍でいい。話半分に聞けば、なんとなく分からんでもない。直に慣れる」
「あら、この藍の態度どう思います? 酷くありません?」
話半分って……仮にも主人なのに。でも藍さんの言いたいことは分かる。
面倒くさいのか、八雲紫は思いついたことから話している。
だから、話にまとまりが無い。しかもたまに同じことを言ったりして、無駄に混乱させられる。
「まとめると、お前がこのまま紅魔館にいると死んでしまうから、同情した紫様がここに連れてきて下さったんだ」
「藍さん凄いですね、一行でまとめた」
「それほどでもない」
「ずるいわ、藍。いいとこどりじゃない」
本当に良き行いをしたのは自分なのに、とお怒りになる八雲紫。
ただの気まぐれだそうだが、それでも助けてくれたことには違いない。
それが分かると、食料にされるなどと失礼な事を考えていた自分が、急に愚かしくなった。
「何か勘違いしてました……本当にありがとうございます、八雲紫さん」
「………………」
……素直にお礼を言ったら、いきなり無表情になってそっぽを向く八雲紫。露骨に無視された。
「あの……」
「●●、それは良くない」
藍さんに怒られた。
「お礼を言っちゃ駄目なんですか」
「そっちじゃない」
そっちじゃない、って……もしかして……
「………………」
八雲紫を見る。どうやら横目でこちらを伺っていたらしく、目が合ってしまった。
が、気恥ずかしいのかすぐにあちらを向いてしまう。俺だって恥ずかしいけど、言うしかあるまいに。
「ありがとうございます……ゆかりん」
そう言うと八雲紫……ゆかりんはニッと笑った後、俺に抱きついてきた。また押し倒されたよ……
「どういたしまして」
「顔、赤いですよ」
「うるさい。余計なことを言う口ね」
そして、また口を塞がれた。どうしてゆかりんが、自分にこうまでしてくれるのかは分からない。
……けれど、今は快楽に溺れてもいいだろう。どうやら時間はありそうだ……
――――
「藍様、あれ……」
「橙、見ちゃいけない。お前にはまだ早過ぎる」
「でも…………」
「それより、朝御飯を作るから手伝ってくれ。今日からは四人分だぞ」
橙を連れながら、藍は過去の戯れに思いを馳せていた。
~~~~
「ねぇ、藍……」
「はい」
「私、これからも長く生きる中で……愛する男性の一人や二人、できるかもしれない。
今まではそんな人、一人もいなかったから……もしかしたら、これからもいないのかもしれない」
「はい」
「もし、愛する人ができても……それは、一目惚れか、気がつけば想いを寄せているのか……
それこそ先のことだから、分からないじゃない?」
「はい」
「でもね。もしそうなったら、私……絶対その男を、落として見せるわ」
「はい」
「それでね、私のこと『ゆかりん♪』って呼ばせたいの!」
「………………」
「その後の生活はね、『ゆかりん、今日も綺麗だね』とか『ゆかりんのご飯はいつも美味しいね』とか……」
「………………」
「……どうしてそこで引くのよ」
~~~~
どうして紫が●●を好きになったのか藍には知る由も無いが、
いつも身近にいる藍には、いずれその惚気話を聞く機会があるだろう。
藍自身は、砂糖を吐くような甘い話は苦手だったので御免被りたかったのだが。
「我慢するか……私の大切な主人が、幸せになれるのなら」
「? 藍様、何か言った?」
「何でもないよ、橙。行こうか」
――――
あの姫様曰く、妖怪に殺されても困るということで、結局家の近くまで護衛されてしまった。
姫に守られる男とは、なんとも情けない話だが。
道中で、俺のどこがいいだとか、永遠亭の魅力だとか、そういうものをひたすら聞かされた。
あの人としては俺に恋愛感情的なものは無く、一緒にいると面白そうだから欲しいんだとか。
そういう理由で付き合う恋人も外の世界には沢山いるが、言うと面倒なことになりそうなので止めておいた。
家の前まで来たところで、あの人はまた俺を抱き締めて「諦めないわよ」と言い残し、帰って行った。
まあ、妹紅さんと顔を合わせる訳にもいかないだろうし。しかし、理性がヤバいのでアレは止めて欲しいところだ。
「ただいま戻りました」
家の戸を開くと、慧音さんと妹紅さんが声を揃えて「おかえり」と言ってくれた。
俺には帰れる場所がある、こんなに嬉しいことは無い。
が。何故か険しい顔になる妹紅さん。
そして俺の近くに寄ってきたかと思うと、背中に手を回し、胸に顔を埋めてくる。
「…………」
あまりの出来事に声の出ない俺。流石の慧音さんも口を開けて固まっている。
「……やっぱり」
「……?」
「輝夜の匂いがする」
「!?」
あなたは犬ですか! そういえば、道中ではずっと腕を組まされていたし、あの狭い部屋でもずっと一緒だった。
おまけに二回も抱き合って、少し甘美な空気に呑まれそうになったり。
高級感漂う着物や美しい髪から発せられる独特の良い匂いが俺に移っていたとしても不思議じゃない。
不思議じゃない、っていうか……移るだろ、当然。
「……相当長い間、近くにいないと……こんなに匂いは付かない」
「いや、これは……」
「それに、髪が付いてる……」
「髪……?」
妹紅さんが俺の肩から、一本の髪を掬い上げる。美しくも長い黒髪だった。
「こんな長い黒髪……あいつ以外にいるもんか」
いつ付いたのかと考えたが、心当たりが多すぎて諦めた。
自覚は無かったが、俺はどうにも、あの姫様と随分親密な関係になっていたらしい。
「……どういうこと?」
じりじりと壁に追いやられ、逃げ場を無くす俺。襟を掴まれ、後ろの壁に叩きつけられる。
眉を吊り上げて本気で怒ってらっしゃる妹紅さんを、まさかこんなに近くで見られようとは。可愛いけど超怖い。
こんな妹紅さんと正面から殺し合いをする、あの人の気が知れない……
しかしこの殺伐とした空間に、一人の救世主が。
「やめないか、妹紅」
俺を押さえつけている妹紅さんの力が弱まった。それはまあ、他ならぬ慧音さんの言葉だし。
慧音さんが良識ある人で良かった。
「やるなら外でな」
そう来ましたか。無言の妹紅さんに引き摺られる俺。まるでドナドナだ、牛はそこにいるじゃないか。
どうやら神は俺を見捨てたらしい。普段信仰していないバチが当たったのだろうか。
外に無理やり連れ出された後、地面に転がされて馬乗りになられた。
乱暴なのも嫌いじゃないよ的な冗談を言おうとしたが、修羅のような顔をしている妹紅さんを見て、止めた。
俺だって命は惜しい。寿命を縮めるようなことはしたくない。
ただ、そこまでされても、俺には妹紅さんが何をそんなに怒っているのかさっぱりだった。
敵と話したから、怒っているのだろうか。そんなに肝っ玉の小さい人だとは思えないが。
もしかして、敵と内通しているとでも思っているのかもしれない。だとしたらそれは誤解だ。
「さあ、輝夜と何をしていた。話せ」
話せと言われた以上、話すしか無い。まあ、実際にあったことを全部話せば、
もしかしたら誤解だと分かってくれるかもしれない。
が、酒も入っていたせいか記憶も飛び飛びな俺は、とりあえず覚えていたこと、つまりは
一緒に酒を飲んだり、膝枕をされたり、二人でここまで帰ってきたり、抱き合ったり、ということを話すことにした……
─────────
昨夜、宴会の場で起こった出来事を藤原妹紅に強く問い質された□□は、
結局彼女の有無を言わさぬ圧力に勝つ事はできず、ありのままを話してしまった。
主だった事としては、月の姫君、蓬莱山輝夜と宴会の場でばったりと出くわし、一緒に酒を飲んだり、
膝枕をされたり、二人でここまで帰ってきたり、抱き合ったりしたこと等々。
間諜の疑いを晴らすべく精一杯の努力をした彼を、誰が責められようものか。
話が進むにつれて妹紅は怒りで顔を真っ赤にし、□□どころか、この場にいない輝夜にさえ罵詈雑言を叩き付けていた。
そのあまりの怒りっぷりに□□が殺されるのではないかと心配して、上白沢慧音が外まで様子を見に来た程だ。
しかし途中から彼女は段々と涙目になり、全てを話し終わった時点でついには子供の様に思いきり泣きだしてしまった。
その理由も分からない□□はただおろおろとするばかりだったが、そんな彼に追い打ちをかけるように、慧音は言った。
「一日やる。荷物をまとめて、出て行け」
――――
「そういう訳なんだ」
「どう考えても、あなたが悪いわね」
「……何故だ」
慧音に家を追い出された□□は、妖怪に食われる可能性も忘れて、当ても無くふらふらと竹林を歩いていた。
ふらふらとしていたのは、背負った荷物の多さ、歩いた距離も相まって疲れていた、というのもあるのだが。
しかしそんな折、偶然にも買出しの帰りであった永遠亭の薬師、八意永琳と出会うことができた。
「追い出された理由は分かる。妹紅さんを泣かせたとあっては、慧音さんもそりゃ怒るだろうし」
とりあえず永琳に付いて行きながら、この状況に至るまでの経緯を話す□□。
「けど、なんで妹紅さんが泣いたのか……俺にはさっぱりで」
本気で困惑の表情を浮かべる□□に、呆れたように永琳が言った。
「……藤原妹紅は、あなたのことが好きだったのよ」
「…………?」
ポカンとなる□□。永琳はそれを気にも留めず続ける。
「姫にあなたを取られたと思ったのね、きっと」
「……はぁ?」
こいつは何を言っているんだ、という反応の□□。
だが永琳は至って真面目に言っていた。その表情から□□も、それが冗談ではないことを察した。
「……そんな莫迦な」
「いいえ、そんなものよ。心なんて」
ふぅ、と溜息をつく永琳。
「……ところで、これからどうするの?」
「どうする、って……戻れる訳も無いしな」
「かと言って、行くアテも無いのでしょう?」
「そりゃ、もちろん無いとも」
この状況とは裏腹に溌剌とした□□を見て、やっぱりと言わんばかりにこめかみを押さえる永琳。
□□は多少空元気で言っているところもあったが、永琳はそれに気付いているのかいないのか。
「……なら、いい所があるわ」
「いい所? 寝泊まりできるなら、どこでもいいけど……」
――――
「はい、到着。ここが永遠亭です」
「……なんでよりにもよって、ここなんだ……」
永遠亭については、□□も知らぬわけでも無かった。
ただ、妹紅から話は聞いてはいたものの永遠亭には絶対立ち寄るなと言われていた為、
□□の中の永遠亭は自分勝手な想像だけで作られていた。
まさかそんな場所にこんな理由で来る事になるとは、一体誰が予想できただろうか。
「味方本陣に敵を侵入させていいのか?」
「今のあなたは藤原妹紅と上白沢慧音に見捨てられた丸裸の人間。敵と言うのも勿体ない程に無力じゃない」
「………………」
「内部工作できる程、器用だとも思えないし……情報を持って帰ろうにも、その味方に嫌われているようではね」
あまりの低評価に流石の□□も凹むしかなかった。しかし寸分違わぬ事実である以上、文句など言えよう筈も無い。
そんな□□を尻目に、玄関の戸を開けて永遠亭内に自分の帰りを知らせる永琳。
永琳が迎えに出てきた兎に、□□の事情を話したり、持っていた荷物を渡したりしていた間、
□□は物珍しそうに永遠亭を眺めていた。あまりにも自分の形作った永遠亭(なんという魔境)と異なっていたから。
「さてと……疲れているところ悪いけれど」
永琳が、□□の方に振り向いて言った。
「部屋に荷物を置いたら、来て欲しい所があるの」
――――
