魔理沙6
6スレ目>>59(うpろだ0067)
「印刷機、か? 年代物だな」
面倒事を運んできたのはそんな何気ない一言だった。
「おー! 判るか? じゃ頼むな」
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断っておくが、こんな昔の物をいじった経験なんて無い。
以前に何かの本で見かけた資料が、目の前にあったそれとよく似ていたから判別できただけだった。
だってのに俺は朝から工具を片手に、家に運び込まれたオンボロの修理なんかをやらされてる。
工具の出所は勿論、香霖堂。
「機械いじりなんて、元の世界でもやってねえっつの……」
分解され床一体を埋め尽くしたパーツ。
自分なりに書き残した汚い設計図。
オイルやインクの嫌な匂いを吸い込み、部屋に染みついたんだろうなとげんなりすること数回。
どうしてこんな事をせにゃならんのかと思ってはみてもダンス・オブ・後、愚痴っていても夜は明ける。
汚れて荒れた手にニッパを取って、また機械いじりに励む。
古いだけあって複雑な構造じゃないのが不幸中の幸いだった。
日もとっぷり暮れた頃、天狗との勝負に負け、修理を押しつけられたという全ての元凶が姿を見せた。
「おーす! そろそろ直ったかー?」
「毎度毎度、戸を蹴破らんばかりの勢いで入ってくんな」
「うげ、臭うぜこの部屋」
「帰れ」
誰のせいだ。
元凶こと霧雨魔理沙は興味深そうに部屋の中のパーツを見て回るが、その腕にまた何か抱えられているのが見えてうんざりする。
「まだ部品が何か残ってたのか?」
「ん? コレの事なら不正解だが、気になるか?」
「ならない。見たくもない」
設計図をボロ紙云々と言って確認も取らずにはたき落とし、テーブルの上に持っていた風呂敷を乗せる。
「後で後悔するなよ……どうだ見ろ! この私が手塩にかけて作り上げた弁当様の登場だ!」
楽しそうに何を言うかと思えばこいつは、人の気も知らずに。
「持って返ってくれるか。こんな手で食べ物になんか触りたくない」
「あー? 我が侭な奴だな」
「オイルの臭いで胸焼けして食欲が出ないんだ。悪い」
先端のゴム部分を切り落として剥き出しの銅線部を捩って纏める。
長年使っていたというだけあって随所の劣化がひどく、こういう部分を一つずつ直していくのは根気のいる作業だった。
「うげ、本当に汚い手だな。ちゃんと洗えよ」
魔理沙が背中から作業を覗き込んでくる。
軍手なんてのは不器用な俺が使っても、ただ能率を下げるだけの厄介者でしかない。
「明日の昼までには頼むぜ。ブン屋が催促に来てしまうしな」
今の誰かさんと同じだ。
「分かってる。気が散るから後ろに立つな」
「そういうわけにはいかないぜ。私には作業を確認する義務というものがある」
絶えず顔に貼り付けているにやにや笑いが、この時は妙に癪に障った。
「振った男をからかってそんなに楽しいか」
「魔理沙さんが素敵なのは今に始まった事じゃないんだが、まだそんな事気にしてたのか?」
何も言葉は返せなかった。
この幻想郷という世界に迷い込んできた時、初めに遭遇したのがこいつだった。
口では悪態をつきながらも面倒見のよい少女に、右も左も分からなかった当時の俺がどれだけ助けられたかは分からないし、今でも感謝してる。
だから告白に踏み切った時は、振られても文句を言うつもりなんてなかった。
『悪いな、私は自分で好きになった相手を捕まえる予定なんだ。他人様にどう言われたところで気持ちは動かないぜ』
じゃあ仕方ない、なんて簡単に諦められれば誰も苦労しない。
それ以降、彼女に近づくのはよそうと思い家を尋ねることもせず、たまの宴会などにも顔を出すのをやめた。
だが対する魔理沙はというと、前にも増して俺を訪ねてくるようになった。
