霊夢7



うpろだ82


「あ、雪だ」

 ひらひらと空から舞い降りてくる氷の結晶を目に留め、思わずそう溢した。
 そして今日はそれほどに気温が低いのだという事を今更ながら気付き、少し身震いをした。
 寒い。

「う~、早く終わらせるかな」
 雪を見るのは好きだが長時間こんな冷え切った屋外にいるなどという風変わりな趣味は無い。
 今の自分に与えられた責務をさっさと終えるべく、僕は暫し止めていた手を再び動かし始めた。

 参道に積もった雪を雪掻きで退かす。
 また雪が降ってきたからもう一度雪掻きしなきゃいけないよなぁ、と多少欝な気分になるが仕方ない。
 粗方雪を除けた事を確認し、足早に神社に戻る。

「うぬぅ、手が、足がぁ……」
 すっかり冷え切った体を暖めるべく炬燵のある居間へと向かう。
 と、そこには先客がいた。

「あら、もう終わったのかしら」
 炬燵の住人は天板に頭を乗せたまま首だけをこちらに向けて話しかけてくる。
 傍から見たらだらしないと思われる事だろうが、今ではもう慣れてしまった。
 慣れって怖いなぁ、と何となく感慨に耽ってみようとしてやめる。年寄り臭いし。
「大体はね。あぁ、寒い寒い」
 返事だけ返しそそくさと炬燵の中に滑り込む。
 悴んだ手に熱がじわりと染み込んできた。

「そういえば、また雪が降ってきたよ。早く春にならないかなぁ」
 少しでも熱を得ようと手を摩りながら、向かいに座る人物に話しかける。
 視線をこちらに向け、あら、そうとだけ返しまた元の位置に戻す。
 この一見冷たそうに見える反応も幾度と無く経験してきたものだ。
 きっと彼女は誰に対してもこういう風なのだろう。
 何度か霊夢が他人と交流するのを見ていてとなんとなく思った。

 特に成すべき事も無く、いい歳した二人が炬燵でだれる。
 僕たちは基本的にこうして過ごす事が多かった。
 無駄に動いて貴重なエネルギーを消費するのももったいない、というのが霊夢の言い分だ。
 まぁ、最もではあるが。



「っと、もうこんな時間か」
 思い出したように立ち上がる。
 そろそろ昼食の時間だから準備をしなくては。
 ここの神社は食料が少ないから遣り繰りして献立を考えなければいけない。

「そういえばまだ卵と鶏肉が余ってたから親子丼にしてもいいかなぁ……」
 などと主夫じみたことを考えながら台所に向かう、そんないつも通りのお昼前だった。










「あ、そういえば」
 僕の作ったホウレン草のお浸しを摘みながら霊夢が思い出したかのように言った。

「何だい?」
「これから霖之助さんの所に荷物を取りに行きたいんだけどね」
「うん」
「昼から"お仕事"があって行けないの」
 その聞きなれたようでどこか特別な響きを持つ言葉を、僕は今までに何度か聞いた事がある。
 とりあえず霊夢が言わんとすることは分かった。

「ん、じゃあ霖之助さんの所には僕が行っておくよ」
「察しがいいわね」
 まあね、とだけ軽く返す。
 さて、そうと決まったらなるべく早く昼食を終えなければ。
 こういう時は早く行って早く帰ってくる事が望ましい。
 夜になってしまったらたまったもんじゃない。

「ごちそうさま」
「はい、お粗末様」
 食事を終え食器を洗い終わり、早速外出の準備をする。
 今日は寒い。
 しっかり厚着をしていかなければ。

「はい、これ」
 準備を終えた僕は、霊夢に数枚の護符を渡された。
 僕独りで出掛けるのだ。用心するに越したことは無い。
 今までこれのお世話になった事は無いが、お世話になる事は無いままであって欲しいものだ。

「ん、ありがと」
「夜になる前には帰ってきなさいよ」
「善処するよ。霊夢も気を付けて」
 そして寒そうな格好のまま飛び立つ霊夢を見送る。
 気になったので指摘した事はあるが、何故か頑なしてあの服を着ている。
 呪いの装備の一種だろうか、などとくだらない事を考えながら僕も歩き始めた。










