ハーレム?26
Megalith 2010/11/03
幻想郷の時間軸というものは、ここの住人と同じように結構のんびりしている。
昼飯を食べて少し経った頃、俺は茶をしばきながら八雲家の縁側で空を見ていた。
カラリと晴れた秋空に浮かぶ雲を見ていると、あの上で昼寝したらどれだけ気持ちいいだろうか想像してしまう。
言うに及ばず、今の俺は眠気が凄い。昨晩遅くまで読み物に耽っていたのが原因だろうか。
秋の夜長の贅沢な一時だが、こうまで欠伸が多いと考え物だな。
「○○しゃまー!」
舌足らずだが元気な少女の声で、現実へと意識が戻される。
見れば猫耳と二股の尾を生やした10歳ほどの女の子がこちらにむかって走ってきた。
八雲橙。八雲紫の式である八雲藍の式。人懐っこい性格で、よく俺や藍に甘えてくる。
橙は俺の前まで来ると、洋風のお嬢様のようにその場で一回転して仰々しく服の裾を摘みながらお辞儀した。
普段の天真爛漫な姿とのギャップがあって、なんとも可愛らしい。
「これは橙お嬢様。ご機嫌麗しゅうございます」
「えへへ、○○しゃま? 私を見て何か気づきませんか?」
後ろで手を組む橙の微笑ましい姿を、俺はじっくりと観察する。
服装はいつも通り。髪型も言うほど変わった様子は見られない。
顔の造形は変わってたら許さない。橙可愛い。
しかし少し時間をかけてみてみると、案外簡単にその変化は探し当てられた。
「橙……少し胸が大きくなったんじゃ?」
「えっ!? ほ、本当ですか?」
「うん、嘘。コスモスだろ? 頭に挿してある」
「うぅ、○○しゃまの意地悪! ちょっと本気にしちゃったじゃないですか!」
膨れっ面で俺の胸をポカポカ叩く橙。本当、見てて飽きない子だ。
彼女の頭を撫でてやると、一変して朗らかな笑顔になり、俺の膝の上に座る。
軽く抱きしめてやると、橙は嬉しそうに頭を俺に摺り寄せた。
コスモスと女特有の香りが、俺の鼻腔を満たしていく。
「橙は暖かいな……湯たんぽ代わりにしたいぐらいだ」
「そ、それって……一緒のお布団に、入るってこと……ですか? そんな、まだ心の準備が……」
「そんなに顔を赤くしなくても大丈夫。冗談だ」
「……また意地悪」
不機嫌そうに後ろの俺を睨みつける。俺は笑いながら、またその頭を撫でてやった。
やってもいいのだけれど、藍にバレたらと思うとどうにも。
しばらくそんなやり取りをしていると、不意に橙が体をこちらに預けてきた。
見れば心地良さそうに寝息を立てている。無防備な寝顔を俺に向けながら。
「まったく……卑怯だぜ、この可愛さ」
「本当に、橙の可愛さは異常だな」
俺の右肩からいつの間にか藍が顔をだし、自分の式の寝顔をニヤケ顔で見ていた。
すぐ近くに藍の端整な顔があると思うと、思わず顔を背けてしまう。
若々しく張りのある肌、それでいて大人のもつ魅力も兼ね備えている。
それ以上に、橙にはない女の魅力が、俺の背中を幸せ色に染め上げているが。
「隣、いいか?」
「えぇ、どうぞ」
俺の右隣に座った藍は、そのまま何とも幸福そうな顔で橙の寝顔を見つめていた。
どこかその辺は子供のようで、少し微笑ましい。
「いい天気だな」
「そうですね」
「橙は可愛いな」
「符合性がまったく見えませんが、そうですね」
「嫁にはやらんぞ」
「それじゃ、代わりに貴女をもらっても?」
会話のキャッチボールは途絶えた。すると突然、藍が俺の肩に自分の頭を乗せた。
段々と擦り寄ってくる彼女の体。それに伴って、俺の心拍数は急上昇していた。
寄り添った藍の顔は、少しばかり赤みを帯びているように見える。
「……紫様のお世話をしてくれるというのなら、考えてやってもいい」
「それ、単に藍様が橙と一緒にいたいだけですよね?」
「チッ、バレたか」
くだらない話に二人は笑った。その後も橙の可愛さを説く藍の話しを聞いたりしていた。
いつの間にか藍が一言も喋らなくなっているのに気づく。
横を見れば、可愛らしい寝顔をこちらに向けていた。
膝に橙、右肩に藍といよいよいい夢が見れそうだと思い、俺は目を閉じた。
「主人を差し置いて、その式に手を出すなんて、あなたも命知らずね」
「うおぉ、紫様」
俺の左側から紫が半身を乗り出す。その顔は非常に不愉快だといっていた。
正直、生きた心地がしない。
「あ、いや。俺は別に紫様を除け者にしようなんて考えは全然なくてですね。
橙も藍様も、自分から俺のところに来たわけで……」
そんな言い訳を並べている間にも、紫は隙間から体を出してくる。
他の二人とは違う、圧倒的な成熟の美。
顔立ちやスタイルだけではない、物腰や雰囲気も彼女は完成されていた。
有無を言わさず俺の左隣に座る紫。どんな折檻を受けるのだろうと、内心ビクビクしていた。
すると、紫は俺の左腕に自分の腕を絡ませてきた。
たおやかな彼女の肌が何とも心地よい。そしてその表情は、普段あまり見せない甘えのもの。
「私一人、仲間はずれは御免よ……」
「紫様……」
寄り添う紫は、俺の腕を愛おしそうに頬ずりしてくる。
その仕草が子供っぽくて、彼女に対して初めて可愛いという感情が芽生えた。
さて、いよいよ眠れなくなってしまった。
橙、藍、紫。幸福のデルタ地帯に囲まれた俺の心臓は、早鐘のように昂ぶりだす。
仕方なく俺は空を見上げた。だがそこにはもう、雲はなかった。
「……ん」
体に感じる冷たい風に、真っ暗な視界が徐々に映えてきた。
どうやら縁側で日向ぼっこを愉しんでいる間に、眠ってしまったらしい。
体を起こすと少し頭が重い。結構な時間野ざらしにされていたようだ。
外は夕刻を過ぎて夜の帳が下りてきている。もう少し寝ていたら、間違いなく風邪を引くところだった。
「結局夢オチか」
何とも妄想満点の幸せな夢だ。今夜寝床に入っても見れたらいいな、なんて思ったり。
少し用を足したく、俺は厠へと足を運んだ。