生殺しなどと言えば大袈裟だし、子供すぎると笑われるかもしれないが、それだけ苦痛にしか感じられない日々が続いていた。
「つ、っ!?」
余計な事を考えてたせいだろう、接合用の熱されたはんだの欠片が手に落ちた。
「どうした! 大丈夫か?」
「何でもない! 座ってろ!」
自分の予想以上に大きな声が出て、魔理沙の表情が無機質なものに変わっていく。
「悪い」
「少しは休めよ」
箒を掴み、魔理沙は部屋を出ていった。
頭から抜けていた手の痛みで我に返り、桶の水に突っ込んで冷やす。
波間に浮かんだ自分の顔は汚れと疲れで酷い有様だった。
洗ってみても、汚れはなかなか落ちてくれない。
部屋に散らばってる機械も、テーブルの上で寂しげに佇む二人分の弁当箱も、まるで全てが俺を責めているように感じられた。
「ああ、どうせ俺が何もかも悪いんだよ!」
嫌われれば楽になるはずなのに、どうして余計に苦しむ必要があるんだよ。
綺麗になった手が元通りになるのに、三十分もいらなかった。
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再び元の形に組み上がった印刷機が見違えてしまう程の出来に映るのは贔屓目なんだろうか。
「あとは電源が入れば完璧、終了だ」
コンセントにあたる部分をよくわからない箱に繋ぐ。
曰く、電気の存在しない幻想郷での代替品。
奇妙な事柄など外にいくらでも転がってる世界なので詳しい話は聞かなかったがともあれ、緊張しつつスイッチを押す。
カチリ。
カチリ。カチリ。カチカチ。
最悪な日は何をやっても最悪に終わる。
「いや、組み立てに失敗しただけって可能性もある」
自分を励ましながら、物音一つ立てやしなかった機械を再びバラバラにして、目を擦りつつ自作の設計図と睨めっこ。
……何か見落とした部分はないだろうか。
……設計図自体の間違いは考えたくない。
……あれ、なんか俺の名前が書いて……?
物音。
「だだだだいじょうぶですねてません!」
「何やってんだお前」
声の方を見れば、ドアノブに手をかけたままの魔理沙が呆れ顔。
「いや、びっくりした。そろそろ仮眠でも取るべきかね」
思わず苦笑すると、対する魔理沙はどこかいつもより暖かい雰囲気の笑みを見せた。
「やっと少し、笑ったな」
その言葉で意識が鮮明となる。
本格的に疲れが出たのか、以前の感覚で反応してしまったらしい。
「帰ったんじゃなかったのか」
「うんにゃ、夜の散歩に行ってきただけだぜ」
愛用の帽子をテーブルに置き、ソファーをずりずり動かしてこちらを向けてから、魔理沙は足を曲げてそこへ横になる。
「帰って寝ようにもサボられちゃたまらないからな」
「勝手にしてくれ」
言っても無駄なので、構わずに落ちていた殴り書きだらけの設計図を拾う。
部品を間違えてないか、余る部品はないかと何度も上書きを繰り返す作業は予想以上に神経を使った。
思い返せば明確に故障と見受けられる箇所などあっただろうか、 専門家でもない俺には対処不能な原因が隠れているのかもしれない。
……直せないとやはり、困るんだろうな。
「すぴー」
あんのクソガキ寝てやがる。
となると困った、日付もとっくに変わってる事だし今から帰れとは言えない。
となるとソファーではなく奥の部屋のベッドを使わせるしかないのだが、となると二部屋しかない家に俺の寝床は残されてない。
「……俺はジョバンニじゃねえっつの」
完徹決定。
「魔理沙。寝るんなら向こう行け」
「ぐおー」
「おい」
「すぴー」
起きる気配なし。
膝を抱えるようにして丸まって眠る姿はネコのようだ。
こうして見れば華奢な体格といい、ふわりとした髪といい、なかなか見られないぐらいに可愛らしい女の子。
性格はともかくこんな顔してるのが相手じゃフラれて当然だわな。
俗に言われるあばたもえくぼではない、と思う。
