霊夢9
6スレ目>>452
「――おろ?」
トンネルを抜けると、其処は林の中だった。
そんな、使い古された文学的表現が良く似合う光景。
「此処は――何処だ」
陽も落ちた林の中に一人、戸惑う青年の姿があった。
身の丈、肩幅を始めとした体格、髪型、服装。
その何れも、至って普通。
ただ、肩に幾つも掛けた大掛かりな荷物は、少なくとも街に出掛ける類の量ではない事を示しているし、
かといって、男一匹一人旅と言うほど、風格も無く。
そして、休日に自然と触れ合う為に野営、と洒落込んだ訳でも無い事は、
「おいおいおい――こんな野良道、出るわけ無いだろ」
彼の困惑の表情が物語っていた。
この場合、迷い人と言うのが正解では在る。
しかし、慌てることはなく、懐を漁り始めた。
(帰らない間に、俺の知らない山道でも通ったのか?)
半月振りだから当然か、などと思い直し、彼が上着の内側から取り出したのは、携帯電話。
大方、現在位置含む地理の確認でも取ろうと思ったのだろう。
しかし。
「圏外?おいおい、一応エリア内だぞ」
試しに通話を試みる――不通。
インターネット接続――不能。
「……圏内の穴――って訳じゃ無い、のか?」
気味が悪い、と。
彼の表情は、徐々にそういった不安の色に翳り始めた。
その背後――枯れ枝が折れる音がした。
「ッ!!?」
血相を変えて振り返る。
冬も近いこの時期、山中にて大型の獣に遭遇することは、そう珍しい話でもない。
しかし、闇には何も気配は無く、
「……もしもーし」
答える者など、居る筈も無く。
ただ、林が風に鳴る音だけが響いた。
「っくし」
くしゃみを一吐きして身震いしながら、不安げに辺りを見回す青年。
おそらく、人の居る方角を検める為に、光源なりを探しているのだろう。
そこで、ふと妙案でも思いついたのか、額を掌で軽く打ち、
「あほか、こういう時は――」
息を大きく吸い込み。
「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
良く通る声を、張り上げた。
山は広く、その声は山彦となって暫く反響を続けた。
(……どうだ?)
反響が止むのを合図に、その効果を確認すべく、彼は改めて周囲に注意を配る。
「ぅお――」
――程なく、変化が訪れた。
青年の耳に先ず届いたのは、飛び立つ鳥たちの喧しい声。
暗い空、木々の間、月明りを隠すように、無数の影が通過してゆく。
――だが、その群れは異様であった。
「おいおいおいおい――朱鷺なんてもう日本には居ないぜ?」
学名・ニッポニアニッポン。
日本を代表する鳥として、しかし、現実の空を飛ぶ物は、最早一羽も居ないはずのもの。
少なくとも、彼の暮らす日本と言う国では。
(……あんだけ居るなら、鍋にしても誰も怒らないだろうな)
あまりに現実離れした光景に、そんな場違いな思考を得る。
――その思考も、中断せざるを得ない音が、彼の鼓膜に届いた。
「――」
喉が動き、生唾が嚥下される。
彼の耳に聞こえた音は二つ。
一つは先程聞いた、枯れ木が弾ける類の音で――
「……お前らはお呼びじゃないんだが」
無数の、獣の唸り声だった。
だが、彼は溜息を一つ付き、
(……餌付けでも狙うか)
背の荷を一つ降ろし、中から食料を漁り始めた。
彼の口から『寮で食おうと思ったのに』だの、『肉なんてあんま買ってないな』だのと、
愚痴が次々と零れていく。
――シンパイ ハ イラン 。
「……あ?」
何やら、『声』を聞いたような気がして、振り返る。
そこにあるのは闇。
腐葉土を深く踏破する音が響き、それが足音だと知った彼は、
「……誰か、いるのか?」
こっちだ、と。
