美鈴12



美鈴と旅行3(新ろだ781)



「○○さーん、火つきましたー?」


「待て、もう少し……おし、ついた。魚こっちにくれ」


 あの後、俺の持てる能力全部使って美鈴と交渉し屋外は嫌、ということをなんとか知らせた。
問題はそこやないんやけど……あの時は貞操を守ることしか頭になかったからしゃあない。改め
て思うが、ほんまにコイツ変な性癖もっとらんやろな?


「なんですか?」


「なんもあらへん。魚だけじゃなんか寂しいな……もうちょいなんかないんか?」


「うーん、じゃあご飯も一緒に作りましょう。残り少ないんで節約したかったんですが」


 白米と焼き魚か。ええ組み合わせや、想像するだけでお腹鳴るわ。やっぱり日本人なら米と魚
で飯食うんが一番やね。飯盒でご飯を炊く準備をする美鈴を見ながら、ふと昔にやった林間学校
での食事風景を思い出した。
 そういや、あん時食ったんはカレーやったけど美味かったなぁ。自然の中で食べる飯があれほ
どとは思わんかった。それを考えると、今の無人島生活でのサバイバルもあれの延長線上みたい
に思えてくる。
 ……実際にはあれとは比べもんにならんほどしんどいけど。やっぱりサバイバル嫌や。


「明日はどうしましょう。山の中でキノコとかとってきましょうか」


「知識ないから毒があるのとないのとの区別つかへんで?」


「そんな事もあろうかと、魔理沙からキノコ図鑑をもらってきました」


「なんという用意周到さ。でも、あの黒いのは信用ならんのやけど」


 何せ盗人や。うそつきは泥棒の始まりと言うからね、まともなキノコ図鑑と称してその実、コ
レクター図鑑とか渡しそう。まぁ、冗談やけど。
 キノコに関してはプロだ、とかなんとか。魔法の森なんつー危険地域に好んで住んでるし、魔
法の実験でよくキノコ使うらしいし。その魔法使い様が使ってたキノコ図鑑や、大丈夫やろ。


「大丈夫ですよ。私もそこそこ知識はありますし、安心してください」


「寧ろなかった状態で俺をサバイバルに誘ったとしたんなら、お仕置きしとったわ」


「お、お仕置き……いえ、それは私にとってはご褒美かもしれませんっ」


「どこまで幅広い性癖もっとんのや!?」


 美鈴の実力が未知数すぎるわ。一体どこまで隠しとるんや、コイツ。もしやどこぞの帝王みた
いに"私はまだ三段階の変身を残しています"とか言わへんやろうな……。これ以上パワーアップ
されたら本気で対処できん。


「まぁ、飯が炊けるまで時間かかるやろうしまったりしとこか」


「そうですね」


「って、何で横に来て引っ付く。体重かけんな、重い」


 下手に引っ付いてるとまた発情しよるからな、油断できん。外で襲われるとか勘弁やから気を
つけへんと。
 ……まぁ、決して嫌や言うわけやないけど。それでも、羞恥心とか常識というものをもって行
動して欲しいのが本音なんよ。俺が疲れる。


「あはは、やだなぁ。幻想郷での常識は外での非常識ですよ?」


「確信犯かい! そしてにこやかに言うな!」


 不安が増大しすぎて破裂しそうやわ。これは美鈴の性癖を本気で疑わんといかんなってきた。
毎度毎度、見られるのが快感になるからといい続けていたからもしやとは思っとったが……今
度から警戒レベルを引き上げな。


「二人っきりなんですから、これぐらいいいじゃないですか」


「発情期の犬に好んで近づく阿呆はおらん」


「そんなこと言ってー。本当は○○さんも」


「そこまでや!」


 ぱっちぇさんがおらんから、俺が頑張らないとあかん。それに、この時期のあの人もそこまで
よとは言えんやろうし。自分の恋人相手にゃーそりゃ言えん。


「飯時ぐらい静かにしてくれ。ゆっくり食事もできんのか」


「はいはいはいっ、私○○さんにあーんとかやりたいです!」


「やらんでええ、そして話を聞け。俺の唯一の安息の時間まで奪わんといてくれ」


 メシ食うとる時が一番安心ってどうやねん。寝てる時はいつ、この阿呆が夜這いにくるか不安
でオチオチ寝てられん。まぁ、こっち来てそれなりに日にちは経ってる間、それが一度もなかっ
たことに、驚けばいいのか安心すればいいのか……。
 警戒は解いてもいいかもしれんけど、でもやっぱり不安はあるのでまた今日も浅い眠りや。く
そう、帰ったら二日ぐらい寝たる。


「魚そろそろ焼けそうですね」


「やな……あっつ。あぶな、危うく手突っ込むところやったわ」


「やだ○○さん、変なこと言わないでくださいよぅ」


「うん、別に誰も変なこと言うてないよな? 俺はただ、火の中に手をいれそうになった言うた
だけやし。突っ込み拒否」


 脳内ピンク色かほんま。会った当時はこんなんやなかったんやけど……こう、真面目というか
常識的というか、もっと清楚な感じがしたはず。変わりすぎやないか?
 俺のピュアな恋を返してくれと言いたい。


