天子3



うpろだ1205


 ある日家に帰ったと思ったら家がなかった。
 別段消滅したと言うわけではない。潰れて住めなくなっていたのだ。
 なぜこんなことにと思っていると誰か来た。
 訊いてみれば竜宮の使いと名乗り、謝罪したいと言う。
 さて何に対して謝罪したいのかというと家を壊したことについてらしい。
 彼女が壊したわけではないらしいが、上役が壊したらしい。
 建て直しはするが時間がかかるので、完成するまでは自分達の家に泊まっていて欲しいと言う。
 立て直されるのならとりあえず文句はない。バラック同然なのだから数日とかかるまい。
 何故壊したのかについては、誤爆と言われた。

 連れて行かれたのは遥か高空。もうどこなのかもわからない。
 見渡す限り白い花の咲いていて、所々木々も見える。
 さてここまで運んできた竜宮の使いは、その木のところで俺を下ろした。
 木は池を取り囲むように生えていて、そこに一人の童女が見える。
 あれが壊した張本人ですと竜宮の使(ryに言われたがとてもそうは見えない。
 その童女は近づくなり、一発だけなら誤射ということで許してくれといってきた。
 悪びれるでもなくケラケラと笑う様子に、もう怒る気もしない。
 仕方なく手を振って赦免の意を示すと、嬉しそうに笑って背中を押してくる。
 どこに連れて行くのかと思えば池のほとりに宴席があった。
 その童女、天子と名乗ったか、はそこに俺を座らせると彼女自身もすぐ隣に座る。
 やがてわらわらとどこからともなく天女たちがやってきて盃に酒を注いでいく。
 注がれた酒は十分甘く十分旨いが、肴が貧弱なのは頂けない。
 隣の天子も呑め呑めと酒を注ぎ桃を出してくるが、こちらも貧弱で頂けない。
 天女たちはふわふわと浮かびながら酒や肴の補充をしている。
 巻いている羽衣を引っ張るとそれにあわせて回る辺り面白い連中だ。


 酒宴を始めて数時間。いつの間にか天子は俺の脇から膝の上に移動していた。
 途中で先ほどの竜宮の(ryやら鬼も参加して更に騒がしい。……鬼?
 特に竜(ryは俺をここに連れてきたときは打って変わって大ハッスルしている。
 酒を飲み、池上で踊り雷も落とす。特に、時折一緒に踊ろうとばかりに顔を寄せて引っ張ってくる辺り大分興奮しているようだ。
 とはいえ飛べるわけも無いので誘いを断っていると身を寄せてきて、なら私に掴まっていればよろしいでしょうと言い抱きついてきた。
 思わずそのまま空母から俺のストラトフォートレスが発進しそうになるが、子供が見ている手前そうも行かない。
 すんでのところで格納庫からのエレベータを止めるのに成功する。
 断るとr(ryは残念そうな顔をして池上に戻り、また雷を落としながら派手に踊っている。
 膝上の天子は満足そうなでも少し不満そうな表情で俺の首に腕を回している。
 些か顔が近いとか胸が当たっている気がするとかあるが気のせいだろう。固いし。

 そんなどんちゃん騒ぎを数日していると、俺の自宅が直ったと言われた。
 帰ってみるとバラックの趣はそのままで、広さは格段に大きくなっている。
 広くするくらいならもっとよく建て直して欲しいものだが、天人相手に文句は言えない。
 とりあえず見回っていると、間取りは前の家とほぼ同じのと拡張部分に新たに部屋が継ぎ足されている格好である。
 新しい部屋には一つの神棚と一つのベッド、そして一人の童女がいた。
 ん? 童女? よく見ると部屋の中に天子がいる。上半身半裸で。
 急いで扉を閉め謝るがもう遅い。大石で直線一気に壁が吹き飛ばされる。
 バラックとはいえ新築の家が吹き飛ばされるのはとてもとても悲しいものだ。
 しかし何故こんなところにいるのか、と扉の向こうから問いかけると、部屋から出てきた天子に、分社を作ったからいつでもこれると言われた。
 成る程分社と言うのは先ほどの神棚のことだろう。しかし何故来る必要があるのか。
 理由は単に、上は暇だからであった。なので時々泊まりに来るので、その時はどこかに遊びに連れて行けと言われる。
 なんと我儘なことだろうか。しかし満面の笑顔でそのようなことを言われてしまえば抗えようはずも無い。
 しばらくこの我儘娘の相手が続きそうだ。

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うpろだ1216


前回までのあらすじ。
家が壊れた。直ったと思ったら我儘娘が付いてきた。
ああどうしよう。女の扱い方なんざ判らんぞなもし。
しかも奴さんは今しきりに何処かに遊びに連れて行けとせがんでくる。
だが遊びに行くにしても近場に子供の遊ぶようなところは無い。
花街なんぞに連れて行ったところで、後見の竜宮の使いとやらに殴られるだけだ。
というより自分でも行かない所に連れて行ってもどうしようもない。
ならば手頃に山の上の神社とか川原にでも連れて行くべきか。
この暑さなら梅雨とはいえ川に子供らがいるだろう。そいつらと遊ばせておけばいい。
ここまで考えてハタと気付く。あれは天人なのだから、自分よりよっぽど年上だろう。
それじゃあ川で子供と遊ぶのは無いだろうな。神社にしよう。

