チルノ2
>>161
×月×日(友引)
今日は珍しく、泉の氷精が私の所に相談に来た。
何でも、人間の男の気を惹く術を知りたいとか何とか。
何故普段交流の無い私に、とも思ったが、よくよく彼女の周りの顔触れを思い返せば、この手の相談事が出来そうな者は非常に限られている。
そんな中ではるばる私を頼ってきてくれたのだ。無碍になど出来まい。
それに、話を聞くに彼女の想い人は私の知人でもある。なかなかお目にかかれない馬鹿ではあるが、同時に見所のある男性だとも思う。
人間と妖精の恋愛が果たして幸せなものになるだろうか、という長い目で見た危惧はあるが、彼なら或いは、という期待も少なからずある。
偶にはいらぬ世話を焼くというのも悪くは無い。
彼女には、私の史書の中でも指折りの魁作を貸し出してやる事にした。
それは、私が改編に告ぐ改編を重ねてようやく辿り着いた、一つの細く険しい道の、最果ての形だった。
…………
「ふふん、最強のあたいがこんな分厚い本を読むんだから、きっと人間のアイツなんて、一秒でイナフね!
……う~ん、それにしても凄いわね、この本。持ってるだけで、桁違いの妖気がビンビン伝わってくるわ」
上機嫌で空を翔ける
チルノの手に持たれている、乙女オーラ全開のピンク色の本の表紙には、こう書かれていた。
『恋の六十四手・今生今身アルマゲドン一本釣り編 神ホワイトサワー 慧ved!!!! 著』
…………
×月×日(大安)
今日は、チルノが本を読み終えて返しに来た。
本を読んだだけでは分からない事があったので、もっと詳しい事を教えて欲しいという事で、彼女から質問攻めにあった。
本から得た知識だけで簡単に合点したり満足してしまわない辺りから、彼女の成長が覗える。
それを喜ばしく思った為か、いつの間にか彼女を指南する私の方にも、随分と熱が篭もってしまっていた。
これだけ女性から想われるとは、つくづく彼は幸せ者だ。
日頃の接し方を端から見るに、彼の方にも脈は十分にあるだろう。きっと上手くいくと思う。
……何と言うか、少し二人が羨ましくもある。
幸い、彼の誕生日が間近に迫っている。いいお膳立てになるだろう。
チルノと相談し、彼を私の家に招いてそこで作戦決行、という事になった。
……一抹の不安が無い訳でもない。
二人共に言える事なのだが、時折り見せる馬鹿な行動が、私の理解を遥かに超える、常軌を逸したものだという事だ。
×月×日(仏滅)
今日は、私の家で彼の誕生会を行った。
……………………正直、仔細を思い返すのが躊躇われる。
…………
「♪坊や~良い子だ金出しな~~、か~ねが無いだとふざけるな~♪」
上機嫌で歌いながら、里から少し離れた慧音さんの家を目指して歩く。
何時ぞ雑談の中で話した俺の誕生日を覚えてくれていたらしく、チルノと二人で祝ってくれるという事だった。
珍しい取り合わせだとは思ったが、大いにありがたい事には変わりは無い。
幻想郷に来て以来、誰かに誕生日を祝ってもらうというのは、実に初めての事だ。
ハッキリ言って友達の少ない俺は、年甲斐も無く浮かれまくっていた。
「♪ちょ~っとそ~こで跳ねてみな~~、何だ~~、その音は~~~~~♪」
「フー――――ッッ!!!」
高らかと響き渡る俺のバリトンボイスに、野良猫が俺に向かって狂ったような唸り声を上げ、鳥の群れが泡を食ってその場を飛び立った。
「とっとっと。見えてきたか」
行く道の果てに慧音さんの家を捉え、襟元を正す。
今日は張り切って、香霖堂でそれなりの紋付羽織や袴を工面して来た。
二人の驚く顔が、実に楽しみだ。
ちなみに、熱く潤んだ目でラメラメのレザーパンツを薦めてきたHG香霖は、身ぐるみ剥いで大蝦蟇の池に放り込んでおいた。
今頃大ガマの体液や卵でネチョネチョにされて、さぞかし奴も悦んでいる事だろう。今日もいい事をした。
――さて、慧音さんの家の戸口を目前にして、一つ大きく息を吸う。
招いてくれた大切な友人たちに、無礼を働く訳にはいかない。何事も最初が肝心だ。
腹に力を込め、戸口に手をかけ、勢いよく開いた。
――ガラガラガラッッッ!!!!!
