チルノ7
うpろだ1022
「○○、一緒にお風呂はいろー!」
「……返事をする前にもう入ってきてるんだな」
露天風呂でのんびりしてたら
チルノが乱入してきました。
「ていうかお前氷の妖精だろう。お風呂とか入って溶けたりしないのか?」
「ふふーん、さいきょうのあたいを甘く見ないでよね、お風呂なんてへっちゃらなんだから!」
平気だそうです。まあ入れなかったら話がはじまらない。
というわけでさて、まず当たり前だがここは風呂場である。
当然チルノはすっぽんぽんであり真っ裸であり生まれたままの姿なわけで。
そんな格好で仁王立ちしてこちらを見下ろすものだから見上げる形のこちらとしては色んなものが見えて困る。見るけど。
詳しい描写をするとどこからともなく「そこまでよ!」が来るので割愛させていただく。
「それじゃー行くぞー!とー!」
とかなんとかやってるうちにチルノが湯船に飛び込んできた。
いつでもどこでもこいつは元気だなあとため息を一つ、それから――
「えい」
はっし。
「あれ?」
飛び込んできた両足をキャッチ、そのまま小さな身体を持ち上げる。
「ちょ、何すんのさ!はなせー!」
「湯船に入る前にはちゃんと身体を洗ってから入れ」
椅子に座らせ、桶に湯を汲んで頭からかぶせる。
「ぷわっ、あっ、熱いー!」
「おやおや、さいきょーのチルノちゃんがこのくらいの熱さでもうダウンですかー?」
「っ!へ、平気だもん!ど、どんどん来なさいよね!」
こちらの挑発にあっさりのって強がるチルノ。やれやれと苦笑しながらスポンジを石鹸であわ立てる。
「ほら、背中洗ってやるからじっとしてろ」
ごしごしと背中をこすってやる。
「ぅあ、い、痛いよ○○……」
「ん、強くしすぎたか。すまん」
こしこし。さっきより少し優しく背中を擦ってやる。小さな背中。自分のを洗うより遥かに楽だ。
「ほらバンザイしてー」
「んー」
そのまま腰から腋の下も洗ってやると、案の定チルノがくすぐったがりだした。
「ちょ、あはは、くすぐったいよ○○ー」
「がーまーんーしろって」
「あははは、だ、だめーくすぐったいー」
「ちょ、こら暴れるなって、うわ!」
あまりにチルノが暴れるものだから椅子から後ろに転げ落ちて俺ごと後ろに倒れる。
チルノは俺がクッションになったものの俺は床に後頭部をしこたま強打する羽目になった。
「痛ったたたた…」
「あははは、あーくすぐったかったー」
俺の身体の上でまだのんきに笑うチルノ。ははは無邪気なもんだなあ。
「えい」
がっし。
「あれ?」
両足でチルノの身体をがっちりホールド。これぞ吉本直伝カニバサミ。
「な、なにするのー?」
「これなら暴れられないだろ、このまま全身くまなく洗ってやるからなー」
「え、えー!?」
ここから描写すると色々危ないシーンが展開しますのでしばらく音声のみでお楽しみください。
――ほーれ足の裏もちゃんとごしごし洗わないとなー
――きゃーっ!!くすぐったいくすぐったい!あははははは!
――ひゃんっ!?え、えっちー!
――わははは一緒にお風呂入ろうとか言い出したのはそっちだろがー!
――……あー、そこは自分で洗うように。
――……う、うん。
ざばーん。
「ぷあー」
桶の湯でお互い泡まみれになった身体を洗い流す。
「頭は自分で洗えるか?」
「うん!へいき!」
「それじゃ俺は湯船に戻るから、洗ったらつかりに来い」
「うん!」
元気よく頷くチルノにこちらも頷いてやり、湯船に戻ってつかり直す。
「……あ゛~~~」
なんかどっと疲れた。
一応この露天風呂にはリフレッシュに来てた筈なんだけどなあ……。
深く湯につかってゆっくりと深呼吸でもして――
「ぴーーーーーーーっ!?」
――しようとしたところで可愛らしい悲鳴。
「……チルノ?」
「○○ーー!泡が目に入ったーー!」
ああもうあのおこちゃまは!再び、今度は急いで湯船からあがってチルノの元へ向かう。
と、チルノもこちらへ向かって来ているところだった。泡の入ったらしい目は当然閉じられていて。
「ってチルノお前目つぶったまま走り回るな!危ない!」
「痛いよう、はやくーはやく何とかしてー!」
聞いてない。目の痛みで混乱しているらしい。というかそんな危なっかしく風呂場なんて走ったら――!
