霊夢31
新ろだ361
もう春だってのにこの寒さ。
ついつぶやいてしまう。
「寒いな。」
「あたいは寒いの好きだけどね。」
俺の腕の中で丸くなっている氷精はそんなことを言った。
「俺は寒いの嫌だけどな。」
「じゃあ、あたいのこと嫌いなの?」
涙目になりながら上目遣いでたずねてきた。
…これには弱いな。
「いや、
チルノのことは好きさ。大好きだ。」
「じゃあ、それを証明して見せてよ。」
まっすぐに俺の目を見てくる。
頬はわずかに赤い。
「いや、ここは人が多いし、みんな見てるし、なにより恥ずかしい・・」
「あたいは別にいいよ。」
今は神社での宴会の真っ最中。
恋人と来てる奴もいるけど抱き合ってるのは俺達くらいだ。
これだけでも恥ずかしいってのに。
「や、正直恥ずかしい。」
「やっぱり・・・・・」
ん?
「やっぱり○○はあたいのことなんて嫌いなんだ・・・」
ちょ、ちょっと待て何を言ってるんだ。
俺がお前を嫌ってるはずないだろう!
考える前に口が動いていた。
「ちょ、ちょっと待て何を言ってるんだ。
俺がお前を嫌ってるはずないだろう!」
「じゃあそれを証明してよ!!」
「う。そ、それはちょっと。時と場合をだn「○○のバカ!!!!」
凍符「パーフェクトフリーズ」
スペルカードで宴会を滅茶苦茶にした後、チルノは飛んでいった
俺は
1 チルノを追う
2 このまま宴会を楽しむ
→ 3 せっかくだから紅白ルートにすすむぜ
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っは!なんだ今のノイズは!
チルノは行ってしまった。しかし、追うに追えない。追う手段が無いから。
夜道は危険だし、宴会も終わりだし、家は遠いし、眠いし、春だし、
今晩は神社に泊めてもらおう。
「お~い霊夢~今夜は泊めてくれ~」
「へ?ああ、別にいいわよ。」
「マジか!?ありg「その代わり、宴会の片付け手伝ってね♪」
「ですよね~」
この世においてタダとうのはありえないのである。
その頃、どっか。
「うん。そうね。やっぱり謝らなきゃ駄目よね。」
そう、悪いのはあたいだ。
○○は何も悪くない。あたいの我侭がこんな状況を作ってしまったのだ。
「よし! ○○に謝ろう!」
やっぱあたいが謝らなきゃ駄目だ。
そして、○○に物分りのいい大人のレディな側面をみせてやるのよ!
「この時間だと、○○は家ね」
宴会は滅茶苦茶になっている。あの状態で続けられるはずが無い。
「よ~し、待ってなさいよ、○○!」
一人の氷精が夜の空に飛んでいった。
「ふ~、これで終わりか。よっと!」
「そうね、ご苦労さま。」
宴会の片付けを終わらした。後は寝るだけだ。
「よし、もう遅いしもう寝るか!」
「そ、そうね。それで、そのことなんだけど・・・
あの・・・その・・・まだ寒いし・・布団はひとつしかないし・・・」
「ん?ああ、野宿じゃなければ別にいいよ」
「ち、違うの!そうじゃなくて・・・・
布団が一つしかないから・・・一緒に寝よ・・・・?」
今なんと仰いましたかこの娘さんは!?
……でも赤面する霊夢が少しだけ可愛いと思ったのは内緒である。
時速30kmの安全飛行で、あたいは○○の家に突っ込んだ。
「痛たた、お~い、○○~?」
返事が無い。どうやら留守のようだ。
「おかしいわね、この時間なら家にいるはずなのに」
今は相当遅い時間。妖怪が活発に活動する時間でもある。
その「妖怪」という単語が最悪の方向に想像を駆り立てる。
「そんな、筈は無い、絶対に。」
ありえない。そんなことを考えるなんて○○に失礼だ。
「は、わかった○○は神社にいるんだ!」
なんという閃き! 体は子供でも頭脳はさいきょうね!
「そうと決まれば、待ってなさいよ○○!」
穴の開いた天井から外に飛び出す。
一人の氷精が分速5000mの速さで神社に向かって行った。
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…ふぅ。まずは状況を確認しよう。なぁ?兄弟よ。
俺は今、霊夢と同じ布団で寝ている。
向かい合うようにして霊夢に抱き枕にされている。
…幸せな状況なんだろうけどさ。素直に喜べないよ・・・
「すやすや」
ベタな寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。
寝顔は・・・・・・可愛い。
「はぁ~」
霊夢を起こさないように小声でため息をついた。
「・・・んぅ?」
「は!」
不覚。どうやら起こしてしまったようだ。
「あ・・・○、○。」
「よ、よぉ・・・ははは。」
「ん~えへへ~。嬉しいな~。」
「は?」
「だって、こんなにも近くに○○がいるんだもん。そりゃ嬉しいよ。」
「ははは、そ、そうか。」
まずい、落ち着け俺!そうだKOOLになれ!KOOLになるんだ○○!
…よーし、冷却完了。俺は○○。フリーの幻想人さ!