「このあらいを作ったのは誰だあっ!!」
「普通に入って来ないか馬鹿者っ!!」
ずごんっっ。
奥から聞こえてきた慧音さんの怒号と共に、投げつけられたぶっとい巻物が俺の顔面にめり込んだ。
「ぶふっ! ……わ、悪かった……慣れない礼装で、気分が高揚して」
「ふむ……確かに良い姿だ。いつもよりも幾分いい男に見える。……ほら、早く上がるといい。」
俺の姿を頭から爪先まで眺めると慧音さんは満足げに笑い、俺を奥のお座敷に通してくれた。
※『其の四十二手:心のこもった手料理で、彼の心を鷲掴み!!』
通してもらった座敷には、すでに色とりどりの料理が並べられていた。
みっちり身の詰まっていそうな鶏肉、色鮮やかな生野菜、卵のそぼろをまぶした一口サイズのお握り、etc……
「うわー、すげえや。ごっつぁんです」
朝稽古を終えた後の外国人力士のごとく目を輝かせる俺に、慧音さんは得意げに胸を張ってみせた。
「ふふ。滅多に無い機会だから、少し奮発してみたんだ。
後でケーキも用意してあるぞ」
「マジで? 満漢全席じゃないのさ。ありがとう、慧音さん」
何を隠そう、俺はケーキでご飯が食えるくらいの、大の甘党だ。
「それにしても、よくケーキなんて用意できたなあ。この辺にある物だけじゃどうにも出来ないだろう?」
「ああ。その辺りは、紅魔館で器具やら食材を拝借させてもらってな。
ケーキの飾りつけは、全部チルノがしてくれたんだぞ?」
「へえ……チルノが?」
「ああ。彼女には、今日の料理も色々手伝ってもらったのだが……ほら、あれを見てみろ」
彼女の指差す方を向き、何故か部屋の隅に追いやられるように置かれた一枚の皿を見て、
「うっっ」
……俺は、ブルドッグに睨まれたチワワのように震えた。
「す、すげえや……何だアレは……」
赤と黒のダンゴ模様に彩られた柔らかそうな物体が、紫色の湯気を噴いていた。
「どうだ。あんな斬新な料理、見た事無いだろう?」
「いやいや、料理と言うか、食物と呼んでいいのかアレは……そもそも何だあの湯気。視える悪臭か?」
見ているだけで鼻先がツンと痛くなってくる。
「う~ん、野菜や肉を切ったりするような基本的な作業が思っていたより良く出来ていたので、一皿任せてみたのだが……
その、何だ。……すまない」
バツが悪そうに頬を掻きながら、慧音さんが俺の肩に手を置いた。
「やっぱり俺が食べるのね……」
……永遠亭がここから比較的近くにあるのが、唯一の救いだった。
※『其の六手:彼好みの服やアクセサリーで、彼の目を釘付けに!!』
「まあ、胃の心配はその時になってからするとして……そう言えば、チルノは?」
先に来ていた筈なのだが、ここに来て以来、まだ彼女の姿を見ていない。
「ああ、彼女ならもう少しで来るだろう。少し身支度に時間がかかっているようだな」
「身支度? 何だアイツ。そんなに気を遣わなくてもいいのに……痛てっ」
訝る俺の頭を、慧音さんが軽く小突いてきた。
「……今の発言は減点一だぞ。こういう大事な催しに際して、女性の身支度というのは非常に大切なものなんだ」
「そういうものなのか……」
確かに、たかだか俺の誕生会程度の事だというのに、わざわざお召かしまでしてくれるというのだ。
「うん、そうだな……ありがたい話だ」
「分かればよろしい。…………と、ようやくお出ましだ」
慧音さんの声に顔を上げると、襖の向こうに見慣れた少女の影が浮かんでいた。
「チルノ、もういいのか?」
「……う、うん、お待たせ。それじゃ、入るね」
ススー――――ッ。
おずおずとした声がかけられると共に襖が開け放たれ、チルノの姿が見えると同時に、
「うっ、うわああああああああっっっ!!!!!」
ずどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっっっ!!!!!
