美鈴13



お母さん美鈴 3(新ろだ2-231)


 ○○が美鈴に拾われてから一年程が過ぎた。妖怪からすれば刹那の時間、しかし人間からす

ればそれなりに時間が経過している日々。その間、紅魔館にはイベントが盛りだくさんであっ

た。


 ○○がはいはいをした時は、紅魔館総出でパーティ。

 ○○が掴まり立ちをした時は、紅魔館総出でパーティ。

 ○○が壁に手をつきながらよたよたと歩いた時には、全員で鼻血を噴いた後に紅魔館総出で

パーティ。

 ○○が舌足らずな言葉で美鈴を母と呼んだ時には、次に呼ばれるのは自分だと血で血を争う

戦いの後に紅魔館総出でパーティ。


 パーティしかしていないかもしれないが、実際その通りである。パーティのいくつかには、

魔理沙も参加している。暇さえあれば、入り浸っているのは彼女も○○にめろめろだからであ

ろう。赤ん坊は強いのだ。


「んーっ、今日もいい天気」


「てんきー」


「ふふふ、ほんとねー」


 今日も今日とて、美鈴お母さんは○○と一緒に門番。一年が経過したことにより、○○は一

歳となりそれなりに言葉も話せるようになった。人間にしては異様に発達が早い気がするが、

周囲の存在に引っ張られたという事も考えられる。咲夜と魔理沙を除いて、人間じゃないし。

 一年前まで美鈴の背中にくっついていた○○は、今では美鈴と手を繋いで門の前に立ってい

る。ほぼ毎日、そんな姿を見ているというのに美鈴はいつまでもにやけている。


「今日も元気に門番がんばろー!」


「ろー!」


 美鈴が腕を空へと上げると、真似するように○○も腕を上げる。あ、その様子をたまたま見

ていたメイド長が鼻血噴いて倒れた。

 門番といっても、基本は暇なもの。そして子供にとって退屈とは我慢できないものだ。美鈴

は○○が退屈しないよう、話をしたり簡単な遊びをしたりしながら門番をする。無論、危険な

訪問者が現れた場合には即座に○○を避難させられるように、門番隊は常に待機状態。


「あ、まりさだー!」


 空を見上げた○○が徐々に大きくなってくる影を見て叫んだ。箒に跨り、飛んでくる姿はま

さしく霧雨魔理沙。鮮やかに美鈴と○○の前にランディングし、ふわりとエプロンドレスのス

カートが翻る。


「おっす○○。元気か?」


「うん。きょうはなにしにきたの!?」


「あー、今日はパチュリーに会いにだ。その後でなら遊んでやるからな」


 くしゃくしゃと○○の頭を撫でる。言葉では嫌がりながらも、○○の声は嬉しそうだ。


「なぁ門番、やっぱ○○もって帰っちゃだめか」


「だめに決まってるでしょ!」


「ちぇっ」


 箒を肩に乗せ、魔理沙は紅魔館の中に入っていく。今日は客人として来ることは予め聞いて

いるので、美鈴が立ちはだかる事はない。というより、最近はそういうことの方が少ない。

 魔理沙曰く、お母さんを傷つけると○○に嫌われるからな、だそうで。一度弾幕ごっこでこ

てんぱんにしたら、○○に泣かれたのも今では良い想い出だという。


「○○」


「あ、れみりあおねーちゃん。なに?」


「外にいて暑いかと思ってね。はい」


「オレンジじゅーすだ。ありがとう!」


 日傘を差してやってきたレミリアは微笑み、○○の頭を一撫でして館へと戻っていく。特に

用事もないが、○○の顔を見に一日は必ずこうやって門前へとやってくる。


「おかーさん、いっしょにのもう?」


「いいの?」


「うん。おかーさんといっしょ!」


 そう言って笑う○○が愛しくなり、美鈴は頬擦りする。嬉しいのか○○はきゃっきゃと笑っ

ている。


「おかーさん、あのね、ぼくおおきくなったらおかーさんのおむこさんになる!」


 それは、こどもならば必ず通るであろう道。まだ異性というものを理解していないこどもで

はあるが、それでも一番近しい異性といえば母親。○○は早熟ながらも、少しながら異性とい

うものを感じているらしい。

 ちなみに、おむこさん云々はパチュリーと小悪魔によって吹き込まれた。


「○○……うん、大きくなったらね。格好いい男の子になるんだよー?」


 むぎゅっと○○を抱きしめる。我が子ながら、可愛いことを言ってくれちゃってお母さん感

激とか心の中で呟いて。血の繋がりはないから、お婿さんにしても問題ないんだよねなどとは

思っていない。多分。


「話は聞かせてもらったわ。○○をお婿さんにするのは私よ」


 救護室にいたはずの咲夜が現れ、○○を抱き上げた。いつものように唐突に現れる咲夜に○

○は喜び、その笑顔を見た咲夜の表情が蕩ける。


「いくら咲夜さんでも、○○は渡しませんよ。もし○○をお婿さんにするというのなら、私を

倒してからにしてもらいます!」


 そうして始まる弾幕ごっこ。置いてけぼりをくらった○○は空で戦う美鈴と咲夜を寂しそう

に見上げ、フランおねーちゃんと遊ぼうと呟いて紅魔館の中へと入っていく。




 紅魔館はいつも通り、平和である。





 チラシの裏

 ちょっと愛に飢えているので、美鈴の果てしないまでの愛が欲しい。

 あと、久しぶりに文章書いた気がするので美鈴と一緒にリハビリしたい。美鈴愛してる。

 何度でも言う。美鈴愛してる。

 チラシの裏終わり


現世から別れて幻想郷へ 2(新ろだ2-242)



 ひとしきり泣いた後、今更ながらものすごい恥ずかしさがこみ上げてくる。なんで初めて会った相手に慰められて泣くとこ

ろを見られているんだろう。それだけ参っていた……まぁ、そうでなければ命を絶とうとはしないんだろうけど。


「すっきりしました?」


 彼女が相変わらず俺の頭を撫でながら尋ねてくる。なんだろうか、彼女に撫でられているとすごい安心するというか落ち着

くというか……。


「……した。でも、すごい恥ずかしいんだけど」


「あはは、そうでしょうね。でも、後悔はしてますか?」


「いや、してない。ありがとう、見ず知らずの俺にこんな親切にしてくれて」


 泣くだけ泣いて、吐き出せるものは吐き出した。そのせいか、少し落ち着いたと思う。死ぬと決めた時とは違い少しだけ、

ほんの少しだけ生きてみてもいい、という意思が芽生えているのを自覚する。


「ふふふ、なんというか放っておけなくて。可愛かったですよ」


「可愛いとか言わないでくれ。複雑な気分になる」


 男に対して言う言葉じゃない。というか、可愛いなんて言われたのは生まれてから初めてだぞ。なんだ、男の泣き姿って

いうのは母性本能を刺激するのか。


「いいじゃないですか、本当なんですし」


「良くない。あぁくそ、変なところ見られた……」


 恥ずかしさがさらに増す。早いところここを立ち去らないと……って、ここがどこか分からないな。なんで家にいた俺が

外にいるのかも謎のままだし。


「悪いけど、ここがどこか教えてくれないか? あー」


「そういえば互いに名前も知りませんでしたね。私は紅美鈴、この紅魔館の門番をやっています」


「俺は○○……門番?」


 彼女――紅さんが俺の後ろを指差す。振り向けばそこには真っ赤な色をしたでかい館。


「でかっ」


「本当はうちに侵入した方は排除しなければならないんですが……貴方があまりにも辛そうな顔をしていたので、ついつい

お節介を焼いちゃいました」


 今回だけですから、と彼女は笑う。それはありがたいが、排除とか物騒な物言いだ。でも、それが仕事なのだから仕方な

いといえば仕方ないのだろう。でも、言っちゃ悪いが門番なんて彼女に務まるんだろうか?