そんな無駄な思考をしてる間に霊夢は更に顔を近づけていた。
近い近い近い近い近い。マジで近い。
「すぐそこに○○がいる。すぐ近くに○○を感じられる。
私、今が一番幸せ。」
「そ、そうか」
「ねぇ○○。」
「はイ」
声が裏返った。結構大きな声だった。近所迷惑にはならないだろうか。
「落ち着いて聞いて。」
「あ、ああ」
落ち着け俺。
「私は、」
気がつけば霊夢が俺を押し倒してる状況になっていた。
「あなたが、」
顔が近い。吐息がかかる距離だ。
「好き」
不意に口を柔らかな感触が襲った。
キスと気づくのに2分の時間を要した。
そこへ、
「○○はここね!」
襖を開けて、チルノが飛び込んできた。
さぁ、俺はいつ死亡フラグを立てたのだろうか。
そして俺はこの状況をどう切り抜けようか。
夜はまだ長い。
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さあ、まずは状況の確認だ。なあブラザー?
俺は今、霊夢に押し倒された状態でキスをされている。
そして、それを恋人のチルノに見られた。
賢明な兄弟達ならこれから俺がどうなるかわかるだろう?
「あ、や・・・これは・・・」
霊夢から顔をはなして声をしぼり出す。
我ながら情けない声がでた。
「・・・・・・」
対してチルノは無言。今にも泣きそうな表情で終始無言。
いつだったか、チルノが俺に言った
「あたいはさいきょうだから、絶対に泣かないの!」
という台詞を思い出した。
「チルノ・・・」
霊夢の手を振り解き、チルノの方を向く。
「・・・」
泣きそうな顔でやはり無言。
いっそ「バカ!」とか「嫌い!」とか罵倒してくれた方がスッキリするだろう。
だから、無言というのが逆に辛い。
「・・・っつ!」
顔を歪め、部屋から走り去って行った。
「チルノ!」
立ち上がり追いかけようとするが、それは叶わなかった。
「行かないで!」
霊夢の手ががっしりと俺をホールドしていた。
動こうにも動けない。女の子なのに信じられない力だ。
「行かないで、お願いだから私を独りにしないで!
一度目はどうにかなった・・・。
でも、二度目はわからないの。だから、置いて行かないで・・・。」
博麗の巫女とかなんとか言われてるが、目の前にいるのは紛れも無く、
博麗霊夢という、一人の少女だった。
「あなたが行ってしまうのが恐い・・・」
肩も声も震えている。
「霊夢・・・」
チルノは大事な恋人だ。だから放ってはおけない。
大事な存在だからこそ今すぐ追いかけて謝らなきゃだめだ。
いや、謝るだけじゃ駄目かもしれない・・・。
対して霊夢も大事なのは変わらない。放っておけない点では一緒だ。
幻想郷に初めて来た時に右も左もわからない俺を救ってくれたのは霊夢だ。
そんな人が泣いているのを置いて、俺はここを離れられるのか・・・。
さあ、選択の時だ。
俺は・・・
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「霊夢」
泣きじゃっくている霊夢に精一杯の優しさで声をかける。
「ふぇ?」
上げた顔は困惑の表情を浮かべていた。
「俺はチルノを追う。」
「っ・・・!」
だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。
「そんな顔するな。後勘違いしてるんじゃないか?
俺はお前を独りになんかしない。
俺とあいつの間で決着をつけたら、また帰ってくる。
だから、そんな顔はするな。」
「・・・約束する・・・?」
「ああ。約束する。」
指きりなんて何年ぶりだろう。
とにかく、決着をつけなきゃ駄目だ。
俺自身のためにも二人のためにも。
決意を新たに夜の神社を後にした。
チルノを見つけるのにたいして時間はかからなかった。
神社からそう遠くない、森の中の小さな広場に彼女はいた。
「チルノ!」
「っ!」
振り向いた顔はグシャグシャに濡れていた。
「なんでっ、なんで来たのよぅ。ぐすっ、えぐっ、」
「決着をつけに来た。俺のためにも、お前のためにも、あいつのためにも。」
そう。俺は決着をつけるためにここに来た。
こうなってしまった原因は俺にあるのだから。
「チルノ。俺はお前が好きだ。
それは今までもこれからも変わらない。絶対だ。命をかけてもいい。
けど、こうなっちまった以上は責任をとらなきゃ駄目だ。」
これ以上は口に出すのが辛い。
「だから、」
逃げるな。その先を言え・・!
「もう、別れよう。」
月明かりのおかげで僅かだがチルノの表情を見て取れる。
どんな表情だったかは・・・ここでは言うまい。
「・・・そう。やっぱ、あたいは独りになっちゃうんだ。」
カチンときた。なんで幻想郷の住人はこうなんだ。
なんでこんなにも勘違い野郎が多いんだ。・・・二人だけど。
とにかく、この勘違いさんに腹が立って大きな声を出していた。
「あーもー、なんでお前も霊夢もそうなんだ! この勘違い娘!
だ・れ・が、お前を独りにするなんて言ったんだ!?
確かに、恋人同士って言う関係は終りだけど、終わった後も俺達は親友だろ!
友達が友達を独りにするなんて思ってんのか! このバカ!」
大きな声どころか派手に怒鳴ってた。
「○、○」
「いいか!絶対に俺は俺の周りの奴らを独りにしない!
