霊夢29
霊夢悲恋救済ルート改良案(うpろだ1379)
序
各場面に流れるであろうBGMは自己補完でお願いいたします。
元ネタとなった作品とはかなりの違いが見られますが、ご了承
ください。
序終
――霊夢悲恋救済ルート改良案――。
分からない。今の僕には、どうすればいいのか。
私はまだ、諦めてないからな!
魔理沙が去り際に残していった言葉。それが何を意味しているか
は分からない。彼女は僕のために何かと頑張ってくれたが、それを
諦めない、という意味なのだろうか。
何も思いつかない。母親に見捨てられた子犬の気持ちって、丁度
こんな気分なのかもしれないな。
廃屋の中でどのくらい呆然としていたのか。日が沈み、月が顔を
覗かせて夜になったことさえ気がつかなかった。
幻想郷の夜、人が里の外を歩く事はほとんどない。夜は妖怪達の
跋扈する時間、抗う力を持たない人間は成すすべなく喰われる。
早く戻らなければと慌てて廃屋を飛び出したが、そこから先に
進むことはできなかった。
狼のような姿形をした妖怪が絶好の獲物を見つけたとばかりに
息を荒げて待ち構えていたのだから!
まずい、と思った瞬間にそいつは並の人間―つまり、僕だ―なら
反応できないような速度で飛び掛ってきた。一気に間合いを詰められ、
直後に巨大な杭でも打ち込まれたかのような鈍い衝撃が腹部へ走る。
休む間も無く今度は背中全体に激痛が走った。吹き飛んで廃屋に
叩きつけられたのだと分かった瞬間、体の奥から逆流してくる何かを
堪えられずに咳き込んで吐き出してしまう。
血、だ。
内臓をどれかやられたのか。どこか骨が折れて刺さったんだ。
妖怪はそんな僕をなぶるように腕を、肩を、足を、抵抗する力を
僅かも残さぬとばかりに爪を立て、時には殴打し、傷を作る。爪が
皮膚に食い込み引き裂くたびに鮮血が飛び散り、奴の顔を汚した。
もっともこの妖怪にとっては、食事の前の運動の途中でできた
血化粧のようなものなのかもしれないが。
視界がうねり、時に渦巻き、かと思えばゆっくりと元に戻り、
そしてまたうねり出す。意識が朦朧として、体に力が入らない。
このままでは、僕は、こいつに、喰い殺される。逃げようにも
逃げられない。逃げたところで、すぐに追いつかれるのがおちだ。
ここまでなのか。こんな形で僕は死ぬのか。彼女を苦しめて、
悲しませて、魔理沙まで同じ目に遭わせ、妖怪に喰い殺される。
我ながら惨め過ぎるなと思う。
一方でもうどうなってもいい、とも思っている。こんなに惨め
ならば、別にここで終わったって構わない。
妖怪の顔が近づいてくる。いよいよだ。
地獄で閻魔様に思いっきり怒られよう。そして転生する機会も
与えられずに消滅させられても、何も文句はない。
ごめん霊夢、ごめん魔理沙、それと、さようなら。
それだけを思い、目を閉じた。
「やめてぇぇ!!」
「やめろぉぉ!!」
聞き覚えのある二人分の絶叫とともに、目を閉じていても分かる
ほどの眩い光がよぎる。
直後、変な悲鳴とともに妖怪の気配が消えた。吹き飛んだのか。
一つ言える事は、妖怪に喰い殺されなくなった、ということだ。
誰が近づいてくる気配がする。それが誰なのかは、残念ながら
見ることも知ることもできそうにない。瞼を開けるほどの力さえ、
今の僕には残っていないのだから。
あの聞き覚えのある二人分の声だけが耳に入ってくる。物凄く
焦ったような、悲しみに満ちたような、そんな声だ。
「…さ…!…ん!」
「起…ろ!死…な!」
駄目だ。これ以上は、意識が保たない。声が遠ざかり聞こえなく
なっていく。そうして体中の感覚が少しずつ消えて。
闇に全てが遮られた。
ぼやけた視界がゆっくりと輪郭を取り戻していく。薄暗いけれど
完全な闇ではない。状況を把握しようと首だけ動かして分かったのは
今の僕は布団に寝かされ仰向けになった状態だということ。
そしてここは野外ではなく、どこかの人工的な建物だということだ。
木製の天井、格式ある雰囲気。人里の守護者であり賢人の慧音さんの
庵か、または天才薬師永琳さんのいる永遠亭か。
起き上がろうとすると、体全体が軋むように痛んだ。どのくらい
あいつにやられたのかはっきりしないけど、少なくとも体を動かす
のは難しいことがわかる。
そこにからっと襖が開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。
!