……寝てるなら、ちょっとぐらいいいか。手が汚れて使えないわけだし。
ひょい。
ぱさ、ずるり。
「あーもうミスった、って」
足で放ってやった俺の大事な一張羅はソファーの背もたれに引っかかってしまったが、魔理沙の腕が自分の体に包み直す。
「ちょっと喫驚したぜ」
「ウソ寝かこいつ」
「不逞な輩に嫁入り前の体を狙わては大変だしな。しかし器用な事するぜ、お前」
「やかましい。向こうに行って寝ろ」
「まあ聞け。一つ質問をしたい」
「何だよ」
さっさと移動してもらいたかったので適当に話を促す。
「今でも私の事を好きだと思ってるか」
質問の内容を聞くと自分の顔の筋肉が強張るのを感じた。
「性格の悪い奴。今でも好きではある。だから、どうした」
「いやぁ照れるぜ」
「………」
「冗談だ、そう変質者じみた顔をするな」
こいつの冗談は空気を読まないから非常に腹が立つ。
「お前は一度フラれたぐらいで諦めるのか?」
「……回りくどい。要点だけ言ったらどうだ」
「ふん、じゃあリクエストにお答えしてやるぜ」
魔理沙は寝転がったまま体を動かすと、
「目の前でいい女が寝てる。お前の惚れてる女だ。これはチャンスだと思わないか?」
上目遣いに俺を見上げ、いつもとは違う種類の笑みを作った。
今の自分は明らかに冷静でいられてない。
「自分が何言ってるのか分かってるか」
「今は私よりお前だ。押してダメならさらに押せ、中には開くドアだってあるかもしれないぜ?」
言葉はいつもと変わりない。
だというのに、今の魔理沙からははっきりと“女”を感じている。
心臓の音が、部屋中に響いてるんじゃないかというぐらい、うるさい。
挑発するような視線とと口調のまま、魔理沙はブラウスの一番上のボタンを、外した。
「馬鹿。自分がどういう状況にいるのかまだ理解できてないのかよ、甲斐性なし」
魔理沙が好きだという気持ちは嘘じゃない、本気だ。
それなら何を迷う必要があるんだ?
考えるまでもない事じゃないか。
「齢を考えてからモノ言えエロガキ。窓から放り投げるぞ」
そういう気持ちも否定しないが、流されて体を重ねるのとはきっと違う。
「なんだ腰抜け。女の扱い方が分からないならここでお勉強していけよ」
「本当に女らしくない奴だな。オイル臭い部屋の中、こんな手で撫で回されるのが趣味なのか? ムードって言葉の意味辞書で調べてこい。
ああ、それと」
「あ?」
「言葉をそのままお返ししとく。『他人様にどう言われたところで気持ちは動かないぜ』」
ベッドで寝て来い、と最後に言い残し、俺は機械のパーツが並べられた床に戻るべく、ソファーに背中を向けた。
ヤバい、顔が熱持ってる。
とか思ってたらボルトを踏んづけた。
「いだっ! 痛ぇじゃねえかこの野郎!」
とても痛かったが、そんな事よりとんでもなくなにか、さっき恥ずかしい行動を取った気がしてならない、うひぃ。
「まだ続けるのか?」
「終わらせたら寝る」
「私から言い出した事だが、別に一昼夜やり続けてもらわなくても結構だぜ?」
「そんなの俺の勝手だ」
「今さらかもしれないが、無理なら無理で文句も言わない」
「やかましい、寝てれ」
うあ、なんか偉そうな上に語尾が変になった死にてぇ。
「仕方ない、そろそろ私も手伝おうか」
「んぁ?」
変な声が出た、というかどうして今ごろ。
「度々失礼な奴だな。私は手先だって器用だし、道具の扱いなら一流だぜ」
「でも電気回路なんて分からないだろ」
「一から十まで全て分からない事尽くしの筈がないだろ。例えば足元に転がってるこれなんかは銅の」
ブツン。
なにか今、絶対に聞きたくなかった音が
「……じ、事故だぜ。私はその場に運悪く居合わせてしまっただけだ」
「あぁ?」
っていうかちょっと待て、そんな馬鹿な話があるか。
