朝日が昇る・・・くそっ黄色いぜ。
三十路を超えると徹夜が辛いもうノリや勢いだけで乗り切れないことがいやでも判ってしまう。
『ナイトピープルどもの気分が判る様な気がしてきた』
すでに朝日は○○の目を攻め立てるだけの物となっている。
欠伸をかみ殺しながら針糸を進めているとカウベルが来客を告げる。
『いらっしゃ―――なんだマガトロの嬢ちゃんか、なんか入用なのか? 』
カウンター越しに入り口を見ると七色の魔法使いことアリス・マーガトロイドが立っていた。
「シャンハーイ! 」
「ホラーイ」
『おお、上海と蓬莱も一緒かまあゆっくりしていけ』
カウンターの上にクッションを置く
「ちょっと○○!わたしはなんだ扱いで人形には座布団が出てくるのよ!! あとマガトロの嬢ちゃんはやめて」
だってなぁ週に3回も4回も入り浸られたらなあ・・・・・・
『へいへい、アリスのお嬢ちゃん。今日はどうした?お茶ぐらいならご馳走するぜ。セルフだが・・・・・・』
椅子を勧めつつ立ち上がる。ほぼ半日ぶりに伸ばした背筋が悲鳴を上げそうになる。いやぁ年取るとつらいね。
「べつにこれといった用があるわけじゃないわ。それとも私が来ると都合がわるいのかしら? 」
『そうは言わんがね。最近客が来たと思うとお前さんなんでね』
「それはこんな所に店を構える貴方がどうかしているのよ」
里から紅魔館に続く湖の辺、ここに○○服飾店が有る。幻想郷では珍しい洋風仕立て屋である。
『なるほど。うちの立地にダメ出しか・・・・・・ほかに行くところ無いのか? 』
年頃の娘がおっさんの家に入り浸る。外なら確実にご近所のうわさもんである。
「そんなんじゃあないわ!! 今日は客よ! さっさと人形用の髪とレース出しなさい!!!! 」
幻想郷には綺麗所の娘さんが多いんだがどういうわけか血の気が多いからかいと引き際の境界を誤ると大変なことになる。
『わかった。待て!人形に剃刀持たせんな!! 』
さっさと髪とレースを包む
『人形用の髪とレースあわせて75文だ』
いい加減眠い値段も結構適当言ってしまう
「ちょっと安すぎない? 」
物が不安なのかその場で検める。
『レースはサービスだ。リハビリがてらに編んでみたんだがな――人形用なら問題ないだろ』
2メートル位繰り出すと捩れてしまう。均等な力で編めてない証拠だ。
『さあ、もう帰りな。俺は風呂入って寝る、それとも一緒に入って行くか? 』
「誰があんたみたいなおっさんと風呂に入るのよ!帰るわ!!! 」
肩を怒らせながら店を出るアリス、上海と蓬莱が後を追う
窓越しにそれを眺めつつClosedの立て札を出して施錠する。
風呂に向かう○○の松葉杖の音が店内にコツコツと響く
『長いこと一人で居るのには慣れてるはずなんだがなあ・・・・・・やけに広く感じる』
一人ごちながらきっと疲れが溜まっているからだ。風呂に入って一杯やってさっさと寝ようそう思った。
─────────
ちくちく、チクタク。
針の音だけが辺りに響く
そんな静かな午後
三十過ぎのおっさんが猫背で一心不乱にフリルを縫い付ける。
フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、
フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、
フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フラン、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、
フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、フリル、
フリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリ・・・・・・
ふり
うま
プス。
『――っ、俺はフリルをやめるぞーーーーーーーーーJOJOーーーーー 』
俺の精神がフリルでマッハ。ルーチンワークってキツイね。
くそっいくらなんでもフリフリしすぎだろ常識的に考えて・・・・・・
瀟洒な従者からのデザイン画を改めて見る。
帽子もワンピースもドロワも靴下もフリフリフリ―――以下略
納期まであと五日、子供服二着にメード服一着納期までに仕上げれば言い値で買い取る。
今なら言える、受けるんじゃ無かった(涙)全ては貧乏が悪い。
『つーか趣味全開だろ咲夜さん』
店の立地から考えて一番の上客は紅魔館なのだ。
サイズ的にも子供服は二着で一着みたいなものメード服は仕立て直し楽な仕事な筈だった。デザインを見るまでは・・・・・・
『フリフリフリフリってだぁーーーーー』
変な独り言まで出始めた。俺、死ぬの?
「ちょっと、何があったの? 声表まで響いてるわよ」
いつの間にかマガトロの嬢ちゃんが来ている。
『よう、嬢ちゃん悪いが今日はお相手できねぇ。お茶請けの柏餅はテーブルの上、お茶は勝手に入れてくれ。それを食ったら帰るんだ』
フリルの中心で俺が叫ぶ。絵的に変態だねどーも。
自虐しつつも針糸は淀みなく進める。毎日が8月31日だ。
「○○、忙しいのは判るんだけどあんまりじゃない? 」
白黒ならこれであしらえるのに
『俺はデスマーチで、年度末で、夏コミ前なんだ!! 』
ズヌ。針が刺さる。なんでも力むと碌な事がない。
痛みを堪えて手を振っているとチェストに強打
『~~~~~~っ』
声も涙も出ない、ただ痛みで体がクネクネする。
そしてそのままバランスを崩して床に倒れこむ。リノリウムの床きもちいい~~じゃねぇ!!