「仕事の邪魔しちゃったみたいで、悪い。悪いついでなんだが、ここってどの辺りになるんだ? 全然知らない場所なんだ

けど……というか、家にいたはずなのになんでこんな所に」


「うーん。非常に言い辛いんですが、ここは貴方がいた場所とはまったく違う所でして。恐らく貴方がいた所に帰るのは非

常に難しいかと……外に帰るには巫女に頼まないと」


「……外? 巫女?」


「はい。えっと、ここは幻想郷という閉ざされた場所なんです。恐らく貴方は何かの拍子にこっちに迷い込んでしまったん

でしょう。隙間妖怪辺りが何かしたのかな……?」


 妖怪って言った? いや、いやいやいや、このご時勢妖怪なんているわけが……いや、いるのかもしれないけど少なくと

も俺は見たことない。でも、そんな非科学的なもん本当に存在してるのかすら怪しい。

 あ、待て、紅さんは隙間妖怪とか言ったけど、それは誰かを指すあだ名なだけかも。だけど、最初に言った幻想郷とか言

う言葉が良く分からない。駄目だ、自分の現状が良く分からない。


「美鈴、門番の仕事もしないで何をやっているのかしら」


「さ、咲夜さん!? いえ、あの」


「しかも、見知らぬ人間まで連れ込んで。あぁそれとも、お嬢様のお食事用?」


 ……物凄く危険なことを言われてる気がする。見知らぬ人間=食事、ってここの住人はカニバリズム信仰者? 俺、逃げ

た方がいいんだろうか。


「違いますよ! この人、外から迷い込んできたみたいで」


「ふぅん? まぁ、どういう理由があるにしろ、捨ててらっしゃいな」


 犬扱いされてるんだけど、これ俺泣いてもいいところじゃないか?


「そんな、このまま放り出すと妖怪の餌にされますよ?」


「知らないわよ。私達には関係ないし」


 餌て。身の危険をひしひしと感じ始めてきたんだけど。というか、この女の子物凄い冷たい。向こうからすれば俺は不法

侵入者(?)なのかもしれないから、仕方ないかもしれないけどさ。もう少し優しくしてくれてもいいと思う。


「ちゃんと面倒見ますから!」


 紅さんは待ってくれ。その言い方だとますます俺、犬みたいなんだが。飼われるのか、飼われるのか!?


「だめに決まってるでしょう。というか、面倒を見るって何よ」


「何騒いでるのよ、咲夜」


「お嬢様」


 ……羽根。ちっさい女の子に羽根が生えてる。コスプレか何か? よくよくみれば、こっちの女の子はメイド服着てるし

……初めて見たよ、リアルメイドさん。


「あら、見知らぬ人間。美鈴、私の食事?」


「だから違いますってば! この人は外から迷い込んできたみたいで」


「ふぅん。ま、なんでもいいわ。美鈴、貴方の好きになさい」


「お、お嬢様、よろしいので?」


「別に人間の一人や二人、どうとでもなるわよ。それとも咲夜、貴方は無理とでも言うのかしら?」


「いえ、お嬢様がそう仰られるのなら私は自分の仕事をこなすだけですわ」


 なんかよく分からない。一体この話はどういう決着を迎えたんだ? あと、この女の子すごい偉そうなんだけど。


「紅さん? 一体何がどうなって……」


「安心してください、○○さん。貴方は私が守りますからっ」


 むんっ、と意気込んで紅さんがその大きい胸を張る。その胸に視線をやってしまった俺を、果たして誰が責められるとい

うのか。メイドの子は紅さんの胸を引き攣った顔で見ていたが、ゆっくりと深呼吸した後何事もなかったかのように羽根の

生えた子を連れて館の中へと入っていった。


「まずは今○○さんがどういう状況にいるかの説明ですねぇ。ちょっと待ってて下さいね、おーい!」


 紅さんが大声で誰かを呼んですぐ、また羽根の生えた女の子が"飛んできた"。って、飛ぶ!?


「なんですかたいちょー」


「ちょっと暫く警備お願い。私はこの人にちょっと色々話があるから」


「えー、めんどくさいんですけど」


「命令」


「ぶー」


 不満そうな顔でその女の子は門があると思われる方向へと飛んでいく。非現実的な光景を見て、気のせいか頭痛がしてき

た。


「あの、紅さん。今あの子、飛んで……」


「それも含めて説明しますってば。とりあえず、私の部屋に行きましょう」


 にこにこと俺の手を引っ張る紅さん。ずるずると引き摺られ、俺は紅魔館と呼ばれる吸血鬼が住んでいる恐ろしい場所

(後で知った)へと足を踏み入れることになった。






―チラシの裏―

 二話目。イチャイチャしてない。早くイチャイチャさせたい、したい。

―チラシの裏ここまで―


Megalith 2011/08/12


「メイリン」
「あ、○○さんお帰りなさい。どうされました?」
「はい、ただいま。間食にでもと里の出店で焼き菓子を仕入れたのですが、
 思ったよりも量が多くて……おひとついかがです?」
「お、そういうことなら是非!」



「メイリン」
「……」
「メイリン?」
「……くかー……」
「まったく、アナタという人は……風邪を引きますよ、こんなとこで寝てたら」
「んぅ……」
「……っと、いけないいけない。メイリン、メイリン!」
「はい!ちゃんと仕事してます咲夜さ……あれ、○○さんでしたか」
「はい。でもだからといって居眠りはダメですよ?」
「すみません……動きがないと退屈なもので、つい」
「ははは……差し入れのコーヒーとクッキーです。これでも飲んで頑張ってください」
「あ、ありがとうございます!」
「応援、してますから」



「メイリン、少しいいですか?」
「はい、何でしょうか」
「アナタは武道に秀でていると聞いたので、少し手合わせを願いたいな、と」
「○○さんがですか?」
「はい。こう見えても護身程度には嗜んでいますので」
「成程……わかりました。でも手加減はしませんよ?」
「望む所です」



「メイリンは強いですね」
「私なんてまだまだですよー」
「いつか……」
「?」
「いえ、何でもないです。また日を見て手合わせ願えますか?」
「私なんかでよければ、喜んでー」



「メイリン!」
「ど、どうしたんですか、○○さん」
「今から里へ行きます。アナタもです」
「そ、そんな事突然言われても……私は仕事が」
「門番は暫く妖精メイドに代わって貰うよう頼みました。行きますよ!」
「わわわ、そんなに引っ張らないでくーだーさーいー……」

「――匂うわね」
「匂いますね、お嬢様」
「これは……変、かしら」
「恋、だと思われます。お嬢様」
「どうでもいいけど、あまり無粋なツッコミは入れないようにね、レミィ」
「う、うるさいわね。分かってるわよパチェ」



「メイリン、助かりました」
「成程、お買い物でしたか」
「メイド達の体躯では少々荷が重く……
 アナタならばと思ったのですが、迷惑だったでしょうか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど」
「……まさか、具合でも悪かったですか?だとしたら――」
「違います。……わからないならもういいです。○○さんの、ばか」
「あ、ちょっと!……行ってしまいましたか。
 渡したいものもあったのですが、帰ってからにしますかね」

「おう、○○じゃねぇか」
「あなたは……久しいですね、△△」
「洋館勤めになったって聞いてから長いこと見なかったが」
「?」
「いや、あの時の大将が随分丸くなったな、と思ってな」
「よしてください。昔の話です」
「そういやさっきのは……今でも追っかけてんのか?」
「……さて、何のことでしょうか」
「しらばっくれんなよー」
「荷物を運ばねばならないのでこれで失礼しますね」
「あ、おい……行っちまった。またなー!」



