小悪魔2



2スレ目 >>200


「ほ、本気ですか咲夜さん?」
「もちろんよ」

僕は今、咲夜さんの部屋にいる。
紅魔館にいるメイドの誰もが憧れる咲夜さん。そんな彼女の部屋にお呼ばれするのも初めてだ。
僕の胸は普段に比べ、4割増で高鳴っていた……

「貴方には、もっと私を知って欲しいの」
「咲夜さんを知る?」
「その先を私の口から言わせるつもり?」

そういうと、咲夜さんはその細い体を外気にさらす。

「き、綺麗ですね……」

素直にそう思った。
細く美しいその洗練されたフォルムは、僕の目に余る。
うっかり触ればこちらが切られてしまいそうだ。

「どうしたの? さては怖気づいたのかしら」
「お、怖気づいてなんていませんって!」
「うふふ、冗談よ冗談」



「……力を抜いて。もっと楽に」
「は、はい……」

緊張をほぐそうと、やさしく話しかけてくれる咲夜さん。
でも悲しいかな、僕の体は意思に反してガチガチに固まってしまっているのであった。


ふっ―――

「うひゃっ!」

咲夜さんの甘い息が僕の耳にふわっとかかり、いいニオイがした……

「どう? 力が抜けるでしょう?」
「はぁ――」

ちょっと意識が飛んでしまったけど、そのくらいの破壊力は十分にあった。

「お、お手柔らかにお願いします」
「分かってるわ」

目の前にいるのは、あの咲夜さん。
それも本当の姿。普段の仕事中には見ることの出来ないありのままの咲夜さん。

「あなた、初めてよね?」
「は、は、はい」
「落ち着いて、すぐに慣れるわ」

折角緊張をほぐしてもらったというのに、なんてザマだ。
僕は返事をするのも精一杯。これから起こるであろう咲夜さんとのひとときを想像するだけでもうお腹いっぱいだ。

「さ、いくわよ……」

僕は生唾をゴクリと飲み込み、咲夜さんを見つめていた……

「貴方のこと、もっと知りたいの――」


















「果たして初見でこれが避けられるかしら? 必 殺 殺 人 ド ー ル!!」
「すごく……美しいどわああああああああぁぁぁ!」
「その実力、見せてみなさい!」

初めての殺人ドール。
初めて体験する咲夜さんのスペルカード。
あの屈強な門番ですら一瞬にして屈服させるといわれる、咲夜さん必殺の技。
あの美しいナイフは今の僕にとって、最大最悪の脅威と化していた。

それは速く、鋭く、そしてあまりにも数が多すぎた。
僕はキッチンからコッソリ持ち出したおたまとナベを手に持ち、避けきれないナイフを必死で叩き落す。
正直、どこからあれだけのナイフを取り出したのか分からない。
僕は咲夜さんがなぜここ紅魔館でメイド長を任されるほどの人物なのかを、このとき悟った。

「どうみても咲夜さんは瀟洒です。本当にありがとうござい――ぶべら!」
「おべんちゃら使ってもダメ。ほらほら、無駄口叩いてると死ぬわよ?」
「謀ったなぁ咲夜さん! こんなスペル乗り越えられるはずないですよ!!」
「もしそうなら、所詮貴方はその程度の存在だったということよ」
「うぎぎぎぎぎぎ」

そうはいうものの、気を抜いたらあっという間にハリネズミは間違いない。
すでにおたまは原形を留めておらず、ナベにも7本程度ナイフが突き刺さっていた。
僕は小悪魔さんから借りた掃除用のホウキでひたすらナイフを叩く、叩く、叩く。

「どうやら仕留められないみたいね……連続で行こうかしら?」
「れ、連続だってぇー!! 絶対勘弁! 死にます!」
「もしそうなら、所詮貴方はその程度の存在だったということよ」
「なんかさっきも同じようなことを……うぎゃあああああああ!!」