それは、お前だって例外じゃないんだ。」
そう、絶対に独りにしない。絶対に。
「じゃあ、じゃあ、あたいの事は嫌いなんかじゃなくて、」
「お前の壮大な勘違いだ。」
ま~た泣きそうな顔しやがって。だから泣くなって。
「っう、ぐすっ、よかっだ、よかっだよ、よがっだよー。
うあああああああああああああ」
「こら、抱きつくな!」
泣いている。盛大に涙を流しながら、抱きついてきた。
それを優しく受け止めてやる。
…みんな意地張ってるんだけどこんなに弱いんだな。
「ねぇ、○○。お願いがあるんだけど・・。」
「うん? なんだ?」
いつの間に泣き止んだのか、上目遣いでこちらを見上げている。
「・・・その・・・キス・・・して・・。」
「・・・」
「○○と私の恋人としての最後のキス。
あの時できなかった分を今、して。」
「・・・わかった」
あの時というのは紛れも無く宴会の時のだ。
「ん」
チルノは目を瞑り、顔を上げている。
ここでキスをすれば、チルノとの恋人の関係は終わりを迎えるだろう。
「んっ」
躊躇い無くその口に自分の口を重ね合わせた。
恋愛関係の終わりを告げるキス。
友達関係の始まりを告げるキス。
月の下、永く優しく、二つの影は重なっていた。
月は既に沈んでいる。夜明けは近い。
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チルノと別れた後、神社に着いたらもう夜は明けていた。
「ふぁーあ、ん~」
大きな欠伸がでてしまった。
昨日は一睡もしていないからな。
「あら、お帰り」
「ん?あぁ、ただいま」
出迎えたのは霊夢だ。
てか、神社には霊夢しかいないし当たり前か。
「朝まで帰って来ないんだもん。
心配しちゃったじゃない。」
「悪い」
朝まで帰ってこないか。
考えてみれば、もうそんなに時間がたってるのか。
「ご飯食べてないでしょ?
用意するから待ってて」
「あ、いや、いいよ。
昨日は世話になったし、もう帰るよ」
「む」
何が癪に障ったのか、霊夢は眉間に皺なんて寄せている。
「・・・ったじゃない」
「は?」
「独りにしないって言ったじゃない! もう忘れちゃったの、バカ!」
「あ」
そういえば、そんなこと言ったな。
勢いで言ったからすっかり忘れてた。
「私を独りにしないんでしょ!? 約束を破る気!?」
「あ、や、それは、」
何も言い返せない。
「このバカ! バカ! バカ! バカァ!」
「落ち着け霊夢! 後、陰陽玉投げんな!」
御符やら、陰陽玉やらを避けながら霊夢をなだめてみる。
が、効果は無し。
「わかった、落ち着け!
約束は守る! 独りにしない!
だから、一緒に神社に住もう、な?」
「!」
苦し紛れの一言。通じるか!?
当たる直前に陰陽玉や御符が消えた。
…どうやら落ち着いてくれたみたいだな。やれやれ。
それにしても、今見えたのはスペルカードか?
危ない危ない。もう少し説得が遅れたら死ぬところだった。
「それは、本当?」
「約束は守るぞ」
「やった!」
そう言って、ガバッと俺に首に抱きついてきた。
どうでもいいが、霊夢の腕がいい感じに絞まってるため、生命が危うい。
「本当? 本当よね!
やった! やった!」
「うぎぎ、が、と・・りあえ・・ず、退いてく・・・れ。死・・ぬ」
「そうと決まれば、速く客間を掃除しなくっちゃ。
ふふふ、今日は忙しいわね!」
「はや・・く、はな・・・して、ごふっ」
霊夢は俺の話なんて聞かずに子供の様にはしゃぎ続ける。
こうして見ると、年頃の他の女の子と全然変わらないのにな。
やっぱり、博麗の巫女である前に一人の少女なんだな。
「それで、式の日取りはいつにしようか?」
「ぐほっ」
腕をはなし、そんな事を聞いてきた。
気がはやい、以前に俺と霊夢は全然そんな関係じゃないだろ!
気がはやすぎる。
「おま、そりゃ気がはやすぎだ」
「なんでよぅ、私を独りにしないんでしょ?
