魔理沙14



うpろだ1151


 ある日魔理沙に

「外の世界には私みたいな魔法使いはいないのか?」

 と聞かれた。
 物語の中くらいにしかいない、と答えると、それでもいいから見てみたいと言う。
 それならと、紫さんに頼みこんでDVDとプレイヤーを調達してもらうことにした。
 快く引き受けてくれた紫さん曰く、

「何かリクエストはある?マヨヒガにも何枚かあるけれど、ないやつでも外から手に入れてあげるわよ?」

 とのこと。外国産魔法学校ものにしようかと思ったが、日本のアニメを頼むことにした。
 幸い、マヨヒガにもあるらしく、

「橙がこれ好きなのよね。黒猫が出てくるから、って」

 ……だ、そうだ。



 香霖堂からテレビを借りてきた頃にはもうすっかり暗くなっていた。
 電力については、ミニ八卦炉をどうにかこうにかして確保できた。
 それはいいのだが、魔法の森の夜は冷える。
 普段暖房に使うミニ八卦炉がふさがっているので、二人でくっついて毛布に包まることにした。
 ……さて、上映会だ。



 外の世界のものだということを差し引いても何となく懐かしいエンディングテーマを聞きながら、
 映画の余韻に浸っていると、魔理沙が尋ねてきた。

「なあ、○○」
「ん?」
「最後の方さ、何で空が飛べなくなったんだ?」
「あー……あれは、恋をして、心が揺れてうまく飛べないってことなんじゃないかな」

 正しい解釈かどうかは知らないが、そんな感じだったと思う。

「へえ……」
「魔理沙はそんなことないのか?」
「まさか。私は恋色の魔法使いだぜ?」

 そう言うと、魔理沙はぎゅっと抱きついてきた。

「だから、○○がいてくれるなら」

 まぶしいような笑顔で、こちらをじっと見つめている。

「もっと速く、高く、遠くまで飛べるんだ」

 抱きしめ返すと、温かな鼓動が伝わってくる。
 心なしか少し速い。

「んっ……」

 吸い寄せられるように、柔らかな唇にキスをした。
 二人ともそのまま動かず、時間が流れていく。

「…………はぁ」

 息が続かなくなって、顔を離した。
 ずいぶん長い時間が経ったような気がする。
 魔理沙は高揚した様子で、なんだかひどく楽しそうだ。
 ソファーから飛び降り、伸びをする。
 毛布が跳ね除けられたが、不思議と寒くはない。

「よーし、恋色魔法充電完了だぜ。○○、夜間飛行としゃれこまないか?」
「おっ、いいな。……待て、ちゃんと箒だろうな?」
「私の家にはデッキブラシはないぜ。あったらそれでも良かったんだが」

 床に散らばったあれこれの中から、魔理沙はいつもの箒を引っ張り出してきた。
 外に出て箒に乗った魔理沙は、ふとこちらを振り向いた。

「せっかくだから、マヨヒガまで行って橙も一緒に乗せていこうかな?」
「いや、三人乗りは無理だろ」

 一応は止めたがそれでもやりかねないな、などと考えながら、
 いつものように後ろに乗り、魔理沙の小さな背中につかまる。
 半分は振り落とされないように、半分は支えるつもりで。

「よーし、出発!」

 ふわりと宙に浮かんだ箒は、ロケットのように夜空に飛び上がった。

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うpろだ1241


「○○、明日○○の家に行ってもいいか?」


「僕の家に?」


「ちなみに駄目って言っても行くからな」


「それじゃあ聞いてる意味がないじゃないか。それにそんな急に言われても…」


「何だよ、何か用事でもあるのか?」


「いや、別にないよ。むしろいつでもいらっしゃいって感じかな」


「……それなら最初っからそう言えよな」


「あはは、ゴメンゴメン。それじゃ明日、待ってるからね」




















○○と約束した翌日、私は夜明けと共に○○の家にやって来ていた。
外の空気はひんやりとして寒いくらいだが、今の私にはちょうどいい。
何しろ少しでも早く○○に会いたくて、ここまで最高速でぶっ飛ばしてきたからな。


