美鈴5



13スレ目>>102


「針よし、竿よし、仕掛けよしっと。うん、ちゃんと全部揃ってる」
 俺が幻想郷に迷い込んでからはや幾月が過ぎた。
 右も左もわからない俺がふらふら彷徨ってたまたま紅魔館を通りかかったところ
 レミリアに拾われてからここで住むことになった。
 最初はただの食料としか見ていなかったのだろうけれどいつの間にか紅魔館の住人の一人に落ち着いた。
 屋敷の中で唯一の男手として重い物の持ち運びなどの肉体労働の仕事を任されていて丁稚みたいな立場にいる。
 今日は久しぶりに貰えた休みということで冬の寒い日が続いている中珍しく暖かいので
 湖に釣りに行こうと準備をしているのである。
 釣具一式を持って門から出て行こうとするといつもそこに居る彼女の姿はなく代わりのメイドの姿があった。
「おや? 今日は美鈴いないんだ?」
「はい。今日は非番なんでさっき散歩に行くって言って出ていきましたよ」
「ふーん、そっか。じゃ俺も釣りに行ってくるから。お勤め頑張ってくれ」
「はい。お気をつけていってらっしゃい」
 門番の娘と軽く挨拶をして別れたあとお目当ての釣りポイントまで歩いていく。
 前に見つけた場所なのだが珍しく霧が薄く、天気がいいと日の光が差し込みぽかぽかと暖かいので俺のお気に入りの場所だ。
 餌を針に付け釣り糸をたらす。しばらくウキを見つめていると後ろから声をかけられた。
「釣れてますかー?」
「いや、さっき始めたばかりだから」
 振り向くとそこには紅魔館の門番である紅美鈴がいた。
 彼女は俺の隣りに座り込んでウキを見つめていた。
「で、美鈴はなぜここに?」
「いやー、せっかくのお休みなんですけど別にこれといった用もなくて
 ちょっと散歩していたら○○さんが釣りをしているのが見えたんでちょっと見学に」
「そっか」
「そういえば、○○さんびく持ってきてないんですか?」
「うん。あれば便利なんだろうけど、いらないかな」
「え? なんでですか? って引いてます! 引いてますよ!」
 慌てている美鈴を横目にウキを見るとたしかにチョコチョコと浮き沈みを繰り返していた。
 タイミングを合わせて竿を持ち上げるとそこには小さなハヤが針にかかってピチピチとしていた。
「小さいですね」
「ああ小さいな」
 俺は手早く針を外すと湖に魚を放した。
「とまぁ、こんな雑魚しか釣れないのでびくがいらないって訳」
「なるほど。ところで私もここにいていいですか?」
「別にかまわないけど、面白いことなんてないよ? 魚だってさっきみたいのばかりだし」
「構いません。見てるだけでも楽しいですから」
 その後他愛のない話をしながら釣りを続けて4、5匹釣れた後ぱったりと当たりが無くなった。
 となると、この陽気のせいでどうも眠くなってしまう。
 うつらうつらしながらウキを眺めていてふと隣りが静かなのに気がつき横を見るとすやすやと眠る美鈴がいた。
 スリットからのぞくふとももにちょっとドキッとしてしまったのは内緒だ。
 なんとか視線を戻しウキに注意を向けようとするがどうしても美鈴のふともものことが浮かんできて悶々としてしまう。
「う~ん、○○さん……」
 急に名前を呼ばれたため今まで変なことを考えていたこともあり、ビクッとして慌てて美鈴の方を見るが
 眠ったままでいるので寝言だと解り、釣りに戻ろうとしたが続けて出てきた言葉に俺は固まってしまった。
「○○さ~ん、わたし○○さんのこと好きです~。えへへ~言っちゃいました~」
 まさか俺のことをからかっているんじゃないかと思い、ほっぺをぷにぷにとつついてみたりうにょーんと伸ばしてみても一向に反応がないので本当に寝言だとわかった。
 しかし、寝言だとしても嬉しくないわけではない。どことなくとっつきにくい人ばかりの中で一番気さくな彼女だからこそ一番早く仲良くなれた。
 最初は友達みたいな感覚だった。でも太極拳の真似事をしたり一緒に食事をしたりしていつしか、もし彼女と恋人になれたらどんなにいいかと考えるようになっていた。
 けれども、もし断られたらどうしようかという不安があり、結局何の行動も起こせていないのである。
 むにゃむにゃと眠る美鈴の横でこれが起きてるときに言ってくれたならどんなに良かっただろうと俺は考えていた――