「す、すまん。でもまずい事もなにも、まだ私は何もしてないんだぜ?」
「魔理沙、お前アレか。そのワイヤーじみた代物を素手で引きちぎったつもりなのか」
「んあ?」
よくよく考えれてみれば、人の小指ほどもある銅線が人間の小娘ごときに引きちぎれてはたまらない。
元々限界一歩手前だったんだろう。
「ちょっと見せてくれ」
これがどこの部品なのかと、調べてみればなんと主電源との直結部。
そりゃ電源も入らんわな……。
「ウフフフフフフ、もっと早く気付いてたらなぁ」
「げ、不気味な笑い方するな」
何かが壊れる理由なんて些細なものなのかもしれないが、気が付かない俺は馬鹿。
もういろんな意味でギリギリらしかった。
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修理はあの後、すぐに中断した。
朝にでも新しい銅線を買ってきて繋げば恐らく解決する。
冷え切った弁当を摘みながらの問答の末、ソファーで寝ると言って聞かない魔理沙を放置してベッドで毛布に包まっていた。
疲れがたまっているはずなのに、寝つけない。
「何やってんだろうな」
今日一日でぼろぼろに擦り切れてしまった、臭いの取れない手。
どうしてガラクタなんかに必死こいてるんだか、自分でもよく判らない。
「何、期待してんだろうな。頭悪い」
「お邪魔するぜ」
扉が突然開き、入ってきたのは手足の生やした謎の布団妖怪。
「いや、いろいろと言いたい事はあるが、何しに来た」
「言われた通り、あそこは狭くて眠りづらかった。筋をおかしくするぜ」
「だから言ったろ。すぐ退くからここ使えぶしっ」
話の途中だったというのに抱えた布団で殴打された。綿が寄るからやめてほしい。
「しかし幸運なのはこのベッドが広かった事だ。二人寝るスペースは充分にあるな」
「あるにはある。でも問題もあぶしっ」
「就寝前に説教はノーサンキューだぜ。そもそも私みたいなガキにゃ手を出さないんだろ?」
「卑怯な言い方だ。というかどうしてそうすんなり入ってこれる」
「意識してないからだな。おお、てことはお前は私を意識してることになるか」
「自惚れるのも大概にしとけ」
「そんな離れた位置で何言ってんだ。布団も充分届いてないじゃないか。ほれ、取って喰いやしないからこっち来いよ」
俺は確かに腰抜けでした。
隣から聞こえる静かな呼吸。
喉の奥にコルク栓でも詰まってるんじゃないかってぐらい呼吸がしにくい。
駄目だ、どうにか気を紛らわさないと。
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄、舎利子、色不異空空不異色色即是空空即是色」
「いきなり般若心経を読むな。三蔵法師かお前は」
こうでもしないと落ち着かないんだよ。
「まったく、いやぁしかし参るぜ。お前、本当に私の事好きなんだな」
「ああ?」
「どうとも思ってないのにそこまで緊張する奴はいないぜ」
「どうでもいいだろ、悪かったな」
「悪くはないさ。お前は見境なしって感じじゃないから、私としても悪い気はしない」
ちょっとくすぐったいけどな、と首を竦めてみせる魔理沙。
そして、それに自分が見惚れているのに気付く。
やはり向こうの部屋で寝たほうが、
「逃げるなよ」
上の布団をどかそうとした右腕をそのまま掴まれた。
「厠だ」
「嘘だな……もしかして、さっきのもビビって格好つけてただけか?」
「あそこでハイ僕嬉しいですと飛びつくような奴は最悪だ」
「まあな、こっちだってそんな奴なら願い下げだったぜ。さっきもほれ、この通り」
魔理沙がブラウスのボタンを上から二つほど外し、中に手を入れる。
そうして顔を出したのが必殺のミニ八卦炉。
「重ね重ね、俺をからかうのがそこまで楽しいか」
自分が遊ばれていた事を知らされ、苛つく。
「楽しいねえ。だってそうだろ?
