霊夢36
新ろだ2-322
「ちょっと、もういい時間なんだから起きなさいよ」
「ん~……分かったわよ」
そう言って霊夢はボサボサの起きぬけの姿でアリスに応えた。
身だしなみを整えて供に朝食の席に着く。
もくもくと食事を続けるが、そのうち呆れたように溜息をついてアリスが口を開く。
「ねぇ、いったい何があったのよ。いきなりうちに転がりこんできてそれで理由も話さないなんて。
まぁ○○がらみのことなんでしょうけど」
「…………」
「それにさ、あいつ、アンタのこと探し回っていたわよ。あえてうちにいること言わなかったけれど
ほんと必死になって走り回ってる姿を見ると別にただ喧嘩したって訳じゃないようね」
「そう……」
「でも、ここが見つかるのも時間の問題ね。そして私は家の中でぎゃーぎゃー口喧嘩聞かされるのものろけられるのも嫌なわけ。
というわけで上海、お客様はおかえりよ」
「え、ちょっ、まっ」
あっという間に人形に囲まれて不思議の迷宮から放り出される商人みたくペイッとアリス邸から追い出される霊夢。
しばらくその場でぶーたれていたがそのままで居ても何の解決にもならぬので、森から出ていく道を歩き出した。
――はぁ、もうしばらく居候できるかと思ったのにね。結構早く堪忍袋の緒が切れちゃった。
さて、次どこ行こうかしら。魔理沙の家か、紅魔館か、紫のとこはあいつが面白がって○○を連れてきそうだから外して……
「霊夢!」
その声に足を止め、ゆっくりと振り返る。そこには膝に手をついてはぁはぁと乱れた息を整えている○○の姿があった。
「……見つかっちゃったか」
「見つかっちゃったじゃないだろ! 何で急に居なくなったりしたんだ! 心配したんだぞ! それに」
後に続く言葉を察して霊夢の顔に憂いの色が浮かぶ。
「永琳から聞いたぞ。お前、お腹に赤ちゃんいるんだって? 何でそんな大事なこと俺に言わない!?」
「……んたが」
「え?」
「あんたが、情けないこと言ってたからじゃない!」
そう言った霊夢の感情はついに爆発する。
そのこととは少し過去に遡る。
二人が一緒に暮らし始めてようやく日常が普通に馴染んできた時の話。
買い物帰り、寺子屋の前を通りかかった時、ちょうど授業が終わりらしく、子供達が彼女にさよならを告げ、各々が帰路についていった。
「ああ、気をつけて帰るんだぞ。ん? おや、霊夢に○○か。どうだ暮らしの方は? お前にとってまだ慣れないことも多いだろう?」
「まぁ、それもおいおい慣れていきますよ」
「私が尻叩いて無理にでも覚えさせるし」
「はっはっは! もう尻に敷かれてるのか! まぁその方がうまくやれるのかも知れんな」
そんな世間話をしていると側に子供が居ることに気がついた。まだ年の頃は小学生低学年くらいだろうか。
霊夢と○○を見比べて口を開いた。
「ねー。お兄ちゃんと、はくれいのみこさんは赤ちゃんつくらないのー?」
「んなっ!?」
「こ、こらっ! いきなりそんな不躾なことを聞くんじゃない!」
「えー、だって母ちゃんが隣のおばさんとそんなこと言ってたもん。次の巫女さんが生まれるのいつになるのかしらとかまだ若い二人だから夜は激しいんだろーって」
「……はぁ、主婦の噂話程度に口出しするのはやぶさかではないが、一度保護者を集めて注意を促すべきか」
「う、あ、その、こ、こどもねぇ……そ、そりゃ、し、していれば、いつかは、で、できるものだし、けっこう、かず、かさねてるから、もしかしたら、も、もう? あわわ……」
そう溜息をつき何やら試案している慧音、顔を赤くしてごにょごにょと言っている霊夢、仕方なく○○が答えることにした。
「んー、悪いが俺達はまだ子供を産む気にはなれないな」
「えっ……」
「えー、どうしてー」
「そりゃ俺が結婚とか子供の世話しているなんて考えられないし、自信も持てないからね」
「ふーん、おいら子供だからよくわかんないや」
「お前なー、聞いておいてそれはないだろ」
そう笑いあう○○を何処か悲しい目つきで見ている霊夢――
「あ、あんなこと、言われたら、こっちだって、不安になるわよっ! うっ、ひぐっ、ほんとは逃げてしまいたいんでしょ!