しかし提案はあっさりと跳ね除けられた。お姫様は里の探索が御要望らしい。
里なら里で取り立てて問題は無い。明るい内なら危険なこともあるまい。
ただ小さな問題は片方が絹布の華やかな服、他方が麻布の服ではどう考えてもおかしいことだ。
普通に考えれば何処かのお嬢様をかどわかしたように思われるだろう。
まあ気にしたところで仕様が無い事か、と思っていたらまた客が来た。件の竜宮の使(ryである。
何をしに来たのかと思えば、出かけるようでしたので替えの服を持ってきましたときやがる。
この出歯亀はどこから見ていたんだ。つか空気読んで天子共々全部持って帰りやがれ。
そう思っていると竜宮の(ryが肩を叩きながら、それでも私は総領娘様の味方ですのでと抜かしやがった。
見れば当の天子は目を輝かせてどの服がいいかなどと選んでいる。これで七面倒臭いことに選び終わるまで待つ羽目になった。

そもそも自分の懸念事項だった、被服の差は竜宮の(ryが持ってきた服では解消されていない。
男性用もあったが、某トラボルタの着ていたような服を着て里を歩く度胸は残念ながら自分は持ち合わせてはいない。
仕方が無いのでタンスの中から、昔この世界に来る時に着ていたジャケットを取り出す。
古いものだが安くも無い代物だったので、それなりに生地も上等で絹布にまだ張り合うことが出来る。
これに適当なYシャツを組み合わせれば何とかなるだろう。

三人で行った里はとても混んでいて、正直帰りたかったが天子がどんどん進んで行くから付いて行かざるを得なかった。
はぐれられても困るので見えなくなる前に手を握ると途端に動きが止まる。
吃驚したような嬉しそうな顔でこちらを見上げてくる天子。突然来る地震。騒ぐ民衆。
自分も驚いていると天女が一人降りてきて何かを耳打ちしてくる。
曰く、誰某が尻の穴を二つにされたくなければ娘から手を離せと仰っていますってここは日本だ、ハリウッド語を話すな。

天女を無視して天子と竜宮(ryと歩いているともう一発地震が来た。しかし二発目は皆予想したもので混乱は無い。
適当に里の商店を見て回る。天子は地震以来存外おとなしく手をつないでいてくれるので助かる。
おとなしいといっても道を歩いている時だけで、店の中に入るとはしゃいでいた。
主に服屋や食事屋などで、竜(ryと一緒に見て回っている。それはいい。だが宝石屋、てめーはダメだ。

小二時間ほど服屋中心に見て回った。正直もう勘弁してくれといった感想だ。
途中、甘味処で甘味を食べる。三人分の出費は地味に辛い。
葛きりを食べていると、横で宇治金時を食べていた天子にいくらか掻っ攫われる。
黒蜜をかけにゃ旨くないだろうにと思っていたが、そうか練乳があるのか。
対面でりゅ(ryが善哉を食いながらそれを生暖かい目で見ている。止めろ見るな。って言うか暑苦しいわ。
と思っていると天子が口の中が冷たいと言い、それを受けてり(ryが善哉の椀を差し出していた。
成る程このためか。しかし暑いのにそのために熱いものを食うとは、宮仕えも大変だ。

最後に博麗神社に行ってみた。天子は乗り気ではなかったが、自分が数年来行ったことが無かったので行きたかったのだ。
なにせ道中が妖怪遭遇頻発地帯な上、普段から妖怪だらけという噂であまり行きやすい所ではない。
だが着いてみると誰もいなかった。妖怪が多いと言うのは嘘だったのだろうか。
安心半分がっかり半分の意味を込め、賽銭箱に幾らか少なめに銭を放り込み鐘を鳴らす。
天子も鳴らす。盛大に。それはもう近所迷惑なばかりに。
急いでr(ryと一緒に全力で天子を綱から引き剥がす。ついでに御仕置代わりに頬を抓りあげる。
天子はいひゃいいひゃいと間抜けな声を上げるが痛そうには思えず、逆に嬉しそうにすら思える。
よく伸びるのうと頬肉を堪能していると一際大きい地震が来た。人に被害は無いが神社は何かが落ちたらしい。
直後風呂上りだったのかストリーク巫女が猛スピードで垂直上昇して行く。色々な意味で大丈夫なのだろうか。

さんざっぱら遊んで満足したのか、自宅の神棚から天子は帰っていった。
帰りしなにまたすぐ来るね、と言っていたがあんまり来られると家が危ないから隔週くらいにして欲しいものだ。

