小悪魔4



>>358


さて、今日は世に言う一年の締め括り、大晦日と言う奴である。
とは言え、我等が紅魔館は先週のクリスマスパーティー以降、軽い燃え尽き症候群に陥っていた為、
特に何かしようという動きも無く、まったりとしたムードになっていた。
レミリアお嬢様が、「どぅもー――! ハードレズでぇー――す!! 今宵は霊夢とオールナイトで年越しフォー――――!!!」
とか叫びながら、咲夜さんを伴って夕方頃から博麗神社に出掛けてしまった事も、館の空気を弛緩させるのに一役買ってしまっている。
『晦日(つごもり)』の名に相応しく、今夜の月の光は人間の目では捉えられない程に弱々しい。
まあ、咲夜さんも傍らについている事だし、あのお嬢様に限って身の危険を案じる必要も無いだろう。
……それよりも、だ。


「げほっ、げほっ!!」
「あぁっ、パチュリー様、しっかりして下さい」
本当は、俺とリトルも含めたパチュリー御一行もお嬢様に同行する予定だったのだが、
パチュリーが寒気に中てられて喘息を拗らせてしまい、大人しく館でお留守番、という事になってしまったのだ。
「……御免なさいね。貴方たちも神社に行きたかったでしょう」
「お母さん、それは言わない約束でしょ」
リトルが病床の母をいたわるような目でパチュリーの手を取った。
……誰がお母さんだ、誰が。
「けほっ、……あぁ……本当にいい子ね、リトルは」
――なでなで。
「ああ……お母さん、こんなに手が冷たくなっちゃって……」
……二人とも結構余裕があるようで、何よりだ。
何だかひと昔の昼メロみたいになってきたので、俺も一役買う事にした。
「あ~~あっ、さっさとババアの遺産で放蕩三昧してぇなあぁ~~~!?」
現代風味の不幸者チックな馬鹿婿を演じてみた。
「なっ、何言ってるんですかあなたっ!!」
――ばちこーんっっ!!
リトルに勢いよく頬を張られた。
……かなり気持ちい……じゃなかった、かなり痛い。
「ううっ……ゲホッ、ゲホッ、この鬼婿……呪ってやる、呪ってやるわ……ゴホッ!」
細く生気の無い目を険しく吊り上げて俺を睨むパチュリーの背後に、どす黒い般若の形をしたオーラが浮かび上がっていた。
(ひぃっ、あ、あれは……何て事なの……!)
寝室の入り口の物陰から、家政婦ならぬ門番が見ていた。


「なんだ美鈴か。どうした?」
何だか昼の連ドラというより火曜幻想郷サスペンス劇場みたいになってきたので、いい加減に切り上げて素面に戻る事にした。
「いえその、お客様がいらしていますので、ご報告に」
「客? こんな時間に?」
パチュリーがベッドから上体を起こし、眉を顰める。
もう二時間もすれば年号がひとつ繰り上がるような時刻で、厨房の人たちがそこに向かって猛ピッチで蕎麦を湯掻きまくってくれている最中だ。
「……まったく。不躾にも程があるわ」
そう吐き捨てて、嫌悪も顕わに頭を掻く。
レミリアお嬢様と咲夜さんが不在な現状、この館の最高責任者は彼女という事になる。
「何処のどいつかしら。面倒事は真っ平御免よ」
「それなら心配は御無用だと思いますよ。皆さんよく知った人たちです」
「?」
何故か苦笑交じりに頬を掻く美鈴に、三人揃って首を傾げる。
まあ、ここでジッとしていても埒が開かないので、病床の主に代わって俺とリトル、美鈴の三人の裁量で応対する事となった。



…………



「……何やってんの、君ら……」
門前に集まっていた顔触れに、思わず頭を抱えてしまった。
輝夜姫様に永琳、鈴仙とてゐに、数十名のイナバの子たち。
永遠亭の面子一同が、どでかい風呂敷を抱えて、夜逃げさながらの様相でその場に佇んでいた。
「……話せば、長くなるんだけどね」
輝夜姫が、ゲンナリした表情で重々しく口を開いた。
「それは、今朝の事だったわ……」


少女回想中……


「姫さまっ、師匠っ!! た、大変です!!
 巫女が腹肉を弛ませながら、羅刹のような形相で押し入って来ました!!」
「何ですって!?」
――スパー――ンッッ!!
「ゲエェーッ!! お前は博麗の巫女!! は、早過ぎる?」
「あんた達ッ!! こんなブヨ腹じゃ元旦の演舞もロクに出来ないじゃないのよ!!
 さっさと解毒剤とお詫びの豊胸剤を作りなさいケヒヒィィー―――ッッ!!!」
ちゅどどどどどどどー――――んっっっ。


