パチュリー7



6スレ目>>747


彼女は今日もこの広い図書館で孤独に本を読み漁っている。
俺に気付くと、いつものように冷めた目でこちらを見つめてきた。

「あなたも物好きね、こんな本しか無い場所に長年通い続けるなんて」
「君がいるだけでどんな場所も楽園になるのさ」
「チープね……13点」
心持ち視線の温度が下がった気がする。どうも俺にエスプリのセンスは無いようだ。

今日もいつも通り、俺が一方的に話しかけて彼女が煩わしそうに返答するだけの一日が過ぎていった。
まあ結局こんなものか、と思って帰ろうと思い立ち上がると

「今日で49日目、お別れね。この80年、少し楽しかったわ」
唐突だった。俺のことを少しでも気にかけてくれているのが嬉しかった。
「ありがとう、大好きだよ、さようなら」
そう言って、未練を断ち切るように彼女に背を向け、ゆっくりと歩き始める。

「――――Я не могу жить、без тебя」(※1)
「え?」
思わず振り向いてしまう。
「なんでもないわ……さよなら」
それ以降、彼女は本に顔を落とし二度とこちらを向く事は無かった。

ヤーニマグー ジィーチ ビステビャー、か。
いろんな国の人を裁く閻魔様なら意味を知ってるかもしれないな。
そんなことを考えながら俺は図書館を後にした。



最後のはロシア語です。適当知識なので合ってるかは微妙。
何が言いたかったかというと
知識人の彼女は絶対こんな照れ隠しをするに決まってるんだよ!!!


