霊夢30



―幻想郷小異変・霊夢と紫の衣装取り替えっこ?―(新ろだ216)






















 ・Prologue ~博麗神社の天岩戸を開け放ったのは誰?~





















 ここの所ずっと忙しかった。おかげで結構な稼ぎにはなったけど、
同時に博麗神社への訪問頻度が減ってしまったのも事実。そろそろ
顔を出さないと、霊夢がむくれるかもしれない。

 いつものお遣いのため『ブラックボックス』に普段の三割増しで
届け物を詰め込み、賽銭箱に入れる賽銭も三割増で用意して博麗神社
へと向かう。

 何時もの獣道を通り、長い階段を昇って見慣れた境内へ。彼女の
ことだから、今頃掃除を終えてお茶を飲みながらまったりしている
ことだろう……

 うん?

 おかしい。境内の様子をぱっと見ただけでもおかしいとわかる。

 まず掃き掃除が行われた痕跡が無い。霊夢はやることはきちんと
やる娘、それは僕が良く分かっている。彼女が掃き掃除を失念する
ことなどまずありえない。

 ところが今はどうだ?掃除された跡が、それらしい痕跡がない。
異変が起きて外出中?いや、それはない。そうなら慧音様が気づく
はずだし、ここに来るまで見た妖精達に何らかの変化があるはずだ。

 それに、分かる。彼女は、ここにいるはずだ。

 軽く霊夢、いるー?と呼んでみる。いきなり上がりこむのは流石に
失礼だ。いなかったらいなかったでしかたが無い、縁側で待たせて
もらおう…

 彼女の返答を待つも、全然返事がない。もう一度呼んでみよう。

「霊夢ー?僕だよ、慧音様の御遣いで来たんだけどー」

 この呼びかけから僅かな間をおいて、聞き覚えのある彼女の声が
聞こえた。

「……いるわよ」

 どうしたんだろう、気持ち声が弱々しい感じがする。

 もしかして風邪?可能性は零ではないだろう。風邪をひいて奥に
引っ込んでいることも十分考えられることだ。

「ううん、風邪はひいてない。大丈夫」

 風邪を引いていないのならば、どうして出てこないんだろう。
肌寒くなってきた、なんて言えるような時節でもないし…こんな
奥に篭りたがる霊夢は初めてだ。

「ね、ねぇ、そ、その辺に誰かいる?」

 やっぱり変だな。いつもの霊夢って感じがしない。どこか怯えた
感じの声など、発したことは無かったと思う。周囲を極端なまでに
警戒したようなことだって無かった。

「誰もいない、ね。誰もいない」

 これは本当だ。鴉天狗の文が記事になりそうな話題を求めてやって
来るのは珍しいことではないが、いればそれなりに気配がするはずだ。
高確率で遊びに来る魔理沙が接近している感じも無い。

 もっとも、境界を弄れる紫さんや霧状になれる萃香だとお手上げ
なのだけど。こうなってしまえば、気配も何もあったものではない。

 よほどの事でもない限り、人目を気にすることなどまず考えにくい
霊夢だ。何かあったのかもしれないな。

 霊夢、入ってもいい?と聞くとすぅと襖が開いた。しかし彼女の
姿は見えず、声だけが聞こえる。

「入ったらすぐ閉じるからね」

 ますます不自然さを感じる。そうまでして見せたくないものでも
あるのだろうか。このままだと何も分からないので、ここは彼女に
従って中に入ったほうがいいだろう。

 お邪魔しますと一言挨拶して、僕一人が何とか入れるほどの隙間
から中に入る。何歩か踏み込んだ時、これ以上開けていられないと
言うかのように勢いよく襖が閉じる。音はほとんど聞こえなかった。

 霊夢、と彼女の名前を呼ぶと後ろから静かにしてと声が聞こえる。

「ねぇ、今から何を見ても笑ったりしないって自信を持って言える?」

 笑う?哂う、のほうかもしれない。見られることで哂われるほどの
何かがあるのか。だからこんなに周囲に対して警戒しているんだろうか。
今ここに、それがある?そしてそれを僕が見たら哂うかもしれない?

