霊夢27



霊夢悲恋(うpろだ1315、1317、1324、1334)


 「ねぇ○○さん」
 「○○さんちょっと時間ある?」
 「大丈夫だけどどうしたの博麗さん?」
 「相談があるんだけど」
 ある日僕は博麗神社を尋ねていた。
 その日は珍しく彼女から僕に話しかけてくれる。
 今日こそは想いを伝えようとやってきた僕にとってそれは少し予想外の出来事だった。


 「へぇ君が相談事なんて珍しいね。僕でよかったら聞くよ」
 自分の想い人に頼られるようになったのを少し嬉しく思いながら僕は彼女の話を促す。
 「有難う。」
 「気にしなくて良いよ」
 「話って言うのは●●さんの事なんだけど」
 「実は私……」
 そこまで言ってすぐ黙る。
 何となく頬が桃色に染まっている気がしないでもない。
 その様子に僕は少し嫌な予感を感じたが、それでも黙って待つ。
 まさか……ね。
 「●●さんの事が好きなの!」
 「っ?!」
 やがて彼女は言葉を発した。
 僕の想いを一撃で破壊できる程の威力をもった一言を……


 「でもあの人鈍感だから私の気持ちに全然気づいてくれなくて……」
 彼女の言葉の一つ一つが僕の心を抉る。
 「そ、そっか」
 それでも僕は話を聴いた。
 「それで●●に私を見てもらうには如何すればいいか解らなくて……」
 彼女が助けを求めているから……
 「……それで僕に相談に乗ってほしいと?」
 だから僕は心の痛みを我慢しながら聴き続ける。
 「うん。今回ばかりは魔理沙たちにも相談できないからから……]
 痛い痛いと悲鳴を上げる心を……
 「それに貴方なら真剣に聞いてもらえると思って……」
 もしかしたら僕は壊れてしまうかもしれないけど……
 「当たり前だよ」
 それでも僕は良かった。
 「良かった……」
 彼女が笑顔で居られるのなら……


 「そうだねぇ……。
  押して駄目なら引いてみろって言葉があるけど●●の場合は多分押し切らないと駄目だと思うよ」
 僕は少し考えてから言葉を発する。
 「どうして?」
 彼女は真剣な表情で尋ねてくる。
 「だってさり気無くはアピールしてるんでしょ?
  それなのに引いたら絶対に気づかない気がする。」
 きっと彼女の考えているのは●●の事ばかりなのだろう。
 だから彼女の想いは僕には向いてくれない……
 「確かに……。それとなくアタックしてるのにまったく気づいてくれないものね」
 そう考えると泣きたくなってくる。
 「やっぱりか……。ならもう行き成り抱きついたりしてみれば?」
 それでも泣く訳にはいかなくて……
 「っ!?
  いや、あの、抱きつくのはちょっと……///」
 心にもない言葉を発する事でなんとか場を取り繕う。
 「……ふむ。なら●●を誰かに取られるかもしれないよ?」
 本当はこんなことを言いたくない……
 「それは駄目! 絶対に嫌!!」
 でも本心は言えなくて……
 「なら頑張ろうよ、ね?」
 結局僕は嘘を吐く。
 「うん」
 心の痛みに気付かない振りをして……


 「これで相談事は終わりかな?」
 一通り聞き終えた僕はそう尋ねる。
 「うん。○○さん有難う。相談して本当に良かった……」
 どうやら霊夢の方からは相談事だけだったようでどこか吹っ切れたように言う。
 「どういたしまして。それじゃあ僕は帰るとするかな」
 そう言って僕は踵を返す。これ以上此処に居たら泣き出してしまいそうだから。
 「あ! ○○さんは何か用事があってきたんじゃないの?」
 そんな僕の思いと裏腹に霊夢は痛いところをついてくる。
 「っ?! 
  ……いや暇だから霊夢のところにでも行こうかと思っただけだよ」
 僕は咄嗟に嘘をつく。
 「そっか。今日は有難うね。」
 本当は君に想いを告げに来たのだと言いたい……
 でもそんな事言っても霊夢に迷惑がかかるだけだと思い踏みとどまる。
 「ああまたね。●●とのこと上手くいくように祈ってるよ」
 そして僕は今できる最高の笑顔で一番言いたくない言葉を告げ背を向けた。
 その時○○の眼から一筋の雫が零れ落ちた事を霊夢は気付かなかった……

 「……僕は何やってるんだろうな」
 帰途で漏れた一言。
 その言霊に答えてくれるものは居ない。



 「○○さん!」
 それから数日後。
 「うわ?! ど、どうしたの博麗さん?」
 珍しく霊夢が僕の家にやってきた。
 「その……●●に告白したの」
 そして僕にとっても彼女にとっても重大な言葉を言う。
 その顔にはどこか喜びの色が見える。
 「っ?! それで●●はなんて?」
 心が警報を鳴らす。嫌だ嫌だと悲鳴を上げ続ける。
 それでも聴かないわけにはいかない。
 そして――
 「ぎゅっと抱きしめてくれて『俺も霊夢の事が大好きだ!』って言ってくれた///」
 その一言で僕の心は壊れたような気がした……