…………


「という訳で、屋敷がフッ飛んじゃったのよ」
「それは何と言うか……」
流石に怒らせた相手が悪かった。
「最初はスキマ妖怪を頼ろうとしたんだけど、考えてみればあの女、住処がさっぱり分からないのよね」
まあ、神出鬼没を絵に描いたような人だからなあ。
それに、どの道彼女はあの後すぐに冬眠に入ってしまったと聞いている。
この間のパーティーの時は、少々無理をして来てくれていたのかも知れない。
目を覚ました暁には、気付けに俺の得意料理『デスソース混入不惜身命ライチ味チャーハン』を、あの時頂いた中華鍋で振舞う事にしよう。
今日も今日とていい事を考えていると、輝夜姫が勢いよく頭を下げてきた。
「この間あんなにお世話になっておいて申し訳無いのだけど、もう此処しか思い当たる宛てが無いの。
 こちらからも無事に残った食糧を提供するから、今夜一晩、寝床を提供して頂けないかしら」
「分かりました。困った時はお互い様です」
リトルの即答。
「……いいのかな。俺たちで全部決めちゃって」
「だって、こんなに寒いのにまた放り出すなんて、可哀相じゃないですか」
確かに。
見渡すと、元々寒さに不得手であろうイナバの子たちが、皆涙目になって唇を青くしながら、ガタガタと小さな体を震わせていた。
「う~~~ん、寒い、寒いよぉ~~~」
てゐがブルブルと身を縮こませながら、段ボール箱の捨て犬のような上目遣いでこちらを見ている。
……途端に、全てが嘘臭く視えてきた。
「ちょうど良かったです。今あったかいお蕎麦を作って頂いているところなので、みんなで食べましょう」
「決まりですね。それじゃどうぞ、入った入った」
これで決まりとばかりにリトルがポンと手を叩き、美鈴が門を開けて永遠亭ご一行を先導した。
「ありがとう……この恩は、覚えている限りは忘れないわ」
輝夜姫が、色々な意味で当たり前の事を言いつつ頭を下げてきた。
「ほらほら寒かったでしょう? もう大丈夫だからね」
保母さんよろしく、リトルがにこにことイナバの幼な子たちの手を引いている。
そんなあたたかな背中に、永琳さんが呆れたような苦笑を見せた。
「……あの子、本当に小悪魔なのかしらねぇ」
俺も常々そう思う。




…………




「……という事になった」
「お世話になります」
永遠亭代表の永琳さんを伴い、パチュリーに報告を済ませた。
リトルと美鈴には、メイドさんや厨房の人たちへの伝達を頼んである。
「まあ、仕方が無いわね……今更文句を言うのも面倒だし、節度を守ってくれれば構わないわ」
「ええ。そこはきつく言い聞かせておくわ」
「あとは、そうね……今少し喘息の調子が良くないから、ここに兎の子たちを近づけないように」
そこまで言って、ごほ、とパチュリーの喉が痛々しく鳴った。
皆あんな姿をしているので兎である事を失念しそうになるが、確かにアレルギーが出る可能性も否定出来ない。
「分かったわ、くれぐれも留意しておきます。……本当にありがとうね。
 あの使い魔の子、ウチに欲しいくらいのいい子だわ」
「「だが断る」」
即座に俺とパチュリーの拒絶の声が重なった。
最初から冗談のつもりでしか無かったらしい永琳さんの顔に苦笑が浮かぶ。
「冗談よ冗談。流石に大事な使い魔兼婚約者を連れ出したりは出来ないわ」
「う……」
「見たわよ、彼女の左手。おめでとう」
あの短いコンタクトで全てお見通しとは、まったくもって恐れ入る。
あれ以降、館の人々から散々玩具にされて慣れてきてはいたが、外の人から言われるのにはまた違ったダメージがあった。
「あ~もう。俺、リトルを迎えに行って来るよ」
気恥ずかしさに負けて席を立ち、慌ただしくその場を退散する事にした。
「ご馳走様~」
永琳さんのからかうような声が、背中にこそばゆかった。


…………


「……ふふ、青いわね」
遠ざかる彼の背中に永琳が軽く微笑む。
「あんまり面白がって弄らない方がいい。反動で凄まじい変態行為が来るわ」
「あら。刺激的なのは結構好きよ」
……この月人の思考は、相変わらず何処かピントがずれている。
ほう、と一つため息を吐いた瞬間、激しい咳嗽の発作が来た。
「げほっ、げほっ!! ……っ、ぐっ、ごほっ」
気管を灼くような痛みに肺腑を圧迫され、目尻に涙の粒が浮かぶ。
「大丈夫?」
「……、五月蝿い。何でもないわ、こんなの」
差し伸べられた永琳の手を、明確な意思を以って拒絶する。
私が取るべき手は、この紅魔館と魔法の森にしか無く、今この場には存在しない。
天井を仰いで荒い息をつく私に、永琳は何処かいけ好かない微苦笑を寄越し、持ち込んできた風呂敷をごそごそと漁り始めた。
「仕様が無いわね。そんな強情な魔法使いさんに、意地悪なお姉さんからプレゼント」
そう言って永琳が風呂敷から引っ張り上げてきたのは……
「? 何なの、これ」
「マスクよマスク。煩わしい雑菌や粉塵を完全シャットアウト、その上で抜群の保湿性と通気性。
 夏場に所用でこしらえた、天才永琳印の特別製よ」
「……要らない。そんな大層な物、頂いちゃ悪いわ」
「いいのいいの。お邪魔させて貰ってるんだから、せめてこの位のお礼はさせて頂戴」
「…………いいの?」
「最初からそう言ってるじゃないの。受け取ってくれる?」
「そう…………ありがとう」
消え入るような小さな声で礼を言い、永琳からマスクを受け取る。
指と指が、軽く触れた。



