早苗10


新ろだ2-114


(どうしてこうなった……)

現在の状況:宴会の片づけ中に絶賛片思い中の女の子、風祝の巫女とこ東風谷早苗に俺こと○○が押し倒されている……的な……

(マジでどうして……誰か教えてー)

彼女があることがあってすぐに俺のところに来たかと思ったら、有無を言わさずこの状況になり……もう結構な時間が過ぎているの
ではないだろうか。つーか正直時間の感覚がない。そりゃおめぇ、好きな女の顔がドアップで目の前フィーバーですもの。仕様がな
いね。

「あー……なんだ。積極的なのは嫌いじゃないぜ」
「…………。」

などと軽くジョークを飛ばしてみるがまるで無反応。その細腕、実は筋肉で凄まじいんですってくらいの力で抑えられたままである。
せめてジト目で見つめるのは勘弁していただきたいのだが……

「まーなんだ。とりあえず、何をしているかについて説明プリーズ」
「…………。」

無反応ですよ奥さん。勘弁していただきたい訳ですよ。なんの拷問ですかコンチクショー。

「さっき、宴会の席で……」

ようやく沈黙を破った彼女。こんなに近くでないと聞き取れないくらいの小声で語り始めた。

「好きな人がいるのかって質問がありましたね……」
「あったねぇ……」
「○○さんは……いると答えましたね」
「言ったねぇ……」
「でも……誰かは言いませんでしたね」
「そうだねぇ……」

終わったのがけっこう前になるであろう宴会。確かにその席でそんな質問が出た。酒の勢いもあって思わずいると答えてしまった。

「……そんなこと?」
「………………」

この距離でも気聞き取れないくらいの声。

「ゴメン、何て」
「私には………………」

次は最初の部分だけなんとか聞き取れた。

「私にはそんなことじゃない……です」

今度聞こえたのは本当に消えそうなくらいのか細い声。それでいて、言わんとしていることが、込められた感情がギッチリ入ってい
る声で。俺にちゃんと届いた。

「それって……ほぼ告白と受け取れるけど?」
「……はい……私は○○さんのことが好きなんです…………」

正直テンパっていて、見れていなかったけれど……顔超真っ赤。耳まで赤い。多分俺も人のこと言えないけど。

「そうか……そいつは奇遇だなっ!!」
「キャッ!?」

全力を持って彼女を押し倒返す。形勢逆転の瞬間である。

「んー……」
「!!??&%$#”(←滅茶苦茶驚いている様子)」

そんで有無を言わさずキス。しかも深いので。
自体を飲み込めていない彼女はされるがままで、俺は口の中を舌で蹂躙する。

「……ぷはっ。俺もだよ。俺も早苗のことが好きなのさ」
「ふぇ?○○さんも……れすか……」

若干蕩けているのか、語句変換機能がショートしているようだ。それでも俺の気持ちはちゃんと伝わったようだ。

「あぁ、じゃなきゃこんなことしないって。ましてや押し倒すようなマネなんて」
「……も………………し……」
「ん?『もっとしてください』?」
(こくこく)

今度は互いの舌を絡め合う。さっきの一方通行とは違う、蛸のような絡みで、思考がピンクに染まっていく。

そうしてキス以外のこt(そこまでよっ!!!)




「ねぇ……焚きつけといてなんだけど……どうにかしてくれないかしら……貴女達の娘でしょ……」
「「無理。私まだ死にたくないもの」」
「ここ私の神社なのに……」
「わー……凄いんだぜ……(←顔真っ赤)」