「○○ー、遊びに来たぜー!」


深呼吸して呼吸を整えた後、私は玄関に向かって○○を呼ぶ。
○○の家は人里から少し離れたところにあるため、こうやって大声を出しても近所迷惑にはならない。
まぁ、元々私はそんな事気にしないんだけどな。


「………反応がないな」


何度か呼びかけてみるが、○○からは何の反応もなかった。
さすがに時間が時間だからまだ寝ているのかもしれない。
しかし、玄関の戸に鍵がかかっているようでこちら側からは開けられなかった。


「仕方がない。こうなった強行突破だぜ」


私は○○の家に向かってミニ八卦炉を構えた。
全力で撃つと家ごと○○を吹き飛ばしてしまうので、玄関の戸を破壊する程度の魔力を込める。


「(最低出力)マスタースパーク!!!」


私の放った魔法は狙い通りに○○の家へと命中し、轟音と共に玄関の扉を跡形もなく消し去った。
これで○○の家に入れるぜ。
これくらいの被害ならいつもの事だし、○○は優しいからそれほど怒らないだろう。
最後の障害を排除した私は意気揚々と家の中に入っていった。


「○○、遊びに来てやったぜ!………ありゃ? もしかしてまだ寝てるのか?」


マスタースパークの余波で家の中に散乱してしまった少量の瓦礫を避けつつ、
私は○○が眠っている布団の傍まで移動する
さっきの爆発音で目を覚ましたと思ったんだが、意外なことに○○はまだ眠っていた。


「ほら○○、早く起きろ」


さすがに玄関のときみたく魔法を使うわけにはいかないので、
私は○○の身体を揺すって起こそうと試みる。
だけど、私はすぐに○○の様子がおかしい事に気がついた。


「……○○?」

「……はぁ、はぁ……うぅ……」


私の言葉に返事はなく、ただただ苦しそうに呻いている○○。
それによく見ると、○○の顔がありえないくらい真っ赤になっている。
もしかしたらと思い額に手を当ててみると案の定、○○は物凄い熱を出していた。




















トントントン……トントントン……


一定のリズムで刻まれている、何処となく懐かしい感じのする音。
それを目覚まし代わりにして僕は目を覚ました。


「……ん……っ!?」


ぼんやりと天上を眺めている僕は、不意に鋭い頭痛に襲われた。
お酒の飲みすぎで二日酔いになった時とは違うけど、頭が割れるように痛い。
それに何だか知らないけど身体が物凄くダルイ。


「……あれ、これは?」


自由の利かない身体に鞭打って何とか上半身だけど起こすと、布団の上に何かが落ちた。
布団の中から右手を出して触ってみると、まだ微かに冷たい。
それは白い布に包まった氷のうだった。


「どうして、氷のうが……」

「○○、目を覚ましたんだな!」


訳が解らず首をかしげている僕の元に届いた声。
視線を向けてみると、そこには湯気の立ち昇る小さめの土鍋を持った魔理沙が立っていた。
何だか僕を見て凄くビックリしているみたいだ。


「え? まり、さ? どうして魔理沙が…うっ!」

「ほらほら、病人はちゃんと寝てないと駄目だぜ」


いきなり強い頭痛に襲われた僕の元へ駆け寄ってくる魔理沙。
両手に持っていた土鍋を床に置いて、僕の身体をそっと支えてくれる。
それから僕は魔理沙に言われるまま横になって布団を被ると、事の顛末を尋ねた。


「………そっか、それじゃあ魔理沙が看病してくれてたんだ」


魔法を使って玄関を破壊した事はちょっとアレだけど、
それがなかったら僕はもっと酷い状態になっていたかもしれない。
話を聞いた僕は魔理沙に対する感謝と、そして申し訳なさでいっぱいになっていた。


「ゴメンね、わざわざ来てくれたのに看病なんてさせちゃって」

「私が勝手にしたんだから、○○は気にしなくていいぜ」


謝罪する僕に対して満面の笑みをみせてくれる魔理沙。
その笑顔は普段の彼女のものと少し違っていたけど、とても綺麗な笑顔だった。


「ところで○○、雑炊作ったんだけど食べれそうか?」


そう言って魔理沙は先程持ってきた土鍋を見せてきた。
鶏肉や人参、椎茸に葱といった色とりどりの具材の入った卵雑炊。
先程から鼻腔を擽る香りといいこの見た目といい、何とも食欲をそそられてしまう。