結婚すればずっと一緒よ?」
「だから、そういう問題じゃな・・・ん」
いきなりキスされた。
「ずっと、一緒でしょ?」
「ん・・・」
花のような笑顔ってのが一番しっくりくる笑顔だ。
ったく、そんな顔されちゃ、何も言えないだろうが。
「そ・・・だな。わかったよ、もう独りにしないよ、霊夢」
本心からでた答え。
この少女を独りにはしたくない。
「ありがとう。これからよろしくね、○○」
「こちらこそ」
ギュッと、お互いの手を握る。
今この瞬間から、俺の新しい生活が始まった。
日は昇り、幻想郷の新しい一日を迎えた。
end
~あとがき~
なっがい。長いよ。そしてやっと終わったよ。
これは現行スレにあった物を加筆修正して繋げた物なんだけど、
こんなに長くなるなら最初からロダにあげるべきだった。反省。
スレのみなさん、本当スイマセン。
最後は、こんな長文妄想に付き合ってくれたあなたに感謝。
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新ろだ413
博麗霊夢の夫、○○。
もはや夫と題している以上、いちいち恋愛の道程など必要もないだろう。
博麗霊夢と普通に恋仲になり、季節の移り変わりと共に恋人から夫婦に昇格。
そして結婚後から2年の月日が流れ周りから冷やかしを喰らうことも無くなった。
「ん~…」
夕食時に霊夢が手に箸と茶碗を持ちながら少し首を傾け唸る。
「ほい」
○○は間を置かずに近くにあった醤油を霊夢に手渡した。
「ありがと」
ご相伴に預かっている魔理沙は、それを黙って見て呟いた。
「…なんつーか、もう完全にツーカーの仲って奴か?」
「まぁなんだかんだで長いこと一緒にいるしな。夫として妻の考えてる事くらい分かるもんだよ」
さもありなん、○○は事実を述べるように、ただ淡々と答えた。
食後に○○はちらりと自分の湯のみを覗き、ややあって立ち上がろうとしたが霊夢が「はい」と急須の口を向けていた。
それを○○は「ふむ」と一言いい自分の湯のみを差し出した。
「…お前らほんと、いつも思うけどさとりの能力でも手に入れたのか?夫婦専用の」
これまたやっぱり食後の食休みをしていた魔理沙がツッコミを入れる。
「○○がお茶を飲む間隔から推測しただけよ?」
まるで当たり前の事かの様に、霊夢が頷きつつ自分の湯のみにお茶を入れていた。
「あー、ダメだ。これ以上ここにいたら当てつけられるだけだ……私はもう帰るぜ!」
やれやれだぜ、と言いたげな表情で魔理沙は立ち上がり、返事を待たずにさっさと出ていってしまった。
「普段どおりにしてるだけなんだけどなぁ…どうしたんだか?」
○○は出ていった魔理沙の後を見つめぽつりと零す。
そうすると霊夢は少し可笑しかったのかクスリと笑みを浮かべ○○の事を見つめる。
「なるほど…」
それを見て納得がいったのか○○は感慨深く頷いた。
つまりは二人の仲は以心伝心。
相手の思いが伝わるから言葉は必要ない訳で、そこに魔理沙という他人が加わると会話が成り立たない。
魔理沙からすれば静かな食卓で居心地が少々宜しくない、かといって別にご相伴先の夫婦の仲が悪い訳ではないからタチが悪い。
会話を振れば答えが帰ってくる、しかし何が悪いかと言えば理解できない所。
会話もなしに○○が霊夢の求める事を自然にやってのける。
台所で洗い物をしてたはずなのに○○の求める事を霊夢が、これでしょうとばかりに当然のごとくやってのける。
魔理沙からすれば訳が分からない。
とは言っても魔理沙にとって、これが初でないのだが、それでも毎回繰り広げる二人の行動が脅威でしかないのだ。
「…別に霊夢と普段から会話してないわけじゃないんだけどな」
魔理沙の考えが漸く理解した○○は、ここにはいない魔理沙に向かって言った。
「そりゃそうよ、○○の声くらい、ちゃんと聞きたいからね?」
逃げるように帰宅した、どっかの誰かの閉め忘れた障子を閉めると、霊夢は○○の膝にするりと座り込んだ。
「勿論だとも、どんなに以心伝心だろうとも、言葉にしたい思いもある」
目と鼻の距離にある霊夢の顔を見つめながら○○は、そっと囁くように言葉を発した。
「愛してるよ霊夢」
「私もよ、○○。愛してる」
こうして二つの影は折り重なる様に一つになった。
さてさて、これ以上はいかなる存在とて覗き見ることは叶わぬ事、残念ながら本日の業務は終了とさせて頂く旨。
夜空の浮かぶ空間に開いた小さな隙間からぽつりと声がこぼれ、そうすると隙間は無かったかの様に消え去っていた。
残ったのは零れ落ちた一言だけだった。
「おあついことで」
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新ろだ430
霊夢とは最近いい関係になってきた。付き合ってはいない。