宴会参加者全員野次馬出歯亀END


新ろだ2-173


春爛漫。満開の桜の下、一組の男女。
片方はありふれた容姿の男、○○。
もう片方は美しい顔立ちの女、東風屋 早苗。
小、中、高と一緒の学校だったので、いつの間にやら腐れ縁になっていた。
「よし!早苗!いざ尋常に勝負!」
「……またですか?いい加減何回やっても無駄だと思いますけど…」
「うるせぇ!今日こそ泣き顔拝んでやるぜ!」
「はぁ……わかりました。ルールはいつも通りでいいですね?」
「おうよ!いっくぜぇぇぇぇ!」
彼が中学生の時に提案したこの「決闘」。
ルールは簡単だった。
彼が早苗に指一本でも触れれば勝ち。そんな赤子でも勝てそうな勝負に、彼はいまだ勝った事は無かった。
そもそも、なぜこんな決闘等を始めたのか?
それは、早苗が中学生の時の他愛のない会話からだった。
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「早苗ー。早苗の家って確か神社だよな?」
「ええ、そうですけど。どうしたんですか?突然」
「いや、前テレビで奇跡を起こす人物特集、ってあってさ。もしかしたら早苗もかな、って。巫女だし」
「………………もし、そうだとしたら?」
「一回その奇跡ってのをみせてもらいたいな!すげぇ気になる」
「…………いいですよ」
「え?」
「見せてあげましょう。奇跡」
そうして始まった一回目の「決闘」。
○○は懸命に早苗に触ろうとした。
しかし早苗まで後一歩、という所で強風にあおられたり、星型の結界に弾かれた。
その時の○○の顔表情は、驚愕以外の何物でもなかった。
○○が開いた口を閉めるのに苦心している時、早苗は○○に俯いたまま近づいた。
「……やっぱり、怖い、ですか?」
「は?」
「だって、こんなに凄い力を持ってるんですよ?怖くないんですか?」
早苗は俯いたまま、そう呟いた。
彼女は小学校時代、友達にこの「奇跡」を見せた。
それからずっと、友達は口を聞いてくれなくなった。
彼女を見る目が、化け物か何かを見る目に変わっていた。
それから彼女は、人前で奇跡を見せる事を止めた。
普通に、普通に。そうやって暮らしていく。
でも、やっぱり知って欲しかった。
表面の、学校の「東風屋 早苗」しか見られていない気がしたから。
だから、○○に見せた。腐れ縁だから。誰より自分を分かってくれる気がしたから。
でも、やっぱり不安で、こんな事を聞いてしまった。
「カッチーン」
「え?」
「たかが星バリアと風起こし位で何が凄い力、だ!」
「でも、結局触れなかったじゃないですか…尻込みしてたし…」
「うるせぇ!今日はその、あれだ!腎臓の調子が悪いんだ!次は負けん!」
「…次…って」
「決まってんだろ!調子がいい日にもう一回やる!それとも、勝ち逃げする気か?」
「プッ……アハハハハハハハ!」
「なっ…笑うなー!」
「アハハハ…いいですよ、何回でも、相手になりますよ、プクク…」
「くそー!次は泣き顔拝んでやるからなー!」
彼の返事は、圧倒的に強大な力への同情でもなく、畏怖でもなく、挑戦だった。
その発想が、あまりにも可笑しくて。つい、笑ってしまった。
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横たわる○○を中腰で上から見下ろす早苗。いつも終わった時はこの体制だった。
「だー!畜生!もう体が動かん!」
「いい加減諦めればいいのに…」
「ええい!諦めたらそこで試合終了だ!次は負け…」
頭を勢いよく上げると、顔の4cm先に早苗の顔があった。
「早、苗?」
「私、なんか、今なら言えそうな気がするんです」
「○○さん。あなたのその諦めない心。大好きでした」
「え…」
「何でも無いです。忘れて下さい」
そう言うと早苗は、教室に走っていった。
桜の下には、口を開けた男が一人佇むのみとなった。
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「東風屋 早苗さんが、このたびご家庭の都合で明日、急に転校することになりました。みなさん、寄せ書きを書きましょう」
7月の暑い日、早苗が学校を休んだ日。○○は学校が終ってから一目散に早苗の家に行った。
玄関には、荷物を持った早苗が佇んでいた。○○は叫ぶ。
「早苗!どういう事だよ!?転校って!」
「……そのままの意味ですよ。家庭の事情、って先生に言われませんでした?」
「だって早苗の親は神主だろ!?引っ越しなんてしないだろ!」
「……ついて来て下さい。「事情」を見せてあげます」
そういって早苗に連れてこられた神社の本殿で待つ事5分。○○の目の前に女性が二人出てきた。
そこで、○○は全ての説明を受けた。
目の前の二人は神である事。
現代では信仰が圧倒的に足りない事。
引っ越し先の幻想郷の事。
○○はもともと頭の良い方ではなかったが、二柱と早苗の丁寧な説明のおかげで、何とか理解できた。
「…俺も!俺も連れて行ってくれ!」
「ダメだね」
「何でだよ!」
「あのね○○。さっき言った通り、幻想郷はすっごく危険な場所なの。早苗は現人神だから大丈夫だけど、○○は…」
「俺と早苗になんの差があるってんだ!」
「…わからず屋は嫌いだよ」
神奈子のまとうオーラが凶悪なものになる。
諏訪子は慌てて神奈子を止めた。
「早苗!早苗もなんか言えよ!おかしいだろ、こんなの!」
「……○○さん。決闘しましょう。」
「決闘…」
「そうです。私が勝ったら○○さんは残る。○○さんが勝ったら一緒に行く。これでいいでしょう?」
「……上等だ……!」
その時の早苗の顔は、氷そのものだった。