「うあっ!?」
やっぱりか!
足を滑らせるチルノ。急いで駆け寄り倒れそうな身体を支えてやる。
「へ、平気かチルノ!?」
「い、痛いよぅ……暗いよぅ……」
痛みと転びそうになったショックのせいだろう、声に涙が混じらせながらしがみついてくる。
「ほら、顔洗って。平気だろう?最強なんだろ?チルノは」
「……うん」
優しく肩を抱いてやり桶にお湯をくんで顔を洗わせる。
「お湯に顔つけて、何度かまばたきしてたら泡取れるから」
「んー……ぶくぶくぶくぶく」
頭は――一応ちゃんと洗えていたらしい。洗い流したところで目に泡が入ったのだろう。これなら――
「ぷはっ、とれたー!」
「えい」
ひょい。
「あれ?」
チルノの小さな身体を抱え上げる。お姫さま抱っこの体勢だ。
「こ、今度はなにー?」
「身体をちゃんと洗ったならよし。一緒にお風呂入るんだろ?」
「あ……うん!!」
やれやれ、泣いたカラスがもう笑った。
かぽーん。
三度湯船につかる。やれやれ、ようやくのんびりできる。
「熱くないか?チルノ」
「んー……へいき!」
……強がってるな。
チルノはあぐらをかいた俺の足の上に座っている。
身体が小さいから普通に入ると頭が湯船に沈んでしまうのでこれくらいがちょうどいいのだ。
一息ついたところで、とりあえずチルノに最初から思っていた疑問をぶつけてみることにした。
「なぁチルノ、なんで一緒に風呂に入りたいなんて思ったんだ?」
「え?だってこのお風呂って入ったら気持ちよくなるんでしょ?」
……まあチルノの理解力ならこんなものか。泉質とかそういうのはわからないんだろう。
「まあ、そんな感じかな」
「それで○○も入りに行ったって聞いてね。えっと、えーと……」
「?」
「一緒に、きもちよくなりたかったの……」
選択肢を選んでください。
A:そうか、それじゃあもっと気持ちいいこと教えてやろうな
B:………そうか
は!今変なノイズが!Bだ、B!B!
Aを選んだ日には俺のこの世がえらい目に!いやいい目にはあえる気はするがその後がとても大変なことになる気がする!
「………そうか」
「えっと……いやだった?」
不安そうな顔でチルノがこちらを見上げる。……ああもう、そんな顔するんじゃない。
「嫌なんて事ないさ。それよりチルノ?」
「なに?」
「気持ちいいか?お風呂」
「あ……うん!ちょっと熱いけど、○○と一緒だからきもちいいよ!」
不安な顔があっという間に笑顔。やっぱりチルノはいつも笑顔じゃないとな。
「そうかそうか、それじゃお風呂にはいったらいくつ数えるんだっけ?」
「じゅう!」
「よし、それじゃ一緒に数えてお風呂上りにラムネでも飲むか!」
「ホント!やったー!!」
元気よく「いーち!にーい!」と数えだすチルノ。
一緒に数えながら、空を見上げれば満点の星空。たまにはこうやってわいわいお風呂に入るのも悪くないと、そう思うのだった。
~オマケ~
がらがらがら。
「あーいい湯だった」
「○○!はやく!はやくラムネ!」
「あーはいはい、番頭さん、ラムネふたつー」
「はい、二つで20円でやんす」
「………誰?」
「いやだなあ○○さん、あっしでやんすよ、犬走椛でやんす」
「そんな口調だったっけ」
「何でも文様が言うには清純派犬耳娘はこの喋り方がトレンドなのだと教えてもらったのでやんす」
「んー、まだ公式の口調とかわかんないしね。いいんじゃないかな。とりあえずはい20円」
「まいどありー」
「ほらチルノ」
「わーい!中にビー玉はいってる!」
「出すならまず飲んでからだな。自分で出せるかー?」
「む、出来るよ!見てなさいよね……げほげほっ!」
「うわ、炭酸一気飲みする馬鹿がいるか。ほら、だいじょぶか?」
「だ、だいじょぶ!それよりビー玉を……」
「うわあ当然のようにビンに指をつっこんで……」
「……………。」
「チルノ?」
「……○○~~、抜けなくなった~~」
「ああはいはい、やると思った」
うpろだ1035
日を重ねるごとに暖かくなっていく今日この頃。
幻想郷の生き物たちも、春の訪れに活き活きとしている。
それは冬眠していた八雲ゆ……、いや、カエルも例外ではない。
ほら。
また一匹、ぴょこぴょこと湖の周りを跳ねて…、
「パーフェクトフリ~ズ!」
あぁ! 凍ってしまった!
