百々世1



避難所>>25-26


「百々世さんさあ」
「むぐ?」
「龍珠っておいしいの?」

 二人で並んで食事中。
 ただ、隣からはふつう食事時には聞かないようなガリゴリという音がする。

「……んー、俺みたいな妖怪にとっていい食い物かって言えば間違いなく『いい』。
 喰った分だけ力が湧くしな。でも旨いかどうかっていうと――難しいなあ。
 甘いとかしょっぱいとかそういう感じとも違うし。ちょっと待ってろ」

 そう言って百々世さんは、また一つ、大きめで角ばった龍珠の原石を口に放り込んだ。
 何か悪戦苦闘しているような百々世さんの口元から、
 ガリガリ、カリコリという咀嚼音が聞こえなくなったかと思うと、

「――んっ」
「んむっ!?」

 いきなり頭を抱え込まれ、唇が重ねられた。何か丸いものが、口の中に押し込まれる。

「ぷはっ。どうだ○○?」

 口の中に感じる異様な熱さとか、頭の奥でちかちかする火花とか、身体の奥底から渦を巻くように湧き上がる何かとか、
 身体は明らかな異常を覚えていたけれど、それがイザナギオブジェクトの神秘の力のせいなのか、
 不意打ちのように百々世さんの唇や舌から伝わって来た体温や柔らかさのせいなのか、何とも判別し難かった。

「味、だいたいわかったか? ほら、吐き出せ。人間の胃袋じゃ消化できないだろうから」

 ちょっとためらったが、目の前に差し出された手のひらに龍珠のかけらを吐き出した。
 受け止めたそれを、百々世さんはなんのためらいもなく自分の口に再び放り込み、呑みこんでしまった。

「百々世さん、その、今のは」
「んぁ? ああ、鳥とか虫とか、喰いにくいもの親が噛み砕いて子供に口移ししてやったりするだろ。
 なるべく角とかなくなるようにかじったつもりだけど、刺さったりとかしなかったか?」

 確かに言われてみると、さっきの龍珠は百々世さんが口に入れる前と違い、飴玉のように丸く滑らかでちょうどいい大きさだった。

「あ、ありがとう、大丈夫。味は……わかったようなわからないような」
「やっぱ人間には難しいかもなー……あっ」

 急に変な声を上げた百々世さんは、こちらを向いて両手で肩を掴み、至近距離で顔を向かい合わせた。

「別にお前のこと、親子みたいに思ってるわけじゃないからな!? ○○のことは、ちゃんと俺のツガイだと思ってるからな!」

 さっきのやけに大胆で天真爛漫な行動とは裏腹に、
 ちょっと泣きそうなぐらい慌ててそんな気持ちを伝えてくる百々世さんは、とてもかわいくて愛おしかった。

「うん、ちゃんとわかってるよ。……百々世さんって、さくらんぼの茎を口の中で結ぶのとかできそうだよね」
「さくらんぼ? なんだそりゃ」
「……ありゃ、知らないか。小さくて甘い果物だよ。今度人里で探してくるから、一緒に食べよう」
「おう。楽しみにしてる」

 そう言って百々世さんは、嬉しそうに笑った。


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最終更新:2024年07月24日 00:29