パチュリー16



新ろだ2-205


「暑すぎるだろう……」

 図書館で机に突っ伏している○○は、 季節は梅雨入りしているはずなのに、燦々と照らされているであろう外の様子を思いながら、そう一人愚痴をこぼした。

「人間は大変そうねぇ、私は魔法でなんとかなっているけれども」
 そう、本から顔を上げないままに言うのはこの図書館の主、パチュリー・ノーレッジである。
「こちとら普通の人間だからねぇ……そんな便利な特殊能力なんてあるはずもないから、必死で手を扇ぐぐらいしか出来ないのよ」
「不便なものね……あ、本で扇いだら燃やすから」

 そうナチュラルに脅してくる彼女を横目に、再度比較的ひんやりとしている机へと顔を横にする。
 例年のこととはいえ……暑い。 むしろ熱い。 毎度のことながらこの季節は苦手だなぁ……

「確かに今年はそれなりに暑いようね、レミィも『また霧でも出そうかしら……』とか言ってたわね。
 巫女に串刺しにされるわよ? って言ったら大人しくなったけども」
――でも意外と巫女も喜んで此処に入り浸るかもしれないわね。

 そう言ってクスリと笑う彼女を見て今日は何故か機嫌が良いなぁなどと胡乱な頭で考えていた。

 基本彼女は本を読んでいる時は静かにしている。 本の世界に没頭しているのだろう。
 だから自分も邪魔をせず、静かに本を読んでいることが多い。 図書館の全体からすれば、読める本は多くはないのだが、それでも十分な量がある。
 元々、本を読むことは好きではあったので、だからこそ自分は此処に通いつめているというのが一つの理由だ。

――もう一つの理由は彼女、パチュリーのことが好きだからというのもあるのだが――



 彼がこの図書館に来る様になってから結構な時間が経った。
 まぁ私からしたらそれ程でもないのだが、人間である彼からしたらそれなりの時間だろう。

 初めは、物好きな人間もいるものだ……程度に思っていたのだが、彼は私と同じくかなりの読書愛好家らしく
 本を読んでいる間は無駄な詮索も問いかけもせず、ゆったりとした時間を過ごすことが出来ている。
 そういったことをすることが出来る人物というのはこの紅魔館では他に居なく、だからだろうか……彼に図書館へ通うことを許可したのは。

 そんな彼も、今日のこの暑さにはだいぶ参ってしまっているらしく、珍しく本を読む手を止めて机に突っ伏している。
 それが少し面白くて、本を読みながら彼へと横目で語りかける。
 私は、それ程人付き合いというか会話をすることが得意ではない。
 レミィとかだったら気心が知れている分気軽に話せるのだが基本的には自分の中で完結してしまうのだ。
 しかし不思議と彼とだと気楽に話せている自分が居ることに気付く。 同じ趣味を持つ者通し、気が合うのだろう。 ……恐らくは。

 そんなことを考えながらそろそろ紅茶にしようかしら、と思い本を整理しているであろう小悪魔を呼びつけた。



 そうして小悪魔にパチュリーが紅茶の用意を頼み、しばし待っていると小悪魔が戻ってきて三人でのお茶会となる。

「しかし、○○さんもかなりの量の本を読んでいますよねー。 ここには滅多に人間の方が来ないっていうのもありますが
 最近は賑やかで私も嬉しいです」
「人里の方ではやっぱり本を読む機会っていうのがあまりないからね、新聞とか阿求さんが書く本くらいだから……
 ここで沢山の本を読めるっていうのはかなり助かってるよ」
「たまに来る人間といったら魔理沙ぐらいだったものね……持って行かないで静かに読んでいるだけ○○はだいぶマシよ」
「普通のことなんだけれどもね……」

 そう言って苦笑する。 図書館では静かに、本は持って行かない。 普通のことのはずなんだけれどもそれで認められるとは……
 そう誰かさんを思って苦笑する。

「でもさすがに今日の暑さはだいぶ参っちゃってるよ、さすがに室内だと結構蒸すしね」
「あー……確かに。 換気の方はちょっと問題ですね。 湿気は本にも悪いですしまた改善しなきゃなぁ……」
「その辺りは貴女に任せるわよ、よろしくね小悪魔」

 うぇ~~~……
 そんな風に涙目になる小悪魔に、二人して笑いながら紅茶の香りと味を楽しんだ。



「でも本当、○○さんが来てからここもだいぶ暖かな感じになったと思いますよ?」
 そんな風に小悪魔が悪戯を思いついた様な顔付きで○○に言う。
 ……少しだけ嫌な予感が頭を掠めた。

「そうかな? でも自分はここに来て本を読ませてもらっているだけだからね。 他に特に何をしているというわけでもないし」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。 私も○○さんが来る様になってからだいぶ楽しいですし……」

――パチュリー様もそうですよね?