「わ、わわっ!?」
慧音さんが絶叫しながら、アメフトばりの猛烈タックルでチルノを連れ去ってしまった。
「……………………」
ぽつんと一人取り残されて、目をゴシゴシと擦ってみる。
う~む……俺は、疲れているのだろうか……
――チルノが、婦警さんの格好をしているように視えたのだが。
…………二つ隣の部屋にて…………
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「ちょっと慧音、何よ、せっかく着替えてきたのに……」
「『何よ』じゃない!! 何だその格好は!!」
「えっ? 『彼好みの服』って、こういう事じゃないの?」
「…………」
しれっと言ってのけるチルノに、軽い眩暈を覚えた。
元より若干の不安はあったが、出足からここまでの事を仕出かしてくれるとは……
「全然違う……そもそも、何処からそんな情報を得たんだお前は」
「えっと……そ、その……アイツがこの前持ってた外の世界の本で、こんな格好した女の人が、うっふんあっはんって……」
「……あのなチルノ。それは、悪い本だから妖精の子は見ちゃいけません……」
眩暈に続いて、何だか頭痛までしてきた。
大方、出所はあの森の古道具屋だろう。持ち主と共に、今度制裁を加えてやる必要がある。
「それで、その服はどうしたんだ? お前に用意できるような物ではないだろう」
「うん。これはね、ケーキのついでにあのメイドに相談したら、貸してくれたの」
「…………そ、そうか」
こんな衣装で一体何をしているんだ、あの犬メイドは……
……そう言えば、あの館の主人の背丈は、ちょうどチルノと同じくらいだったような気がする。
今後あの館の名を呼ぶ時は、『紅魔館』ではなく、『変態梁山泊』とでも呼ぶ事にしよう。
「とにかく、いつもの服に着替えなさい……」
「……は~い……」
いかにも不服そうではあったが、チルノはその場でもぞもぞと服を脱ぎ始めた。
結局、少し髪を念入りに梳いてやって、いつもの洋服の胸元に花柄のブローチを着けてやる事で落ち着いた。
「さあ、行こう。仕切り直しだ。しっかり彼を祝ってやろう」
「うんっ!」
…………
「すまない、待たせた。ほら、チルノ」
「う、うん……ごめんなさい。待ったかな」
そう謝りながらおずおずと入ってくるチルノは、よく見慣れたワンピースの洋服を着ていた。
……やはりアレは、何かの見間違いだったのだろう。いくらなんでもなあ……
「いや、全然平気だよ。それより、早く始めようぜ。これじゃ生殺しもいいところだ」
「ははは、そうだな。……チルノ、彼の隣で、しっかり面倒を見てやれ」
「おいおい、至れり尽くせりだな。……よろしくな、チルノ」
「うんっ」
俺とチルノが並んで座り、その向かいに料理を挟んで慧音さんが座る形となった。
「それじゃ、あたいから。……えへへ、誕生日おめでとう」
在り来たりな文句ではあるが、はにかみながらも心から祝ってくれるのが分かるチルノと、
「私からも、おめでとう。今後また一年、君が大事無く健啖に過ごせますように」
落ち着いた笑顔で祝辞を述べてくれた慧音さんに、
「二人とも、ありがとう。こちらこそ、今後ともよろしく」
俺からも、心からのお礼を告げた。
「それじゃ、」
『かんぱー――――いっっ』
――かちんっっ。
掛け声と共に、三つのぐい飲みを合わせる乾いた音が響いた。
「ほら、あんたのお皿貸して。あたいが盛ってあげるからさ」
「そうか? それじゃ頼むよ」
断るような理由も無いので、チルノに俺の小皿を預けた。
「ふんふんふ~ん♪」
軽やかな鼻歌を交えながら、俺の小皿にヒョイヒョイと料理が盛り付けられていく。
楽しそうなチルノの様子を何とは無しに眺めていると、彼女の胸元を彩る、可愛らしい花模様のブローチに目が留まった。
「おっ、チルノ。いいブローチじゃないか。そんなの持ってたんだ」
「うん、コレ? ……へへ、慧音が貸してくれたの。似合うかな」
箸の動きを止め、照れくさそうに訊いてくる。
豪奢な模様をしている訳ではないが、質素ながらも可愛らしい造形と朗らかな黄色が、彼女の青い服によく映えていた。
「ああ、よく似合ってるぞ。可愛いと思う」
忌憚の無い感想を述べてやると、あっという間にチルノの顔が耳まで真っ赤に染まった。
「や、やだなぁもうっ、可愛いだなんて!!
いくら本当の事だからって、このっ、このっ、このっ!!」
――しぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっっっ!!!!!
