衣玖3
うpろだ1418
その日、天界では酒を愛してやまない鬼、伊吹萃香によって萃められた者達が、
もはや恒例となってしまった行事である(と言うにはあまりに俗っぽいが)宴会を行っていた。
無論それは萃香、もしくはその能力に付き合わされているだけという感も否めないのだが
基本的に幻想郷の住人はこういった行事が嫌いでは無い為か、皆満更でも無い様子だった。
「……っていう席で、何だいその仏頂面は」
「……萃香……」
ぶすっとふくれていた天人、比那名居天子は軽く溜息をつくと、自分の向いていた方向を指さした。
「あれよ、あれ」
「?」
萃香がそちらに視線をやると、そこには座り込んで酒を酌み交わしながら談笑する二人、
幻想郷入りした普通の人間〇〇と、竜宮の使いである妖怪、永江衣玖の姿があった。
「ああ、あれが面白くないの?」
「というか、じれったいのよ」
「じれったい?」
要領を得ない天子の言葉にかくんと首を傾げる萃香。
「あの二人、どういう関係に見える?」
「どういう? お互い好き合ってるんじゃないの?」
「多分ね」
「多分、って何さ。どう見てもそうじゃん」
ますます分からない発言に、萃香もいよいよしかめっ面になる。
「だって、なかなか進まないのよ、あの二人」
「……え、まだくっついてないの?」
萃香は目を丸くして驚いた後、やれやれと呆れ顔になった。
「〇〇と衣玖が会って、どれくらいだっけ」
「三年程かしら」
「ああやって二人きりでお酒を飲むようになったのは?」
「二年くらい前から」
「もう随分と長い付き合いじゃないか。〇〇は一体どれだけ衣玖を待たせるつもりなんだ?」
「死ぬまでだったりして」
言った後、洒落になってないなと後悔する天子。
死ぬ間際に想いを伝えて一方的に逝ってしまう、そんな人間も何人かは居たから。
「まったく、自分勝手だよ」
「天子が言うな」
「萃香もね」
――――
「衣玖さん、ちょっと聞きたい事があるんですけど……」
「聞きたい事?何でしょう……私に答えられる事でしたら」
衣玖が徳利を持ち、〇〇の猪口にもう何杯目になるか分からない酒を注ぐ。
「好きな人、いますか?」
「!?」
明らかな動揺を見せる衣玖。冷静な彼女のお陰で、徳利が手から滑り落ちあわや大惨事という事態は避けられたが
それでも注いでいた酒は猪口から僅かに跳ね飛んでしまい、それは〇〇の服の胸元に小さな円形の染みを作った。
「あ、あわわ、も、もうしわけ、ありま」
「お、落ち着いて下さい衣玖さん。そんなに酷くないですから」
「は、はい……で、でも、〇〇さんのお召物に……」
「こんなのすぐ乾きますよ」
しかし衣玖にはその言葉さえ聞こえていないのか、すっと〇〇の傍に寄り、
染み付いた部分を手持ちの布で甲斐甲斐しく拭き始める。
「ちょっと衣玖さん、そんなことしなくてもいいですよ」
「い、いえいえ、わわ、私の所為ですから……」
粗方綺麗に拭き取れたところで、まだ残っていないかと〇〇の胸元に顔を近付ける衣玖。
普段なら男性の近くに寄りもしないのに、今は動揺のあまり周りが見えなくなっているらしい。
衣玖から発せられる女性独特の香りが〇〇の鼻腔をくすぐる。
加えて衣玖の顔がすぐ傍にある所為で、〇〇は非常にこそばゆい思いをしていた。
「…………」
気恥ずかしくなって〇〇が目を衣玖から背けると、その先で天子と萃香が〇〇を見ていた。
と思いきや、天子が萃香を引き寄せ、ぎゅっと萃香の頭を抱き締める。
その後、首でくいっと何かを促す天子と、その腕に顔だけ包まれたままぐっと親指を立てる萃香。
「……いや、それは無理」
〇〇の眼下には、まだ残っていたしつこい染みと一生懸命に格闘している衣玖がいる。
天子が萃香の体でなく頭を抱き締めたのは、この状況から衣玖にそうしてやれということなのだろうが、