…………



「♪兎美味しい、彼の山~~~♪」
パチュリー様が何時か教えてくれた残虐童謡を口ずさみながら、軽い足取りで廊下を歩く。
静かな年越しというのも良いけど、お客さんと一緒に賑やかに迎える新年というのも、魅力的な話だ。
メイドさん達に、永遠亭の皆さんの寝床の用意をお願いしないといけない。
「あ、いたいた。すみませ~~~~ん」
曲がり角の方に、咲夜さんが居ない間メイドさん達の指揮を任されているチーフさんの姿を見つけ、声を飛ばす。
私の声に振り向くと、彼女はおっとりとした笑顔を見せた。
「あら、あのクソ忙しい時間に二人のうのうとイチャついていたリトルちゃんじゃないの」
「え゛」
「え、なになに。皆クタクタに疲れて眠りこけていた夜中に構わず二人バーニングしていたリトルちゃんですって?」
「まあっ、ご主人様を差し置いて一人春爛漫、人生大絶頂期なリトルちゃんのお出ましよ、みんな!!」

――ぞろぞろぞろぞろ。

「えっ、あ゛、そのっ」
一体何処から湧いて来たのか、曲がり角の向こう側から続々とメイドさんが現れ、あっと言う間に取り囲まれてしまった。
「ねえリトルちゃん、あれから彼とはどう?」
「式はいつ挙げるの?」
「その指輪、幾らぐらいしたの?」
「子供は何人くらい作る予定なの?」
嫉妬の炎を背後に揺らめかせながらメイドさん達が肩を組んで円陣を組み上げ、グルグルと私を中心にして回転し始めた。
「う、うぅ……」
お客さんの来訪に浮かれて、失念していた。
あのパーティー以来、私たち二人の姿を見るなりずっとこの調子なのだ。
いつもは彼が神殺ビューティフル空手(彼命名)で撃退してくれているけど、今この場にいるのは、折悪く私独りだ。
『さあさあリトルちゃん、観念なさい!!?』
回転数が上がり幾つもの顔面の残像がぶれまくって、ハッキリ言って無茶苦茶気味が悪い。
「あぁ……助けて……」
予期せぬ窮地に、半べそになってこの場に居ないあの人に助けを求めた瞬間、

――ずどどどどどっっ!!!

「くおおぉらお前ら!! イジメ、カッコ悪い!!!」
私の大事な人が、何故か白黒模様のボールを蹴り転がしながら颯爽と現れた。
彼は足元にボールをぴたりと留めると、メイドさん達に人差し指を突きつけ、
「あの日の誓い以降も、俺たちの生活は不沈艦大和の如く大安泰なり!!
 だけど式なんて挙げる金も立場も無えよアホンダラ!!
 あと、指輪はセオリーどおり、給料の三ヵ月分!!
 子供は、リトルに似た女の子が二人は欲しいと思います!!」
……律儀にも全ての質問にしっかりと答えた。
「くっ、出たわね変態亭主!! みんな気をつけてっ、迂闊に近付くと妊娠させられるわ!!」
酷い言われようだった。
「ぃやかましいっっ、見損なうな!!
 唯一人の伴侶を定めた以上、貴様ら有象無象に差し向ける性欲など、1ナノグラムも存在せんわ!!
 喰らえ我が一世満身の大スペル、屁符『ヘルスカンク・マッドジャイロ』!!」
そう叫ぶと、彼は前屈姿勢になって尻を突き出し、
――ぷぷぷぷぷぷぷっっ。
放屁音を轟かせ、そのままの体勢でプロペラのように回転しながらメイドさんの集団に突っ込んで行った。
「…………うぅ、ぐすっ」
言っている事は凄くカッコ良く、不覚にも涙がこぼれるくらい嬉しかったけど、
やっている事が致命的にカッコ悪かった為、今度は情けなくて涙が出てきた。
「きゃあああああっっ、キモくて臭い要するにキモ臭いっっ!! たっ、退散、退散っっ!!!」
チーフさんの撤収命令に、さっとメイドさん達の波が退く。
「はっはっはお前ら、お客さんが来てるから寝床の用意を夜露死苦!!!」
軽やかに着地を決め、泡を食って遠ざかる背中の群れに、ようやく本来の目的の一声。
私たち二人と、温く酸っぱい匂いだけがこの場に残った。
「……ふっ、悪は去った。大丈夫か、リトル」
彼が一仕事終えた爽やか極まりない表情で汗を拭う。
「…………ぐすっ」
臭気が目に染みて、またひとつ涙がこぼれた。