自信ないから! 怖いから! えぐっ、そんななか、子供できたなんて、言い出せるわけ、ない、じゃないっ! うっ、ぐっ……うああぁぁぁああぁぁっ!!」
目から大粒の涙を零し慟哭する霊夢。そんな彼女を見つめ、バツが悪そうにガシガシと頭をかくと○○は霊夢を胸の中へと抱き寄せた。
「ごめん、そんなに霊夢を不安にさせているなんて思わなかった。実際、まだ怖いんだ。霊夢とのこれから先のこと考えるだけで恐ろしくてたまらない。
だけど、頑張るよ。怖いけど逃げない。スペルカードもないし、弾の一つも満足に打てない俺だけど、ずっと霊夢の側にいるから。
だから、霊夢、俺の子供を生んでください」
「う、ぐ、うわああぁぁぁぁぁっ!! ○○のばかぁっ! もっと早く言えぇっ!」
憎まれ口を叩く霊夢だがしっかりと○○の服を掴み、今まで抑え込んできたものを吐き出すがごとく泣きじゃくる霊夢。
○○は今まで不安にさせていた罰だと思い、しっかりと彼女を抱きしめて幼子をあやすように長い黒髪を優しく梳いてあげた。
泣きすぎてまだしゃっくりが止まらない霊夢を連れて神社に戻るといつもの連中が集まり祝宴の準備が整っていた。
あっけにとられる二人に魔理沙とアリスが近づく。
「よぉ、ご両人。この度はおめでとうございますってな」
「放り出してからあまりに霊夢らしくなかったからちょっと気になって後をつけてみたんだけどね。まさかあんなすさまじいことになるとは思っていなかったわ」
あの大胆な告白を見られていたと分かり、真っ赤になって湯気を吹く二人。
そんな二人を見て微笑ましいものを見たという顔をするアリス。こりゃ当分いじるネタには尽きそうにないという顔をする魔理沙。
「で、急遽祝宴をあげることにしたんだけど、相変わらず騒ぐのが好きな奴らねぇ。勝手に集まりだして勝手に宴会の準備を始めるんだから」
それでこそ幻想郷だという気になり苦笑する○○の頭をはたく魔理沙。
「いてっ。何すんだ魔理沙」
「○○。お前気負い過ぎ。不安なら私らを頼れ。何のために友達やってんだと思ってるんだ」
「悪乗りすることもあるけれど、基本的にはみんな二人のこと心配してるんだから。いつだって頼ってくれて構わないんだから。他の奴らは知らないけど私はいつでも相談に乗るわよ」
後ろからふざけんなネクラーやら自分だけ株あげようとするなーなどの野次が飛んでくるが気にも留めないアリス。
「さ、主賓がいつまでもぼーっとしてちゃ仕方ないでしょ。行きましょう」
「あ、ちょっと、アリス、引っ張らないでってば」
「私達もいこうぜ。あ、霊夢にはあんまり飲ませられないのか」
「……ぐすっ、なめるんじゃないわよ。この程度飲み干せないで何が博麗の巫女よ」
二人はただ、嬉しかった。自分達は一人ではない。こんなにも頼れる友人がいること。
その人達に祝福されている自分達は何と幸せなことか――
相も変わらずたたずむ博麗神社。その境内で乳飲み子を抱き慈愛の顔で見つめる霊夢。
その側に音もなくアリスが着地する。
「その子が新しい巫女になるのね」
「さぁ? なるかもしれないし、ならないかもしれないわ。この子次第ね。私はどっちでも構わないし」
「ずいぶん放任ねぇ……。あら」
アリスが来たことに気付いたのか赤子はアリスに必死に手を伸ばす。差し出された指を小さな手で掴むと安心した顔で眠りにつく。
「……かわいいわね。私もちょっと欲しくなってきたかも」
「○○は貸さないわよ」
「借りる気もないわ」
「……ねえアリス、この子が大きくなっていろいろ世話かけると思うけれど、夫婦、親子そろってよろしく頼むわね」
「はいはい、分かってるわよ」
呆れたように言ってはいるが決して嫌そうではない。
しっかりと幼子を抱き抱えると二人は神社の私室へと上がっていった。
――このありふれた日々、しかしこれほど他に変えられないものはない。
沢山の友人に囲まれていること。それに勝るものなど。
道は続く。恐れ、逃げ出したくなることもあるだろう。
それでも、支えてくれる人がいる。
倒れたとしてもまた進み出そう。歩くような早さでも、また新しい道へ――
新ろだ2-339
ある日ふと現世から迷い込んだ世界、幻想郷。
大けがを負っていた俺を助けてくれたのは博麗神社の巫女、霊夢。
その愛くるしさと性格から俺はいつしか霊夢を好きになった。
そして博麗神社でお世話になるうちに、俺と霊夢は相思相愛の仲に。
周りの連中から揶揄と祝福を受けながら暮らす俺たち。
そして10月、1年で1度だけ下界に戻れる月、俺は下界の里帰りと旅行を兼ね、
紫様の許しの元、霊夢を実家に連れて行った。
実家ではいきなり戻ってきた息子に妙齢の娘が付いてきたことでてんわやんわとなり、
霊夢は引っ張りだこだった。
そして霊夢には色々な下界の場所に連れて行き、そして遂に、幻想郷に戻る日が近づいてきた・・・
ギュルルン、ギュルルン・・・
霊夢「ちょっと、このバイクって奴?すごく匂うんだけど・・・」
○○「まああっちでは油をそんなに使う訳じゃないからな、確かにきついかも知れない。」
霊夢「でも、こっちの人間って不便よね。あたし達と違って空飛べる訳じゃないから
こうやって乗り物に頼らないといけないし・・・」
○○「そうかもしれないけど、このバイクは別だ。霊夢が空を飛んで感じる、風の流れを
同じように感じられる、良い代物だよ。」
霊夢「ふーん。でもこのヘルメットとかあと上着?、とっても重くて面倒よ。
あーあ、幻想郷だったら空飛んで楽ちんなんだけどなー。」
○○「まあ物は試しって事で。そりゃ!」
そして俺はアクセルを回す。
ブロロロロオロ!ドクドクドクドクドクドク!