「これ、魔理沙が作ったのかい?」

「私しかいないのに、他に誰が作るんだよ」


魔理沙の言う事はもっともだった。
でも、魔理沙って意外に家庭的な部分があるんだな。
口に出したらマズイ事になりそうだから言わないけど。


「それで、食べれそうか?」

「うん。せっかく魔理沙が僕のために作ってくれたんだ。ありがたく頂かせてもらうよ」


僕は魔理沙の言葉に甘えて雑炊を食べる事にした。
すると魔理沙は僕の背中に手を回して起き上がる手助けをしてくれた。
そして雑炊をレンゲで掬い、僕の口元へ運んで……え?


「……あの、魔理沙?」

「ん? あっ、このままだと熱いよな。スマンスマン」


僕の困惑を違うの意味に受け取ったらしく、謝りながらレンゲを自分の口元へ運ぶ魔理沙。
そして『ふぅー、ふぅー』と息を吹きかけて雑炊を冷ますと、再び僕の方へ持ってくる。


「これなら食べられるよな、○○」

「いや、そういう事じゃなくってね、その、自分で………」

「ほら、ゴチャゴチャ言ってないで食べろって」


魔理沙は僕の言わんとしている事をまるで無視してレンゲを差し出してくる。
でも、僕は気がついていた。
平静を装っている風の魔理沙の顔が、多分今の僕に負けないくらい真っ赤になっている事に。
もしかして魔理沙は気付いてる上でやってるのかな?
だとしたら僕の取る行動は決まっている。


「……そうだね。せっかくの魔理沙の好意だし、素直にいただくよ」


僕は雑炊がなくなるまで、真っ赤になった魔理沙に食べさせてもらったのだった。
もちろん、僕の顔も高熱とは別の理由で真っ赤になっていたんだけど。




















数日後、私の献身的な看病のおかげですっかり元気になった○○。
しかし○○の病気がうつったらしく、今度は私が体調を崩してしまった。


「魔理沙、ご飯が出来たよ」

「ああ……ありがとな、○○」


そんな私の看病をしてくれているのが元気になった○○だ。
○○はわざわざ自分の仕事を休みにして一日中私の傍にいてくれていた。
こんな幸せが続くんなら、もうずっと病気のままでも良いとさえ私は思ってしまう。
だけど、そんな恵まれた状況の中でひとつだけ勘弁して欲しい事柄があった。


「それじゃあ魔理沙、僕が食べさせてあげるからね」


それが食事の度に行われる『はい、あ~ん♪』という奴だ。
私も○○が病気の時にチャンスだと思ってついやってしまったが、
これはやる方よりもやられる方が断然恥ずかしい。


「あの、○○? もう自分で食べれるから、大丈夫だぜ?」

「だ~め♪ 魔理沙は病気なんだから、僕に任せてればいいの」


しかも○○の奴、それに気付いてる上でやってくるから性質が悪い。
おかげで私は食事の度に恥ずかしさで悶え死にそうになってしまう。
それでも本気で拒絶しないのは、やっぱり○○にして欲しいって思ってるからで…


「はい、あ~んして?」

「……あ~ん」


気付けば私はいつも○○の事を受け入れていた。


「どう、美味しい?」

「………美味しい」


私の言葉を聞いた○○は本当に嬉しそうな笑顔になる。
ちくしょう……その笑顔は反則だぜ、○○。
そんな顔されたんじゃ何も言えなくなるじゃないか。


「よし、ご飯を食べたら身体を拭こうか」

「ああ………ん、えぇっ?!」


ちょ、ちょっとマテ○○!
勢いで返事したけど、今物凄い事言わなかったか?!


