衣玖5
新ろだ2-304
「熱い」
「夏ですから」
「……それだけか?」
「こうしてくっ付いているのもでしょうね」
「そうか。では離れてくれ」
「無理です。お断りします」
「理由は?」
「貴方が好きでしょうがないからです」
「・・・。じゃあしょうがないな」
「しょうがないですね」
「……衣玖」
「……○○さん」
「なぁ……」
「なんでしょう?」
「汗がひどいな……」
「そうですね……汗以g(ry「言わせねぇよ!?」すみません……」
「罰として一緒に風呂な」
「それは罰になってません。いつものことでしょう」
「……そうだな。んじゃ晩飯は衣玖が作ってくれ」
「はいはい、かしこまりました」
「意外と夜は涼しかったりする」
「私としては少々寒いくらいです」
「理由はどうあれくっ付いている訳で」
「あら、お嫌ですか?」
「まさか。大歓迎だとも」
「ならもっと付きますね」
「うむ、ちこうよれー」
「ははー」
「朝からひどい汗だ……」
「昨日はお楽しみでしたね」
「当事者乙」
「とりあえず水浴びしましょうよ……」
「賛成」
「朝食お願いしますね」
「了解」
「ねぇ……衣玖……」
「なんでしょうか総領娘様」
「どうした天子」
「暑苦しい」
「「夏ですから。しょうがない(な)(ですね)」」
「・・・・・・。もういいや……砂糖吐きそう……」
「大丈夫だ。熱いのは皆一緒だろう」
「この幻想郷にも避暑地みたいなものはございますよ」
「そう……ところで二人は暑くないの?」
「「熱いに決まってる(だろ)(でしょう)」」
「だったら離れればいいのに」
「「お断りします」」
「そう…………」
「あんたら……まさか二十四時間ずっとひっ付いてる訳?」
「さすがにそれはない」
「実はくっ付いていない時間のほうが多かったりします」
「嘘でしょう?」
「もちろんそうですよ」
「実際は半々くらいさ。外では流石に自制してるよ」
「それも嘘でしょ……」
「これは嘘ではないですよ総領娘様」
「公衆の面前でそんなイチャイチャできるもんか」
「…………今いるところは人里で、公衆の面前な訳だけど……」
「これはただのスキンシップです」
「つまり問題なし」
「なら『あーん』とかしないでほしいんだけど……」
「○○さん、総領娘様、お茶が入りました」
「おー」
「んー」
「お茶うけは羊羹です」
「よう噛んd(ry「言わせませんよ?」サーセン」
「・・・・・・。言われてみて観察してたんだけどさ……」
「ん?」
「なんでしょうか?」
「仕事している時とかはちゃんと離れて真面目にしてるのね」
「そりゃそうだろ」
「仕事とプライベートはちゃんと分別しています」
「てっきり四六時中ひっ付いているものかとばかり」
「だから言ってたじゃないですか」
「半々だと」
「ちなみに家では?」
「「くっ付いているのがデフォです」」
終われ
Megalith 2010/12/23
○○「衣玖さんに サンタのコスプレ して欲しい」
うつろな瞳で俳句を詠む○○。
恋人たちが愛を語らうクリスマスに、衣玖との仲を進展させたい。
そう思っていた○○が前日見た夢は、サンタのコスプレをした衣玖とイチャつくものだった。
これは天啓だ。確信した○○は香霖堂に走り、外界から流れ着いたサンタのコスプレを購入したのだが。
○○(こう……サンタのコスプレをしてもらって……
「プレゼントは私ですよ」とか微笑みかけられたい!
でもどうやって切り出そう?
つーか……怖い。拒否されるのがすごく怖い。引かれちゃったらどうしよう。やっぱり黙っていようかな……)
────クリスマス当日。
衣玖と○○の二人っきりで過ごす、はじめてのクリスマス。
好きな人がそばにいるだけで満たされる。穏やかな、幸せな、温かな時間。
衣玖「○○さん。そっちに行ってもいいですか?」
酒のせいか、頬を赤らめた衣玖が○○にもたれかかる。甘い匂い。
○○「衣玖さんいい匂いがするね」
○○は手を伸ばし、衣玖の髪をゆっくり、ゆっくり撫でる。
そのまま少し体を引き、衣玖の体を支えつつ、頭を膝に優しく乗せる。
衣玖「○○さんに膝枕してあげたいって思ってたんですけど」
私が先にされちゃいましたね、と衣玖が笑う。そうだね、と答えつつ、○○は衣玖の髪を撫でる手を、今度は喉に伸ばした。くすぐるような指使い。
衣玖「ん……、もう、猫じゃないんですから。喉を撫でられたって喜びませんよー」
目を細め、気持ち良さそうにしながら言う。普段のお姉さん然とした態度はどこへやら、今は甘えんぼな少女にしか見えない。
いい雰囲気じゃないか、と○○は思う。このままでもいいんじゃないか。変なこと言ってこの雰囲気を壊すことはない、と。
だが胸の奥でもう一人の自分が叫ぶ。衣玖さんのサンタのコスプレ見たい、と。
ふと○○は、衣玖の視線に気づく。うるんだ瞳から送られるその視線は、自分の言葉を促すもののように○○は感じた。
○○は覚悟を決めた。確固たる決意を持ったその姿は、まさに勇者である。
勇者が今、敢然と衣玖にサンタコスプレの要求を始めた。
○○「ねえ衣玖さん。これ買ってきたんだけど、着てみない?」
○○の渡した包みをあける衣玖。中から、サンタのコスプレを取り出す。
衣玖「これは……」
○○「笑わないで聞いてくださいね。衣玖さんの、サンタのコスプレが見たいんです!」
○○「普段のゆったりした服も素敵です! キュンときます! でも!