□□は、空き部屋(とは言っても結構な広さ)に案内されるとすぐに荷物を置き、永琳の後に付いて行った。
道中、物珍しそうに見る兎達の視線に耐えながら。そんな様子を見た永琳は少し楽しそうに笑っていた。
大きな襖の前で永琳が足を止める。来て欲しい所とは随分大きな部屋だな、と□□は考えていた。
「お腹、減ってない?」
突然の脈絡の無い話題に言葉を失う□□。しかし言われて初めて、
もう夕食にはいい時間だし、何より疲れていることもあって、自分が空腹であることに気付く。
いや、言われて自覚してしまったが為に空腹になった、と言うのが正しいかもしれない。
「かなり減ってる」
「そうでしょう。そろそろ夕食だから、この部屋にいる人を起こして、連れて来て欲しいの」
「起こす?」
まさに夕食という時間になって、まだ寝ている人間など居るのだろうか。
月の民や兎の生活サイクルが地上人と違うとしても、いくら何でも遅すぎやしないだろうか。
□□のそういった考えは尤もだったが、永琳はごく普通に言ってのけた。
「多分、寝てるわ。夕食を摂る場所はその人に聞けば分かるから」
「起こすくらい、自分で……」
「なかなか起きないのよ。私は夕食の仕度があるから、暇なあなたに与える最初の仕事よ」
「……成程、働かざる者食うべからず。そう言われてはやるしかない」
妹紅と慧音と同居していた際も、□□は住まわせて貰う見返りとして、多々仕事をさせられていた。
料理や洗濯といった家事全般から、酔った妹紅の愚痴の相手まで、それこそ色々と。
それと同じだと思えば□□には断る選択肢など無かったし、寧ろ喜んでやりたいものであった。今の時点では。
――――
□□が、音を立てない様に丁寧に襖を開けると、そこには僅かに膨れた布団が鎮座していた。
布団の端から流れ出る綺麗な黒髪は、布団を越えて畳の上にまで広がっている。
誰の目から見ても、夢の世界の住人がそこに埋もれているのは明らかであった。
「……でも、起きて初対面の人間がいたら、普通驚くよな」
とは考えたものの、まさか自分が八意永琳に変身できるわけも無いので、結局起こした後、
必死に説明をすることで分かってもらおう、という行き当たりばったりな□□はなんとも間抜けだった。
起こす為、布団の傍に寄る□□。睡眠中の人物は、女性だという事は分かるが、
□□とは逆の方を向いている為、その顔までは確認できない。
「晩飯です。起きてください」
「………………」
正攻法で起こそうとする。が、布団の中の人は無反応。
「晩飯、無くなっちゃうよー」
「……うぅん……あと五分……」
子供に言い聞かせるように言ってみる。少しだけ反応あり。その呻く声が妙に艶かしい。
□□はその声になんとなく聞き覚えがあったが、さほど気にせず。
「この間もそんなこと言って、一刻も寝てたでしょ! いいかげんにしなさい!」
「……はぁい……」
本当に寝てたことがあるのか、と呆れを通り越して感心する□□。
女性は布団の中でしばらくもぞもぞと動いた後、布団から手を出した。
「……起こして」
「はい?」
「引っ張って……」
一端の女性が寝ぼけたまま、手を引っ張って引き起こせとは何ともだらしないが
これも仕事と割り切り、渋々ながらもその白く美しい手を取る□□。
その柔らかさに少し動揺したものの、それを誤魔化すように上に向けて一気に引っ張り上げる。
「よっと」
「はぅっ……うぅん、ありがと……」
そこで初めて女性の顔を見る□□。同様に、女性も寝ぼけ眼で□□の方を見た。
「………………」
「………………」
「……まだ、夢なのかしら……」
こてっと布団に倒れこみ、また布団を被って寝る体勢に入る女性。
□□にしてみれば、本当に迂闊だった。あの八意永琳が『その人』と言った時点で、
該当する人物など絞れた筈。この女性など、特に真っ先に考慮するべきだったのだ。
「……とりあえず、起きようか……姫様」
むくっと起きて、再び視線を□□に向ける女性、蓬莱山輝夜。
「……おはよう、姫様」
「……おはよ……」
――――
夕食の席に着いた□□、輝夜、永琳。
妹紅達に自分が振舞っていた料理とは桁外れのモノが出てきたことに、□□は軽くショックを受けていた。
尤も、ショックを受けていたのは心だけではなく、体もだった。
「それ、大丈夫なの?」
「凄く……痛いです」
「わ、私は悪くないわ……永琳が悪いのよ」
あの後、頭が覚醒し始めた輝夜は、自分が男性に寝顔を見られていたことや、
全く整えていない寝起きの顔で対面したこと、寝ぼけた情けない態度で対応したこと、
あげく手を引っ張って起こされてしまったという現状を把握し、みるみるその白い御顔を赤くした。
そして目の前にいたその恥辱の根源に、思わず全力で平手打ちの贈り物を差し上げた。
起こせと言われて起こした□□は理不尽に思いつつも、自分が輝夜を起こした理由を説明した。
すると輝夜は身嗜みを整えることもせず、どすどすと音を立てて、おそらくは調理場の方へ向かって行った。
それを放置するわけにもいかなかった□□も、その後を追ったわけだが……
「調理場に入ってきた姫は本当に傑作だったわ。あんな表情、久しぶりに見たし」
「……覚えてなさいよ、永琳……」
「おお、怖い怖い。普段笑ってばかりの姫がこんなに怒るなんて、あなたは大したものよ」
「褒められても、全然嬉しくない……」
ひりひりと痛む頬を押さえる□□。そんな様子を見て、永琳が言った。
「けれど、これで姫の本性が分かったでしょう?」
「本性って、永琳……!」
「普段はあのように振舞っているけれど、家の中だといつもこんなものよ」
「へぇ……」
あまり反応の芳しくない□□に、永琳が不思議そうに尋ねる。
「幻滅しない?」
「永琳!」
輝夜もそろそろ限界のようだった。ここで□□が幻滅したとでも言えば
ある意味彼女も大人しくなったのであろうが、□□の返事は二人の予想の斜め上を行った。
「うーん……ギャップがある方が、可愛いよ」
「かっ……!?」
「…………へぇ」
また顔を朱に染めて驚く輝夜と、少し感心した風な永琳。
「あなた、名前は?」
「□□」
「じゃあ□□。あなた今日から、姫のお世話係ね」
「はっ?」
「ええっ!?」
唐突に決まる仕事。内容が内容だけに、□□も輝夜も目を丸くして驚く。
「だって姫、その方が都合がいいでしょう?」
「都合って、何のだ……」
「……でも……まあ、そうね……」
「ええー……」
その後は輝夜が特に文句を言わなかったということもあり、目出度く(?)□□は輝夜のお世話係になった。
当の輝夜は「可愛い……」などとぶつぶつ言っていて、まるで聞いていなかったが。
――――
「姫」
「何?」
「無理して、正座しなくても」
食後、居間で本を読んでいる輝夜と永琳。手持ち無沙汰な□□は、その二人の様子を眺めていた。
「無理してない」
「いつもは寝転がって」
「ない」
実際、輝夜は正座など慣れたもので、全く無理などしていない。
ただいつもは寝転がって本を読んでいるので、永琳は見栄を張る輝夜を少し苛めてみたくなっただけだった。
「……あ、そうだ」
何かを思い出したのか急に立ち上がり、何処かへ行ってしまう永琳。
それを待ってましたと言わんばかりの勢いで、本を置いて□□に寄ってくる輝夜。
「ねぇ」
「何だ……何ですか、姫様」
「………………」
目に見えて不機嫌な顔をする輝夜。
「いや、ほら……」
□□も、輝夜の言いたい事は分かる。
「……この家に住む以上、目上の人には敬語を……」
「つまらないわ。あと『姫様』もやめて、こそばゆいから」
「……姫様がそんなこと言って良いのか」
「普段『あんた』って言ってるあなただから、そう思ってしまうのよ」
と言われても□□は、流石にお世話になる人に『あんた』と言うことも出来ず。
「……分かったよ、輝夜」
びくっと震えて赤くなる輝夜。
あまり呼び捨てにされることに慣れていない輝夜には、逆に新鮮だったらしい。
「……どうかした?」
「な、何でもない……何でも……」
□□はしばらく不思議そうにしていたが、それに対して輝夜は何も答えそうに無かった。
「……それで『ねぇ』の続きは?」
「……え、えっと……追い出されて、永琳が連れてきたのは聞いたけれど……」
「まさにその通り……改めて言われると泣けるな」
がくっと項垂れる□□。
「……ほとぼりが冷めたら、やっぱり帰るの?」
「んー……まだ分からない。少なくとも今は、あの人達がまた俺を受け入れてくれるとは思えない」
遠い眼で語る□□。すると途端に、期待に満ちた目で□□を見る輝夜。
「……ということは、ずっとここに居るの!?」
「いや、それは悪いだろ……輝夜や、八意さんに迷惑がかかるし」
「全然! だって、前に言ったじゃない!」
何の事だろうと□□は思案したが、輝夜が勝手に答えた。
「私はあなたが欲しいんだもの!」
今度は□□が顔を赤くした。輝夜のあまりに恥ずかしい台詞に。
開けざらしになっていた居間の横を通った兎も、一時停止したかのように固まっている。
二人を見るその顔はやはり真っ赤であったが、次の瞬間、文字通り脱兎の如くどこかへ去ってしまった。
「そ、そうか……居られたら、いいな」
「居られたら、じゃない! 居るの! もう決まったの!」
□□にがばっと抱きつく輝夜。□□の記憶が正しければ抱きつかれたのは三度目だが、
過去二回のそれとは違い、その後、ぎゅっと強く抱き締められた。
「おぉぅ……都合がいいってのは、そういう理由……?」
溢れ出そうな邪な感情を抑え、正気を保って輝夜に聞く□□。
「そうよ。ずっと近くにいられるじゃない……」
「……輝夜がそう言ってくれるのはかなり嬉しいけど、八意さんが認めるかどうか」
「あんなのどうとでもなるわよ」
「……言ってくれるわね」
いつの間に帰ってきたのか、永琳が腕を組んで、輝夜の背後に立っていた。
抱き締めていた腕を残念そうに放して立ち上がり、永琳に向き直る輝夜。
「……何? 永琳、邪魔する気?」
「まさか。やったところで、弾幕勝負では姫には勝てないし」
「なら、何の用?」
修羅の如き顔で永琳を睨みつける輝夜と、それに冷たい笑顔で応じる永琳。
竜虎相打つという表現すら生ぬるい程、険悪な空気が流れる。普通の人間の□□は、生きた心地がしなかった。
「随分なお言葉ね……お風呂、沸いたみたいよ」
一転、唖然とする輝夜。永琳が先程席を立ったのは、何の事は無い、ただ風呂の様子を見に行っていただけであった。
「二人で、一緒に入ってきたら?」
「はっ!?」
「好き合ってる者同士で入っても、誰も文句は言わないわよ」
「すっ……好き合って、無いっ……」
輝夜は否定するが、その仕草にまるで説得力が無いので、永琳はそれを嘲るように笑っている。
「あら、そうなの?」
「た、ただ、一緒にいたら面白いかな、ってだけ! 好きでも何でも無い!」
「……そんな力いっぱい否定しなくても……」
畳に『の』の字を書く□□。
「あっ……違うの、何でも無いって訳じゃなくて……」
「………………」
「好き、っていうか、その……」
もじもじとして口ごもる輝夜。共に過ごした数千年の時で、
一度たりと見た事の無い初心な輝夜の姿に、流石の永琳も少しは驚いていた。
――――
輝夜が風呂に入っている間、□□は永琳に仕事について尋ねていた。
お世話係の他に、掃除や洗濯など、他にも手伝えることは無いかと。
「一応、そういう仕事は担当がいるから。その子と相談して決めたなら、それでいいわよ」