いや、誰かなんて曖昧な表現など必要ない。なぜなら入ってきた
人は僕がよく知っている彼女だったから。どんなに薄暗い場所でも
彼女の紅白衣装は目立つので、すぐわかった。
「博麗、さん?」
僕の第一声を聞いた霊夢は何も言わず、いや言えずに立ちつくす。
薄暗いこの部屋の中では表情をうかがい知ることは難しいが、多分
今ここで起こったことが信じられないと言うような表情だろう。
何とか痛みを堪え、上半身だけを起こし彼女に問う。大丈夫だよと
伝えるように。
「ねぇ、そこにいるの博麗さんだよね?」
二度目の問いの後、霊夢はゆっくりとした足取りで僕に近づき、
すぐ隣に立ったあたりで静かに膝を着く。漸く拝むことができた
彼女の表情は、安堵感に溢れていた。
「よかった……目が覚めたんだ」
「ねぇ、一つ聞いてもいいかな」
彼女はうん、と頷いて答える。
「あの時、助けに来てくれたのは博麗さん?」
魔理沙もいたわよ、と霊夢。そうか、二人分の声がしたのは
魔理沙も一緒だったからなんだ。彼女達の力だったら生半かな
実力の妖怪程度、軽く吹き飛ばせるだろう。
「今更かもしれないけどごめんね、心配させてしまって。それと」
ありがとう。
あの時、本当に死んでも構わないと思っていた。これ以上生きる
ことに何の意味があるんだ、と半ばヤケクソで。
でも彼女達は、彼女は、そんな僕を助けてくれた。護ってくれた。
そのことが単純に嬉しい。
●●さん、彼のことを想っているという事実を差し引いても、だ。
「いいの、お礼なんていらない」
妖怪退治は博麗の巫女の仕事だもの。当然のこと、と言うように
答えて彼女の告白は続く。
「それに、謝らなくちゃいけないのは私だから」
「博麗さんが?どうして?」
彼女が僕に謝ることなんて、どこにあるんだろう?謝らなければ
いけないようなことばかりしたのは僕なのに。
「最初に本当のこと、言うわね。私が好きな人は●●、ううん、
●●さんじゃないの……あなたよ。私が、好きな人」
「僕?」
そうよ。わたしはあなたが、○○さんがすき。
彼女のこの言葉が、僕の思考を一瞬で埋め尽くす。確かに彼女は
僕のことを好きだと言った。一瞬夢じゃないかとも思ったが、体に
走っている痛みが皮肉にも現実だと伝えてくれている。
そして、彼女の告白は続けられた。
「それともう一つ、話しておきたいことがあるの」
霊夢から聞かされた話。それは、●●さんと付き合ったのは全て
僕の気を引こうとした彼女の稚拙な作戦。
彼との仲を深めるための相談を持ちかけたのも、前の宴会で彼と
自分の仲が良いことをアピールするため叫んだことも、僕の様子を
伺うためにやったことだと彼女は語った。
「正直言うとね、怖かった。あなたに告白して振られてしまったら
どうしようって。そう思うといつも何も出来なかったから、彼に、
●●さんに無理を言って付き合わせていたの」
それは僕も同じ。あと一歩踏み込みたかったけど、最悪の結果に
なったらと思うとどうしても、どうしても一歩先に進めなくて。
怖かったんだ。
「相談を持ちかけた日、あなたは私に告白しようとしてたでしょ?