 そんなことを言われて一瞬顔が熱くなる。
 それを表情へと出さずに、努めて冷静に返す。 ……後で仕事量倍にしてやろうかしら? そんなことを考えながら。

「私は特には変わってないけれどもね。 いつも通りに本を読んでいるだけよ」
 そっけなく出来ただろうか……? そんな風に思う。
「あはは、パチュリーの邪魔になっていなければ幸いなんだけれどもね」
 そんな風に笑う○○にちくり、と胸が疼く。

 そう、彼は本を読みに此処に来ているのだ。
 決して……私に会うためではない。 そう思って。

 悟られてはならない――魔女である私が、ただの人間に恋焦がれているなどということは。



 そうして、お茶会も終わり再度読書へと戻ることになったのだが、しばらくすると○○が人里へと戻ることとなった。
「今日もありがとうございました、またお邪魔させていただきますね」
「構わないわ。 この図書館には貴方では読みきれない程に本はあるのだから。 飽きない限りはまたいらっしゃいな」

 そう挨拶を交わし、図書館を後にする。
 外へ出ると燦々と輝く太陽が憂鬱な気分にさせてくれるが、また図書館へ来れることを心待ちにし、人里へと戻った。



「パチュリー様も、外へ出る様にしたら如何でしょうか? たまには良い気分転換になると思いますよ?」
 そう小悪魔に問いかけられる。
「外へ出る時間がもったいないし、わざわざ本を取りに戻るのも手間でしょう。
 ……そういうことが言いたいわけではないのね?」
 何が言いたいのかは判ってはいるが、あえて問いかける。
「そうですねぇ……私から言えることは特にはないのですが……」

――我慢は身体に毒ですよ?

 そう言って笑いながら逃げるように図書館の奥へと消える小悪魔に苦笑して、再度本の世界へと意識を戻す。
 ……そうして、独り言を呟く。

「魔女と人間の恋愛模様……この世界では異端扱いされることはないだろうとはいえ、夢物語ね」
 そう呟き、本を読む。



「二人とも端から見てるとわかりやすいんだけどなぁ……まぁ時間が経てば解決するでしょう」
 そう思いながら、小悪魔は笑う。 引っ込み思案で消極的な主と、同じくらいに消極的な彼を思いながら。


イチャ絵板 2008/12/23




「ん……」
背中のパチェから小声が漏れる。どうやら目を覚ましたらしい。
「あ……」
降ろしてくれと言うように体を捩る。
そっと降ろして、そして振り返る。
「○○……大変だったでしょ、ごめんね。」
「せっかく誘いに応じてくれたんだからな……。これくらい大したこと無い。」
「そう……」
呟いて空を仰ぐ。
「……空凄いね。」
「そうだな。」
「風、気持ちいいね。」
「そうだな。」
「二人っきりだね。」
「ああ。」
はにかみながら目を閉じるパチェ。
そっと、その肩を抱いて唇を寄せて……


Megalith 2011/08/18


 「暑いわね…」
紅魔館、大図書館。換気をしているものの暑さは全く和らがない。
…というか、地下図書館がこんなに暑いって異常じゃないか?
「っとに暑いな…。湿度も高いし、本にカビ生えるんじゃない?」
熱でふやけた脳で初等魔術入門書を流し見ながら、半分本気で冗談を飛ばす。
残念ながら、本の内容はほとんど入ってこない。
「それは困るわね…。…それと、汗ばんだ手で本に触らないで頂戴」
汗ばんだ手で本を読んでるのはお互い様だと思う。
「じゃあ貸禁解いてくれよ…。魔法使いの森とか、涼しくて日の当たらないところで読むからさー」