自分の好かれてる相手なら多少の悪ふざけも許してくれるし、見返りも無しに無茶な事を頼んでも案外、手を貸してくれたりする」
「うるさい」
人の気も考えずに。
「感謝もしてる」
どうでもいいから寝てろよ。
「初めから嫌ってたわけじゃないが。今日だけでも結構、見直してるんだぜ」
「やめろ」
そんな事を聞かされたって、俺はどうすりゃいいんだよ。
戻った静寂。
部屋を支配する重い闇。
そして、握られたままの腕。
「なあ」
「何だ」
「もう一回、告白してみる気はないか?」
「答えが分かりきってるのにか」
「仕方ないぜ」
「バンザイしろってか。随分簡単にステキな事を言ってくれるな」
「一回も二回も変わらない気はするんだが、やっぱり嫌なもんか」
嫌も嫌だし、何より救いがなさすぎる。
つくづく自分は頭が悪いと思った。
「うまくは言えないけど、な」
ここまで結果が見えていて、それでも分の悪すぎる賭けに踏み切ってしてしまうんだから。
「お前が笑ってるのを見ると嬉しくて、それだけで幸せに感じられたんだ」
ありえる筈のない“もしも”。
そんな物に期待してしまうんだから、女々しいというのか執念深いというのか、ね。
「俺も一緒に笑い合っていたい。魔理沙、もしよければ付き合って欲しい」
二度目の告白。
この息の詰まる静寂も、前と何ら変わりがない。
「前より長かったな」
魔理沙はいつもの通り。
やはり前と同じ笑みを浮かべていた。
「すまん」
二度目の玉砕。
一人の女に二度フラれる男ってのは現実問題、なかなかいないと思う。
「キツいな」
「笑っていられるのは余裕がある証拠だぜ?」
なら、良かった。
こんな取り繕ったような見栄でも、役に立ってくれてるらしい。
「私も、お前を好きになれてれば良かったな」
やめろよ、聞きたくない。
顔を合わせていられなくなるだろ。
「両想いならきっと幸せになれただろうな。そんな気がする」
寝返りをうつ。
もう、駄目だった。
「馬鹿、言うな。余計な事を言うな。何で黙っててくれない?」
「え」
「きっぱり終わらせてくれなきゃ辛すぎる。これからどんな顔をお前に見せたらいいんだよ」
「お前はいい奴だぜ、本当にそう思ってる」
「嫌な奴じゃなきゃ直しようがないじゃないか。いくら足掻いても、もう好きになってもらえないって事じゃないのか。
俺みたいなの虐めて楽しいかよ。女と違うんだ、男が泣くのは見苦しいだけじゃないか。残酷な事ばかり言いやがって」
「違うぜ、違うんだ。私は」
「やめてくれ、もう」
信じられないくらいに震えた声での、最低の日の、最低な締めくくり。
「自分がみじめすぎて立ち直れなくなりそうなんだ。魔理沙、頼むよ、お願いだから」
震える体を掻き抱き、目をぎゅっと閉じ、口から漏れそうになる邪魔な声を噛み殺して、恥も外聞もなく俺は赦しを求めた。
「前の事なんか忘れろって、悪いのは私なんだぜって事を伝えたかった。ずっと苦しそうな顔してたからさ」
耳元で声が聞こえる理由も考えられない。
背中や体に回されたものから感じるほのかなぬくもりが心地よく、何よりも辛かった。
「お前みたいなのに惚れられるんだから、私はやっぱりいい女なんだろうな」
本当に、話を聞かない奴。
「お前よりいい奴を見つけられなかったら、指差して笑ってくれ」
これ以上みっともないところ見せたくなかったってのに、俺は、声を出して泣いた。
「おう。おはよう……寝惚けてんのか? 幻想郷の人間は朝の挨拶も満足にできないらしい」
朝。奥の部屋から似合わない及び腰で魔理沙が顔を見せた。
「……大丈夫なのか?」
ひどい顔なんだろう。
昨夜の出来事の上に結局一睡もできなかった事もあって、二つの意味で尋ねられているように聞こえる。
俺は努めて明るく、一度目の告白以前の調子で声を返した。
「正直ブッ倒れてもおかしくなさそうだが平気だ。昔は二徹、三徹とやってたからなあ。
むしろ家族でもない男に平気でよだれ跡つきの顔を晒すお前の将来のほうが不安……あ?