「……メイリン?」
「……つーん」
「やれやれ、嫌われてしまいましたか。
 ――ふぅ、まあいいや、そのままで良ければ話を聞いてよ」
「……?」
「とある一人の冴えない男のお話だよ」

「すぐ近くの里で奔放に生まれ育った、一人の子供がいたんだ」
「小さな時分は随分とやんちゃな子でね。あそこらへんではガキ大将的な存在だったんだ」
「で、手下達をまとめ上げるにはイイトコを見せてやらなきゃならない。
 近場の妖怪の住まう洋館――まあ、ここなんだけど――に行ってきた証でも見せようとして、ガキ大将は森に入ったのさ」
「大人になった今ならいざしらず、子供の背丈では道も分かり難い。すぐに迷子になっちゃってね」
「途方に暮れて、木陰で項垂れていた時に、不意に肩に温もりを感じたんだ」
「……私?」
「そう、君だ。迷子の"俺"を里の入り口まで送ってくれて――ああ、こっそりお菓子もくれたっけ」
「やっぱりあの時の子供は……」
「うん、そう。僕」

「思えばあの時から――」
「?」
「いや、何でもない。まあ、それに恩義を感じたガキ大将は何を思ったか心を入れ替えて、至極真面目な子供になった」
「勉強に励み、武道を身につけ、そして恩を返すべく、再びここへ来た」
「働きたいと押しかけた"僕"をレミリア様に取次ぎ、推薦してくれたのも君だったね。すごく感謝してる。ありがとう」
「……き、今日の○○さんは少し変ですね?」
「いいからいいから……まあ、そんなこんなで無事にここで働けるようになり、仕事にも慣れて……」

「そろそろいいかなって、思ったんだ。ガキ大将はね」
「……?」

「さっき、買い出しに付き合って貰った時に渡そうと思ってたんだけど……はい、これ」
「……これは……」
「見た通りの意味だよ。僕は君が好きだ」
「へ?」
「もうちょっと噛み砕くと、あの時からずっと。そして、出来れば君と一緒になりたい」
「え……ええええ!?」
「……そんなに驚く事かな」
「いやだって、○○さんは人間で――」
「種族の差のこと?人ならざる身になる術なら幾つかアテはあるし、検証も済んでる」
「ずっと気になる人がいるから付き合った事もないって、メイド妖精達も噂して――」
「ずっとメイリンに心奪われてたから」
「う、うう……」
「それでその、返事を出来れば貰いたいんだけど。ダメならダメで」
「あの、その」
「はい」
「……私でよければ……よろしく、お願いします」


地の文が無いことがこれ程辛いとは。


彩華 その一華(Megalith 2015/05/26)


…暑い。

東京の、日本の夏は暑い。湿気が多く、外国の人間も驚く程、日本は暑いのだ。だから、こういう時は、某ラノベの主人公の様に、冷えたM○X缶コーヒー…略称マッ缶を飲むのも、悪くはない。

…俺の名前は、○○…誰に聞かれた訳でも無いが、ふと、自分の名を呟く。

親は居ない。もう、何年も前に死んだ。生まれは…茨城だ。知ってるか? マッ缶は千葉ではなく茨城の飲み物なんだぜ。

…話が逸れた、誰に話をする訳でもないが。

俺は、何かを探してる訳でも無いが、ただ単に夜の公園に行く事にした。そう、普通に俺は善良な東京都民として、公園に行っただけだ。

…で…

「あら、こんな時間に…それも、丑三時に出歩くと、悪い妖怪に出逢ってしまいますわ」

…誰だ、この金髪の胡散臭いBBA臭のする奴は…

「あら、BBAなんて心外ね…これでも私、まだ若い方なのよ?」

…ナチュラルに心を詠んできた…何だ、コイツは…ヨーデルヨーデルの覚り妖怪か? …しかし、何処かで見た気はするが。ともかく、某ガ○ダムの様に、対話を試みるとしよう。間違っても、高町式お話は良くない。

「…で、貴女は誰でしょうか、自分としては近寄りがたい雰囲気を出されているのですが」

「あら、随分と敵意剥き出しなのね、ゆかりん困っちゃう…なんて、ね。私の名前は八雲 紫よ…貴方は名乗らなくても分かるわ、○○君」

…何だ、コイツ…俺の事を知っている…? それにしても、コイツの名前は何処かで聞いた気がする…まぁ、何処でかは分からない。逃げようとも考えたが、後ろには退路が無い。

…嫌な予感がする。

「さて…これから私は、貴方を幻想郷に招待しようと思うの。勿論拒否は出来ないわ、貴方は忘れられた存在なのだから」

「…俺が忘れられた…ね…で、逃がしてもくれないと。生憎知らない人にはついていかないと教わったんだが」

俺は逃げようと体勢を整える。が、いきなり浮遊感が生まれた。

「ええ…だから、幻想郷をゆっくりと楽しみなさい。○○君♪」

その金髪BBAの笑顔が、俺が最後に見た光景だった。







所変わり、幻想郷のとある紅い館…紅魔館では、今日も今日とて、何時もと変わらない日常を送っていた。が、ふいに、その日常は壊れる。

「…今日も良い天気ですね…おっと、寝ないようにしないと…咲夜さんに怒られてしまいます」

彼女の名は紅 美鈴。間違っても、中国やくれないみすずやほんみりんでもない。大体その呼び方をするのは、頭が悪い氷の妖精や、時折本を借りに(盗みに)来る、白黒の人物等だ。

美鈴が天を仰ぐと、急に空が黒くなる。

「あれ…? 一体何が…」

それと同時に、人影が落ちてくるではないか!

「ええっ!? に、人間ですか!?」

美鈴はそれを理解すると同時に、瞬時に地を蹴る。通常の人間なら、それをしても意味が無い。“通常”なら、だが。彼女の体はぐんぐん高く飛び上がり、落ちてきた人影を上手く受け止めると、地にそっと降り立つ。

こんな芸当が出来るのは、彼女が“妖怪”たる由縁が有るからである。

この一事が、昼下りの紅魔館に起きた、館を変える事件でもあった。






「…此処は…」

ゆっくりと○○が目を覚ますと、先ず一言、こう呟いた。

「知らない天井だ…」

…一度、言ってみたかったんだ。

○○は思考をゆっくり、ゆっくりと回すと今の状況に至るまでを思い出す。

…ああ、どう考えてもあのBBAの仕業だな。間違い無い。というか此処は何処だ? そもそも日本なのか?

回りを見渡すが、其処はただの一室だった。特筆すべき事が有るなら、現世で見る家電製品が余り見れないという事と、何故か全てが“紅い”。流石に、ライトまでは紅くは無かったが。

不意に、部屋の扉が開かれる。

「あら、目が覚めたのかしら?」

…何で、幼女とチャイナ服という摩訶不思議な組合せなんだ?