ようやくエンジンが暖まりかかったようだ。
○○「よーし、じゃあ信州の旅に出発だ・・・とりあえず神奈子様と諏訪子様がこっちに来ているって言うし。
しかししばらくこっちとお別れだが、良いのか?」
霊夢「まあ、こっちの旅も結構堪能したから良いわよ。それに良いお茶も一杯買ったし。
ありがと、○○。」
○○「ええ、どう致しまして。じゃあ俺が乗ったら霊夢、後ろに乗って。」
霊夢「わかったわ。でもちゃんと運んでよ?」
○○「霊夢が重くなければね。」
霊夢「・・・こっちの世界でもスペカは実現可能よ?」
○○「今回はお茶とかそういうのがあるからだよ。」
霊夢「・・・もう。」
赤と黒のアクセントが光る俺のモタード型XR400。
こいつも今でこそ手元にあるが既に生産が止まっており、いずれ幻想郷に流れ着くことは確実だ。
っていうより昨年からオフロードのバイクが続々香霖堂近くで確認できた。
霖之助さんにはバイクの概念を説明したが、バイクの修理を出来るエンジニアが幻想郷にはまだ流れ着いていないらしい。
とはいってもいずれはそっちに来るだろう。その時には幻想郷で乗り回せるかな?
○○「よーし霊夢、しっかり掴まってろよ!」
霊夢「じゃあ帰りますか、博麗神社へ。」
スタンドを外しアクセルを回す。
さて、目指すは長野のあの神社。
とりあえず旅の祈願とこちらに戻ってきた二柱へのご挨拶を経て、北信にて紫様と待ち合わせたのち
霊夢と一緒に幻想郷に戻る。
また神隠し扱いか・・・顕界にご迷惑をかけっぱなしだなぁ、アスファルトの光景を流しながら考えていると
霊夢「すごい・・・景色が流れて・・・何か風も見える・・・」
○○「そうだろ?長野はもっと凄いんだぜ。とっておきを霊夢に魅せてやるよ。」
霊夢「こういうのも、また悪くないわね・・・」
○○「いつでも乗せてやるよ。霊夢が望むなら。」
霊夢「・・・うん」
都内を抜けて高速道路に乗る。バイクは快調だ。
そしてやってきた諏訪。本宮と秋宮をそれぞれ参拝したあと、約束の前宮へ。
諏訪子「やっほー霊夢。良い神社でしょ-。湖とか温泉とか色々みていってよ-。」
神奈子「まあ博麗神社もこれくらいの規模があれば、参拝客には困らないと思うが、どうかな。」
霊夢 「・・・アンタら、幻想郷に戻ったら絶ー対ーぶちのめしてやるから。」
○○ 「オイオイ霊夢、物騒なことはやめろって!。こっちでは曲がりなりにも一の宮の神様・・」
霊夢 「そんなのアタシには関係ないわ。大体この前宮ってさっきの所と比べるとかなり貧相なところじゃない。」
○○ 「さっき見てきた神社2つに比べればそうかもしれないが、ここは4つで1つの神社なんだぜ・・・」
霊夢 「え、ええええ!?」
諏訪子「そうなんだよねー。○○、あとで春宮連れて行ってあげてよ。どうせ北に向かうんでしょ?」
神奈子「もちろん翡翠のおみくじは引いて帰ってくれ。きっと幸運間違い無しだ、○○」
○○ 「諏訪子様、神奈子様・・・お心遣い大変痛み入ります・・・」
霊夢 「○-○-?!早苗みたいな言葉遣いして、あんたどっちのみーかーたーなーのーよー?!」
○○ 「あああ、霊夢さん落ち着いて落ち着いて!俺は霊夢さんしか見てないから!好きだから!愛しているから!
それに諏訪子様と神奈子様は神様なんだし!!」
霊夢 「な、な、なにどさくさに紛れて変な、ちょ、ちょっと、て、照れるじゃないのよ!!」
諏訪子「あれー、あの翡翠って縁結びの効果あったっけ-?神奈子-?」
神奈子「さあ。でもおみくじ引く前だから、関係ないんじゃないの?それにしてもお熱いこと。
私達も当てられそうだわ。」
霊夢 「うーーーー、絶対あとでコテンパンに・・・」
○○ 「ま、まあ、お、俺も悪かった・・・でも霊夢さ、さっきの言葉は、神様に誓って、嘘じゃないから・・・」
霊夢 「し、知らない!!ちょっと○○、こんな居心地の悪い神社、とっととおさらばするわよ!