短いスカートはいてるところも見たいんです! すらっとした衣玖さんの足が見たいんです!
ぴっちりした服も見たいんです! 体のラインが出ちゃうようなやつ!」
喉から、腹から、心の底から声を絞り出す。
○○「そんなサンタコスプレをして、恥ずかしがってる衣玖さんが見たいんです!」
男の咆哮が響く。残念な内容が薄い壁越しに隣の家にも響く。
しばしの沈黙。あっけにとられたような表情から一変、衣玖がくすくす笑いだす。
衣玖「○○さん。恋人同士なんですから遠慮しないでください。」
○○「……ってことは! OKなの!? 俺のこと嫌いになったりしない?」
衣玖「嫌いになったりしませんよ。私の大好きな○○さん」
衣玖は○○の頬に手を伸ばし、優しく触れる。
衣玖「……わたしはてっきり……その、もっとすごいことを言われちゃうのかと……どきどきしちゃいました……」
○○「え、もっとすごいことって……ッ、い、衣玖さん!」
ばっと伸ばした○○の腕を、衣玖がするりとよける。
衣玖「ふふっ。○○さんったら目がいやらしいですよ♪」
楽しそうな表情で○○の頬をつつく衣玖。紙袋を手に取ると、
衣玖「着替えてきますね。……覗いちゃだめですよ?」
本来子供の憧れであるサンタの衣装を着てイチャつく。
嫁は違えどみんな一回はやってるって信じてる。
竜宮料理屋(Megalith 2011/12/01)
俺の朝は早い。
というのも料理屋を開いている手前仕入れが肝心だからだ。
布団を片付け、店に入って一服する。
これが俺の今日作るメニューを決める第一段階。
俺の店にはメニューなんてものは無い。ただその日その日作りたいものを作るだけ。
まぁ材料が運良くあれば要望も聞くが基本は店の前に置く黒板に書かれたもんしか作らない。
自前の灰皿にタバコを押しつけ、思案を決める。
メニューが決まったところで顔を洗い、服を着替えて店を出る。
いつもと変わらないそんな朝、そして出た先では……
「おはようございます○○さん」
毎度のように竜宮の使いが笑顔で俺の事を待ちかまえていた。
「成程、今日は野菜炒めと豚の生姜焼きですね」
「……」
買って行く物で判断されて少しだけカチンと来たので予定を変更し、魚も仕入れていく。
そんな俺を見て何がおかしいのかクスクスと笑ってくる竜宮の使い。
俺はとりあえず無視する形で台車ごと歩みを進める。
ちなみに台車には買ったものの他に竜宮の使いも座っている、別に横に歩かれると誤解を生みそうだからというだけだ、他に他意は無い。
何故か今度はさらに奇異な目で見られるようになったが仕方ないという事で放置、むしろツッコミは負けな気がする。
見ようによっては姫と従者、お嬢様と召使い、そんな感じでもある。
竜宮の使いは見た目はとても美人だ、というか人妖問わず幻想郷は美人揃いだ。
そういう意味でもその見方はあっているかもしれない、と思って自分で自分にイラッとした、何してんだ俺は。
「おはようございます○○さーん!」
人里内で騒がしく俺をさん付けで呼ぶのは一人しかいない、と思って周囲を見てもそいつはいない。
まさか、と思って上を見れば降下してくる女が一人、またお前か烏天狗の新聞屋。
「新聞ならいらんぞ」
とりあえずお前に言う事は何も無い、と先制攻撃をかけておく。
まぁ無駄なのは知っているが。
「そう言わずに~と、言いたいところですが本日は別件です。
あなたとそこの永江衣玖さんとの事で「竜宮の嬢ちゃん、そこの不埒な烏天狗に一撃ビリッとよろしく」……まだ最後まで言ってないのにぃ!?」
バカ者め、言わずとてわかるわ。
大方ゴシップな記事を書く気なのだろう、見出しは『人妖カップル、料理屋に通う竜宮の使いは通い妻?』とかそんな感じか。
俺の依頼に竜宮の使いは笑顔で首を振る、ちっ。
「お前が妙な記事書いたらスポイラーの嬢ちゃんまで変な事書きだすだろうに」
「あや、また花果子念報と勝負ですか、いいですよ受けて立ちます」
いやそもそも書くなって言ってるだろうが。