にへらと緩みきった表情とは裏腹に、目にも止まらぬ速さで箸が皿から皿へと飛び回り、
「もうっ! 素直なあんたには、大サービス!!」
どさっっっ。
「うおっ……あ、ありがとう……」
鶏肉、鯛の湯引き、蒸し海老などが累々と積まれ、俺の小皿が何とも肉々しい状態になっていた。
「ふ、ふふふ……チルノ、よかったじゃないか。褒めてもらえて」
それまで黙って見ていた慧音さんが、堪えきれずに笑い出した。
「う、うん……」
「なあ、チルノ。もし気に入ってくれたのならそのブローチ、貰ってくれないか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。私が化粧箱で眠らせておくよりも、お前に使ってもらった方がブローチも喜ぶだろう」
「……うん、ありがとう。大切にする」
ちょっといい風景だ。こうしていると、本当の姉妹のようにも見える。
「ほはっはははいは、ひうほ(よかったじゃないか、チルノ)」
口の中一杯に肉だの魚だのを頬張りながら、チルノに笑いかけてやる。
「も、もう……食べるか喋るか、どっちかにしてよ。中身が見えて気持ち悪いわ」
俺の無作法を咎めながらも、嬉しさが隠し切れない様子だった。
※『其の二十五手:細やかな気配りで、彼の印象をアップ!!』
「あ、口元汚れてるよ」
「うん? ああ、悪い」
チルノが俺の口元をちり紙で拭ってくれた。
――ごしごしごし。
ちり紙越しに彼女のひんやりとした柔らかな指先が感じられて、少しドキッとした。
……何だか今日のチルノは、飲み物を率先して注いでくれたりと、らしくないと言っていい程、よく気が利く。
そんな俺たちの様子を、慧音さんがニヤニヤしながら見ていた。
「ふふ、微笑ましいな。そうしていると、まるで新婚さんみたいだ」
「むぐふぅっっ!!?」
慧音さんがとんでもない事を仰りやがりになられたので、思わず口中の食べ物を喉に詰まらせてしまった。
「ぐっ、げほっげほっ!」
「わわっ、だ、大丈夫?」
「あ、ああ。大事無い」
茶を一杯あおって、一つ息をつく。
「あ、鼻から何か出てるよ」
「うん? ああ、悪い」
チルノが俺の鼻から吹き出たゼンマイを抜き取ってくれた。
――ずぞぞぞぞぞぞぞっっ。
「わあっ、長い長い! あははははっ」
「ふっ、恐れ入ったか。これぞ俺の必殺スペル、噴符『鼻孔の竜笛』だ」
酒や麺類と併せて使用すると間違いなく死ねる、生き地獄のようなスペルである。
「……お前たち、楽しそうだな……」
慧音さんが、何故かため息をついた。
※『其の三十七手:大事な記念日には、愛情のこもったプレゼントを!!』
「あ、そうだ。少し待っていてくれ」
食が進み、場の空気が緩くなってきたところで慧音さんが腰を上げ、隣の部屋から紙袋を二つ持ち出して来た。
「ほら、私とチルノからプレゼントだ。まずは私から」
そう言って少し大きめの方の袋を手に取り、俺の方に差し出してきた。
「えっ、いいの? 何もそこまでしてくれなくても……」
「いいから遠慮するな。はい」
少々強引に押し付けられた袋を、おずおずと受け取る。
「……ありがとう。開けてみてもいいかな?」
「ああ、勿論だ」
贈り主からの承諾を得て袋を開き、中身を取り出してみると……
「おおっ、こりゃあいいや」
「へえ、なかなかカッコいいじゃん!!」
チルノと二人して、目を輝かせた。
袋の中から姿を現したのは、深い紺色の、落ち着いた感じの着流しだった。
「気に入ってくれたか。この間『持っている服がボロばかりになってしまった』と言っていたからな。
ちょうど良かっただろう?」
「ああ、ありがとう慧音さん。大切に着させてもらうよ」
貰った着流しを袋の中に戻して、大事に傍らに置いた。
「それじゃ、今度はあたいから…………はい」
チルノが何故か恥ずかしそうに差し出してくれた、もう一つの少し小振りな方の袋を受け取る。
「ん、ありがとう、チルノ。開けてもいい?」
「う、うん……」
慧音さんの時と同じように、チルノの許しを得てから袋の口を開く。
口から覗いた白い生地から察するに、同じく衣服のようだが。
袋から中身を出して、広げてみると……
『ド、ドロワーズ?』
慧音さんと二人して、我が目を疑った。
「……な、なあチルノ。これを……俺に?」
「う、うん……あたいが昨日一日穿いてたヤツ……こういうの、好きだと思って……」
――ずごんっっ!!!
ズッこけた慧音さんが後頭部を盛大に箪笥にぶつけ、凄まじい音がした。
「そうだったのか……わざわざ俺の為に……」
こんな気合の入ったプレゼント、生まれてこの方お目にかかった事が無い。
……色々な事を間違えているような気もしたが、俺は小さな事にも大きな事にも拘らない、ビッグな男なのだ。
「きょ、今日だけだからねっ! 今日は、特別な日だから……」
「ああ、ありがとうチルノ。大切に使わせてもらうよ」
貰った聖なる布を袋の中に戻して、大事に傍らに置いた。
今すぐ頭に被って幻想郷中を飛び廻りたい気分ではあったが、それは後日またの機会にしよう。
「……そ、それでいいのかお前たち……」
涙目で後頭部をさすりながら、慧音さんが脱力しきった声を出した。
※さあ大きな声でもう一度!