諏訪子!神奈子!次にあったらアタシの奥義を見せてあげるんだから!」
○○ 「失礼しましたー。」
諏訪子「なんかあーうーのも、ちょっとうらやましいよね、神奈子。」
神奈子「ああ、用事が終わったら留守番している早苗を連れて行ってあげるか・・・」
こうして俺は機嫌の悪い霊夢を道中なだめながら春宮に行き、そして宿泊地に向かった。
紫様との待ち合わせは木島となっていた。見せたい物があるらしい。
でも流石に諏訪から木島への道は長いので、今日は山田温泉で泊まることにした。
霊夢「あーさっぱりした。あそこの温泉って良い感じね。」
○○「古くから秘湯で有名だからね。ただ混浴がないのだけは残念なんだが(笑)」
霊夢「・・・もう、いやらしいんだから・・・」
○○「でもどうだい霊夢、長野の風は。」
霊夢「そうねー、何となくあっちの風に似ている気がする。」
○○「秋なんかは特に心地よい風が感じられるぜ。けど冬は雪が多いから
こんな風を感じる事は出来ないんだ・・・」
霊夢「ふーん。」
○○「明日は山間の中を通るから、綺麗な景色がよく見られるよ。」
霊夢「ほんとに?」
○○「ああ、途中でおやき買って2人で食べよう。もちろんお茶付きでね」
霊夢「アンタにしてはイキなことするじゃない。じゃあせっかく買ったお酒で乾杯するわよ。昼間の分、付き合いなさい。」
○○「へいへい。ただ飲み過ぎてどうなっても知らないよ-。」
霊夢「・・・・・別にアンタだから、良いんじゃないのよ・・・」
○○「・・・・・」
俺は買ってきた真澄の生搾りに手を付けることにした。
○○「あー、このキリッっとした感じがたまらないねー」
霊夢「外のお酒も美味しいものね-。」
ちょっと紅潮した霊夢の顔がとても愛おしい。
○○「霊夢、そんな離れてないで、もうちょっとこっちにおいでよ。」
霊夢「も、もう・・・何しようって、いうのよ・・・」
○○「二人で寄り添ってお酒飲むだけですが、何か。」
霊夢「・・・・それだけで、終わらないくせに・・・」
まあ、こういう話も、悪くないわな。ではいただきまーす。
山田温泉でしっぽりしたあと、俺と霊夢を乗せたバイクは小布施を経由して中野に抜ける。
途中の小布施は今が栗の旬、故に栗強飯をお昼に食べる。
霊夢「あんまり強飯って食べたこと無いけど、結構美味しいのね。」
○○「ああ、今が旬だからな。もしかしたら穣子様と静葉様が途中立ち寄っていったかも
知れないけどね。」
霊夢「こんどあっちでもこういうのせびってみようかしら。」
○○「おいおい・・・」
そして中野を抜け野沢方面に抜け、俺はある古びた駅舎のある所にたどり着いた。
旧木島駅。
今はバス以外誰も見かけることのない場所。
そして、そこには約束通り、あの人がいた。
霊夢「なんでこんな所を待ち合わせの場所にしたのよ?」
紫 「あら、ご愛想ね。こういう所こそ待ち合わせに良いでしょ?誰も居なくて」
紫様が駅舎の前で突如実体化した。霊夢は気配で察知したらしい。
○○「紫様、ご無沙汰です。」
紫 「あら○○、久しぶりの外の世界はどうだった?」
○○「はい、まあ色々と・・・」
紫 「そう、でも満更ということでも無いでしょ。霊夢をお友達に紹介し回ったのかしら?」
霊夢「紫!、そ、そこまで言わなくたっていいでしょ!」
紫 「あらー、ご名答のようですわね。妬けること妬けること。」
○○「からかわないで下さいよ紫様、確かに親や友達に自慢、いえ紹介しまわったのは事実だし。
霊夢「○○・・・もう・・・・」
紫 「その様子だと、”きのうは おたのしみ でしたね。”」
霊夢「・・・・!」
○○「!?」
紫 「あらあらうふふ、初々しいわぁ。」
霊夢「・・・・あとで覚えて置きなさいよ、紫。」
○○「は、はははははは」
しかしこんなやり取りをしていて、外の世界ではコスプレイヤー以外ではまず見られない
ドレスと導士服を着こんでいる紫様を見ても誰もいぶかしげないのは、やっぱり賢者故の能力なのだろうか。
紫 「さて○○、いよいよ幻想郷に戻るときが来たようだけど、やり残したことはある?」
○○「紫様、こいつとこのヘルメット2つ、家に戻しておいて下さい。」
紫 「ずいぶんお安いご用ね。それだけでいいの?」
○○「はい、もしかしたらあっちでご対面できる、かもしれない曰く付きのバイクですからね。
駄目になるなら家で駄目になって欲しいし・・・」
霊夢「○○・・・」
○○「でも、最後に霊夢と一緒にツーリングできて良かったですよ。」
紫 「そう、分かったわ。」
○○「よろしくお願い致します。」
紫 「さて、じゃあ2人とも戻る前に、ちょっと見せたいのものがあるのよ。その駅の中に入ってくれないかしら。」
霊夢「え?こんな古びた建物の中に?」
○○「ここって既に廃線になっているところですよ?紫様でもご存知ですよね?」
紫 「だからこそよ。さあ、2人とも入って頂戴。」
霊夢「何を考えているのかしら、紫は。」
○○「うーん。」
ちょっと引っかかる物を感じながら駅舎の中に入る。
駅はホームだけが残り、構内はレールが取り払われ、雑草が怏々と茂る光景が目に映る。
霊夢「なによ、古びた建物と雑草が茂る所じゃない・・・」
○○「そうだ・・・ってえええ?」