お前まさか人様の布団によだれ落としたわけじゃなかろうな。不潔な奴め、ほら。拭け」
「ぷ、わ!? 冷たっ!」
「牛乳拭いた濡れ雑巾よかマシだろ。肌にゃいいらしいけどな」
流石の魔理沙も、今回ばかりは俺の言わんとしてる事を汲み取ってくれたのだろう。
顔拭きでごしごしやり、上げた顔に浮かぶ表情はいつもの快活なそれだった。
「顔に関しては今のお前に言われたかないぜ」
「そんなにヤバいか?」
「すっぴんのスキマ妖怪とならいい勝負だ」
「喩えはよく分からんが良しとしよう。朝飯はとっくに出来てるし、
食べたらちょっと香霖堂まで買い物に行って来てくれな。アレ仕上げるから」
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昼頃の霧雨邸前にて。
「うわぁーっ!? ででででたぁーーーっ!!」
何がだ。ていうか写真はやめれ。撮るな。
「遅かったじゃないか。こっちはとうに支度を済ませてたんだが」
「妖怪に助力を仰ぎ約束を力づくで反古にしようだなんて見損ないました! でもペンは剣より強し! 私には文々。新聞があります!」
「誰が妖怪なのかね鳥頭。人を見た目だけで判断するんじゃない」
「ああなんだ、外の。貴方がどうしてここに?」
「俺も修理に協力したからな。最終確認を終えた矢先だし」
返事が返ってくるまでにかなり間があったが、面倒なので触れずに台車を前に押し出す。
「え。じゃあ、まさか直ったんですか?」
問題なく動くようになった印刷機を見せる瞬間はちょっと鼻が高かった、相手が天狗だけに。
「直せって言い出したのはお前じゃないか」
「は、はい。その通りですが、瓢箪から駒が出てしまいました」
「私の辞書に不可能の文字はないぜ。今回のハナ差も、すぐに熨斗つけてお返ししてみせるさ」
「いいでしょう。次の勝負の折には他の機械も点検してもらいましょうか」
「ふん、小鬼に笑われるなよ?」
魔理沙とのやり取りを終えた鴉天狗、射命丸文がこっちを向く。
「しかしその顔は何事ですか。今夜がヤマだ、という感じですけど」
「ああ、ちょっとアレだ。フラれて寝てない」
いそいそと手帖を取り出す射命丸。嬉しそうな顔しやがって憎たらしい。
「そうでしたか、失恋とはお気の毒に。お相手はどこにお住まいの?」
「聞き回ってみればすぐに分かる。この程度も調べられずに何が新聞記者か、ってな」
「それもそうですね、では早速。これにて失礼します」
一礼の後、あっという間に射命丸は印刷機もろとも消え去ってしまったのが何故か名残惜しかった。まあとにかく勘の悪い奴。
