パチュリー12
10スレ目>>107
紅魔館の大図書館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジ
彼女の仕事に最近、幻想郷の出版物の検閲が追加された。
何故かって?
本人が言うには蔵書に閻魔帳が欲しかったから、だそうな。
そんなわけで紅魔館には一足早く新聞が届く。
「そうか、明日は快晴なのか……。」
隣で楽しそうに閻魔帳をめくるパチェに話を振る。
「せっかくいい天気なんだし、たまには外に出かけてみないか?」
「…………?」
そんなに変な物でも見るようなジト目で見なくてもいいじゃないか。
「晴天は外出の誘引にはならないわ。レミィやフランのような特殊体質なら
雨の日は外に出たくないという意味で曇りを避けるかも知れないけれど、
寧ろ私は肌や髪が荒れるから曇天の方が外出日和ね。」
そういえば前にそんな事言ってた気もするな。
「そうか……解った。図書館だと何時も
小悪魔が居るしたまには二人で、と思ったんだが。」
そう言って新聞を戻そうと立ち上がったら、
「あ……。」
袖を掴まれた。
「やっぱり行く。晴れの日はハレの日だから外出日和だ、って本に書いてあったし。」
あっさり前言を翻すとは魔女失格じゃないのか?
「肌や髪が荒れるんじゃなかったのか?」
「いい、魔法で何とかする。」
まあ、本人がそう言っているんだから大丈夫なのだろう。
何はともあれ明日が楽しみだ。
翌朝、予報通り突き抜けるような快晴。
「パチュリー様、無理をなさっては……」
「くどいわ。使い魔なら使い魔らしく主に従いなさい。」
珍しく二人が口論をしている?
「おはよう。」
「あ……おはよう、○○。」
この様子は……昨晩全く寝てないのか?
「○○さんからも言って下さい。こんな状態で外出なんて無茶です。」
小悪魔の言ってる事は正しい気もするが。
「規定値以上の陽光を遮る魔法もかけたし、大丈夫よ。さあ、早く…………」
「パチュリー様! 」
相当無理してたんだろうな……さて、どうしたものか。
「パチュリー様は夜を徹して魔道書の執筆をなさっていて…」
「ん、どんな内容? 」
「耐火、耐水、耐衝撃、耐魔法、耐巫術、耐人形操術……の結界を張る魔法です。」
そりゃまた豪勢な。
「せっかくだし、行くか。」
「パチュリー様はどうするんですか。」
「背負っていく。後、その魔道書も……」
「これをもって行かれるのですか? 」
怪訝そうな顔で小悪魔が取り出した本は優に10000ページはありそうな……
「圧縮してる時間が無いからと一気に書き上げられてました。」
これを持って行くのはちょっと、辛いかもな。
「私が持って行きます。大丈夫、お邪魔はしませんから。」
そんなわけで、今パチェを背負って山登り(丘登り?)をしている。
規則的な寝息を立てて丸くなってるパチェは以外にも暖かいし、柔らかい。
空は今も変わらず快晴。天高く馬肥ゆる秋、だね。
ふっ、と息を吐いて丘の頂を仰ぎ見る。
小悪魔の話では丘の上に魔道書と飲み物、そしてお弁当が置いてあるそうだ。
道中にも飲み物を置いてもらうべきだったかと少し考えるが、
やはり楽しみは頂上まで取っておくべきだろう。
「ん……」
背中のパチェから小声が漏れる。どうやら目を覚ましたらしい。
「あ……」
降ろしてくれと言うように体を捩る。
そっと降ろして、そして振り返る。
「○○……大変だったでしょ、ごめんね。」
「せっかく誘っいに応じてくれたんだからな……。これくらい大したこと無い。」
