空が蒼い…
どこまでもどこまでも視界いっぱいに広がる'蒼'
まるで水の中にいるような……ん?
み…ず…
がばぼがぶがっ!
おっ溺れてやがる!
いったい何時、何処で、何故に!
……あー、思い出した。
あの…あれだ、川で滝からDIVEしてたらぁ
思いのほか深いところに足が引っかかってぇ
溺れちゃったぁみたいなぁ~
って実況解説してる暇があるか俺の馬鹿っ!
…でもいったいどうするよ俺
このまま一生が終わるのはご遠慮願いたい
だってまだ青春を全っ然謳歌していないのだから(キリッ
しかしもう酸素も限界だ、どこかに流れ着くのを待つしかないのか…

~青年漂流中~

「…い、にんげーん」

なんだ、誰か俺を呼んでいるのか?

「おきろー、にんげーん」

人間人間うるさいなぁ元々ここは人間しか住んでないだろうが

「ふーむ、おきないか」

起きないも何も体が痛くて声も出せない手足も動かせない目も開けられないっての

「…人工呼吸でもしてみるか」

What?今…何と言った?じ・ん・こ・う・こ・きゅ・う?
その~まうすとぅーまうす的なあれか

「これも人間のためだ、仕方があるまい」

仕方がないって、ふむならば仕方があるまい…
って
「できるかぁぁぁ!!!」
「おお、起きたか人間」
「助けてくれてのは感謝するがお前は一…体…」
「ん?どうした人間」

そこには蒼い髪を二つに結んだ少女がいた

「か」
「か?ああ私はかpp「かわいいぃぃぃぃ」」

クリティカルヒットだぜこの野郎!!!
まさしく俺が求めていた女の子だぜ

「かっかっかわいい?私がか?」
「あっ…すみません!すみません!」

俺は何を口走ってるんだ、もうちょっとKOOLになるんだ
とりあえず感謝をするべく話を元に戻す

「あのさっきはありがとうございました」
「///」
「えっと、どうかされましたか」
「ふぇっ?いやっなんだっ無事でよかった」
「いえいえそれよりここはどこなんでしょうか」
「ここは河童の里の近くの川だ」
「河童?」
「河童を知らないのか」
「いえ知ってはいるんですが、どうにも実感が湧かなくて」
「ふむ、幻想郷の人間は皆河童のことを知っていたと思っていたが」
「あの?」
「私の名はにとり、河城にとりだ」
「にとりさん、その河童の里とやらはどの辺に位置しているのでしょうか」
「どこといわれても…私は地理には詳しくなくて…すまない」
「いえ、その代わり…と言っては何なんですが」
「なんだ、そんなに畏まる事も無いだろう?」
「泊まる…泊まる場所をどこか教えてくれませんか」
「泊まる場所か」
「ええ、とりあえず一晩だけでもいいんで。お願いしますっ」
「そ、そういわれてもここから出るといつ襲われるかわからないぞ」
「はぁ…それならにとりさんの家の倉庫でもいいんで!御願いします」
「わっ…私の家にかっ?」
「はい、もちろん手伝ってほしいことがあれば何でも言ってください」
「………(盟友を不用意に外に出して襲われでもしたら面目ない)」
「………(私のことをかっ…かわいいと言ってくれた人g、盟友だしな)」
「………(だが、私の家に泊まるのもなんというか…恥ずかしいのだが)」
「にとりさん?」
「分かった、しばらくここに泊まるといい」
「あっありがとうございます!!」
「そっそのかわり約束してくれないか」
「はいっ!なんなりと!」
「如何わしい真似はしないでくれよ」
「もちろんです!」

少し残念だけどなっ畜生っ!!

「じゃあ付いてきてくれ」

~青年・河童移動中~

「ここだ」
「wow」

そこは家というかなんというか
昔の古風な家をそのまま現代に持ってきたみたいな家だった

「随分古風な家ですね」
「?そうか里の方ではこれが主流だと思うが」
「こっちでは現代的な家が多いものでつい、すみません」
「いや、いいんだ。それより君の部屋なんだが」

話しながらつかつかと進んでゆくにとりさんと俺
にとりさんの髪は本当にきれいだなぁ
服も明るい色でまとめられていて違和感ないし

「どうした盟友」
「いやにとりさんの髪は綺麗だなぁと思って」
「ほぇ?」

Shit!なんてこった!また本音が表に出てしまったorz
どう弁解すればいいものやら

「すっすみません!変なこと口走ってしまって」
「う、嬉しいな盟友///そんなことを言ってくれるものは一人もいなかった」
「い、いえ喜んでいただけたなら恐悦至極の極み」
「きょうえつしごく?」
「いえ、何でもありません」
「そ、そうかならばいいのだが」

ふぅ、せふせふ……じゃねえよ!もうちょっと親密になってからそんなことを言うもんだろが
少しは考えるんだ俺、落ち着け俺、すーはーすーはー

「どうした深呼吸なんかいきなり始めて」
「なんでもないです」
「?…さてここが君の部屋だ」
「うわぁお」

そこは部屋というかもともと使ってないような部屋だった

「ここは作ったはいいが私には広すぎてな」
「こんな部屋にお世話になっていいんですか!」
「喜んでくれて何よりだよ、じゃあこの部屋の掃除からだな」
「掃除くらい自分でやりますよ」
「遠慮はしなくてもいいんだぞ」
「いえ、お気持ちだけありがたく受け取っておきます」
「人間は本当に謙虚なんだな、私はそこの部屋にいるから何かあったら呼んでくれ」

奥の方にある"にとりの部屋"と書かれたドアプレートがかかった部屋を指さす
『その隣にあるのがトイレと浴槽だ、入るときはきちんとノックするように』
と言われた。ラッキースケベは期待しない方がよさそうだ

