藍9



藍様と日常を過ごしてみた 3(Megalith 2012/05/13)


とある昼過ぎ。
「すみませーん!紫様ー、どこにいらっしゃるんですかー!」
俺こと○○は(無駄に)広いマヨイガの中を走っていた。
「一昨日仕入れた外界の品なんですけどー!!」

……ダメだ。見つからない。
そもそも道路標識なんて何に使うんだろうか?まさか武器じゃないだろうし……
俺が半ば諦めかけたその時、
「ん?あれは……紫様?」
廊下の先に紫様(?)を見つけた。

……?様子が変だ、なんというか、非常に紫様らしくない。

まず、顔を赤く染めて当たりをキョロキョロと見回している
…ありえない。普段の行いからして全く信じられない。

次に、頭に付いている……狐耳!?
…まさか……!!

足音を消して廊下を歩き、ゆっくりと彼女に近づき声をかける。

「……藍?」
「うわあああああああっ!?」
やはりそこにいたのは紫様の服を着た俺の恋人……藍だった。




「頼む!頼むから誰にも言わないでくれ○○!」
「分かったから落ち着いてくれ、藍。」
「痴女と勘違いされるー!!」
…すごい取り乱し様だ。正直怖い。
「……ハァ。大丈夫だ、俺がなんとかするから事情を説明してくれ。」
とりあえずは事情聴取だ。

……まぁ予想はつくが。
「うう……紫様の命令で仕方なく……予備も全部……」
やっぱりかコンチクショウ。
「うーん……となると何か服を買ってくるしかないんだが……」
「たっ、頼む○○!何でもいいから買ってきてくれ!」
「あー、そうしてやりたいのは山々なんだが……」
「駄目なのか!?」
「俺一人じゃ人里まで行けん」
「……あっ」




藍が落ち着いてきたようなので,とりあえず居間で状況整理でもしてみよう。
ホワイトボードを引っ張り出し、現在の状況をまとめる。

 ・俺……一人では人里には行けない。

 ・藍……被害者。このままにするわけにもいかないし、人里に行かなくてはならない。

 ・紫様……犯人。どんな意図があるか(存在するのかどうかすら)分からない。

 ・橙……外出中。確か遊びに行くとか言ってた。

うーん……この様子だと……

「参ったな……俺と藍が一緒に服を買いに行くしかないんだが……」
「嫌だ!絶対に嫌だぞ!!」
やっぱりこうなるよな
……よし。
「なぁ、藍。どうしてそんなに嫌がるんだよ、凄く似合ってるぞ?」
「そっ、そうか……?って、そうじゃなくてだな!」
「じゃあ何がダメなんだ?」
「……この服って露出が多いだろう?結構恥ずかしいんだ…」
あー、そういえば普段の服もほとんど肌が出ないし…かなり恥ずかしがり屋なのかもしれない。