こんな事はをするのはあいつしかいない。
もう……。いつもカエルをイジメちゃダメだって言ってるのに。
「こりゃ、チルノ! カエル凍らせちゃダメでしょ!」
湖のほとりに立って、目の前に浮かぶ青い妖精にそう訴えた。
チルノは大きな声にビクッとしたが、俺と気付くと、
「あーっ、○○だぁ!」
こちらにすっ飛んできた。
「どうしたのさ? あたいに何か用?」
無邪気な笑顔を浮かべ、俺の周りをくるくる飛びまわるチルノ。
日差しは暖かいのに、彼女から流れ出る冷気でひんやりする。
この感覚は嫌いじゃない。
「えっ、あぁ、まぁそうだけど。……じゃなかった。チルノ、カエルを――」
「分かった! あたいと一緒に遊びたくて来たんでしょ!? ……フフフ。しょうがないなぁ、○○は」
どうやら俺の話を聞くつもりなど毛頭無いらしい。
横に着地し、腕を組んでふんぞりかえる。
普通なら憎たらしいと感じるかもしれないが、彼女の場合はとってもチャーミングな仕草に変わる。
太陽に透けてキラキラ輝いているチルノの薄青い髪。
……綺麗だなぁ。
もう、いいか。チルノはおてんばなくらいが丁度良いかもね。
早くあそこに連れてってあげよう。
「はっはー、バレちゃったかぁ! そうなんだよ、チルノと一緒に遊びたくってさぁ」
「やっぱり? そうだと思った! あたい、○○の事は何でも分かるのよ♪」
チルノはそう言うと、腰に手を当ててえっへんのポーズをとる。
ワンピースの膨らみは目立たないけど、それでも強調されて『女の子なんだなー』と感じる瞬間だ。
……って、おいチルノ。それ以上胸を張ると……、
「うわっ、わわわっー!」
ひっくり返るに決まってるじゃないか。
まったく。
バカだなぁ、チルノは。
「公園?」
「そう、公園だ。今日はそこに連れてってあげるよ」
湖畔の大きな石に二人で腰かけ、俺はチルノにそう言った。
公園というのは少し前に里に出来た小さなもので、寺子屋の上白沢先生が中心となって整備された。
神社の巫女さんや香霖堂の主人も手を貸していたようだが、やはり、先生の人望が厚かったから出来たことだろう。
「……公園ってなに?」
チルノはきょとんとしている。
確かに妖精であるチルノは聞いたことがないかも知れない。
「えーと…、そうだなぁ。遊具がいっぱいあって、楽しいところ、かな?」
他に言い様がないので端的に伝えた。
小さいながらも基本的な遊具は揃っているので、楽しいところってのは間違いではないと思う。
チルノはそれを聞くと、わくわくするような表情を見せたが、
「……その公園には、あたいは行って良いの? あたい、これでも妖精で、しかもさいきょーだから……」
『さいきょー』であるかどうかはともかく、自分が妖精であるからと心配をにじませる。
何となく、自分たちの領域でないことを感じ取ったのだろうか。
彼女は察しが悪いわけではないようだ。
しかし、問題はない。そこは解決済みだ。
巫女さんと先生にチルノを連れて行きたいと相談したところ、
「チルノ? うーん……。○○が居れば平気じゃないのかしら。別段凶悪って訳でもないし」
「湖の氷精? うむ……。害悪はないのだろう? ○○がしっかり付いているならば大丈夫だと思うが」
二人とも何かあったらすぐに呼べとは言っていたが、OKとの事だ。
「大丈夫だよ。俺が一緒に居れば、チルノも遊んで良いんだって」
ニコッと笑いかける。
「お、おぉーっ! さすがあたいの子分ねっ! さぁ、○○。あたいを連れて行くのよ!」
ずびゃっと立ち上がるチルノ。
青いリボンが大きく揺れて、はやくはやくと急かしてくる。
こんなに喜んでくれるとは思わなかった。
「良しっ! 行くかぁ!」
俺も立ち上がって、ほら、迷わないように手をつないで……。
え? 肩車がいい?
