スターサファイア2
Megalith 2010/12/19
冬の寒さが本格化し始めたこの頃、俺は仕事を終え帰ってきた家の中で毛布を被りだらけていた。
「はあ、こう寒いと何もする気にならない。でもさっさと夕飯の用意はしなくちゃいけないが…」
そう一人つぶやいていると扉を叩く音がするのが聞こえる、と同時に聞き慣れた声がする。
「○○!遊びに来たわ。」
俺は毛布を適当に片付け、扉を開けてその来訪者を迎え入れる。
彼女の名は
スターサファイア、"こちら"に来てから仲良くなった妖精だ。
「この寒い中わざわざご苦労なこった。」
「それにしても、今日はいつもより遅い時間に来たな。どうしたんだ?」
俺の質問に対して彼女は答える。
「今日は夕食を作ってあげようと思って。ちゃんと必要そうな食材は持ってきたわ」
以前にも彼女に食事を作ってもらったことは何度かある。
彼女の腕が確かなのは確認済みだ。
「なるほどな、それは楽しみだ。で何を作るんだ?もし手伝えることがあるならするぞ」
「お鍋にしようと思ってるわ。ここのところ寒いからちょうど良いと思って」
「台所借りるわね。○○は待ってて良いわ。一人で平気よ」
そう言うと彼女は台所へと向かっていく。
待っていろと言われたものの、手伝うべきかとも思うが、逆に迷惑になっても困るだろう。
そう考えて、座って彼女が戻ってくるのをしばらく待っていると、彼女が完成した鍋とともに戻ってくる。
その鍋からは湯気が立っており、良い香りが漂ってきて、食欲が刺激される。
鍋をテーブルに置いてから、彼女は手早く食事の準備をし始める。
その手際の良さに軽い感動を覚えながらも、最低限の手伝いをする。
「それじゃあ、いただくとしますか」
「そうね、冷める前に食べた方が良いわね。暖め直すのも面倒だし」
感謝しつつも一緒に鍋を堪能する。
「旨い…やっぱりスターはすごいな。普段の食事からすると天と地の差だ」
「あら、それは良かったわ。具材を色々集めてくるのも大変だったのよ?」
「そうか、それはすまないな」
「いいのよ。喜んでもらえれば問題ないわ」
そんな風に会話を交わしている途中に俺はあることに気づく。
赤くてどう見ても怪げな茸がある。正直なところちょっとした恐怖を覚える。
彼女は妖精だ。故に死に対する感性は人間とは違う。
もしかしたら悪戯の一つとして毒茸を入れることだって……そこまで考えて、俺はその考えを放棄した。
きっとスターなら大丈夫、今まで過ごしてきて彼女のことは十分に信頼できるはずだ。
そんな風に茸を見つめて固まっていると彼女が心配そうに声を掛ける。
「どうしたの?あ、もしかして茸苦手?」
信頼はしているが間違いという可能性もある。一応俺は彼女に尋ねることにした。
「いや、そんなことはないんだけど。この茸は大丈夫?」
「ああ、なるほどね。大丈夫よ、○○に毒茸を食べさせるわけ無いじゃない」
「ちゃんと今まで食べて平気だったのを選んであるわよ」
「いつもとは訳が違うもの。ちゃんと理解してるわ」
「流石に悪戯で入れるとしても、質が悪すぎるよな。毒殺するなんてのは洒落にならないからな」
「まあ、それなら安心して頂かせて貰うさ」
そう言って、茸を口にする。
茸の旨みと鍋の出汁の味が合わさって、非常に美味しい。
「○○と会うまでは人間の死の概念なんて、よく分からなかったわ」
「でも、今ではちゃんと分かっているから平気よ」
急に彼女は表情を暗くする。
「私たちにとっては一回休みでも、あなたたちにとってはゲームオーバーな訳よね」
「もし○○が死んだらって考えると……」
「死なないでね、○○」
そう言うと彼女は顔を俯かせた。
そんな彼女に対して俺は答える。
「やれやれ、そりゃ無理な相談だ。人間の俺はいつか死ぬ」