「でも橙に見られたくないだろ?」
「うっ…!」
「しかも紫様だって今日だけで終わりにしてくれるとは限らないし。」
「うむむ……!!」
「納得できた?」
「…………分かった、すぐ行こう……」
説得するだけでこれか……先が思いやられるな。






~~~人里~~~
そして人里に到着したんだが……

「あー…その、藍?もう少し離れてくれないと歩きづらいんだが……」
「駄目だ」
「余計目立つってば……」
「駄目だ」

さっきからずっとこの通り、藍がほとんどしがみついているのだ。
そもそも藍は何か理由がない限り甘えてこない。
更に、本人は気にしていないのだろうが普段より薄い服の分、感触がッ……!!
マズイマズイマズイ……!
俺まで恥ずかしくなってきた…!
どこかで休憩しなければ……と、思った時、ちょうどいい甘味処を見つけた。

「藍、あそこの甘味処で少し休憩していこう」
「駄目だ。一刻も早く服を買いに行くぞ」
やはり駄目か……だが俺にも考えがある……!!
「あーあ、お土産でも買ったら橙が喜ぶと思ったんだけどなー」
「……!!」
藍の狐耳がピクっ、と動く……可愛いなおい。
よし、このままゴリ押しすればいける!
「でも藍が嫌だって言うしなー、遊んで帰ってきた橙は喜ぶと思うんだけどなー」
「……行こう、○○」
やった……!これで一息つける……!!



……と思っていた時期が俺にもあった。

さて、この甘味処の間取りを説明すると、
まず入口から正面にカウンター。
そしてカウンターを右に曲がると通路を挟んで座席、となっている。


そして実はこの店、外来人発案の最近オープンしたお店らしく、なかなかに盛況だったのだ。
そうなると俺と藍は既に満席だったカウンター側の席に座れるはずも無く、
店員さんに案内されるがままに窓側の席に座ったのだが。


「ちょ、藍……!何でわざわざこっち側の席に……!!」
「窓から見られたくないんだ…!我慢してくれ……」
藍が俺の隣に座りくっついている、という状況になったのだ。
……全く休めねぇ!!


しかし、今落ち着いて(?)見ると、今日の藍がものすごく可愛いことに気づいたのだ。
いや、藍はいつだって最高だけどな。
けど普段の藍は『可愛い』というより『美しい』のだ。
それが今の藍はどうか!!
顔を赤く染めて俯き、時折不安そうにこちらを見てくる!!
紫様の服を着ているせいで露出した美しい肩!!鎖骨!!
……待てよ、もしかしたらいっそこのままの方がいいんじゃないか!?


「すみません。ご注文はお決まりでしょうか?」
「はっ、はい!」
おおう……ギリギリセーフ。
かなり危ない方向の結論に達しそうだった。
ナイスです。店員さん。
「じゃあ、この抹茶アイスを一つ。藍は……」
「……私も同じでいい」
「はい、かしこまりました。抹茶アイス2つですね。それではしばらくお待ちください」

「……○○。何か良からぬことを考えていなかったか?」
「メッソウモゴザイマセン」


その後は特に何事もなく、抹茶アイスを美味しく頂いた俺と藍は店を出た。
ちゃんと橙にお土産も買った。
そしていよいよ……


「服…か」
「服だな」
メインイベントだ。



服屋に到着するやいなや、まさに電光石火とでも言うべき速さで藍が動き出した。
「よし、取り敢えずこれとこれとこれで……」
予め考えておいてのだろう、藍は素早く服を購入していく。
一通りの衣類を購入し、早速試着室を借りて、今買った服に藍が着替えに行った。
一気に体から力が抜けた俺は長い息を吐き出した。


これで…!ようやく終わる…!!


「……すまない、○○…」
「ん?どうしたんだよ藍?着替えてこなくていいのか?」
ふと気が付くと藍が俺の後ろにいた。
……どうしたのだろう。顔が真っ赤だ。

何だろう、何か、ものすごい嫌な予感がする……!
「どうしたんだ?」
俺が質問すると藍はキョロキョロと辺りを見回し、絞り出すように声を出した。



「私の服を脱がしてくれ……!」
たぶんその時の俺は相当アホな顔だったと思う。



結論から言うと、甘かった。この時の俺はどうしようもなく甘かったのだ。
俺と藍は幻想郷一のトラブルメーカーを甘く見ていた。


藍の話によると、どうやら藍では絶対に脱げないように術がかけられているらしい。
……勘弁してくれ、今日一日ずっと紫様の思うがままじゃないか。
「落ち着くんだ、藍。今お前は相当まずいことを言っている」
具体的にはskmdy的な意味で。
「大丈夫だ。私とお前の関係なら何もおかしくない」
「家に帰ってから橙に事情を説明して……」
「それじゃあ来た意味がないだろう」
くっ……!一体どうやったら論破できる……!?
「じゃあ「○○。」……」
そこで俺はようやく藍の顔を見た。
俺の服をキュッと掴み、不安そうにこちらを見上げる藍……
「そんなに…嫌か……?」
……断れる奴はたぶんいないと思う。



俺はそのまま藍に試着室の中へと連れて行かれた。
カーテンで仕切ってある試着室は薄暗く、またもともと1人用であるため、
お互いの息遣いさえ聞こえそうだ。


「じゃあ……頼む……」
そう言って藍は俺に背中を向ける…無心だ!無心になれ俺っ!!
「ええと……まずはどうすればいいんだ?」
「構造自体は難しくないからとにかく脱がしてくれ……」
「わ、分かった……」


そしてゆっくりと俺は藍に手を伸ばし……