「さてと、まずは買い出しだ」
「にとりさん、この辺にお店ってあります?」
「店か…近くの森にならあるぞ」
「ここからどのくらいかかりますか?」
「私の友達を連れてくるから問題ない」
「友達ですか…」
「ああ、雛だ」
「ひな?」
「赤と緑の服で来るからすぐ分かるはずだ」

赤と緑とはまた目立つ服装だなぁ
それなら一発で見つかりそうだ

「じゃあ外で待っていればいいんですか?」
「ああ、じゃあくれぐれも気を付け行くんだぞ」
「はい、行ってきます」

~青年買物中~

「た、ただいま帰りましたぁ~」
「おう、遅かったじゃないか盟友」
「いや店主の霖之助さんにいろいろ勧められちゃって」
「ああ、あそこにはめったに客が来ないからな」
「そうなんですか?」
「私たちには理解ができないような道具が一杯あるからな」
「?俺結構わかりましたけど」
「ほ、本当かっ!」

いきなりにとりさんが近くに寄ってくる
綺麗な顔だ、顔のパーツが俺好みでとっても

「かわいい」
「ひゅい?」

Ouch!俺は学習能力が全くない鳥頭なのか!
あれだけしっかり本音の流出には気をつけろと誓ったばかりじゃないか!
俺はどうしたらいいんだ大佐!

「すみませんでしたぁぁ」
「いやいいんだ///褒められるのは嬉しいからな」
「で、さっきは何を話そうとしていたんですか?」
「そ、そのどれくらいわかったのかを聞こうと思ってだな」
「霖之助さんが『分からない』って言っていた商品は全部わかりましたよ」
「ほぅ」
「あ…でもなんか店の手前に置いてあった古い道具はわかりませんでした」
「……ちょっと待っていろ」
「は、はい」

ごそごそと物音が聞こえる、何かを探しているみたいだ。
しかし俺の本音の暴走には困ったものだ、どうにかして治せないものかねぇ。
そんな考え事をしているとにとりさんが帰ってきた

「はぁ、はぁ、こ、これ見たことがあるか盟友」
「これですか…」

こ、これは…S○NYのP○4ジャマイカッ!
まだ発売されて三日と経ってない本体価格ン万円の最高性能ハイスペックゲーム機!
性能は容量がs(スキマによって削除されました)

「P○4ですねこれは」
「P○4?」
「ええ、最新ゲーム機ですよ、ご存じないですか?」
「ゲーム機…あの暇人が暇潰しを楽しく過ごすために作ったとされるものかっ」
「え…えぇ」

暇人って酷いなぁ。さっき店でブレザー着た兎が『これの最新作入荷してない?姫様がご所望なの!』
って言ってP○3のペル○ナ4を買っていったんだけどなぁ

「…よし盟友、君はなんでも手伝うといっていたな」
「はい」
「じゃあ君は今から私の助手だ」
「助手…ですか」
「私は村の修理屋をしているんだが猫の手も借りたいくらいなんだ」
「俺機械のこと全然詳しくないですよ」
「いいんだ、最初は雑用係として扱うから」
「はぁ…頑張ります」
「じゃあ今日はもう遅いし詳しい話はまた明日な」
「はい、おやすみなさいにとりさん」
「ああ、おやすみ盟友」

荷物の整理をしてから寝ようと考えた時、にとりさんが俺を呼び止めた

「ちょっと待ってくれ盟友」
「はい、なんでしょうか?」
「夕餉がまだだろう?奥の部屋にあるから食べるといい」
「い、いいんですか?俺にとりさんに助けてもらってばかりで」
「いいんだ盟友、その代わり明日からの仕事を頑張ってくれればいいさ」
「はい!」
「それじゃあ」
「おやすみなさいにとりさん」

バタン

ドアが閉まる音を聞いて静かに奥の部屋へと向かう
テーブルの上にお皿が乗っていた、おそらくこれに料理が入っているのだろう
少し期待してかかっていたカバーみたいなものを外す
その時ピラッと一枚の紙が落ちた
なんだろうと思って紙を拾い見てみるとにとりさんからの手紙だった
『盟友へ
 ここは君の住むの所と少し違った場所だ
 慣れるまでには時間がかかるだろう
 慣れるまでは私がしっかりサポートするとしよう
 それでは、いい夢を 

 追伸 私の夕餉の残り物だが嫌なら食べなくていい
    そこまで料理はうまくないからな
    食べたのなら食べた器はほったらかしで構わない
私が洗うからな、ただ水には浸けておいてくれ
…それと、私を褒めてくれて嬉しかったよ盟友
ただ、唐突に物事を言うのは遠慮してくれ
恥ずかしいからな』

よかった、俺変な人と思われてなかったぜ!
ただ……気を付けようかな流石に(汗
さて…飯にするか
ん…んぐ…こりゃあ…

「うまい!」

夜中なので声のトーンはなるべく抑える
でもこの大きさだとにとりさんに聞こえちゃったからかな
特にこのピクルスっぽいのが逸品だ
こりゃ本場のより美味いかもなぁ
明日、にとりさんに感謝しないとな
さて…皿洗って寝るか

~青年皿洗浄中~

ふぃー終わった、にとりさんの溜まっていた分までやったから時間かかったな
片づける場所がわからないからカバーの下に置いておくか
…にとりさんへの負担を軽減するためにも出来る事は自分でやっていこう!
そんじゃ寝るか…

あっ…
部屋の片づけ忘れてたぁぁぁぁぁorz
こりゃ寝れないなぁ
はぁ…
明日大丈夫かな?


「……いゆう」
「……い、盟友」

声がする。人が折角気持ちよく寝てるのに邪魔をするとは何事だ

「盟友、朝御飯の時間だぞ」

朝飯?もうそんな時間か…ん?

