八千慧1



吉弔さんと博麗のお札(うpろだ・38スレ目>>431)




「霊夢さーん、お客さんですよー」

 庭先の掃除をしていると、表の方からあうんの声が聞こえてきた。
 少し待ってもらって、と返事をして、箒を片付ける。
 玄関から入ってくるお客らしいお客なんてこの神社にはめったに来ない。
 よく来る魔理沙も含めて、大抵は縁側に飛んでくるか、いつの間にか中にいるかだ。
 心当たりがないまま袖の埃を払って出向いてみると、

「こんにちは」

 「客」は、出来合いのを買ってきて貼り付けたような笑顔で玄関に立っていた。
 鹿のような角、背中の甲羅、鱗が生えた長い尻尾。
 ――あうんったら、番犬としてはほんとに役に立たないんだから。

「……悪いけど、客扱いするほどあんたのこと信用できないわ」

 畜生界のヤクザ・鬼傑組、その組長、吉弔八千慧。
 動物霊の異変を解決した後神社に来たこともあるけれど、正直うさんくさい。
 実際、どうも異変の裏でいろいろ企んでたらしいので、
 後からもう一匹の妖怪ヤクザが地獄で暴れたのを退治したついでに、
 灸を据えるというか釘を刺すというか、ともかく当分変な気を起こさなくなるような目には合わせておいたのだけれど。

「かまいませんよ。今日はちょっとした頼み事で来ただけですから」

 今目の前にいるこいつのしれっとした顔を見ると、どれだけ効き目があったのやら。



 さすがに玄関では(私が)落ち着かないので、外を回って縁側までは通した。
 ただし、お茶なし・座布団なし・何かあったら叩き出す用意あり、でだ。

「で、なに? たのみごと?」
「ええ。ここの神社に、妖怪の能力を封じるお札があるって聞きましてね。
 私に一枚分けてほしいんですよ」
「断る」

 ――よし、大丈夫。
 八千慧の能力は「逆らう気力を失わせる程度の能力」らしい。
 動物霊に憑かれてたり地獄の風でへばってたりしたせいで、
 異変のときはまんまとしてやられたけど、そうそう何度も思い通りにはさせない。

 それにしても、何を言い出すかと思えば。

「確かにうちの神社にはそういうお札があるわ。
 でもヤクザの抗争に手を貸すような真似をすると思う?」
「ああ、いえ。
 競争相手に貼って有利にことを運ぼうとか、そういう使い方をするつもりではないんです」
「じゃあどうするのよ。言っとくけど、そこらの妖怪や人間が気軽に使えるものじゃないわよ。
 値打ちの意味でも、力が強すぎるって意味でも」
「問題ありませんよ。別に他所の妖怪に貼ってどうこうしようというわけじゃないんですから」
「じゃあどう使うってのよ」
「私の能力を封じるために、私に使うんですよ。なんなら今ここで、私に貼り付けてもらっても構いません」

 ……はぁ!?

「あんたねぇ、自分の言ってることがわかってるの?
 勘違いしてると困るから言っとくけど、キツいだけで得することなんて何にもないわよ。
 いったいぜんたい、どこに好きこのんで自分の能力を封じたがる妖怪がいるっての?」

 思わず口を突いて出た言葉を吐ききって、息をつく。
 「××する程度の能力」みたいな、一番主だった力を封じるのがメインのお札だけど、
 そこだけきれいに使えなくして後はいつも通り、みたいな器用な効き方はしない。
 以前、悪さをしたので貼り付けた奴曰く、
 「身体の芯がぐらぐらして、能力も使えないし普段の力も出ない」とかなんとか。

 まったく、本当になにを考えてるんだろう?
 本気で問い詰めてやろうと身構えている私の目の前で。

「えっと……その……やっぱり、説明した方がいいでしょうかね?」

 待て。なんだその乙女ちっくな表情は。何故そこで顔を赤らめる。




「――それは、初めて会ったときはそんなこと考えてもみませんでしたよ。
 ええ、外の世界だろうと何だろうとたかだか人間風情、
 取るに足らないなんて言葉では飽き足らないほど下に見ていましたとも。
 でも酒を飲み交わしながら他愛ない話をして、そんなことを何度も繰り返している内に、
 彼の振る舞い、心遣いが、私の隙間を埋めるように染み込んで、
 そう、たとえて言うなら錠と鍵とのように噛み合うのを感じるようになり、
 気が付けば彼を傍に置いておきたい……いえ、傍にいてほしいという気持ちが湧き起こってきたのです」
「……あー、うん、なるほどねー」
「気が付けば地上に来るのが……いえ、彼に会うのが心から楽しみになっていました。
 胸の奥が締め付けられるような、それでいてほのかに温かく不快ではないこの気持ち……わかります?」
「んぁ? あぁ、そうね……わからなくもない、かしら?」

 ――――あきれた。何を言い出すかと思ったら、まさか散々のろけ話を聞かされるとは。
 要は、人里に出てきて偶然会った男と意気投合、何度も会う内に気が付いたら惚れていた、と。
 里の薬種屋で働いてる外来人、という八千慧の話には聞き覚えがあった。○○、とか言ったっけ。
 ……だけど、それとお札とどうつながるんだろ?