〇〇には理解できても、実行するにはあまりに度胸のいる選択であった。
――――
「これくらいしてくれないと、つまらないわ」
「どうでもいいけど、息ができない」
天子の腕の中で、もがもがと暴れ始める萃香。
天子はごめんごめん、と謝って萃香を解放してやった。
「ぷはっ。あ、でもさっきは驚いたよ」
「私も。あの〇〇が『好きな人、いますか?』なんて言うとは思わなかったわ」
「衣玖、凄い動揺してたじゃないか」
「好きな人からそう聞かれたら、誰だってそうなるわよ」
二人して笑い合う。
「じゃあ、酒でも飲みながら見物と洒落込みますか」
「そうしましょう、酒の肴には困らないしね」
――――
ずっと俺が恋い焦がれていた人が、今、自分の手の届く距離にいる。
ぎゅっと腕で抱き締めてしまいたいという衝動に駆られるが、その代償に自分は全てを失ってしまうかもしれない。
傍から見たら、いたいけな婦女子(?)に無理矢理抱き付く変態にしか見えない。幻想郷なら逮捕される前に殺される。
それに、彼女にも迷惑がかかる。好きでもない男に抱き付かれていい気分のする女性などいないだろう。
それでも、叶わぬ想いだと分かっていて、俺は彼女に惹かれてしまった。
だから、俺はこうやって好きな人と一緒に酒でも飲めるなら、それで満足だ。
……「好きな人がいる」と答えられたのならきっぱりと諦めて、二度と会わないつもりだったけど。
俺みたいな凡人より良い人はいっぱいいるからな、世の中。
「……〇〇さん?」
顔を下に向けると、そこには上目使いで不思議そうに自分を見つめる衣玖さんの姿。
そんな目で見ないで欲しい。そんな衣玖さんも素敵で、やっぱり抱き締めたくなる。
そもそも衣玖さんはそういった特別な仕草が無くても素敵だ。何かって言うと、それはもう全部。
まずその全てを包み込むような優しさに始まって、端整な顔立ち、きめ細かい肌、流麗な髪、
溢れ出る母性、艶やかな唇、謙虚な物言い、透き通った声、パッツンパッツンの羽衣、挙げればキリが無い。
これに加えて上目使いだ。俺の興奮度が有頂天になっちゃって、何か色々とはっちゃけそうに……
「……あ、う……?」
俺の胸に埋もれる衣玖さんの顔。衣玖さんの頭を抱え込んで離さない俺の腕。ぱさりと落ちた衣玖さんの帽子。
ごめん衣玖さん、無理だった。でも衣玖さんが悪いんだ、誘うような事ばかりするから。それに、我慢は体に良くない。
「………………」
「………………」
……やっぱり、殺されるよな……衣玖さん優しいけど、まがりなりにも妖怪だもんな。
その後は、閻魔になんか難しい漢字を羅列した罪状で、地獄へ落とされるのかな。
もしそうなったら、お前らの名前の方がよっぽど難しいよ、って文句言ってから落ちてやる。
それはともかく、いい匂いとか、服越しの衣玖さんの感触とか、匂いとか、匂いとか、何かあれだ。好きです。
――――
それから数秒だか数分だか経過したわけだが。
何故だ。衣玖さんの力をもってすれば、俺を電気椅子ならぬ電気衣玖の刑に処す事も容易いだろう。
何故抵抗しないんですか、衣玖さん。そして何故、宴会場なのに辺りがしぃんと静まり返ってるんですか。
静寂を破ったのは、俺の胸で呻く衣玖さんが発した声だった。
「あ、あの……苦しい……」
「おわ、すいません」
胸の温かい感触にすっかり溺れていた所為で、衣玖さんの事を完全に失念していた。俺はダメな奴だ。
確かに胸に押しつけられて圧迫され、座ったまま前屈みになった状態が続けば、息も腰もさぞ辛かったろう。
慌てて腕から解放すると、衣玖さんは姿勢を正し、その場で深呼吸を始めた。
そして、がしっと俺の頭をつかむと、それを自分の胸に押し付ける。
って、何してるんですか?