 だけど。はっきりと言う。彼女に伝える。

「しないよ。哂ったりなんか、しない」

 じゃあ、ゆっくり後ろを向いてと言う声の通りに、後ろを向く。



 はっきりと感じる違和感。僕の目の前に存在しているのは見慣れた
いつもの紅白衣装ではなく、紫色を基調とした紫さんが普段着ている
洋服。

 そしてあの紅白リボンもなく、あのふわふわした感じの帽子に細く
赤いリボンが、前面で蝶結びになっている。どうみても紫さんの衣装
だろう。

 だけど。この衣装を着ているのは間違いなく霊夢。僕のよく知る
博麗神社の巫女、霊夢だ。

 俯いた彼女の表情を伺い知ることはできないが、ぎゅっと握られた
手から不安な感じは伝わってくる。笑うことも哂うこともできない、
でもどう返したらいいかも思いつかない状態だ。

 えーと。

 こういう時はどう言うべきなんだろう。うーん、そうだなぁ。

「イメージ、チェンジ?」

 おそらくこの時の僕の表情を見た人は誰でも間抜け面、と言った
だろう。自分でもそんな感じが良く分かる。

 霊夢はまだ俯いたままだ、まずいことを言っちゃっただろうか。

「はぁ~、思いっきり気疲れしたわ…」

 ぺたん、と両の手を畳につけて幾分か気の抜けた声が聞こえた。







「え?紫さんにスペルカード戦で負けてこうなった?」

 当時のことを思い出したか、そうなのよ…と沈んだ表情で答える。
霊夢は僅かに間をおき、紫さんの洋服を着ている理由を語り始めた。

 始まりは霊夢の元に紫さんが現れ、スペルカード戦をしようと
言い出したことから。霊夢は気が乗らなかったので適当にあしらい
帰らせようとしたのだが、いつになく紫さんが強請るので

「しょうがないわね。さっさと終わらせるわよ」

 この時折れたのは間違いだったと霊夢。

 スペルカード戦をする前に紫さんは『敗者は勝者の言うことを
何でも聞く』と提案(勿論この場限りのものだが)、霊夢もこれに
応じてスペルカード戦が始まった。

 その結果、霊夢は豪快に負けた。それはもう、気を失うほどに。
スペルカード戦の制約で本来の力を大分抑えているとは言えども、
紫さんと霊夢の実力差は明白。

 分かっていてやる辺り、計画性は相当だな。

 覚醒した霊夢に紫さんは、こう言ったらしい。

「霊夢、一週間あなたと私の衣装を取り替えっこしましょ♪」

 まず自分の着ている服が紫さんのそれとしっかり替えられており、
箪笥の中にある予備の服も全て取り替えられ、おかげで箪笥の中は
紫一色に染まってしまったのだとか。

 寸法までぴったり合わせてあったの、と悔しさ半分、情けなさ
半分といった表情で説明される。うーん、確かにだぶついた感じが
しなければ、きつ過ぎるという感じもしない。

 本当に、ぴったりという表現が相応しい。

 更に痛いのは霊夢の象徴とも呼べる紅白のリボンも、予備を含め
全部持っていかれたらしい。徹底しているなぁ。褒めるべき所じゃ
無いのは分かっているけれど。

 妖怪は元来悪戯好きなのよ、と言っていたのは紫さん本人である。
さっきも言ったが、相当計画的だなぁ。一度やると決めたら徹底的に
やりぬく、のだろうか。能力を無駄遣いしているような気がする。

 それでどうして閉じ篭っていたか、については鴉天狗の文に今の
自分の姿を見られれば面白おかしく(本人にとっては迷惑)脚色、誇張
表現されて号外で幻想郷中に言いふらされることが確定だからだとか
(ところで萃香が霧になって覗き見、とかは考えなかったんだろうか)。