気が付いたら俺と霊夢は駅のレールの上に立っていた上に前から電車が近づいている。
霊夢「な、なによあれ、あれって」
○○「ちょ、ちょっとこれって、霊夢ぅぅぅぅぅ!!」
反射的に霊夢を抱き寄せ、俺は目をつむった・・・
紫 「はい、お疲れさま-。」
紫様の声を聞いたとき、俺と霊夢は元の場所にいた。
霊夢「ちょっと紫!!冗談にも程があるわよ!こんな所でアンタのスペカ見せて○○になんかあったらどうするのよ!!」
○○「あ、あれって確か・・・」
紫 「どう、実際の廃線「ぶらり廃線途中下車の旅」のスペカの感触は。」
霊夢「え?アレって」
ようやく引っかかるものが取れた。
○○「そうですよね、ここって長電木島線の終着駅。そしてアレは・・・」
紫 「○○が良く乗っていた地下鉄の電車。この駅と路線と共に、既に幻想入りした、古き良き思い出・・・」
○○「そうですよね・・・」
紫 「○○、貴方は、また幻想郷入りすることによって、その存在がどんどん忘れ去られることになるでしょう。
それでも貴方はあっちに行くことに躊躇いがなかったか、ちょっとだけ試させてもらったわ。」
○○「紫様・・・俺は・・・」
紫 「それ以上は言わなくてもいい事よ。幻想郷は総てを受け入れる。それはとても残酷なことって、貴方も知っているでしょ?」
○○「はい、もちろんです。」
紫 「あの時、霊夢を確かに庇った。その事実だけで貴方の決意は十分理解したわ。」
霊夢「ちょ、ちょっと、紫。どういうことなの・・・よ?」
紫 「あらあら、知らないというのは本当に罪と言う事だわ。全く貴方は本当にハクレイノミコの自覚があるのかしら?」
霊夢「アンタが勝手に話を進めているからでしょ-!!」
○○「オイオイ霊夢、もう良いだろ。紫様は俺に本当にあっちに戻る決意を確認したかったんだ。俺は普通の人間だし
スペカが使えるわけでもない。でも、だからこそ霊夢と一緒にいたいし、自分が忘れられても霊夢と一緒なら
それでいい。そういうことさ。」
霊夢「○○・・・」
思わずお互い見つめ合ってしまった。顔が赤い。
しばしの静寂のあと、
紫 「あー、お二人とも?そろそろ、いいかしらねー。」
○○「あ、はい。」
霊夢「な、なによぉ・・・」
紫 「じゃあ、貴方たちを幻想郷に戻すわよ。いいかしら」
○○「お願いします。」
霊夢「さっさとやっちゃってよ。」
紫 「私は残った仕事を片付けてからそっちに戻るから。それじゃまた後で。」
そうして、俺と霊夢は上から来るスキマに包まれた。
現世の画像が歪み、幻となり、消えた後紫と目玉が多く光る空間に包まれる。
あんまりこの光景って好きじゃないんだけどなっー・・・
気が付くと、俺と霊夢は神社の境内に立っていた。
霊夢「あー、戻ってきたわ-。何だかんだ言って、自分の家っていいわよねー。」
○○「そうだな。」
霊夢「じゃあ、買ってきた荷物とか置いて、お茶にしましょ?アンタのオススメのこのおやきを食べながら。」
○○「蒸し器あるかい?蒸かし直すと美味しいんだよ?」
霊夢「えーと庫裡にあったかしら。ちょっと探してみるわ。」
○○「じゃあ荷物はやっておくよ。」
霊夢「○○、お願いね。」
霊夢は言った。「自分の家っていいわよねー。」と。
俺の家はここではない。
けど、これから俺の家になる。そう思える気がした。
霊夢と暮らす幻想郷の話は、多分一杯書き留められる事になるだろう。
今はワープロが流れ着いている。阿求さんにも教えてあげよう、物語を書き連ねることを。
あと、俺と霊夢の話もね。
この紅い服の巫女が、永遠の巫女となりますように。
糸冬
Megalith 2010/10/30
1
……さて、こうして机の前に座って五時間は経つのだが。 目の前にある原稿用紙はコンマ一ミリたりともインクが文字を綴ったあとは無い。
「書 け ね ぇ - !」
俺はそう叫んで後ろへ倒れた。 バサバサと資料の山が崩れたが気にしない、むしろしてられ無い。
あぁ、こうして時間を無駄遣いしている感じが酷く苛立たしい。 俺はやりたいことが多くて忙しいのに。
今すぐこれだけ時間をかけてもプロットの一つも上がらないアホな自分を殴りたい、無理だけど。
「あぁ~~~、ああもう!」
がりがりと頭を掻き毟った、しかし何で人間はストレス感じると頭掻いたり髪抜けたりすんのかね? 大いなる疑問だ、どうせ本能が云々、とか言うのが答えだろうけど。 つかそれよりアレですよ、アイディアですよ、プロットですよ、春ですよー。 しかし
リリーホワイトにはビビらされたわ、見かけた時は春ですよーって言ってるから「アホの子だ!うわーい和むぞー!」という今考えると頭沸いてんじゃねえの? と言いたくなる位の思考に至って無用心に声を掛けたのがいけなかった。 だって奥さん、いきなり弾幕ですもの。 俺はSTGだと何回もやられて経験値をつんでクリアする方式なモンでホントああいう突然系は止めてほしい。
R-〇YPEの初見殺しの多さには驚きと同時に絶望を俺にくれたね。 あ、横スクロール系のだと後〇ラディウスがあったね、まだやってなかったから暇があったらやろう。
「って、脱線してんじゃねえか!!」
時計を見ると既に三十分経ってるし! うああああぁぁぁぁ! 何してんだよ俺ぇ!? バーカバーカ俺のバーカ!! 俺の⑨ー!