「今日は忙しくなるぞ、早く起きないか」

俺は一人で上京してきたはず…まさか!

「じゃあ…おはようのキスしてくれたら起きるよ」
「ひゅい!」

おそらく何処からか来た綺麗な女の子が俺を訪ねてきたに違いあるまい!
とうとう俺にも異次元への扉を開く瞬間が来たようだな…

「じゃっじゃじゃじゃじゃあ……す、すするぞ///」

満更でもなかったようだ、どうやら好感度はもうかなり高いようだな
もう少しで結婚End直行か?

「すーはー、すーはー」
「よ、よよよよよよし、行くぞ!めめめめめ盟友!」

そうか俺の愛称は盟友か……って

「ちょっと待ったァァァァァァァ!」
「きゃあ!」
「危ない、非常に危ないところだったぜ…」
「何するんだ!いきなり飛び起きたりして!」
「あぁすまないにとり…さん」
「おお、ようやく起きたようだな///」
「顔真っ赤ですけど…風邪ですか?」
「君のおかげでこうなったんだ!」
「は、はぁ?」

俺が一体何をしたと?俺は夢の中でキスしようとしただけであって…

「とにかく!顔を洗って居間まで来てくれ」
「わ、分かりました…」

にとりさんは何やら不機嫌そうに去って行った…
俺何かしたかなぁ?

~青年準備中~

「すみません、遅くなりました」
「さ、早く食べて私の仕事を手伝ってくれ」

まだにとりさんは機嫌が悪いようだ、口調が少し強い

「あぁ…そうでしたね」

そういえば約束してたんだよな、お手伝いをするって
どんな仕事なのかなぁ、俺は頭脳労働専門だからな…

「それと」
「はい?」
「き、昨日の料理は美味しかったかい?」

先程の機嫌の悪さははどこへやら、上目使い全開で質問してきやがる
どうやらこの人は相当手練れのようだ

「えぇ!もうこれ以上ないくらいに美味しかったですよ!」

俺も負けじと言い返す

「そ、そこまで言われると何だか照れるなぁ…ふふっ」
「嫁さんに貰いたいくらいでしたよ!」
「……ほぇ?……よ……め?」

エンダァァァァァァァァァァ!また本音が口から出ちゃったよ!
あれだけ昨日散々自分に言い聞かせたのに!何やってんだ俺!

「あ、あの!そうだったら嬉しいな、っていうだけなんで!」
「///き、君は少しはTPOをわきまえたらどうだい?」
「あ……すいませんでした!」
「今度からはちゃんと気を付けるようにな」
「はい、気を付けます」
「……でもやっぱり褒められるのは嬉しいな」
「はい?まだ何かありました?」
「いや、何でも無いんだ…でも今日は色々なことを叩きこんでやるからな」

今さっき呟いていた言葉が気にはなるが今日は助手初日だ!頑張ろう!

「が、頑張ります!」
「くれぐれも体には気を付けてくれよ」
「はい!」

そう言いつつ俺は朝食を食べ終わり片づけに入ろうとした…だが

「ちょっと待ってくれ」
「はい?何か問題でも?」

にとりさんが俺の手を握ってそう言った

「私は自分で使った食器は自分で洗うんだ」
「じゃあ洗っちゃだめなんですか?」
「そういう訳じゃないんだが…家事まで君に任せるわけには…」
「いいですよ、俺頑張りますから!それに…」
「それに?」
「にとりさんが俺を助けてくれたんだしそれくらいしなきゃ恩返しになりませんよ」
「そこまで言われちゃあ…」
「でしょ、ゆっくり今日の準備でもしててください」

俺はスポンジ?のような物に洗剤をつけて水に浸かっていた食器を洗いだした
開始して僅か3秒、にとりさんが話しかけてきた

「ちょっといいかい?」
「はい?」

水を止めにとりさんの方を振り向く

「いつまでいるつもりだい?」
「いつまでって?」
「いや、助手が居なくなったら別の助手を探さなければいけないのでね」
「帰る方法がわかったらそのうちにでも帰ろうかと…」
「……また一人か」
「え?」
「あぁいやこちらの独り言だよ気にしないでくれ」
「はぁ…」

じゃあ一瞬だけ見せたあの寂しそうな顔は何だったのだろうか…
それが気になりながらも俺は食器を洗っていた

~時間経過~

「やっぱり慣れないことはするもんじゃないなぁ」

腰が痛いし、何より腰が痛い、帰ったら自分でやる癖をつけようかなぁ
とりあえず食器をすべて洗い終わり、様々な水回りの片づけを終わらせ
俺は今日の用事の概要を聞きにとりさんの部屋へ

トントン

『はーい、なんだい盟友』
「あのーとりあえず終わったんで報告に」
『じゃあ外に出て待っていてくれ』
「手伝いは不要ですか?」
『あぁ、今日はそんなに重くないからね』
「分かりました」

しかしサービス業とは一体…
金は取ると言っていたしもし悪党にでも絡まれたりしたら…
俺、にとりさんを守らなきゃいけないのかなぁ
まぁやってやろうじゃないか!諦めたら人生終了って誰か言ってたしな!

