藍6




新ろだ195


 斜陽の差し込む土間に二つの椅子を並べ、俺と藍はそこに腰掛けていた。
 二人で仲良く横並びに座るのではなく、俺が藍の背後にくっつくような形で座っている。
 藍の背中の最下部、腰骨の辺りから垂れ下がる金毛の九尾を自分の膝に乗せ、その一房をそっと掴む。
 そして、俺は自分の得物を取り出した。

「藍、始めるよ」
「ああ、よろしく頼む」

 ピンブラシ、獣毛ブラシ、金属製の櫛。その三つを使い、丁寧に被毛のもつれを解き、ホコリを除去し、廃毛を絡め取って、仕上げに毛を整える。
 それを九回にわたって繰り返すのは手間も時間もかかる作業だったが、まったく苦にはならなかった。
 これは義務でも仕事でもなく、俺に与えられた特権なのだから。

 丹精して藍の九尾を手入れしていくと、わずかな違和感を覚えた。
 少しばかり尻尾の手触りがパサついた感じがするし、日本刀の刃文を思わせる光沢もくすんでいる。
 この九尾は藍の自慢なだけに、常に美しく保っておきたい。俺はいつも以上に時間を掛けて手入れをしていった。

「藍、終わったよ」

 最後の尻尾を櫛で整え、俺は藍に声を掛けた。藍からの返事はなく、振り返りもしない。

「……藍?」

 不思議に思って前に回ると、藍はコックリコックリと船を漕いでいた。どうも居眠りをしているらしい。
 無防備な寝顔は可愛らしいが、椅子の上で船を漕いでいるというのは大変に危ない。
 起こしてやろうかとも考えたが、この寝顔をもう少し見ていたい。俺は藍を横になれる場所に運んでやろうと手を伸ばす。
 しかし俺の手が触れるその寸前、藍の肩がピクリと動いた。残念に思いつつ、俺は手を引っ込めた。

「……おっと、いつの間にか眠ってしまったのか」

 目を覚ました藍はゆっくりと頭をもたげ、俺の顔を見て自嘲気味に微笑んだ。

「だらしない顔を見せてしまったな、忘れてくれるか」
「あんなに可愛い寝顔、忘れられないよ」
「……っ! と、年上をからかうんじゃない、まったく……」

 口ではそう言っているが、藍もまんざらではなさそうだった。照れ気味の表情と尻尾の動きがそれを物語っている。
 と言うか、あんまり尻尾を振るとホコリが付いてしまうんだが……ただでさえ静電気の溜まりそうな尻尾なんだから。
 まあ、それは後で何とかするとして、俺には気になっていることがあった。

「それにしても、藍が居眠りするなんて珍しいな」
「……ん、ああ。あんまり気持ちがよかったからつい、眠くなってしまったよ」

 嬉しいことを言ってくれるじゃないか。でも、それだけじゃないだろう。俺は指摘する。

「藍、疲れてるんじゃないのか?」
「……バレていたのか」
「尻尾を見れば判るさ。毛づやも手触りも、いつもより少し落ちてたからね。疲労やストレスが溜まってる証拠だ」
「ふふ、君は私の専門家だな」

 藍はわずかに嬉しそうな表情をしたが、その顔にははっきりと疲れが見て取れる。
 やつれていると言うほどではないが、どことなく精彩を欠いていた。

「そろそろ紫様が長期睡眠に入る時期だから、いろいろとまとめて仰せつかっていてね……。
 この仕事が済めば、しばらくは私も暇が持てるんだが」

 ふう、と大きく息を吐く藍。やはりずいぶんと疲れが溜まっているようだ。
 どうにか藍の力になってやりたいが、九尾の狐でも一苦労の仕事を前に、ただの一般人である俺にどれだけのことが出来るのか。
 俺にも妖怪並みの能力があれば……と考えたその時、俺の脳裏に稲光のごとく妙案が閃いた。