「こんにちはー」
「いらっしゃい。――あぁ、君か」
 そこの店主はカウンター越しの椅子に座りながら本を読んでいた。
 僕の方へ挨拶だけするとまた本へ目を落とす。
 僕はというと、霊夢から受け取ったメモを見ながら目的の品を探し始めた。

「えーっと、茶葉とお椀と……」
 広いとは言いにくい、どちらかといえば狭い店内を物色して回る。
 時折僕が興味のあるような品も見つかるが、大抵は電気や動力を必要とするもので此処では活用し難かった。

「ま、不便だと感じたことは無いしいいんだけど」
 誰に言うわけでもなく一人零す。
 さて探していた物も大方見つかり、それらを鞄にしまい込んだら今度は霖之助さんの元に行く。

「はい、これどうぞ」
「ん、いつもすまないね」
「いえいえ、こちらのほうが気が引けちゃうぐらいですから」
 そういって僕が手渡したのは南瓜の煮物や大根の漬物といった料理だった。
 霊夢や魔理沙はここの品物を有無を言わさず頂いていくが、僕にはどうも堪え難い。
 等価交換とまでは行かないけど少しでも埋め合わせをしようという、まあ僕の良心の表れだ。

「君の作るものはとても僕の口に合う。感謝しているよ」
「光栄ですね」
 お金を払ってもいいのだが、此処では商業が発達しているワケでもないっぽいので貨幣の価値はあまり無いのだろうと思ったのだ。
 この行動はあくまで自分を納得させるためであり、偽善と言っても差し支えない。
 しかしその行いに相手の喜びも伴ってくるなら話は別だ。
 幸い霖之助さんも嫌がっている様子は無いのでこうして続けているわけである。

「じゃ、暗くなる前に帰ります」
「そうした方がいい。今後とも御贔屓に」
 そうした彼の言葉に少し違和感も感じるが、彼はあくまでやりたいからやっているだけであってそこは僕が口出しするところではない。
 会釈だけして香霖堂を出る。
 ふと見上げた空にはもう既に猩々緋の色が掛かっていた。

「のんびりはしていられないな」
 僕は一言呟くと神社への道を歩き始めた。










「んぅ?」
 しまった、誰もいないからといって変な声を上げてしまった。
 まあ誰もいないんだからいいかと自己完結し、再び先ほど目に留めたものを見上げる。
 見上げるという言葉から分かるようにそれは僕の遥か上空を飛んでいた。

「あれ……霊夢、だよなぁ」
 遠目だから自信無さげな言葉になるが、あの紅と白を基調にした服をそう間違えることも無いだろう。
 その空飛ぶ不思議な巫女さん(らしき人物)はゆっくりと降下して行き、割と僕から離れていない所に着陸したようだった。

「ふむ……」
 どうしようか、と考えてみる。
 何をしているのか知りたいという探究心はある。いや、好奇心と言った方が適切か。
 だがここは少し道を外れると森と呼んだ方が相応しい程の木が生い茂っていて、確かに危険ではある。

 少しの間思索に耽る――振りをする。
 一人なのにそんな事しても空しいだけだという事は敢えて考えない。
 僕の心は初めから決まっていたようなものだ。
 僕は平生から何か気になった事には飛びつかずにいられないタチだった。
 こういった時に疑念や警戒が生まれる前に何かしら期待を抱いてしまうのは不注意だと思うが仕方が無いと諦める。

 さて思い立ったが吉日、善は急げという言葉もあることだし、さっさと霊夢らしき人物のところへ向かうとする。
 そうして僕は何の不安も抱かないまま意気揚々と鬱蒼とした森の中へ進んでいった。