「ご飯もできたしさっさと、いや、冷めん程度にかつゆったりと食うぞ」


「その後はお楽しみタイムですね!」


「そんな予定はない」


 俺にとってのお楽しみは熟睡できることなんやけど、暫くは無理そうで凹む。まぁ、あと少し
辛抱すれば念願の帰還。そこまで俺は頑張るんや。
 正直、時計も何もないから日にちと時間の感覚が非常に曖昧やが。これでまだあと一週間ぐら
いあるとか言われたら発狂する。


「口移ししましょう!」


「静かに食え、いや、食べてくださいお願いします」


 プライドなんぞいらん、平穏を俺にくれ。楽しいのかしんどいのか泣きたいのかもうわけがわ
からんくなってきた。
 とりあえず、頼むから美鈴自重してくれ。



 ~キング・クリムゾン~




「……大丈夫?」


 憔悴しきっとる俺に、紫さんが声をかけてくるけど、正直返事をする気力もないわ。めっちゃ
疲れたし……はよ帰って寝たいわ。


「もう終わりかぁ。もうちょっと二人きりでいたかったのに」


「ふふ、その様子だと楽しんでたみたいね。それにしても、本当にこんなとこで良かったのかし
ら? 何もないところだけど」


「○○さんと一緒ならどこでも楽しいから」


「あらあら、ご馳走様。おあつい二人の熱気にあてられちゃったわね」


 紫さん、その顔やめれ。


「それじゃ、幻想郷に戻すけど……○○?」


「な、なんや? はよ戻って寝たいんやけど」


「ご家族に挨拶とか、しなくてもいいの?」


 心配そうに言うのでもなく、紫さんは感じた疑問を口に出しただけみたいな顔。確かに、戻る
ことないと思うてたこっちに戻ってきたんやから、挨拶の一つや二つやっといたほうがいいんや
ろうけど……。


「別にええわ。どうせ来年もまたやるんやろ?」


「の、つもりではいるけどね」


「そんときにでも行きゃいい」


 親らには悪いけど、今回は見送りや。心配しとるかもしれんけど……横におる奴が不安そうに
しとるし。コイツの決心がついたら、本当に結婚の挨拶でもしにいってもいいと思う。
 次の機会がなかったら、その時は紫さんにでも頼んで手紙でも書いて届けてもらうか。それぐ
らいなら、頼んでも問題ないやろ。


「そう、貴方がいいなら問題ないわね」


 こっちを微笑ましそうに見とる紫さんは、多分気付いとるんやろな。ええい、地霊殿におる古
明地さんとこのさとりさんやあるまいし。こっ恥ずかしくなるからこっちみんな。


「?」


 コイツが気付いてないのが、幸いか。


「じゃあ、戻りましょうか。○○もそろそろ限界みたいだし」


「はよ頼むわ。このサバイバルは早いところ良い思い出にしたい」


 記憶の奥底に封じ込めて、何年かあとに思い出話で盛り上がらせる的な意味で。


「お嬢様や咲夜さん達に会うのも久しぶりな気がするなぁ」


「あの人らも楽しんでたやろな。レミリアとかフランあたりがはっちゃけてそうやわ」


 俺らも負けてへんけど。いや、俺らというか美鈴が。それでも愛想つかさんのは、やっぱ惚れ
た弱みっちゅーやつかねぇ。



「とりあえず帰ったら○○さんの家でしっぽりと熱い夜を過ごすんですね!」


「最後の最後でそれか!? もう少しキレイに終わらせようとする気はないんか!?」



~チラシの裏~

外界旅行編、終了。

美鈴は最後まで阿呆の子。流石俺の嫁、そこが可愛い。

次回の外界旅行があるか知らないけど、あったらまた書くよ! 多分。

その前にクリスマスと新年があるけどね。

~チラシの裏~



新ろだ818(U-1表現注意???)



