パチュリー10



うpろだ321


 私は小悪魔です。名前はまだパチュリー様がつけて下さいません。
 ある日突然パチュリー様の魔法で呼び出され、それ以来従者としてこの図書館の司書をしております。
 パチュリー様は本を読む、書く、喘息で寝込む、の三パターンの生活と、時たまやってくる侵入者の撃退、あるいは敗退を繰り返すというような、
 平穏な日常を過ごしておりました。
 蔵書の数はパチュリー様が飽きもせずに執筆されますので、一時期は本棚が足りなくなりそうで図書館の増築を具申しようと思っておりましたが、
 ある日から突然本の数が減るようになりまして、本棚のこと”だけ”は心配をせずに済むようになりました。
 ただ生傷の発生する可能性が今までより150%増えました。つまり侵入者が来て負傷してさらに負傷する確率が50%ということです。
 ですのでパチュリー様に新たに魔法を教えてもらおうと貴重な時間を割いて頂ける様考えておりました矢先のことでした。


「あらパチェ? 今日は踊り食い? 貴方にしては珍しくアクティブね。それとも生贄かしら?」
 紅魔館の主人であるレミリア様です。ちなみに一言も冗談をおっしゃられてません。
「いいえレミィ、残念だけど命の恩人って奴だから、しばらくココで住まわせてもらってもいいかしら?」
「……珍しいこともあったものね、明日は紅魔館に槍が降るんじゃない?」
「槍で済めばいいけどね」
 どうやらパチュリー様が何の間違いか人間に助けられ、その人間をここに連れてきて、しばらく紅魔館に住ませたい、とおっしゃっている様です。
 ……レミリア様は特に反対という訳では無さそうでしたが、あまりいいと言う風でもありませんでした。
 メイド長の咲夜様は何もおっしゃられません。フラン様はまだこの人間のことをご存知ありません。

 話を立ち聞きしていたのですが、どうやらパチュリー様と件の人間がこちらに向かって来そうでしたので、慌てて仕事に勤しんでいるフリをしました。
 連れてきた人間はたまに見る幻想郷の人間よりもひ弱そうで、しいて言えば肉が柔らかそう、といった印象でした。
「そう、そこの椅子に下ろして頂戴、後は大丈夫だから」
 パチュリー様はどうやらひどい喘息の発作に襲われたらしく、息も絶え絶えなご様子でした。
 人間の方も先ほどのレミリア様のおっしゃっていたことが堪えたようで、こちらも青ざめていました。
「ほ、本当に大丈夫かい? さっきは……」
「それ以上口にしたら本当に食べるわよ」
 パチュリー様の一言が効いたようでそれから人間は黙ったままでした。

 喘息の発作がひどいようでしたので、いつも通り私は薬茶を、そして客人には普通の紅茶を出しました。
 パチュリー様はいつも通りに飲まれていましたが、人間の方は紅茶をじっと見つめ、手を出せない様子でした。
 ……毒は入れていませんよ、あと血も……。ちなみに紅茶はベノアです。どこかのフランス語教諭みたいな名前ですが関係ないそうです。
 あと電車とかの単語をイメージされた方は私と弾幕ごっこをしましょう、ね。今日はたまたまそれがあったから使ったということです。

「大丈夫、毒とかは入ってないわ」
 パチュリー様も私と同じことを考えられたようで、微笑みながら紅茶を勧めます。
 というかホストに対して失礼極まり無い男ですね、この人間。パチュリー様がいらっしゃらなければマルカジリにしてたところです。
「そ、そうかい、じゃぁ……」
 紅茶を口にした途端、男の表情が緩みました。どうやら紅茶の味は分かるようです。少し印象が良くなりました。
「お、おいしいねこれ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
 何か妖しい微笑みです。ああいった顔をされた時は十中十九は良いことを考えておられません。悪い目に合うのが九割ということですよ。

 それから二人は取りとめもなくお話をされていました。パチュリー様の喘息も調子が良くなったみたいです。
 小耳に挟んだ限りでは男は○○という名前で、車(馬車のことでしょうか?)に乗ってトンネルの中を歩いてみていたらいつの間にか
 館近くの湖に来ていたらしいのです。そこで行き倒れておられたパチュリー様をお助けになったようです。
 非常に気になる点がありますが、何はともあれ、パチュリー様がご無事でよかったと思います。

