小悪魔5
3スレ目 >>862>>877
紅魔館の夜は遅い。
ある意味朝が早いとも言える。
まあ当主が吸血鬼だからな。無理も無い。
――コンコン。
「はーい。起きてますよー」
誰だこんな時間に。
具体的に午前2時。
草木も眠るなんとやらだ。よく知らんが。
「こ、こんばんわ」
時間を考えない来訪者に文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、なんと
小悪魔だった。珍しい。
てっきり美鈴あたりが食料を貰いに来たのかと思ったのだが。
「で? こんな夜更けにどした? 人生相談なら他所でやってくれよ」
「えっと……その、怖い夢を見ちゃってですね。大変申し上げにくいんですけど……今晩泊めてくれませんか?」
――キミ、悪魔じゃなかったっけ? てかこれなんてエロゲ?
などと無粋極まりない事を、上目遣い且つ涙目で訴えてくる彼女に言えるわけも無い。俺は健全な成人男性なのだ。
が、流石に同じ布団で寝るのは俺の理性が危険でピンチなので、大人しく床で寝ようとしたのだが、当の小悪魔はお気に召さなかったらしい。
仕舞いには「私も床で寝ます」とか言い出す始末。同じ部屋にいる女性を床で寝かせられるか。
で、数十分後。早々彼女は眠ったわけだが。
「~~♪」
――ぎゅっ。
何故か俺に絡まってくる小悪魔さん。それも嬉しそうに。
柔らかいフトモモとか二の腕とか胸をこれでもか、と言わんばかりに押し付けてくる。
どうやら彼女は眠ってる時、何かに抱きつく癖があるようで……
これはアレですか? 俺に襲えと? いや、寧ろ誘ってるのか?
いかん。落ち着け。ここで俺が狼になってしまえば俺の好感度が大変な事になってしまう。
そうだ。羊だ、古典的だが羊を数えろ。心頭滅却以下略!
「んうっ……ふあっ」
(寝れるかーー!)
――夜はまだ始まったばかり。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「すぅ、すぅ……」
あれから一体どれほどの時間が経過しただろう。一年? 十年? それとも永遠? それほどの体感時間だった。
とても悪魔とは思えない安らかな寝息をBGMに、いろんな意味でイッパイイッパイな俺が数えた羊は既に5桁を超えた。
しがみ付いたままの彼女を直視する勇気は無い。
更に言うと、このギリギリの精神状態で彼女のあどけない表情を見て、無事正気を保っていられる自信が無い。
そんな中、ずっとあった心地いい感触が離れる。
思わず、小悪魔の方を、向いてしまった。
「あ、おはようございます」
目が、合った。
……パジャマがはだけてました。なんと彼女ノーブラでした。
さらに保護欲と嗜虐心をくすぐる、ホニャリとした安心しきった無垢で無防備な笑顔。
トドメにパタパタと子犬のように動く耳と羽と尻尾。
なにが、何がそんなに嬉しいと言うのか――!
――ぷちん。
あ、もう駄目だ。
ナニかが臨海を超えた事を悟る。
なにしろこちとら徹夜明けで妙にハイ。しかも美少女生殺し状態で数時間。
寧ろここまで我慢し続けた自分を褒めたいね。マジで。
「あは! あはははははははははははは!」
「○○さん!? どうしたんですか!?」
驚き、俺から離れようとするが……
遅い! 遅すぎる!
――ぎゅっ。どさっ。
「!?!?」
いきなりの俺のプッツンに困惑した彼女を正面から抱きしめ、押し倒す。あー、やーらけー。
――さわさわ。
その体勢のまま髪を撫でる。よく手入れされているのか、絹のような手触りだ。
「んうっ……あ、あの……○○さん?」
――かぷ。こりこり。
「ふあっ! み、耳は駄目ですっ! 駄目ですってば!」
陸に上がったマグロの如くベッドの上で暴れるが、色々見失った今の俺には儚い抵抗でしかない。
――数分後。
「あ、あの……」
「……」
「初めてなので、優しく、お願いします……」
「……」
無言で肯定。胸に手を伸ばす。
そして、遂に眼を瞑ったまま真っ赤な顔で抵抗しなくなった彼女の唇に……
「○○さーん! 今日も朝御飯をいただきに……って朝っぱらからナニしてるんですかー! 美鈴キーック!」
――ごしゃあ!