…………




厨房への伝達は美鈴が問題なく済ませてくれていたようで、程無く十分な量の年越し蕎麦が完成した。
ほかほかと出汁の香りの効いた湯気を立てる特大鍋を二つばかりロビーに構え、
美鈴とリトルの二人が、行列を作ったイナバの子たちに戦時中の配給所さながらの様子で配膳している。
まさに師走の名に相応しい慌ただしさだったが、皆楽しそうで何よりだ。
「はいっ、どうぞ。熱々だよ~~」
「ありがとう、門番のお姉ちゃん!」
うんうん、ちゃんと礼が言えるのはいい事だ。
額に玉のような汗を浮かべながら忙しなく働く二人の顔にも、にこにこと笑みが浮かんでいる。
上機嫌で目の前の風景を眺めていると、リトルの方の列で、てゐの出番が巡って来た。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「うふふ、幸せそうね。ところで、いい保険の話があるんだけど、興味は無いかしら?」
「えっ?」
二人の間に慌てて駆け出し、
「当館での詐欺行為は、その全てを禁止させて頂いております!!」
――どばばばばばっっ!!
場を弁えない詐欺兎の椀に、地獄唐辛子を山盛りぶち込んだ。
「な、何すんのよっ! 体に悪いじゃないの!!」
「やかましい!! 唐辛子は脂肪を燃やしてくれるありがたい香辛料だから、俺に感謝しながらたんと食え!!」
まあ、紅魔の館の名に相応しい特製ブレンドではあるが。
「う゛~~~~~」
ジト目でブー垂れながらも、てゐは大人しく仲間の元に戻って行った。
……かと思ったら、何やら物言いたげな視線で、指を咥えながら鈴仙のお椀を覗き込んでいる。
「? どうしたの、てゐ」
「……いいな。鈴仙のお蕎麦、私のよりちょっと多い」
「あら、そうなの? いいわよ、交換してあげる」
何も知らない哀れな月の兎が、てゐに向かって花のような笑顔を見せた。
「ありがとう! だから鈴仙の事、大好き」
「ふふ。本当にしょうがないわね、てゐは」
 ま さ に 外 道 !


はてさて、永遠亭の人々への配給も無事終了し、あとは俺たちの分を残すのみである。
後ろの方から何だか火を吐く轟音と悲鳴が聞こえるが、そんな細かい事をいちいち気にしていては、良い新年を迎える事など出来はしない。
「お疲れ様。それじゃ俺たちの分も用意して、早いとこ部屋に戻ろうぜ」
「そうですね。きっとパチュリー様も永琳さんも、首を長くして待ってらっしゃいます」
主人と客人を待たせたとあっては、従者失格もいいところだ。
四つの椀を盆に抱え、迅速に主の寝室へと赴く事にした。



「お待たせ」
「ただ今戻りました……あら?」
部屋に戻るなり、リトルが主の出で立ちに目を丸くした。
「どうなさったんですか? 今まで、薦めてもマスクなんてして下さらなかったのに」
「別に何も。貰った物を活用しているだけの事」
何とまあ、永琳さんからの贈り物とな。
素っ気無い物言いではあったが、先程よりも少しは楽そうに見える。
前面に書かれた『地獄上等』の筆文字が、とてもチャーミングだった。
「今日は喘息の調子もいいから、とっておきの反社会魔法、見せてあげるわ」
「そ、そんなの見せないでいいです」
何だか変な方向に元気になっていた。
「ほら、年越し蕎麦。パチュリーの分も用意してきたけど、食べられるか?」
「……少しだけなら」
「十分」
やはり、これが無いと一年の締め括り、という感じがしない。
四人揃って手を合わせ、
『いただきます』
湯気薫る蕎麦を、箸で突付き始めた。
「ん、美味い」
「はあ、沁みるわね」
「はふっ、はふっ、温かいです」
「……美味しい」
マスクを顎にずらして露を啜ったパチュリーが小さく息を吐いた瞬間、

――ぼーん。ぼーん。ぼーん…………

暦の移ろいを告げる鐘の音が鳴った。
全員一旦箸を置いて、
『あけまして、』
深々と頭を下げる。
『おめでとうございます』
……昔から思っていた事なんだが。
「何でこう新年の挨拶ってのは、こんな白々しいのかしらねえ……」
思っていた事を、先に永琳に言われた。


さて、いい大人が夜更かしという訳にもいかない。元日の朝でもいつもの仕事が待っている。
蕎麦を食べ終え、永遠亭の人たちの寝床が準備できたところで、早々と眠りにつく事にした。
……良い初夢(出来ればややエッチ風味)が視れるといいのだが。