 "魔法使いの森"という単語に、彼女がピクリと反応する。
「…それは本気で言っているのかしら?そんなところに持って行ったら白黒に見つかって持って行かれちゃうじゃない。
それにここの蔵書は全部禁帯出よ」
だるげな声にやや怒気が混じっている。あぁ、つい先日も何やら白黒の子と弾幕してたっけ。
あの子を連想させるような言葉は避けた方が賢明かもしれない。

 「水符とかで涼しく出来ないんすか…ほら、水&木符とか」
取り敢えず話題変更。
ジト目で睨まれる分には寧ろご褒美だが、もし八つ当たりされると「Wもやしの弱い方」なんて呼ばれてる俺は一瞬で消し炭になりかねない。
魔術の勉強してるとはいえ、ただの人間だしな。
指先から小さな炎を出したりする程度でも必死なレベルで、白黒には到底及ばない。

 「残念ながら無理ね…。館内全体を薄く広くカバーする程度の出力と言っても、それを維持してたら私がもたないわ」
うし、気は逸らせた。じゃなくて、
そう言われてみると確かに燃費は悪そうだ。ただでさえ体の弱いパチュリーには過労働かな…。
今もフヨフヨ浮いてるけど、浮くのは慣れたら意外と簡単なんだろう。
なんて思いながら、いつもより更に血色が悪くなっている顔を眺める。
青白い肌にじっとりと汗が滲んでいてセクシー…いや、無いな…。
逆三角形に開いた口、眉間に皺、ここまではいつものパチュリーと大差ないが、暑さの所為か若干目が虚ろだ。それにちょっとフラフラしている。
流石にスペルカードを使用してでも冷やした方がいいんじゃないだろうか。

「…何やっぱもやしじゃ無理か、みたいな顔してるのよ」
「いや、暑さで倒れるのも水符"マジカル☆冷房"の疲労で倒れるのも同じじゃね?という顔。
このままでも倒れそうだよ?」
「誰が、このもやし折れそうよ…」
「言ってない言ってない。
寧ろ俺の方がもやしってか最近微妙に日焼けして腕がポッキーだよ。この時期の半そでは危険だね。
パチュリーは運動不足で腹筋無くなりすぎて、お腹の辺りが胃下垂でぽちゃりーだから俺の方がよっぽどもやしだヨ!」
「…殺ス…」
ん、今気づいたけどこれちょっと本気でやばくね?
俺じゃなくてパチュリー。目の焦点が合ってない。と思った刹那パチュリーの姿が揺らぐ。
「ちょあっ!?危なっ!」
手にしていた本を放り出して駆ける。
4mくらいの高さとは言え無抵抗に落下したら流石に…っ!

ガシッ!
かっこよくお姫様抱っこ!間に合った!
…と安堵すると同時に、ペキゴキッという不吉な効果音。
そして数瞬後に襲ってくる激痛と、吐き気。
落下の衝撃は殺せたようだが、そのまま脱力してパチュリーを床に寝かせる。
腕に力が入らないので寝かせるというよりも落とすような勢いになってしまったが、垂直落下するよりは大分マシだろう。
ちゃんと足から下ろせただけ上出来だと思っておこう。
…うん、左腕骨折、右肩脱臼ってところかな…。もやしな自分が恨めしいぜ…。
あ、涙出てきた。
さて、痛みで意識が飛びそうだが、最後に一仕事しなければ…。
このまま意識失ったら某鴉天狗の新聞に「Wもやし、熱中症にて心中」等と書かれかねない。
「だれかああああああああああ!?たああああすけてええええええええええええええええええ!?」
あらん限りの力で声を上げた後、視界が暗転した。