補足
※1 貴方無しにはいられない。的な意味

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6スレ目>>766


2月14日
僅かな期待に胸を膨らませつつ、図書館へ向かう。
といっても、幻想郷にバレンタインなんてあるのだろうか?
最大の疑問を残したまま、扉を開いた。
いつも通りの埃臭い図書館
いつも通りのかび臭い蔵書の山
いつも通りの・・・パチュリー・・・。
変わった事は何もない。
全てがいつも通りだ。
「おはよう」
「・・・おはよう」
彼女は本に夢中になっているらしく、顔も上げない。
俺はいつも通り自分の椅子に座る。
な、何の素振りもない。
だが冷静になってみると
がっかりというよりは変に期待していた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
「はあ・・・」
思わず溜息が出た。
「どうしたの?」
「いや・・・別に・・・ただ自分の愚かさに苦悩しているだけだ」
「何よそれ。 頭でも打ったの?」
物凄い呆れ顔だ。
まあ無理もないか。
俺も本のページを開いて読み始める。
一般公開されていないこの図書館では客がそう来る訳もなく
客が来ないという事は、散らかすのも俺とパチュリーと霧雨魔理沙ぐらいであり
要するに先日蔵書の整理を終えていた今日の図書館は、全くと言って良いほど仕事が無かった。
俺は自分の本を読みつつ、パチュリーが読み散らかした本を片付けるという作業を繰り返していた。
何回目かの片づけを終えた後、気晴らしに散歩でも行こうかな、と思って
その旨をパチュリーに伝えると
「好きにすると良いわ、どうせ仕事ないし」
とのことだったので、俺は図書館を後にして屋敷の外に出た。
散歩といっても屋敷の敷地をぐるぐる回るだけで、なんとも退屈だ。
「どうせ戻っても仕事無いしな・・・少しぐらいなら良いか」
そう思った俺は門に向かって歩き始めた。
ちょっとぐらい時間潰しても大丈夫だろう。
「よう美鈴!! 調子はどうだ?」
「あれ? ○○さん、仕事はいいんですか?」
「いや、全然無いんだ。 退屈だから少し外の空気を吸いにね」
「そうなんですか。 こっちも今日は侵入者も無く平和です」
「お互いに魔理沙のやつには苦労するな~」
などと雑談していた訳だが、ふと疑問がよぎったので訊いてみた。
こういう時、彼女の人当たりの良い感じは助かる。
この館では貴重なタイプだ。
「なあ、変な事訊くけど幻想郷にはバレンタインって行事はあるのか?」
「どうしたんですか急に?」
「いや、別にどうしたって事は無いんだが・・・パチュリーの奴がくれる素振りも見せないんだよ。
 一応俺たちは恋仲というか・・・だからそれでちょっと寂しいなあと」
妙に気恥ずかしい。
美鈴はそんな俺に微笑を浮かべて言った。
「それなら心配する事無いですよ。 パチュリー様、随分前から皆に相談してましたから」
「あいつが?」
「はい。 男の人に喜ばれるにはどういうのが良いかとか。
 ほとんど参考にならなかったみたいで、結局自分で考えるようにしたみたいですけど」
「そうか・・・美鈴、ありがとな」
「どういたしまして」
笑顔で手を振る美鈴に背を向けて、俺は足早に図書館に戻った。
「ただいま」
「随分遅かったわね」
ジト目で一睨みされるが気にせず答える。
「ちょっと美鈴のやつと話してたんだ」
「そうなの」
「なんだ・・・妬いてくれないのか?」
「なんで妬かなくちゃいけないのよ?」
それっきり途絶える会話、静寂が2人を包む。
でも視線は逸らさない。
先に目を逸らしたのはパチュリーで、何度も何かを言おうとしては止める。
「何だ? 言いたい事があるならはっきり言えよ」
俺が努めて優しく言うと、彼女は恥ずかしそうな顔で机の下から綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出し
「あの・・・これ・・・作ったんだけど・・・」
そう言って手渡してきた。
「よく出来ました」
意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「えっ?」
彼女は怪訝そうな顔をしている、発言の意図が読み取れないのだろう。
「いやあ、いつくれるのかな~とか思ってずっと待ってたから」
「知ってたの!?」
「勘でそんな気がしてて、さっき美鈴に聞いて確信に変わった」
耳まで真っ赤にしてうなだれるパチュリー。
「開けて良いか?」
無言で頷く。
丁寧に包装された箱を開くと、中には一口サイズのチョコレートが数個入っていた。
1つ口に運ぶ、彼女にとっては緊張の一瞬。
俺はじっくりと味わった。
「美味い・・・」
「本当? 良かった。 正直なところあんまり自信はなかったんだけど」
彼女の笑顔も相まって更に美味しく感じる。
甘さは的確に俺の好みを捉えていた。
「パチュリー」
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼女の嬉しそうな笑顔が眩しい。

同時刻、紅魔館門前――
「邪魔するぜ!!」
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙が咆哮し
「やっぱり今日は平和じゃなかった~!!」
門番、紅美鈴は悲鳴を上げていた。

再び図書館――
最後の一個を食べ終えた俺はパチュリーに訊ねていた。
「俺、こんなに幸せで良いのかな?」
彼女は優しい笑顔で答える
「良いんじゃない? 私も凄く幸せだから。
 2人共幸せなら何も問題ないと思うけど」
「そうか・・・そうだな」
そしてゆっくり唇を重ねた。
「ん・・・はぁ・・・甘い」
彼女が吐息を漏らす。
そのまま抱き合っていると・・・
バン!!!!
けたたましくドアが開いた。
「本借りに来たぜ・・・って、あれ?」
状況が理解できない魔理沙。
「へっ!?」
同じく状況が理解できないのと、恥ずかしさの余り今にも卒倒しそうなパチュリー。
「魔理沙・・・何でお前はこんなにタイミングが悪いんだ?・・・」
邪魔されてがっかり&呆れる俺。
ちなみに、その後魔理沙によって俺たちがイチャついていた事が言いふらされたのはいうまでもない・・・
鴉天狗、何しに来た?