部屋に入ってきた二人は、何処から見ても、可笑しい服装の、幼女とチャイナ服の女性であった。ただ、妙に既視感だけがあった。

いやいや待て待て…どうしたらこんな人選になるんだ。

○○は少し思考を落ち着かせようとして、頭を少しふるふると動かすと、二人に問う。

「助けてくれたようで悪いが…此処は何処だ? ついでに貴女達は誰だ?」

すると、何がおかしかったのか、幼女は笑う。自分に不備はないと、○○は思っていたが、その答えを幼女は笑いながら言った。

「自分の名を名乗る所か、私達をついで扱い…ふふ、面白いわね…良いわ、答えるわ。此処は幻想郷…その幻想郷の地に有る、紅魔館よ。そして、私の名はレミリア・スカーレット…この館の主よ」

…いやいや、まさかな…

その名前は、妙に聞き覚えが有った。が、それは空想の産物…ゲームの世界の住人でしかなかった。そして、もう一人の女性は微笑みながら、○○に名乗りに出た。

「私は、紅 美鈴(ほん めいりん)です。いきなり空から落ちてきた貴方を助けたのも私ですよ」

…もう、信じるしかなかった。幻想郷ってどう考えても東方Projectの世界じゃないか…

○○は何とか思考を纏めると、相手に反応する事にした。

「…俺の名前は、○○…一応善良な都民をやっていた…まぁ、忘れ去られたんだけどな」

○○がそう述べると、レミリアはまた笑った。そして、こう告げる。

「貴方、面白いわね…私の館の執事になりなさい」

「お、お嬢様!?」

…思えば、これが俺と美鈴の出逢いの始まりだった。


どうも、後書きのコーナーです。

私、suryu-と申します。今回普段描いている某投稿サイトから出張してきました。

…実は、前々からやってみたかったりしたんですよね、これ。

イチャスレには美鈴さんが少ないから描いてみました。長編になります。

「そろそろ時間よ!早く!」

あ、アリスに呼ばれてる…では、次回もお楽しみに。


彩華 その二華(Megalith 2015/05/28)


「お断りします。てか、断らせて下さい」

即答だった。レミリアの執事になれという言葉に、即答だった。○○の言葉により、場は固まる。某吸血鬼やこの館のメイド長が時を止めた訳でもないのに、綺麗に固まっていた。この状況は比喩抜きに時が止まっていてもおかしくない程で、端から見たら、何が有ったんだと問われる程だ。で、その即答した本人の思考は、

いや、だってちょっとしか知らないけど、吸血鬼なんだろ!? 嫌な予感しかしないし、それにマッ缶が飲めなくなるだろ!

…即答の理由が理由で、○○の思考は何処かずれていた。そんな即答を受けて、レミリアは不適に笑う。

「…ふ…ふふ…ふふふふ…」

「お嬢様!?」

美鈴は何が有っても止められる様に、構えを取る。が、レミリアは益々笑みを浮かべた。

「面白い、益々執事にしたくなったわ、咲夜!」

「参りました、お嬢様」

レミリアが声を上げて名を呼ぶと、いきなり少女が現れる。少女は銀髪で、メイド服を着た、美しい少女だった。が、そんな少女を見て、○○は驚く。

「いきなり現れた!? ま、まさか時を止めたのか!? D○O!?DI○なのか!?」

「ええ、そうですよ。私はサクヤ・ブランドー…ではなく、十六夜 咲夜と申します」

「あっさり認めた!? てか、ネタまで混ぜて返してきた!?」

時を止めた事をあっさりと認めると、咲夜は○IOの立ち真似をして、多少のネタを混ぜて返す。そんな様子を見たレミリアはああ…と頷く。

「幻想郷でも○ョ○ョは人気なんだけど、外の世界でも人気なのね…ところで咲夜、あれは持ってきた?」

「勿論、此処に有ります。お嬢様」

レミリアに言われ、咲夜は何処からかとある服を取り出して、レミリアに見せた。○○もそれを見てしまい、げんなりとしたに表情をする。その服は何処からどう見ても…

「…執事服…つまり、俺には拒否権は無いのか」

「ええ、そうね」

「大丈夫、色々教えてあげるから」

「二人とも妙に乗ってるけど、それで良いんですか!?」

○○の言葉にさも当然かの様に、二人は返す。それに美鈴はツッコミをするが、二人はただ笑っていた。○○は、これにより自分の運命を悟る。嗚呼、絶対これは執事にされる…と。




かくして、一時間後。





「あら、中々似合うじゃない」

「良い画になりますね…」

…どうしてこうなったんだ…レミリアは俺を見て楽しんでニヤニヤしてるし、咲夜さんに至ってはカメラまで持ってきている…てか、無駄にサイズピッタリだよなこの執事服…それに、妙に動きやすいし…どうなってんだよこれ…

「…大丈夫ですか?」

…ああ、美鈴さんだけが俺を心配してくれている。美鈴さんが俺の癒しだ…

○○は現在、どうなっているかと言うと、結局執事服を着せられ、そして見世物と書いて、動物園のパンダと読む。その状況を体感していた。どうしたらこうなるのか、という様な表情を隠せず、○○は相当疲れた表情をしていた。と、後に咲夜は語る。

「それにしても…家事は出来るのかしら?」

「ふむふむ…面白そうな人です」

と、其処で、二人の少女が○○に話しかけてくる。一人は、紫のネグリジェの様な服を着た、紫怨の色をした髪を持つ、月のアクセサリーが似合う少女だった。そんな少女の問いに、○○は答える事にした。

「一応独り暮らしをしていた…じゃなくて、していました…ので、一応出来…ます」

○○は敬語に慣れていないのか、たどたどしく答えると、紫の少女は納得したかの様に頷く。

「…そう…私はパチュリー・ノーレッジよ」

「あ、私は小悪魔です。こあって呼んで下さいね!」

紫の少女、パチュリーは、自己紹介すると、○○を値踏みする様に見ていた小悪魔と名乗る、赤髪で黒い翼の生えた少女も自己紹介する。それに、○○も応えようとする。

「俺の名前は○○…です…宜しく…お願いします」

やはり、敬語に不慣れな○○は、慣れない敬語を間違えない様に使う。が、そんな事をレミリアはお見通しだった。そう、まるっとお見通しなのだ。

「あら…慣れないなら普通に話して良いわよ、○○」

レミリアにクスクスと笑われながら、指摘された為に○○は少し頬を赤くする。その為に、○○はレミリアにちょっとした“お返し”をする事にした。

「お気遣いありがとうございます先程お菓子を食べてほっこりしていたお嬢様」

「っ…!」

○○は見逃さなかったのだ。というのも、○○がパンダ状態になる少し前に、レミリアがお菓子を食べている所を目撃したのだ。そして、その時の顔は普段カリスマ溢れるレミリアでは見られない様な、そんな顔だった。故に、レミリアはその無防備な状態を見られた事の、羞恥により紅くなる。が、動じる訳にはいかなかった。なので、レミリアは、こほん、と少し喉を鳴らすと、美鈴と○○を交互に見て、命令した。

「さて、○○…貴方はこれから美鈴に館の事を教わりなさい。良いわね?」

「わ、私ですか!?」

レミリアの言葉により、美鈴は驚き、不安そうな顔で○○を見る。

な ん だ こ の 可 愛 い 生 き 物 は !

と、そんな思考をしてしまった○○は、冷静になりつつも、答える事にした。

「美鈴さんは、さっき唯一心配してくれたし…その…お願いします」

「良かった…! ありがとうございます!」

美鈴は○○の答えを聞くと、パアッと花が咲いた様な笑顔を見せて、嬉しそうに喜ぶ。実際、嬉しいのだろう。だからこそ、喜んでいた。

「それじゃあ…宜しく」

「こちらこそ!」

こうして、○○の執事生活が始まった。



二話目です。これで、導入は終わり…かな?

イチャつける様に書いていかないと…

次回もお楽しみに!


彩華 その三華(Megalith 2015/05/29)


「…ですから、この様に…」

「成る程、そうすれば…あ、でも、こうしたら効率が上がらないか?」

あれから一…二週間程経った。あの後、俺は色々な事を教えてもらい、紅魔館での執事生活が始まった。それはもう大変な毎日で、息もつけない日々になった。俺が誰かと聞かれて、○○って言えば、通じる様にもなった。そりゃまあ、メイドしか居ないこの館で、執事と言えば俺しか居ないからな。それで、今は咲夜さんと仕事の話をしていた。

「良い話が出来ました…それでは、また後で」

「了解した。それじゃ」

さて…時刻は丁度昼…今日もやるとしますか!






