大妖精4



うpろだ1253


 幻想郷にある小さな人里。
 その外れにある、少々ボロい長屋に○○は住んでいる。

 里の中心から離れている分不便ではあるせいか、とにかく安かった。
 大結界の外から迷いこみ、こちらに移り住んだ彼にほかの選択肢はなかった。

 家を出て少し歩けば妖怪の生息地だが、里の人間に手をだしてはいけないルールがあるし
 すぐ近くに例の寺子屋の先生が住んでいるため
 わざわざ襲いにくる妖怪はいない。

 それでも、可能性はゼロではないわけで。

 故に、この辺りの長屋にはあまり金の無い人たちか、神経のず太い人
 が住んでいるということになる。

 深夜 ぐーすか寝ている○○。
 ただ寝苦しいのか、何度も寝返りをうち身体を震わせる。

 ここのところ、秋も深まって夜が寒い。
 いまだ掛け布団一枚で寝ているのは、単にお金が無いからだ。

 ガラガラ・・・ガラガラ、ガタン!

 (ああ? どこかで扉の開け閉めをした音が…
 いやきっと気のせいだろう、こんな時間に人が尋ねてくるわけがない)

 話に聞く手癖の悪い魔法使いの泥棒かとも思ったが、
 生憎と、この家に珍しいマジックアイテムの類は無い。

 やはり気のせいだと結論を出して、もう一度眠りに入ろうと意識を沈める。
 明日も仕事だ早く寝たほうがいい。

 コツコツコツ・・・ピタ・・・

 うつらうつらしていたところに、また邪魔が入る。

 (今度は・・・足音か?)

 すぐ近くで止まったようだ、なにかしらの気配を感じる。

 (うう なんだろうか?
 もしや幽霊の類か? いや足音が聞こえたからそれはないだろうなぁ)

 不安になりながらも、頭のほうは眠ったままだ。
 目を開けて周りを確認すればいいのだが、全力で睡眠をもとめているためままならない。
 本当のことを言えば、ただメンドクサイのである。

 どうやら彼はお金が無いだけでなく、神経もズ太い人間のようだ。
 万が一、後先考えない妖怪が襲いに来てるとしたらどうするんだろう。


 ・・・・トトト、ポスッ がさごそ・・・

 布団にのっかってきた。

 (ううむ あったかいなぁ、
 やはり人間だろうか? なんとなくかなり小柄な感じ・・・・うおっ)

 ・・・ふさぁっ・・・・

 覆いかぶさってきた!?
 自分の近くで小さな息遣いが聞こえる。
 今確信した。こいつは女の子だ!

 ハァ、ハァハァ、・・・・・コクっ・・・

 なんか息をのんでますよ? たどたどしい手つきでほほに手を添えられる。
 たぶん今自分の顔の目の前に、相手の顔がある。
 そうまさにそれは、キスをしようとするような仕草で・・・。

 さすがにおどろく。
 まるでエロゲのような展開・・・!
 そいじゃなければ、だれかのイタズラ・・・・イタズラ?

 (まさか・・・・アイツなのか?)

 頭に思い浮かべるのは、あの生意気な妖精の顔。
 しかしわざわざ夜中にウチに忍び込んでまでこんなイタズラを?

 (アイツならやる、かも・・・・しれんが)

 でも、もしそうだったとしたらいろいろ不味い。ほら、いろいろとさ!

 そんな思考もおかまいなし、気がつくと頬に小さな唇の感触がひとつ。
 ・・・・・嬉しいような少し残念のような複雑な心境。

 ○○はまだ目を開けていない、横着にもほどがある。
 いや、すでに目を開けるのにとまどいがあった。
 姿を確認していえば、何かが終わってしますような気がしていた。


 けれども、そう思っていても
 自分の頬に少し顔を赤らめ唇を寄せてくる
 「   」の姿を想像してしまう。


 (・・・・っ!) 