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7スレ目>>258


何だよパチュリーいきなりくっ付くなよ。
今PCやってんだから。
え? 何やってんのか見せろって?
別に良いけど。
何? 本当に浮気してないのかって・・・当たり前だろ!!
そんな事するわけないじゃないか。
うわっ!! 勝手にマウスいじるなよ。
ってお前!! それ俺の秘密のフォルダ!? 止めて!! 待って!!
開かないで!! 頼む、後生だから!! 待っ――

はい・・・はい・・・俺もそうだと思います・・・。
こういう動画とか画像持ってるのも浮気だと思います・・・。
はい・・・すいません・・・嘘つきました・・・はい・・・すいません。
もうしません・・・それも全部削除して良いです。
あの、そろそろスペカと魔道書しまっていただけませんか?
違います!! 反省してます!!
でも、あの、ここで火符とか使われると住むとこ無くなっちゃうんで・・・。
他の住人にも迷惑かけるし・・・色々弁償とかしなきゃいけなくなるんで・・・。
それにパチュリー様もこっちに特に知り合い、いるわけじゃないですよね?
だから、それだけはお互い何の得にもならないと思うんです。
だからもう危ないのはしまってください。
ていうかしまって!!
何でも言う事聞くから!!

パチュリー?
それ金額見てカートにいれてる?
いや、確かに欲しい本買ってあげるとは言ったけどさ。
ちょっ!? それ一冊で五千円超えてる!? 
待って!! 何でわざわざ文庫化されてるやつ単行本で買うの!?
これで最後か、良かった・・・。
あれ、何で俺のパスワード知ってるんだよ!!
って、即行で注文確定!?
待てよ、総額いくらだよ!?
おかしいな・・・メール見れない・・・注文内容確認できない・・・。
パスワードが違う? ねえパチュリー・・・変えたの?
いつ変えたの?
そこでダンマリは無いだろ?
ねえ、俺どうなるの!?
借金するの!?
ねえ!!

数週間後――
一括配送されてきた本の山が、俺の部屋を埋め尽くしていた。
金額は思い出したくない、俺の私物は数多くパチュリーに売却された・・・。
「俺、こっちに帰ってきてこんな事言うのなんだけどさ、幻想郷に戻りたい・・・」
「私はこっちでの生活をそれなりに楽しんでるけど」
俺はこの一件で、この世界の機械文明が怖い。
「幻想郷じゃなくてもいいから何処か、動画と画像と通販の存在しない世界に行きたい」
彼女は何も答えずに読書に夢中になっている。
しかし、暫くしてゆっくりと口を開いた。
「今度浮気なんかしたら・・・その時は大英図書館買ってもらうから」
本で顔を隠しているせいで表情は分からないが、たぶん真っ赤になっているんだろう。
可愛いやつめ。
もう2度と浮気なんかしない!!
しないが・・・。
それは、個人に購入できる物なのだろうか・・・

