魔理沙22



新ろだ2-264



「ぐぁー、あつい~、あつくてしぬぜ~」
「魔理沙、あっまり暑い暑い言うな。更に暑くなるから」
「そんなこと言っても暑いものは暑いんだぜ。あーあつい~」

 ジリジリと照りつける太陽。余りの暑さ縁側でぶっ倒れている二人。
 こう日差しが強くては打ち水もあまり効果はなく、日陰でさえ風が吹かなければ蒸し風呂状況だ。

「何か手っ取り早く涼しくなる方法はないか?」
「あの氷精でも捕まえれば涼しくはなるだろうが、すでに誰か考えているだろうしなー」

 うーん、と二人して頭を悩ませていると天啓を得たのか魔理沙はがばっと身を起こす。

「そうだ! 肝試しだ! それがいい!」
「あー、確かにあれは夏の風物詩だし、いい考えだろうけどちょっとなー」
「なんだよ、私の案にケチつけるのかよ○○は」

 せっかくひらめいた名案に否定的な意見をあげる○○に魔理沙はぶーぶーと文句をたれる。

「いや、だってここじゃ幽霊、妖怪が普通に人間みたいに暮らしているじゃないか。そんな中、お化けなんか見て誰が怖がるよ?
 だいたい、前やった肝試しはみんな脅かす役ばかりやりたがって参加して怖がったのは妖夢一人だって聞いたぞ」
「う……それはそうだけど……」
「……いや、待てよ。そうか、あれならいけるか? 魔理沙、紫と連絡とれないか?」
「ん? あのスキマ妖怪とか? まぁ霊夢に聞けばなんとかなるとは思うが……。何するんだ?」
「ふふ、みんなに本当の肝試しを教えてあげよう……」

 ちょっとあくどい笑い方をする○○に魔理沙はちょっと背筋がぞくっとしたのを感じた。



 ◆  ◆  ◆



 数日後の夜、幻想郷の暇人達が神社に集まり、肝試しをすることになった。
 今回は○○の企画だということで皆わくわくして集まったところ、神社の高台から見下ろしたところに怪しげな建物があることに気がついた。
 見るからにおどろおどろしい外観、窓ガラスは割れ、外装はぼろぼろ、風に乗り漂ってくる消毒液の臭いが嫌悪感を感じさせる。
 いわゆる廃病院といわれるやつだ。
 その外見にみな気押されているが、日ごろ幽霊や妖怪を見ている、または自身が妖怪である者がそう簡単に怖がっては情けないと虚勢を張っている。

「な、なぁ……今回の肝試しってあの中でやるのか?」
「そうだよ。ある意味有名なお化け屋敷を紫に再現してもらったのさ。中身も仕掛けも忠実にね。くくく……」
「へ、へぇ……ま、まぁどれだけ怖いものなのか期待させてもらうとするか。へへっ」

 強気に笑う魔理沙だが少し足が震えているのを○○は見てしまったが武士の情けということで見ていないことにした。



 初めに怪談話をして恐怖心を高め、それから肝試しが始まったのだが、行く者行く者しばらくするとすさまじい勢いで病院から駆け出してくる。
 紅魔の主人と従者は二人とも半ベソ、冥界の庭師と管理人は気絶、月からの蓬莱人とイナバはあんなもの怖くなかったと笑ってはいるが腰が抜けていては締まりがつかない。

「お、おい……本当に大丈夫なんだよな?」
「う……ま、まぁ何とかなるだろう? 怖がってはいるがみんな無傷なんだしさ。さ、今度は俺達の番だ」
「へ、へっ! 作り物に怖がるなんて皆情けないぜ!! 私は怖がったり、泣いたりなんて絶対しないからな! さぁ行くぜ○○!」

 無理に大声をあげて廃病院に突貫する魔理沙。それに引きずられるようにして○○は後に続いた……。



 ――少女肝試中



「うっ、ぐすっ……な、なぁ、○○……も、もう終わりか? 目開けて平気か?」

 初めの勢いはどこへやら。○○に手をひかれて魔理沙は目をつぶったまま涙を拭い続ける。
 まるで迷子になった妹がやっと兄に出会えたかのようだ。

「ああ、もう外だからな。目開けて平気だぞ」
「……ほんとうだな? 目開けて目の前にお化けいるとか無しだからな?」

 おそるおそる目を開けた魔理沙はもうここが廃病院の外だと分かるとぶわっと関を切ったかのように涙を流しながら抗議の声をあげる。

「な、なんなんだよぉ! あれは! 普通幽霊とかは『うらめしや~』とか決まった台詞を言ってから出てくるものだろう!?
 音も立てずに背後に忍び寄るとか、通り過ぎた後、飛び起きて追いかけてくるとか無しだろ! 無しぃ!!」
「まぁ、それがこのお化け屋敷の特徴だからな。仕方がないさ」
「うう……納得いかない、あんなの幽霊じゃない……」