「お、お待たせ~」

ふと見るとにとりさんが何やらデカい物を持ってこっちに来ていた

「…にとりさん」
「ん?なんだい?」
「それ…本当に一人で持てるんですか?」
「あぁ…普通に持てるぞ」

俺そんなの持ったら腰が逝っちゃいますよ

「じゃあ行こうか」
「は、はい」

少し男としてのプライドが崩壊しつつも俺とにとりさんは村へと向かった

~青年・河童移動中~

「さてと、着いたぞ」
「……」
「ん?どうした?」
「コココココレッテ」
「ん?家だが」
「ワ、ワラノイエガアルー!!」

どうやら俺はとんでもない所へ流されたようだった…

「そんなに驚くことでは無いだろう?」
「瓦じゃないんですね」
「それなりのお金がいるからね」
「成る程…」
「じゃあ仕事に入ろうか」
「は、はい!」

~河童説明中~

「以上だね、分かったかな?盟友」
「だ、大体は…」
「そのうち補足はその都度必要に応じてするからな」
「はい…」

今更まるっきり分からなかったと言っても遅いだろうな…

「頑張ってくれよ盟友!期待してるぞ!」

期待までされちゃったよ、こりゃ頑張るしかないな!
そしてもう一つ気になっていた事をにとりさんに話してみる

「あの」
「なんだい?分からないところでもあったかい?」
「い、いえ」

山の様にあるんだけど今は省略

「俺のこと名前とかで呼んでくれませんか?」
「なぜだい?盟友もなかなか良いじゃないか」
「その…慣れてなくて」
「名前とかはもう少し親しくなってからじゃないか?」
「ん~よく分かりませんけど…じゃあまだ盟友でいいです」
「いいのかい?君が提案したんだから…」
「いや…もう少し親しくなってからか…」
「?」
「にとりさんが俺の事を信頼できたなら俺の名前を呼んでください」
「信頼は…まだ出来てないからねぇ」
「でしょ、じゃあその時にお願いします」
「……でもそれまで君が居てくれると…嬉しいな…盟友?」
「まだなにか?」
「いや、今日のルートを説明しようと思ってね」
「分かりました!頭に叩き込んでおきます!」
「えーっとじゃあ…」

そういいつつにとりさんは説明を始めた…
さっきからボソッと言う言葉が聞き取れない
俺には関係ないのだろうか?
そんなことを思いつつルートの詳細を聞いていた

~青年接客中~

「これをどうにかしてくれませんか?」
「これは…あぁ電池が無くなっているだけですよ」
「電池交換だけでいいんですか!よかったぁ~」
「それじゃあお大事に」
「あの、料金は?」
「これくらいじゃ料金取りませんって」
「本当にありがとうございました」
「いえいえ」

そういって子供連れの親子は去って行った
にとりさんによると修復不可能そうな物や
改造などは料金を取るがそれ以外は無料なんだそうだ

「にしても、……非常に疲れる」
「バイトでやったのとは随分違うんだなやっぱ」
「こんにちはー」
「はーい」

そうして俺の初仕事は終わった…

「お疲れ様、盟友」
「にとりさんこそお疲れ様です」
「君は私の助手に非常に向いているな」
「そうですか?それは光栄です」
「ずっと私の助手で…は無理な話か」
「ですかね…やっぱり家に帰りたいし」
「君は実に要領良く仕事をこなすから是非家に欲しい人員なんだが…」
「すみません…」
「いやいいんだ、君に私の我儘に付き合ってもらう理由はないからな」

と言ったにとりさんの顔はやはり寂しそうな表情だった。
にとりさんが俺を必要としている…?
いやいやいや、何を言っているんだ俺は!
まだロクに信頼もされてないのに何を言ってるんだ!

でも…心配なのには変わりは無い

「にとりさん」
「ん?どうした?」
「朝もそうですけど何かあったんですか?」
「な、何かって何が?」

明らかに挙動不審だ。

「いえ…何でも無いなら良いんですけど…」
「まぁ…私の勝手な悩み事だ、気にしてくれるな」

と、笑顔でこちらを向いて答えるにとりさん。

「分かりました…」

でもその笑顔はとても自然な物とは言えないぎこちないものだった。

「じゃあ帰ろうか」
「…あ、はい」

そうして一日が終わった…

~帰宅中~

「いつもこんな感じなんですか?」
「あぁ、大体これを行うのは週に二回だな」
「ふぅん、じゃあ俺が来るまでこの重労働を一人で?」
「そういうことになるのかな」

俺はなんてひ弱なんだろうか…

「俺役に立ちましたかね?」
「十分だよ、一人ではできないことも十分やってくれたしな」
「それはそれは、光栄です」
「…それに君の声援もあったからね」
「俺の声援…?ですか?」
「あぁ、君も同じような事はあるだろう?」

うーむ…小学生の運動会以来声援なるものはもらっていないのだが…
でもその時の応援があったからリレーが一位だったのかもなぁ

「…そうですね、俺の声援が役に立ったのなら何よりです」
「ふふふ、是非来週も頑張ってくれよ?」
「はい!頑張りましょうね!」

役に立ったのなら何よりだな!ようし!次も頑張るぞ!


ん…んぅ…にとりしゃぁぁぁん…くふぅ…

「おh…」

可愛いですよぉ…抱きしめてなでなでしたいですぅ…

「……な」

うふふふぅ~可愛いんだから~
ほらほらこっちに顔向けて~

「お…起きろおおおおおおおお!!」
「おはざあああああっす!」

ど、どどどどどどうしたってんだい!

「い、いきなりどうしたんですか!緊急事態ですか!」
「き、きききき君がいきなり破廉恥な事を言うからだ!」

一体何のことやらさっぱり…

「とにかく!もう朝だ、起きるんだ」
「は、はい…」

謎だ…謎しか残らん…

~青年&河童食事中~

「今日は何を?昨日で修理はおしまいですか?」
「……」
「…?人の顔をじっと見てどうかしました?」
「!? 何でも無い!」
「はぁ…で、今日のお仕事は何を?」
「今日は…機械の修理なんだが…」
「この前みたいに里に出るんですか?」
「いや…少々厄介な物を家で修理するんだ…」
「厄介…と言いますと?」
「そのな…私も初めて扱う代物なんだ」
「成程…だから元気がないんですか」

