彼女の猫度
僕は○○である。二つ名はまだ無い。
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜さんに恋をして数ヶ月。
告白するのに必要なタイミングを間違えないため、
導き出した方程式にしたがって行動してきた。
その第一条件、紅魔館に忍び込むことを今日も完遂した。
勿論、美鈴さんに見つからないで進入など僕には不可能である。
毎度、美鈴さんに賄賂と言うには
ささやかな物を持ってきては通してもらっている。
そして、第二関門。
こちら○○、館内に侵入した後は図書館に迎え、である。
図書館まで咲夜さんに見つからなければいいと僕が設定したエクストラ並みの道中だ。
しかし、パターンを組めばクリアできるのがエクストラ。
ここ数日の進入時間を1時間以内の不特定にした甲斐あり、
見事にノーミスでパチュリーさんまで到達した。
自分に激甘俺ルール?
いや、人間が紅魔館に侵入する時点でルナティックだから甘めの設定。
いいでしょ別に。やめてよね。
「今日の朝までの猫度は9点」
「ま、マジですかパチュリーさん!」
これが第二条件、パチュリーさんによる咲夜さんの猫度採点。
メイドちょう 9点
通しすぎ。紅茶ほしい。スカートみぢかすぎ。
もんばん -10点
通しすぎ。饅頭よこせ。胸でかすぎ。
こあくま …
そう。僕の方程式には咲夜さんの猫度がかかわってきているのだ。
咲夜さんに知られずに、図書館までたどり着くことによって猫度は降下する。
それが今日、僕の図書館の侵入によって一桁まで落ち込んだ。
「ようやく一桁だ!よっし!いいぞ!」
「……ねえ」
ここまで来たら、自我開放の時間。
魔理沙の進入分も入っているだろうが、これは喜ぶべきことだ。
パチュリーさんには感謝してもしたりないな。
「よしっ! い、いや待て!ここで気を抜いてはいかんぞ!そうだ!
咲夜さんかわいいお!よっしゃ!うん!いけるいける!」
「……ウィンターエレメント」
「どわああああ」
床の魔法陣から水が噴出してきてピチュってしまった。今日は残り2機。
ここ数日、採点後はテンションが上がりすぎて
パチュリーさんの水のスペルで頭を冷やすパターンが避けられない。
「いてて、すいません!ここに忍び込みはじめて数ヶ月。
ここまでこれたことに感激してしまって」
「わかったから、耳から3mの所で怒鳴らないで。
それでもう一回あなたの方程式の説明をしてもらえないかしら」
そうそう。
こちらは図書館の主のパチュリー・ノーレッジさん。
二つ名は動かない大図書館。すごく…知的です。
彼女が相談に乗ってくれなければ、
いつまでたっても行動に移せなかったところだ。
きっと人間の相応をわきまえ、
吸血鬼の館に入り浸るなんてことは出来なかっただろうが。
「またですか。人に話せるような物ではないのですけど」
「パターンだからもう一回なんだけど」
「へぇあ。わかりました」
いつも通り。
パチュリーさんに自分の情けない妄想を話さなければいけない。
結局、面と向かって告白する勇気が無いから
ぐだぐだと条件なんかを付けている訳なのだから。
弱い所はいつまで経っても恥ずかしいもので。
つまりはこれだ。
ぼくのかんがえたほうていしき=
咲夜さんのかわいさ+咲夜さんの美しさ+咲夜さんの瀟洒+
さく(ryすべて足す)を計算する。
そこから咲夜さんの猫度で割って出た数値がK点を下回っている=告白
条件を難しく設定することで、自分の本気も出せると言うもの。
「うーん、やっぱりまだ足りないわね」
「僕にはやっぱりが、まだわからないんですよ」
パチュリーさんはいつもまだ足りないと言う。
そんなわけないだろうが、咲夜さんのどれかの数値が足りないのか、
と聞いても違うと答える。
僕の設定したK点に到達していないのは当たり前だし。
なにが足りないのかわからない。僕にはわからない。
そこまではいつも通りの問答だった。
「…そう」で終わって、その後は図書館で時間を潰して
咲夜さんがお茶を持って来てくれるのを待つのが王道だった。
そして、パターンは変化し根性が必要になった。
「だってこれは恋の方程式だもの」
「え?」
突然、いつもパターンの会話の所で違うことを言われると硬直してしまうもので。
だが、案外イレギュラーなことを言われると冷静になれるものでもある。
そう。
的確だっ!恋の方程式!
「す、すばらしいネーミングです!はっそうか!さk…ってうわああ」
「うるさい。 私も方程式を考えたんだけど」
ウィンターエレメントの取得率がまた下がった。
元々0だからいいけど。
これで話も聞けると言うものなのだが、なんだって?
「これを見て」
きっと僕の方程式に足りないものを補ってくれたに違いない。
そう期待して、パチュリーさんが差し出した紙を受け取ったその時。
『にゃー』
どこからか猫の声が聞こえてきた。
「猫?」
「!? …にゃー」
「な!?パチュリーさん?!」
「っ…にゃ、にゃー」
パチュリーさんの猫度が突然上がり始めた。
じゃなくて、パチュリーさんは顔を赤く染めて猫の鳴きまねをし始めた。
こ、これは。
「もしかして…」
「え、いや何でも無いわよ。ただね『にゃー』がね、ってあああ」
「あ、本当に猫だ」
パチュリーさんも鳴き声の出所がわかったようで、珍しく声を荒げる。
そちらに振り向くと一匹の子猫が居た。
次から次に子猫がちょこちょこと出てくる。1、2、3、って何匹いるんだ?
そこに続いて一匹の猫を抱えた小悪魔が現れた。
「あ、あははは。すみません」
「まったく。恥ずかしい事させて」
小悪魔は弱りきった表情で平謝りしている。
パチュリーさんは諦めたのか子猫達に近寄り撫で廻した。
うわ、すげえ顔が緩んでる。
『にゃ、にゃ』
「どうしたの?お腹すいたの?」
パチュリーさんの猫度が上がっている。
間違いなくさっきより上がった。
つまりは。
「つまり猫かわいがりですね」
「あら、喘息持ちにはつらいわね」
「いや、パチュリー様のことですよ」
小悪魔がすぐさま同調したようにツッコミをいれてくれたのだが。
小悪魔もその一部だと。
僕はこの光景を見てそう思った。
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この子猫達は小悪魔がどこからか拾ってきたものらしい。
その数は13匹にも上った。
『こうして捨てられた私たちだが、小悪魔さんには感謝している』
明らかに喋ってる猫がいるんだが、妖怪化してるのもいるぞ。
「ありがとう、レモン」
「その声でレモンかよ」
『名はレモン。二つ名は個別の11匹目です。以後お見知りおきを』
こ、こいつ何故持っている。羨ましいです。
連れ帰るときは僕と同じように門番の美鈴さんに正門を通してもらってたのだそうだ。
美鈴さんも咲夜さんも猫度が下がりまくってるなあ。
パチュリーさんも最初は利用する気だったのだが、許可することにしたらしい。(何ニダ)
そして、知らないのが咲夜さん、レミリアさん、フランちゃん。
紅魔館の責任者とも言うべき方々に
と言うよりも、吸血鬼さんに知られたくなかったのだろう。
「でも、僕にまで黙って居なくてもいいのに」
「へぇ、あなた。咲夜に言わない自信あったの」
「ぬ…」
咲夜さんに黙って?って!!