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夜の諏訪湖。とてつもない強風で男が吹っ飛んでいく。これで18度目だ。
「がはっ…!」
「…もう勝負は着いたでしょう。諦めも肝心ですよ」
「ふっざ…けんな…!」
「…早苗。そろそろ…」
「分かりました。○○さん、あなたの負けです」
「俺はまだ…!やれ…」
「いい加減にして下さい!」
○○が今まで一度も聞いた事が無い声で、早苗が怒鳴った。
氷のようだった顔は、溶けて水に濡れていた。
「私は!○○さんを!これ以上傷つけたくないんです!」
「早苗…」
「なんで!そんなに!抵抗するんですか!諦めて下さいよ!無理なんですよ!」
「早苗!」
「喋らないで!…もう…行きます」
その言葉を聞いたのを最後に、○○の意識はプツリと切れた。
二人の決闘を見ていた諏訪子と神奈子は、苦い顔をしていた。
「ねぇ…神奈子。私達がしてる事って…」
「…最初から分かっていた事だ。今さら言っても仕方ない」
「…………」
顔を手で隠して、尚も大粒の涙を零しながら○○から離れていく早苗を見て、諏訪子はやりきれない思いだった。
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意識が戻る。
諏訪湖の岸で仰向けに転がっていた○○は、静かに泣いていた。
この世の不条理に。
自分の無力さに。
失ってしまったモノの大きさに。
気づいてしまった。自分が早苗を好きだった事。そして、早苗の涙の意味。
どうしようもなく、涙が溢れてくる。
「畜生……」
自分がいつも言っていた「泣き顔を拝んでやる」とはああいうものなのか?
違う。違う!絶対に違う!早苗のあんな、あんな苦しそうな泣き顔、見たくなんて無かった!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
感情が昂り、叫びが喉の奥から暴れ出てくる。
その後、声が枯れるまで、一人で泣き続けた。
そして。
「俺は、諦めねぇ…!勝ち逃げなんて、言い逃げなんて、絶対許さねえぞ…!」
確かな決意が、生まれた。
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「…早苗ー。大丈夫?」
「…あ、諏訪子様。大丈夫ですよ…」
「…そう…?なら、いいんだけど…」
早苗はすぐに別の場所に移動していった。
正直言って、誰がどう好意的に解釈しても早苗の気分は悪そうだった。
掃除をさせれば二回位掃いて箒を止めてしまうし、神事にも身が入っていないようだった。
極めつけは、夜な夜な一人で枕を抱えて泣いているのだ。だから最近、早苗は目が充血している。
神奈子も諏訪子も困り果てているのだが、原因が原因だけに、そっとしておくしか無かった。
「…無力なもんだね…軍神と土地神の頂点がいて、女の子一人笑顔に出来ないなんて…」
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決意の日から、○○は早苗の家に毎日通うようになった。
戸を叩いて最初に言うのは決まって「幻想郷への行き方を教えて下さい!」だった。
早苗の親も最初は追い返していたのだが、5ヶ月が過ぎ、9ケ月が過ぎた。
流石に彼の決意が生半可なものでは無いと分かり、ある御札を渡した。
そして現在夜の2時。○○は、自分の親と正座で向き合っていた。
「話、とはなんだ。○○」
「そうよ、こんな時間に改まって」
「父さん。母さん。今から俺が話す事は、信じられないかもしれないけど、ホントの事なんだ。聞いてくれ」
○○と早苗の親以外の人間は、早苗は遠くの全寮制の学校に行くと聞いていた。
そこに、○○は全てのいきさつを話した。
早苗が二度と戻ってこられない所に行った事。
自分も早苗に思い伝えるためにそこに行く事。
そして行けば自分も二度と帰ってこられない事。
全てを話し終えるまで、○○は至極真面目な顔だった。
「○○」
「父さん…」
「今からお前とは親子の縁を切る。家にそんな親不孝な息子はいらん」
「あなた…」
「荷物をまとめて、早く出ていけ。自転車はくれてやる」
「…うん!行ってくる!」
そう言って○○は荷物を持ち、家の外の自転車に跨った。
漕ぎだそうとした瞬間、携帯電話がメールを受け取った。
『己の思うがままに生きろ』
送信者を見なくても、誰から来たのか分かった。
○○は何も言わず、最高速で自転車を漕いでいった。
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諏訪湖。○○にとって一番嫌な思い出のある場所であり、決意の場所でもあった。
その諏訪湖の周りに、○○は5つの御札を設置していく。
全て設置し終えた○○の目に、朝日が昇って来た。
「………!」
早苗の親に貰った御札が光り始めた。
御札から御札へ光の線が繋がれ、諏訪湖に巨大な五芒星の形を成していく。
五芒星が完成した瞬間、その中心から渦を巻くように諏訪湖の水は消え、
代わりに、別の空間の「穴」が出てきた。
最早迷いは無い。○○は自転車を捨て、空間の穴に向かって身を投げた。
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空。
穴に飛び込んだ○○を待っていたのは、どこまでも広く、どこまでも高い、空だった。
「うおおおおおおおおおお!」
高い。
高い。
高い!
雲が200m位下に見える。
速度はどんどん加速する。
髪が逆立つ。
雲に突っ込む。
冷たい。