「さ、さっきは苦しかったので……お返し、です……」
俺の視界が衣玖さんの白い羽衣で埋め尽くされている。だから周りは見えないが、なんとなく状況は分かる。
絶対皆ポカンとしてる。だって、こんな大胆な衣玖さん見たことないし。
「確かに、これ……結構苦しいです」
「そ、そうでしょう……」
苦しいのは事実だ。二つの柔らかいモノに挟まれた俺の顔は、かなり呼吸できるスペースを狭められている。
しかしそれよりも、いい匂いで、柔らかくて、いい匂いがして、いい匂いがするから、俺の理性が飛びそう。
「……このまま、死んでもいいかも……」
「! だ、駄目です!」
ぐいっと俺の頭を胸から離す衣玖さん。ああ、ちょっと残念。いや、かなり残念。
呼吸困難で死ぬのは相当苦しいらしいから、さっきの俺はまだ全然余裕だったんだけど。
でも本気で心配してくれる衣玖さんを見ていると、俺もちょっとは大事に思われていたのかもしれない。
そんな衣玖さんがなんだか愛おしい。彼女の華奢な体を引き寄せ、腕を彼女の背中に回してしっかりと抱き締める。
「……あ……」
「これなら……お互い、苦しくない」
身勝手な抱擁に衣玖さんは少し驚いたようだったが、すぐに俺と同じように抱き返してくれた。
俺の肩口に少し朱が混じった顔を埋めて、蕩けそうな表情をしている衣玖さん。可愛い過ぎる。
抱き締め合う、という言葉が非常によく似合う状態になったが、俺はそこまで来て初めて、
好きだと言ってみる気になった。こういう状況でも無いと、ヘタレの俺には言えそうにないから。
でもどうせここまで来てしまったら、後は一直線じゃないか。
「衣玖さん」
「……はい」
耳元で囁いてみる。顔が熱くなっているのが分かる。
「衣玖さんの事が、好きです」
「私も、〇〇さんの事が好きです」
――――
結構な間、俺は固まっていたと思う。衣玖さんはその間ずっと、俺の首の辺りに顔をすりすりしていた。
猫じゃないんだから。何これ、俺の思考回路を奪ってどうしようと言うのですか衣玖さん。
とりあえず働かない頭で考えて、必死に言葉を絞り出す。
「……嘘だぁ」
「本当です」
さっきも今も、返事がやたらと早かったんだが、俺がそう言うと分かっていたのだろうか。
衣玖さんはこんな時でも余裕があって凄いな、と思ったらそうでも無かった。
この体勢の所為で衣玖さんの麗しきご尊顔は拝見できないが、耳がすこぶる真っ赤だった。
「清楚で可憐で美しい衣玖さんが、俺みたいな凡人を好きに?」
「清楚で可憐で美しい衣玖がどう思っているかは、私の知るところではありませんよ」
「……え……?」
「ただ、貴方の目の前の永江衣玖が、貴方を好いている事だけは確かです」
この人、本当に衣玖さん? こんなお茶目な人だったっけ。
実はここまで盛大なドッキリだったとか無いよね? そしたら俺本当に死ぬと思う。
「……やっぱり嘘じゃ……」
「はい、実は嘘です」
「ええっ!?」
「好きではありません。大好きですから」
衣玖さんがそう言った次の瞬間、俺の唇はあっさりと奪われていた。
「……私の、初めてです」
その後、全然足りないとばかりに、啄むように何度も唇を重ねてくる衣玖さん。何かをせがむ子供の様だ。
俺もやられっ放しは癪なので、少し強引に衣玖さんの唇を貪ってみる。
衣玖さんが離してくれたのは、どちらの物か分からない体液でお互いの口元が塗れた頃になってからだった。
「……ふぅ」
「……唾液でアーチって、本当にできるんですね」