「藍。俺を藍の式にしてくれないか?」
「!? ……どういう風の吹き回しだ? 私の式になりたいだなんて……」

 藍は驚いて目を丸くしている。まあ、それはそうだろう。普通、妖怪の式になりたいと言う人間はいないからな。
 俺は答えた。

「藍の式になれば、条件次第じゃ藍と同じ能力を発揮できるらしいじゃないか。
 そうすれば藍の力になれるだろ? そうでなくても、ただの人間よりはマシだと思うよ」

 ぐっ、と藍は声を詰まらせる。感激でもしてくれたのか、嬉しそうに笑いながらも目の端には光るものが見えた。
 光る雫を指先で拭い、藍はかぶりを振った。

「君の気持ちは嬉しい。……本当に、だ。でも、君と私はそんな『使う』『使われる』の関係じゃないだろ?
 私たちは、その、こ、こい……」
「……恋人。対等な、互いにワガママを言い合える関係、か」

 顔を真っ赤に染めて、藍は水飲み鳥の玩具みたいに首を上下に振った。杞憂だと分かっているが、頭がスッ飛んでいかないかと心配になる。
 藍の言うとおりかもしれない、と俺は考えた。
 俺は俺の意思で藍の支えになりたい。命令に従う式神というのは、やはり違う気がする。

「そうだな、俺も藍と対等でありたい。やっぱり、俺は俺に出来るやり方で藍を支えるよ」
「はは、そんなに気を張らなくてもいい。今までの君で充分さ」
「藍の式神になるのも悪くないと思ったんだけどな」

 俺がそう言うと藍はちょっと考えて、何だか恥ずかしそうにしながら口を開いた。

「じゃあ……少しだけ、真似事でもしてみるか?」
「真似事? ああ、何でも命令してくれ」

 よく分からないが、藍は何か俺にして欲しいことがあるのだろう。もちろん、俺はその話に乗ることにした。
 俺が了承すると、藍はうつむき加減で何かを呟いた。

「……を……てくれないか」
「ああ、そんなこと」
「そ、そんなことって言うな! 今の一言を言うのに私がどれだけ恥ずかしい思いをしたと……」
「まあまあ」

 喚いている藍をなだめつつ、俺は座敷のへりにどっかりと座り込んだ。大きく足を開き、太股をポンポンと叩く。
 藍は唇を尖らせつつもこっちに寄ってきて、俺に背中を向けて膝の内側にドスンと座り込んだ。
 俺は藍の帽子を脱がせ、頭の上に手を置いた。
 そして。

 なでなで。

「……あ」

 なでなで。

「……」
「どうだ?」

 なでなで。

「何というか、幸せな感じがする……」
「頭を撫でて欲しいなんて、藍は可愛いなあ」
「……橙にはよくしてやるが、自分がしてもらうのは初めてだ。すごく、安心するな……」

 恍惚としながら、藍は俺の胸に背中を預けてくる。
 喜んでもらえたようで何よりだ。けど、他にも藍が望むことがあるならしてやりたい。
 耳の裏側の付け根を重点的に撫でながら、俺は聞いてみた。

「他には?」
「……その。ぎゅっ、ってしてくれ……」
「了解」

 藍の両脇から腕を前に回して、ぎゅー。
 しばらくしても藍は何も言わない。さらに、ぎゅー。
 やっぱり藍は無言のまま。もっともっと、ぎゅー。
 いつまで抱いていればいいのだろうか。まあ、いつまででも構わないけど。
 いつも頑張っている藍にたまのご褒美だ……というか、俺にとってもご褒美だが。
 などと考えていると、ようやく藍は口を開いた。

「……はあ。幸せなものだな、誰かに支えてもらうというのは。
 九尾となってから、紫様の式となってから、こんな風にしてもらうのは初めてだ。
 力を得て、誰かに甘えることなど忘れてしまったような気がする」
「藍は可愛くて器用で可愛くて強くて可愛くて賢いからね。どうしても頼られる側になるんだろうな。
 でも、藍はもう少し他人を頼ったり甘えたりしてもいいんじゃないかな?」

 俺の胸に頭を当てて、藍は俺の顔を見上げてきた。普段とは違った視線に心臓が一拍、強く弾んだ。

「それならもうやっているさ。この通り、な」

 大した人間でもない俺を支えにしてくれるのはすごく嬉しい。でも、そうじゃないんだよ、藍。
 俺は小さく首を横に振った。

「違うよ。もっと身近な人たちを信じてみたらどうかな、ってことさ。
 紫さまもきっと、藍が甘えたら優しくしてくれる。橙だってきっと、藍が頼れば期待に応えてくれる。
 二人と会ったことはないけど、俺は藍を信じてる。藍の好きな人たちは藍を裏切らないって信じてる」