 「……そっか」
 泣きたい気分だった。
 「これも貴方のお陰ね。本当に有難う」
 そんな僕の気も知らないで霊夢はお礼を言う。
 「……うん。どういたしまして」
 誰も居なかったら直ぐにでも泣き出してしまうところだけど彼女が居る前では泣けない。
 だから僕は繋ぎとめる。壊れてしまった心を。
 「まあその報告だけよ。○○さんには凄くお世話になったから……」
 霊夢は本当に嬉しそうに僕に言う。
 「……」
 嬉しそうに話す霊夢に僕は何を言えば良いのか解らなくなり黙りこんだ。

 「でねその時●●が……ってそろそろ私は帰るね」
 彼女は僕に散々惚気話を聞かせるとふと気が付いたように言う。
 「ああ。気をつけてね……」
 これ以上は我慢ができないぐらいまできていたので僕は即座に相槌を打つ。
 「誰に言ってるのよ」
 そんな僕に霊夢は軽口で返す。
 「楽園の惚気巫女さん」
 僕はその言葉に最後の意地を持って返す
 「なっ?!///」
 その言葉で一気に真っ赤になる僕の想い人。
 「ふふ。あ、でも本当に気をつけてね」
 その顔を見れただけでも必死に泣かないようにした甲斐がある。
 「解ってるわよ!」
 そして彼女は怒ったように言い放ち帰っていった。
 「気を、つけてね……」
 その後姿を見送りながら僕は搾り出すように言ったのだった。


 霊夢が帰った後僕は何もする気が起きずに直ぐに床に就いた。
 「振られちゃたな……」
 自分が一番恐れていた事態が現実になってしまったから。
 「告白もまだしてないのに……」
 何より彼女の幸せそうな顔を見て悟ってしまった。
 「届かない想いなのかな……」
 もう自分などが入る余地は存在しないことに。
 「好きだった……誰よりも何よりも」
 その事実が僕の胸を締め付ける。
 「あの娘のためなら何だってする気だった……」
 やがて彼女の前で抑え続けた想いが溢れ出てくる。
 「でも、それでも! 僕じゃだ、めなんだ……。僕なんかじゃなく●●じゃないと!!」
 そして感情と共に涙も溢れ出す。
 「あ……れ? 僕なんで泣いて……」
 叶わなかった想い。
 「い…まなけば…つ、ぎに逢うときにはわら……え…るよね」
 その強すぎる思いが決壊するのは一瞬だった。
 「あ、うぁ、あぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 誰も居ない闇の中で僕は泣き続けた。
 せめて次に会う時には笑顔でいられる事を祈りながら。




 それから数日後。
 僕は博麗神社で行われる宴会に来ていた。
 ここ数日は呼ばれても行かないのだが今日は絶対に来いと脅されたからだ。
 「よう! やっときたな」
 神社でぼけーと突っ立っていると魔理沙が僕の前に来て言う。
 「……まあたまには気分転換にね」
 その一言は本当だった。
 失恋をした僕はあの日からただ毎日を無気力に生きていた。
 しかしそんな事では駄目だと思っていたときに誘われた。
 いいきっかけだと思い僕は宴会に参加することにした。
 「まあ折角の宴会なんだ楽しくやろうぜ!」
 そんな思いは知らないはずなのに魔理沙は僕を励ますように言って楽しげに笑った。
 「そうだね」
 その笑顔に僕は少しだけ救われたような気がした。


 宴会も終わりかけた頃に僕も程よく酔ってきていた。
 「はい皆ちゅーもく!」
 今日は珍しく誰も帰っていないと思っていた時に●●が声を上げる。
 少々酔っているようだ
 「俺と霊夢からじゅーだいな発表があります~!」
 彼の傍らには霊夢もいた。
 その瞬間一気に酔いも醒め、重大発表とやらが何か理解する。
 「俺と霊夢は付き合うことにしましたぁぁ!」
 そして●●は会場全体に聞こえるような声でそう叫んだのだった。
 周りから黄色い声が上がる。
 やれきっかけは何だ●●の何が良かったのかなどなど。

 「○○さん改めていうわね。私達付き合うことになりました」
 「なんだ? 知ってたのか○○?」
 霊夢が少し照れながら告げ。
 ●●は驚いたように言う。
 「まあね」
 僕は適当に相槌を打つ。
 あの日全てを吐き出したけどあまりこの二人を見ていたくなかったから。
 だからそっけない返事になってしまう。
 「○○さんには色々相談に乗ってもらったから」
 「おお! と言うことは○○は愛のキューピットって訳か」
 「そうなるわね」
 「これは何時かお礼をしないとな」
 「……っ!?」
 僕の想いなど気付きもしないで二人は楽しそうに話している。
 「……二人とも幸せになりなよ」
 僕は耐え切れなくなり二人にそう言う。
 「ああ霊夢は幸せにして見せるさ!」
 「●●……うん」
 それを見た僕は最高の笑顔を向けて言った
 「うんうん。これなら大丈夫そうだね。それじゃあ僕はそろそろ帰るとしますか!」
 「ああまた今度な!」
 「○○さん気をつけてね」
 「ああ。さようなら」
 そして僕は二人に背を向けて歩き出す
 その瞳から沢山の涙を流しながら……