 気が付くと、救護室のベッドで横になっていた。
「パチュリー様、おはようございます。体調は如何ですか?」
ベッドの横には子悪魔の姿。その奥には両腕を三角巾で釣った彼がベッドに腰掛けていた。
 少し記憶が曖昧だ。
確か、暑さで意識が朦朧としてそれから…その後を予想してみる。
「…私が落ちそうになって、それを貴方がキャッチ。その衝撃で腕を損傷した?」
「あはは…ご名答。」
彼が苦笑する。
「…全く、もやしの癖に無理するんだから…」
―でも、ありがと。
心の中で付け足す。
口に出したわけではないのに何故か気恥ずかしくなって顔が熱い。
何よ、これ…。
「ところで、腕が折れる程私は重たかったのかしら?」
よく判らない感情を追い出すように、話題を変えてやる。
「んや、俺の骨が重力加速度に負けただけだと思うよ…ほら俺ポッキーだし…。
若干お腹が気になってるからって大丈夫だよ。それ、脂肪じゃなくて内臓だからサ」
さっきの感情を慰謝料付きで返せっ!
「誰のお腹がゴォフッ!ゲホッゲホ!」
「パチュリー様!大丈夫ですか!?あまりパチュリー様を興奮させないでください!」
慌てて小悪魔が背中を擦ってくれる。全くこの男の辞書にデリカシーという言葉はないのかしら。
もし落丁してるのならばいつか返品してやらないと…。
「いや、いっつもローブだし、気にしてるのかと…」
「ハァ、ハァ…別に、お腹は出てないわよ…。何なら触ってみる?」
「「えっ」」
彼と小悪魔の声がハモる。当然だ、何言い出してるんだと我ながらに思う。
少し興奮しすぎたかしら…。
でも、一度発した言葉は撤回できないしそのまま反応をうかがってみる。
…暫しの沈黙。
そして彼が何かを決意したような表情で言った。
「…じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」
あぁ、いつもの変態(彼)だ。
少しぎこちない動作でこちらのベッドに腰をかけ…、
「って、何で後ろからなのよ」
「正面からだと流石に恥ずかしいんだよ…」
どうやら、口でセクハラ発言する癖にいざ許可してみたら逆に奥手になるタイプのようだ。
…さすさす。
さす……。
ぐ、ぐに。
ぐいぃぃ。
「…思ってたほど…ぽちゃりーじゃない…」
「ちょ…触っていいとは言ったけど何掴もうとしてるのよ。ていうか何その残念そうな声。
後ぽちゃりー言うな」
「…」
「…何、急に黙ってるのよ…」
実は本当にぽっちゃり専なのだろうか。表情を伺えないのが煩わしい。不安がよぎる。
と、
「ギュー」
「ひぁっ!?」
いきなり抱き寄せられた。
「ゴメン…可愛いくテ思ワズ…」
表情は判らないけど、尻すぼみになっている彼の口調から察して恐らく耳まで真っ赤になってるのが予想できた。
「…なによ、こっちまで恥ずかしくなるじゃない…」
「ぁー、折角だからもう少し、くっつかせて」
「…しょうがないわね…。お礼も兼ねてさっき読んでた本、読み終わるまでだったら許可してあげる。
あ、途中で暑くなってきたらそこでストップかけるかもしれないわね」
「クンカクンカ」
「!? 何匂い嗅いでるのよ変態!…多分汗臭いわよ…」
「シャンプーや石鹸の匂いを嗅ぎたい訳じゃない。パチュリーの匂いを嗅ぎたいんだ。全く問題ない。
寧ろ…いや、何でもない」
何を言おうとしたのか何となく察しは付いた。
口に出してたら流石に私も賢者の石を使わざるを得なかったわ。よく我慢したわね変態もやし。
「………。
はぁ…子悪魔、初等魔術教唆バイブルっていう本、取ってきてくれない?」





「はい、判りました探してきますね。
…この二人、かなりのバカップルになりそうです…」
私こと子悪魔は、思わず白い目で二人を見てしまいました。
それに魔術教唆バイブルって…何だかんだ言って魔術を教える気はあるんですね。
きっと本人に聞いたら、「教えることも知識の確認になる」って反論するでしょうけど。
パチュリー様、私と言うものがありながら…ムキーッ!
とはなりませんが、余りイチャイチャの頻度が増すとこちらも色々と、種族としての業を抑えるのが大変になりそうです。
その時はお二人に協力して貰いましょう。


「あ、わき腹のお肉はぷにぷにしてる。鍛えにくいもんねここ」
「…っ!」


もやしな声が響き渡りって降りますが、今日も紅魔館は平和です。


パチュリー分補充
蕪雑な文だなぁ…精進しなければ…


ある日のもやし達(Megalith 2011/10/27)


 ――紅魔館は今日も平和だ。
基本的にここの住人はお嬢が動かない限り大人しいので、事件の起こりようも無いのだが…。
 殊にこの場所、紅魔館地下図書館に於いてはページを手繰る音くらいしか聞こえない。
その音さえ圧倒的な面積と、聳え立つ本棚の林に遮られ意識しないと聞こえない程度だ。