「ふふ……作りましょう。これから、何度でも……」
赤い顔のまま、楽しそうに笑う衣玖さん。
俺はやっぱり、衣玖さんが好きだ。大好きだ。
――――
そのまま放っておくと宴会が静まったままなので、とりあえず二人をこちらの世界に引き戻す一同。
天子や萃香が至近距離に近付くまでは、二人ともまるで戻ってこなかったが。
誰もが今の出来事を肴に騒ぎたいとうずうずしていたが、今まで空気を読んで
どこかで区切りがつくのを待っていた。その分、反動も大きかったようで。
「そこはかとなく甘美な光景をありがとう、衣玖」
「……総領娘様……そ、その……」
早速、ニヤニヤした天子が衣玖に狙いを定める。片割れは萃香に捕まったらしい。
衣玖は先程落とした帽子を拾い上げ、それを目深に被って顔を隠した。
「私……〇〇さんが私の事を、す、好いてくれて、いるって聞いて嬉しくて、つい……」
「……何で今更照れるの?」
先程までの積極的な衣玖はなりを潜め、今はいつもの衣玖に戻ってしまったらしい。
「私、人間じゃないし、住む世界も全然違うし……絶対相手にされないと思っていました」
「その割には、随分とお早い返事だったわね。〇〇さんの事が好きですぅ~って」
「や、やめてください! 何ですか、その下手な物真似は!」
似てたと思うんだけど、と少々気落ちした様子の天子。割と本気でやっていたらしい。
「まぁ、あれはそういう空気だったからね。あなたも準備してたってことかしら」
「うぅ……も、もしかして、と思って……お返事の、用意を……」
「自惚れ屋ね」
かくんと項垂れる衣玖。空気を読める程度の能力は、ここでも十二分に発揮されていたようだ。
「あら、旦那が解放されたみたいよ」
「だ、旦那って……まだ……」
ぐったりした〇〇と、笑いを隠せないといった様子の萃香が二人に寄ってくる。
「いやぁ、人間って面白っ! 人の恥ずかしい話は聞いてて楽しいね!」
「お前は鬼か……」
「へへー、鬼だもん」
ケタケタと笑う萃香。天子もつられて笑い、〇〇と衣玖は居心地悪いことこの上無かった。
「〇〇ったら、自分みたいな凡人は絶対相手にされないと思ってたらしいよ」
「これは酷いわ。どこかの誰かも似た様な事を言ってたわよね~?」
「両想いの癖に、それをお互いで拒んでちゃ意味無いよねぇ?」
「ねぇ?」
顔を見合せて真っ赤になる〇〇と衣玖。
「これからはその反動で、人目も憚らずイチャイチャするわけね」
「イチャイチャ…………」
「これは子供が楽しみだわ。来年には一人くらい産まれてたりして」
「こ、子供って……気が早いですよ」
「冗談よ、冗談。ちゃんと避妊はしなさいよ」
「……だから、早いって……衣玖さんも何か……」
〇〇は手を振って否定しつつ、隣にいる衣玖に目を向けた。
もう茹蛸のようになってしまっているが、彼女は特に否定する素振りも見せず、ただ俯いているだけである。
「あら……衣玖はそう思ってないみたい」
「……え……」
ちらっと〇〇を一瞥した衣玖は、〇〇と目が合ったかと思うと、慌ててそっぽを向いてしまった。
「……衣玖さん……?」
「…………私は、その……」
〇〇から目を背けたまま、衣玖が言う。
「……〇〇さんさえ良ければ、いつでも……」
「…………!?」
――――
「甘酸っぱいわねぇ、桃のように」
「ねぇ天子。産まれるとかヒニンとか、何か子供に関係あるの?」
萃香が心底不思議そうに言う。
「……いやいや萃香、だって……」
「子供ってさ、鳥に頼んで持って来てもらうんだよね?」