 何をえらそうに言ってるんだか、と自分でも思う。
 だけど、どんな理由にせよ、俺はいつか藍の前から姿を消す。その時、藍には他に頼れる人がいることを知っておいて欲しい。
 例え俺には分からなくても、俺がいなくても藍は笑って暮らしていると信じていたい。
 俺を見上げたまま、藍は目を細めて笑った。気負いのない、いい表情だ。俺の守りたい、藍の笑顔。
 顔の向きを前へと戻し、藍は言った。

「……そうだな。君の信じてくれる、私の中の二人を信じてみよう。
 甘えてみたら、紫様は私のワガママを聞いてくれるかな?」
「きっと。藍の御主人様なら、藍を大事にしてくれるはずさ」
「なら、一つお願いでもしてみようか」

 藍のお願いとは何だろう。お暇をください、とかじゃないよな。何かが欲しいのか、何かをして欲しいのか。
 紫さまにお願いするくらいだから、きっと俺には出来ないことなんだろう。
 顔も知らない紫さま、どうか藍のお願いを聞いて上げてください。
 俺が心の中で祈っていると、そのまま藍は言葉を続けた。

「マヨヒガに一人、新しい家族を増やしたいのですが……と」
「へっ?」

 思いがけない発言に、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
 まさか、どこかから動物を拾ってきて飼いたいという意味じゃないだろう。と言うことは、ひょっとして……?
 藍を見れば、広々とした袖で恥ずかしそうに顔を覆っていた。

「き、君も心の準備をしておいてくれっ!」

 藍は帽子をかぶりながら勢いよく立ち上がると、呆然とする俺の鼻を抓んで家を飛び出していった。
 マヨヒガに新しい家族? 俺に心の準備? それって、やっぱり……。

「……一緒に暮らそう、ってことか?」

 独りごちて、やっと認識する。
 勝手に頬が緩むのが分かるが、自分の意思では止められない。きっと、今の俺は妖怪ですら目を逸らすほど薄気味悪いだろう。
 まったく締まりのなくなった顔で柏手を打ち、俺はさっきと同じように祈った。

「紫さまっ! どうか藍のお願いを聞いて上げてくださいっ!」

 ふと首筋に感じる、冷たい空気の流れ。戸も窓もしっかり閉まっているはずなのに……スキマ風?
 俺が不思議に思っていると。

「だったらまず、その薄気味悪い顔をどうにかなさいな。正視に堪えないわよ」
「!?」

 耳元に届くあでやかな女性の声。頭の中に響いたとかではない。確実に俺の鼓膜を震わせていた。
 しかし、声の主らしき姿はどこにも見当たらない。

「……幻聴、か? それとも、妖精の悪戯……?」

 さっきの声が親切に答えてくれるということはなかった。
 ただ、なんとなく、藍と一緒に暮らせるのはもう少し後になりそうな予感がひしひしとしていた。


新ろだ217


 年の瀬も押し詰まり、今年も残すところあと一週間となった。つまり、今夜は聖誕祭前夜である。
 今日はそのお祝いも兼ねて……というより、それを口実にして俺はマヨヒガの面々と顔合わせをすることになっていた。
 恋人である八雲藍と、その主の紫さまに、藍の式である橙。どんな人たちなんだろうか、期待と緊張で胸は高鳴りっぱなしだ。
 プレゼントも用意したし、後は藍が迎えに来てくれるのを待つだけだった。

「ん……?」

 何げなく天井を見上げると、奇妙な物体が浮いていた。陽光を思わせる山吹色をした、毛の塊が九本。
 どこかで見たことがあるような……というか、藍の尻尾にそっくりなんだが。
 目の前の異様な光景に首をひねっていると、唐突に空間が裂けた。
 何を言っているのか分からないと思うが、そうとしか表現できない。カーテンを左右に開くように、空間の一部が開いたのだ。
 開いた空間からコロリと飛び出てくる尻尾……と、その持ち主。

 藍だ!