「何を驚いてるんだ? 病気なんだからお風呂は入れないだろ。
 それに随分汗もかいてるみたいだし、昨日みたいに着替えるだけじゃ気持ち悪いだろ」

「そ、それはそうかもしれないけど、でも………」


身体を拭くということは服を脱ぐという事であって、
それは身体を拭いてくれる人に裸を見せる事になる訳であって、
つまりこの場合は私が○○に裸を………


「それに魔理沙だって、病気したときに僕の身体を拭いてくれただろ?」

「ッ!?」


その言葉で私の脳裏に○○の裸が浮かび上がってくる。
見た目は華奢な感じだけど、意外にしっかりした身体つきの○○。
そして誘惑に勝てず、私は○○の身体を拭きながらつい手を……もうそれ以上は考えられなかった。


「………きゅぅ~」

「わっ?! ま、魔理沙? 頭から湯気が出てるよ?」


○○の慌てる声を聞きながら、私の意識は闇の中に消えていった。




















そして意識が戻った後、私は○○に身体を拭いてもらったのだった。
えっ、詳しい描写? ば、馬鹿! あんな恥ずかしい事詳しく言えるわけないだろ!!!

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うpろだ1291


「貴方の夢想、具現化してあげるわ。好きなカードを選びなさい」
突然目の前に現れた、金髪の妖しい、美女。
目の前には様々な絵柄のカードを拡げている。
不審な目で見つめると、くすりと笑った。
「私は確かに怪しいものだけど、別に貴方に危害を加えるつもりはないわ。ただちょっとしたお遊びに付き合って欲しくて」
……この女アレか?
美人なのにもったいない。
まあいい、適当に付き合って終わりにしよう。
そう思い目の前のカードを眺める。
陰陽玉が描かれたカード、懐中時計とナイフが描かれたカード、無数の蝶が描かれたカード、金髪の人形が描かれたカード、紅い月と蝙蝠が描かれたカードetc……
ざっと目を通した限り統一性は全くない。
一体なんのつもりなのか、首を捻りながらカードに目を通していると、一枚のカードが目に入った。
星空をに浮かぶホウキが描かれたカード。
様々に色が着いた星が目を惹く。
「あら、それでいいのかしら?」
その色彩に見とれていると不意に女に声をかけられた。
思わず頷く。
と、女は笑みを深くした。
「分かったわ。それじゃあ、これを持って。手放しちゃダメよ」
有無を言わせぬ調子でカードを押し付けられた。
「いってらっしゃい」
女が言い終わると同時に襲い来る浮遊感。
気が付くと俺は満天の星空を落下していた。