『其の四十二手:心のこもった手料理で、彼の心を鷲掴み!!』
そろそろお腹がいい感じに膨れてきたところで、慧音さんが箸を置いた。
「この辺にしておこうか。まだケーキも残っているし、余った分は後で包んでやるから、持って帰るといい」
「それはありがたい。明日は豪華な昼飯になりそうだ」
「はふ~、あたいもお腹いっぱい~~」
チルノが足をだらんと伸ばし、少しはしたなくお腹をさすった。
「さて、問題は……アレだな……」
「……アレか……」
「アレね……」
今まで敢えて視界に入れないよう努めてきた、部屋の隅の皿に視線を移す。
……チルノ渾身の前衛美術品が、未だに湯気を放って己の存在をアピールしていた。
「これだけ時間が経ってるのに、何であんなに温かそうなんだ……」
しかも湯気の色が増えてオーロラ状になっていて、中途半端に綺麗で気味が悪い。
「い、いいよ捨てちゃって……あたいだって、あんなの食べたくないし」
「……いや、食べる」
妖精であるチルノには調理なんて習慣は無いだろうし、ましてや自分から火なんて使ったのは初めての事だろう。
そんな彼女が、俺の為だけに一生懸命作ってくれた料理(のようなもの)だ。
ここで尻尾を巻いて逃げ出すようでは、俺にメチャモテ淫行生本番伯爵を名乗る資格は無い。名乗るつもりも無いが。
のっしのっしと畳を踏みしめ、件の皿を掴み、心配そうな目を向ける二人の元に戻る。
「う……改めて見ると、また……」
「ご、ごめん……あたい、何て恐ろしいものを……」
死臭漂う暗黒物質(ダークマター)を目の当たりにして、二人が身を竦める。
俺は覚悟を決めて、フォークを手に取った。
「ねえ、いいよ? 無理しなくても……」
「くどいぞチルノ。俺も男だ。好きな女の手料理を捨てるなどという惰弱な選択肢、最初から持ち合わせてなどいない!」
「えっ……」
覚悟のついでに、遺言代わりの景気付けをして、開いた大口にフォークを放り込んだ。
「…………ヴっっっ」
――世界が、終わっていく。
'And so these abide - faith and hope and love.
(何時までも残るものが、三つあります。それは、信仰と希望と愛です)
But the greatest of these is love.'
(その中でも最も強く貴いのは、愛です)
――背中から、消えていく。
俺は、自分の身体が冷たい光に呑まれて消えていくのを胡乱な頭の隅で感じ取り、そして、
「わあああっ!! 魂、魂がはみ出してるよっっ!!?」
「おっ、押し込めっ!! もう一回押し込むんだチルノっっっ!!!」
ぐいぐいぐいぐいっっっ。
「……………………はっ!」
二人が俺の魂を身体に押し戻してくれた事で、何とか目が醒めた。
「よ、よかった……大丈夫か?」
「あ、ああ……おかげ様で、何も別状無い」
「…………っ、ひっく……ごめん、ごめんね、あたい、ひっく、やっぱりバカだ……っく……」
「っと、おいおい泣くなチルノ。違う、違うぞ!! アレはあまりの美味しさに魂が抜けてしまっただけだ!!」
泣き出してしまったチルノの肩を慌てて掴む。
慧音さんも慌ててフォローに入ってくれた。
「そ、そうだぞチルノ。現に私も、ほらっ」
ひょいっ。ぱくっ。
「あ」
止める間も無く、慧音さんがフォークをふんだくり、俺と同じように皿から一口咥え込み、
「…………ぅぐっっっ」
――ばたー――んっっっ。
そのまま白目を剥いて気を失い、後ろに倒れこんでしまった。
「お、おいっ!! アンタ本当はアホだろ、慧音さんっ、慧音さんっっ!!!」
慌てて慧音さんの肩を揺さぶると、
――でろでろでろでろっっっ。
鼻と口と耳、合計五つの穴から、妙に光沢のある真っ青な液体が流れ出てきた。
「ほっ、放射能!!? チルノっ、永遠亭だ! 急いで永琳さんを呼んで来い!!」
「うっ、うわああああんっっっ、ごめんなさいいいいぃぃぃぃ~~~~…………(フェードアウト)」
チルノが泣きべそをかきながら永遠亭の方角にカッ飛んでいくのを見届け、
悪いとは思いつつも寝室から布団を持ち出して、そこに絶賛メルトダウン中の慧音さんを寝かせておいた。
何を隠そう、俺はかつて添い寝の天才と詠われた男だ。
…………
程無くチルノに先立って駆けつけてくれた永琳さんが、本当に慧音さんの隣でグッスリ安眠してしまっていた俺を蹴飛ばし、