 思わず飛び出した俺の手の中に、藍が転がり落ちてくる。急に腕にかかった重みによろけてしまうが、俺は何とか転ばないように踏ん張った。

「ふう、危なかった……」
「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」

 俺は藍をそっと床に下ろし、疑問をぶつけた。

「いったい何がどうなってるんだ? いきなり目玉だらけの空間が開いたと思ったら、藍が転がり落ちてきて……」
「それは後で説明するが、先に言っておかなければならないことがあるんだ」

 衝撃的な登場の仕方をした藍は、真剣そのものの面持ちで、さらに衝撃的な発言をした。



「クリスマスは中止になった」



                !?



 あまりにも突飛な発言に俺は固まってしまった。

「……何ですと?」
「すまない、言い間違いだ。正確には『クリスマスパーティーは中止になった』だ」

 何だ、言い間違いか。てっきり原油高の影響でサンタの都合が悪くて中止になったのかと……。

「え、中止!? マヨヒガでやる予定だったのが?」
「ああ。楽しみにしていてくれた君には申し訳ないんだが……」
「何で? 紫さまの都合が悪いとか……」

 俺が尋ねると、藍は何とも決まりが悪そうな表情をした。

「ええと、その……。今日、君の紹介を兼ねて祝宴を催したい旨を紫様に伝えたところ……

『クリスマスって言ったら二人きりで過ごすでしょ常識的に考えて……』

 と、ものすごく微妙な顔で言われてしまった。
 それで、今日明日は帰ってこなくていいからと、スキマに放り込まれてしまって……」
「スキマ?」

 妙な文脈の単語があったので、尋ねてみる。
 すると、藍は端的に紫さまが操る空間の裂け目だと説明してくれた。とんでもない能力だ。
 しかし、ピンポイントで俺の家に放り込んできたってことは……。

「もしかして、俺たちのこと知ってるんじゃ?」
「どうもそうらしい。どこかで覗いて……監視……見守ってくれていたんだろう」

 何というプライバシー侵害。
 これも藍の気苦労の一つなのだろうか。藍は目を瞑り、全身が萎みそうなほど大きな溜息をつく。
 気を取り直して、藍は言った。

「ともかく、今日明日と私は帰るところがなくなってしまったわけだが……」

 片目を開け、チラリと俺を見る。素知らぬ顔をする藍だが、鼻の頭が少し赤かった。

「だったらウチにいればいいさ。大して広くはないけど、客用の布団くらいはおいてあるし」
「そ、そうか。じゃあ、世話になるよ」
「ああ、遠慮なくどうぞ」

 当初の予定とは違ったけど、まさか藍と二人だけのクリスマスとは。嬉しい、嬉しすぎるぞ。

「しかし、サンタは煙突から入ってくるものだとばかり思ってたけど、まさかスキマからプレゼントを投げ込んでくれるとは」
「あの方なりに気を遣って下さったのだろうか……?」
「藍が頑張ってくれてるから、ご褒美をくれたんだよ」
「……そうかもしれないな」

 一応頷いてはいるけど、顔が全然納得してないぞ、藍。『遊ばれている気が……』とか言ってるし。
 何でそんなに信用ならない妖怪(ひと)に仕えているのか、俺は不思議でしょうがなかった。
 何はともあれ、これからのことを考えよう。

「二人で過ごせるのはいいけど、予定が変わっちゃったな。準備をやり直さないと」
「マヨヒガで過ごすものとして準備を整えてきたからな。とりあえず、買い出しに出ようか」
「そうだな」

 そういうことで、俺たちは街に買い出しに出ることにした。
 二人並んで街を歩きながら、藍は幾度となく俺の方に視線を送ってきた。ふと気づく、所在なげな藍の左手。
 周りを見れば、俺たちと同じような仲睦まじい男女が何組も見える。その中で俺だけが……。

 なんて馬鹿野郎なんだ、俺は。
 藍の喜ぶことだけを考えてきたつもりなのに、こんな簡単なことに気が付かないなんて。

 自分の間抜けさを呪いつつ、俺は藍の左腕に自分の右腕を絡め、指を併せるようにして手を握った。

「ごめん。ずいぶん冷たくなっちゃったな」
「鈍感は罪だぞ? まあ、自分で気づいたから今回は許してあげよう」
「もっと経験を積まないとな」
「ふふ、なら私が協力してあげようか」