ああ、駄目なんだって休んだら。アドレナブーストが切れたらきっと・・・・・・瞼が重い、時が見える。
~○○爆睡中~
トントントン、心地の良いリズムが○○の意識を浮上させる。現在潜望鏡深度
ぼやけた視界は90度横転していた。どうやら横になっているらしい。
はっきりとしない頭で台所を見やる。
小さな影が逆光の中で踊る。
トントン、トントン、トントン
リズミカルな包丁の音を聞きながら、母さんが来たそう思った。
きっと白菜とジャガイモの味噌汁を作っているに違いない、おかずは何だろう。
ここまできて○○の意識は緊急浮上を開始する。アップトリム90って奴である。
『ちょおっとまて、母さんが居るわけねーだろ』
ボソッとごちる
ここは幻想郷、飛行機でも新幹線でも来れない。それにもう居ない。
「やっと起きたわね○○、体の調子はどおなの?」
独り言を聞きつけたのか台所から声がかかる。
『悪くないぜ、マガトロの嬢ちゃんってなんで嬢ちゃんが居るんだ? 』
我ながら締まらないセリフだ。もうちょっとハードボイルドに行きたいのだが
寝起きのおっさんには無理な相談であった。
「覚えてないの? 私が来た直後に倒れたでしょ、あとマガトロの嬢ちゃんはやめてスシネタじゃないんだから」
『そうか嬢ちゃんは魚類だったか・・・・・・ 』
「いい加減目を覚ましなさい、えさあげないわよ」
くだらない会話のキャッチボールで頭が冴えてきた。
ここは俺の家であれは嬢ちゃん、そこの塊はフリル。
『フリル・・・・・・フリル!! 嬢ちゃん今何時だ!? 』
「さわぐなおっさん!!テーブルくらい拭いても罰あたんないわよ」
『おっさん言うな』
人に言われるときつい事って有るよね。反撃したいのは山々だが素直に洗面所に向かう。
男にとって食事を作っている女性は最強なのだ。炊事をした事があればなおさら。
顔を洗い布巾を持って戻るとすでに料理が並んでいる。一足遅かったらしい。
『あーその、何だ。いろいろとすまない。サンクス』
「べつにかまわないわ、倒れた人間ほおって帰るほど変人じゃあないだけよ」
『それでもだ、有難う』
「どおいたしまして、冷める前にさっさと食べなさい」
テーブルに並ぶのはミネストローネ白菜とジャガイモと茸が入っている
『おお、うまいうまい。所で茸だけ買った覚えがないんだが?』
「魔理沙がくれたのよ」
だいじょうぶなのか? もう六割ほどを平らげてしまった。
「そんな顔しなくても平気、魔法の森で取れる食用茸よ。それより何が有ったの?」
『フリルだ』
「?」
食べながら答えると首を傾げる。ちょっとカワイーと思ったのわ内緒だ。顔には出てないはず。
『お得意さんから特急の仕事が来てな、特急料金が取れるから安請け合いしたんだ。そしたらフリルだ』
「どこまで出来てるの? 納期は?」
『子供服二着、メード服仕立て直し一着。これがデザインだ納期は五日後の宴会』
「ああ・・・フリルねぇ」
『正直フリルが無きゃ普通に行けるんだがな』
そっとフリル減らしても良いかな?って聞いたら壁にナイフが突き立ってた。無言の脅迫なんだぜ。
「出来るの? 」
『布地は裁断済み、メード服はどうとでもなる布地の取替えと簡単な装飾だからな』
復讐にレースでスケスケメード服にしちゃる。
「間に合うの?」
『今からぶっ通しでやれば何とかなるだろ、終わったら暫く店休むが』
「しかたないわね。また倒れられてもめんどくさいし、店が開いてないのもこまるから分業で行くわよ」
「ベーシックな形までは私が、○○はフリフリとメード服をやりなさい」
言うが早いか縫い始める。おお玄人裸足だな。
『うまいもんだ、俺失業しそう』
「くだらない事言ってないでさっさと食べて手伝う!! あんたが受けた仕事でしょ!! 」
そんなこんなで気が付いたら主導権を握られていた。
この段階じゃお互いあまり意識していないのだが、宴会で号外すっぱ抜かれるのは当然の流れ。
天狗こわいこわい
───────
台風が過ぎ去り貫けるような青空が広がる。
空の高さが秋を感じさせるそんな頃
似つかわしくない少女の怒声が響き亘っていた。
「おそい!!!」
自分の胸元までしか無い様な少女が怒っているのは非常に微笑ましいのだが口には出さない。大人のTPOってやつだ。
『なあ、マガトロの嬢ちゃん、種族差別する気は無いんだが魔法使いって夜型じゃないのか? 』
松葉でコツコツいいながら家を出る。これでも最大戦速なんだぜ。
ちなみに現在卯の正刻(朝6時)を少し回ったくらいだ。おっさんには辛い。
「今のあんたに質問権は無い!! 私があの後どれだけ苦労したか知っていて!? あとマガトロ言うな!!! 」
わざわざ浮き上がり目線を合わせてくる。アリスさん、近い、ちかいよ!
因みにあの後とは宴会後の天狗の取材についてだろう。
久々に纏まったお金が入りこれでロハス・ロハスな生活が待ってるぜーと盛り上がっていた俺の元に奴が現れた。
『だがな嬢ちゃん俺は正直に答えただけだぜ』
「なお悪いわ。あの天狗の新聞はゴシップもいいとこ、外の東スポみたいなもんなのよ」
『東スポ幻想入りしてんのかよ』
「さあ早くしなさい里までは私が中吊りで空輸してあげるわ」
『いやです、そんな逆ヘイロー』
「まさか徒歩で行く気なの? 旅なれたの人間でも半日はかかるわよ」
嬢ちゃんの視線が俺の脚に注がれる。左足のひざから先は風に泳いでいた。
なんだかんだで怒っていても気を回してくれるわけだ。
『くくく、気にすんな。まあお前さんが飛ぶより遅いかもしれんが秘密兵器があるんだよ。ちょっと待ってろ』
納屋に入りケンケン飛びで進む。
すぐに目的の物にたどり着いた。インジゲータはグリーン、チャージ完了である。サンクス天狗!
『待たせたな。ロハス号だ』
ヤマハパッソル-L 電動スクーターだ。
バッテリーリコールで去年生産中止、程なく幻想入りとなった。
「妙に小さく見えるけど平気なの? 」
わるかったなでかくて。
『そういうがな、人が全力疾走するより全然早いぜ』
そんなこんなで里へ出発と相成った。
~里への道中~
『嬢ちゃん嬢ちゃん、ちょっといいか?』
時速30㌔ほどで走行しながら声をかける。
「何、低空を飛ぶのは割りと気を使うんだから早くして」
なるほど上ばっか気にして下が疎かなのはそーいうわけなのね。
『上もいいが下も気にしろ、俺としてはこのままでも大歓迎だが』
最初は併走してたのに今じゃ茂みや低木をよけるため2mぐらいの位置を飛んでいるわけだ。
嬢ちゃんは知らんかもしれんがスクーターって視線低いんだぜ。
「どういう意味」
『そうだな、位置エネルギー的な意味でだ』
嬢ちゃんが先導して後から俺が付いて行く。嬢ちゃんが徐々に高度を上げたら・・・・・・あとはわかるな?ブラザー。
ふりむいた嬢ちゃんは思いのほか俺が下に居る事にきづいてはっとした。
「見たの!?」
『NON! 見えてから自己申告とかどんな死亡フラグだ!さっさと高度下げろ』
わき見運転はあぶねーんだよ。
「!! ○○前を見なさい」
『今前見たら見えちゃうだろ! 世のおっさんどもはいろいろ気ー使ってんだ」
「そんなことはどおでもいいから前を見なさい、危ないわ!! 」
その瞬間俺はちょっとだけ空に近づき、大地と抱擁を交わした。
そして順路に永遠亭が追加された。
後日、文文。新聞緊急増刊号が出回るのは当然の流れ。
「なによこれ~!!!!! 」
段々感嘆符がDB見たくなってくるな。つーかこっち見て切れるな。
『お前さんがどんな噂をどんな風に取り繕ったのかは知らんが、すぐに件の相手とうろついてたらこーなるだろ』
「なんでそんなにれいせいなのよ? 」
『さてね、いろいろと枯れてるんだよ。それより帰ったほうが良いんじゃないのか? 二度有ることは三度あるっていうぜ』
足早に店を去る嬢ちゃんの後姿を見つつ随分と賑やかになったもんだと一人ごちた。
続いとく
チラ裏
暇すぎて電波の受信感度が良好です。
意識してないときのほうがガードが甘くてクラクラする事が有るんだぜ。
そんなジャスティス
里での描写は力尽きたorz
後ろからそれも計算ずくなんだよって意見が聞こえるが聞こえない。
なーんにも聞こえない。
下に天狗の誘導尋問を掲載
~○○回想中~
地獄のフリルマーチから開放され三日ほどたったある日の事・・・・・・
俺は湖の辺にパラソルを立てトロピカルドリンク片手にダラダラしていた。
「貴方が仕立て屋○○さんですね?」
突然背後から声がかかる。
『どちらさんで? 生憎だが今日は非番だ仕事の話ならまた後日・・・・・・ 』
言ってるそばから眠くなってきた。お休み俺。
「ちょっとちょっと! 人が名乗る前に寝ないでください!! 」
目隠し代わりの本が取られてしまい視界が日光で赤くなる。
『うおっまぶし!!』
急激な日光が視界を奪う。
目が慣れてくると山伏姿にミニスカートという珍妙な格好の少女が立っていた。
『で、人のシエスタ邪魔するあんたは誰なんだ? 』
「申し送れました、私は烏天狗の射命丸 文 しがない新聞屋です」
『帰ってくれ金は有るが新聞はいらない』
外にいる頃から新聞屋は嫌いだ。
「違います! 今日は取材で来たんです!! 」
『取材もいらん。ただのおっさんを記事にする位なら東の神社で巫女の生態でも観察しとけ』
「そっちはもう間に合ってます。巫女ネタはみんな食傷気味なんです」
ああなんで幻想郷には我の強い女性しかいらっしゃいませんかね? このまま粘られると俺のロハス生活が遠のくだけだ。
『わかった! 取材とやらを受けてもいい、ただし条件が有る。あの風車が見えるか? 』
「見えますが」
『天狗なら風ぐらい操れるんだろ? ちょいと回してくれるか?120rpmくらいで』
俺のロハス生活第一弾! 風力発電。香霖堂で200円だ!!