 「結局また泣いちゃったなぁ」
 僕は帰途につきぼやく。
 大丈夫だと思ったんだけどやっぱりまだ無理だったか。
 あははと一人泣きながら笑う。
 「あの二人幸せになると良いな……。僕の分まで……」
 そして涙を拭いもせずに呟いた。

 暗い暗い闇の中で彼は一人歩いていく。
 叶わなかった自分の想いを隠し続けたまま……



────────



 「○○!」
 僕が一人静かに泣きながら歩いていると声が聞こえた。
 何事かと思い涙を拭って振り向く。
 「ん、魔理沙か。どしたの?」
 僕はさっきまで泣いていた事を隠すために何時もどおりの声を出す。
 「いやなんか元気がないから気になって」
 が、この普通の魔法使い殿は僕が無理をしているのをあっさりと見破ってしまった。
 「……」
 まさかばれるとは思ってなかったので僕は黙り込む。
 「何かあったのか?」
 さてどうしたものかと考える。
 「んーちょっと失恋しちゃってね」
 僕はあっさりとばらす事にした。
 「!?」
 僕は誰かに聞いてほしかったみたいだ。
 それにしても魔理沙の驚く顔は少し可笑しかった。

 ――青年説明中――

 「……本当に好きだったんだ霊夢を」
 魔理沙は僕の話を真剣に聞いてくれる。
 「お前はそれでいいのか!?」
 そして魔理沙はまるで自分の事のように怒ってくれた。
 「良くないよ……。でも彼女が見ているのは僕じゃないんだ……」
 僕だって諦めたくない。
 「だからって簡単に諦めるのか!?」
 でもどうしようもなくて……
 「うん。僕が我慢すれば言いだけだから……」
 結局は想いを抑えつける。
 「本当に好きだったら簡単に諦めたりするな!」
 でも僕の想いは抑えつけるには限界のところまできていた。
 「じゃあどうしろって言うんだよ!」
 そして魔理沙の言葉によってまた決壊した。
 「っ!?」
 行き成りの怒声に驚く魔理沙。
 「今更自分の思いを伝えろって言うの!?」
 でも僕はそんな彼女を無視して続ける。
 「そんな事したって意味が無いじゃないか……」
 例え想いを伝えたってどうにもならない事を……
 「ただあの子を困らせるだけ……」
 既に霊夢は●●を選んでしまったから。
 「○○……」
 それなのに僕が想いを伝えるのは彼女を困惑させるだけだから……

 「……ごめんね魔理沙。いきなり怒鳴ったりして」
 ついカッとなって怒鳴ってしまった事を詫びる。
 どんな理由があろうと自分の事を考えてくれてる人を怒鳴りつけてしまったから。
 「いや……その私の方こそごめんな。○○が一番苦しいのに自分勝手な事ばかり言って」
 それなのに魔理沙の方からも謝ってくる。
 「気にしないでいいよ。僕も胸の内を吐き出せて少しだけ楽になったからね」
 本当は僕が悪いと言いたいんだけど、あえてそう言う。
 彼女の事だからどうせ自分に非があると言い張るだろうから。
 「私でよかったら何時でも聞いてやるからな!」
 僕の目論見通り魔理沙は何時ものように笑いそう言ってくれた。
 「ありがと。それじゃあ僕は帰るよ」
 その笑顔を見て僕も少しだけ微笑んでそう告げその場を後にした。



 それから数日後僕はとある場所に来ていた。
 「何でこの場所に来たんだろう?」
 あても無く外を歩いていたらこの場所にたどり着いた。
 「忘れられないから?」
 静かに自問する。
 正直忘れる事なんかできないだろう。
 「……我ながら見苦しいな」
 叶わないと知りながら、それでも諦め切れていない自分の見苦しさに苦笑する。
 「あの日は確か……」


 彼女に初めて出会ったのはもう半年以上前の話だ。
 幻想郷に迷い込んだばかりの僕はその日のうちに廃屋を見つけてそこに住み着いていた。
 今思えば当時は妖怪というでんじゃらすな生物?が存在する事も知らなかったわけで……
 よく死ななかったものだと本気で自分の運に感心している。
 閑話休題。
 彼女に初めて会ったのは廃屋に住み着いてから3日目だった。