「いいじゃないですか○○さん、あなたは人の風評も言うことも助言もまるで気にしないし、聞かないじゃないですか」
台車から凄い棘のある言葉が刺さる。振り向けない空気である。
未だに私は許してませんよ、とでも言いたそうにである。
とりあえず後ろの竜宮の使いは放置しておく。
「既に尻に敷かれてますね」
「馬鹿もん、そういう付き合いじゃない」
俺が溜め息がてら否定すると、
「あら、私はそういうものだと思っていたのですが」
話をややこしくする竜宮の使い。
ちっ、どうみてもこの状況は俺が敗者になるだけじゃねぇか。
となれば
「無駄話しすぎたな、仕込みがあるから俺は行くぞ」
台車を勢いよく引っ張りながら俺は自分の家の方へ駆ける。
きゃっとか竜宮の使いから聞こえた気がするが気のせいだろう。
後ろを振り向くと何故か烏天狗は追ってこず「楽しみにしててくださいねー」とか言い出しやがった。
くそっ、遅かったか……
家に鳥よけの道具でもあったかなぁとか思いながら人里を出るのであった。
「……ほれ、上がったぞ」
「はい、鮭のホイル焼き定食お待ちどうさまです」
○○さんと一緒に彼の自宅兼お店に戻ってみれば既にお客さんが数人並んでいた。
おそーい、と河童や天狗に囃し立てられながら○○さんの手伝いをする。
今日も人のお客なんていはしない、当然といえば当然。
この店は妖怪の山の麓にあるのだから。
「ごちそうさまー○○ー本日の御代はこれでいい?」
「ん、りんごか。アップルパイにでもするか」
河童からリンゴを受け取る。
妖怪相手の商売はこういう物々交換もよくある。
正直○○さんの食材を買う為のお金がどこにあるのか疑問に思う時がある。
「……こんにちは」
そんな時新たなお客さんが。どうやら厄神さんのようだ。
「ん、厄神の嬢ちゃんか。注文は?」
「野菜炒め」
「あいよ」
周囲のお客さんが少しだけ浮ついたが○○さんは全く気にせずに調理を始めた。
そんな○○さんを安心しきった表情で厄神さんが見ていた。
そう、○○さんはお客さんである限り全て平等に扱う、どんな相手でも、どんな種族でも。
思えば本当に変わった人だ、と思う。
会ったのはたまたま、妖怪の山に暮らす妖怪や守谷神社の方々に地震のお知らせをしようと来た時だ。
さて、竜宮の使いとしてのお勤めをしますか、と空から降りて見ると妖怪の山の入口から少し横にずれたところに家があった。
よく見ると料理屋と看板が出ており、店先に黒板で本日のメニューと書かれていた。
妖怪の料理屋とは珍しい、と思いながら御免下さいと一言告げてお店に入ると
「ん?今は準備中だ、夕方以降に来てくれ」
なんとそこにいたのはただの人間だった。
私は驚愕した、ここは妖怪の山だ、普通の人間が早々出入りできる場所ではない。
白黒の魔法使いや博麗の巫女や
紅魔館のメイド長ならまだしも見たところ普通の男の人間、どうしてこんなところで料理屋を……
疑問は彼への質問へと直結した、何故人間がこのような場で料理屋をしているのかと。
「逆に聞くが人間が商売するのに人里じゃなきゃいけない決まりでもあるのか?」
質問を質問で返された。
確かにそんな決まりは無い、しかし普通に考えればありえない。
だが話の流れの空気を読んで彼にはその辺を突っ込んでも良い答えは得られないと感じ、直ぐにお勤めに入る。
「私は永江衣玖、竜宮の使いです。
竜神様より近々地震が起きるとの言伝を受けた故、こうして皆様に伝えている者です
なので地震への準備をしておいたほうがいいですよ」
「ほう、お前さんが噂の竜宮の嬢ちゃんか」
「どんな噂ですか?」
「今にも踊りだしそうな格好で電気を使うパツンパツンの深海魚」
「誰から聞いたか教えてくれませんか?」
「文々。新聞」
よし、後であの烏天狗は最大級の電撃で丸焦げにしましょうそうしましょう。
そして不図彼を見るとふむ、と私を凝視していた。
な、なんでしょうか。
「幻想郷には可愛い綺麗なお嬢さん方がいっぱいいるが……お前さんもしっかり可愛い綺麗なお嬢さんだな」
「かわっ!?」
いきなり何を言い出すんですかこの人は!?