「rpmというのは判りませんがそんな事でよければ回しましょう」
天狗がうちわを振ると風車は結構な速度で回り始めた。これで今日からオール電化だぜ。
『で何が聞きたい? スリーサイズ以外なら答えよう』
「ではいきます。宴会の前日まで貴方は何をしていましたか? 」
スルーされたよ。
『仕立て屋だから仕事してたよ家で』
「その際誰か来ましたか? 」
『店舗兼住宅なんで客ぐらいくるさ』
「おかしいですね、独自調査によると辺鄙な場所のせいで滅多に客が来ないとの事でしたが」
『うっさい。紅魔館の連中とか魔法使いとかそれなりに需要あるんだよ!! 現にメード長の依頼でデスマーチだった』
じゃなきゃとっくに干物になっとる。
「じゃあその時の事を聞きましょう。デスマーチとの事ですがその依頼一人で? 」
『いんや、途中でマガトロの嬢ちゃんが手伝ってくれた。正直感謝してる』
「つまり、アリス・マーガトロイドはよく来るんですね?」
『そーいえばなんだかんだで週三、四回はくるな。来るたび人形用の髪や布地やらかっていくぜ』
正直、うちの店の生命線だったりするのかもしれん。
「なるほど、では最後にその時の様子について」
『あ~ちょうどフリルでゲシュタルト崩壊しててな、気絶して目が覚めたら食事が用意されてた』
「そこんとこもっとkwsk」
『そいでもって、出来るのか聞かれて後五日徹夜すれば行けるんじゃないと答えた』
「ほうほう、それで」
『そしたら、また倒れられたらこっちが困る。だから私も手伝うわとそんな流れだったぜ』
「完成までずっと同じ屋根の下で寝食を共にしたんですか? 」
『いんや、最初は帰ってたぜ。ただ三日目の朝に嬢ちゃんが来るまで寝てたら蹴られた、それ以後は完成まで寝かせてくれなかった』
笑顔で今度寝てたら二度と目が覚めないようにしてあげるわってな。
「激しかったんですね」
『激しい激しい』
あのブーツどう考えても鉄板入ってたよな。
『まあ、すっごく世話になったんで今度ゆっくりサービスしようと思っているところだ(商売的な意味で)』
「有難うございました~じ・つ・に・き・ちょ・う・な・情報です。それでは、さらばです」
~回想終了~
───────
晴れる日もあれば雨が降る日も有る。
それは天候という物があるからで仕方のない事なのだ。
そして一週間が七日である以上来客が無い日も有るのだ。三日ぐらい
そんな孤独な午後
カラカラとホビンの触れ合う音が響く。
紅魔館フリフリ事変のお陰で店の在庫がリアルにピンチなのだ。
今は何よりもリロード優先なのである。
レースの製造方法には色々と有るのだが今の○○が好むのはベルギー式である。
フェルト製の大きなドラムにデザインをロール状に巻きつけピンで位置出しを行い手織りで織り上げていく。
でっかいオルゴールのような織機を使うので手に負担が掛からないのが何よりうれしい。
それでも日に30cmも進んだら優秀なのである。ここのレースにはおっさんの努力が詰まっているってわけだ。
つまり現状レースはもっとも補給しづらいのだ。
雰囲気的にはエクステンドしようと頑張っていたら事故死するようなものである。
状況は限りなく自転車操業、88無しでJSと殴りあう、そんな事になる前に補給を終えねばなるまい。
これを打開する一手は奇策ではなく単純化である。奇策に走るとき戦争でも仕事でも負けフラグが立っているものだ。
ようは単純で見栄えが良くて生産性に優れるものそんな都合の良い物が今の○○に必要なものであった。
そして○○は里で手に入れたリボンに一工夫する事で在庫の回復を図る事にした。
リボンにパターンを書き込み刺繍する、後は片側詰めればフリフリの完成である。
最後にキモイって思った奴とりあえず表にでような。結構生きるのに必死なんだぜ。
カロンカロン
カウベルが来客を告げる。
もう日も落ちて妖怪たちの時間となるような頃である。
『おや、珍しいですねメード長。何か入用ですか? 』
「久しぶりね○○、良いもの食べてる? 」
完全で瀟洒なメード長がカウンター越しに話かけてきた。
『おかげさまで人並みに食べていけてますよ、今日はメード長が初来客ですが』
「本当に大丈夫なの? うちの厨房まで来れればまかないぐらい出せるわよ、対価で吸血されるけど」
それは等価なんだろうか? 考えちゃいけないきっと。
『とりあえず遠慮しておきます、どっかの巫女みたく雑草食べるかどうかまでは追い詰められた事はないので』
カレー粉が有れば大抵何とかなるもんよとは東の神社の巫女の弁である。逞しい
店内に微妙な空気が流れる。
『で、なんにします? アンティークレースの良いのが入荷してますよ』
1850年英国製だぜ。
「今日来たのはこれについてよ」
そういって風呂敷包みを解く、出てきたのはメード服スケスケレースVerである。
『もしかして解れとかしてしまいましたか? ある程度の補修までなら無料で行いますよ』
ポーカーフェイスのまま会話を進めるが内心は冷や冷や物である、ロハス・ロハス生活に夢中ですっかり忘れていたのだ。
「そうじゃないのよ、デザインに不満は無いのだけれどもう秋になるでしょ」
おう! このデザイン許容範囲内だったですか? ちょっと意外。
『了解です、寒冷地仕様に衣替えですね』
こんな事もあろうかと布地だけは型紙で貫いておいたのだ。
『半刻ほどで変更できます、お茶請けのみたらし団子でも食べながら待っててください』
言うが早いか針糸を動かす、布地をレースの裏から当ててステッチで固定していく。
「上手いものね、流石にその速度でその仕上がりは私でも無理だわ」
カウンター越しにメード長の視線が降り注ぐ、チェックなのか、観察なのか、はたまた見てるだけなのか。
『まあ、これで食ってますしね』
さあ最後に胸部増加装甲を縫い付けて完成だ。
『うし、完成です。布地の織目と色を若干変えてみました、明るいところで見ればレース部分の下地はツートンに見えるはずですよ』
我ながらいい仕事をしたはずだ、今日の酒はきっと旨いはず。
「流石ね○○、これならあの噂も信じられるわ」
『どんな噂です? 』
「永遠亭の兎が言っていたのよ、担ぎ込まれた人間で腕を切るくらいなら首を切れって言い切った男が居るって」
『俺とは限りませんよそんなの、俺が切ったのは足ですし』
ひらひらと裾をアピールしてみせる。
「そうなの? 薬師の話じゃ回復不能の腕を生かすために足の血管と神経を移植したって聞いたんだけど」
おう! 後出しじゃんけんですか? どの道襲われたときの事なんて覚えちゃ居ないんだが。
『まあ、手か足かで選べというなら俺は手を選びますがね』
足は歩行以外は飾りだが、腕は飯の種だからなあ。
「○○は足の事あまり気にしていないのね、安心したわ」
『わざわざ気を使ってくれて感謝の極みです、もう日が落ちているのでお帰りの際は御気をつけて』
今日最初で最後の客を送り出し、義足でも作ろうかと思案する○○だった。
この事が増刊○○の秘密として号外に乗り、変なとこ怪我しなくて良かったと安心するのは別の話。
後日
今日はちょっとした大掃除している。
そこに何時もの様にマガトロの嬢ちゃんが現れた。
「ちょっと、こんな話初めて知ったわよ? 」
なんで怒ってるんだ嬢ちゃん。引き出しの中は・・・・・・クリア!