慧音さんと皿の上の物体の惨状を目の当たりにして、その端正な顔を蒼く歪めた。
「これは凄いわ……まさか、ほ、蓬莱殺し…………?」
「さいですか……」
……もはや、突っ込む気にもなれなかった。
お前凄ぇよ、チルノ…………
何とかと天才は紙一重、という言い回しが脳裏に浮かんで消えた。
少女診察中……
結局、永琳さんの見事な手際もあり慧音さんの命に別状は無く、明日には目も覚めるだろうという事だった。
俺のような人間よりも、力ある妖怪たちの方に対しての毒性が強かったらしく、慧音さんは半人半獣な分、俺より症状が重かったらしい。
例のブツは、永琳さんがサンプルにすると言って、焦点の合わない目を鈍色に輝かせながら引き取って行ってくれた。
取り敢えず慧音さんは寝室に移され、今は静かに寝息を立てている。
「……フゥゥ…………ハァァ…………フゥゥ…………ハァァ……」
その寝息は、何故か尻がヒリヒリと痛痒くなるので勘弁して頂きたい。
座敷に戻ると、チルノが三角座りでしょぼくれていた。
「ふ~~っ、よかったよかった。もう心配無いよ、チルノ」
「………………うん。よかった……」
……どよ~~~~~ん。
「なあチルノ、気にするなよ。ちょっと失敗しちゃっただけで、誰も怒ってないからさ」
「……………………」
……どよ~~~~~ん。
参った。帰って来てから、ずっとこの調子である。
せっかく、さっきまであんなに楽しそうだったのになあ……
……半分くらいは自分が悪かったような気もするが、若い内からそんな細かい事を気にしていては、毛根に不要な負担をかける事になる。
俺はチルノの前に腰を落とし、愛のスーパー説法タイムに突入する事にした。
「あ~、チルノさんや。何をそんなにしょぼくれてるのさ?」
「……慧音に、悪い事しちゃった……」
「慧音さん?」
「うん……あたいの話聞いてくれたり、今まで色々面倒見てもらってたの。
なのにあたいったら失敗ばかりで、しかもあんなモノまで食べさせちゃって…………ぐすっ」
そこまで言ってまた涙がこみ上げてきたのか、一つ鼻を啜った。
俺はチルノの頭を掴み、わしわしと少し乱暴に撫でながら笑いかけた。
「はは。本当にバカだな、チルノは。失敗しちゃったのなら、しっかり反省して次から気をつければいい事だし、
ありがとう、って思ってるのなら、これから少しずつ慧音さんに恩返ししていけばいいじゃないか」
「……慧音、怒ってないかな」
「満月の夜でなければ大丈夫だ」
「……慧音、呆れてないかな」
「あの人の面倒見の良さは、幻想郷内でも指折りの美徳だ。この程度の事、屁でも無いさ」
「…………あんたは、怒ってない?」
「ははは。あんまり馬鹿ばかり言ってると怒るぞ? こんな楽しい誕生日、生まれて初めてだったよ」
「ホント?」
「本当だよ。……なあチルノ。あの後バタバタしちゃったけど、俺、チルノの事好きだって言ったよな?」
「う……うん……」
チルノの頬が、さっと赤らむ。恋娘成分30%アップといった感じだ。
「俺はさ、悪戯したり失敗したりしてどれだけ人から怒られたって、すぐに元気に笑える強いチルノが大好きなんだ。
今のメソメソしてるチルノは、正直言ってあんまり好きじゃないかな」
「えっ、そ、そんなのやだ! ね、ねえ、嫌いにならないで」
狼狽して俺の袖を引っ張るチルノの頭を、もう一度優しく撫でてやる。
「じゃあさ、笑ってよ、チルノ。いつもの可愛い笑顔が見たいな」
「えっ……む、無理だよ。そんな急に……」
「ならば、これならどうだっっ!!!(ttp://ca.c.yimg.jp/news/1121219458 /img.news.yahoo.co.jp/images/20050713/dal/20050713-00000005-dal-spo- thum-000.jpg)」
不意打ちで俺の顔面ラストスペル、虎符『井川強襲ラミレスクライシス』を使用した。
「ぎゃははははははははははっっっ!!!!!」
笑いすぎだ。
至近距離でいきなり大口開けて笑うので、俺の顔面に唾がかかりまくった。
「……あ~、まあ良かった。やっと笑ってくれたな? チルノ」
「うん……ねえ、あたいもあんたの事、大好き。
あんたが居てくれたら、いつだって楽しく笑えると思う」
「そっか…………あ、そうだ」
大切な事を思い出した。
「何?」
「そう言えば、ケーキがあるって言ってたよな?