それも今日決めた、じゃなくてずっと前から機会を伺っていたんだと
思うの」
「うん……あんな結果になったのは流石にショックだったけど」
「その時からすれ違っていたのね、私達。今日あなたに告白された時
凄く吃驚しちゃった。知らなかったの、私のことを想っていてくれた
なんて、その時は全然」
その時答えられず逃げるように去ったのは、嘘とは言え●●さんと
付き合っていることと、そのことをどう説明したらいいのか、そして
実際僕に告白されたらどう返していいか分からなかったからだろう。
分かるような気はする。あの時のあんな状態で霊夢に本当のことを
いきなり語られたら、僕もうまく答えられるかどうか。
傷だらけの僕の体を労わるように、彼女の手が僕の手に添えられる。
「あなたのこと独りにして逃げちゃったせいで、心だけじゃなくて
体までこんなにぼろぼろに……」
「あ、いや、これは僕の無用心だから。自業自得だよ」
それは嘘じゃなかったから。心はともかく、この大怪我は幻想郷の
夜がどれだけ危険であるかを分かっていながら、油断した僕に責任が
ある。彼女は悪くない。
だけど彼女は続ける。自分を責めるように、罰するように。
「違うの!私が、私がちゃんと本当のことを話さなかったから…っ!
私、が、ぁっ……!」
言葉が喉に詰まってうまく語れない、そんな表現が当てはまる。
さっきまでちゃんと会話できていたのが、嘘のようだ。
…嘘だって?いや、逆じゃないのか?
霊夢は、ここまで何とかしてほんの僅かなきっかけで粉々に砕け
散りそうな平静を保っていたんじゃないか?
その平静を砕こうとしているものは何だ?
罪悪感、だ。僕を苦しめ、傷つけてしまったことへの。
僕の手を握る彼女の小さな手。僅かに痛みを感じる、それ以上に
彼女の自責の念に苛まれた表情が見ていて痛々しい。
普段の暢気な、時に強気なところを見せる普段の彼女からは想像
出来ない、弱々しい表情。
「わ、私っ、あなたが、しっ、死んじゃったらどうしよう、って、
永琳、が、ここにき、来てっ、治療してる間も、すごく不安で、
だ、大丈、ぶ、だ、って聞かされて、も、安心っ、できなくて…!」
大きな赤い瞳に少しずつ涙が溜まる。彼女の理性が限界を訴えて
悲鳴をあげているようにも見えた。
「怖、かったの、っ!あなたが、い、いなくなっちゃうのが、っ!」
必死で搾り出すように彼女は言葉を繋ぐ。爆発寸前の感情を一生
懸命押し留めて。目に溢れた涙が今にも零れ落ちそうになっていた。
「お、願いだか、らっ、死のう、な、んて、思わないで……っ!