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うpろだ197


身体が冷めていく。目を閉じると命の炎が燃え尽きるのが見える気がする。

やけにあっけない人生だった。普通に生きていたつもりが、いきなり普通じゃない場所に来てしまった。

そしてそこの何かに命を食われた。……思い返すとここに来てからロクな目に合ってない。

でもせめて、せめてもう少し生きたい。出来れば元の場所で。なるべく平凡に。

……いや、高望みもほどほどにしよう。神様、こんな人生歩ませてくれてありがとう。そして死んじまえ。


「……はっ」
気が付くと、辺り一面が本の山だった。……訂正。自分が本に埋もれていた。
「気絶してた、か。……懐かしい夢だったな」
一度目の死。この世界に来て、その後に殺された時の記憶。
正確には死んではいないが。死にかけたところを助けてもらい、そして現在の生を歩んでいる。
本の一部が崩れて光が差し込んだ。そこから見えるのはメイドさん達。
「__ー、生きてるー?」
「あいにくと身体は頑丈なんでね、むしろこれくらいで死ぬほうがおかしいさ」
「今発掘してるからね。動いたら多分……砕けるよ?」
「それはどっちの意味だ?」
「聞かないほうがいいかも」
結局生命の危機に変わりはない、と。
時間はかかったがようやく掘り出され、起こせるようになった身体をパンパンとはたく。
「お疲れさまー」
「そっちもご苦労さん」
掘り出してくれた羽付きメイドさん達に礼を言い、本の山から降りる。
「またやったんですか、__さん」
埋もれていた本の山を見ていると、後ろから声がかかった。
「あ、すいません先輩。仕事増やしちゃって」
後ろにいたのは小悪魔先輩。背中と頭の羽がチャームポイント兼性感帯、らしい。
「そろそろその先輩って言うのはやめてもらえませんか?」
「いや、一応先輩ですし」
「どっちの意味でですか?」
「そりゃ両方に決まってます。ここの従業員として、そして使い魔として」
……よく考えてみれば、先ほどの『死にかけた』は不適切だった気がする。何せもう九割九分九厘死んでいたから。
残った魂を少し書き換え、魔力を固めて元の体を模した物に入れておく。……言葉にすると単純だがとんでもない事を先輩の主がやってくれた。
そのおかげでこうやって命を永らえたのだ。まあ、多少は勝手が違う部分が出てくるが。
「……でも先輩って言われるとちょっとむずがゆくてそれでいて後輩萌えな感じで……」
ムッハー、と鼻から息を噴き出す先輩。先輩は名前のとおり悪魔の一種。メイドさん達から『この人絶対淫魔だよ』と囁かれていたり。
……本人は否定してるけどその言動のせいで説得力がなかったりする。
「落ち着いてくださいよ先輩」
「え、あー……そうだ。パチュリー様からの伝言があったんだっけ。……コホン。『__。今日の業務が終わったら私の部屋に来なさい』だそうです」
伝言の内容だけ件の先輩の主……パチュリーさんの声で喋る先輩。
「了解いたしました。ならさっさと片付けないといけませんね」
「……__さんは別の所をお願いします」
「やっぱりですか」
頭を掻く。……これだけの惨事を起こしたなら仕方ないよな。先輩の命に従い、別の所へ向かう事にした。


