響子1
Megalith 2013/03/10
昨夜寝床に入ってから、すぐに朝日が目にしみた。
よっぽど疲れていたのか、夢すら見なかった。
そんな朝焼けの中に、玄関の戸をたたく音が聞こえた。
「おはようございまーす!起きてますか?」
寝ぼけ眼のまま、ふらつきながらも玄関に向かい戸を開けた。
「あ、おはようございます!…ってごめんなさい、まだ寝てました?」
彼女は少し不安そうに首をかしげながら、こちらの顔を覗き込んだ。
「いや、今ちょうど起きたところだから構わないよ。それよりどうしたんだい?朝早くから」
声から予想はしていたが、その姿を目にし、少々驚いていた。
彼女が自宅を訪ねてくるとは思ってもみなかったからだ。
「いえ、昨日の大掃除の件、お礼にと思って朝食なんぞを作ってみたのですが、ご迷惑でしたか?」
―――
以前、『大掃除人手足りず、至急求む』という張紙をみかけ、ちょうど休日で暇ということもあり、手伝いに行った。
そこが妖怪寺として有名な寺であった事はしっていたが、まぁ、ゆかいな人?達であった。
『君は掃除の天才だな』と褒められ、その後大掃除があるたびに呼び出された。
そんな時彼女――幽谷さんとは何度かチームみたいなのを組み、一緒に掃除をした。
寺の中では一番仲が良い関係だと思う。
―――
「迷惑だなんてそんな、むしろ有難いよ。でも謝礼なら寺の人たちからすでに貰ってるし――」
「いえ、これは私の個人的なお礼ですから」
「そう?まぁ、とにかく上がってよ」
「はい!おじゃましまーす」
―――
包み紙を広げると、小さく丸められたおにぎりが4つ現れた。
「幽谷さんの手作りなのかい?」
「へへへ、こんなものしか作れなくて……」
そう言って、もじもじしている彼女を横目におにぎりを1つ口に放り込んだ。
「ど、どうですか?」
(おいしい)というありきたりな言葉しか思いつかないので、とりあえず微笑むと、彼女もまねして微笑んだ。
―――
「たしか今日は休日、でしたよね?」
幽谷さんはお茶をすすりながら聞いてきた。
それにたいし、おにぎりをほおばったばかりの口を上下にゆらしながらうなずいた。
「それでね、もし、良ければ買い物に付きあってほしいな、なんて――」
そう言って、幽谷さんは上目づかいで手を合わせてウインクした。
「別に構わないよ。どうせ暇だし」
ちょうどおにぎりを食べ終えたところだった。
―――
外に出ると、しっとりと濡れた黒土から、清清しい匂いが漂ってきた。
どんよりした雲空でまだ明けきらないような朝焼けに、風が立ちはじめ、庭先に初夏の光が溢れ始めた。
買い物自体、特に変わって特別な物ではなかった。
以前壊れてしまったらしい箒を買ったり、チリトリからこまごました生活用品、
そんな感じの物を手際よく幽谷さんは購入していった。
もちろん、その物品を持ち運ぶのは、自分の役目と自負している。
「あの、半分くらいは私が……」
「気にしなくていいよ。幽谷さんはよくここ(里)には買い物に?」
「いえ、普段はあんまり――」
「ふぅん、今日は頼まれて?」
「ま、まぁそんなところかな?」
幽谷さんは少しあわてて視線をそらした。
もしかしたら、休日に連れ出したことを申し訳なく思っているのかもしれない。
「じゃあせっかく来たんだから、喫茶店にでも寄ろう。別に急ぐ必要もないんだろう?」
「え?いいんですか!?」
「もちろん」
―――
「わぁ、どれにしようかな?」
多彩なケーキの名が書かれたメニューを、幽谷さんは食い入るように見ていた。
こんなにも目を輝かせた女の子を見るのは初めてだった。
「ねぇ、もう決めました!?」
「ん?あぁ、イチゴのショートケーキに決めたよ」
「お!シンプルに決めてきましたね!なら私もそれで!」
正直なところ、メニューの一番上に書かれていただけの理由である。
―――
「今日はどうもありがとうございました!」
寺に買い物の品を届け終えると、いつのまにか真上にいた太陽は沈みかけていた。