携帯電話のライトで闇を照らした。
――ワルイガ オマエノ ナカマジャ ナイ 。
「――」
頼りないライトに照らされたのは、何故か、牙を剥き出しにした犬の顔の様であり。
しかも、唯の犬にしては色々と有り得ない事があった。
1つ、その灰色の体毛は、どちらかと言うと狼。
2つ、どちらにせよこんな立派に二足歩行などしない。
3つ、更に傍らの木からすると、どうも大型の熊くらいは在る。
――オレサマ オマエ――
「丸齧りッ!!!!?」
4つ――喋る犬など、幻想の中だけのものだ。
最早彼に、逃げ出さないで居る理由も、この威容を疑う余地も無かった。
「うおおおおおおぉををををッ!!?」
荷を放棄して走り出した彼の背後で、何やら程よい太さの樹木が、良く通る破砕音を奏でたからだ。
その樹が立っていた位置は、自分が一瞬前に立っていた位置の隣。
振り返れば、先程の人狼モドキの爪が、自分の胴体ほどは在る樹の幹を、真っ二つにしていた。
(逃げ――)
脇目も振らず、渾身で失踪する為に、再び振り返れば――
眼前にも立つその狗顔。
獣臭い呼気が鼻につく間合いに、人狼の顔があった。
「ひ――ッ」
もはや万事休す。
青年の、腰が抜けた。
――オトナシクスレバ クルシマズニ クッテヤルゾ
獣の口にしては饒舌に、眼前の得物に対して、屠殺宣言を行う。
「あ――」
余りにも非常識な光景。理性は『有り得ない』『夢だ』と反論を続ける。
だが、青年の五感に届く情報は、『コレは現実だ』と警鐘を喧しく鳴らす。
しかし――最早、そのどちらにも、彼が応じ得る余裕は無い。
――ヒサビサ ノ メシ ダ
そして、唸り声と共に、獣の牙が、ゆっくりと青年の喉笛へと迫る。
身のすくまった彼は、ただ震えて眼を瞑り、最後の瞬間を覚悟し――
「いただきます、くらいは言っておくべきだったわね」
――ていた矢先に。
「ぅぁッ!!?」
頬に突然訪れた触感と、桶を返したような水音に飛び退いた。
「……?」
そして、目の前の気配の異変に、恐る恐る眼を開く。
「――」
細められていたその眼が、驚愕に見開かれた。
何故なら。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!!!!?」
――目の前で猛っていた、犬の首が落ちており。
その持ち主は胸元から上が抉れ飛び、断面から血を噴出していた。
彼が先程感じた、生暖かい感触の正体である。
「あ、ああ、ああああああああああ……」
B級スプラッタホラーが裸足で逃げ出す存在感に、気圧されるがまま後退する。
だが彼の視線は、無造作に転がされた『頭』から離れない。
見れば、その首は、――後頭部から顎へと、無数の『棘』のような物で、貫徹されていた。
まさに、針千本飲ます、という状態である。
更に、その首の傍らには、何やら札状のモノが突き立っており。
血に染まった其れは、材質が唯の紙である事を主張していたが――
まるで刃の様に鋭く、地面を断って刺さっていた。
「おーい、生きてるー?」
「!?」
其処にふと、声が響く。
明らかに、先程の人狼達とは異質の――紛れも無い『人間』の声。
ただ、落ち着き払い、あまりにも緊張感を欠いた――高い声。
「おーい――ったく、邪魔」
うおりゃ、と鈴の鳴るような声。
それと肉を打つ打撃音が響き、青年の前に有った人狼の胴が、後方へと倒れてゆく。
亡骸が倒れ伏し、血煙が舞う向こう、現れるのは、声の主。
「ん。生きているみたいね。重畳重畳」
「――ぁ」
その声の主の姿は、これまた、この異界に似つかわしくなく。
しかしそれでいて――何処か馴染む空気を、纏っていた。
先ず眼を引くのは、月明かりの元でもそれと自己主張する、大きな紅いリボン。