 幽霊じゃなく人が演じているもの(今回は紫の協力で人ではなく妖力で動いている人形)だということは黙っていることにする○○。
 それじゃ皆のところに戻ろうかと先に進もうとする○○を慌てて引き止める魔理沙。

「……? どうしたんだよ魔理沙。皆のところに戻ろうよ」
「いや、あのな……? ちょっと言いにくいことなんだがな……。最後、やっと出口だって気を抜いたところで驚かされただろ? その時にちょっと……な?」

 もじもじと足をすり合わせお尻に手を当てて恥ずかしそうに魔理沙は口を開く。

「……少し、ちびった」
「……はい?」
「だ、だから! 最後油断してたんだってば! ……なぁ、○○。外から見て平気かちょっと確認してくれないか?」
「ん、ああ……」

 ○○が後ろに回り、魔理沙はお尻に当てていた手をどかして首だけで振り返る。

「ど、どうだ?」
「あー、魔理沙、エプロンはずして腰に巻いた方がいいかもしれない。結構くっきり分かる」
「う、うう……そんなに分かるのか……。はずかしい……」

 しょんぼりとした顔でエプロンをはずして腰に巻きつける魔理沙。

「なぁ、どうしようか。こんな格好じゃ何があったかすぐに分かっちゃうだろ?」
「そうだなぁ……。じゃ、俺が魔理沙が足をくじいたからそのまま先帰るとでも言ってくる」

 歩きだそうとした○○を必死の形相で腕を引っ張る魔理沙。

「ちょっ! 待てよっ!! ここに置いてくな! 置いていったら本気で泣くからな!」
「……まだ怖いのか」
「……うん」

 やれやれといった感じで○○は魔理沙に背を向けてしゃがみこむ。

「ほれ、おぶされ。そうすれば足くじいたようにも見えるから」
「す、すまないな……○○……」
「それは言わない約束だよ。おっかさん」
「ばか」



   ◆   ◆   ◆



 家までの帰り道、○○は魔理沙をおぶったまま歩いていた。

「わ、悪いな……、ずっと背負わせたままで……。あ、もう誰もいないから降りようか?」
「いや、このまま家まで行っていいさ」
「で、でもさ」
「前に背中でゲロ吐かれた時よりかはずっとマシだから」

 更に顔を真っ赤にして○○の後頭部をはたく。

「お前、どうでもいいことばっかり覚えてるよな!」
「どうでもいいことじゃないさ。魔理沙との大事な思い出だ」
「綺麗なこと言って誤魔化そうとするんじゃない!!」

 ポカポカと背中で暴れる魔理沙に○○は苦笑する。

「いや、本当にいい思い出だと俺は思ってるよ。何かしら失態起こした魔理沙は普段の元気さからは考えられない位しおらしくて可愛いし、
 そんな姿が見られて、眼福、眼福♪」
「……○○、お前変態だよな」
「変態か。別にそう言われても気にしないし。魔理沙限定の変態だから」
「喜んでいいんだか悪いんだか……」

 そう言ってはいるものの、魔理沙の表情は綻んでいる。よりしっかりしがみつくと魔理沙は○○と他愛無い話を始めた。

「今回の肝試しで少しは涼しくなったか?」
「ま、まぁな。別の意味でスースーしてはいるがな」
「あはは、それは仕方がないだろう」
「……なぁ、今度はさ、湖とか川とかに泳ぎにいこうぜ。西瓜でも持って」
「それはいい考えだ。今から楽しみだな」
「ああ、まだ暑い日は続くだろうから。また二人で涼しくなること考えていこうぜ? でも、もう怖いのはなしでな?」

 暑い夏はまだまだ続きそうだ――





「…………」
(ススススッ)
「ば、ばかっ! 手をあげはじめるなっ!! 今何も履いてないんだから! あっ、こら! スカートの中に手を入れるなよぉ!!」
(ナデナデ)
「これがホントの撫でまわしたい尻」
「○○のばかぁ!! 変態! 死んじゃえ!!」

終われっ!