 さて、今日も今日とて俺とパチュリーは地下図書館で穏やかな時を過ごしていた。
 パチュリーは外界から流れてきたという薄っぺらい本のページを無表情に手繰っている。
一体どこから仕入れてきたのか、近くには似たような形状の本が大量に詰まれていた。

 一方の俺はというと、学んだ錬金術の知識をノートにまとめていた。
骨折事件の折に魔術を教えてもらうという流れにはなっていたのだが、俺の魔力に難があることが発覚し紆余曲折の末に錬金術を学んでいくことにしよう、という方向性に定まったのだ。

 パチュリー曰く、魔力が無いというのは若干異なり、正確には全ての属性に対して致命的なまでに相性が悪い。ということらしい。
属性を乗せずに魔法を使うということも一応は可能(例:ノンディレクショナルレーザー)だが、属性変換による効率化を行えない為頗る燃費が悪く、ごく普通の人間である俺が扱うには荷が重いらしい。
それでも魔力があるだけ、多少はマシなのかもしれない。
 だが、相性が悪いということはこちらが属性魔法を受ける時、常人以上にダメージを貰う羽目になるということでもある。
この話を聞いて魔法攻撃に弱い上に敏捷が少ないグラスランナーとお嬢に揶揄された時は軽く泣きそうになった。
もし俺がキャラクターポイント制で作られているならば、この特長だけで軽く20ポイントは貰えるだろう。
加えて俺は虚弱体質のマイナス特徴も持っている。そう考えるとかなりのCPを得ているはずなのだが…一体どこにポイントを裂いているのだろうか。
…やっぱ容姿端麗と博学、後は…。
「変態、もやし、ヘタレ、フェミニスト、ロリコン、後は自意識過剰辺りかしら…あら、全部不利な特徴ね」
「人の心を読まんでください…」
「口に出てたわよ。
真面目に答えると背景幻想入りで130点くらい使ってるんじゃない?」
「…然もありなん。基本CP80点、不利な特徴で合計150点くらいになって、幻想入りで130点消費か…。
残り20点の行方が気になるところだ」


 …さて、錬金術自体はパチュリーや魔法使いの森に店を構える雑貨屋の主にも教えて貰うこともできたのだが、基本的には独学で行うことにしている。
初めはパチュリーに教えてもらったのだが、如何せん喘息持ちの彼女が長時間喋り続けるというのは相当な負担になるらしい。しまいには声が掠れ初めてしまってそれ以降は遠慮している。
 後者はというと、外界の道具について延々解説させられるというよく判らない展開に陥り軽くトラウマになってしまった。
いくら外界の日用品といっても、道具そのものの仕組みなんて答えられないってばよ…。
何とか初心者用の本を見積もってもらったり、ある程度の知識くらいは教授して頂いたが…とにかくしんどかった…。
正直もう行きたくない。



「ふぅ…」
 今までに得た知識とアイデア、錬金レシピなんかを纏めたノートを一旦閉じ、近くにストックしておいた錬金術関連の書籍から一冊抜き出してからパチュリーの後ろに座る。
 本を固定したままノートを執るという行為は、背表紙に深刻なダメージを与えるから止めるように、と言われていたので書くときは書く、読むときは読むと作業を分けているのだ。
「………なんで態々そこに座るのよ」
「ん?」
どうやら、両足でパチュリーを挟み込むような格好で座ったのが気になったらしい。
正直こちらも突っ込み待ちだったのだが。
「肌寒いし人肌恋しい季節なのですよ」

 彼女ははぁ、と溜息を吐くと「まぁ、いつものことね…」と呟いて再び読書を再開してしまった。
こういうちょっとしたボディコミュニケーションには慣れてきてしまったのだろうか、最近反応が薄くて寂しい限りである。
とは言え、本を読んでいる最中だと真面に相手をして貰えないだろうし今は自分の作業を進めることにするか…。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 二時間後、ようやく一段落がついたので休憩に入ることにした。
如何に初等とは言え学術書に変わりはないので独学だとワンセクション進むだけでも結構手間がかかるものだ。
元々勉強できたわけでもないしな…。
 目の前のパチュリーに目を向けると彼女の方はあの本の山を読破してしまいそうな様子だった。一冊一冊が薄い所為で読むペースがやたらと早い。
2時間も保っているのは単にその量が尋常では無かったからだろう。