「余計な事、言わないほうがよかったんじゃないのか」
会話を黙って聞いていた魔理沙が口を開く。
「知ってる。でも一番知られたくない相手の前であれだけ醜態晒せばどうでもよくなる。お相手不明の失恋話でも、話の種くらいにゃなるだろ」
「馬鹿だなお前」
「知ってる」
鼻で笑い、軽く背中を叩いてやる。
「お前がそんな顔してどうすんだよ。笑え笑え、いい女」
「馬鹿な、私の顔はいつだって他人を幸せにする笑顔に満ち満ちてるぜ」
「よだれつきだけどな」
「そこで知ってる、だろ? まったく気の利かない奴だ」
っと、眩暈がした。
そろそろ冗談抜きで倒れるかもしれん。
「んじゃ帰るわ。ありがとな性悪女」
「それはこっちの台詞だぜ化け物面。これからも茶菓子の用意を忘れるなよ」
「知ってる。そっちこそ、次は負けんなよ」
「知ってるぜ」
間抜けな男の失恋話、これにて閉幕。
・私はネジの頭をバカにする天才です。機械まるでダメ。その辺の間違いや疑問についてはご容赦お願いします。
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6スレ目>>409
ガタガタと、周りの物を動かすたびに音が響く。
数多の道具に囲まれて生活していた自分は、ずっとこのままの家で暮らすと思っていた。
が、そんな今までの思いとは裏腹に、自分を囲っていた道具達は今「整理」という作業を遂行されていた。
理由?そんなの知らない。
だって気づいたらやらなくちゃ、と言い聞かせていたから。
片付けて綺麗にして、それで何なのか。
別段今まででも道具の場所は解るし、不便と感じたことはない。
むしろ片付けることによって場所が解らなくなる可能性だってある。
それなのに何故こんなことをしているのか。
決まっている、自分を良く評価してほしいから。
最後に大き目の水晶を退かして、どこぞの巫女が見たら呆れるほど不釣合いなお洒落なテーブルを置いた。
香森に頼んであしらって貰った物は自分も気に入っていた、似合う似合わないは放っておいて。
そこに色々と紅いトコロから”善意で”頂いてきた立派な紅茶の葉が入ってるティーポットを、そしてコースターとカップを置く。
―――そこに並べられたカップの数は、二つ。
チラリ、と時計を見る。
時間まであと6分。
ソワソワ、と時計とテーブルに視線を行き来させて。
時間まであと2分。
ドクドク、と早くなった動悸を深呼吸で整えて。
時間まであと―――
「魔理沙ー、約束どおり遊びに来たぞー!」
一気に赤くなった頬を隠しながら、「いいぜ」と私は言った。
さぁ、私の「恋心」を受け止めてくれるか―――?