「そう……」
呟いて空を仰ぐ。
「……空凄いね。」
「そうだな。」
「風、気持ちいいね。」
「そうだな。」
「二人っきりだね。」
「ああ。」
はにかみながら目を閉じるパチェ。
そっと、その肩を抱いて唇を寄せて……
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10スレ目>>204
「おいパチュリー、この本借りるぞ」
「ええ・・・」
紅魔館の図書館、俺は主に魔法関連の本をあさっていた
パチュリーは紅茶をちびちびと飲みながら本を読んでいる
俺の分の紅茶はとうに冷めていた、冷めても飲めればいいしな
「ねぇ○○・・・」
「ん?どうした?」
本を読みながら目を合わせずに、パチュリーが話しかけてきた
図書館でパチュリーから話しかけてくるのは非常に、珍しい
「明日なんだけど・・・何か予定はあるかしら?」
「明日?・・・・・・悪い、アリスと実験する約束が・・・」
「そ、そう・・・アリスによろしく伝えといてね」
「ああ・・・何かあったか?」
彼女がなぜか、悲しそうに見えたから
「いいえ、気にしないで」
それから会話はなく、俺は借りた本をもって家路を歩いた
~翌日~
「・・・ちょっと!」
「うぇ!?あ、ああ悪い」
俺は約束通りアリスと実験をしている
「全然集中できてないじゃない!怪我するわよ!」
そうなのだ、前々集中できていない、なぜか寂しそうな彼女の顔が、頭をよぎるのだ
「・・・今日は終わりにしましょう」
「え?いや・・・まだ昼前だぜ?」
「実験は後回しに出来るけどね、ヒトの心は後回しには出来ないのよ」
「え?あ、ああ?」
「何か大切な事があるんじゃないの?今しなきゃいけない事があるんじゃないの?」
「アリス・・・ありがとな!」
それじゃあ、と手を振って彼は走っていってしまった
彼が持って来た実験道具やら本やら、いろんな物を忘れていった
「・・・はぁ、何でいつもこうなんだろう・・・ねぇ上海?」
「パァァァチュゥゥゥウリィィィィィイ!!!げふげふ」
むせながら図書館へ、重いドアを開け放ち、彼女のもとへ
「○○!?え?え?」
「ようパチュリー、待たせたな」
驚き戸惑っているパチュリー、そりゃあそうだ
「え?今日はアリスの」
「今日は切り上げてきた、パチュリーが・・・気になったから」
「あ・・・」
赤くなって俯くパチュリー、まるで少女のように、初心な感じで・・・少女パチュリー略してパチュ子
「それで・・・なんか用が有ったんだろ?ほれほれ、遠慮せずに言ってみろ」
すこし、間をおいて、彼女は言った
「あ、貴方と一緒にいたいな、と思っただけだから・・・きにしない「パチュリー!」
俺はか細い両肩を掴んで、彼女をこちらに振り向かせた
「な、なに?」
「・・・そういうことを言うと・・・勘違いしちまうぜ?・・・勘違いしていいなら、目閉じて」
半分冗談ぐらいで言ったつもりなんだが、パチュリーはゆっくりと目を閉じた、ちょっと上向いて、唇を・・・
「あー・・・うん、えっと・・・」
とりあえずキスはまだ早い、キスは結婚してからだ、うん
とりあえず優しく抱きしめた、やっぱりすごく、細い
「・・・でも抱き心地いいな」
癖になりそうだ
「・・・き、キス、は?」
「んーまた今度な、まぁゆっくり、な?」
ゆっくりゆっくり歩いていけばいい、走る必要は無いのだから
そーして最後にキッスでしめるのさー
そうだな、帰り際にキスしようか、驚く彼女が目に浮かぶようだ
何かワクワクしてきたぞ!