「だとしてもだ。そんなに気にすることは無い、大事なのは今じゃないか」
「妖精でも人間でも、先のことを気にしすぎて今を楽しめないのは損だろ? 先のことはいつか考えればいい」
「暗い話はここまでにして、鍋食べ切っちゃおうぜ。折角こんなに旨いんだしな」
そう言い切ると俺は彼女のお椀に具をよそう。
「さあ、自分で作ったんだしちゃんと食えよ。俺ばっかり食べてたら申し訳ない気がするしな」
「そうね……そうよね。ありがとう、○○」
彼女は袖で涙を拭って顔を上げる。
「今日のは良い出来だから、食べないと損よね」
無事鍋を完食し、一息ついた頃に彼女が俺に声を掛ける。
「ねえ、今日は泊まっていっても良い?」
「元々そのつもりだったんだけど、なおさら……ね?」
「了解。ベッドは譲るぜ」
「……毛布の用意が必要になるな、枕代わりになる物も探さないと」
俺は淡々と返事をする、思考がショートしている。
「別に譲らなくて良いわよ?」
「……客人に床で寝させられるわけ無いぜ」
「違うわよ」
「分かっているが、分からないということにしといてくれ」
「一緒に寝るくらい、別にいいじゃない」
「だとしてもだ、それは不味い、不味いだろ」
「私は別にかまわないわよ?○○となら」
「そこまで言うなら。何も一緒に寝る"だけ"だしな」
「だけのつもりはないのに……」
「私に魅力がないから?もっとスタイルが良かったら……」
「今のままで十分に魅力的、むしろ…いや、何でもない」
余計なことを口走りかけて、俺は慌てて取り繕う。
「ともかく、寝るならさっさと寝ようぜ。明日も俺は仕事があるからな」
俺はとりあえず布団に潜り込み彼女の分のスペースを確保する。
彼女も布団の中に入り、横になる。ベッドが広くないため、体を密着させなければならない。
「大丈夫? 狭くないか?」
「ちょっと落ちそうで怖いかな?」
「そうか、それなら…」
俺はそう言って彼女の小さい体を抱き寄せる。
「これなら安心だろ?」
完全に勢いに任せた行動を取ったことに対して、僅かに後悔の念を抱く。
彼女は嫌がりはしないだろうか?そんな不安が漠然と胸によぎる。
「さっきまでの発言と違うじゃない?まあ嬉しいんだけど。今夜は長くなりそうね?」
その発言を聞いて安心した、と同時に恥ずかしさが込み上げてくる。
それをごまかすために顔を背けて言う。
「……別に一緒に寝るだけだぜ?他意は無い」
「ここまでしておいて、それはどうなのよ?」
「それはいずれ……な?」
まだ時期尚早だと俺は考える。焦ることはない、まだまだ時間はある。
いつか色々と一緒に考えていくべきだろう。
彼女は少々残念そうだが、納得した風に言う。
「仕方ないわね、今日はこれで満足してあげるわ」
「それじゃ、おやすみなさい」
そう言うと彼女は目を閉じる。
「おやすみ、スター」
俺も目を閉じ、しっかりと彼女を抱きしめる。
眠いと意識もはっきりしないが、彼女の体の柔らかさと温もりを感じる。
正直俺の胸の中は幸福感でいっぱいだ。
これほどに心地よいのだから、今夜は間違いなく良く眠れるに違いない。
そう思いながらも、俺の意識は夢の国へと旅立っていった。
小説書くのは殆ど初めてなので、至らない部分があったらすみません。
スターのキャラを生かせてない感じがするのも気が重いところ。
Megalith 2011/11/10
「あ、お帰りなさいっ」
丁度陽が落ちて、外が真っ暗になった頃、池のほとりに立つ家に彼が帰ってきた。
「ああ」
帰ってくるのは簡単で、不器用な返事。
このやりとりはもう何度目になるのか、覚えて居ない。
けれど、何度このやりとりをしても、彼が帰ってくる瞬間はどき、と少し煩いくらいに心臓が高鳴った。