出すものをだし、ふと備え付けられている鏡に目が行った。
そこにいるのは間違いなく俺。しかし不可解な点が幾つかあった。
「……なんだこれ?」
俺の頬には、三つの痣のような後が残されていた。
見ようによってはキスマークに見えなくも無い。
もしかして、あの夢は本物? そんな馬鹿げたことを考えつつも、俺は厠を後にした。
思いついたままに筆を走らせてみた。
しかし三人同時となると結構難しい……
やはり今度からバラして一人ひとりキチンと書くことにしよう。
Megalith 2011/04/06
瞼の裏に感じる眩しさで目を覚ます。
目を開き、身体を起こせば見慣れた境内に朱色の鳥居。
ずいぶん眠っていたはずなのに身体はは妙に軽くて、感覚もこころなしか鋭いような気がする。
「お、起きたみたいだね」
かけられた声に振り向けば見慣れた面子が俺を見ていた。
「少し不安もあったけど上手くいったみたいだね」
「どうですか○○さん、具合が悪いところはないですか?」
問いかけに頷きながら眠っていた理由を思い出す。
「……これで俺もみんなと同じになったんだな」
二柱と一人が暮らす守屋神社。
そこに居候を始めて早数年、皆に憧れを抱くには十分な時間だった。
だから頼んだ。皆を手伝いたいと。ずっと皆と一緒に生きていきたいと。
そして、俺は神上がった。二柱と一人の力によって。
「今はまだ精霊に近いけどね」
「私たちの力で○○さんの存在を維持しているだけですから」
「いってみれば私たちの腰巾着ね。八百万の一となれるかはこれからのあんた次第」
人の身を捨てた幻想の中で
「このままでも私は構わないけどね」
「まあ、ゆっくり決めればいいよ」
「○○さん、これからよろしくお願いします」
新しい俺の物語が始まる。
登場人物
○○(あなた)
本作の主人公。外の世界から幻想郷に迷い込み守矢神社に保護された。
守矢神社の住人への憧れから、皆の力になりたいと、三柱の手によって神上がった。
とはいえ、現状は何の力もなく、ただの霊魂だけの存在である。
東風谷早苗
洩矢の末裔で、人の身でありながら神となった少女。
つまり、経緯は異なるが○○の先輩である。
優しく、面倒見が良いが、思い込みが激しい一面も。
○○を神上がらせたことを喜ぶ反面、後悔をしている節がある。
「もしあなたが本当に後悔してないというのなら、その時は……」
八坂神奈子
守矢神社の二柱のうちの一柱。表向きにこの神社に奉られている神様。
外の世界でも名の知れた神様で、様々な神徳の持ち主。
新しい部下のような○○の存在を内心嬉しく思ってる。
「信じてもらうための力が神徳さ。今のあんたにはどれだけそれがあるかな?」
洩矢諏訪子
守矢神社の二柱のうちの一柱。守矢神社に奉られている真の神様。
容姿の通り思考が幼く、いたずら好きな一面がある。
反面、一番○○の事を気にかけているのも彼女で、○○の良き相談相手。
「それが君の答え? ……本当に?」
秋穣子
妖怪の山の麓に住む神様で、豊穣を司る。
幻想郷に実りをもたらす神様で、里からの人気は高い。
そのことが姉である静葉に対して優越感を抱かせている。
新米神様の○○に先輩風を吹かせているが……
「穣らせるっていうのは、一番身近で一番大切な恵みなのよ」
秋静葉
妖怪の山の麓に住む神様で、終焉を司る。
幻想郷に季節の終わりを運ぶ神様で、里からの人気は高い。
そのことが妹である穣子に対して優越感を抱かせている。
新米神様の○○に妙に自分の仕事を教えたがるが……
「終わりは始まりでもあるの。私の役目は一つだけじゃないのよ」
鍵山雛
妖怪の山に住む厄神様。厄を集めるのが仕事。
一人きりで嫌われ者を買って出た優しい心の持ち主だが、寂しさまでは隠せず
神様に成りたての○○が内心少し眩しく、羨ましいと思っている。
「私が集めて、あなたが清める。……素敵だと思わない?」
恋愛シュミレーションゲーム『神々が恋した幻想郷』
近日発売未定
神様な方たちといちゃつきたくて妄想した結果がこれだよ
Megalith 2012/02/09
ガラッ
「もうすぐバレンタインデーです!」
障子を開けるなり早苗が吼えた。
コタツにあたっている霊夢が鬱陶しそうな顔をする。
「あんた去年も一昨年もその前もそんなこと言ってたじゃない。
あと寒いから早く障子閉めなさいよ」
「何を言ってるんですか霊夢さん。
バレンタインが定着すれば恋愛成就祈願で神社も盛況ですよ」
いそいそとコタツに入りつつ早苗が言う。
「そんなこと言ってもう4年経つけど定着する気配すらないじゃない」
幻想郷は日本の一部である。冬は雪が降るようなところでカカオが育つわけもなく
チョコレートを手に入れることは隙間妖怪にでも頼まないと難しい。
また忘れ去られたチョコレートの商品が無縁塚に流れ着いても大抵賞味期限が大きく過ぎている。
肝心のチョコが手に入らないため早苗の思うようには事は進まなかった。
「そのバレンタインデーって何かしら」
早苗の対面で黙って話を聞いていた空がクエスチョンマークを浮かべて首をかしげる。
「お空さん、去年も説明したじゃないですか」
「そうだったかしら?忘れたわ」
「バレンタインデーというのはですね、
好きな人にチョコ、いえお菓子を渡して思いを告げるという素敵な日なんですよ」
ふふん、と自慢げに早苗が空に説明する。
どうやら今年から女子だけではなく男女問わずの欧米風にして参拝者獲得を目指すらしい。
「ふうん、それじゃ私は○○にお菓子を渡すわ」
さらりと出てきた空の言葉にひきつる早苗。無表情にお茶をすする霊夢。
コタツにもぐりこんでいるお燐だけがくわっと気の抜けたあくびをした。
「残り物のお饅頭もお菓子よね」
ボソッと霊夢がつぶやく。
「霊夢さん!?」
「あたいは猫だからチョコはちょっとねぇ。さとり様と一緒に何か考えよう」