落ちる俺を受け止めたのは絨毯だった。
魔法のランプとセットで有名な空飛ぶ絨毯、俺はそれに横たわるように乗せられていた。
さっきまで歩いていた見慣れた道は影も形もない。
周りはただ闇。頭の上には綺羅星がまたたいている。
……さて、これはあの女の仕業なんだろうか。
…何者だあの女。
というよりここはどこだ?
体を起こして辺りを見回しても、真っ暗で何も見えない。
おまけにこの絨毯、微妙に前に進んでいる。
……これはまずい。
何がまずいのか分からないが、このままどこかに連れていかれるとしたら。
言い知れぬ恐怖が沸き上がる。
なんとかこの状況から抜け出すための方法を考えていると。
「なんだ? 見ない顔だな」
後ろから声をかけられる。
振り返ればホウキに乗った人間がこちらを見ていた。
黒と白のエプロンドレスに、黒いとんがり帽子という魔女のような格好。星をバックにしたその姿はまるで……
「珍しい物に乗ってるな。ちょっと貸してもらってもいいかね?」
貸すのはいいが俺の身の安全は保証できるのか?
「ああ、答えなくていいぜ」
尋ねようとした俺を遮って魔女が言うと、おもむろに腕を振りかざす。
「私は欲しいものは力ずくで手に入れる性質なんだ」
魔女が腕を降り下ろすと無数の星が降り注いだ。
思わず目をつぶると同時に体が下に向かって引っ張られた。
驚いて目を開くと星が上に向かって流れて……いやちがう、絨毯が急降下を始めた。
魔女から打ち出される星をかわすように絨毯が動く。極彩色の星が俺をかすめて行く。猛スピードで星空を駈けているような感覚。
「流石にこれじゃ当たらないか。……」
魔女がどこからか紙切れを取りだし高く掲げた。
「魔符『ミルキーウェイ』!」
左右から飛び交う無数の星。
その間を縫うように舞う星屑。
動く度に揺れる絨毯と相まって、本当に天の川に漕ぎ出しているようだ。
「やるな。これはどうだ。魔符『スターダストレヴァリエ』!」
天の川が消え去り、星が俺を取り囲む。
そして魔女を中心に収束し、拡散し、様々にその表情を変えていく。
万華鏡のような光の舞い。
一秒毎に姿を変える星の幻想。
この星にぶつかれば、ただではすまないことはなんとなく理解している。
絨毯がかわすことを放棄すれば、吹き飛ばされてパラシュート無しのスカイダイビング決行だろう。
それでも自分自身で身動きすることは出来なかった。
見とれていた。流れて行く星たちの煌めきに、瞬きすら出来なかった。
「これもかわすか。お前、すごいな。私の魔砲を避け切れるやつなんてそうそういないんだぜ。
オーケー、私も本気だ。ここまでやってくれるんだったら手なんか抜けないからな」
不意に星の段幕が止む。
魔女が八角形の箱のようなものを取りだし、俺に向けた。
初めてまともに対峙したその顔はやんちゃそうで、でも可愛らしいものだった。
その瞳はきらきらと輝いている。
「いくぜ。恋符『マスタースパーク』!」
箱が光ったのと視界がぶれたのはほぼ同時だった。
輝く光が残像となって一本の線になる。
次の瞬間、視界の隅で光が奔流となって駆け抜けて行くのが見えた。
低く唸り、火花を散らしながら煌めく光の塊が、長く尾を引きながら遥か彼方まで翔んでいく。
何故かあの魔女のようだと思った。
「油断大敵だぜ」
声に気付き振り返れば、絨毯に乗り込んできた魔女。
「まあ、あれをかわされちゃあ、これ以上やりあう気はないが。
しかし、どうなってるんだこりゃ?」
自分でもよく分からないと正直に話すと、魔女はしげしげと俺を見る。
「…お前、外の世界の人間か?」
よく分からないが金髪の派手な女に連れてこられたと言えば、ひどく納得した様子で頷く。
「あいつならやりかねないな。だったらまた会えるんだろ?」
今度こそその絨毯手に入れてやるとニヤリと笑う。
「また来いよ、いいな、必ずだぞ。ああ、答えなくていいぜ」
言うなり少女は顔を近付けて唇を奪ってきた。
「私は欲しいものは力ずくで手に入れる性質なんだ」
言った後でホウキにまたがり、ものすごい勢いで闇の向こうへと消えていった。
去り際に頬を染めていたのは、気のせいではないだろう。
唇に残った感触と暖かみにこちらも赤くなりながら見送った。

「おかえりなさい」
突然の引き上げられる感覚に我に帰ると、金髪の女が目の前にいた。
いつの間にか見慣れた道に戻ってきている。
「お楽しみいただけたでしょうか?」
おどけた感じで頭を下げる女。
「それ、貴方にあげるわ」
とにかく疑問は山ほどあったが、こちらが口を開く前に女は言った。
「それがあればいつでも幻想郷に行ける。よければまた遊びに来て」
言いながら地面へと沈んでいく。
「さようなら。縁があったらまた会いましょう」
完全に頭で沈みきり、そのまま姿を消す。
……何者だったんだろう
ふと持ったままだったカードを見る。
描かれたホウキに少女の姿を重ね合わせる。
同時にあの煌々とした星の光を。
何一つ分かったことはない。
ただ一つだけ確かなのは……