「美鈴、起きて、そろそろ帰るよ」
「う~ん、ふぇっ!? 私眠っちゃってました!?」
「うん、気持ちよさそうに眠ってたから起こさないでおいた。疲れていたんだろうね」
 周りの風景は黄昏色に染められ湖から少し霧が流れてきてちょっと神秘的だ。
「うわぁ、長い間眠っちゃってたんだなぁ。よだれ垂れてませんよね? 顔に跡ついてませんよね?」
 わたわたしている美鈴をみながら釣り道具の片付けをしながらちょっといじわるをしたくなってしまった。
「ああ、そういえば美鈴寝言で面白いこと言ってたよ。俺のこと好きだって告白されちゃったよ」
「ええええっ!?!? わ、わたしそんなこと言ってたんですか!?」
 夕日より真っ赤になって頭からぶしゅーと湯気を上げる美鈴。俺は更に言葉を続けた。
「それでさ、もしその言葉がただの寝言ならそう言ってほしい。俺も忘れる。でも美鈴の本当の気持ちなら今改めてその気持ちを伝えてほしい」
「えっ」
 しゃべりながら我ながら卑怯な手だなと思った。もし俺のことをどうでもいいと思っていたらこの恋心は捨ててしまえばいい。
 本当ならば願ったり叶ったりで美鈴と付き合えばいい。そしてその責任は美鈴に押し付けている形になっている。
 つくづく臆病でヘタレだな俺は、と自己嫌悪していると美鈴は覚悟を決めたのかしっかりと俺を見つめて口を開いた。
「……○○さん、もっといろいろなことが言えればいいんですがこれしか思い浮かびませんでした。○○さん、私はあなたが好きです」
 夕日を背負い、薄く靄がかかった景色の中しっかりと俺を見つめている美鈴はこのうえなく美しかった。
 まるでゲームで見た黄金の別離の中消え行く騎士王のように。
 ならば俺も彼女の思いに答えなくては――
「……俺もだ。いつからかはわからない。でも気がつくといつも君のことを考えていた。美鈴、君が好きだ。俺とずっと一緒にいてほしい」
 一瞬、しかし二人にとっては永遠のように感じられた時間が過ぎたあと、美鈴の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
「め、美鈴?」
「うっ、ぐすっ、よ、よかったぁっ、こ、断られたらどうしようかとっ……」
 俺は美鈴に駆け寄りぎゅっと抱きしめた。
「うぅっ、こわかった、ほんとうはずっとまえからすきだったけど、こわくて、あしがすくんで、いえなかったんですぅ……」
 やれやれ、どうやら俺たち似たものどうしだったらしい。
「大丈夫だよ、美鈴。これは夢じゃないし、俺はちゃんとここにいる」
「う、うわあぁん、○○さん、○○さぁん……」
 縋りついて胸に顔をうずめて泣きじゃくる美鈴。俺はそっと背中を撫で続けた。
 優しい気持ちで胸がいっぱいになる。でもやっぱり美鈴は泣き顔より笑顔の方がいい。
 俺は美鈴の頬に手を当てると
「あっ――」
 そっと口をふさいだ――



 帰り道、美鈴は付き合っていることがバレたら恥ずかしいから内緒にしておきたいと言ってきたので二人きりのときしかイチャイチャしないことと約束したのだが
 ときおり、唇に手を当てて顔を赤らめていればだいたい何があったのかわかるし、数日後文々。新聞にあのキスしている場面をバッチリ捉えた写真が載っていたので
 隠すどころか幻想郷全ての公認カップルになってしまい、恥ずかしさのあまり美鈴はオーバーヒートして倒れてしまった。そして――

「針よし、竿よし、仕掛けよしっと。うん、ちゃんと全部揃ってる」
 久しぶりの休み、俺はまた釣りに出かけようとしていた。2人分の竿を持って。
「○○さ~ん、遅いですよ」
「悪い、準備してたら遅くなった」
 門には白いシャツ、洗いざらしのズボンという格好の美鈴がいた。彼女なりのおめかしらしい。けどそれが美鈴らしい。
「ふふふ、今日こそは○○さんより多くおっきい魚釣ってみますよ」
「おっ、言ったな。俺だって負けないぞ」
 軽い言い合いをして、けれども手はしっかりと繋いでいつもの釣り場に向かう。
 抜けるような青空、今日もいい釣り日和だ――