『そりゃ聞かれないからな、俺の怪我話なんて聞きたいのか? 』
カウンターをひっくり返しここもクリア! どこだ、どこにある?
『後はその椅子の下か・・・・・・嬢ちゃん動くなよ』
「え? なに、何なのよ」
そんな生まれたての小鹿のような顔しても駄目だぜ、覚悟完了1、2、3で覗くんだ。
バッ!!!
『なんだここも白か・・・・・・いったいどこにあるんだ』
椅子の下にも無し、もう風呂入って寝ようかな。
『盗聴器とかやっぱ無いのか、天狗には千里眼の耳版みたいのが有るのかね嬢ちゃん』
問いかけに嬢ちゃんは答えないそれどころか虫の声さえ聴こえなくなった。
『嬢ちゃん? 』
「白、そう今日は白レース・・・・・・見たのね? 見やがったのねっ!!!! ○○ーーーーーーーー!!!!!!! 」
戦葬《ドールズウォー》
『ちょ、いきなりなんだ!!店が壊れるやめろ嬢ちゃん!!! 』<ピチューン
事件後半壊した店に取材に行った天狗が蜂の巣になったのは仕方のない事。
───────
台風が鳴りを潜め冬将軍の足音が聞え出すそんな頃
○○は久々のハードボイルドを噛締めていた。
幸せとは? 人生とは? 壮大だが答えの出ない禅問答
いあいあ、答えは出ているのだ。ただ多くの場合、
望まぬ答えは見ようともしないし、本人はその事に気づかない。
外野にはバレバレだったり、意地の張り合いにしか見えなかったりする。
そして、些細な事ほど拗れると厄介なのだ。
~○○服飾店跡地~
戦闘開始より5分
最早店舗部分は立て直したほうが早いところまで来ていた。泣きたい
『嬢ちゃん、今俺たちに必要な事は、互いに理解しあう事だと思うんだが? 』
炭火アイロンを手に壁に背を預ける姿は無駄にハードボイルドしていた。
「黙りなさい!!あんたの言う相互理解ってのはスカートをまくる事なの!? 」
嬢ちゃんも、上海も、蓬莱も、個々で見ると可愛らしいのに人形を多数同時展開する姿はどう見てもホラーだった。
『そいつは誤解だ!! 何度も言うようだが俺は盗聴器を探していただけだ!! 』
「ゴカイもイソメも無い!! 大人しく爆破されなさい!! 」
なんで釣餌なんだろ、たまに嬢ちゃんの感性が判らん。
下らん事に気を回してたら人形の飽和爆撃が再開される。
『うおおおおっーーーーーー』
ケンケン飛びで住居側に逃げる。いつから此処はベルリンになった。
片足松葉杖の自分と魔法使いの嬢ちゃんじゃ同じ土俵にすら立っていない。
五体満足でも空手とアイロンを組み合わせたエクストリームアイロン空手じゃどうにもならん。爆破されて死ぬだけだ。
これ以上の、戦闘継続はどう考えてもBAD ENDしかない。
『あーあー、マガトロの嬢ちゃん聞こえるか? もうこっちには戦闘継続するだけの気力が無い。5分立ったらそっちに行く煮るなり、焼くなり好きにしろ』
返事は無い、住居側を爆撃して来ない嬢ちゃんの良心を信じて宣言する。
さて、どうする。辞世の句でも詠むか? いや最後の一服って奴にしよう。
ティーセット片手に店舗側に戻る。ひっくり返ったカウンターを起こし適当な瓦礫に腰かける。
『どうした~! 今なら確実にやれるぞ~? 』
紅茶を注ぎながら声を掛ける。まあ出て来にくいのは判る。
だからひたすら声を張り上げる。
『今日のお茶請けは自家製チーズケーキだ、一人で一台食べるにゃ多すぎる。最後の晩餐だと思って付き合ってくれませんかね!! 』
後はひたすら待つとしよう、どーでもいいが瓦礫の中でお茶会ってシュールだな。
一刻が経過、もしかしてあきれて帰っちまったか?
まあもう少し待つとしよう。
二刻が経過、段々日が傾いてきた。
もう少し待つとしよう。
三刻が経過、日没寸前、逢魔ヶ時って奴だ。視界はRに全振りしたように色を失う。
だから声を掛けられるまで、気づかなかった。飛んでるから足音もしないしな。
「ちょっと、いつまでそうしている気なの? 」
『そりゃあ、意地っ張りな嬢ちゃんが席に着くまでだ』
「はたくわよ」
『おお、はたけはたけ』
それで済むなら安いもんだ。
「じゃあ、これでゆるしたげるわ」
そういって嬢ちゃんは馬鹿でかい本を振り下ろした。
メギッ!!!
目が覚めるとすでに夜、月が昇っていた。
「やっと起きた?もう日付かわるわよ? 」
『やっとてな・・・・・・こっちは首がくっ付いてるのが不思議なくらいだ』
歯、折れてないだろーな? 紅茶の水面で確認する。
「だいじょうぶよ、前よりかっこよくなってるはずだわ」
さいですか・・・・・・もう好きにしてくれ。
「お茶すっかり冷めてるわね、入れなおしてくるわ」
鼻歌交じりに母屋に入っていく後ろ姿を見送る。 なんでそんなにご機嫌ですか?
そのままズルズルとクラゲのようにテーブルに突っ伏すと明日から店をどうしようか頭を抱えた。
───────
カタカタ、キコキコ、カタカタ、キコキコ
カタカタ、キコキコ、カタカタ、キコキコ
昔、ばーさんに聞いた事がある。
戦争中は森の中に黒板を引っ張り出して授業をした事を・・・・・・
辛いはずの体験を懐かしそうに語るばーさんの目を今でも思い出せる。
俺も今を乗り切ればそんな境地に至れるんだろうか?