も、うこ、れ以上っ、自分のこと、い、苛めな、いで……っ!」
ここから先は言葉にならなかった。霊夢の我慢が限界に達して
目から大粒の涙が零れ、彼女の頬を伝い落ちていく。
その瞬間。
体に衝撃が走り、後ろに倒れそうになるのを何とか堪えてその
原因を調べると、霊夢が僕の胸元にすがりつき顔をうずめていた。
「ごめん、なさい……ごめんなさ、い……っ!」
傷つけちゃって、本当にごめんなさい。
後はもう言葉にならなかった。残り全ての理性を搾り出すように
謝罪の言葉を言い終え、僕の胸の中ですすり泣く霊夢。
霊夢。君をまた泣かせちゃったね。
肩にそっと手を添え、髪を撫でて宥めながら彼女が泣き止むのを
待つことしか、僕に出来ることはなかった。
彼女が泣き止んだのはいつだったか。実際数分と経っていないと
思うが、霊夢の嗚咽が止むまで何時間もかかったような気がする。
「博麗さん、今度は僕の話も聞いてくれる?」
今度は僕の番。もう一度自分の気持ちを、想いを伝えよう。
「正直に話してくれてありがとう。でも僕の気持ちは変わりません。
前にも言った通り僕は君のことが、博麗霊夢さんが好きです」
「どう、して?私、あなたに凄く酷いことをしたのに。嘘をついて
傷つけたのに。それでも私のこと、許してくれるの?」
でも、それは過ぎ去ったこと、終わったことだから。
「どこかで聞いたことがあるんだ。池に小石が投げ込まれて小波が
立っても、終わってしまえば静かなものだって。だから」
もう泣かないで。可愛い顔が台無しになっちゃうから。
「昔の事は気にしません」
これまで辛いことばかりで泣きたくなった、いや実際泣いた。
でも、全てが丸く収まったと思う。終わりよければ全てよし、と
言ったのは誰なのか。いい事を言ったものだと思う。
「ありがとう……」
今度は目に涙が浮かんでいても、表情は確かに笑っていた。
――それから数日後の博麗神社。
両腕の骨折、あばら骨3本にヒビと多量出血。頭は強打された
ものの、脳に異常はなし。
永琳さんの残していった書類に記載されている診療結果をみて
よく生きていたなぁと思わされる。
境内を掃き掃除する霊夢の手はほとんど動いていない。僕が来る
さっきまでは掃除をしていたんだろう。
「完治まであとどのくらいなの?」
3ヶ月だよと答える。まだ両腕が不自由なのは困りものだけど、
2本の足で歩く事はできるのが幸いだ。こうやって、神社でまた
彼女に会うことが出来るから。
しかし両腕が不自由なことがこんなに辛いものだなんて思った
ことはなかった。御飯を食べたり服を着替えたりする当たり前の
ことが、他人の助けを借りなければ満足に出来ないなんて。
霊夢が腕が痛むのと聞いてくる。そんなに痛そうな表情だった
ろうか。確かに今のままでは物を持ったり掴んだりなど問題外だ。
「ぶつけたり素早く動かしたりすると、危ないかな」
「それじゃあ……」
霊夢が僕に抱きついてくる。
「っ!?」
「こうしても、痛む?」
「う、ん。大丈夫、かな」
「じゃあ、もうちょっと……」
ぎゅっと腕に力を入れる霊夢。そしてその直後。
「……大好き」
ささやくような声が耳に入る。できる限りで霊夢をしっかりと
抱きしめ、僕も彼女に伝えた。
「僕も…博麗さ、いや、霊夢のこと、大好きだよ」
まだちょっとぎこちないわね、えい。
う、ま、待って、やっぱり痛いです。
だーめ。もっと自然に霊夢、って呼ばないと許さないから。
傍から見れば只の惚気にしか見えないような光景だけど、僕と
霊夢は抱擁を交わしながら語り合った。今まで足りなかった分を
埋め合わせていくように。
晴れた幻想郷の午前の空はどこまでも蒼く、白い雲がいつもの
ように流れる。
今日も幻想郷は概ね平和です、と言うように。
~ふすまの裏
夜も深まった稗田邸。
「これで全部丸く収まりましたね」
御阿礼の娘九代目にあたる少女阿求は、魔理沙と共にこっそりと
二人の様子を伺っていた。今夜はもう紅茶は飲まないことにしよう。
いつもの三割増の甘さだろうから。
まさかこんな展開になるとはな、とため息をつきながらひとり
ごちる魔理沙。微糖入りコーヒーを何杯となく目の前に出される
気分とは、こんなものなのかもしれない。
霊夢が傷だらけの○○を背負い、血相変えて一部屋貸してほしい
と言われた時は流石の阿求も驚いた。しかし怪我人、それも重体と
なれば一刻を争う状況である。
速やかに部屋と布団を一式用意し、応急処置を可能な限り施した