「無理ですね」
「きっぱり頂きましてありがとう」
パチュリーさんは子猫を前に掲げ、お辞儀をさせた。
それにしても、何故咲夜さんに?
ああ、そうか。
「咲夜さんに知られると自然とレミリアさんに知られるってことですか?」
「そう。特に妹様には知られたくないわね」
「きっと誰もいなくなりますよ」
「わかります」
小悪魔はその様子を想像したのか、子猫を守るように上手い事言ったつもりだった。
…リアルグロは勘弁な。
いや、待て。魔理沙の話だとフランちゃんは…
「なので、あなたを抱きこむ事になったから」
「え?あ、そうか」
思考中にパチュリーさんからの懐柔案が提示された。
咲夜さんに言わないようにする為だとすぐに理解した。
この硬い心。
つまり柔らかい恋心を崩せるはずもないな。
しかし、その交渉の中身はというと。
「今まであなたの相談に乗って上げたよね?」
「は、はい」
「それを咲夜にばらすわ」
「!?」
これ以上も無い脅迫でございました。
力=正義のいい時代です。
「咲夜がお茶を持ってくるまでに決めて頂戴」
「え、ええええ」
思考開始かよおお。
パチュリーさんがばらす=咲夜さん=猫度で館から排除=俺粉砕
やべええええ。
咲夜さんに排除されてえええ。
いや、駄目だろお。
どうする。嘘を付くか。
いや、いつ終わるかもわからん嘘を突き通せるか。
第一、今恋心を隠してるよな。二つは無理。
ここはパチュリーさん達を説得。
これだろう。
いや待て、僕は見の男のはずだ。
静の男だ。だから、方程式なんて作ったんだ。
そう。説得なんてしたら、それは反逆の意思。
間違いなく玉砕ルート。全力で無い玉砕など唯の美学だ。
うあああ、小町さんの友達のノートを。
ぐううああああ、地獄に落ちるわよおおおお。
「失礼します。お茶をお持ちしましたわ」
あら、瀟洒。
そこに咲夜さんがいつも通りにお茶を持ってやってきた。
ちょ、もうそんなパターンまで時間過ぎたのかよ。
いつも通りに無難に挨拶しないと。
『やあ』って言わなければ。
「いらっしゃい○○。門から入った?」
エクステンド。
微笑みの…咲夜さんだ。
「うぇ、咲夜さん!大好きです!」
「?! って、ええ?!」
パターンで慣れすぎた方の食らいボム。priceless
ちょっと何を言っているんだ。
まだ、方程式も完成していないのに。
まさかの脱落ルートに行ってしまう。
うわああ、咲夜さん顔が赤いよ。
多分僕もだあああ、どうしよう。どうしよう。
そう、そうだ。猫度が、いや猫がやってしまったんだ。
猫が。
ごまかす、ゴマカス、誤魔化すにゃあ。
「い、いや違くて。猫です咲夜さん!」
「え、ええ。え、あら、本当に猫ね」
「かわいい。ふかふかね」
ああ、咲夜さんが、ご満悦で子猫を撫でてるお。
「!!!この馬鹿ネズミ!!」
「うわああああ」
ふう。
3度目のミスで賢者になった気分だった。
「ふう。パチュリーさん。すいません」
「○○さん…最低です」
『あなたは…最低。把握しました小悪魔さん』
「ふかふか~、え。ああ、あなたって最低だったのね」
小悪魔と猫のような者が非難している。
咲夜さんは罵ってくれる。
ふう。なんのことはなし。
「はあ、咲夜もか。レミィが起きるまでに決めないとね」
パチュリーさんのふかいふかーい溜息が漏れたようだった。
──────
「ふむ、私の館内で私の知らない住人が増えていたと言う訳ね」
「は、はい。申し訳ございませんでした」
場所は変わって紅魔館のテラス。
起き抜けのレミリアさんに小悪魔が謝罪の言葉を述べた。
結局、あの後は、小悪魔が猫達を黙って飼っていた事を謝罪し、
図書館で飼う許可を貰うと言う事で決まった。
「うん。謝罪は受け取ったわ。じゃあ、捨ててきなさい」
「え、で、でも。まだ…」
やっぱりこうなったか、と言う表情のパチュリーさん。
咲夜さんはレミリアさんの後ろで、目を瞑りメイドらしい態度で控えている。
綺麗だなあ。
僕はと言うと、紅魔館にとってはネズミなので口は出さないことにした。
ん?ネズミ?
んんん!
重大な事に気がついてしまった。
図書館に猫が増えたら、咲夜さんの猫度はどうなるんだ?!
「ん?どうしたの?早く捨ててきなさい」
「い、いえ。その、あの」
猫度と本物の猫の関係はどうなるんだ。
まさか、また増えたらこれまでの苦労が水の泡に?
さっきのはノーカウントになったはずだしな。
猫度はまだ重要のはずだ。
どうなんだ。どうなんだ。
「あら?謝ったのなら、誤った元凶を取り除くのは当たり前でしょ」
「え、えっと、でも…」
パチュリーさんに聞くか。それが一番早い。
考え込んで伏せていた顔を上げると、
結構良く見る困り顔の小悪魔が目に映った。
あ、そうか、今猫の交渉中だった。
そう、猫だよ。猫度だよ。
いや、子猫だよ。小悪魔可哀想だろ。
「ここからは私ね。レミィ。私はお願いに来たのよ」
「へえ。なあに?」
そこへパチュリーさんが助け舟を出した。
お願いにきた、と言う事は謝罪は小悪魔に任せたと言うことか。
マイナスからの交渉よりも、むしろ友人ポイントがプラスされた
パチュリーさんの方が成功するだろう。
さ、猫度猫度。
咲夜さんは未だに目を瞑ったままだった。
「猫を飼うことにしたわ」
「ふーん。どうして今まで黙っていたの?」
「危ないと思ったから」
そもそも、僕の侵入が猫を飼ったことによって防げるか。
いや、無い。
咲夜さんが猫を連れて、侵入を防ぐ?
お、これなら関係あるな。
…さっきの咲夜さん可愛かったな。
くっ、絶対猫度上がるってこれ!