なかなか好きと言えないのだ。
向こうはどう思っているのかは分からない。
そこで来たのがエイプリルフール。それが今日だ。
このタイミングで、外の世界に帰るって言うとどうなるのだろう。
ちょっとその反応を見てみたいという軽い好奇心が走った。
本当に、それだけのつもりだったんだ。
俺だけじゃ信憑性が薄いから、紫にも協力してもらう事にした。
とはいえ、元々胡散臭いと評判で人選ミスのような気がしてならないが
どちらにしろ紫が口裏合わせてくれないとうまくいかない。
「というわけで、頼んだよ紫」
「本当にそういうのが好きねえ。ま、霊夢が慌てふためく姿を見るのも一興だわ。」
快く承諾してくれた。たぶん。
そしてその後、霊夢に言ってやった。
「へ??どうしていきなり・・?」
箒で掃いている手が止まって、キョトンとした目で言う霊夢
「色々考えたけど・・俺にはやっぱり帰るべき場所なんだと思うんだ・・
だから紫に頼んだんだよ。今日、出るってお願いしに」
我ながら嘘くせー。すぐバレるなこりゃ。
「ふ、どうせエイプリルフールでしょ?もっとマシな嘘にしなさいよ」
そういって霊夢はまた箒で掃くのを再開した
ほらね。
「本当に紫に頼んだんなら聞けば分かることだわ、紫ー 出てらっしゃいー」
ズズズズズ・・
「は~いはい。呼ばれて飛び出て何とやらっと」
スキマからヌッと現れるこの絵はいつみても不気味だ。
「あら、○○居たのね、支度はもう済んだの?って今、挨拶中のようね」
「え・・?どういう事・・紫?」
よし、頼んでおいて正解だった。
「あら、聞いてたんじゃないの? ○○が今日外の世界に帰るって」
「え・・嘘・・冗談よね?○○・・?エイプリルなんでしょ?」
結構マジに聞いてきた。正直もうここで嘘ですって言いたくなっていたが・・
「だから本当だって・・月の頭に行くつもりだったんだから・・」
ちょっと本当に苦しく思いながら言ったせいで顔に出てしまったのが芝居に見えなくなったのか
霊夢の顔色がどんどん沈んでいくのが見えた。
「本当だったの・・」
「ああ・・だから、その別れを言いに・・」
うつむいたまま霊夢は言う
「・・ねえ○○・・紫・・」
そして余裕の表情の紫
「何かしら?」
「・・私も行く・・・。」
「(霊夢・・)」
「ふーん、それがどういう事か分かって言ってるのかしら。
それはここでの役割を放棄するって事になるわよね?」
「そう・・だけど・・」
霊夢は今にも泣きそうだった。
空気が重くなってきた。もういいか、俺も見てて辛くなってきた。
それに、霊夢の気持ちも分かった。もう十分だろう。
打ち明かそうとした時、
「ねえ、○○、向こうに着いたら色々教えてね。おいしい店とか~あと楽しい場所とか~」
「な、紫!?」
紫はわざと霊夢に聞こえるように言った。
「・・それってどういう事・・?○○」
「(おい紫、そこまでしなくていいよ・・!)」
「ね?約束してくれたじゃない○○、食べ物以外にももっと色んなコト教えてくれるって」
まずい、さすがにやり過ぎだ。
「本当なの?○○・・・・。」
「い、いや・・」
「(紫、もういいだろ?霊夢はもう限界だぞ・・もう俺は嘘って言うぞ)」
「霊夢、実はな・・」
しかし紫に扇子で口を抑えられる
「(・・紫・・?)」
「ねえ、紫、アンタもここに居なきゃいけないんじゃないの・・?」
「私は両立くらいできるわよ。あなたは無理でしょ?出来る?」
「・・・紫・・アンタ・・。」
「・・ヤル気?いいわ。受けて立つわよ」
「おい、紫、霊夢・・」
「黙ってて○○、いいわ、勝負よ。」
「私に勝てたら、好きにしなさい。私もそれ以上干渉しない
でも負けたら今回のことは諦めること。いいわね?」
「望むところよ」
何で・・・こんな事に・・・
――――
――
―
もうどれくらい経ったのだろう・・
二人とも息を切らせている。
すぐに嘘だと言えば良かったが、真剣勝負中にそう言えるわけもなかった。。
もういい・・もういいよ、何でこんな事で二人が争うんだ・・
全て嘘なのに。ただのエイプリルフールの嘘なのに。
どうしてこんな事になるんだ・・。
「・・まだよ、霊夢」
「紫、お前の負けだ、もうスペルカード切らしただろ」
それでもまだ続けようとする
「紫!お前自分でルールを無視する気か!?」
「・・・!」
ようやく紫は膝を付いて負けを認めた。
俺は霊夢に向かって走った。
「霊夢、すごく言いづらいんだが聞いてくれ・・・」
「分かってる、紫と一緒になって嘘ついてたんでしょ」
「!それを気づいててどうして・・」
「でも紫は本当に○○を連れて行く気だった。そうでしょ?紫。」
「え・・?」
「・・霊夢には敵わないわね。そうよ。」
「紫、どういう事だ?俺を騙したのか?」
「エイプリルフールよ。」
という事はあれか?俺は俺で騙されていたのか?