彼が肩に担いできたそれは、きっとかなりの重さがあるであろう鹿。
血抜きだけして、両肩に担いで来たのだろう。
ここ数日何度か覗いても留守で、仕方ないと思いながらサニーとルナの所に戻っていた。
と言ってもあの二人がからかってきてもそれこそさらりと流せてしまうのだけれど。
「お疲れ様でした。大きい鹿ー……」
天井から吊るす彼の様子を見ながら、様子を伺う。
この時期、冬への対策として人里でも毛皮を売ったりしているのは見て来たけれど、ここまで大きい鹿だと、解体するのだけで大変そう。
「心配無い。ワタは取った」
「……あ、腐る心配ですか?」
「ああ」
一瞬だけ何の心配かと思い微かに首を傾げると彼がもう一度頷いた。
獲物をそのままにしていると腐るのではないか、と思われたらしい。
ある意味では彼らしい推測の立て方ではあるけれど……妖怪ならまだしも、妖精の私にそれを言っても、とは思わないでは無い。
「食ったか?」
何とも言えないような表情をしていたらしく、彼が問いかけて我を取り戻す。
「あ、いいえ、今日はまだ」
「そうか」
まだ夕食を取って居ない事を問いかけているのだろうと思い返答すれば、彼が頷いて草で包まれた何かを取りだした。
「焼いて食え」
何かと思って開けてみれば、切り分けられた肉の塊に棒が刺されたものが数切れ入っていた。
多分ではあるけれど、狩りを終えてからここに戻るまで彼の今日までの食事はこれだったのだろう。
「い、頂きます……」
新鮮なお肉で美味しそうと言うのはあるし、きっと持って帰ったらサニーとルナは喜びそうなものではあるけれど。
ちょっとだけ彼の無骨さ、と言うか何にも気を遣うところが無い事が恨めしい。
けれど、確かにお腹は空いて居るから、と思い、囲炉裏傍に刺して火を付けた。
ぱちり、ぱちり。
爆ぜるような音が聞こえ、油だけ灯していた家の中がそれ以上に明るくなる。
少しだけ安堵出来るような暖かさが部屋の中に沁み渡って行き、私と彼だけが動いている空間を作り出す。
虫の声が外から聞こえてくるけれど、何処か風情あるようにも感じられて心地良い。
「すまん。休む」
しばしの間爆ぜる炎を見つめながらぼう、としていると彼から声が飛んできた。
見れば彼はベッドの上で、少し古くなった毛皮の上に身体を横たえている。
やはり数日間の旅程はかなり大変だったのだろう。
「はい。おやすみなさい」
一度その方へ行って様子を覗きこむと、丁度彼が瞳を閉じる所だった。
「ああ」
そして、狩人は瞳を閉じて静かに寝息を立て始める。
一人で食べるお肉は美味しかったけれど、あんまり味気無かった気がした。
彼の方に視線をやれば、先程と変わらず、すぅ、と静かな寝息を立てて居る姿。
疲労で寝こける彼の表情は何処かあどけない様子にも見えて、私の唇からくすりと笑みが漏れた。
普段はあれほど厳しそうで無骨にしていて余計な事も話さないのに、なんで寝顔を覗きこむだけでこんなに雄弁に語られる気がするのだろうか。
「お疲れ様、です」
呟いても彼の耳には届かないけれど、口を突いて出る、何時も気を抜かないで居る彼への思い。
彼の横にそっと自分の体も横たえてみたけれど、全然目を覚ます様子は無くて少しだけ安心。
数日間も出歩いて居たのだから身体も洗ってないのかと思ったけれど、そんな様子は全然無かった。
帰り際に湖のほとりあたりで身体を拭ったのかもしれない。
「……これくらいなら、しても、気付かないです、よね?」
誰かに問いかける訳ではないのに呟いて、そっと彼の頭を私のお腹のあたりに包みこむように手を伸ばし、微かに抱き締める。
まるで悪戯するときみたいいどきどきしながら、そっと彼の髪に触れて、さぁ、と撫でた。
彼が言った無骨な言葉の中や無頓着な行動に対しての、このどきどきするような思い。