「担当?」
「今日の夕食は、三人だったけれど……いつもは四人いるのよ」
「輝夜と、八意さんの他に、あと一人?」
「永琳で結構。その一人が……と言っても、人じゃないけどね」
苦笑しながら永琳が言う。その時、玄関の戸が開いた音と「ただいまぁ」という声が聞こえてきた。
「噂をすれば影」
「……また聞き覚えのある声が」
その人物はこの居間に向かっているらしく、床を踏む音が段々と大きくなる。
居間の前、襖一枚隔てた所でその音は止まり、その襖がスパーンと勢いよく開いた。
そこには□□も知る月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバの姿。
ブレザーの上に羽織っている大き目の上着は、先日□□が渡したものに相違無かった。
「疲れました!」
「行儀が悪いわね。けれどご苦労様、ウドンゲ」
鈴仙はふと□□を一瞥して、再び永琳に向き直った。
「師匠……晩御飯は、もう?」
「ごめんなさい、今日は遅くなると思って」
「誰の所為ですか……いくら材料が足りないからって、山一つ向こうまで取り……」
勢いよく□□の方を見て、口をあんぐりと開けたまま硬直する鈴仙。
「……いい二度見だな……昨日ぶり?」
「…………あ、うん……」
とりあえず□□がこんばんは、と頭を下げると、鈴仙も同じように頭を下げた。
「……え……っと……」
「ウドンゲ、説明してあげるから、まずは座りなさい。突っ立ってないで……」
――――
永琳が上手く話してくれたお陰か、鈴仙は変な誤解や動揺を生むことなく、
□□が永遠亭にやって来た経緯や以後の身の振り方を、なんとか正しく把握した。
これがロクな説明もしない巫女や魔法使いだったらどうなっていたのだろう。
「……姫や師匠がそうお決めになったのであれば、私は何も……」
「月の兎。お前は俺を、許してくれるのか……」
「……許す?」
「ほら……昨日は俺の所為で、お前が酔い潰れただろ?」
「昨日? …………!!」
あれやこれやを思い出し、頬に手を当てて顔を赤らめる鈴仙。
「い、いいの。色々してくれたみたいだし……あ、あれでお相子よ」
上着の端をぎゅっと握りしめながら鈴仙が言う。
「……そんな薄汚れた下賤の物を、まだ持っててくれたのか」
「い……一応、借り物だし……それに丁度、羽織る物も無くて困ってたし……」
あたふたと言い訳を始める鈴仙。
だが確かに、夜の気温も大分と下がってきたというのに、薄手のブレザー一丁ではさぞ寒いだろう。
鈴仙は上着を脱いで本来の持ち主である□□に返そうとしたが、それは□□本人に制止された。
「羽織る物……そんな物で良ければ、あげるけど」
脱ぎかけの状態で固まる鈴仙。
「え……そ、そう?」
「俺は他にもいくつか持ってるし」
「……なら、折角の好意だし……貰っておこう、かな……」
くくっと笑う□□と、赤い顔のまま少し微笑む鈴仙。
永琳はそんな二人、どちらかと言えば鈴仙の方を見て、やけにニヤニヤしている。
その永琳を鈴仙は目で威嚇したが、まるで効果は無いようだった。
「……そ、そんなのじゃないですから!」
「へぇー?」
「信じてないでしょう!」
「当たり前じゃない」
永琳は鈴仙の言い訳など全く聞く気は無いようで、ニヤニヤは止まらなかった。
その後もあれやこれやと言いくるめて永琳は鈴仙をからかっていたが、
鈴仙が涙目になってきたあたりで、ようやく解放する気になったらしい。
そこに、風呂上がりの輝夜が戻ってきた。
「あら、帰ってたのね、イナバ」
「あ、姫……」
輝夜が、風呂から上がり上気した体と、それに伴った艶っぽい表情で居間にやってきた。
「楽しそうね、永琳。私も混ぜてよ」
「残念、今終わったところ」
鈴仙は自分が玩具の様な扱いを受けていることにまた少し腹を立てたが、
いつものことだ、と自分に言い聞かせてなんとか堪えていた。
「イナバ?」
□□が、イナバとはあの地上の兎たちのことであった筈だが、と小首を傾げていた。
「この間は確か『レーセン』って呼んで無かったか? それにさっき永琳さんは『ウドンゲ』って……」
「……私の地上での名前は『鈴仙・優曇華院・イナバ』だから……」
「長いな……」
率直な□□の感想に頷く鈴仙。自分でもそう思っているらしい。
「優曇華院は師匠、イナバは姫に頂いた名前。普通の人は『鈴仙』って呼ぶわ」
それを聞いた□□は、崩していた体勢を正座に変えて、鈴仙の方に体を向けた。
「……では、これからよろしくお願いします……鈴仙」
「! は……はい……」
妙に畏まった態度の□□に、思わず敬語で返す鈴仙。
深々と頭を下げる□□に合わせて鈴仙も頭を下げると、向かい合った二人の頭がぶつかって、鈍い音が響いた。
そんな光景に、顔を見合せて笑う輝夜と永琳。
「楽しくなりそうね」
「ふふっ、本当」
――――
一ヶ月後―――
地上の兎やそれを統率する因幡てゐともすっかり仲良くなり、もはや永遠亭の一員と化している□□。
その所為なのか、重要な仕事からどうでもいい雑用まで片っ端から押し付けられている。
しかしそのほとんどは自分から要求したもので、鈴仙からは掃除と洗濯を仕事として回して貰っていた。
「でも、パンツは自分で洗えよ……」
縞々の柄で彩られたそれを物干し竿に引っ掛けながら愚痴る□□。
これは健康男児の彼にはあまりよろしくない仕事だった。
「あ、それ私の」
縁側に座って、□□が洗濯物を干す姿を後ろで見ていた鈴仙の発言に、思わず固まる□□。
慣れとは恐ろしいもので、最初は乙女のような反応をしていた輝夜や鈴仙も、
同じ屋根の下で共に暮らす間に、いつしかそのような恥じらいは失ってしまっていた。
「可愛いでしょ。お気に入りなの」
「……それにどうコメントしても、俺は変態じゃないか……」
「試しに言ってみれば?」
一考する□□。何を言ってもどうせ変態扱いされる、と既に割り切っている感はあるが。
「……縞々って、いいよね」
「変態だー!」
「変態! 変態!」
どこからか輝夜と永琳が湧いてきて、容赦ない変態コールを□□に浴びせつける。これには鈴仙も苦笑い。
「輝夜、永琳さん……仕事とか無いの?」
「あなたと鈴仙の観察が、最近の日課」
「要は暇なんだ、輝夜」
「最近は患者も減ったし、やることなくって……」
「医者がやることないってのはある意味良いことだけどね、永琳さん」
二人は鈴仙の横に腰掛け、鈴仙と同じ様に□□の働きぶりを観察し始めた。
視線が気になるものの仕事の手を休めるわけにもいかず、次の洗濯物(てゐの普段着)を手に取り、竿に掛ける□□。
「……で、鈴仙。最近はどうなの?」
「はい?」
輝夜の取り留めの無い台詞にきょとんとする鈴仙。
「□□とはどこまでいった?」
□□と鈴仙が噴き出したのは同時だった。鈴仙の唾が輝夜の顔にかかる。
「あっ、す、すみません姫!」
「ん……いいのよ、それより……」
顔を拭いながら続きを催促する輝夜。
「接吻ぐらい、したの?」
「せっ……!!」
お前はトマトか!と言いたくなる程に赤くなる鈴仙。
変な事を言わないだろうな、と□□は内心ハラハラしながら洗濯物を干していた。
その後、彼女は執拗な二人の責めに耐え切れなくなったのか、□□に聞き取れない程度の声で、
ぼそぼそと何かを二人に話し始めたようで。
「……まさか、あれを話してないよな……」
~~~~
珍しく□□が寝坊をしたので、それを起こしに来た鈴仙。
しかし□□のあどけない寝顔を見て、つい彼女は悪戯をしてみたくなった。
てゐあたりなら顔に落書きをするような悪戯をするのだろうが、鈴仙は少しばかり大胆に、
起きた時に自分が同じ布団で寝ていたら、どういう反応をするだろう、などと思ってしまった。
しかし実際布団に潜ってみれば、それどころでは無かった。
□□の体温や息遣いを間近に感じて、気が付けば鈴仙は、□□の体を抱き締めていた。
若干興奮しながらもあまりの心地良さに、鈴仙は不覚にもその場で眠りに落ちてしまった訳だが。
~~~~
「…………?」
□□が目覚めると、目の前によく見知った兎の顔。彼女の腕は自分をしっかりと捉えている。
可愛らしくも端整な顔立ちの鈴仙が至近距離で無防備な寝顔を曝け出していて、
寝起きでそんなものを見せられては、心臓に悪い事この上無かった。
「……人の気も知らないで」
すぅすぅと寝息を立てて寝る鈴仙。自分に抱きついている以上、されても文句は言うまいと
独自の理論を展開した□□は、仕返しとばかりに鈴仙を抱き返した。
「うぅ……ん……」
僅かに目を開ける鈴仙。それ程深い眠りには入っていなかったらしい。
「………………」
「………………」
二人の目が合う。お互い腕を相手の背中に回し、捉えて離さない体勢。
顔も近い。距離があると言うのもおこがましい程に近い。もう少し近づけば零になる。
「んんっ」
「んむ!?」
あっさりと零。目覚めるなり鈴仙は、自分の唇を□□のそれに押し付けていた。
「ん~……」
「…………」
唇を重ねたまま、□□の頭をがしっと掴んで引き寄せる鈴仙。
□□は頭こそ覚醒していたものの、柔らかい唇の感触と甘美な匂いに抵抗する気力を奪われていた。
□□はその後もしばらく貪り続けられた。やがて舌と唾液の絡み合う音が部屋に響き始め……
~~~~
「細かく話しすぎだろ……」
と言ってみたものの、□□自身もその時のことは鮮明に覚えていた。
一つ一つが甘く蕩けそうな経験で、それが忘れられない自分を今更呪っていた。
「……でも冗談で言ったのに、もうそこまで進んでいたなんて……」
「意外と大胆なのね、ウドンゲ。もっと奥手だと思っていたわ」
「ひゃぅ…………」
耳を項垂れさせて俯く鈴仙。
「まあ、イナバが□□を好きなのは分かったけど……」
「す、好きっ!?」
「あら、違うの? そんなことまでしておいて」
「……あれは、その……寝ぼけて……」
間誤付く鈴仙だったが、途中でその言葉を切る。
三人が不思議に思っていると、鈴仙は意を決した様に言った。
「……でも……す、好き、かな……やっぱり……」
それきり口を噤んで俯く鈴仙。予想外の肯定的な返事に輝夜と永琳も驚く。
今は髪に隠れて鈴仙の顔は見えないが、すぐ赤くなる彼女のことだから、きっと今も真っ赤なのだろう。
「……ねぇ、そこの色男」
「あーあー聞こえなーい」
全ての洗濯物を干し終わって、□□も三人の座る縁側に腰掛けた。
「月の姫と兎を落として、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」
「私は落ちてないわ」
すかさず輝夜が反論する。
「ああ、好きじゃないんだっけ?」
永琳も分かっていたのか、呆れたように返す。
「□□が鈴仙と結ばれても、何も文句は言わないもの。
ただ、鈴仙より私に時間を割いて、私の方を見て、私と話して、私と一緒に寝て、それから……」
「あわよくばそれ以上、とか思ってない?」
「思ってるに決まってるじゃない」
その輝夜の台詞を聞いた瞬間、鈴仙が凄い勢いで隣に座る輝夜を睨み付けた。
鈴仙の威圧感に一瞬たじろぐ輝夜だったが、当然それで退くような性格でも無い。
「……あら、そんな目もできるのね」
「……伊達に赤いわけでも無いので」
「二人とも、弾幕は禁止よ」
最初に永琳に出鼻を挫かれたので、中途半端に出していたスペルカードを懐に戻して、口論を始める輝夜と鈴仙。