「ふははは…… その程度か紅美鈴よ?」
「……くっ」
繰り出された強烈な一撃のダメージは相当なものだった。
身体がいうことをきかない。
崩れそうになる足腰を必死に留めるが、それ以上のことは出来そうにない。
しかし、私は負けるわけにはいかない。
ここで敗れたら、幻想郷の危機を誰が救うというのだ。
「……ふん、往生際が悪いぞ。そんな身体で何が出来る?」
勝ち誇ったように巨体を震わす太歳星君。
「まだだ。私とて紅魔の一員。ここで退くわけにはいかぬ!」
「……ほう、その心意気は誉めてやろう」
ギョロリとした眼をこちらに向け、その身を沈める。
「だが…… 心意気だけでワシに勝てると思うな!」
そしてその体躯でよくもという速度で突進してきた。
ふらつく身体に鞭打ち、大地を踏みしめる。
だが身体は動かず、がくりと膝が地についてしまう。
迫る太歳星君。……避けられない、万事休すか。
歯を食い縛りきつく目を閉じる。
しかし、私を吹き飛ばすであろう衝撃はいつまでたってもやって来ることはなかった。
恐る恐る目を開けると見覚えある背中が目に飛び込んでくる。
「ぬうっ!? ……貴様は」
驚きに目を見開く太歳星君。
「……すまない。遅くなった」
○○さんが太歳星君の突進を受け止めていたのだ。
「○○さん!? どうして!?」
危険がないように、避難したはずなのに……
「ピンチに駆けつけられなくて、何が相方だ! 加勢するぜ、美鈴!」
「駄目です○○さん! ここは私に任せて、貴方は安全なところに……」
「馬鹿言うな! 今だって危ないところだったじゃないか!」
「だからこそです! 貴方にもしものことがあったら」
「ワシを無視するとは、いい度胸じゃぁ!」
「ぐっ!?」
苛立った声を上げて太歳星君が○○さんを突き上げる。
高々と宙に舞ったその身体を、身を翻した太歳星君の尾ひれが捉えた。
そのまま地面に叩きつけられる○○さん。
もうもうと上がる土煙。
「○○さん!!」
「馬鹿め、ただの人間がワシに逆らうから……なっ!?」
「……まあ、今のは少し効いたな」
土煙が晴れた先にはほとんど無傷の○○さんが立っていた。
「○○さん!」
「ば、馬鹿な、貴様は何者だ!?」
「さっき自分で言っていただろう。『ただの人間』だと」
「ふざけるな! ただの人間がワシの力を……」
「一念岩をも通す。大切なものや人を守るためなら、人はどこまでも強くなれるのさ」
「知った風な口を……」
怒り狂う太歳星君に呼応するように大地が震える。
「聞くなあああああ!!!!」
怒号とともに地盤が崩れ、岩石となって降り注ぐ。
しかし、○○さんはそのことごとくを避け、未だにへたりこんだままの私を抱えあげる。
「……よく頑張ったな、美鈴」
そのまま頭を抱え込むように抱き締められた。
じんわりと暖かな気が流れ込んできた。
満身創痍だった身体に活力が蘇ってくる。
「……これは」
「想いの力は気の力。俺は美鈴を護りたい。そして、その美鈴の愛する幻想郷を護りたい」
ゆっくりと私を下ろす○○さん。
さっきまでの状態が嘘のように、足はしっかりと地面を掴んでいる。
組むように握られた手から伝わる力。
「想いは伝わり、交われば大きくなる。純粋な想いを皆が抱けば、それが真実となる」
繋がった手に集まる力の源を理解した。
「……気の、力」
優しく強い心を持つものが生み出す勇気。
○○さんがその「気」を送り込んでいるのだ。
「さあ、奴を倒して宴会といこうぜ」
「はい!」
全身に満ち満ちる力強い気、それを練り上げて繋がれた手に集める。
二人分の勇気の力は大きく、輝きを増していく。
「ふざけるな!!! そんなものでやられるワシではない!!!
 まとめて地の果てまでまで吹き飛ばしてくれるわ!!!!」
地中に潜り身を隠す太歳星君。
深く地に潜り、得た推進力で私たちを吹き飛ばす魂胆だろう。
……だが
「美鈴!」
「○○さん!」
背後からの気配に反応し、同じタイミングで跳ぶ。
同時に足下から勢いよく飛び出した太歳星君。
弧を描いて落下すると再び地中に消えた。空中で無防備な私たちを狙うつもりだ。
しかし、それこそが私たちの狙い。
繋いだままの手を飛びかかってくるであろう場所に向ける。

「……我ら幻想郷を守りし一対の門」

「この地の安住を守る最初にして最後の砦」

「災いをもたらす者通ること能わず」

「「我らが想いにより、闇へと帰れ!」」

繋がれた手から流れるまばゆい光が太歳星君を飲み込む。
「ば、馬鹿な、このワシが…… ぐあああああああああああ!!!!!」
光が晴れた後には、みじめなまでに縮んだ太歳星君の姿があった。
「……今回はワシの負けだ。だが忘れるな、我が野望を諦めたわけではない!
 いずれ必ず幻想郷に厄災をもたらしてくれる!それまで束の間の勝利に酔うがいい!」
捨て台詞を残し空の彼方へと消えていく太歳星君。
「やりました! ○○さんのおかげです!!」
「いや、美鈴が挫けることなく戦った結果だよ」
「……でも、嬉しかったんです。○○さんに守ってもらえて」
「……まだ終わったわけじゃない。奴はきっと戻ってくる。
 幻想郷の平和のために、一緒に戦おう」



「○○さん……スピー」
「美鈴……ムニャ」
「……ご覧のありさまよ」
「……これはひどい」
紅魔館の地下にある図書室。
昼なお薄暗いそこで、○○と美鈴は眠っていた。
彼らの周りには読み散らかされた漫画が転がっている。
「永遠亭から面白そうな薬を貰ったから試しに飲ませてみたけど、人選に失敗したわ」
「……どんな薬ですか?」
「なんでも、他人と夢を共有出来るらしいの」
「手まで繋いでまあ。……どんな夢を見ているのかしら?」
「だいたい想像はつくけどね」
自身の書斎を散らかされて不機嫌にパチュリーは言う。
「起こさないのですか」
「今起こしたら不満たらたらでしょう。そっちの方が面倒くさいわ。
 起きたら今度は現実と戦ってもらうことにする」
机に高く積み上げられた本に目をやるパチュリー。
理不尽な命令を聞くはめになるだろう二人に、心のなかで合掌しながら咲夜は書斎をあとにした。