チルノが全部飾り付けしてくれたんだっけ」
「う、うん……そうだけど」
「じゃあさ、食べるのは明日慧音さんが起きてからにして、どんなケーキかだけ見せてくれないかな」
せっかく俺の誕生日の為にあつらえてくれたケーキなのだから、ぜひ日付が変わる前に目にしておきたい。
「分かった……それじゃ持って来るから、少し待ってて」
何故か顔を真っ赤にしながら、チルノはとてとてと小走りで隣の部屋に消えた。
「……お待たせ。開けてみて」
程無く戻って来たチルノが、抱えてきた厚紙の箱を神妙に俺の前に差し出す。
「ん。何が出るかな、何が出るかな~~♪」
わくわくしながら箱の側面を開き、中の大皿を引っ張り出した。
「…………」
「…………」
――しばし、呆然と固まる。
スポンジ生地のホールに生クリームがでこぼこと不器用に張られ、
上面には、チョコレートを使った下っ手くそな字で、こんな事が書かれてあった。
『たんじょうびおめでとう だいすき』
「…………」
「ど、どう、美味しそうでしょう? あたいってば、何でもできちゃうから……んむっ!?」
――もうダメだ。色々と我慢の限界だ!
照れ隠しに早口で捲くし立てるチルノを思いっ切り抱き寄せ、その唇を俺の唇で塞いだ。
「…………ぷはっ」
「ぷはっ。ちょ、ちょっと! いきなり何すんのよ!!」
チルノが、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「嫌だった?」
「い、嫌じゃないけど…………ね、ねえ。いきなりでよく分からなかったから……もう一回」
「了解。俺の可愛いお姫様…………」
ちゅ……
「ん…………」
「……………………」
先程のものより、ゆっくりと味わうような長いキス。
「…………ぷはっ。はは、チルノの唇は冷たくて気持ちいいな」
「そう言うあんたの唇は、凄くあったかい…………あ、あのさ。あたい、おかしくなっちゃったのかなぁ。
何だか、さっきから体の中がジンジン熱いの……」
「……そっか。それは、チルノが魅力的な女の子っていう証拠だよ」
不安げに俺を見つめるチルノの頬を、ふわりと撫でた。
「あのさ、チルノ。俺、今はケーキより、チルノが食べたいな」
「うえっ、あっ、あたいを食べるの!!?」
俺の言葉を字面どおりに受け取ったチルノが、ドン引きした。カニバリズム万歳。
「違うわド阿呆! ……おほん。なあ、チルノは愛し合っている男女がどういう事をするか、知ってる?」
「う、うん……ちょっとは。…………そっか。あたい、これからあんたに食べられちゃうんだね……」
「ああ。身も心も、それはもう芯から芯まで美味しく頂いちゃいます」
幸い、先程慧音さんを介抱するのに使った布団が、そのままの形で傍らに敷いてある。
……一生忘れられないであろう、長く幸せな夜の帳が下りた。
…………
×月×日(大安)
……昨日は、まったくもって酷い目にあった。
とは言え、私が眠っている間に事は上手い具合に運んだらしく、
昼前に私が目を覚ますなり、二人が恋人同士になったという事を、手を繋ぎながら報告してくれた。
その後三人で、昨日残った食材で朝昼兼用の食事を採り、デザートにケーキを美味しく頂いた。
……そう言えば、人が寝込んでいるのをいい事に、二人で随分と大暴れしてくれたようで、敷布団を一枚駄目にされてしまった。
いやまあ、洗えば使えない事も無いのだが、流石にそういう布団を私が使うのは、その……気が引ける。
結局、件の布団は彼に引き取って貰う事にした。
誇らしげに布団をマントのように羽織りだした彼を、思わず幻想天皇でメッタ刺しにしてしまったが、多分私は悪くない。
私に一端の別れを告げて、手を繋いだまま家路についた二人の後姿に、昨夜の失態も吹き飛ばしてくれるような充足感に満たされた。
詰まる所、どれだけ人や本から得た知識を弄したところで、最後に物を言うのは当人たちの気持ちなのだ。
※『其の六十四手:最後は、心の赴くままに!!』
…………
「……ふう。今日はこんな所か」
日課の締め括りである日記の記帳を終え、軽く背筋を伸ばす。
机の隅に、チルノから返して貰ったままの状態で、例の史書が放置してあるのが見えた。
「ふむ、私らしくも無い。片付けるのを忘れていたか」
元の場所に収めるべく史書を手に取ったところで、何やら紙片が挟んであるのに気がついた。
何だろう、これは。
訝り紙片を取り出すとそこに、下手ではあるが、力感ある快活な文字が躍っていた。
『ありがとう、けーねお姉ちゃん』
「…………ふ、ふふ……」
笑みがこぼれるのを止められなかった。
これだから、生きているというのは楽しくて堪らない。
「お幸せに。私の可愛い妹分」
3スレ目 >>768
※幻想郷キャラ<<<<俺な設定で、しかしながら現実面においても無理の無い展開で、
さらにイチャイチャしつつ告白までするという>>1の規定範囲とこのスレの趣旨を遵守
しようとした実験作品。
「ここに一人、バカな奴がおる。
――お前やろ?」
「な!?アタイはバカじゃないぞ!」
「ほな、九九の一の段言うてみ?」
「何よバカにして。私だって一の段くらい知ってるんだからね。
……えーと確か、いんいちがいち、インケツもいち、インセキはいし、
インテツはてつ、インチキはダメ、インドのやまおくデンデムシかたつむり・・・・・・」
「お前やーっ!!」
「なんでよーっ!