仕事が終わり、先輩の伝言どおりにパチュリーさんの部屋へ向かった。
「パチュリーさん、__です。小悪魔先輩の言伝により、こちらに参りました」
『入りなさい』
「はい、失礼します」
扉を開けると、その向こうにも本の山。……ここにあるのは図書館には置けないようなとんでもなく危険な本らしい。
本当の意味での魔道書(グリモワール)の中で、彼女は生活している。……とことん本漬けなんだな、と思っていると。
「こっちに来なさい」
パチュリーさん本人はベッドの方にいた。今は上着を羽織っておらず、寝間着のような薄いワンピース一枚だ。
「……それで、どう言ったご用件でしょうか」
パチュリーさんに近づき、そう尋ねると。
「ええ、少し試したい事があってね。……脱ぎなさい」
……普通の人ならここで「おい、ここは全年齢板だぞ!」とか突っ込みそうだが、俺の場合は違う。
「わかりました」
そう言って制服の上を脱ぐ。上半身をさらけ出し、パチュリーさんに見せた。
胸の辺り……元々心臓があった場所には円を描いた刺青のような模様がある。そこを彼女の指が撫でると。
「うっ……つぅ」
痛みと共に、模様のあった場所から模様の刻まれた球体が半分出てきた。……これが俺の魂の入れ物。言い換えれば核の部分だ。
六角形に並んだ点と三角の模様のうち、逆三角形に並んだ三角の模様全てに指が当てられる。
指をずらし、三角の模様を丸の模様に合わせると……丸と三角が重なり、一つの魔法陣になった。その瞬間、胸の模様が全身にまで広がる。
「っがぁぁっ……!ぐぅぅぅぅっ……!!」
同時に俺の全身に激痛が走り、思わず蹲ってしまう。これは俺が『作り変えられる』痛み。そうわかってる。だけど、この痛みだけは本当に勘弁してほしい。
しばらくして激痛が治まり、ようやく立つ事が出来た。……まだ少々痛みを引きずってはいるが。
「ご苦労様」
「……それで、どういう用件ですか?マスター」
彼女への呼び方が変わったのは俺が使い魔に変化した証。
「これ」
一冊の本を俺に見せた。……恋愛ものの小説。
「ここに書いてある『腕枕』っていうのがどんな物なのかを試してみたかったの」
「そのためだけに、俺を使い魔状態に?」
正直言ってこの使い魔状態……人から人外になった状態……には何度も変化したくない。
身体が作り変えられる際に起こる激痛が一番の原因だ。……例えとしては体中の血液が暴れまわり、血管が破裂しまくっているかのような痛みだ。
その記憶は人間に戻ったときも残っている。……だから嫌だった。
しかし目の前のパチュリーさんはジト目に涙をにじませ、こう言ってくれた。
「だって、__じゃなきゃ……」
前言撤回。彼女を泣かせるくらいならこんな激痛、耐えてみせる。
「……だからと言って、マスター。俺だって……」
「口答え『禁止』」
「うぐっ」
……ちなみに。使い魔状態の俺はパチュリーさんの命令には絶対に従わなければならない。分類は『許可』と『禁止』の二つ。
口答え、というか自分自身の苦労を伝える事を禁止され、俺の口が止まる。
「それじゃ命令するわ。__。あなたに一晩の腕枕を『許可』する」
そう言ってベッドに潜りこむパチュリーさんに付き添い、彼女の頭を俺の腕の上に乗せる。
「それと。腕枕以外の一切の接触行為を『禁止』する」
……それなんて生殺し?と言いたいが、禁止されてはどうしようもない。おとなしく従うしかなかった。
「所でマスター」
「何?」
「質問の許可、いただけますか?」
「……ええ、『許可』するわ。何かしら?」
「なんで俺だったんですか?先輩とかメイドさん達とかいるじゃないですか」
「……貞操の危機。こぁは絶対『パチュリー様ぁぁぁぁ!』とか叫びながらどこかの泥棒みたいに飛び込んでくるしメイド達もメイド達で寝たら何されるか」
「……すいません。聞いた俺が馬鹿でした……」
やりかねん。確かにやりかねん。特に先輩は。
「だから、あなた。あなたは使い魔の状態なら私に従ってくれる。それと……男の人の腕枕が試したかったから」
そう言ってパチュリーさんは……えっ?
「……マスター」
「何よ」
「自分から接触するのはいいんですか?」
……パチュリーさんは、身体ごとこちらを向いて手を俺の胸の上に置き、脚を俺の脚に絡めた。
「さっき口答えは禁止って言ったじゃない」
「これは質問です。……答えを言ってください」
「……だって、いつもと変わらないから。むしろ枕が固くて頭が痛くなるわ」
「まあ、あくまでも恋人同士で愛を深めるためのものですから……寝心地を重視してるわけがないですよ」
「こ……っ!?」
恋人、その言葉を聞いてパチュリーさんの顔が赤くなる。
「やっぱり気付いてなかったんですね。……大体、腕枕をしてくれなんて誘われたら誰だって『おいおい、これってもしかして』とか思いますよ」
「……__は?」
「はい?」
「__はどう思ってるの?」
「俺は、マスターの命令でやってるだけですから……」
「そこじゃない」
パチュリーさんのジト目が細くなる。
「私に誘われてどう思ったか、って聞いてるの。あなたの本心以外の発言は『禁止』よ」
つまりはごまかし無しに俺自身の気持ちを言えって事か。……なんとも酷い人だ。
「……俺は嬉しかったですよ。でも正直言って辛くもありますが」
そうは思っても答えるしか無いが。
「どういう意味?」
「ここまで身体が近づいてるのに、俺だけ何も出来ないのは辛すぎます。……本気で発狂するかもしれません」
近づいている、というか密着している。それなのにこの主は『何もするな』と言う。これを生き地獄と言わずして何と言うか。
「……わかったわ、__。性的な意味を持たないのであれば接触を『許可』するわ」
「ありがとうございます……では、失礼します」
枕にしている腕の肘から先を起こし、パチュリーさんの頭を撫でる。……体勢的に辛いのは仕方が無い事だ。
もう枕にしていない方の手はパチュリーさんの背中を撫でていたから。寝間着のすべすべした感触が少し気持ちいい。
……しかし、上半身をねじったままというのは辛い体勢だ。疲れを知らない使い魔状態だからこそできる技だが、正直二度とこんなポーズを取りたくない。
「……__?」
「はい、何でしょう」
「さっきの言葉、訂正するわ。ただ寝てただけじゃいつもと変わらない。でも、こうやって触れ合うとその途端に温かい気持ちになれる。愛を深め合うためというのも頷けるわ」
目を閉じて呟くパチュリーさんに、俺は微笑む。
「それは良かった。それでは、おやすみなさい」
「あ、ちょっと待って。あなたにお願いがあるの」
また目を開いたパチュリーさんが、俺にお願いを伝えた。……まあ、俺自身も予想はしてたが。