こうして幻想郷の平和は保たれた。
しかしこれは始まりに過ぎない。
何故なら二人はそろそろ目を覚ますのだから。
「……わたしたちの戦いは」
「……これからだ」
行け行け美鈴!
負けるな○○!
紅魔館の図書館を片付けられるのは、君たちしかいない!



新ろだ883



 やぁ、みなのしゅう。今日は家で寝よう。そう決めてたんやけど、突如やってきた美鈴に拉致られ
て今は紅魔館の住人となった外の人間、○○や。
 つっても、本当に住人になったわけやないで? 俺の家は人里の離れたとこにあるマイホームだけ
や。紅魔館も決して悪いとこやない(幻想郷縁起じゃ近づくと危険と書いとるけどな)が、あそこが
やっぱ落ち着くねんな。


「んで、なんやねん急に人を拉致して」


「悪いわね、○○。どうしても人が足りないから、美鈴に貴方を呼んでもらったのよ」


「そりゃ人は足らんよな。ここには人はさくさんしかおらんし」


 他は吸血鬼に妖精に魔法使いに悪魔に妖怪や。人間なんちゅーいきもんは今現在、俺とさくさんし
かおらんわ。


「揚げ足取りはいいのよ。○○、貴方のその喋り方……確か、かんさいべん? だったかしら」


「そうやけど。や、まぁ俺みたいな喋り方する奴も少ない思うよ?」


 自分で言うのもなんやけど。某ミナミの帝王みたいとは言わんけどな。あそこまでコテコテな関西
弁は、今じゃあんま見かけへんし。生粋の関西弁、っつーのもわからんしなー。


「そうなの? まぁ、いいわ。最近何か面白いことがないか考えてたのよ」


「ふぅん。んで、それと俺の関西弁に何の関係があんねん。あと、美鈴」


「はい?」


「後ろから抱きつくな。寒いから人肌はあったかいけど、胸あたっとんねん。恥ずかしいやろうが」


 当ててるんですよ、とこの阿呆やめへん。暖かいのはええねん、でもさっきからさくさんの視線が
ごっつ痛い。そらもう、視線で人が殺せるならとありきたりな例えで言うと、俺の命は今で二回ほど
死んどる。
 さくさん、怖いからやめて。心臓に悪いです。


「で、思いついたのよ。守矢の巫女に聞いたんだけど、外じゃ漫才っていうの? ああいうのが流行
ってるって言うじゃない」


「あー、まぁ流行ってると言えば流行ってたんかな。俺もよく、テレビで見てたわ」


 漫才とか、某新喜劇とか。こっちきてからそういうのとは無縁になったから、すっかり忘れてしも
うてたな。懐かしくなってきたわ。
 関西人なら、あれを見て育つのは当たり前やし。や、多分。


「あれをやろうって」


「レミリア、正気か?」


「失礼な物言いね、血吸うわよ」


「あかん、そこは血ぃ吸ぅたろかって言うとこやで」


 勿論ジェスチャーこみで。それを説明したら吸血されたわ。首筋からやるのはほんまにやめてとあ
れだけ……。痛いの嫌やのに。


「い、いきなりはないわ……ちょ、誰か輸血して」


「なら、私が気を送り込んで癒します! 性的な意味で!」


「ありがとう、その言葉で貞操の危機を感じて血液が溢れたわ。もういらん」


 油断しとると食われる。結局、外界旅行から帰ってきた後、見事に美味しく頂かれてしもうたから
な……あかん、思い出すと震えが。
 減った分の血は、さくさんが持ってきてくれたレバーを食べて補給した。できるまで時間かかるか
らまた吸われへんよう注意やね。


「紅魔館全員やるのよ。でも、二人一組にすると一人余るのよね」


「……? いや、ちょい待ってや。普通にできるんとちゃうか?」


 ぱっちぇさんとこぁやろ、さくさんに美鈴、んでレミリアとフラン。見事に三組で出来とるやん。
人手が足らんとか嘘やん。


「何を言っているのよ。パチュリーと小悪魔、咲夜とフラン。ほら、美鈴だけ余るじゃない?」


「おま、自分は参加せーへんのか!?」


「カリスマある私がそんな事したら、本当にカリスマブレイクするでしょう」


 こいつは、何を言っとるんや。カリスマて、元々そんなもんあった気はせーへんのやけど。そんな
事を考えてたらレミリアの視線がめっちゃこわなった。
 こっちみんな。


「悪いけど、俺は漫才とかする気せーへんよ。関西人が全部芸人気質や思うたら大間違いや。人に笑
われるなんて、俺には恥ずかしゅうてよう出来へんわ」


 そもそも、俺は面倒くさがりやと知っとるやろうに。そういうのは見てるのが楽しいんであって、
やる方はよほど好きでもない限りできん。レミリアも見て楽しもうとしとんのやけど、俺もどちらか
というとそっち側。
 芸人は芸人ですごい思うけど、俺はごめんやね。