何でも直してきたにとりさんが扱った事の無い物か…

「大丈夫なんですか?」
「あぁ、最低限の知識は持っているからな」
「くれぐれも無茶は控えてくださいね」
「!? 心配してくれるのか?」
「勿論ですよ、だってかw…」
「か?」
「い、いえ何でもありません」

俺も学ばない男ではない…危なかった…

「…別に君なら言ってくれてもいいんだぞ…」
「はい?」
「何でも無い!」
「は…はい…」

あれか?今日みたいな日の事を厄日って言うのか?
折角好感度は上げてきたつもりなんだが…

「あ…強く言い過ぎてしまったなら済まない…」
「いえ、以後気を付けます…」
「…私は何をやっているんだ…まったく…」
「気にしてませんよ?俺はしょっちゅう独り言を言うような奇人でしたので」
「しょっちゅうって…」
「申し訳ないです」
「いや、気にはしていないよ」
「で、今日は俺は何をすれば?」
「そうだな…部品全般の運搬をお願いするよ」
「はい!今朝の分まで一矢報いたいと思います!」
「今日は無事に済むといいんだがな…」
「そんなこと言ってたら本当になっちゃいますよ」
「そうだな…今日も頑張ろうか!」
「イェッサー!」

そうして今日も無事に一日が始まった

「…え?」
「ん?どうかしたのか?」
「いえ…これなんですか?修理する物って…」
「あぁ、そうだが?」

そこには巨大なロボ…俗にいう人が搭乗するようなロボットらしきものがあった
明らかにここにあるべき物じゃないだろこれは…

「なんでも山の上に居る巫女がこれを拾ってきたらしいんだ」
「よく持って来れましたね…」
「まぁ神様だからその辺は造作も無いのだろうね」
「ヘーソウカーカミサマカー」

胡散臭すぎる…この地域にはまだ神の存在を信じている人が居るってのか?
…俺凄く辺鄙な所に来ちゃったんだなァ…

「で、そこの巫女がこれに乗りたいから修理をしろって依頼を受けたんだよ」
「な、直せるんですか?」
「河童の技術を舐めちゃあいけないよ盟友」
「わ、分かりました」

幸先が不安と言うか混沌としてきている…
俺生きて帰れるのかなァ…せめてHDD位消してくりゃあよかった…

「よし!やるぞ!」
「お、おー」

一抹の不安を抱えつつ修理が始まった

~青年&河童作業中~

ギュイイイイイイインン
ガガガガガガ
バチバチバチバチ
キュラキュラキュラキュラ
ゾゴゴゴゴゴ

「次のネジ持ってきて!」
「番号を詳しくお願いします!」
「763-193のBを21本!」
「了解です!」
「それと追加で398オイルを1.5Lね!」
「はい!」

予想以上に状態が悪いらしく、錆や亀裂、損傷、劣化等の欠点のオンパレードだった
おかげでもう休み無しで5時間も作業する羽目になっている…うぅ、インドア派にはきつい仕事だ

「済まない!足のB-B-Aパーツがその辺に落ちてしまった!」
「拾ってからどうします!」
「投げてくれ!」
「は、はい!」

一応陸上で槍投げはやってたんだよこれでも…今の能力は知らんがやってやるぅ!

「神槍!スピアザグングニルゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

フォン!
パシッ!

「良い肩をしているな!」
「それほどでも!」

…若干厨二臭かったけど声を出したら飛距離が上がるって誰かが言ってた気がする

「あともう少しで終わりだぞ!」
「本当ですか!」
「上半身はな!明日は下半身だ!」
「…あ、明日も一緒に頑張りましょう!」
「あぁ!」

よりにもよって明日も作業か…筋肉痛が激しくないといいが…

~青年&河童片付け中~

「しかし今日は疲れた…ハァ…」
「ん?そんなに体にきているのか?」
「え、えぇ…お恥ずかしい限りで」
「じゃあ今日は私がマッサージしてあげよう」
「………!?」

にとりさんの手もみマッサージ…だと…

「やったぁ!嬉しいなァ!ありがとうございます!」
「あ、あぁ…そこまで嬉しい事なのか?」
「えぇ!こんなに可愛い人からマッサージをうけるなんて…嬉しくてヘヴン状態ですよ!」
「へ、へゔん?」
「要するに死ぬほど嬉しいって事ですよ!」
「そ!そんなに嬉しいのか?」
「はい!」
「…ありがとう盟友…すごく…嬉しいよ」
「は…はい…」

少し見惚れてしまった…すごく…すごく可愛い笑顔だったなぁ…

「もう今すぐ抱きしめたいくらい可愛かったなぁ…にとりさん」
「盟友、口から洩れてるぞ?」
「…イヤアアアアア!!」
「フフフ…さぁて…帰ってお風呂が終わった後してあげよう」
「はい!喜んで!」
「盟友が嬉しいなら腕を振るうよ」

よおぅっし!帰ったら念入りに体を洗わなきゃな!
そういや・・・俺の独り言どう思ってるんだろう…

「にとりさんは、俺の独り言気持ち悪いとは思わないんですか?」
「独り言?……あぁ…君と出会った時にも出ていたな」
「俺ついつい心の声が漏れちゃうんですよ…直そうと思ってるんですけどね」
「気にすることないさ、むしろ嬉しいくらいなんだよ」
「嬉しい?…本当ですか?」
「あぁ…生まれてから今までで君と一緒に居る時間が一番楽しいくらいに…」
「それって…」
「私らしくもないな…フフッ」

にとりさんはこの前見た時よりずっと…綺麗な笑顔をしていた

「急がないと夜になってしまうな、急ごうか」
「はい!」

にとりさんと距離が縮まったかな?と思う一日だった…
まだ終わってないけどな!