 …ていうかこれ、同人誌だよなぁ。
気に入ったものがあったのか、既読書のスペースとは別に分けておいてあるものもある。
幸いなことに18禁のものはないようだが…、いや、寧ろそっちの方がいい反応が見れそうだな。
今度こっそりと混ぜておこう。

 等と考えているうちに次の本へと手を伸ばすパチュリー。
彼女は読書の邪魔をされるとちょっと不機嫌になってしまうので、何かを仕掛けるのならば今この一瞬を置いて他にはないだろう。
…タイミングを逃したところで5分も掛からずに読み終わるんだろうけど…。
 兎角、即断即決、0コンマ数秒で行動に移すことにした。
後ろから抱きかかえるように腹部へと手を回し、そのままころん、と後方へと倒れこむ。
「ぴゃ!?」
不意打ちを食らったパチュリーが小さく悲鳴を上げてコロンと転がる。俺の腹の上にパチュリーが乗っかっている姿勢だ。

「ちょぉっ!? 何よいきなり!?」
「休憩がてら地獄のゆりかごでもしようかと」
「意味が分からないわ。あぁぁ、揺れないでー。これ地味に怖い!」
「意味などない! 一度この体勢に入ってしまえば後は成すが儘というこの技の恐ろしさ、とくと味わうがよい!」
「むきゃ~」



 数分程じゃれあっただろうか。俺たちは体力が切れてそのまま図書館の床に仰向けで倒れていた。
「…流石に、疲れた…」
先の技は意外にも体力の消耗が激しい。腹筋も背筋も、二の腕や脹脛の筋肉もかなり酷使するのだ。
…俺の体力が無いだけという突っ込みは無しということで。
「…疲れるなら、やらなければ、いいのに…」
パチュリーが切れ切れに呟く。
因みに体勢は地獄のゆりかごをしていた時と変わらない。つまり仰向けになった俺の上に仰向けのパチュリーが乗っている状態だ。
バランスが悪いと言っていた割にその場所から動かないのは動く元気すらないからだろう。


「貴方はいつも突飛過ぎるわ…」
 少しして体力が少し回復したのか、体を起こしてそのまま床に座り込んだ彼女が言う。
一人で寝転がってるのは少々、いや結構寂しいので俺も体を起こすことにする。
「んしょっと。まぁ、気になる娘にはちょっかい掛けたくなるものなんだよ」
「――っ! ………子供じゃないんだから」
あさっての方へと顔を背けるパチュリー。頬がほんのりと紅潮している。
おぉ、これは…!
「かかかか可愛い反応しやがってぇっ!」
カサカサと近づいてハグをする。
そうか、これが、萌えという感情か。
「…今の動き相当キモかったわよ…」
拒否こそしなかったものの、かなりげんなりとした様子。
確かに、今の動きを俯瞰視点から想像したら相当気持ち悪いな…。
バ○オハザー○の○ッカー並かもしれない。
「で、やっぱり後ろに行くのね」
「ん? おぉ、ほんとだ」
気が付くと俺はパチュリーの後ろに回り込んで後ろからハグをしていた。
そういえば、彼女にくっつく時は大抵後ろからだなぁ。
大抵、というか、ほぼ毎回、というか、毎回。
「んー、こっちのが落ち着くっぽいなぁ。髪の毛もふもふ」
「ひぁ…ちょっ、息がくすぐったい…」
「パチュリーちっちゃいなぁ」
「貴方だって中国より15㎝は小さいでしょう」
「…割とコンプレックスなんで僕の身長のことは言わんでください…」
なんて、二人でイチャイチャバカップルごっこしていると、
「邪魔するぜー………邪魔したぜー」
不定期にやって来ては本を持っていく白黒が現れた。

「霧雨さん、折角のイチャイチャタイムを邪魔しないでください…」
「別にイチャイチャしてた訳じゃないと思うけど…」
「………十分すぎる程イチャついてたと思うが私は何も見ていないぜ。
こっちの用事を済ませたらすぐ帰るから気にしないで続けてていいぜー」
と言って、魔理沙は床にストックされていた本を物色し始めた。
「ぁー、その辺りに出てるのは現在進行形で使ってる本だからまた今度にしてくれないか?」
「今度も何も、ここの本はいつも通り全部禁帯出よ」
「だろうな、それじゃあいつも通り力づくで借りていくことにするぜ」
と、懐から小型八卦炉を取り出す魔理沙。
「望むところよ。今日は…色々あって疲れてるけど…調子自体はいいわ」
パチュリーもスペルカードを取り出し、応戦する姿勢を見せる。
「弾幕かー…いつも通り俺にできることは何もないな…」
自慢じゃないが俺は弾幕を出すことも、空を飛ぶこともできない。
だからいつでも安全圏に移動できるように準備しておくことにした。