~終~
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11スレ目>>463
パ「この本を読んでほしいのよ」
俺「え?俺にですか?」
パ「そう」
渡されたのは一冊の絵本。
俺「…では後で読んでおきます」
パ「違うわ、いま私に読んでほしいのよ」
俺「え?」
パ「いやなの?」
俺「と、とんでもないです!」
パ「お願いね」
パチュリー様の顔からはなにも窺えない、とりあえず椅子に座り本を開く。
俺「では…」
パ「それでは見えないわ」
そう言うとパチュリー様は俺の身体と本のあいだに割り込むように
ももの上にちょこんと腰を掛けた。
俺「ち、近いです…」
パ「読んで」
俺「…はい。むかしむかし、あるところのオーロラの先にたくさんの雪だるまが」
逆らえない雰囲気に押され、絵本を読み進める。
俺「さようならなの…だッ!?」
突然パチュリー様が背中に腕を回し、服をきゅっと掴んだ。
そして俺の胸に顔をうずめるようにゆっくりと抱きついた。
俺「あああ、あの…」
パ「…」
俺「…」
パ「…どきどきしているのね」
俺「…はい」
パ「…そう」
下目に少しだけ嬉しそうな顔が見えた。
そのとき遠くから足音が近づいて来るのが聞こえ凍りつく。
俺「パチュリー様!だ、誰か来ましたよ!?離れてください!」
パ「…」
小「パチュリー様ぁ~、なにかお飲みモノッ…!?」
俺「…は、はは」
小「…」
パ「…」
微動だにしないパチュリー様、しがみついたまま…
小悪魔さんは無言でふらふらと立ち去って行く、完全に目が死んでいた。
俺「見られましたね…」
パ「それより」
俺「はい?」
パ「『様』はやめてほしいわ」
俺「そういうわけには」
パ「パチェと」
俺「レミリア様に怒られてしまいます…」
パ「早く」
俺「…パ、パチェ」
パ「聞こえないわ」
俺「パチェ」
パ「そう」
俺「…」
パ「…」
また力強くきゅっと抱きつかれる。
俺「…あ、本の続き読みますね」
パ「いいわ」
俺「そ、そうですか?」
パ「まだ、どきどきしているのね」
俺「うっ、ひきょうですよ…」
パ「そうね」
俺「…」
パ「…なら、あなたも確かめてみて」
俺「え!?」
パ「早く」
俺「…」
パ「早く」
俺「は、はい」
':, ', ! \
\ ':, _,,.. -‐''"´ ̄`"'' ト、.,_. ,,--,┐ \ ヽ /
\ \\ r-、 ァ'´ _ト、.,__ノ ノ `ヽ,ヘ, //: /::::! < ∠______
ノヾ、rァ' __,ゝ‐i"`y'__]`''ー、' / `>t,// :/:::::::! / /
\\ `'(__!r-‐i__」-‐'"´,i `''ー、」ー-ヘ、イ'"´.!:|||||:::::::/ \ (___
\ r‐ァ'´]-‐' '/ ! ハ /!ィ' i `''ー'、/ゝ |:|||||:::;t'、 ミ > _______
`' 、 ヽ7´ ! !/!メ、!」 レ-rァ''iT7 iヽ」`i´!:!!!」:ノ ! i / '´
i´ヽ. | .! ! !-rァ'T '、,_,ノ !__トr┘i>'r'、`'´ ;' \ 、,_____
(`ヽ;、 `ヽr、. └‐'`ゞ、ハ. '、_ノ ⊂⊃ ! ';./ ;'ゝ.,二二7i <
,.-`ヽ > i_,!`ヽ、 /| !⊃ r‐-、 /! ! ヽ._」 / ! / ー┼-
`ー‐ァ (´__,ノ! | `7! .i'>,、.,__'--‐',..イ! i ̄´ノ! | / ー┼-
'ーri´ヽ_/7 〈 V7「ヽ7i ̄´'ノ ! '.、 ':、 '、 ;' \ r-iー、
--─ ! |:::::// r-、,ゝ、!__j '; トー'i i ', `ヽ.、' / \ `ー' '
'、ゝ'ン___,,...->ア`ー-'、 ,' i | i i | ヽ. ヽソ`''ー--‐' / --─ァ ヽヽ
 ̄ く ./___」_';/ ! | ! ! ! i ,ゝ-‐''ンヽ. く /
rソ´`ヽ、`'ァー-‐' ,.イ/ ,' ,' ! ', く_」`7´ハ 〉 > '、___
_r'ー--‐''"´ / ;' i i ,ハ ヽ !_/ヽ!__L/ く i