しょうがないなぁ。
しゃがむから、その間に首の後ろに乗るんだぞ?
「はい、チルノ、良いぞー。……ふが! ほっひははへは、ほっひははへは!」
……首の後ろと前を間違えている。
目の前には、雪原のような真っ白な光景が広がって―――。
■ ■ ■
「ほい、着いたぞー。ここが公園だ」
正しい肩車にモデルチェンジした後、湖から歩いて来た。
長く掛かったのかも知れないが、チルノとのおしゃべりで体感的にはたいした事無かったと思う。
「ほえー……」
チルノは初めて見る公園に目を丸くしている。
ブランコ、すべり台、砂場など、キョロキョロと目を動かし興味津々だ。
他の子は見当たらなく、丁度よかったかもしれない。
「○○、あれはなに? あれは?」
まだ俺の肩に乗ったまま、遊具の名称や遊び方を訊ねてくる。
ちょっぴり緊張してるのかな。
「よし、最初は何で遊ぼうか?」
俺は上に目線をやり、チルノの答えを待つ。
うずうずがひんやりとした脚から伝わってくる。
「あれ! あれが良いっ!」
指先にそびえるはジャングルジムだ。
大人一人半ぐらいの高さで、銀色に塗装されている。
ふふふ、チルノさんのヤツ、なかなか渋いチョイスをするぜ。
「OK! じゃあ、あのてっぺんに最初に着いたほうが勝ちだ!」
これでも俺はジャングルジム速登りに自信がある。
公園ビギナーのチル吉に負けてたまるかよ。
ゆっくりとチルノを肩から降ろし、スタートの体勢をとる。
向こうも向こうで不敵な笑みを浮かべてやがる。こいつ、勝つ気でいるのか?
「よーい……、ドン!」
甘い!
ダッシュする俺。チルノは出遅れたのか、横には並んでいない。
「もらったぁ!」
これは俺の独壇場じゃないか。
まったく、少し大人気ないことをしてしまったのかな、ふふふ。
ジャングルジムに手を掛ける。……あばよ、チル蔵。
脳内でハードボイルドに決めた瞬間だった。
「着いたー! あたいったらさいきょーね!」
突然、チルノの勝利の咆哮が響く。
「……は?」
何故だ。俺は独走態勢だったはずだ。
―――っ! まさか!?
「チルノ、飛んだなぁ!? ズルすんな、アホー!」
ヤツが、俺にはない羽根を持っている事を失念していた。
あれならば、スタート地点からまっすぐに頂点を目指せる。
「ズル! アホ! バカ!」
「なにーっ!? バカって言った方がバカなんだぞー!」
「うるせぇ!」
「むきーっ!」
まったく。
バカだなぁ、俺たちは。
ジャングルジムの後は、すべり台、シーソーなど色々な遊具でチルノと遊んだ。
砂場でチルノが、驚くほど精巧なカエル像を作り上げた時は腹がよじれるかと思った。
時間の経過を忘れるほど楽しかったのだろう。
いつの間にか辺りは紅に染まり、よい子が帰宅する五時まであと十五分にせまっていた。
「チルノ、次のブランコで最後だな」
「うん」
二人とも泥んこになっている。
俺たちは気にせずブランコに駆け寄った。
「まず俺が押してあげるから、ほら座ってごらん」
「え? ……こ、こうかな?」
チルノは戸惑いつつも、腰を下ろす。
「ち、ちがうって! こっち向いて座ったら、チルノの、おっ、おおオッパイ押さなきゃいけないじゃないか」
「わわ、な、何を突然言うのさ!? しし、知ってたよ、エッチ!」
何故か俺が悪いような言い方をされた。
顔を赤くしながらも、急いで座りなおすチルノ。
羽根の生えた面積の小さい背中がこちらを向く。
「よ、よしっ! じゃあ押すよ。せーのっ!」
ぐぐっと前に押し出す。軽い体重が、俺の腕に心地よい。
チルノを載せたブランコは、気持ちよさそうに風を切った。
「わぁー! すごい、すごい面白いよ、○○!」
澄んだ声で喜びを伝えてくれるチルノ。