厨房の一角にて、佇む一人の男…それは、紛れもない○○で、楽しそうに調理をしていた。これは、最近の○○の日課になっていた。元々一人暮らしをしていた為か、料理も相応の物だ。実はこの館、咲夜は別の仕事が有るために、皆が昼御飯を少量(コッペパン等)で済ませていたのを見て、○○が料理を作る様になったのである。すると、その料理を食べる為にも、レミリアが起きてきたり、妖精メイドの働きが良くなる等、色々な効果をもたらしていた。そして、今日も○○は料理を持って、門の前へと赴く。






「よっと…今日は起きてるか? 美鈴さん」

「失礼な…私だってずっと寝てる訳じゃないんですよ」

これが、何時ものやりとりだった。○○がたまたま門の前に来た時に、美鈴が居眠りをしていた事により、このやり取りが通例となったのだ。

「それよりも…さて、今日の料理は餃子だ。本場の水餃子と、日本発祥と言っても良い焼き餃子とスープのセットだ」

「ありがとうございます!」

○○が料理を差し出すと、美鈴は料理を受けとる。実は、今まで美鈴は門番という立場から、昼御飯を食べずにいたのだ。それを知った○○は、美鈴に料理を作る事にしたのが、館の昼御飯を作る事に発展したのだ。恩人でも有る美鈴の為に始めた事が、こうなって皆から感謝される事は、○○にはこそばゆい感覚だった。そして、美鈴が料理を食べ終わると、○○に笑顔を向ける。


「それでは今日も…」

「ああ、宜しくお願いする」







○○と美鈴はお互いに構えをとっている。緊迫した空気は、周りの鳥が飛び去る程だ。かたや、美鈴の構えは洗練された太極拳。こなた、○○の構えは何処か中途半端な構えをとっていた。刹那、○○は動く!

「シッ…!」

「ッ…!」

○○は飛び跳ね、クルッと一回転したかと思うと、蹴りを繰り出す。独特な業だった。美鈴はそれを腕でそらしてかわすと、○○の脚を掴み宙に放る。が、○○は空中で一回転すると、綺麗に着地する。

「…これでも駄目か…」

「まぁ、私も伊達に長くは生きてませんからね…やっぱり、武術が出来る人が居たほうが、練習になります。テコンドーなんて中々相手にしませんし」

○○の中途半端な構えの理由は、その武術による物だった。テコンドー…知る人は知るその武術だ。とあるゲーム、鉄○4~7に出ているキャラも、そのテコンドー使いだったりもする。そんな、実在する武術を○○は使えた。実は、親の居ない幼少期に、自分の育て親だった人物に、そのテコンドーを叩き込まれたからである。お陰か、暴漢を軽く倒せる程度の実力は有った。だが、それでも美鈴には敵わなかった。それは、仕方の無い事だろう。そして、時も頃合いが良く、今回はこれで終える事にした。







「今日は此処までですね…」

「そうだな。それじゃ、俺は図書館に行くから」

「あ、○○さん…もう少し…いえ、何でも有りません」

「? …それじゃ、行ってくるよ」

何時になく、美鈴は歯切れが悪かったが、○○は余り追求はせず、この後にある用事の為に、図書館に行く。そんな○○が去った後、美鈴は溜め息をつく。

「…もうちょっと、話をしたいなんて言えませんよね…」

溜め息の理由は、これであった。美鈴にしては、小さい…とは言えない。大きい問題でもあった。まだ二週間。されど、二週間。○○は美鈴に優しく接していた。これまで、美鈴に優しく接してくる人間や妖怪は余り居らず、だからこそ、○○という存在は嬉しかった。だから、この時間が楽しいと感じ、いつの間にか、○○と居られたら…と考える様にもなった。その感情が、どういう物かは、美鈴には未だ分からなかった。だから…

「お、大きな噂になってる○○ともっと居たいのか? それは…恋だな」

等と言ってくる、白黒の、自称恋色魔法使い、霧雨 魔理沙がそんな事を言った為に、一発殴ったのは仕方無い。

「いってて…いきなり何するんだよ…まぁ、悪くは無いと思うけどな」

「そうですか、貴女が珍しく門から入ろうとしてる事は良いです。が、その様な事を言われたら私だって…」

「初心だな…そんな事言ってたらパチュリーに取られるぜ?」

「…どういう事ですか?」

魔理沙の発言に、美鈴は少し固くなる。が、魔理沙はケラケラと笑った。

「さあな、それじゃあ、図書館に行かせてもらうぜ」

何故だか、美鈴は魔理沙を止めようとは思えなかった。






「○○さん、今日はその本を…?」

「ああ、パチュリーに勧められたしな…読んでみようと思って」

ヴワル大図書館。

紅魔館の地下に位置するこの場所は、大きな図書館となっていた。此処に普段、○○は暇な時に来る。○○は幻想郷に来る前は、余り本を読む事は無かった。あっても週刊のサ○デーとジ○ンプ位だった。が、幻想郷には娯楽が少ない為に、○○は本を読む事にしたが、それがドハマリしたのだ。そして、パチュリーに勧められた本を読む事にした。

「あら、○○…来てたの? …その本…そう、それを読むのね」

「おう、勧められたからな」

そんな○○の所に、パチュリーがやって来たのを見て、小悪魔は実に小悪魔らしい笑みを浮かべる。

「パチュリー様、○○さんが来るのを何時も楽しみにしてますからね。今日も探してたんですよね?」

「こ、こぁ!?」

「そ、そうなのか? 何だか照れるな…」

小悪魔の発言に、パチュリーは頬を朱に染める。○○も、照れ臭そうに頭を掻く。すると、図書館の扉が開く。

「お邪魔するぜ…って、何だ、イチャついてたのか?」

「魔、魔理沙!?」

声の主は魔理沙だった。パチュリーは更に顔を紅くすると、少し悶えてしまう。

「図星か…っと、この本返しに来たぞ」

魔理沙は、以前まではこの図書館の本を、死ぬまで借りると称して、盗みを働いていたが、○○が来てから、本を返す様になった。その理由は、○○が“高町式お話”をしたからである。それを受けた魔理沙曰、「○○って魔王なのか?」と、パチュリーに問い掛けた程だ。

閑話休題。

「それじゃあ…俺は行くよ」

「ええ、御仕事頑張って」

そして、何時もの様に談笑した後、○○は去って、魔理沙は乙女の顔になる。

「パチュリー…○○に勧めたって言うあの本…あれは…」

「…何よ、おかしかった?」

魔理沙が言おうとしている事を遮るかの様に、パチュリーは魔理沙に返す。それを見てやれやれ…と魔理沙はかぶりを振るうと、箒に跨がって扉を開けつつ、「じゃあな」と、だけ告げた。パチュリーも「また」とだけ返した。

「…素直になれないな…あの本、妖怪と魔女に恋をされた男の話だろ」

魔理沙は、外に出た後で空に浮かびながら呟いた。


三話目。

展開が早い? 気にするな。(某魔王感)

次回もお楽しみに!


彩華 その四華(Megalith 2015/05/30)


「え、お使い?」

「そう、お使いです」

○○が働きだして、三週間が建った。○○の働きぶりは、咲夜に劣らず、色々な仕事をこなして頑張っていた。本人曰、「元々一人暮らしをしてたから、これ位はやらないとプライドが無くなる」らしい。まあ、仕事の出来は流石に咲夜に劣るのは、仕方無い。そして、とある日、咲夜に命じられ、そんなこんなでこの時、○○は幻想郷に来てから、“はじめてのお使い”を経験する事になったのだ。







「お使いか…そういや、お使いに行った事なんて無かったな…」

○○咲夜曰、信頼する人物を、誰でも連れていって良いとの事で、○○は絶賛心の中での審議中だった。誰を連れていけば良いのか? そう考えると、答えが明確に出てこなかった。

お使いに連れていく人…誰が良いのやら…信頼出来る人って咲夜さんは言っていたけど…どうしたものか…

○○は少し考え込むと、一人納得して、頷いた。

そうだ、あの人にしようか…!