秋空の下ミシンを掛けながらそんなことを思う。
そんな店舗復興二日目
一晩考えた結果、店舗部分に大きなテントを掛ける事にした。
結局のところ自分に出来るのは針糸を動かす事だけなのだ、体は針で出来ているってね。
幸いに基礎と床は残っているので湿気の問題は無い。
当座は風と雨がしのげれば良いのだ。何とか年明けまでに復興したい。
切実に(涙)
「○○ー、手ーとまってるわよ? 」
背後から声が掛かる。
『安心しなマガトロの嬢ちゃん、こっちは完成あとは援軍待ちだ』
店先には巨大なキャンパス地が広がっていた、一日半掛けて縫い上げた力作である。
「マガトロ言うなって言ってるでしょ、一旦お昼にしましょう。こっちも全部終わったわ」
大きな寸胴鍋を前に蝋燭を溶かしていた嬢ちゃんが言う。
『ああ、賛成だ、実は昨日からまともに食って無いんだ』
針糸を持つと他の事が疎かになる、昔からの悪い癖だ。
「一応聞いておくわ、昨日は何を食べたの? 」
『小腹が空いたらそこの炭火アイロンでな、パンに焼き目をつけてなチーズと一緒に・・・・・・』
「・・・・・・」
もはや呆れて物も言えんという表情だ。
「○○貴方って凝っている時とそれ以外の時の落差が激しすぎない? 」
そうは言うが男の一人暮らしなんてこんなもんだ、一人分の自炊って思ったより面倒なんだぜ。
凝ってみても食べるのは自分だけだしな。
『そうか? この方法を思いついたとき俺の中で革命が起きたぜ』
「もう良いわ、それじゃ台所借りるわね」
そういうと母屋に入っていく嬢ちゃん、もはや勝手知ったる他人の家である。
椅子にのけぞり、空を見上げる。視界一杯の青空、東から西へ流れる羊雲を目で追っているといいにおいが漂ってくる。
このにおいはシチューか。
「○○ーもうすぐ出来るわ! テーブルの用意しといてー! 」
随分と早いな? 椅子から身を起こし首を振る。
コツコツと松葉片手に母屋に戻る。テーブルを拭いてパンの用意でもするとしよう。
薪ストーブの上に放置したアイロンを手にパンに焼き目を付けていく、四枚目を終えた所で嬢ちゃんが鍋片手に現れた。
「またそーいう事してる、行儀悪いから止めなさい」
『原理は変わらんはずだがなあ・・・・・・判ったよ母さん』
「だれが母さんか!!! 」
くだらないやり取りをしているとカウベルが鳴る。
どうやら援軍が到着したらしい。
「おーっす○○! 邪魔するぜーっていいにおいだな! 私の分は有るのか? 」
言うが早いか着席する普通の魔法使い。
『よう霧雨、頼んどいた物は入手できたか? 』
「この私に出来ない事なんてないぜ!!ぱらすーとこーどとあるみぺぐぐだったな、香霖から貰って来たぜ」
盗ってきたんですね、分かります。霖之助さん・・・・・・今度御代持って行きます。
「魔理沙!! 食べる前にまず手を洗ってきなさい。それとあんたの席はこっち」
「やれやれ、いつからアリスは私の母親になったんだ? 」
思わず吹きそうになるが我慢だ。
「なに? 言いたい事があるならはっきりしなさい」
『いや、なんでもない。それより随分速く出来たな? 』
少々露骨だが話題の転換を図る。」
「昨日の残りを持ってきて温めただけよ」
そっぽ向きながら答える嬢ちゃん。機嫌を損ねたか?
「わたしは残りでも一向に構わん!所でいっつもこんな贅沢してんのか○○? 」
戻ってきた霧雨が嬢ちゃんの小言をスルーして半眼で俺のわき腹を肘で小突く。
『どういう意味だ? 』
「なに、アリスに毎日食事を作らせるとかどんな魔法を使ったのかき気になってな」
『人聞きの悪いこと言うな、唯でさえ最近天狗に目を付けられてるんだ』
「隠すな隠すな。大丈夫私の口は堅いぜ? 』
なんで語尾が疑問系なんだろうな?
『いいからさっさと飯を食え! それと嬢ちゃんこの手の免疫ねーんだ刺激すんな!! 』
母屋も吹っ飛んだら本格的にホームレスになっちまう。
「つまり○○、お前は免疫がある程度に経験豊富なわけだ。さあ事の馴れ初めから吐いてもらおうか」
『なんで天狗といい話をそっちに持って行こうとするかね? 嬢ちゃんもなんか言ってくれ』
先から黙ったままの嬢ちゃんを振り返る。
『!』
ヤバイっそう思って飛びのいても片足じゃたかが知れている。
愛らしい表情で飛び掛ってくる人形を見つつ最近こんなんばっかだと一人ごちた。
幸い投げられた人形は相手を気絶させる程度の威力しか無かった。食らった俺には何の慰めにもならんが・・・・・・
あと霧雨、俺を盾につかうな。
~食後~
『じゃあ、作業を説明するぜ。まず霧雨、お前さんは風車の支柱にテントの頂点のロープを固定してくれ 』
任せろとばかりに頷く霧雨。
『つぎに嬢ちゃんは人形でテントの四隅を引っ張ってくれ。俺がペグで固定する』
「わかったわ」
嬢ちゃんまだ機嫌悪いのか?
『じゃあ始める前にだ、霧雨これを履け』
紺色の下穿きを放り投げる。
「なんだこれ? 」
『そいつはなジャージだ。外じゃ作業用や運動用に着る。防寒にスカートの下にはく奴もいるぜ』
「なんかダサくないか? 」
『いいから履いとけ。あとで上もくれてやるから』
寝間着として重宝すんぞ。
「まあ、貰える物は貰っとく主義だ有りがたく頂くぜ」
事故から学べない奴は死有るのみだ。
『さて、始めるとしようか』
風も無かったためテントの設営は半刻ほどで終了した。
続いて防水作業に移る。
鍋から溶けた蝋を掬いバケツに移す。
『次にこいつを刷毛で塗りつけてくれ、火傷しないようにな。霧雨、上からこいつを着な! あと嬢ちゃんはこれに着替えるんだ』
霧雨にジャージの上を渡し、嬢ちゃんにはツナギを渡す。
『着方は分かるな? なんなら装備させてやろうか?』
「けっこうよ! 奥借りるわ」
皆の着替えが終わり、テントに蝋を塗りつけ始める
『なるべく薄く塗ってくれ、厚塗りすると割れる』
「わかったわ」
「了解だぜー」
どうにか日が沈む前に完成にこぎ付けた。
『どうにか完成だな、助かった。サンクス』
そういって母屋から包みを取ってくる
『霧雨、今日の報酬だ。受け取れ』
そういってい包みを渡す。
「詰まんないもんだったら承知しないぜ? 』
『いいから取っとけ。家の秋冬コレクションだ』
因みに中身はツイードのマフラーと綿入れだ。
「じゃあ貰っとくぜ。また依頼が有ったら呼んでくれ!じゃあな!! 』
言うが早いか箒で矢のように飛び去る。せわしない奴だ
『嬢ちゃんにも有るぜ』
そういって包みを差し出す。だが
「私はいい」
『遠慮すんな貰っとき』
「店を壊したのは私なのよ・・・・・・だからいい」
そういって俯く嬢ちゃん。なるほど時々居心地悪そうにしてたのはそういうわけね。
『あのなー嬢ちゃん言っとくぜ? 嬢ちゃんは俺を一発どついてゆるしてくれたよな? 』
うなずく嬢ちゃん
『ならとっくに俺も許してるんだよ。じゃなきゃ敷居なんて跨がせないね』
俯いたままの嬢ちゃん
『だからこいつは純粋に今日の礼だ、それに嬢ちゃん用の寸法で作ってあるから貰ってくれないと不良在庫になっちまう』
「ちょっと? 私の寸法なんていつの間に!? 」
『さてね? そこら辺は企業秘密とさせて貰おうか』
ようやく顔を上げてくれた。ちょっと目が赤い
だから気づかない振りをして踵を返してさっさと家に入ろうとする。
「○○!! 」
『気にすんなって別にアレな事はしてないぜ? 目測で寸法出しただけさ』
歩みを止めず答える。
そして最後にドアの前で振り返り
『俺は許した! だから明日からお前さんはいつも通り来てもいいし、二度と来なくてもいい。その辺の判断は任せる』
そこで一度言葉を切る。
『だが、○○服飾店は嬢ちゃんの来店をお待ちしております。じゃあな! 夜は冷えるぞ速く帰りな』
まるで執事のように芝居がかった動作で言葉を告げる。そして踵を返し、手を振ってドアを閉めた。
決して恥ずかしいからじゃない、そのはずだ。
──────
遅く起きてしまった日は何もする気がしない。
すでに太陽は真上に来ていて眩しい事この上ない。
じりじりと照りつける太陽に目を細めつつタバコに火をつける。
職業柄あまり吸わないのだが今日はいいもう休みで。
溜まってる仕事も無い、雨風も凌げる、何の問題も無い。
人間スモークディスチャージャーと化した○○、だらしなく椅子に背を預け煙を吐く。
回転する風車を眺めながら、このけだるさの原因を考えてみる。
売り上げが悪い?