近づいたり遠ざかったりするその声は、本当に幸せそうだ。
「楽しいかぁ、チルノ?」
「うん、うん、きゃははは♪」
勢いは安定してきて、もうそんな強く押さなくても大丈夫そう。
俺は同じリズムで優しく背中を押しながら、チルノに今日の感想を訊いた。
「今日は楽しかった?」
「楽しかったぁ! ○○、また今度一緒に来ようよ」
「あぁ、良いよ。また来ような」
「うん!」
良かった。チルノは気に入ってくれたみたいだ。
「……ねぇ、○○?」
「うん? 何だ?」
ブランコに揺られながら、ちらちらと後ろの俺を振り返るチルノ。
「○○は楽しかった? ……あたいばっかり楽しいわけじゃない?」
チルノは不安そうな声でそう言った。
……なんだろう。
この氷精は、しっかりと俺の事まで考えてくれている。
そう思うと、なんだかあったかい気持ちが俺の胸に上ってきた。
小さなチルノだけれど、人を想う心は大きいのかな……、なんつって。
「もちろん楽しいよ。チルノと一緒に遊べて、しかもチルノの笑顔が見れるんだからね」
こっちを自信なさげに見ていた眼が、一気に花開いた。
ピンク色に染まった頬が、可愛らしい彼女に一層磨きをかけている。
「しっ、知ってたよ! 言ったでしょ? あたい、○○の事は何でも分かるの♪
○○の事大好きだから、○○の考えてる事全部分かるのよ♪」
すごいなぁ、チルノは。
嫌味とかじゃなくて、心からそう思う。
「だって、あたいはさいきょーだもんね!」
「ははは、チルノには敵わないなぁ」
でしょー、という元気な声が返ってくる。
やっぱりだ。チルノはかわいい。
いつも一緒に、笑顔で過ごしたい。
心からチルノが好きだ。言葉が溢れてくる。
『俺もチルノが大好きだよ』
頭の中で言ったのか、本当につぶやいたのかは分からない。
でも、出来ればこの気持ちがチルノに伝わっていて欲しかった。
「ねー、○○? ちょっとブランコ止めて。今度はあたいが自分で漕ぐの」
……やっぱりダメか。
さいきょーでも、さすがに気持ちまでは読み取れないよね。
「ん、分かった。でも、もうスグで五時の鐘が鳴るぞ?」
「だいじょーぶ。ちょっとだけで良いの。
……それと○○、あたいが良いって言うまで目をつむってそこに立ってて」
「別に、いいけど…。怪我しないように気をつけろよ?」
「分かってる」
今朝みたいな無邪気な笑顔を浮かべ、右手の親指を立てるチルノ。
まぁもう慣れたと思うし、怪我はしないだろう。
怒らせるのもあれだし、言う事を聞いてあげようか。
目をとじて、指定の場所に立って待つ。なんかのイタズラかな。
ガチャガチャと鳴るブランコの鎖。
ははっ、漕いでる、漕いでる。
よっぽど気に入ったんだな。嬉しい限りだ。
でも、今度はいつ連れてこよう。
しばらく続くかもな。上白沢先生とかにお礼を言わなきゃ。
それとも、たまには違うところで遊ぼうかな。うん、そうだよ。
何も一緒に遊ぶのは、湖と公園じゃなくたって良いもんな。俺の家の近くとかでも良いし、室内でのんびりするだけでも良い。
チルノが楽しいと思える事をしてあげよう。
「○○、良いよ!」
ん? もう良いの?
どれどれ、目を開けてみましょうか……。
「えっ、チルノ!?」
チルノは俺の目の前に居た。
―――ちゅっ
唇にひんやりと冷たいものが当たる。チルノの小さな唇だった。
彼女は俺にキスをしている。それに気付くまでの一瞬が、嘘みたいに長く感じられた。
五時の鐘が鳴る。
「ありがと、○○。……あたいのスーパーグレート永久スペシャル子分にしてあげるから、ずーっと一緒に遊ぼうね」
夕日に照らされるチルノは、なによりも美しく輝いていた。
やっぱりだ。
やぱりチルノはすごいやつだったんだ!
チルノはさいきょーだったんだ!