「………………」
「……違うの?」
天子の大きな溜息。長年生きてきてそんなことも知らない鬼にがっかりしたらしい。
「萃香……〇〇と衣玖の子作りを見れば、きっと分かるわ」
「へぇー、子供って作るものなんだ」
「多分、今夜にでもやるわよ、あの二人」
「じゃあ、それを見に行けば分かるかな……天子も来るよね?」
「もちろん。うーん、テンション上がってきたわ!」
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新ろだ117
深夜、床に就きながら考えていることがあった
「……最近、冷たいかもしれないなぁ」
俺は朝早く起き、彼女もそれに合わせて起きる
彼女が朝ごはんを作り、俺はそれを食べて、仕事に行く
仕事に言っている間は家事全般は彼女にまかせっぱなしだ
「……俺にできることないかなぁ」
そうだ、きっと俺にもできることがある
一日くらい、彼女に楽させてあげたい
このことを胸に留め、その日は就寝した
明くる日
それは前から計画していた彼女に楽させる日を作ることだった
そのためにはいくつかすることがあった
まず、俺は家事というものがほとんどできなかった
この幻想郷で家事の上手い人……そこで、白黒の魔法使いと住んでいる●●を訪ねた
彼は、俺に料理、掃除、洗濯、買い物の仕方など叩き込んでくれた
彼曰く「お前も嫁さん大事にしろよ。俺は彼女と一緒にいてとても幸せだからさ」
彼には今度ちゃんとした御礼をしたいと思う
計画実行の日
この日は俺も仕事が休みである
朝、彼女を起こさないように布団を抜ける
台所に立ち、朝食の準備を始める
途中、彼女が起きてきた
「おはようございます○○さん、今から朝食をを……」
「いいや、今日は俺が作るから。ほら顔を洗っておいで」
「そうですか、ありがとうございます」
彼女は洗面所に向かっていった
俺のほうも朝食が完成した
さっそくテーブルに並べる
見栄えは悪くない、味も自分では美味しいと思っている
彼女は喜んでくれるだろうか
「それではいただきます」
「いただきます」
彼女が一口、食べる
「味はどうかな?」
「……美味しいです。○○さんいつ料理習ったんですか?」
「それは良かった。それとそのことについてだが……」
俺は彼女に今日のこれからのことを話した
「心遣いありがとうございます。それではよろしくお願いします」
彼女の了承も得た
ここからが本番だ
さて、朝食も終わり、片付けに入る
「お手伝いしなくても大丈夫でしょうか?」
「ああ、これでもあの白黒の魔法使いの夫から家事を教わってきたからな、ある程度のことはできるから」
「そうですか、じゃあ私は居間でテレビでも見ていますので」
片付けも終わり、掃除を始める
寝室、台所、廊下、居間、玄関っと
外の掃き掃除を始めようとしたところに
「外は寒いので、これを巻いていってください」
彼女が羽衣をマフラーのように俺の首にかけてくれた
「うん、ありがとう」
外を掃く
彼女はいつもひとりで掃除しているのか
それを考えると、少し心が痛んだ
掃き掃除が終わり、次に洗濯だった
河童の協力と彼女の能力のおかげでこの家には洗濯機がある
おかげでいちいち手洗いしなくてもいいということだ
洗濯が終わり、外に干す
中には彼女の下着もあったが、この件はあまり触れないようにする
……言えるのは、彼女は着やせするタイプみたいだ
洗濯物を外に干し、次にするのは買い物だった
「買い物の時間ですか。私も行きます」