ところに竹林の薬師永琳を魔理沙が文字通り「引っ張って」現れた。
ところどころ衣服が破れていたのは、それほど急いでいたのだろう。
並の医者では助けられないほどの危険な状態の彼を救うためには、
永琳の助力を借りる必要があった。しかし、彼女のいる永遠亭へ
向かうには妖怪がいるあの竹林を抜けなければならない。
連れて行くには彼の体が時間・移動両方の負担に耐えられない。
竹林は妖怪の危険だけではなく、只の人間が入ると迷ってしまう
厄介な場所で、霊夢達でも迷わない保証はない。
霊夢は応急処置を施すために手近な家、つまり稗田邸へ向かい、
魔理沙は永遠亭へ急行し永琳に手短に状況を説明し、連れて来る。
二人が短時間の間に導き出した結論がこれだった。
幸い、魔理沙は迷わずに済んだようだ。
後は言うまでもないだろう。月の天才に不可能はないのだ。
おめでとうさんだぜ、二人とも。
それは、魔理沙が彼のことを少なからず想っていたこともある
からこそ使えた静かな祝福の言葉。ここで出るは野暮と言うもの、
お邪魔虫は静かにしていよう。
「阿求、今夜は泊まるから私が包まるための布団出してくれよ。
それと、朝御飯も頼んだぜ」
「むっ、魔理沙さんは泥棒家業に飽き足らず他人の家でも我が家の
ように振舞う趣味があるんですか。茣蓙程度なら用意できますが」
少々むくれたように返す阿求。皮肉どころか毒舌である。
「ひどいぜ」
そうは言うものの、少しも悪びれないのが魔理沙だ。紅魔館や
博麗神社でもずかずかと上がり込んでいくのだ、この程度のこと
では堪えないだろう。
……ならば。
「それでも布団が欲しいと仰るのならこの立ち居振る舞い一部始終を
幻想郷縁起に加筆させてもらいますが、構いませんか?」
「わかった、悪かったからそれだけは勘弁してくれ…以前のように
余計な一言で私の誤解が広まったら堪らん」
流石にこれには降参するしかないだろう、以前阿求は魔理沙から
何か一つ項目に追加して欲しい、と言われ幻想郷縁起に泥棒家業の
ことを追加した逸話がある。
「冗談ですよ、今から用意します」
遅れましたが、私からもおめでとうございます。どうかお幸せに。
こうして稗田邸でのそれぞれの一夜は更けていくのだった。
~ふすまの裏、終わり
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新ろだ157
「はぁ…ようやく終わった…」
5人分の洗い物を終え、俺はようやく一息ついた。
幻想郷に迷い込んでから数ヶ月、今はここ博麗神社にお世話になっている。
家主の霊夢とは…その、コイビトドウシ、だ。
幻想郷に迷い込んだ日、妖怪に食われそうになっている俺を助けてくれた、紅白の巫女。
強くて、可愛くて、ふわふわとした霊夢に惹かれるのにそんなに時間は掛からず…
ヘタレの俺は幻想郷住民の協力を得て、霊夢と恋仲になった。一ヶ月くらい前の話か…
あの恥ずかしい告白は思い出しただけでスキマに逃げたくなる。
閑話休題。
幻想郷にも冬の訪れが近く、昼間とはいえ水仕事は中々に辛い。
しかも今回は昼食にお呼ばれ(+勝手に来た)した魔理沙・萃香・アリス含めた
5人分の洗い物、更にあのロリ鬼のおかげで半ば宴会状態になってしまい、
ごちゃごちゃになった居間の片付けもしたので、大分時間が掛かってしまった。
「すぅ…」
霊夢は縁側で静かな寝息を立てていた。傍らには飲みかけのお茶。…ほんとにお茶好きだな。
太陽は出ているが寒空の下、腋巫女服で眠る少女は見ているだけでこっちまで寒くなってくる。
当の霊夢は太陽の光を浴びてすやすやと眠っているが…
時折吹く木枯らしが霊夢のさらさらの髪を撫で、わずかに揺れる。
「すぅすぅ…」
…あー…可愛いなぁ…
「…ん…○○…?」
あ、起きた。目をごしごしするれいむかわいいよれいむ。
「片付け、終わったの?」
まだ眠たそうな霊夢が残っていたお茶に手を取りながら俺に言う。
「起きて第一声がそれかよ…さっき終わったよ」
「ん、じゃ次洗濯物取り込んどいてね」
「…コキ使うなー…」
今は博麗神社に霊夢と二人で暮らしているが、その、なんだ。
俺は現在特に仕事がないので家事全般は俺が行っている。
…NEETじゃないよ?てか霊夢も何もしてない気g(ry
「居候なんだからそれくらいするものよ。にーと、だっけ?にーとなんだから。」
「なッ…!」
違う!俺は…NEETじゃない!どこぞの蓬莱NEETじゃない!