~~~青年(色々なものと)格闘中~~~





店の外に出ると既に夕暮れだった。
「終わった……!これで本当に……!!」
俺が店の外で満足感に満たされていると同じく満足そうな藍が近づいてきた。
「すまないな○○……本当に助かった」
「いやいや、どういたしまして。
 それよりも帰ったら紫様に絶対一言言ってやる。全く……藍が嫌がることぐらい分かるだろうに」
「あっ……その、別に私は気にしていないぞ!?」
「いやいや、そんなこと無い「わっ、私は楽しかったぞ!」だろ……へっ?」
ちょっと待ってくれ……今何と?
「確かに恥ずかしかったが……嫌では…なかった」
……わざとやっているんじゃないのかこの狐は。
「そっ、そうなのか……俺も楽しかったぞ。うん。」
「あらあら、そこは『楽しかったぜ、藍。また今度着てくれよ』でしょう?本当にヘタレねぇ」
「俺はそんな喋り方しません……っておい」
事もあろうに今回の事件の元凶がスキマから顔を覗かせていた
…いや、ちょっと待て!


「まさか……!ずっと覗いてたんですか!?」
「あら、心外ね。私は藍が心配だっただけよ『ガッ!!』……ど、どうしたの?藍?
 楽しかったんでしょう?」
その時、無言だった藍がいきなり紫様にアイアンクローを決めた。
「ええ、お陰様で今日は楽しめたのでお礼をしようかと思いまして」
凄い。顔は笑っているのに目は全く笑ってない……!
「お、落ち着きなさい!藍!私はただ……!!」



――大体紫様はいつもいつも!!
――きゃああああ!?


遠くで弾幕のぶつかる音がする…今の藍に紫様が勝てるとは思わないが。
「さて、夕飯は何にしようか……」

取り敢えず俺は藍が(一方的に)咲かす弾幕を眺めながら夕食の献立を考えるのだった。



地味に投下。一々レス使ってんじゃねぇよ俺ェ……

なんとなく藍様の絵を眺めていたら、「意外とガード高いのかな?」と思いついつい書きました。
……恐ろしいほどレベルは上がりませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。




Megalith 2012/10/02



 やることもなくなったから、なんとなく縁側で本を読んでいた。
 特にやりたいこともなく、暇を持て余していたところで読みかけの本があったことを思い出したのが事の始まり。
 だが、いつに読んだのかも覚えていない本の内容を覚えているのかと問われれば、言わずもがな。
 前回までのあらすじ、などとこれまでを紹介してくれる便利な機能などついているはずも無いので、仕方なく今までを思い返すように読み返していた。
 多少は記憶の片隅に残っていたのか、読み返せば次の展開が分かる程度には理解できるようにはなっていた。


 「ふぁ…………」


 しかし、そんな作業をし終わる頃になってみれば眠気が俺に襲いかかってきていた。
 それに対する抵抗力もなく、眠いなぁと考えているうちにいつの間にか。


 「……………」


 ゴロリと寝転がったその後のことなんて、覚えていない。














 「………」


 誰かの声が聞こえる。
 その音の発信源が何処からなのか、俺は知っている。
 声、口調からどんな仕草をしているのかが頭に思い浮かぶ。
 例え見ることが無くても、だ。
 多分予想は当たってる、けれど瞼を開いても暗いままだ。

 ああ、そういえばと顔を覆っていた本を取り除こうとしたその時。


 「………おはよう、よく寝れたか?」


 いつもと違う真横に傾いた世界の真ん中に、狐耳の女性が俺の本を摘みあげていた。
 なんというか、普段見上げることがないので中々新鮮な光景でもあった。
 やけに強調されたアレとか。


 「何処を見ている、変態め」

 「……痛ぇ」


 再び俺の顔に本が舞い戻ってきたが、落下の衝撃がモロに顔面にヒットする。
 またしても視界は真っ暗、開きかけのページが顔に当たっていた。
 非常にうっとおしいのでそれを手で掴み取り、本を閉じて床に置くことにした。