 後悔というのは呼んで字の如く、後から悔やむという事だ。
 確かに後悔は事後しか出来ないことであり、また後悔先に立たずという教訓の様に役に立たないものである。
 だったら後悔なんてしなければいいじゃないかと昔考えた事もあったなあと何となくこの現実からいい感じに逃避したい気分になっていた僕だが
やっぱり現実は現実として受け止めなければ。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだって結局のところ何が言いたいかというと。



 僕様大ピンチ。



 霊夢を探していたつもりが何時の間にか妖怪らしき生物と鉢合わせ。
 ていうか、妖怪と遭遇するのは初体験だ。
 あちら側はまだ僕に気付いた様子は無い様で、だけど何かには感づいた様で辺りをキョロキョロ見回している。美味くない状況だ。
 咄嗟に木の陰に隠れた僕だが、さあこれからが問題だ。


 どうしよう。


 迂闊に動いても状況が悪化するだけだろう。
 ていうか先刻から鼻につくこの血の臭いのようなものは何ですか。
 あの生物からのものだろうか。
 何だか泣きたくなってきた。
 このままアレが立ち去ってくれれば万事オッケィなのだが現実はそうも易しくない。
 こんな形で世智辛い世の中を痛感したくなかった。

 とまあ、こんな事ばかり考えていても埒が明かない。
 よくよく辺りを見回してみると、森はそう遠くないところで途切れているようだった。
 距離は目測で100メートルほど。
 走れば物音で確実に気付かれるだろうが、あの見た目妖怪と僕は割と距離が開いている。
 足に自信があるわけではないが行けない事も無い。


 どうしよう。


 暑い訳でもないのに頬を汗が伝う。
 これが俗に言う冷や汗というやつかー、などと楽観的なことを考える余裕は最早無い。
 ここで功を焦って失敗したら笑い話にもならない。

「何もやらないよりはマシか……」
 近くにあった手頃な棒切れを拾う。
 これを別の投げて音を立てればそれでいくらか錯乱できるだろう、と素人見積もりではあるが考えた。

「……ぃよし」
 覚悟を決める。
 こうなってしまった以上僕が考えられる策は他に無い、これが最善だ。
 二、三度深呼吸を繰り返して、歯を食い縛り押し寄せる恐怖を捻じ伏せる。
 ポケットの中の護符を握り締め心を落ち着け……





「――ふっ!」
 決して大きな音は立てない様、最小限の動きで出来るだけ遠くに棒切れを投げる。
 そして隙が出来た直後に、森と平地の境界まで全力で駆け抜ける。



 駆け抜ける……はずだった。



「――――な、ぁっ?」
 今自分はどんなに絶望に満ちた表情をしているのだろう。
 それは全てが予想外、いや計算不足。
 棒切れを投げるべく妖怪の方向を向いた僕が見たのは、


 ――目前で豪腕を正に振り上げんとする、その異形の姿。

 気付かれていた、その事に気付かなかった。気付けなかった。
 もう遅い。
 全てを諦める暇さえ与えられないまま、目の前の絶望は腕を振り下ろしてきた。










 だがここでおかしな事が起こる。
 吹き飛んだのは僕ではなく、眼前の妖怪だった。



「……」
 今度は声すら出ない。
 二度も連続する予想外の事態に、僕はただ呆然とするしかなかった。
 と、そこで第三者の声が掛かる。

「無事かしら」
 はっ、と我に帰った僕が目に留めたのは――



 ――正に僕が探していた、博麗霊夢その人だった。



「霊夢……」
 探していた人がやっと見つかっても素直に喜べない僕だった。
 述懐させてもらうと、先ず彼女の見た目が酷く平素の彼女とかけ離れていたという事だ。

「何?」
 そう事も無げに話す彼女の巫女装束には、至る所――とまではいかないが、概ねの場所に唐紅の色が染み付いていた。
 霊夢のその風体は僕に充分すぎるほどの畏怖の念を抱かせた。
 ――と、またここで事態は急変する。

「が、があああああああッ!」
 此の世のものとは思えない様な声――いや声と呼ぶのかどうかすら怪しい―が耳を劈く。
 その音の発生源が、狂瀾怒濤の気合と共に霊夢に飛び掛った。
 対する霊夢は妖怪を一瞥し、何やら針を構える。