彼女がついてきてくれることになった
実際、何を買うかまではわからなかったのでとてもありがたい
「それじゃあ行こうか」
「はい」
マフラーみたいにしていた羽衣を二人の首に巻く
「少し…恥ずかしいかもしれません///」
「そ、そうだね///」
里に着き、買い物をする
途中、天子に会った
「なによーこんな昼間から夫婦っぷりを披露しなくてもいいじゃない」
皮肉げに言っていたが、実際彼女が俺らの後押しをしてくれていたものである
彼女に出会ったのも、天子が宴会に衣玖を連れて来てくれたからである
俺たちが付き合い始め、結婚を決めたとき天子はただ一言
「おめでとう」
と言ってくれた
彼女なりの言葉だったのだろう
その言葉はとても心に響いた
天子と別れ、買い物を終えて家に戻ってくる
洗濯物を入れ、お昼ご飯の準備を始める
彼女はずっとこちらを見ている
……少し恥ずかしい
「衣玖」
「なんでしょう?」
「……いや、なんでもない」
「はい」
きっと彼女に手伝ってくれと言えば、すぐにでも手伝ってくれるだろう
でもそれでは意味がない
彼女もきっと手伝いたいと思っているのだろう
でも言葉にしないところを見ると、空気を読んでいるかもしれない
お昼ごはんも終わり、家事の大半は終わった
そのときに彼女から
「○○さん、散歩に行きませんか?」
と誘われた
残りは晩御飯を作るのとお風呂の準備なので散歩に出ても問題はなかった
「よし、行こう」
俺と彼女は散歩に出た
「本当に今日はありがとうございます○○さん」
「いつも衣玖さんには世話をしてもらってるからね、たまにはこうしてあげないといけないって思ったんだ」
落ち葉の道を歩く俺たち
もう冬も近い
途中、彼女が立ち止まる
「……私はいつも家事が終わった後はこうして散歩に出ています。途中で総領主娘さまに会ったり、博麗の巫女に会ったりします。
いつもあなたのことを聞かれるのです。それで私はこう答えているんですよ」
彼女が俺の手を取り、顔を近づける
「私は大切にされています。私は本当に幸せ者ですって」
そのままキスをする
唇に触れる程度のキス
唇が離れたとき、思わず彼女を抱きしめていた
「俺の方こそっ……こんなに良い奥さんをもらって幸せものだっ……」
いつの間にか俺は泣いていた
涙が顔を流れ落ちる
「ありがとう○○さん。そうですね……私達はとても幸せです」
彼女の眼にも涙が溜まっていた
俺はその涙を指で拭う
「これからもよろしく、衣玖」
「はい、私からもよろしくお願いします○○さん」
散歩から帰り、家に戻る
晩御飯の支度をする
「私も手伝います、二人で作った方が楽しいです」
彼女と一緒に立つ台所はとても楽しいものだった
そして晩御飯も二人で作ったかいあって
とても豪勢なものになった
「それでは、いただきます」
「いただきます」
「むぐむぐ…、やっぱり衣玖には勝てないなぁ」
「そんなことないですよ、○○さんだって努力してここまで作れるんですから」
「今度衣玖に料理教わってもいいかな?」
「はい、喜んで」
衣玖もすごく嬉しそうだった
豪勢だった料理もその姿をほとんど消し
後片付けをしているときだった
「○○さん、一緒にお風呂に入りましょう///」
彼女が顔を少し赤らめながら言ってきた
「…うん、わかった。先に入ってて、俺も後片付けが終わったら行くから///」
すっごく顔が赤くなっているのが自分でもわかった
「では、お先に失礼します///」
こういうときはどうすればいいんだろう?