それが、その人影の頭頂、僅かに波打つ艶やかな黒髪に飾られていた。
「あ、御免。服、汚しちゃったみたいね」
勘弁勘弁、と苦い笑いを浮かべる、その整った顔立ち。
小鼻で、程よく角の取れた線で纏まった――可憐な『少女』の貌だった。
「ん?どうしたの?――あ、もしかして付いてる?返り血とか脂とか」
やだもー参っちゃう、と、別に汚れていた訳でもないのに、白袖で顔を拭う。
袖は上腕で途切れており、赤を貴重とした上着とは完全にセパレート。
よって、その細く華奢な肩が露となっており、繊細ながら、軽快な印象を醸す。
「……あ、あんた……」
「あ、その通り――」
咳払いが一つ。
フリルの装飾つきの緋袴が翻り、一歩踏み出した小柄な革靴が、枯葉を踏み拉く。
「人の助けあらば、ヒラリと参上。
『楽園の素敵な巫女』、博麗霊夢と申します。
今後とも御贔屓に」
本来、巫女と言う類として色々と致命的な名乗りだとか、そも共通認識が何一つ無いだとか、
浮かぶべき疑問は大量に在るはずなのだが、今の青年には、そんな瑣末事を認識する余裕は無い。
何せ。
「ッ!!うし――」
「んー?」
彼女の背後には、もう一体の人狼が未だ健在であり。
その人狼がたった今、その双腕を振りかぶる最中であるから。
「――『陰陽」
しかし、少女は慌てることなく。
「■■■■■■ーーーーーーー!!!」
背後から打ち付ける様に響く、怨嗟の雄叫びにも眉一つ動かさず。
ただ、滑らかな動きで。
「――鬼神玉』」
とん、と。
人狼の胸元へと、片手を添えた。
直後。
人狼は顎、眼、耳等、考えられる限りの穴と言う穴から光を吹き、
「――!」
最早、声とも叫びとも言えぬ『音』を喉から鳴らし――内破した。
「――御免なさいね」
誰とも無い呟き。
少女の突き出されたか細い掌、その前に輝くのは、球形の太極。
ゆっくりと回転する光輝の残滓に照らされて、辺りは昼間の様になっていた。
「さて、と」
かさ、と枯葉を踏み、再び青年の方へと視線を戻す、『自称』巫女。
その眼は陰陽印の照り返しを受けてか――赤く輝いていた。
「――――っ」
それがこの晩における、青年の記憶の中の最後の映像だった。
―ありゃ、気絶した。おーい起きろってば――駄目だこりゃ。
―おぉ?片付いてたのか。
―音速が遅いわよ、あんたらしくも無い。
―遅刻の代償に、人間に詳しい奴を連れてきたぜ。
―毎度世話を掛ける。が――まったく、夜に山に入るなど、流石に傍迷惑もいい所だ。
―命知らずね。
―運は良いみたいだがな。
―――と、言いたい所だが。
―何よ。
―実は運が悪いのか?。
―そうかもしれん。
妙なことに――こんな背格好の人間は、私の記憶にも無い。
―……マジ?
―ハクタクは嘘を吐かないぜ?人間と違ってな。
―半分はその通り、残り半分は――博麗大結界に誓って、偽りは言っていない。
―面倒ね。
―ああ、面倒だ。
―だが、楽しそうではあるぜ。
―と、いうわけで。
―……運ぶのは、乗り物で乗りつけた奴の仕事だな?
―酷いぜ。
―む、待て。
―んー?
―どうした半獣、鼻を鳴らして。野性に目覚めたか?
―違う。
これは――荷物か。この男の歴史の残り香がする。逃げている間に散乱したな。
―まさかそれも拾わせる気か?酷いぜ?
―そのくらいは拾ってあげるわよ――あら、何コレ?
―英語と片仮名だな。『かろりーめ○と』?
―んー、食い物らしいが……うげげ、美味くないぜ。
―あ、こらッ、なに他人のもの食べてんのよ――寄越しなさい。それは私の手間賃よ。
―お 前 ら は 野 盗 か ッ !?
「それは俺の非常食だぁーーーーーーーーッ!!!?