途端に自分の頬が真っ赤になったのを感じ、うろたえてしまった。
綺麗だのと言われた事はあるけれど空気で相手の下心はわかってしまう。
しかし彼からは全くそんな空気は感じなかった、純粋な言葉だというのがわかってしまった。
それ故に私は慌てふためくしかなかったのだ。
「何を驚いてるんだ……お前さん程の美人ならそういう言葉くらい言われ慣れてそうなもんだが?」
「あ、あなたのように言う人なんてそういませんよ……」
なんて事だろう、何事も空気を読んで行動できる私ですがこの空気には耐えられない。
彼と話す度に自分がどんどん追い込まれていく、そんな空気。
となればこの場は逃げるが得策、私は彼に背を向ける。
「と、とりあえず伝えましたからね?地震は必ず起きますので気を付けてください」
「覚えてたらな、それと言い忘れたが俺は○○、見ての通り料理屋をやってる」
失礼します、と外へ出て戸を閉める。
まだドキドキとしている動悸を胸に手を当ててなんとかしようとしてみるが中々治まらない。
あんな人間も、いるものなんですね。
ふぅっと溜め息をつき、ようやく落ち着いた私は当初の目的通り妖怪の山に入っていく。
しばらくしたら彼の所にもう一度行ってみよう、とこの時思いながら。
その結果、
「ごめんくださー……あら?いないのでしょうか?」
「勝手に入りますよー?○○さーん?いないのですかー?不用心で……あ」
倒れたタンスによって身動きが取れない彼を見つける事になろうとは思わなかったです。
「まったく!私が来たからいいような物を!地震が起きるから注意してくださいと言ったはずじゃないですか!」
「あーすまん、すっかり忘れていた」
私の剣幕に押されもせず、最初に会った時のような何事にも平然とした顔をしている。
倒れた物を片付け、立て直し、元通りの場所へ、彼は自分でやると言っていたが怒りの収まらない私はそれを断って手伝っている。
この人は誰かが見てないと駄目な人だ、総領娘様みたいな人だと私は直感的に感じた。
ただ総領娘様との大きな違いは何かをしでかすからじゃない、自分がどうなるか頓着がないところだと私は感じた。
きっと自分のしたい事をして、それによって自分がどうなるか知った事じゃないみたいな、そんな感じ。
「決めました、竜宮の使いとしての仕事がなくて暇な時はお手伝いに来ます」
「あ?そんな事せんで……「い・い・で・す・ね?」……勝手にしろ」
そして今に至る。
思えば何でこれ程に彼に怒っていたのか、今ならば少しだけわかる気がします。
私は………………私の言った事をちゃんと覚えていただけなかったのがとても腹ただしく、そして悲しかったんだと思います。
私は竜宮の使いです、伝える事が仕事です。
しかし私は妖怪です、信用されない事もわかりますしそれは仕方のない事だとも思っています。
ですが、彼には、信用してほしいと、意識してほしいと思っているんだと思います。
だから今朝の烏天狗との一件で私はあんな恋人のような事を言ってしまったんだと思います。
今にして思えば、ちょっとだけ恥ずかしい事をしてしまったと後悔はしていますが。
料理をしている時以外の普段の状態とは違って少しだけ真面目な顔をして調理に取り掛かっている彼の顔をチラリと見る。
今の私はいったい……どんな顔をしているんでしょうか?
恋する乙女のような顔でしているのでしょうか?
今はまだ、自分の感情がわかりません。
きっとその内、答えが出るのだろう、と私は食器を洗う事に専念する事にしました。
果たして私は……本当のところは、彼をどう思っているのでしょうか?