それと似て、ちょっとだけ違うような感じがするこの感情と胸の高鳴りを少しだけ楽しむ。
きっと私みたいな、身体の小さい妖精では抱かれたとしても彼の身体にすっぽり包まれるだけだろう。
けれど、こうやって横になっている今は、今だけは。
「ふふー……」
彼の頭をぎゅ、と抱いてあげても、まだ起きる様子は無い。
吐息が服越しにお腹に当たるのを感じて、新しいどきどきしたものを私自身の中に見つけ出す。
何だか、とても、してはいけない事をしているような気分。
それでも、私以外には彼がこんなことを許してくれない気がする。
サニーとルナとで悪戯してる時も、私はすぐに逃げられるような場所を探している事が多いのに。
何だか、一人でこんな悪戯のように思える事をしている瞬間は、何処かへ逃げ出そうとは思えない。
……彼の吐息が、身体が、暖かい。
囲炉裏の火が灯り、彼と私を暖めて居るのは事実だけれども、何故だかそれだけではない気がする。
この暖かさは、一体何なのだろう。
「……ん、どうした」
ふと、彼が声を上げて身体が跳ねあがりそうになるくらいに心臓が飛びあがった。
寝て居たのではなかったんですか、とか、ごめんなさいちょっとした悪戯心で、とか、言葉が浮かぶけれど。
「あ、う……」
絞り出すことが出来たのは、うめき声のような微かな声だけ。
心臓の音が今度はまた悪いことをしてバレてお仕置きをされる寸前のようにうるさくて、静まって欲しいけれどそんな様子は見せてくれない。
ああ、もう……っ。
彼の頭を軽く抱いたままで身体が硬直し、上手いことも言えなくて恥ずかしさばかりが募って行く。
すると、彼からもう一度声が聞こえて来た。
「……夜空に包まれてた。お前だったのか」
――どくん。
心臓が、先程までとは違うように、大きく大きく高鳴って、耳に響いた気がした。
「すまん、そのまま頼む」
かぁ、と自分の顔が真っ赤に染まったのを感じるけれど、彼はあまり意に介する様子が無く、また殆ど動く様子も無い。
彼が呟いた言葉の意味を呑みこんだ時には、彼はさっきと同じようにまた瞳を閉じて居るように見えた。
そして程無くして聞こえる、安らいだ寝息。
けれど、私はその傍らで、安らげる余裕なんてなかった。
どくん、どくん、と大きな鼓動が脈を打つ。
悪戯した時や、彼の言葉にどきどきさせられるだけでは覚えなかったこの鼓動。
すぅ、と彼はお構いなしに寝息を立てて居る。
何でこんなに、脈打って、寝ることすら出来なくて、顔は真っ赤になって。
それでいて、休む彼の頭を離すことすら出来なくて、胸がとても熱くて。
「……好き――」
――無意識に動いた唇と、それから発せられた言葉が自分の耳に聞こえた瞬間に、全ての謎が解けた、解けてしまった。
好き。
だから、こんなに、胸が、熱くて、彼の身体を、離す事が出来ない。
好き。
もう一度唇にして呟くと、唇が微かに笑みを浮かべて居るのに気付いた。
好き。
三度、同じ言葉を呟けば、胸元の熱いのは収まって、少しだけ灯ったような暖かさがそこにあった。
好きなんだ、彼のことが。
「……ふぁ」
自分の瞳から何故か涙が零れかけて居るのに気付いて、ぐし、と手の甲で擦る。
幸せで、幸せで居て、幸せ過ぎて、それでも口にする事が出来ない卑怯な私が居て。
サニーだったら素直に好きって感情を口に出来るの?
ルナだったら何も言わずに自分の想いをそっと身体を寄せることで伝えられるの?
私は――。
「……っ」
ぎゅう、と彼の頭を抱きながらその髪に自分の頬を寄せて、強く瞳を閉じた。
嫌いと言われる事が怖くて好きって口に出来ない私。
この思いが爆発しそうなのに、彼は瞳を閉じて夢の中。
そもそも、妖精が人間を好きになって、受け入れて貰えるの?