「ううっ、4人も……負けません。負けませんからね」
「たまごで何か作れないかしら。できればゆでたまごで」
少女たちの戦いはこれからだ。つづかない
○○宅裏
「っ……なんだ突然悪寒が……」
妖怪の山裏
「はっ!なにか強い厄の気配を感じたわ!」
裏
「あぁ、ねったまっしぃー、ねったまっしぃー」
「この時期になるとパルスィ元気になるね」
琴を右手に 琵琶なら左手に(Megalith 2013/09/01)
朝日が射した庭から、涼しげな虫たちの声が聞こえてきた。僕は日課の薪割りを終えた後、いつもの場所へ出かけた。
その場所はいつもなにかしらが転がっていた。「なにかしら」というのが何なのか、拾っている僕自身にもいまいち分からなかった。
全く用途が分からない四角い物体や、開閉できるボタン付きの玩具など、どうしようもない物を拾っては持ち帰って磨きあげていた。
そうして磨きあげた物を、自称木工作家である自分の作品と並べて販売しているのである。
これが以外と売れてしまうから驚きである。
買われていった物がどういう風に使われているのかは、僕の知ったことではない。
別の日、いつもの場所でガラクタを漁っていると、珍しく楽器が散乱していた。
別に楽器を弾く趣味は持ち合わせていないが、いつも理解の範囲を超えていたガラクタの中に、
ようやく使い道の分かる物がでてきて嬉しくなった。
さっそく、目に留まった楽器を二つ拝借して持ち帰った。
一つは長方形に長い琴、もうひとつは大粒の涙の様な形の琵琶である。
どちらも大きく、他の楽器たちに比べ傷みも少なく、修復すればそれなりに使えそうであった。
修復といっても、音程の調節など高度な事は出来ないので、代わりといっては何だが、丁寧に丁寧を重ね磨きあげた。
二つともどこか誇らしげに、光沢を放っていた。本来ならこのまま露店に並べてしまうところだが、
何故かしらそのような気分にならず、部屋に置いたまま、僕は里へと出かけた。
数時間後、日も落ちてきたので商売を終え自宅兼小屋へ戻ると、女性の笑い声が聞こえてきた。はてさて泥棒か妖怪か。
恐怖心を押さえつけながら、恐る恐る引き戸を開けた。
「あ、おかえりー」
僕のお気に入りの火鉢を中心に、二人の女の子が鎮座していた。
一人は茶色のショートヘヤーで、両手を床につき両足をだらんとのばして座っていた。先ほど挨拶をしてきたのはこちらの方だ。
もう一人は頭に花飾りをつけ、長い薄紫の髪を二つに縛り垂らしていた。
お嬢様座りのまま、どこか冷淡な笑みを浮かべ、僕の方を見ていた。
この状況にどう対処していいのか分からず、とりあえず荷物を床に下ろした。
「突っ立ってないで一緒に座ろうよ」
チョイチョイと茶色い方が手招きするので、とりあえず二人と同じく火鉢を囲んで座った。
くつろいでいる二人に比べ、僕の方は若干緊張気味であった。なぜ自宅でこのような理不尽な気分にならなくてはいけないのか。
そもそも二人は何故ここにいるのか。と、当たり前の疑問を、僕は彼女たちにぶつけてみた。
それを聞くと、二人は申し合わせたかのように不敵な笑みを見せた。
「ずいぶんな言い方じゃない?私たちを連れ込んだのはあんたじゃないか」
と、薄紫の方。
「でも強引なお誘いは嫌いじゃないよ、ふふふ」
と、茶色の方。
僕は訳が分からず首を傾げていると、二人は静かに目を閉じ、何かを弾くような動きをして見せた。
すると、弦楽器を奏でているかのような、心地よい音響が響いた。
そして何より、彼女達が奏でている音は、今朝拾ってきた琵琶と琴の音色であった。
付喪神。自身をそう説明した彼女達は、「我々は道具による世界征服をもくろむ秘密結社だ」と説明を付け加えた。
「丁度、活動拠点が欲しかったのよね、姉さん?」
「あんたを追い出して、此処を占拠しちゃおうかしら」
こちらをジト目でニヤケながら笑う二人を見て、僕はため息を漏らした。
追い出されて困るのは勿論だ。しかしながらこの小屋は独りで住むには少々持て余していたところだったので、
自分の仕事の邪魔をしないのであれば、拠点だかなんだか知らないが、別に住んでもらうのは構わない、と二人に告げた。
「ホントに?!わっほーい!やったね姉さん!お家に住めるよ!」
はしゃぎ回る茶髪を横目に、姉の方は訝しげに僕を睨んでいた。
「……もし妹に手をだしたら承知しないんだから」
妹とはおそらく、今調子に乗って逆立ちしている彼女のことだろうが、妖怪に手を出すほど飢えてはいない。
そう姉に告げると、彼女は首を傾げた。
「……ホモ?」
やっぱり追い出すべきであったと、少々後悔した。
あれからというもの、弁々と八橋は、別に強制した訳でもないのに、掃除や洗濯、ゴミだし等々、積極的に荷担してくれた。
「そりゃあ住まわせてもらってるんだもの、コレくらいは当然!」と、八橋。
「ま、一応私たちの家だし」と、弁々。
正直なところ、ずぼらな一人暮らしをしていた僕にとって、非常に有り難かった。
いつもテンションが高く、良くも悪くも軽くて明るい性格の八橋。
姉さんというより姉貴と呼ぶ方がしっくりくるほど厳しいところもあるけれど、事あるごとに優しくフォローしてくれる弁々。
素敵な姉妹であり、ナイスコンビでもあった。そしてなにより二人とも可愛らしく、そのことで僕は悩ましさを感じていた。
ある日の夕方。料理当番の弁々が里に買い出しでおらず、八橋のとくに意味の無いマシンガントークが、僕を襲っていた。
「あ、思い出した!」
そういって会話を一方的に打ち切った八橋は、タンスを開け布団の下から白い箱を取り出してきた。
「じゃじゃーん!おまんじゅ~」
箱の中に、雪の様に白い大福がいくつか詰まっていた。
「ホントは独り占めしようと思ってたんだけど、出血大サービス!一緒に食べよーずぇ!あ、姉さんには内緒ね」