 あれこれ考えて、その一週間を引篭もることで何とか乗り切ろうと
したら、そこに運良くというべきなのか悪くと言うべきなのか。僕が
来た。

 招き入れたのは賽銭はいつも入れてくれるし、魔理沙とかと違って
図々しいところもないし、慧音のお遣いで来ているからと彼女は語る。
魔理沙、何気に扱いが酷いな。

 ここの部分は捉え方を変えれば、僕は霊夢にそれなりの信頼はされて
いるんだということだろうか。何だか誇らしくもなるが、現在の霊夢の
問題は他者からして見れば笑い話、本人にとっては深刻な問題。

 どうにかして助けてあげたいんだけど、どうしよう。

 でもこうやって改めて霊夢の姿を見ていると、何だかんだ言って
よく似合っていると思う。彼女が可笑しいと思い込んでいるだけじゃ
ないのかな、とも思わされる。

 これは一種のゲームなんだと割り切って付き合ってみるのも一考。
紫さんが何を目論んでいるのかはさっぱりだけど、それならそれで
楽しんでみようか。

 ねぇ霊夢、こんなこと僕が言うのも何だけどさと話を切り出す。

「こんな状況だけど、逆に考えてみると言うのはどうかな?」

 逆?と小首を傾げて聞いてくる彼女にたった今思いついたことを
説明する。今の霊夢の服装は結構似合っていること、そしてこの姿を
みんなに見せることで見慣れてもらえば、気にならなくなるはずだと。

 僕の提案にええっ、と当然と言えば当然な反応を示す霊夢。普段
着ない服装なのだから、見られるのにはかなりの抵抗感があるだろう。

 大丈夫だよ、僕も一緒だから。みんなが哂っても、僕は哂ったり
なんかしないよと彼女を安心させるためにその手を軽く握る。

 大丈夫、大丈夫だよと伝えるように。

 うーん、と結構長い時間考えた末におずおずと僕の手を握り返し

「信じてもいいのね」

 と念を押してくる。勿論だよと返し、こう答えた。

「だってさ、霊夢がこの姿を僕に見せたってことは信じてくれて
いるってことだよね、僕のこと。だったら応えるよ、君の信頼に」

「…っ!」

 うん?僕何かおかしなこと言ったかな?

「時々、凄く恥ずかしい台詞を臆面もなく言っちゃうことができる
その天然振りが今は羨ましいわ…」

 う、うーん。そうなのかな?思ったことをそのまま口にしただけ
なのになぁ。
 確かに慧音様からもお前は時々大胆なことを言ったり核心を突く
ようなことを言う、普段はそんな感じを少しも見せずにマイペース
を地で行く人間だがな、と言われたことはあったけど。

 まぁ、霊夢が元気になったのならそれでいいのかもしれない。

「じゃあさ、最初は人里に行こうか。慧音様たちもいることだし」
「湖の氷精とかよりはずっとましかもしれないわね」

 ばさりと言う音と共に日傘が開かれる。毒を喰らわば皿までと
言うけどこうなったら皿ごと毒を喰らってやるわ、と半ばヤケな
感じで霊夢が呟いていた。

 何もそこまでしなくても…飽くまでもこれはゲームの一種なのに。

「行こう、霊夢」
「…当然だけど徒歩でね」

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新ろだ242


「今年ももう終わりだね」
「そうね」

 向かい側に座っている霊夢はみかんを剥きながらそう答える。

「最初は右も左も分からなかったけど霊夢に見つけてもらえてほんとよかった」
「居候が増えて困ったけどね」

 そういう霊夢も笑顔なので決して嫌味で言っている訳じゃないらしい。
 ちなみにもう一人の居候は勇儀と年忘れに行っているそうだ。

「今じゃ萃香も含めて家族みたいなものだよね」
「そうねー……ってちがーう!!」

 どかーんと霊夢が噴火した! ななな、何だ!? 俺おかしなこといったか!?