とりあえずタオルは腰に巻いてっと
落ちないようにしないと
「そ、それじゃあ入るよ」
「え、あ、はい」
中から衣玖の声が聞こえる
戸を開け、風呂場の中に入る
衣玖は、湯船に使っていた
その……衣玖のタオルを巻いていてもわかるふたつのそれはやはり推測どおりだった
着やせするのか
「あ、あんまりじろじろ見ないでください……///」
「あ、ご、ごめん!」
とりあえず頭を洗い、身体を洗おうとすると
「お背中お流しします」
「あ、ありがとう」
正直、風呂に入っている間は理性が飛びそうで危なかった
風呂から上がり、先に上がっていて居間にいる衣玖に話しかける
「今日さ、一日衣玖の代わりに家事をやってきたけど、すごく大変だってことがわかったよ」
「そうなんです。だから○○さんも手伝えるときは手伝ってくださいね」
「ああ、いつでも言ってくれ」
「ふわあぁぁぁ……そろそろ寝ようか衣玖」
「そうですね…」
寝室に行き、布団を二枚引く
寒くなってきたので、毛布も出しておく
「そんじゃ明り消すよ」
「○○さん」
「どうしたの衣玖?」
「その、○○さんのふ、布団で一緒に寝てもいいですか?///」
「あ、うん、おいで」
「……○○さんあったかいです」
「そういう衣玖だって暖かいよ」
一つの布団で抱き合って寝る体制にいる俺たち
「その……二つほどお願いをしてもよろしいでしょうか」
「ん?」
「これからもずっと私といてください。ずっとずっと離れないでください」
「うん。俺はずっと衣玖のそばにいる」
「それと……さっきいつでも手伝ってくれるとおっしゃいましたよね」
「あ、ああ」
「その……子供が欲しいです……///」
「……///、俺も衣玖との子供が欲しい」
布団の中でキスをする
散歩に出たときとは違い、長く深く、お互いの愛を確かめ合うように
そこから俺は衣玖の服に手をかけ、そして……――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝
目覚めると隣には衣玖の姿が
とても可愛らしい寝顔だった
「……う、…ん……」
「これからもずっとよろしく、衣玖」
「……○○…さん……」
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新ろだ219
家で仕事中の俺の部屋に突然ノックする音がした
誰かと思って開けてみたら衣玖さんだった
「メリークリスマス」
「あ、メリークリスマスです」
簡単な挨拶を済まし、衣玖さんを部屋の中へと招き入れる
どうやら外では雪が降っていたみたいだ
「寒くないですか?」
彼女に問いかける
「そうですね……少し寒いです」
「今、暖かいお茶淹れますんで少し待っててください」
「ありがとうございます○○さん」
ここまでで、俺は一つ気にかかることがあった
……何で衣玖さんがうちに来たんだろう?
「お茶どうぞです」
「ありがとうございます」
「それで……今日は何の用事で?」
「今日はクリスマスですよ?」
何だ今の一瞬の間は?
「クリスマスといえば決まってるじゃないですか?」
ずいずいと近づいてくる衣玖さん
「恋人同士が一緒にいる日でもあるんですよ?」
顔がすぐ目の前に来る
「私は○○さんのことが――」
唇と唇が触れる
「これが今日のプレゼントです」
ああ、そうか
「ご満足いただけたでしょうか?」
この胸の高まりは
「できれば今日はあなたの隣で寝させていただきたいのですが――」
今度は自分からキスをしてみる
「――今のはOKの返事ということでよろしいですね?」
彼女がくれた最高のプレゼントということを
「ああ、今日は一緒に寝よう」
実感した――
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新ろだ238
「もうすぐお正月ですね」
台所で片付け物をしている彼女が言う
確かにクリスマスも終わり、次に来るのは冬コミか正月くらいである
「そういや、幻想郷って正月に何か特別なこととかあるの?」
一応俺も外の世界から来た人間だが
こっちの流儀で正月を迎えなければいけないのだろう
「特にはないですね。神社で宴会が行われるくらいですが」