いつの間に大福を…と、思いつつも、一口摘んでみる。口の中にとろける甘さが広がっていった。
「あ~ん」
何故か八橋は大福を手に取ろうとせず、大きく口を開け待機していた。
「あ~ん!あ~~ん!!」
早くしてくれと言わんばかりに声を荒げる八橋の口に、僕は大福を手に取り放り込んだ。
「ん~!あま~い!」
とろけ落ちそうなほっぺを両手で支えながら、八橋は喜んでいた。大福もこれだけ喜んでもらえれば本望だろう。
「あ~~ん」
……やれやれ、と僕は溜息をついた。
結局、最後の一個になるまで、僕は八橋に大福を食べさせた。そして残り一個を八橋の口に入れる。
「ん~ん~~」
しかしここで問題が発生した。八橋は僕の指ごと加えてしまったのだ。慌てて引き抜こうとすると、
八橋は僕の手首を両手で掴んだ。
そして指先から付け根、そしてまた指先へと八橋の舌が行き来していた。
お、おい、と抗議するも、背徳感のある興奮が僕を襲い、八橋に対し強くでることが出来なかった。
「ぷは~。ほら!手に付いてた饅頭の粉、綺麗に舐め取ってあげたよ」
悪びれる様子も無く、八橋はニッコリと笑って見せた。
また別の日の夕方。
「ねぇ、ちゃんと髪切ってる?ちょっと伸ばし過ぎじゃない?」
弁々にいきなり髪を掴まれ、驚いているとそんな質問をされた。
たしかにここ数ヶ月行きそびれていたなぁ、と答えると、弁々はふぅむと小さく頷いた。
「せっかくだし、わたしが散髪してあげるよ」
それは大変有り難い申し出であったが、腕に自信はあるのかと聞くと、弁々は私を誰だと思ってるの?と自信満々に答えた。
むしろ弁々だからこそ不安なのだという気持ちを僕は生唾と一緒に飲み込んだ。別に失敗しようが死ぬ訳では無いのだ。
弁々は僕を縁側に座らせ新聞を首周りに巻き、櫛で髪をとかした。そしてハサミを取り出すと後ろ髪から切り始めた。
軽快な切断音と共に、弁々の鼻歌が聞こえてきた。
穏やかな休日の午後としては、この上ない贅沢な過ごし方であったが、内心僕は穏やかではなかった。
後ろから吹いてくる弁々の吐息、撫でるように触れてくる弁々の指先に、心臓を揺さぶられるほどの心地良さを感じ、身じろいだ。
「危ないからじっとしてて」
ごめん、くすぐったかったから、と謝り、出来る限り何も考えないよう努めた。
そうこうしているうちに、次は前髪を切るから、と弁々は僕の前に回り込んだ。
そして弁々がしゃがみこむと、僕と弁々の顔が握り拳一つ分の至近距離まで迫った。
あまりに近くで視線がバッチリ会ってしまい、お互い赤面してほぼ同時に視線を外した。
「か、髪が目に入っちゃうから、閉じといてよ」
言われたとおり僕は目を閉じた。そして弁々は前髪を掴み、切り始めた。
しかし先ほどの状況のせいで、弁々の吐息をより強く感じ始め、心臓は鼓動を早めた。
あとほんの少し顔を前に出せば、弁々と口づけ出来てしまう状況に、僕はどぎまぎした。
もちろんそれをしてしまえば、もう弁々は二度と口を聞いてくれなくなるかもしれないし、
それ以上に恐ろしいことに成りうることぐらい分かっていたので、必死に衝動を押さえた。
「うん!まずまずってところかな」
散髪はなんとか無事に終わり、弁々は手鏡で僕に確認を求めた。
まずまずどころか、いつも通っている散髪屋より綺麗にカットされていたため、むしろ驚かされた。
その感想を正直に答えると、弁々は満面の笑みを見せ頷いた。
「うんうん、前よりカッコよくなったじゃない」
弁々の笑みにつられ、僕も微笑んだ。
あくる日、いつもの様に仕事を終え帰宅すると、弁々と八橋が正座したまま火鉢を囲んでいた。
弁々はともかく、いつもだらーんとしている八橋まで正座待機している異様な光景に、僕は腰を抜かすところだった。
……しかし思いかえせばここ数日、二人の態度はどこかよそよそしかった。弁々も八橋も、どこか僕を避けてる、
そんな空気を感じていた。いくら鈍感な僕にも、それくらいは分かっていた。
原因はいったい何だったのだろう、と考えていると、八橋が気まずそうに僕を見ながら口を開いた。
「あ、あのさ、○○ってさ、その……」
いつもの軽快さはどこへ行ったのか、八橋は口ごもりながら何かを問いかけてきた。
「……」
しかしよほど聞きづらい事なのか、結局俯いてしまった。それを見た弁々は、いよいよ決心したのか、
僕ときっちり視線を合わすと、口を開いた。
「私と八橋、どっちが好きなの?!」
沈黙。こんな重荷を背負わされるならば、海の底で物言わぬ貝になりたい。誰にも邪魔をされずに、海に還れたらいいのに。
しかしいくら頭の中で嘆いても、目の前の沈黙を破れるのは僕しかいなかった。不安と期待を込め、上目遣いでこちらを見てくる八橋。
どんな結末であろうが、真摯に受け止めようと鋼の意志を込めた視線を送ってくる弁々。
そんな真剣な二人を前に、適当な返事をするわけにはいかない。……。僕は、二人に自分の前まで来るよう合図した。
疑問を抱きながらも、二人は僕に近寄ってくる。そして僕は二人を一緒に抱き寄せた。
「ふぇぇ?!」
「はっ?!」
驚いて声をあげる二人に、僕はそっと口を開く。二人とも愛してる。嘘偽り無い本当の気持ちだよ。
わがままに聞こえるかもしれない、呆れてるかもしれないけれど。どんなに落ち込んでても、側にいるだけで笑顔にしてくれる八橋。
叱咤激励して背中を押してくれる弁々。二人ともずっと側にいて欲しい。
「……」
「……」
僕から解放された二人は、顔を見合わせた。そして僕の方を見て一緒にニッコリと笑った。許された――。
そう安堵した瞬間、左から弁々、右から八橋の平手打ちが飛んできた。
「この浮気者!私と言うものがありながら!」
「ちょっと待ってよ!私が先に好きになったのよ!後から来て横取りだなんて狡いわ姉さん!」
「良いじゃないの。あんたの手ぬるい誘惑じゃあ無理よ。この鈍感男を魅了するのは」