竜宮料理屋2(Megalith 2012/05/16)
「待ってたわよ!さっそく取材させなさい!」
「まーたお前かスポイラーの嬢ちゃん」
竜宮の使いにやっぱり待ち伏せされて里まで仕入れに行って帰ろうとしたらこれだよ。
天狗の新聞屋共は俺に何か恨みでもあるのか?閻魔に訴えたら勝てる気がするぞ。
「文が二人の事で書くなら私もあなた達で書くしかないじゃないの」
「やめんか馬鹿、てかあいつはあいつでやっぱり書くつもりなのかよ・・・・・・」
荷台の竜宮の使いを見るがくすくすと笑うだけで真意が読めない。
こっちはこっちで話題になっても大丈夫なのかと問いたいが何か嫌な予感がするのでやめておく。
とりあえず文々。の方にはこの面倒の復讐を誓っておくことにする。
「いいじゃない、付き合ってるんでしょ」
「だから付き合っていないと言ってるだろうが」
「あら、そうなんですか?」
「何でお前さんが言うのかな!?」
話を複雑にしようとするなそこの雷系女子。
そして納得したようにメモを取るなツインテール系天狗、その髪引っ張るぞ。
「いいじゃない、真実と面白さが重要なのよ新聞は」
「おかしいなぁ、前者が全く重要視されてない気がするぞ」
「あらあら、○○は竜宮の使いを引っ掛ける遊び人だったのね」
「これから私は捨てられてしまうんですね」
「待て、何時から俺はそんな大悪人にっていきなり現れんなスキマ!」
さも自然に会話に入ってきたスキマ妖怪が荷台にいつの間にか乗っていた、全く重さを感じなかったせいで気付く事ができなかった。
やばいな、ただでさえ勝ち目が薄かったのにこれじゃ絶望的な流れじゃねぇか。
女に口で勝てねぇのを幻想郷でいらないくらい一番学ばせてくれたのは憎たらしい笑みを浮かべやがるこいつのせいだしな・・・・・・
「じゃあタイトルはこうかなぁ『女の敵極悪人○○、非情な犯行の一部始終』、うーん微妙」
「真実からさらに遠ざかってんじゃねぇか・・・・・・」
こいつら人で遊びやがってからに・・・!
「大変ねぇこんな鈍感馬鹿に付き合うのも」
「いえいえ、これで楽しませてもらっていますから」
傘で小突こうとするなスキマ。
全くなんでこいつはこんなに俺相手に柄が悪いのか。
しかしこれ以上攻められるのも耐えられないのでとりあえず帰る事にする、勿論逃亡ともいう。
「おい降りろスキマ、俺は帰るぞ」
「あら、美女二人を乗せて帰るのよ?役得じゃないかしら」
「鏡見てから言・・・・・・危ないから弾幕はやめろ」
笑顔でスペルカード取り出すとか実力行使にも程があるだろ。
チッとか舌打ちしてカードを仕舞うスキマに俺は頭が痛くなる思いであった。
「さて、じゃあ私は原稿に取り掛かりますか」
「頼むから勘弁しろ、せめて真実を書け」
「わかってるわよ、『変人○○、竜宮の使いとの甘いひと時』でどうよ?」
「全然真実含めようとしてねぇじゃねぇか!」
じゃあねーと花果子念報の烏天狗は空へ飛んでどこかへ行った。
何か最近こういう事ばっかりな気がするぞ・・・・・・
「ほらほら、帰るんでしょ?」
「おいそこの竜宮の使い、そこの面の皮の厚い妖怪にドリルしてくれないか?」
「お断りします」
「酷いわ、あんなに愛し合った仲なのに○○は私に冷たいのね」
何時誰がそんな仲になった。
クスクスと笑う竜宮の使いに止めてもらおうかと思ったが首を振られた、これ帰るまでやるのか?疲れるんだが。
「まぁ色々と積もる話もあるし、さっさといきましょ」
「どこかにゴミを捨てる場所でもねぇかな・・・・・・やめなさい」
だから後ろから傘で小突くな。地味に痛いんだよ!
まったく・・・・・・相変わらず困った妖怪だぜ。
「最近調子はどう?」
「ぼちぼちだな、受け入れられてる」
「そう、近いうちに3人で行こうかしら」
○○さんと妖怪の賢者が知り合いとは知りませんでした。
それもかなり仲がよさそうに見える、まるで長年一緒にいるみたいで少し、なんというか、もやもやします。
「どうかしたかしら?」
私が何も喋らなかったのが気になったのか紫さんが話しかけてきた。
私はいいえ、何でもないですと答えるしかなかった。
しかしふぅん、と彼女はにやりと何か悪だくみを思いついた笑みを浮かべてきました。
・・・・・・何をする気なんですか貴女。
「それにしてもまさかあなたが恋人作って二人でやってるなんて思わなかったわ」
「違うわ馬鹿、これはあれだ、やんごと無き事情ってやつだ」
「へぇ・・・・・・そうなの?」
「え、えぇ、まだお付き合いしているわけでは」
「聞いた?まだ、ですってよ?」
謀られた・・・・・・!
「釣り合う男なんざ早々現れねぇだろ、お前もそうだが美人だしな」
「褒め言葉は受け取っておくけどそういう事じゃないんだけど?」
「人をからかうのはやめてくださいよもう・・・・・・」
○○さんは気づいていない。
紫さんが何を言いたいのかを。
彼女がさらにストレートな言葉を言えばどんな言葉が○○さんから返ってくるのか。
嫌だ、聞きたくない、もし彼から無慈悲な言葉が返ってしまったら私は・・・・・・いえ、なんでそんな事を考えるのか。
私はまだ自分の思いが定まっていないというのに。
「でも通い妻みたいな状態じゃない、嫌々というわけでもないんでしょ?美人が来てくれるんだから」
「・・・・・・」
○○さんは押し黙ってしまいました。
ここに私がいるからでしょうか?気を使っているのでしょうか?