 『なにしているの?』
 やることも無く近くの木にもたれ掛かり物思いに耽っているとそんな声が聞こえた。
 『ん?』
 辺りを見回すが誰も居ない。
 ふとそこで自分の周りだけ少し暗い事に気づいた。
 まさかと思い僕は上を見上げると
 『は?』
 そこには少し変わった巫女服を身に纏った少女が居た。

 そのときの僕は目が点になっていただろう。
 当たり前だ。人が浮いているなんて状況今まで生きてきた中でも初めてみたから。
 『こんにちは』
 唖然としている僕に彼女は普通にあいさつをしてくる。
 『あ、こんにちは』
 何と言うか余りに自然体で話しかけてくるので反応が遅れてしまった。
 『それで何してるの?』
 僕の返事に満足したのか最初と同じ事を問う。
 が、僕にも良い答えが思い浮かばない。
 『特に何も。しいていうならぼけーとしてる、かな?』
 故に疑問系で答えた。
 『あはは、何よそれ』
 そんな僕の答えに彼女は面白そうに笑う。
 む、初対面の相手を笑うとは失礼な。
 そう思ったけど何故かどうでも良くなった。
 『さあ?』
 それぐらい彼女の笑顔は眩しかった。
 ……思えば僕はこの笑顔に一目ぼれしていたのかもしれない。

 暫く僕たちは話し込んだ。
 彼女の名前は博麗霊夢と言うらしい。
 何でもこの先にある博麗神社の巫女さんだとか。
 まあその格好で巫女じゃなかったら若干引いているかもしれないけど。

 『私はそろそろ帰るわね』
 気付いたらもう夕暮れ時だった。
 『ああ気をつけてね』
 彼女が言うには夜には妖怪が出るから危ないらしい。
 だから僕は気をつけるように言うのだが……
 『むしろ貴方が気をつけなさいよ』
 むしろ僕のほうが釘を刺される。
 『御尤も』
 僕は自衛手段も持っていないので大人しく返事をする。
 『わかてるなら良いのよ。それじゃまた』
 そんな僕に気を良くしたのか霊夢は笑顔そう言いで帰って行く。
 『ああまた今度ね』
 僕は彼女の背中に向けてそう投げかけた。

 今となっては懐かしい記憶。
 とても大切だけど忘れてしまいたい過去。
 大事だけど消し去ってしまいたいという矛盾に僕は苛まれる。
 霊夢のことを考えると胸が苦しくて。
 もう一度この場所で逢えたら僕は……

 それは僕が物思いに耽っている時だった。
 「あれ……○○さん?」
 神様のイタズラか……
 「え?」
 吸血鬼の気まぐれか……
 「やっぱり○○さんだ」
 僕が今一番聴きたくて……
 「博麗さん!?」
 同時に一番聞きたくない声が聞こえてきた。

 「何してるの?」
 霊夢はあの日と同じように問う。
 「特に何も。しいて言うならぼけーとしてる。かな?」
 そして僕もあの日と同じ言葉を返す。
 「あはは、何よそれ」
 彼女はまた同じように続け。
 「さあ?」
 僕の言葉も変わらなかった。
 あの日とまったく同じだった。
 違うのは僕の想いだけ。

 『本当に好きだったら簡単に諦めたりするな!』
 その時魔理沙に言われた言葉が蘇った。

 「……」
 自分の思いを確認するように僕は少し黙る。
 「どうしたの○○さん?」
 行き成り目を閉じた僕を不思議に思ったのか霊夢はそう尋ねてくる。
 「大事な話があるんだけど聞いてくれるかな?」
 本当は言う気なんてなかった。
 それなのに僕は我慢できなくなって続ける。
 「良いけど…改まってどうしたの?」
 彼女はよく解らないという風に小首を傾げながらも聴いてくれる。
 「……博麗さん、……いや霊夢」
 きっと届かないだろう……
 「な、何?」
 それに彼女は優しいから迷惑を掛けるだけだと思う。
 「僕は……」
 それでも……
 「……」
 それでも僕は……
 「貴女のことが好きです」
 もう自分を偽る事ができなかった……
 「っ!?」
 彼女は驚き目を見開く。
 「……初めて逢ったときから好きでした」
 それでも僕は最後の一言まで言い切った。

 「あの…その……」
 やっぱり彼女は困ってしまったようだ。
 「……」
 俯き泣きそうな顔で言葉を探している。
 「その……気持ちは嬉しいんだけど……」
 そんな顔にさせたのが自分だと言う事実が辛くて……
 「……くくく」
 結局僕はまた嘘をついた。
 「え?」
 その嘘は人として最低のもので……
 「あははっははは!」
 きっと彼女には軽蔑されるとしても……
 「???」
 自分の所為で彼女が苦しむぐらいなら……
 「冗談だよ冗談!」
 僕は喜んで道化になろう。