「それでですね、いろいろ考えてはみたのですが決心したわけです、
 彼に私の気持ちを伝えよう、一つ先の関係へ進もう、と。
 ただ――私にもプライドがあります」
「プライド?」
「組織のトップとしてはもちろんですが、一人の女としても、です。
 こうした告白をするからには、私の力――逆らう気力を失わせる力の影響を排した上でにしたいのです」
「使わないようにすればいいんじゃないの? 嫌でも出しっぱなしになるわけじゃないんでしょう?」
「もちろんです。それでも、退路は断っておきたいのですよ。退路と、あとは疑いの種も」
「……へーえ」

 見直した、というほどじゃないけれど。
 まあ、そういう大事なところでフェアにやろうとする心がけはいいことだと思う。

「どうかしましたか」
「いや、意外と殊勝なとこあるんだなと思って」
「まあ、出たとこ勝負をかけようというわけでもないのです。
 実のところ、彼も私のことを好いてくれていると思います。
 価値観の違いやお互いへの理解なんかも問題なさそうですし」
「ふーん、そこまで語り尽くしたんだ?」
「語り尽くしたというか、会ったときからずっと角も尻尾も特に隠したりはしてないですし、
 妖怪だからどうこうということはないのでしょう。ふふっ、奇特な人ですよね」

 うん?

「あー、なんていうか、もっと他にない? 大事なところ」
「煙草ですか? 時折喫ってもさほど嫌そうではありませんでしたが。
 ああ、でも彼の健康に良くないのであれば控えるようにしてもいいと思ってますよ」

 ……これは、言っておいてやった方がいいかなあ。

「ええと、その彼って外来人だったわよね?」
「はい、そうですが」
「外来人って、妖怪を変に怖がらなかったりするのよね。
 でもその分……ってわけでもないんだろうけど、
 ヤクザにはけっこう抵抗があったりするみたいよ?」

 私からすればどっちも大したことないし、普通の人間ならどっちも危ない。
 とはいえ、妖怪よりはまだヤクザの方が危なくないと思うんだけどなあ。 
 まあ、サンプルは早苗と菫子ぐらいだし、あの二人を平均的な外来人の代表とは認めにくいけれど。
 ちらりと八千慧の方に目をやる……こいつ、こんなに余裕のない顔とかするんだ。

「ひ、人聞きが悪いですねぇ。ヤクザだなんて、そんな」
「あんた、自分のなりわいについて相手と話した?」
「………………組織をまとめる仕事だ、とだけ」
「微に入り細に入り洗いざらい話した上で、胸張ってカタギの商売だって言える?
 私にじゃなくて彼に、よ」
「………………」

 元々血の気の薄い顔が、輪をかけて青くなってる。
 忠告のつもりで言い出したけれど、なんだか気の毒になってきた。
 これじゃまるで私がいじめてるみたいじゃないの。

「日を改めて、もう少し話をしてからにしてもいいんじゃない?
 そのときが来たら、お札の件は協力してやってもいいわよ」
「……いえ」

 蝋人形みたいだった八千慧の顔に、薄く赤味が差した。

「こうと決めて来たからには、後には引けません。よろしくお願いします」





「う゛っ」

 みぞおちに重めの一撃をもらったような声で八千慧が呻く。

「大丈夫? 貼っちゃった以上、もう自分では剥がせないからね」
「……これでも鬼傑組のトップです。すぐに落ち着きますよ」 

 背筋を伸ばしてみせる姿は、一瞬普段のうさんくささを忘れるぐらいきれいだった。

「終わったら私が剥がしてあげるから、また来なさいよ」

 上手くいってもいかなくても、というのを付け足そうとしてやめた。
 さすがに幸先が悪いし、そのぐらいは気を使ってあげてもいいかなと思ったから。

「ええ、次に来るときは彼と二人で来ます」

 そう言って、八千慧は人里の方角へ飛んで行った。
 ……どこまで応援していいのかわからない奴ではあるのだけど。

「まあ、上手くいくといいわね」

 そんな独り言とともに、私は少しふらつきながら小さくなっていく影を見送った。


38スレ目>>481


八千慧「今年もあと少しですね」
 ○○「こうして二人してこたつでテレビ見てるとほっとしますね」

『――続いて地上からのニュースです。
 博麗神社では年末恒例の亀の掃除が行われました。
 巫女がブラシで洗うと、亀は甲羅がきれいになるにつれて気持ちよさそうに――』

八千慧(あ、あれ気持ちよさそうかも……
    でもやってほしいと頼むのもちょっと恥ずかしいですね。
    能力を使ったところで相手の記憶が消えるわけじゃなし……」
 ○○「――もしかして八千慧さんもあれやりたいんですか?」
八千慧「うぇっ!? もしかして声に出てました!?」
 ○○「いや、なんだかそんな感じの顔してたから。その、僕でよければ」
八千慧「……こほん。よかったら、後でお願いします」

衣装の一部的に描かれるのも好きだけど
個人的に八千慧さんの甲羅は割と出したり消したりできる身体部位のイメージ
甲羅を任せてくれる≒髪を触らせてくれる ぐらいの位置付けだったりするとなお良いなと思う


38スレ目>>560


 ○○「八千慧さんの会社のカワウソさんたちって」
八千慧「え、な、何かありました?」
 ○○「僕のことを『アニさん』って呼んでくれるんだけど、どういう意味なんだろう……」
八千慧「し、慕われてるんだと、思いますよ?」
 ○○「社長の八千慧さんも好かれてるみたいだし、いい雰囲気の会社なんだね」
八千慧(ああ、カワウソたちがまたやらかす前に本当のことを伝えないと――
    私はKIKETSUコーポレーションの社長じゃなくて鬼傑組の組長だって)


避難所>>653


八千慧「気を遣っていただいて申し訳ないのですが――すみません、トナカイは守備範囲外なんです」
 ○○「難しいものですね……」
八千慧「貴方が一緒にいてくれるなら、それで十分ですよ。
    鬼傑組のパーティーもあって忙しいですが、二人の時間もちゃんと取ってあります。
    良いクリスマスを、楽しみましょう?」


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最終更新:2024年08月25日 22:38