// -イ /! ;'/ ム \ \. ├‐
rン_,,.. - / / ;' !レ'´ i `ヽ. < r-iー、
`ト、 ! 〈 i ;' / ,ハ ヽ. 'r、 / `ー' '
ノ.ノ __ ノ i V / / /! '., _r'ヘ / l 7 l 7
i_| V / ハ./ ;' i i '、 }><{ ン´/!/ \ |/ .|/
ヽヽ ∧ / ;' i ', ヽ、 i r'"ン:::::/ / o o
パ「ひとつ約束してほしいわ」
俺「はい」
パ「毎日わたしに会いに来なさい」
俺「はい」
パ「それとずっと私のそばにいなさい」
俺「はい」
パ「毎日好きだと言いなさい」
俺「はい」
パ「それと絶対に私に逆らってはダメよ」
俺「…はい」
パ「あとは…えーと」
俺「あの、全然一つじゃないんですけど…」
パ「ふふ、そうね」
彼女はとても満足そうに笑った。
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10スレ目>>400
「パチュリー様?大丈夫ですか?」
ひゅうひゅうという音、顔色も悪い
「・・・発作が出ておられるようですね・・・白湯をお持ちします」
「だい、じょうぶ・・・すぐ治まるから」
とても大丈夫そうには見えない
とりあえず埃の多い図書館よりも部屋の方がよかろう
そう判断した俺はとりあえずパチュリー様を移動させる事に
「・・・失礼しますよ」
「えっ!?ちょ、ちょっと」
「大人しくしていてください、発作が悪化します」
「・・・」
俺はパチュリー様を抱えて(そこはもちろんお姫様抱っこで)パチュリー様の部屋へ向かった
「ベットに横になって・・・膝を立てて腹式呼吸を・・・そうです、すぐに白湯をお持ちしますので」
「あり、がと・・・永琳から貰った薬があ、るからすぐにおちつくか、ら」
棚から小瓶を取り出し小さな薄いオレンジ色の錠剤を取り出す
しょうがないので白湯を取りに厨房まで行くことにした
「・・・まぁこれぐらいでいいだろ、あんまり熱くてもかなわんからな」
熱いポットとカップをお盆に載せて・・・後は何もなかったかな?
「また発作?」
「あ、メイド長」
はろーと軽く手を振られる、もう夜なんだが・・・
「この季節になるとどうしても辛いみたいね・・・まぁ辛さはわかりようがないけど」
「・・・とても辛いと思いますよ、あのパチュリー様が弱気になるほどですから」
「へぇ・・・引き止めて悪かったわね、それじゃあ」
コツコツと足音が遠ざかっていった
メイド長も心配してるんだな、わざわざこんなところまで
「パチュリー様?」
「○○、ありがと・・・だいぶ良いわ」
「そのようですね・・・今日は早めにお休みください、ここで油断すると悪化しますよ」
顔色もさっきと比べればまぁ良い、呼吸も今は落ち着いている
「・・・ねぇ○○、一緒に寝ましょう?」
「なななな、何をおっしゃてるんですか!?わ、私も一応男ですので・・・」
「○○は喘息の発作で苦しんでいる私相手に欲情できるような人じゃ無いでしょ?それぐらいは知ってるわ」
「いや、しかし・・・」
「夜中に発作が出たらどうするの?アナタの部屋までとてもじゃ無いけど行けないわ、大声も出せないでしょね」
「・・・」
「お願い、あなたがいると安心できるの・・・お願い○○」
「わ、わかりました・・・喜んで」
「ふふ・・・ありがと」
辛そうだが、とてもいい笑顔に見えた
結局ベット脇に毛布に包まって寝た、同じベットで寝るというパチュリー様の提案を却下して
そしてその夜、発作が悪化したパチュリー様を抱えて永遠亭まで走ったのだが・・・それはまた別の話
end
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10スレ目>>438
本を読んでいたパチュリーが唐突に口を開いた。
「何かくれなきゃ悪戯するぞー」
「……」
「……」
唖然、とはこういう事を言うのだろう。
俺と小悪魔はかける言葉が見付からない。
黙り込む俺達に、パチュリーは真っ赤な顔で抗議する。
「何か言う事は無いの? 恥ずかしいじゃない」
なんか可愛い……。
パチュリーってこんな事もするんだ。
しかし、いくら今日がハロウィンで素で魔女だからってこれはどうなんだろう?