「えー、一緒にやりましょうよ○○さん。絶対楽しいですって」


「いーやーや。そもそも、ネタ考える頭ないわ。ああいうの考えるのん、めっちゃ難しいんやで?」


「大丈夫、二人の愛の力で」


「なるか阿呆」


 確かにコイツのことは好きやけど、なんか日を重ねる毎にコイツの俺へのスキンシップが激化して
いく気がしてならん。つ、付き合い始めた当初は手を繋ぐと照れてたというに、今や寝てる俺に襲い
掛かってくるアクティブタイプに変化。
 一体何があったんやコイツに。進化ってレベルやないで。


「○○、美鈴。夫婦漫才もそこそこにね」


「やだお嬢様、夫婦だなんて!」


「誰がコンビか」


 いや、人生のパートナーという意味では間違ってはないかもしれんけど。まだ結婚もしとらんし、
プロポーズもしとらんのに。いつかせにゃならんと考えると、軽く死ねるわ……恥ずかしさで。


「俺は帰って寝る。あと二日はお休みなんや、ゆっくり惰眠を貪って癒されたい」


「相変わらずの自堕落生活ねぇ」


「ほっとけ。って、なんや美鈴この手は」


 俺の袖を掴む美鈴ハンド。その力は強く、俺ごときの力では到底引き剥がすことは出来ないハイ
パワー。流石妖怪、人間様とは格が違うな。
 いや、そこはどうでもいいわ。


「帰しません。○○さんと一緒に夫婦になるんです」


「漫才抜けてる!? まて、レミリアが言ってたのは息が合ったコンビやってことで、別に夫婦っ
てわけやない!」


「大丈夫、私と○○さんなら相性ばっちりの夫婦になれます!」


「だから漫才が抜けとるねん!」


 気合と根性と貞操を守る意思で美鈴の拘束から抜け出し、全力ダッシュ。部屋を飛び出し、紅魔
館の廊下をひた走る。メイド妖精とかとすれ違い、何しとんやコイツ的な目で見られるが無視。


「なんで逃げるんですかー!」


「漫才すんのはごめんやし、お前の目が怖いからや!」


 くそ、相変わらずさくさんの能力で無駄に広い家やな、道がわけわからん。でも、ここで逃げき
らなまた食べられる。性的な意味でな!


 結局、逃げ切れずに見事に食べられたけどな!(涙)




「ねぇ、咲夜」


「なんでしょう」


「思ったんだけど、あの二人見てる方がよっぽど面白いんじゃない?」


「それには同意しますわ。でも」


「?」


「あまり直視しすぎると、そのうち目から砂糖が出たり食べるものが甘く感じられるかもしれませ
んよ?」


「……ほどほどにしておいた方がよさそうね」


 --------チラシの裏--------

むしゃくしゃしてやった。反省はしている。

最近寒いので、美鈴とイチャイチャして暖かくなりたかった。

漫才云々は某グランプリから。

相変わらず美鈴が阿呆の子だけど、好きすぎるから問題ない。

美鈴かわいいよ美鈴。性的な意味で食べられたいよ!


 --------チラシの裏--------


新ろだ935


 幻想郷にも、クリスマスがあったらしい。外の世界から幻想郷へと迷い込み、博麗神社に間借りさ
せてもらいおよそ一年。
 博麗の入れてくれたお茶を啜りながら、遊びにきた霧雨の三人で話をする。


「恋人とイチャイチャして、クリスマスプレゼントを上げたりもらったりする日だろ?」


「いや、本当は違うんだけど……まぁ、日本人にとってはそんな感じだから間違ってないか」


 正しくクリスマスの意味を知っている人間が、果たしていくらいるのか。俺だってちゃんと知って
いるわけじゃないし。それに、所謂負け組に属していた俺にとってクリスマスは苦痛でしかない。外
の世界でもバイトばっかで、懐が潤うだけだったし。
 周りは彼女持ちとか結構いたので、寂しい日々。空しくなったことは数知れず。だけど、今の俺は
勝ち組と言ってもいいのだが……。


「二人とも、クリスマスは誰かと……って、いたら今一緒にいないか」


「うるさいわね、いい男がいないんだから仕方ないでしょう?」


「右に同じだ。私についてこれる男じゃないとな」


 難しい注文を、と口には出さずに心でもらす。博麗の場合、そのお眼鏡に適う男ってのはどんな超
人なのか。


「そっちは門番と過ごすんじゃなかったのか?」


 霧雨の言う門番。紅魔館というレミリア・スカーレットが君臨する館の門を守護する妖怪、紅美鈴
と俺が付き合うことになったのは三ヶ月ほど前。告白は情けないことに、美鈴の方から。