パチュリーさんが熟睡し、時間的には館の主が絶好調な頃。俺達のいる部屋に来客が。
「__さん……パチュリー様……起きてますかー……?」
小悪魔先輩だ。俺達のいるベッドに近づき、俺に向かって呟く。
「__さん、起きてるなら返事してください。……聞こえてるのはわかってるんですよ」
「……ばれてましたか」
小声で答える俺に、先輩はニヤリと笑った。
「……ふっふっふ。__さんさえ起きていればもうこちらのものです。……『__。あなたにかけられた禁止事項を全て解除するわ』」
……やっぱり。パチュリーさんの声でそう言われ、俺は隣の本人にこう言った。
「……だ、そうですが?マスター」
「あら。そんな事言ったかしら」
むくりと起き上がるパチュリーさんと俺。
「ぱっ、ぱぱーぱぱぱぱーぱぱぱーぱぱぱ」
「ファンファーレの真似なら外でやってください」
「ちが、え、パチュリー様!?」
「あなたが扉を開けた時点で起こすように__に言ってあったのよ。……まったく、私の声色で__を誑かすなんて、ねぇ」
「あ、ちなみに。今の命令は有効にしますか?」
「……ええ、そうね」
両手をパキポキと鳴らしながら、パチュリーさんにもう一度聞く。
「それじゃあ、『先輩には逆らうな』って命令も消えますね」
「ええ、そうなるわ」
「え?あれ?そ、そこって普通『ならあなたを襲っても』とかって……」
「先輩、あなたは黙っててください」
先輩の意見を黙殺し、パチュリーさんに向き直る。
「それでは、マスター。今一度命令を」
「ええ。……目の前の大馬鹿こぁに対し、全力使用を『許可』するわ」
「了解しました。マイマスター」
もう一度先輩の方を向き、ニタリとねちっこい笑みを浮かべる。
「……というわけです。さあ、観念してください、いや。観念しやがれ」
「だ、だから私はただパチュリー様と__さんの仲を……」
慌てて言いつくろう先輩。……それが弁護の言葉になってるとでも?
「さあ、謳いなさい」
その言葉を鍵に、俺の口から唄が紡ぎ出る。