――あれ?」
次に青年が眼を開けたとき、最初に目に付いたのは――
「これもまあ……知らない天井、か?」
築一桁年では確実に収まらない、古ぼけた日本建築の天井であった。
「……」
青年は、少しずつ状況を整理してゆく。
まず、全身に適度に圧し掛かるこの圧力。
視線を身体に落とせば、全身に布団が掛けられている。
どうやら、気を失しているうちに運び込まれ、寝かされていたらしい。
「……ん?」
更に、肌の感触に違和感。察するに――
(着替えさせられてるな。浴衣だ)
と、そこで昨夜の記憶を掘り起こし――
「――ッ!!?」
身を竦ませる恐怖に、慌てて飛び起きる。
愕然とした表情に、びっしりと冷や汗が浮いていた。
(待て待て、落ち着け、落ち着け……ッ)
掛け布団を握る手に力を込めながらも、荒げた呼吸を整え、
改めて記憶を反芻する。
鼻を突く獣の臭気。網膜に焼きついた人外の異様。
降り掛かる、生暖かい感触。眼前で起こる生死のやり取り。
非日常。非現実。
考えただけで、自身の正気を手放してしまいそうになるが――
「……一応、生きてる、んだな」
その確かな事実が、彼の心を僅かながらも支えた。
次第に呼吸は整い、肩の力を抜いていった。
「……う」
その途端、彼の身体、特に横隔膜から腹部にかけてを振るわせる、気の抜けた収縮音。
「腹減ったなぁ」
何のことは無い。
生きているものは、皆、腹が空く物である。
「ん?」
そこではたと気付き、目を閉じる。
耳を立て、鼻を鳴らして、それを捉える。
聞こえるのは、短く規則的、それでいて有機的な、硬い打音。
そして、彼の鼻を通るその匂いは――
(まな板、んで味噌の匂い――朝飯!)
再び、彼の腹部から腹の虫が音を上げる。
正直な奴め、と腹をさする彼の表情に、もう先程までの険は無かった。
もう一度寝なおそうか。
などと考えながら、布団の温もりを彼が味わっていると、
「ん?」
まな板の奏でる音が止み、代わりに、器の軽い音が響き始めた。
音の発信源はどこか、と眼を動かす――
目線だけではカバーできず、首を動かし始めたところで、
「――」
止まった。というよりは、固まった。
丁度枕元の直上。そこに暖簾の下がった、台所と思しき場所への入り口が在る。
そこへ、暖簾を払った手が現れる。
青年の視線は、その手の持ち主に、釘付けとなった。
「あら、起きてたの」
緋袴、白袖、開けた肩に掛かる艶やかな黒髪、その上に乗る赤いリボン。
今、上下逆さに見える、その何処か恍けた表情は――
「うわああッ!?」
言うまでも無く、彼を喰らわんとする怪異を屠った少女であった。
「うわ、酷いわねぇ、折角助けてやったのに」
まー慣れたけど。
と、少女は青年の寝床の横へ歩を進める。
その一挙一動に身を竦ませ、身構えるように上体を向ける青年の態度に、
「はぁ……まったく」
「っ」
溜息を吐き、そのまま腰を落として彼に目線を合わせる。
気圧された様な青年の瞳を、半眼で睨む。
澄んだ黒瞳が、迷い無く青年の瞳を見つめる。
何処までも深い、だが深さゆえに鮮やかさを秘める、外の色を含んだ、黒の瞳。
昨晩とは違う表情を見せるその瞳から、青年は視線を離すことが出来なかった。
「――ん。落ち着いた?」
唐突な、しかし険を落とした言葉に、彼の瞳が瞬く。
気が付けば、彼女の顔は眼と鼻の先。
否が応にも目に入る、その整った顔立ち、ほんのりと紅の乗った唇。
「――あ、ああ」
ほんの一時。
彼が魅入られていると自覚するまでの間で、彼の緊張は解れていた。
そして。
「う」
再び鳴る腹の虫に、顔を赤らめてしまう。
気恥ずかしさを、身を竦めて俯く事で紛らわしながら、視線は再び少女に向く。
目の前の少女は、あの鈴の鳴るような声で笑っていた。
「まぁ――先ずは、御飯にしましょうか」
その笑顔は、花が咲いたと言うより、空に色彩が乗るに等しいもので。
その空気の様なさり気無さ、飾り気の無さ。
そして繊細さを兼ね備えた、独特の『可憐さ』に、青年の頬は、違う赤を得るのであった。
これが、一人の青年と、博麗の巫女の出会いだった。
「まあ、今日作ったのは私なんだが」
「はいはい、いつもご苦労様」
「……」