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うpろだ1474


 比那名居天子は悩んでいた。
 ただ憂鬱だった。歌の日があっても欠席し、桃を食べる量も目に見えて減っている。
 気がつけば、最近は天上の外れにある小さな浮き岩から、下界を見下ろしながらため息をつくのが日課になっていた。
 原因はわかっていた。胸中を埋め尽くしているある感情、それはあの○○とよばれた人間のことに違いない。
 数ヶ月程前、どこからともなく幻想郷にやってきた一人の男は、知らず知らずのうちに下界の人間や妖怪達のハートをキャッチしていた。
 天子も何度か会ったことはあるが、容姿端麗というわけでも、特殊な能力を持っているというわけでもなかった。まったくの凡人である。それゆえに、あったその瞬間からある種の疑問が付きまとい続けてきた。
 何故あんな男に皆惹かれるのか。その思いは同時に、もっとあの人間のことを知りたいという思いにシフトしている。
 そのせいかどうかはわからなかったが、ここひと月近く憂鬱な気分が続いていた。
 無論、通常の天人にはありえない反応であり、このままでは死神に魂を持っていかれる可能性もあった。
「はぁ……」
 深くため息をついても、その気持ちが晴れることは無い。見下ろす眼下には太陽に照らされた雲海が絶景となって広がっていたが、それにすら心を動かされることも無かった。
「大体全部あいつのせいよ……」
 その人間のことを考え続けていた天子だったが、下界に降りても必ず会えるというわけではなかった。人間のほうから天界に昇ってくることもなかった。
 おそらくは他の妖怪イチャイチャしているのだろう。前に降りた時にはスキマ妖怪や吸血鬼にうつつを抜かしていたことを思い出し、拳を握り締めた天子は、次の瞬間には「人の気持ちも知らないで……」と呟いていた。
 無論、○○が自分だけのものでないことなど知っていた。それでも、会うたびに、会えなくても、もっと会いたいという気持ちが募っていくのをとめることができなかった。
 自分はどうしてしまったのだろう、と純粋に思う。まさかあの人間に恋でもしたか。そう考えた瞬間、猛烈な恥ずかしさと共に顔が火照った。
「違う、違うしありえない」
 ぶんぶんと顔を振って否定する。
 それでも、心はそれを肯定していた。認めなくなかっただけだった。
 第一それでは――

「様……総領娘様!」

「は、はいぃ!?」
 突然呼ばれた声に思考を蹴飛ばされ、危うく飛び跳ねそうになった。
 気がつけば、何者かがすぐ傍まで接近していた。それに反応する余裕も無い。天子は、情けない声を上げながらゆっくりと振り向くことしかできなかった。
「……どうしたんですか?」
 見れば、すぐそばに衣玖がいた。その手を腰に当て、何かを探るような視線でじっと天子を見つめている。
「い、いきなり何するのよ……」
「何回も呼びかけましたが。もう、しっかりしてくださいよ。今日は大切なお客様が来るんですから」
「お客様……?」
 衣玖の言葉に若干の不信感を抱いたのもつかの間、気がつけばその背後に見たことがあるような影が出現していた。
「よ」
「!!」
 そこについ先ほどまで思い焦がれていた○○がいた。
「な、な、なな……」
 あまりの驚きに言葉が出ない。心の準備ができず、オロオロしていると、ため息をついた衣玖がやれやれとばかりに口を開いた。
「いえ、何度も声はかけたのですが、総領娘様が完全に無視されたのでご案内してしまいました」
 そんな説明はどうでもよかった。
 それよりも、他に言いたいことがあった。
「な、何しに来たのよ!?」
 やっとの思いで搾り出したのは、歓迎の言葉ではなく、非難のそれだった。
 くるならもっと早く来て欲しかった。だが、何で今更来るのよ、とは口が裂けても言えなかった。一応プライドがあった。
「いやぁー天子元気かなーって」
 答えを聞いた瞬間、顔が沸騰するほどに熱くなる。
 来ない間もずっと心配してくれていたんだ。そんな想いが心を埋め尽くしたが、頭は必死にそれを押さえ込んだ。
「ふん……よ、余計なお世話よ」
 勤めて冷静を装いながら、腰に手を当てて胸を張る。恥ずかしいところを見せるわけにはいかなかった。万が一にも本心が悟られたら、そこに漬け込まれる可能性がある。相手は地上の人間なのだ。
「でも元気そうでよかったよ。本当はもっと早く着たかったんだけど、色々つれまわされてゴタゴタしててね」
 気がつけば一ヶ月経っちゃった、と○○は笑った。
 その表情から察するに、天子の態度を気にした様子も無い。今も少しだけ微笑んで辺りを見回している。
「さすがに天上っていいところだね。これなら長く滞在できそうだよ」
「え……しばらくいるの?」
 一際大きく鳴った鼓動と共に、言葉を吐いてから後悔した。けれど、取り返しは付かない。
「あ、ひょっとしてまずかった? 俺嫌われてたかな」
 困ったような表情を浮かべ、ぽりぽりと頭を掻く○○。
 途端、浮かび上がった罪悪感と、焦りが心を埋め尽くした。取り繕っていた冷静さが一瞬にして砕け、手をわたわたと振りながらたった今吐いた言葉を全否定する。
「い、いや、そんなことは……ない、ですはい」
 語尾が地味に壊れたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
 ○○の気持ちが変わってしまうかもしれないのだ。さすがにそうなったら立ち直れそうも無い。
 と、帰ってきたのは天子の願った○○の笑顔だった。