○○は、門の前へと駆け出した。






「え、私と一緒にお使いですか…?」

「そうなんだ…頼めるか?」

○○に説明を受けて、美鈴は考える。何故、自分なのか? 他にも人は居るのでは? と、思っていたので、素直にそれを聞く事にした。

「…何故、私なんですか?」

「咲夜さんに、信頼する人を連れていけって言われたからだ」

「そ、そうなんですか…」

その答えは美鈴にとっては予想外だったから、この時美鈴は咲夜に感謝した。何故、感謝したのかは、自分でもよくわからなかった。けど、何故か心地良かった。






「それじゃあ、人里に行きましょうか、○○さん」

「そうだな、行こうか」

準備の終わった美鈴に呼ばれて、○○は美鈴の元へと寄る。内心、○○は心の鼓動が早くなっていた。理由は分からない。だが、それが良い。このドキドキが良いのだ。

「出発ですね!」

「おう」

だから、美鈴の声に、少し嬉しそうに○○は応える。こうして、二人は人里へと向かった。






人里。妖怪と人間が共存する、この幻想郷で、活気に溢れているこの場所は、今日も屋台や色んな店が、客を呼び込んでいた。其処に、○○と美鈴は足を踏み入れる。この活気に、○○は少し気押された。

「凄いな…こんなに活気のある店、余り俺の居た場所では見れなかったから、驚いた」

「人間と妖怪の、交流の場ですからね…それもそうでしょうね。それじゃあ此処から先は…」

不意に、○○は美鈴に腕を組まれた。手を繋いだ、という事は認識したが、それが恋人繋ぎという事に、○○は困惑する。

「め、美鈴…?」

「はぐれるといけませんから…これで大丈夫ですよ」

美鈴の顔は少し紅く、それが照れによりくるものだと理解するのには少しかかった。何故なら、自分も腕の組まれ方により、恥ずかしいし、男として健全な、ある意味仕方無い思考になっていた。主に、美鈴の柔らかい大きな物に腕が当たっていたのだ。咲夜がこれを聞いたら、ナイフを投げてくるであろうが、其処は追求してはいけない。そんな事を考えつつも、二人は買い物を済ませていく。そんな中、○○はふと思った。

「…なんかこれって、デートみたいだよな…」

「い、いきなり何を言ってるんですか! ○○さん!」

その呟きは美鈴に聞かれていたのか、美鈴は顔を真っ赤に染める。○○は必死に弄りたくなる感情を抑えつつ、

「さ、買い物を続けようか」

と、何事も無かった様にお使いを続ける。と、その時。

「あやややや…これは紅魔館の門番さんが、男の人と腕を組んで歩いている…これはスクープですね!」

と、後ろから声をかけられ二人は振り向く。其処には、背に黒い鳥の翼が生えた、妙な赤い靴を履いた、カメラを首に下げてペンとメモを持つ人物…ならぬ、妖怪が居た。その妖怪を見て、○○の一言。

「何だ? コイツ」

「申し遅れました! 私文々。新聞の射命丸 文と申します! 是非とも取材をさせてほしいのですが…」

その妖怪、文は物凄い勢いで二人に近づくが、美鈴はそれを制した。

「○○さん、この人は有ること無いことを書くらしいですから、気にしないでいきましょう」

「ああ、成る程。マスゴミな、了解した」

「ちょっと!? 私の扱いが酷くありませんか!? ってもう居ないし…仕方有りません、また今度ですね…」

美鈴の言葉により、○○と美鈴は文を完全無視で逃げ去ると、とあるアクセサリー屋の前について、美鈴は目を輝かせる。やはり、美鈴も乙女なのだろう、キラキラした目で、アクセサリーを見ていた。

「…よし、少し寄っていくか」

「え…良いんですか?」

「ああ、構わないさ」

○○は、美鈴の嬉しそうな表情を見て、アクセサリー夜に寄る事を決めると、二人で店内に入る。因に、○○は今まで彼女が居た事がない。だから、こういう場所には来た事が無かった。けれど、美鈴の楽しげな表情を見れればそれで良かった。そして、○○は気付く。美鈴が一つのアクセサリーを見詰めている事に。なので、

「…それ、ほしいのか?」

と、○○は美鈴に声をかけた。美鈴はピクンと体が跳ねると、恥ずかしそうにしていた。

「…買ってやるよ」

「い、良いんですか!?」

「ああ、現世の金も有るし、それが此方でも使えるしな…価値の高さには驚いたけど」

○○は、美鈴が見ていたアクセサリーを手に取ると、会計を済ませて美鈴に渡す。綺麗な、星形のアクセサリーだった。早速、美鈴は帽子に付けると、嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます…大切にしますね!」

「…おう…それと…似合ってるぞ」

「そ、そうですか…」

美鈴は○○の言葉に照れつつも笑うと、○○と腕を組む力を少しだけ強くした。






こうして、お使いも終わり、夜、美鈴は自室で一人、そのアクセサリーを手に取って微笑んでいた。

「…嬉しかったなぁ…こういうの、はじめてだし…それにしても、デートみたいって言われた時は驚いたなぁ…」

だから、不意に思い出す。

魔理沙のあの言葉。

『パチュリーに取られるぜ』

「…私は…○○さんの事をどう思ってるんでしょうか…」

美鈴の想いと共に、夜は更ける。


イチャついて…るのかな、これ…

少し不安だけど、皆様に読んでもらえるだけで嬉しい私です。

次回もお楽しみに!


彩華 その五華(Megalith 2015/06/03)



○○が幻想郷に来て、四週間。今日も○○の姿は、紅魔館地下の、ヴワル大図書館に在った。

「あ、○○さん…今日も来たんですね」

「ああ…今日も、本を読みたくてな」

やあどうも、○○だ。って俺は誰に挨拶してるんだ…今日も俺は、本を読みにヴワル大図書館に来ている。やはり、幻想郷に来てから、本を読む事が多くなった。今では、日常になっている。さぁ、今日はどんな本に出逢えるか、楽しみだ…!

○○は、何時もの定位置へと歩き出す。今日も今日とて、やはり彼女が居るのだが、○○はそれが変わりのない日常だから、それで良かった。

「パチュリー…今日も来たぞ」

「…今日も来たのね…何時も通り…」

「ああ、本を読むとするよ」

動かない大図書館の異名を持つ、パチュリーに、今日も挨拶をする。これが、日常だった。変わりのない、日常だった。今日も○○は小説を手に取ると、本を読み始める。






「…」

「…」

静寂がもたらすこの空間は、誰にも邪魔のされる事無く、世界と時の過ぎる音が聞こえる様だった。静寂といっても全く音が無い訳ではない。ページを捲る音。小悪魔が、本を整理する音。お互いの、息遣い。小さなその音が、心を癒す。

「ねえ…何を読んでるのかしら?」

パチュリーは、○○に声を掛ける事にした。これも、何時もの事だ。それに答える為に、○○は本を見せる。

「ん…今日はこれだな…」

作品のタイトルは、『魔法遣いの恋路』という本だった。著者は、アリス・マーガトロイドという、○○にとっては知らない名前だったからこそ、目を引いたのかもしれない。

「あら…その本なのね、意外だったわ…」

「そうか? まぁ、そうかもな」

嘘だ。これは、パチュリーのついた嘘だった。○○の好みは、パチュリーは把握していたのだ。そもそも、日常になっているのだから、気付かない訳が無かった。

「パチュリーは、何を読んでるんだ?」

「『魔法遣いの恋歌』…その本と同じ、アリス・マーガトロイドが書いた本よ」

その答えに、○○は笑った。

「…まさか、同じ著者の本を読んでいるなんてな…それにしても…」

「…どうしたのかしら?」

○○は一呼吸おくと、言う事にした。一呼吸おいた理由は、少し、聞くのには戸惑いが有ったのだろう。だが、結果的に聞く事にしたのだ。

「…パチュリーも、憧れる物なのか? その…恋愛に、な」

トクン…

パチュリーの胸が、少し跳ねた。

だが、顔には出さず、あくまで“何時ものパチュリー”として、答える。

「ええ、憧れる物よ。私だって乙女だもの」

「…そうか、やっぱりそうなんだな…」

…やっぱりって、何よ…

パチュリーの胸は、また跳ねる。

自分にしか分からない、この鼓動。パチュリーは、意識してしまう。だから、顔を少し赤くする。それなのに、○○は気付かない。だから…

「…ねぇ、一緒に読んでみない?」

「おう、良いぞ」

だから、一歩踏み出す。この何処までも鈍感な○○に、体を密着させる。

「パ、パチュリー…?」

○○は困惑している。

狙い通りだ…!