新ろだ2-270



「○○~」

ベッドの上。隣に寝ている魔理沙が眠たげな声を上げる。
おやすみをのキスを交わしてから10分は経っているだろうか。
寝言かと思ったが、徐々にすり寄ってくるので寝言では無いと解った。

「……何だ?」
「んー……何でも無い。呼んでみただけだぜ」
「何だよ、もう」
「へへっ、悪い」

魔理沙は悪戯っぽく笑いながら、俺の脇腹におでこをこすりつけてきた。俺はその頭を撫でてやる。
しかしこんなやりとり、可愛い魔理沙だから赦せるが、オバサンになって、
さらには外の世界の絵本通りの魔女ババアになった魔理沙に同じ事をされたとしたら、
俺は赦せるだろうか?

……赦す。赦そう。そんなキュートに年老いてくれるならそれはそれで良いじゃないか。
言い聞かせるでもなく、何となく素直にそう思えた。

ふと、アリスのことが頭に浮かんだ。
アリスも元は人間だそうだ。
そして年齢は、その見た目通りでは無いのは間違い無い。
当人から、魔女は、食事を採らなくても良くなる魔法を使うことで老化を止め、
それでようやく一人前になるのだという話を聞いた。
だったら、普通の魔女なんて言ってる魔理沙は、実際には半人前もいいところなわけだ。

でも魔理沙ほど研究熱心なら、今使えたっておかしく無いんじゃないだろうか。

「魔理沙さ」
「んぁ……何?」

しかしそれは訊かない方が良いのかもしれない。少なくとも今言うことじゃない。
心の僅かなつかえが、俺の言葉を曲げた。

「……何でも無い。呼んでみただけだ」
「それは私の真似か?」
「ごめんごめん。そんなとこだ」

魔理沙の頭をぽんぽんと軽く触れると、魔理沙はまたぎゅっと体を寄せ、それきり黙った。
ひょっとすると、本当は魔理沙も何かを言おうとしていたのかもしれないな。

虫の音と、時計の音、そして吐息だけが微かに聞こえる。
月の蒼い光が、魔理沙のブロンドの髪も肌もシーツも一緒くたに、白銀に照らしている。
この色に照らされると、何者も生物という印象を放たない。
俺は目を閉じて、腕の中の魔理沙を体温で感じることにした。

このまま寝てしまうのかと思った頃、魔理沙は俺の体から離れて、俺の顔を見上げてきた。

「なぁ、○○」
「呼んだだけ?」
「良かった、起きてたか。違くて、そうじゃなくて……」

魔理沙は上目遣いに俺を見ている。
何か一大決心をしたかのような顔をしている。
それに気圧され、俺も魔理沙から見たらさぞ神妙な面持ちとなっていることだろう。

「明日……3食、キノコ鍋でいいか?調合に使えない奴が余り過ぎちゃっててさ」

ぷっ、と俺は吹き出した。
主に、俺の考えていたこととのギャップにだ。
よりによって明日のメシの話だったとは。

「ちょ、そんな笑うことないじゃないかっ。確かに採る種類を間違えたのは失態だけど……」
「ごめんごめん。いやまあ、いいよ。魔理沙のキノコ鍋美味しいしな」

少しむっとした魔理沙だったが、最後に楽しみだと付け加えると、
その顔が笑顔に変わった。

「ふふふ、そうだろうとも。
 そうだ、暑いし、鍋じゃなくて冷製キノコパスタとかがいいかな。
 赤と緑がよく映えるだろうし」
「赤……緑……?大丈夫なキノコなのか?それ」

魔理沙はくすくすと笑って、根拠も示さず、大丈夫、とだけ言って仰向けになった。

「じゃ、今度こそおやすみ」
「ん、おやすみ」

上から軽くキスをしてやると、魔理沙はにっこりと笑って、目を瞑った。
程なく、規則正しい寝息が聞こえ始める。
魔女の件は……まあ、どうでもいいか。
とにかく、明日も楽しみだ。