~3時間後~

「…ゴクリ」
「どうした?横にならないとマッサージできないぞ?」
「はい…」

尋常じゃないくらい緊張してきた…落ち着け…落ち着け…しかし…
高校の時全校生徒の前で校長先生の鬘取った時の後より緊張してやがる…

「もしかして…嫌…だったか?」
「!?」
「いや…よく考えたら赤の他人に体を任せるのはどうなんだろうと思ってな…」
「そ…そんなことないです!」
「本当…か?」
「当たり前ですよ!にとりさんは可愛いんですから!」
「理由がよく分からないんだが…」
「実はまぁ…緊張してるんですよ…でも大丈夫です!もう吹っ切れましたから!」
「よかった…嫌われてないんだ…」
「俺はにとりさんを嫌ったりしませんよ」
「…ありがとう…何回目だろう…」
「さぁ!早くしてください!楽しみだったんですから!」
「あぁ…頑張るよ!」

~1時間ほど後~

「ふぅ…だいぶ体が楽になりました」
「それはなにより、明日も頑張ってもらわないといけないからな」
「はい!明日の分の元気が今漲ってますよ!」
「フフフ、頼もしいな」
「明日の俺は500人力ですよ!」
「じゃあ明日は今日以上に頑張ってもらおうかな?」
「ま、任せてください!にとりさんの命が狙われようと体を張って見せますよ!」
「随分自信があるんだな…少し驚いてるよ」
「にとりさんのマッサージの腕が良いおかげですよ」
「自分ではこの腕は今一なんだがな」
「そんなに謙遜しなくていいですよ、腕は俺が保証します!」
「ありがとう、じゃあもう寝ようか」
「ですね、明日も頑張らねば…じゃあお休みなさい」
「あぁ、お休み盟y…」
「どうかしましたか?」
「だいぶ君の事も分かってきたことだし…いや、何でも無い」
「?」
「明日も一緒に頑張ろうな!」
「は、はい…」

バタン

さっき言いかけていた事は何だろうか…なんか気になってきた…
俺の事が何たらかんたら…いかん、余計に予想がつかん…
でもそろそろ寮に帰らなきゃ大学の単位がヤバいだろうし
明日あたりに切り出してみるかな…
しかしここに来てもう一か月か、意外に早かったな
さて、寝るか…



ムクッ

今日は珍しくにとりさんが起こしに来る前に起きる事が出来た
まぁ大学生活がまた始まれば否が応でも早起きをしなければいかん訳だが…
でも大学生活が始まるってことは…にとりさんとお別れしなきゃいけないって事か
でもまぁ元の場所に帰るすべが今のところない訳だし…考えなくてもいいかな

トントン

「失礼するよ、おや今日は起きていたのか」
「あ、おはようございます」
「朝食にしようか」

そういえばにとりさんは帰る方法を知っているのだろうか

「はい。…あの」
「ん?どうかしたのかい?」

聞かないよりマシかとは思い聞いてみる

「元の場所に戻れる方法知りませんか?」
「…博麗の巫女なら知っているかもしれない」

少し沈んだ表情でにとりさんは言ってくれた

「はくれいの巫女…ですか」
「麓の博麗神社ってところに居るはずだよ」
「そうですか、ありがとうございます!」

たしかそこになら行ったことがあるはず!これはついてるなぁ!

「…やっぱり君も、帰ってしまうのか」
「え?どうかしました?」
「…いや、何でもない」

最近にとりさんの表情がやけに暗い気がする…思い過ごしだろうか

~青年&河童朝食中~

「そうだ、今日は博麗神社に行ってくるといい」
「でも今日の仕事大変だったんじゃないですか?」
「いや、君も早く元の場所に帰りたいだろうと思って」
「そんな気を遣わなくてもいいですよ、体は丈夫な方ですから
「じゃあまたたくさん手伝ってもらうことにしよう」

はにかんだ笑顔でにとりさんが言う

「でも今日は大丈夫だ、明日また手伝ってくれ」
「じゃあお言葉に甘えますね」
「あぁ、気を付けてな」
「はい、にとりさんも」

互いに「いってきます」と言った後、博麗神社に向かった

~青年移動中~

「ここ…か?」

随分古めかしい神社だなと外見を見て思う
あまり整備もされていないようで瓦が所々欠けている

「こんな貧相な神社に巫女なんているのか…?」

バシッ

「いってぇ!」
「失礼ね!貧相な神社とは!由緒正しいのよ!」

後ろから何かをぶつけられた

「誰だ!人の頭に物投げやがって!」
「貴方が失礼な事を言うからでしょう!」

声のする方を向くと紅白の衣装に身を包んだ女性が立っていた

「えーっと…もしやここの巫女さんですか?」
「そうよ、博麗の巫女とは私の事よ」
「言ってもないのに自己紹介しなくても…」
「また陰陽玉食らいたいのかしら」
「…そんな物騒な」

何やらとんでもない人がここの巫女をやっているらしい

「で、用件は何?無いなら拝んで帰りなさい」
「全然関係ないですけど…今頃神社って儲かりますか?」
「…見て分からない?」
「はい全て察しました」
「あと一回だけ物を言う権利をあげるわ、それ以上喋ったら駆逐するわよ」

なんだ現代にはまだ何事も物理で解決しようとする物理系女子が居たのか…こええ

「えぇっと…俺は知らないうちにこの地域に飛ばされしまって、帰る方法を探しているんです」
「はぁ…最近多いわねェ…」
「最近多いんですか!」
「詳しい事は面倒だから話さないけれど、貴方みたいな人が多いのよ」
「じゃあ今まで来た人は?」
「私が帰しているわ、帰りたいって思っている人はね」
「ここの地域に居座る人もいると?」
「…一部ね、自己紹介もしていないのに名前を知っている人たちは居座っているわ…なんなのかしら」