 全く、不謹慎にもほどがある。
 状況的にも、倫理的にも、というか人として。

 「や、やめろ・・・・そういうのはさ 不味いだろう・なあ いろいろとさ・・」 

 ようやく一言、相手に呼びかけるが返事は返ってこない。
 かわりに耳にフゥっと息を吹きかけられる。

 (ひとの話を聞けよぉ・・・・)

 でもすごくゾクゾクしました。

 「今 やめてくれれば、何もなかっことにするから・・・っ!」

 言葉をさえぎる形で今度は耳を甘噛みされる。
 アーっ、それはアカンですよー。

 ・・・・フフフ

 手ごたえを感じたのか嬉しそうに「  」が笑う
 そして・・・・

 ぴちゃ・・・・レロ、レロ。

 (し、舌ぁ!?)

 さっきとは比較にならない感覚が襲ってくる。
 耳に絡みつく唾液と身体に掛かってくるやわらかな髪。
 女の子のそんな感触のすべてにドキドキする。

 ちゅっ・・・・ぴちゃ、ぴちゃ・・・・・


 と、とても気持ちいいのだが・・・・・・っ!
 これ以上は不味い、いつものイタズラなら笑って許せるが、今回のは度がすぎている。

 (だれだよぉ、こんなことコイツに教えたのはぁ・・・)

 うむむ、ココロアタリが多すぎる! アイツとかあいつとか。
  幻想郷は意地の悪いやつが多いからな! けしからん! いいぞ、もっとやれ!!

 (ん? なんかさっきと言ってるコト違くね?)

 「お おいっ、いいかげんにしないと本気で怒るぞ! 」

 しかしというかやはりというか、話は聞いてもらえず
 やがて小さな手は下のほうへ伸びていき・・・・・・ 

 「ええいこの、バカ「チルノ」がぁっ!!」

 寝ていた状態からガバッっとはねあがり、無理やり引っぺがす。
 空中で一回転して華麗に着地。
 少々人間離れした動きだったが、火事場の馬鹿力というやつだ。
 ともあれ、これでこの危機的状況から抜け出せたはずだ! 

 「えっ・・・? ひやぁ!?」

 突然の出来事に対応できず、チルノはひっくり返って尻餅をついてしまたようだ。
 ちょっとかわいそうだったか?
 いやこのままずるずると流されてしまうのだけは、絶対に避けるべきなのだ、許せ。

 今夜は雲で月が隠れてしまっていて、部屋の中は真っ暗だ。
 さっきまで目をつむっていたのに、相手の姿ががまるで見えない。
 しかし、ちいさく泣いているような声がきこえてきた。

 (くそ、泣かせてしまったのか・・・・・)
 いや、今は心を鬼にしなければなるまい。
 チルノのためにも、自分のためにも。

 「だれの入れ知恵かは知らんが、こういうイタズラだめだ。
  好奇心旺盛なのはけっこうだが、お子様には早すぎるぞ。
  こういうことはもっと大きくなってから、俺なんかじゃなくてだな
  ・・・・・お前が本当に好きなった相手にやるべきだ」

 (そういえば妖精の身体は成長したっけ?) 

 まあ、とりあず今はどうでもいいことだ。

 「できればこんなカタチで無くて、きちんと相手の了承を得てだな。
  まあ、そういうのが好きなやつもいるのだろうが・・・・・
  いやどっちかっていうと、俺も嫌いでは、無いんだが・・・」

 駄目だ、話が逸れていってしまう。
 クールだ! もっとクールになれ!!

 「とにかくだ、お前のためを思って言ってるんだ、わかってくれるな?
 聞かないんならもう遊んでやらないぞ!」

 「うう、ひぐっ・・・ひっく、ひっく・・・あうぅ」

 まだ泣いているようだ。
 というかさっきよりも、ひどくなってないか?
 いままでこんなはっきりと、面と向かって叱ったことなんてなかったしなぁ・・・・。

 (やれやれ・・・・)

 しかしなんでこんなことになったのか・・・・
 悪気があったわけじゃないと思う、いつもイタズラをしてくるは
 ・・・・たぶん、かまってほしいからなのだろう。

 単に気に入らないと、嫌がらせでイタズラするやつも世の中にはいるけれど
 コイツのは一種のの愛情表現とでもいうのだろうか?