新ろだ2-287



 今日は午後に魔理沙が来る約束だった。
 つまり午前中は暇だということになる。
 てなわけで、暇潰しに、先日香霖堂でいただいた画材を使って絵など書いてみた。
「――で? 何でナナメ45度のいいアングルから書かれた私がそこで乾かされてるんだ?」
 予定通りの訪問者は、開口一番これである。
「ちょっとした気紛れだよ。なかなかいい出来だろ?」
 これでも小学校と高校では美術系の集まりで腕を揮わせたものである。
「いや、出来はまあ……モデル本人がとやかく言うのもあれだからな」
 本人的にも悪い仕事ではないらしい。よかったよかった。
「何なら買うか? 安くするぞ」
「要らん。それよりな、なんで色が桃色だけなんだよ」
 とある理由から、魔理沙の絵は桃色を基調に――というかその濃淡だけで着色したのだ。
「わからねーか?」
「分からねえよ。もうちょっとこう、ビシッと格好いい色はなかったのか? これじゃまるで私が凄絶な乙女みたいだぜ」
 『乙女』に使っていい形容詞はもうちょっと愛らしいものだと思う。凄絶て。
 せめて『爆裂』とかにしろよ。
「いや、恋色の魔法使いってのを意識してみたんだけど」
 陳腐な発想と笑われたらそれまでだが、個人的に『恋』と言われれば赤系統の色だ。
 結果、ちょっと甘酸っぱい感じを加味して、恋色=桃色という方程式が完成したのだが。
 当の魔理沙は、顰め面でちょっぴり納得のいっていないご様子。
「なんつーかな。もう少しこう、燃え上がるような情熱が足りないと言うか――」
 ぐわーっと両手を使って燃え上がる炎のジェスチャーをする魔理沙。
「なら、赤系の色混ぜてみるか」
 善は急げと絵の具を手に取る。パレットに残っているピンクを水で溶き、そこにカーマインを少し加えた。
「いやしかし、情熱の中にあっても冷静さを忘れない賢さが片思いを勝利へと導くのであって――」
「冷静……は、青かな」
 今度はウルトラマリンブルーを溶かして、混ぜ合わせる。
「で、時には包み込むような温かい笑顔で相手を癒し――」
「温かい、か。暖色といったらオレンジだな」
 べたべた。
「でもまあ、大自然のような安らぎっていうのも恋愛関係には大切だな」
「自然っつったら緑か」
 まぜまぜ。
「んで、それから――」
「ええとそれなら――」
 黄。
 水色。
 茶色。
 ゆかり。
 以下略。


「――と、まあ、大体こんな感じだろ、恋色ってのは。で、どんな感じになった?」
 語り終えたという満足げな顔で、わくわくと問う魔理沙。
 しかしながら、彼女の色の選択というのはとっても必要条件的で欲張りな選び方なのであり、
「ほれ。――まあなんつーか、もっと取捨選択をしろこの贅沢者」
 種々の要素を混ぜに混ぜまくった完成色は、
「…………うわ、ひでえ」
 真っ黒になったのだった。
 当然と言えば当然の結末である。なんせ、魔理沙のチョイスは俺の手持ちの絵の具殆ど全種だったのだ。
 魔理沙の感想がその惨状をこれ以上なく的確に言い当てている。
 ――いや、だけどまあ。
「何となく納得したよ、恋色っての」
「はあ?」
 自分で気付いていないのか、魔理沙は首を傾げる。
「ま、後で鏡でも見てみ」
「何だよそれ。ってうわ、余計なことやってる間にもうこんな時間か」
「余計って、お前が言い出したことだろうが」
 謎多き未知の色、恋色。
 この魔法使いの白黒衣装は、存外にその真理を体現しているのかもしれない。



Megalith 2011/12/11

「うー寒い寒い、何だって冬ってのは寒いのか本当!」

 起きて見たら一面の銀世界!
 これ以上にない感動モノかも知れんが寒いモノは寒いのだ

「そりゃまあ冬だからなー!」

 そんな中に犬がごとく駆け回る雪の白と対比になるカラー
 そう、俺が絶賛片思いセール中の霧雨魔理沙である

「なんだってそう嬉しそうなんだ、お前は」

 雪ではしゃぐ彼女も可愛いが寒さとそれは別問題だ
 出来るなら冬は炬燵でみかんと年賀状で冬を越したかった

「そりゃ冬で雪だからなー!」
「冬も雪も魔理沙は毎年見てるだろうに
 やれやれ子供なんだか、ぶっ!」

 決して面白くて吹き出したとか、嬉しいハプニングでもない
 喋ろうとしたところを多量の雪玉弾幕の餌食になったのだ
 口を開けてた物だから雪のフルコースをいただきます状態だ
 コートも雪で白く染められて、これじゃオセロだ