「それは本当に実行しちゃったら嘘にならないじゃないか・・」
「あら、エイプリルフールは嘘は良くても真実は駄目ってわけじゃないわ。」
「モ、モウイイデス・・頭痛くなってきちまった」
「紫に口裏合わすように頼んだけど逆にそれを紫に利用されてしまったわけね。
まったく、人選を誤りすぎよ。騙そうとした人が騙されるなんて、あなたらしいわね・・○○」
「お前それいつから気づいたんだ」
「戦ってる最中にね。それまでは本当に私も騙されてたわよ。本当に厄介な行事ねえ・・」
「でも紫が俺を本当に連れて行く理由が分からないんだが・・」
「それは私があなたを霊夢に取られたく無かったからよ。」
「紫・・。」
「それだけじゃないでしょ紫。アンタ、私を試したかったんでしょ。だから私を挑発した。違う?」
紫はふっとため息をしながら言った
「霊夢が自分の役割を捨ててまで○○についていくと言った時、もうその時点で
想いでは既に負けていたと悟ったわ。だけど私は諦めなかった。
勝負をしてでも勝ち取りたかった・・。たとえ○○がその気じゃなくても、ね。」
俺は一人で混乱していた。
つまり、えーと・・ああもう訳ワカランッ
「まったく、相変わらずやり方が強引ね・・。らしいといえばらしいけど。」
「はぁ~、結局霊夢には負けたけど、おかげでスッキリしたわ。
その、ごめんね。○○、霊夢。」
「・・アンタらしくて怒る気にもなれないわ。」
「紫、俺もごめん。その、知らなかったんだ・・」
「なーんで貴方が謝るの。悪いのは全部私よ。強引に誘拐しようとしたんだから。
じゃあ、私はもう行くから、二人ともお幸せに~」
「あ、ちょっと待てよ」
そういう間もなく
ズズズズズズ・・・
と、紫は消えていった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「霊夢、怒ってる?」
「怒っちゃいけないんでしょ?エイプリルフールは」
「まあ・・そうなんだけど。」
「分かったでしょ・・私の、あなたへの気持ちが・・」
「あ、ああ・・。しっかり受け止めたよ・・」
「でも、負けていたらどうなっていたんだろう・・。」
「戦いの時、紫はいつも以上に本気だったけど、
もし私が負けていたとしても、紫は本気であなたを奪ったりしなかったと思うわ。」
「どうしてそう思うんだ?」
「しん・・紫だからよ。」
翌日
「霊夢、今日は料理対決よ。どっちが○○を満足させれるか、フフフフ。」
「ほんっとに懲りない妖怪ねあんたは・・」
「・・・・まったくだ。」
「いいわ、受けて立つわ」
「立つのかよ。」
「伊達に長生きしてないって所を見せてあげるわ!」
「(こっそり帰ろうかな・・。)」
終わり。
エイプリルって思い出して帰りの電車の途中に思いついたのをそのまま書いたからgdgdだけど許してくだしあ
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新ろだ431
今日はエイプリルフール!そこで何か恥ずかしがらせる嘘を霊夢につきたい。
たったそれだけだった。
「なぁ、霊夢」
「んー?」
「霊夢とエッチな事したい」
「……へ?」
「だから、霊夢とエッチな事がしたいんだって」
「え、えええ、ええええ!?あうああうぅ…」
(えっちなこと…?えっちなことって…そ、そんな、○○と!?
わわわわたしは別に○○が相手ならいいけど…な、なんで急にそんな事言い出したのかしら)
耳まで真っ赤に染める霊夢。
見ていて面白い。
(そ、そうだわ!今日はエイプルフール…ね…だ、だから…)
霊夢は、少し俯きながら、○○に答えた。
「ま、まだ…だめ…」
「うがー!どっちだー!!!」
新ろだ454
「俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!」
博麗神社の午前。やることも無いので巫女らしく境内の掃除をしてた私に、彼が放った
一言。
今日の朝は――ご飯とお漬物と豆腐の味噌汁だった。
「……一足遅かったわね。ウチは朝が早いのよ」
「そいつはどういう……ま、まさか他の男が!?」
「何言ってんの?」
どうやら飯を集りに来た訳じゃないらしい。いやまぁ、分かってたけど。
彼は外来人だ。
妖怪蔓延るこの幻想郷に飛ばされながらも、何とかこの神社まで辿り着いた運の良い
人。最初は相当気が動転していたようで、私と会っても暫くは会話できる状態じゃなか
った。
ここに来るまでに色々危ない目にもあったようだし、早く外の世界に帰して上げようと
思ったんだけど――何故か彼は、この世界に住みたいと言う。
まぁこっちに居たがる外来人自体はそれほど珍しくはない。しかし里に住めるよう手配
した日、急に彼は私に告白してきて、それ以来神社に通うようになったんだから流石に
驚いた。
人里から神社へ来るには妖怪の潜む獣道を通らねばならない。私の護符を渡してあるか
ら危険はないだろうけど、一度襲われかけたこともある訳だし、毎度その道を行き来す
るのは中々度胸があると思う。
唯その情熱をもう少し別の方向へ向けてくれたら、私としても助かるんだけど――。
とりあえず終わりの見えない掃除を一旦止めて、一応お客様である彼を家の中へと招く
事にした。