「ほらほら答えなさいよ、少しくらい噂をはっきりとさせておいた方がいいのではなくて?」
「・・・・・・噂も何も事実無根だろうが。・・・・・・まぁ、手伝いが美人ならそりゃ嬉しいのが男だろ・・・・・・」
ふんっ、と鼻を鳴らしてそっぽを向く○○さん。
そしてニヤニヤとこちらを見る紫さん。
私は何も言えずに帽子で顔を隠して紫さんの視線から逃げるしかありませんでした。
「お疲れ様です」
「あぁ、お疲れさん」
本日の業務は終了という事で準備中の札を出しておく。
結局あの後スキマは隙間で九尾とその式を連れてきて飯を食っていった。
九尾からはなぜかライバル視されており、また後でどちらが美味いかを競わされる予感がする、これも全てあのスキマのせいである。
いらん事を言って自分の式を煽らないでほしいものだ。
「・・・・・・」
客用のテーブルを拭く竜宮の使いを眺めながら不図最近の事を考える。
今日の花果子念報といいこの前の文々。新聞といい、確かに竜宮の使いがまるで通い妻の如く手伝いに来ているのは事実だ。
それは彼女の責任感によるものなのかはわからない、俺にそんな事がわかればここにはいないだろうしな。
別に彼女が来る事に俺は別段嫌悪感はない、なんだかんだで実際気が利くし美人である、言う事はないだろう。
しかし、だ。果たしてここまで周囲からいつも囃し立てられて彼女は何とも思っていないのだろうか?
俺に関してはからかいのネタとして弄られているに過ぎないだろう。
しかし彼女に関しては果たしてどうなのだろうか?あいつらがそんな風に考えているとは到底思えないが・・・・・・
「どうかしましたか?」
「・・・・・・いや、なんでもない」
入り口でぼんやりと見ていたことを気付かれてしまった。
聞いていい事なのかわからず、俺は誤魔化す事しかできずに彼女の脇を通ろうとした。
しかし、考え事をしていると足元がおろそかになるわけで。
ガンッ
「うぉ!?」
「えっ・・・・・・?きゃあ!?」
竜宮の使いがずらしていた椅子の足に躓いてしまい、転んでしまった。
しかしその位置がまずかった、竜宮の使いを巻き込んでしまったのだ。
「あ・・・・・・」
気がつけば彼女は俺の下敷きになっており、腕で踏ん張ってはいるが端から見たら押し倒しているとしかいえない状況になっていた。
目の前には竜宮の使いの顔しか見えない程に接近してしまっている。
状況に気付いた彼女の顔が一瞬にして真っ赤になった、さすがにこんな状況になったことはないらしい。
かといって俺もとんでもなく慌てているわけだが・・・・・・
「えっと、あの・・・・・・大丈夫、ですか?」
「あ、あぁ、転んじまった。すまない」
「え、えぇ、まったく、気をつけてください、よ?」
「す、すまん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話が途切れてしまい、お互いを見つめるだけになってしまった。
何故だ、何故彼女は動かない、いや、なんで俺も動けない。
まるで金縛りにあったかのように俺は動けなくなってしまっていた。
できれば竜宮の使いに動いて欲しいとすら思うのに彼女も真っ赤な顔で俺を見つめてくるだけで動かない。
やがて、なぜか竜宮の使いが目を閉じた、なぜ閉じる。
まずい、何かがまずい、わからないが本当にまずい。
何もわからなくなってしまっているのになぜか俺の頭は彼女に吸い寄せられるように徐々に下降を始め・・・・・・
「あれー?今日はもう終わりですかー?」
最高で最悪のタイミングで白狼天狗が店の入り口を開けてくれた。
慌てて起き上がるも既に遅し、状況を理解した白狼天狗は口をパクパクし、顔を赤くしたかと思うと脱兎の如く逃げ出した。
とてつもなく誤解されてしまっただけならいい、しかしその誤解、よもや烏天狗達に広まってしまうんじゃ・・・・・
入り口を再び閉めて振り向くと依然真っ赤な顔ではあるがいつの間にか椅子に座っている竜宮の使い。
当人達にはどうにもできない気まずい空気は彼女が平静を取り戻して帰るまで続いた。
・・・・・・俺は、どうしたっていうんだ?