…………



お客さんが来たところでそこは変わりない、二人だけの寝床。
同じベッドで、既に整った息を立ててしまっている彼の寝顔を、何とは無しに眺めている。
彼の育った所では、初夢をその一年の運勢の暗示として、重要視していたらしい。
……私の夢、視てくれたらいいのにな。
そんな気恥ずかしい事を考えていると、
「…………う~ん…………リトル~~…………」
「っ?」
彼の口がむにゃむにゃと動き、まさしく私の名前を紡いだ。
(わっ、本当に私が出てるんだ……)
喜んだのも束の間、途端に彼の寝言が苦しげな呻きに変わる。
「う、う~ん……だ、ダメだリトル……そんな……」
……せっかく自分を視てくれているのに、悪い夢になどして欲しくない。
彼の額に浮かんだ汗を拭おうと指を伸ばした瞬間、
「…………そんなマニアックな道具、俺たちにはまだ早い……!」
「年の初めから、何て夢視てるんですかっ!!」
――ばちこーんっっ!
「…………はっ」
つい、思いっ切り彼の頬を張ってしまった。
「ああっ、ごめんなさいっ」
「う、う~ん……リトル?」
赤く腫れた頬をゆるゆると撫でながら、呆、と瞳が開かれる。
「……何だ、まだ眠れないのか? ……しょうがないなぁ」
まだ寝惚けているのかもごもごと呟くと、彼は私の後頭部を掴んで、一気に胸板に引っ張り込んできた。
「きゃっ!……も、もうっ、寝惚けてますね」
「ん~~? 起きてるよ~~……」
半目を開けて鼻提灯を膨らませながら喋る姿は、ある意味芸術的だった。
「ほら、こうしてると安心して眠れるだろ?」
そう言って、夢見の悪い子供をあやすように、おでこをそっと胸板に押し付けられる。
「……はい……」
初めてお互いの気持ちを確かめ合ったあの日、泣きじゃくる私を受け止めてくれたあの時から。
ここが私の一番大切な、貴く暖かい、帰るべき場所だった。
「……はい……ここなら、私はいつでも何煩う事無く眠れます……」
一切の悲嘆も不安も、今ここには無い。
今年最初の夜は、蕩けるような甘いまどろみに身を委ねる事で、静かに幕を閉じた。




…………




――そして翌日、めでたき元旦。
しっかりと朝食が雑煮とお節になっている辺り、ここは本当に悪魔の洋館なのかと、疑問を抱かずにはいられない。
まあ、旬の料理を何処に在っても美味しく頂けるのは、とてもありがたい事だ。


「う゛っ……も゛、餅が喉に゛…………」
サツマイモのように顔をど紫色にするパチュリー。
「あーもう絶対やると思ったよこの気管支狭窄ラクトガール!!」
「わ、私に任せて下さいっ、ていっ!!」
――ズバッッ!! すぽーんっ!!
手馴れた様子でリトルがパチュリーの首筋にチョップを落とし、喉から餅の塊を叩き出した。
デビルチョップはパンチ力。まったく惚れ惚れする手際だった。


……そんな比較的平時どおりの朝食を終えて、俺たちは永遠亭の兎たちを遊びに誘ってみる事にした。
「なあ、せっかく元旦だし月の兎も居る事だから、みんなで餅つきしようぜ」
「「「さんせー――――いっっ!!」」」
「えー……」
イナバの子たちのノリノリな反応と裏腹に、鈴仙が心底ゲンナリした表情をしている。
「何だ鈴仙、餅のつけない月の兎なんて、乳の小さいウチの門番みたいなもんだぞ?」
「いやその、何時かみたいに一人で延々つき続けるのが嫌なだけで」
「それなら心配ないわよ。最初に少し手本を見せてくれたら、あとはみんなで交代しながらにするから」
「……そんな大層なものでもないわよ?」
パチュリーの説明に謙遜気味に苦笑を返すが、何はともあれ交渉成立。
何故か館に置いてあった木臼と杵を持ち出し、ぞろぞろと連れ立って庭に出た。


「よっし。それじゃ行くわよ、てゐ」
「ん、いつでも」
杵を軽く揺らして肩を慣らす鈴仙に、介添えに就いたてゐの平坦な声が応える。
「……せぇーのっ」
――ぺたんっ。どすんっ。
――ぺたんっ。どすんっ。
――ぺたんっ。どすんっ。
杵と平手が蒸し米を叩く音が、軽快なリズムで交互に響く。
教科書に載せてやりたいくらいの完璧なコンビプレイだった。
「……と、こんなところね。そんな難しい作業じゃないでしょ?」
「そうね。肝は、パートナーとの呼吸かしら」
「そういう事。さ、次は誰がやる?」
『はーいはいはい!!』
イナバの子達と、何故か近くを通ったメイドさん達が元気良く手を挙げる。
「ほらほら、順番順番」
もうすっかりイナバの子達に懐かれたリトルが、上手い事状況をまとめていた。
……しかし俺の愛の眼差しは、実はリトルも餅をつきたくてウズウズしている事を見逃す筈も無かった。