13スレ目>>501


『…よし、あとは包むだけか。』
俺○○はチョコレートを作っているまぁ慣れない事をしているので十回ぐらい失敗したが…
『…まぁそんなことはどうでもいいか』
などと独り言を言ってチョコの出来具合いを見てみる
『よし、我ながらいいできだ。』
ちなみにチョコレートの作り方はパチュリーさんに本を借りた。後でお礼言いにいかなくちゃな
などと考えながら作業しているといつのまにかできていた。
さぁ届けにいくかな紅魔館の門の前で毎日頑張っているあの愛しの人へ


14スレ目>>31 うpろだ1017


「隊長、○○さん来てますよ」
「早く行ってあげてくださいよ、ほらほら」

 紅魔館のメイド達にも、昼休みがある。
 だが門番隊に限っては、いつ来るかわからない侵入者に対処するため
 休憩は交代制だ。
 隊長である美鈴も例外ではない。
 館内で働いている○○とは必ずしも同じ時間に休めるとは限らないのだが、
 部下のメイド達の(多分におせっかいじみた)好意のおかげで、
 最近はよく二人で昼食を取っている。
 二人で過ごせる数少ない時間だ。
 今日も、休憩中に詰所に向かう○○の姿を見かけたメイドが美鈴を呼びに来た。

「……すみません、ちょっと抜けますね」
「ごゆっくりー」

 詰所へ走る。付き合い始めてもうしばらく経った今でも、
 これから会えるというだけで心が躍った。





「……ふぅ」
「あれ、○○さんどうしたんですか?」

 昼食のサンドイッチを食べながら、
 ○○が小さくため息をついたのを、美鈴は見逃さなかった。

「ん?いや、大丈夫。何でもな……ふあ」

 心配をかけまいと取り繕おうとする側から、あくびが一つ出る。

「疲れてるんじゃないですか?」

 以前からの仕事である館内の雑務に加え、
 最近の○○は空いた時間で鍛錬を行っている。
 美鈴と恋仲になってからは門番隊への転属を希望しているのだが、
 結界の外から来たただの人間である○○では、侵入者との戦闘を含む仕事には就けない。
 そのため、寝る間も惜しんで基礎訓練や魔法の勉強に励んでいるのだが、
 さすがに少しこたえているようだ。

「がんばってくれるのは嬉しいですけど、無理して身体を壊しちゃだめですよ?」
「うん……でも少しでも早く、近くで美鈴を支えられるようになりたいと思ってさ」
「……ありがとうございます」

 とは言え、疲労が溜まっているらしい○○のことが、美鈴は心配だった。

「―そうだ、○○さん中華料理は苦手じゃないですか?」
「いや、むしろ好きな方だけど……なんで?」
「良かった。○○さんのために、今度元気が出る秘伝の特製スープを作りますね!」
「え?美鈴って料理できるんだ」
「もう、失礼ですね。華人小娘の二つ名は伊達じゃありませんよ?
 三食付き住み込みのお仕事で作る機会は多くないですけど、
 咲夜さんが創作中華に凝った時だって結構アドバイスしたんですよ」

 確かに、○○は今まで美鈴が調理をしているのを見たことがなかったが、
 言われてみれば不得意なイメージは浮かばない。
 何より美鈴の手料理が食べられるのは嬉しかった。

「じゃあ、お願いしようかな」
「任せてください!えーと……四日くらいしたら時間ができるので、
 その時に作りますね」
「うん、楽しみにしてる。
 ……あ、そろそろ戻らないと」

 そう言って、○○は仕事に戻っていった。

「……よし」

 ○○が見えなくなると、美鈴は小さくつぶやいて気合を入れた。
 スープの材料はちょうど揃っている。
 ただ、四日後に作る、というのは嘘だ。
 遠慮させてしまうといけないと思って言わなかったが、
 完成まで三日三晩煮込まなければならない。

「○○さんには、元気でいてほしいですからね」

 今晩から始めれば四日後には出来上がりだ。
 勤務中は厨房担当のメイドに頼んで見ていてもらうことにして、
 時間が空いた時は自分で付いていればいい。
 美鈴は準備にとりかかることにした。