「……私は、ヘルメスの鳥」

「え、あの……」

「私は、自らの羽根を食いちぎり」

「ゆ、許してくださ……」

「……飼い、慣らされる」

俺の持てる力を全力開放し、先輩に射ち込んだ。
「地球の果てまで飛んで行け、この有害指定超弩級淫魔!」
「こぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
放出魔力ならマスタースパークにも劣らない威力を食らい、派手に天井を壊して吹っ飛んで行く先輩。
「……で、__」
「はい?」
「全力開放は許可したけど、私の部屋を壊す事は許可してないわ」
天井に見事に開いた大穴を見ながら言うパチュリーさんに、俺はこう返す。
「だったら、全ての禁止事項を解除した先輩に文句を言ってください」
「まったく、そういう言い訳は……いえ、止めとくわ」
パチュリーさんは言いかけた言葉を止め、俺に抱きついた。
「……あなたのせいで寒くなったじゃない。早く暖めて」
「はい、マスター」
華奢な身体を抱き返す。……理性よ、がんばれ。この体中で感じている柔らかい感触の誘惑に負けるな。
「__、あなたは私が好きかしら?ただし、本心以外の発言は……」
「そんな事されなくても好きだと言えます。ええ、あなたを愛しています」
パチュリーさんの頭を撫でて、そう答えた。
……一応、先輩に感謝はするべきだろうか?しなくてもいいか。と、そう思った矢先。
俺とパチュリーさんが光に包まれる。……まだ日は昇らないはず。ならば……
「……こぁね」
「ええ。烏に告げ口したんでしょう。……命令を、マイマスター」
「人の恋路を邪魔した烏と、それを呼びこんだこぁに天罰を『許可』する」
「認識しました。……寒くなりますが、我慢しててください」
す、とパチュリーさんから離れ、俺は自分の開けた穴から飛び立った。阿呆二人に天罰を下すために。


これは余談だが、実は俺が飛び立った直後に館の主がスピア・ザ・グングニルと言う名の馬の後ろ足を撃ち込んでいたらしく、脳天に赤い槍が刺さった二人を簡単に発見する事が出来た。
烏についてはメイド長に引き渡し、盛大に料理と掃除をしてもらっている。小悪魔先輩は……言わずもがな。
そして翌日の夜、俺はパチュリーさん共々館の皆に祝福された。……その時に少々臭みのある鶏肉が出たのは気にしないでおこう。

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うpろだ200


彼女は、ぺたりと膝を床にぶつける様、座り込んだ。
両手を自らの体をかき抱くように回しながら。

――唐突に。

「ゲホっ!?」

激しく咳き込む。
何かを吐き出すように。
内臓がひっくり返っているかのような、
悲鳴のような、咳だった。
発作だ――。
直感で悟った。
喘息の発作が起こった。
気持ちが高揚して、きっとそれが悪かったに違いない、発作が起こった。
止まらない、咳が止まらない。
息をつく暇さえなく、吐き出される息は、パチュリーの胸を締め上げていく。
もうすでに、咳の音はただの音だった。

「パチェ……」

レミリアが俺の横から一歩、足を踏み出した。
心配げに瞳を揺らして、パチュリーの方に歩き出す。

「来ないでっ!!」

それを、パチュリーの悲鳴が無理矢理にとめる。
普段の彼女からは想像もできない大きな声だった。
俺は初めから動けなかった足が、さらに硬くなるのを感じた。
唾液の絡んだ声で、パチュリーは言葉を続ける。

「…ごめんなさい……来ないで…。
 優しくしないで……。
 ごめんなさい……私、……勘違いしてました……」

搾り出すような声。
間違いなく、彼女の体に悪い。
心配でたまらない。
なのに、足が動かない。
馬鹿の様に俺は突っ立ったままだ。

「ごめんなさい……私が間違っていました…。
 ……私が…○○に…………愛されるなんて…………
 間違っていました…………っ…」

掠れた声で、パチュリーは謝り続ける。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――――。
声を上げる以外に動きの無かったパチュリーが初めて動きを見せた。
すっ、と。
顔を上げる。
その表情は貼り付けたような笑顔だった。
真っ青な、生きた心地のしない顔で、笑っていた。

「私が……いけませんでした…………。
 畏れ多くも……紅魔館の主…レミリア・スカーレット様……」

レミリアが息を呑む。
レミィと言わずに、レミリア様と、言った。
遠回しな、それでも明らかな、拒絶。

「……ごめんなさい…………ごめんなさい…………。
 どんな罰でも…………受けます……だから…………」

言葉をそこで切る。
ぼたぼたと、涙が床を濡らしてゆく。
涙で彼女の顔はぐしゃぐしゃになっていた。
それでも、笑顔を貼り付けたまま、パチュリーは言った。



「……○○だけは…………私に……下さい…」


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最終更新:2010年05月16日 21:32