「後ろにハンデが居るからって手加減はなしだ、ぜ!」
 言うや否や大量の、まさしく弾幕を放つ魔理沙。
幸いなことに今のは牽制だったようで、動かずとも被弾することはなかった。決して反応出来なかった訳ではない。
チチチチ…と大量のかすり点が加算されていく。

 …ところでハンデって俺のことか? 事実だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、他人に言われるとちょっと虚しい。
早いとこ実践レベルの錬金術でもできればなぁ…。自衛くらいは出来るようにならないと。
というかよくよく考えたら俺が存在することでパチュリーが不利になることは余りないような気もする。
…まぁいいや、さっさと避難してしまおう…。
「生憎だけど、本が賭かってるからハンデはあげられないわ」
「…あのあのパチュリーさん? こっちに手が向いてますよ…?」
パチュリーの左手には既にチャージ完了とばかりに魔力の塊 ――色からしておそらく水属性だろう―― が渦巻いていた。
「貴方弾幕ルール設定してたわよね。足手まといになる前にぴちゅってて頂戴」
「いやそれ酷くね? "ごっこ"とは言ってもぴちゅったら結構痛いというかせめて無属性でお願―」


ぴちゅーん!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


―― その夜、魔理沙との弾幕戦を終えて疲れ果てた私は寝室に戻ってきた。
今日は無駄に体力を消費しすぎた。完全にオーバーワークだ。
さっきはシャワールームで寝掛けてしまって溺死しそうになるし…。
「………?」
 何か違和感を感じる。
暫く周辺を見まわして…あぁ。
 いつもはメイドたちがきっちりベッドメイクをしている筈なのに、妙にシーツが崩れている。
オマケによく見ると中央が人型に盛り上がっていたりする。
…全く、昼間ぴちゅってから姿を見ないと思ったら…。

「………」
無言で本棚に刺さっていた大技林2011とコミケカタログ、ついでに美術図鑑を落としてやる。
「あ゛、あだ!ぐぁっ…!」
次いで布団を捲り上げる。
「…何をしてるのかしら?」
「…本は、大切、に…」
「何をしているのかしら?」
「………お、お布団を温めておりました」
人が愛用している枕に顔を埋めて小さく呟く彼。
彼じゃなければ間違いなく私刑に処していただろう。
「100歩譲ってそういうことにして、どうして私の寝室に貴方がいるのかしら」
「いやー、ぴちゅってから暇だったもので…」
「態々ピッキングまでして侵入したと」
「ぁーいやそれは…口で説明するのが面倒だから取り合えず俺をぴちゅってくれないか」
「………M?」
「いや別にそういう訳ではな―」
彼の弁明が終わるのを待たずにノーマル弾を打ち出す。
やる気の無い弾が、やる気の無い速度で、やる気の無いヘロヘロとした軌道を描く。
相当疲れてるなぁ、私。



ぴちゅーん!



 誰が制定したのか判らないが、弾幕ごっこでは一定の被弾をした後、自宅の設定ポイントないしは最寄の復活ポイントに強制移動させられる。
妹様がコンティニュー云々言っていたのもこのシステムに則ってのことだ。スペルカードにしてもごっこ遊びを飾るエッセンスに過ぎなかったりする。
まぁ、妹様に限ってはそのルール自体を破壊してしまうことが出来るから半ば隔離されていたわけだが…。



 被弾した瞬間彼の姿が掻き消え…、

仰向けの状態でベッドに再出現した。



「…とまぁ、こういう訳なのですよ」
鳩尾の部分を擦りながら彼は言う。 そういえば属性耐性がマイナス入ってるから常人以上に痛みを感じるんだっけ。
「…って、何でそこを登録してるのよ。…というか何時登録したのよ…」
「秘密。ところで俺が言うのもあれだけど、すごく疲れてる?」
「…うん、もう寝るわ…」
 何が秘密か、とか、半分以上お前の所為だろうとか、色々突っ込みたかったがもう体力の限界が迫っている。
ベッドが視界に入ってから意識が切り替わってしまったらしく、瞼が重くて仕方がない。体が横になりたがっている。
彼の隣の空いているスペースで横になり、そそくさと毛布の中へ潜り込む。
 あぁ、確かにこの時期布団が温まっているのは良いものだ。