「可愛いな」
「可愛いですね」
「むしろ悪戯されたいな」
「されたいですね」
言ってにやつく俺と小悪魔に、パチュリーは更に顔を赤くして
「馬鹿! ○○と小悪魔なんてもう知らない!」
そう言って再び本に視線を戻した。
今日も図書館は平和だ。
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12スレ目>>356 うpろだ818
あなたとみる世界はとてもうつくしくて、あたたかくて、しろくて、とうといのだ。(そう、それはまるで、あなたのように。)
「おっしゃっ出来たぞー!パチェ、ちょ、来い!!」
「・・・はーい(声おおきいわねぇ)」
「遅せぇーぞ!早く来い!パチェ、はやく!」
「わかってるわよ、今行くからっ!」
きゃんきゃんと子犬のように(あんなに大きいのに、子犬。雪にはしゃいでいる、可愛らしい犬ね)大声を上げ続けている○○に叫び返したら、彼の動きが一瞬止まった。
が、すぐまたぶんぶんと腕を振り回しだす。
…こんな寒いのに、元気なこと。
久しぶりの外は冬景色で、私はただ歩くだけで凍て付くような冷たい風に変わる外気に震えながら、首までずり落ちていたマフラーを引っ張って鼻先まで上げた。
まだ少し距離が遠くてきちんと表情は見えないけど、たぶん彼はにこにこ笑ってるんだろうと思う。
真っ黒のロングコートには、ところどころ雪がくっついている。
キラキラと光を放ちながら、さらさらと溶け出すそれは、私が前に○○にあげたマフラーくらいに真っ白だった。
編み物なんて知識はあってもした事はなかったから全然上手に出来なくて、自分で見ても歪だったから、つけなくてもいいと言ったのに。
つけないどころか、洗濯しないの?って聞いても絶対にマフラーを手放さない彼の姿をふと思い出して、少し苦笑した。
苦笑と言っても苦しいから笑ったわけじゃなくて、幸福だから漏れた笑い。
私は自分の笑った顔がそんなに気に入ってなかったけれど、この時の顔だけはなかなかいいんじゃないかと自惚れている。
だって、○○もこんな顔でよく笑っているのだ。
(幸福そうな、幸福そうな。私よりも、もっと綺麗で、純粋で、あたたかいけれど)
「なに、どうしたの」
「見せたいものがある」
「見せたいもの?」
「おう!」
ぜってぇ驚くぞ!!○○がけたけたと大声で笑う。
色白の頬は赤く染まっていて、真っ白な景色に柔らかく色をつける。
夏の激しさが嘘だったように、優しく降りそそぐ太陽の光を浴びた黒髪は、輝きを失うことなく揺れていた。
伸ばされた手は厚い手袋に包まれていて私の一番好きな手のひらとは少し違う様子だったけど、握ってしまえばいつもと変わりが無い。
大きくて、心地の良い温度。
絡めた指先は○○の手袋と私の手袋とに阻まれてごわごわしていたけど、いつもより強い力が加わっていたので悪くない、と思った。
葉を落とした茶色い木の枝に乗っかる冷たそうな塊。
歩くたびに響く、かき氷にスプーンを突っ込んだときみたいな、ざくざくという音を聞きながら、ふたり並んで歩く。
○○は上機嫌に鼻歌を歌っていて、私はそれを黙って聞いた。
聞いたことないから、たぶん外の世界の歌だと思う。
今真面目に聞いて、覚えて。後で歌って驚かせてやろう。
そう思って内心ほくそ笑んでいたら、○○が唐突に「あ」と言った。
「どうかしたの?」
「あのな、・・・パチェ」
「何、○ま
る、って最後まで言い切る前に、抱きしめられて押し倒された。(ええええええええ!?)
ぼふんって音がして、雪が私たちの周りをもう一度舞った。
空を見上げたら青くて眩しくて、視界の端に貴方が見えた。
髪の毛を通り越して頭皮とか首周りとか、きちんと皮膚の部分に触れた雪は、私の体温で少しずつ溶けて水になる。
長いスカートから出ていた足の下の雪は直接当たって、冷たかった。
まだ熱を持っているのは、○○に握られたままの指先だけ。
倒れる前に微かに見えた、雪上に引かれた下手なラインは、確かに相合傘のかたちで。
(見せたかったものは、これか)(ああどうしよう、なんて、なんて。)
「なにするのよ○○」
「相合傘、作ったんだ。線引いて」
「だから?」
「俺とパチェがその上に乗ったら、完成するだろ。これ」
ぎゅうと手を握る力がもっと強くなる。
上半身だけ起こしてみたら、相合傘の形の上の私と○○。
どこの漫画よ、と思わず笑ってしまいそうな光景だけど、とろけそうな顔で微笑んでいる、○○の優しい視線に笑うことも出来なくなる。