「……という夢を見た。図書館の主としてどう思う?」
「酷いオチね。安易な夢オチは各方面から非難の嵐よ?」
「全くだ。しかし続きがある」
「?」
「起きたら重度のムチウチになってた上に、何故か小悪魔が俺の顔を見てくれなくなった。眼が合ったら真っ赤な顔で逃げられる。はぐれメタルも真っ青だ」
「……ご馳走様」
4スレ目 >>501-502
ちょっとした小ネタのつもりが、力不足でコンパクトにまとめられませんでした…
「小悪魔を、僕にください!」
図書館の床に手をつき、頭を下げる相手は、
複雑な表情を浮かべた紫魔女パチュリーさん。
顔を床に向けていても、傍らに立つ小悪魔の落ち着かない心の内が、空気を介して伝わってくる。
「外」から迷い込んだ僕は
この紅い館の図書館で司書を務める小悪魔と出会い
いつしか互いに想いを寄せ合うようになっていた。
しかし、小悪魔はパチュリーさんの使い魔。
そんな身の彼女に求婚するには
使役主たるパチュリーさんの許しを得る事がスジだと考え
今、こうして頭を下げて願い出ているのだ。
「少し……考えさせてもらえるかしら…」
パチュリーさんがそう言ってから
異様に長く感じられる一週間が過ぎたある日、僕は呼び出しを受けた。
館のメイド長・咲夜さんに案内されて、紅魔館玉座の間に入る。
かなりの広さを持つその部屋には、館の主レミリア様と、滅多に図書館から出ないはずのパチュリーさん
そして――小悪魔が居た。
「ほら、パチェ。二人に話があるのでしょう?」
レミリア様に促され、パチュリーさんは小さく溜息をついてから
手前に横たえられた縦長の箱を指して口を開く
「……その中には、貴方達二人への『お祝い』が入っているわ」
『祝い』という主の言葉に、小悪魔が微かに身を震わせる。
その言葉の意味に思いを巡らせ、僕の鼓動も一度、大きく高鳴った。
「それが私の返答よ ……小悪魔、開けてみなさい」
「は、はい……」
少しだけ不安な表情で僕を見る小悪魔に、頷いて見せる。
小悪魔も頷き返し、そっと箱のフタに手をかける。
ギ…… ギギギギ……
カパァ
「え…………………」
小悪魔が開けた箱の中には、
「…………………わたし?」
小悪魔が入っていた。
純白のウェディングドレスを身に着けた状態で。
「!?」
自分の身に何が起きたのかわからず箱の中で固まる小悪魔
「ど……どうして箱を開けた小悪魔が箱の中にッ!
僕は一瞬たりと目を離さなかったッ!
い……いや、見えなかったッ!
・・・・・・・・・・
『しっかりと見ていたが』気がついた時にはすでに中に入っt―――って、こんな事ができるのは」
視線の先で、瀟洒な従者がにっこりと微笑む。
こんな真似ができるのは、時を止める能力を持つ咲夜さんだけだ。
超スピードとか!催眠術とかじゃあ断じてねー!