 藍が機嫌を直してくれてよかった。俺ももっと男を磨かないとな。こんなざまじゃ紫さまに申し訳が立たない。
 気合いを入れ直して、俺は藍と一緒に街を巡った。
 七面鳥を焼こうか、たまにはワインもいいんじゃないか、ケーキはどうしよう、稲荷寿司は他と浮いてるんじゃないか、などと話しながら二人で買い物を進めていく。
 もちろん、その間もずっと手は繋いだままだ。
 そうしているうちに、空からちらほらと舞い降りる冬の妖精。雪だ。
 ひとひらの雪を藍が手に取ると、それは幻想であったかのように儚く消える。
 しばし雪を眺めて藍は言った。

「雪か……。今夜は寒い夜になりそうだな」
「いや、暖かい夜になると思うよ」

 俺の言葉に藍は小首をかしげた。俺も学んでるんだよ、藍。

「今夜は二人だから。さっきみたいに、藍に冷たい思いはさせない」
「……そうだな。身を寄せ合わないといられないくらい、寒くなるといいな……」

 そう言って、俺たちは肩を寄せ合った。
 風景に交じる雪の量が次第に増えてくる。今夜はとても冷えるだろうが、寒ささえも俺たちにはクリスマスプレゼントだ。
 雪よ、降り積もれ。
 その分、俺たちの想いも積もってゆくから。


新ろだ312


 俺と藍が並んで街を歩いていると、人だかりがあった。その人だかりの最前列には羽織袴と白無垢の男女。
 結婚式か。藍の花嫁姿は、それはそれは画になるんだろうなと、思わず空想する。

「花嫁衣装か……。いつかは私も着てみたいものだな」

 花嫁をじっと見つめて、藍は呟いた。
 俺が着せてあげるよと言おうとすると、藍は言葉を続けた。

「きっと、花嫁衣装を着る私の隣に立つのは君ではないんだろうな」
「えっ……」
「君よりも力があって、知恵も回って、地位も財も兼ね備えた男がいいな。ひょっとすると、相手も九尾の狐かもしれない。
 そして、誰もが私たちの結婚を祝福してくれるんだ」

 そう言って、藍は軽く笑った。
 当然の発想だった。俺みたいなただの人間よりも、その方が藍を幸せにしてくれるだろう。
 分かってはいるが、目の奥から熱いものが込み上げてくる。
 それが目からこぼれる前に、藍はさらに言葉を紡ぐ。

「けれど、そこに君が唐突に現れて、私に手を差し出すんだ。
 私は力も地位も財もない、私に優しくしてくれるだけのただの人間を選んで、式場を飛び出していく。
 そしてどこまでも、二人だけの場所を目指して駆けていくんだ」

 ふわりと微笑んで、藍は言った。

「どうだ、素敵だろう?」

 やはり、目から熱いものが溢れそうになる。けど、その理由は先ほどとは正反対だった。
 ぐっと堪えて、言葉を搾り出す。

「ああ、最高に素敵だ。藍に手を差し出したとき、藍に選んでもらえるように頑張るよ」
「ふふ、期待しているからな」

 そっと伸ばされた藍の手を、俺はしっかりと握りしめた。

      *  *  *

「……ところで」
「ん?」
「もしも紫様が私たちの結婚に反対したとして、その時君は私を攫って逃げてくれるか?」

 即座に俺は首を横に振った。そして、答える。

「ダメだよ。紫さまは藍の家族だろ? だったら、祝福してもらわなきゃ本当の結婚とは言えないと俺は思うよ。
 紫さまから藍を攫ってはあげられないけど、その代わり、絶対に紫様に認めてもらってみせる。
 ……これで、どうかな?」

 俺の出した答えに、藍は春の日差しのように柔らかな笑みで返してくれた。


新ろだ2-059


「…ふぁ~あ…眠い…」
天気がポカポカ昼下がり…世界で二番目にいとしい我が家であくびをしながらお茶を飲む(ついでに本を読む
「おいおい、○○ずいぶんと隙だらけだな、そんなんじゃ私がお前を拉致しちまうぜ?」
何時の間にやら我が家に入り、テーブルを挟み対面にに座る黒白魔女魔理沙がクッキーをかじりながらにやついている
「それはやめてよ…魔理沙にさらわれたらさまざまなやつらの嫉妬で呪い殺されそうだ…」
「おいおいそんなの気にするなよ…それに、私は前からお前のことが…」
「は?オイオイ冗談にもほどが…」
言ってる間に魔理沙が超接近→押し倒されるコンボが綺麗に入った 椅子から落ちて背中を打った