「よかった。俺も天子のことは好きだから」

 が、その答えまでは予想できなかった。
「はい!?」
 瞬間、天子の世界が固まった。
 よかった? 好きだから? それは一体どういう意図で発した言葉なのか。
 完全に思考が停止し、真っ赤に火照った顔と早くなった鼓動だけが感じられる。
「失礼します。○○さん、宴会の準備が整いました。こちらに」
 ○○を誘導する衣玖の声が、どこか遠くに聞こえた気がした。
「じゃ、天子、また後で」
 固まったまま指先一つ動かせない天子の傍らを、○○が通り抜けていく。
 声が出ない。口だけが魚のようにパクパクと動き、視点は虚空を見上げたまま固まっていた。
「ふぅ、総領娘様。もう少し素直にならないとだめですよ?」
 衣玖の声が近くで響き、その気配が遠ざかっていく。
 しばらくしてから現実に引き戻された時には、既に二人の姿はなくなっていた。
「な、なんなのよ……」
 バクバクと高鳴る胸を押さえつけ、二人が去った方向を見つめる。
 ○○が自分のことを――、告白してしまえ――、そんな思考が天子の頭を埋め、全ての行動を遮断する。
 ついには、そんな自分にすら嫌気が差してきた。
「ああ、もうめんどくさーーいっ!!」
 顔をブンブンと振って、宴会場に向けて走り出す。
 とりあえず、考えるのは後にすることにした。

 ***おまけ***

 幻想郷より高い場所にある世界、天界。
 天上というだけあって、雲はその下に存在する。当然ながら、太陽の光を遮るものはない。
 そんな中、小さな日傘が一つ、ゆらゆらと揺れていた。
「気をつけてくださいお嬢様。ここは影がありません。一つ間違えば灰になってしまいます」
「解ってるわよ。それよりも、○○は本当にここにきたんでしょうね」
 日傘をしっかりと握る細い手。レミリア・スカーレットは傍らに控える咲夜を一瞥し、目の前に聳える浮き島の群れに目を戻した。
「間違いありません。信頼できる筋からの情報です」
「ま、いいわ。とりあえず○○を連れ戻すわよ」
 ○○という男が幻想郷にやってきてから数ヶ月、その間、ひと月ほど紅魔館で保護していたものの、先日急に姿を消していた。
 もっとも、○○を狙う妖怪は多い。当初はどこぞの神出鬼没妖怪の仕業だと思っていたレミリアだったが、咲夜やパチュリーに調べさせるうちに別の原因が判明したのだった。
「ですね。○○はうちで保護していたんですから。勝手に外出して心配をかけた責任を取らせなければなりません」
 腰に手をあててぼやく咲夜。
「とりあえず天人でも締め上げて聞き出せばいいわ」
 何はともあれ、目指すものはすぐ傍に居るのだ。焦る必要も無かった。

「あーら、抜け駆けなんて酷い」

 と、急にどこからか声が聞こえた。
 直後、虚空に亀裂が入り、ゆるゆるとうごめきながら開いていく。
「何をこそこそ山登りをしているのかと思えば、ねぇ?」
 たっぷり十秒ほどおいてから、その中から白い傘が現れた。
 どうやら、他にも動いている奴がいたらしい。なるほど、と納得したレミリアは咲夜に目で合図し、ひとつ息を吐いた。
「……お嬢様、きましたよ」
「まぁいいじゃない。最後に勝つのは私なんだから」
 忌々しげに呟く咲夜をたしなめながら、それに向き合う。
 虚空には、いつの間にか姿を現した八雲紫が静かに浮かんでいた。
「後つけてきて正解だったわ。わざわざ貴方達が出向くくらいですもの。つまらないものじゃないわよね」
「さぁ、何のことやら……咲夜、下がってていいわよ」
 空気が帯電したようにビリビリと鳴り、得体の知れないプレッシャーが場に満ちていく。
「いえ、むしろここは私が」
 クルクルとナイフを回し始める咲夜を一瞥し、ひとつ息を吐く。
 時を止められる彼女なら、ミッションの遂行は容易かもしれない。そんな風に考えたレミリアをあざ笑うかのように、紫は傘を振りながら口を開いていた。
「何でもいいわ。ここであったのも何かの縁。弾幕ごっこでもしましょうか?」
「冗談、アンタと遊んでる暇はない」
「そ。なら○○は私が貰っていくわね」
 その言葉と同時に、場の空気が凍った。
「目的は同じ、ね」
 やはり、目の前の物体は排除しなければならなかった。
「当然」
「愚かな妖怪ね。この私に戦いを挑むなんて。歳食いすぎてボケたのかしら」
「残念、今は昼なのよね。脆弱な『夜の王』さん」