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6スレ目>>447
「○○、なんかしようぜ!」
彼女は俺の家に来るなりそう言った。
「メンドイからヤダ」
俺は瞬間そう答える。
「なぁ、そう言わずになんかしようぜ。私は暇で暇でしょうがないんだ」
しかし彼女は引き下がらない
「たく、仕方がないな。……なら、アレをするか」
仕方なく俺は、思いついた遊びをする事にした。
「なら、Draw Fourだ。そして色は赤」
彼女がそういったので、俺はカードを8枚引いた。
その時に、彼女は怪しく嗤いながら言った。
「ふ、ふ不不腐腐。 さっきから負け続きだが……今回はさすがに私の勝ちだな」
彼女は勝てると思ったのかそう言ったが、俺は強気に言い返す。
「さて? それはどうかな?」
俺は自分が引いたカードを確認する。
手持ちのカードは12枚。
内容は 記号は Draw Two 赤青緑の 4枚 と Wild Draw Four 2枚 Skipが赤と緑で2枚
そして青と黄の 1 が4枚 。
数は多いが内容はあほみたいに良い。
対して彼女のカードは6枚か……
すでに使ったカードの中で確か Draw Two は1枚 Wild Draw Four は1枚。
「これなら……いけるな」
俺はニヤリと笑いながら、彼女に聞こえない位の声で言った。
「今回はこれだ!」
彼女はそういい赤の6を出した。
そして俺の番だ。
さて、仕掛けますかね。
「まずはSkip3枚だ」
「ふん。1回位のSkipで私の優勢は変わりはしないさ」
彼女は俺がカードを出すとそう言う。
なので、さらに攻める事にする。
「なら、これならどうだ?」
俺はDraw Twoを1枚出した。
「お返しだぜ!」
すると彼女はDraw Two1枚出す。
「ふふ、ならこれで」
次に俺はWild Draw Four を1枚出す。
「○○、そろそろ勝負をつけようぜ」
そう言って彼女はDraw Twoを2枚出した。
「では、これで終わりだ!」
そう言い俺はDraw Twoを2枚出す。
「クックック。それはこっちの台詞だぜ! これで私の勝ちだ!!」
彼女は最後にWild Draw Fourを出した。
彼女は自信満々な顔で自分の勝利を宣言した。
この顔は彼女らしくて好きだ。もう少し見ていたいと思う。
しかし俺は言ってやった。
「実は……もう1枚あったりする」
「……え!?」
瞬間空気が凍りついた。
「は、はは○○。嘘はいけないぞ」
彼女はそう言う。
気持ちが解らなくは無いが……
そう思いながらも俺は最後の一枚を出す。
「ほれ、Draw Four 色は青」
最後のカード――Wild Draw Four――を俺は出した。
「は、はは……まだ終わって無いぞ……」
彼女は弱々しくそう言った。
Draw Four 7枚 Wild Draw Four 3枚で、計26枚のカードを引かなければいけないので、当然と言えば当然である。
そんな彼女の言葉に俺は、無情にもこう告げた。
「いや、もう引かなくても良いぞ」
「え、どう言うことだ?」
俺がそう言うと彼女は案の定そう聞き返してきた。
「ほれ」
俺はそう言い手札――青と黄の1――を4枚出した。
「あ!?」
「今回は勝てると思ったのに……」
彼女は不機嫌そうに言う。
「まぁ、俺も負けたらやばいんで」
そんな彼女に俺はそう言う。
すると彼女は小さく言った。
「だって……せっかく勝てると思ったのに…」
「え?」
正直驚いた。彼女が今にも泣きそうな声で言ったからだ。
だって、彼女はいつも元気で喧しいくらいだから。そんな彼女が今にも泣きそうなら誰だって驚くだろう。
俺は焦りながらも言った。
「なら、もう一回やろう」
すると彼女はこう言った。
「もう良いよ……。それに○○は、嫌々私に付き合ってくれてるんだろう?」
「違う。そんな事無いって」
俺は慌てて否定するが、さらに彼女は言う。
「違わない! 私が来たときだって嫌そうだっただろ!!」
どうやら彼女は勘違いしているようだ。アレは所謂照れ隠しなのに。
「○○はいつもそうだ。私の事を全然見てくれない」
「へ?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「私がこんなにも想っているのに、私の事を少しも見てくれない」
「なっ!?」
今日一番驚いた。今のは告白と取れるからだ。
しかしそんなことに気付かずに彼女はさらに続ける。
「お前は、私が居るのに、霊夢や紫ばかり見ていて私の気持ちに気付かない!」
彼女にここまで言わせては、俺もその気持ちに答えなければいけないだろう。
その前に彼女を止めないといけないな。
「それからおまえはっ!!?」
そして俺は、言葉を発し続ける彼女をしっかり抱きしめて言った。
「魔理沙、少し落ち着いて。それとこれが俺の気持ちだ」
「あ……うん……」
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最終更新:2010年05月14日 23:54