どっちが相応しいだの、自分の方が魅力を分かっているだの、聞いててむず痒くなるような題目だが。
「幸せ者ね、色男」
「色男はやめてくれ」
溜息を吐く□□。対照的に永琳は楽しそうだ。
「なんで、俺なんかを……って、前に輝夜に聞いたんだけど」
「そうらしいわね、姫が言ってたから」
そんなことを他人に話さないで欲しいと□□は思ったが、後の祭りである。
「結局『優しい』とか『面白そう』とか、そんな大雑把な理由で、良く分からなかったよ」
「……そういう感情を具体的な言葉にするのは、本当に難しいことよ」
それは□□にも分からないでも無かったが、やはり完全に納得できるかと言えば、やはりそうでも無かった。
「ただ、一月もあれば十分だったのでしょう、あなたの魅力に気付くには。
ウドンゲは特に、あの日、宴の場であなたの優しさに触れて、それからあなたへの想いを積み重ねていったようだし」
――世の中、本当にそういう些細なことが連続して、積み重なってできてるんだよ――
□□はそのような記述を、何かしらの本で読んだ覚えがあった。
「永琳さん、下賤な地上人を買い被り過ぎ」
「あなたは下賤ではない地上人だもの。正当な評価よ」
□□は、『地上人全てが下賤だと思っている彼女に、あなたの存在は応えた筈』と輝夜に言われたことを思い出した。
自分は決して良い人間ではないと思っている□□にとって、あまりに過ぎた言葉ではあるが。
その言葉をくれた人とその言葉に挙げられた兎はどうなったのか、と□□が二人を見ると、
どちらの接吻が上手いかで決着を付けよう、ということで話がまとまったところだった。
「いやいや、どういう決め方だ」
「これなら堅物のあなたでも納得するわよね、イナバ」
「経験の無い姫が負けるのは目に見えていますけどね」
「話を聞け。永琳さんもちょっと言って……」
□□が永琳から目を離した数秒の間に、彼女の姿は隣から消え去っていた。
邪魔になるまいと去ったのか、巻き込まれまいと逃げたのか。きっと、どちらの理由も正しい。
□□は、まな板の上の鯉はこんな気持ちなのだろうかと、軽く現実逃避を始めていた。
そんな状態の彼が最後に覚えていたのは、「好き」という言葉と、重ねられた唇の甘美な感触だけだった。
――――
「あ、そういえば」
夕食の場で、輝夜が思い出したように言う。何事かと三人は輝夜に視線を集めた。
「イナバと言い合っていて、初めて気が付いたのだけれど……」
顔を赤らめる輝夜と、その反応を見てなんとなく察する永琳と鈴仙。□□には何のことだかさっぱりであった。
「私、□□のことが、好きみたい」
お茶を吹き出しそうになる□□。しかし永琳と鈴仙の反応は淡白なものであった。
「……とっくに、知ってるわ」
「知らなかったのは、一人だけです」
「……ええっ!?」
予想外だったのか、驚く輝夜。□□はお茶を無理矢理口内に押し戻している。
「はぁ……姫、僭越ながら申し上げさせて頂きます」
「な……なに? イナバ……」
普段とは違う鈴仙の瀟洒な態度に戸惑う輝夜。
「あなたが彼に想いを寄せている事を承知の上で、私はあなたを恋敵と認め、あの方法を提案したのですよ」
「こ……恋、敵……」
ぼんっという擬音が聞こえてきそうなくらい茹で上がる輝夜。
「私が、彼の事を好きでもない者を、彼を心から愛する私と比肩するなどと、認めると御思いなのですか」
言い終わった鈴仙の顔がみるみる赤く染まっていく。彼女がこれだけこっ恥ずかしいことを堂々と言える様になったのは
誰の所為であろう、と永琳がその当人を見る。お茶が気管に入ったらしく、ひどくむせていた。全く様にならない。
「い、イナバ……言う様になったじゃない」
「ふてぶてしいと思われるなら、それはあなたや師匠から教わったものでしょう」
「あら、私も巻き込まれるのね……でも、確かにそうかも」
輝夜が鈴仙を見つめる。不敵な笑みすら浮かべようともしない、真剣な表情で。
「……あなたのお陰で……私は、自分の気持ちに気付いた」
「それは何よりです」
「感謝はするわ。けれど……手加減なんてしないからね」
「お互い様です。相手が姫だからといって、遠慮はしません」
ふと思いついたように輝夜が言う。
「そういえば……狂気の瞳を使えば、彼だって思いのままよね?」
「何を仰っているのやら。そんな偽りの想いに、如何程の意味が?」
「……これは、手強いわね」
「ふふっ……私が欲しいのは、彼の純粋な想いですから」
破顔する二人。既に傍観者と化していた永琳が、ようやく呼吸を整えた□□に尋ねる。
「……それで、どちらにするの?」
「……今すぐ決められる程、尻は軽くないつもりだよ」
「それは、ずっとここに居る、という意味で受け取っていいのかしら?」
永琳から顔を背ける□□。
「……今更二人を放って、帰りたいなんて言わない」
「あら、いい心構えね。あの二人の目に狂いは無かったみたい」
「さあ、どうだか」
微笑んでいた永琳だったが、急にその表情を厳しいものに変える。
「ただ……」
「……ただ?」
「どちらを選んでも構わないけれど……今は二人とも、大事にしてあげて」
永琳は二人とも、という言葉を強調して言った。
「……公然と二股しろってこと?」
「………………」
本当は、□□は永琳の言葉にもっと深い何かがある様に感じていた。
鈴仙が何かの理由で人間不信になってしまったのと同様に、輝夜も過去に何かがあったのだろう。
『大事にする』とは、そういうものも全てひっくるめて愛してやる、ということだと思えていた。
「……なるべく、善処する。平等に愛するって、俺は聖職者でも無いから難しいと思うけど」
「そうね……私も無理を言っていると思うわ」
永琳が憂いを帯びた目で□□を見つめる。□□も何となしにそれを見つめ返したのだが。
「あ、永琳がいい雰囲気に……さては漁夫の利を狙ってるわね?」
「駄目ですよ師匠。□□は私のものです」
「何言ってるの、私のよ」
二人の心配もそっちのけで、また言い争う輝夜と鈴仙。それに呆然とする□□と永琳。
□□は少し笑った後、その二人を想うばかりに生じたしがらみを払拭したのか、ぱっと明るい表情になった。
「……俺は、かなり好きだ。二人が……」
その言葉に、永琳も顔を綻ばせる。
「……なら、きっと大丈夫よね」
□□と永琳、二人して笑い合う。輝夜と鈴仙がそんな光景を妬ましいと思ったのは言うまでも無い。
――――
「一夫多妻も良いかもしれないわね」
「永琳さん、無茶苦茶だな……」
「でも、嬉しくない? あなたを愛してくれる妻が三人もいたら」
「……そりゃ、嬉しいかもしれないけど……」
「でしょう?」
「……聞き間違い?」
「そうかもね」
なんという終わり方、これは間違いなく中途半端。
うpろだ1369、1401
───────────────────────────────────────────────────────────
外来人の男三人が、とある屋台で酒を飲み交わしていた。
△△「俺はよ、紅魔館で働かせてもらってるけどよぉ…マジ辛いんだわ」
○○「執事だっけ、妖精メイドとかも沢山いるし楽だとか前に言って無かったか?」
△△「それがよ…妖精メイドは全然働かないんだ、咲夜さんは厳しいし全然フラグなんか立たねぇし、ヘトヘトになって漸く寝られるって時間になると、お嬢様の起床時間だろ?つまり俺=食事OK?」
○○「心身ともにボロボロか」
△△「…運が悪いと妹様に鉢合わせ、死亡フラグがバリ3って状況にもなる」
○○「それは恐ろしいな」
△△「最近なんか咲夜さん、俺が一般ピーポーだって忘れてるのか、本気でナイフが飛んでくる事もあるんだ…
マジで命がいくつあっても足りないよ……ちゅうg……いや、美鈴さんの凄さが改めてよく分かる。
居眠りしたら、ほぼ十割の確率でナイフ地獄の仕置きされるのに爆睡できるんだろうか、マジ尊敬」
○○「ほぼ十割って、それ100%やん」
■■「△△、お前はまだましだ」
○○「静かだと思ったら生きていたか」
■■「勝手に殺すな!」
△△「■■、どういうことだ?」
■■「いいか良く聞け、俺は永遠亭で世話になってる身だ」
○○「△△より優遇されてるんじゃないのか?」
■■「否!断じて否!外をあるけば悪戯兎の罠にかかり、内にいれば姫様の相手役」
△△「相手役のどこが不満なんだ!」
■■「あのなぁ…カリスマブレイク中の姫様の相手役は大変なんだぞ、そりゃもう対戦ゲームすりゃ一方的にフルボッコ、ネトゲーすれば24時間フルタイムで効率重視の狩りにつれてかれる、ちょっとでもミスすると殴られる…」
△△「命の危険性が無ぇじゃねぇか!」
■■「ふん、手が空けば永琳さんの実験台にされるんだぜ?」
△△「…」
○○「…」
■■「気がついたらベットの上で「あら、今回は2日で目が覚めたみたいね」とか言われてみ?」
△△「お互い…苦労してるな…」
■■「ああ、最初の頃に「フラグゲットできるかも?うぇうぇうぇww」とか言ってた自分を殺したいぜ」
○○「た、大変だな…お前ら」
△△「…」
■■「…」
○○「…」
△△「そういえば○○は博麗神社に住んでるんだったよな…」
■■「随分…元気そうじゃないか」
○○「……ば、ばかっ!こ、こうみえても俺も結構、苦労してるぜ?うん」
△△「ほぅ、たとえば?」
○○「ぇ、あー、そう!霊夢が最近全然掃除しない!俺ばっかりやらせる!」
△△「…」
■■「…」
○○「食事も全部俺だし、朝起こすのも俺だし…えーっと」
霊夢「ちょっと○○!こんな所でなにやってんの!
いつまでも帰ってこないんだもん心配しちゃ…じゃない、夕飯の準備しなさいよ!」
魔理沙「よう○○!今から私と夜空の散歩に行こうぜ!」
○○「げぇ!お前らいつの間に!」
霊夢「…魔理沙、悪いけど○○はこれから私と帰る所なの、一人で何処かに飛んでいきなさい」
魔理沙「…それは○○が決める事だぜ、そうだろう?○○」
○○「ちょ、待て待て俺は今友人と酒を飲んでてだな……あれ?お前らどこ行くんだ、おーい」
△△「○○、今日からお前とは他人、いや敵だ」
■■「俺達を裏切ったな…くそっくそっくそっ!」
「○○は私の嫁だぜ「なに馬鹿なこと言ってるの博麗神社に婿入りに「ちょ、お前ら落ちつ「マスタースパーク!「夢想封印!「ちょやめギャー「○○ 今助けるぜっ!「私が助けるに決まってるでしょ!!!」」」」」」」」
△△「…酷く裏切られたな…」
■■「ああ…もう○○とは顔を合わすこともないだろう」
△△「死ねばいいのに…」
てゐ「おーい■■、こんな所にいたの、心配したよー」
■■「え?」
鈴仙「師匠も今回のこと反省してますから、家出なんて止めて帰ってきましょう?」
てゐ「姫も寂しがっていたよ、……わ、私もあんたがいないと悪戯できないし…ね?」
■■「…うん」
△△「■■!お前もか!
仲良く手繋いで帰るんじゃねーよ!バーカバーカ!羨ましくなんかないぜちくしょう!うぇーん」
レミリア「△△…ここにいたの」
△△「ぐしっ、…へ?」
レミリア「ダメじゃない紅魔館から勝手にいなくなっちゃ…あなたは私の物って言ったでしょ」
△△「うう、血が目的なんでしょう?分かってますよ帰ります、帰ればいいんでしょ」
レミリア「△△……そう、やっぱり辛かったのね。いいわ今日から血は吸わない、だから傍にいなさい」
△△「うぇ?ど、どういうことでしょう?」
レミリア「べ、別に貴方の事が大事とか、そういう意味じゃないわよ!