パチュリーは内心で嬉しそうに微笑みつつも、それを表情に出さない。

「あら、どうしたのかしら?」

お互いの息遣いが、近く感じる。お互いの鼓動が、伝わる。静寂だった空間が、二人の鼓動のハーモニーを奏で、呼吸の一つ一つが彩る、生命を感じる、何故か、甘い。だから、甘い。その様な空間に変わっていた。

「それじゃあ、読みましょう」

「…おう」

今は…今だけは、時がゆっくりと過ぎてほしい。

パチュリーの願いは、○○に体を密着させる力を強くした。






どれ位…どれ程、時が過ぎたのだろうか。○○は、不意に時計を見た。

「…もう、こんな時間か…俺は、そろそろ仕事に戻らなきゃな」

それは、この一時が終わる事を示していた。

まるで、十二時の鐘が鳴ったかの様に、魔法の時間は終わりを告げる事を意味していた。だから、パチュリーは○○の服を掴む。

「ねぇ、○○…もう、行くの?」

「…咲夜さんに怒られるからな、仕方無いさ」

○○は苦笑い混じりにパチュリーの頭を撫でる。

…気持ち良いと思ってしまったのは、パチュリーの秘密だ。

「…また、来て…一緒に本を読みましょう」

「…おう」

もっと、○○と時間を共有したかった。彼女に、負けない為にも。

『なあ、パチュリー…もしお前が○○を好きなら、門番と競う事になるぜ』

○○が来る前に、何時ものごとく、やってきた。白黒の自称恋色魔法遣いに言われたその一言を胸に秘めて、今日もパチュリーは○○を想った。




「…○○…さんは…パチュリー様と…?」

だから、話がしたくて、○○を探しに来た美鈴が、困惑して逃げて、自室に籠った事は、誰も気付く訳が無かった。



パチュリーですね。

…美鈴がメインの筈なのに、パチュリーが可愛く見えてしまうこの不思議。

…実は、色々と伏線が入りましたね。

次回もお楽しみに!


彩華 その六華(Megalith 2015/06/05)



私は、何故逃げてしまったのだろうか。

○○さんが、パチュリー様と親しくしていたのを見て、何故逃げてしまったのだろうか。

「…私は…どうして…」

美鈴は、迷っていた。戸惑っていた。泣いていた。そして…全てが、恐かった。

○○が、パチュリーと親しくしていた事が、とても恐ろしかった。

消えてしまいそうにもなった。

妖怪は、体は打たれ強いが、心はそうでない。だからこそ、美鈴の心は不安や恐れで埋もれてゆく。何故なのかは、分からない。けれど、恐ろしい。何かが恐ろしいのだ。

だから、不安に埋もれない為に、ベッドの毛布を抱き締め、転がった。

何故か、○○の顔が頭から離れなかった。






コンコン…






ドアが、ノックされる。美鈴はその音を聞くと、ドアに目をやった。

こんな時間に…誰だろう…

「…はい…」

辛うじて出た声。不安を押し殺しつつも、ドアをノックした主を招き入れようと、鍵を開ける。そして開いた戸の先に居たのは…

「美鈴、大丈夫?」

「…咲夜さん…?」

十六夜 咲夜。この館の、メイド長だった。






「今日、泣きながら走る貴女を見て、何か有ったのかと思って、来てみたのよ」

「そう…ですか…」

咲夜は、何時になく元気の無い美鈴に少し困惑していた。だが、それ程の悩みが有るのでは、と思っていた。だからこそ、美鈴の悩みを解消しようと思い、美鈴の部屋に来たが、思ったよりも重症だったのだ。

「ねぇ、美鈴…何が有ったのかしら?」

だから、次の美鈴の答えは、納得出来る物だった。

「…○○さんが…パチュリー様と親しくしているのを見たら、いつの間にか…」

「…そう、成る程ね…」

咲夜としてもこの問題は大きく、尚且つ、放っておくと更に重症になる事が分かったからこそ、美鈴に協力する事を決めた。ただ、少し羨ましいと思ったのは内緒だ。

「美鈴…貴女、○○の事が好きなのね?」

「私が…○○さんを…?」

一方、美鈴にとっては意外な答えでもあった。いや、でも意外じゃないかも…? とも思いつつも、それには衝撃を受けた。けど、納得もいった。

「…どうして、咲夜さんはそう思ったんですか?」

「貴女、何時も視線が○○を追っていた事に気付いてないの?」

「え…」

咲夜の言葉に、美鈴は再び衝撃を受ける。

まさか、自分がずっと○○さんを見てたなんて…!

考えただけで、美鈴は顔が熱くなる事が分かる。それもそうだ、人の目に見えていたのだから、恥ずかしいにも程が有る。

「い、何時から咲夜さんは気付いてさんですか…?」

「一週間前からよ」

もう、美鈴は驚かない。咲夜はスキルが高すぎるんだ。という事で、納得するしかなかった。

咲夜としては、最近美鈴の働きが以前よりも良くなった理由も良く分かった。恋をすれば、乙女は綺麗になるとは言うが、それは事実だ。と思う所が有る。美鈴も成長する物だ。と、嬉しさが有る反面、自分もそういう人物が欲しい。とも思った。だから、そんな咲夜を見透かしたのか、

「咲夜さんって、恋愛がしたいんですか?」

と、聞いてきた美鈴に思わずチョップしてしまったのは仕方無い。ナイフを出さなくて良かった…と、後々思ったが。

「…私、○○さんが好きだから、こんなに悩んでたんどすね…よし、もっと頑張らないと!」

「その意気込みよ、美鈴。私も応援するわ」

咲夜に励まされて、美鈴は明日からも頑張ろう。そして、○○と近付く為に、もっと話そう! そう、意識を強くした。

負けない為にも、私は…闘う!






翌日。今日も今日とて、美鈴は門番として働いていた。

「おーい、美鈴…今日も昼ご飯持ってきたぞ」

「はい、ありがとうございます○○さん!」

それは、待ち望んでいた、○○との時間を共有する為に。

『パチュリーに取られるぜ』

白黒の言った、言葉の意味が漸く分かった気がする。なら、私は闘う! ○○さんと一緒になる為に!

「ん? 今日は何だか元気そうだが…どうしたんだ?」

「…ふふ…内緒ですよ」

「?」

首を傾けて頭に?を浮かべる○○を見て、こんな表情もするんだな…と、思いつつも、美鈴は昼ご飯を受けとり食べる。今日も、○○は嬉しそうに此方を見ている。そして、食べ終わったら、○○に笑顔を見せる。

「今日もありがとうございます、○○さん!」

「なっ、め、美鈴!?」

勿論、抱き着く事は忘れない。○○は、困惑しつつも顔が紅い。それを見て更に嬉しくなる。

私だって、負けませんから!