訂正。
博麗の巫女と、その友人、霧雨魔理沙との邂逅だった。
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6スレ目 >>490
「ご馳走様」
「はい、お粗末様」
開け放しの窓に掛けられた簾を白南風が通り抜けるようになった頃。
くだんの通りに夕餉を終えた僕らは二人して両手を合わせた。
今日のメニューはペペロンチーノ。
シンプルゆえに料理人の腕前がハッキリと分かる一品である。
これはこの前僕が一時的に元の世界に行った時に買い溜めしておいたパスタを使って調理したものだ。
パスタは種類も豊富で幾らでもアレンジが効くから、飽きないし便利なのだ。
霊夢は以前どれも同じ麺じゃないの、と言っていたがそれは偏見というものである。
マカロニだってラザニアだってパスタの仲間だ。
侮るなかれ。
たかがパスタ、されどパスタ。 パスタを笑う者はパスタに泣くのだ。
グルテンが豊富だからと言って舐めていると痛い目を見るのである。
因みにスパゲッティとスパゲッティーニは別物なので注意が必要だ。
「にしても、結構辛いわね。これ」
汗を掻いたのか、霊夢はただでさえ面積の少ないその巫女服をパタパタさせて風を呼んでいた。
僕の前でなら慣れたものだが、一応女性であるからそういう行為は余所では謹んで欲しいものである。
言っても無駄なのだろうけど。
「夏だからこそ辛いものを食べないとね。健康に良いし」
食器を片しながら霊夢に諭す。
だが当の霊夢はうー、とかあー、とか呻きながら寝転がっていた。
どうやら彼女は夏に汗を掻くことの素晴らしさを理解してないと見える。
勿体無いなあ。
行儀悪いなあ。
何だか僕が戻ってきて以来、霊夢のだらけっぷりが輪にかけて悪くなった気がする。
僕が会う以前のことは知らないが、少なくとも最近は退化の一方だ。
大丈夫なのだろうか、この失楽園の素敵な巫女さんは。
ていうか人の話聞こうよ。
食器も大方片付け終わり、改めて霊夢に話し掛ける。
一方の霊夢は何やら上半身を起こしながら腹筋の運動めいた事をしていた。が、挫折。
一応運動はしようとしているようだ。諦めてるけど。
「このパスタの中に入れた唐辛子にはカプサイシンっていう辛味成分が入っていてね。
発汗を促進する作用があるからダイエットにも最適で今の霊夢にもぴったrはぐぅッ!!」
居間で寝転がっているはずの霊夢が玉串をこちらに向かって投擲してきた。
どこにあったんだろう、玉串。
前々から思ってたんだけど本来の用途から凄くかけ離れてると思うんだ、玉串。
勢いをつけた凶器は寸分違わず僕の眉間を貫く。
その時に響いたスコーンという気持ちのいい音が僕の頭の中限定でハウリングした。
そして僕は短い悲鳴を上げて後ろへ倒れた、というか吹き飛んだ。
なんつー恐ろしい性格と腕をしているのか。
ていうか聞こえてるじゃん。
「女性にとっては気になるかもしれない事を容易に口走るんじゃないの」
相変わらずやる気のない目に、僅かな殺気を孕ませて話す。
そう言うって事は気にしているって言ってるようなものじゃないか、とは言えなかった。主に痛みの所為で。
「いや……ただ、言っておいた方が役に立つかと……痛たた」
じんじんと痛む額を摩る。
触れると中々に痛いことから恐らく内出血はしているだろう。
「余計なお世話よ。それほどでもないわ」
「でも最近霊夢弛んでたからさ……大丈夫かなと思って」
心配していたのは事実である。
ただその不安が向けられた方向は身体的なものに限らず生活全般においてだが。
「全く……私も軽んじられたものね。じゃあ、」
束の間の後、霊夢が一旦言葉を区切り立ち上がる。
はて、一体何をするつもりなのだろうか。
一方で僕は未だに額を押さえていた。あ、コブ出来てる。
「確かめてみる?」
何時の間にか訪れていた静寂の中、衣擦れの音が、響く。
霊夢はその顔に艶やかな笑みを湛えていた。
「ん、そうだね。それなら確実だ」
そんな彼女の誘惑から僕が逃れられるわけもなく――――
「ちゃんと確認しなきゃダメよ?」
僕の体は吸い寄せられるように彼女の方へと近づき――――
「大丈夫、任せといて―――んっ」