陽が暮れるのはこんなに早かったのかと、少々驚いてしまった。
「こちらこそ、今日は楽しかったよ」
「でも本当に良かったんですか?色々ご馳走になっちゃって……」
あの後、幽谷さんはケーキにとどまらず、黄粉餅やら三色団子やらも食した。
あまりにうれしそうにパクパクいくもんだから、その姿を見ているだけでこっちはお腹いっぱいだった。
「全然気にしなくていいよ。……良かったらまた次も誘っていいかな?」
「え?」
「どうせ休日は暇してるんだ。またおいしそうな店探しとくからさ」
「う、うん!また誘ってくださいね!それじゃあまたね!」
そう言って駆けていく幽谷さんを、見えなくなるまで見送った。
―――
それからというもの、休日は幽谷さんと出かけることが多くなった。
なんとなく2人で出かけている事がばれると恥ずかしいので、寺の人達には隠れて誘っていた。
する事といえば、買い物したりペットショップを冷やかしたり、釣りしたり、そんな感じのことだ。
そうしているうちに、毎日暇があれば幽谷さんの顔を思い出し、口元が緩みそうになる自分がいた。
―――
「ここに吹く風って、いつも気持ちがいいんですよ」
初夏の空の下に広大な山の斜面が、まばゆい光沢を放ちながら、茫漠たる感じで拡がっている。
我々は大きな岩の上に腰かけ、眼下の里を眺めていた。
「いつもここからヤマビコを?」
「そんなたいした事じゃありませんけど」
幽谷さんは笑いながら答えた。
吹く風は彼女の大きな耳と緑の髪を揺らしていた。
僕は彼女の横顔を、何も言わずただ見つめていた。
そんな視線を感じたのか、幽谷さんはこちらを見て不思議そうな顔をした。
「どうかしました?」
「……いや、風が気持ちよくてね、ついぼぅっとしちゃってさ」
それを聞いて、彼女は視線を戻した。
―――
「……そろそろ降りましょうか」
そう言って立ち上がり、もと来た道を帰ろうとする幽谷さんの手を、僕は握って引き止めた。
驚いた表情で幽谷さんはこちらを振り返った。
「あ、あのさ……」
言いかけて幽谷さんのほうを見た。
彼女はじっとこちらを見つめていた。
次の言葉を待っているようだった。
「幽谷さんってさ、その、彼氏っているの?」
言ってしまってからひどく後悔した。
こんなこと聞くべきではなかったのだ。
我々の間を、静かに風が走っていく。
幽谷さんは何も言わず、わずかに微笑みながら首を横に振った。
「そう、なんだ……」
また風が吹いた。
本当にここは気持ちのいい風が吹く。
次に言うべきことは分かっている。
それなのに口に出そうとするたび、言葉としてでてこなかった。
「貴方が――」
幽谷さんが口を開く。
「貴方が、彼氏になってくれるの、かな?」
そう言って、彼女は目を伏せた。
よく見ると、幽谷さんの頬は紅く染まっていた。
―――
すべての言葉を忘れてしまったかのように何も喋ることが出来なかった。
僕は幽谷さんのそばにより、静かに抱き寄せ、彼女の頭に顔を寄せた。
そして彼女の大きな耳の近くで静かにつぶやいた。
「好きです。付き合って下さい」
「『好きです。付き合って下さい』」
幽谷さんがゆっくりと顔を上げた。
僕が微笑むと、幽谷さんもつられて微笑んだ。
―――
我々の周りでは、初夏の光が草草を光らせていた。
それを風が揺らす音を聞いていると、この世界には我々だけが存在しているように思えてくる。
幽谷さんの大きな緑色の瞳に吸い込まれるように、彼女から目が離せなかった。
その彼女の瞳には、僕自身が映し出されていた。
そして彼女の瞳は、静かに閉じられていった。
瞳を閉じた彼女の表情は、何かを待ちわびているようだった。
それに答えるように、僕も瞳を閉じ、彼女と口を重ねた。
―――
「……ふふ、唇、少しカサカサしてるよ」
「……響子こそ、いつも元気な挨拶するのはいいけど、口の中乾いてたぞ」
「不肖ヤマビコ、取り柄の大声を無くすわけにはいかんぜよ。