彼の頭を強く抱きしめながら、不安に襲われるようで身体の震えが止まらない。
――ぎゅう。
彼が少し私を強く抱き締めた。
「……すぅ……」
きっと彼にとっては夢の中の行為で、全く何かを意識した行動では無くて。
その筈なのにこの胸の中の想いも、すっと何処かへと行ってしまいそうな程に、優しい抱擁で。
「あ……」
ぼう、と少し抱き締める力を緩めて、身体の力を抜いて。
心臓の鼓動は、心地よい鳴り方で私の中で存在を主張していた。
彼に私の身体を抱き締められているだけで、心地よく思えて、さっきまで考えて居たことが全て馬鹿らしく思えてしまって。
これがきっと、恋していることなんだろうか。
ふと急に現れた強い不安が、全て何処かに氷解し消え去っていたなんて。
不思議な気持ちで、その不思議な気持ちを抱えながら瞳を閉じた。
彼が目を覚ましたら、この想いを伝えよう――。
その気持ちだけを胸に秘めて、たゆたうような眠りの海へと私の意識は落ちて行った。
Megalith 2012/03/19
今日は朝からどうにも落ち着かない気分で過ごしていた、何故なら今日はホワイトデー。
バレンタインデーに親しい仲であるスターサファイアから手作りのチョコレートをもらっている。
それ故にちゃんとしたお返しをしたいという気持ちはあるのだが、どうにも品物選びに自信が持てない。
こういった経験がまともになかったため仕方がないのかもしれないが。
そんな不安を抱え悶々としている内に誰かが家を訪ねてくる。
この時間帯に俺の家を訪ねてくるのは彼女くらいしかいないだろう。
不安な胸中を気取られないためにも一呼吸置いて、軽く気合いを入れ直し扉を空ける。
予想に反する人物がいるわけでもなく、いつものごとく彼女を部屋まで出迎える。
彼女は期待しているような眼差しをこちらに向けて言う。
「もちろん、今日が何の日か分かってるわよね?」
「当然分かってる、正直なところ何にするかかなり悩まされたさ。気に入ってもらえるか今も不安で仕方ないんだが?」
軽く冗談めかした感じで今の心情を吐露する。
「そんなに悩んだってことはきっと良いものを選んでくれたんでしょ?」
妖精らしく悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺にプレッシャーをかけてくる。
そんな彼女に対して対して苦笑しながら返事をする。
「そう思ってもらえる結果になれば良いんだけどな」
「大丈夫よ。○○ならきっと私が喜ぶ物を選んでくれてると信じてるわ」
「……外でのホワイトデーを考慮するとこういう判断になった。受け取ってくれ」
彼女が楽しそうに俺の不安を煽ってくるためさっさとプレゼントを渡すことにする。
マシュマロやキャンディといったそれらしい菓子を種々詰め合わせにしたものだ。
「なるほどね、お菓子のお返しにはお菓子って訳ね」
「ホワイトデーは確かそういうものだったはずだ、バレンタインと違って何を渡すのかはっきり決まってないみたいだけど」
「色々あるのは嬉しいわね、バレンタインはチョコレートだけなのに」
彼女はそう言いながら何があるのかを確認している、一応喜んでくれてはいるようだ。
しかしながら今一つ驚きに欠けているような雰囲気を感じる、何となく予想はしていた展開ではある。
「無難過ぎたかもしれないな、手作りの物をもらったのに俺は既製品を返してるし。そこでだ、実はもう一つプレゼントがある」
そう言って俺は小さな紙袋を彼女に手渡す。
「そんなに気をつかわなくても良いのに、でも嬉しいわね。中身は何かしら?」
「ある意味こっちも外のホワイトデーらしいものを選んでみた、空けてみてくれ」
「へえ……星の形をしたペンダントね」
星の光の妖精である彼女だから星を選んだという単純な発想は無かった――とは言い切れない。
しかしそれ以上にデザインや素材から来る雰囲気が彼女に似合うだろうと感じさせられるような物だった。
「そこまで高価な物じゃないんだが……星を選んだのは安易すぎたかな?」
「安易だとしても星は好きよ? それに○○からこういったものをもらえて嬉しいわ、大事にするわね」
感謝を告げる彼女の表情は無邪気に喜ぶ子供ではなく、どこか大人びていて女性を意識させられるものだったため思わずドキッとさせられる。
「そう言ってもらえると選んだ甲斐があったと思えるよ。気に入ってもらえて安心した」