「……プッ、あはは!まぁいいや、姉妹で恋人共有するのも悪くないよね、姉さん?」
「えぇ。二人一緒に養ってもらえば良いだけだもの」
そうして、この大森林の小さな家に、付喪神である義姉妹の不敵な笑い声が木霊した。
晩秋。ひんやりとした月明かりを布団越しに身に受けながら、僕は身じろぎ一つ満足に出来ないでいた。
左手足を弁々、右手足を八橋にがっちり固められているためだ。いわゆる左右からの同時だいしゅきホールドである。
弁々が空気の抜けるような静かな寝息に対し、八橋はまるでわざと発音しているかのように、スゥスゥと寝息をたてていた。
二人の幸せそうな寝顔を見ていると、自分は随分遠くまで来てしまったようだと感傷深くなった。
答えのない毎日が、ただ過ぎていく時間が、これから先どうなるのか分からない。僕は窓からぼんやり見える月に願った。
この愛おしい二人の付喪神といつまでも仲良く暮らしていけますように、と。
「○○……」
僕は驚いて八橋の方を見る。しかし八橋の目はしっかりと閉じられていて、どうやら寝言のようであった。
「ずっとずっと『憑』いてるからね……ふふふ……」
……ああそうだね、と僕は誰に言うでもなく呟く。そして二人それぞれにおやすみの挨拶をし、沈んでいく意識に身を任せた。
Megalith 2013/09/28
毎日の厳しい仕事に一段落がつき、短い休みを満喫すべく家に帰ると
「お帰りなさい、○○さん。お仕事お疲れ様です。お腹……空いてるでしょう? もうすぐご飯が炊きあがりますから、少し待っていてくださいね。」
妖夢ちゃんが、さも私の妻であるかのように振る舞い料理を作っていた。
何をしているの? と、たずねてみたところ、妖夢ちゃんは照れた顔で
「その……最近○○さんが凄く疲れた顔をしていらしたことが多かったので、たまには楽をさせてあげたいなって、その、思って……」
と、答えながら、私の元に近づき、私の荷物を取り上げていった。
不法侵入や破壊された玄関の鍵のことなど、いろいろツッこみたいこともあるが、せっかくの好意なので、ごちそうになることにした。
少し後ろめたそうな顔をしていた妖夢ちゃんは、それを満面の笑顔に変えて
「ありがとうございます! それじゃ「おい、ここに半人半霊の不審者がいるって聞いたがおまえか? (ハートの)泥棒は許さないぜ」
本泥棒の魔理沙ちゃんを召喚した。
魔理沙ちゃんは私を妖夢ちゃんから引き離すと、箒で半霊を払いながら妖夢ちゃんへの不満を口にした
「勝手に男の家に上がり込んでお料理とかナニ考えてるんだよ! そんなフリフリでピンクなエプロンを着てお帰りなさいだなんて、別に彼女でも無いくせに。どうせ風呂に入る時に『お背中流させて頂きますね(はぁと)』とか、楽にさせるとか言っておいて、夜になったらベッドの上で運動しようとか考えてるんだろうらやま……じゃなかった、いやらしいんだぜ!」
「いやらしいのはあなたの方です! 私はただ純粋に○○さんの助けになりたいと思っただけで、別にあなたの言うような下心などありません! ……まぁ、○○さんが望むのであれば、同衾くらいしても……」
「やっぱりこいつ危険だ。おい○○、ちょっとついてこい」
魔理沙ちゃんは私を箒の上に無理矢理乗せると、一気に森の方まで飛ばしていった。
あっという間に魔理沙ちゃんの家に着き、そのまま半強制的にお邪魔することになった。
「おまえの家には変なのが住み着いてるみたいだから、今日は私の家に泊まっていけよ。……あぁ、お腹空いてるんだっけ? 待ってな、今すぐ飯作るから。」
そう言うと、エプロンっぽい服を脱ぎ、代わりにフリフリでピンクなエプロンを着け、キノコを鍋に放り込む作業に取りかかった。
「今日の夕食は魔理沙様特性のキノコスープだ。……毒? 大丈夫だよ、ここにあるのは全部、食べると元気が出る良いキノコだからな。本当に元気が出る奴でな、それはもう、夜になっても運動せずにはいられないくらい……ところでこの家にはベッドが一つしか」
次の瞬間、視界に豪華なご馳走が映る。
周りの風景は、ゴミだらけだった部屋から、整えられた真っ赤な部屋にリフォームされており、目の前にあるテーブルをはさんだ先には、咲夜さんが頬杖をつきながらこちらを見つめていた。
「こんばんは、○○。魔理沙に拉致されたあげく変なものを食べさせられそうになってたみたいだから、勝手に連れてきちゃったわ」
てへっ(はぁと)、とでも言っているかのような顔で笑うと、咲夜さんは私の口元にスプーンを近づけた。
「おゆはん、まだでしょ? 勝手なことをしたお詫びに食べさせてあげるわ。はい、あ~~~ん」
突然の展開で混乱ぎみだった私は、そのままスプーンの上で揺れる小さなご馳走にためらいなくかぶりついてしまった。……うまい。
「どう? ○○の好みに合わせて作ってみたのだけれど、お口に合うかしら? ……ふふふ、そんなに美味しそうに食べてもらえると、私も凄く嬉しいわ」
そう言うと、咲夜さんはスプーンをこちらに手渡してくれた。
私はそのまま自分の食事を続けようとしたが、その私の手を、咲夜さんが両手で握り、食事の邪魔をする。
「ねぇ、○○。お願いがあるのだけど……今度はあなたが私に食べさせてくれないかしら? ……うん、その一つのスプーンで食べさせあいっこ、よ。あとできたらベッドもひと」
再び場所は変わり、今度は博麗神社の境内に私はワープしていた。
目の前では、やたらと嬉しそうな顔をした霊夢ちゃんが、飛び跳ねながら私の元に駆け寄ってきた。
「あら、悪いわね、○○。自由にワープができるようにするための修行していたのだけど、どうやら私じゃなくて○○をワープさせちゃったみたいなの」
ごめんね~、と、まったく悪びれる様子もなく謝罪した霊夢ちゃんは、私の腕を引っ張りながら神社の中へと戻っていった。修行? 霊夢ちゃんが?