パチェも最近心配してたし、咲夜もやりすぎたって反省してただけだもん」
△△「…」
レミリア「と、とにかく、行くわよ?」
△△「あ…はい」
××「結局あいつら全員恵まれてるって事だろ?」
ミスティア「隣の芝は青いって奴ですよ~♪ あ、それ焼けてます」
××「あいよ、っと。てかさ、一応おれもあいつらと同期にこっち来た外来人の一人なんだけどなぁ…」
ミスティア「あはは、××はすぐに私と一緒に屋台やるようになったし、忘れてるんじゃないのかな♪」
××「あいつら全員結局ハーレムって奴だろ?やれやれだ」
ミスティア「むむ、まさか××…ハーレム願望ないでしょうね?私って嫁貰っておきながらぁ~」
××「いやいや無いよ、俺はお前さえいれば最高に幸せだからな!」
ミスティア「あ、あはははは、もうっ!うりうりっ♪」
××「やめろって~仕事中だろ~うりゃうりゃ♪」
慧音「すまないが自重してくれないか?砂糖がいくらあっても足りん」
××&ミスティア「「あ」」
うpろだ1411
───────────────────────────────────────────────────────────
今日も、とある屋台の前で愚痴をこぼす男達がいた。
●●「ちくしょう…聞いてくれよ…ひでーんだよ」
□□「呑みすぎだ●●」
▲▲「分かった分かった、聞いてやるから話せ」
●●「俺さ、外にいるとき飲食店で仕事してたから白玉楼で働くことになったじゃんか?」
□□「ああ、お前の作る料理は上手いな、今度作れ」
●●「いやだ。でさ料理するのは好きだから、渡りに船かなって思ったけどさ…」
▲▲「華麗にスルーされてるな、□□」
●●「作る量が半端じゃねーーーんだよ!!」
▲▲「落ち着けって、どうどうどう」
●●「なんだよ朝食50人前って!昼飯70人前!おやつに30人前!夕食100人前!夜食に50人前!俺死ぬよ!」
▲▲「…」
□□「…」
●●「最初の頃はさ、幽々子様も一食ごとに2~3人前だったのに、一月でこんなんどうなってんだよ!」
□□「あー、俺が悪かった」
▲▲「なんでそんな事に…」
●●「おかげで妖夢も虚ろな笑いで刀を振り回してるし…倉の金品もみんな質に流れて食材補給もままならない…」
□□「つまり肉体労働地獄ってことか…」
●●「しかも「貴方の料理なら永遠に食べ続けたい」とか、これ以上食べる量増やすつもりだろコレ!」
▲▲「…微妙にのろけか?しかし内容が狂ってるな…」
●●「ちくしょう…俺か?俺が悪いのか?妖夢…ごめんよ…うう」
▲▲「…ねちったな」
□□「まぁ確かに同情できるけどな…俺ん所は命かかってるから、なんとなくそんなもんかって思っちまう」
▲▲「□□はたしか…神隠し主犯の所だったな」
□□「おう、マヨヒガだ…」
▲▲「お前は特殊だったっけ?」
□□「紫さんに直接拉致られたからなぁ…」
▲▲「そこらへん詳しく聞いてなかったな」
□□「う…話したくねぇ」
▲▲「んー、まさか食われそうになったとか?食事の意味で…」
□□「いや、お前と違っていきなりルーミア遭遇みたいなピンチ的なノリじゃなかった」
▲▲「むぅ…わからんな」
□□「…他言すんなよ?」
▲▲「んー、了解」
□□「一目ぼれだそうだ」
▲▲「ブッ!」
□□「うわっ、きたねーな、酒飛ばすなよっ!」
▲▲「お、おおお、おまっ、お前!なんだよそれ!聞いてねぇ!」
□□「そりゃ話してないしな」
▲▲「…えっと、なんで命かかってるんだ?ラッキーでしょそれ、羨ましいな」
□□「あのな…惚れたのか、何故か橙なんだよ…」
▲▲「…?予想外だったが、それがどうかしたのか?」
□□「紫さんの気まぐれで橙のお願いって奴、聞いちゃったわけだ」
▲▲「ふむふむ」
□□「橙は確かに可愛い、が、俺はロリじゃない」
▲▲「…のろけか?」
□□「睨むなって。しかしだ、恐ろしいのは藍さんなんだ」
▲▲「納得把握」
□□「もう毎日毎日橙は布団に忍び込む、藍さん鬼と化す、紫さんはニヤニヤしながら藍さん煽る…」
▲▲「あー、現状が目に浮かんだ。イキロ」
□□「うがーーー!神はどこにいるんだ!」
▲▲「…ん、うちの下宿先…かな」
□□「…ハッ!そうだった▲▲!守矢神社だったな!頼む!これぞ神頼み!」
早苗「▲▲さん、こんな所でなにしてるんですか?夕方まで戻らないから迎えに来ましたよ?」
諏訪子「おーい▲▲!今日は湯豆腐だぞー!かえろ~♪」
▲▲「お、湯豆腐!今かえる~!」
□□「ちょ!なにイキナリ新婚夫婦的な雰囲気だしてんだ!ってそう!そこの神様!」
早苗「え?あ、はい、はじめまして守矢神社の巫女の東風谷 早苗です、うちの▲▲がお世話になってます」
□□「いやいや、何度か会ってますから!そんなことはともかく!かくかくしかじかで助けて下さい!」
早苗「…無理ですねぇ」
諏訪子「…んー私も神奈子でも無理だね、それ」
□□「ガッテム!神は死んだ!」
早苗「む!失礼な!生きてます!」
▲▲「まぁ頑張って生きろ!じゃね!ばいばい」
諏訪子「▲▲!おんぶして、おんぶ♪」
▲▲「わっ、とと、いきなりとびかかるなよ」
早苗「…む~ずるい」
▲▲「え、なにか言った早苗さん?」
早苗「ふんっだ、べー」
……
□□「不公平だ…」
●●「まったくだ…地獄に落ちろ」
□□「うおっ、いつ起きたんだ?」
●●「ついさっき…湯豆腐って単語で目が覚めた」
□□「…筋金入りの料理人だな、お前」
●●「…うー帰りたくない」
□□「そうか…お互い辛い身の上だ、今日は朝まで飲もうか!」
●●「そうだな…」
妖夢「●~~●~~さ~~ん!」
□□「うお!遠くから妖夢がスゴイ速さで●●の所まで飛んできたと思ったら既に抱きついていた、何をい(ry」
●●「なんつー身も蓋もない説明ありがたう。とにかくどうした妖夢?」
妖夢「出て行かないで下さい●●さん!●●がいなくなったら私…私…うううう」
●●「よ、妖夢…そうか、一人にさせてすまなかった…」
□□「そこ、抱き合うな、見つめあうな、ピンクオーラ漂わすな、殺すぞ畜生」
妖夢「幽々子さまが「ごめんなさい、私は幽体だから貴方の身体のこと考えるのを忘れていたわ」って反省してくださいましたからっ!もう、もうあの料理地獄から開放されるんです!だから帰ってきてぐだざい~」
●●「そうかそうか、ほら妖夢鼻水でてる、かんでかんで、はいチーン」
□□「俺はスルーですか、蚊帳の外ですか、この世の全て呪われろ」
□□「てやんでぇい、べらぼうめぇ~うぃ~、ヒック」
藍「古典的な酔い方だな」
□□「ん~あれあれ?藍さんじゃございませんこと~」
藍「やれやれ、いつまでも戻ってこないから心配してくれば、こんなところで泥酔いとはな」
□□「け~っだ、な~にがしんぱいだぁ~どうせ本心では邪魔で、いなくなれって思ってるんでしょうが」
藍「…ふむ、酔えば本音も出る、と言った所か…」
□□「迎えに池って橙に言われたんですかぁ~?大体なんで俺なんだよわけわかんないよ~」
藍「橙は関係ない、私が心配したから迎えに来た、では信じられないか?」
□□「…うそですねー、ぜったいうそだー」
藍「はぁ…これでも私はお前のことを買ってるんだぞ?」
□□「…ふーん、じゃあ聞きますがドコとか~?」
藍「…ん、その…すごく見た目や口調に反して実は凄く優しい所とか…」
□□「…え!?(いきなり酔いがさめた)」
藍「ゆ、紫さまも□□の事を大変好ましく思ってらっしゃる…わ、私も…ってなに言ってるんだ私は!?」
□□「ぽか~ん(真っ赤になって…な、なんか、か、かわいい)」
藍「とにかく!か、かえるぞ!今日は沢山お稲荷さん作ったんだからな、食べてもらうぞ!」
□□「わ、わかった…」
××「いやー、今日も面白いもんが見れたねぇ~」
ミスティア「外来人ってなんかフェロモンでもでてるんですか?」
××「んー、いや違うと思うよ?」
ミスティア「むむ、でも私も出会ってすぐに××さんへ恋に落ちちゃったし…説明がつかないです」
××「たぶん特定の外来人だけに備わってる能力だと思うけどなぁ…」
ミスティア「のうりょく?」
××「うん、嫁とイチャつく程度の能力!ほっぺぷにぷに~」
ミスティア「あん!もーまだ仕事中ですよ♪お返しだぁ~ぷにぷにぷに~」
文「…あの~そろそろいいですか?」
××「うおっいつの間に」
文「さっきからいました、で今日はなにか面白いネタありましたか?」
××「おお、あったあった、とっておきの奴がな!」
文「やった!毎度お世話になります♪」
ミスティア「八目鰻も一緒にいかがですか~♪」
文「ふむふむ、これは良いネタです!奮発して買っていきますね!」
××&ミスティア「まいどありぃ~♪」
うpろだ1415
───────────────────────────────────────────────────────────
旧地獄とはいえ、元々罪人を苦しめるために選ばれた場所である。
環境は決して人間に向いているとは言えない。
……しかし、何だかんだと適応してしまうのが人間のいいところだ。一言で済ませば「住めば都」である。
幸い、地上では酒造りをしていたため皆に快く受け入れられている。
芸は身を助けるのだ。
そんな俺は、ここで酒屋兼居酒屋を営んでいた。
今日も仕込みをしていると、カランと鐘の音と共に威勢のよい声がした
「すいません、まだ開店前……て、勇義さんじゃないですか」
よく見ると、服も少し破れている。荒事だろうか?
そのわりに、彼女は非常に上機嫌に見える。
「あぁ、ちょっと上からやってきた奴とやり合ってね。なかなか手応えが合って楽しかったんだよ」
なるほど、それは上機嫌に違いない。
「それはお楽しみでしたね。とりあえず注文はいつもので?」
少し早い時間だけれど、まぁいつもどおりだ。
「あぁ、頼むよ」
御通しといつもの酒を手早く並べ、串焼きを焼き始める
「……人間はおもしろいな。鬼が失望して見限るほど愚かかと思えば、今日みたいにおもしろい奴もいる」
「ははっ、やっぱり勇義さんはお酒も人も強いのがお好みのようで」
その言葉を否定するように、ゆっくりと角を左右に振ると小さく呟くように
「弱くても、好きな場合だってあるよ」
と歯切れ悪く話した。
たまには風味や香を愉しむ酒が呑みたいのだろうか。
「はい、いつもの串焼きですよ」
「お、やっと焼けたか。早く……ん?この徳利は?」
「度数は低いですが、味は保障しますよ。サービスですからどうぞ。」
秘蔵の酒である。
酒は眠らせておいたらただの液体でしかない。呑まれてこそ酒の本懐を果たすことになる。
どうせなら、違いのわかる鬼に呑まれたほうが酒も嬉しいだろう。
「おまえなぁ……」
喜ぶかと思ったのだが、逆に不機嫌そうに……いや怒りを押さえ込んだような声で眉をひそめた。
射抜くような鋭い目つき。あの正直者の鬼が感情を押し殺す状況なんて、どう好意的に考えても危険である。
「勇義さんすいません…すぐに強いお酒をお持ちしますので…」
謝罪と共に、そのお酒を下げようとすると荒々しく胸倉を掴まれた。
「ふざけるなっ!本当に気付いてないのか!?私が好きだといってるのはな・・・○――」
「あぁ妬ましい妬ましいわ。いつも二人は楽しそうで妬ましい」
カランカラン……
またいつもの客だ。
勇義さんはは驚いてバツが悪そうに座りなおした。
今日は水橋さんに感謝しなければならない。命の恩人として。
「あれ?水橋さんも怪我されてますね。どうしましたか?」
そう、彼女も同じように交戦の後のようだ。
旧地獄に何か異変でもあったのだろうか?
「楽しそうに地底に降りる人間の女の子がいたから」
なるほど。妬ましいからちょっかいをかけたのか。彼女らしい行動だ。
「はは、それはそれは。あぁそうそう。水橋さんにぴったりのお酒があるんですよ」
古典落語に出てくる『夢の酒』だ。若旦那が夢で見た美女に、妻が嫉妬するという内容である。
このお酒を飲めば、美しい異性と夢の中で仲良くできるという素敵なお酒だ。
妬むばかりではなく、たまには妬まれるぐらいいい目にあってもいいだろう。
……まぁ、夢の中だけれど。
「おお、いい酒なのかい?一口ぐらい分けてくれるよな?」
勇義さんは、水橋さんが呑む前から呑む気万端である。
「まぁ、一口ぐらいならいいけど」
ちなみに、味は保障できる。水橋さんに用意したのに、勇義さんが全部飲んでしまわないことを祈ろう。
鬼の一口は洒落にならない。
酒で盛り上がる二人を尻目に、水橋さんの分のお通しを作ってしまおう。
「それにしても本当に妬ましいわ。開店前から呑めるなんて……私は開店してからって追い返されるのに」
「変な奴が店で暴れたら、摘み出すからね。護衛料みたいなもんさ。」
「理由があっても、彼から特別扱いうけていることに変わりはないわ。あぁ妬ましい妬ましい」
「今日は開店前じゃないか。開店前仲間だ仲間」
女性同士の会話は正直掴みきれない。
まぁ、愉しんでいるのだろう。
「はい、つまみにどうぞ」
手早く作ったおつまみをテーブルに置き、今度は正式に開店する。
ちらほらと馴染みの客がテーブルを埋めて行き、忙しくなってきたところでざわざわと一際大きなどよめきが起きた。
「あれ?黒谷さんにキスメさん、どうしたんですかそんなボロボロで?」
今日は怪我人が多い。そういう日なのだろうか。
「怪我してたってここには来るよ。まぁ、変な人間と遊んでねぇ。変な人間と遊ぶのは楽しいものだよ」
変な人間には、俺も含まれているのだろうか?
まぁ旧地獄に馴染んでしまった人間は変な人間だろう。あいにく弾幕はできないが。
キスメさんは、いつもどおりこちらを上目遣いでちらちら見ながら呑んでいる。彼女も交戦したようだ。
いつも気弱な彼女が、人間と戦う場面なんてあまり想像ができないのだが……
そんな、ちょっと怪我人が多いだけのいつもの営業だった。
楽しげに笑いあう声が響く、陽気な地底。
「すこし宜しいかしら?」
地霊殿の主、古明地さとりが店に顔を出すまでは。
「あぁ、珍しい顔だものね。営業の妨害で困るでしょうけど別に長居はしないわ。」
珍しい人が来たものだ。俺は別に嫌っていないが、嫌うお客さんが多いからすこし困るな……って読まれてるなぁ
「地霊殿に――」
「発注したお酒はきちんと届いているから安心していいわよ。○○に不備がある訳じゃないわ。」
あぁ、よかった。商売上のミスじゃなかったらしい。それなら何故?