 Ⅱの字と言えばいいのだろうか、二人で並んで寝転がる。彼は仰向けで、私はうつ伏せ。
シングルサイズのベッドである為多少狭いが、彼も私も小柄なので寝るスペースは十分にある。問題はないだろう。
兎に角、今は余り難しいことを考えたくない。
「おや…あれ?」
 困惑した声。隣を見ると彼が眉間にしわを寄せていた。多分、「んー、どうしよっかなぁ」程度のレベルで考え込んでいるのだろう。
「枕、返して」
「あぁ、はい」
取り敢えず愛用の枕を奪取。やはり慣れ親しんだ枕がないと眠れない。
ボフッと顔を埋める。疲労がすうっと和らぐ感覚。それと反比例して睡魔が雪崩のように押し寄せて意識を埋め尽くしていく。
「………他人の匂いがする枕って落ち着かあいわ…。
あ、もう電気消すけろ部屋に戻ぅ?」
ダメだ、呂律が回らない。
「まるで一緒に寝ていいかのような口ぶりだけど」
「…別に、何もしあければ…」
「…それは…生殺し…」
「嫌なら自分の部屋に戻―」
「お邪魔させて頂きます!」
………。
3秒ほどの沈黙。
「…何故そこで沈黙するのか」
「………電気消すわよ」

 パチリと魔力灯を落とすと、補助灯の明るさのみが残る。
手元で調整できるように配置しておいて本当に良かった。今更起き上がるのは相当キツイ。
「それじゃあ、おあふみなはい」
「うぃ、お休み…あ、そうだ」
薄暗くなったベッドで彼が言う。
「…?」
「おやすみのチュー」
…無言で睨みつける。あぁ、瞼を開くのがこんなにも重労働だったなんて思いもしなかった。
「パチュリーさん半分寝てるね…何か女の子がしちゃいけない表情になってるよ…。せめてハグさせてください」
「…いつもしてるでしょ…」
「うん」
 ぎゅっと寄り添ってくる彼。
布団が温まってなければ湯たんぽ替わりになったのだろうけど、残念ながらちょっと暑い。
 瞼を閉じると体の感覚が遠のいていく。
「パチュリー、暑い?」
「…ん…だいじょぶ…」
ちら、と少しだけ目を開けると彼と目があった。意外と近い。
彼がつ、と視線を外す。
「…ヘタレ…」
「…視線合わせるの苦手なんだよ…」
「………」
「…ん、寝ちゃった?…おやすみ…」
彼が目を閉じたのを薄目で確認してから、不意打ちで軽く唇を重ねる。
僅か1秒にも満たない控えめなキス。
「―っ!?」
「…偶には…こっちから…仕返し…」
隣で悶々としている彼を尻目に、私の意識は夢の中へと落ちていった。













(………おやすみのチューとは果して本当に"おやすみする前のキス"なのだろうか。
いや、語感からすれば"おやすみしている間のキス"と捕らえたほうが自然ではないだろうか?
ならばパチュリーは今それを許可してくれた訳でいやいやだからと言ってもし起こしてしまったら悪い。
しかしこの状況は非常に拙いな。どのくらい拙いかと言うとこの前お嬢に飲まされた自分の血が入った紅茶以上に不味い。
煩悩と闘って悟りを開くとかマジ無理ゲー。煩悩のレベル108くらいあるだろ。
ブッダさんマジ仏。俺とか外道ヤクザより弱いし魔王マーラ様の誘惑に勝てる気がしねぇ………)


 ボクは必死に情欲と戦って、結局寝付けませんでした…。
翌朝、パチュリーが人の顔を見るなりすごい勢いで枕に頭突きをしていました まる。



 文法など知らぬ! 語彙など無い! それでも、俺の頭の中で書けと囁く奴がいるんだ!
それにしても○○がどんどんキモくなっていくなぁ。

 この○○で書くときはこのタイトルで統一したく思います。


最終更新:2011年12月04日 00:08