「今日はもう遅いでしょ? 今夜はここに泊まって行きなさい。連れてきちゃったお詫びになんでも言うこと聞いてあげるからさ、ね?」
お願い~、と、甘えてくる霊夢ちゃんをなだめながら、私は咲夜さんと魔理沙ちゃん、妖夢ちゃんにどう謝ろうか考えていた。
そんな私を見て不快に思ったのだろうか、霊夢ちゃんは不機嫌な声をあげて私の頬をおもいっきりつねった。
「これから女の子と二人っきりという時に、○○はいったい何を考えているのかしらねぇ? まさか他の女の子のことを考えてるなんて言わないわよねぇ?」
よほど気に入らないのか、それとも他に何か理由があるのか、霊夢ちゃんの顔には鬼気迫ったものがあり、私の頬をつねる手は、明らかに女の子が出していい力を超えていた。
「今日こそ本気なんだから……せっかくのチャンスを見逃すわけにはいかないんだから……」
らりがれふか?(何がですか?)
「女の子を釣るだけ釣りまくってエサをあたえず、こんな苦しい思いばかりさせて……最低よね、女の敵だわ。でもアンタの悪行もこれで終わりなんだから……」
そう言った霊夢ちゃんの顔は、鬼の面から、病気に苦しむ子供のような弱々しい表情に変わっていた。
そんな顔を、私の顔にぶつかるギリギリまで近づけ、やがて唇が触れあう距離まで……
近づくことは無かった。
先ほどまで地に足をつけていたはずの体は落下し、世界は無数の眼と一体の賢者のものとなっていた。
気づけば、私は見覚えのある闇の中、不自然に置いてあった椅子の上に鎮座していた。
「久しぶりねぇ○○。本当に久しぶりねぇ○○。」
私を霊夢ちゃんから遠ざけ、このスキマの中へ落とした犯人、紫さんは、怒りをあらわにしながら、私の太ももの上をまたがるように座り込んだ。
周りからから見たら、入ってるように見えるかもしれない。
「私が冬眠をしている間に、随分とまぁ、たくさんの女の子をたぶらかしたみたいじゃないの。それも私の幻想郷の有力者ばかり」
そんなことはしていませんと私は伝えたが、紫さんは私の言葉を聞いてはくれない。
そればかりか、その顔からうかがえる怒りはさらに大きなものとなっていた。
「あなたは……危険。そう、危険なのよ。まさか霊夢まであなたに夢中になるなんて。これ以上あなたを自由にさせたらどんな異変になるのか……いえ、これはもう異変よ」
紫さんは、私の背に手をまわすようにして抱きついてきた。心臓の鼓動を感じる。
「だからあなたは退治されるべきなの。でも巫女は動かない。だから私があなたを退治するわ。でも殺すのはかわいそうだから管理にしてあげる」
紫さんの脈動が早くになっていることに気がついた。
「もともとあなたは私の僕になってもらうためにここ(幻想郷)に連れてきたのだから、まぁ当然よね」
僕は嫌だなぁ、と正直に伝えた。
「生意気な人間ね。そんなに僕が嫌なら……嫌なら………………私の……………………………………………旦那様にな「ゆかりぃ~~?」
いったい何をどうやって来たのだろうか、霊夢ちゃんは突然目の前に現れ、紫さんを私から引っぺがした。
「私がいつ動かないって言ったのよ。なんなら今私が○○を退治するから!」
「ついに私の白楼剣が紫様のスキマをも断ち切る領域に……!」
「時空をねじ曲げてたら、いつのまにか○○の元にたどり着いていたわ」
「咲夜を追いかけてたら、なんかたどり着いたんだぜ」
「ちょっ、これまじ異変
ごめん、ふざけすぎた。しかもあんまイチャついてないね。
追記:環境依存文字の修正しました。
Megalith 2014/09/26
幻想郷に迷い込んで早数年。
ここでの暮らしにもすっかり慣れ、決して豊かな生活ではないが、多くの友に恵まれて私は充実した時を過ごしている。
たまに家族の顔を見に、霊夢さんに頼んで故郷に帰ることもあるが、それを除けば私はほぼ完全にこの異郷の地の住人である。
今日はその故郷からの帰りで、私は再びこの幻想の地に戻ってきたところだ。
「お帰りなさい○○さん。ご家族はお元気だった?」
出迎えてくれたのは、境内の掃除を済ませ、参拝客を待ちながらお茶をすする霊夢さんだった。
「疲れた顔してるわね。ちょっと待ってて、お茶入れてあげるから」
私に向けて座布団を放り投げた赤い巫女さんは茶碗を棚から取り出し、すでにぬるくなったお茶を私のために淹れてくれた。
私はバッグに詰め込んだお土産を机に広げると、それを食すため、霊夢さんも自分の分のお茶を再び淹れ直した。
「お~い霊夢! 特に用はないけどヒマだから遊びに来てやったぜ……って、いつの間に帰ってたんだよ○○。帰ってたなら私の所に顔を見せろよな……おかえり○○」
突然の来訪者、魔理沙さんは文句を垂れながら私の元に駆け寄ると、私の肩に頭を寄せるように座り込み、すぐ近くのお土産に手を伸ばした。
「霊夢! 私にも茶を淹れてくれ」
「悪いけど今ので最後よ。欲しいなら新しいのを買ってきなさい。欲しくなくても○○さんから離れなさい」
「そう。じゃあ○○のをもらう」
魔理沙さんは私から離れることなく、私の飲みかけのお茶をすすりながらお土産のケーキを口に放り込もうとし……
「見たことのないお菓子ね。これは外の世界のケーキなのかしら?」
咲夜さんの口の中に放り込まれた。よく見たらお茶も消えていた。
「おい、それは私のだぞ! 泥棒はいけないんだぜ!」