「私の心配?猫如きに遅れはとらないわ」
「レミィ。黙っていたのは謝るわ」
「あら?パチェはお願いに来たんでしょう」
む、雲行きが怪しくなってきました。
自分の屋敷の中で黙って動物を飼われていたら、怒る人も居る。
現世ですでに体験してきたことだが、それを幻想郷で目にする事になるとは。
因果なことだ、とかかっこつけてる場合じゃない。
パチュリーさんも次の言葉を探して黙ってしまった。
レミリアさんは次は咲夜さんに視線を向けた。
「咲夜まで知ってたのに黙っていたのでしょう」
「あら、私が知ったのは今日ですわ」
咲夜さんはメイドらしく慎ましく答えた。
未だに目は開かれない。
真実でかわした咲夜さんであったが、
レミリアさんは更に火を噴いてしまったようだ。
「…門番。美鈴まで知ってたのね」
「……」
「…美鈴を呼んできなさい」
チェンジで。
ここに来て、ようやっと席についた気分だった。
レミリアさんはほぼ全員が知っていた事が不満だったのだ。
こればかりは吸血鬼のプライドではない。
仲間はずれの意識だろう。本人は認めないだろうが。
「おはようございます、お嬢様。今日も対吸血鬼日和でしたよ」
「……」
「皆さんおそろいでお茶は珍しい。って○○さんも一緒なんですね」
美鈴さんは、日頃の疲れは何のそのっていう笑顔でやってきた。
いやいや。
「ちょ、美鈴さん」
「え?なんでしょう」
「気を使って、気!」
「え?もう使ってるつもりなんですけど、駄目みたいですね」
そう言いながら、パチュリーさんの隣に座る美鈴さん。
この状況を見て、すべてを把握しているような振る舞いだった。
これは不満の生贄でなく、交渉人チェンジを期待できそうだ。
「美鈴?猫を通したの」
「はい。通しました」
「どうして通したの?」
「魔理沙や霊夢と一緒です」
おおお、素晴らしい。
レミリアさんも彼女たちには一目置いている。
魔理沙なんかはここの図書館によく来る訳だから、それと同じと言うことか。
結構、考えている美鈴さん。さすが、紅魔館の門番。
「違うわ」
「あなたは訳のわからない生物を館に通した。怠慢ね」
「ただの猫ですよ」
レミリアさんの反論は、難しいな。
猫を知らんわけでもあるまい。あ、猫度。
「喋るのもいるらしいね」
「あ、たしかに」
「それを知っていながら、皆の生命を危険に晒す門番。主にはどう映るかしら」
「……」
おっと。レミリアさん持ち直した。
館の主として、考えてたんだなあ。
訂正も必要かもしれないな。力ある指導者のしっかりとした考えです。
っていやいや。怒っているから言ってるだけかもしれないぞ。
そう言えば、あの猫なんなんだ?
…あいつの猫度やばそうだあああ。
「美鈴は罰として通した猫の数の飯抜きよ」
「え、えええ。喋るのは一匹…はい、わかりました」
危ない、威圧感が。
飲んだ紅茶が外に出そうになったぞ。
主ルールに門番は逆らえなかった。
喋る猫が決め手となったようで、
その結果、美鈴さんは今日のおゆはんと4日の飯抜きとなってしまった。
美鈴さんっておいしそうにご飯食べるんだよなあ。
僕が持ってきた賄賂、じゃない差し入れもいい笑顔で食べるし。
罰の内容としては申し分無いかもしれない。
うーん、この結果は…
続けてレミリアさんが口を開いた。
「後、小悪魔。よかったわね。美鈴が責任を取ってくれたお陰で
猫を飼ってもよくなったわ」
「え?」
「13回の美鈴の食事と13匹の猫を天秤にかけてみる?」
ああ、もう決まった。
紅魔館の主です。体裁を整えつつも、自分への礼を
失することを戒める手腕。立派です。
「よかったね!小悪魔!これで皆も外で遊べるよ!」
「め、美鈴さん。で、でも」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
とうとう最後には、猫を飼って良くなったわけだ。
いや、やっぱり紅魔館は概ね平和なんですね。素晴らしい場所ですね。
そう思って、麗しの咲夜さんに視線を向けると。
「……」
目が合ってしまった。
普段とは違った色を持ったその瞳。
視線を外そうとしても外せない。
真意を探ろうとしても探れない。
深い記憶の中と重なるような。
……
…はっ!いや、わかってしまった。
次にパチュリーさんに視線を向ける。
「……」
またまた、目が合ってしまった。
うわああ、さっきのフィルターじゃないか。
咲夜さんも愛しの目線かと思ったら違ったじゃないか。
パチュリーさんの目を見て、はっきりとわかってしまった。
これは。期待の眼差しっ!
そう。僕に言っているのだ。
つまり…
『部外者なんだから、損をしても得になるよ』
安置うめえです。
「あー、もう。レミリアさん。僕もお願いがあります」
「あら、なあに○○」
エクストラクリアしました。ルナティックいけんじゃね?
「弾幕ごっこをして頂けませんか」
「……」
「それで、僕が勝ったら、普通に猫を飼うことを認めてほしいのです」
「負けた時は、あなた様の広い度量で、
普通に猫を飼うことを認めてほしいとか言うつもり?」
「浅ましながらその通りです」
下でベタ張り付きプレイヤーの底力みせてやるぜ!
「…ようやくね」
「フフフ、ハハハ、やったわ!皆よくやったわ!」
「え?」
何か空気がおかしい。
レミリアさんは、さっきと打って変わって嬉々とした表情を浮かべている。
いや、僕のイメージの吸血鬼の表情そのものなんですけど。
「○○!やっとあんたと弾幕ごっこ出来るね!ここに何度も忍び込む周到さ!
あなたの!人間の限界を見せてね!」
あ。
ああああああああああ。
「ぐ、ぐう。まさかみんな」
「ごめんなさい、○○。お嬢様が兼ねてからあなたと弾幕たいっていうから」
「さ、咲夜さん。やりたいって読むのそれ?!そう読むんですよね!?」
咲夜さん。瀟洒レベルマックス。
いや、待て、この状況をよけるには。
違ううう。よけるとか使うなあああ。弾幕気まんまんじゃないかあああ。
そうだ、美鈴さん。助けて!
「頑張って」
美鈴さんに視線を向けると、何故かそこに咲夜さんが居て。
美鈴さんは咲夜さんに両手で口を塞がれていた。
そう。励ましてくれたのは咲夜さんであった。
ぱ、パチュリーさん!
「手加減はしてくれるよ多分」
パチュリーさんも、小悪魔の口を両手でふさぎ
それはいい笑顔で見送っている。
「にーんげんの○○!かかって来いって言う権利は私よね?」
レミリアさんも良い笑顔でありました。
「もうやけだ。うわあああああ」
:::::::::::::::::::::::::::
ノーマルにかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう。
そう。
今、まさに生の喜びを感じている。
「かわいい、ふさふさ、ふさふさ」
「お嬢様、それは髪の毛の擬音ですわ」
弾幕ごっこは結局、レミリアさんがスペルを使う前に僕が被弾する結果に終わった。
何故、レミリアさんが僕を強いと勘違いしたのかもわからなかった。
『よわいねえ』とニヤニヤされてもいらだつ事はなかった。
だが、この光景は。
紅魔館の面々が子猫を抱き上げ、緩みきった表情で戯れている。
心を揺り動かされ無い方がどうかしていると言う物だ。
『これなら隠れる必要もなかったか』
「やあ、ハグれている喋る猫」
『最低の○○殿、生き残って何よりですね』
こいつは猫かぶりにたった今決定した。
いやみも言えるらしい。さすが今回の元凶。
名前通りすっぱいやつだ。
ここの猫達はどうやら、フルーツの名前をつけられているらしい。
小悪魔の趣味、腹ペコなんだろうか?