「あはは!○○アウトー!」

 犯人である投手は高らかにアウト宣言をしてきたが
 どう考えたって死球だ。
 乱闘もやむなしの大暴投だ

「ええい、顔面セーフだ!今度はこっちの番だ!」

 傲慢野球VS小学校ルールドッヂボールの開幕である
 しかし弾幕のスペシャリストからしたら
 俺の投球は「弾が止まってるみたいだぜ!」だそうだ

「あはは!って、うわわっ!」

 余裕ぶっこいてた魔理沙は足を滑らせたのか
 人型の形を残し広々とした雪原に埋没された。
 数秒経って穴から這い上がってきた魔理沙は
 帽子に雪をたんまり乗せていた。
 白黒ではなく白白になっていた。

「ははははは!お揃いだな!魔里沙!」
「さ、寒っ!」

 あわや冷凍保存だ
 そりゃ寒いだろう

「ほら、手を貸してやるから」

 寒さで震える彼女をそっと抱き起こそうと手を差し伸べた
 その時である

「隙有り!」
「何ぃっ!」

 足場も悪く急激に引っ張られたため俺に抵抗する術はなかった
 そして見事に俺は第二の雪原の埋没者になった

「ふはは!今のここは戦場だ!敵に手を貸すとは甘いぞ○○!」

 いつの間にか立ち上がっていた魔理沙は俺に向けて
 戦場の傲慢ルールを言い捨てた

「ちくしょうめ!もう許さんぞ!」

 それから数時間は経った頃
 不毛な争いは双方がずぶ濡れになった衣服に空しさを覚え、ついに終戦を迎えた。
 その日魔理沙は戦場から近くにある我が家で夕食をとり、宿泊していった
 男の一人暮らしの家で何も考えないのかこの娘は

  だがその次の日

「はーっくしょん!けほけほっ!」
「早く治してくれよ?」

 朝になり、起きてこないと思ったらこれだ。
 滅多にお目にかかることが出来ないであろう
 パジャマ姿魔理沙がベッドに伏していた


「うぅ……。何で○○はピンピンしてるんだ……」
「昔っから風邪だけは引かないんだよな、何でだ?」
「馬鹿は風邪引かな……、げほっげほっ!」

 聞き捨てならない言葉は
 今日のところは捨て置くとしようか
 馬鹿ってのは氷精に向けて、俺には賛辞の言葉がほしいもんだ

「まあしばらくは安静にしてな」

 風邪は引いたことないけど
 そんな大病でもないんだったら、その内治るだろう

「その内、雪溶けないよな……?」

 俺としては早く暖かくなってほしいが
 残念な事にまだまだ冬は続くのだ
 渋々、年を跨いでも、この調子なら大丈夫。と
 答えるほかになかった

「そうだな……けほっ!ああ、早く治らないかな……」

 だったら大人しく寝てた方が良いだろうけど
 静かにしてるってのは案外と辛い
 いつも賑やかな魔理沙なら尚更辛いかもしれない

「手、繋いでてくれ……」

 寒いのか?毛布いるか?と聞くとやっぱり馬鹿だと言われた。
 とても心外だ。
 とりあえず言われた通りに気温でひんやりした俺の手を
 魔理沙の汗ばんだ手に重ねた

「冷たくて気持ちいい……」と魔理沙はそう言いながら
 軽く瞳を閉じた 
 その表情はいつもの笑顔とは違って
 かなり辛そうなものだった 
 早くいつもの顔に戻ってほしい、俺の為にも。
 そんな辛そうな顔はさせたくない。

「熱の方はどうだ? ん、結構熱いな」

 額から伝わる熱が魔理沙の辛さを物語っていた
 俺は額に置いた手を頭に移し、
 そのまま10分程、頭を撫で続けていた。
 そうしている内にいつの間にか魔理沙は眠りに着いていた