抜けた先には、また広い空、そして地上があった。
地上にはまだまだ遠い。
でも、この地に、早苗は確かにいるのだ。
己が愛してる人は、確かにここにいるのた。
だから、叫ぼう。
愛おしき、この空へ。
愛おしき、思い人へ。
「さなええええええええええええええええええええ!大好きだああああああああああああああああああああああああああああ!」
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洩屋神社で最初に異変に気付いたのは、諏訪子だった。
「早苗!あれ見て!あれ!」
頭上遥か彼方の星型の空間の穴を指差して、諏訪子が叫んだ。
「あれって…!まさか…!」
「うん!絶対そうだよ!」
「なんで…………」
神社の奥から神奈子が出てきた。
「早苗。あれの声、聞こえるかい?」
「声…?」
「よーく耳を澄ましてみな。現人神ならできるさ」
言われた通りに限界まで集中して、耳を澄ました。
聞こえてくる。
「さ………………………………………………………!好………………………………………………………………………………!」
「さな…………………………………………………え!好……………………………………………………………………………あ!」
「さなええええええええええええええええええええ!大好きだああああああああああああああああああああああああああああ!」
「○、○、さん…!どうして…!」
「行ってやりな。早苗」
「早苗に会うために人の身で結界を超えて来たんだ。もし見捨てたら私祟っちゃうよ?」
「神奈子様…!諏訪子様…!私…行ってきます!」
少女は、飛んだ。愛する人に会うために。
もう一度、会えた奇跡を確かなものにするために。
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○○は叫んでいた。
喉が枯れるまで。
「さなええええええええええええええええええええ!さなええええええええええええええええええええええええええええええ!」
下から急速上昇してくる人影が見える。
見間違うはずがない。早苗だ。
早苗は手を広げると、急に風が吹き、○○は急激に減速した。
○○もまた手を広げる。
○○と早苗は、空中で抱き合った。
そのまま、重力に任せて落下していく。
「…早苗!会いたかった!」
「どうして…!どうして来たんですか!」
早苗は泣いている。泣きながら叫んでいる。
○○も泣いていた。泣きながら叫んでいた。
「言ったじゃないですか!危険だって!傷つけたくないって!なのに!なんで!」
「関係ねえええええええええ!」
「なんでよ!あなたが傷つくの見たくないって、なんで分かってくれないのよ!」
「離れたくないからだああああああああああああああああああああ!」
「私だって、できれば離れたくないよ!でも!」
「早苗!」
「○…○…さん…」
「好きだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「…っ!…私!…私もぉ!○○さんがぁ!大好きだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
二人共、大泣きしながら叫んでいた。
「いつか!お前に勝つから!」
「うん!」
「早苗が心配しなくても良いように!早苗を守れるくらい!強くなるから!」
「うん!」
「だから!俺と、一緒にいてくれええええええええええええええええ!」
「一緒に神社の掃除して下さいよ!」
「ああ!」
「お守りづくり、手伝って下さいよ!」
「ああ!」
「世界で、一っ番、幸せにして、下さいよ!」
「勿論だ!」
「○○さん!私はあなたを!心の底から!愛してます!」
「俺も!早苗を!心の底から!誰より!愛してるぞ!」
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「おーおー。お熱いこって」
「神奈子。ババくさいよ」
「しかしまぁ、何時の時代も愛の力ってのは凄いねぇ。私も若いころは…」
「ダメだこの年増…早くなんとかしないと…」
(でも、よかったね早苗…幸せになってね…)
「諏訪子、あんたのが絶対ババくさいわ…」
「勝手に人の心を読むなぁ!これはあれだよ、ほら早苗って私の子孫だし?」
「いや、私の巫女でもあるし?」
「いやいやいや私のが絶対早苗に信頼されてるし」
「いやいやいやアンタ祟り神じゃん」
「…神奈子おおおおおおおおおおおおおおお!」
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春爛漫。満開の桜の下、一組の男女。
早苗の思い人、○○。
○○の思い人、東風屋 早苗。
「さぁ!早苗!いざ尋常に勝負!」
「いつでもかかって来てください!勿論私が勝ったら」
「早苗が俺に膝枕で、俺が勝ったら俺が早苗に膝枕!」
「さぁ!今日も私の膝の中で眠るがいい!」
「いくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!今日こそ組み敷いてくれるわぁ!」
心の底から楽しそうに、少女と少年はじゃれあう。
「しかし○○もちょっっっっとだけ成長したよねぇ」
「まぁ前たまたま神風突破したのには驚いたわね」
「神主になれるようになるまで、後何年かかると思う?」
「まぁいいんじゃない?本人達が満足するまでやらせれば」
「…それもそうだね。あーうー、私にも素敵な出会いがあればなぁ」
「ナイナイそれはない」
舞い散る桜の花が、愛し合う二人の姿を彩っていく。
4月。二人はいつまでもいつまでも、桜色だった。