仕事が…仕事が見つからないだけなんだ!!
「にっ、NEETじゃねーよ!いいかぁ!?俺はs「はやくやりなさい」…はい…」
居候は家主に逆らえないZE☆
「…ったく、毎日がこんなだと外に帰りたくなるなー」
「え…」
霊夢に背を向けて何気なく、でも霊夢に聞こえる様に言った、何気ない一言。
いつも通りのジョークで、いつもなら霊夢に軽ーく流されたりするんだが。
ぎゅっ…
「れい、む?」
「…だめ……」
後ろから霊夢に抱きつかれていた。背中に霊夢の鼓動をモロに感じてしまう。
「…いか…ないで……お願い…」
消えてしまいそうな、小さな声。微かに震えているのが分かった。
さっきまでとは別人…と思ってしまうような、俺にしがみ付いている霊夢。
「どう、した?霊夢」
予想外の事に混乱する頭からようやく上擦りながらも言葉が出た。
「…夢を、見たの」
「夢…?さっき寝てた時?」
「うん…○○が、私を置いて…外に…帰っちゃう…夢…」
涙を堪えながら話しているのが、分かった。
俺の体は、考える前に動いていた。
「霊夢っ」
「○○…?んぅっ!?」
霊夢を正面から抱きしめ、その唇を奪う。
いきなりの出来事に霊夢の瞳が大きく見開かれているのが分かった。
「んんっ…はぁっ…あむ…」
しかしすぐに霊夢もキスに没頭する。
互いに、相手の温度を、愛情を、存在を確かめるように唇を奪い合った。
「ぷはぁ…」
先に唇を離したのは俺の方だった。
霊夢を見る目と顔が赤い。…やっぱり泣いてたのか…。
「はぁ、はぁ…霊夢…っ!俺が、霊夢を置いて何処かに行くわけないだろ…っ」
「ふぅ、ふぅ…○○…だって…」
霊夢の目にまた涙が溜まっていく。
「ずっと、霊夢の傍にいる。約束する。」
「○○…」
霊夢の細い体をぎゅっと抱きしめる。
もう離さない、と言わんばかりに。言葉にした「約束」を体言するように。
「うん…ずっと…傍にいて…○○…」
目は真っ赤だったが、霊夢はやっと笑ってくれた。
「ね…キス…」
「ん…霊夢が不安ならいくらでもするぞ」
「不安じゃないとだめなの?」
「勿論いつでもOKだ」
「ふふっ…んっ…」
俺と霊夢は再び唇を重ねた。
翌日以降、霊夢はすっかり元の霊夢に戻っていた。
相変わらず俺をこき使っているが、それがニュートラルみたいなものなので、安心した。
変わったことと言えば、そう…キスをおねだりするようになったこと…か。
今までの霊夢はそんなことなかったので、ちょっと驚きだ。
「○○」
「ん、霊夢か。掃除は今終わったぞ」
「ありがと…ねえ…?」
ああ、ほらきましたよ。こんな感じですよ皆さん。
目とか潤ませちゃって、もう辛抱堪らないんですよ!