「ねえ、つけてみてもいい?」
「構わないよ、どんな感じか見ておきたいし」
「それじゃあ……どうかしら? 似合ってると良いんだけど」
胸元にペンダントのワンポイントが加わることによって、そういったものをあまり付けない普段とのギャップが生まれている。
もともと落ち着いていて妖精の割には大人っぽい方ではあるのだが、それ以上に普段とは違った魅力を感じさせられる。
「すごく似合ってる、実に良い感じだ。鏡で見てみるか?」
「別に良いわ、○○が似合ってるって言ってくれるのなら私はそれでもう十分ね」
完全に演技というわけではないのだろうが、狙っているような台詞と仕草に気恥ずかしさを感じて顔を背ける。
「……そういうことを言われると対応に困るんだが」
「照れてるのかしら? もっと素直に喜べばいいじゃない」
「そこで素直な反応を返すような柄じゃないんだよ、そりゃ嬉しかったけど……」
「そういうところが○○らしくて良いとは思うんだけどね。でもたまにはストレートに愛を囁いてくれたりしても良いのよ?」
「機会があればそうさせてもらうよ、無さそうな気がするけどな」
真面目に付き合うのにもそろそろ疲れてきたので適当にあしらおうとしてみる。
「無いのは機会じゃなくて、○○の積極性とか度胸じゃないかしら?」
「……仰るとおりで」
素っ気なく対応した俺に対して、辛辣な一言で見事にカウンターを返される。
この分の悪い流れを断ち切るためにも話題の転換を図ってみることにする。
「そんなことより今日はこれからどうする?」
「そうね、お菓子があるんだしお茶にしたいわね。一緒に食べましょうよ」
「俺があげたとはいえ、分けてくれるのか?」
「もちろんよ、持って帰るとサニーとルナがいるから取り分が三分の一になっちゃうじゃない」
「そういう理由か、まあ正しい判断かもしれんな」
「ふふ、冗談よ。あなたと一緒に食べた方が幸せだからそうするの」
「……そいつは光栄なことで。飲み物はどうする? コーヒーあたりが無難かな」
「そうね、準備してくるわ」
そう言って彼女は立ち上がろうとしたときに何かを思いついたようで途中で一瞬動きが固まる。
「そうだわ! お菓子を食べさせ合うのなんてどうかしら? きっとお菓子がより美味しくなるわよ」
満面の笑みを浮かべながらそんな突拍子もない提案を俺にしてくる。
どう反応すべきか悩んで黙っていると
「すぐにコーヒーを入れてくるわ、待ってて!」
俺の返答を待たずに、そう言い残して鼻歌交じりで楽しそうに台所へ向かっていってしまった。
……こういうときの彼女に抵抗しても無駄なんだろう、そんな気がする。
――その日の午後はコーヒーが足りないほどに甘ったるいものになったことは言うまでもない。
三月精完結記念も兼ねて、ホワイトデーネタで。……バレンタインは書いてないけどいいよね?
Megalith 2012/12/30
そろそろ今年も終わりに近づき、年末への準備を意識する頃になった。
そんな時期ながらいつもの如くスターサファイアは俺の家まで遊びに来ている。
いつも通りにとりとめのない会話をしながらも、途中で今朝から気になっていたことを尋ねてみる。
「なあ、クリスマスって知ってる?」
「名前くらいは聞いたことあるわね。今日がその日?」
「そうだな、正確に言えばクリスマスイブ、前日なんだけどな」
「それでクリスマスは何をする日なのかしら」
「キリストという神様に近いものの生誕を祝う日だったかな」
「何だかあまり楽しくなさそうな日ね、○○はその神様を信じてるの?」
スターが少し怪訝そうな顔をしながら言う。
「そういう訳じゃないさ、あくまでそれにかこつけて楽しむ日だな。お祭りみたいな感じかな」
「ふーん、具体的には何をするの?」
「そうだな……御馳走を食べたり、ケーキを食べたりとかかな」
自分の記憶を探ってみても、クリスマスに何をするのかは意外と曖昧だ。
こちらでも簡単に出来そうなそうなものはこれくらいだろうか。
ツリーを飾ったりするのは中々に手間が掛かるだろう。
「食べてばっかりね。他にはないの?」
「夜になったら、子供達の枕元にサンタクロースなる人物が贈り物を届けに来るという伝承がある。
後は家族や友人、恋人の間で贈り物をし合う習慣もあるな。そこでだな」
この日のために用意していたものを取り出し、スターに手渡して言う。
「これは俺からのクリスマスプレゼントだ。クリスマスに関係なく日ごろの感謝を込めてだけどな」