「あら。あんたね。一番の問題猫は」
たしかオレンジを大事そうに胸に抱いてレミリアさんが近づいてきた。
ハグれ者を構うあたり結構優しいのか。この方は。
『はい。レモンと申します。二つ名は…』
「かわいくないわ。近寄らないで」
『……にゃあ』
レミリアさんは優しいな!
変な猫はざまあ。
二つ名うらやましいんだこのやろう。
「それに引き換え、あなたはかわいいね。カムチャッカー」
「「「「え?」」」」
レミリアさんのネーミングは素晴らしかった。
「お嬢様。その子はオレンジですわ」
咲夜さんは完全に瀟洒だった。
どんな難易度でもクリアした時の喜びは忘れない。
その夜、咲夜さんがコンティニューをしなかった僕を送ってくれる事になった。
さっきの弾幕ごっこを見て、改めて夜中の道中ではイージーでも無理だと思ったのだそうだ。
帰り道も途中まで過ぎたのだが、僕達は無言で夜を歩いていた。
こんな二人きりで、隣に咲夜さんが居てくれるにもかかわらず。
思い出すのはさっきの図書館での事ばかり。
目の前には猫が結構居たわけだが、猫度の事はまったく考えもしなかった。
今、考えてみても猫度についてあまり関心が無い。
ああ、皆の笑顔は癒されたなあ。
「ありがとう」
咲夜さんが突然口を開いた。
ありがとう?ありがとうってなんだ?
ああ、ありがとうか。
いつも通りに気持ちを隠して、咲夜さんとの会話を楽しもう。
「あなたのおかげで、無難に収まった」
「美鈴さんが食事を抜けば、丸く収まったと思いますけど」
「それで納得しない者がいたわ。なるほど、最善で収まったのね」
うーむ、最善と言われてもな。
せっかくレミリアさんが館の主らしい処置をしたのに邪魔にならなかったかな。
でも、そうか。あれは僕との弾幕ごっこを引き出す芝居だったみたいだし。
いや、咲夜さんがあんな眼をしなければ。
って、さ、咲夜さん。
まさか僕の気持ちに気付いてて利用、じゃない応用したんじゃ…
「そう。小悪魔の優しさも、魔法使いの好奇心も、門番のおゆはんも
吸血鬼の矜持も、すべて守ってくれたわね」
「だから、ありがとう」
ああ、どうでもいいか
咲夜さん、やっぱり可愛いな。
うん、好きだよ。
そう言えば、さっき言ってしまったけどね。
次はもっとはっきり心を決めていいますから。
…あれ?
「咲夜さん。さっきから黙っていたのは、その文言を考えていたから?」
「どうかしらね?ただのアフターケアーかもしれないわよ?」
「流石に、咲夜さんです」
そう、それでこその完全で瀟洒な従者。
それに恋した不相応の唯の人間の唯一つの甲斐性。
「では、メイド長の信頼に答えまして。
明日も図書館に行きますから」
「そう。期待しすぎてお待ちしていますわ」
いつまでも進展しないパターンを歩んでいた
紅魔館のメイド長に恋をした一人の青年。
彼が魔法使いから受け取った紙には
『おめでとう。 あなたの方程式に彼女の好感度を加えたわ。
これで、あなたの方程式は 愛を囁く方程式 になるはず。
これから起こる事を、冷静に対処すれば解ける。 かもね。
使う人を選ぶ式であることは間違い無いから気を付けてね。
いつも私の好奇心を満たしてくれてありがとう。 パチェ
(以下パチュリー・ノーレッジ式 愛を囁く方程式) 』
と何故か手紙口調で書かれていたそうだ。
しかし結局の所、本物の猫が、図書館に居座る事になり、猫度は大分上がる事になった。
彼が本当の告白をすることになるのはいつのことになるのやら。
メイド長はその時にどう答えようかをひたすらに考えていた。
一方、紅魔館の地下。
そこには館の主の妹の寝所があった。
「? 猫の声?」
後に彼女が紅魔館の猫度を覆す大事件を引き起こすことになるのだが。
それはまた…別の…話。
お し ま
文「結局猫度って何なのですか?」
霊夢「都合の良さよ」
魔理沙「まあ、何にせよ。大助かりだ」
アリス「この泥棒猫!」
お し ま い
──────
昨日の紅魔猫事件から一日が経った。
パチュリーさんからの手紙らしき物の裏を考えていたら、
いつの間にか眠りについたようだった。
時計を見ると、習慣通りの起床時間。
さあ、今日も紅魔館へ、咲夜さんに今、会いに行きますとしよう。
「あ、あれ?」
「ん、ん。んっと、あ。こっちか?」
いつも通りに、上着を羽織って出掛けよう。
そう思って、ポケットの中を探っても。
落ちているんじゃあないかと思い、床を這いつくばって探しても見つからない。
「うがー、何で無いんだ!何時から無いんだよ!」
ここ、幻想郷で人間をやる上での生命線。
そして、紅魔館へ侵入するために必要な物。
そう。ボーダーオブ猫度をいつも支援してくれた旅のお供が。
いつまでも、咲夜さんに告白も出来ない僕に愛想を尽かせたようだった。
「ああ、どうしよう。僕の財布…」
再びパターンが崩れた一日が始まった。
彼女の猫度 その③
「うーん、来ませんね」
「そうね」
ここは紅魔館の正門前。
門番の紅美鈴とメイド長の十六夜咲夜がいた。
二人して門に寄りかかり、空を見上げて何かを待っているようである。
「来るって言っておいて、来ない人じゃないのに」
「そうね」
そう。このメイド長、完全で瀟洒なのだ。
昨日の帰りに、来訪の約束をしたため、お客として○○を待っているのだった。
「あ、プレゼントでも選んでるのかな。バラなんか持ってきちゃったり」
「そうね」
そして、紅美鈴も妖怪である前に女の子。
昨日はいい雰囲気になったはずであろう夜の帰り道。
きっと、ヘタレ○○でも告白したに違いない。
そう確信し美鈴は、ずっと咲夜の心を探ろうと、
略して恋バラ(恋のベルサイユ)をし続けているのであった。
「でも、恋人を待たせるなんて、最低ですよね」
「そうね……って、だから何も無かったってば」
しかし、こんな会話もすでに5週目。
さっきまで、どこか楽しそうにしていた咲夜も待ち惚けとなってしまい、
美鈴の気を使った会話にも、うんざりしてしまったようだった。
「あらあら~。じゃあ、今日はどうしてここで彼を待っているのかにゃ~」
「今日来るとしか言われなかったって言ってるでしょ」
「今日は朝からワクテカして待っていたのにぃ~?」
「美鈴!」
幻符『殺人ドール』
美鈴の残機が一つ減ってしまった。
咲夜も5回目のループで、ついに手を出してしまったが、
飛び散った美鈴のPを自動回収しているあたり流石である。
「いててて。ごめんっなさいっ!」
「はぁ。それにしても遅いわ」
紅魔館の時計台で時間を確認し、咲夜はまた、溜息をついた。
時間を操ってもいないのに、時間が遅く感じられる。
待ち人来たらずは何時の時代も同じなのだ。
ただ待ち続けるのは、効果があるのだ。心理状態によってはっ…!!