時間を止めて、小悪魔をドレスに着替えさせてから箱の中に入r…
ん?…着替えさせ……き、着替え…!? イカン ハナヂガ……。
「演出は咲夜からの、ドレスは私からの手向けよ。
外の世界では、花嫁がコレを着る慣わしなんでしょう?」
一人で興奮している僕に、レミリア様が柔らかな表情で言う。
「私としては有能な司書を手放したくは無いのだけれど……小悪魔の気持ちも、決まっているみたいだしね」
パチュリーさんは少し寂しそうな、でも、微かに嬉しそうな表情で小悪魔を見つめる。
「箱の中の『お祝い』は、『私の使い魔でなくなった自由な身の貴方』よ」
「え……」
箱の中から身を起こし、小悪魔は主の方を向く。
「私と貴方の主従の契約は、今日でお終い。
これからは、彼と夫婦の契約を結びなさい……今までありがとう、小悪魔。 幸せになるのよ」
「パチュリーさ…ま…」
感涙にむせぶ小悪魔を愛しそうに見つめてから、パチュリーさんは僕の方へ向き直る。
「この娘を、大切にしてあげてね…」
「……はいっ!」
滲んでよく見えない眼で、パチュリーさんの視線をまっすぐに受け止め、僕は力強く頷いた。
「あいつは、とんでもないものを持っていったな。
―――しかも、一生返さないつもりだぜ」
扉の隙間からこっそりと覗いていた黒白い蒐集家が呟いた。
4スレ目 >>575(うpろだ0035)
「えーっとですね、後は冬虫夏草と、トリカブトと、えーっと……」
「俺はそんなに記憶力良くないんだが……」
時刻は丁度日が傾き始めた頃、大体二時ぐらい。
ここの森は普段は静かなのが売りらしいが、現在は気の抜けた声が飛び交っている。
その張本人'sが俺と小悪魔だ。
なんでこんな辺鄙な場所までキノコを取りに来たかというと、話は午前まで遡る。
日が照り始めて適等に熱くなり始めた午前。
しかしそれは外とかが対象なので、窓が少ない紅魔館のさらに窓が無い図書館で仕事をしている俺には関係なかった。
図書館は適度に温度設定されているらしく、夏だろうが冬だろうが快適なのだ。
いやはや魔法の力って素晴らしいね。俺はここらへんのみパチュリーに感謝した。
それ以外はイマイチ感謝できないがな。
現在もパチュリーの命令で徹夜で本の整理に当たっていて、丁度終わらせたところだった。
最近生活のリズム崩れ始めているんですけど。……元からか。
と、まあ眠いせいか脳が春になり始めてきた俺はさっさと寝ようと図書館を跡にしようとした。
そしたら何故か大きな籠を持った小悪魔に出会ったわけだ。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
このまま何も言わずに去っていたら俺は今頃夢の中だろう。
だが俺は、小悪魔に話しかけてしまった。
「……時に小悪魔、そのやけにデカイ籠は何だ。デカ過ぎて羽が動かしずらそうだぞ」
「実はパチュリー様に植物採集を頼まれまして……」
「大変だな……」
「そうなんです……」
二人ともパチュリーの下で働いているため何かと同じような苦労が多い。
そんなこんなで俺と小悪魔は仲がいいのだ。
「それで……お手伝い頂けると嬉しいのですが……」
止めてくれ、そんな上目遣いで俺を見ないでくれ。
そんなふうに言われたら断れないじゃないか。
「……わかった」
その上目遣いが意図的だったらかなり腹黒いぞ小悪魔。
だがそんな俺の疑心なんて吹き飛ばすような屈託の無い笑みで小悪魔は答えた。
「ありがとうございます!」
まぁ、可愛かったからいいか。
眠気? んなもん吹き飛んだわ。
って言う事で、俺たちは植物採集に来たわけです。
他に質問は? 答えないけど。
「そもそも全部この森にあるんディスカー?」
「知ってるわけ無いじゃないですか……」
ご尤もです。
その後俺たちは適度に冗談込みで散策を続けたが、目当ての物は見つからない。
残り一つなのに……。
途中、妖怪とか肉食植物とか出たときは死にそうになったが小悪魔が撃退した。
そしてその余波で毎回俺も吹き飛ばされた。
一応護身用として持っているものがあるが、これはあんな奴らにつかうもんじゃない。
「大丈夫ですかー?」
「大丈夫だー」
そして毎回交わすこの言葉。
うーん、やっぱり人間って非力だなぁ。
なんてため息をつきながら体を起こす。
と、小悪魔の持っているものに目が行った。
「こ、こあさん? その手に持ってるのはなにかね?」
焦りすぎて小悪魔といえずに『こあ』で止まってしまった。
だって手に持ってるのが妙にでかくて切った部分から液体が滲み出てるんですよ!?