 「どう…言う事?」
 僕の台詞を聞いた霊夢は吐き出すように呟いた。
 「察しが悪いね。ちょっとからかってみただけだよ」
 僕は彼女にはっきり聞こえるように言った。
 多分彼女につく最後の嘘を……
 「!?」
 その一言で霊夢は僕を射殺さんばかりに睨み付ける。
 「くく……しかしまあ本気にしちゃって可愛いもんだ」
 それでも僕は言った。 
 「っ!?」
 自分と彼女を偽る最後の嘘を……
 「……○○さん貴方最低ね」
 刹那頬に痛みが走る。
 おもいっきり頬を叩かれたみたいだった。
 「……」
 彼女はもう僕には笑ってくれないかもしれない。
 「さようなら」
 それでも良かった。
 僕の所為で優しい彼女が悩むぐらいなら。

 「さようなら……」
 僕は霊夢が立ち去ってから暫くしてそう呟いた。

 「痛たた……」
 霊夢に叩かれたのはそこまで痛くは無い。
 むしろ彼女に嘘をついたのが痛かった。
 「これで良かったんだよね……」
 それでも僕があんな事を言ったのは、彼女は優しいから本気で告白すれば苦しむから。
 きっと彼女は僕を振った後もずっと苦しむとおもったから。
 だから僕は告白をなかった事にして嫌われる方法を取った。
 もしかしたら僕の考えすぎかもしれないけど、それでも僕はこれが正しいような気がした……
 「ふふ……僕は何で上手くできないんだろう……」
 自分の無様さには呆れを通り越して可笑しくさえ思う。
 「あはははははは」
 でもそれは強がりでしかなくて……
 「ははっははは……ぁぅぁ……」
 やがては感情の渦に飲み込まれて
 「うわあああああああああ!!!」
 僕は泣き続けた。

 「ん……。あぁ寝てたのか……」
 気がつけば辺りは暗くなりかけていた。
 いつの間にか寝ていたようだ。
 「……やばいな。もうすぐ夜だ」
 夜になると妖怪が現れるから
 「……早く帰ろう」
 僕は足早に帰途についた。


 僕が歩いていると何か音が聞こえてきた。
 「ん? 何の音だろ?」
 人が歩くのとは違う音。
 例えるなら何かを千切るような音だ。
 僕は興味本位に音のする方向へ近付いていった。
 「!?」
 そこには何かを貪る巨大な猿のような妖怪が居た。
 本能が警告する。この場に居てはいけない。逃げろと。
 僕は頭ではちゃんと解っているのだけど体は恐怖で動かなかった。

 やがて獲物を食べ終えたのだろうかゆっくりと妖怪は立ち上がる。
 そして一瞬考えるように止まり、こちらを振り向き僕と眼があった。
 「っ拙い!」
 瞬間僕は背を向けて逃げ出す。が
 「な!?」
 なんとその妖怪は僕をひと跳びで飛び越えてゆく手を阻む。
  「ごふ……」
 そして腕を振り上げ僕を地に叩きつけた。


 妖怪は僕が弱いと直ぐに理解し殴りつけてくる。
 「がは、ごほ、ぐふ……」
 僕なんか何時でも殺せるとおもったのかまるで玩具で遊ぶように何度も何度も僕を叩きつける。
 「うぐ、げほ、かは
 痛いなんてレベルじゃなくて意識を失ってはまた無理やり戻されるの繰り返し。
 「う……あぁ…」
 暫くして妖怪が僕を殴るのをやめた。
 痛みが無くなったのを不思議におもい殆ど見えない眼で僕は奴を見た。
 奴は僕を見てニヤリと笑っていた。
 「――」
 そして僕の胴体を鷲掴みにして投げ飛ばした。 
 「がは! うあぁ……」
 そして僕は弧を描き飛び背中から地面に落下する。
 落下の衝撃かそれ以前の暴力かで手足の骨は折ている。
 視界は赤く染まりもはや役目を果たしていない。
 口からは留め止めもなく血が溢れ出る。
 おおよそ内臓もやられているだろう。
 生きている事が不思議だった……
 「れ、いむを泣かしちゃった罰かな……?」
 死ぬ事自体は不思議と怖くなかった。
 「こんな…事ならあんな事…言わなきゃ良かった……」
 それよりも想い人に『嫌われたまま逝く』と言うのが溜まらなく嫌だった。
 「――」
 そんな想いとは裏腹に妖怪は僕に近付いてくる。
 もう眼も見えなかったけど何となく妖怪がどの辺りに居るのかはわかった。
 「――」
 少しして僕は妖怪に持ち上げられる。
 「――」
 そして妖怪の手が僕の首にかかった。
 僕は漠然と殺されるのだろうと思った。
 「傷つけてごめんなさい……」
 そう思ったら自然に言葉が出ていた。
 その言葉と同時に僕は力を抜いた。
 ……