「ははは……」
「ふふふ……」

『上等ォォォ!!』


 しばらくの間、宴は終わりそうも無かった。

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新ろだ139


 比那名居天子はやっぱり悩んでいた。
 はるばる天界までやってきた○○を迎えての宴会。何があっても、それに参加しないわけにはいかない。天子としても○○と一緒にいたかった。
 そうして既に人が集まりつつある宴会の輪に飛び込んだのが半時ほど前のこと。多少はドタバタがあったが、衣玖のさりげないサポート(?)あってちゃっかり○○の隣の席を取ることができた。
 これでもっと近づける。酒で酔った○○の介抱なんかしちゃってあわよくば、などという淡い期待があったことも否定できない。
 ともあれ、宴会は順風満帆といくはずだった。
 はずだったのだが……。

「あれー? 咲夜ー、この瓶のお酒もう切れたんだけど」
「いけませんよ。お嬢様、飲みすぎは体に毒です」
「藍、天界の食べ物はあまり摂取しない方がいいわよ」
「はい……ですが、これは地上では味わえませんね。橙に一つお土産とします」

 得体の知れない人妖が四人、いつのまにか宴会の席に紛れ込んでいた。
「……」
「どうした天子。 飲まないのか?」
 まったく気にした様子も無い○○が、酒の入った瓶を片手に話しかけてくる。
 普段なら内心飛び上がって喜んでいる所だったが、今はどんより沈んだ心に僅かな波紋が生まれただけだった。
「うん……いい」
 なんとかそれだけ返し、再び宴会に沸く周囲を見渡す。
 一見すれば、皆、楽しく雑談にふけっている様に見える。だが約二名の意識が○○と自分に集中していることは、天子にもイヤというほどにわかっていた。
 場に満ちる二つの異様な空気。それはスキマ妖怪と吸血鬼から発せられ、天子と○○の間でぶつかって渦を巻いている。
「うっ……」
 明らかに敵対するものに向けられた、殺意の渦だ。
 それは○○に近づく度に、天子の体に突き刺さっていた。
 少しでも○○に触れようものなら、実物が飛んできても不思議ではない。
 思わず緊張のあまり生唾を飲み込んだ天子は、たまらず衣玖の元へと退避し、○○に聞こえないように小声で叫んだ。
「ちょ、ちょっと、どういうことなのよ……!! 聞いてないわよ!?」
「さぁ……私にもさっぱり……」
 半ばヤケになっても、衣玖は苦笑いで返すだけだった。本当に想定外の事態だったのだろう。
 このままでは○○とイチャつくことはおろか、そばに寄る事さえもままならない。
「予想外のことは起こるもの、ですねぇ」
「笑い事じゃないんだけど……」
 ははは、と笑う衣玖に対し、盛大なため息で答える。
 予想外にもほどがあった。
「でもいいじゃないですか。ここではっきり彼女達に見せ付けてやればいいんです」
「何をよ……」
「○○さんが総領娘様の『モノ』だってことをですよ」
 耳打ちされた途端、鼓動が大きく跳ね上がった。
「な、なな、ななな」
 顔が熱く火照り、思考が真っ白になる。
 あそこまで殺気を漂わせるということはライバルなのだろう。その恋敵の前で○○とイチャイチャする。
 ある意味ではこの上ない幸せのように思えたが、天子の頭はそれよりも恥ずかしさでいっぱいだった。
「あれ、イヤなんですか?」
「い、イヤじゃないけど……無理、そう無理!」
 二人だけの世界で、○○とあんなことやこんなこと。想像しただけで湯気が出る。
 正直今の天子には、手を繋ぐことすら不可能に思えた。
 そんな内心を見抜いたのだろうか。衣玖は腰に手を当ててジト目で天子を見つめてきた。
「……総領娘様。あんまりうじうじしてると私が○○さん貰っちゃいますよ?」
 思わずびくっとして後ずさるが、肩は衣玖の手でがっちりと掴まれていた。
「いいんですか?」 
 逃げようにも逃げられない。答えを問う瞳で迫られた天子は、仕方なく、恥ずかしさを懸命に抑えながら口を開いた。
「そ、そんなのダメ……却下……」
「だったらシャキっとしてください。彼女達はイヤですが、総領娘様だったらいいかなと思いますから」
 その言葉の真意を問う前に、衣玖は天子の背中をポンと押していた。
 心の準備をする間もないまま、ふらふらと○○の隣まで戻る。
「どうしたんだ天子。衣玖さんと話してたみたいだけど。具合でも悪いのか?」
「あ、いや、あの……うん」
 曖昧に濁しながら、杯に酒を注ぎ、一気に口に運ぶ。
 と、気がつけば○○の頬に桃の破片がくっついているのが見えた。
「……ごくり」
 天子の脳にかつてない衝撃が走る。それは、誰でも考えそうな打算の構図だった。
 これを取ってあげれば感謝される上、二人の距離もさらに近づく。それは間違いない。
「○○!」
 やっと動いたか、という衣玖の視線を背に受けつつ、○○に向き直る。
「ど、どうしたんだ天子……やっぱり体調悪いんじゃないか? 顔真っ赤だぞ」
「大丈夫!! それよりも……」
 自然を装い、その欠片に手を伸ばす。二人の妖怪は今もお供と雑談に興じている。邪魔は入らない。
「ちょっと動かないでね」
 手が○○へと近づく。その先にあるイチャイチャを胸の奥で確信しながら、天子は心の中で勝利の雄たけびを上げた。
 が――