Megalith 2011/01/11


 ――妖怪の山。
 その姿は、かつて富士よりも高く美しいとされた山のものらしい。
 その山を落ちる滝は山に負けずに果てしなく高く、壮大な景観を見せ付けてく
れる。

 その滝の、最も美しいとされる姿を拝める高台に俺は立っている。
 季節は秋、景色は紅葉で彩られていた。

 この高台あたりまで山を下がってくると、遥か上から滝を落ちてきた水は弾け
て霧となり辺り一帯を包み込む。
 それに昇りたての太陽の光が差し込めば、幻想空間とも言えるような神秘的な
情景が現れる。

「水粉雪」(みなこゆき)

 妖怪の山なんかを歩き回る輩は、朝日が反射してきらめく飛沫のことをこう呼
ぶらしい。

 絵の中というのはこんな世界が広がってるんだろうな……
 そんなことを考えながらぼーっと突っ立っていた。

「……どうですか?ここまで綺麗なら、早起きしたかいがありますでしょ?」

 ……そもそも、何故ただの人間である俺が妖怪の山のど真ん中で、こう長々と
講釈を垂らすことができると言うとだ。
 彼女、東風谷早苗が俺の手をここまで引っ張ってきてくれたからである。

 幻想郷に転がり込んで早一年。
 自炊はできるが、「来たばかりじゃ危ないから」とのことで守矢神社にお世話
になっていたが、なんだかんだそのまま住み込んでしまった俺。
 今は早苗の家事のサポートを生業としている。

 そんな中で、今日はいきなり、しかも日の出前から起こされてここまで連れて
来てもらった。

「……もぉ、“眠い”は言ってはいけませんよ。フフッ。」

 ……先手を打たれてしまった。が、早苗は怒る訳でもなく、むしろ楽しそうに
笑ってくれている。

「一度見てみたかったんです。すみません、付き合わせてしまって。」

 ――いや、気にしてないよ。――

 実際、満更でもない。
 ここまで綺麗な景色が見れるなら早起きも悪くないかもしれない。
 こういったものに疎い人間でもそう思うだろう。

 そこではたと会話が途切れる。
 代わりに、滝の音だけがここぞとばかりに存在を誇張してきた。

 それはいいとして、意外にも飛沫は多く、自然と袖や肌が湿っている。そのせ
いか寒い。とにかく寒い。
 そこまで寒くはないだろうと思って選んだ上着のボタンを上まで閉める。