俺はまたあの少女に会いに行くだろう、ということだった。

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新うpろだ41


「なあ、これなんかどうだ?」
「ちょっと薄着に過ぎるな。向こうの秋は思ったより寒いぞ」

そうか、と呟いて魔理沙は、服を櫃に戻した。
ここは森の中にある小道具屋、香霖堂。さほどやる気のない半妖の店主が一人で切り盛りしている。

普段は訪れる客も少ないこの店に、来客があった。
白黒で有名な「普通の魔法使い」霧雨魔理沙と、外の世界から来たという青年、△△である。

「お、なんか妙なの発見。これなんだ?」
「…なんでセーラー服が…」
「なあ、これは駄目か?」
「出来れば別のにしてくれ…」
「まったく、注文の多い奴だぜ」

二人は今、外の世界の服を求めてやってきた。店主の森近 霖之助に事情を話し、代金代わりに
腕時計を渡すと、店主は大きな木の櫃を引っ張り出した。聞くと、衣服の類は比較的集まりやすく、
また好んで引き取るものもいないため、溜まる一方であり、引き取ってくれるのであれば代金は
むしろいらないと言われた。しかしそれ以前に魔理沙がよく店のものを強奪していくので、
せめてものお詫びと押し通すと、悪いね、ゆっくり選んでいくといいと言い残し、店の奥に
篭ってしまったため、店内は今、二人きりだ。

「なあ、やっぱこのままじゃダメなのか」
「どこへ行ってもジロジロ見られたり、指を指されたりしたいなら構わないぞ」
「……」

△△を振り返った魔理沙は、また無言で服漁りを再開した。
紫が発案した、神無月の間だけの外界旅行。昨日申し込み用紙を回収しに来た紫の式、藍との
会話を、彼は思い出していた。

『ん、記載の漏れは無い様だな。紫様に届けるよ』
『よろしく頼みます』
『ご苦労様だぜ』
『それはいいんだが、魔理沙、お前はそのまま行くのか?』
『なんだよ藍。ダメなのか?』
『その服じゃ、目立つと思うんだが』
『やっぱり、そう思います?』
『どこだろうと私は「普通の魔法使い」霧雨魔理沙だぜ?』
『…△△、明日あたり香霖堂にいって、こいつの服を選んでやれ』
『実は一応、そのつもりです』
『お前ら無視するなー!』

「だぁーっ!」

奇声を上げて、服を放り投げる魔理沙のおかげで、△△の思考が現在に戻った。

「何やってるんだ…」
「何を選べばいいか分からないんだよ!」
「そんなに薄着じゃなくて、妙なのじゃなければなんでもいいんだよ。難しく考えるな」
「う、うるさい!私は、そ、その…」

急にうつむいて、尻すぼみになる声。

「ま、魔法一筋だったから、だからな、え、えと」

表情は見えないが、何かを恥じているような印象だと、△△は思った。
一応、思い当たる節はあるのだが。

「え、選び方とか、こーでぃねーと、ってい、いうのか?そういうの、よく分からないんだよ…」

彼の予感は的中した。魔理沙はいつも、「魔法使いはこうあるべき」と、白黒のエプロンドレスを好んで着ている。
いや、それしか着ないと言い換えてもいい。そこに突然、振って湧いた服選び。どうすればいいのか分からないのも
仕方が無い。

「…幻滅、したか?」
「え?」
「いい歳して、服ひとつまともに選べないこんな女、嫌いになっただろ?」

魔理沙は、とてつもなく情けなかった。恥ずかしかった。
大好きな男の前で、こんな失態を演じる自分が。

「なら、ちゃんとそう言ってくれ。強がらなくていいから」

泣きそうな顔で見上げた魔理沙のすぐそばに、△△の顔があった。

「△、△…」
「ずっと強がってたら、疲れるだろ。せめて俺には、駄目な魔理沙とか、弱い魔理沙とかも見せてくれよ」

魔理沙を△△は優しく抱きしめる。少しの間をおいて、魔理沙も弱弱しく抱き返す。

「…落ち着いたか?」
「…うん。あ、あり、がと」
「じゃ、一緒に選ぶとしますか」
「ああ。…私を可愛く、飾ってくれよ?」
「もとから可愛いけどな、魔理沙は」
「…ば、馬鹿、そ、そんなことさらっと言うなよぅ。は、恥ずかしいぜ…」
「嫌だったか?」

胸に顔をうずめたまま、軽く横に振る魔理沙。

「さあ、さっさと選んでしまおう。旅行の準備は、まだまだ残ってるんだからな」

頭をあげた魔理沙の顔は、笑っていた。いつまでも見ていたいような、太陽のような笑顔で。

「…うんっ!」

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最終更新:2010年05月15日 00:49