「これですか? 目当て物ですよ」
あっさり言ってしまう小悪魔。
図書館の面々は根性があるな。俺は例外だが。
「目当てのものって、あれから手に入れるものなのか?」
「ええ。剥ぎ取りました」
そう言って小悪魔はナイフらしきものを取り出して見せた。
……それ使って倒せよ。魔法使って俺を吹き飛ばさずに。
勿論口には出さない。セオリーなんだし。切れ味無いし。
「ま、まぁ見つかってよかったな。帰ろうか」
「はい」
そう小悪魔は答えて手に持った謎のものを背中のカゴへと放り投げた。
……わざわざ見せなくても良かったんだぞ、小悪魔。
さて帰ろうか、そう思った矢先。
「お? お前らがいるなんて珍しいな」
いやーな声が背後からした。
『ギギギギギ……』という音が似合う動きで首を動かすと、そこには―――
「やっぱり魔理沙か……。はぁ……」
図書館から奪った(本人は借りたと言っている)本を返さない黒白魔法使いが居た。
ちらりと小悪魔の方を見てみると、小悪魔も若干『うわぁ……』って顔をしていた。
……そりゃそうか。
「おいおい、会っていきなりため息とは酷い奴だな。礼儀がなってないぜ」
「借りた本を返さない礼儀知らずには言われたくない台詞だ」
「まぁ、それはそれでな。処で、小悪魔が背負ってるのは何だ?」
あ、こいつ負けそうになったから話題変えたな。
そして質問された小悪魔は普通に答えた。
「ええと、パチュリー様から頼まれた物です」
「ふぅん……パチュリーがなぁ」
そう言って少しブツブツ言い始めた。
魔理沙は無駄に頭の回転が早いからな……嫌なことにならなければいいが。
「よし」
思考が終わったのか不敵に笑って此方を見た。
「それは私がいただくぜ」
「却下」
何を言うか予想していた俺は即答した。
ここで奪われたら俺の苦労はどうなる。
「そういうと思ったぜ」
「なら言うなよ……」
「だから、私は交換条件を出す事にした」
この黒白。一体何を考えているのか。
「お前達がコレを渡してくれるのなら、私は今まで借りた本を全部返す」
「……むぅ」
「どうだ? 決して悪い話ではないはずだが」
魔理沙はなんでこのかごの中の物がほしいのだろうか。
本を返してまで。ってか返すの普通なんですけど。
色々考えた俺は即答はやめておくことにした。
「少し小悪魔と考えさせてくれ」
そう言って小悪魔を引っ張って奥のほうに移動した。
因みに小悪魔は何も喋らなかったのは話し合いを俺に任せたから……なのだろうか。
「どうする?」
「本が返ってくるのなら私はそうしたいのですが……」
「そうすると俺と森に居る時間が長くなってしまうが」
「むしろそちらの方を……。あ、いえいえいえなんでもありません」
なんかブツブツ言って急いで言う小悪魔に俺は心の中で首をかしげた。
「しかし、魔理沙が本を返す可能性があるとは思えんが……」
「そ、そうですね……」
「ここは素直にお引取り願わないといけないな」
「でも魔理沙さんが素直に応じるとは思いませんよ?」
「そこが問題なんだが、俺に考えがある」
「考え……ですか?」
鸚鵡返しに聞いてきた小悪魔に俺は答える。
「だがな、それには準備が要るんだ。そこで小悪魔」
「……?」
「魔理沙相手に弾幕ごっこで少し時間稼いでくれ」
俺の一言に一帯が凍りついた。
少しして、ようやく理解が出来たらしい小悪魔が口を開く。
「む、無理ですって!」
「元気があれば何でもできる!」
「理不尽です!」
「とにかく頼む。俺の五回目くらいのお願いだ」
そう言って俺は手を合わせて懇願する。
そのぐらいしないと撃退できないから魔理沙は困る。
「……わかりました。できるだけやってみます」
渋々頷く小悪魔。毎回こうやって最終的に拒否できないのは小悪魔の悪いところであり良いところだ。
「じゃあ、頼んだぞ」
そういうことで俺たちは魔理沙の場所へと戻った。