「衣玖はそれに出るの?」
「私は……どうしましょうか」
少し悩んでいるみたいだ
そして片づけをしている手を止めてこちらを振り返る
「○○さんはどうしたいですか?」
ここで俺に降ってくるとは何かとズルイと思う
「まぁ、それを衣玖に言われたらこう答えるしかないよな。俺と一緒に年越してくれって」
「もちろんその言葉を待っていました」
「ずるいな衣玖は」
「ええ、こうまでしないと○○さんは言ってくれそうにないですから」
「そんなところ全部ひっくるめて好きになったんだがな」
そしてまた片付けに入る
「私も――ですよ」
彼女の口から言葉が漏れる
「顔赤いぞ衣玖」
「し、仕方ないじゃないですか。あ、あんまり面と向かって好きといわれるとその……」
俺はおもむろに立ち上がり、台所にいる衣玖を後ろから抱きしめる
「恥ずかしい?」
「う……」
さらに顔を真っ赤にする衣玖
「少し早いけど、来年もよろしくな」
彼女が俺の手を振りほどき、今度は正面から体を当ててくる
「来年……だけじゃないですよね?」
そんななこと上目遣いで言われたら
「ああ、これからずっとよろしくな」
そう答えるしかないじゃないか
「と、とりあえず、離してくれませんか? か、片づけが終わらないので」
どうやら強く抱きしめすぎていたらしい
「おっとごめんよ」
「いえ、あの……後でもう少しお願いしますね……」
どうやら今夜も早くには寝れそうにないなと思った
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新ろだ245
「起きてください○○さん」
肩を揺すぶられている、もう少し寝ていたい俺は反対方向へ寝返りを打つことにした
そしたらなんと、衣玖まで布団の中に入ってくるではないか
そして耳元で囁かれる、息がかかる
「んー……何、衣玖?」
うっすらと目を開けるとそこはまだ薄暗い闇の中
それでもとなりにいる衣玖のぬくもりだけはしっかりと感じることが出来た
「いえ、先ほどまで宴会でおおいにはしゃいでいて、疲れているのはわかります」
その通りだ、先ほど大晦日から年越しまで博麗の神社の宴会で大いにはしゃいでいたのだ
おかげで酒に酔い頭が痛いし、突然弾幕勝負の中に放り出されるし ……結局は衣玖が助けてくれたのだが
そして今はその宴会から帰ってきて、ゆっくりと休んでいるところである
「ですが……見ていただきたいものがあります」
すぐ隣からぬくもりが消え、障子が開く音がした。きっと縁側に出たのだろう
といってすぐに布団から出る俺ではない。手探りで近くにあるはんちゃを布団の中ではおり、外に出る決心をする
寝ぼけた眼をこすり、衣玖のことを気遣い、もう一着を探すが見つからない
仕方がないので、そのまま衣玖の後を着いていくことにする
「もう少しです○○さん」
縁側には衣玖が腰をかけていた。その隣に俺は座り、はんちゃを衣玖の肩にかけてあげる
自分は寒いが、まぁ衣玖が寒がる様子を見ているよりかは幾分かはましである
何が始まるのだろうと心躍らせながらその時を待つ
「今日は雲もないですし、きっと綺麗だと思いますよ」
その一言で衣玖が自分に何を見せたいか理解することが出来た
だんだんと空が白み始め、暗かった世界から青へ変わり、オレンジ色の光が見え始めてくる
やがてオレンジ色の光は大きくなり、世界を照らすように現れる
「ああ、こんなに素晴らしい日の出を見たのは初めてだよ衣玖」
衣玖に笑いかけると、衣玖もまた笑顔で返してくる
「はい、私もこんなに良い日の出を○○さんと一緒に見られてとても嬉しいです」
そして太陽が俺達を照らす――――
「大好きだよ衣玖」
「私も大好きです○○さん」
太陽が完全に出た後も俺たちはそこにいて、感動の余韻に浸るように、俺たちは肩を抱き合って座っていた
「……ねぇ○○さん」
「ん?」
「今年も……これからもずっとよろしくお願いしますね?」
「ああ、任せろ衣玖、こちらこそよろしくな」
そしてそのまま導かれるように俺たちは唇を合わせる――――
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最終更新:2010年05月11日 22:02