「ふぅ、危ないわね」

 ○○と天子の間を、猛烈な風が一陣、吹きぬけた。
 直後、遥か後方で何かが砕け、崩れ落ちるような轟音が響いてくる。
 ぎこちない動きで後ろを見れば、そこにあった一つの浮き島が真っ二つに割れ、半分が地上へと落ちかかっていた。
 腕に当たっていたら、おそらく無事ではすまなかっただろう。

「あら、ごめんねぇ。手が滑っちゃったわ。お酒おかわり」

「……」
 凍りついた場の雰囲気など完全に無視したまま、吸血鬼がひらひらと手を振ってくる。
 視線を戻せば、同じく呆然としていた顔の○○が、天子に気がついて視線を戻してきた。
「で、どうした天子」
「え、ああ、ううう、なんでもない」
 まともに続けられるはずが無かった。ちらと吸血鬼をみやれば、『今度は顔面に当てるわよ』といわんばかりの雰囲気で酒を口に運んでいる。
 冗談ではなかった。
 これではイチャイチャどころかお近づきになることすらできない。
「なんとかしないと……」
 と、その時、天子の足が置かれていた酒瓶に躓いた。
「あ」
 バランスを取る暇もない。重心が傾き、体が○○のほうに倒れ始める。
 本来ならばなんとしてでも落下を防ぐ天子。が、今は頭がそれを許容していた。
 このまま倒れれば、○○に受け止めてもらえるかもしれない。その計算は確かに正しく、ちらと見た○○はすでに天子を受け止める体勢入っていた。
 今度こそ邪魔は入らない。あの吸血鬼もこればかりは防げないだろう。
 が、再びどこからか風を切る音がした。
 直後、ありえない場所から伸びてきた手が天子の服を引っつかみ、そのまま体を物凄い力で地面にたたきつける。
「がふぅ!?」
 若干バウンドした瞬間、すぐ傍の虚空に『空間の亀裂』が見えた。その隙間から人間の腕が生え出し、うねうねと動いている。
 が、それは瞬時に亀裂へと吸い込まれ、亀裂自体も宙に溶けて消えた。

「あらあら、自分から転ぶなんて酔ったのかしら。でも○○を避けたのは賞賛に値するわね」

 再び静まり返った場に、スキマ妖怪の声が響く。
「……」
 もう何も言い返す気にならなかった。
 ふらふらと起き上がり、○○から少し離れた場所に座る。
「だ、大丈夫か? 天子……」
「……うん」
 それだけ答えて口に酒を運ぶ。
 杯は心なしか涙の味がした。

 ***

 それからどれくらいの時間が経ったのか。
 既に天子のフラストレーションはマッハだった。
 それほど立ってはいなかったが、天子は依然として○○に指一本触れることが出来ていない。
 予想外だったのは、衣玖の存在だった。天子が○○から離れたのをいいことに、○○の傍に座って色々と話をしている。
 散々な天子としては見ていられなかったが、他はそうでもないらしい。
 二人の妖怪も、ボディタッチさえしなければいいと考えているのか、これに介入する動きは見せていなかった。
 が、その瞬間はいとも簡単にやってきた。
「さて、随分飲んだしそろそろ帰るわ。咲夜、○○を捕獲しなさい」
 空になった杯を置きつつ、レミリアが不満そうな声を上げる。
 ずっと機会をうかがっていたのだろう。それは紫のほうも同じようだった。
「あら、それはこっちの台詞。藍、やるわよ」
「いい度胸ね。さっきは変な空間から出て来れなかったくせに」
「そっちこそ、日傘にこもって従者任せだったじゃない」
 場に強烈な殺気が満ちる。
「へぇ……やる気なのね」
「今度こそはっきりさせましょうか」
 その言葉が終わる前には、宴会場だった場所は吹き飛ばされ、数個のクレーターと化していた。
 逃げ遅れた○○を保護する衣玖を遠めで見ながら、爆風で吹き飛ばされる天子。
 だが、今度は一回転してゆるやかに地面へと着地した。
「貴方達……」
 腰の剣に手を当て、ふらふらと立ち上がる。
「ま、まってください総領娘様。ここで戦ったら――」
 衣玖がぎょっとした様子で止めに入った。
「て、天子……?」
 驚いた○○まで目を丸くしている。だが、今はそれらに構っている余裕は無かった。
「もういいわよ!! あの妖怪達のおかげで色々台無しよ!!」
 腰から引き抜いた緋想の剣がパリパリと音を立て、立っている浮き島が僅かに振動する。
 一通り弾幕ごっこを楽しんだ二人の注意が天子にむくのが、はっきりとわかった。
「ふん、最初からそうしていればいいのよ。○○は私がつれて帰るんだから」
「あらあら、今の発言は見逃せないわね。○○は私のものよ」
 スキマ妖怪と吸血鬼が、日傘を片手ににらみ合う。その有無を言わさぬ迫力を前にしても、今の天子はひるまなかった。
 正直、泣きたかったし喚きたかった。
「○○は……○○は私の――」
 剣を構え、足を踏み出す。それに応じるように、二人の妖怪も応戦の構えを取った。
 が――