私はお茶を出す為に奥でお湯を沸かし、茶葉を確認する。幸い、霖之助さんのとこか
らくすねて来たものが残っていたのでそれを使う事にする。
ふと後ろを見遣ると、彼はこにこと笑みを浮かべ、居間から私の様子を眺めていた。
実にやりにくい。
「君のことを海より深く愛している! 嗚呼、俺を愛の海に沈めるセイレーンよ……水底
に捕らえておきながら、君は高き空から降りてきてはくれないのですか……?」
「寒いを通り越して痛いわよそれ。お茶入れるかもう少し待ってね」
時々こんな調子で軽口めいた愛の言葉を囁く。実にやりにくい。
セイレーンて。
そんな会話を暫く続けて、ふと前に向き直ると、いつの間にか盆に置かれた湯飲みが台
所に現れていた。
私はまだお湯を沸かしている段階だと思っていたのだけれど――お茶の準備を無意識の
自分に任せるほど、会話に集中していたのだろうか。確かに、あんな奴だが何故か会話
の調子は合うらしく、話し込むと結構盛り上がるのだ。
「はい、どーぞ」
「サンキュー。霊夢にお茶を入れて貰えるのは嬉しいけど、用意している後姿が見れなく
なるのは寂しいなぁ」
「どういう意味? 何か面白いものでもつけてたかしら」
「霊夢は後ろから見ても可愛いってことだよ。特に、いつの間にかふりふり動いてるお尻
とか……」
「へ!? い、今すぐ忘れなさい!」
……勢いに乗せられてる感がちょっと癪だけど、さして変化のない、彼と私の日常風
景。
唯、会話の合間になると時々、ふっと表情を翳らせるのが気になった。絶えない笑顔だ
けが取り柄みたいな奴だと思ってたけど、こんな顔もするのか。
私はちょっと不安になって、取り合えず、お茶の味はどうかと聞いてみた。
彼はとても美味しいと言う。
「こんな風に、霊夢とつまらない事を駄弁ってると、意味も無く楽しい気分になってくる
よ。けど、同時にふっと思い浮かぶ憂いもあるんだ。」
「……?」
「君は俺と話す時、何か無理をしていないかい? これでも俺は、霊夢が一言いってくれれ
ばもう、しつこく会いに着たりなんかしないよ」
なるほど、そういう意味か。
どうやら彼の不安は、私が彼の想いを受け入れているのか、拒絶しているのかが分から
ないという点にあるらしかった。
「別に……迷惑な客にはなれてるから。アンタのことは話し相手としては気に入ってるの
よ?」
「ふぅん? ……」
私がそう答えると、彼は再び複雑そうな顔になる。
納得できないような答えだっただろうか? ――そうかも知れない。彼の告白を迷惑と断
じた上で、今まで通り相手になってくれなんて、虫のいい話なのかも知れない。
私には〝レンアイ〟が分からないのだ。男も女も、人間も妖怪も、いつも気が付けば沢
山の人が私の傍に居てくれたから、いつの間にか誰か一人に特別な気持ちを抱くというこ
とがなくなっていた。
何者にも平等に。みんなそれなりに好きで、そこそこに大事で、別にそれが悪いと思っ
たことはなかった。
けれど彼と会って、特別な感情を真っ直ぐに突きつけられて、私はそれをどう受け止め
たら良いのか分からなくなった。今思えば、彼の告白にまともな答えを返したことは一度
もなかった気がする。
男の人に愛の告白をされた女は……とりあえず何をしたら良かったんだっけ?
「ま、嫌われてるんじゃないなら俺は諦めないけどね」
ふいに穏やかな表情になった彼が、優しくそう言った。
いつも通りなその言葉に、色々難しく考えてた緊張が解け、私はほっとしてして笑みが
こぼれる。
けれど同時に、何だか見透かされたようで、恥かしいような申し訳ないような気持ちに
なった。
「おいおい何で笑うんだよ。あっ、けど霊夢の笑顔は可愛いなぁ」
「あ、呆れてんのよ。それに薄っぺらなお世辞言われても出るものはないからね」
「へへっ、茶菓子ぐらい欲しいんだけどな」
彼の軽口を聞き流して、残っていたお茶をグイと飲み干す。少し舌が熱かったが、火傷
するほどではなかった。
一息ついて余裕が出来たところで、それとなく彼に聞いてみる
「……けれどアンタ、何で懲りずに私に会いに来れるのかしら。まえ一目惚れしたって言
ってたけど、それって要するに,顔が好みだったってだけなんでしょ?」
妖怪の縄張りを通るような、危ない綱渡りをしてまで会いに来るには、あまりにも軽い
理由なんじゃないだろうか? 寧ろ普通は、それなりの理由があっても、私のような厄介
な女なんてさっさと諦める気がする。
「ん? まぁ確かに一目惚れはちょっと語弊があったかもな」
「何? この機会に詳しく教えなさいよ」
「……う~ん」
彼は暫く言い辛そうにしていたが、やがて訥々と話し始めた。
「会った時点でって意味では一目惚れと同じでな。つまり幻想入りした直後の話になるん
だが……俺はここに来て早々、ある妖怪に目を付けられたんだ。実はこの神社に逃込む
までの間、ずっとそいつに追い回されてた」
それは人の姿ではなく、もっと面妖で、滲み出る凶暴さを隠しもしないモノだったとい
う。
「直ぐ捕まらなかったってことは結構近くに?」
「そうだな。遊ばれてたってのもあるだろうけど、今にして思えば半時程度の鬼ごっこだ
ったと思う。それでもその時の俺からすれば何時間も長く感じられたし、訳も分からず
飛ばされたってこともあって、その、相当怖かったな」