 「なあ、チルノ。俺と始めて出会ったときの事覚えてるか?
 お前、初対面の俺にいきなり凍ったカエル口に突っ込んできたよな?」

 思い出してちょっと泣きそうになったけど我慢する。

 「反応を伺いながら何度も話しかけてきたけど、ケラケラと笑ってるのが
 すごく腹が立ったんで、無視して立ちさろうとしたっけ。
 妖精が人間にイタズラするのは当たり前で、話は通じるわけもなし。
 怒っても体力と時間の無駄ってのが常識だったもんな」

 「・・・・・・ひぐ、・・・・ひっく・・・・・」

 それに湖に住む氷の妖精といえば、ひときわ大きな力を持っていると里の人から聞いていた。
 ならへたに言い返し、怒らせて大怪我をするなんて馬鹿馬鹿しい。
 ・・・・・・そう、思ってたんだけど。

 「でもさ、逃げようとしても追いかけてこなかったから
 なんとなく振りかえってまったんだよなぁ。
 そうしたら遠くでお前、すごくさびしそうな顔してただろ?
 そんな悲しいそうな顔見ちまったらさ、かまわないわけにはいかんよなぁ。
 180度きびすを返して、お前のところに戻ってさ・・・・」

 俺が戻ってきたのが思いもよらなかったのか、こいつすごい驚いてたなぁ。

 「ガツンと思いっきり頭をぶん殴ってやったんだっけ」

 そん時のチルノの顔はすごかった。相手にされることなんて滅多にないのに、
 ただの人間が普通に殴ってくるんて想像もできなかったんだろう。

 しばらく、俺の顔をみつめたまま呆けてたんで
 「お返しだよ、この馬鹿妖精が」って言ってやると
 「いったー! このぉ 馬鹿っていうなー!!」
 って思い出したように真っ赤な顔をして言い返してきた。

 それからは日が暮れるまで追いかけっこだった。

 「しかしお返しとはいえ、あふれんばかりの弾幕をはなってきやがって。
 あの時は生きた心地がしなかったよ・・・」

 本当によく生きていたなぁと、今でも思う。
 もしかしたら、ちゃんと手加減してくれていたのかもしれない。
 あの不器用なお子様がそんな真似ができたかどうかは疑問だが・・・・

 怒りながらも嬉しさを隠し切れずに、にやけながら追いかけてくるチルノの顔を思い出して
 そういうことにしといた。

 「それからだよな、お前とよく話すようなったのは。
 俺もさ、あの頃は幻想郷に来て間もなかったから、不安でしょうがなかったけど
 幻想郷で初めて友達ができて嬉しかったよ」 

 そう、今ではなんとかやっていけてるが
 妖怪や魔法や空飛ぶ人間が当たり前のこの世界に、こうしてなじむことができたのは
 間違いなくチルノのおかげだろう。
 本当にこいつには感謝している。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「しかし、会うたびに毎回イタズラすんのは勘弁してくれよな?
 ちゃんと毎回言ってるのに、笑って聞きもしないけどさ」 

 自分とのきっかけは確かにそうだったけど、そんなことをしなくても

 「みんなと友達になる方法なんていくらでもあるんだ。
 今はわからなくても、すこしずつ気づいていって欲しい。
 お前のことだから、本当に時間がかかってしまうかもしれないけど
 それまではどんな馬鹿やっててもさ、ちゃんと側にいてやろうかとおもってるんだぜ?」

 「・・・・・・・・・・ひっく、・・・・・・」
 「チルノ・・・俺はさ、お前のこと嫌いじゃない、もしかしたら結構好き・・・なのかも知れん。
  もう気にしてないからさ、そろそろ泣きやんでくれないか?」