 夜が明けてきましたので、私はパチュリー様の寝台と、最近とみに使われることの多くなった来客用の寝台の準備をしました。
 パチュリー様は普段はお眠りにならなくても平気なのですが、喘息の発作がひどい日には眠られることもございますので、
 念のため今日は準備をしておきました。
 ……準備をしておいて良かったと思います。パチュリー様は予想通り今日はお眠りになられるようでした。
 日がそろそろ上がりそうでしたので、私は○○を来客用の部屋に案内しました。
 何か包丁とかヤマンバとかブツブツ言ってましたが、特に気にすることなくお通ししました。
 今日はそれ以外は特筆すべきこともなく、私も自分の寝床に入って休みました。

 日が傾きかけた頃、私の生傷のおおよそ90%を生成する黒白魔法使いがやってきました。
 私はいつもの通りにスペルカードを用意し、そしていつものようにまた生傷を作りながら負けるのでした。
 やはりパチュリー様に魔法を教えてもらった方が賢明だ、と考えております。昨日あの○○が来なければ多少はマシだったのかもしれません。
「パチュリー、今日も本を借りにきたぜ!!」
「図書館の貸し出し期限は2週間って学校で教わらなかったのかしらね」
「生憎学校にゃ行ってないぜ」
「じゃ私が直々に教えてあげるわ!! 延滞分も含めてね!!」
 そしていつも通りに弾幕……、と思いましたが、今日は違いました。
 何とあの○○が二人の間に入って止めようとしていたのです。
 ……最近の人間は魔法使いを恐れないのが仕様なのでしょうか、弾幕ごっことはいえ、間に入れば確実に消滅するというのに。
 その気迫、あるいは無謀に驚いたのか二人ともスペルカードを展開することはありませんでした。
 そしてその後……、
「じゃぁ君は人の本を勝手に拝借して、しかも返さないのか」
「死ぬまで借りてるだけだぜ」
 な、なんと黒白に説教を始めたようです。信じられません。私の短い人生の間でもこれは間違いなく珍しいことです。
「君はそれでいいだろうが、本を勝手に借りられた挙句あらされる身にもなってみなさい」
「……」
 しかも黒白は説教を受け入れている……。あぁ私は今何という光景を目にしているのでしょうか、神々しくさえ見えます。
 あ、今の悪魔の言うことじゃないですね、とにかく、その冗談のような風景に私も、パチュリー様でさえ目を白黒させるだけでした。
「……ぜ」
 黒白が観念したかのように何かを言っています。まさか……。
「すまなかったぜ……」
 あぁ私は今ななな何を言っているのか理解でききました。あああああの黒白がああああああ謝っています。
 パチュリー様も今にも倒れそうな顔をされています。今の光景は間違いなく二度とありえないことでしょう……。
「じゃぁ、今日は本を読ませてもらうだけだぜ」
 黒白は観念して、いくつかの本を選び出し、それをもって私たちからは見えない席へと持って行きました。
 私はまた何か悪いことをたくらんでいると思い、こっそり気配を消して黒白のいるところへ向かいました……。
「全く、何で香霖みたいな奴がこんなとこにいるんだよ……」
 何かブツブツ言っています。が私はそんなことよりも私は黒白のやっていることがあまりに意外で驚いたのです。
「香霖、というよりはおや……、いや違う違う。ありえないぜ……」
 ブツブツ言いながら黒白は何と……、筆写を行っていたのでした、しかもかなり真剣に。
 いつもなら本を抱えて壁を壊して逃げるところでしたでしょうが、今日は何故か本当に大人しいのです。まるで借りてきた式の式です。
 私は急いでパチュリー様の元へこのことを報告に参りました。
 私の報告を聞いてパチュリー様は卒倒しました。○○が慌ててパチュリー様の体を支えます。
 私はパチュリー様の寝室へ○○を案内しました。その間○○はパチュリー様を抱えて来ました。
 ひ弱そうだったのに案外力があるものだ、と思いながら中へと通し、寝台を指しました。
 ○○はパチュリー様を寝台へと寝かし、何とそのまま寝台の横へと椅子を持ってきて座りました。
 横に座っているだけで何もできないのに変わったことをすると思いましたが、言っても無駄そうでしたのでそのままにして私は仕事に戻りました。

 夜が更けたころ、疲れきった様子で黒白は帰りました。ちなみに一冊も本は持っていません。
「邪魔したぜ……、いずれ返しに来る」
 私はその内容に驚きましたが、黒白はいたって普通の顔つきでした。
 そして空へと消えました。
 魔女がまっとうになる……、私は何やら不吉なことを感じつつも、悩んでも仕方ないのでまた仕事に戻りました。
 パチュリー様はあれからお目覚めになられまして、またいつもの通りに本を読んでいます。
 ○○は、というとまた彼も本を読んでいます。ちらっと見たところ外から来た魔法書でした。
 私でもあれは読めないのに……、と思っておりましたが、もしかすると彼は外の世界の魔法使いなのかもしれません。
 魔法使い、となると相当厄介なことになりました。しかも今日のこともありましたので倍率ドン!さらに倍といったところです。
 パチュリー様もそれをご理解しているようで本を読まれてはいましたが、どうやら気が気でないようです。