エスパーかなにかだろうか…しかしこんな辺境の地に居座るなんて奇特な人たちだなぁ

「あの…俺は帰りたいんですけれど」
「あぁ…じゃ明日来て、時間は朝か昼」
「急ですね…」
「忙しいのよ…色々と」

色々との部分だけ目をそらした…やる事ないんだろうなぁ

「あと面倒だから」

それが本心だと一発で見抜いた

「分かりました、明日ここに来ます」
「えぇ、じゃ」

すたすたと神社の方に向かって帰っていく巫女を見つつ少し考えていた
…忙しそうなにとりさんを一人にしていいのだろうか
…彼女一人で仕事をこなせるだろうか
…彼女が悲しむのではないか
人の気持ちを考えず勝手にそんなことを思ってしまう
しかし明日帰ると言ってしまったのだ、今更帰る事を断るのは巫女さんに迷惑をかけるだろう…

「はぁ…」

もやもやしつつ仕事場へ向かった

~青年作業場へ移動中~

「あ、お帰り」
「ただいま帰りました…どうですか?仕事の方は」
「もう今日は終わらせてしまったよ」

彼女一人で仕事はこなせている…と

「俺が居ない間忙しくなかったですか?」
「君が居なかった時もずっとこの仕事をやっているからな、大丈夫だよ」

忙しくもない…と

「ん?どうかしたのかい?」
「いえ…」

彼女が悲しんでいるかは、言ってからの表情を見て判断しよう

「神社に行ったら元の場所に帰れるって事が分かりました」

ふと、作業の音が止んだ

「そ…うか、それは良かったじゃないか!」

嬉しそうな声でにとりさんは言う

「こんな不便な場所に居るのも退屈だっただろう?」

彼女は嬉しそうに言っている

「不便ではありましたけど…」

でも、それが本心ではない事にすぐに気が付く

「じゃあ今日には祝賀会を開くか!君が帰る事の出来る記念だ!」

何故にとりさんが嘘をつくのか分からない

「でも…」

にとりさんの本当の気持ちを聞くために、勇気を出して言ってみる

「二人だけと言うのもわびしいから雛も誘ってみようかな…君が良ければ人を呼ぶよ?」
「でも僕は、不便でもにとりさんと一緒に色々な事が出来てすごく楽しかったです」
「!」
「正直まだここに居たいです、でも俺には向こうで待ってる人が居るから…」
「…帰ってしまうのだろう?」

こちらを見ずににとりさんが言う

「はい…」

本当の事なので正直に話す

「私も…楽しかったよ…すごく」
「え?」
「一人っていうのは思った以上に辛いんだ、私も一人に慣れたつもりだった…でも」
「でも?」
「君が来て…すごく楽しかった」
「俺は何も」
「君が何もしていなくても、私は楽しかったんだ」
「…」
「…何だか変な空気になってしまったな、先に帰っててくれ」

何とも言えない気持ちになり、いいえとは言えなくなる

「…はい」
「すぐに私も作業を終わらせて帰るからな」
「じゃあ晩御飯作って待ってますね」

にとりさんの気持ちは分かった…
でもどうして自分の気持ちに嘘をつくのだろうか
帰したくないのならそう言えばいいのに

~青年&河童食事中~

「聞いていなかったがいつ帰るんだ?」

沈黙の食事の最中にとりさんが口を開いた

「明日です、明日の朝か昼に神社に来いって」
「随分早いんだな、荷物はどうする?」
「特に何もなかったと思いますから、持って帰る物は特に」
「そうか…寂しくなるな」

何故かにとりさんの煮え切らない態度が癪に障り、こんなこと言う

「俺がもしここにずっと居るとしたら、にとりさんは嬉しいですか?」
「…嬉しいが、でも」
「じゃあなぜ止めないんですか?」

変な言いがかりをつけて本心を聞き出そうと試みる

「無理に止めても…君は嬉しくないだろう?」
「互いが同意の上だったらどうなんですか?」
「…それでも、私は帰る事を薦めるよ」
「…分かりました」

彼女の言いたいことがようやく引き出せた気がする…

「じゃあ明日、帰ります」
「あぁ、気を付けてな」

気まずい雰囲気の中食事が終わった

「…はぁ」

食事が終わった後自室でひどく後悔していた

「なんであんなに冷たくしちゃったんだろ」

まるで引き止めてもらう事が当たり前だというように

「変な言い訳までして…はぁ…」

明日精一杯謝ろうと思い床についた


……
………

「寝ているかな…」

何やら声がする…誰だ?

「お邪魔するぞ…っと言っても聞こえてないか

地味に聞こえているんだが…この声は…にとりさん!?

「さっきはしょうもない事で言い合ってしまったな」

すたすたとこちらに歩いてくる…音が

「さて、今日でこれも最後か…」

これ?これってなんだ?あとやけに声が近いような…

モゾモゾ

ひゃあああい!?

「うーん温かい…最後…か」

にとりさんは俺の背中にだっこする様に添い寝してきた

「私だって…離れたくない」

そして何やら暴露が始まったー!

「君と会った時初めて可愛いって言われた…すごく嬉しかった」
「それ以降もお嫁に欲しいとか髪が綺麗とか、私には久しぶりに聞く褒め言葉ばかりだった…」

ん?久しぶり…?それって…

ギュッ

だっだだだだだだ抱きついてきたー!

「…さよならは嫌だよ…」
「人の優しさを知ってから…一緒に居る事の嬉しさを知った…」
「でも私には…前科があるから…」

前科…?それは一体…

「あれ…涙が…」
「もうこんな感情抱かないって決めたのに…あれ?」
「嫌だよ…さよならは…嫌だよ…」
「ずっと一緒に居てよ…」

これは寝たふりをしている状況じゃないなぁ…
寝返る振りをしてにとりさんと向き合うように体位を変える

「たまには…正面から抱きつくのも…いいかな?」

胸に頭を埋めてくる…今だ!