「おおおおおおおおおっ!」
 僕が危ない、という声を上げる間も無く、妖怪はその腕を霊夢に叩きつける。
 轟音が発生し、巻き込まれた木は粉々に吹き飛んだ。
 だが、妖怪が腕を上げても其処に霊夢はいない。

「あれ……?」
 傍観者の僕でさえ分からなかった。
 次の瞬間、霊夢は妖怪の後ろに現れ――

「――パスウェイジョンニードル」
 言葉と共に無数の針を妖怪の背に縫いつけた。

「ーーーーーーーーッ!」
 上がる血潮。
 早や意味も持たない奇声を発しながら、妖怪は闇雲に腕を振り回す。
 だがそんな攻撃が相手に届くわけも無く、霊夢は再び構え、宣言する。

「――収束、エクスターミネーション」

 再度僕が妖怪の方に目を向けた時、そこには既に蛋白質の塊しかなかった。










「大丈夫?」
 事の後、霊夢は僕に話しかけてくる。

「あ、うん……」
 何とかそう返す僕は、恐怖からだろうか、自然と目を背ける。
 あの瞳は……ダメだ、見ていられない。
 何でも良いから感情があるのなら、まだその方が百倍マシだった。

 それは、何も感情の色を灯していない眼。
 目の前の光景に対して、先の妖怪に対して、そして……僕に対して。

 瞬時、悪寒が背中へ齧りついた様な錯覚を覚える。
 それと共に震え出す体躯に、霊夢は気付いていたのだろうか。





「それでいいの」
 突如場が凍り付く様な、絶対零度の響きを持った声が発せられる。

「今回の一件であなたなら理解した筈」
 何を、なんて野暮なことは聞かない。

「何があってこんな所に来たのかは知らないけど、二度目は無いと思いなさい」
 軽い好奇心からこんな事態になってしまった自分の愚行を悔やむ。
 命を落とす危険性は十二分にあったというのに……

「――帰るわよ。神社はすぐ其処だから」
 対面して初めて分かった恐怖から、未だ僕は体を動かす事は出来なかった。
 せめて何か言おうと霊夢の方に顔だけ向けた時。







「――――あれ」
 この場に全く似つかわしくない、そんな声を上げてしまう様なものを、僕は見た。



 それは何と形容したら良いのか分からない。
 哀思、苦悶、果てには憂惧といった様な雑多な負の感情が入り混じった表情が、振り返り際の霊夢の顔に浮かんでいた

 そして直後、僕の頭に一つの仮説が浮かぶ。
 あくまで仮説だ。きっと間違っている可能性の方が高い。
 だけど。だけど僕はそれを切り捨てられなかった。
 信じていたかったというのもあるかもしれない。



 でも、彼女は。霊夢はひょっとして――――



 思考は一瞬。僕は即座に体に喝を入れる。
 動け、動くんだ!
 そして表情だ、作り笑いでもいい。

 ――なんとかして、彼女を安心させなくては。




「いやーぁ、驚いたなあ」
 頭を掻きながら霊夢のほうに向き直る。
 声はいつも通りに出す事が出来た。
 ちゃんと笑えているかどうかが心配だ。
 そしてゆっくり歩み寄る。
 幸い、霊夢はまだ動き出していなかった。

「えっ……」
 一瞬。ほんの一瞬だけ霊夢は酷く驚いたような表情を浮かべ、また元に戻す。

「や、それにしても助かったよ。ありがと」
 危ないところだったからね、と付け加える。
 霊夢はどこか落ち着かない様子で「どう、いたし、まして……」とだけ返した。

「それじゃあ帰ろうか」
 何時の間にか僕の方が先導を握っていた。
 霊夢は返事はせずに頷いて、腕で自分の体を抱きながら寒そうについて来た。
 あれで大丈夫なのかと危惧していたが、やはり寒いものは寒いらしい。
 と、そこで僕は思いついた。