――――そして影はひとつになる。
開け放しの窓に掛けられた簾を白南風が通り抜けるようになった頃。
くだんの通りに夜餉を迎える僕らは二人の両手を合わせた。
「っふぅ―――――暑い夜に、なりそうね」
「全くだ」
どちらともなく見詰め合い、お互い同時に苦笑が零れる。
まだこれからが夏本番。
夜はゆるりと更け始めた――――
「ふふふふふふふふ、普段から仲睦まじい二人の事。何かあるのではと見張っていましたが……これは大当たりですねぇ」
「あらあら、楽しそうね」
「そりゃあもう…………って、ほあぁぁっ!?」
「あら、とんだ御挨拶ねぇ。人の顔見た途端奇声を上げるなんて」
「いや奇声って……って、それは兎も角!失礼しm」
「はいはい、一名様スキマごあんなーい」
「い゛!い゛やあああぁぁぁぁ~……」
「全くもう。やあねえ、覗き見なんて。
さてさて、出歯亀は片付いたことだし帰りましょうか」
「ふふっ。幸せにね、霊夢」
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6スレ目 >>573
クリスマスクリスマス…
皆騒がしいけど我が神社にはかんけいn
霊夢さん、何ですかその服は
霊夢「え?ああ、ほら。サンタクロースっての。あれも紅白だし暖かそうだから着てもいいかなぁって」
紅白なら何でもいいんですか
いや、問題はそこじゃない
問題はその
ミ ニ ス カ です
霊夢「だって…紅魔館に紫もやしみたいな奴が居るんだけどね、そからく女性のサンタクロースってのはこーゆー服だって聞いたから…」
OK,色々間違ってるがそのおみ足を拝めただけでもう全て許せる
ああ、名も知らぬ紫もやしの人万歳!!クリスマス万歳!!生足万歳!!
霊夢「ちょ、○○!?鼻血出てるわよ、大丈夫!?」
ばんざーい!!ばんざーい!!ばんじゃーい!!
霊夢「○○!? ○○!?」
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6スレ目 >>607
「あんたも難儀よね」
「ん?」
「その性格」
「何のことやら」
「…本当に何のことやら。って顔してるし。はぁ、自覚が無いってのは恐ろしいわ」
「ふむ。じゃあ霊夢から見た俺は何処が難儀なのかね。気になるぞ」
「割と他人事じゃないのよね、カタチは違うけど。自分の核心には触れさせてくれないし他人の核心にも触れないって感じ」
「俺としてはそんなつもりは無いけどな。…あぁ、だから自覚が無いと」
「うん。あんた、よく他人の愚痴とか聞いてやってるけどさ。自分から愚痴った事なんてあったかね?」
「………ふむ。まったく記憶に御座いませんな」
「でしょ?つまりね、他人に心を委ねようとしないって事よ」
「ふむふむ。…俺が見た限り、霊夢も同じようなもんだぁな」
「まぁちょっと違うけど、大体同じね。愚痴ったりはするけど、やっぱり特定の誰かに心を委ねようとは思わないし。何でかわからないけど」
「で、それによる弊害っつうとー」
「まぁ、親友や恋人と言える人を作るのは難しそうねー」
「ふむ、魔理沙とかはどうなんだ?」
「あ~。…一応親友のカテゴリに含めてもいい気がしてきた。でも異性となるとアレだ」
「下手すりゃ生涯独身ってか。生物としては大問題だ」
「そうねー。ほら、私も跡継ぎとか遺さなきゃいけない身だから。そこらへん割とシャレにならない問題だったりするのよ」
「それは難儀だねぇ」
「まったくだ。このままじゃ大人になってもお嫁さんにはなれそうに無いわね。…貰ってくれますー?」
「遠慮しとくぜ」
「むー、即答されたわ」
「博麗の巫女がどっかに貰われちゃ不味いだろ」
「あ、そっか。…貰われてくれる?」
「考えておくよ」
「夜も更けてきたことだし、そろそろ俺帰るわ」
「ん。それじゃあ、またね」
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7スレ目 >>120
「れ、霊夢ッ!?」
「……ん、どうしたのよ、血相変えて」
「どうしたのじ、じゃないだろ!?人里で突然倒れて、永遠亭に担ぎ込まれたって聞いて……!!