「キスしたいんだよなー…?」
「う、うn…んんっ…」
言い終わる前にその鮮やかな唇を塞いでしまう。
こうなったらもう10分は終わらない。
「ん…霊夢…愛してるぜ」
「ぷはっ…○○、私も…愛してる…ちゅっ…」
ああ、幸せだぜ、俺達…
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新ろだ186
今年も終わりに近づいた師走。
幻想郷の博麗神社では早めの大掃除が行われていた。
裏手にある蔵では○○と霊夢が物を退かしながら埃をはたいていた。
「しかしいろんなものがあるな」
「使わないものばっかだけどね」
「ねぇこれ何?」
「ああそれは……」
物珍しいものばかりで逐一○○が霊夢に説明を求めるので一向に作業が進まない。
結局夕暮れになっても半分も片付いていないのである。
「あーもう、○○が説明ばっか求めるから掃除が進まなかったじゃない!」
「ごめん。でもさ、あるよね。捨てようと思った本を読み始めてしまって結局捨てられないことって」
「まあ確かにあるけどね……あれ」
「どうしたの?」
「扉が閉まってる……」
霊夢が扉を開けようと力を入れて押しても扉はピクリともしない。
○○が代わりに押したり引いたりしても変わらない。
「うそ……閉じ込められた? 何でー!」
「うわぁ……何かベタな展開だなー」
焦る霊夢にのんびりしている○○。
「ずいぶんと余裕ね」
「だって霊夢扉開けたままでしょ?」
「ええ、閉めた覚えはないわ」
「じゃあ外から誰かが閉めた。そうとしか考えられない。で、そういう悪戯をする人は山ほどいるでしょ?」
「……あんたも十分この世界に馴染んできたわね」
「じゃないとやってられませんから」
○○は奥に戻り毛布を見つけてきた。少しほこり臭いが文句は言えない。
一枚を床に引いてポケットに入っていた食べかけのチョコレートを半分ずつにして夕食代わりにした。
完全に日も落ちて明かりとりの窓から月の光が差し込んでいる中、二人は毛布に包まって寒さをしのいでいた。
身を切るような寒さで床に引いた毛布ごしに熱を奪われていく。
○○も寒いだろうが彼は霊夢を気遣っていた。
「霊夢、寒くない?」
「寒い……」
「じゃもっとこっち来なよ」
「……変なことしない?」
「何さ変なことって」
「そうね、○○にそんな度胸ないわよね」
「酷い言われようだなぁ」
寄り添ってきた霊夢は体を震わせていた。
○○は彼女を抱きしめるとお互いを毛布で
くるみそのまま横になった。
「きゃっ!?」
「こうすれば暖かいよ」
「ん……」
スキマ風が入らぬようぴったりと体をくっつける。
○○の身体の熱がゆっくりと霊夢に馴染んでいく。
それによって体の震えも治まってきている。
「○○、体温高いのね」
「んー、普通は女性の方が高めだけどね」
「そうなんだ……。ねぇ○○はさ、こうやって誰かと眠ったことはある?」
「女性は母さんを除けば霊夢が初めてかな」
「私は今回が初めて。今まで一緒に眠るなんてことなかったから」
「そうか。でどうだい? 誰かと眠るのは」
「何だか満たされる。○○の温かさが感じられて」
「……もっと強く抱きしめてもいい?」
「うん」
とくんとくんと互いの鼓動が相手に伝わる。
暖かな吐息が心地よい。
ぽかぽかと体が温まるにつれて眠気がやってくる。
「……霊夢の身体、温かくて柔らかくて気持ちいい……」
「なにいいだすのよぉ、えっちぃ……」
「そんなつもりはないよ……ただ本当のことを言っただけだよ……」
「そう……なら……信じる……」
夢うつつの中だんだんと会話が途切れ、瞼が降りてきて二人はお互いの温かさに包まれて眠りについた。
次の日、○○は窓から差し込む光によって目が覚めた。
冬の朝の冷たい空気を吸い込み、頭の中をはっきりさせる。
まだ霊夢は○○の腕の中で眠りについている。
優しく霊夢の身体をゆすると目を擦りながら彼女は目を覚ました。