煙を吐く
『ちがうなぁ』
元より仕事に忙殺される気は無い、売る気なら人里に店構えるわ。
店が吹っ飛んだから?
煙を吐く
『こいつも違う』
もともと有った廃屋をどうにか住めるように補修しただけだ。
幸い石造りの母屋はしっかりしていて掃除してガラスを入れたぐらいだ。
吹っ飛んだ店側だって母屋に寄生するように素人が増築しただけだ。
今じゃテントのままでも良い様な気がする。
最近まともな仕事してない
煙を吐く、上手くわっかにはならなかった。
これは半分くらい有ってるかもしれん。
大体、洋装の需要自体少ないしなぁ・・・・・・orz
売り上げは別にして腕が鈍りそうだ。
誰かフルオーダーとかしねえかな? 最近仕立て屋より手芸屋になってるよ。
鬱々と考えていると雨が降り出した。
あんなに晴れていた空はいまや灰色に塗りつぶされている。
足は全然痛まなかったのにな? のろのろと椅子を引きずって軒先に引っ込む。
雨は程なく本降りとなった。
流石に冷え込んできたので天幕の中に戻る、中はまだ日光の残り香に包まれていた。
タバコを消して、カウンタに顎を乗せる、降り出した雨がさらに気分をメランコにさせる。
今日はもう誰も来ないだろ? 店じまいするか・・・・・・
「ところがそんな時ほど客が来るのだった」
どっから湧いたんだ嬢ちゃん。
『マガトロの嬢ちゃん・・・・・・今日は客なのか』
「その言い方だといつもは客じゃないみたいに聞こえるわよ」
『あーそんな積りじゃあないんだ。すまん』
頭をかきながら謝る。
「どうしたの? だらけている様だけど」
『ちょっとな。欲求不満でフラストレーションが溜まってるだけさ』
このまんまじゃフリル屋になっちまう。
「いきなり何言い出すのよ」
そう言うと距離をとる嬢ちゃん。
『そうだ・・・・・・嬢ちゃんでも良いか。日頃のお礼も兼ねて、どうだ? 』
立ち上がって嬢ちゃんに向き直りメジャーを手にする。
嬢ちゃんだったらフルオーダーのスリーピースも似合うだろう。
里に出向いて色々とトータルコーディネートするのも良いかもしれん。
考え出したら止まらなくなってきた!
「ちょっと冗談はよしてよ! 」
さらに下がる嬢ちゃん、何で逃げる。
仕立てのフルオーダーがただで手に入れられるってのに。
『どうして距離を取るんだ? 別に痛くないぜ? 』
コツコツと杖をついて距離を詰める。
やがて壁際まで追い詰める。
「○○まずは落ち着きましょう! 」
変な事言うね。俺はただ嬢ちゃんの詳細な寸法が欲しいだけだ。
『いいからまずは両手を上げるんだ』
焦燥感も露に嬢ちゃんの肩に手を掛ける。
雨はまだ降り続いていた。
『ミッションコンプリート』
がくりと膝を付く、長い戦いが今終わった。
そして、戦果を確認する。所々赤く染まったり、焦げたりしている羊皮紙には嬢ちゃんの詳細なデータが書き込まれていた。
今度こそ意識を手放す。
「測られた・・・・・・上から下まで満遍なく」
両手を床についてうな垂れる。数々の抵抗も空しく測られてしまった。
まったく乙女の秘密を何だと思っているのか?
もう一度爆破してやろうかと思い振り返るとやり遂げた顔でぶっ倒れている○○の姿がある。
その表情は清清しく、一遍の劣情も見出せない物であった。
そこで気が付く、逃げようと思えば逃げられたではないかと。
○○相手なら飛ぶ必要も無い、走ってでも逃げられるのだ。
「此処までして詰まらない物が出来たら承知しないんだから! 」
ぶっ倒れた○○を人形で部屋に運び入れ布団を掛ける。
「アリスーウレシイノ?」
上海が聞いてくる
「そんなこと言ってないわ、次は無いって言っているだけよ」
「デモワラッテルー」
戯けた事を抜かす上海を引きずって私は家路を急いだ。
─────────
暦は十月初旬、二十四節気で言えば寒露と呼ばれる頃である。
日はだいぶ短くなり、あれほど賑やかだった蝉や蟋蟀ももはや見かけることも無い。
おっさんには厳しい季節の到来である。
だが今の○○にはその寒ささえ心地よく感じられるのだった。
『~~♪ 』
布の上をフィギュアスケートのように指が踊る。
賽の目に当たり線の引かれた布にチョークを入れる、一切の下書き無しに。
やがて、布の上には曲線の集合体がパズルのように書き込まれていた。
『さーて、こんなところか? 』
一息入れようと踏み出して体が傾く、そのまま立て直せずに床に手を着いてしまった。
あー、片足無いの忘れてた。
「ちょっと! 」
『あー平気だ嬢ちゃん。ちょっと足忘れてただけだ』
時たまこんな事もある。まあ殆ど寝起きの時なんだが・・・・・・
「○○は前科が有るからね。倒れる前に休憩入れなさい」
『ああ、裁断の前にティータイムにお付き合い頂けますか? お嬢さん』
わざと恭しく言ってみる。
「そう来ると思って用意してあるわよ。こっちにいらっしゃいな」
まったくどっちが客なのかわかんないわとこぼす嬢ちゃん。
『何というか用意がいいね。阿吽の呼吸? それとも俺がパターン読まれすぎ? 』
テーブルに向かいつつ聞いてみる。
「馬鹿な事いってないの。ミルク?レモン?」
『みるくちーで』
基本世話焼きなんだよな嬢ちゃん。指摘するとBADへGOだからしないが・・・・・・
もう、なごやかなお茶会がハンバーガーヒルになるのはかんべん。
照れ隠しに爆破はいけないと思います。ハイ
紅茶を飲みながら新聞に目を通す。
購読してないのに届くし、情報媒体がこれしかないのも事実なのだ。
『なになに? 神社二度目の倒壊・・・・・・今度賽銭でも入れに行くか』
同病相哀れむぜ。生きろ巫女
「新聞読みながらはやめなさい! 行儀悪いわよ」
言うが早いか新聞を取り上げられた。母さん、此処に母さんがいるよ。
「なんか不遜な事考えてない? 」
『いや、至極真っ当な事を考えてた』
言われてから別の事を考える。巫女の袖どうやって固定してんだろ?