 ☆一日目

「……あら?」

 夜の巡回中、咲夜はふと足を止めた。
 何だか良い匂いがする。
 食欲をそそられるような匂いだ。

「何だろう。厨房の方みたいね」

 使うのは問題ないとしても、食事時でもないのに誰が使っているのか。
 夜勤のメイドが夜食でも作っているのだろうか。
 一応、確かめておく必要がある。
 咲夜は厨房に向かった。
 ―入り口にメイドが立っている。
 どうも門番隊らしい。

「あ、メイド長」
「こんな時間に何をやっているのかしら?」
「……咲夜さん?」

 奥から声が聞こえた。
 聞き覚えのある声だった。
 程なく声の主がやって来る。

「すみません、ちょっと厨房使わせてもらってます」
「それはいいけど……美鈴、もう遅いのにどうしたの?」
「ええ、ちょっと作りたいものが」

 そこまで言って、美鈴は横に立っているメイドに目をやった。
 ちょうど休憩時間で手の空いていた彼女は、厨房に入る美鈴を見て
 鍋の番を買って出てくれたのだ。

「ほら、大丈夫だから貴女はもう休みなさい?」
「えー、だって隊長の『手料理でラブラブ大作戦』がうまくいくかどうか心配で……」
「っ!?べ、別にそんなんじゃありませんよ!ほら、明日も早いんだから!」

 メイドを追い立てるように帰した後、横に咲夜がいたことを思い出したらしく、
 美鈴は顔を赤らめた。

「手料理でラブラブって……○○に?」
「ええ、そうですけど……で、でも別にそういうつもりじゃなくて、
 ○○さんが最近疲れてるようだから元気が出るようにと思って」

 なるほど、中では寸胴鍋が湯気を立てている。
 側に寄ってみると、良い匂いが一段と強くなった。
 だが覗き込んでも、鍋の中身がなんなのかよくわからない。
 ……底から浮かんでくる泡が虹色なのは気のせいだろうか?

「変なもの入れてないでしょうね?」
「生薬とかは入ってますけど、身体に良くないものは入れてませんよ。
 本当は秘密ですけど、咲夜さんになら教えてもいいです。
 まずですね……」
「や、教えてくれなくていいわ」

 気にはなる。気にはなるが、知らない方がいいような気がして、
 咲夜は美鈴の言葉をさえぎった。 

「そうですか?まあ最終的にはスープを飲むもので、材料はほとんどダシなんですけどね。
 これは美味しくて、よく効きますよ。○○さんもきっと元気になってくれます!」

 目を輝かせてそう言う美鈴をしばらく眺めていた咲夜は、
 やがて肩をすくめると微笑を浮かべ、ぽんぽんと美鈴の肩を叩いた。

「ま、がんばりなさいな」

 それだけ言って、咲夜は厨房を後にした。
 途中、○○が向こうから歩いてきた。
 本を何冊も抱えているところを見ると、
 図書館から魔法の勉強用に本を借りてきたところらしい。

「…………幸せ者」

 すれ違いざまに、声をかける。
 何のことかわからないらしく、ぽかんとしている○○を置いて、
 咲夜は足早に立ち去った。





 ☆二日目

 今晩も、美鈴は誰もいない厨房で鍋の側に付いていた。

「うん、いい感じ」

 経過は順調だ。やっぱり愛情を込めているから、などと考え一人赤面する。

「……何を作っているのかしら?」

 と、いつの間にか誰かが厨房に来ていた。

「お嬢様!?」
「あら、美鈴なの。それは何?」

 やって来たのはレミリアだった。
 普段なら厨房に入ってくることなど滅多にないのだが。

「な、何故こんなところへ?」
「なんだか変わった、いい匂いがしたものだから。どれどれ……」

 そのままでは届かないので、少し浮かび上がって鍋の中を覗き込んでいる。

「えーっと、これは……スープですが」
「そう。美味しそうね」

 答えながら、美鈴は何となく悪い予感がしていた。

「これ、私がもらうわね」

 ……予感は的中してしまったらしい。

「あっ、あの!」
「何?」

 レミリアには何とかして諦めてもらわなければならない。
 こんなに一生懸命作っているのも、○○に食べてほしいからなのだ。

「まだ完成していないんです。何日か煮込まないといけなくて」
「そうなの?じゃあ出来上がってからもらうことにするわ」

 逆にカウンターで追い詰められてしまったが、ここで膝をつくわけにはいかない。

「ま、まだ入れてない材料があるんです」
「出来上がってからでいいと言っているでしょう?」
「いやその、それがですね」

 とにかく今は、何としても状況を打開したかった。

「―にんにく、なんですが……」

 本当は、にんにくを入れなければならないわけではない。
 が、ついそんな言葉が口をついて出た。
 聞いた瞬間、レミリアの表情が引きつる。

「ほう、にんにく……
 よりによって私の屋敷で、にんにく入りの料理を作ろうとしていたと言うの。
 それなりの覚悟はできているんでしょうね」

 怒りに満ちた声が、ゆっくりと、絞り出すように発せられた。

(あれ、私もしかして生命の危機にさらされてる?)