 「何様です?藍さん」


 起き上がり、向き直って問いかけることにする。
 別にあのままの体勢でもよかったのだが、また変態呼ばわりされそうでもあったからだ。
 仕方ないじゃないか、どうしても視界に映ってしまうのだからという言えるはずの無い言い訳を押しこんで。


 「いや、大したことじゃないんだが」
 「橙がいないんだ、何か聞いていないか?」


 そう言う割には、どことなく心配そうな雰囲気を藍さんは漂わせていた。
 どこが大したことじゃないのやら、とは思ったが口に出すのは野暮。
 まるで娘を案じる過保護な母親みたいなその姿を見れば、そんなことを言う気もしなくなるだろう。


 「友達といつもの場所へ遊びに行く、日が暮れる頃には帰るとだけ」


 読書中、肩を叩かれてどうしたものかと振り返れば、猫耳の少女が俺に伝言を預けてきた。
 元気にパタパタと駆けていく後ろ姿に手を振って、そのまま見送ったことを思い出す。


 「そうか、友達のところへ行ったのか」


 俺の返答を聞いて、安堵したような雰囲気を醸し出す藍さん。
 ここまでのやりとりに特に表情に変化はないけれど、それもなんとなく分かるようになってきた。
 全部が全部、何もかも理解できているわけじゃないけれど、仕草や雰囲気で何を考えているかくらいは予想できる程度には。

 人間も妖怪もこういうところは変わらないのだろうか、とそう思っている。


 「……………」


 けれど、ちょっとだけ。
 いや、ちょっとだけじゃなく不満げなオーラを俺にぶつけてきていた。
 その理由はなんとなく予想はつくけれど、言い出すと多分言い争いになりそうな気がしたのが少し悲しかった。
 出来ればその口火は切りたくはなかったけれど、このひしひしと伝わるオーラとを天秤にかけた結果。


 「面白くない、って顔してますね」


 嫌々ながら、自らの手で口火を切ることを選んだ。 
 重圧に負けた、そこまで図太い人間は成れそうもないなぁと、他人事のように自分を眺める他なかった。


 「分かるか?」


 ほんの少しだけそのオーラが弱まった気もするけれど、やはりあまり機嫌はよくはなさそうだった。
 無表情であるからそこに示された感情を汲み取ることは出来ないが、かえってそれが見えないことから逆に怖さを感じつつもあった。
 もし、予想通りならばそこまで怒らないだろうとは考えてはいるが、外れたときのことを考えればとてもいい気分ではいられない。
 ただの冗談でした、ならばどんなによかったことか。
 真面目な藍さんに限ってそれが期待できないのが、美点が仇となった形でもあった。


 「橙ちゃんのことですよね」

 「…………」


 この場に置いて沈黙は肯定と見なせる。
 俺が藍さんの今の機嫌がどう思っているかという予想よりも、遥かに確実性は高い。
 それだけは間違いないだろうと、自信を持って言える。

 どうして藍さんが機嫌を悪くしているのか、その理由に他ならないんだから。
 そう考えているうちに、藍さんは俺の横の縁側へと腰を下ろした。


 「橙は、最近お前に懐くようになったな」

 「そうですね、最初は見向きもしてくれませんでしたが」


 今でこそよく話しかけてくれる橙ちゃんだが、最初はまともに視線を合わせることもなかった。
 俺を見つけたら一目散に逃げて行ってしまい、顔を見ることも出来なかったほどだ。
 けれど、暇潰しにと始めた釣りの成果を分け与えてみればどうだろうか、少しずつではあるけれど近付いてくれるようにはなった。
 魚で猫を釣った、と言われればまさにその通りだといえるが、当時を思い返せばその程度できっかけが生まれるのならば安いものである。
 何をしてもじっとこちらを見ていて、視線を合わせれば逃げ出す。
 そしてまたこちらを見つめ続けるという、精神衛生上あまりよろしくない状態が続いたことを考えれば。