 こいつの泣き顔はあんまり見たくは無い。
 涙をぬぐってあげようとゆっくりと近づいていく。

 隠れていた月がすこし出てきた
 ようやく視界がきくようになってきたが、まだシルエットが把握できるくらいしか見えない。

 泣きつかれているのか反応が無い。
 ・・・なにか変だ。
 ・・・・・奇妙な違和感がある。

 「チルノ、どうしかしたか? どこかにカラダをぶつけちまったか?」

 不思議に思いながら、肩を抱きその身体をこちらに振り向かせる。

 「・・・・えっ?」

 完全に雲が晴れ、月明かりが部屋をほのかに照らす。

 チルノは・・・・・どこにもいやしなかった。

 ただかわりに、悲痛な顔をしてこちらを見上げる「大妖精」がそこにいた。


  ~中編に続く~


新ろだ705


  ◆湖畔にて◆


「今日も今日とて絶好の釣り日和」
「頑張ってくださいね、○○さん」
「おうよ。今日こそは晩飯になりそうなものを獲ってみせる!」
「"今日も"になる日はいつになるんでしょうねぇ」
「ぐっ……言うじゃないか大妖精」
「ふふ、期待しないで待ってます。それじゃ、チルノちゃん達と遊んできますので」
「おう、行って来い」


  ◆幻想少女達の鬼ごっこ◆


「大ちゃん捕まえたー」
「ああ、また私が鬼かぁ……」
「ふふん、とろいわね。あたいを捕まえてごらん!」
「言うじゃない、チルノちゃん。待ちなさーい!」
「ここまでおいでーだ!」

「フフ、影が薄いってこういうとき便利だよね……いいんだ、別に」


  ◆一方その頃、湖畔の釣竿男は◆


「垂らせども、垂らせども、糸は揺るがず」
「本日の収穫、そこらを歩いていた沢カニ2匹と小魚が3。以上」
「当然食えるモンじゃないが……まだだ、まだ夕方まで時間はある」
「いけるさ、やってみせるさ畜生め」


  ◆夕方ですよー◆


「○○さーん、そろそろ帰りましょうよー」
「……」
「○○さーん?」
「……ああ、大妖精か。おかえり」
「さて、今日の成果は如何でした?」
「ほれ」
「うわっとと。投げないでください、落としたらどうす……あらー」
「全てを理解したような顔をするくらいならいっそ罵ってくれ……」
「ふふ、別にいいんですよ?頑張って釣りなんてしなくても」
「だがしかし……」
「ここに来てまだ二ヶ月。慣れない事をやっていきなり成果が出せるなんて思ってません」
「ぐぅ」
「でも、私はそんな前向きで一生懸命な○○さんが、大好きですよ?」
「……」
「あら、○○さん?もしもーし?」
「不意打ちに反応できないのも精進が足りないせいだな、うん」
「あはは、顔が赤いですよ」
「うるさいやい。いつまでもここにいるわけには行かないし、帰ろうか」
「はいはい。一旦家に戻ったら、ちゃんと里で御飯になりそうなのを追加購入してきてくださいねー」
「わーったよ。それじゃ、いこう」
「はい♪」



新ろだ2-240


「大ちゃん? どうしたの、ぼーっとしちゃって。何か考え事?」
「ふぇっ!? え、あ、な、何でもないですよ。ただ呆けていただけですから」

 そう言い繕うが○○の目には大妖精がどこか遠くを見ていることがありありと見て取れた。

「もしかして都合が悪かった? なら日を改めてまた……」
「だ、大丈夫ですよ! さ、行きましょう○○さん!」

 そう言って彼の手をとり引っ張るように駆けだす大妖精。
 人、いや妖精一物事を深く考え込んでしまうことを知っている○○にはどうにかして彼女の手助けをしたいと思うが
 そういう悩み事について頑として立ち入らせないことを分かっているため、大妖精が打ち明けてくれるまで待つのが○○にはもどかしかった。



 日が沈み、夜空に星が瞬くころ湖のほとりに二人の妖精の姿があった。チルノと大妖精だ。

「うわー、今日も星が綺麗だねー大ちゃん」
「……ねぇ、チルノちゃん、ひとつ話してもいいかな?」
「んー? なに?」

 普段とは違う大妖精の様子にチルノも気付いたか、真剣な表情で彼女に向きあう。

「チルノちゃんは○○さんのこと、どう思ってる?」
「○○のこと? 好きだよ! あたいのことちゃんとさいきょーだってこと分かってくれてるし、遊んでくれるし、おやつもくれるし。
 大ちゃんは? ○○のこと好き?」
「うん、好きだよ……でも、チルノちゃんの好きとは少し違うかもしれないけど……」
「……?」