「で、答えは? それをくれたら本は返すぜ?」
「甘いな魔理沙っ!」
ビシッと人差し指を魔理沙に向けて答える。
「そんな餌に俺がつられるクマー!」
「○○さん、それって……」
何か言おうとした小悪魔は無視。
「ほぅ……。素直に渡せないのなら奪うだけだぜ!」
この黒白、こんな奴だったっけ。
まぁ、敵には変わりないから別にいい。
「……じゃあ小悪魔頼んだ。知っているとは思うが俺は弾幕ごっこできねぇし」
普通の人間だからな。
さっさと逃げるに限る。
「……はぁ」
それに対して小悪魔は何も答えずにため息一つ漏らしただけだった。悪い。
「覚悟は出来たか?」
そう言って魔理沙は攻撃を開始した。勿論小悪魔に。
騒音があたり一帯を支配して、現在の俺には植物が倒される音ぐらいしか聞こえてこない。
時折飛んでくる星弾にビビリながら着々準備をしていく。
畜生、結構難しいなこれ。
そしてそのまませっせか仕事して数分。
「できたあっ!」
出来た例のものに喜びつつ。肩に担いで小悪魔の場所へと急ぐ。
そして魔理沙に狙いを定め。叫んだ。
「まーりーさー! 一応言わないとダメみたいだから言ってやる!」
その声に魔理沙は此方をちらりと見て、視線を戻し、驚愕の表情でまた此方を見た。
此方というか、今俺が肩に担いでいるバズーカらしきもののほうだ
「なんだそれはぁ!」
「霧之助から貰った!」
「な、なんだってー!?」
「内容は百聞は一見にしかずだっ! スペルカードじゃないけど宣言! 音速『黄色い謎の物体X』!!」
そして俺の肩に乗っけていたバズーカもとい、“ワカモトランチャー”が火を噴いた。
―――ぶるるぁあああーーー!!
普通のバズーカとは違う発射音が鳴った後、何かしらの黄色い物体が魔理沙へと向かった。
「うおっと! 私に当てようなんて百年早いぜ」
そこらへんは魔理沙だ、避けるだろうと思っていた。
しかしその黄色い物体は突如Uターンをしてまた魔理沙へと向かった。
「なっ!?」
「甘いな! そいつは音速。そしてホーミング性能が半端じゃないから一度狙われたら逃げるしか手は無い!」
「くそっ!」
箒に乗り、凄まじい速度で逃げ出す魔理沙。そしてそれを追いかける黄色い物体。
そして二人はどんどん小さくなっていった。
うーん、やっぱ強烈。
因みに今の解説は霧之助から言われただけなので本当のことかどうかは不明だった。
なんてのんびり思っていると小悪魔がやってきた。
服がところどころ破けたり破けそうになっているものの、たいした傷ではないようだ。
良かった良かった。
「あのう……さっきのなんですか?」
そう小悪魔に言われては答えないわけにはいかない。ってか聞いてなかったのか。
「ワカモトランチャー。細かい事は気にするな」
「……はあ」
未だによくわからない小悪魔に声優なんて説明しても混乱するだけだしな。
とりあえず籠は死守完了。後は帰るだけ。
「じゃあ帰ろうか。今度は巫女なんて事があったら俺は逃げるぞ。本気で」
そう言った後歩き出そうとしたが、小悪魔が何故か歩き出さないので俺は止まってしまった。
「ええと、あの」
「どうした? 歩けないとか?」
「そうではないくて、言いたい事があるんですけど」
言いたい事? ワカモトランチャーについては言いたくないんだがなぁ、俺もわからないし。
「実は、前から思ってたんですが、ええと」
中々本題を切り出さないので俺は小悪魔を見続けた。
よく見なくてもわかるほど顔が赤い。まぁ死闘だったしな。
「○○さんのことが……す」
そこで小悪魔は何も言わずに立ち尽くした。
俺のことが……す。ってなんだ? ストライキか? 意味わからんな。
とりあえず何事かと問いただそうと思ったが―――
「おおっ! 大丈夫か小悪魔!?」
こっちに小悪魔が倒れこんできたのでそれどころではなかった。
怪我のせいでぶっ倒れたか!?