「いたた…何するのさ魔理沙ぁ…」
と、気づいたらマウントされていた  怖いよおおおおおおおお、この状態じゃマスパよけれないよぉ!
やっぱりこの前泥棒撃退唐辛子ティー(○○制作、値段、60杯分500円)←結構売れてる のことまだ怒ってるのか!?
「私は前から…お前のことが…」
どうやら違ったようです 潤んだ目で僕を見降ろして、目をつぶった魔理沙は眼を閉じてゆっくりと顔を下してくる
「え?ちょ…魔理沙、ストップ、早まらないでよ、ねぇ、ちょっと…」
さすがに状況理解、なんで?どうしてこうなった?駄目です!こんなこと!僕には命より大切な彼女がいるのにー!
「あわわわわわわわわわわわわばばばばばばばばばばばば」
てんぱって混乱して、そしたら真上にある魔理沙の顔がいきなりニカっと笑った

「…ふぇ?」
「○○、今日は四月一日だぜ…大成功だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「……(状況整理中…理解 だ ま さ れ た)ま~~~り~~~さ~~~…」
すでに上から退いて逃走態勢万端の魔理沙を睨みつけ…手元のスイッチをぽちっと押した
「へへ、○○なかなかかわいかったぜ!じゃあな~~~ごふぁ!!!」
と、窓をぶち割って逃げようとした魔理沙、ところがどっこい窓は割れない、はじかれて墜落する魔理沙
「な、なんだ!?なんでこの窓こんなに硬いんだ!?」
「この家はなぁ…たび重なる馬鹿どもの襲撃にも対応できるようにコツコツと武装を積み重ね、侵入はもちろんだ種つも不可能な要塞になってんだよ
このスイッチ一つで自由にON・OFFできます」
手元のスイッチをひらひらさせながら僕は魔理沙に歩み寄る
「誓約書だ…覚えてるよね?魔理沙…私はもう二度と○○に嘘をつく、および盗みを一切働きません、破った暁には…」
「…あ、あわわわわ…」
立場逆転
「がんじがらめにして、アリスの家に放り込むって…さ アリスにも了承は得ているしね…アリス張り切ってたよ、くすぐり三時間の計だってさ」
「ゆ、許してくれ○○!!エイプリルフールだしさ!!お願いだ!!むしろお願いです!」
「無理(キリッ  じゃあ覚悟を決めてね~…」
「ちょ!?○○!その縛り方だけはやめてくれ!あう!ああ、魔法が使えない!!○○ーーー!許さないからなーーーーー!!」
魔術封印式ロープ(○○制作、値段 一メートル1000円)であの縛り方をして、ぼくは魔理沙を担いでアリス宅に向かった

「あら、○○…ふぅん、早速捕まえたのね、ありがと、じゃあこれ約束の…」
「はい、じゃあこれ…」
「商品みたいな扱いをしないでくれ○○!」
魔理沙を引き渡し、代わりに火薬入り人形を一つもらった
「じゃあね、○○…」
バタン、と、ドアが閉じられる…そして…
「ア、アリス…冗談だよな?冗談…ひゃああああああああああああああああああああああああああははははははああああっはははははははっははは!!!!!」
魔法の森に絶叫と嬌声と笑い声の混じった声が響き渡るのを感じながら上機嫌で僕は自分の家に帰った


「…ふぅ…そういえば今日はエイプリルフールだったな…」
四月一日は誰かさん公認の嘘をついていい日である
「…どうせなら僕もうそついちゃおうかなぁ…もちろん…」
どうせならとびっきり意地悪なやつを、ぼくの彼女にね
「たぶん…「○○、いるか?」ほらきた…」
この時間当たりになると彼女は僕の家に時々遊びに来るんだよね、律儀だね~…
「うんいるy…待てよ?」
まるで魂が頭蓋骨という狭い器から抜け出したかのような感覚に陥る
そうだ…とびっきりびっくりさせる嘘を思いついた…彼女なら引っかかる…面白いくらいに…
普段出てこない心の悪魔が僕を刺激する ああ、彼女を困らせたい…
「…うん、いるよ」
作戦開始 ドアの前に立ち(開けません)なるべく暗い声で在宅を告げる
「む…○○、どうした?いつもより声に元気がなくてよ?」
「うん…藍さん、実は聞いてほしいことがあるんです」
ドアごしに僕は反対側の彼女、藍さんに声をかける
「ど、どうしたんだ?何か悩みか?」
「…ぼく…もう藍さんと会えないんです…」