「うぅん……○○?」
「起きたか、気分は?」

 手に持っていた鍋を机に置いて聞くと
 魔理沙は「大分と良くなった」と言った
 まだ顔はほんのり赤かった

「そうか、お粥食べるか?」
「ああー……食べさせてくれないか?」

 正直どきっとしたのは内緒だ
 だって食べさせるってあーんってやるやつだろ?
 凄いイベントなんじゃないかこれ

「い、いいけど、今日はなんか妙に甘えてくるな?」

 あくまでも平静を保っての返答だ。
 若干噛んでも気にしない。

「か、風邪の症状だ」

 風邪のことはわからないから仕様がないが
 そういう物なんだろうか、狼狽しながら、風邪ってのは難儀なんだな
 と言った。

「ほい。あ、あーん」

 腕が震えてスプーンと皿が
 カチャカチャと耳障りな音を奏でたがなんとか成功した。
 スプーンを近付けると魔理沙が「あーん」と口を開けて食べる。
 それが餌を待ちわびる雛鳥のようで
 そんな魔理沙が更に愛おしく見えた。 
 そんなことを考えながら
 お粥を食べさせているとすぐに終わってしまった。

 それから一時間は経っただろうか

「寝てたから全然眠くないな」

 まあそりゃそうか
 俺もまだ眠くないし

「ベッドで本でも読んでればいいんじゃないか」
「読んでくれ」
「俺が眠くなるから無理」

 俺が活字を読むと
 催眠術がごとく眠りに落ちてしまう

「じゃ、じゃあ」
「ん、何だ?」
 もごもごと口ごもり、中々言い出せないようだった
 心なしか、さっきより顔が赤い気がする
 何のイベントがあるんだ?

「添い寝してくれない……か?」
「添い寝って、……え?……そ、それも風邪の症状か?」
「こ、恋の病だぜ……」
「俺に……?」

 俺がそう言って表情を窺うと
 魔理沙は俺を見つめ返してくる

「俺なのか……?」

 こくこくと、弱く頭を振り、頷く魔理沙

「……ほ、本気か?」
「ほ、本気じゃなきゃ、こんな事言わないだろ……?」

 魔理沙の顔がさっきより赤い。
 いや、俺の顔も真っ赤だ
 動悸もさっきとは比較にならないほどだ。
 ドクンドクンと早鐘を打つ心臓を抑えつけて、俺は、言った。

「魔理沙、俺は、俺はお前の事が好きだ!!」

 ついに言った、魔理沙に先を越されたが
 ずっと言いたかったことを、やっと言えた。

「えっ……。ほ、本当か……?」
「本気じゃなきゃ言わない!」

 少しの沈黙のあと目に涙を浮かべながら
 さっきの俺と同じ質問をしてきた。
 だから俺もさっきの魔理沙と同じように返答した。

「嬉しい……!○、○○ー!」

 目に溜まった涙を振り落としながら
 満面の笑顔になった魔理沙は
 今までのどんな顔より、素敵だった

「好きだ!大好きだ!離さないからな!」
「俺も、ずっと離さないよ」
「このままだ!ずっと!明日も明後日もだ!」
「ずっと、ずっと一緒に居よう、魔理沙!」

 結局この日は二人で抱き合って寝たまま、朝を迎えた。
 いや、この日だけじゃなく
 魔理沙の風邪が治ってもずっとそうしていた。

 風邪が治っても冬が終わっても
 ずっとそうしていくだろう

「冬も春も夏も秋もこれからもずっと一緒だ!○○!」
 俺もそう思うよ、魔理沙

  その後、○○が人生最初の風邪を引いたのはまた別の話

Megalith 2011/12/19

……おはよう、○○。もう朝食できてるぜ、早く顔を洗ってきな。
たまにはパンがいいだって? 駄目だ、魔法使いの主食は白いお米と決まって……人間? 
細かい事は気にするな、男だろ? いいから顔を洗ってこいよ。


いただきます。……もう冷めちゃってる……ゴメンな
えっ? 悪いのは俺の方だって? だから気にするなよ


今日はお仕事無いよな。じゃあ本を運ぶの手伝ってくれよ。借りたいのがたくさんあってな
なんだ? 店のことは気にしなくていいんだぜ。……泥棒はよくない?
死ぬまで借りるだけだって言ってるだろ。……それが泥棒だって?
うるさいなぁ。だからお前は気にしなくていいんだよ