「うーん……」


「何よ、煮えきらない反応ね。どうしたのよ」


「いや、二人の話を聞くまでクリスマスがあるとは思ってなかったからさ。それに、もう向こうでパ
ーティとかしてるんじゃないか? もしくは、今日も仕事とか」


 無理強いはできないし。予めクリスマスがある、っていうのを知っていれば予定とかを聞いて約束
を取り付けたりしたけど……もう当日だ。何もかも遅すぎた。


「おいおい、そこは男なら無理矢理にでも攫ってくるとこじゃないか?」


「阿呆、んなことしたら迷惑だろ」


「たまには強引に攻めるのもいいんじゃない? ほら、女の子って普段は違う態度に惹かれるってい
うし」


 そうだとしても、時既に時間切れって奴だ。早めに調べておけば良かった、と後悔後に立たずを身
をもって痛感する。あれ、こんな諺だったっけ?
 ずずっと少し温くなった茶を飲む。


「ん? へへ……おい○○。お待ちかねの恋人の登場だぜ?」


「へ?」


 霧雨の言葉に振り向けば、いつものチャイナ服の下にズボンを履きマフラーをつけ、白い息を吐き
ながら立つ美鈴。俺と視線が合うと、ほわっとした笑顔を浮かべた。
 それに不覚に高鳴る胸。顔が赤くなってないか少し不安になる。靴を履いて美鈴の下まで行く。


「今、大丈夫?」


「あぁ。美鈴、仕事は?」


「今は別の子達に任せてる。あ、お邪魔してるからー」


 手を振る美鈴。博麗と霧雨はひらひらと手を振って茶を啜っている。その顔が、どことなくごちそ
うさまと言っているように見えるのは気のせいか。


「で、どうした?」


「今、用事とかある?」


「……いや?」


 そう言うと美鈴が安堵した表情に。


「あのね、うちでクリスマスパーティをやるんだけど、来ない?」


 さっきはああ言ったものの、本当にパーティやるのか。本来なら聖人の誕生日を吸血鬼が祝う、な
んてありえないと思う。まぁ、そこんとこはどうでもよくて口実付けで騒ぎたいだけかも。


「いいのか?」


「うん。お嬢様達にも許可は取ってあるから」


「なら、行かせてもらう」


 神社に戻って防寒具一式と必要なものを全て持つ。博麗と霧雨に行ってくる、と伝えるとお土産よ
ろしくと返された。料理でもタッパにつめて持って帰ればいいんだろうか?
 美鈴と一緒に、紅魔館に向かって飛ぶ。といっても、俺は飛べないので美鈴に抱えられる形での移
動だ。


「急にごめんね?」


「いや、いいよ。俺としては、誘ってくれただけでも嬉しいし」


「クリスマスは恋人と過ごす日、でしょ?」


「正確には違うんだけどな……でも、ごめん」


「何?」


「幻想郷にクリスマスがあるとは思わなかったから、プレゼントとか用意してない」


 美鈴にあげられるものなんて、俺は何も持ってない。こういう時ぐらい、何か甲斐性を見せてやる
べきだと言うのに。情けなくて少し泣きそうになる。


「大丈夫、これからちゃんともらうつもりだから」


「いや、だから渡せるものがないって」


「安心して、物じゃないから。というか、私が一方的にもらうかも」


 なんだそれ、と口に出す前に紅魔館へと到着する。屋敷の前には館の住人が全員集合していた。ス
カーレット姉妹に十六夜さん、ノーレッジに小悪魔。


「ただ今戻りました」


「お帰り、美鈴。首尾よくいったみたいね」


 首尾よく、って十六夜さんはなんのことを言ってるんだろう? 