 言ってしまった以上取り消すこともできない。
 絶体絶命かと思われた時だった。

「ああお嬢様、こちらでしたか
 ……どうなさったんですか?」

 レミリアを探して入ってきた咲夜は、
 ただならぬ空気を察したらしく、レミリアに尋ねる。

「門番の謀反よ」
「ち、違いますよー!」
「じゃあその鍋は何なの!?」
「?……お嬢様、その鍋でしたら」

 咲夜は身をかがめると、レミリアに耳打ちした。

「は?手料理でラブラブ?」
「そうです」
「いや咲夜さん、だから私はただ」 
「……でもにんにくを入れるって言うのよ」
「……そうなの、美鈴?」

 昨夜のメイドの言葉をそのまま受け取っている咲夜に申し開きをしようとした美鈴は、
 突然飛んできた質問に黙ってしまった。
 今更レミリアの前で、とっさに思いついただけですとは言えない。
 お仕置きは覚悟の上で美鈴は小さく頷いた。

「事情が事情だから許してやってもいいけれど……
 このままここで作らせるわけにはいかないわね」

 意外にもレミリアは怒りを静めたようだ。
 部下の恋愛事情が、退屈しのぎになると思ったのかもしれない。

「ああ、それでしたらお嬢様。外に場所を移させては?」
「そうね。門の外ならまあいいでしょう」
「―そういうわけだから、美鈴。
 続きは何とかして外でやりなさいね?
 さ、お嬢様。お腹が空いているのでしたら、何か軽いものでも用意しますわ」

 そう言って、咲夜はレミリアを連れて行ってしまった。
 とりあえず、目前の危険は回避された。
 が。

「……どうしましょうか」

 外での煮炊きをどうするか。
 言った以上にんにくも入れなければならないが、
 もちろん紅魔館にはないので調達してこなければならない。
 厨房の隅で作る分には隠し通せたが、
 外で作っていれば目立つことこの上ない。
 ○○に見られて、外で作ることになった経緯を話すことになれば、余計な気を使わせてしまう。
 それでは最初に嘘をついた意味がない。
 問題は山積みだった。





 ☆3日目

 良い天気だ。
 春が近いせいか、風もそろそろ暖かくなってきた。
 さわやかな気候とはうらはらに、美鈴は疲れていた。
 昨夜の内に何とか門の脇にかまどを組むことができた。
 既に火を焚いて鍋を移し、風除けとカモフラージュのためにテントを張った。
 ○○が来ても、何とかばれないようにはできるだろう。
 にんにくは咲夜に昨日説明できなかった事情を話し、
 お使いの時に買ってきてもらうことになった。
 これで一通り対策を取ることは出来たが、
 一晩であれこれと動き回った結果、だいぶ消耗してしまっている。

「隊長、正門前方に飛行物体確認!霧雨魔理沙です!」

 そしてこんな時に限って、侵入者がやってくるのだ。

「……総員、迎撃体制の配置に着いて!」
「待ってください、館内から連絡です……
 今日は一応お客様なので、そのまま通せということです」

 ほっと息をつく。
 魔理沙を乗せた箒はすぐに門の前まで飛んできて、美鈴の前に着陸した。

「よぉ門番。今日はいつもみたいな出迎えはないんだな」
「館内から連絡がありましたからね。お客様だということで」
「ああ、フランと遊んでやる約束があったんだ。ところで」

 魔理沙は親指を立てて、美鈴の横のテントを指した。

「そりゃいったい何だ?中から美味そうな匂いがするんだが」
「……秘密です」
「……まあいいけどな。気をつけた方がいいぜ?
 色々寄ってきそうな匂いだからな」

 門の中へ入っていく魔理沙の背中を見送った美鈴は、
 急に不安にかられてテントの中を覗いた。
 中には誰もいない。異状もない。
 鍋の上の虚空から突き出た、お玉を持った手を除けば。