『さて、次は裁断に入る。一週間後ぐらいには仮縫いも終わってると思うぜ』
話題の転換を図る。
「速いわね。別に急がなくても平気よ? ほかの仕事を優先しても良いし」
嬢ちゃんの気遣いが痛い、ほかの仕事は御座いません。
『急いでなんかいないから気にすんな。久々のフルオーダーだから針が進む進む』
言っていて顔がニヨニヨしてくる。
あ、嬢ちゃんが引いた。
『それに仮縫いが終われば袖を通してのフィッティングタイムだ! 楽しみにしとけ』
小物から靴までのコーディネート! 考えるだけでご飯3杯行ける勢いだ。
「そ、そうなの? なんとなく身の危険を感じるんだけど・・・・・・ 」
『危険なんて無い無い、何も無ければ袖を通して確認して終わりだ』
危険なのは売り上げと店の立地だけだ。
『ただなあ、仕立てってのは時間がかかるからな。客の体型が完成までに変わっちまう事がある』
嬢ちゃんは平気だと思うがね。
『まあその辺も融通効くように出来てんだけどな仕立て服は』
そういいながら改めて嬢ちゃんをチェックする。
「なんなのよ? はっきりしないわね」
身長は若干伸びてる。スリーサイズh〈大人の事情で裁かれました〉まあ、問題ないか成長期だし。
『はっきり言うと失礼だし』
体重計にそっと足を乗せるとことか想像しちまった。
増えてたら、ちょっとだけ浮遊してごまかしたりするんだろうか?
「怒らないから言ってみてくれないかしら、○○」
ああっと!地雷だ!
この場合もう怒ってるだろってーのは受け入れられないんだろうな。
『ではちょっと耳貸してくれ』
引き際を盛大に間違ったので開き直る。
髪を分けて素直に耳をこちらに向ける嬢ちゃん。残酷な俺を許してくれ・・・・・・
『じつはな、・・・・・・・・・・・・で・・・・・・・・・・・・なんだ。判ったか嬢ちゃん? そうか判ったか・・・・・・じゃあ俺はちょっと旅に出てくるから』
固まった嬢ちゃんを尻目に退避する俺
背後から声がかかる。
「ねえ?もしかして貴方見るだけで大体判ったりするの? Y/N」
俯いている顔はきっと赤い、羞恥か憤怒で。
そう、俺は寸法取った人なら判るんだ。
幻想的には見るだけで寸法がわかる程度の能力といった感じに。
『だいじょぶだ嬢ちゃん、漏れるような管理はしてない』
「ねえ? Y/N」
『わかった、答えるから穏便にな? 』
ニア YES
NO
ピッ
深く澄んだ秋空に炸裂音が響いた。
~後日~
「なんて卑猥な能力なのかしら! 」
その日の嬢ちゃんはおもいっきり着膨れしていた。
ごめんな、その無駄なんだ。わかっちゃうんだ・・・・・・
『安心してくれ、すでに暗記済みだ俺の頭の中にしか詳細データは存在しない』
天狗が怖いから紙媒体なんかにできねーしな。
顧客情報漏れたら店ごと槍刺しのナイフ攻めの上爆破が待っている。
「つまり、○○を始末すれば秘密は守られると? 」
えがおがこわいです。
『どこの船長だよ? 嬢ちゃん』
天狗の新聞で記憶を読む妖怪を知り絶望するのはちょっと先の未来。
新ろだ27-34
───────────────────────────────────────────────────────────
本編とは関係ないよ。
幻想郷に似つかわしくない電子音。
複数の炊飯器から発せられたものである。
蛸足配線されたの炊飯器は保温マークを点灯させて戦いのときを静かに待つ。
『ククク・・・・・・完成』
朝っぱらから変なスイッチが入ってるおっさんの呟きが湖畔に吸い込まれていく。
今日はバレンタイン。
戦である。
「なんなのよこれ・・・・・・」
アリス・マーガトロイドがそう呟いてしまうのも無理は無い。
いつもなら○○洋装店と書かれている看板は男のケーキ屋に変わっており、辺りには甘い匂いが漂っている。
またスキマの仕業だろうか?
不穏な考えが頭を過ぎる。
まずは中の様子を探ろう
十分に警戒しつつ扉を開ける。
『いらっしゃいませお嬢様』
扉→閉める→Go Home.きっとそれがいい。
脳は最善の解を導いたのだが生憎と体は動いてくれなかったようである。
ドアを開けたままフリーズしてしまう。
『なんだよノリ悪いな嬢ちゃん・・・・・・せっかく衣装までこしらえたのに。まあいいや一名様ごあんなーい』
飾り気の無いエプロンドレスにフリルの前掛けというあれな格好で少女を連れ込む姿は間違いなく有罪だろう。
扉が閉まると辺りには静寂と甘い香りだけが残される。
ここは男のケーキ屋・・・・・・
『おーい嬢ちゃんそろそろ戻ってこーい』
意識が飛んでいるのをよそにピタピタと頬を刺激したりむにっと引っ張ったりやりたい放題である。
『かくなる上は・・・・・・はい、あーん』
ショートケーキのイチゴを突き刺して口元に突きつける。
どう見ても女装したおっさんが尋問しているようにしか見えない。
やがて少女の目に光が戻る。
「はい、あーんじゃ無いでしょ?! 朝っぱらからなに寝ぼけた事してんのよ」
システムエラーから再起動を果たしまくし立てる一人の哀れな少女。
当の本人はこいつなに怒ってんだみたいな顔で答える。
『嬢ちゃん、今日はバレンタインだろ』
諭すような仕草が激しくウザい
「それがどう繋がると女装ではい、あーんになんのよ! 」
こんな時は乗ったら負けなんだが連れ込まれた時点で遅かったのかもしれない。
後にそう少女は答えた。
『はい、あーん』
再度イチゴを突きつける。
「やんないわよ!! 」
盛り下がるマインド、盛り上がるSAN値。
最初からクライマックスの展開にくらくらしてくる少女。
『そうか・・・・・・ショートはダメか・・・・・・ならチョコレートケーキで』
尚もはいあーんを敢行する女装を前になす術も無い少女・・・・・・
炊飯器から取り出される数々のケーキ、悪夢である。
「種類とか関係ないから!」
この状況を打破できる猛者は居ないのか?
少女を絶望が支配しようとしたその時
「じゃまするぜってじゃましたな・・・・・・ 」
期待の救世主は現れた。
「まってまって!魔理沙まって!○○を止めて!! 」
わらをも掴む勢いで援護要請。
「なんだか判らないがそういうことなら・・・・・・悪いな○○!! 」
取り出したるはまじっくなぱーむ
救世主は少女ごと吹き飛ばす。
「まったく私まで吹き飛ばさないでよ」
「一発までは誤射だぜ・・・・・・で、なんの騒ぎだ? 」
「どこから説明したもんかしら・・・・・・ 」
「なるほど○○が女装してはい、あーん。新世界の夜明けだな」
「開けなくていいわよ、そんなもん」
げっそりして呟く少女。
「でもどうしてそんな事になったんだよ? 」
「それが判れば苦労しないわ」
いまだ容疑者はは昏倒中。
テーブルにはケーキ。
少女げんなり中。
「まあ私に任せろ!こういうのは現場に手がかりが有るはず!! 」
家捜しを開始する救世主という名の野次馬ひとり。
そして
「原因は・・・・・・ 」
「ああ、こいつだな」
キッチンには一冊の本。
《ナウラのケーキ屋 これで貴方もはい、あーん》
「どっからこんなもん見つけてきたのよ・・・・・・ 」
題名こそ可愛らしいがその存在感は禁書レベルの禍々しさにドン引きの少女。
「まあこれは私が報酬代わりに処分しといてやるよ」
戦利品片手に去る救世主。
後には女装○○と少女が残される。
~後日~
『昨日なんか有ったか? 嬢ちゃん』
「と、特になにまないわよ」
『そうなのか? 家中ケーキだらけなんだが・・・・・・ 』
女装セットや看板は昨日のうちに爆破処理済み。
だがケーキを爆破するのは躊躇われた。
○○が何故ケーキを作っていたのか思い至ったから・・・・・・
「思い出したわ!○○はケーキ作ってたのよ」
『そういえばそんな気も・・・・・・』
「そうなのよ! 」
『じゃあ一日遅れだがなあ。知ってるか外国じゃあ男女で送りあうんだぜ』
『はい、あーん』
「!! 」
それは見事な平手打ちだった。
チラ裏
皆さんお元気ですか
私は元気です。
仕事が忙しくてちょっと遠ざかっていました。
本編の続きは近いうちに
>>新ろだ320
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倒れたままのトランク……
渓谷のように削られた玉砂利……
それは連れ去られた者が残したダイイングメッセージ……
「大丈夫ですかねぇ○○さん」
「まあ、殺しはしないでしょ? 」
残された巫女たち。
此処からでは本殿裏で行われている事はうかがい知れない。
風が吹く。
「さて、」
「行くのですか? 」
「巫女の務めを果たすだけよ」
お賽銭も貰ったしと霊夢。
「じゃあ私も風祝の勤めを果たしましょう」
続く早苗。
カッコいい事言っているが只の野次馬である。
「あんたアリスと会うの初めてだっけ? 」
「直接会うのは今日が初めてです」
「あいつは爆破が趣味の魔法使い」
「コメントしづらいですねぇ」
歯に衣着せぬ物言いに思わず苦笑する。
「しかも肉弾戦も結構いける口よ」
「殴りWIZですか…… 」
「格闘から6Aで拾われるとたまらないわ」
「○○さん無事でしょうか? 砂消しが必要な事態になっていなければ良いのですが」
「アリスもその辺は手加減するでしょ? しっかし○○なにやったんっだか」
側で見て、危なくなったら助けよう。
そんな野次馬根性優先の抑止力。
それが楽園の巫女。
そして染まりゆく現人神。
引っこ抜かれたマンドラゴラのように成すがまま……
引きずられながら考える○○。
何故ゆえにこんな事になっているのか?