「いえ、まだ言ってないんですよ」


「あら、じゃあこれから? ふふ、いい物が見れそうだわ。ねぇパチェ」


「悪趣味よ、レミィ。でも……少しだけ同感だわ」


 少し興奮しているのか、レミリアの羽がばさばさ動いている。フランドールは、にこやかにこっち
に手を振ってきている。とりあえず振り返すと嬉しそうに笑った。


「美鈴さん、頑張ってくださいね」


「うん、ありがとう小悪魔」


「なぁ、一体何の話だ?」


 仲間はずれにされてる気分なので、少々寂しい。


「○○がくれる予定のクリスマスプレゼントのこと。あ、私があげるのかな?」


「意味がわからないんだけど」


 どっちなんだ、美鈴がくれるのか俺があげるのか。


「えと、ね。○○、ずっと博麗神社に住んでるでしょ? こっちに来てから」


「あぁ、博麗には感謝してる。時々賽銭入れたりはしてるけど、基本無駄飯食らいみたいな俺をずっ
とおいていてくれるし」


 まぁ、それ以上に扱き使われたりしてるんだけど。境内の掃除やら神社の掃除やら倉庫の掃除やら
階段の掃除やら……。


「私はここを守る仕事があるから、そうそう会いに行けないし。○○も仕事があるから会える日がも
っと限られるからさ……お嬢様に言ったの」


「……何を?」


「○○をここに住ませてあげてくれませんか、って。何か言われるかなって思ったけど、あっさり許
可が下りて少しだけ拍子抜けしたけど」


 そう言って嬉しそうに美鈴が笑う。レミリアへと視線を向けると、明後日の方向を向かれた。どう
やら照れているらしい。


「それで……どう、かな?」


「どう、って?」


「紅魔館に住むこと。○○は、嫌だった?」


 ……そんなわけない。


「いや、嬉しいよ。ありがとう美鈴、最高のクリスマスプレゼントだ」


「良かったぁ、断られたらどうしようかと。ありがとう○○、私にとっても最高のクリスマスプレゼ
ントになった」


 あぁ、もう。なんでこいつはこんなに可愛いこと言うんだ。我慢できずに美鈴を抱き寄せ、もう離
すまいと言うほど抱きしめる。寒いこの時期に、美鈴の体は暖かくて。
 正直、美鈴以外の面々がいるってことを忘れていた。


「んんっ、イチャイチャするのはいいんだけど少しは私達も気にして欲しいわね」


「咲夜、それは言わぬが花ってやつよ。いいじゃない、見てる分には面白いんだし」


「あ、ご、ごめんなさい! ちょっと○○、恥ずかしいから離してっ」


 言われずともすぐに離れる。ニヤニヤとこっちを見る吸血鬼と魔女、そして司書が恨めしい。それ
以上に周りを意識しなかった自分の無防備さが恨めしい。
 いや、後悔はしてないけどさ。しかし、これから紅魔館暮らしか……博麗に説明して、これまでの
恩ぐらいは返さないと。


「さ、入りましょう。ずっと外にいたから寒いわ」


「すぐに暖かい紅茶をお出ししますわ、お嬢様」


「○○、いこっ。美鈴もっ」


 皆、紅魔館へと戻っていく。ぎゅっと手を握られる感触。横を見れば、美鈴が白い息を吐きながら
微笑んでいる。そんな美鈴の鼻に、白い結晶が咲いた。


「つめたっ」


「雪か」


 クリスマスに雪。ホワイトクリスマスとは良く言ったものだが、実際はそんなことになることは滅
多にない。クリスマスに降る雪、というのが幻想的で綺麗な光景。もしかしたら、幻想郷では珍しく
ないのかもしれない。
 ここは幻想が存在する場所。忘れられた存在やモノが辿り着く最後の楽園。もしかしたら俺も、外
の世界では既に忘れ去られているんだろうか。


「○○、どうしたの?」


「なんでもない。さむっ……早く中に入ろう、風邪ひきそうだ」


 だけど、そうだとしても構わない。俺をずっと育ててくれた両親に報告できないのが心残りだが、
俺には大切な人がいる。彼女がここにいる限り、俺の居場所はここにしかない。たくさんの友人達に
大切な恋人。
 俺は幸せだと、胸を張って言える。


「美鈴」


「ん?」


「メリークリスマス」


 美鈴から返ってきたのは、笑顔とキスだった。



 ---------チラシの裏---------

攻めてない美鈴と受けてない○○のお話。

幻想郷にクリスマスがあるかないか。そんなことはどうでもいいんだぜ。

あると言えばある。ないと言えば教えればいい。

美鈴大好き愛してるLOVE。そして紅魔館メンバー愛してる。

美鈴とホワイトクリスマスで寄り添ってすごしたい。

 ---------チラシの裏---------


現世から別れて幻想郷へ(新ろだ2-086)


 さて、準備は済んだ。後は、実行に移すだけ。


「……大丈夫なんだろうか」


 今から行うことが、ちゃんと成功するのか分からず、やや不安を覚える。が、今更何を不安に思う必要があるというのか。

まだ未練があるのか、と自分を嘲笑う。下らない、本当に下らない。不安に思うのなら、今すぐにやめればいい。

 それは出来ない。もう、うんざりだからだ。だから、俺はこの世界と決別する。現世の柵から開放されたいが為に、俺は今

から死ぬ。人間関係、仕事……二つともうまくいかず、幼少から積もってきた疲れが、今の俺を動かしている。これはきっと

逃げなんだろうと思う。別になんて言われようとも構わない、もう疲れた。


「……」


 手元にあるのは眠れないと嘘をつき、なんとか手に入れた睡眠薬。飛び降りる勇気も、刃物を使う勇気も俺にはない。だか

らこんな姑息な手段を選ぶ。これで死ねるのか分からないが、やるしかないんだ。俺はもう、生きるのが辛い。睡眠薬を手の

ひらにぶちまけ、水を口に含む。

 間近に迫る死の恐怖に、体が震える。だが、これ以上生きていても辛いだけだ。迷惑をかけるだけだと暗示をし、震えを意

識的に止める。そして、手にした無数の錠剤を口の中に放り込み無理矢理飲み下す。


「っ……」


 飲んだ、飲んでしまった。後を考えるのが怖い、すぐに横になる。時間が経てば、眠気が俺を襲ってくるだろう。そのまま

眠ってしまえば終わり。眠るように死ねるはず。

 親にも迷惑をかけっ放しだった、せめてもの償いとは言わないが仕事で貯めたお金を残してある。


(やっぱり、怖いな)