とりあえず調べる。
ケガ よし
脈 よし
性格よし
格好よし
匂い よし
すべてよし
すげえよし
……って何言っているんだ俺は。
なんて自分を突っ込んでいると、小悪魔からゆっくりとした寝息がした。
「なんだよ……、ビックリさせるな」
大方徹夜していたんだろう。小悪魔が寝ているところ見たこと無いからな、永久保存しておくか。
「小悪魔も大変なんだな」
まぁいいか、今は寝かせておこう。
そう思った俺は小悪魔を何とか担いで歩きだした。
籠のせいか重かったけど。
なんとか図書館に帰ってきた俺は小悪魔をベッド(小悪魔の部屋ではない)に運んでパチュリーのところに居た。
「はい、これ」
そしてパチュリーの近くに重い籠をおろした。
まったく、何につかうんだよこれ。
そう思っているとパチュリーから俺の頭を混乱させる一言が発せられた。
「……なにこれ?」
「パチュリーが小悪魔に頼んだんだろ……」
呆れて言い返す。まだ俺は気付いていない。
「私、こんなの頼んでないわよ」
「……は?」
頼んでない? 嘘付け。
小悪魔が頼まれたって言っていたぞ。
「小悪魔? 彼女には何にも頼んでないわよ」
……全く持って訳がわからん。
とりあえずこの混乱した頭を静めるためにこの籠を―――
「そおい!!」
ひっくり返してパチュリーの頭に叩き込んだ。
混乱した上に(そういえば)徹夜明け込みの眠い俺は気力がなく、もう寝てしまえと言う気分で歩いていた。
気分じゃないな、寝るんだ。
そう思っていると、おきたての小悪魔に出くわした。
「あの、私、寝てました?」
「ああ」
眠いせいで返事も素っ気無い。仕方が無い。
「じゃあパチュリー様には……」
「安心しろ、渡しておいた」
引導をな、とまでは言わない。
言ってもいいけど言わないのは俺のやさしさからだ。
「そうですか……」
しゅんとなっている小悪魔を見ていると何か言わなければいけないことがあると思うが、思い出せない。
眠いもん。
「あ、あの」
恐らく本日六回目の『あの』。
何回言ったら気が済むんだろう。
「私、寝ているときになんか言いました?」
「寝ているとき……ねぇ」
眠い頭をなんとか動かして記憶を探る。
「言ってたな、たしか」
「ど、どんなことを!?」
「ええとだなぁ、言いたくないんだが……」
お茶を濁そうとする俺に対して小悪魔は詰め寄ってきた。
勿論詰め寄られたら下がるしかない。本能的に。
「言ってください! お願いします!」
「わかったわかった、だからそんなに近づくな」
近づかれたらなんか言いづらい。よくわからんけど。
「まぁ、小悪魔に魔が差したとは思うけどさ……」
そう前置きした後俺は言った。
「冬虫夏草と宇宙仮想……だっけか」
あたりに冷たい風が吹いた。
ちなみに―――
ワカモトランチャー黄色い弾仕様を食らった魔理沙は数日間外に出れなかったらしい。
「なんでですか?」
「あれはストーカーで変体だからな」
5スレ目>>612-613
名月。
特に、ここ、図書館の屋根から見る月は格別だ。
酒も何もないけれど、
月があれば十分だ。
屋根の出っ張りに腰を下ろして、月を眺める。
俺がここに来て3ヶ月。
市立図書館の帰路に放り込まれたせいで、
日本での図書の整理方法をグダグダながら教えたら、
そのまま、魔法図書館なるところに勤務することになってしまった。
でも、それなりにうまくやってきたと思う。
パチェやこぁとの関係も良好だし、
最近のこぁとの書棚整理コンビネーションは、パチェも目を見張るほど。
今のところホームシックにかかってない辺り、結構適応しているのかもしれない。
「あれ、こんなところにいたんですか?」
いつの間にか、こぁが屋根に上がってきていた。
「ああ、こぁか。どうしたんだ?」
この少女がこぁ。
赤髪の、司書をやっている女の子。
みんな小悪魔と呼んでいるが、それではあまりにも味気ないので、