「霊夢、これ」
 はい、と自分の着ていたコートを差し出す。
「それじゃ見てるほうまで寒くなるからね」
 僕の対応にちょっとだけ困惑した表情を浮かべた霊夢であった。
 が、やがてコートを受け取り、少しだけ紅潮した顔をそそくさとコートに埋める。
「……ありがと」
「どういたしまして」
 その後の感謝の言葉は聞き逃してしまいそうなほど小さいものであった。
 しかし、それでも僕を喜ばせるには充分過ぎた。

 二人で並んで神社までの道のりを歩く。
 こうして肩を並べることは初めてではなかったが、その距離がいつもより近く感じられたのは僕の錯覚だろうか。

 兎も角、これで推測は確証に一歩だけ近づいた。
 霊夢は――本当は自分のことを怖がってほしくないんじゃないだろうか。
 僕はそんな彼女に大いに興味を持った。
 それは少なくとも趣味や仕事に対して向けるようなものではない。

 折角なら、ありのままの霊夢でいて欲しいなぁ。

 そんな事を考えながら、いつもとは少し違って感じる帰り道を二人して歩いていったのであった。

























その後部屋に戻った僕が先の事を思い出し、震えていたなどという情けない話はここだけの秘密だ。

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6スレ目>>363


 冬ですね。なんか外ではざっくりと雪が降ってます。寒いです。
 俺が元居た場所も豪雪地帯だけど、この降り方は豪雪っていうレベルじゃねぇぞ!

 幻想郷に来て、神社に居候させてもらって大分経つ。と言っても人間的に大分なだけかな。やっと一年くらい。
 そんなこんなで霊夢にお世話になり、ここで暮らしている訳なのだが・・・。

 こんな寒い時期だと言うのに、彼女はどうやら妖怪退治。寒さに強い妖怪が、冬に乗じて里に襲撃をかけたとか。
 妖怪退治と防寒対策、両方しなくちゃならないのが博麗の巫女の辛い所だな。
 と言ってもいつも露出気味の肩には防寒対策の欠片も施されていないようだが。アイデンティティだとか言ってたよ。


 コタツに入ってぬくぬくしていると、唐突に縁側の襖が開き、ビュウと吹き込む風と共に霊夢が現われた。
 うぅわあからさまに寒そう。顔なんか蒼白になっちゃってるよ。どっかで見たCMの犬みたいにプルプルしてるよ。

 「・・・さ、寒い」

 蚊の鳴くような声ってこう言う声なんだろうな、と思った。

 「・・・結界張ってなかったのか?」
 「けけけ結界あっても、寒、しゃ、寒いもんは寒いのよ・・・・・・」

 大分呂律が回ってないんだぜ?

 ふと思うといつの間にか霊夢は炬燵に潜り込んでいた。炬燵の天板に顎を乗っけて、水にふやけたスポンジみたいな顔している・・・。

 「・・・あったきゃ~い・・・」
 「あー・・・お疲れ様」
 「うー」

 何と言うか、膝の上で寝てる猫を連想させるような表情だ。ああ何て言うか撫でたい愛でたい。

 「よし」
 「?」

 顔だけ傾けて疑問の表情を浮かべる霊夢の背後に座ると、俺は霊夢を後ろから抱きしめる。

 「ちょっ、なにすっ・・・」
 「うひゃー冷や冷や。どっかの氷精に負けず劣らずだな」
 「・・・ぇぅあー。あたかい」

 初めは驚いていたものの、霊夢はすぐさっきのふやけた顔に戻った。頭撫で撫で。

 「・・・頭撫でんなぁ」
 「いいじゃん、可愛いから撫でてるの」
 「・・・うー」

 小さく恥ずかしそうに唸る彼女の肩は声と一緒で小さくて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうで、愛おしかった。

 「・・・もうちょっと強く」
 「え?」
 「な、なんでもないっ」

 きっと赤面しているのであろう霊夢に、俺はかすかに微笑んだ。
 聴こえないふりをして、俺はほんの少しだけ、抱きしめる腕にかける力を強くしたのだった。

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最終更新:2010年05月13日 00:55