 意識がやや薄れてゆく。これでお別れか、と最後に小さくため息。結局、何のために生きてきたのか分からずじまいだった

なと思いながら、俺の意識は完全に闇の中へと消えていく。意識がなくなる最後、ようこそという女の声が聞こえた気がした

……。







 ゆさゆさと体が揺り動かされる感覚。そんなことありえない、俺はもう死んでいる筈だ。だからこの感覚は、生前の未練が

生み出した幻。


「あの、起きてください」


 ……女の声。いや、これも幻聴に違いない。というか、ありえない。聞いたことない声だし、俺の部屋に見知らぬ女があが

りこむなんてますますありえない。さっきからありえないばっかりだ。


「あのー」


「……」


「起きてますよね。起きてくださいってば」


 ぺしぺしと頬を叩かれる。認めるしかないらしい、俺は今確かに生きていて、誰かが俺を起こしている。ここがあの世とか

だとしたら、ありがたいんだが。そう思いながら目を開ける。

 目を焼く光に思わず手をかざす。そして、疑問が浮かぶ。今のは電灯の光じゃなく、太陽の光だ。頬を撫でるのは風、俺の

体を支えているのは草。だとすると、ここは外?


「なんで……」


「おはようございます。こんな所で寝てると風邪を引きますよ」


 目が光に慣れ、視界がクリアに。目に入ったのは緑色の帽子を頭に乗せた女。赤い髪が風になびいて、幻想的に見えた。次

に目に入ったのは着ているチャイナ服……て、何故チャイナ?


「アンタ、誰だ……?」


「こっちの台詞ですよ、それは。ここは私が世話をしている花壇なのに、水をやりにきたら貴方が寝ているんですから」


「花壇?」


 起き上がる。辺りを見回せば確かに、花が咲き誇っていた。


「なんで、こんなとこに」


「……その格好、貴方外の人みたいですね。また迷い込んだのかな」


「外の、人?」


 意味が分からない。だが、正直どうでもよかった。ただ、死ねなかった……その事実だけが、俺に重く圧し掛かる。まだこ

の辛い世の中を生きなければならないのかと、絶望だけが残る。


「何か、あったんですか?」


「なんで」


「辛そうな顔をしてます。今にも死にそう……いえ、死にたいって顔」


 彼女の顔を見る。こちらを伺うような顔、そんな顔を見ているのが辛くなり視線をそらす。


「関係ないだろう」


「そうですけどね。でも、そんな顔されていると気になりますから。ほら、話してみてくださいな。見ず知らずの相手でしょ

うけど、話ぐらいは出来ますよ」


 にこにこと女は座り込み、俺を見上げてくる。どうしたものかと思案したが、ため息と一緒に腰を下ろす。こんなこと、他

人に……しかも見ず知らずの人間に話すことじゃないのに。気分を悪くしても知らないからな、と前置きをおいて俺がここに

いることになるまでの経緯を簡単に話す。

 仕事が思うようにいかず、仕事でもプライベートでも人間関係がぎくしゃくし人と関わることが嫌になり、幼少の頃イジメ

にあっていた時から溜まっていた生きるといことへの疲れが限界に達し、死ぬ決意をしたこと。自室で親宛に遺書を書き、睡

眠薬を大量摂取することにより死のうとしたこと。だが、気がつけばこんな所でこんなことを話していること。

 誰かに聞いてもらいたかったのか、饒舌に丸ごと包み隠さず白状していた。


「結局は、俺の精神が弱いから死のうなんて思ったんだと思う。そうさ、俺は弱い。ちょっとしたことですぐ落ち込むし、面

白いことなんて何も言えない。不器用だし、友達少ないし……って、こんな事言われてもそっちは困るよな。ははは、見ず知

らずの相手に何言ってんだろ俺、馬鹿みてぇ」


 泣きそうになる。視界が滲み、涙が溢れそうになるのを隠すために膝の上に額を落として俯く。そんな俺の頭の上に、ぽん

と何かが落とされる。少しだけ視線を動かして見てみると、そこには彼女の手。


「泣いていいですよ、今ここの屋敷の人たちは全員出掛けていますから。思いっきり泣いて、すっきりしてください。聞いて

いるのは私だけ、誰にも言いません」


 柔らかい笑顔で、俺の頭を撫でる。今まで堪えてきたものが一気に溢れ、俺は恥も外聞も投げ捨てて大声で泣いた。そんな

俺を彼女はずっと撫で続けてくれた。その手の温かみが、今の俺には優しすぎた。



 それが、彼女――紅美鈴との出会いだった。



 ---チラシの裏---

 ちょっと最近鬱ってたので、逆にそれを活かしてみる。

 いつもはほのぼのというか、ギャグ路線で受けてる○○と攻めてる美鈴だけど、こういうのもたまにはいいよね。

 美鈴の無限の包容力に包まれて、泣いてすっきりしたい。

 たぶん、続く。わからないけど。

 ---チラシの裏---


最終更新:2010年10月15日 02:19