「……うにゅ、おはよぅ……」
「おはよう」
「……寒い」
「ちょっと、れ、霊夢?」
「……うにゅう、あったかぁい……○○のにおいだぁ……」
寝ぼけているのか○○に身体を押し付け安心したようにまた眠ってしまう霊夢。
結局ちゃんと目を覚ますのにしばらく時間がかかってしまった。
ちょっとした失態を見せてしまった霊夢は若干頬が桜色に染まっている。
相変わらず扉は閉まったままで霊夢はため息をついた。
「しょうがないわね。○○危ないから離れていて」
○○が扉から十分距離を離したのを確認すると一枚のカードを取り出した。
「夢想封印!!」
いくつもの光球が扉に着弾して轟音と共に扉が吹き飛んだ。
「……何で昨日そうやって開けなかったのさ」
「誰が扉を直すのよ。最終手段として使ったの。はぁ……修理にどれ位かかるかしら……」
憂鬱な表情を浮かべる霊夢を伴い蔵から出るとそこにはすっごく不満げな顔をした紫がいた。
何故蔵の前でそんな顔をしているのか分からないので○○は彼女に話しかけた。
「えーと、紫さん? 何故ここに?」
「……つまらない」
「はぁ?」
いきなり脈絡のないことを言われて○○は呆けた顔になる。
「なによなによ! せっかく蔵の中に閉じ込めて二人が若さに任せていやーんあはーんなことすると思ったらただ抱きしめて眠っただけ!?
どんだけ紳士なの!? ヘタレ!? それとも不能なの!? ○○のチキン! 朴念仁! ED!」
「なっ!? やっぱりアンタだったのね! 勝手に蔵の扉閉めたの!」
「霊夢も霊夢よ! その巫女服は何のためにあるのよ! ○○を欲情させなさいよ! その腋で○○を誘惑しなさいよ! 襲いかかる位の解消見せなさいよ! この貧乏巫女!!」
「あ、あんたねぇ……っ!」
「ふーんだ! 仲良く掃除なんかしているんじゃないわよー! ばーかばーか!!」
言いたいことを言いきるとさっさとスキマの中に消えて行ってしまった。
あっけにとられている二人に落ち着いた、しかしどこか疲れている声がかけられた。
「すまないな。紫様が勝手なことして……」
そこには彼女の式である八雲藍がいた。
「いえ、確かに今日の紫はあまりにアグレッシブでしたけど……何かあったんですか?」
「昨日、マヨヒガの大掃除をしていたんだが紫様に邪魔だからどこか遊びに行っていてくれって言ってしまって、すっかりヘソを曲げてしまってな」
「まったく、それで人のところまで来て嫌がらせって……」
「本当にすまない……お詫びと言ってはなんだが朝食と風呂を沸かしておいた。どちらを先に使ってもかまわないのでゆっくり疲れを落としてくれ。
私は蔵の扉の修理をしているから」
「ありがとう。藍さん」
「後で紫に覚えておくようにって伝えておいて」
神社にあがり○○は霊夢に声をかけた。
「で、先にどっちにする?」
「そうね……ご飯もいいけど先にお風呂入りたいわ」
「そう、じゃ……よっと」
「きゃっ!? な、何するの!?」
○○は霊夢を抱き上げ落とさないようしっかりと腕に力を込める。
「さっき紫にボロクソに言われたから、決して不能じゃないことを証明しようと」
「えっ!? ええっ!? そ、そんないきなり……わ、私は気にしてないし」
「んー、ぶっちゃけると霊夢の身体柔らかすぎて抑えるのが精いっぱいだったんでこれから風呂でじっくり堪能しようかと」
「……そ、そう? ならいいわ、よ……」
首に腕を絡め全てを○○に預けた霊夢を○○は風呂場に運んでいった。
「くふふ……やっぱり抑えきれなかったのね。男の子ねー。じゃあさっそく出歯亀を……」
「紫様、いいかげんにしてください。さ、扉直すの手伝ってもらいますからね」
「いやー! 藍離しなさーい!! 二人の睦みを覗くのよー!!」
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最終更新:2010年05月14日 01:12