「あんた、私が手を出しやすいようにいろいろ誘惑してるのに何でスルーばっかりするのよ!」
「ええっ!? あれらみんなそうだったの!?」
「気づきなさいよ! この朴念仁!」

 霊夢の怒りは有頂天、じゃなかった、怒髪天をついたらしくバンバンとこたつの天蓋を叩く。

「い、いや、その、ね? 結構ヤバかった時もあったよ? けど、その都度手を出して嫌われちゃったら嫌だな~って思っていたらいつの間にか賢者に……」
「ようするに意気地なしってことね」
「はい、そうです。ヘタレです。チキンです。甲斐性なしです」
「……私そんなに魅力ないかな?」
「そそそ、そんなことない! 霊夢は可愛いよ! 俺にはもったいないくらい!」

 わたわたと弁解する自分が情けない。かぁっと頭と顔に血が昇っていくのが分かる。
 そんな俺を見て霊夢は安心したような、でもどこか呆れた表情を浮かべていた。

「ま、私をちゃんと彼女と見てくれていることには感謝するわ」
「心配させたなら謝るよ」
「ん……それじゃ意気地なしさんにプレゼント」

 霊夢はこたつから出ると回り込んで俺の脚の上に跨った。
 凄く近くに霊夢の顔があってどきどきするのとまつ毛が長いことに気が付いた。

「○○が何しても私は拒まない。だから貴方が好きなようにして」

 こちらを真剣な表情で見つめてくる霊夢。
 女の子にここまで言わせる自分に情けなくなってくる。それでも何もしなければそれこそ最低だ。
 緊張で手が震えているのが分かるがそれでもしっかりと霊夢の肩を掴む。
 目をつぶってくれた霊夢に自分の唇を重ねる。

「ん……」

 触れるだけの軽いキスを繰り返すたびに心の中に熱いものがこみあげてくる。
 もっと、もっと、霊夢を感じていたい。
 肩から手を離して背に腕を回してきつく抱きしめる。

「ん、ちゅ……ちゅ……」

 俺の思いは伝わっているのか不安になったが杞憂に終わった。
 霊夢も俺の背に腕を回して身体を密着させてくる。
 だんだんとキスも激しくなり、淫らな水音も混じりだす。

「んっ……ちゅ、ちゅぱっ、ふ、んん……んぁ……ちゅ、もっとぉ……ふぁ、んん」

 愛しい。霊夢の何もかもが愛しい。
 そんな思いに支配されて知らず知らず腋から手を入れる。

「ふぁっ……優しくして……」

 手の中に吸いついてくる白磁色の膨らみを丁寧に捏ねあげる。
 しっとりとしているそれはサラシを巻いていないので直に霊夢の温かさを感じられる。

「ん……ぁっ、あんっ、そう、そこが……いいっ」

 桜色の実を指の腹で押しつぶし、こりこりと動かすと霊夢の身体がびくんと跳ねた。

「んっ……ふぁ、ぁっ……んくっ、……っ」

 時折涙が眼尻に浮かぶが痛くて流れてきているわけではないらしい。
 両手が塞がっているので唇で霊夢の涙を拭う。
 そんな俺を霊夢は優しく微笑んで見つめてくれる。

「はぁ……んっ、むぅ、ちゅううっ、じゅるっ……ぷあっ、はぁはぁ」

 胸と唇を愛し続け、そろそろ霊夢も限界に来ているらしく身体が震えている。
 俺もそろそろ限界に近い。

「ぁ……ダメっ、もうっ……○○お願い……我慢できない……っ」

 霊夢の濡れた瞳に見つめられて俺は……















「えへへ♪ もらっちゃったもらっちゃった♪ ○○のはじめてもらっちゃった♪」
「霊夢もはじめてじゃないか」
「いや?」
「そんなことは無いけど……」
「ならいいじゃない♪」