 何故か何時まで経っても意識はあった。
 不思議に思っていると声が聞こえた。
 「大丈夫か○○!」
 霧雨魔理沙の声だった。
 「その声はま…りさ?」
 僕は驚いていた。
 死ぬ瞬間が訪れなかった事と魔理沙が居た事に。
 「そうだよ…! 妙に胸騒ぎがしてお前の家に行ったら誰も居なくてそれでそれで…」
 「そっか…」 
 魔理沙は泣いているのか震えた声で喋る。
 何故か僕はそれを笑みを浮かべて聞いていた。
 「ごめんね…心配させちゃって……」
 喋るのも辛くなってきたが無理してそう告げる。
 言い終わると同時にかはっと血を吐き出す。
 「そんな気にしなくていいから…。だからもう喋らないで……」
 相当焦っているのか魔理沙は何時もの口調ではない。
 「ねぇ魔理沙。お願い聞いてくれるかな?」
 意識が遠くなってくるのを必死で繋ぎとめながら僕は魔理沙に言う。
 「聞く。何でも聞くから今はもう喋らないで……」
 残念ながら黙る訳にはいかなかった。
 「僕の代わりに霊夢に謝っといてほしいんだ……。嘘付いてごめんなさいって……」
 僕はもう駄目だとわかっていたから。
 「駄目だ! そんな事は自分で言え!」
 僕は最後の力を振り絞って眼を開けて魔理沙を見て言う。
 「もう頼める人が君しかいないんだよ……」
 また口から血が零れる。
 「っ!? 解ったからもう喋らないで」
 見れば魔理沙は泣きながら僕を抱きしめてくれていた。
 「ごめんね……。それとありがとう魔理沙」
 僕はできる限りの笑みを浮かべそう言い眼を閉じた。
 そしてそのまま僕の意識は闇に堕ちていった……

 「○○! いやだ……置いてかないで○○!!」
 ――意識が消えていく時に魔理沙が僕を呼ぶ声を聞いたような気がした――



────────

 朦朧とした意識が闇に沈んでいく。
 「○○! いやだ……置いてかないで○○!!」
 僕はそんな声を聞いた気がした……


 「○○! ○○!!」
 「何で…こんな…」
 「う、ひう、うわぁぁぁぁ!」
 ○○は逝ってしまった。私を置いて……。

 「……」
 「……そうだあいつが言ってた事を霊夢に伝えないと…」
 苦しかった。悲しくて声を張り上げて泣きたかったけれど、私は○○の最後のお願いを思い出した。
 ○○が私に託した想い。
 それを伝えるのまでは泣くのはよそう。
 そして私は霊夢のところに向かった。


 気付けば僕は見知らぬ場所に来ていた。
 周りを見れば彼岸花が咲き誇っている。だがひときわ目を引くのが紫色の桜だった。
 「此処はもしかして無縁塚……? そっか僕は死んだのか……」
 「あ、あんたは○○!?」
 何となく自分がどうなったのか理解したとき聞き覚えのある声がした。
 「あ…小野塚さん」
 何度かあった事のある死神の女性だった。
 ちなみに何度かあったことがあるのは僕が自殺の常習犯だからとかではない。
 面識があるのは宴会で何度か会ったことがある所為だ。
 「何であんたが此処にいるんだい!?」
 「あはは……」
 彼女は僕の姿がここにあったことに驚いたのか怒鳴るように言う。
 あまりの迫力に僕は笑うしかなかった。
 「笑い事じゃない! 質問に答えろ!」
 そんな僕に苛ついたのかさらに声を荒げる。
 「何故って?」
 「何であんたが此処に居るのかって聞いてるんだよ!」
 「……僕みたいなひ弱な人間がここに来る理由なんて一つしかない気がするけど?」
 これ以上は流石にまずいと思い僕は答える。
 「っ!? じゃああんたは……」
 彼女は死神だ。だから本当はわかっていたのだろう。
 「うん。僕は死んだみたいだね……」
 僕が死んでしまったと言う事に……



 「……そうかあんたも色々あったんだね」
 僕は小野塚さんにこれまでの出来事を話した。
 「はい。本当に色々ありました……」
 理由は特にない。
 「……まあ終わった事は仕方がないさ。最後に三途の川の船旅と洒落込もうかい!」
 しいて言うならだこの死神さんは真剣に聞いてくれるような気がしたからだ。
 「くす。何ですかそれ。励ましてるつもりですか?」
 「ええいさっさと乗りな!」
 「はいはい。ではよろしくお願いしますね」
 そして僕たちは小船に乗り込んだ。