「そんな顔して、待ってるんだから。ねぇ」
「? 美鈴?」
そんな様子をニヤニヤして、美鈴は嬉しそうに見物していた。
うちのメイド長をこんなにも惑わしているのはあなただけだよ!
告白も出来ないのに実りはありそうね!
でも、男としては…
「彼って最低の部類ですよねぇ」
「……そうね、概ね」
さすがの美鈴もこれにもニヤニヤ笑い。
しかし、それとこれとは話は別。
「そう言うところが好きなんですか?」(ループスタート)
「そうね……って、違うってば」(エンドレス)
はやくきて~はやくきて~咲夜のナイトさん。
ループする周期も早くなり、美鈴の残機が無くなりそうであった。
「なんで、咲夜さんが門にいるんだよぉ」
門から離れた木の陰から覗き込む。
今日は、門の所に咲夜さんが居た。
「うう、どうしよう」
僕はパターンを敷いて歩く人間だ。
昨日の事件で、猫度を下げれば告白する恋の方程式、
つまり自分ルールが大分薄れてきているのが自覚できた。
そう。
今までよりもっと咲夜さんの事が好きになってしまったんだと気がついた。
早く会いに行くべきだと心は告げているのだが。
「あああ、習慣病ってやつなのかああ」
ここがパターンの弱いところである。
つまり僕は、咲夜さんに見つからず、紅魔館に侵入するのが習慣になってしまったのだ。
結局、財布は見つからず、美鈴さんへの門通過の為の賄賂の品が買えなかった。
なので申し訳程度に、おひつからおにぎりを作って持ってきたのだ。
準備は万端なのである。
これでは実行も出来ないのだが。
これはこれでいいのでござる。
「ああ、咲夜さんが。女の子みたいな会話のふいんき出してるお」
空をぼーっと眺めている咲夜さん。
笑顔で話をしている美鈴さんに相槌を打っている咲夜さん。
面白いことでも話しているのか、時々微笑んでいる咲夜さん。
遠くから見詰めるだけでも、かわいいなあ。
あ、また美鈴さんの残機が減った。
お!おおおお?!ああ、おしい!見えそうで見えない瀟洒クオリティ!
「はっ!」
うわあああ!
これじゃあストークだああ!
いつもの僕はスネークなのにぃ!
レミリアストーカーならぬだあああ!
いかん、いかんぞ。
普段咲夜さんを遠目で眺める機会など無いと、
いつまでもここに居ても仕様がないってことさ!
さあ、どうしようか。
うむ。
忍び込むのを止めて、今日は普通に会いに行くか?
昨日約束もしたしな。
パターン?笑わせるなよ、だな。
さっきまで咲夜さんを見ていて、何も感じなかったって?
生の咲夜さんの迫力は桁違いだったんだよ!
早く会いたいんだよ!声が聞きたいんだよ!微笑んでほしいんだよ!
ああ、そうか!
今日、会いに行くって約束したから、あそこで待ってるのか!
メイドさんだ!メイド長だ!瀟洒なんだぁ!
さすが咲夜さん。
ああ、やっぱりだ。
よし!
さあ、いざ行かんと、持ってきたおにぎりの風呂敷に手を伸ばす。
「あれ??」
門を覗きながら、掴もうとしたのだが掴めない。
奇妙に思い、風呂敷を確認しようと振り返る。
すると、黒く蠢く物が、僕のおにぎりをほうばっているのが見えた。
「あ、あやややや。ばれちゃいましたね。おいしかったです」
「文さん?!何食べてるんですか!」
そこには、美味しゅうございましたと言う決まり文句で射命丸文がいた。
って、一気に平らげたのか!
虹っぽく7個も作ってきたのに…
「美鈴さんにプレゼントしたかったのにぃぃぃ!!」
「お!これはスクープ!○○氏、門番におむすびでプロポーズ!って事ですか~」
「違います!本命は紅美鈴じゃ…あ、やばい!」
大きい声を出しすぎた!
出て行く心は決まっていたのだが、スニーキングミッションで思った事がそれだった。
また、木の陰から覗くと、美鈴さんが歩いて近づいてくる姿が見えたのだが。
「あ、あれ?咲夜さんがいない?」
「○○?いつからいたの?」
あら?綺麗な囀り?僕を呼んでる?
っておい!咲夜さん後ろにいるじゃないか!
時を操ったんだあ。さすがなんだああ。
ま、待て。
お、落ち着け。落ち着くんだ。
振り返って、『約束通りインしたお』って言わないと。
よし!顔の弛みもよし!
さあ、振り向くぞ!
「約束通り…」
「いらっしゃいませ、○○様。歓迎いたしますわ」
あ。
エクステンド。
こちらが僕の微笑みのメイド長…咲夜さんだ…
「うぇええ!咲夜さん!愛してます!」
「?!え、ええええ?!」
ぐわああああ。
やべえええ。
また、やってしまったぁ。
こんな成り行きみたいに心を晒すことは本心じゃないんだああ。
完全で瀟洒な咲夜さんにこんな不完全な告白は無効だ!
なんとか誤魔化すんだ!ゴマ!うわああ!
頭を冷やせ!コールド!フリーズ!アイスゥ!
そうかあああ!