あ、ああほら顔色悪いじゃないかッ!!」
「えーと……ほら、朝たまたま食欲なかったから」
「お前が食欲無いって時点で充分病気だったんじゃないかっ!!
ああもう御免な……気付いてやれなくって……ッ」
「あ……えー」
「そうだ、診察結果はまだ出て無いのか!?永琳さんからはまだ何も!?」
「(もじもじ)あー……うん、もう話はしたから。一晩入院。留守番は魔理沙と萃香と妹紅がしてくれるって」
「そ、そうか、そんなに重いわけじゃないのか、良かっ」
「(つーん)……良かない」
「え」
「誰のせいだと思っているのよ」
「う……ぁ」
「あ、あああ御免、責めてるんじゃなくて――ったくほら泣くな」
「うう、ぐすっ、い、いや、すまん」
「誰かさんがあんまり甲斐甲斐しいんで、神社が住みよくなっちゃったのかしらね」
「……?」
「年末辺り、また一人転がり込んでくるのよ」(ぽむぽむ)
「――は?」
「は?じゃないわよ。当分の食い扶持を何とかしないといけないんだから。
――頑張ってね、『お父さん』?」
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7スレ目 >>121
「それで、どうするの?」
いつもと変わらない口調で俺に問いかけてくる霊夢。
まだ目立っては見えないが、彼女のお腹の中には新しい生命が宿っている。
「俺が育てるよ」
「そんなの分かってるわよ、あんたはともかく私は巫女だもの。
誰かに子供を授けることはできても、誰のお嫁さんにもなれないから」
分かってる。
以前に霊夢本人から聞かされた事だ。
「他にお母さんの宛てでもあるのかしら?」
「無い。だから、俺が一人で育てる」
「不幸になるのはあんたじゃなくてこの子なのよ?」
「幸せにしてみせるよ、絶対」
「そう」
そっけない生返事を返しながらも、霊夢は自分のお腹のあたりを撫でていた。
「……大きくなったら、一度でいいから神社に連れてきてね」
「流石の霊夢でも気になるんだな」
「当たり前でしょ? 私がお腹を痛めて生む初めての子だもの」
「じゃあ毎日霊夢の事を話すよ。どんな性格で、どんなものが好きで、どれだけ幻想郷の為に頑張ってるか。
繋がりのない母親と一緒にいるよりきっと立派に育ってくれる。霊夢みたいに、強い子になってくれると思う」
「そう」
またも気のない生返事。
静かになった部屋に薫風が流れ込んで、篭もった空気を散らしてくれる。
「……博麗の巫女の代替わりまで、二人だけで待っていられる?」
俺は「待つよ」とだけ答えた。
風の音に紛れて、小さなありがとうの声が届く。
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7スレ目 >>122
で、代替わりして戻ってくると。
「れ、霊夢……」
「あら、魔理沙じゃない、何年ぶりかしらね。まだ魔女やってるの」
「魔女だぜ。……で、ひとついいか?」
「何よ」
「今お前が抱いているのは、お前の子だよな」
「ええ」
「さっき、玄関で大きいのと小さいのと会ってきた。……なんか増えてないか?」
「ちゃんと『お母さん』してみたいなあ、って頑張っちゃった。てへっ」
「歳考えろ歳。で、その頑張った旦那は?」
「今日も畑に寺子屋と、働き盛りよ」
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7スレ目 >>210
「なあ霊夢」
「なに?○○」
「・・・好きだ」
「○○が好きなのは魔理沙じゃないの?」
「なぁ!?なんでそんなこと言うんだよ!!」
「だっていつも魔理沙と話してる時嬉しそうじゃない!」
「そんなことない!俺は本当に霊夢の事が好きなんだ
妖怪に襲われて助けてもらったあの時から!!」
「ったら・・・だったら本当に私が好きなら抱きしめて
壊れるぐらいに貴方が・・・○○が私から離れないように」
ぎゅっ
「それぐらいお安い御用だよ、で返事は?」
「・・・馬鹿////嫌いだったら抱きしめてなんて言わないわよ
好きよ○○、大好き、愛してるんだから」
「ありがとう、霊夢」
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最終更新:2010年05月13日 01:06