 ――……寒い、な。――

 とにかく会話を繋げようと、言葉を紡ぐ努力をしてみた。

 しかし、早苗から返事が無い。
 何か空気の読めない発言でもしてしまったのだろうか……。

 そんな考えを廻らせていたときだった。

 右腕に何かが触れる。
 そして、その重さをこちらにかけてくる。

 抱き寄せられる腕、繋がれる手。
 感じる柔らかさ、温かさ。
 さっきまでその場を支配していた滝の音は何処へ行ったのか。
 俺の意識の全てが右腕に集中する。

 実際はごく短い時間なのだろうが、永くさえ感じたその時間の後に早苗が口を
開いた。

「……あったかい、です。」

 ――そ、そう?――

 適当な相槌しか打てない。
 女性に抱き着かれた経験なんてないから。
 そもそも、こうやって女性と二人きりになったことすら少ないよな。
 女性の指って細い。
 自分の指で触れて初めて気づく。
 柔らかい。
 どうして早苗はいきなり?
 何か言わないといけないのか?
 何か反応したほうが。
 何か、
 何か、
 何か言わないと。
 何を?
 何も言えない。
 一つも言葉が出ない。
 俺、焦ってる。
 すごく焦ってる。

 沸騰した水の泡の如く、俺の頭の中で様々な言葉が浮かんでは消えを繰り返す。

「何か、」

 ――え……?――

「何か、言わないんですか?」

 俺の顔を見て問う早苗。

「……何か言ってくださいよ。その、あの……」

 そして、すぐに顔をふせてから、消え入りそうな声でこう呟いた。

「好きだ、とか……。」

 ――っ……!?――

 好き? 俺が早苗を?
 そう言われても、俺は早苗に対して特別そういった言葉をあてたことはない。

 ただ、普通に会話して。普通に買い出しに付き合って。普通に二人で掃除して。

 本当にただ、家族のように暮らしてて。

「……もう! どうして貴方って人はこうも鈍感なんですか! ここまで、ここ
まで頑張ったのに。少しくらい気づいてくださいよ!」

 早苗は俺を正面に向かせて、真っ赤な顔で言う。

 気づく、か。ここまで言われてやっと気づけた。
 でも、その早苗の思いの事を頭の中で巡らすのが恥ずかしい。
 ちらつかせるだけでもかなり恥ずかしい。
 俺の顔も真っ赤なんだろうな。

 何も言えずに、早苗の足元を見ることしかできないでいると、早苗が両手を俺
の顔に添え、下げていた目線を合わせられる。

「はっきり言わないと解らないんですか? じゃあ、言いますよ? 言いますか
らね?」

 ――あ、あぁ。――

 少し考えてみたら変なやりとりだ。
 早苗は、少し後ろに下がってから口を開いた。

「私は、私は……。貴方のことが好きです。貴方のことが好きなんです……! 
いつも側にいてくれて、手伝ってくれて。私と普通に会話してくれて、笑ってく
れて。距離を感じなかった……、貴方は私と同じ背丈で話してくれた。貴方とは、
普通に楽しく笑うことができた……! だから、いつのまにか貴方を見てた、
気にしてた…。もっと貴方といたいんです。もっと側にいたいんです! だから、
だから……。」

 そこまで言って、早苗は目からほろほろと涙をこぼす。
 顔は相変わらず真っ赤で、涙をこぼす姿は何かを欲している様で。

 そんな早苗が可愛らしかった。
 恥ずかしがりながらも、俺に思いをぶつけてくれた早苗が、愛おしく思えてき
た。

 泣きながら、早苗は俺に抱き着いてきくる。

「私では、駄目ですか?」

 俺の目を見上げる早苗。
 それに、俺は早苗を強く抱きしめてから、

「好きだよ」

 その一言で返してあげた。










 ○○の年、葉月の○○
 山中を巡回中ふと立ち寄った高台にて、木に彫られている、誰か二人に詠まれ
たと思われる歌をみる。
 技法を取るならば、それは成っていないものであったが、その歌からは互いの
確かな関係を感じ取ることができた。
 こうまで率直なのも逆に趣があり面白いと思い、今日の日記に記しておこう。
 ――犬走椛――


 日の出づる
  夢か現か
   滝のむ中
 隣に立つは
  現にぞあれ
 ――読み人知らず――

 現なり
  夢とみゆなら
   触れまほし
 む中のぬくもり
  かたみにおぼゆる
 ――読み人知らず――


妄想、それっておいしいよね。
この中の早苗はイケイケモードです!


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最終更新:2011年06月24日 00:40