……湿らせて欲しいな、貴方に…」
「まったく、しょうがないな……」
―――
数ヵ月後、響子とは同棲するまでになった。
お互い、些細な誤解や生活環境の方向性の違いなどからケンカすることも間間あったが、
最後には僕が笑うと、響子も笑ってくれた。
普段、青空の下道行く人々に箒を手に大声で挨拶している元気な響子も可愛いけれど、
こうして隣で静かに寝息をたてている響子も、愛おしくてたまらないのである。
愉快な夢でも見ているのか、彼女の寝顔は微笑ましく笑っている。
そんなときはきまって、小さな尻尾が左右にユサユサと、響子の気持ちを表すかのように布団を揺らしている。
きっと誰も、もしかしたら本人ですら知らない、僕だけの秘密だ。
35スレ目 >>407
ちと早いけど
命蓮寺でバレンタイン
響子「○~○さぁ~んっあ~そびましょ~!!」
響子「ん?」
ナズーリン「ほらあげるよ」
○○「なんスかこれ」
ナズ「おやおや君も雄なら今日が何の日かわかっていると思ったんだがな」
○○「あぁ、バレンタインですか。ありがたく頂戴いたします」
ナズ「冷めてるなーもっと『イヤッフッゥゥゥ!!』って喜ぶとかあるだろう?」
○○「だって義理でしょう?とはいえ、嬉しくないと言えば嘘になります。後で大事に食べさせていただきますよ、ありがとうございます」ニコ
ナズ「ん、うん…」
響子「ばれんたいん!?忘れてました!!この幽谷響子一生の不覚!!何にも用意してませーん!!」ゴゴーン
響子「で、でもゆーてうちは仏教ですから他宗教のイベントとかそこまで関心ないですよね…?」
水蜜「はーいチョコあげるよー!」
○○「ありがとうございます」
響子「」
星「あ、あの…チョコを、つ、作って見たんですが…」
○○「ありがとうございます」
響子「」
一輪「ホワイトデー期待してもいいのよね?」
○○「いやはや弱りましたねぇ」
響子「」
ぬえ「その辺で買ってきたやつで悪いけど」
○○「手伝りっぽいんですが」
ぬえ「か、買ってきたって言ってんだろ!」
響子「」
マミゾウ「ほれ」
○○「これおはぎじゃないですか二ツ岩の姉御」
マミゾウ「甘いもん渡しとけば一応バレンタインへの義理は果たしたことになるじゃろ」
○○「義理過ぎでしょ」
響子「」
響子「み、みんなあげてます…!?」
響子「ど、どうしましょうわたしチョコの作り方なんて知らないし…」
響子「どうしよう…どうしよう…グスッ…(∪´;ω;`)」
聖「○○さんっ!どうぞ!」
○○「おおっ!聖住職から頂けるとは恐悦至極」
聖「えへへ///」
響子(あぁっ…あんな綺麗なラッピングまでしてある…)
響子「あ、あの…」
○○「おや響子さん」
響子「て、手を出してくださいっ」
○○「はい」スッ
響子「…ばれんたいん…忘れてましたので…(∪´;ω;`)」
響子「これしか用意できませんでした!ごめんなさい!!」
サッサッ コロコロ…
マー○ルチョコ
○○「」
響子(ショック受けてる…!)
○○「イヤッフッゥゥゥ!!」ピョーンッ
響子「Σ(∪°Д゜)」
○○「内心頂けないのかと心配しておりました…この○○大変喜んでおりますぅ…ぅっ…グスッ…」
響子「あ、あの…私皆さんのと違って…手作りじゃないし…その…」
○○「バリバリ!」
響子「!」
○○「Oh my コーンブ!!」ピョーンッ
○○「響子さんから頂いたのです、美味しいに決まっております!!」ナデナデ
響子「…えへへ///」
○○「そうだ、皆さん揃った時に渡そうと思ったのですが…」ゴソゴソ
○○「はい、私からのハッピーバレンタインです」スッ
響子「!!」
○○「チョコを作るのは初めてだったので出来は保証できませんが…」
響子「…ガツガツ!!」
○○「!」
響子「えへへ///美味しいです///」
○○「光栄です」
わたしの心に甘く響くあなたの言葉
きっとあなたの心にも同じ響きがありますように
最終更新:2021年05月03日 17:38