スターは軽く驚いた様子を見せたが、すぐにプレゼントの中身に興味が向かったようだ。
「あら、ありがとう。開けても良いかしら?」
「どうぞ、気に入ってもらえればいいんだけど」
彼女が包み紙を開いていく。
プレゼントの中身は可愛らしい感じの手袋、数日前に店に立ち寄って悩んだ末に買ってきたものだ。
サイズもある程度は確認できていたのでおそらく問題ないだろう。
「へえ、手袋ね」
「マフラーをしてるのは見たことあるけど、手袋を普段付けている印象がなかったから選んでみた。
もしかしてあえてしてなかったりした? 物を持つときに邪魔になるから、とかで」
彼女の反応がどうなるかという心配のあまり色々と述べ立てる。
そんな俺とは対照的に落ち着いた笑みを見せてスターは答える。
「大丈夫よ、嬉しいわ。大切に使わせて貰うわね」
その答えを聞いて俺は安堵する。
「はあ、良かった……気に入って貰えるか不安だったからな」
「○○が贈ってくれるものなら嬉しいに決まってるわよ。手袋はあったらいいなって思ってたしね」
ふとスターは何かに気づいて若干戸惑ったような表情を浮かべる。
「あ、確かプレゼントをお互いに渡すのよね? 私は用意してないわよ? 教えてくれれば用意したのに」
そんなスターに対して今度は俺が落ち着かせるように言う。
「スターの驚く顔が見たかったから教えてなかったんだし気にしなくていいよ。まあ、強いて言うなら夕飯お願いできるかな」
「それでいいの?なら問題ないわね、任せといて。来年はプレゼントを用意しとくわね」
「そうしてもらえれば嬉しいな。勿論無理はしなくても良いからな?」
俺は外出のための買い物へ出かけようと立ち上がりながら尋ねる。
「夕飯の材料を買ってくるから、何が必要になりそうか教えてもらいたいんだが」
「それなら今日は私も付いて行くわ。教える手間が省けるでしょ? それに貰った手袋を早くしてみたいしね」
「ちょっと待てよ、里の人が日頃の悪戯の報復に来たりしないよな」
里の人達は意外と気にしないとは思うが、一応不安になって尋ねる。
「最近は控えめにしてるし、きっと大丈夫よ。でも、もしそうなったら助けてくれるわよね?」
そう言うといかにもわざとらしい感じでこちらに視線を向けてくる。
「いや、俺の信用問題とかもあってだな」
素直に助けると言うのも何だか気恥ずかしいため、しどろもどろな返事をする。
「そうは言うけど、実際そうなったら助けてくれるのが○○なのよね」
「勝手に決めつけるな、とは言っても……その通りな気もするんだが」
「でしょ? ○○のことなら大体分かるつもりよ」
分かってもらえているというのは嬉しく思うことなのだが
「だって割と分かりやすい性格してるじゃない」
スターが
小悪魔的な笑みを浮かべながら見事にオチをつけてくる。
単純な性格をしているつもりはないので地味にショックを受ける。
「……そんなに分かりやすいか?」
「気にしなくて良いわよ、素敵な性格って褒めてるの。そんなことより早く行きましょうよ。時間がもったいないわ」
一応のフォローを入れつつもスターは焦れったげな様子で俺をせかす。
すでに外出の準備を済ませて玄関の前で待っている。
「はいはい分かりましたよっと。よし、準備はこんなもので良いか」
返事をしながらも、買い物に必要そうなものを手早く集めてスターの元へ向かう。
「それじゃ、買い物に出発ね!」
そう言って外へ向かったスターの後ろ姿を見て、俺は何か一悶着あるんじゃないかと案じてしまう。
それでもこうやって一緒に過ごせることには幸せを感じずにいられない。
ある意味こんな時間が一番のクリスマスプレゼントなのかもしれない、と思いながらスターを追いかけることにした。
今一つクリスマスしてない気がする
Megalith 2016/11/12
「ぽっきーげーむ?」
耳慣れない言葉に対してよく分からないと言ったようにスターサファイアが聞き返してくる。
幻想郷ではポッキーがない以上当然の反応である、もしかしたらポッキー自体は紛れ込んでいる可能性も否定できないが。
それは置いておくこととして、説明を返してあげるべきだろう。。
「そう、こんな感じの細長い菓子を使った遊びらしい。
どうも11月11日が1の並ぶ日だからその菓子の日ってことで外で話題になることもあったな」