 「お前の話題が、最近橙の口から上るようになったんだ」

 「以前より会話することが多くなりましたからね、話題になることもあるでしょう」


 特になんてことのない会話をする程度で、多少の日常のやり取りをお互いに話したり聞くくらいだ。
 今日は何があった、面白かった、楽しかった、腹が立った、悲しくなったとか。
 それくらいのことを言い合う程度の仲、それ以上もそれ以下も無い。


 「…………知っているか、その分だけ会う時間が減っているということに」

 「ええ、まぁ………そうなりますよね」


 人間である俺には、体を二つに分裂させて二つの作業を同時に取り行うなんてことは出来やしない。
 真っ二つにしたらスプラッタ騒ぎの放送禁止レベルになってしまう、スライムのように合わせればくっつく訳が無い。
 所詮、ただの凡人だ。
 片方を選んで、片方を捨てるということ。

 橙ちゃんと会話するという選択肢を選んだことで、それ以外の選択肢を全て諦めるということ。


 「……………」

 「……………」


 だから、だろう。
 こんなにも機嫌が悪いのは。
 それ以外に理由なんて見当たらない、もし違うのならば俺には理解はできないだろう。

 しかしながら、分かっているとはいえ口に出そうとすると思いとどまろうとする自分がいる。
 果たしてそれを言っていいものか迷うが、言わなければ恐らく次に進まないだろう。
 恐れもあるけれど、沈黙を打ち破る一言を藍さんに向き直って放った。


 「つまるところ、やきもちですか」 


 コクリ、と頷くその顔を見れば、頬に少しだけ赤みがあるようにも思えたのは気のせいだったのだろうか。
 見間違いじゃなければ、どことなく恥ずかしそうにしている。
 きっと自分の口から話すことに躊躇いがあったのだろう、と予想はついたけれど。


 「………嫌か、こんな女は」

 「こんなことにやきもちを焼く、年上の女は」


 少ししょげた様にして、顔を俯かせる藍さん。
 なんだかそれに対して本人に対して失礼かもしれないけれど、とても可愛らしく思えた。
 藍さんも正直に自分の気持ちを伝えてくれたのだ、ならば包み隠さず話すのが筋だろう。


 「いえ、そんなことはないですよ」

 「可愛いじゃないですか、そういうの」


 まだ二十年程度しか生きていない若輩だけれども、これまでの人生において藍さんほどの美人にはそうそうお目にかかれない。
 それが妖怪であったとしてもだ、そんな美人にこうも思われるのは男冥利に尽きるというか。
 正直なことを言えば。


 「俺は嬉しいですよ」


 そう思うのは、ごく当然の反応という他ないだろう。


 「………私に気を使わなくていいんだぞ」


 けれどそこから一歩引いた形で、藍さんはそう答えた。
 俺が気を使っているとでも思ったのだろう、だとしたら実に残念である。
 遠慮などして欲しくは無いから。


 「嘘をついてどうするんですか、そういうのはもういいでしょう」

 「止めましょう、そういうのは」


 わかだまりとか、そういうものを抱えたくはない。
 もしそれが見つかったならば、早急に解決していきたい。
 ギクシャクしたまま日常を過ごしたくない、単純にそういうのが嫌いってこともあるけれど。 
 そういう感情を抱えたまま、藍さんに日々を送って欲しくないから。


 「いいのか?」

 「私は、お前に甘えていいのか?」


 こちらの表情を伺うように、何かに怯えるかのように俺に問いかけてくる。
 その問いに対して、用意している答えが一つだけある。
 始めからそれだけしか返すつもりは無いが。


 「どうぞ、好きにしてください」


 そう言ったが最後、真横から飛びかかる衝撃に襲われた。
 けれどそれに負けることなく、女性特有の柔らかさを感じつつ抱きとめて押し留める。
 俺の胴に両腕を回した張本人が、顔をうずめながら小さな声で俺に語りかけた。


 「………今日だけ」

 「今日だけでいいから、このままでいてくれ」


 「はい」


 数少ない藍さんの頼みを、聞き入れることにしよう。

 最優先で。


書こうとしたのが二ヶ月前、メモ帳開いたのが一ヶ月前。

書き終えたのがついさっき、なんという遅筆。

次を書くのはいつになるやら。


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最終更新:2013年05月11日 23:22