うそ、こんなに嬉しいなんて。
どきどきと早く動きだす私の心臓は、私と同じくらい愚かだ。そして恋をしている。
頭にハートの形のついた、同じ傘の下にいる彼に。
服はじわりと水を吸ってきていたけど、もう気にならなかった。
「すげーだろ」
「うん すごい」
「驚いた?」
「ええ とっても」
「・・・ほんとにそう思ってんの?」
思ってるわよ。本当かよ。思ってるって。いやでもパチェ、
まだ何か言おうとする○○のマフラーを掴んで引っ張って、そのまま頬にキスをしたら、彼の頬は私の唇が冷たかったせいでない(と思うのは自惚れじゃない?)赤に染まる。
もうコートにくっついているどころか、乗っかってしまっている雪を掃ってやりながら、私は笑った。
そうそれは貴方と同じ幸福そうなあの笑顔。
赤い頬のまま笑いあう私たちは、つめたくてあたたかい雪の中で、本当に相合傘の一部になってしまったよう。
「パチェ」
「なに、○○」
「俺たちもうこれで永遠だと思わない?」
「相合傘に守られてるから?」
「・・・パチェがこんなに傍にいるから」
どこの漫画よ、笑う前に騒ぎ出す私の心臓をさらに騒がせるのは、頬だけにじゃない貴方のくちづけ。
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12スレ目>>643 うpろだ863
――それじゃ、また。
そう言って彼は帰っていった。あとに残されたのは静けさが支配する本の寝所。
気のせいか彼がいなくなったことで温度が少しだけ下がったような気がする。
だから、だろうか。
私は読んでいた本から顔をあげ、席を立った。そして、さっきまで彼が使っていた椅子に意味もなく座ってみる。
……あったかい。
あ、やっぱりダメだ。頬がにやけてしまうのが押さえられない。こんなところ誰かに見られでもしたら余裕で死ねる。死因はきっと喘息の発作。
ほんとうに、私はいつからこんなになってしまったのだろう。魔女である私が、たかだか人間ひとりの事でこんなにも心を揺さぶられるなんて。
彼こと○○との出会いに特筆すべきことは何も無い。
命を救われたとか、殺されかかったとか。そんなことは一切無い、ごくごくありふれた出会いだった。
……まああれを“ありふれた”で片付けてしまう自分の思考にすこしばかり危機感を覚えるのだけれど。
○○は魔理沙に連れられてやってきた。例によって例のごとく魔道書を強奪しにこの図書館に来たときに。
魔理沙は「私はここらで一番大きい図書館を紹介しにきただけだぜ」と言っていたが結局何冊か持って帰ったのだから同じことだ。
もってかないでって言ってるのに、もう。
と、それで○○のことだけど。
魔理沙曰く、○○は“外”の人間らしい。服装からしてなんとなくそんな気はしていたのでさほど驚くことではなかったが、自分の目で外の人間を見たのはこれが初めてだったので少しだけ興味は湧いた。
彼は幻想郷に迷い込んだものの、こちらの世界が気に入ったらしくこっちで永住することに決めてしまったらしい。
○○自身のことは魔理沙も詳しくは知らないそうだが、その事で話をしにいった先の霊夢も「まあ、それならそれでいいんじゃない」とあっさりOKを出してしまい、今では神社近くの里で暮らしているらしい。
こうしてめでたく幻想郷の住人と化した○○だが、しばらくして魔理沙に「どっか図書館とかないのか? 最近暇なんだ」と漏らしたらしい。
……あとはもう想像に難くない。
実験の手伝いとその期間の食事の世話という対価を要求した魔理沙が、○○をこのヴワル魔法図書館につれてきたというわけだ。
本を折らない曲げない汚さない破らないもとの場所にちゃんと戻す貸し出し禁止。
以上のことを守るならば好きに読んで構わないと私は許可を出した。その時○○は「それは普通じゃないのか?」と言っていた。
……○○、それを守れない輩が約一名いるのよ。具体的にはあなたをここに連れてきた張本人が。
それを言うと彼は苦笑していた。
それから○○はここに通うようになった。
とはいえ里での仕事もあるのだろう、毎日という訳ではなかったがそれなりによく通ってきていたと思う。
門番とレミィには話を通しておいたので問題ないのはわかっていたが、紅魔館まではどうやってきていたのだろうと思って以前気まぐれに聞いてみると魔理沙がいるときは魔理沙に頼んでつれてきてもらっていたらしい。
もちろん対価は要求されたそうで。魔理沙がどうしても都合が付かない時は霊夢に護符もらって走って駆け抜けているとのことだった。