冷たいよなぁ○○は。結局手伝ってくれないし、借りにも行かせてくれないし
……まぁ、キノコ採り手伝ってもらってるけどさ
今日の昼食はキノコのスープでいいよな。夕食用と実験用のも採ってくぜ
ん? 毒はないかだって? 気にしなくても大丈夫さ。あっても死にやしないって、たぶんな
……私が毒にあたって倒れないか心配だって? ……バカ、私のことより自分のこと気にしろよな
え? もちろんお前も食うんだぜ、当然だろ? たくさん食べて強くなれよな。……毒に負けないくらい


ん~~良いにおいだなぁ
キノコスープは最高だな。作るたびに味もにおいも違うから飽きないぜ
……毒が無ければもっと良い? そんなの気にしてたらなんにも食べられないぜ? ほら、あ~ん
……なに気にしてるんだよ、私と○○の仲だろ。……ゴメン、嫌だったか?
えっ? そんなことはない? むしろ嬉しい? だったらほら、あ~んしろよ、あ~~~ん


ん? もう眠いか? 悪いな、今明かりを消すよ。
……布団を出してから? そこにベットがあるだろ? もう消すぞ
なに? ベットは一つだけだって?



………………だから気にするなよ……

Megalith 2012/01/26

「ん~……ふわぁ~……
 ん……あれ?もうこんな時間か!?」
手に取った目覚まし時計を見て○○はベッドから飛び起きた
着替えつつ、仕事場まで走った時の時間と目覚まし時計が示している時間を計算する
「もうこれじゃ間に合わないか…」
親方にどやされるのを覚悟する○○
だが、次に違和感を感じた
「そういえば…魔理沙は?」
○○と魔理沙は同棲している
いつもなら、○○が朝飯の時間になっても起きてこないと魔理沙が

「あっさだぞ~~~!!起きろーーーー!!」

とゆう様な事を言って○○のベッドにダイブしてくる筈なのだが、今日はそれが無い
若干寂しい気持ちを押さえつつ、とりあえずなにか腹に入れておこうと思いキッチンへ向かう

だがキッチンに入った○○は、そこで言葉を失った

そこには、苦しそうに息を荒げて魔理沙が倒れていた


「とりあえず、診察は終わったわ」
「ありがとうございます、永琳さん」
このままではいけないと思い、永遠亭まで魔理沙を担いできた○○
「普通の風邪ならいいのだけど…」
「これがただの風邪でしょうか…」
「熱は39.5あったわ」
「そんなにですか!?」
「ええ、それに加えて本人は悪寒、頭痛、腹痛を訴えてる」
「大丈夫…ですよね…?」
「今のところはね」
 大丈夫だと聞いて少し安心する○○
「原因は…彼女の場合は大体想像できるわね…」
「キノコ…ですか」
「本人に聞いてみないと分からないけど、大方そうでしょうね。
 前に一度、有毒性のキノコ食べて霊夢に運ばれてきた事もあったし
 食べて無いとしても、実験に使った時に発生したガスで…とか。
 とりあえず、それぞれの症状に合わせた薬を処方しておくわね」
永琳は薬を○○に手渡した

永遠亭からの帰り道
魔理沙は○○におぶわれていた
「全く…研究もいいが、安全管理には気をつけろよと散々言ったのに…」
「ごめん…○○……うう…ゲホッゲホッ」
○○の背中で咳き込む魔理沙
「もういいけどさ、魔理沙が辛そうなのを見ると俺も辛くなるから…」
「○○…」
「…まあ、これで仕事休んで魔理沙と一日一緒に居られるのは嬉しいんだけどな」
「ば、馬鹿…//」
赤面した魔理沙は○○の背中に顔をうずめる
「今日は同じ部屋で寝ないとな~♪」
「…ホントに大馬鹿だぜ…//」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもない!!…けど……手…」
「手がどうした?」
「…その…今夜はずっと手を握っててくれよ…」
さっきより小さな声で甘える様に魔理沙は呟いた
「ふふっ、手だけでいいのか?」
「は?」
「お望みなら、ずっと抱きしめててやるのに」
「え……//」
「嫌か?」
「ぜ、全然嫌じゃない!!
 むしろ、そっちにしてくれ!!」
「はいはいっと」

その夜、魔理沙は○○に抱きしめられて寝た
だが、そのせいで全く眠れず具合は悪化したのは、また別のお話
そして、魔理沙がただの風邪ではなく、幻想入りしたインフルエンザだと分かるのも、またまた別のお話

最終更新:2012年03月08日 00:15