あ、やべ、俺キレたわ。 もう何でもしちゃうぜ、ヒャッハー! 幻想郷じゃ常識は投げ捨てる物なんだよ!
と言うことで霊夢、お前に決めたぜ! 何だかんだで結構好きだしな!
しかし!が多いな。
よし、目標発見。 霊夢は炬燵に入って本を読んでいた。 しかしあの巫女服以外に服があった事自体が驚きだが、まさかセーターとはな。
アリだ、断然アリだ。 むしろ巫女服より可愛い気がする。 と後ろでワクワクが止まらない俺には一切気が付かない様子の霊夢。
くくく、これからお前は俺の手によって地獄へ墜ちるというのに暢気なものだな!
と死亡フラグを一本建てて置く。
さぁ、賽は投げられたし、火蓋は切って落とされたし、舞台は整ったし、役者もそろったし、じっちゃんの名に掛け、こっそりとその背後に忍び寄った。
そして一気にその細いお腹に抱きついた。
「――――ッ!!」
もちろん口は片手で押さえてあるので叫び声は上がらない。 ついでにバックドロップを決めるように後ろへ倒れる、霊夢は俺の腹の上に寝ている体勢になった。 あとは空いてる手でお腹を揉んでやるだけだぜ!
「むぐーーっ!」
ふっふっふ、いくら叫ぼうが無駄だよ霊夢。 にしても細いなオイ、俺と同じもの食べてるとは思えないな。
「むぐっ!むぐーっ!」
うわ、柔らかいな。 もうアレだ、やーらけーのが表現に叶ってるよ。 よし、セーターの下に手入れてみようか。
「ふぐっ!むぐっ!」
お願いだからやめてとばかりに首を振る霊夢。 やべぇその反応凄い良い、オジちゃんってばワクワク通り越してドキドキしてきたよ! そうして一気にセーターの下へ手を滑り込ませたとき、俺は驚愕した。
何と霊夢が下に着ていたのは俺が幻想入りした時に着ていた物、そう、Yシャツだ。 コレはもうアリだなんてモンじゃない、破壊力が高すぎる……ッ!
手から僅かに伝わる霊夢の体温とその柔らかい感触が俺の理性に断続的にダメージを与えていたが、Yシャツとセーターという好みど真ん中の組み合わせが理性に止めを刺した。
あ、やばい俺止まんなくなっちまった。
俺の手が勝手に霊夢のYシャツをめくり、更にその中へ手を差し入れようとした時だった。
「夢想封印!」
俺の隙を突いて自由になった霊夢の右手。その手に握られたスペルカードが宣誓と共に光を発し、轟音と衝撃が俺の意識を奪った。
***
「あともう少しだったのにーーーッ!!」
病室のベットの上で思いっきり叫んだ。 次の瞬間には声が身体に響いた痛みと、鈴仙のクリップボードアタックが俺を苦しめる事になったが。
と言うことで所変わって此処は永遠亭、あの後俺は夢想封印を受けて入院コースということです。
「まあ、少しも後悔して無いがな!」
「うるさい馬鹿!」
スコーン、とクリップボードの角が俺の脳天に突き刺さった。 鈴仙ってば良い腕してるじゃない、流石軍人。
「全く、呆れた人ですねぇ」
本当にどうしようもない物を見る目で鈴仙は俺を見る。
「ははっ……、よく言われますよ」
この時は妙に晴々とした気分だったので、その視線もあまり苦では無かった。
いや、本当に危なかった。 skmdy的な意味でも身体的な意味でも。 後で霊夢に謝んなきゃな。
病室の窓から見える空はとても高く、時折目の前を横切る蜻蛉が秋の訪れを感じさせた。
「鈴仙、一つ頼んで良いかな?」
「……物によるけど」
訝しげな表情で鈴仙は言う。 割と普通のお願いなんだけどなぁ……。
「紙とペンを一つずつ、持ってきてくれ」
今ならきっと、良い話を書ける気がした。
了
言い訳
何だか酷い感じになったのはきっと寝不足のせいだと思う。
言い訳ここまで
自分はまだ駆け出しなので、至らない点があったら教えて貰えたら嬉しいです。
イチャ絵板 2009/01/01
「霊夢、肩寒くない?」
「毎年のことだもの。もう慣れてるわよ。」
「上着貸そうか?」
「そうしたらあんたが寒いでしょ、寒がりの癖に無理するんじゃないの。」
「いや、確かにそうだけど……そう言わずにさ、ほら。」
フワッ
「…………お礼なんて言わないわよ?」
「男としては憧れるシチュエーションだからね、むしろお礼を言うのは俺の方だよ。」
「馬鹿ね。」
「男ですから。」
「…………がと。」
「え?」
「馬鹿って言ったのよ馬鹿。」
Megalith 2011/01/13
世界中の花屋に置いてある花瓶をみんなひっくり返したら、こんな具合に雨が降るのだろうなあ。
十一月が連れてきた冷たい雨の音を聴きながら、ばかなことばかり考えていた。