「……はっ!」

 一難去ってまた一難などという言葉が頭をよぎるのを隅に追いやり、
 牽制程度の力を込めて、弾を放つ。
 手は瞬時に消えて弾をよけた。
 そして次の瞬間、空中に現れたスキマから顔だけを出したのは八雲紫だった。

「紅魔館の方に何だか面白そうな気配がしたから来てみたんだけど……
 少しぐらい味見してもいいじゃないの」
「貴女に食べさせる分はないですよ。
 それは○○さんのための元気が出るスープです」

 構えを取る美鈴に対し、紫はあくまでも悠然と話しかけてくる。

「元気が出るって……貴方達そんなに毎晩がんばってるのかしら?」
「な……そういう意味じゃありません!」

 ついつい声が大きくなるが、相手はどこ吹く風といった様子だ。

「……まあ、そういうことなら私は退散するわ。
 ああ、それと先に謝っておくわね」
「?何をですか」

 紫は心底気の毒そうな顔で言葉を続ける。

「何も白玉楼に遊びに来てる時にスキマを開ける必要はなかったなと思って。
 このスキマは閉じるけど、時間の問題でしょうね」
「あ、ちょっと紫さんいったい何を……」

 姿を消そうとする紫に追いすがろうとした美鈴は、
 背筋に寒気にも似た感覚を覚えてテントの外に飛び出した。
 圧倒的なプレッシャーが近づいてくる。
 幻想郷屈指の大妖怪とはいえ、半ばからかいにきただけだった紫と比べ、
 これは強大な捕食者の存在感だ。

「……隊長!」

 部下のメイドが駆け寄ってくる。

「落ち着いて!どこから来るかわかりますか?
 正面?それとも裏から?」
「真上です!上空から何か近づいてきます!」

 思わず見上げた空から、ゆっくりと降りてきたのは、

「ごきげんよう、門番さん」

 ―西行寺幽々子だった。
 いつもどおりの柔和な笑顔だが、
 向かい合っているだけで押しつぶされそうな気迫を感じる。

「スキマからすごく美味しそうな匂いがしたから、
 ちょっと通してもらおうとしたのに、紫ったらスキマを閉じちゃうんだもの。
 ここまで来るのは大変だったわ~」

 後ろでメイドが倒れた。
 神経が耐え切れずに気を失ったらしい。

「一口だけで、いいのだけれど。
 そのテントの中にあるお料理を、私にもいただけないかしら?」
「幽々子さまっ!」

 息を切らせながら幽々子に続いて現れたのは、妖夢だった。

「美鈴さん、だまされてはいけません!
 幽々子さまの一口は並の一口では……あうっ」

 幽々子が手にした扇で妖夢を軽く叩く。
 それだけなのに、妖夢が吹き飛ばされた。

「失礼なことを言わないの。
 ……どうかしら?
 まあ、どうしてもだめと言うなら、
 ちょっと倒れてもらってその間にいただくことにするわ」

 折れそうな膝に力を込める。

「…………おおおおおおぉぉぉぉ!!」

 絶望的な戦いとはいえ、退くわけにはいかない。
 全ては○○のために。
 気合を込めた叫びと共に、弾幕ごっこが始まった。



「……門の前が騒がしいようね」
「白玉楼の西行寺幽々子が来た模様ですが、
 館内に侵入する意思はないようです」

 咲夜はレミリアの前に紅茶のカップを置きながら言った。

「許可をいただけるなら、私が出ますが」
「……いいわ。大体目的の察しがつくから」

 カップを持ち上げ、紅茶を一口飲む。

「門番、意外と善戦してるようね」
「ええ。格の違いを考えると、あっという間に勝負がつきそうなものですが」

 例の鍋を守ろうとするために普段より能率が良くなっているのはいいが、
 招かれざる客を増やしているのもあの鍋だ。
 なかなかうまくいかないものである。

「咲夜、やっぱり行ってもらえるかしら。
 これでまた作り直すなんてことになったら、いつまで経っても騒がしいことになるわ」
「……かしこまりました」






☆できあがり


「美鈴、いる?」

 ○○は門番詰所に来ている。
 昨日は侵入者が来ているということでここへ来られなかった。
 昼休みになったが、今日は会えるだろうか。

「……あ、○○さん!」

 美鈴は既に詰め所に来ていた。
 明るい笑顔だが、目の下には隈ができている。
 昨日の激闘のせいなのだが、○○には知る由もない。
 ただ、理由はわからなくても美鈴のことが心配されてならなかった。