 あの後こたつでにゃんにゃんしてしまい、後片付けを終え今霊夢は上機嫌で俺の股の間に座っている。
 ……やっぱり女の子って柔らかくて華奢っぽいけどちゃんと男を受け止めることができるんだな。
 大きなリボンをした霊夢の頭を撫でてあげると嬉しそうに俺にもたれかかってくる。
 幸せな時間が流れていき、除夜の鐘が聞こえてきた。

「あけましておめでとう。今年もよろしくね、○○」
「ああ、霊夢も」

 何度も交わったせいか大きな欠伸が出て無償に眠い。
 そろそろ床につくか。

「俺、そろそろ寝るよ。霊夢は?」
「私も一緒に寝る」
「じゃ抱っこしてあげる」
「うん♪」

 軽々と霊夢を抱き上げ、首に腕をかけて満面の笑みを浮かべる霊夢を連れて俺は寝室に向かった。

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新ろだ305


「ねーお祭り行こうよー」

 ○○の突然の提案に呆れる霊夢。

「何いきなり言い出すのよ。うちの例大祭はまだ先よ」
「そうじゃなくてさ、里の方でお祭りがあるんだよ。そっちに行ってみようよ」
「なんでわざわざ里の方までお祭りに行くのよ? うちでもやるじゃない」
「だって博麗神社例大祭じゃ霊夢は巫女の仕事につきっきりで一緒に回れないじゃない。俺は霊夢と一緒にお祭り楽しみたいの」

 そう答えると霊夢はしばらく考え込んで仕方ないといった感じでため息をついた。

「……はぁ、わかったわ。でいつからお祭りはやるの?」
「今日」
「今日!?」
「ん、だから急いで帰って来た。こっちはもう準備できてるよ」
「ま、待ちなさいよ! わ、私は準備があるから○○は先に行ってて!」
「りょうかーい」

 ○○が出て行ったあと霊夢は自室に戻り、着替えを始めた。






「んー遅いなー、霊夢。なにしてるんだろ?」

 祭り会場の入り口でそう零す○○。例大祭ほどではないが人が多い。
 ○○は人通りの邪魔にならないよう道の端にいた。
 そんな彼に声をかける少女がいた。

「おっす。○○もお祭りに来たのか?」

 その声がした方を見ると三角帽に白黒のエプロンドレスを着た金髪の少女が片手をあげて笑顔でこちらを見ていた。

「やぁ。魔理沙もお祭りに遊びに来てたんだ」
「まぁな。祭りと聞いて参加しないわけがないぜ」
「魔理沙は騒ぐことが好きだからね」
「おぅ。弾幕も祭りもパワーが大事だと私は考えるからな」

 そう話をしながら盛り上がっていると会場から反対側から霊夢がやってきた。
 いつもの巫女服ではなく、女の子らしい浴衣姿をしていた。
 ぽかんと口を開けたままになっている○○に霊夢はちょっと不機嫌そうな声で呼びかけた。

「ちょっと、何とか言いなさいよ」
「……うぇっ!? あ、ええと、その……」

 普段の姿からは想像できないことからくるギャップのせいで上手く喋ることのできない○○に変わって魔理沙が受け答える。

「へぇ、浴衣なんて持っていたんだな。馬子にも衣装とはよく言ったもんだぜ」
「な、なんですってぇ~!」
「おぉ! 怒った怒った。それでこそ霊夢だな。じゃ待ち人も来たことだし早く回ろうぜ!」

 もう待ちきれないといった感じで魔理沙は出店に向かって走り出す。
 慌てて○○と霊夢は魔理沙を追いかけるが○○の心は未だどきどきが治まらなかった。





 りんご飴、綿菓子、べっこう飴、焼きそば、たこ焼きと縁日の定番のものを食べ、射的、金魚すくい、輪投げにヨーヨ釣りとまさに全力といっていいくらいに出店を回った。
 そんな中ひとつの出店の前で三人は足を止めた。出し物はひもくじなのだが店員が見知った顔なのだ。