杵が多くの手を巡り、そろそろ昼食に十分な量の餅が出来上がってきた。
……と言うか、出来た先からメイドさん達が醤油を塗ったくって振舞っているので、既に満腹を訴えている子もいるくらいだ。
「う~~ん、えーり~~ん。もう満腹で動けないわ~~」
「こらこら姫。食べてすぐ横になるのはだらしないですよ」
部下たちを差し置いて一人満腹絶頂の竹取ニート姫が、芝生の上でだらしなく大の字になっている。
……色々といい頃合だと思ったので、リトルの肩をぽんと叩いた。
「よし、トリは俺たちで飾らせて頂こう」
「……は、はい!」
顔を喜色に弾ませ、リトルがイナバの子から杵を受け取る。
「ふっふっふ。お前ら、俺たちの愛のワンダープレイを観て、腰を抜かすんじゃないぞ?」
「……貴方が言うと、どうにもいやらしい意味にしか聞こえないのよねぇ」
パチュリーが要らんツッコミを入れてくるが、無論この胸を炙り焦がすのは、それしきで消えるような朧げな炎ではない。
「それじゃ、始めようか」
「はっ、はい、頑張ります!!」
「ん。……せーのっ」
――ぺt ズドンッッ!!!
――ぺt ズドンッッ!!!
――ズドンッ、ズドンッ、ズドンッッ!!!!!
「痛いわ阿呆おおおおおお!!!」
「きゃっ!!?」
リトルが一心不乱に打ち下ろしまくった杵が全弾余たず俺の右手を直撃し、餅をついているのか俺の右手をついているのか分からない状態になった。
「ある意味、完璧なシンクロニシティね……」
永琳がうんうんと頷き、あれだけリトルの事を慕っていたイナバの子達が、一転してガクガク怯えまくっていた。
「わざとかっ、わざとやっているのかお前はっっ!!!」
――ぽよんぽよんぽよんっっ。
キャッチャーミットのように腫れ上がった右手で、童顔に似合わぬ84のDカップに往復ビンタを見舞った。
「やっ、きゃっ、ご、ごめんなさいっ」
切なげな悲鳴に溜飲を下げて右手をフーフーしていると、珍しい姿がこちらに向かって駆けて来るのが見えた。

「ねっ、ねっ、私も混ぜてっ!!」
「い、妹様っ、走ると傘からはみ出しちゃいますよ!」
元気一杯に手を振りながら走って来る妹様に、あたふたと美鈴が日傘を宛がっていた。
「……妹様。勝手に外に出たら……って、もう遅いか。ちゃんと加減は出来る?」
一瞬表情を引き締めて身を乗り出したパチュリーだったが、すぐに諦観のため息をついた。
「大丈夫、任せてよ」
「いいんじゃないの? この時間この天気じゃ、どの道ロクに力も出ないだろ」
「それもそう……かしらね。それじゃ妹様、くれぐれも気をつけて頂戴ね」
「分かってるって」
妹様は片手で杵をブン回して肩を慣らし始めた。
背後で必死に杵を避け回りながらも決して傘を動かさない美鈴のプロ根性には、まったくもって恐れ入る。
「ふふ、それじゃ私も混ぜて貰おうかしら」
意外にも永琳さんが声を上げ、介添えの位置に陣取り、珍しく邪気の無い笑顔を妹様に向けた。
「どうぞお手柔らかにね? 悪魔の妹さん」




…………




「ふうっ、やっぱりこの時間は辛いわね。もう少し神社に居れば良かったかな」
「まあまあ、我が家はもうすぐそこですよ。……あら?」
訝しげな咲夜の視線を追ってみると、庭先に随分多くの人手が集まっていた。

『よいっ、しょっ! よいっ、しょっ!』
――ぺったんっ、ぺったんっ。

妹と蓬莱人が、メイドや兎に囲まれて、楽しそうに餅をついている。
「……いつから私の館は純和風の兎小屋になってしまったのかしらねえ」
だが、不思議と、怒る気にはなれなかった。
私達の帰還に真っ先に気付いたフランが、大声を上げた。
『あっ、お姉さま~~~!!』
――どかんっっ。
振りかぶるモーション中にいきなりこちらを向いたので、大きく逸れた杵の尻が、美鈴の顔面にめり込んだ。
『ふぐっ、ぐぐぐぐぐ……』
鼻血を吹き出し、ダメージに膝をガクガク言わせながらも、美鈴は日傘をフランの頭上に気合で押し留めていた。
……気に入った!! 地下室に来て、妹をフ×ックしていいぞ!!
不具合を押してでも、この時間に帰って来て良かった。
「咲夜、急ぐわよ」
「……はいはい」
何だか、とても楽しそうではないか。

「何やってるの貴方達! 私達も混ぜなさい!!」




――A Happy new year!
湖のほとりの紅き館に、どうか今年も幸あれ。


>>512


2月14日って知ってるかい?
昔、撲師が牧殺されたって言うぜ!
今は奈良のお祭りだ。ボヤボヤしてっとたいまつでボウボウだ!

どっちもどっちも……どっちもどっちも!

1(アインス)!2(ドゥエ)!3(ドライ)!4(ドゥティーレ)!
5(オウ)!6(リュウ)!7(ジェット)!8(エイト)!