「地上で行う宴会に招待よ。こちらもお酒と料理を持ち込むのでその発注。それに――」
疑惑と困惑が入り混じった視線が、小さな嫌われ者の主に注がれる。
「――お空にお燐が参加するわ。ついていきたい人はついていきなさい。」
どよめきが店を支配する。
「なぁ一つ聞いていいかい?」
勇義さんが声をかけると、どよめきがさっと引いた。
流石は地底のカリスマである。
「それと、さっき地霊殿に殴りこんだ人間と関係があるのかい?」
さとりさんは、不敵な笑みを浮かべると「えぇ、そうよ」とだけ答えた。
「よっし!私は行くぞ! どうだみんな!たまには月でも眺めに行こうじゃないか」
嫌われ者の提案ではなく、カリスマの提案になった地上行きはあっさり総意を纏め上げた。
料理とお酒のために、俺も行くことは決定だ。
「ところで星熊さん。あなた○○に惚――」
ドスッ
「おや?どうやら古明地さんは戦いの負傷で休養が必要みたいだ。ちょっと地霊殿に届けてくるよ」
今、鳩尾に拳を叩き込んだように見えたけど……まぁ戦いだったのだろう。たぶん。
鬼は嘘をつかない。
久しぶりの地上だ。あいつらは元気だろうか――
さて、どのルートに進むべきだろうか…
1姐さんルート
2パルパルート
3ヤマメルート
4キスメルート
5地上ルート
6地霊殿後半組
うpろだ1507
───────────────────────────────────────────────────────────
ここは⑨と皆に親しまれる、お馬鹿な氷精のテリトリーである湖。
通称紅魔湖と呼ばれるその畔で二人の妖精が一人の男を挟んで言い争いをしていた。
原因は見事に倒れ付しているこの男。外出身の彼の名は○○という。
「チルノちゃん! あれほどLuna弾幕は駄目だって言ったじゃない!」
「大ちゃんは細かい事気にしすぎなのよ。○○だから大丈夫に決まってるじゃない」
大ちゃんと呼ばれた緑髪の妖精が指差す先にある物。それは直径1mはあろうかという特大の氷塊。
そう、彼はその直撃を受けたのだ。
日頃馬鹿と呼ばれていてもその力は本物。
軽く本気を出せば個の種として脆弱極まりない人間などひとたまりも無い。
にも係わらず今も尚彼の息があるのは生来の頑丈さ故か、はたまた慣れか。
「○○さんは私たちと違って人間なの。取り返しのつかない事になったらどうするの?」
「紅白だって白黒だって人間じゃない!」
「……○○さんは普通の人なの。あの人達みたいに頑丈でも強くもないの。チルノちゃんも分かってるでしょう?」
「○○さん○○さんって……大ちゃんはそんなに○○の事が大事なの!?」
互いに悲しそうな目をする両者。
片方は過度に人間を庇う同胞に。そしてもう片方は友人を大切にしない同胞に
「チルノちゃん……当たり前でしょ? ○○さんは友達なのよ……?」
「あたいだって大ちゃんの友達だもん! なんでたかが人間の○○ばっかり!」
「ッ! チルノちゃん! それ以上言ったら本気で怒るわよ!」
聞き分けの無いチルノに苛立ち、滅多にしない強い物言いをしてしまった事に気づくものの、こればかりは大妖精も退く事は出来なかった。
チルノもまた○○と同様に大事な友達なのだから。
ただ、それが相手に伝わるかは別の話であり、半ベソ、決壊寸前のチルノがそこにいた。
「うるさいうるさい! 大ちゃんの馬鹿ー!」
「あ、待ちなさいチルノちゃん!」
静止を振り切って泣きながらどこかへ飛び去ってしまうチルノ。
馬鹿にされるのは慣れていても、叱られる事には慣れていない彼女に保護者的存在である大妖精の本気の怒りは少々灸が強すぎたのだ。
「……もう、仕方ないんだから……」
保護者的存在とはいえども、大妖精自体の力はチルノに劣る。
今追っても追いつく事は出来ないだろう。
溜息交じりのその声は、静かに空に溶けていった……。
(……だ、大丈夫ですよね?)
考えたくは無いけれど、万が一という事を考えて○○さんの様子を伺ってみる。
……よし大丈夫。気を失ってるだけ。
ちゃんと呼吸もしてるし、苦しそうにしてる感じもしない。
この分ならすぐに目を覚ましてくれる筈。血も出てないし。
「……えへへ。不謹慎だけど、ちょっとだけチルノちゃんに感謝かな?」
大事には至らない、と分かり安心した私ははにかみながら○○さんの頭を膝に乗せる。
頬を撫でる風は少しばかり涼しくなってきて、確かな冬の到来を感じさせるもの。
そう遠くない内にレティさんと会う事もあるだろう。
寒いのも暑いのもあまり好きではないらしい○○さんには辛い季節ですけどね。
それにしても……。
(チルノちゃんがいないからかしら。なんだか凄く静か……)
人の気配も妖精の気配も無く、ただただ自然が私たちを優しく包み込む。
そんな誰の邪魔もなく落ち着いた空気の中、ふと○○さんの頭を撫でてみた。
――さわ、さわり。
男の人らしくちょっと硬い髪の毛だけど、それがなんだか手に心地いい。
なんだか○○さんのいい人にでもなったかのような錯覚に陥ってしまい、ついつい頬が緩んでしまう。
(いつもは私ばっかり頭撫でられてますからね。結構恥ずかしかったりするんですよ?
い、嫌なわけじゃないんですよ? むしろ嬉しいです。でも……)
何故か私が頭を撫でようとすると全力で嫌がるのだ、この人は。
私の事を嫌っている訳じゃないというのは分かるのだけど、あそこまで過激に反応されるとちょっと傷つく。
(へるめっと、とかいう硬い帽子を被られた時は泣きたくなったなあ)
だからこそ、この機会を無駄にしないようにしないと。
そう想いを乗せて彼を労わる様に。慈しむ様に。壊れ物を扱うように。
私は手のひらで○○さんを堪能する。
(……♪)
愛する人と一緒にいられる事が幸せというのならば。
今、この瞬間において。
私は間違いなく世界で一番幸せだった。
○○を堪能する事10分程。
いきなりその幼さの残る顔を赤く染め、周囲を見渡しだした大妖精。
(い、今誰も見てませんよね……?)
(ひょっとして、キ、キスとか出来ちゃったり……)
緊張からかピンと張る両翼。いよいよ耳の先までピンクに染まる顔。
少しずつ近づいていく唇と唇。……普通にキスする気満々な彼女を止めるものは誰もいない。
――30cm。
――20。
――10。
――5。
――1。
そして、影が、一つに――。
「……んん?」
「~~~~~!?」
後数ミリ、というまさにギリギリの所で唸る○○。
そして天狗もかくや、という速度で頭を上げる大妖精。
恐ろしいまでのお約束っぷりと反応速度だった。
「あ、気づいたんですね。……大丈夫ですか?」
無事に目が覚めた○○に顔で笑って心で泣いて。
らしくない事をしようとしていた事に自己嫌悪に軽く陥りながらも千載一遇の機を逃したことは残念に思っていたりいなかったり。
「…………」
「○○さん、どうしたんです? まだ頭が痛むんですか?」
呆然と返答のない○○に心配そうに尋ねる。
幸いにも血は出ていなかったが、結構大きなコブが出来ていたのだ。
「頭? ……ああ、なんか痛いけどそんな事より」
「はい、どうしました?」
「……えっと……ごめん。君は、どちら様? ついでに俺は誰?」
「…………え゛?」
彼女が思う以上に自体は深刻だったらしい。
膝の上で愛想笑いを浮かべながらもまっすぐな目で問いかける○○。
その言葉からは冗談の気配など全く無く。
大妖精の目から光が消え失せた。
ついでに烏が一声鳴いて飛び立った。
――○○が記憶喪失になったようです。前編
突然だが頭が痛い。凄く痛い。
見知らぬ土地で目が覚めて30分。今も尚鈍い痛みを訴える頭を擦る俺の傍らには、なんか笑えないくらいデカイ氷の塊がすぐ側にある。
何故か知らないがこれを見ていると頭痛が激しくなる気がする。
これはつまりこの当たったら死にそうな物体が俺の頭に直撃したって事か? ……俺よく生きてたな。
そして俺が自分やそれに関係する事を何も思い出せないのも、これが原因なのだろう。
さて、
――ちょっとここで待っていてください○○さん。チルノちゃん連れてきますから。
そう言ってどこかへ行ってしまった女の子の言葉を信じるのなら、俺の名前は○○というらしい。
……○○ねえ。
なんかイマイチピンと来ないな。記憶喪失だし当たり前っちゃ当たり前だが。
しかしどうしよう。このままだと俺はきっと……あれ? どうなるんだ?
なーんにも覚えてないんだよな。自分の名前すらはっきりしないんだから当たり前か。
余りにも覚えて無さすぎで悲しいとも思えん。
「○○じゃない。どうしたの? こんな所でボーっとしちゃって」
不意にかけられた声に振り返る。
「おー、メイドさんだ」
しかも銀髪
俺初めて見たよ。……記憶無いから当たり前だけど。
しかし○○、ね。やっぱり俺は○○なのか?
「どうしたの?」
「いやなに、聞いて驚け。なんか俺って記憶喪失らしい。ちなみにレベルで言うと自分の名前を教えられても全く自身が持てない」
「悲しいくらいに笑えない冗談ね。減点3」
「いやいや本当に。そっちは俺の事知ってるみたいだけど……メイドさん、なんか俺の事について知らないか? ついでにここどこ?」
「……本当に記憶喪失なの? 今更冗談とか言ったら本気で怒るわよ」
「だからそう言ってるだろうに。何か知ってる事無いか?」
「……そんな……」
どことなく悲しげなその表情に心が痛むが、生憎今の俺にはどうしようも出来ない。
出来る事といえば、少しでも情報を集めて記憶を取り戻す手伝いをしてもらうくらいだ。
「……仕方ないわね。いいわ、私が知っている事を教えてあげる」
「助かる。見知らぬメイドさん」
かくして俺とメイドさんの二人っきりの野外授業が幕を開ける事となる。
……なんか響きがエロいな。
「貴方の名前は○○」
「らしいな。正直覚えがないが」
「貴方はこの近所で暮らしてるわ」
「ふむふむ」
「私の名前は十六夜咲夜。種族は貴方と同じく人間」
「十六夜咲夜さん、ね。人間ってのは見りゃ分かる」
「あら、気を抜いちゃ駄目よ? ここは幻想郷っていって妖精やら妖怪やら亡霊やらがひしめいてる場所なんだから」
「……意外に怖い場所なのな」
「そうよ。それに人にそっくりな外見を持った奴も少なくないから。特に夜は気をつけなさい」
「把握した」
「ああそうそう、この場所だけどここは私が働いてる場所の近場の湖。紅魔湖と人は呼ぶわ」
「やっぱり働いてるのか。メイドさんだもんな」
「お給料出ないんだけどね」
「…………」
大体こんな感じで授業は進んでいった。
全然記憶の琴線に引っかからないあたり割と本気でヤバイと思わなくもないが、まあそんなもんだろう。
「最後に……貴方と私の関係だけど」
「うん」
「恋人よ」
「……マジで?」
「大マジよ。そりゃあもう周囲から妬まれるほどお似合いの恋人だったわ」
「……そうか、そりゃすまん事をした。恋人から名を聞かれるのは結構辛いよな」
「ふふっ、気にしないで。そうやって○○が私を気遣ってくれるだけでも嬉しいから」
俺の手を握り、ふわりと微笑む俺の恋人。
暖かい優しさが記憶を無くして孤独の中不安な俺の心に染みるよ……。
「十六夜さん、その……」
「駄目よ。咲夜って呼んで?」
「了解、咲夜……」
「○○……」
潤む瞳。絡み合う視線。言葉はいらないとばかりに近づく二人。
そして俺の視界端から凄まじい速度で飛来する何か。
……いやちょっと待て。なんだあれ?
「そこの二人ちょーっと待ったあああああああああああ!!!!!」
ズザーと地面にブレーキ痕を残しながら現れたのは……魔女っ子だった。
おおう。三次の魔女っ子とかこれまたメイドさん以上にレアな物にお目にかかってしまった。
「おい咲夜! 何自分の都合のいいように嘘を教えてる! 仕舞いにゃマスタースパークで吹き飛ばすぞ!」
「……ちっ。早速お邪魔虫が沸いたわね。○○、続きはこの白黒を片付けてから、ね?」
「ぬわぁーにがお邪魔虫だ! 見てろよ○○!