 ○○さんと話した後私は家で寛いでいた。
 「……霊夢いるか?」
 「あれ魔理沙?」
 「……」
 「こんな時間にどうしたのよ」
 そんな時に魔理沙がやってきた。
 でも何時もと違って何故か元気がないように見える。
 それどころか泣いているようにすら思えた。
 「○○から伝言を預かってきた」
 「っ!?」
 「……」
 「聞きたくない!」
 すこしして魔理沙が言葉を発した。
 私は予想もしなかった言葉に驚いてしまう。
 でも同時に憤りを覚えた。
 話とはさっきの事に関係するのだろう。
 だから私は魔理沙の言葉を聞くのが嫌だと言った。
 「そうか……」
 そして魔理沙はまた黙り込む
 「○○さんにどうしても聞いて欲しいなら自分で言いに来なさいと伝えておいて」
 私は魔理沙に伝言を頼む。
 話があるのなら自分で来いと。
 「……っ!?」
 「? どうしたの魔理沙?」
 その時魔理沙の顔が悲しみに歪んだ。
 不思議に思い私は魔理沙を問い詰めることにし。
 「それは無理だぜ……」
 「……え?」
 「○○はもう此処にもいない。」
 魔理沙は今にも泣きそうな声で告げる。
 「魔理沙あなた何を言って…」
 「○○は…わ、たしの目、の前で死んだ…んだ!」
 ○○さんがもう居ない事を。
 「!? 魔理沙! 嘘ならもう少しマシな嘘を付きなさい!」
 私は驚きと恐怖で頭が一杯になりそう叫ぶ。
 「こんなこと…こんな事嘘で言うわけないだろ!! 私は○○に伝えてくれと言われて着たんだ!
  『嘘付いてごめんなさい…』って!!」
 それを聞いた魔理沙は私にもうひとつ重大な事実を伝えた。
 「……う、そ?」
 「ああ! 死ぬ間際あいつは泣きながらお前にそう伝えてくれって!」
 「それじゃあ…あれは……?」
 その言葉を聞いて私は後悔した。
 あの時自分が言った言葉を。

 僕は小野塚さんとの船旅も終わり、後は裁かれるだけとなった。
 「ふぅ……。まさか今日の最後の裁判が貴方とは」
 「すみません」
 「いえ。別に貴方を責めてるわけではありませんよ」
 「……」
 「ただやはり知り合いを裁くというのは良い気持ちではないと思っただけです」
 「……そうですか」
 「無駄話がすぎましたね。それでは○○貴方の裁判を始めます」
 僕を裁く閻魔様は顔見知りだった。

 そして閻魔様の話が始まる。
 「……貴方は自分の想い人に相談を持ちかけられた時、自分の気持ちを抑え込み彼女を助けました」
 「……」
 僕は目を瞑り黙って話に耳を傾ける。
 「たしかにそれは優しさです。ですが一方では貴方自身に嘘を付き続ける行為でもあります」
 「……」
 自分がどのような罪で裁かれるかをよく理解しておきたいから。
 「それに気付かずに貴方は自分を偽り続け少しずつ追い詰められていきましたね」
 「……」
 閻魔様の話すことは僕にとって一番辛い時の話だった。
 「結果貴方は死んでしまい、私を含む大勢の人を悲しませまることになった」
 「……」
 それでも僕は耳をふさぐ事はしない。
 「そう貴方は少し自分勝手すぎる」
 「……」
 この話を聞かなないと例え何度生まれ変わっても変わらない。
 「自分一人で背負い込み誰にも相談をせずに苦しみ続けた」
 「……」
 同じ過ちを繰り返す。そんな気がしたから気がしたから……
 「貴方の周りには信頼できる方が沢山居るにも関わらず貴方は誰にも助けを求めなかった」
 「……」
 だから僕は何も言わずに耳を傾け
  「自分の手で全てを解決する。確かにそれは素晴らしい事かもしれません」
 「……」
 魂に刻み付ける。
 「しかしそうなったのは貴方が皆を信じ切れていなかったとも言えます」
 「……っ!?」
 次があるなら間違えないようにと。
 「皆にもっと頼りなさい。それが貴方にできる善行です」
 「は、い」
 そして最後にそう言って締めくくられた。




 幻想郷にあるとある墓。
 普段は誰も来ないような場所に二人の少女が来ていた。
 どうやら霊夢と魔理沙のようだ。
 二人の前には小さな墓がある。○○の墓だった。
 「……○○霊夢が伝えたい事があるらしいぞ」
 「……」
 魔理沙が○○の墓にそう言って何処かへ歩いていく。
 そしてその場所には霊夢だけが残った。
 「……○○さん」
 「……」
 霊夢はゆっくりと話し出す。
 「私ね貴方に告白された時頭の中が真っ白になったの」
 「……」
 誰も居ない墓に。
 「きっと嬉しかったんだと思う」
 「でも私は●●の事が好きだった。だから直ぐに答えを出せなかった」
 「……」
 自分の想いを。
 「そのせいで貴方にあんな事を言わせたんだと思う」
 「……」
 例えその言葉を聞く人が居ないとしても
 「だからあの時の返事を今言います」
 「……」
 きっと伝わる。
 「私は●●のことを愛しています。だから貴方の想いには応えられません」
 「……」
 そんな気がするから。
 「……」
 「……」
 だから私は
 「でも貴方の事は忘れない。貴方が居なかったら●●と一緒になれなかったから……幸せになれなかったから」
 「……」
 最後に言った。
 「本当に有難う御座いました」
 ありがとうと