言うほど詳しくもないし、今まで縁もなかったが折角のチャンスということで話題に上げてみたのだった。
スターという親密な相手ができた以上、ちょっとした刺激やイベントごとには首を突っ込むのが得策だろう。
もっとも、そういうのは妖精である相手の得意分野ではあるが……たまには自分から提供するのも悪くない。
ということで代用できそうな菓子を見繕って揃えておいたのだった。
「へー、外で流行ってた遊びなのね。どんな感じの内容なの?」
スターが興味ありといった感じに反応を返してきたので、菓子を見せながら相手に言う。
「二人が両端からこういう細長い菓子を同時に食べ進んで、どこまで近づけるかって内容だったはずだ」
「ふーん?食べ進めた量で勝ち負けが決まるの?」
「まあ、そんなところだったかな?どこまで近付けるかで盛り上がる雰囲気だな。
仲の良い男女のスキンシップからそこまで仲良い訳でもない相手に対してハラハラするようなのが醍醐味のはず」
何となくの説明を受けて、スターが反応を返してくる。
「なるほど、顔が近づく状況でドキドキさせるって訳ね。
それならサニーとルナに無理やりやらせて、それを見るのも楽しいんじゃないかしら?」
いつものにこやかな笑顔で悪戯のアイデアを述べてから、少し雰囲気を変えてスターが続ける。
「でも、そういうことをしたくて言ってきたわけじゃないのよね?」
「まあ、そうなる……のかな?」
「はいはい、素直になった方が良いわよ。やってあげるわ、だってそういう仲じゃない」
照れで軽く誤魔化すような態度の自分に対して、少し呆れたようにスターが返事を返す。
いつも向こうが積極的なので自分からというのはどうにも上手くいかない。
とはいえ、承諾をもらえたのだから覚悟を決めてやるしかあるまい。
菓子の端を摘んで、彼女の方に向ける。
「ほら、頼むよ。そっちから食べ進めてくれ」
「分かったわ、はむ……」
彼女が加えてサクサクと食べ始めるのを見て、自分も齧って進めようとした……が
「「あ、折れた」」
「意外と難しいのね?こういう部分も含めて遊び的な要素なのかしら、ちょっと面白くなってきたわね」
そうであるのか、使った菓子の強度のせいなのかは分からないがスターがもう一本を取り出して咥える。
「はむっ、ほら早く○○も」
「はいはい、じゃあやるよ?」
真剣な面持ちのスターに対して、こちらも少し集中して食べ進める。
今度は上手く折れずに食べ進めることが出来ている、そうする内に相手の顔が近づいてくる。
改めて集中している表情のスターを見ると本当に整っていて可愛い顔をしている――
などと考えていると急に恥ずかしさが出て口を離してしまった。
「……なんで口を離したのよ?今回は上手くいってたじゃない」
ちょっと怒った感じでスターが尋ねてくる。
きっと遊びとして真面目に取り組んでいたからなのだろう。
軽い申し訳なさと照れがあるから仕方ないだろうという気持ちがないまぜになって答えに困っていると、
スターが得心したようにニコニコしながら言う。
「ふふ、じゃあこうしましょう?次から失敗したら罰ゲームってことで、何をやってもらおうかしら?」
「ちゃんとやるから勘弁してください」
「まったく……自分から誘っておいていざやると恥ずかしいなんて駄目よ?」
完全に見透かされて手玉に取られるのはいつもながら敵わないと思わされる。
そんなことを思っているうちにスターが笑顔で菓子の端を加えてこちらに向けてくるので、こちらも今度は覚悟を決めて食べ進める。そうしている内にスターの顔の距離が近くなってくる。
今度は目を閉じて、無心で食べ進める。
唇に柔かいものが触れる。
暫く互いに求め合う。
口を離してから、ペロッと唇を舐めてスターが言う。
「ん……ごちそうさまって言うべきかしらね?」
「それはこっちが言うべき言葉のような……まあ、御粗末様でした?」
「ちゃんと最後まで食べ切ることができたし、このポッキーゲームという遊びを楽しめた気がするわね」
「それは良かったよ、楽しんでもらえて」
「○○も楽しかったみたいね?表情が緩んでるわよ?」
スターが満足そうな表情からわざとらしく心残りがあるような表情に変えて言う。
「それにしてもこのお菓子美味しかったのよね、まだ食べたりないくらい。だから……ね」
新しく菓子を取り出して端をこちらに向けて微笑んで言う。
「もう一本食べましょう?」
最終更新:2017年04月26日 18:42