ピシッ… 空気が凍った感覚
まさかここまで効果絶大とか、夢にも思いませんでした 怖い、空気が震えてるような気がする

「…な…なんで…」
「…ぼくもう…藍さんと、会うことが…できないんです…」
われながらアカデミー物の演技、涙声で藍さんに話しかける
「な、なぜだ…○○、もう、私のことなんかいやになってしまったのか…?」
「そんなことはない!」
やばい!思わず本音が漏れた!…大丈夫、これはむしろ+効果だ…KOOLに、KOOLになれ前原K1!
「でも…なんであえなくなるんだ○○…わけも話さずお別れなんて、納得できるはずがないだろう!」
「藍さん、僕だって離れるのは嫌だ…でも…話せないことは、あるんです…」
ああだめだ…演技に熱が入りすぎた…そろそろ引き際か…?
「…わかったよ…○○がそこまで言うなら、私も潔く、身を引くことにしよう…」
わっつ?
「…さようなら…○○…」
涙声でそう告げて、藍さんはどこかへ行った…

「…待ったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
冗談じゃないぞ誰もこんな苦いend望んでませんからちょっと待ってください藍さん!!!
ドアをぶち破る勢いで開けたら、藍さんは近くの岩場に腰かけてうつむいている
「待ってください藍さん!!僕が悪かったです!これエイプリルフーあふぅ!!」
と、藍さんに駆け寄って近づいた…た、視界がきつね色に染まった

「…ふぁ?」
「○○よ、今日はエイプリルフールだったな?」
視界はきつね色一色で藍さんの声だけ聞こえる
「だから私もうそをついたよ…そうだな、わかったよ…の辺りからかな?」
「…あー…ばれてましたか」
なんということだ、ぼくの環菜はすでに藍さんに看破されていたようだ やっべはずかし、自分でアカデミーものだと思ってたとかバカす
「ふふふ、純真な○○は普段嘘をつかないからな、こういう日にこそ嘘をつきたがることは看破していたよ
そして普段○○が言わないと思われる限度う行動はうそ、というわけだ、私もだます演技に熱が入ってしまったよ」
「…藍さん、穴があったら入りたいです」
ああ、ついでに理解した 僕は藍さんのモッフモフの尻尾に包まれているんだ…逃げ場がないね
「たまには妖怪らしいところを、と思ってな、一杯くわせてやったよ」
「う~…恥ずかしいです」
「はっはっは、まあそう恥ずかしがるな、まあそれより…」
突如僕は藍さんの尻尾から解放された そして今度は藍さんにきつく抱き締められる つかみコンボ?
「仮にも妖獣であるこの私をだまそうとしたのだから代償は覚悟しているな?しかも別れ話の嘘をつくとはなぁ…」
「え?あのその…藍さん?」
なんかいつもの藍さんと違う…妖しい雰囲気…そして今気付いた  この拘束から逃れるすべを僕は持っていなかった
「体で払ってもらう…というのはまあ言い方があれだが普段は我慢していることを一杯やらせてもらうかな」
そう言って藍さんは僕をお姫様だっこ体形の状態にして立ちあがり二番目に愛しい我が家へと向かい始める
「え?ちょ?」
「ふふふ…まずはあれをしてもらうかな」
そうして二人は○○の家に入っていき…

「ちょ!?藍さんそれはやめて!ぼくおとこだから!それ女もの…キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ではその状態で添い寝を…おっと逃げられんぞ?私の尻尾からは逃げられんだろう、フフフッフフフフ…」

 -------スキマの裏-------
 どうでした?妖絶な藍さまをイメージしていました
 駄文乙wwwうっは俺馬鹿すwwww

 今後もこの○○の話は書いていこうかなーとか思ってます、地味に
 色々設定決めてあるしね…○○の設定っていうか商品の設定が
 でも書かないかもしれないしね  あとがき嫌いだからこれでおしまい



最終更新:2010年10月15日 22:39