照れた調子でそう言って、誤魔化すようにゴクリと、のどを鳴らしてお茶を飲み干す。
妖怪に怯えるのは普通の反応で、私はさして気にしてなかったんだけど。
「自分でも呆れるぐらい怯えていた。惨めったらしく涙を流していた。そんな状態で初め
て会った人が霊夢だったからさ……ほら、覚えてるだろ? 」
確か……そう、抱きついて来たのだ。あの日、神社の裏の茂みから這い出てきた彼は、
私を見るなり泣きながら胸に飛び込んできたのだ。
流石に困惑したが、かたかたと震えながら嗚咽を漏らす姿は、彼の状況を理解するのに
十分だった。
「神社では人間を襲えないから、結局あの妖怪は帰ってしまってたようだったけど……俺
はその後もかなり長い間動けないでいた。……霊夢、知りもしない男から急に抱きつかれ
たんだから、君は叫びを上げて俺のことを突き飛ばすぐらいが普通の反応だった筈だ。け
どそうはせず、寧ろ優しく抱き返して、事情も聞かず慰めてくれた」
「ふーん、要約するとアンタはマザコンだったってわけね。ちょっと意外だわ」
ちゃかした調子でそういうと、彼はどうしようもないぐらい頬を赤く染めて、ぼそぼそ
と言い返す。
「……まぁ格好悪いのは自覚してる。ともかく俺が霊夢のこと気になった切っ掛けは、そ
の優しさだったってわけさ」
「優しさねぇ……」
その言葉が、他の奴等が言っていた私の評価とあまりにもかけ離れていて、何だか可笑
しくなる。
私のことをそんなふうに感じてくれたのは、彼が初めてだ。
今,この胸の奥でトクンと温かく鼓動するものがある。恋愛感情にはまだ遠くとも、私は
彼に惹かれているのかもしれない。
少しくすぐったい様な、どこかドキドキする様な、この気持ちが〝スキ〟とさほどかけ離
れたものとは思えなかった。
「まぁ顔だけで好かれるよりはマシかな」
あんまり自信がある訳でもないし、と小声で言い添えると、彼は馬鹿に真面目な顔にな
って反論してきた。
「確かに一目惚れは少し違うが、霊夢が自分の容姿を軽んじる事はないと思うよ」
「え?」
予想してなかった反応に、私はキョトンと呆けてしまう。突然何を言い出すのだろう、
と思った。
そんな私なんて気にせず、彼は手を伸ばして私の髪にそっと触れる。
「例えば……そう、霊夢の髪って絹みたいにさらさらしてるんだよな。艶も綺麗で、こう
いうのを緑の黒髪っていうんだと思う。……あ、手櫛で梳かしても引っ掛からない。新し
い発見だ」
「なっ!? や、止めなさいよこんなの!」
髪を触られるだけでも顔が紅潮してしまうのに、急に今までの告白とは違う直接的な口
説き文句を使われて、恥かしさにあたふたしてしまう。
触ってくる手を叩き落とそうとしたら、ヒョイとその手を移動させ、今度は頬に触れてく
る。私の頬は熱を帯びていたので、彼の手がとても冷たく感じた
「霊夢が実は化粧付けてるのも知ってるぜ? 大分薄めだけど、本の良さを引き立てる感じ
で結構好きだ」
「え……ほ、本当?」
その言葉は、私にとってかなり驚くべき事実だった。
正直、誰も気付いてないと思ってたのだ。使い始めたは良いものの、何と無く恥かしく
て、結局中途半端な薄化粧で満足していたからだ。
他人の顔なんて意識しないとしっかり見ないもので、化粧の事なんて今まで誰も指摘し
てこなかった。それなのに、彼は一体いつからこれを知っていたのだろうか。
「弾幕ごっこや妖怪退治の依頼なんかで直ぐ汚れて分からなくなる事も多かったけど、君
は懲りずに白粉や頬紅を塗り続けた。時々種類を変えたりもしてたよな」
何時の間にか、彼はニコニコと爛漫な笑みを浮かべている。
まるで、私の話をするのがこの上なく嬉しい事であるかのようだった。
「切っ掛けはさっき話した通りだけど、今でもこんなに霊夢のことが好きなのは、寧ろこ
っちが理由かも知れないな。誰にも分からないほどの緩やかさで、日に日に綺麗になって
いく。人には見えない影の部分で、自分を磨く事をけして欠かさない。霊夢のそういう一
面が、俺には堪らなく愛しく思えるんだ」
後は積極性を身に付けることだな、と彼は助言めいたことを口走って言葉を区切った。
「う、薄っぺらな世辞じゃ出るのはないって言ったでしょ! ――その、ちょっと厠行って
来る」
私はそれだけ言って、部屋の外へ引っ込んだ。小走りになったので漏れる寸前と勘違い
されたかも知れないが、私はそれどころじゃなかった。
彼の居たところから私が見えなくなったのを確認すると、直ぐその場にへたりこんで顔
に手を当てる。
驚くほどに頬が熱くなっていた。胸も高鳴り、口許がどうしてもニヤけてしまう。
「私のことを、あんなにしっかり見てくれてた人がいたんだ……」
体中が競うように信号を挙げ、私の心に芽生えた気持ちを知らせる。
これに比べたらさっき私が感じた〝スキ〟という感情は、あまりにも浅いものだった。
誓って、彼の真摯な言葉に特別な感情を抱かなかった訳ではないが、雰囲気に流されて、
という部分が大きく残る不誠実な感情だった。
「……そろそろ戻らないと」
今、私は彼のことを確信を持って好きだと言える。つまり初恋という奴だ。
長い間保留にしてきた告白に、漸く答えが出せる。
私は小走りになって彼のもとへ戻った。
最終更新:2010年06月16日 23:16