「驚いたわ……まさか本当に初見で殺人ドール……しかも連続で捌き切るなんて」
「ちょっとナイフ刺さってますけど……抜いてもらえます?」

あれだけ大騒ぎしたのに、咲夜さんの部屋は殆ど散らかってなどいなかった。
門番そっくりな人形がボロボロになっていただけで、隣のレミリアお嬢様の人形には傷一つ付いていない。
そのほかの家具類にも目立った痛みはない。
これも咲夜さんの能力なのだろうか――僕は咲夜さんにだけは絶対逆らうまいと心に決めた。

「あなた門番になる気は無い? 今なら美鈴(仮)よりも高待遇を約束するわよ?」
「それって、どの程度で?」
「一日一食は保障」
「勇気を出して断ります!」

















「おかえり。咲夜との夜はどうだった?」
「危うく天に昇るところでした」
「それは良かったわね。うふふ、あとで感想をコッソリ聞かせてもらえる?」
「パチュリー様、三途の川ってご存知ですか?」
「あー……そっちへ逝きかけたのね」

全くパチュリー様も悪ふざけが過ぎますよ。



僕は、パチュリー様に呼び出された存在。つまり使い魔の一種ということになる。
パチュリー様の命令は絶対。咲夜さんとは違う意味で逆らうことは出来ないのだ。
今回だってパチュリー様の『咲夜の夜の相手をしてあげて』という命令に従っただけ……

「大変だったわね。はいコーヒー」
「ありがとうございます、小悪魔さん」
「無理しちゃだめよ。自分の力以上のことは出来るだけ遠慮しないと身が持たないわ」

ああ、やっぱり僕のことを心配してくれるのは小悪魔さんだけだ……
つい抱きつきたくなる衝動に駆られるが、悪ふざけすると後が怖いのでそんな命知らずなことはしない。
僕は学習しているのだよ!


小悪魔さんは、僕よりも先にパチュリー様に呼び出された存在。
それに僕の面倒をよく見てくれているので、彼女には頭が上がらない。
お嫁さんを貰うなら小悪魔さんみたいな女性にしようと心に決めているくらいだ。

「ちょっと傷を見せて、手当てしなくちゃ」
「はい……」
「貴方、殺人ドールを食らってよく生き延びれたわね。最近ではあれを食らって生きていたのは妹様と門番だけなの」
「いたたたたたたた! しみるしみる!」
「こら我慢しなさい! 暴れないの!」


「全く、貴方が死んだら私は如何すればいいのよ……」
「は? なんか言いました?」
「あ、いやなんでもないわさっさと寝て寝て! 明日も朝は早いんだから!」
「なに騒いでるの。うるさくて本が読めないじゃないの」
「パチュリー様ももうお休みになられる時間ですよ! 早く寝てください!」
「え? いや……わかったわ」

小悪魔さんは物凄い勢いでそう言うと、真っ赤になりながらベッドにもぐりこんでしまう。
僕とパチュリー様は、いつもの小悪魔さんらしからぬ行動にポカンと呆気に取られてしまっていた。

「リトルったらどうしたのかしら? あなた心当たりある?」
「全然」
「……まぁ寝れば治るでしょ、私も寝るから貴方はその辺で適当に寝てね」
「せ、せめて毛布の一枚でも」
「だめ、寒いから。なんならロイヤルフレアであっため――」
「おやすみなさいませ、ぱちゅりーさま」
「分かればよろしい」

おのれパチュリー様、貴方には寝床を奪われた者の気持ちが分からないのか!
……だが、寝床の毛布を失うことなど想定の範囲内。
そんなとき僕は迷うことなく小悪魔さんのベッドにコッソリと侵入し、朝までぐっすりと眠るのだ。

「小悪魔さん、おやすみなさーい」

もちろん、返事は無い。
でも、そのやさしい寝顔を見るだけで僕の一日の疲れは癒されるのでした。

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ぷろぽスレ初投稿
咲夜さんと見せかけて小悪魔指向。ネチョくないよ!


最終更新:2010年06月03日 00:30