美鈴は、闘志を燃やした。恐らく、最大の恋敵…ライバルであろうパチュリーに。






「…はぁ、私も恋愛がしたいわ…」

咲夜の呟きは、外の美鈴を見ながらの一言だった。

咲夜の手には一冊の本が有った。その本のタイトルは、『メイドと貴方と』という名の恋愛小説だ。著者は、アリス・マーガトロイドともう一人の名が書かれていた。

「…私に、そんな恋が出来るかわからないけどね」

彼女は未だ、知らなかった。後に、彼女にもその時が来る事を。


彩華 その七華(Megalith 2015/06/13)



美鈴が、○○に好意を向け始めて、一週間。此処で、美鈴は○○の欠点をしった。それは、鈍い。おかしな位鈍感なのだ。抱きついても、上目遣いをしても、さりげなく側に寄っても、全然気付かない。むしろ、どうしたんだ? の一言で終わってしまう位だった。ただ、顔は少し紅くするが。そんな問題は、パチュリーも抱えていた。本を読む時は○○にくっついて、一緒に読んだり、さりげなく好きなタイプの本を渡したり、プレゼントに恋愛小説…それも、自分に似た魔法遣いの恋愛小説…尚、三日で自作した物…因に、パチュリー曰、○○への愛を妄想してたら、いつの間にか出来ていた。との事。少し、艶本要素も有る、完璧な出来の恋愛小説…を、○○に渡していた。が、気付く素振りすら見せない。

そんなこんなで、○○が紅魔館で働き出して、一ヶ月になる。

「…はぁ…今日も晴れ…平和…か…」

そんな少女達の思惑が絡まる中、○○は掃除洗濯…そして、料理を作れば皆にふるまい、御使いにも行って…という毎日を過ごしていた。

「…試作型マッ缶を作ってみたが、悪くはない…が、まだまだだな。美味いけど…咲夜さんが甘党という事には驚いたが」

そんな平和に暮らす○○は、今日も少女達の想いに気付かない。いや、気付く訳が無かった。







館の主、レミリアは今まで楽しげに傍観を決めていたが、○○の鈍さには呆れていた。それもそうだろう…あれほど明らかな少女達だというのに、気付かなければ、それこそ何もない様に過ごしているではないか。男色ではないかと、疑った程だ。まあ、それは無い事がすぐに分かったが。理由?小悪魔が暴走したからだ。必要以上に○○に触って、発情しかけて、襲いかけたのだ。その小悪魔は

「…どうなるか、分かってるわね?」

「…小悪魔さん…少し“お話”しましょっか…」

「こぁっ!?」

「『ロイヤルフレア』!」

「『破山砲』!」

「こぁぁぁああああ!」

…という具合で、パチュリーと美鈴に成敗されたのだ。小悪魔曰、パチュリーは女帝。美鈴は、白い魔王に見えたとか。その時の○○の一言。

「…クわれかけた…いや、クわれても良かったのか…?」

これにより一時騒然としたが、○○がちゃんと女が好きだという事が分かったのだ。なので、そんな○○の事を探る事をレミリアは決めたのだ。あくまで、やましい気持ちはない。ないったら、ない。というか、有ったらパチュリーに何をされるか分からなかった。恋する乙女とは、恐ろしい物である。という訳で、レミリアは早速○○を部屋に呼んだのだった。

「…お呼びになりましたか?」

「何時も通りで良いわ…敬語も要らないわよ」

「…そうか、で、どうしたんだ?」

レミリアは、○○に敬語を外す事を許していた。気まぐれ…というよりは、紅魔館という中の家族なのだから、余り敬語を使ってほしくなかったのだ。が、館の家族は自分に敬語を使うので、敬語を使わないのは、パチュリーや○○位である。それは、置いておくとする。

「貴方って、気になる女性とかは居ないの?」

「…居るには居るかもな。けど…」

「けど?」

「…俺なんかじゃ不釣り合いだし、好かれる訳が無いからな」

レミリアの問いに、○○は少し間を置いて答える。何とも、興味深い、それでいて気付く訳も無いだろう。という、考えにレミリアは至る。ああ、○○はそういう思考なのだな、と理解する。

「そうかしらね、貴女の働きも中々の物だし、仁徳も有ると見えるのだけれども、案外、居るわよ」

「有り得んな…俺は、仁徳なんか無いし、別に其処まで良い人間じゃない。ましてや、良い顔ですらない」

どうやら、意外と固いようだ。昔に何か有ったのだろうか? そんなにも否定するなんて…

どうやら、まだまだ突っ込む必要が有る様に見えたのだ。

「何か有ったのかしら?昔に…ね」

その言葉に、○○は少し詰まる。何か、有るのだろう。レミリアは、やはり、予想通りかと様子を見ている。○○も、分かっていた。

「…好きな人が、居た…その人は、何でも出来て、周りからも完璧超人と言われていた…」

「…それで?」

「…そして、結局色々有って、付き合った…けど…あの日…」

「…あの日?」

○○の目の色が、変わった。直ぐに、その理由を知る。

「…俺の目の前で、殺された。通り魔に、な」

「…!」

「…俺は、守れなかった。結局、俺には無理なんだという事が分かった」

「…無理って…?」

「…彼奴以外に、俺を愛した奴は居なかった。友人も、気にせず付き合ってくれるとある馬鹿以外、居なくなった」

「…それは、辛い事を聞いたわね」

「…俺に資格は無いし、好かれる事は二度とない。だからさ」

○○の独白は、なんとも物悲しい出来事だった。本当に、辛いのだろう。顔を少し、歪めていた。だから、レミリアは言う。

「…そんな事は無いわよ、通り魔の犯行は貴方のせいではない。守れなかったというのも、ね」

「…それは…」

「…それに、貴方を愛する子は居るわよ。絶対に、ね」

「…そうか…」

○○が、レミリアの言葉を聞いて、何を思っているのかは分からなかった。だけど、分かる事はただ一つ。







「○○さん、今日もありがとうございます!」

「ああ、美鈴…全く、お前は抱きつくのが好きだな」

「○○さんですから!」

これが、日常の風景。

「○○…今日も一緒に本を読みましょう」

「…ああ、それにしても…本当に何時も密着するな」

「あら、そうした方が貴方も役得だし…読みやすいでしょ?」

○○の、今のかけがえのない、“友情”としての、日常。






だから○○は、少女達の想いに気付けない。






「…○○君、やはり相当に病んでいるわね…」

紫は、スキマから○○の様子を見ていた。当然ながら、紫は全て知っていた。それを知っていて、○○を連れてきた。それが、彼の最後の友人の頼みなのだから。けれど、○○は心を閉ざしたままだった。だから、紫は決めた。

「…アリスと彼に、協力してもらわないとね」

だから紫は、一つの手を打つ。幻想になった○○の、運命の恋路の為に。



後書き

さて、重くなってまいりました。

どうも、suryu-です。

前回、作者の名前を要れない方がいいとの為、この処置をとっております。

多大に遅れた事は、申し訳有りません…待っている人居るのかな?

さて、今回は割りと最初は何時も通り軽く描く気だったんですが、実は描いている最中からどんどん重くなっていきました。難産でしたね…ただ、○○がどうして彼処までの状況で、恋路に走らないのか…が、この様な感じに。因に、クわれた方が良かったのか?というのは、○○の自信の無さ、俺みたいな男を襲うのか?という心の為に、言いました。決して、変態ではありません。そして、イチャラブだけでいくつもりがシリアスに風呂敷を広げてしまった事にびっくりな自分です。いや、ただでさえ正反対で難しいのに、シリアスとかマゾゲーかと思いましたいよ。(苦笑)ですが、楽しみにされている方が居るなら、頑張って描けますね…居るのなら、ですが。さてはて、不快感を与えてないか心配です…

では、閲覧ありがとうございます。次回もお楽しみに!


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最終更新:2016年02月11日 17:41