そもそも何かしたっけか?
ここ何日かは嬢ちゃんには会っていない。
自分の預かり知らぬ所で妙なことでも起きているのだろうか?
答えがでる前に嬢ちゃんは歩みを止めた。
『やれやれ、どうやら絞殺は免れたらしいな…… 』
ネクタイを緩めてごちる。
「一体なにが有った? 」
手近な木に身を預け聞き返す。
「…… 」
嬢ちゃんは答えないまま歩み寄ってくる。
そのまま抱きつかれてしまった。
『俺の腹が恋しくなったのか? それとも悪い夢でも見たのか? 』
予想外の行動につい子供扱いしてしまう。
怒るか?
「いいからそのままで聞きなさい○○」
『フムン』
「貴方、最近誰かに会った? 」
『ここ最近ねぇ……巫女の他は大妖怪の八雲 紫ぐらいか』
「ビンゴね。紫は何しに? 」
顔は見えずとも声のトーンで分かる……すでに怒っていらっしゃる。
『手紙を持ってきてくれた。あとここに送ってくれたのも八雲 紫だ』
「私、今日貴方の店に行ったのよ。そしたら店なんか跡形もなくて……」
「感情にまかせて戦ったら負けちゃったわ…… 」
『なるほど、道理でボロッちい訳だ』
袖は解れ、所々焦げてすらいる。
直すのは骨だな。
「変な想像したら殴るわよ」
『どう直そうか考えていただけさ、続けてくれ』
「じゃあ此処か等が本題。私は釣り針、○○はエビよ」
『なぞなぞか? 』
「分かりなさいよ、仕組んだ奴がいるのよ」
胸に顔を埋めたまま、遠目にはどう見えることやら。
『フム。聞屋あたりが黒幕か…… 』
「あと紫も」
どうやらかなり腹に据えかねてるね。
なりふり構ってない所とかいろいろ自爆してるだろ。
まあ可愛いと言えば可愛いのだがね。
『せっかくだ、敵討ち一口乗らせてもらう』
そういって抱き寄せる。
「ちょっと調子に乗ってない? 」
『演技演技、グラミー賞なみの演技さ! 』
「それはそれで腹立つわね」
『で、どうやって懲らしめる? 』
「落っこちるついでに仕掛けを蒔いたわ。もすこし付き合いなさい」
『あいよ』
ねつ造記事を潰すために芝居とはいえ抱き合うのは本末転倒してないか? 嬢ちゃん。
抱き合った事実は残るんだぜ。
これじゃあ自らネタを提供してるようなもんだ。
言えば生傷増えそうだからこのまま黙っていよう。
俺の店無事だと良いなあ……
森の奥で友達以上恋人未満の関係(姦計)は続く……
「アイツ等、神聖な神社をなんだと思ってるのよ」
「まあまあ神様って割と俗っぽいですよ」
「それはあんたの所だけよ」
青いのが赤いのを押し留める。
カモフラージュ率は限りなく0に近い。
「静かにしないと気付かれてしまいます」
「しかし出るに出られなくなったわ」
「そうですねぇ……私も馬に蹴られるのはちょっと」
早苗が相づちを打つ。
一応○○を救うと言う名目で来てみたが、そこはすでに桃色空間(遠目には)である。
かといってこのまま戻るのも収まりが悪いのだ。
幹を背に会話するその姿、限りなく不審である。
「ああ……せめて会話が聞こえればお茶受けぐらいにはなるのに………… 」
幹越しに歯噛みする博麗の巫女。
「じゃあ聞かせてあげようかしら」
唐突に声が響く。
頭上に亀裂が走り、大妖怪が現れる。
「何処からってあんたにゃぁ無意味な言葉ね…… 」
「お互い暇なのは良いことよね」
天地逆さのままに視線を交える。
「あんたを懲らしめれば忙しくなるかしら」
お払い棒を構える。
「お生憎、私は暇するのに忙しいの」
音もなく降り立つと、ああ忙しいなどと呟きながら新たな隙間を開く。
「出前迅速、文々。新聞です」
「頼んでないわよ…… 」
会いたくない奴上位ランカーが揃い踏みである。
~少女げんなり中~
「なるほど全部あんたの仕込みね」
巫女は得心が行った。
○○が来たのも、アリスが来たのも、足止めの理由も、紫の暇つぶし(断言)の一環なのだ。
此処の所天狗の興味が自分からアリスに移っていたのは知っている。
ばらまかれる新聞を見れば明らかだ。
でもそれに気付かないアリスじゃない。
それなりに付き合いが長いのだ……それくらいは分かる。
…………ならこの状況は?
持ち前の直感が警鐘を鳴らす。
「帰るわ」
「あら、これから面白くなりますのに…… 」
「面白く無くていいのよ。早苗戻るわよ」
しゃがみ込んでいる守屋の巫女。
さっきから会話にも絡まない。
「早苗~? 」
背後からのぞき込む。
気配を感じたのか振り返る早苗。
その腕にダッコちゃん宜しく抱かれているのは……
「見てください! 可愛いんですよこの子たち! 」
アリスの人形。
「捨てなさい! 早く! 今すぐ!! 」
人形たちの作られた瞳がこちらに向けられる。
「ミツケタ! コッチヲミロー!! 」
「キンボシ! カンブクラスダ!! 」
「ミコハ ドースル? 」
「ダイジノマエノショージ ヤッチマイナー! 」
「ニンム リョウカイ!! 」
「直ったばっかりなのにー!! 」
叫びは爆音の中に消えた。
横目には紫が吹っ飛んでいる。
やけに良い笑顔なのが無性に腹立たしい。
車田飛びでしばし思う。
神社また壊れる。
新ろだ499
───────────────────────────────────────────────────────────
(現在未完)
最終更新:2011年03月27日 23:22