「あ、いえ!違うんです!アイス!アイス食べたいって言ったんです!」
「は、はい!って?あ、ああ!アイスね!私もアイス食べたいわ!」
ふう。
何とか誤魔化せたようだ。
今度は、咲夜さんのおみあげにアイスを持ってくるか。
「アイスって何ですか?」
「氷の妖精の主食じゃないですか?スクープいただき♪」
美鈴さんと文さんのアイス談義も相まって見事に誤魔化すことに成功したのだった。
○○ 告白抱え落ち経験 2
咲夜 告白喰らいボム経験 2
300
「うわぁ」
紅魔館の裏口から忍び込んだ霧雨魔理沙が見たものは、数日前と打って変わった光景だった。
いつもは本の整理を忙しなくしている小悪魔が、子猫の世話で忙しなくしている。
そして、図書館の主の魔法使いは、床に仰向けに寝そべり、
お腹に子猫を乗せて本を読んでいた。
「いつからここは猫屋敷になったんだ?」
「昨日から」
本から視線を逸らさずに、言ってのけるのは相変わらずである。
「はい!魔理沙さんも、もふっとどうぞ」
「あ、ああ」
魔理沙は小悪魔が差し出した子猫を抱えた。
『にゃあにゃ』
「お、お」
最初は遠慮がちに抱いていた魔理沙だったが。
努力家の興味が引かれたのか、定番のチェックをし始めた。
「お、こいつも女の子か」
『にゃあ』
「おお?あざといな。舐めるぞこいつ」
指を舐められたり。高く揚げたり。ブーンとしたり。
最終的にパチュリーの横に寝そべり、胸に抱えてこう言った。
「結論は。かわいいな、結構」
また、一人陥落。
見事に紅魔館のネズミを捕まえた猫達であった。
しかし。
こんな和やかな雰囲気も一人の少女の声で、今日の弾幕が上がることになる。
「あ、いた!本当に居た!猫!」
「にゃあにゃあ、うるさい猫達はここに居たわ!」
「いいいい、妹様?!」
ここで今回の仕掛人、悪魔の妹フランドール・スカーレットが図書館に現れた。
「にゃあにゃあ、ってうるさいのにゃあ」
そして、最悪な事に彼女。
子猫たちの鳴き声で眼が覚めたようで、不機嫌度はマックスであった。
すごいぞ、吸血鬼の聴力。
一方で母性全開の小悪魔は、小猫達を抱えて一目散に逃げ出した。
しかし、そこに歩み寄る一匹の猫が居た。
『個別の11匹目、レモンと申します』
そう。前回の原因、生態不明の喋る猫である。
フランはこの猫を見て固まってしまった。
それにしても、この猫。物怖じしない変な猫である。
「…どうして喋るの?」
『わかりませんが、おそらくはy』
「すっごいしゃべるよ!猫じゃないの!?」
フランはその猫を抱え、地を蹴って舞い上がった。
目の前に掲げて、期待に満ちた眼で猫を見詰めている。
「それに奇遇だね!私は10人目だもん!」
「ああ、もってかないでー」
そして、そのまま図書館を飛び出して行ってしまった。
まさかパチュリーもお決まりのセリフを猫で言うとは思わなかったと話している。
また、喋る猫に眼を付けたのはフランドールだけではなかった。
「待てフラン!その猫は私のだ!」
そう。やはりの霧雨魔理沙もであった。
箒に跨り、すぐに追いかけようとしたのだが。
禁忌『フォーオブアカインド』
フランクローンABCが現れた!
「おっと!妨害あり、賞品ありの豪華な弾幕ごっこになったな!」
「あげないよ。私の猫だもの」
ワンテンポ遅れてパチュリーが魔理沙の横まで飛翔してきた。
そして、弾幕勝負は基本一対一。
魔理沙はここをパチュリーに任せて、猫を追おうとした。
「じゃあ、ここはよろしく!」
「待ちなさい。うちには一応猫がいるから」
「今攫われたじゃないか」
「多分、猫度のやつもいるでしょう」
「なるほどな」
避けて喋るのは幻想郷の基本動作。
どうやらこの二人。
フラン本体の方は、外に居る者たちに任せたようだ。
「でもまあ、あの喋る猫は私がいただくぜ!」
「どっちの喋る猫?」
「あっちの猫は、予約済みだろ」
「なるほどね。ここは連携してあげるわ」
こうして、紅魔の詠唱組が結成されたのであった。
────
場所は変わり、こちらは紅魔館のテラス。
咲夜さんが『今日は私のお客様』なんて、
嬉しいことを言ってくれたのでホイホイついてきたのだ。
「絶景なんだぁここはぁ」
そう、特に夕焼け。
遠くに見える湖に、沈む太陽が映り込んで幻想的に見えるんだよなぁ。
ああ、和むなあ。
『それはすごい!記事になりそう!』
『でしょう!あの人基本馬鹿なんですもん!』
あの妖怪さん達め!人の現実、突きつけちゃ駄目!
僕の回想を打ち破る大声で、門の所で文さんと美鈴さんが話をしていた。
偶にこちらを向いてニヤニヤしながら。
「くそぉ、なんて羞恥プレイだ」
どう見ても、僕に関する事。
絶対に咲夜さんに関する事を話しているに違いない。
どうにかして口止めする方法を考えなくては。
明日には『門番は見た!紅魔館の恋愛情事!』
なんて号外が配られることになってしまう。
「○○様おまたせ。お茶をお持ちしましたわ」
「え?ああ。ありがとうございます」
そこに咲夜さんが楽しそうにお茶を持ってやってきた。
こちらもこちらで最大限の違和感をお茶請けにって感じだ。
勿論、突っ込みますよ。
「あの、咲夜さん」
「何?○○様」
これだ。すっごい瀟洒だとは思う。
だが、僕の中の咲夜さんメーターが働かない。
「その、○○様じゃなくて、いつも通りに」
「だから。今日は私のお客様なの」
さっきからこの一点張りだ。
うん、もういいか。なんだか楽しそうだし。
紅茶も美味しそうだ!
「おお!これうめぇです!」
「そう言う事。なんでもお申し付け下さいな」
咲夜さんは僕の向かいに座って、紅茶を飲んだ。
昼下がり、咲夜さんと景色のいい場所でティータイム。
幸せの極みだ。
ん?ちょっと待て。
聞き逃すところだったぞ!
「つまり今日の咲夜さんは僕のメイド長なんですか?」
「そのつもりだけど」
おお。
この立場を利用すれば。
よしっ!ぐふふ。
「じゃあ、メイド長へのお願いをしてもいいですか?」
「はい?どうぞ」
前から咲夜さんにしてほしかったあれをお願いしようぜ!
ぎぎぎ。
「では、まず立ってください」
「はい」
おお!スカートを乱さず立ち上がったぞ!
ま、待て、ここからは慎重に。
「じゃあ、片足で立ってください」
「ん?はい」
おお、僕だけのメイド長だ!
そして、見えそうで見えないぃぃ!
はっ!
これ以上駄目だ!
い、いや。行け行け!押せ押せ!
「次に、四つん這いになってください」
「はい」
さ、咲夜さん!普通ここは聞かないよ!
やべえ、後ろに回って見てえええ!
次は何?って表情でこっち見ないでぇ!
可愛いから!
い、いや。待て…
だ…駄目だ…まだ悶えるな…
次だ!
さあ!どんなあなたを見せてくれるの十六夜咲夜!
「そこで一言どうぞ!」
「え? わん?」
「ぐはああぁぁ」
何という威力だ!
にゃあ、じゃないのね!
コンセプト的ににゃあって言ってほしかった!
でも、悪魔の狗だもんね!
かわええええ!
鼻血止まらん!
「かわいいっす!咲夜さん!」
「!!!」
顔を真っ赤にして立ち上がる咲夜さん。
可愛すぎるの。
あ、やべ。ナイフ持ってる!
怒ってるよやっぱり。
「すいません!咲夜さん!」
「ねぇ? 危機一発って言うゲーム知ってる?」
「え? いや、知りませんけど」
ナイフが飛んでくると思って身構えた。
しかし、出てきたのはよくわからん話。
「パチュリー様から聞いたの。必要なのはナイフと樽と人間の男らしいわ」
「……はっ!」
そのゲームって飛び出したらうんぬんのやつだ!
か、完全に地雷踏んだ!
「聞いたときに思ったわ。私の新しいスペルにしようかって」
スペルとか!実験台にするつもりだ!
どうする!今最高にクールダウンした!
頭は冴えている!解決策を探せ!
「そうね。ナイ符『○○様、危機一発』とでもしましょうか」
あ、腕が動いた。
くそっ!させるか!