腰を預けている社務所の土間は牢獄みたいに冷えていて、ときおり時雨のともなった隙間風が意地悪く吹き込む。
ほんの先ほどまで通り雨の只中にいたおれの体はずいぶん熱を奪われて、手ぬぐいを探しているらしい巫女を待つ時間が永遠のようにも思えていた。
体から温かさが抜けていくにつれて、雨が土を叩く音も、風が戸にちょっかいをかける音も、徐々に遠くなっていくのを感じた。
しだいに、おれの意識はなんだか心地よいまどろみの中へ否応なしに引きずり込まれていって、ついにはもうずっと眠りこけていたいような気分になってしまっていた。
けっきょく、だいぶ遅れてやってきた巫女が鼻を摘んで起こしてくれるまで、おれはちょっとした居眠りをしていた。
巫女の持ってきた清潔そうな手ぬぐいで毛髪にしたたる雨水を拭き取っていくうち、バターみたいになっていた脳みそが感覚を取り戻したのか、雨の音をいやにけたたましく感じ始めた。
「しばらく、上がっていきなさいね」
なるほどそうか、注意して聴けば雨はさっきよりも苛烈に降り注いでいることがわかった。
冬口の時雨にしては長雨だなと独りごちると、液雨っていうのよと得意そうに巫女が補足した。
物知りな巫女はやや大きな晒しの手ぬぐいをおれに渡し、雨水をよく拭き取ってから土間を出ること、風呂を好きに使ってよいことを言いつけると社務所の奥へ去っていった。
おれは、あいかわらず面倒見のよい巫女だと感心しつつ、薄っぺらい外套のボタンを、かじかんだ手指でもって苦心しながら外していった。
たっぷりと雨水を吸い込んだ衣服をなにもかも脱いで下着姿になってしまうととても身軽で、そしてなによりかえって暖かだった。
廊下の板間を濡らしてしまわないよう、渡された大きめの手ぬぐいでひとしきり体を拭ったあと、巫女の厚意に甘えたおれは風呂をもらうことにした。
脱衣所には、濡れた衣服を乾かすためのものだろう衣文掛けと、来客用のものなのか品のよい男物の肌着なんかが用意されていて、まったく至れり尽くせりだった。
まるで日焼けの皮みたいにぴたりと肌に張り付いていた下着をみんな脱いでしまって、用意されていた籠にそれらを放ると、おれは手ぬぐいを片手に浴室の戸をくぐった。
平生あの巫女はなにかにつけて不景気を訴えているようだが、据え付けられていた浴槽は総ひのき造りらしく、なんとも瀟洒なものだった。
風呂桶を満たす無色透明の炭酸水素塩泉は昨年の間欠泉騒動の折に彼女が勝ち取ったもののようで、ちょんとさし入れた指に効能豊かなアルカリ性のぬめりを感じた。
指先やつま先など体の末端から手桶でもって入念にかけ湯を行うと、先ほど雨に降られたことなどもうみんな忘れてしまったみたいに体は温まって、おれは思わずため息なんかを吐いていた。
いざ入浴という段になって、風呂桶にたたえられた湯をつま先で掻いてみると、これがかけ湯などよりもずっと温かで、巫女がおれのために新しく湯を張ってくれたのだと気付かされた。
彼女がおれを慕ってくれていることはもうずいぶん前から知っていたし、流れに任せて彼女と寝たこともあったが、一度だって彼女の好意に応えたことのなかったおれは、このときなんだか自分がどうしようもない卑怯者のように感ぜられて、もてなされた湯に身を沈めることがわずか憚られた。
しかしながら、このまま風呂を上がるのも酔狂に違いなかったので、すこしだけ逡巡をしたあとに、おれは湯船に体をゆっくりと沈めていった。
浴槽はじゅうぶん足を伸ばせるほどに大きく、体にまとわりつく湯の温かいことも相まって、おれはなんだか抱擁でもされているような心地だった。
あまりに具合がよいものだから、先ほど感じた巫女への罪悪感はおれの心にいっそう強く影を落として、どうにも参ってしまったおれは目を瞑り今後の身の振り方について考えることにした。
常日頃、おれは気立てのよいあの巫女に感心していたし、彼女が人里に生まれた娘だったなら、嫁のもらい手だって数知れずあっただろうと思う。
平生あまり愛想のよくないのがもったいないくらい見目形もおれ好みだったし、あれで初心なところのある彼女と寝るのは好きだった。
かんたんに言ってしまえば、おれは彼女を好いていないわけではなく、彼女とのつかずはなれずの現状をなにより心地よく思っていたのだった。
そのことを知る彼女の友人に、ちゃんとしてやる気はないのかと詰られたことは多々あったが、そのたびにおれは曖昧な答えでもって茶を濁してきた。
巫女の好意に応えてやろうという気概も、これでいてまったくなかったわけではないのだが、今度は妙な気恥ずかしさが邪魔をしたのだった。