 当の○○はというと至って普通な様子でした。それが却って私には恐ろしく感じられました。
 フラン様と対峙する時も似たような感じです。全てを握られているというのは心地よいものではありません。




 何 故 な ら、 パ チ ュ リ ー 様 は ま だ 対 価 を 支 払 っ て い ま せ ん、 命 を 救 わ れ た 対 価 を ……。



「あ、貴方は私に一体何を望むのです……?」
「……?」
 とうとう堪えきれなくなったパチュリー様が○○に問いただします。
 ○○はというと、何を言っているのか理解できないようでした、どうやら外の魔法使い達の間では契約というものも廃れている、
 と思いたいところでした……。
「そうだなぁ……、じゃあこれを機にお付き合い、というのはどうだろう?」
 私は目の前が真っ暗になりました、パチュリー様がに、人間なぞとおお付き合いをせねばならないなんて……!!
「……」
 事態を理解したパチュリー様は顔面蒼白でした。
「あ、ごめんごめん本気に……」
「りょ、了解しました」
 契約成立です。あはははは……。
「え、あ……」
「……」
 人間、貴様何をしたか分かっているのだろうな……。



 最 早 パ チ ュ リ ー 様 は 貴 様 を 全 身 全 霊 で 愛 す る し か で き な い の で す ……!!



 そう、私がパチュリー様に仕えるように……。

 過去のことを嘆いていては仕方有りません。
 そう、パチュリー様が契約に縛られていようが、私の主であることに変わりはありません。
 パチュリー様も同じお考えのようで、結ばれてしまった契約に従い、○○に対して最大限好意的に振舞います。
 どうやら○○は魔法に対して強く興味を持ったようで、パチュリー様に手ほどきを受けています。
 救いは彼の理解が早かったということでしょうか、やはり彼は外の世界の魔法使いのようです。
(やはり紅茶に毒を入れておけばよかった……)
 私の痛恨のミスでした。人間なぞ生かしておいてもロクなことがありません。
 ですが今となってはもうあまりにも遅すぎるのでした。
 契約に縛られたパチュリー様はもし○○を殺せば間違いなく私を殺すでしょう。
 それだけではありません、私はパチュリー様に仕えなければならないという契約を反故にしてしまうことになります。
 契約を守らなかった悪魔は……、この先は想像もしたくありません。
 パチュリー様の方は……、契約に縛られているせいか彼を愛するのが当然といった感じです。
 最早契約のことなども忘れ、彼を本気で愛しているのでしょう。魔法の手ほどきが本当に楽しそうです。
 私にできることはと言えば……。

 翌日、パチュリー様と○○はどこかへおでかけになりました。
 帰ってくると何故か大量の本を持って帰ってきました。おそらくは黒白の家から取り返してきたのでしょう。
 何故か黒白は○○のことが苦手のようです。何故かは分かりませんが。

 翌々日、パチュリー様と○○はまたどこかへおでかけになりました。
 パチュリー様はとても楽しそうです。○○もまんざらでもないという様子でした。
 私めができることは少ないですが、それでもパチュリー様の幸せに協力することはできます。
 私はそれをするだけのことです。
 例えばおいしい紅茶をお入れするとか、○○にも理解できるような魔道書を見繕うとか。
 後は万が一フラン様に出会ってしまった場合の対策をお伝えする、といったことでしょうか。
 主が一人増えただけ、と考えれば今までとそう変わりはしない生活です。
 そういえば一つ変化がありました、何とパチュリー様が私めに名前を下さるとのことです。
 何でも○○が呼びにくいから、という理由だそうですが……。
 名前がつく理由は引っかかりますが、パチュリ-様から名前をいただくという名誉の前にはそのようなことも小さなことです。
 私の新たな生活がこれから始まろうとしています。
 その生活を生み出すきっかけを作ってくれた○○には少しは感謝してもいいかもしれません。
 ですので、不本意ながら私めも、一つだけ願わせて頂きます。 













 パ チ ュ リ ー 様、 ○ ○ 様、 ど う か 、 お 幸 せ に ……。











































 私の語りはこれで終了です、この先は○○、つまり貴方の妄想次第。
 どうぞパチュリー様を死ぬほど愛してください。私もそれに一生付いていく所存です。


最終更新:2010年05月16日 22:13