 「……」
 「……」
 僕は映姫様に頼んで自分の墓を見に来ていた。
 そんな時二人がきた。
 「出て行かないのですか?」
 「はい」
 そして僕の想いへの返事が聞けた。
 「……そうですか」
 「閻魔様」
 それはハッピーエンドとは程遠いものだった。
 「映姫で構いませんよ」
 「それでは映姫様」
 それでも僕は構わなかった。
 「なんですか?」
 彼女が僕を覚えていてくれるのなら。
 「少しだけ泣いても構いませんか?」
 「構いませんよ」
 ただ少し寂しかった。
 「今は何も考えずに泣きなさい……。それが貴方のできる善行です」
 だから僕は声を上げずに泣いた。
 映姫様に撫でられながら。



 長かったとても長かった僕の恋は今やっと終わった……



────────


「それでどうするのですか?」
 「何がですか?」
 僕達が墓から帰っている途中、映姫様が唐突に聞いてくる。
 でも僕には何の事かわからずに聞き返した。
 「これからの事です」
 「ああ」
 「生まれ変わりますか?」
 「いえ、僕はしばらく幽霊のまま居る事にします」
 どうやら彼女は僕が現世に留まるのかそれとも生まれ変わるのかを問うているようだ。
 普通ならこのまま生まれ変わるのだろう。
 しかし僕は現世に留まる事にした。
 「何故ですか?」
 「博麗さんが幸せになるところを見たいだけですよ」
 彼女が本当に幸せになるかを確認したいから。
 自分が幸せにできないのならせめて本当に幸せかを確かめたい。
 僕はそう思った。
 「そうですか」
 僕の想いを映姫様は解ってくれたようだ。
 そんな彼女の優しさを僕は嬉しく思う。 
 「それなら生まれ変わるまで私の仕事の手伝いをして見ませんか?」
 ……でも僕は何故か彼女の手伝いをすることになった。

 それから数日後。
 僕と映姫様は今日も無縁塚に来ていた。
 映姫様曰く小野塚さんがしっかり働いているかを見ないと気がすまないらしい。
 「しかし毎日来る必要があるんですか?」
 流石に毎日サボってはいないと僕は思ったのだけど――
 「~~♪」
 僕の予想は大きく外れていた。
 「こら小町!」
 「げ! 映姫様!」
 「げ! とは何ですか!」
 「え、あ、それは」
 「貴方またサボってましたね」
 「う、いや、その…はい」
 「まったく貴方は。これはお仕置きが必要ですね」
 「ひぃ!」
 ここ数日毎日聞いていた会話が繰り返される。
 彼女はまた映姫様に吹き飛ばされるんだな、等と思っていると
 「○○よろしくお願いします」
 「ひ…あれ? ○○?」
 「へ?」
 映姫様は何故か僕にお仕置きをしろと言い出した。
 予想外の事で僕と小野塚さんは互いに映姫さまの顔を見る。
 とうの彼女は僕ににっこりと笑って――
 「とりあえず体でわからせてあげてください♪」
 素晴らしく誤解されそうな言い方で仰ってくれました。


 「あの映姫さま、あたしが言うのもアレですけどそれじゃお仕置きにならないんじゃ……」
 小野塚さんは僕を見てそう言った。
 ただの亡霊である僕と死神の彼女とでは力の差は計り知れないらしい。
 実際に「戦えば」僕なんか一瞬で吹き飛ばせるほどの差だろう。
 「ふふ、いいですか小町。相手が自分より弱いからいって油断すると痛い目を見ますよ」
 それなのに映姫様はくすくすと優雅に笑いながらそう言う。
 「いや確かにそうですけど、幾らなんでも○○には負けないと思います」
 しかし小野塚さんは僕を指差して言う。僕では自分に勝てないと。
 たしかに小野塚さんの言っている事の方は正しい。
 戦えばまず僕なんかには勝ち目などない。
 「小町これはお仕置きですので反撃しては駄目ですよ」
 そう――戦えば。
 「……行きます。トゥ!」
 でもこれはお仕置きである。
 つまり彼女に反撃で許されない。だから報復もされないだろう。……多分。
 「へ? うわ!」
 僕を指差している腕の裾を左手で捻り上げる様に引き、空いたスペースに右腕で抱えるように通す。
 すかさず反転しながら腰を低くし相手の前に入り込む。
 そして両手で彼女の腕を引き体制が崩れると同時に腰を上げて投げる。
 「きゃん!」
 一本背負い。
 僕に対して何も警戒していなかった小野塚さんは見事に宙を舞った。
 そして背中から地に落ちる。
 自分で言うのもアレだけど投げたこっちが心配してしまうぐらいに見事に決まってしまった。
 ……大丈夫だろうか?主にこの後の自分。
 「ご苦労様です○○♪」
 そんな事を思っている僕を映姫様は清々しい笑顔で労ってくれた。
 ……きっと相当ストレスが溜まっていたのだろう。
 僕はできるだけ映姫様には逆らわないでおこうと思うのだった。

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最終更新:2010年05月14日 01:10