■ ■ ■
「おや、○○」
「あぁ、上白沢先生! こんばんは」
「はい、こんばんは。……おや、背中におぶっているのは氷精じゃないか」
「ははは、そうなんですよ。どうやら遊び疲れてしまったみたいで」
「なるほど。うむ、それほどまでに外で元気に遊ぶのは良い事だ。
……しかし、確かその氷精はあまりかしこくないと聞いたが。遊びもいいが、たまには勉強もしろと言っておいてくれ」
「分かりました。でも、きっとだいじょーぶですよ、先生。……だって、チルノはさいきょーですから!」
「……ん? それはどういう……?」
「では、そろそろ失礼します。先生、さようなら」
「お、おう。 まだ暗くはないが、道中気をつけるんだぞ!」
「は~い!」
とことこと湖までの道を歩く○○。
ブランコの勢いでばびゅんと俺のところに飛んできた後、チルノはあくびを連発。とても眠そうにしていあた。
そんなチルノを肩車するのは多分に危険だ。
帰りはおんぶするから寝てもいいよと言うと、すぐに背中に飛びつき寝息をたて始めた。
「もうちょっとで着きそうだよ」
○○は背中のチルノに向かって話しかける。
別に反応を期待してのことじゃない。
チルノの目を覚まさせないように、一歩一歩静かに歩く○○。
「……ぅん…むにゃ……」
寝言が聞こえる。
「……ぅん…。○○、……だい………すき…………」
○○は微笑むと、優しくゆっくりと歩を進めた。
終わり
うpろだ1298
暑い。幻想郷の夏は、外より涼しいのではないかと淡い期待を抱いていたが、やっぱり暑い。
道端に腰掛け、空を見上げてみる。
少し前には霧が出っぱなしで涼しい夏もあったらしいが、今俺の頭上には太陽がさんさんと輝いている。
「……暑い」
口に出すと余計暑くなりそうなので言わないようにしていたが、たまらず声が出る。
どこかへ遊びに行こう、と俺の家にチルノがやってきたのはついさっきのことだ。
窓の外を見ればなるほどいい天気だから、それも悪くないなと戸をくぐって外に出た。
そこまでは良かった。
一歩外に出たとたん、今年の夏が来てから一番ではないかという熱気に襲われ、
汗がどっと噴出し、頭がぼーっとし始め、前に進む気力が根こそぎ奪われた。
というわけで、まだ家の側からほとんど進んでいない。
「○○は暑いの?あたい全然暑くないよ」
「……そりゃチルノは歩くクーラーみたいなもんだからなあ」
横にいるチルノは、全く暑そうな様子がない。
そりゃそうだ、年中冷気を放出してるんだから周りの気温など問題にならない。
「クーラーって何?」
「あー……外の世界のもので、それがあると暑い夏でも涼しく過ごせるんだよ」
「ふーん……」
チルノは何か考え込んでいるようだ。
何とかの考え休むに似たりと言うが、チルノの場合下手に考えると、休むというより破壊力がより増すような気がするんだよなあ。
やがて顔を上げ、まぶしいような笑みを浮かべると、
「よし決めたっ!あたい○○のクーラーになってあげるっ!」
叫ぶやいなや背後に回り、飛びかかってくるチルノ。
「わっ、ちょっと待った気持ちは嬉しいけどそんないきなり―あつっ!?」
まず背中に触れたのは、細くて柔らかなチルノの重み。
そして一瞬の間を置いて、背中が焼けるような感覚。
あまりに冷たいものに触ると、熱いと冷たいの境界があいまいになるらしい。
スキマ妖怪の仕業だろうか?