「ストーーーップ!! 宴会の席で喧嘩しない!!」

 次の瞬間、前に回りこんだ○○により、その構図は粉々に壊されてしまった。
 いくら本気で怒っているとはいえ、○○ごと切断するわけにはいかない。それは相手も同様のようで、僅かに引くようなそぶりを見せた姿勢のまま、その場で固まっていた。
「どいて○○! そいつら殺せない!!」  
 はぁはぁ、と肩で息をしながら、緋想の剣を構えなおす。
 いくら○○といえどここで引くことはできなかった。もし引き下がれば、以降この人妖達には良いようにされてしまう。
「ごめん……でも、ケンカはしてほしくないし……」
 明らかに弾幕ごっこという雰囲気には見えなかったのだろう。確かに、天子にしてみれば本気で真っ二つにしようとしていたのだから当然だった。
「何よ。○○は私達と地上に帰りたくないの?」
「どちらかというと私とね」
 むすっとした表情のレミリアと、それを妨害するようにしゃしゃり出た紫がのんびりとした口調で言う。
 やはり話し合いは無駄か。そう思った天子が口を開こうとした時、○○がさらに一歩踏み出して深々と頭を下げた。

「ごめん、それでも俺は今、天子や衣玖さんと一緒にいたいから……」

 場の空気が固まった。
「……」
 今何て、そういおうとしても口が動かない。
 ただ魚のようにパクパクすることしかできない天子の手から、剣が落ちて乾いた音を立てた。
「おー、熱いですね○○さん」
 静まりかえった場に、何かに感心したような衣玖の声だけが響く。
 と、次の瞬間にはスキマ妖怪も吸血鬼、疲れたようなため息をつき、天子に背を向けていた。
「……何か疲れたわ。咲夜、帰るわよ」
「解りました。また日を改めるとしましょう」
「ま、○○がそういうんじゃしょうがないわね。一週間くらいしたらまた来るわ」
 それを見届けるかのように、紫と藍もスキマの中に姿を消す。
 宴会を蹂躙し、天界を戦いの炎で焼き尽くそうとした妖怪たちは、気がつけば数秒のうちに姿を消していた。
「き、消えた……」
 あまりのあっけなさに、ふらふらと地面に座り込んだ天子は、盛大なため息をついた。
 気がつけば、どこかに退避していた天人達が場を片付け、新しい酒や桃の用意を始めている。
 もう一度飲みなおすのか。そんなことを考えながら辺りに目をやれば、衣玖と○○が向かい合っている様子が目に飛び込んできた。
「あ、○○さん。頬に桃が」
 そういうと、衣玖は天子に構うことなく、○○の頬から桃の破片をつまみ取り――
「んっ」

 そのまま食べた。

「衣、衣玖さん……」
 ○○が赤くなりながら、呆然と衣玖を見つめている。
 対する衣玖も少しばかり頬を染めながら○○を見つめ返していた。
「……」
 天子の中で何かが壊れた。
 落ちたままの緋想の剣を手に取り、無言でそれを振りかぶる。
「○○さん、下がっていてください」
「この……裏切り者ォォォ!!」
 それに衣玖が反応したのは、ほぼ同時のことだった。
 ドリルと剣がぶつかり、発生した衝撃波が周囲の地面を抉り取っていく。

「泥棒猫……絶対に許さない!」
「私、もう我慢できないので、頂かせていただきます」

 どす黒いものをぶつけ合いながら、ドリルと剣が火花を散らす。

 やはり、長い戦いになりそうだった。

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新ろだ151


「なーんで勉強なんかしなきゃいけないのかしら」

 毎日毎日、勝手に家に入ってきては勝手なことをして過ごしている比那名居天子はそんなことを言った。
 こいつ天人の癖になんでこんなところ来てんのかね。

「こっちは毎日が勉強なんだがな」

 掃除に洗濯、畑仕事に炊事ときたもんだ。
 こっちとあっちじゃ勝手がてんで違う。
 最初は筋肉痛で一日動けなかったもんだ。

「あー、そういう勉強じゃなくて――心持ちとか学問とか、比較的生活に必要のないものよ」
「そうだなぁ、まぁよーわからんが多少はあったほうがいいんじゃないか。先人から学ぶ事だってあるだろうし」