 少し表情を曇らした大妖精に頭に疑問符を浮かべるチルノ。そして話を続ける大妖精。

「でもね、チルノちゃん。私たちと○○さんは違うんだよ。私たちは妖精で○○さんは人間」
「それはそうだよ。分かってることじゃん」
「……それって大切なことなんだよ。だって、私たちと○○さんは生きる長さだって違う。成長する早さも。
 それは、いつかは○○さんとお別れしなくちゃいけないことなんだよ?」
「……? それがどうかしたの? だってあたい達が○○より長生きなのは仕方がないことじゃん。大ちゃんが何言いたいのかあたい分かんないよ」
「……ごめんね。、チルノちゃん。変な話しちゃって。あ、流れ星だよ」
「えっ!? どこどこ!」

 キョロキョロと夜空を見上げるチルノを見て苦笑する大妖精。



 ――そうか、チルノちゃんは受け入れているんだね。
   お互いが違うということを。
   すごいなぁ、私には無理だよ……
   このままじゃ、わたしは……――



 ある日、話があると大妖精は○○の家にやってきた。
 居間で二人きりになり、軽い雑談を始める。すぐに話が弾み時折クスクスと笑い声も上がる。
 しかし、しばらくして大妖精は佇まいを正して○○に向かい合う。○○も崩していた姿勢を正す。

「○○さん、今日は大切なお話があってきました」
「うん、今まで悩んできたことを、打ち明けてくれるんだね」
「はい」

 一度目を伏せ、膝の上で組んだ指を見つめた後、顔をあげると強い意志の宿った目で○○を見つめる。

「○○さん、私たち、もう会わないことにしましょう」
「――!!」

 衝撃の告白に一瞬彼女が何を言っているのか分からなくなる○○。

「……理由を聞かせてもらえるかな?」
「……○○さんと私たちは、種族が違うことも分かりますよね。成長の度合いも人に比べると遅く、ずっとこの姿のままの子もいます。
 もちろん、ちゃんと成長する子も現れますが、それはすごく稀です。そして生きる長さも、妖怪と比べれば短くても、人とは……」

 とつとつと話す大妖精の言葉を静かに○○は受け止める。

「……ですから、もし私が○○さんの最後をみとることになるなんてなってしまったら私はきっと耐えられません。
 それに、○○さんも私たちを置いて逝ってしまうことに苦しむと思うと……
 だって○○さんは優しいから、最後まで私たちのことを思ってくれるだろうから……
 でも、最後のときまで私たちのことで辛い思いしてほしくないんです。
 だから、そうなる前に、これまでの事をなかったことにすれば……」
「そっか……」

 話を聞き終えた○○は苦笑して姿勢を崩す。

「やっぱり大ちゃんはやさしいね。いつも人の事を思いやり、自分より人を優先するとこ。
 そういうとこが気に入ってるんだけどね」
「そ、そんなことないです……」
「でもさ、死んで別れることに苦しみを感じるっていうのなら今ここで別れる苦しみはどうしたらいいんだい?」
「えっ?」
「今まで大ちゃんやチルノと培ってきた思い出、決して短くはない大切な想い、それをなくしてしまうことは辛くないのかい?」
「あっ……」
「そしてこれから紡いでいく様々な出来事、それをなくしてしまうほどに、別れの苦しみは強いものかい?」
「…………」

 うつむいてしまった大妖精の頭にぽんと手を置く○○。

「確かにどんなことにも終わりはくるし、別れはある。でも、それに怯えて今ある幸せを逃してしまっては何にもならないよ。
 それに、俺は逝ってしまうときに感じる苦しみより、今大ちゃんと会えなくなる方がよっぽどつらいよ」
「○○さん……」