「らめぇええええ!」
「え?! ○○?!」
よし!咲夜さんの右腕!手首を掴んだ!
もう投げられん!
そして!
こっちに引き寄せ!
左腕も使えないように!
このまま!
強く!
抱きしめる!
「よぉぉぉし!どうです?!咲夜さん!ナイ符とか使わせませんよ!」
「……」
「咲夜さん?……!?」
どこが冷静なんだ僕は?!
思いっきり、咲夜さんの事抱きしめてるぞ?!
うわあ、どうしよう!
何か言わないと!何か!
「…やっぱり」
「え?」
な、なんだ?なにがやっぱりなんだ?
「やっぱり。結構、力強いのね」
ふと脇腹に感触があった。
咲夜さんの左腕は使えたようだ。
ほら、腰まで手を回されたじゃないか。
ああ。
もっと下に手を回すべきだった。
拘束が不完全だった。
でも。
ナイフは突き立てられない。
残機は減らない。
そっか。
これが最善手だったのか。
「しかも。結構、暖かいわね」
さっきから咲夜さん『結構』ってばっかりですね。
もう右腕も離してしまおう。
もっと咲夜さんを抱きしめてみたい。
あ、そうだ。
このお願いを聞いてもらおう。
「咲夜さん。もう少しだけ、抱きしめていていいですか?」
「…どうぞ。それがお望みであれば」
咲夜さんの頭に手を回し、なるべく力を入れないように。
だって、大好きな女の子なんだから。
優しく撫でたいじゃないか。
「ん~。結構、気持ちいいわ」
可愛いなぁ。
っと。やばい。
またメーター上がってきた!
咲夜さん、いい匂いだお!!
よし!言うか!
今言わずして、いつ言うと?
咲夜さん大好きです!
と、暴走しかけた次の瞬間。
屋敷を揺るがすほどの爆発音。
「うわ?!」
「…ん」
爆発音は多分図書館からだ。
音も篭っていた感じだったし、多分そうだ。
魔理沙のやつだな、邪魔をしおって!
って、ん?
「あの、咲夜さん?行かないでいいんですか?」
「……何も聞こえなかったわ」
ちょ、更にぎゅっとくっついてくるんだが?!
うわぁ、いい匂いだ、マジで。
うん。
何も聞こえなかった。
パチュリーさん、頑張って猫を守ってね!
「あ、そうだよ」
「…離すと撃つわ」
「い、いや。違いますって!猫!子猫達!」
「……あ」
咲夜さんも気がついたようだ。
変な猫ならいざ知らず、大半は子猫達。
マスタースパークなんてされた日には、
レミリアさんも怒るだろうな。
駄目だ、咲夜さんが叱られる。
名残惜しいが、仕方がない。
子猫のためだ。咲夜さんのためだ。
やっとの思いで引きはがした。
改めて咲夜さんを見ると、いつものメイド長な咲夜さんであった。
「では、ここからは弾幕脳で行きますわ」
「それでこそのメイド長です」
とりあえず、咲夜さんと一緒に図書館に向かうことにした。
イージー弾幕でありますように。
めでたし、めでたし。フラグ、フラグ。
:::::::::::::::::::::
「ウフフ」
今、凄い綺麗な羽の生き物が横切ったんだ。
「ふ、フランちゃんだ!」
爆発音は噂の悪魔の妹君だった。
そして、心配の方は悪い状況。
「今あの喋る猫抱えてましたよ!」
「そうみたいね。追うわよ、○○!」
「え、さ、咲夜さん?!」
咲夜さんに両脇を抱えられ、飛び立った。
って、待ったああ!
「僕はあの子は追いませんよ!」
「連続で対吸血鬼戦とは貴重ですわ」
「僕の価値観ではありませんから!」
ちょ、これ、僕にも弾幕ごっこさせるつもりだ!
球も撃てないし、避けられないのに!
「全妖精メイド出動よ!妹様が脱走したわ!」
おお。
普段は妖精らしくきまぐれで働いているメイド達が一瞬で集まってきたぞ!
これなら僕らの出番もないな!
って、あー、もう!
すぐに追いついちゃったし!
「咲夜だ!見て見てー、私の11人目だよ!魔理沙が連れてきてくれたの!」
フランちゃんは喋る猫を見せ付けてきた。
でも、言う事は、相変わらず訳がわからない。
「よかったですね。 私の方も猫係を連れてきました」
咲夜さんも僕を前に突き出してアピールした。
え?何これ?
「○○は猫係なの?」
「いや、違いますよ!」
「昨日猫を飼う事を決定させたのが○○ですから」
いや、仮にそうだとしても弾幕ごっこはできませんよ。
フランちゃんに抱えられた喋る猫も困っている感じだ。
あいつは猫かぶりで決定だ。黒幕妖怪め!
しかし、咲夜さんは僕が猫係だという前提で話を進めるようだった。
「二つ名おめでとう○○。『紅魔館の猫係』」
「いや、え!? やったー!」
ねんがんの ふたつな をてにいれたぞ!
ん?いや違うって!
紅魔館の猫係
○○
おいぃぃ!変なテロップ入れんな!
やらないってば!
「へえ。猫係如きが吸血鬼に敵うと?」
「そ、そうですよ!咲夜さん!」
「あら?二人とも無粋ですね」
フラワリングナイトだ。
紅魔館のメイド
十六夜咲夜
「メイドと猫係の相性の良さを得とご覧あれ」
咲夜さんの啖呵で、妖精メイド達が一斉に攻撃を開始した。
おお。こいつらルナティックだ!
「ウフフ、今の私は絶好調なのだよ!」
しかし、フランちゃんも緑の玉を全方位にばらまきながら避ける避ける。
「咲夜さん!離して!こっち飛んできた!」
「始まったら、オプションは静かに。お約束よ」
咲夜さんも僕を抱えながら避ける避ける。
妖精メイド達も大半が対応できている。
話に聞いていた悪魔の妹の弾幕ってこの程度なのか?
これは温い?
いや、紅魔館のメイド達が凄いだけさ!
「咲夜さん!行けますよ!」
「ちょ、暴れないで」
「「あ」」
ぴちゅーん。
「いたぁ、大丈夫、○○?!」
「いてええ!すいません、咲夜さん!」
僕と咲夜さんのPは、咲夜さんが自動回収していた。
しかしだ。
今日紅魔館に来て、咲夜さんを見た感じでは、
パワーも結構溜まっているはずはずなのに。
先ほどから咲夜さんは攻撃をしようとしない。
「咲夜さん!攻撃しないんですか?!」
「妹様が猫を持ってるから…と言いたいけど、あなたを持っているからよ!」
って、僕のせい?!
あの猫は、球が当たっても大丈夫そうだし、それはいい。
フランちゃんを倒してから取り返せば。
「それなら、どうして僕を連れてきたの!」
「あなたが攻撃して!太股にナイフがあるから」
答えてないっす!
答えてないが、仕方がない!
届くかわからないが!
上を向いて、太股を確認しようとしたのだが。
「わ、○○!それ以上、上を向かないで!」
「ぶっっ!」
うわ、咲夜さんの胸に顔が埋まる!