「いつもあなたがパチュリー様の本を盗むのを見逃してあげてるのはどこのだれだったかしら? たまにはあなたの方が見逃してくれてもいいのではなくて? 八卦炉もくれなかったし……そもそもこれはあなたのではないでしょう? 快くお茶をくれる○○さんを少しは見習ったら?」
くれてません。と突っ込みたくなるのを抑え、私は時を止めて現れた新たな来訪者、咲夜さんに『ただいま』とだけ声をかけた。
「はい、お帰りなさい○○さん。帰ってきてたのでしたら、次からは我が主の館まですぐに挨拶に来てくださいね」
咲夜さんはそう言って、私に身を寄せる魔理沙さんの反対側に回り込み、同じように私に身を寄せながら座り込んだ。
「両手に花で嬉しそうねぇ○○さん。1回爆発しとく?」
『爆』と書かれた不吉なお札を構える巫女を確認した2つの花は、巻き込まれまいと早々と散り、他のお土産に手をつける。
それを見た霊夢さんは、自分のために淹れたはずの最後のお茶を私によこしてくれた。
「○○さん、そろそろ起きてください。もう鴉が泣いてる時間ですよ」
霊夢さんに揺さぶられ、私の意識に遅い覚醒が促された。どうやら私はうたた寝をしていたようだ。
視界には、まだ帰っていなかった魔理沙さんと咲夜さんの顔が大きく映っていた。
「ずいぶん長いお休みだったな。よっぽど疲れてたみたいだな○○。よだれが垂れてるぜ」
「フフフ……だらしない人ね」
咲夜さんはハンカチを取り出して私のよだれを拭うと、そのまま帰る支度を始めた。
「私はそろそろ帰るわ、おゆはん作らないといけないし。良かったら○○さんも館に来ない? ご馳走するわよ」
「○○さんが吸血鬼のご馳走になる、の間違いじゃなくて?」
(どちらかと言えば私の方をご馳走にしてほしいのだけれどね……)
(同感だが草食動物だからありえないぜ……)
途中から小声になって2人の声が聞こえなかったが、しばらく空けていた家を確認したかった私はさっさと自分の家に帰ることにした。
「なら私の箒に乗ってけよ。家まで送るぜ」
「魔理沙、送り狼はやめてよね」
「本は盗んでも泥棒猫にはならないと信じてるわ、魔理沙」
「変な事を言うな!」
直接家には帰らず、私は魔理沙さんと一緒に夕食の食材を求めて市場に降り立った。
今日は魔理沙さんが私に料理を振る舞ってくれるそうなので、お言葉に甘えることにした。
もっとも、お金は私もちだが。
「何にしよーかなぁ……○○は何が食べたい? 肉? 魚? それともキノコか? ……おっ! あの鶏肉かなり安いぜ、あれにしよう!」
安売りされている鶏肉に気付いた魔理沙さんは嬉しそうに駆け寄り鶏に手を伸ばしたが、その手は別の鳥の手によって乱暴に弾かれた。
「○○さんは鶏をお食べになりませんよね~。それよりもほらっ、向こうのお魚屋さんに活きのいい美味しそうな秋刀魚がありましたよ~、あれにしませんか?」
射命丸文……鶏を守る鴉の少女はそう言いながら私に近寄ると、私の両の頬をグネグネと引っ張り上げた
「お帰りなさい○○さん。帰っていながら私に報告の1つも無しとは一体全体どういう了見なのでしょ~か」
幻想郷に帰ってきたばかりだというのに、報告の遅延を注意されたのはこれで3回目か。
ただいま帰りました。私はそう言って、頬を引っ張る文さんの手の甲に私の手を重ねた。
頬への攻撃を止めるよう促したつもりだったが、何を思ったのだろうか、文さん顔を赤くして、すぐさまに手を引っ込めた
「なんだよ文、おまえも私の料理が食べたいのか? 別にいいぜ、おまえの分の鶏からあげも作ってやるよ」
「○○さんにこの世の物とは思えぬおぞましい料理を食べさせないでください。秋刀魚にしましょう、ほらっ、○○さん秋刀魚ですよ秋刀魚っ! おいしいですよ~」
「いいや! 今日は鶏だ、鶏にするんだっ! そうだよな○○」
鳥の目の前で鳥を勧める魔理沙さんと、海無き大地で捕れる謎の魚を勧める文さんに服を引っ張られる私は、服を破かれる前に早々に決断をしなくてはならなかった。
私は魔理沙さんの頭を帽子の上からポンポンと撫で、秋刀魚の代金を支払うべく財布を取り出し、そして元いた世界のお金しか持ってきていなかったことに気付いた。
「ご馳走様でした!」
「……ごちそーさま」
なぜか文さんも私の家に上がることになり、先程まで私たち3人は同じ机を囲んで食事をとっていた。
すねた魔理沙さんの代わりに振る舞ってくれた文さんの料理を3人でいただき、後は体を洗って寝るだけになった私は、まだ機嫌が良くならない魔理沙さんを横目に風呂の準備に取り掛かった。
「……風呂に入るのか?」
魔理沙さんも一緒に入る? ……冗談のつもりで私はそう言った。
食器を洗っていた文さんに物凄く睨まれたような気がしたが、笑ってスルー。
そろそろ家に帰るよう2人にそう促したが、まだ居座るつもりのようだ。
それだけであれば結構なのだが、魔理沙さんの口から出てきた言葉はとんでもないものであった。
「じゃあ……背中流してもらおうかな」
台所で皿の割れる音が聞こえた。
「一緒に入るんだろ? ほら、早く風呂沸かしてこいよ……」
魔理沙さんの顔は真っ赤になっていた。文さんの顔は真っ青だった。
「なんでお前まで入るんだよ、狭いんだぜ、特にその羽のせいで!」
「○○さんが変な気を起こさないか見張ってるのですよ、ねぇ○○さん。さっきから視線が怪しいですよ」
混浴はマズイだろうとは思った。
しかし、物言わぬ魔理沙さんの目を見たら断りづらくなってしまい、若干の下心もあってか、なし崩しに背中を流すことになってしまった。いや、なってくれた。見張りもセットで。