「何してるんですか、お二人とも」
「あ、○○いらっしゃーい」
「魔理沙と霊夢もいらっしゃい。どうだい? 一回引いていかないか?」

 その店員とは神奈子、諏訪子の神様コンビだった。

「何よ、お賽銭だけじゃ食べていけないからこんなところで店出してるの?」
「まさか。暇を持て余していたところに里の方で縁日があるって早苗が言うから、ちょっと出張っているのさ」
「でも、その早苗はどこに行っているんだ?」
「早苗はにとりと椛に連れられて屋台を回っているよ。で、一回くらい引いていきなよー。神様のご利益があるくじだからいいもの当たるかもよ~?」
「よーし、じゃ私が引かせてもらうぜ!」

 小銭を渡して魔理沙は神妙な顔をして束になったひもを物色するとその中の一つを掴んで力強く引っ張った。

「よっしゃ! 手ごたえあり!」

 自信満々な魔理沙だったが景品の群れの中から浮いてきたのはショボいブリキのオモチャだった。

「ざんねーん。はい、チキチキゼミね」
「うう……もう一回! もう一回やらせてくれ!!」
「あいよ、まいどあり~」

 その後何度も繰り返しても縁日名物のショボいものばかりが浮いてくる。
 ついに魔理沙の所持金も尽きてしまった。

「またまたざんねーん。シガレットチョコ当たり」
「うぅ……これいいものなんか繋がっていないだろう……」
「いや、繋がっているよ。ただ日頃の行いが悪いと引きも悪くなるんだ。神様が管理しているからな」

 ニヤニヤとしょぼくれた魔理沙を見る神奈子。まぁ常日頃の行いとしては魔理沙は褒められたことはしていないだろう。
 霊夢にもくじを進めた諏訪子だが、霊夢は興味がないようで魔理沙の一喜一憂するさまを眺めていただけだった。
 落ち込んだ魔理沙を慰めるため霊夢は何か他に面白いものがないか見てくると言って人ごみの中に紛れていったがここにいてもヘコむだけだと魔理沙も霊夢の後に続いていった。
 一応集合場所は決めてあるので逸れても心配はないのだが○○はひもくじの前から動かなかった。

「ん? ○○も引くかい?」
「それじゃ一回引かせてもらおうかな」
「あいよ」

 代金を払って○○はひもを引く。するすると下げられたひもの変わりに上がってきたものは小さな小箱だった。
 その小箱を受け取ると中には銀色に輝く指輪が入っていた。

「おー。それを引いたんだ。たぶんうちで一番いいものだよ」
「え? これおもちゃじゃないの?」
「私が直々に原石から削り上げたものさ。暇つぶしに作ったものだけどしまってあるだけじゃもったいないだけだからな」
「ん、それじゃ貰っておくよ」

 指輪をポケットにしまうと○○は雑踏の中に消えていった。





 集合場所に決めたところには霊夢だけが待っていた。

「魔理沙は?」
「アリスを見つけてタカリに行ったわよ。まだ遊び足りないらしいから」

 魔理沙らしいと苦笑する。人通りより少し離れた場所なので出店から聞こえてくる声や祭囃子よりも虫の鳴き声の方が大きく聞こえてくる。
 月明かりの中、しばらく無言になり○○は静かに口を開いた。

「何だか昔を思い出すよ」
「昔って?」
「小さい頃さ、縁日で一人の女の子と出会ったんだ。大きなリボンをしてた長い黒髪の女の子」
「あ、私もある。あまり見かけない服を着てた。ちょうど今の○○みたいな」
「「…………」」
「もしかして、昔会ってたかもしれない?」
「そうね……あ、たしかその子に指輪を貰ったわ」
「……完全に俺だ」

 二人は過去を思い出す。


 ◇  ◇  ◇


 幼い頃○○は縁日を楽しみにしていたが約束していた友達が用事で遊べなくなってしまい一人で縁日を回っていた時のこと。
 神社の狛犬の像の傍に一人の少女を見つけた。
 若干時代が違うような着物を着てつまらなそうに周りを見ていた。
 気がつくと○○は少女の前に来て手を差し伸べていた。