ともあれ。
○○はここにいる間は無駄に話かけてもこなかったし、ほとんど無言のまま本をひたすら読み漁っていたので悪い印象は抱かなかった。
本の扱いも丁寧だし、彼がここに来るようになってから最初は小悪魔以外の誰かがいるというのは違和感があったけどそれもすぐに消えて言った。
――だから、私の中での○○の在り方が大きく変わったのはそんなある日のこと。
その日は何故か○○は魔道書とにらめっこしていた。
いつもとは違い、隣にいた小悪魔に何度も質問しつつ眉間に皺をよせながら少しずつ読み進めていた。
そんな○○と小悪魔の様子がたまたま目端に入って、少しだけ私も興味をそそられて覗いてみたんだった。
本そのものはなんのことはない、初心者向けの魔道書だった。理論も簡単なものしかのっていない。
きっとそれすら読めないのだから○○は魔道の才能はないのだろうなあと思い、けどそれでも必死になんとか理解しようとしている○○を見て興が乗ってその本に載っている指先に小さな灯りを燈す魔法を目の前でやってみせた。
……その時浮かべた○○の表情を私はいまでも忘れられない。
○○はそれを、まるで子供のように目を輝かせてみていた。
人間からすればどうということのない事なのかもしれない。些事なのだろう。でも、それでも。
永き時を生きてきた者からして見れば彼の浮かべた表情は胸をつくような、締め付けつけるようなものだったのだ。
少なくとも私はそう感じていた。
その後、彼は当然のように私に教えを請い、私もそれを承諾した。そういえば小悪魔がやけに驚いていたっけ。
普段の私をよく知っているのだからその反応も当然といえた。……だって他ならない私自身が承諾してしまったことに驚いていたんだから。
そして私は○○に魔法を、とりあえずあの指先に灯りを燈す魔法を教えることになったのだが。
なんというか。教え子として○○はどうみても落第だった。
はっきり言うと才能の「さ」の字もなければ、資質の「し」の字も無い有様だった。
それでも引き受けたからにはこのままでは魔女の名が廃る。
様々な手を尽くして、もうこれ以上どうしようも無いというところまでやって、二年という歳月を消費してようやく――彼は灯りを燈す程度の魔法を使えるようになったのだった。
あの時の妙な達成感は思わず小悪魔と手を取り合うぐらいに大きいものだった。
そんな私の側に○○が寄ってきた。まだ魔法を使えたという興奮が冷め遣らないのだろう目にはあの時の輝きが宿っていた。
そして私と目をあわせるなり、本当に嬉しそうな声で○○は言った。
『ありがとう。パチュリー』
……――ああ、私のバカ。
○○に魔法の才能がないなんてどうして思ったんだろう。
そんなわけないじゃない。だって彼はずっと前から魔法を使っていたんだから。
私がそれに気付かなかっただけ。そして気付かぬまま彼の魔法にかかってしまっていただけなのに。
この胸に宿る熱が、鼓動が、ふとしたときに○○を追うようになっていた視線が、その証。
自覚してしまえばもう止められない。人間と妖怪という避けて通れない壁もあるけれど、今はとりあえず保留にしよう。
間違いなく、○○に恋してるのだから。
「はあ……」
○○の遺した熱を感じながら私はまた彼のことを考えてしまっていたようだ。
最近はいつもこうだ。おかげで○○がいるときも、いないときも読書に身が入らない。
○○のことを考えるだけで胸が熱くなる。
○○のことを思うだけで胸が痛む。
○○のことを見つめるだけで胸が張り裂けそうになる。
ほんとうに、重症だ。でも、それが別にいやじゃないと感じてるのだから困ったものだと思う。
ふと視線をやると、その先にあった暦はもうすぐ如月を指そうとしていた。
……そういえば。○○が毎年外の世界では如月の月になると――。
「小悪魔、いる?」
「はい? どうかなさいましたかパチュリー様」
「探してほしい本があるの。外の行事について詳しく載っている本を持ってきてちょうだい」
「はい。その行事について名前とかわかりますか? わかればそれだけみつけやすくなりますけど」
「そうね……確か『バレンタインデー』だったかしら?」
私がこんな風に、貴方無しではいられなくなってしまったのは全部○○の所為。
だからちゃんと責任をとって?
――貴方がかけた、恋の魔法の。
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最終更新:2010年05月16日 23:12