2人はタオルを巻いていたが、それは非常に薄く、濡れた体にピッタリと張り付いてボディのラインをきめ細かく映しだしており、その内側に隠しているはずの肌の色は、わずかながら防ぎきれずに外部へと漏れていた。
我が家の浴槽は男1人で入るには十分すぎる広さであったが、そこに羽を生やした者も含む女性2人を入れてしまうと、どうしても体が触れざるをえない狭さだ。
今現在、私は2人の女性に挟まれている。
私の背中には文さんの胸があたっており、2つの足の間には魔理沙さんがちょこんと座っていて動けない状態だ。
「……どこ見てるのよ」
赤かった魔理沙さんの顔はさらに真っ赤になり、胸を両腕で隠しながらそっぽを向いてしまった。特にどこか見たつもりは無かったのだが。
「いいえ~見てましたねぇ~、特に胸の辺りを」
後ろにいるはずなのに私の視線をなぜか指摘できた文さんは、買い物の時より10倍以上の大きな力で私の頬を引っ張り上げた。どうやら妖怪の力を余すことなく全力でやっているようだ。
これ以上怒らせる前に私は逃げようとしたのだが、まだ逃がさんと体をつかまれてバランスを崩してしまい、あろうことか、唯一魔理沙さんを守っていた薄いタオルに手を掛けて思い切り引っ張ってしまった。
……時が止まる。
「あっ………あぁ……………………あっあっ……………………!!!!!」
声にならない声を上げて泣く魔理沙さんに対して、自分も人とは思えぬ声で謝りながら大至急その場を脱出しようとしたのだが、悲劇……もとい、幸運助平は続き、復讐のつもりなのか、魔理沙さんは文さんが持つタオルを奪い取って自分の鎧にしてしまったのだ。
そして……私はそれを見てしまった。
……再び、時が止まった。
文さんは一瞬凍りつき……爆発した。
「……………………っっ??!?! キャァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「なにごとっ!」
「なっなに?! なにがあったの!!」
「」
「」
「」
「」
文さんの悲鳴。そして、突如現れた霊夢さんと咲夜さんの乱入によって、体を温めるためのはずの場所である風呂場に短い氷河期が訪れる。
「あなたからサイフを預かっていたのを思い出してね。夜に訪ねるのもどうかと思ったけど、なるべく早い方がいいと思って届けに来たのよ。んで、来てみて正解だったようね」
抜け駆けしようとするからこうなるのよ。霊夢さんは、魔理沙さんと文さんを交互に睨みつけながら自分がここに来た理由を説明してくれた。
「つい先程お嬢様がお目覚めになられたので、○○さんが外界からお戻りになられたことをご報告しましたら、連れて来いと……」
咲夜さんも呆れながら自分がここに来た理由を説明してくれた。たしか咲夜さんは、おゆはんを作ると言って帰ったはずだが、先程起きたということは、あれはレミリアさんにとっての朝食だったのか?
私は夜遅くにわざわざ来てくれた2人のためにお茶を出そうと棚をあさっていたが、体が冷えたせいか、思いがけず大きなくしゃみをしてしまった。
「あらあら……湯冷めしちゃったのかしら。湯船にゆっくり浸かれなかったようですし。もう一度入り直しませんか? 紅魔館にいらしてくれれば、何十人でも入れる大きな大きなお風呂でお背中を流してさしあげますよ」
騒動の2人から冷やかな視線を送られて少したじろいだ咲夜さんだったが、構うことなく、今の季節には少し早いコートを私に着せようとした。
仕事は明後日からなので、少しの夜更かしを決め込んだ私は霊夢さんにお礼を言い、そのまま出かけることにしたのだが……
咲夜さんは霊夢さんに引き止められ、新たな騒動を予期する言葉を投げかけられていた。
「ねぇ咲夜。私もそのでっかいお風呂に入れさせてくれない? できればみんなで一緒に」
続きません。
避難所>>512
○○「……その、摩多羅様、俺って後戸的に何か特別なものはあるんでしょうか」
隠岐奈「ない。ついでに言えば、特に私に通じるものをお前に感じるわけでもない。
私への従属はあの二人の根本にあるものだから、そういうものでもあれば一応説明はできようが」
○○「…………ありがたいことですけど、何でなんでしょうね」
隠岐奈「わからん。
あの二人を童子にしてからずいぶん長いし、
人間だった頃に似通った好みがあったとしても今は残っていないと思う。
丁礼田と爾子田は一括りとはいえ、それぞれ別の役割だし――
――引退してからそれぞれに幸福を掴めるよう、極力違った中身に育てたつもりではあったんだが」
○○「幅広く好かれるようないい男からは程遠いと思うんです、俺。謙遜一切抜きで」
隠岐奈「私の権能は山ほどあるが、縁結びやら女難やらはどうにもしてやれんな。まあ行ってこい」
舞「あ、○○! 僕達の踊り、どうだった? お師匠様と一緒に見ててくれたんでしょ?」
里乃「今朝言ってた話、忘れてないわよね? 私と舞、どっちが魅力的だった?」
舞「僕の方がスタイリッシュでグッときたでしょ?」
里乃「私の方が蠱惑的で惹き付けられたんじゃない?」
舞「踊りで○○をいっぱいミワクした方が、明日のお休み一日中○○とイチャイチャする約束だからね」
里乃「二人とも、って答は――それでも別にいいわよ、三人でイチャイチャするから。 ○○は大変かもしれないけど」
「「さあ、どっち?」」
最終更新:2024年08月25日 22:18