こぁ、と呼ばせてもらっている。
「パチュリー様が、探してましたよ?」
「なんだって?」
「分類がどうとか、言ってましたけど。
――やぁっ」
一筋の風が、こぁの髪をなびかせる。
髪が乱れないように、軽く髪を抑えるこぁ。
「やめだ。始まると長いんだ、あの人」
「いいんですか?」
「いいんだ。明日、説教も含めて長話に付き合うさ」
「言いつけますよ」
「信じてるぜ、こぁ」
軽くウィンク。
それを見たこぁは、顔を赤くして目を逸らす。
そのときまた、一陣の風。
スルッ
「きゃあっ!」
バランスを崩したこぁが落ちそうになる寸前。
「こぁ!」
何とか俺の手が間に合い、引っ張り上げる。
そのまま、俺の横にこぁを座らせた。
女の子の手って、こんなに柔らかくてサラサラしているんだ……。
「ありがとう、ございます……」
「ああ、まあ、気にするな」
照れてしまう。
こぁの顔が見られない。
「あの、手……」
「ああ、すまない……」
慌てて、手を放す俺。
辺りは闇。
虫の音のさえ聞こえない。
無言、無音の状態が続く。
それを破ったのは、こぁの声だった。
「前に、私の本名を聞いたこと、ありましたよね」
「そう言えば、言ったな」
「あれは、私を召喚するときにその名前を知っていた、
パチュリー様しか、知らないんですよ。
でも、教えてあげます。
私の、本当の名前は、――です」
「あ、ああ、ありがとう。
でも、どうして急に?」
顔をそちらに向ければ。
妖艶な微笑を浮かべるこぁ。
「知っていますか?
悪魔の名は、人に知られてはいけないんです。
知られてしまうと、その人に逆らえないから……。
そして、悪魔に名前を教えられた人は、その悪魔を自由にできるんです」
「そんな大事な名前を、俺に教えていいのか?」
「いいんです。あなたには。
私の、身も心も、支配して欲しいから……」
いきなりの告白に戸惑ってしまう。
でも、なんでそんなすまなそうな目をしているんだ……?
「覚悟して、下さいね。
私、アスモデウス様の配下、色欲の悪魔ですから。
手強いですよ」
「覚悟なんかしないさ。
それより、そっちこそ覚悟しろよ。
俺の愛は激しいからな」
その言葉に、眼を見開くこぁ。
「受け止めて、くれるんですか……?」
「ああ、こぁのこと、愛してるから」
「私、悪魔なんですよ……?」
「今さら、だろ。
俺は悪魔じゃなくてこぁを好きになったんだから、関係ないさ」
「嬉しい!」
抱きついてくるこぁ。
その眼には、涙が光っている。
「ぐすっ。
ずっと、ずっと、大好きだったんです。
でも、私、悪魔だから、受け止めてくれないと、思っていたんです。
だから、えぐっ、実は、呪いをかけてしまいました。
ごめんなさい――」
「呪い?」
「はい、呪いです。
悪魔自らに名前を教えられた人は、生涯を悪魔と過ごさなくてはいけない。
私が死なない限り、死ねないし、年も取れないんですよ。
それが、私を好きにできる、代償なんです。
どうしても、あなたと、つながりが欲しかったんです。
勝手な事して、ひくっ、ごめんなさい……」
堰を切ったように話し出す。
そんなこぁに、
「ありがとう」
俺は、心から、お礼を言った。
「え……」
「だって、これからずっとこぁと一緒なんだろう?
それに、こぁが、そこまで俺を純粋に慕ってくれたのは嬉しいし。
俺にとっては、何も問題ないな」
「うぇぇぇぇーーーーん。
ありがとう、ぐすっ、ございます」
胸の中で泣きじゃくるこぁ。
俺は、その形のいいあごを持ち上げると、
「誓いのキス」
軽く、キスをした。
「あ……。
うれ、しい、です。
不束者ですが、心も、カラダも、髪の毛1本に至るまで、
この私は、すべてあなたのものです。
末永く、可愛がってくださいね」
嬉し涙を流しながら微笑むこぁを。
俺は。
世界で一番、愛しいと思った。
最終更新:2010年06月03日 22:29