究極……

「何やってんですかアンタは」
いわゆるイントロ(現実逃避)をやってる最中に、突然の突っ込み。
「……いやな。ちょっと、電波と言う物が入ってな」
「それと牧師と撲殺の文字が違います」
「そこには突っ込むなわざとやったんだから」
そこまで言って、ようやく声のした方を向く。
そこには、まさに司書!と叫びたくなるような服を着たまいらばー小悪魔がジト目で立っていた。
楽助ぼお氏、本当にGJでした!
「って、また電波が入ったな。……どうも最近ワイヤレスが多くて困る」
「困るのはあなたの馬鹿な発言を聞いてる私です。それと仕事を溜め込まないで下さい」
彼女の腕に光る腕章。そこには「私は読書狂です」とでかでかと書いて
「ありません。話を逸らさないで下さい」
「むう。いやな、世間にはこういう言葉がある。『マイペース、マイペース』と言う言葉が!」
「それってあの人の言葉じゃないですか。あれは悪い意味で使われてますよ」
「いやいや。俺は感動したぞ。……そうだ小悪魔、お前も少しは休憩をとった方がいい」
「休憩を取れない原因が何言ってるんですか」
ジト目に少々殺気を匂わせているが気づかないふりをして一言。
「だからそんなに胸がちいさ」

(大玉+クナイ弾=凶悪弾幕)

「少しは反省したらどうなんですかこの阿呆人間」
「ああんもっと罵ってぇ」
久々に小悪魔の弾幕を食らったせいか体がついていけず、すぐに落とされてしまった。
「……まあ、ふざけるのはこれくらいにして。仕事を再開しますよ」
「あいよ母ちゃん」
頭部ギリギリで大玉が飛んでいった。
「……冗談だ」
これ以上ふざけたら命はないだろう。
そういうわけでとっとと仕事に戻る事にした。

   * * *

ここに勤めて何年になるだろう。最低でも……一年も過ぎてないか?
まあいい。とにかく俺は何とかこの紅魔館で働いてる。
最初は外の警備だったんだが、あまりにも過酷なため別の部門に転属を願ったところ、この図書館勤務が出てきた。
正直言って最初は『よっしゃ楽に仕事が出来る』と思ってたんだが……
「あ、こら待て!」
急に飛び上がった魔道書を追いかけ、すぐに空に浮かぶ。
「捕縛『投網攻撃』!」
正確な狙いもつけずにスペルを発動。……だが、見事に魔道書をキャッチ成功。
『投網攻撃』はいわゆる全体攻撃のような物だ。方向さえ決めていれば視界全域をカバーできる。
……俺が配置されているのは『魔道書部門』。意思を持った、もしくは本自体に魔法がかけてある物たちを取り扱う部門だ。
「ほんと、なんだかなぁ。何で俺がこんなところに……」
もうちょい静かに仕事が出来る(本音:楽にサボれる)と思ったのに……
「おう、お疲れさん」
「ああ、ほんとに疲れるよ……」
そう言いかけてもう一度『投網攻撃』のチャージを開始する。
「って、出たなコラ」
「おう落ち着け落ち着け。私は何もしてないぜ」
それもこれも今目の前にいるこの白黒魔法使いが原因だったりする。
「これからするんだろう?魔理沙」
「……やれやれ。ただ本を借りてるだけじゃないか。何でそんなに目くじら立てるんだよ」
……網じゃ足らんな。スペルを捕縛用から攻撃用に変換する。
「まあそうだよな。館長の断りもなく禁書指定区域に行っては読みふけった本をそのままにしてたり本を整列させずにばらばらに並べて入れたりさらにはお前のは借りてるんじゃなくて持って行ってるって言うんだこの白黒姫」
「待て待て。私は黒姫(あいつ)ほど自分勝手で鬼畜じゃないぞ」
うん。限界。なんか館長に止められてるっぽいけど知らん。
「双斧『デュアルトマホーク』」
俺の両手に斧状の魔力塊が握られる。
「ライチ汁っぽい物ブチ撒けろこのデモン・ザ・キッチン!」
斧を思いっきり振りかぶって……
「待ちなさい」
殴りかかろうとした瞬間に向かい風の強風にあおられる。
「か、館長……」
突風を吹かせ、台所の悪魔の前に浮いているのはこの図書館の館長、パチュリー=ノウレッジ。
「今日の彼女は正式な客人として来ているわ。ゆえに手荒な歓迎はしないように」
……なるほど。どおりで魔理沙専用トラップの類が静まってるわけだ。
「……失礼いたしました、お客様」
すぐにスペルを解除し、一礼。
「うむ、ご苦労」
「それと魔理沙。ごめんなさいねうちの従業員があなたに……」
まあ、客として招かれたのなら俺が咎められなければなるまい。暴走したのは俺だし。
「正当防衛を……いえ、略奪阻止を働いて」
……へ?何気に本音が混じってませんか館長?
「どっちにしろ悪いのは私か……まったく、交換条件じゃなかったのか?」
「誰も魔道書を……アレの代価として渡すなんて言ってない」
「……なんだ、じゃあこの件は無しでいいんだな」
魔理沙の言葉を聞いた瞬間、館長の顔色が変わった。
「ちょっ……魔理沙!?」
「お前が言ったんだぜ?『代わりにこの図書館の書物を二、三冊持って行っていい』って」
「確かにそう言ったけど!でも魔道書は持って行っていいって言ってないじゃない!」
「……まあ、その辺は私に頼んだお前自身を恨むんだな。私は高いんだ」
……なんか修羅場っぽいな……
「小悪魔、小悪魔」
「なんですか?」
ちょうど近くを通った小悪魔を呼ぶ。
「アレ、どういった経緯で……ああなった?」
「私も知りませんよ、パチュリー様は教えてくれるはずもないし、そもそも聞けません」
そうだよな。小悪魔は形としては館長の奴隷だし。
「……今、何かすっごくフケツな妄想しませんでした?」
「いやいや小悪魔」
確かに館長と浣腸って似てるなとは思ったが。それはともかく。
「館長、俺は仕事に戻ります」
すでに俺の事を忘れて魔理沙と話していた館長に一言断り、すぐに仕事を再開した。