記憶が無いのをいい事に既成事実を作ろうとする不埒なメイドからこの私がお前を助け出してやるからな!」
二人が視線を交わした瞬間にザワリ、とどこか恐ろしくも懐かしい感覚が場を覆う
寒気と怖気と吐き気を催すそれは決して俺に向けられた物ではないのに、何故か体の震えが止まらない。
「……最近の鼠はよく物を言うのね。魔理沙、あんまり調子に乗ってると本気で潰すわよ」
「やれるもんならやってみろ。しかし欲望のみで戦いを支える者に私を倒す事は出来ないぜ。
今の私は義によって立っているからな!」
「……何が義よ。貴女の目だってどす黒い欲望が透けて見えるわ。とりあえず全殺しで勘弁してあげるから感謝しなさい」
「成せば成る! 霧雨魔理沙は女の子おおお!!!」
「無駄無駄無駄無駄ぁ!」
両者が叫ぶと同時にいきなりメイドさんと魔女っ子が掻き消える。
どこに消えた、と周囲を見渡す俺をあざ笑うかのように頭上から響く爆音。
「…………なんぞこれ」
呆然とつぶやく俺の眼前では、真昼間にも係わらず花火大会と見まがう光景が繰り広げられていた。
空を蹂躙するのは煌き弾ける星の弾と銀色の閃光。
正直二人が空を飛んでる事とかどうでもよくなるくらいその光景は常軌を逸していた。
……にも係わらず何故か思った以上に驚かない俺。
記憶があった頃はこんなの日常茶飯事だ、と体が言ってる気がする。
おかしいくらい冷静な自分の一面に驚きながらも、足元に落ちてた魔女っ子が持っていたらしい紙束の存在に気づき、それを拾い上げる。
そこには女子中学生(?)が書いたような可愛らしい文字でデカデカと
~文々。新聞号外 ○○氏、記憶喪失に陥る!?~
そう書かれていた。
……この○○って、ひょっとしなくても俺の事だよな。
なんで新聞の記事になんかなってんだ。しかもこんな短時間で。
俺って有名人なのか?
──────
――……えっと……ごめん。君は、どちら様? ついでに俺は誰?
その言葉を聞いた時、私は自分の半身がゴッソリ削られたかのような錯覚に陥った。
目の前の人は、私の事を知らないと言う。自分自身の事を知らないと言う。
ただそれだけ。それだけの事なのに、嘗て無いほどの空虚に囚われる私の心。
さっきまであんなにも輝いていた景色は色を失い、世界全てが理不尽という名の敵になってしまったかのよう。
初めての感情。初めての感覚。知らなかった。知りたくもなかった。
そして自覚する。いかに自分が○○さんの事を想っていたのか。
○○さんの事を好きというのはとっくの昔に自覚していたけど、まさかここまでとは思っていなかった。
もし仮にチルノちゃんが同じように記憶を失ったとしても、こうはいかないだろう。
そうだ、その元凶のチルノちゃんを探さなきゃ。一刻も早く探し出して○○さんの元に……。
「……」
そこまで考えて空中で止まる。
確かに○○さんの記憶を奪ったチルノちゃんにはこの事を教えなければいけない。
でも、私はチルノちゃんを探して、見つけて……どうすればいいんだろう? どうしたいんだろう?
そしてそれはわざわざ今の不安定な○○さんを置いてまでしたい事なのだろうか。
考える。自分がどうしたいのか。
チルノちゃんにこのやるせない思いをぶつける? 違う気がする。
記憶の無い○○さんの目の前に連れて行って謝らせる? これも違う。
もう一回氷を頭にぶつけて記憶を取り戻させる? ……論外だ。それで記憶が戻る保障などどこにも無いというのに。
違う、違う、これも違う……。
自問自答をくり返し、思考の迷路に迷い込んだ私の脳裏にふとよぎるのは私が去る直前の彼の不安げな瞳。
ここは何処だろう、俺はどうすればいいんだろう。言外にそう語っていた。
貴方の今いる場所は私たちがいつもいた場所で、貴方と私のお気に入りの場所だったのに。
そんな事すら忘れてしまった彼に……。
ああ、そうか。つまり私は――。
「今の○○さんと一緒に……いたくなかったんだ」
口に出したからだろうか。それは驚く程呆気なくストン、と胸に落ちた。さながら真綿に水が染み込む様に。
蓋を開ければ何の事は無い。至極簡単な理由だった。
私は耐えられなかったのだ。
今まで過ごしてきた日々を全て忘れてしまって、まるで初めて会ったかのような目で私を見る○○さんの視線に。
そんな○○さんの言葉を聞く事に。
だから何も覚えていない彼を置いて逃げた。チルノちゃんを連れてくるという口実で。
あれだけ好きな人なのに。あれだけ好きな人だから。
自分のあまりの心の弱さに泣きたくなる。自覚しても尚戻ろうと思えないあたり、本当に救いようが無い。
「ごめんなさい……○○さん、ごめんなさい……」
――ドォン……。
大妖精が果ての無い自己嫌悪に陥りそうになったその時、何処からか鈍く、大きな音が響いた。次いで力の衝突。
「っ!?」
何事かと周囲に気配と視線を巡らせた大妖精の目に留まったそれは弾幕ごっこ。
かなり離れた場所にいる彼女でも派手な弾幕が確認出来る事から、相当の強者がやりあっているであろう事が伺える。
そしてそれは直接害は無い距離にいても尚、大妖精に恐怖を抱かせる程度にはその弾幕は濃密かつ強力なものだった。
万が一にもこちらに来て巻き込まれては適わない、と更に距離を取ろうとした所で気づく。
――あの場所は、○○さんがいる場所ではないだろうか?
ハッと振り替える。確かに一直線に飛んできたわけではないが、この湖は彼女の庭どころか家のような所。場所を間違える筈が無い。確かにその戦いは ○○がいた所で起こっていた。
即座に思い浮かぶのは最悪の結末。
その身に有り余る弾幕を浴び、ボロ雑巾のように吹き飛ばされる○○の姿。
「――っ!」
今までの葛藤を完全に捨て去り身を翻す大妖精。全速力で向かう先は○○の元。
先ほどまでの自分を苛んでいたひ弱な妖精の面影は欠片も無く、ただ只管に愛する者の安全を願う一人の女の姿がそこにはあった。
――確かに怖い。非力な身の私であの修羅場に赴く事が。痛い思いをする事になるかもしれない。
――確かに怖い。私を知らない人を見る目で見る彼の目が。悲しい思いをする事になるかもしれない。
――それでも……それでも私はあの場に行かなくてはならない。私が私である為にも。
――理由は簡単。私、大妖精は誰よりも○○さんが大好きなのだから。それ以外の理由など必要ない。
――だから○○さん。私に貴方を護らせてくれますか?
「お願いします……どうか無事で……っ!」
湖に力強い緑色の風が疾り、水面に波を立てた。
――○○が記憶喪失になったようです。中編
「さて、どうするかね」
自分に問いかけるように呟く。
絶賛ハルマゲドン継続中な上空は敢えて無視。あんな終末に付き合ってたら身が持たん。
風の吹くまま、気の赴くままに自分探しの旅に出てもいいんだが、ここで待っててと言った羽の生えた緑髪の女の子の事がどうにも気にかかる。
どっからどう見ても人間じゃないっぽいけど、なんか俺と関係にありそうな感じがするんだよなあ。
「……男として、女の子のお願いは無下に出来ないよな、常識的に考えて」
それが可愛い子なら尚更だ。
人間じゃないのがそこはかとなく一抹の不安を抱かせるが、もし危険な目にでもあったら頭上の咲夜と魔理沙とかいう魔女っ子に何とかしてもらおう、うん。
何故だか知らないが、そこら辺の危険よりも彼女達の方がやばい気がするのだ。戦闘力的な意味で。
それに緑髪の子の去り際の目を思い出す。
どことなく憂いを帯びたあの目は捕食とかそういう類の物騒な事を考えていた目じゃない。……と思う。思いたい!
てかね……。
「危害加える気ならとっくに加えてるだろ。俺気失ってたんだし」
俺自嘲。人の善意を疑っちゃいけません。いや本当に善意なのかは知らんが。
「お、さっきの子だ」
そんな事考えてたら彼女が戻ってきた。ほらやっぱり彼女は悪い子じゃなかったんだよ。
誰に言うでもなく心の内で胸を張る。
でも何故だろうか。なんか凄い必死な感じがする。
まるで迷子の子供を見つけた母親、みたいな。
おお、なかなかいい表現だ。たしかに今の俺はまんま迷子だもんな。
「お帰り。探してた子は見つかった?」
「○○さん、大丈夫ですか!? 怪我とかしてませんよね!?」
「ああ、うん、大丈夫」
質問を軽くスルーしながらずずいと詰め寄る彼女に軽く圧倒される。
おおう、童顔にも係わらず意外と胸が大きい……どこ見てるんだ俺。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「ひとまず私と一緒に!」
「うおわっ!」
有無を言わさない勢いで腕を掴まれる。そして飛翔、加速。加速。加速。
流れる地面。移りゆくそれに自分が凄い速度で飛んでいる事を自覚……って俺飛んでる!?
はええええええ! こええええええええ! これ時速何キロだよ!
「え、ちょ、ま」
「口を開かないでください! 舌噛みますよ!」
やばい突然の事態に言葉が出ない。
そして痛い! 風が顔に当たって痛い! ついでに腕も痛い!
お願いします! もう少しゆっくり!
しかし声にならない声など当然聞き入れられるわけも無く。
…………。
「ここまで来れば大丈夫ですかね……」
「……(最後らへん腕もげるかと思った)」
図らずともI can flyした俺。
時間にして10分足らず。たったそれだけなのに軽く死ぬかと思った。主に風圧と落下の恐怖で。
にもかかわらずピンピンしている目の前の彼女。思った以上にタフなお方の様だ。
ひょっとしてこの子も、咲夜や魔理沙みたいな……?
「○○さん」
「はいなんでしょうか!」
「? 頭は大丈夫ですか?」
うわちょっとその言い方は俺の頭がアレな人みたいでなんか抵抗がある。
確かに今の返答はちょっとおかしかったけどさ。
しかし頭、頭か。
「まだ痛いかな。ズキズキする」
「そうですか……ちょっと失礼しますね」
不安げな顔で頭に差し伸ばされる手。
ん? 頭撫でてくれるのか?
可愛い子に頭を撫でてもらえるってのはちと子供扱いみたいで恥ずかしいけど、嬉しいもんd――
『ねえ○○、なんで○○は大ちゃんに頭を撫でられるのを嫌がるの? 凹む大ちゃん見てるのもそろそろ鬱陶しいんだけど』
『他の子はともかく、大ちゃんに頭を撫でられたら負けかなと思ってる』
『何それ? ○○は大ちゃんの事が嫌いなの?』
『それは無い。断言する。……覚えとけチルノ。男には退けない時があるもんなんだ』
果たしてそれは、いつの記憶だったか――。
「……っ」
――パシン。
「「え?」」
驚きを多分に含んだそれはお互いから。
払いのけた? 彼女の手を? 俺が? なんで?
勝手に動いた手を呆然と見詰めながら無意識での行動に戸惑う俺。
不思議な事に、今の俺にはこの子に頭を撫でられたら負けだという感情が沸き上がっている。
撫でられる直前まで、そんなものは全く感じなかったのに。
何故だ? やっぱり俺と彼女はなんか関係があるのか?
……っと、呆けてる場合じゃなかった。
「悪い。信じられないだろうけど、何故か勝手に手が動いたんだ」
「いえ、私は気にしてませんから気にしないでください……ふふっ、記憶が無くっても○○さんはやっぱり私に頭を撫でられるのは嫌なんですね」
折角の好意をフイにした事にバツが悪くなって小さくなる俺に対し、女の子はどういう事か微笑んでいた。
でもそれは真夏に降る雪の様な今すぐ消えてしまいそうな儚さを伴ったもので。
何故だろうか。心に棘が刺さったような痛みを覚えた気がした。
「……お楽しみ中みたいね?」
突然の声。
デジャブを感じながら振り返れば、やはりそこには満身創痍とも言える格好の咲夜が寒気を感じさせる笑顔でそこにいた。
新ろだ116、134
───────────────────────────────────────────────────────────
「なぁ●●、俺就職場所間違えた気がするんだ」
「結構天職だと思うがなぁ、俺は」
ここは噂に名高い夜雀の屋台
一足先に行方不明になった友人の●●が夜雀と屋台をやっていると聞いた時は驚いたものだ
ちなみにこの●●と夜雀のミスティア・ローレライ、仲が非常によろしい
本人達は否定しているが既に夫婦同然である
「昔から人にもの教えるのは好きだったじゃないか」
「俺の寿命を考えると効率が悪すぎる……あ、もう一杯貰える?」
そんな友人を冷やかしがてらに飲みに行くのも悪くない
ついでに愚痴をもらすのもいいんじゃないかな?うん
「おいおい、紅魔館は給料払いが悪いんだろう?」
「安心しろ、最近はここ以外で金を使うことが無い」
「あぁ、○○さん紅魔館勤めだったっけ?」
酒を飲みながら●●と話しているとみすちーが話を振ってきた
そう、何を隠そうこの○○は紅魔館に勤務している
というかメイド長に拾われてお嬢様に気に入られたわけだが
すっごい常人な俺がお嬢様に気に入られた理由は掃除と教育のスキルである
日頃妖精メイドの無能さをどうにかできないものかと思っていたらしいお嬢様は俺を「紅魔館雑務教官」として迎え入れた
……つまり妖精メイドのメイドスキルを上げる先生だ
「妖精メイドの教育ってどこのエロゲだよ」
「展開自体はお前も十分エロゲだろ」
「……?」
まぁ当然エロゲ展開はこない
あんな数の妖精メイドの同時教育は不可能ということで十数人を適当に選び教育
教育したメイドをできるだけばらまいて配属の2工程を繰り返す予定である
……俺が死ぬまでに終わらないよねこれ
「そんなに職場に文句があるなら転職したらどうだ?外来人ってだけで結構いけるらしいぞ?」
「外来人は体は弱いけど技術とか知識が重宝されるからねー」
「……みすちーはともかくとして●●はわかっているだろうに」
にやにやすんな気持ち悪い
「? 何々、なんなの●●」
「いやそれがな?こいt「あーあー!」……こいつメイド長n「ああああああ!」……メイド長の十六夜咲夜に惚れてるんだよ」
NO! 必死の抵抗も無意味に言われてしまったぜ!