だってこれ、ブン屋の烏が教えてくれたとおりなのよ!」
「それ、ネタやないかい!
見抜きなさい! それ、ネタ、見抜きなさい!」
「ヤダヤダヤダー!! アタイはバカじゃないーっ!! バカって言うなーっ!!」
「ほな言われんよう勉強せーっ!!」
「う~っ!」
「なんやねん、そんな目でワシとこいくら睨んでも、お前の頭はよーなったりせーへんぞ」
「・・・・・・じゃあアタイが勉強したら、もうバカって言わない?」
「お前が勉強して賢こうなったら、誰もそんな事よーいわへんようになるわ」
「じゃあ、勉強教えて!」
「!」
―その日の晩―
「ええか?
16から8ひくと、16の1の位には6しかあらへんから、
同じ1の位の8を引くにふたつ数がたらへん。
せやから、隣の10のくらいの1から助けを呼んで、そこから
たりない2を引かなならんねや」
「なんで6の隣の数が1なのに、そこから2が引けるのよ」
「1から2やない、10から2や。
じゅうろくの1は、じゅうの位の1でそのまま10の事や。
つまり1の位のお前の指10本であまる事が、隣におる10の位の
ワシの指一本分で型付くんや」
「なんでアンタの指一本が私の十本分なのよー」
「フン。少なくともワシは、お前より頭だけはええしな」
「う~・・・・・・、じゃあアンタの手にもあまる奴だったらどうするの?」
「そん時はまた隣から借りてくるんや。
せやな、レティからでも借りてくりゃええやろ」
「レティいないじゃん」
「おんねん。
見えんでも、ワシの隣にレティがおる事にするねん。それが科学って言うもんや。」
「良くわからないけど、まあでも確かにレティはアンタより強いし頭も良いもんね。
・・・・・・でも、もしレティでも手に余ったら?」
「したら閻魔様からでも借りてくればええ」
「あー、でもあいつは難し過ぎてよく解らないから・・・・・・」
「まあ今はそこまで考えんでもええわ。
それよりも、今の計算わかったか?」
「なんとなく。
・・・・・・それよりも、何でさっきからアンタが鼻血を出してるのかが解らないわ」
「フン、お前の頭でこれが理解できるか知らんが、男は自分が好きな奴が隣におるとな?
体の血の巡りが良くなって、血管が脆い鼻の奥の皮膚が破ける事があんねん」
「ふーん、あんたのとなり・・・・・・。
あ、レティはダメだよ! 渡さないんだから!」
「ちゃうわアホー」
「じゃあ誰よ、閻魔?」
「・・・・・・この中に一人、ワシが好いとる奴がおる・・・・・・」
「うん、だれ? だれ?」
「お前や」
3スレ目 >>882
ガリガリくん
「暑い……そろそろアイスが恋しい季節だわ……」
「おうチルノ!ガリガリくん旨いぞ!食うか?」
「食べる食べる!あ、冷蔵庫開けないで!新しいのじゃなくて、そ、それがいいのよ」
いや、チルノのことだから何も考えずに平気で食いそうだ
4スレ目 >>323
「暑い……チルノー、なんか冷たいもん」
「はい氷。」(←花映塚のアイシクルフォール)
「……思いっきりとがって危ないんだが」
「それで我慢しな」
「ビニール袋に入れられる位がいいんだが」
「面倒。」
「……自分で砕くのも面倒だ。別に氷嚢じゃなくてもいいや」
~~十分後~~
「あっちゅーまに溶けたな」
「はい氷」
「いやシーツがびしょぬれだ」
「ベットの上で使うなんて馬鹿ね」
「お前に言われたくない」
「ふーん氷いらないんだ」
「あっ、すいませんもう言いません」
「わかればいい」
「今度は面倒でも氷嚢にするか……」
~~十五分後~~
「結局露結んでびしょぬれだ」
「馬鹿ね」
「色んな意味で否定できない」
「はい氷」
「いや、軽く寒気がしてきた」
「風邪でもひいた?」
「へっくしょいッ!」
「爺くさいくしゃみね」
「うるへー」
「こうすれば暖かいよ」
「いやよくある漫画みたいなノリで布団入ってくんな」
「いいじゃんべつに」
「まあな」
暑すぎてやった。
今は後悔してると思う。
最終更新:2010年06月01日 02:31