駄目だ、手探りで取るしかない!
ここか?!太股は?!
「ちょっと○○!お約束の間違いしないの!」
「え?わぁ!すみません!」
すげえ柔らかいの何あれ?!
「「あ」」
ぴちゅーん。
今度は僕だけが被弾。
「それは自業自得!」
「いててて、すみません!」
「ウフフ、駄目駄目じゃないあなたたち!私たちに比べたら!」
相変わらず緑の弾をばらまきながら、攻撃を避け続けるフランちゃん。
これ、噂のレーヴァテイン使われたら、やばいんじゃないか?!
「咲夜さん!やばいですよ!」
「もう大分わかったわ!」
ふと、浮遊感に襲われた。
って?!咲夜さん手を離したぞ!
「プライベートスクウェア!」
と、思ったら、咲夜さんに抱えられていて。
そして、多数のナイフが、フランちゃん目がけて飛んでいった。
いや、これは投擲だ!時を操ったんだ!
「咲夜さん!すごいっす!」
「こんなものよ!一回立て直すわ!」
ナイフが当たったかも、確認せずにこの場からとんずらした。
:::::::::::::::::::::
少し離れたところで、二人で降り立った。
ああ、今考えると怖いぞ!
「とりあえず振り切りましたけど」
「ええ。いつも通りに状況把握しようとして、一機減らすなんてね」
咲夜さんはフランちゃんが脱走したときは、
最初に様子見を行うのが、パターンなんだそうだ。
「僕はもう残機1機ですよ」
「大丈夫。諦めないのが弾幕ごっこよ」
つまりここからが本当の勝負というわけだ。
僕も今度は隠れて、咲夜さんを応援するとしよう。
だが、妖精メイド達も頑張っているようだし。
取り合えず、咲夜さんの作戦を聞いてみよう。
「それで状況把握ってどれだけわかったんですか?」
「そうね。とりあえず、妹様はスペル発動中と言うことがわかったわ」
「どうして?」
まず、一つ目と咲夜さんは人差し指で数える。
仕草が可愛い。
「いい?周りには多数の妖精メイド。いつもだったら、スペルで一掃よ」
やっぱり。緑の弾だけだったしな。
と言うか、妖精メイド達カワイソス。
結局、全滅じゃないか。
つまり。
「それをしなかったと言うことは」
「そう。そして、それは『フォーオブアカインド』だと言うこともわかった」
そして、二つ目。
咲夜さんピース可愛い。
「いや、一々聞き返すのもなんですので、ずっと咲夜さんのターンで」
「いいわ。 パチュリー様と小悪魔が猫を攫われて追いかけてこない」
「きっと分身たちが足止めをしているに違いないわ」
うん、なるほど。
そして、三つ目。
咲夜三。
「そして、これは妹様の弾幕ごっこよ」
「今、屋敷には弾幕使いが何人いる?」
おっと。聞かれたからには答えなくては。
「えっと。咲夜さん、パチュリーさん、美鈴さんに文さん。とレミリアさんが」
「あと、魔理沙もね。妹様が言っていたから」
ああ、猫を魔理沙が連れてきたとか言ってたっけ?
それでつまりどういう事なんだ?
フランちゃんの弾幕ごっこで?
何人ってことは人数に関係したことか?
6人?6ってなんだ?
!!
「あ!ちょうど6人!」
「そう。6面までクリアーして、猫をゲットしハッピーエンドよ」
やべぇ!最強のプレイヤーじゃないか?!
ボスの面子も強いし。
これはやべぇ!
「つまり1面をパチュリー様か魔理沙が勤めてるってことね」
「あれ?一人追いかけて来ませんが」
「それを除けば理屈は合う。じゃあ、私たちは何でしょう?」
ん?私たち?
恋人!…では無いな。僕は大好きだけどな!
そんな唐突な話じゃなくて、話は連続しているものだ。
つまり、弾幕ごっこで1面が2人の内のどちらかで。
僕らは何か。
ざわ…
「うっ…!!」
ざわ…ざわ…
ま、まさか!
咲夜さんを見ると、4つ目の指が上がっていた。
そして、咲夜さんの4の宣告と言うのが。
「そう。2面のボス、十六夜咲夜と中ボス、○○よ」
ぐっ…!すでに組み込まれていたっ!僕も!
待て!ざわついている場合では無い!
「中ボスとか無理ですって!」
「そうかしら?妹様も抱え落ちする可能性はある。
使えるスペルは精々4、5枚 どう?やる気出た?」
「僕は弾幕撃てませんし、避けられませんよ!」
撃てないんだから、抱え落ちもさせられない。
避けられないんだから、スペルを使われても耐えられない。
どう考えても、無謀だった。
そして、咲夜さんの手が開かれた。
「ところで? 残機はいくつだっけ○○?」
「はっ…!」
このために僕をっ…!!
「そう。今の妹様の機のボムを減らしてほしいの」
「残機をかけてっ…!!それが中ボスの役目…!!」
この時、○○の残機1機。現在の価値で、この機と次の機で最後である。
『495年の波紋!』
遠くの方から、フランちゃんの声が聞こえてきた。
「あ、スペル使ってるわ。これで後二個くらいかしら」
「くっ!あ!パチュリーさん達来ますよ!」
「来ない」
「ぐっ!!」
なんで来ないの?!
2面だから?!まだ2面だから?!
じゃあ、分身に任せて、2面に進んだフランちゃんはチート?!
訳がわからん?!
「ねえ?2面のボスがいつも負けるつもりで、弾幕ごっこをしていると思う?」
「うっ!」
「していると思う?」
「私は思わない。猫も取り返す。妹様も楽しませる。それが2面のボスよ」
「ぐぐぐっ!」
思いませんよ、もちろん。
どうする?
すごい瀟洒だ。咲夜さん。
だが、声が緊張でもう出ない。
情けない。
「もう、仕方ないわね」
突然、咲夜さんは立ち上がった。
そして、片足で立ち。
続いて四つん這いになり、こう言った。
「お願い。○○様」
「ぐはあああ」
これさっきお願いした猫科のポーズだよ?!
実は片足立ちはいらなかったんだよ!
可愛いなああおい!!
って!?
「い、いきなり何ですか」
「○○、今日のあなたは私のお客様なの。あなたと一緒なら勝ちたいのよ」
「え?」
まただ。
またこの眼だ。
咲夜さんに見つめられると、逆らえない。
何かを期待している眼だ。
今回はどういう意味かはわかっている。
「今日だけ、私の弾のお客様になってくれないかしら」
「……」
あとは、答えるだけだ。
くっ!こんな時に暴走できないでどうする!
そうだ。
これくらいお願いしても罰は当たらないだろう。
「一つだけ。お願いしてもいいですか?」
「どうぞ」
「にゃん。って鳴いてください」
「………にゃん♪」
………音符付き!!!
「よおおおおおおし!行くぞこのやろー!」
立ち上がり、咲夜さんに振り返らずに駆けだした。
生きて帰ったら、もう一回お願いするんだ…
新ろだ102、103、120、153
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最終更新:2010年05月16日 00:41