竜宮の使いの顔を間近で見ただけで平静でいられなくなっていた、俺は・・・・・・いったい・・・・・・
衣玖さんを押し倒せ、という神の天啓を受けた、ような気がしたんだ・・・・・・俺は悪くない・・・・・・
うpろだ0041
天界にて
「川……ですかぁ」
唐突に振られた話題に微妙な声で答える
「そうです、最近暑いので急に行きたくなりまして」
「海は無いしなぁ……」
「うみ?うみとは何ですか?」
「あー……いや、知らなくていい」
そういやここには海が無かったんだった
「はぁ……ではいいのですが」
「海にゃあ出来れば連れて行ってはやりたいんだけど……」
「けれど?」
「えぇっと……いろいろ危ないだろうなぁと思って」
実は衣玖の水着姿を他の人達に見られたくないとは言えまい
「お心遣い感謝します」
「んな堅苦しくなくていいって」
「恐縮です」
「……んまぁいっか、それはそれで可愛いからな」
「可愛い……?」
「細かい事は気にするな、それよりいいのか?世話は」
「今回は総領娘様直々に休暇を貰ったと言うか何と言うか……」
「まぁアイツも羽を伸ばしたいんだろうな」
「そういう事にしておきましょう」
意外と気が利くのかもなァ……恩を売っただけかもしれんが
「日付は明日、洩矢神社境内に朝十一時頃集合ということで」
「ん、了解。持っていく物は?」
「貴方にお任せ致します」
「持っていく物を予め決められていた方がいいんだがな」
「では決めましょうか?」
「んー……いやいい、ちゃんと自分で準備するわ」
「あ、お昼ご飯は持ってこないで下さい、私が準備致します」
「おぉ、それは楽しみだなあ」
「ご期待に添えるよう頑張りますね」
「じゃあ明日」
「お気を付けて」
明日は衣玖の手料理が食べられる……かもしれない
そんな期待を抱きつつスキップで家へ帰った
~翌日 午後十二時~
「えー……今日はいい天気だな!」
「……そうですね」
「晴れてよかったな!」
「……そうですね」
「今日も美しいですね!」
「……そうですか」
ヤバい、マジギレされてる……事の発端はつい先程
~午後十一時半~
「す、すまん!目覚ましが鳴らなくて!」
「……それで遅れたと?」
「あぁ、そうだが?」
「……じゃあ行きましょうか(スタスタスタ」
「あ、ちょっ、待ってくれ!」
で、今に至る。流石に半時間の遅刻はまずかったか……
「なぁ、ごめんってば、遅刻したのは謝るから機嫌直してくれよ」
「……誠意だけで済むとでも?」
「……ぬぅ」
「あ、着きましたよ」
「お、ここg……」
思わず絶句する、今回は衣玖おすすめのスポットと言う事で任せていたが……
想像以上の綺麗さに驚く、かなり山奥だからか人気も少ない
「すっげぇ綺麗だな……」
「……もう少し早く来ていれば」
「え?」
「……貴方が遅れなければもう少しいい景色を見られたのに、と思いまして」
「あー……」
これは完全に俺が悪い、わざわざ時間指定をしてきたのにもそれなりの理由があったわけだ
「ここは縁結びの神様が住んでいると言われている場所なのです」
「縁結び?」
「ここにある時刻に来て祈ると永久に離れないと言われているのです」
「で、その時刻に間に合うように時間設定したと」
「そういう事です」
「シュッスタッゴスッ)申し訳ない!」
「ですから謝って済むなら私も怒っていません」
「じゃあどうしたらいいんだ?」
ニコッと衣玖が微笑む
「今日は私の言う事を聞いてもらいます」
「デスヨネー」
「ではまず……お姫様抱っこでそこの岩場まで運んでください」
「うわぁ……距離がえげつない」
「日が暮れてしまいます、急ぎましょう」
「仰せのままに」
スッと手を膝の裏と背に回し、持ち上げ……猛ダッシュ
「きゃっ!走るんですか?」
「そうだ!正直ゆっくり行ってたら体力が持たないんだよ!」
「ゆっくり!もう少しゆっくりお願いします!」
「きこえなーい!きこえなーい!」
猛ダッシュで岩場まで走り抜ける
「ゼェ……ゼェ……ゼェ……」
「はぁ……呆れました」
「で……次は……何を……」
「じゃあ息を整えつつ出来るだけ丈夫な木の棒を取ってきてください」
「な、何故に……」
「後から分かりますよ」
「はぁ……」
渋々枝を探してくることにする
~十分後~
「戻ったz」
「どうかしましたか?」
「おぉ……」
そこには黒いフリルと赤い生地の水着を纏った衣玖が居た
「ど、どうでしょうか?似合いますか?」