ギュッ

「ひゅい!」
「夜中に人のベッドに潜り込むなんて感心しませんね…にとりさん?」
「まさか…いつ気が付いたんだい!?」
「軽い犯罪ですよ?…ちなみに今日初めて気が付きました」
「…すまない、少し前からベッドで一緒に寝ていた…」
「なんか最近にとりさんの様子が変だなぁと思っていたんです…まぁこんなに大胆だったとは」
「うぅぅ…さっきも言った通り、過ちを犯したくないから君を引き止めなかったんだ」
「その過ち…てのは聞きません」
「え?大体の人が聞きたがると思うんだが…?」
「聞いてにとりさんの表情が暗くなるのは嫌ですからね」
「…優しいな…本当に…惚れちゃったよ」
「!?」
「あはは…本当だよ、君の事をいつの間にか好きになっていた」
「実は…俺は最初から一目惚れでした」
「そっか…じゃあ今は相思相愛って事か…嬉しいな」
「はい…大好きですにとりさん」
「私もだよ…」

知らず知らずのうちに互いの顔は近くなり、そして…二人は重なり合った

~翌朝~

「あふぁ…ん…んぅ!?」

どうしてにとりさんが俺のベッドに…あ、そうか

「あの後寝ちゃったのかぁ…もっとホッハしておけば…」
「んぅ…おはよう…」
「あ、おはようございますにとりs…おはよう、にとり」
「ふふっ、おはよう」

一応気配りはしてみる、恋人同士?だからな!

「良い朝だな…でも別れの朝でもあるのか…」
「あ…そうですね」

あの後少しばかり今後の事について話し合った
俺は帰る事に決めたのだ

「じゃあ最後の…晩餐だな」
「質素な朝食ですけどね…でも、楽しみましょう」
「あぁ!」

その日の朝食は賑やかだった
しばしの荷物と部屋の整理を終え二人で神社に行くことに

~青年&河童神社へ移動中~

「あら、来たのね」
「来るって言いましたから
「お連れさんは恋人かしら?」

茶化すように冗談半分で言う巫女、実際正しいので言っておく

「えぇ、ご名答です」
「…冗談じゃないだと!?」
「生憎だね霊夢」
「二人目…なのねにとり」
「同じ過ちはしないさ」
「それはどうかしら」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて」

何かが起こりそうだから二人を宥めておく…なんだか直感がティンと来たんだ

「じゃあ準備は良いわね?」
「えぇ…お願いします」
「紫、お願い」

パカッと音がして空に謎の空間が出てきた

「何ですかあれ」
「帰る入口よ」
「…物凄く不気味なんですが」
「大丈夫だよ、あれはスキマと呼ばれる扉のようなものだ」
「扉ですか?にとりでも作る事は?」
「うーん難しいよ、あれはどこへでも行けるからね」

もうそれ軽くどこでもド●じゃないか…

「早くしなさい、閉じるわよ」
「分かりました、少しお待ちを」

にとりの方に向き直る

「今までいろいろあったけど楽しかったです」
「こちらこそ、また…は無理かな」

たしかにここに来るのは無理かもしれない、でも…

「俺はにとりさんと過ごした期間を絶対に忘れません、そして…必ず貴女に会いに戻ってきます」

言霊と言うのを信じる人なのではっきりと言い切る

「!?」

驚きで目が丸くなっているにとりが言う

「嘘じゃ…嘘じゃないんだね?」
「えぇ、絶対に戻ってきますとも!」
「グスッ…絶対だからね!」

涙を溜めつつにとりが言う

「約束します」
「…じゃあ指切りの代わりに」

すっと何か布の袋を取り出す

「それは?」
「またここに戻ってきたときに開けてくれ、それまでは開けちゃダメだからな!」
「分かりました、じゃあ首にかけてくれませんか?」
「首にか?いいけど…変じゃないか?」
「首飾りのようなものですよ」
「そうか、じゃあ頭を下げてくれ」

にとりと目線を合わせるそこを狙って…

「んぅ!」

一発口づけをかます、これが俺のお別れの挨拶代わりだ…うん今朝思いついた

「ん…ん…」

驚いた表情が和やかな表情に変わる

「んちゅっ…ぷはっ」

10秒ほどの挨拶を終え一応謝っておく

「突然かましてごめんなさい」

頬を軽く朱に染めたにとりが言う

「いいよ、サプライズのようなものだろう?嬉しかったよ」
「じゃお守りの様な物を」

手を差し出してそれをもらおうとする

「じゃあ、またね!」

にとりは満面の笑みで渡し、別れの挨拶を交わし合う

「また会いましょう!」

受け取り同じく笑顔で交わす

「はぁ…長かったわね…」
「そんなものよ?」
「そんなものって…彼氏でもいるっていうの?」
「旦那が居るわ」
「…私も頑張ろうかしら」
「巫女さん、準備できました」
「じゃ、そこに飛び込んで」

とてつもなく大雑把だ

「え?大丈夫なんですか?」
「貴方の家の前に繋げてあるそうだから、大丈夫よ」
「わ、分かりました」

にわかには信じがたいが信じて飛び込む準備をする

「あ、一応言っておくけど」
「はい?」
「ここにもう一度来たいなら…」

巫女から方法を聞き飛び込む

「うわあああ…あ、案外快適」

暫く暗転した後地面が見える

「とうっ!」

華麗に飛び降り、周りを見回すとマンションの扉の前だった

「本当に帰ってきたんだな…」

まるで幻想のような出来事だった…いや幻想だったのかもしれない

「でも…」

と握っていた右手を開き、見る

「うっし…まずは卒業だな!」

その幻想へと帰るべく、俺はお守りを握りしめた


Megalith 2012/07/26,2013/02/16,2013/02/16,2013/07/06

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最終更新:2021年03月07日 20:09