 天界じゃどうなってんのかは知らんけどね、と続ける。

「で、なんでそんなことを突然聞くよ。お前らしくもない」
「天界での勉強がつまらないのよ」

 声質が変わったので気になって天子のほうを見ると、彼女は眉間にしわを寄せていた。
 いかにも怒っているような顔だ。

「なんでつまらないのさ」
「あっちじゃ、欲は捨てろって言われてるのよ。そんなの……つまらないったらありゃしないわ!」
「……いや、天人はそーゆーもんだろ」

 迫力に気おされながらも一応答えるがなおも彼女の怒りは収まりそうにない。
 と、いうか増幅している気がする。
 立ち上がって彼女は言う。

「食欲、性欲、睡眠欲! 恋愛だって出来ないし、挙句の果てには生きる欲求だって! 葛藤もなければ障壁だってない!
 ただ適当に釣りをして適当に酒を飲み適当に囲碁を打ち適当に食べるだけ! つまらないつまらない! つまらないったらありゃしないわ!」

 二度言って(おそらくそれが一番言いたかったんだろう)あーもう!と癇癪を起こしたと思うと、ドカッと座って
 腕を組んでムスッとした顔をしてお茶。とだけ言った。                                                           お前はタタリか。

 お茶が飲みたいのだろう。
 今逆らうとどうなるかわからないし、素直に従っておくことにした。







 湯を沸かして茶を入れるまでの間に天子の機嫌は幾分か収まったようだ。
 と、いうよりかは吐き出すもの吐き出して楽になったというべきか。

「……まぁ、その感情がどれほどのものかは俺は知らんが――」

 ほいよ、と天子の分を渡して向かい合うように座る。

「お前には欲求があるように見えるがな」

 つまらないって思うこと自体が欲求の表れじゃないか。
 お茶を飲んでそう言う。

「欲求を捨ててから天人になるんじゃないのか?」
「……そういう天人だっているのよ」
「ふーん。でも天界から追い出されるようなことはないよな?」
「今のところはね」
「じゃあ、いいんじゃないか?」
「え?」

 驚いて顔を上げる天子。

「まぁ、短絡的っちゃ短絡的だが、追い出されたところで天人は天人だろうしな。
 開き直ってしまえばいいさ。それに――」



「それに、追い出されたらこっちである程度は世話してやるよ」


 少々恥ずかしいので顔をそらして言う。
 むぅ、なんか不服だ。こんな奴に赤面するなんて。


「そう――じゃあ追い出されたらお願いしようかしら」

 そう簡単に追い出される気はないけどね、いやむしろ天界を変えてやるわ。と元気になったのか不適に笑って言う天子。
 元気になって何より、か?




「……あ、このお茶おいしい」
「新茶だ。元気がないときにはおいしいものが一番だからな」

 今となっては無意味だが、別段気にすることもない。

「……決めた」
「……何を」
「私は欲求全制覇を目指すわ!!」
「は?」
「全欲求を実行してやるのよ!」

 ……余計なことをしてしまったのかもしれん。






「そうね、まず恋愛からね」
「……相手なんかいるのか?」

 天界には――偏見だが――へんてこりんなじいさんしか居ないような気がする。
 そもそもあいては欲を捨ててんだから一方通行じゃないか。

「いるわよ」
「そうなのか?」

 そいつは初耳だった。天子に恋愛対象なりうる相手がいるとはな。

「……わからない?」
「いや、お前の交友関係なんて知らんのだが」
「…………朴念仁」
「ん、何か言ったか?」
「別にー。意外と難しそうだなって言ったのよ」
「確かにな」

 そこだけは全力で同意しておく。
 こいつの恋人が如何に大変かは友人の時点で明白であった。
 天子はあんたがそれをいうか、と笑みを固めて言っていた。




「まぁ気を取り直して……。計画を立てなければいけないわね!」
「計画って……」

 そこまで大規模じゃないだろうが。
 暇なのだろうか?
 やけに楽しそうなので止めはしないけど。
 こちらも残っている仕事をやる必要があるしな。

「う~んまずは人間と天人での寿命の違いを何とかする必要があるわね……。
 そのためには○○を天人にすれば……、でも天人にしちゃったら欲がなくなっちゃうからなぁ……。
 天人にしないで寿命を半永久的にする方法……う~ん……」

 天子がブツブツと何か言っているがそこまで大きくないのでよく聞こえない。
 どんな計画なのだろうか。
 どうせ天子のことだから破天荒なことなんだろうな。                                                              駄洒落かよ。

「――――あ、そうだ!」


 何か思いついたのか笑みを浮かべて、何事かと振り向いたこちらに身を乗り出してくる天子。


「○○!」
「どうした、大きい声だして――」







「死んで!!」

「はぁ!!?」

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最終更新:2010年05月11日 22:20