「超絶可愛い、たぶん俺三時間くらい見てられる」
「可愛い……ですか、普段言われないので照れますね」
頬をほんのり朱に染める衣玖がまた可愛い
「では泳ぎましょうか」
「やっぱ水着いるかぁ……」
「まさか……持ってきてない事は」
「ばぁっちり持ってきました」
「よかった……」
「流石に下着で泳ぐわけにもいかんだろう」
「それはちょっと……」
「んじゃあ泳ぐ……ってか水浴びするか!」
「じゃあいきますよ!そぉれっ!」
「やったなぁ!」
どっかのドラマでありそうな水の掛け合いをした後
「ガチャッ)それでは本番行きますよ!」
「え?」
「それっ!(ボフッ」
「ビシビシビシビシッ)あだだだだだだだ!」
水が散弾となり襲い掛かる
「な!何するんだ!」
「遅れた罰です!さぁ私がすっきりするまで持ちますか!(ボフッボフッボフッ」
「ぎゃああああああ」
~数十分後~
「ゴハァ」
「はぁ……流石に疲れました」
「……明日絶対筋肉痛だろうなぁ」
「ではお弁当にしましょうか」
「……水でお腹が一杯だ」
「え……折角作ってきたのに……」
「いやいやいやいや!その弁当と衣玖の水着の為に来たようなものだから!」
「まさか……それだけの理由で?」
「うん……まぁ」
「まぁいいですけど……でも本当に入りますか?」
「入らなくても押し込んで味わうだけさ」
「無理はいけませんよ?」
「無理なんてものは越えるものさ」
「じゃあ食事が終わったらもう一戦交えます?」
「……」
「冗談ですよ、冗談」
「目が割とマジだよね」
「気のせいですよ、さ、食べましょう」
「了解、じゃあいただくとしますかね」
「「いただきます」」
重箱の蓋を開けると色とりどりのおかずがずらり
「うわぁ……美味そう」
「この季節は食べ物が傷みやすいですからね、作って持って行けるものが限定されてしまいました」
「でも十分だよ、ありがとうな」
「口を開けて下さい?はい、あーん」
「あ、あーん」
恥ずかしかったが俺と衣玖しかいないので気にはしない
「ング……うっめぇ」
「よかったです……口に合わなかったらどうしようかと」
「大丈夫だっての、不味かったら不味いって言うしな」
「……案外ストレートなんですね」
「それが美味しくなるまできちんと付き合ってやるっての」
「ありがとうございます……本当に」
凄く嬉しそうな笑顔でこちらに微笑む
「な、なんだよいきなり」
「いいえ、じゃあ次は貴方の番ですよ」
「……俺もやるのか」
「勿論です」
「じゃあ……あ、あーん」
二人で互いに食べさせ合いつつ昼食を終える
しばし雑談をして、着替える
「ふぅ……」
「じゃあ帰りますか」
「え?少し休んでから帰らないか?」
「でも……」
「もう少しだけ……一緒に居たいんだよ」
「え?」
「俺が遅刻した所為で今日の計画が一部台無しになっちゃったろ?」
「えぇ……それの穴埋めを?」
「それもあるけどさ、折角の休日だし少しくらいは……と思って」
「……きちんと考えてくれてるんですね」
「そりゃあな、衣玖は俺の最愛の人だからな」
「もう……じゃああと少しだけですよ?」
「あぁ、あと少しであれも出るはずだ」
「あれ?」
「まぁ見てなって」
しばし待つと夕日が見えてきた
「わぁ……綺麗ですね……」
「だろう?」
「知っていたんですか?」
「いいや、方角的に見えるだろうと思ってな」
「博識なんですね」
「それほどでもないさ、んじゃ俺の用事は終わったから帰るか?」
「そうですね、帰りましょうか」
衣玖の手を優しく取る
「手……繋がないか?」
「私はおんぶがいいです」
「えぇ……」
あっさりと俺の優しさは流される
「少し疲れてしまいまして」
「はぁ……じゃあ仕方ないか」
「……それに貴方の近くに居たいんです」
「そっか……やっぱ可愛いな、衣玖」
「ポフッ)ありがとうございます」
チラッと見た衣玖の顔は夕日に染まっていた
「照れてるのか?」
「嬉しいだけです(ギュッ」
「そっか……じゃあ忘れ物はないか?」
「えぇ、大丈夫です」
「んじゃ何か話しながら帰るか」
「そうです……ね……」
「……流石に疲れが来たか」
「だい……じょうぶ……でs……」
「やっぱ寝ちゃったか……起こさないように帰らないとな」
衣玖の寝顔を時折見つつのんびり帰ることにした
そんなある休日の出来事
35スレ目 >>332
ネクタイは私につけさせてくださいっ!って衣玖さんが駄々をこねる
最終更新:2021年04月25日 14:09