 ゆっくりとあやすように彼女の頭を撫で続ける。
 小さな妖精の瞳から一滴の涙が零れ、小さな声でごめんなさいとつぶやく。

「……うん、決めた」
「○○さん?」
「大丈夫だよ、大ちゃん。最後のときには絶対『君に会えてよかった』と言うから。
 だから、そのときまで、ずっと一緒に居てください。どこにも行かないでずっと俺の側で、笑いかけて」
「あ、あぁ……っ、○○、さぁんっ!」

 関を切ったように大粒の涙を零しつつ○○の胸に飛び込む大妖精。
 彼の胸にすがりつくようにしてただひたすら『ごめんなさい』を繰り返し口にする。
 震える小さな身体をそっと抱きしめて彼女が泣きやむまでひたすら○○は少女の頭を撫で続けた――





 ――たとえ離れていくときにも 胸に刻んだ想いは消えず

   貴方にもらった大切なものは 数多もあるの

   そして ずっと側にいるから 悲しい影に惑わないで




 数ヵ月後、紅魔館で大々的なパーティが行われた。いつもの宴会とさほど変わらないように見えるが今回の宴会には二人の主賓がいた。
 館の一室にその二人はお互いに純白のドレスと燕尾服に身を包んでいた。
 そして彼らに取材を行っている鴉天狗はときおりニヤニヤとした笑みを浮かべて手にした手帳に書き込みをしていく。

「ほうほう、やっぱり○○さんはロリコンであったと」
「なぜそうなるっ!? 俺はただ好きになった人が小さかっただけだっ!」
「そ、そうです! 人を好きになることには大きさは関係ないですっ! そ、それにちゃんと赤ちゃんもできるって分かりましたし……」
「おぉっ! もうおめでたなんですか!」

 うっかり口を滑らした大妖精に容赦ないツッコミを入れる文。

「はぅ!? う、うっかり口が……。い、いまのなし! なしですっ! ノーカン!」
「むぅ……しかし、もうそろそろ時間ですね。仕方がありません。もっと聞きたいことがありましたが今回はこれで切り上げるとしましょう」

 では、おしあわせに~とやっぱりニヤついた顔で部屋から出ていく射命丸。
 若干新聞の出来が気になるが、もう諦めるしかない。

「……でも、○○さん本当に良かったんですか? こんな小さな私で」
「ん~、まぁおっきいんだろうがちいさいんだろうが関係なく俺は大ちゃんを好きになったわけで」
「あ、そ、そうですね。絆は大きさも種族も関係ないんですねっ!」
「まぁ、そういうことだ。言いたい奴には言わせておけばいい。俺は気にしない」

 そう言ってぎゅっと小さな花嫁を抱きしめる。

「あっ……、ドレスがシワになっちゃいますよ」
「そ、そうか……。ん、ごめん」
「い、いいですよ。わたしも○○さんに抱きしめてもらいたかったし……」

 お互い顔を真っ赤にするが、やがて笑みがこぼれていく。

「……これからいっぱい、思い出を作っていくんですね」
「そうだね、何があっても大ちゃんは絶対に手放さないから」
「はいっ」

 ちょうど部屋の扉が開いて咲夜が二人を呼びに来た。

「お二人とも、時間です。みなさまお待ちになっていますよ」
「あ、は、はいっ……どうしよう、今になって緊張してきた……」
「う、私も、緊張してきました……」
「あらあら、そう気を張らずに自然体でいいのよ」

 ちょっとぎこちなく部屋を出ていく二人。











 ――これは一種の終着点なのかもしれない。新しい出発点かもしれない。
   でも二人にとっては通過点。
   『あなたに会えてよかった』
   そう最後に告げるための、幸せの結末の途中……

   『だいじょうぶだよ、大ちゃん。君が居てくれるなら 俺は頑張っていけるから』












   ※

一年半ぶりに筆をとってみたが腕はなまっていないだろうか?
ニヤニヤしていただけたら幸いです
避難所等で感想をいただけたら小躍りします(作者が)




最終更新:2010年10月15日 02:01