「あの、美鈴大丈夫?何だか疲れてないか?」
「そ、そんなことないですよ!それより○○さん」

 部屋の隅にあった、毛布で包んだ何かを机の上に持ってくる。

「この間言ってたスープ、ちょっと作っておいたんですよ。
 良かったら食べてみてくれませんか?」

 保温のための毛布をはがすと、中からは寸胴鍋が出てきた。
 ……三日三晩かけて作ったことや、
 昨日ギリギリのところで咲夜が間に合い、ようやく復活した妖夢も協力して
 なんとか幽々子から死守したことは黙っていた。

「さ、どうぞ」

 蓋を取り、中のスープを鉢によそって○○の前に置く。

「いただきます」

 透き通っていて、見た目からは味が想像できない。
 れんげですくったスープを、○○は一口すすってみた。
 美鈴は期待に満ちた表情で彼を見つめている。

「これは……」

 うまい。うまいだけでなく、身体の底から力が湧いてくるようだ。
 一口味わうと、さらにもう一口食べたくなる。
 食べたくなくても食べてしまうとか、
 薬でトリップするような感覚だとか、そういった意味ではない。
 あくまで健康的に、身体が良い方向に引き上げられるような味。
 一説に蓬莱の薬というものは非常に美味であるというが、
 それにすら匹敵するのではないか。
 感動を言葉にしきれず、○○が発したのはただ一言だった。

「うまい!」
「……良かった、喜んでもらえたみたいですね」

 あっという間に平らげ、○○は一息ついた。

「まだおかわりありますからね」

 二杯目をよそってもらいながら、○○はふと思いついたことを聞いてみた。

「なあ美鈴、このスープって人間にしか効かない?」
「いえ、妖怪にも効果がありますけど……何でですか?」
「いや、美鈴にも一緒に元気になってほしいから」

 一匙すくって、美鈴に差し出す。

「はい、あーん」
「そ、そんな……恥ずかしいですよ」
「誰もいないみたいだから、いいかなと思って」

 詰所には他の門番隊がいてもおかしくないはずだが、
 確かに今は誰もいない。
 隊長に気をつかって席を外したらしい。

「……あーん」

 ためらいがちに開いた美鈴の口に、○○はれんげを滑り込ませた。
 口が閉じ、スープを飲み込むのを確認してゆっくりと抜き取る。
 美鈴はしばらく顔を赤くして○○の顔を見つめていたが、
 やがて○○の手に手を絡めて、れんげを自分の手の中へと移した。
 鉢から一匙すくい取る。

「お返しです。はい、あーん」
「……あーん」
「…………暑いわね、この部屋は」
「んむっ!?」
「さ、咲夜さん!?」

 ちょうど○○が口を閉じたところで、
 二人はいつの間にか横に咲夜が立っていたことに気付いた。

「―咲夜さん、どうしたんですか?
 あ、もしかして俺に急な仕事とか」

 何とか口の中のスープを飲み込み、落ち着いた○○が問いかける。
 さっきまでの光景を見られたと思うと顔が熱い。たぶん美鈴も、同じような状態だろう。

「逆よ。お嬢様から伝言。
 貴方と美鈴に明日の夜まで休暇を与えるそうよ」
「休暇?どうしてまた急に」
「にんにく入りのスープを飲んで館の中にいられると気分が悪い、
 ということにしておけと仰っていたわ」

 実際の所は、粋な計らい、というようなものらしい。
 普段なかなか二人で遠出する機会がないので、ありがたい。
 咲夜は心なしか居心地の悪そうな様子で、それだけ伝えると部屋を出て行った。

「……休暇なんて久しぶりですよ」
「せっかくだから満喫しないとな。どこに行こうか、美鈴?」
「あ、ちょっと待ってください○○さん。
 もう少しだけ」

 そう言って、美鈴は置いてあった鉢とれんげを取った。

「あーん」
「……あーん」





 ……結局出かける前に、鍋が空になるまで交互に食べさせあった。
 結果、過剰に元気になった二人が休暇をフル活用し、
 幻想郷中に甘い空気を撒き散らすことになるのだが、
 それはまた別の話である。


最終更新:2010年06月02日 22:56