「一緒に見て回らない?」
「……うん」

 少女の手を握り縁日を回る。小さな神社のはずだったがどこまで行っても終わりが見えない。
 周りの人々も尻尾があったり、獣耳が生えてる人が多くなっていた。しかしそんな周りの変化より少女がさっきより表情豊かに笑ってくれる方が○○ には嬉しかった。
 楽しい時間はあっという間にすぎ祭りも終わりに近づいた時、○○は少女に縁日で買ったおもちゃの指輪をあげた。また会えるように、今度は友達を連れてくるからみんなで遊ぼうと約束して。
 さよなら、また明日と言って別れた時、少し彼女の顔に悲しげな表情が浮かんでいたが○○は特に気にすることはなかった。
 後日、何度も神社に通ったが、あの少女が姿を現すこともなく、○○もあのどこか幻想的な少女のことを忘れていった……


 ◇  ◇  ◇


「あの時の子、やっぱり霊夢だったんだ」
「昔から結構強引だったよね。私の手を握りしめて連れ回すんだもの」
「だって、そうでもしなけりゃそのまま消えてしまいそうだったんだもの」

 祭りの締めとして花火が上がる。空に咲く大輪の花の光に照らされた霊夢はすごく綺麗に映る。

「霊夢は変わらないね。あの頃と何にも」
「○○は変わったわ。背も大きくなったし、顔つきも大人らしくなった」

 周りは花火に夢中で見つめ合う二人には気にも留めていない。
 ○○はそっと霊夢を抱き寄せるとポケットから指輪を取り出して霊夢の薬指にはめた。

「また指輪をくれるの? 再会のお祝い?」
「いや、違うよ。今度はずっと霊夢と一緒にいたいから。もう別れたくないから」

 ぎゅっと彼女の身体を抱きしめて耳元で囁く。

「絶対に離さない。さよならなんて言わない。また明日っても言わない。霊夢の傍にずっといるよ。また会えなくなったりしないように」
「ん……」

 花火の音が何処か遠くに聞こえる。お互いの身体にとくん、とくんと伝わる心臓の音の方がよほど大きく聞こえた。





 からころと下駄の音を立てながら二人は神社への道を歩いていた。
 川べりにホタルが舞いその明かりを見ながら家路に向かう。

「今度はうちの神社の例大祭が近いわね」
「でも霊夢は巫女としていろいろやるから今日みたいには出歩けないよね」
「そうね。でも今回はちょっとやる気出てきたから。○○、私の舞見ててくれる?」
「うん、今までも見てきたけど凛々しくて素敵だったよ」
「もっとすごいものにしてみせるから楽しみにしてなさいよ」

 絡めた指にきらりと銀の指輪が光る。
 時折その繋いだ手を嬉しそうに眺める霊夢。
 まだ幻想郷の夏は終わりそうもない。

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新ろだ353


「おーい、邪魔するぜー」
呼びかけても返事はなく、勝手にあがらせてもらうことに
家の中を歩き回る
境内にはいなかったし、出掛けてる感じでもなし
廊下を歩いていると、ガラス戸が曇っているのが見えた
確かここは
戸をあける
そこにはヤドカリのように、炬燵を背負って寝ている霊夢がいた

「おーい、風邪引くぞー」
頬をつついてみるが反応はない・・・やらかいな
「起きろコラ」
耳に息を吹きかけてみる
少しぴくっと動いたようだが、起きない
「霊夢さーん、起きてくださーい、悪戯しちゃいますよー」