「熱っ、チルノ待て、まず落ち着いて一度離れ―」
「え、まだ暑いの?よーし、パワー全開よ!」
「やめれー!」
……何とか凍傷は免れた。
だが汗が凍って服が皮膚に張り付き、慌てて脱ごうとしたら危うく皮がはがれるところだった。
「鰐鮫だました白兎じゃあるまいし……」
「ごめんね、○○……」
「いや、いいよ、悪気があったわけじゃないし……」
普段のチルノなら、直接触れたところでちょっとひんやりするだけで、こんなことにはならない。
しょっちゅう膝に乗せたり、腕枕で寝かしつけたりしている俺が言うのだから間違いない。
だが、俺を冷やそうとして気合を入れてくれているおかげで(せいで?)過剰に冷気が出ているらしい。
「よーし、気を取り直してもういっぺんよ!」
「……立ち直り早いなー」
そしてそれは未だ衰えていない。実際、気持ちだけは本当にありがたい。
が、近づきすぎるとまた凍傷になりそうだ。少し距離を置けば涼しいんだが……
お、そうだ。
「チルノ、ちょっと待っててくれ」
「え、○○どこ行くの?これから涼しくなるようにアイシクルフォール……」
「すぐ戻るから。あとスペルカードは勘弁な」
俺は家の中に戻ると、目的のものを探し始めた。
蝉の声が辺り一面に響く中、山に向かう道を歩いている。
暑さはもう気にならない。
背中には大きめの籠にひもを通した背負い籠。
色々便利だからと以前慧音さんにもらったものだ。
「ふふん、○○ったらあたいのおかげですっかり元気になったわね!」
籠の中には、得意げなチルノ。相変わらず冷気の過剰放出は続いているが、直接触れていないため、程よい涼しさが伝わってくる。
背中を向けているのでよく見えないが、結構楽しそうにしている。
……まあ、傍から見たら⑨な光景かもしれないが、実用性重視だ。籠から顔だけ出してるチルノはちょっと可愛かったし。
「いやほんと、チルノのおかげで涼しいよ」
まったく、さっきまでの暑さが嘘のようだ。
「あ、白黒」
「ん?……おお、魔理沙だ」
籠の中から空を眺めていたチルノの方が、先に気付いた。
上空を箒に乗った魔理沙が飛んでいく。立ち止まって手を振ると、向こうもこちらに気付いたようだ。
「よお○○、ずいぶん変な荷物背負ってるんだなー」
一声かけて飛び去っていく魔理沙。声をかける間もなかった。
「やれやれ、慌ただしいな。さて俺達も行くか……チルノ?」
歩き出そうとしたところで、背中の冷気が急に弱まったのに気付いた。
どうしたのかと思い声をかけると、何だか元気のない声が返ってきた。
「ねえ○○……あたいって、お荷物?」
どうやらさっきの魔理沙の言葉が、変に気になっているらしい。
まあ確かに荷物っぽいが、チルノが言いたいのはそういうことではないのだろう。
「お荷物なもんか。チルノが俺を涼しくしてくれて、すごく助かってる」
「ほんと?」
「ほんとだって。チルノがいてくれるから、今年の夏は快適に過ごせそうだ」
いつもの元気なチルノに戻ってきてほしくて、一生懸命励まそうとする。
「……じゃあ、冬になったら?あたいやっぱり○○のお荷物?」
「…………」
「あたい冬になっても○○と一緒にいたいな……だめかな?」
籠を地面にそっと下ろす。
中を覗くと、チルノが体育座りでうつむいている。
「よっ」
「ひゃっ!?」
軽いので楽に持ち上がる。
驚くチルノを籠の中から引っ張り出すと、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「チルノ」
「……なに?」
「前言撤回だ。涼しいからじゃなくてチルノのことが好きだから、俺もチルノと一緒にいたい。夏だけじゃなく一年中ずっと」
「……うん」
ほっとしたように笑うチルノと、肩越しに頬をくっつけあう。
冷たくて気持ちいいけれど、心は温かくなった気がした。
「さ、行くか」
「うん!……あれ?」
「あ」
……しまった、顔が離れない。確かにもうちょっとこのままでいようかなとか思ったけど。
「……凍った?」
少し力を入れてはがそうとしたが、
「……○○、痛い」
仕方がないので、結局そのまま歩き出すことにした。
「流石にちょっと恥ずかしいかな……」
「そう?あたいは○○とぺたぺたするの好きだけど」
「いや、俺だって好きだけどね」
傍から見るとチルノを抱き上げて頬ずりしながら歩いているように見えるだろう。
まあ、あながち間違いでもないんだけれど。
余談だが、しばらく進んだところで、Uターンしてきた魔理沙とすれ違った。
くっついたまま歩いている俺とチルノを見て、しばらく空中に固まっていたが、
「あ~、なんだ、あれか……バカップル?」
と言い残し、去っていった。
「○○、あたいたちってバカップル?」
再び訊いてくる。
意味がわかっているのか、わかっていないのか。
どっちにしても、今度はチルノが何となく嬉しそうだったので、
「そうだな」
とだけ答えておいた。
最終更新:2010年06月01日 23:24