「へぇ、なら転職なんてできないね」
「あーそうですよ俺は咲夜さんに惚れてますよ」
「別に開き直らなくてもいいじゃないか」
「うるせ、お前がこんな話し始めるからだろ」
「ちょっと飲みすぎなんじゃないかしら?」
「あ、いらっしゃい」
と、自然な流れで咲夜さんが入ってきた
しかし●●め、この仕返しは高くつくぞ
……?
……咲夜さん?
…… 咲 夜 さ ん ?
「咲夜sゴハッゴフッゲハッ!」
ぬおおぉぉぉぉぉおおおおおお酒があああ酒が気管にぃいいいいいいいい
「……大丈夫?」
あまりの苦しみに俺がのた打ち回ってると咲夜さんが声を掛けてきた
落ちつけ俺……素数を数えて落ちつくんだ……1、2、3、5、7、11……
あれ? 1って素数だっけ?
「だいびょ、大丈夫です咲夜さん」
くッ、噛んだ
「そう?ならいいけど。……いつも休みを貰うといなくなるから何処に行ったのかと思えば、こんなところにいたのね」
「はは、ここには外界の時からの友人がいまして」
「俺より酒が目的だろ」
うるせぇちょっと黙ってろと睨んだら溜息つかれた
いいじゃないか日本酒派なんだから
「というか咲夜さんもどうしてここに?メイドと屋台なんてミスマッチにもほどがあるでしょう」
「ええ、ちょっとお嬢様が○○を呼んで来いと言ったから探してたのよ」
「まじですか。おい●●、お勘定」
「まからんぞ」
先手とんなよ
「ツケられねぇ?」
「まかり通らん」
「そこをなんとか」
「いいんじゃない?お得意さんだし」
そこにすかさず入るみすちーの助け舟!
さすがはみすちー!俺達に(ry
「……ま、みすちーが言うならしょうがないな」
「おお、サンキュ」
まぁちょっと悪いし、こんど何か持ってくるかな
「「今後ともごひいきに!」」
「あ、咲夜さん」
「なにかしら」
ふと屋台を出たところで重要なことに気付いた
「……話、どこから聞いてましたか」
そういえば自然に入ってきたので気付かなかったが、その直前に話していた内容がアレである
……聞かれてないことを祈ろう。聞かれてたらまずい、非常にまずい
「ああ、「なぁ●●、俺就職場所間違えた気がするんだ」からよ」
「…な ん で す と ?」
「だから「なぁ●●、俺就職場所間違えた気がするんだ」からよ」
「……一言一句もらさず?」
「ええ」
……な、なんだってー!?
「うわー泣いていいですか、むしろ逃げていいですか」
「泣いてもいいけど逃げるのはだめよ。……それより○○」
「はいなんでしょう」
すでに俺の顔は耳まで真っ赤なんだろーなー
そんなことを考えていると数歩先を歩いていた咲夜さんがこちらに顔を向けてきた
「……転職、しないのよね?」
いつもは凛々しいその顔が弱々しく見えて
不安そうな顔で聞いてくるもんだからついつい
「当然、じゃないと咲夜さんに会えませんしね」
なんてことを口走ってしまった
すると咲夜さんは安心したように笑って抱き着いてきた
……だだだだだだだだだだだだだだだだだだ抱き着いてきたぁぁぁぁぁぁあ!?
「ささささささささささささきゅ、さきゅ、咲夜さん!?」
「よかったわ、○○が転職しなくて」
「そそそそそそそそれあ、それ、それは、どどどどどういった意味で?」
「ふふ、好きな人の近くに居たいと思うのは当然じゃない」
す、好きな人だとぉ!?
「……泣いていいですか?」
「泣いてもいいけど、もうちょっとこのまま……」
このあとあまりにも遅いとお嬢様にどやされたのは別の話
おまけ
「店先でいちゃつくなよなぁ」
ちょっと離れたとは言えほとんどレンジ内じゃないか
店にはいりにくい雰囲気ができるから正直やめてほしいんだが……
「●●、人見酒って知ってる?」
「……なるほど、把握した」
そういってみすちーと飲み交わす
まぁ今日はもう店じまいかという空気なんだ、構わないだろう
「じゃ、あの二人の末永い幸せを祈って」
「「かんぱーい」」
新ろだ170
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○○「あ~……やっぱ炬燵は最高だな~……。」
てゐ「やった!特等席ゲット!」
鈴仙「あ、こら!待ちなさいてゐ!そこは私の場所よ!」
永琳「あら、ウドンゲ。○○と炬燵の間が『私の場所だ』なんて、いつからそんなに偉くなったのかしら?そこは私の場所よ。」
鈴「いくら師匠でもこれだけは譲れません!」
輝夜「月の姫である私を差し置いて何を言ってるのよ。そこは私の為だけにあるの。分かったらさっさと退きなさい。」
て「姫はさっさと自分の部屋に戻って蓬莱の玉の枝の観察でもしてて下さいよ。」
輝「へぇ……言うようになったわねイナバ。覚悟は出来てるわよね……?」
…………
○「もう弾幕ごっこで決めたらどうだ?このままじゃ埒開かねえし。」
て・鈴・永・輝「よし。お前ら表へ出ろ。」
少女弾幕中...
Now Shooting...
○「ホント元気だなあいつら……」
妹紅「お、○○だ。こんちわ~。」
○「よう。妹紅と慧音じゃねえか。勝手に上がってきていいのか?」
慧音「聞こうにもあの状況じゃ聞けないだろうに。」
○「ですよね。」
妹「あ~寒い寒い。そんじゃ、おじゃましま~す。」
○「お前さんもかい。」
妹「へへ~。あったか~い。」
輝「てめえ、何勝手に入ってんだコルァ!さっさと出やがれもんぺ小娘!」
妹「るせぇぞ盆栽監視員が!」
輝「んだとコルァ!こっち来いや焼き鳥娘!」
妹「上等だこのボンクラプリンセス!消し炭にしてやんよ!」
妹紅、乱入。
慧「全く、あいつらときたら……。それじゃあ、仕方ないからここは私が」
て・永「抜け駆けしてんじゃねえぞ牝牛!」
慧「……少し黙らせてくる。」
慧音、参戦。
慧「誰が牝牛だこの年増!」
永「里の警護すっぽかしてんじゃねえぞコラァ!」
慧「やかましい!今日は非番だ馬鹿者!」
永「ウドンゲ!まずはこいつよ!やっちゃいなさい!」
鈴「自分のケツぐらい自分で拭いて下さいよ!」
永「てめえ裏切ったなこんにゃろう!仕方ないわ。てゐ!」
て「私は関係無いウサ。鈴仙ちゃんもさっさとズラかるウサ。」
永「おのれ、お前もかァーッ!こうなったら薬で従わせるのみ!」
鈴「何でこっちに来るんですかあー!」
永「待てコラァ!」
慧「あっ、こら待て!どこへ行く!おのれ、逃がさん!」
鈴「うわっ!何よこれ!」
て「かかったなアホがッ!」
鈴「てゐ!おのれ、謀ったな!てゐ!」
て「じゃあねー。囮として頑張ってねー。」
永「ウドンゲ、覚悟ォ!」
鈴「え、ちょ、待っtギャース!」
○「さあて、どうなることやら。あ~、蜜柑うめえなこん畜生。」
新ろだ180
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良くありがちなネタとしてお正月の宴会の翌日…
『おかしいなぁ、みんなにお酒をしこたま飲まされたような
気がしたんだけどそこから先の記憶がないんだよね…』
それぞれの反応~(異議は認めます。その際自己で脳内補間希望)
紅白「えっ、そうなの?あんなに私に優しくしてくれたのに…」
黒白「ばばば馬鹿!思い出させるな!あーいやいや何もなかったんだぜ?」
門番「うぅ…恥ずかしくて何も言えるわけないじゃないですか」
七曜「…あんな知識を文字通り体に刻み込まれるなんて…凄かったわ」
こぁ「パパパパチュリー様!ギリギリ過ぎますって!」
従者「あの時ばかりはお嬢様の元を離れたいと思ってしまいました」
紅姉「あら、あの時は不覚をとったけれど悪い気分はしなかったのよ?」
紅妹「う~ん、よくわかんないけどふわふわしてあったかくて…」
七色「こ、こんなこと言わせないでよ…恥ずかしいんだから」
庭番「うぇ!?だだだ駄目です、わた、私はまだまだ修行不足ですっ!」
幽霊「とっくの昔に死んだ身なのに、生き返ったような気がしたわぁ~」
式神「いや、あれを君だけの非にするのは違うと思うんだ、だがなぁ…」
隙間「うふふふ、虫も殺さない顔してやる時はやるのね?ますます気に入ったわ」
賢人「すまん、あいつらを止められなかったのは私だ…し、しかしあれは…っ!」
月兎「うぅ…あんな姿てゐに見られたら永遠亭に居辛くなっちゃうじゃない」
天才「鈴仙だけに飽き足らず私や姫様まで一気に…欲張りなのね」
月姫「もうただの暇つぶしだけじゃ終わらないわよ?文字通り最後まで…」
不死「バカぁっ、あ、あんなことを私だけじゃなくて慧音にまでしないのっ!」
花妖「私にあんなことやこんなことをするなんていい度胸じゃないの?ふふふ」
死神「あんな刺激的なことをやられちゃ、サボるのも勿体無いかもねぇ」
閻魔「有罪です、非常識です、大犯罪ですっ!仮にも閻魔である私にっ!」
秋妹「これからは毎日が大豊作だわ」秋姉「これからは毎日が紅葉色だわ」
厄神「あんなに私の厄を吸い取っちゃうなんて…凄い、凄かったわ」
河童「人間っ!あんなにエキサイトな気分になるにはどうするのかな?」
天狗「あやややっ!?え、えーっと、そ、それはですね…モゴモゴ」
蒼白「あぁっ、思い出しただけで私、駄目ですっ、凄すぎてっ」
八坂「…最近の早苗、熱暴走が止まらないね…あんた責任とんなさい」
土着「あーうー…神様であることを忘れちゃいそうだったわ」
嫉妬「思い出せないの?妬ましい性格だわ。あんなことしておいて…ブツブツ」
鬼姐「そういう時は飲んで忘れるのが一番!ほれ、飲みなさい」
鬼娘「だだだ駄目だってゆーぎ!あれを繰り返しちゃいけないんだって!」
眼姉「第三の眼を持つ私の読心術が通用しないなんて…しかもあんなこと」
猫2「えへへおに~さ~ん、見た目以上に活きがいいんだねぇ~」
⑨2「もう一回フュージョンしようよっ!ほらほら!」
眼妹「みんな何か危ないこと言ってるけど気にしないで。でも凄かったぁ…」
竜宮「この私に空気を読ませる間も与えずあんなことが出来るのですか…?」
天人「あうぅ、私の中の天地が何度もひっくり返ったような衝撃だったわ…」
記憶「忘れられない記憶がまた一つ刻まれました…忘れませんよ。うふふ…」
番外編
綿姉「おかげで正直月の都のことなんかどうでもよくなったわ」
綿妹「くっ、たかだか地上人ごときに穢されるなんて…で、でも」
新ろだ254
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最終更新:2011年02月26日 23:57