唇を触ってみた
指には柔らかい感触、込めた力に比例して歪む唇の形が何とも
「・・・ほんとに起きねーな」
耳たぶを噛んでみた
「んっ」
霊夢の声に驚いて飛び退く
起きる気配はない
「・・・この状況は・・・すごく興奮するっ」
調子に乗ってみることにする
服の下に手を差し込む
「さらし巻いてんのか、そんなに胸ないだろ」
さらしを緩め、直接肌に触れる
炬燵に入ってるせいか、彼女の体は火照っていた
外から来たばかりの俺の手は、冷たい
「あったけー」
しばらく彼女の胸部をいじくり、手をあっためた
「んっ・・・んっ」
「おいおい、変な声出さんでくれよ、変な気分になっちまうぜ」
と言いつつ今度は彼女の下腹部に手を這わせる
霊夢の体がびくりと動いた、恐る恐る彼女の顔を見てみれば
「あれ・・・○○?」
「れれれ霊夢さんオハヨウゴザイマス」
まだ寝ぼけているのか!今なら逃げきれる!!
「・・・!?」
ちっもう状況を飲み込んだか、さすが弾幕ごっこの達人!しかし俺もこんなところで
手首と足首にぺたりと札が貼りついた
「あ?」
なんだこれと思う暇もなく、磁力にひかれるように、壁に貼り付けにされた
「ぐっ・・・霊夢さん、これにはいろいろな理由がありまして」
彼女はゆらり、と立ち上がると、俺に向かい、札を構えた
「さらしもいらない胸には興味なかったんじゃないの?」
「いやぁ、あの場は照れ隠しと言いますか、実際は」
「・・・私が寝ている間、どこまでやった?」
殺気というのをはじめて肌で感じた
「ははは、股に違和感なければそこまでいってないってk」
すこん
横目で見ると壁に札が刺さっている
そして少し遅れて、頬でも切れたのか、畳に血が一滴、落ちた
「札ってそういう物理攻撃もできるんだな、一つ詳しくなったよ」
「遺言は、それでいいのね?」
遺言、つまり言いたいことすべていってしまえと
「良い訳有るかボケー!て言うかお前が無防備に寝てるのも悪いだろ!そんなかわいい顔で寝てたら悪戯しない男はいませんよ?それに巫女服エロいんだよ!さらしもチラチラエロいんだよ!!」
「う、うるさい!私はエロくないわよっ!?」
「それはないわ、お前がエロくて可愛くなかったら俺はこんな状況になってないしねっ!」
霊夢は動揺している!
このまま何とかなるかもしれん
「というか!好きでもない相手にこんなことしませんからっっ!!」
霊夢は目を見開いている、固まって動かない
よし、逃げよう
札にかかった術を解いて、一目散に神社の外へ
と、3歩ほど踏み出した瞬間。天地が逆転した
「??」
霊夢に投げられたらしい、息苦しい
俺はマウントポジションをとられた
パウンド!?殺られる
ガードもむなしく、俺の顔面には岩より硬い霊夢のこぶし
ではなく、何か柔らかい何かが唇に
おおこれは予想外だ、まさか
「・・・順番って、あるでしょう」
「・・・つまりさいしょは口付けからでないとダメと?」
彼女はそっぽ向くと、小さくうなずいた
後ろから見ても、耳が赤く染まっているのがうかがえた
あー、あの耳なめたい
「!?今変なこと考えなかった?」
「い、いや、なにもない」
彼女はため息つくと炬燵を切って、戸をあけた
「うおっ、寒い!」
霊夢はマフラー?を巻いてまるで出かけるよな格好だ
「出掛けんのか?」
「ん、行くわよ」
「え?俺も?」
言われるがまま、彼女にひきずられて

博麗神社階段下
「どこ行くんだよ」
「あんたが決めなさい」
当然、といったように彼女は言った
「なんで俺がだよ」
「男なんだから、エスコートしなさい」
ぼそっと、デートなんだから、と聞こえた
正直に言おう、彼女が何を考えてるか、さっぱりわからない
もうほんと、思考回路がわからない
ただ、今の彼女が非常に上機嫌であることは、理解できた
「じゃあそうだな―」
俺は霊夢の手を握り、日も暮れようかという町に歩みだした



終ワル

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最終更新:2010年05月14日 01:21