   * * *

結局魔理沙は魔道書を少し持っていき、館長の『もってかないでー』がまた聞こえた。
小悪魔が慰めていたが、ずっとぶつぶつ言い続けていてかなり不気味だ。
さらに魔理沙が仕事を増やしていったせいで、仕事時間がかなり長引いてしまった。
……今度来たら絶対に剥く。
「ういじゃ、お疲れ様。……って、夜の点検があったな」
「あ、それについてパチュリー様からの伝言があります。
 『点検は小悪魔に任せて、あなたは私の部屋にいらっしゃい』との事です」
「ふむ。……わかった。じゃあ点検よろしく」
「早急の用らしいですので、今すぐ行った方がいいですよ」
あいよと言い残し、俺は館長の書斎へ向かう。
館長の書斎は図書館と直結しているので、本棚から少し移動するだけですぐに扉の前に着く。
ノックをして、ドアを開け……
「ちょっと待って」
られない。よく見たらドアの下に根っこが生えていた。
扉越しに聞こえてくるガタンバタンという音が少し経ってから静かになり、ようやく扉の根っこが消えた。
「どうぞ」
……館長の部屋ってそんなに片付いてなかったのか?
そう思いながらもドアを開けると、館長は自分の椅子に座っていた。
ここに入るのは大抵が小悪魔なのでこの部屋の中は少ししか知らなかったが、やはりここも本が多かった。
「それで、用件は何でしょうか」
とりあえず単刀直入に聞く事にした。
「今日は聖ヴァレンタインデーということなので」
机の上にあった数個の箱を取り、それを俺に渡した。
「紅魔館のみんなから渡すように頼まれてね。チョコレートよ」
「……ありがとうございます」
館長から渡されたチョコを見て、しばしの間立ち尽くす。
「どうしたのかしら?」
「……いえ、こうやってチョコをもらえたのが嬉しくて」
そう言いながら箱を壊さない程度に握りしめて、ふと気づく。
「あれ、この箱生暖かい……」
「……それは私のね」
館長の言葉にえ?と思わず濁点付きで返してしまう。
「……仕方ないじゃない、チョコを渡すなんて外の世界の事は昨日初めて知ったんだから」
あ、それで魔理沙を呼んだわけか。
「魔理沙に教えてもらって、ついさっき完成したのよ。水と風をフル使用して冷ましたんだけど……」
それはまたかなりの能力無駄使いですね。
と言うわけにもいかず、黙ってチョコの箱を見る。
「……あれ、数が違いませんか?」
そういえば紅魔館の人達……メイドさん達を除く人数は6人。
「一個足りませんね」
俺の手にあるのは一人分少ない5個。
「それはそうよ。私がつい材料のつぎ足しに……というのは冗談」
館長は静かに笑う。
「残りの一人は、決まっているじゃない」

   * * *

「よう」
そして、しばらくしてから。
俺は図書館に戻り、左手を後ろに隠しながら点検中の小悪魔と顔を合わせた。
「用は済みましたか?」
「ん、向こうでの用はな」
そう言って、左手を小悪魔に向ける。その手には花束。
「ほい、バレンタインプレゼントだ」
「……え」
あっけに取られた顔をする小悪魔。
「俺んとこの世界の一部じゃ、男がプレゼントを渡す国もあるんだ。それがこいつさ」
……まあ、俺もつい先ほど館長に教えてもらったんだが。
「あ、ありがとう、ございます」
「すまんな、数が少なくて」
プレゼントを渡すのも貰うのも初めてだったのでなんか恥ずかしいが。
「……あの」
「なんだ?」
「顔、変わってます」(http://scapegoats.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/dust/box /dust_0405.jpg)
「え、あ、そう」
むう、恥ずかしさのあまりイメージ画像まで変わってしまったか。
「それで、催促するようだが……チョコは……」
「あ、その」
突然な事を言われてあたふたする小悪魔。
「……やっぱり、いいや。チョコの代わりにお前を貰うから」
「はい?」
……うん、恥ずかしい。こりゃやばい。でも言ってしまったなら仕方ない。
恥ずかしいついでに一気に言いきった。

「だからさ、俺はお前が欲しい。お前を好きなんだ」

      ***   ***

はい尻切れトンボです(ぇ
答えを書く勇気がありません。

おまけ(ボツ文

「開けても、いいですか?」
いいわよという答えを待たずに包みを開ける。
……って。
「何か妙に赤いですね」
「その包みは咲夜のね。何かしら」
臭いを嗅ぐ。……こ、これはっ!?と思い一欠け口に入れると……
「……かさぶただ」
モロに血の味。……かさぶたというよりはむしろ凝固血液?
「あら、どうやらレミィへの物と間違えたらしいわね」
「なんちゅうもんを食わせてくれるんや十六夜はん……」


最終更新:2010年06月03日 00:35