おれとて、今まで惚れた腫れたの一つや二つ経験してこなかったわけではなかったが、ある時分をすぎてからは、そういった歯の浮くような色恋沙汰に対して逆走するのがなんだか恥ずべきことのように思えていたのだ。
もっと端的に言ってしまえば、おれは、彼女を愛しているにも関わらず、くだらない羞恥心に邪魔をされて彼女を素直に愛人とすることのできない、とんだ臆病者に違いなかった。
ナイフかなにかでもってさりげなく胸を開き、自らの想いをなにもかもそのままに見せてやれたらどんなに楽だろうかと考えて、やれやれとわざとらしくため息を吐いたおれは、二十数えて風呂を上がることにした。
巫女によって用意されていた下着と寝巻きは、案の定あつらえたみたいにおれの背格好にちょうどよい大きさだった。
これから彼女と顔を会わせるまでの猶予を噛み締めるように、おれはできるかぎりゆっくりとそれらに袖を通していった。
決して彼女から寄せられる好意を鬱陶しく感じているわけではなく、むしろおれの中にある彼女を愛しく思う気持ちは大きくなっていくばかりだったのだが、今度はそれがいけなかった。
平生の通り彼女と接するには、湯にあてられたのかいまのおれの頭はいささか茹ってしまっていて、いったいにどんな顔をして彼女に口を利けばよいのかすらわからなくなっていたのだ。
おれが風呂をもらっている間にあたりはもうすっかり暗くなってしまっていたらしく、廊下を奥にいった先にある襖から漏れ出ている灯が、そこに巫女がいるのだと教えていた。
板張りの廊下が湯上りのおれにはひんやりと冷たく、裸の足に触れた冷たさが意地悪くのぼってくるのを感じたが、おれはいま以上に歩みを速める気にはなれなかった。
ぺたりと一歩を進めるたびに、いままでのどこか生ぬるく、それでいてなにより心地よかった我々の関係が遠のいていくように感ぜられた。
わずか先にあるあの襖を開けて、あらためて彼女と顔を会わせしまえば、もうなにもかも変えずにはいられなくなるような気がしていたのだ。
やがて、巫女の調子はずれな鼻歌が奥の襖から聴こえるくらいに歩を進めたころ、おれはさっきの通り雨が止んでいるのに気付いた。
やらず雨でも降ってくれていたらどんなに気が楽になるだろうと考えたところで、自分のあまりに意気地のないのに呆れてしまったおれは、立ち止まってため息を一つ吐いたあと、口を真一文字に結んで光の差すほうへと歩いていった。
巫女は、昼間太陽をいっぱいに浴びた洗濯物を、やはり機嫌よさそうに鼻歌なんかを歌いながら一つ一つ畳んでいた。
おれが襖を開けて部屋へ入ってきたのに気付くと、四角く畳まれた格好の洗濯物から視線はくれずに、湯加減はよかったかと訊いた。
ああ、と返事をしてやると、彼女は再びどこかで聴いた覚えのある鼻歌を歌いだして、自分の下着なんかであっても気にせずに畳んでいった。
間の持たないことをなにより恐れていたおれは、彼女の隣に腰を下ろして、人心地でもついているように振舞うことにした。
「泊まっていきなさいね」
しばらくして一通りの洗濯物を畳み終えたらしい巫女が、やはり視線はくれず伏目がちに言ったので、おれもまた天井なんかを見つめながら、ああ、と答えた。
それから控えめに伸びをして足を崩した彼女は、傍らに置いてあった盆を引き寄せて、すっかり湯気の飛んでしまっているぬるい茶を啜っていた。
ふう、と吐いた彼女のため息を最後にして、思い思いにくつろいでいる格好の我々の間にわずか沈黙がのしかかった。
横目に巫女のほうを盗み見ると、そのとき初めて、いまのいままで彼女はこちらへ視線を向けていたのだとおれは気付いた。
「なあ」
巫女はなにも応えずに、そのよく磨かれたビー玉みたいな瞳でただこちらを見つめて、おれの言葉を待つばかりだった。
このときおれは、はじめから夢中だったのはおれのほうで、そんなこと、彼女にはとうの昔に伝わっていたのではないかと直感で思い至った。
「おまえが好きだよ」
それでも、知っているわ、だなんて上ずった声でおまえは言ったから、これはやはり伝えるべきことだったのだと思う。
おれは霊夢に恋してる。
お読みいただきありがとうございました。
先日投稿したはたてのSSを見返すとどうにもスカスカな印象を受けたので、今回はきっちりと書いてみました。
(前回本スレのほうではいろいろと迷惑をかけてしまいました。すみません。)
いままではSSを読む側に徹していましたが、SSを書く側に回るのもなかなか面白いものですね。
最終更新:2011年06月16日 23:24